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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1343435
審判番号 不服2017-15382  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-10-17 
確定日 2018-09-18 
事件の表示 特願2015-525776「MOCVD反応炉の面状ヒータ用加熱エレメント」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月13日国際公開、WO2014/023414、平成27年 9月17日国内公表、特表2015-527742、請求項の数(17)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成25年(2013年)8月5日(パリ条約に基づく優先権主張 外国庁受理 2012年8月7日 米国,以下左の日を「本願優先日」という。)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年12月19日 拒絶理由通知
平成29年 5月23日 意見書・手続補正
平成29年 6月16日 拒絶査定(以下,「原査定」という。)
平成29年10月17日 審判請求・手続補正

第2 原査定の概要
原査定の理由の概要は以下のとおりである。
(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,本願優先日前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,本願優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1-19
・引用文献等 1-4
<引用文献等一覧>
引用文献1 特表2008-503066号公報
引用文献2 米国特許第3737714号明細書
引用文献3 特公昭39-3864号公報
引用文献4 特表2002-522881号公報

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は,特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正によって,補正前の請求項1及び2が削除されたが,この補正事項は請求項の削除を目的とするものである。
また,同補正によって,補正前の請求項13に補正前の請求項4に記載されていた発明特定事項の一部が追加され補正後の請求項11とされたが,この補正事項は,特許請求の範囲の減縮を目的とし,補正後の請求項11に係る発明は,下記第4から第6に示すとおり,独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願の請求項1ないし17に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明17」という。)は,審判請求時の補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりである。
「【請求項1】
多孔焼結被膜(30)で少なくとも部分的に直接覆われた加熱体(20)を有し,前記加熱体(20)及び前記多孔焼結被膜(30)がそれぞれ少なくとも90重量%のタングステンを含んでおり,
前記多孔焼結被膜(30)が少なくとも部分的に前記加熱体(20)と冶金的に結合しており,
前記多孔焼結被膜(30)が外表面に開口気孔(32)を有し,該開口気孔(32)が,前記多孔焼結被膜(30)により覆われている前記加熱体(20)の表面積の10%以上に及ぶ投影面積を有し,前記加熱体(20)がほぼ平坦な形態である,加熱エレメント。
【請求項2】
前記加熱体(20)が互いに反対側を向く2つの面をもち,該面が両方とも,少なくとも部分的に前記多孔焼結被膜(30)で覆われている,請求項1に記載の加熱エレメント。
【請求項3】
前記開口気孔(32)が,前記多孔焼結被膜(30)により覆われている前記加熱体(20)の表面積の20%以上に及ぶ投影面積を有する,請求項1又は2に記載の加熱エレメント。
【請求項4】
前記開口気孔(32)が,前記多孔焼結被膜(30)により覆われている前記加熱体(20)の表面積の30%以上に及ぶ投影面積を有する,請求項1又は2に記載の加熱エレメント。
【請求項5】
前記開口気孔(32)が,前記多孔焼結被膜(30)により覆われている前記加熱体(20)の表面積の70%以下に及ぶ投影面積を有する,請求項1?4のいずれか1項に記載の加熱エレメント。
【請求項6】
前記開口気孔(32)が,前記多孔焼結被膜(30)により覆われている前記加熱体(20)の表面積の60%以下に及ぶ投影面積を有する,請求項1?5のいずれか1項に記載の加熱エレメント。
【請求項7】
前記多孔焼結被膜(30)が工業的純タングステンから形成されている,請求項1?6のいずれか1項に記載の加熱エレメント。
【請求項8】
前記加熱体(20)が,単一平面内で少なくとも部分的に湾曲している,請求項1?7のいずれか1項に記載の加熱エレメント。
【請求項9】
前記多孔焼結被膜(30)の放射率が0.5以上である,請求項1?8のいずれか1項に記載の加熱エレメント。
【請求項10】
チャンバと,1以上のウェハを載置するサセプタと,請求項1?9のいずれか1項に記載の加熱エレメントと,を備えた反応炉。
【請求項11】
加熱エレメント(10)の製造方法であって,
実質的に単一平面内で延伸し,少なくとも90重量%のタングステンを含む材料から形成される加熱体(20)を生成する工程と,
前記加熱体(20)の表面に,タングステンが少なくとも90重量%である材料の粒子を含んだ懸濁液を少なくとも部分的に塗布する工程と,
当該加熱体(20)表面の懸濁液を焼結して,外表面に開口気孔を有する多孔焼結被膜(30)とする焼結工程と,
を含む製造方法。
【請求項12】
前記懸濁液を,前記焼結工程の前に乾燥させる,請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記懸濁液を,前記焼結工程中に乾燥させる,請求項11に記載の製造方法。
【請求項14】
前記焼結工程は,1800℃より下の温度で実施する,請求項11?13の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項15】
前記焼結工程は,1400℃?1500℃の温度で実施する,請求項11?14のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項16】
前記焼結工程は,空気中の酸素を排除した中で実施する,請求項11?15のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項17】
前記焼結工程は,水素雰囲気又はアルゴン雰囲気中で実施する,請求項11?16のいずれか1項に記載の製造方法。」

第5 引用文献及び引用発明
1 引用文献1について
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付加した。以下同じ。)
ア 「【技術分野】
【0001】
本出願は,材料をそれらの放射率を増大させるように改質することに関し,さらに詳細には,熱の吸収又は熱の放射などに用いられる金属の放射率を増大させる方法に関する。」
イ 「【0007】
表面の放射率を増大させるもう1つの手法は,第1の材料の表面を高放射率の第2の材料によって被覆する方法である。これによって,一般的には,被膜の放射率と等しい表面放射率が得られる。これは,室温において所望のより高い放射率をもたらすことができるが,高温における及び侵襲性のある熱,圧力又は反応性環境における被膜の信頼性が,通常は低い。その1つの理由は,例えば,母材と被膜との間の線膨張の差にある。数回の熱サイクルの後,被膜は,亀裂と剥離を生じ始めることがある。さらに,多くの被膜は,低い機械的強度を有し,設置及び使用中に,容易に掻き落とされ,あるいは別の態様で表面から除去される。最後に,半導体,医学,食品,又は薬剤業界などのような用途では,プロセス環境との化学的な親和性の問題と,被膜の材料によるプロセスの汚染の問題とがある。
【0008】
表面の放射率を増大させるもう1つの有力な方法は,極めて不規則な表面形態を生じるように調整された化学蒸着(CVD)プロセスのような被覆プロセスを用いて,母材と同じ組成を有する被膜を施すことである。これらの被膜の主な欠点は,極めて低い機械的強度と母材の表面に対する低い付着性である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って,当技術分野におけるあらゆる努力にもかかわらず,加熱要素のような要素の放射率を増大させるさらに改良された方法が必要とされている。」
ウ 「【0011】
本発明のこの態様による方法は,最初,材料の表面を機械加工し,次いで,その機械加工された表面をエッチングする。機械加工プロセスとして,表面を工具に接触させるプロセス,表面を粒状媒体に接触させるプロセス,例えば,表面をサンドブラスト又はショットピーニングするプロセス,又は表面を1つ又は多数の液体噴流に接触させるプロセスのような幅広い種類の機械的プロセスが挙げられる。エッチングステップとして,表面を要素の材料を侵食するエッチング液と接触させるステップ,例えば,表面を硝酸のような液体,又は材料と反応するか又は溶解するプラズマと接触させるステップが挙げられる。最も好ましくは,機械加工は,表面を微視的レベルで粗面化するように作用し,エッチングステップは,さらなる粗さを導入する。
【0012】
本発明は,どのような作用を裏付ける理論によっても制限されないが,機械加工ステップは,表面の局部的な変形をもたらし,これによって,微視的な欠陥を表面の材料結晶構造に導入し,エッチングステップは,主に,これらの欠陥において材料を侵食することが考えられる。作用の理論とは無関係に,本発明のこの態様による好ましい方法は,継続性のある高放射率を有する材料をもたらすことができる。
【0013】
一態様において,本発明は,放射加熱要素を有する加熱装置の製造において,特に有用である。本発明は,他の目的を有する他の要素の製造に適用することもできる。例えば,本発明は,被加工品を加熱するサセプタ,熱環境を調節する吸収面,などに適用することもできる。」
エ 「【0015】
図1は,本発明の一実施形態の工程フローチャートを示している。材料(この場合,改質されていない加熱要素100),例えば,モリブデンフィラメント又はレニウムフィラメントが用意される。他の導電材料から形成される他の材料及び他の加熱要素であってもよい。好ましくは,この材料は,耐熱性金属,例えば,モリブデン,レニウム,ニオビウム,タングステンなどである。しかし,この材料は,合金であってもよく,また,非耐熱性金属又は合金,例えば,ステンレス鋼又はアルミニウムであってもよい。図1の実施形態では,加熱要素の放射率は,2段階プロセス,すなわち,微視的なレベルの欠陥を生成するために表面を機械加工する第1ステップ110と,その表面をエッチングする第2ステップ120とによって,改良される。その結果,改質された材料(この場合,改質された加熱要素140)が生成される。
【0016】
機械加工ステップ110において,加熱要素の表面は,微視的レベルの欠陥を生成するために,サンドブラスト,ショットピーニング,又は工具による表面の機械加工のような1つ又は多数のプロセスによって,冷間加工及び粗面化される。冷間加工プロセスは,モリブデン又はレニウムの表面の一部を局部的に変形させる。また,水噴射が加熱要素の表面を効果的に加工することも見出されている。
【0017】
冷間加工プロセスの条件は,好ましくは,母材の結晶構造の結晶粒に高レベルの微視的欠陥を生じさせるように調整され,これらの条件は,用いられる母材と粗面化プロセスによって,変動する。転位やすべり線のような欠陥は,極めて望ましい。
【0018】
エッチングステップ120において,機械的に誘導された欠陥を有する表面は,典型的には,プラズマ又は硝酸のような酸などを用いる化学エッチングプロセスによって,エッチングされる。一般的に,顕微鏡試料を作成中に結晶構造を露出させるのに用いられるのと同じエッチング化合物が,良好に用いられ得る。エッチングプロセスは,母材よりも欠陥をさらに強く侵食する。これによって,表面の欠陥が深められ,微視的なレベルでの溝の網目構造が生じる。エッチングプロセスの濃度,温度,及び期間は,表面から多量の母材を除去することなく,最も高い放射率をもたらすように調整されるべきである。」
オ 「【0026】
図5は,本発明の一実施形態を含む半導体処理装置,この場合,ウエハ処理用の半導体反応装置の概略的な断面図である。なお,この図は簡素化され,尺度通りではない。加熱要素以外の装置の要素は,半導体ウエハ又は他の半導体を処理する従来のサセプタ型回転ディスク反応室又はビーコインストルメンツ(Veeco Instruments)社のターボディスク(TurboDisc)部門によってTurboDiscの登録商標で市販されているようなCVD反応装置であればよい。
【0027】
一実施形態では,装置は,内面504を有する反応室502を備えている。反応室の上面において,一組のガス入口が,例えば,一組又は多数の組のウエハにエピタキシャル層を堆積させるために,反応ガス及び/又はキャリアガスを供給する。加熱サセプタ510は,一組の加熱要素520によって,常に加熱されている。これらの加熱要素520は,多数の加熱ゾーンに分割されていてもよい。加熱要素520は,好ましくは,耐熱性金属,例えば,モリブデン,さらに好ましくは,レニウムから作製されている。加熱要素に,電源(図示せず)から電流(図示せず)が供給される。さらに,加熱要素520の上面は,前述のプロセスによって処理され,高放射率の表面525を生成している。」
カ 図5には,ほぼ平坦な形態である加熱要素520が,記載されていると認められる。
(2)引用加熱要素発明
前記(1)より,引用文献1には次の発明(以下,「引用加熱要素発明」という。)が記載されていると認められる。
「タングステンを材料とし,表面の欠陥が深められ,微視的なレベルでの溝の網目構造が生じた加熱要素。」
(3)引用方法発明
前記(1)より,引用文献1には次の発明(以下,「引用方法発明」という。)が記載されていると認められる。
「改質された加熱要素を生成する方法であって,タングステンを材料とする加熱要素を用意するステップと,微視的なレベルの欠陥を生成するために表面を機械加工するステップと,その表面をエッチングするステップと,を含む方法。」
2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には,図面とともに次の事項が記載されている。(訳は当審で作成した。)
「This invention relates to coated heaters and, particularly, to dark coated insulated heaters utilized in indirectly heated cathodes in vaccum tubes.」(1欄6-8行)
(訳:本発明は,被覆されたヒータに関し,特に,真空管の間接加熱カソードに用いられる暗色被覆絶縁ヒータに関する。)
「According to our invention, the heater coil is coated with aluminum oxide such as disclosed in the U.S. Pat. of Dolan, No. 3,049,482. Following the manufacture, the coated coil is dipped in a solution of a soluble high tungsten containing compound. After dipping, the coated coil is sintered at an elevated tempetature in a reducing atmosphere and the ionic tungsten is reduced to a tungsten metal, thereby imparting the dark coloration.
Accordingly, the primary object of our invention is darkening an insulating coating on heater coils.
Another object of our invention is increasing the emissivity of the coating on the heater coil, hence, resulting in better heat transfer without decreasing the insulating characters.」(1欄54行-2欄2行)
(訳:本発明によれば,米国特許3049482号に開示されているように,ヒータコイルは酸化アルミニウムで被覆されている。その製造法に従えば,被覆されたコイルは高濃度タングステン溶解混合物に浸漬される。浸漬の後,被覆されたコイルは高温で還元性雰囲気において焼結され,タングステンイオンは金属タングステンに還元されて,これにより暗色化される。
したがって,本発明の主な目的は,ヒータコイル上の絶縁被覆を暗色化することである。
本発明のその他の目的は,ヒータコイル上の被覆の放射性を高め,よって,絶縁性を減少させることなくより高い熱移動を得ることである。)
「Referring now to FIG. 1 of the drawing, the heater coil 1 is coated with aluminum oxide and covered with tungsten metal particles. Each coil is made of tungsten metal and coated with aluminum oxide 3. When coated, the coil 1 is dipped in the tungsten-ion containing solution and a darkened coating will appear after firing in a reducing atmosphere. A small gap 5 is left between the legs 4 of the coil and the tungsten impregnates aluminum oxide coating to prevent leakage.
(中略)
As shown in FIG. 3, the tungsten wire 9 has an aluminum oxide layer 10 coated thereupon. The tungsten overcoat 11 impregnates only partly through the coating 10 to the wire 9, preferably.」(2欄62行-3欄14行)
(訳:第1図を参照して,ヒータコイル1は酸化アルミニウムに覆われ,タングステン金属粒子に覆われている。被覆の際,コイル1はタングステンイオン溶液に浸漬され,還元性雰囲気中での焼成後に暗色被覆が現れる。漏れ電流を防止するため,脚部4とタングステンが含浸した酸化アルミニウム被覆との間には小さな間隔5がある。
(中略)
第3図に示されるように,タングステンワイヤ9はその上を被覆する酸化アルミニウム層10を有する。タングステンの外皮11は,好ましくは,部分的にのみ被覆10を通じてワイヤ9まで含浸する。)
3 引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には,図面とともに次の事項が記載されている。
「本発明は電子放電管の陰極ヒーターに関するものである。」(1頁左欄25-26行)
「本発明の一目的は,改良された絶縁特性と高い熱輻射能を有する被覆を備えた陰極ヒーターを提供することである。」(1頁右欄31-33行)
「黒化剤として添加されるかゝる難溶性材料としては,本発明の特徴として金属タングステンの粉末である。この粉末状金属タングステンは酸化アルミニウムの第1被覆上に第2被覆として附加される。例えば,第3図に示されるごとく,酸化アルミニウム被覆23を基線13に焼結させるための水素中での焼成を必要としない点だけを除き,酸化アルミニウム被覆を有するヒーターを普通の方法で製作する。実際に,必要とあればこのヒーターは焼成されるしかしこゝでは必要としない。上述の附加材料としてのタングステンをボールミルまたは類似装置により非常に微粒化された粉末にして,メタノールのような適当な分散媒中に懸濁混合させる。この懸濁液を普通のスプレー手段により酸化アルミニウム被覆ヒーター上に吹付け,しかる後乾燥させて第2層または第2被覆24を完全に形成する。乾燥後この2重に被覆したヒーターを水素雰囲気中で焼成する。」(2頁右欄31-46行)
4 引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【0001】
[技術分野]
本発明は請求項1の前文に記載された高圧放電ランプの電極に関する。この場合,この高圧放電ランプは特に半導体産業用の特に水銀ショートアークランプである。半導体産業において,水銀ショートアークランプはホトリソグラフィープロセスにおいてウエハ又は他の基板を露光するために利用されている。他の優れた適用分野は希ガス高圧放電ランプ,特にキセノンランプである。メタルハライドランプに対する適用も可能である。」
「【0006】
電極の表面の本発明による被覆は(熱放射による)電極の冷却のための極めて有効なメカニズムとして適している。何故ならば放射係数が大きければ大きい程、電極は冷却されるからである。これによって、電極からのタングステンの蒸発、従ってガラス球の黒化が減少する。タングステンの蒸発率は電極の温度と共に指数関数的に増大するので、温度の低下が比較的僅かでも、ガラス球の黒化は相当減少する。」
「【0011】
本発明においては,陽極を樹枝状金属又は金属化合物によって被覆することにより,放射係数が0.3(純タングステン)から0.6以上の値に増大する(少なくとも1000℃の温度の際)。それどころかランプ製造後の初期においては0.8以上の値が得られる。樹枝状構造とはここでは滑らかな表面上に設けられた放射を反射する多数の針状生成物である。この針状生成物は数nmから百μm以上の間隔で,特に少なくとも300nmの平均間隔で並んで存在する。2つの隣接する針状先端の間の谷の深さがこの先端の相互間隔の少なくとも30%の大きさであるような構造が特に適していることが判明している。樹枝状膜は原理的には高融点の金属から製造することができる。特に,レニウム,タングステン,モリブデン及びタンタル又はそれらの炭化物もしくは窒化物が適している。ハフニウム又はジルコニウムの炭化物もしくは窒化物も適している。追加的にタングステンから成る核と樹枝状膜との間には高融点の金属から成る通常の被膜を設けることができる。」

第6 対比及び判断
1 本願発明1について
(1)本願発明1と引用加熱要素発明との対比
ア 引用加熱要素発明の「加熱要素」は「加熱体」ということができ,タングステンを材料とするから,下記相違点1を除いて,本願発明1の「加熱体を有し,前記加熱体が少なくとも90重量%のタングステンを含んでおり」を満たす。
イ 引用加熱要素発明では,その加熱要素がほぼ平坦な形態であることが開示されている(前記第5の1(1)カ)から,本願発明1の「前記加熱体がほぼ平坦な形態である」を満たす。
ウ すると,本願発明1と引用加熱要素発明とは,下記エの点で一致し,下記オの点で相違する。
エ 一致点
「加熱体を有し,前記加熱体が少なくとも90重量%のタングステンを含んでおり,
前記加熱体がほぼ平坦な形態である,加熱エレメント。」
オ 相違点
本願発明1では,「加熱体」が「多孔焼結被膜で少なくとも部分的に直接覆われた」加熱体であり,「前記多孔焼結被膜が少なくとも90重量%のタングステンを含んでおり,前記多孔焼結被膜が少なくとも部分的に前記加熱体と冶金的に結合しており,前記多孔焼結被膜が外表面に開口気孔を有し,該開口気孔が,前記多孔焼結被膜により覆われている前記加熱体の表面積の10%以上に及ぶ投影面積を有」するのに対し,引用加熱要素発明では,加熱要素の「表面の欠陥が深められ,微視的なレベルでの溝の網目構造が生じた」もので「多孔焼結被膜」で覆われていない点。(以下,「相違点1」という。)
(2)相違点についての判断
相違点1に係る構成について,いずれの引用文献にも記載も示唆もない。
引用文献2記載の「ヒータコイル」は「酸化アルミニウムに覆われ,タングステン金属粒子に覆われている」から,そのタングステンの外皮はヒータコイルを「少なくとも部分的に直接覆う」ものではない。引用文献3記載のヒーターも同様に基線と第2被覆との間に「酸化アルミニウムの第1被覆」が介在しており「少なくとも部分的に直接覆う」ものではない。引用文献4記載の「陽極を樹脂状金属又は金属化合物によって被覆すること」の「陽極」はその技術分野から明らかなように熱放射による冷却を要する高圧放電ランプの電極であって「加熱体」ではない。
引用加熱要素発明では,表面の放射率を増大させるために,母材と同じ組成を有する被膜を施すと,極めて低い機械的強度と母材の表面に対する低い付着性という欠点があるから,これを改良したというもの(前記第5の1(1)イ)であり,引用加熱要素発明の「表面の欠陥が深められ,微視的なレベルでの溝の網目構造」を多孔焼結被膜に置き換えることは,引用加熱要素発明が排斥しているところであり,阻害要因がある。
よって,相違点1に係る構成を得ることは,当業者が容易になし得ることではない。
(3)まとめ
したがって,本願発明1は,引用文献1ないし4に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 本願発明2ないし10について
本願発明2ないし10は,本願発明1を引用するものであり,本願発明1の発明特定事項を全て備えるから,前記1と同様の理由により,引用文献1ないし4に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 本願発明11について
(1)本願発明11と引用方法発明との対比
ア 引用方法発明の「改質された加熱要素を生成する方法」は,下記相違点2を除いて,本願発明11の「加熱エレメントの製造方法」に相当する。
イ 引用方法発明の「タングステンを材料とする加熱要素を用意するステップ」は,その加熱要素がほぼ平坦な形態であることが開示されている(前記第5の1(1)カ)から,本願発明11の「実質的に単一平面内で延伸し,少なくとも90重量%のタングステンを含む材料から形成される加熱体を生成する工程」を満たす。
ウ すると,本願発明11と引用方法発明とは,下記エの点で一致し,下記オの点で相違する。
エ 一致点
「加熱エレメントの製造方法であって,
実質的に単一平面内で延伸し,少なくとも90重量%のタングステンを含む材料から形成される加熱体を生成する工程と,
を含む製造方法。」
オ 相違点
本願発明11は「前記加熱体の表面に,タングステンが少なくとも90重量%である材料の粒子を含んだ懸濁液を少なくとも部分的に塗布する工程と,当該加熱体表面の懸濁液を焼結して,外表面に開口気孔を有する多孔焼結被膜とする焼結工程」とを含むのに対して,引用方法発明は「微視的なレベルの欠陥を生成するために表面を機械加工するステップと,その表面をエッチングするステップ」とを含む点。(以下,「相違点2」という。)
(2)相違点についての判断
相違点2に係る工程は,いずれの引用文献にも記載も示唆もない。
引用文献2ないし4に記載された工程は,「加熱体の表面に」懸濁液を塗布するものではない。
引用方法発明では,表面の放射率を増大させるために,母材と同じ組成を有する被膜を施すと,極めて低い機械的強度と母材の表面に対する低い付着性という欠点があるから,これを改良したというもの(前記第5の1(1)イ)であり,引用方法発明の「表面を機械加工するステップと,その表面をエッチングするステップ」を多孔焼結被膜を生成するための工程に置き換えることは,引用方法発明の排斥しているところであり,阻害要因がある。
よって,相違点2に係る構成を得ることは,当業者が容易になし得ることではない。
(3)まとめ
したがって,本願発明11は,引用文献1ないし4に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
4 本願発明12ないし17について
本願発明12ないし17は,本願発明11を引用するものであり,本願発明11の発明特定事項を全て備えるから,前記3と同様の理由により,引用文献1ないし4に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第7 原査定について
前記「第6 対比及び判断」のとおりであるから,本願発明1ないし17は,引用文献1ないし4に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって,原査定の理由によって,本願を拒絶することはできない。

第8 結言
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-09-03 
出願番号 特願2015-525776(P2015-525776)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山本 一郎内田 正和鈴木 聡一郎正山 旭  
特許庁審判長 飯田 清司
特許庁審判官 深沢 正志
梶尾 誠哉
発明の名称 MOCVD反応炉の面状ヒータ用加熱エレメント  
代理人 山口 巖  
代理人 山口 巖  

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