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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1343578
審判番号 不服2017-5035  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-04-07 
確定日 2018-08-23 
事件の表示 特願2015-228498「プロテクトフィルム付偏光板及びそれを含む積層体」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月30日出願公開、特開2016-118771〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年11月24日(優先権主張平成26年12月18日)の出願であって、平成28年8月15日付けで拒絶理由が通知され、同年10月24日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年12月22日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成29年4月7日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正がなされたものである。
その後、当審において、平成30年1月26日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)を通知し、同年4月27日に意見書の提出とともに手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされた。また、同日付けで手続補足書が提出された。


第2 本件発明
本願の請求項1?7に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明は以下のとおりのものである。
「 偏光子を含む厚みT1(μm)の偏光板と、その一方の表面に積層される厚みT2(μm)のプロテクトフィルムとを備えるプロテクトフィルム付偏光板であって、
前記プロテクトフィルム付偏光板が長辺と短辺とを有する方形形状の枚葉体であり、前記長辺が221mm以上、前記短辺が139mm以上であり、
前記枚葉体は、長尺のプロテクトフィルム付偏光板の裁断物であり、
前記偏光子は、延伸ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素を吸着配向させたフィルムであり、
前記偏光子の厚みが5μm以上15μm以下であり、
前記偏光板の他方の表面は、第1粘着剤層の表面で構成されており、
前記プロテクトフィルムは、前記一方の表面に積層される第2粘着剤層と、その上に積層される単層の樹脂フィルムとで構成されており、
前記第1粘着剤層及び前記第2粘着剤層は、(メタ)アクリル系樹脂を含み、
前記樹脂フィルムは、ポリエステル系樹脂からなり、
前記偏光板は、厚みが30μm以下である保護フィルムをさらに含み、
前記プロテクトフィルムの厚みT2が120μm以下であり、
厚み比T2/T1が0.8?1.4の範囲内である、プロテクトフィルム付偏光板。」(以下、「本件発明」という。)


第3 当審拒絶理由
本件補正前の請求項1?7に係る発明に対し通知された当審拒絶理由の概要は以下のとおりである。

理由1(進歩性)
本願の請求項1?7に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である引用文献1?3に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

理由2(サポート要件)
請求項1?7に係る発明は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるから、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


<引用文献等一覧>
引用文献1:特開2001-108830号公報
引用文献2:特開2014-132313号公報
引用文献3:国際公開第2014/054114号
引用文献4:特許第3368524号公報


第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1
(1)引用文献1の記載事項
当審拒絶理由に引用され、本願の優先権主張の日前の平成13年4月20日に頒布された刊行物である引用文献1(特開2001-108830号公報)には、図面とともに以下の記載事項がある(摘記した記載事項中の下線は、合議体が付与した。以下同様)。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 偏光子フィルム又は位相差フィルムを平面状態に保形する保形フィルムを、前記偏光子フィルム又は位相差フィルムの両面のうちの一方の面側に積層し、前記保形フィルムにおける前記偏光子フィルム又は位相差フィルム積層側の反対側に保護フィルムを剥離可能に積層し、前記偏光子フィルム又は位相差フィルム側が凹となる反りが生じるのを防止可能に前記保護フィルムを所定の厚さに設定してある光学フィルム。
【請求項2】 前記保護フィルムの厚さを、前記偏光子フィルム又は位相差フィルム側が凸となる反りが生じるのを防止可能な値に設定してある請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】 前記偏光子フィルム又は位相差フィルムにおける保形フィルム積層側と反対側に粘着剤層を形成するとともに、この粘着剤層における前記偏光子フィルム又は位相差フィルム存在側と反対側に剥離フィルムを貼着してある請求項1又は2に記載の光学フィルム。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、偏光子フィルムや位相差フィルムを備えた光学フィルムに関する。
【0002】
【従来の技術】偏光子フィルムを備えた光学フィルムは、その吸収軸方向に平行な振動面を有する偏光光を吸収し、該吸収軸に直交する方向(透過軸)に平行な振動面を有する偏光光を透過する機能を有した光学素子であり、例えば、液晶表示装置を構成する光学素子の一つとして広く用いられている。

(中略)

【0008】ところで、液晶表示装置はワープロやパソコンの画面だけでなく、自動車用のナビゲーションシステム・携帯電話・電卓等の小物類にも普及しており、近年の激化する小型化競争に対応するべく、液晶表示装置のガラス等に貼着される光学フィルムを薄くしてコンパクト化する要望も強くなってきている。光学フィルムを数十μm程度薄くするだけでも、体感的にかなり薄肉化された印象を受けるからである。

(中略)

【0012】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、偏光子フィルムとTACフィルムとには吸湿性に差がある(TACフィルムの方が吸湿性が高い)ことから、片TAC構造の光学フィルムでは、粘着剤層側に凹となる状態に反りやすい傾向があり、次の問題があった。

(中略)

【0016】本発明の目的は、光学フィルムを薄肉化するべく片TAC構造を採用しながらも、貼合対象側が凹となる反りが生じないようにして、光学フィルムの貼合対象物への貼合作業を正確に、かつ、効率よく行うことができるようにする点にある。
【0017】
【課題を解決するための手段】〔構成〕請求項1による発明の構成は、偏光子フィルム又は位相差フィルムを平面状態に保形する保形フィルムを、前記偏光子フィルム又は位相差フィルムの両面のうちの一方の面側に積層し、前記保形フィルムにおける前記偏光子フィルム又は位相差フィルム積層側の反対側に保護フィルムを剥離可能に積層し、前記偏光子フィルム又は位相差フィルム側が凹となる反りが生じるのを防止可能に前記保護フィルムを所定の厚さに設定してあることを特徴とする。
【0018】請求項2による発明の構成は、請求項1による発明の構成において、前記保護フィルムの厚さを、偏光子フィルム又は位相差フィルム側が凸となる反りが生じるのを防止可能な値に設定してあることを特徴とするものである。
【0019】請求項3による発明の構成は、請求項1又は2による発明の構成において、前記偏光子フィルム又は位相差フィルムにおける保形フィルム積層側と反対側に粘着剤層を形成するとともに、この粘着剤層における偏光子フィルム又は位相差フィルム存在側と反対側に剥離フィルムを貼着してあることを特徴とするものである。
【0020】〔作用〕請求項1の構成は、光学フィルムが液晶表示装置等の実機に貼合された後で、保護フィルムが剥離除去される点に着目して成されたものであり、請求項1の構成によれば、保形フィルムを偏光子フィルム又は位相差フィルムの両面のうちの一方の面側に積層した構造(以下、「片TAC構造の光学フィルム」と略称する)でありながら、保護フィルムを従来に比べて厚くしてその剛性を増大させ、その増大した剛性によって偏光子フィルム又は位相差フィルム側が凹となる反りが生じるのを防止することができる。

(中略)

【0025】請求項1の構成では、片TAC構造の光学フィルムは直線状か、あるいは偏光子フィルム又は位相差フィルム側が凸となる反りが生じた湾曲状に構成されるものであり、それによって、片TAC構造の光学フィルムがガラス等に端から貼合される状態が生じるのを防止する手段であるが、偏光子フィルム又は位相差フィルム側が凸となる反りが生じると、運搬時や保管時に取扱いにくかったり、前記一対の押圧ロール間に最初に挿入する操作が行いにくかったりするという問題が考えられなくもない。
【0026】そこで、請求項2の構成によれば、偏光子フィルム又は位相差フィルム側が凸となる反りが生じないように保護フィルムの厚さを設定するので、片TAC構造の光学フィルムを偏平な直線状又はほぼ直線状に構成できるようになり、上記の問題を解消できて、貼合対象物への貼合操作や製造工程により適合した状態にすることができる。」

ウ 「【0031】
【発明の実施の形態】〔第1実施形態〕図1に、偏光子フィルム1を備えた片TAC構造の第1光学フィルムAを示してある。
【0032】この片TAC構造の第1光学フィルムAは、片面に粘着剤層を有する保護フィルム(PETフィルムである)2、保形フィルムとしてのTACフィルム3、偏光子フィルム(PVA(ポリビニルアルコ-ルフィルム))1、粘着剤層4、剥離フィルム5とをこの順で積層した構造に構成してある(つまり、TACフィルム3を、偏光子フィルム1の両面のうちの一方の面側にだけ積層してある)。
【0033】この片TAC構造の第1光学フィルムAの各層の厚さの一例は、
保護フィルム 125μm
粘着剤層 20μm
TACフィルム 50μm
偏光子フィルム 20μm
粘着剤層 25μm
剥離フィルム 38μm
計 278μm
である。
【0034】TACフィルム3と偏光子フィルム1と粘着剤層4との三者は貼着一体化され、剥離フィルム5は粘着剤層4に対して剥離自在に貼着されている。保護フィルム2は、これ自身に施された粘着剤により、剥離フィルム5と同様に容易に剥離できる状態でTACフィルム3に貼着されている。
【0035】片TAC構造の第1光学フィルムAを150mm×100mmに切断した矩形のサンプルを用いて、4箇所の角部の反り量を計測したデータを次に示す。
【0036】図4に示すように、定盤等の水平面10の上に、保護フィルム2を下側にしてサンプルを静かに載置したときの、4箇所の角部a?dにおける水平面10からの反り上がり量の測定データを表1に示す。
【0037】サンプル1)?3)は従来の片TAC構造の光学フィルムを、サンプル4)?6)は片TAC構造の第1光学フィルムAを夫々示している。
【0038】
【表1】

単位:mm
サンプル1)?3)の保護フィルム厚さ : 38μm
サンプル4)?6)の保護フィルム厚さ : 125μm
保護フィルム2の厚さは、従来の38μmから125μmに大きく増やされている。
【0039】表1から判るように、サンプル1)?3)の従来品では明らかな反りが認められるのに対して、サンプル4)?6)の本発明品では浮き上がり量が3mm以内に抑えられており、実質的に反りが問題とならないほぼ水平面状態に保形されている。
【0040】保護フィルム2の片面に設けられる粘着剤層の厚みは通常15?25μm程度の範囲である。」
合議体注:図1及び図4は以下のとおりのものである。


(2)引用文献1に記載された発明
上記記載事項に基づけば、引用文献1には第1実施形態として以下の発明が記載されていると認められる。
「片面に粘着剤層を有する保護フィルム(PETフィルムである)2、保形フィルムとしてのTACフィルム3、偏光子フィルム(PVA(ポリビニルアルコ-ルフィルム))1、粘着剤層4、剥離フィルム5とをこの順で積層した構造に構成してある(つまり、TACフィルム3を、偏光子フィルム1の両面のうちの一方の面側にだけ積層してある)片TAC構造の第1光学フィルムAであって、各層の厚さは、
保護フィルム 125μm
粘着剤層 20μm
TACフィルム 50μm
偏光子フィルム 20μm
粘着剤層 25μm
剥離フィルム 38μm
計 278μm
である、片TAC構造の第1光学フィルムA。」(以下、「引用発明」という。)

2 引用文献2
当審拒絶理由に引用され、本願の優先権主張の日前の平成26年7月17日に頒布された刊行物である引用文献2(特開2014-132313号公報)には、以下の記載事項がある。

(1)「【0012】
(偏光フィルム)
本発明における偏光フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムである。ポリビニルアルコール系樹脂は、通常、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化することにより得られる。ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、通常約85モル%以上、好ましくは約90モル%以上、より好ましくは約99モル%?100モル%である。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体を挙げることができる。酢酸ビニルと共重合可能な他の単量体としては、たとえば、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類などが挙げられる。上記酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体の具体例としては、エチレン-酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、通常約1000?10000程度、好ましくは約1500?5000程度である。
【0013】
ポリビニルアルコール系樹脂は変性されていてもよく、たとえば、アルデヒド類で変性されたポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラールなども使用し得る。通常、偏光フィルム製造における開始材料として、厚さが約5μm?100μm、好ましくは約10μm?80μmの未延伸ポリビニルアルコール系樹脂フィルムが用いられる。フィルムの幅は、工業的には、約1500mm?4000mmが実用的であるが、これに限定されるものではない。この未延伸フィルムを、膨潤処理、染色処理、ホウ酸処理、水洗処理の順に処理し、ホウ酸処理またはそれより前の工程で一軸延伸を施し、最後に乾燥して得られるポリビニルアルコール系偏光フィルムの厚みは、たとえば約1μm?40μm程度である。
【0014】
本発明における偏光フィルムの作製方法は特に限定されず、たとえば、(i)上記未延伸ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、空気あるいは不活性ガス中で一軸延伸後、膨潤処理、二色性色素による染色処理、ホウ酸処理および水洗処理の順に処理し、最後に乾燥を行なう方法、(ii)上記未延伸ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを膨潤処理、二色性色素による染色処理、ホウ酸処理および水洗処理の順に処理し、ホウ酸処理工程および/またはその前の工程で湿式にて一軸延伸を行ない、最後に乾燥を行なう方法などが採用できる。」

(2)「【0038】
(保護フィルム)
本発明における保護フィルムは、上述した偏光フィルムの両面に接着剤層を介して積層・貼合される。保護フィルムとしては、たとえば、シクロオレフィン系樹脂フィルム;酢酸セルロース系樹脂フィルム;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂フィルム;ポリカーボネート系樹脂フィルム;アクリル系樹脂フィルム;ポリプロピレン系樹脂フィルムなど、当分野において従来より広く用いられてきているフィルムを挙げることができる。
【0039】
シクロオレフィン系樹脂は、適宜の市販品、たとえばTopas(Ticona社製)、アートン(JSR(株)製)、ゼオノア(ZEONOR)(日本ゼオン(株)製)、ゼオネックス(ZEONEX)(日本ゼオン(株)製)、アペル(三井化学(株)製)などを好適に用いることができる。このようなシクロオレフィン系樹脂を製膜してフィルムとする際には、溶剤キャスト法、溶融押出法などの公知の方法が適宜用いられる。また、たとえばエスシーナ(積水化学工業(株)製)、SCA40(積水化学工業(株)製)、ゼオノアフィルム((株)オプテス製)などの予め製膜されたシクロオレフィン系樹脂製のフィルムの市販品を用いてもよい。
【0040】
シクロオレフィン系樹脂フィルムは、一軸延伸または二軸延伸されたものであってもよい。延伸することで、シクロオレフィン系樹脂フィルムに任意の位相差値を付与することができ、位相差値を付与した場合には、シクロオレフィン系樹脂フィルムは、ある偏光を他の特定の偏光に変換する光学機能をもった位相差板として機能する。延伸は、通常、フィルムロールを巻き出しながら連続的に行われ、加熱炉にて、ロールの進行方向、その進行方向と垂直の方向、あるいはその両方へ延伸される。加熱炉の温度は、通常、シクロオレフィン系樹脂のガラス転移温度近傍から〔ガラス転移温度+100℃〕の範囲が、採用される。延伸の倍率は、通常1.1?6倍、好ましくは1.1?3.5倍である。
【0041】
シクロオレフィン系樹脂フィルムが延伸されたものである場合、その延伸方向は任意であるが、フィルムの流れ方向に対して、0°、45°、90°であるものが一般的である。延伸方向が0°であるフィルムの位相差特性は完全一軸性を帯びることが多く、45°、90°であるフィルムの位相差特性は弱い二軸性を帯びることが多い。その特性は表示装置の視野角に影響してくるが、適用する液晶表示装置のタイプや複合偏光板のタイプによって適時選択すればよい。位相差値は、通常λ/4、λ/2などと呼ばれるものが良く使われ、λ/4だと90?170nm、λ/2だと200?300nmの位相差範囲となることが多い。
【0042】
また、シクロオレフィン系樹脂フィルムは、一般に表面活性が劣るため、偏光フィルムと接着させる表面には、プラズマ処理、コロナ処理、紫外線照射処理、フレーム(火炎)処理、ケン化処理などの表面処理を行うのが好ましい。中でも、比較的容易に実施可能なプラズマ処理、コロナ処理が好適である。
【0043】
保護フィルムに用いられ得る酢酸セルロース系樹脂は、セルロースの部分または完全酢酸エステル化物であって、たとえばトリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネートなどが挙げられる。
【0044】
このようなセルロースエステル系樹脂のフィルムとしては、適宜の市販品、たとえばKC4UY(コニカミノルタオプト(株)製)などを好適に用いることができる。
【0045】
また、位相差特性を付与した酢酸セルロース系樹脂フィルムも好適に用いられ、かかる位相差特性が付与された酢酸セルロース系樹脂フィルムの市販品としては、WV BZ 438(富士フィルム(株)製)、KC4FR-1(コニカミノルタオプト(株)製)などが挙げられる。酢酸セルロースは、アセチルセルロースとも、セルロースアセテートとも呼ばれる。
【0046】
セルロース系樹脂フィルムは、特に水系の接着剤を用いて偏光フィルムと積層させる場合には、偏光フィルムとの接着性を高めるため、ケン化処理が施される。ケン化処理としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリの水溶液に浸漬する方法が採用できる。
【0047】
上述したような保護フィルムは、ロール状態にあると、フィルム同士が接着してブロッキングを生じ易い傾向にあるので、通常はロール端部に凹凸加工を施したり、端部にリボンを挿入したり、プロテクトフィルムを貼合したりしてロール巻きとされたものが用いられる。
【0048】
透明な保護フィルムの厚みは薄いものが好ましいが、薄すぎると、強度が低下し、加工性に劣るものとなるが、本発明はそれを補うものである。一方、厚すぎると、透明性が低下したり、積層後に必要な養生時間が長くなったり、薄肉化への顧客要求に反するなどの問題が生じる。したがって、透明な保護フィルムの適当な厚みは、たとえば1?50μmであり、好ましくは5?40μm、より好ましくは10?30μmである。」

(3)「【0049】
(剥離可能なフィルム)
本発明における剥離可能なフィルムは、偏光フィルムの両面に貼合される上述した保護フィルムの少なくとも一方に積層または貼合される。保護フィルムと剥離可能なフィルムとの剥離力は、0.001?5N/25mmであり、好ましくは0.01?2N/25mm、より好ましくは0.01?0.5N/25mmである。剥離力が0.001N/25mm未満であると、保護フィルムと剥離可能なフィルムとの密着力が小さいため、剥離可能なフィルムが部分的な剥がれを生じることがある。また、剥離力が5N/25mmを超えると、偏光板からフィルムを剥離するのが困難となるため好ましくない。
【0050】
剥離可能なフィルムとしては、例えば、それ単独で粘着性を有する自己粘着性樹脂フィルム、粘着材層を有するフィルムなどが挙げられる。ただし、粘着剤層を介在させる場合にあっては、偏光板から剥離可能なフィルムを剥離した際に、偏光板表面に粘着剤層残渣が残る場合があり得るため、自己粘着性の剥離可能なフィルムを用いて保護フィルム上に直接剥離可能なフィルムを積層させることが好ましい。

(中略)

【0055】
粘着材層を有するフィルムにおける粘着剤層が形成される基材フィルムとしては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂などのフィルムを用いることができる。中でも、安価に入手できることから、ポリエチレン系樹脂やポリエチレンテレフタレート系樹脂のフィルムが好適に用いられる。
【0056】
粘着剤層を有するフィルムを剥離可能なフィルムとする場合における粘着剤としては、保護フィルムと剥離可能なフィルムとの間の剥離力が0.001?5N/25mmとなる限りにおいて、特に制限されるものではない。粘着剤の具体例としては、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂などをベースポリマーとするものを挙げることができる。粘着剤には、ベースポリマーのほか、通常は架橋剤が配合される。ベースポリマーの種類や重合度、架橋剤との組み合わせなどを適宜設計することで、接着力を調整した粘着剤が市販されているので、それらの中から、偏光板における保護フィルムとの間の剥離力が上記範囲となるものを選択して使用すればよい。粘着剤層の厚みは、特に制限されず、たとえば5?40μm程度とすることができる。」

(4)「【0081】
(光学部材)
偏光板の使用に際しては、一方の面、または両面に、光学機能を示す光学層を積層した光学部材とすることもできる。
【0082】
光学部材の形成を目的に偏光板に積層する光学層としては、特に限定されないが、例えば、反射層、半透過型反射層、光拡散層、位相差板、集光板、輝度向上フィルム等、液晶表示装置等の形成に用いられる各種のものが挙げられる。」

(5)「【0102】
<実施例1>
厚さ75μmのポリビニルアルコールフィルムを、乾式で一軸延伸し、さらに緊張状態に保ったまま、純水に浸漬した後、ヨウ素/ヨウ化カリウム/水の水溶液に浸漬した。その後、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水の水溶液に浸漬し、引き続き純水で洗浄した後、乾燥して、ポリビニルアルコールにヨウ素が吸着配向された偏光フィルムを得た。この偏光フィルムの厚みは28μmであった。
【0103】
得られた偏光フィルムの一方の面に、下記の保護フィルム1に予め剥離可能なフィルム1を積層したものを、他方の面に下記の保護フィルム2を、それぞれ水系のポリビニルアルコール系樹脂接着剤を介してニップロールにより貼合し、熱風で乾燥して偏光板を得た。保護フィルム1,2と剥離可能なフィルム1との合計の厚みは72μm、得られた偏光板の総厚みは100μmであった。外観に問題は見られなかった。
保護フィルム1:「ゼオノアZF14-20」(日本ゼオン(株)製、厚さ20μm)
剥離可能なフィルム1:ポリエチレン樹脂からなる「ForceField1035」(トレデガー社製、厚さ30μm)
保護フィルム2:ケン化したTacphan P920GL(ロンザ社製、厚さ22μm)

(中略)

【0108】
<参考例2>
厚さ30μmのポリビニルアルコールフィルムを湿式で延伸しながら、純水に浸漬した後、ヨウ素/ヨウ化カリウム/水の水溶液に浸漬し、その後、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水の水溶液に浸漬し、引き続き純水で洗浄した後、乾燥して、ポリビニルアルコールにヨウ素が吸着配向された偏光フィルムを得た。この偏光フィルムの厚みは11μmであった。」

3 引用文献3
当審拒絶理由に引用され、本願の優先権主張の日前の平成26年4月10日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献3(国際公開第2014/054114号)には、図面とともに以下の記載事項がある。

(1)「[0001] 本発明は、偏光板の保護フィルムに関する。
背景技術
[0002] 代表的な画像表示装置である液晶表示装置では、その画像形成方式に起因して、液晶セルの両側に偏光板が貼り合わされる。偏光板は、力学的、光学的な耐久性を向上させる等の観点から、通常、偏光性能を有する偏光子の少なくとも片側に保護層が積層されて構成されている。しかし、偏光板には、偏光子と保護層との線膨張率や熱収縮率の違い等によって、反りが発生しやすいという問題がある。このような偏光板の反りは、例えば、液晶セルに貼り合わされることにより解消され得るが、製造工程(例えば、他の光学部材との積層工程、液晶セルへの貼り合せ工程)における不具合の原因となる。
[0003] ところで、上記製造工程において、通常、偏光板(偏光板中間体を含む)には、保護フィルムが貼り合わされている(例えば、特許文献1参照)。このような保護フィルムの貼り合わせにより、上記偏光板の反りを抑制することが提案されているが、偏光板の構成によっては、反りの抑制が不十分である。」

(2)「[0010]A.保護フィルム
図1は、本発明の好ましい実施形態による保護フィルムの概略断面図である。保護フィルム10は、第1の樹脂層11と、接着層13と、第2の樹脂層12とをこの順で有する。保護フィルム10は、第1の樹脂層11と第2の樹脂層12とを接着層13を介して積層した積層体10’である。実用的には、保護フィルム10は、その第2の樹脂層12の接着層13とは反対側に設けられた粘着剤層20を有し、この粘着剤層20により偏光板に貼り合わされる。なお、図示しないが、偏光板に貼り合わされるまでは、粘着剤層20表面にセパレーターが貼り合わされる。

(中略)

[0039]A-4.その他
上記粘着剤層は、任意の適切な粘着剤で形成される。粘着剤としては、代表的には、(メタ)アクリル系粘着剤が用いられる。粘着剤層の厚みは、好ましくは15μm?25μmである。上記セパレーターとしては、代表的には、剥離性付与層が形成された樹脂フィルム(例えば、ポリエステル系樹脂フィルム)が用いられる。
[0040]A-5.貼り合わせ方法
本発明の保護フィルムは、好ましくは、反りが生じている偏光板の凸面に貼り合わされる。なお、例えば、偏光子の片側にのみ保護層が配置されている場合は、保護層側に凸の反りが発生する傾向にある。保護フィルムの貼り合わせに際し、保護フィルムに張力を加えながら偏光板に貼り合わせることが好ましい。このような操作により、保護フィルムに残留収縮応力を発生させ得るからである。張力は、貼り合わせ後に偏光板の偏光子の吸収軸方向と対応する方向に加えることが好ましい。張力は、保護フィルムの構成(例えば、厚み、形成材料、弾性率、引張伸度等)に応じて、適宜、設定され得る。」

(3)「[0041]B.保護フィルム付偏光板
図2は、本発明の好ましい実施形態による保護フィルム付偏光板の概略断面図である。保護フィルム付偏光板100は、偏光板30と、偏光板30の表面に粘着剤層20により貼り合わされた保護フィルム10とを有する。偏光板30は、偏光子31と、偏光子31の片側に配置された保護層32および光学部材33と、偏光子31のもう片側に配置された光学部材34およびセパレーター35とを有する。保護フィルム10は、偏光子31に対して、保護層32が配置されている側に貼り合わされる。セパレーター35は、使用に供する際(例えば、液晶セルに保護フィルム付偏光板を貼り合わせる際)に取り外される。なお、偏光板を構成する各層の積層には、任意の適切な粘着剤または接着剤が用いられる。
[0042] 本発明の保護フィルム付偏光板は、偏光板の構成が変化しても、反りが良好に抑制されている。具体例として、保護フィルム付偏光板からセパレーターが取り外された場合、反りの向きが反転する場合があるが(特に、張力を加えて保護フィルムを貼り合わせた場合)、本発明の保護フィルムによれば、このような反りも良好に抑制することができる。本発明の保護フィルムは、樹脂層単独よりも断面2次モーメントが高く、弾性率が低く張力を除去した際の収縮量が大きいことが、その要因の1つとして考えられる。
[0043] 上記偏光板は、偏光子と偏光子の少なくとも片側に配置された保護層とを有する。偏光板の薄型化・軽量化の観点から、偏光子の片側にのみ保護層を配置させる構成が好ましいが、このような偏光子に対して非対称な構成では、反りの発生が顕著となり得る。
[0044] 上記偏光子としては、例えば、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着配向させたもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等ポリエン系配向フィルム等が挙げられる。これらのなかでも、ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素などの二色性物質を吸着配向させた偏光子が、偏光二色比が高く特に好ましい。
[0045] 偏光子の厚みは、代表的には1μm?80μm程度であり、好ましくは5μm?40μmである。
[0046] 上記保護層は、偏光子の保護層として使用できる任意の適切なフィルムで構成される。当該フィルムの主成分となる材料の具体例としては、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂や、ポリエステル系、ポリビニルアルコール系、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテルスルホン系、ポリスルホン系、ポリスチレン系、ポリノルボルネン系、ポリオレフィン系、(メタ)アクリル系、アセテート系等の透明樹脂等が挙げられる。また、(メタ)アクリル系、ウレタン系、(メタ)アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等の熱硬化型樹脂または紫外線硬化型樹脂等も挙げられる。この他にも、例えば、シロキサン系ポリマー等のガラス質系ポリマーも挙げられる。また、特開2001-343529号公報(WO01/37007)に記載のポリマーフィルムも使用できる。このフィルムの材料としては、例えば、側鎖に置換または非置換のイミド基を有する熱可塑性樹脂と、側鎖に置換または非置換のフェニル基ならびにニトリル基を有する熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物が使用でき、例えば、イソブテンとN-メチルマレイミドからなる交互共重合体と、アクリロニトリル・スチレン共重合体とを有する樹脂組成物が挙げられる。当該ポリマーフィルムは、例えば、上記樹脂組成物の押出成形物であり得る。
[0047] 保護層の厚みは、好ましくは5μm?200μm、より好ましくは10μm?100μmである。なお、保護層が光学補償層として機能してもよい。
[0048] 上記光学部材としては、例えば、光学補償層(位相差層)、輝度向上フィルム等が挙げられる。セパレーターについては、A-4項で説明したとおりである。」
合議体注:図2は以下のとおりのものである。

(4)「[0051] ポリエステル系樹脂フィルム(三菱樹脂社製、商品名:T100F、厚み:38μm、弾性率:4090N/mm^(2) 、引張伸度:59%)上に、上記粘着剤を塗工し、90℃で加熱して厚み12μmの接着層を形成した。得られた接着層の23℃における貯蔵弾性率は1.0×10^(5) Paであった。
その後、接着層上に、ポリエステル系樹脂フィルム(日東電工社製、商品名:RP301、厚み:38μm、弾性率:4050N/mm^(2) 、引張伸度:58%)を積層して、厚み88μmの保護フィルムを得た。得られた保護フィルムの弾性率は3.6kN/mm^(2) であり、引張伸度は91%であった。

(中略)

[0057][実施例7]
厚み38μmのポリエステル系樹脂フィルム(商品名:T100F)のかわりに、厚み25μmのポリエステル系樹脂フィルム(三菱樹脂社製、商品名:T100-25B、弾性率:3510N/mm^(2) 、引張伸度:101%)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、保護フィルムを作製した。得られた保護フィルムの弾性率は3.5kN/mm^(2) であり、引張伸度は92%であった。

(中略)

[0061](比較例1)
保護フィルムとして、ポリエステル系樹脂フィルム(日東電工社製、商品名:RP207F、厚み:38μm、弾性率:4050N/mm^(2) 、引張伸度:58%)を用いた。
[0062](比較例2)
保護フィルムとして、ポリエステル系樹脂フィルム(藤森工業社製、商品名:TC-815、厚み:111μm、弾性率:4630N/mm^(2) 、引張伸度:102%)を用いた。」

(5)「[0064](偏光子の作製)
厚み60μmのポリビニルアルコール系樹脂を主成分とする高分子フィルム(クラレ社製、商品名:VF-PE-A NO.6000)を、下記(1)?(5)の条件の5浴に、フィルム長手方向に張力を付与しながら浸漬し、最終的な延伸倍率がフィルム元長に対して、6.2倍となるように延伸した。この延伸フィルムを40℃の空気循環式乾燥オーブン内で1分間乾燥させて、厚み22μmの偏光子を作製した。
<条件>
(1)膨潤浴:30℃の純水。
(2)染色浴:水100重量部に対し、0.035重量部のヨウ素と、水100重量部に対し、0.2重量部のヨウ化カリウムとを含む、30℃の水溶液。
(3)第1の架橋浴:3重量%のヨウ化カリウムと、3重量%のホウ酸とを含む、40℃の水溶液。
(4)第2の架橋浴:5重量%のヨウ化カリウムと、4重量%のホウ酸とを含む、60℃の水溶液。
(5)水洗浴:3重量%のヨウ化カリウムを含む、25℃の水溶液。」

(6)「[0065](保護層の作製)
[下記一般式(1)中、R^(1) は水素原子、R^(2) およびR^(3) はメチル基であるラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂{共重合モノマー重量比=メタクリル酸メチル/2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル=8/2、ラクトン環化率約100%、ラクトン環構造の含有割合19.4%、重量平均分子量133000、メルトフローレート6.5g/10分(240℃、10kgf)、Tg131℃}90重量部と、アクリロニトリル-スチレン(AS)樹脂{トーヨーAS AS20、東洋スチレン社製}10重量部との混合物;Tg127℃]のペレットを二軸押し出し機に供給し、約280℃でシート状に溶融押し出しして、厚み40μmのラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂シートを得た。この未延伸シートを、160℃の温度条件下、縦2.0倍、横2.4倍に延伸して厚み20μmの保護層を得た。
[0066][化1]



4 引用文献4
当審拒絶理由に引用され、本件の優先権主張の日前の平成15年1月20日に頒布された刊行物である引用文献4(特許第3368524号公報)には、以下の記載事項がある。

(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は液晶表示装置用の偏光板に関する。
【0002】
【従来の技術】液晶表示装置は、表示パターンを可視化するため、光の振動方向を制御する目的で上下に偏光板を使用している。偏光板は偏光フィルムの両面を透明樹脂フィルム、特に酢酸セルロース系のフィルムで積層した構成のものが一般的であり、これを液晶表示装置に粘着剤で貼り合わせて使用されている。
【0003】一方、液晶表示装置は種々のところに使用されるに伴って、薄肉化、軽量化が要望され、液晶表示装置に使用される偏光板についても薄肉化、軽量化が要望されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の構成の偏光板では薄肉化、軽量化を追求するには限界がある。本来、ポリビニルアルコール系の偏光フィルムはそれ自体が偏光性能を有しているが力学的性質、光学的耐久性に乏しいために保護層の付与は必須であるが、通常両面にある保護層を片面に省略できれば非常に効果的である。しかしながら、片面のみに保護層を有している偏光板は、表裏の構成が非対称となるため、特に偏光フィルムの配向方向の反りが非常に大きく、液晶表示装置に貼合時等、実用上非常に問題となる。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、かかる事情に鑑み、薄肉、軽量化と耐久性を両立させた偏光板を提供することを目的とする。
【0006】すなわち本発明は、片側に粘着層を有する合成樹脂フィルム(1)の粘着面に、透明合成樹脂フィルムからなる保護層(2)を、その上に接着剤層(3)を介して、ポリビニルアルコール系偏光フィルム(4)、粘着剤層(5)、剥離フィルム(6)が順次積層してなる偏光板である。以下、本発明を詳細に説明する。
【0007】
【発明の実施の形態】以下、図1および図2に基づいて本発明を説明する。図1は本発明の偏光板の構成の断面図である。(1)は片面粘着層付き合成樹脂フィルム、(2)は透明合成樹脂フィルムからなる保護層、(3)は接着剤層、(4)はポリビニルアルコール系偏光フィルム、(5)は粘着剤層、(6)は剥離フィルムである。本発明における偏光板はこれら(1)?(6)を順次積層して構成される。
【0008】片面粘着層付き合成樹脂フィルム(1)を形成する合成樹脂としては、通常の偏光板に用いられる用途、すなわち偏光板を液晶表示装置に貼り合わせたときに表面の傷付きを保護し、使用時には剥がされる目的に加えて、本発明の偏光板において、その非対称に起因する偏光フィルム側への偏光フィルムの配向方向の反りを防止するために必須である。
【0009】材質としては、ポリエチレン系のものが最も一般的である。ポリエチレンをベースに酢酸ビニルを共重合して粘着性を付与させたポリマーやアクリル系の粘着剤層を単層あるいは多層押出やインフレーション法でフィルム化したものが好適に用いられる。他にはポリエステル系、ポリアミド系のフィルムに粘着加工したフィルム等がある。粘着力は偏光板に対して1gf/25mm以上のものが一般的に用いられる。」

(2)「【0011】偏光板の反りを抑えるために、貼合後ある程度の残留収縮応力が必要であり、そのためには、引張強度が500gf/10mm以上、引張伸度が100%以上のフィルムを用い、そのフィルムを偏光フィルムの保護層に貼り合わせる際に、フィルムの引張強度の0.01?0.5の張力を加えて、張力の方向が偏光フィルム(4)の配向方向と平行になるよう貼合する。0.01より小さいと元々の反りを矯正するには不足であり、0.5を超えると合成樹脂フィルム(1)側の反りが大きくなる。図2は、貼合する際の片面粘着層付き合成樹脂フィルム(1)の張力の方向と偏光フィルム(4)の配向方向を示す図である。」

(3)「【0015】粘着剤層(5)は、実際に液晶表示装置と貼合するための層であり、ポリビニルアルコール系偏光フィルム(4)を侵さず、使用時に浮き、剥がれ等無く、目的の粘着力、耐久性を有していれば特に限定されるものではない。一般的にはアクリル系、シリコン系、ゴム系、ウレタン系、エポキシ系などの粘着剤が用いられる。」


第5 判断
1 理由2(サポート要件)
(1)本願の明細書段落【0007】における「そこで本発明は、カールが抑制されたプロテクトフィルム付偏光板、及びそれを含む積層体の提供を目的とする。」との記載に基づけば、本件発明の解決しようとする課題は、カールが抑制されたプロテクトフィルム付偏光板を提供することにあるといえる。

(2)一方、本件発明は、前記第2に記載した事項により特定されるとおりのものであって、偏光板の厚みT1とプロテクトフィルムの厚みT2との厚み比T2/T1が0.8?1.4の範囲内であること、プロテクトフィルムは一方の表面に積層される第2粘着剤層とその上に積層される単層の樹脂フィルムとで構成されること、樹脂フィルムはポリエステル系樹脂からなること、などを要件としている。

(3)ここで、例えば、引用文献1における記載事項イの段落【0020】の「保護フィルムを従来に比べて厚くしてその剛性を増大させ、その増大した剛性によって偏光子フィルム又は位相差フィルム側が凹となる反りが生じるのを防止する」との記載によれば、引用文献1には、保護フィルムを厚くして剛性を高め、反りを防止することが記載されているところ、保護フィルムの剛性は、厚さに加え、フィルムの弾性率に依存することは当業者にとって自明である。そして、カールは、積層体を構成する各層の応力や剛性、収縮率などによって、総合的に生じるということは技術常識として知られているといえる。
ところが、本願の発明の詳細な説明においては、プロテクトフィルムと偏光板との厚み比に関して、段落【0084】に、「プロテクトフィルム60の厚みT2(μm)と偏光板100の厚みT1(μm)との比T2/T1は、0.8?4の範囲内とされる。T2/T1が0.8以上であることにより、0.8未満である場合と比較して有意にカールを抑制することができる。T2/T1は、好ましくは1以上である。T2/T1が4を超えることは、プロテクトフィルム付偏光板の厚み及び製造コストの面で不利である。」と記載するのみであり、厚み比を0.8以上、あるいは0.8?1.4の範囲内と規定することにより、有意にカールを抑制できる機序及び理由について理論的に説明していない。
加えて、本件発明は、プロテクトフィルムを構成する樹脂フィルムの材質を「ポリエステル系樹脂」に限定しているが、例えば引用文献3における記載事項(4)に記載された各ポリエステル系樹脂が、3510N/mm^(2) ?4630N/mm^(2) と様々な弾性率を示すことを考慮すれば、プロテクトフィルムの厚みT2(μm)と偏光板の厚みT1(μm)との比T2/T1が0.8?4の範囲内であったとしても、ポリエステル系樹脂の剛性は、大きく異なると考えざるを得ない。
したがって、本件発明が特定する偏光子の厚み及び材質、粘着剤層の材質、保護フィルム及びプロテクトフィルムの厚み、プロテクトフィルムを構成する樹脂フィルムの材質の範囲において、単にプロテクトフィルムと偏光板との厚み比T2/T1を0.8?1.4の範囲とすることによって、上記課題を解決できることが明らかであったことを認めるに足りる根拠を見いだすことができない。

(4)請求人は、平成30年4月27日付けの手続補足書において実験例A?Hを開示するとともに、同日に提出した意見書において、「本願発明1(補正後の本願請求項1に係る発明)に係るプロテクトフィルム付偏光板によってカールを抑制できることは、本願明細書の実施例及び実験成績証明書による補足的な実験例から把握することができます。」と主張している。
しかし、本願明細書に記載された実施例及び実験成績証明書に記載された実験例は、いずれも、プロテクトフィルムがポリエステル系樹脂の一つであるポリエチレンテレフタレートからなる樹脂フィルムから構成されるものである。樹脂フィルムの材質がポリエステル系樹脂であったとしても、その種類によって弾性率が異なるものであるから、剛性が大きく異なるものといえる。また、延伸率、延伸方向等によっても、偏光板に与える応力が大きく異なることは明らかである。したがって、プロテクトフィルムがポリエチレンテレフタレートからなる樹脂フィルムから構成されるものである実施例及び実験例に基づいて、弾性率や延伸率等、プロテクトフィルムが偏光板に与える応力や剛性の大きさに影響を与える条件を限定していない本件発明の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえない。

(5)以上のとおりであるから、本件発明は、当業者が、本願明細書の発明の詳細な説明の記載において、発明の課題を解決できることを認識できるように記載された範囲を超えるものである。
よって、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


2 理由1(進歩性)
(1)対比
本件発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「保形フィルムとしてのTACフィルム3」、「偏光子フィルム(PVA(ポリビニルアルコ-ルフィルム))1」及び「粘着剤層4」がこの順で積層した構造は、その構成からみて、本件発明の「偏光子を含む厚みT1(μm)の偏光板」に相当する。
そして、引用発明の「保形フィルムとしてのTACフィルム3」、「偏光子フィルム(PVA(ポリビニルアルコ-ルフィルム))1」及び「粘着剤層4」が積層した構造は、「保護フィルム(PETフィルムである)2」が積層される面とは異なる面に「粘着剤層4」が位置するように構成されている。したがって、引用発明の「粘着剤層4」は、その積層構造における位置から、本件発明の「第1粘着剤層」に相当するといえる。また、引用発明の「保形フィルムとしてのTACフィルム3」、「偏光子フィルム(PVA(ポリビニルアルコ-ルフィルム))1」及び「粘着剤層4」が積層した構造は、本件発明の「前記偏光板の他方の表面は、第1粘着剤層の表面で構成されており」とする要件を満たしている。
また、引用発明の「保形フィルムとしてのTACフィルム3」は、その機能からみて、本件発明の「保護フィルム」に相当する。

イ 引用発明の「片面に粘着剤層を有する保護フィルム(PETフィルムである)2」は、上記偏光板の一方の表面に位置するTACフィルム3上に積層されるものであるから、本件発明の「その一方の表面に積層される厚みT2(μm)のプロテクトフィルム」に相当する。そして、引用発明の上記「粘着剤層4」及び上記「保護フィルム(PETフィルムである)2」は、その構成からみて、本件発明の「一方の表面に積層される第2粘着剤層」及び「その上に積層される単層の樹脂フィルム」に相当する。
さらに、引用発明の「保護フィルム」は、「PETフィルム」であり、PETは、技術的にみて、ポリエステル系樹脂に包含される。したがって、引用発明の「保護フィルム」は、本件発明の「前記樹脂フィルムは、ポリエステル系樹脂からなり」とする要件を満たしている。

ウ 引用発明の「片TAC構造の第1光学フィルムA」は、上記アの本件発明の「偏光子を含む厚みT1(μm)の偏光板」に相当する「保形フィルムとしてのTACフィルム3」、「偏光子フィルム(PVA(ポリビニルアルコ-ルフィルム))1」及び「粘着剤層4」がこの順で積層した構造の一方の表面に、上記イの本件発明の「その一方の表面に積層される厚みT2(μm)のプロテクトフィルム」に相当する「片面に粘着剤層を有する保護フィルム(PETフィルムである)2」を積層したものである。したがって、引用発明の「片TAC構造の第1光学フィルムA」は、本件発明の「偏光子を含む厚みT1(μm)の偏光板と、その一方の表面に積層される厚みT2(μm)のプロテクトフィルムとを備えるプロテクトフィルム付偏光板」に相当する。

エ 引用発明の「偏光子フィルム」は、「PVA(ポリビニルアルコ-ルフィルム)」であるとされている。そうすると、引用発明の「偏光子フィルム」と本件発明の「偏光子」とは、「ポリビニルアルコール系樹脂フィルム」である点で共通する。

オ 以上より、本件発明と引用発明とは、
「偏光子を含む厚みT1(μm)の偏光板と、その一方の表面に積層される厚みT2(μm)のプロテクトフィルムとを備えるプロテクトフィルム付偏光板であって、
前記偏光子は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムであり、
前記偏光板の他方の表面は、第1粘着剤層の表面で構成されており、
前記プロテクトフィルムは、前記一方の表面に積層される第2粘着剤層と、その上に積層される単層の樹脂フィルムとで構成されており、
前記樹脂フィルムは、ポリエステル系樹脂からなり、
前記偏光板は、保護フィルムをさらに含む、プロテクトフィルム付偏光板。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]プロテクトフィルム付偏光板が、本件発明は、長辺と短辺とを有する方形形状の枚葉体であり、前記長辺が221mm以上、前記短辺が139mm以上であり、前記枚葉体は、長尺のプロテクトフィルム付偏光板の裁断物であるのに対し、引用発明は、枚葉体ではない点。
[相違点2]偏光子が、本件発明は、延伸ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素を吸着配向させたフィルムであり、前記偏光子の厚みが5μm以上15μm以下であるのに対し、引用発明は、延伸フィルムに二色性色素を吸着配向させたかが不明であり、厚みが20μmである点。
[相違点3]本件発明は、第1粘着剤層及び第2粘着剤層が、(メタ)アクリル系樹脂を含むのに対し、引用発明はそれぞれの粘着剤層の材料を特定していない点。
[相違点4]偏光板に含まれる保護フィルムの厚みが、本件発明は30μm以下であるのに対し、引用発明は50μmである点。
[相違点5]本件発明は、プロテクトフィルムの厚みT2が120μm以下であり、厚み比T2/T1が0.8?1.4の範囲内であるのに対し、引用発明は、片面に粘着剤層を有する保護フィルム(PETフィルムである)2の厚みが145μm(=保護フィルム125μm+粘着剤層20μm)であり、厚み比T2/T1が1.5(=145μm/95μm;偏光板の厚み95μm=TACフィルム50μm+偏光子フィルム20μm+粘着剤層25μm)である点。

(2)判断
ア [相違点1]について
引用発明の「片TAC構造の第1光学フィルムA」は、図1を参酌すれば、長尺の形状を有していたといえる。そして、引用文献1の記載事項イの段落【0008】に、従来の技術として「液晶表示装置はワープロやパソコンの画面だけでなく、自動車用のナビゲーションシステム・携帯電話・電卓等の小物類にも普及しており、近年の激化する小型化競争に対応するべく、液晶表示装置のガラス等に貼着される光学フィルムを薄くしてコンパクト化する要望も強くなってきている。」と記載されているように、液晶表示装置は様々な用途に用いられており、そのサイズも様々である。光学フィルムを液晶表示装置に用いるにあたり、長尺の光学フィルムから切り出して、方形の枚葉体とすることは技術常識であり、光学フィルムを切断するにあたり、様々な用途に合うように、使用態様に合わせたサイズとすることは、当業者であれば当然考慮することである。そして、長辺が221mm以上、短辺が139mm以上である液晶表示装置は、例示するまでもなく周知のものである。
したがって、引用発明の片TAC構造の第1光学フィルムAについて、長尺のプロテクトフィルム付偏光板の裁断物とし、そのサイズを長辺が221mm以上、短辺が139mm以上であるとすることは、当業者が適宜なし得ることである。請求人は、平成30年4月27日に提出した意見書において、「また、引用文献1は、枚葉体のサイズが反りに与える影響を何ら認識していません。」と主張している。しかしながら、使用実態に合わせて光学フィルムの裁断を行い、効果の確認を行うことは、当業者であれば当然考慮することである。そして、本願明細書の記載や手続補足書に開示された実験成績証明書の内容を参酌しても、枚葉体のサイズを長辺が221mm以上、短辺が139mm以上であるとすることにより、反りにおいて当業者が予測できない効果が生じるとする根拠を見いだせない。

イ [相違点2]について
引用文献1の記載事項イの段落【0008】における「液晶表示装置のガラス等に貼着される光学フィルムを薄くしてコンパクト化する要望も強くなってきている。」との記載に基づけば、引用文献1には、光学フィルムを薄くしたいという課題が記載されていたといえる。そして、例えば、引用文献2の記載事項(1)の段落【0013】における「最後に乾燥して得られるポリビニルアルコール系偏光フィルムの厚みは、たとえば約1μm?40μm程度である。」、記載事項(5)の段落【0108】における「この偏光フィルムの厚みは11μmであった。」との記載や、引用文献3の記載事項(3)の段落[0045]の「偏光子の厚みは、代表的には1μm?80μm程度であり、好ましくは5μm?40μmである。」との記載に基づけば、偏光子の厚みを5μm以上15μm以下とすることは、周知技術であるといえる。
また、偏光子として、延伸ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素を吸着配向させたフィルムは周知である。たとえば、引用文献2の記載事項(1)の段落【0014】には「偏光フィルムの作製方法は特に限定されず、たとえば、(i)上記未延伸ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、空気あるいは不活性ガス中で一軸延伸後、膨潤処理、二色性色素による染色処理、ホウ酸処理および水洗処理の順に処理し、最後に乾燥を行なう方法・・・などが採用できる。」との記載があり、引用文献3の記載事項(5)の段落[0064]には「厚み60μmのポリビニルアルコール系樹脂を主成分とする高分子フィルム(クラレ社製、商品名:VF-PE-A NO.6000)を、下記(1)?(5)の条件の5浴に、フィルム長手方向に張力を付与しながら浸漬し、最終的な延伸倍率がフィルム元長に対して、6.2倍となるように延伸した。この延伸フィルムを40℃の空気循環式乾燥オーブン内で1分間乾燥させて、厚み22μmの偏光子を作製した。」との記載がある。
そうすると、引用発明において、光学フィルムを薄くするために、偏光子の厚さを5μm以上15μm以下とすること、及び、偏光子の構成として、周知の延伸ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素を吸着配向させたフィルムを採用することは、当業者が適宜なし得ることである。

ウ [相違点3]について
引用発明は、それぞれの粘着剤層の材料を特定していないが、どのような粘着剤を採用するかは、接着させようとする物同士の物性に応じて適宜選択すべきものである。そして、例えば、引用文献2の記載事項(3)の段落【0056】に「粘着剤層を有するフィルムを剥離可能なフィルムとする場合における粘着剤としては、・・・特に制限されるものではない。粘着剤の具体例としては、アクリル系樹脂、・・・を挙げることができる。」との記載があり、引用文献3の記載事項(2)の段落[0039]に「上記粘着剤層は、任意の適切な粘着剤で形成される。粘着剤としては、代表的には、(メタ)アクリル系粘着剤が用いられる。」との記載があり、引用文献4の記載事項(1)の段落【0009】における片面粘着層付き合成樹脂フィルムについての「ポリエチレンをベースに酢酸ビニルを共重合して粘着性を付与させたポリマーやアクリル系の粘着剤層を単層あるいは多層押出やインフレーション法でフィルム化したものが好適に用いられる。」との記載がある。上記記載に基づけば、光学フィルムに一般に用いられる粘着剤層が(メタ)アクリル系樹脂を含むことは、周知技術であるといえる。
したがって、引用発明のそれぞれの粘着剤の材料を、周知の(メタ)アクリル系樹脂を含むものとすることは、当業者が適宜なし得ることである。

エ [相違点4]について
前記イに記載したとおり、引用文献1には、光学フィルムを薄くしたいという課題が記載されていたといえる。そして、例えば、引用文献2の記載事項(2)の段落【0048】における「透明な保護フィルムの適当な厚みは、たとえば1?50μmであり、好ましくは5?40μm、より好ましくは10?30μmである。」、記載事項(5)の段落【0103】における「保護フィルム1:「ゼオノアZF14-20」(日本ゼオン(株)製、厚さ20μm)」、「保護フィルム2:ケン化したTacphan P920GL(ロンザ社製、厚さ22μm)」との記載や、引用文献3の記載事項(3)の段落[0047]における「保護層の厚みは、好ましくは5μm?200μm、より好ましくは10μm?100μmである。」、記載事項(6)の段落[0065]における「この未延伸シートを、160℃の温度条件下、縦2.0倍、横2.4倍に延伸して厚み20μmの保護層を得た。」との記載に基づけば、偏光板に含まれる保護フィルムの厚みを30μm以下とすることは、周知技術であるといえる。
そうすると、引用発明において、光学フィルムを薄くするために、偏光板に含まれる保護フィルムの厚みを、30μm以下とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

オ [相違点5]について
引用文献1の記載事項イの段落【0020】における「請求項1の構成によれば、保形フィルムを偏光子フィルム又は位相差フィルムの両面のうちの一方の面側に積層した構造(以下、「片TAC構造の光学フィルム」と略称する)でありながら、保護フィルムを従来に比べて厚くしてその剛性を増大させ、その増大した剛性によって偏光子フィルム又は位相差フィルム側が凹となる反りが生じるのを防止することができる。」との記載に基づけば、引用発明におけるプロテクトフィルム(保護フィルム)の厚み「125μm」は、プロテクトフィルム(保護フィルム)の剛性を増大させ、その増大した剛性によって偏光子フィルム又は位相差フィルム側が凹となる反りが生じるのを防止するように設定されたものといえる。
一方、引用文献1には、記載事項イの段落【0025】に「請求項1の構成では、片TAC構造の光学フィルムは直線状か、あるいは偏光子フィルム又は位相差フィルム側が凸となる反りが生じた湾曲状に構成されるものであり、それによって、片TAC構造の光学フィルムがガラス等に端から貼合される状態が生じるのを防止する手段であるが、偏光子フィルム又は位相差フィルム側が凸となる反りが生じると、運搬時や保管時に取扱いにくかったり、前記一対の押圧ロール間に最初に挿入する操作が行いにくかったりするという問題が考えられなくもない。」及び段落【0026】に「請求項2の構成によれば、偏光子フィルム又は位相差フィルム側が凸となる反りが生じないように保護フィルムの厚さを設定するので、片TAC構造の光学フィルムを偏平な直線状又はほぼ直線状に構成できるようになり、上記の問題を解消できて、貼合対象物への貼合操作や製造工程により適合した状態にすることができる。」とも記載されている。
これらの記載に基づけば、プロテクトフィルム(保護フィルム)の厚みは、第1に、偏光子フィルム側が凹となる反りが生じるのを防止することができること、換言すれば偏光子フィルム側が凸となる反りが生じた湾曲状に構成されることを許容するように、従来に比べて厚く設定されるものであるが、第2に、片TAC構造の光学フィルムを扁平な直線状に構成できるように、プロテクトフィルム(保護フィルム)の厚さを設定する、つまり、偏光フィルム側が凸とならない程度に薄くすることが示唆されているといえる。
そして、上記イ及びエにおいて検討したとおり、光学フィルムを薄くしたいという要望が強く存在しており、引用発明において、偏光子の厚み及び偏光板に含まれる保護フィルム(TACフィルム)の厚みをより薄いものとするに際し、プロテクトフィルム(保護フィルム)の厚みをそれに応じてより薄いものとすることは、当業者が適宜設計し得ることといえる。また、前記1(3)に記載したとおり、カールは、積層体を構成する各層の応力や剛性、収縮率などによって、総合的に生じるものであり、また、ポリエステル系樹脂から構成される保護フィルムであっても、その材質等の違いにより様々な弾性率を示すことが知られている。
そうすると、引用発明において、偏光子の厚み及び偏光板に含まれる保護フィルム(TACフィルム)の厚みをより薄いものとするのに伴い、プロテクトフィルム(保護フィルム)の厚みを、その物性に応じて、偏光子フィルム側が凹となる反りが生じるのを防止し、偏光フィルム側が凸とならない範囲に調整することで、プロテクトフィルムを構成する保護フィルムの厚みと粘着剤層の厚みの合計を120μm以下とすること、及び、本件発明において定義される厚み比T2/T1を0.8?1.4の範囲内とすることは、当業者が適宜なし得ることである。
また、本願明細書の段落【0114】の表1に基づけば、T2/T1の値が2.3であって[相違点5]における本件発明の要件を満たさないとされる実施例2であっても、一次カール量及び二次カール量の何れも、他の実施例と比べて遜色のない優れた値を示している。そうすると、本件発明において定義される厚み比0.8?1.4の範囲内としたことにより、格別な効果の差異を生じるとはいえないものである。したがって、本件発明の効果は、当業者が、厚み比が1.5である引用発明に基づいて予測し得た範囲のものといえる。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、引用発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
よって、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 むすび
したがって、本願は、当審で通知した拒絶の理由1及び理由2によって拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-06-22 
結審通知日 2018-06-26 
審決日 2018-07-09 
出願番号 特願2015-228498(P2015-228498)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
P 1 8・ 537- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小西 隆山▲崎▼ 和子  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 宮澤 浩
河原 正
発明の名称 プロテクトフィルム付偏光板及びそれを含む積層体  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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