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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23L
管理番号 1343302
審判番号 不服2016-19562  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-27 
確定日 2018-08-02 
事件の表示 特願2015- 75744号「クレアチン組成物水溶液」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 9月24日出願公開、特開2015-165803号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年11月9日(優先権主張2011年11月10日)を国際出願日とする特願2013-543039号の一部を平成27年4月2に新たな特許出願としたものであって、平成28年10月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成28年12月27日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされ、当審で平成29年11月27日付けの拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)の通知がなされ、これに対し、平成30年1月19日に意見書及び手続補正書の提出がなされたものである。

第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明(以下「本願発明1?4」という。)は、平成30年1月19日の手続補正により補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載されたとおりのものであり、そのうち本願発明1は、以下のとおりである。

「【請求項1】
常温もしくは冷温の飲料と共に経口摂取するためのクレアチン組成物水溶液であって、前記クレアチン組成物水溶液は80?100℃に加温した水と、クレアチン組成物とから成り、前記クレアチン組成物が、クレアチン一水和物、クレアチン無水物、クレアチンリン酸塩、クレアチンピルビン酸塩、クレアチンクエン酸塩の群から選択される結晶体粉末であり、前記クレアチン組成物水溶液を常温もしくは冷温の前記飲料と共に経口摂取したときに、シアン化合物系の不純物と、胃酸の主成分である塩酸との反応によるシアン化水素ガスの発生が抑えられることを特徴とするクレアチン組成物水溶液。」

第3 当審拒絶理由
当審拒絶理由の概要は、次のとおりである。
1 (明確性) 本願は、本願発明1?4に係る特許請求の範囲の記載が不明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
2 (新規性) 本願発明1?4は、その出願前(優先日)に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
3 (進歩性) 本願発明1?4は、その出願前(優先日)に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前(優先日)にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
引用文献1:特表2004-520060号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
引用文献1には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付与したものである。)。
(1a) 「【0002】
[発明の背景]
近年運動選手の間で、骨格筋内で豊富に生じるクレアチンに対する関心が高まっている。クレアチンは骨格筋エネルギ代謝の調節および恒常性に極めて重要な役割を果たし、今や、筋力の連続的な生成のためにはクレアチンリン酸を利用できるように維持することが重要であると一般に認められている。クレアチンはまた、タンパク質合成と、トレーニングでの筋繊維の肥大とに関する他のプロセスに関わることもある。クレアチンの合成は肝臓、腎臓および膵臓で行なわれるが、最近になって、クレアチンの経口摂取により全体的な人体のクレアチンプールが増加することが知られるようになっており、数日間、1日につき20g?30gのクレアチン一水和物(Cr.H_(2)O)を摂取することで、人骨格筋の総クレアチン含有量の増加が20%を上回ることもあると示されている。そこで国際公開(WO)第94/02127号では、筋肉強度増大のために、少なくとも2日間にわたる、1日につき少なくとも15g(または0.2?0.4g/体重kg)の量のクレアチン一水和物の投与が開示されている。」
(1b) 「【発明が解決しようとする課題】
【0014】
[発明の概要]
この発明は、クレアチンおよびその誘導体を含む、人間が消費するための組成物、特に水性溶媒中で提供される組成物に関し、より特定的には、クレアチンが水溶液中で提供される、またはクレアチンが可食支持基質内に懸濁される組成物(たとえば飲料)を生成することに関する。
【0015】
ここで用いられる「クレアチン」という用語は、クレアチンのあらゆる生物学的利用可能な誘導体、たとえばクレアチン一水和物、クレアチンリン酸、およびその他のクレアチン塩などを包含することを意図する。クレアチン一水和物が特に好ましい。したがって「クレアチン」という用語は、文脈が許す限り広く解釈されるべきである。」
(1c) 「【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
第1の局面でこの発明は、人間が消費するための組成物であって、クレアチンと、その中のクレアチンを水性溶媒内で実質的に安定(以下に定義する通り)にするのに十分な量のクレアチニンとを含む、組成物を提供する。
【0020】
組成物のクレアチニン内容物は、クレアチンからクレアチニンへの変換の結果として組成物の貯蔵中に生じるのではなく、最初から(すなわち最終組成物の形成時から)存在する。後に記載の教示から、少なくともいくつかの実施例で、組成物の生成(すなわち最終組成物の形成に先立つ処理)は、クレアチンからクレアチニンへの意図的な変換を伴い得ることが明らかであろう。最初からあるクレアチンが安定であることは商業的に望ましいが、それは、これにより組成物のクレアチン含有量の正確な特徴付け(たとえば包装などに表示され得るもの)が可能となり、さらに消費者が消費クレアチンの正確な用量を計算できるからである。
【0021】
この組成物は、液体、半流動体、可食基質、または後に水で溶かすための固形物として生成され得る。クレアチンは液体をもたらすために水で溶解され得る。
【0022】
半流動体または支持基質内でクレアチンが懸濁される組成物について、組成物のクレアチン内容物は、半流動体またはその他の支持基質内への混和に先立って微粉化プロセス(たとえば破砕、粉砕、粉末化など)を受けて、結果としての組成物の舌触りが受入れられないほどざらつくのを防ぐことが好ましい。
【0023】
支持基質は、もしこれがある場合、認定された食材であり、こうしてこの発明に従う組成物は、固形クレアチンが食材内に懸濁するようにクレアチンおよびクレアチニンを補った、他では従来の食材の形をとることが好都合である。この発明の組成物に好適な支持基質を表わし得る食材の例には、延ばして塗ることができる固形物、たとえば乳塗布食品またはチーズ塗布食品、マーガリン、キャビア(主にダンゴウオキャビア)塗布食品、およびその他の練り魚肉、肉塗布食品などが含まれる。その他の好都合な支持基質としては、糖質またはその他の炭水化物を含む支持基質、たとえば液体もしくは固形の蜂蜜、廃糖蜜、シロップ(たとえばコーンシロップ、ブドウ糖シロップ)、糖蜜、グリセロールまたは「マキシム・エナジー・ジェル(Maxim Energy Gel)」(R)などがある。」
(1d) 「【0031】
この発明の目的のためには、クレアチニンをクレアチンに純粋な物質として添加しても、または、好ましくは低いpH、たとえばpH2?3で溶液中のクレアチンを加熱してクレアチニンを現場で(in situ)製造してもよい。溶液は少なくとも30分間、90℃以上に加熱またはここに保つことが最も好都合であるが、それは、これらの条件が商業販売用の液体の滅菌に最もよく用いられるものであるからである。(代替的に、より高い温度へより短い期間加熱、またはその逆によって、等価の滅菌「熱供給」を与えることもできる。)他の実施例では、クレアチン溶液をpH2?3で数時間加熱してから、これをより高いpH(たとえばpH7)のクレアチン溶液に添加し、最終混合物を所望のpH(たとえばpH5)に調節することによって、クレアチニンを調製することもできる。必要であれば、次に溶液を上述の条件下で再滅菌してもよい。この調製方法によって、クレアチンからクレアチニンへのさらなる変換はほとんどまたは全くなくなるであろうし、これら2つの溶液の混合直後から安定性が確実となる。この方法には利点があるが、それは、クレアチンは冷蔵庫内で冷やされると水に対して溶解度があまり高くないのに対して、クレアチニンははるかに溶解度が高いからである。この方法で安定なクレアチン溶液をもたらすことにより、他で達成し得るよりも比較的大量の安定なクレアチンを含有する飲料を調合することが可能である。したがってこの手段により、最大1.2gクレアチン/100ml(または1.4gクレアチン一水和物)を含有する、冷蔵に好適な飲料、または最大1.5gクレアチン/100ml(または1.7gクレアチン一水和物/100ml)を含有する、18?25℃の室温下での貯蔵に好適な飲料を生成することが可能である。」
(1e) 「【0033】
この発明の好ましい実施例は、特に酸性pH(すなわちpH7未満)の水溶性飲料であって、特にpHが4?6.5、とりわけ4.5?5.5の範囲であり、100ml当り少なくとも0.15gのクレアチン(またはクレアチン一水和物など)を含む水溶性飲料である。好ましくは、飲料は100ml当り少なくとも0.3gのクレアチン(またはクレアチン一水和物など)、より好ましくは100ml当り少なくとも0.4g、最も好ましくは100ml当り少なくとも0.5gを含む。」
(1f) 「【0046】
したがって、一実施例でこの発明の第2の局面は、人間が消費するためのクレアチン含有の組成物であって、クレアチンが実質的に安定(ここに定義の通り)である組成物の調製方法を提供することであり、この方法は、クレアチンの溶液を生成する工程と、部分的にクレアチンをクレアチニンへ変換するのに好適な条件下にクレアチン溶液を置く工程とを含み、こうして、結果として得られる組成物内のクレアチンを実質的に安定(ここに定義の通り)にするのに十分なクレアチニンを形成する。この方法は典型的に、好適な容器、たとえばガラスまたはプラスチックのビン、箔袋、アルミニウム缶などの中に、この組成物を包装する工程をさらに含む。
【0047】
好ましくはこの方法では、クレアチン溶液を好適な条件下に置く工程は、溶液を平均室温よりも高温に加熱する工程を含む。好ましい一方法では、溶液を90℃に30分間加熱する。」
(1g) 「【0058】
実施例2
この試験の目的は、クレアチンを異なるpHにおいて90℃で加熱して、溶液を最大124日間室温で放置した際の、クレアチンの安定性を判定することであった。90℃では、クレアチンからクレアチニンへの変換は一般に極めて急速に起こる。
【0059】
pH3,4,5,6,7の100ml、0.1Mクエン酸-0.1Mリン酸カリウムの緩衝剤における2gのクレアチン一水和物の水中の溶液を、90℃で30分間加熱した。溶液を急速に冷却し、(変化している)pHを再び測定してから、実施例1に記載のように室温に放置した。7,15,29,43,57,89,124日後に部分標本を取り、
これらを-30℃で貯蔵してからクレアチンについて分析した。各標本のpHを測定した。クレアチニンの濃度を、開始レベル(2gクレアチン一水和物)とクレアチンの測定レベル(一水和物から計算)との差から算出した。
【0060】
結果
図1および図2に示すように、30分の加熱後にはクレアチンからクレアチニンへの急速な変換があった。しかし変換の程度は溶液のpHに依存し、pHの低下につれて漸進的に大きくなった。30日間貯蔵すると、クレアチン濃度にはさらなる減少が起こった。30日目と124日目との間では、クレアチンのレベルはすべてのpHで安定性を達成した。図3は、異なるpHでの124日目(17.7週)でのクレアチニン対クレアチンのモル:モル比を示し、ここから、クレアチンを最大限に安定にするのに必要なクレアチニンの量を推定することが可能であった。」

これらの記載によれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「クレアチン一水和物の水中の溶液を、90℃で30分間加熱した、クレアチン溶液。」

第4 当審拒絶理由(特許法第29条第1項第3号:新規性)についての判断
本願発明1と引用発明とを対比すると、後者の「クレアチン一水和物の水中の溶液」は、前者の「クレアチン組成物水溶液」に相当する。また、後者の「クレアチン一水和物」は、前者の「クレアチン組成物が、クレアチン一水和物、クレアチン無水物、クレアチンリン酸塩、クレアチンピルビン酸塩、クレアチンクエン酸塩の群から選択される結晶体粉末」に相当する。
さらに、後者の「クレアチン一水和物の水中の溶液を、90℃で30分間加熱した」ものは、前者の「80?100℃に加温した水と、クレアチン組成物とから成」るものといえる。
そうすると、本願発明1は、引用発明と、以下の一致点で一致し、相違点で一応相違する。

(一致点)
「クレアチン組成物水溶液であって、前記クレアチン組成物水溶液は80?100℃に加温した水と、クレアチン組成物とから成り、前記クレアチン組成物が、クレアチン一水和物、クレアチン無水物、クレアチンリン酸塩、クレアチンピルビン酸塩、クレアチンクエン酸塩の群から選択される結晶体粉末である、クレアチン組成物水溶液。」

(相違点)
クレアチン組成物水溶液について、本願発明1は、 「常温もしくは冷温の飲料と共に経口摂取するための」ものであって、「前記クレアチン組成物水溶液を常温もしくは冷温の前記飲料と共に経口摂取したときに、シアン化合物系の不純物と、胃酸の主成分である塩酸との反応によるシアン化水素ガスの発生が抑えられる」と特定しているのに対して、引用発明は、そのような特定をしていない点。

そこで、上記相違点について検討する。
引用文献1には、「人間が消費するための組成物、特に水性溶媒中で提供される組成物に関し、より特定的には、クレアチンが水溶液中で提供される、またはクレアチンが可食支持基質内に懸濁される組成物(たとえば飲料)」(上記(1b))、「この方法で安定なクレアチン溶液をもたらすことにより、他で達成し得るよりも比較的大量の安定なクレアチンを含有する飲料を調合することが可能である。したがってこの手段により、最大1.2gクレアチン/100ml(または1.4gクレアチン一水和物)を含有する、冷蔵に好適な飲料、または最大1.5gクレアチン/100ml(または1.7gクレアチン一水和物/100ml)を含有する、18?25℃の室温下での貯蔵に好適な飲料を生成することが可能である」(上記(1d))等と記載されており、引用発明も、「常温もしくは冷温の飲料と共に経口摂取するための」ものであるといえる。
また、「前記クレアチン組成物水溶液を常温もしくは冷温の前記飲料と共に経口摂取したときに、シアン化合物系の不純物と、胃酸の主成分である塩酸との反応によるシアン化水素ガスの発生が抑えられる」との特定は、組成を直接に特定するものではないところ、本願明細書の記載(【0013】、【0024】、【0045】)を参照すると、「80?100℃に加温した水」と、クレアチン一水和物等のクレアチン組成物とから成る組成物の性質を特定したにすぎない。そして、引用発明もクレアチン一水和物の水中の溶液を90℃で30分加熱したものであるから、同じ性質を備えていると認められる。
そうすると、上記相違点は、実質的な相違点ではない。

なお、請求人は、「ここで、引用文献1発明において、90℃に加温した水を用いる理由付けとしては、あえてクレアチンの一部をクレアチニンへ変換させて、pHを調節することにより、クレアチンを安定させるという目的であります(引用文献1の実施例2、3参照)。
これに対し、本願補正請求項1に係る発明において、80?100℃に加温した水を用いる理由付けとしては、これらの温度に加温した水を用いてクレアチン類を攪拌処理することにより、当該クレアチン類に含まれる微量のシアン化合物系不純物と、胃酸との反応によるシアン化水素ガス発生を抑制するためであります。実際に、本願補正請求項1の『前記クレアチン組成物水溶液は80?100℃に加温した水と、クレアチン組成物とから成り、(中略)、シアン化合物系の不純物と、胃酸の主成分である塩酸との反応によるシアン化水素ガスの発生が抑えられる』といった構成について、本願実施例1にて、シアン化水素ガス検知管にて80?100℃に加温した水により、シアン化水素ガスの発生が0.2ppm未満に抑制されるということを実証しております。このような本願補正請求項1の構成やその構成によってもたらされる効果、つまり、80?100℃に加温した水でシアン化合物系の不純物を処理することによりシアン化水素ガスの発生が抑制されるといった効果については、引用文献1には開示も示唆する記載もありません。このことから、水の温度範囲が重複していたとしても、本願補正請求項1と、引用文献1発明とは、発明の目的や構成、効果が異なるものと思料致します。」(平成30年1月19日の意見書)と主張している。
しかしながら、物としては、上記相違点について検討したとおり、両者は実質的に相違するものではなく、本願発明1と引用発明は、同一の物といえるので、上記請求人の主張を採用することはできない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、本願発明2?4について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-05-30 
結審通知日 2018-06-05 
審決日 2018-06-18 
出願番号 特願2015-75744(P2015-75744)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安藤 公祐  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 山崎 勝司
紀本 孝
発明の名称 クレアチン組成物水溶液  
代理人 安形 雄三  

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