• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張  F15B
審判 全部申し立て 特許請求の範囲の実質的変更  F15B
審判 全部申し立て 2項進歩性  F15B
審判 全部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  F15B
審判 全部申し立て ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正  F15B
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  F15B
管理番号 1343852
異議申立番号 異議2017-700992  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-10-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-10-17 
確定日 2018-07-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6117956号発明「大容量体系対応油圧システム」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6117956号の明細書,特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書,特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1について訂正することを認める。 特許第6117956号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第6117956号の請求項1に係る特許についての出願は,平成28年 2月 5日の特許出願であって,平成29年 3月31日にその特許権の設定登録がされた。その特許について,平成29年10月16日付けで特許異議申立人 豊興工業株式会社により特許異議の申立てがされ,同年12月13日付けで取消理由が通知され,その指定期間内である平成30年 2月19日付けで特許権者により意見書の提出及び訂正の請求がされ,同年 5月29日付けで異議申立人により意見書の提出があったものである。

第2.訂正の適否
1.訂正の内容
平成30年 2月19日付けの訂正請求(以下,「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は以下の訂正事項1?6のとおりである(下線部は,訂正箇所を示し,当審で付与した。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「負荷側の母機装置へ送る合流油路」とあるのを「負荷側の複数の加硫機から構成されるタイヤ加硫機へ送る合流油路」に訂正する。以降,請求項1に「母機装置」とあるのを「タイヤ加硫機」と訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「運転プログラムに対応する必要圧油流量」とあるのを「各加硫機の運転サイクルが互いにずらされる運転プログラムに対応する必要圧油流量」と訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「前記制御装置は,全油圧ポンプ装置のモータに対して予め定められた期間内での駆動・停止の回数の平均化制御を行うものである」とあるのを「前記制御装置は,油圧ポンプ装置の駆動に偏りが生じて負担が他より増大することがないように全油圧ポンプ装置のモータに対して予め定められた期間内での駆動・停止の回数の平均化制御を行うものであり,前記平均化制御にフィードバック利用できる各油圧ポンプ装置の駆動回数及び駆動時間のデータを蓄積する記憶部を備えている」と訂正する。
(4)訂正事項4
明細書の段落【0014】に「負荷側の母機装置へ送る合流油路」とあるのを「負荷側の複数の加硫機から構成されるタイヤ加硫機へ送る合流油路」に訂正する。以降,段落【0014】に「母機装置」とあるのを「夕イヤ加硫機」と訂正する。
(5)訂正事項5
明細書の段落【0014】に「運転プログラムに対応する必要圧油流量」とあるのを「各加硫機の運転サイクルが互いにずらされる運転プログラムに対応する必要圧油流量」と訂正する。
(6)訂正事項6
明細書の段落【0014】に「前記制御装置は,全油圧ポンプ装置のモータに対して予め定められた期間内での駆動・停止の回数の平均化制御を行うものである」とあるのを「前記制御装置は,油圧ポンプ装置の駆動に偏りが生じて負担が他より増大することがないように全油圧ポンプ装置のモータに対して予め定められた期間内での駆動・停止の回数の平均化制御を行うものであり,前記平均化制御にフィードバック利用できる各油圧ポンプ装置の駆動回数及び駆動時間のデータを蓄積する記憶部を備えている」と訂正する。

2.訂正要件についての判断
(1)訂正事項1
ア.訂正の目的について
訂正前の請求項1に係る発明では,「負荷側の母機装置」として,「各油圧ポンプ装置の吐出口から該油圧ポンプ装置側への逆流を阻止する逆止弁を介して吐出される作動油を合流させて」送られる装置がいかなるものか特定されていない。
これに対して,訂正後の請求項1に係る発明では,当該母機装置が,「複数の加硫機から構成されるタイヤ加硫機」であることを限定し,且つ,訂正前の請求項1に記載された「母機装置」を引用する「前記母機装置」との記載を同様に「前記タイヤ加硫機」と限定することで,特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから,当該訂正事項1による訂正は,特許法第120条の5第2項第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ.願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
母機装置として大容量体系対応油圧システムにおいて各油圧ポンプ装置からの作動油が送られるものについて,願書に添付した明細書の段落【0028】に「本発明の一実施例による大容量体系対応油圧システムとして,負荷側の複数の加硫機から構成されるタイヤ加硫機に対して,容量の異なる複数種の油圧ポンプ装置から吐出される作動油を合流させて供給する・・・」と記載されているから,当該訂正事項1による訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ.実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
上記ア.の理由から明らかなように,訂正事項1による訂正は,発明特定事項を上位概念から下位概念に変更するものであり,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項2
ア.訂正の目的について
訂正前の請求項1に係る発明では,制御装置が,「前記母機装置の運転プログラムに対応する必要圧油流量の経時的変化に応じて,・・・(略)・・・油圧ポンプ装置を選択し,各油圧ポンプ装置のモータの駆動・停止の切換制御を行うものである」が,「運転プログラム」がいかなるものであるかについては何ら特定されていない。
これに対して,訂正後の請求項1に係る発明では,当該「運転プログラム」が「各加硫機の運転サイクルが互いにずらされる運転プログラム」であることを限定することで,特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから,当該訂正事項2による訂正は,特許法第120条の5第2項第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ.願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
運転プログラムについて,願書に添付した明細書の段落【0032】に「タイヤ加硫機100全体の運転プログラムは,このような各加硫機の運転サイクルが互いに適宜ずらされるように設定されている。したがってこの運転プログラムに沿ってタイヤ加硫機100の運転駆動に必要とされる全圧油流量は経時的に変化する。」と記載されていることから,当該訂正事項2による訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ.実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
上記ア.の理由から明らかなように,訂正事項2による訂正は「運転プログラム」を「各加硫機の運転サイクルが互いにずらされる運転プログラム」と構成要素を直列的に付加するものであり,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(3)訂正事項3
ア.訂正の目的について
訂正前の請求項1に係る発明では,制御装置が,「全油圧ポンプ装置のモータに対して予め定められた期間内での駆動・停止の回数の平均化制御を行うものである」ことを特定している。
これに対して,訂正後の請求項1に係る発明では,「前記制御装置は,油圧ポンプ装置の駆動に偏りが生じて負担が他より増大することがないように全油圧ポンプ装置のモータに対して予め定められた期間内での駆動・停止の回数の平均化制御を行うものであり,前記平均化制御にフィードバック利用できる各油圧ポンプ装置の駆動回数及び駆動時間のデータを蓄積する記憶部を備えている」として,制御装置を限定して特許請求の範囲を減縮しようとするものであるため,当該訂正事項3による訂正は,特許法第120条の5第2項書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ.願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
当該「制御装置」に係る説明として,願書に添付した明細書の段落【0039】には,「制御装置50には,油圧システム1のポンプ稼働情報を蓄積する記憶部53を設け,各油圧ポンプ装置の起動回数および稼働時間のデータを該記憶部53に蓄積する構成とすることが望ましい。」と記載され,また願書に添付した明細書の段落【0041】には,「ポンプ選択器52は,限られた油圧ポンプ装置に対して駆動に偏りが生じて負担が他より増大することがないように,所定期間内で全油圧ポンプ装置の駆動・停止回数が平均化するように選択する設定が望ましい。この時,記憶部53にポンプ稼働情報として蓄積された各油圧ポンプ装置の起動回数や稼働時間のデータを平均化制御のためのフィードバックに利用することができる。」と記載され,また,願書に添付した明細書の段落【0027】には,「制御装置の記憶部に各油圧ポンプ装置の駆動回数や駆動時間等のデータを蓄積させ,平均化のフィードバック制御にこれらデータを利用することができる。」と記載されていることから,当該訂正事項3による訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ.実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
上記ア.の理由から明らかなように,訂正事項3による訂正は,構成要素を直列的に付加するものであり,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(4)訂正事項4
ア.訂正の目的について
訂正事項4による訂正は,上記訂正事項1に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから,訂正事項4による訂正は特許法第120条の5第2項第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ.願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項4による訂正は,上記訂正事項1に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから,上記(1)訂正事項1の上記イ.と同様の理由により,訂正事項4による訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ.実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
訂正事項4による訂正は,上記訂正事項1に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから,上記(1)訂正事項1の上記ウ.と同様の理由により,訂正事項4による訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(5)訂正事項5
ア.訂正の目的について
訂正事項5による訂正は,上記訂正事項2に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから,訂正事項5は特許法第120条の5第2項第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ.願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項5による訂正は,上記訂正事項2に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから,上記(2)訂正事項2の上記イ.と同様の理由により,訂正事項5による訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ.実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
訂正事項5による訂正は,上記訂正事項2に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから,上記(2)訂正事項2の上記ウ.と同様の理由により,訂正事項5による訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(6)訂正事項6
ア.訂正の目的について
訂正事項6による訂正は,上記訂正事項3に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから,訂正事項6による訂正は特許法第120条の5第2項第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ.願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項6による訂正は,上記訂正事項3に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから,上記(3)訂正事項3の上記イ.と同様の理由により,訂正事項6による訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ.実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
訂正事項6による訂正は,上記訂正事項3に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから,上記(3)訂正事項3の上記ウ.と同様の理由により,訂正事項6による訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(3)小括
以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は,特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第9項において準用する同法第126条第5項,第6項の規定に適合するので,訂正後の請求項1について訂正を認める。

第3.特許異議の申立てについて
1.本件特許発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1に係る発明(以下,「本件特許発明」という。)は,その特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
【請求項1】
「各々オンオフ制御可能なモータによって駆動される複数台の油圧ポンプ装置と,
各油圧ポンプ装置の吐出口から該油圧ポンプ装置側への逆流を阻止する逆止弁を介して吐出される作動油を合流させて負荷側の複数の加硫機から構成されるタイヤ加硫機へ送る合流油路と,
各油圧ポンプ装置から吐出される作動油の合算供給流量が,前記タイヤ加硫機の駆動に必要な全圧油流量相当となるように各油圧ポンプ装置のモータの駆動・停止制御を行う制御装置と,を備え,
前記複数台の油圧ポンプ装置は,各油圧ポンプ装置による最大吐出量の合算供給流量が前記タイヤ加硫機の駆動における必要最大圧油流量を越える容量と台数の組み合わせで備えられ,
前記制御装置は,前記タイヤ加硫機の各加硫機の運転サイクルが互いにずらされる運転プログラムに対応する必要圧油流量の経時的変化に応じて,全油圧ポンプ装置から前記必要圧油流量の供給を満たす合算供給流量となる組み合わせの油圧ポンプ装置を選択し,各油圧ポンプ装置のモータの駆動・停止の切換制御を行うものであって,
前記複数台の油圧ポンプ装置は,互いに容量の同じ定容量ポンプ装置であり,
前記制御装置は,油圧ポンプ装置の駆動に偏りが生じて負担が他より増大することがないように全油圧ポンプ装置のモータに対して予め定められた期間内での駆動・停止の回数の平均化制御を行うものであり,前記平均化制御にフィードバック利用できる各油圧ポンプ装置の駆動回数及び駆動時間のデータを蓄積する記憶部を備えていることを特徴とする大容量体系対応油圧システム。」

2.取消理由の概要
訂正前の請求項1に係る特許に対して平成29年12月13日付けで特許権者に通知した取消理由は,要旨次のとおりである。
「本件特許の請求項1に係る発明は,その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.引用刊行物
引用例1:特開2002-14704号公報(特許異議申立人が提出した甲第3号証)
引用例2:特開昭63-13903号公報(特許異議申立人が提出した甲第2号証)
引用例3:実願平2-128178号(実開平4-83729号)のマイクロフィルム(特許異議申立人が提出した甲第1号証)」

3.引用刊行物の記載事項
(1)引用例1には,以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる(特に,段落【0001】?【0004】,【0012】?【0039】,図1?図3を参照のこと。)。
「B台のポンプとしての機器2と,
前記B台の機器2によって実際に送り出されている流体の流量M・Zがプラントの運転時の流体の要求量x[t/h]相当となるように各機器2の起動停止制御を行う制御方法であって,
前記制御方法は,プロセス要求が増減している前記プラントの流体の要求量x[t/h]と前記B台の機器2によって実際に送り出されている流量M・Zとの比較を行い,流体の要求量x[t/h]よりも前記B台の機器2によって実際に送り出される流量M・Zが大きくなるように運転中の機器2の台数Mを増減させるように,各機器2の起動停止制御を行うものであって,
前記B台の機器2は,互いに機器容量Z[t/h]の同じ定容量ポンプ装置であり,
前記制御方法は,機器2の起動・停止順序を独立させて制御を行い,全機器No.1?No.Bに対して起動・停止回数が略均等化する,プラントの制御方法。」

(2)引用例2には,以下の事項が記載されていると認められる(特に,特許請求の範囲の記載,〔産業上の利用分野〕,〔実施例〕,〔効果〕の記載,第1図を参照のこと。)。
「電動機2a?2cによって駆動される複数台の液圧ポンプ1a?1cと,
各液圧ポンプ1a?1cの吐出された作動液を集めて負荷側のアクチュエータの入口に接続する液路7及び供給液路10と,
各液圧ポンプ1a?1cから吐出される作動液を集めた流量が,前記アクチュエータ側で消費する流量相当となるように各液圧ポンプ1a?1cの液圧ポンプの台数が制御される液圧源と,を備え
前記複数台の液圧ポンプ1a?1cは,互いに容量の同じ定容量形液圧ポンプ1a?1cである,比較的大形の一定圧力液圧源。」

(3)引用例3には,以下の事項が記載されていると認められる(特に,「実施例」,図1,図4を参照のこと。)。
「独立して駆動される複数個の電動機34?36によって個別に接続される複数個のポンプ31?33と,
各ポンプ31?33を電磁切換弁41に接続する,該ポンプ31?33側への逆流を阻止する逆止弁37?39を有する管路が合流してなる1つの管路と,前記電磁切換弁41は射出シリンダ21に接続され,
各ポンプ31?33から吐出され合流した作動油の吐出量が,前記射出シリンダ21の駆動に必要な射出速度に対応した吐出量となるように各ポンプ31?33の各電動機34?36の組み合わせを選択し,選択された結果に基づいて各電動機34?36に駆動信号を発信する電動機制御回路52と,を備え,
前記複数個のポンプ31?33は,各ポンプ31?33から吐出され合流した吐出量が前記射出シリンダ21の射出速度における最大射出速度に対応する吐出量になる容量と台数の組み合わせで備えられ,
前記電動機制御回路52は,前記必要な射出速度を得るのに必要な最小限の油量を射出シリンダ21に供給するために必要な必要最小限の電動機のみを駆動するように,各ポンプ31?33の電動機34?36の組み合わせを選択し,選択された結果に基づいて各電動機34?36に駆動信号を発信する,射出成形機の油圧制御装置。」

4.異議申立人が平成30年5月29日付け意見書とともに提出した参考資料の記載事項
(1)参考資料1(特開昭59-148902号公報)には,以下の事項が記載されている。
「〔発明の利用分野〕
本発明は,複数台の圧縮機や冷凍機等の機器を制御する台数制御装置に係り,特に複数台の機器の均一運転に好適な台数制御装置に関する。
〔従来技術〕
複数台の圧縮機や冷凍機等の機器を制御する台数制御装置には,次の3つのタイプがある。
(1)台数制御下におかれた複数台の機器の運転時間,起動回数などの運転状況をメモリに記録し,台数制御装置の電源を遮断した場合でも,これらの運転状況を保持するようにしたもの。
(2)前記(1)と同様,運転状況をメモリに記録するが,台数制御装置の電源を切ると,これらの記録された運転状況がクリアされてしまうもの。
(3)台数制御下におかれた機器の運転状況を記録しないもの。」(公報1ページ左下欄下から2行?右下欄14行)
(2)参考資料2(特開2001-58324号公報)には,以下の事項が記載されていると認められる。
「オンオフ可能なモータによって駆動される2台の小容量可変ポンプ14,15と,各小容量可変ポンプ14,15の吐出口から該小容量可変ポンプ14,15への逆流を阻止する逆止弁16,17を介して吐出される作動油を合流させて負荷側の複数の加硫機9?13から構成されるタイヤ加硫機へ送る合流油路と,主アキュムレータ回路3と,
前記2台の小容量可変ポンプ14,15は互いに容量の同じ小容量可変ポンプ14,15であり,2台の小容量可変ポンプ14,15は合流油路の圧油が所定値に達すると運転を停止する,
タイヤ加硫プレス用油圧システム。」(特に,段落【0013】?【0023】,図1を参照のこと。)

5.判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由について
ア.特許法第29条第2項について
本件特許発明と引用発明とを対比すると,後者の「B台」は前者の「複数台」に相当し,以下同様に,「運転」は「駆動」に,「送り出される」態様は「吐出される」態様に,「機器容量Z[t/h]」は「最大吐出量」または「容量」に,それぞれ相当する。
後者の「ポンプとしての機器2」または「機器2」と前者の「油圧ポンプ装置」は「ポンプ装置」である点で共通し,後者の「流体」と前者の「作動油」とは「流体」である点で共通し,後者の「プラント」は前者の「複数の加硫機から構成されるタイヤ加硫機」または「タイヤ加硫機」とは「装置」である点で共通し,後者は,「制御方法」を実行するための装置を有することが明らかであるから,後者の当該装置は前者の「制御装置」に相当する。
後者の「前記B台の機器2によって実際に送り出されている流体の流量M・Zがプラントの運転時の流体の要求量x[t/h]相当となるように各機器2の起動停止制御を行う制御方法」と,前者の「各油圧ポンプ装置から吐出される作動油の合算供給流量が,前記タイヤ加硫機の駆動に必要な全圧油流量相当となるように各油圧ポンプ装置のモータの駆動・停止制御を行う制御装置」とは,「各ポンプ装置から吐出される流体の合算供給流量が,装置の駆動に必要な全流量相当となるように各ポンプ装置の駆動・停止制御を行う制御装置」において共通する。
プラントに流体を送り出すポンプとしての機器2を設置するにあたり,該機器2により送り出される流体の流量の最大値を該プラントの運転時の流体の要求量の最大値をまかなうことができる大きさに設定することは,当業者が当然に考慮する事項であって,後者において,前記B台の機器容量Z[t/h]の合計B・Zはプラント運転時の流体の要求量をx[t/h]の最大値よりも大きくされていると認められ,この点は,前者の「前記複数台の油圧ポンプ装置は,各油圧ポンプ装置による最大吐出量の合算供給流量が前記タイヤ加硫機の駆動における必要最大圧油流量を越える容量と台数の組み合わせで備えられ」ることに相当する。
後者の「前記制御方法は,プロセス要求が増減している前記プラントの流体の要求量x[t/h]と前記B台の機器2によって実際に送り出されている流量M・Zとの比較を行い,流体の要求量x[t/h]よりも前記B台の機器2によって実際に送り出される流量M・Zが大きくなるように運転中の機器2の台数Mを増減させるように,各機器2の起動停止制御を行う」ことと,前者の「前記制御装置は,前記タイヤ加硫機の各加硫機の運転サイクルが互いにずらされる運転プログラムに対応する必要圧油流量の経時的変化に応じて,全油圧ポンプ装置から前記必要圧油流量の供給を満たす合算供給流量となる組み合わせの油圧ポンプ装置を選択し,各油圧ポンプ装置のモータの駆動・停止の切換制御を行う」こととは,「前記制御装置は,前記装置の必要流量の経時的変化に応じて,全ポンプ装置から前記必要流量の供給を満たす合算供給流量となる組み合わせのポンプ装置を選択し,各ポンプ装置の駆動・停止の切換制御を行う」ことにおいて共通する。
後者の「前記B台の機器2は,互いに機器容量Z[t/h]の同じ定容量ポンプ装置であ」ることと,前者の「前記複数台の油圧ポンプ装置は,互いに容量の同じ定容量ポンプ装置であ」ることとは,「前記複数台のポンプ装置は,互いに容量の同じ定容量ポンプ装置であ」ることで共通する。
後者の「前記制御方法は,機器2の起動・停止順序を独立させて制御を行い,全機器No.1?No.Bに対して起動・停止回数が略均等化する」ことと,前者の「前記制御装置は,油圧ポンプ装置の駆動に偏りが生じて負担が他より増大することがないように全油圧ポンプ装置のモータに対して予め定められた期間内での駆動・停止の回数の平均化制御を行うものであり,前記平均化制御にフィードバック利用できる各油圧ポンプ装置の駆動回数及び駆動時間のデータを蓄積する記憶部を備えていること」とは,「前記制御装置は,ポンプ装置の駆動に偏りが生じて負担が他より増大することがないように全ポンプ装置に対して駆動・停止の回数の平均化制御を行う」ことにおいて共通する。
後者の「プラントの制御方法」は,B台のポンプとしての機器2を制御するシステムに関するものであるから,前者の「大容量体系対応油圧システム」と対比すると,「大容量体系対応システム」で共通する。
そうすると,両者は,
「複数台のポンプ装置と,
各ポンプ装置から吐出される流体の合算供給流量が,装置の駆動に必要な全流量相当となるように各ポンプ装置の駆動・停止制御を行う制御装置であって,
前記複数台のポンプ装置は,各ポンプ装置による最大吐出量の合算供給流量が前記装置の駆動における必要最大流量を越える容量と台数の組み合わせで備えられ,
前記制御装置は,前記装置の必要流量の経時的変化に応じて,全ポンプ装置から前記必要流量の供給を満たす合算供給流量となる組み合わせのポンプ装置を選択し,各ポンプ装置の駆動停止の切換制御を行うものであって,
前記複数台のポンプ装置は,互いに容量の同じ定容量ポンプ装置であり,
前記制御装置は,ポンプ装置の駆動に偏りが生じて負担が他より増大することがないように全ポンプ装置に対して駆動・停止の回数の平均化制御を行うものである,大容量体系対応システム。」
の点で一致し,以下の各点で相違すると認められる。
<相違点1>
複数台のポンプ装置に関して,当該ポンプ装置が,本件特許発明では,「各々オンオフ制御可能なモータによって駆動される」「油圧ポンプ装置」であるのに対して,引用発明では,そのような特定がなされていない点。
<相違点2>
本件特許発明では,「各油圧ポンプ装置の吐出口から該油圧ポンプ装置側への逆流を阻止する逆止弁を介して吐出される作動油を合流させて負荷側の複数の加硫機から構成されるタイヤ加硫機へ送る合流油路」を備えるのに対して,引用発明では,そのような特定はなされていない点。
<相違点3>
各ポンプ装置から吐出される流体の合算供給流量が装置の駆動に必要な全流量相当となるように各ポンプ装置の駆動・停止制御を行う制御装置,及び,前記複数台のポンプ装置は,各ポンプ装置による最大吐出量の合算供給流量が前記装置の駆動における必要最大流量を越える容量と台数の組み合わせで備えられ,前記制御装置は,前記装置の必要流量の経時的変化に応じて,全ポンプ装置から前記必要流量の供給を満たす合算供給流量となる組み合わせのポンプ装置を選択し,各ポンプ装置の駆動・停止の切換制御を行うことに関して,本件特許発明では,各ポンプ装置,全ポンプ装置等のポンプ装置が「油圧ポンプ装置」であり,流体が「作動油」であり,全流量相当が「全圧油流量相当」であり,必要流量が「必要圧油流量」であり,必要最大流量が「必要最大圧油流量」であり,装置が「タイヤ加硫機」であり,駆動・停止制御及び駆動・停止の切換制御が「モータの駆動・停止制御」及び「モータの駆動停止の切換制御」であるのに対して,引用発明では,そのような特定はなされていない点。
<相違点4>
制御装置は,前記装置の必要流量の経時的変化に関して,本件特許発明では,必要流量の経時的変化が「前記タイヤ加硫機の各加硫機の運転サイクルが互いずらされる運転プログラムに対応する」ものであるのに対して,引用発明では,そのような特定はなされていない点。
<相違点5>
制御装置は,駆動・停止の回数の平均化制御を行うことに関して,本件特許発明では,「予め定められた期間内での」平均化制御を行うものであり,「前記平均化制御にフィードバック利用できる各油圧ポンプ装置の駆動回数及び駆動時間のデータを蓄積する記憶部を備えている」のに対して,引用発明では,機器2(ポンプ装置)の起動・停止順序を独立させて制御を行い,全機器No.1?No.Bに対して起動・停止回数が略均等化するものである点。
<相違点6>
大容量体系対応システムに関し,本件特許発明では,大容量体系対応「油圧」システムであるのに対して,引用発明では,そのような特定はなされていない点。

上記相違点5について検討する。
ここで,引用例2及び引用例3には,複数台の各油圧ポンプ装置のモータの駆動・停止制御に関する記載はあるものの,各油圧ポンプ装置の駆動・停止の回数の平均化制御に関する記載はない。
さらに,引用例1には,「【0004】ここで,複数台の機器2のうち特定の機器2の運転時間が長くなると,その寿命が短くなってしまう虞れがあるため,従来においては,各機器2の運転時間を操作員が管理して略均等となるように起動・停止すべき機器2を決めるようにしたり,或いは,ユニット計算機を設置し,機器2の運転時間を積算し,プログラム制御により,どの機器2も運転時間が等しくなるように起動・停止の指令を出力したりすることが行われていた。
【0005】【発明が解決しようとする課題】しかしながら,前述の如く,各機器2の運転時間を操作員が管理するのでは,操作員の負担が大きくなると共に,誤操作してしまう可能性もあり,あまり好ましくなく,又,ユニット計算機によるプログラム制御を行うのでは,制御ロジックが複雑となり,プログラムを組むのが非常に面倒で時間と費用がかかるという欠点を有していた。
【0006】本発明は,斯かる実情に鑑み,単純なロジックで各機器の運転時間を略均等化し得,特定の機器の寿命が短くなってしまうようなことを防止し得る機器の起動停止制御方法を提供しようとするものである。」,
「【0036】このように,単純なロジックではあるが,機器2の起動・停止順序を独立させて制御すると,長時間運転すれば,必ず機器2の起動・停止回数は略均等化されて行く形となる。
【0037】こうして,単純なロジックで各機器2の運転時間を略均等化し得,特定の機器2の寿命が短くなってしまうようなことを防止し得る。」
と記載されており,引用発明は,機器2の運転時間を積算し,プログラム制御により,各機器2の運転時間が等しくなるように各機器2を起動・停止することに伴う課題を解決するために,機器2の起動・停止順序を独立させて制御し,単純なロジックで各機器2の運転時間を略均等化するものである。
一方,上記相違点5に係る,本件特許発明を特定する発明である「前記平均化制御にフィードバック利用できる各油圧ポンプ装置の駆動回数及び駆動時間のデータを蓄積する記憶部を備えている」ことは,各油圧ポンプ装置の駆動回数及び駆動時間のデータを蓄積するものであって,そのデータをフィードバック利用するにあたっては,必然的にそのための制御プログラムが必要になるから,引用発明において,平均化制御にフィードバック利用できる各機器(ポンプ装置)の駆動回数及び駆動時間のデータを蓄積する記憶部を備えるようにすることには阻害事由があるといえる。
そうすると,異議申立人が提出した参考資料1には,従来技術として「複数台の機器の均一運転に好適な台数制御装置に関して,台数制御下におかれた複数台の機器の運転時間,起動回数などの運転状況をメモリに記録し,台数制御装置の電源を遮断した場合でも,これらの運転状況を保持するようにしたもの。」が開示されているとしても,この従来技術を阻害事由のある引用発明に適用することにより当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって,他の相違点を検討するまでもなく,本件特許発明は,引用発明に,引用例2に記載された事項,引用例3に記載された事項,参考資料1及び参考資料2に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ.特許異議申立人の意見について
異議申立人は,平成30年5月29日付け意見書において,
「しかしながら,訂正により新たに生じた相違点1「各油圧ポンプ装置のモータに対する平均化制御にフィードバック利用可能なデータとして油圧ポンプ装置の駆動回転数だけでなく駆動時間のデータも蓄積される記憶部を制御装置に備える構成」については,参考資料1(特開昭59-148902号公報)に「台数制御下におかれる複数台の機器の累積運転時間,累積起動回数等を均一化でき,従って複数台の機器の寿命を平均化し得る」台数制御装置が記載されているとおり周知の技術であり,引用発明に記載の発明が,複数台のポンプの起動・停止回数を略均等化し得,特定のポンプの寿命が短くなってしまうようなことを防止し得る機器の起動停止制御方法であるように,当該周知の技術の適用の動機付けがある。」旨主張する。
しかしながら,前述したように,引用発明においては,平均化制御にフィードバック利用できる各機器(ポンプ装置)の駆動回数及び駆動時間のデータを蓄積する記憶部を備えるようにすることには,阻害事由があるため,異議申立人の上記主張は採用することができない。

(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
異議申立人は,特許異議申立書において,本件特許発明は,甲第1号証に記載された発明,甲2記載事項及び甲3記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができた旨主張しているので,以下において検討する。
甲第1号証に記載された発明は,先に記載した引用例3に記載された事項のとおりであるが,以下,甲1発明ということにする。
本件特許発明と甲1発明とを対比すると,後者の「電動機34?36」は前者の「モータ」に相当し,以下同様に,「複数個」は「複数台」に,「ポンプ31?33」は作動油を吐出するものであるから「油圧ポンプ装置」に,「電動機制御回路52」は「制御装置」に,「射出成形機の油圧制御装置」は「大容量体系対応油圧システム」に,それぞれ相当する。
後者の「射出シリンダ21」と前者の「複数の加硫機から構成されるタイヤ加硫機」または「タイヤ加硫機」とは「母機装置」である点で共通する。
後者の「独立して駆動される複数個の電動機34?36によって個別に接続される複数個のポンプ31?33」は前者の「各々オンオフ制御可能なモータによって駆動される複数台の油圧ポンプ装置」に相当する。
後者の「各ポンプ31?33を電磁切換弁41に接続する,該ポンプ31?33側への逆流を阻止する逆止弁37?39を有する管路が合流してなる1つの管路と,前記電磁切換弁41は射出シリンダ21に接続され」ることと,前者の「各油圧ポンプ装置の吐出口から該油圧ポンプ装置側への逆流を阻止する逆止弁を介して吐出される作動油を合流させて負荷側の複数の加硫機から構成されるタイヤ加硫機へ送る合流油路」とは,「各油圧ポンプ装置の吐出口から該油圧ポンプ装置側への逆流を阻止する逆止弁を介して吐出される作動油を合流させて負荷側の母機装置へ送る合流油路」において共通する。
後者の「各ポンプ31?33から吐出され合流した作動油の吐出量が,前記射出シリンダ21の駆動に必要な射出速度に対応した吐出量となるように各ポンプ31?33の各電動機34?36の組み合わせを選択し,選択された結果に基づいて各電動機34?36に駆動信号を発信する電動機制御回路52」と,前者の「各油圧ポンプ装置から吐出される作動油の合算供給流量が,前記タイヤ加硫機の駆動に必要な全圧油流量相当となるように各油圧ポンプ装置のモータの駆動・停止制御を行う制御装置」とは,「各油圧ポンプ装置から吐出される作動油の合算供給流量が,前記母機装置の駆動に必要な全圧油流量相当となるように各油圧ポンプ装置のモータの駆動・停止制御を行う制御装置」において共通する。
後者の「前記複数個のポンプ31?33は,各ポンプ31?33から吐出され合流した吐出量が前記射出シリンダ21の射出速度における最大射出速度に対応する吐出量になる容量と台数の組み合わせで備えられ」ることと,前者の「前記複数台の油圧ポンプ装置は,各油圧ポンプ装置による最大吐出量の合算供給流量が前記タイヤ加硫機の駆動における必要最大圧油流量を越える容量と台数の組み合わせで備えられ」ることとは,「前記複数台の油圧ポンプ装置は,各油圧ポンプ装置による最大吐出量の合算供給流量が前記母機装置の駆動における必要最大圧油流量となる容量と台数の組み合わせで備えられ」ることにおいて共通する。
後者の「前記電動機制御回路52は,前記必要な射出速度を得るのに必要な最小限の油量を射出シリンダ21に供給するために必要な必要最小限の電動機のみを駆動するように,各ポンプ31?33の電動機34?36の組み合わせを選択し,選択された結果に基づいて各電動機34?36に駆動信号を発信する」ことと,前者の「前記制御装置は,前記タイヤ加硫機の各加硫機の運転サイクルが互いにずらされる運転プログラムに対応する必要圧油流量の経時的変化に応じて,全油圧ポンプ装置から前記必要圧油流量の供給を満たす合算供給流量となる組み合わせの油圧ポンプ装置を選択し,各油圧ポンプ装置のモータの駆動・停止の切換制御を行う」こととは,「前記制御装置は,前記母機装置の必要圧油流量の経時的変化に応じて,全油圧ポンプ装置から前記必要圧油流量の供給を満たす合算供給流量となる組み合わせの油圧ポンプ装置を選択し,各油圧ポンプ装置のモータの駆動・停止の切換制御を行う」ことにおいて共通する。
そうすると,両者は,
「各々オンオフ制御可能なモータによって駆動される複数台の油圧ポンプ装置と,
各油圧ポンプ装置の吐出口から該油圧ポンプ装置側への逆流を阻止する逆止弁を介して吐出される作動油を合流させて負荷側の母機装置へ送る合流油路と,
各油圧ポンプ装置から吐出される作動油の合算供給流量が,前記母機装置の駆動に必要な全圧油流量相当となるように各油圧ポンプ装置のモータの駆動・停止制御を行う制御装置と,を備え,
前記複数台の油圧ポンプ装置は,各油圧ポンプ装置による最大吐出量の合算供給流量が前記母機装置の駆動における必要最大圧油流量となる容量と台数の組み合わせで備えられ,
前記制御装置は,前記母機装置に対応する必要圧油流量に応じて,全油圧ポンプ装置から前記必要圧油流量の供給を満たす合算供給流量となる組み合わせの油圧ポンプ装置を選択し,各油圧ポンプ装置のモータの駆動・停止の切換制御を行うものである,大容量体系対応油圧システム。」
の点で一致し,以下の各点で相違すると認められる。
<相違点1>
母機装置が,本件特許発明では,「複数の加硫機から構成されるタイヤ加硫機」または「タイヤ加硫機」であるのに対して,甲1発明では射出シリンダ21である点。
<相違点2>
制御装置は,前記母機装置に対応する必要圧油流量に応じて,全油圧ポンプ装置から前記必要圧油流量の供給を満たす合算供給流量となる組み合わせの油圧ポンプ装置を選択し,各油圧ポンプ装置のモータの駆動・停止の切換制御を行うものに関して,前記母機装置に対応する必要圧油流量に応じてについて,本件特許発明では,「前記タイヤ加硫機の各加硫機の運転サイクルが互いにずらされる運転プログラムに対応する必要圧油量の経時的変化に応じて」であるのに対して,甲1発明では,予め必要動力や射出速度がわかっている場合に,射出成形をするのに最小限の動力で各電動機34,35,36(モータ)で各電動機34,35,36を直接指定して対応するスイッチをオン・オフしている点。
<相違点3>
前記複数台の油圧ポンプ装置は,各油圧ポンプ装置による最大吐出量の合算供給流量が前記母機装置の駆動における必要最大圧油流量となる容量と台数の組み合わせで備えられることに関し,「必要最大圧油流となる容量と台数の組み合わせ」が本件特許発明では,必要最大圧油流量を「越える」容量と台数の組み合わせであるのに対して,甲1発明では.必要最大圧油流量(100%)となる容量と台数の組み合わせである点。
<相違点4>
本件特許発明では,「前記複数台の油圧ポンプ装置は,互いに容量の同じ定容量ポンプ装置であり,前記制御装置は,油圧ポンプ装置の駆動に偏りが生じて負担が他より増大することがないように全油圧ポンプ装置のモータに対して予め定められた期間内での駆動・停止の回数の平均化制御を行うものであり,前記平均化制御にフィードバック利用できる各油圧ポンプ装置の駆動回数及び駆動時間のデータを蓄積する記憶部を備えている」のに対して,甲1発明では,複数台の油圧ポンプ装置は,互いに「容量が異なる」定容量ポンプ装置であって,駆動・停止回数の平均化制御を行うものではない点。

上記相違点4について検討する。
引用例2(甲第2号証)には,「複数台の液圧ポンプ1a?1c(油圧ポンプ装置)は,互いに容量の同じ定容量形液圧ポンプ1a?1c(定容量ポンプ装置)である」ことは記載されているものの,各油圧ポンプ装置の駆動・停止の回数の平均化制御に関する記載はない。
また,引用例1(甲第3号証)には,「B台(複数台)の機器2(ポンプ装置)は,互いに機器容量Z[t/h](容量)の同じ定容量ポンプ装置であり,
前記制御方法(制御装置)は,(機器2(ポンプ装置)の運転(駆動)に偏りが生じて負担が他より増大することがないように)機器2(ポンプ装置)の起動・停止順序を独立させて制御を行い,全機器No.1?No.Bに対して起動・停止回数が略均等化する(駆動・停止回数の平均化制御を行う)」ものの,前記平均化制御にフィードバック利用できる各油圧ポンプ装置の駆動回数及び駆動時間のデータを蓄積する記憶部を備えるものではない。
それに対して,甲1発明は,各油圧ポンプ装置の吐出量の比率が略1:2:4となる「容量が異なる」ものであり,必要な動力レベルに応じて,駆動される油圧ポンプ装置の組み合わせが一意に決まるものであって,各油圧ポンプ装置の容量を同一にした上で,各ポンプ装置の駆動回数や駆動時間の平均化制御を行うようにする動機付けは生じ得ないから,甲1発明において,引用例1(甲第3号証)に記載された事項や参考文献1に記載された事項のような平均化制御を行うものを適用することはできない。
そうすると,上記相違点3における本件特許発明の発明特定事項とすることは,動機付けの生じない甲1発明に,引用例1(甲第3号証)に記載された事項や参考文献1に記載された事項を適用することができないから,当業者が容易に想到し得るものではない。
よって,他の相違点について検討するまでもなく,本件特許発明は,甲1発明に,甲2(引用例2)記載事項,甲3(引用例1)記載事項等を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第4.むすび
以上のとおりであるから,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
大容量体系対応油圧システム
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば大型射出成形機やタイヤ加硫機などの大容量母機への効率的な作動油供給が可能な大容量体系対応油圧システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
油圧システムで駆動する装置のなかで、作動油が供給される母機サイズが非常に大きいものである場合、油圧システムで供給されるポンプ吐出量も大容量となる。特に、既存の油圧ポンプ装置の単独では賄えない場合には、複数台を接続して合算して対応することが一般的に行われている。この時、油圧供給側で作動油の流量、圧力の制御が行われる。
【0003】
例えば、特許文献1には、大型の射出成形機用の油圧システムとして、可変速電動機で駆動される複数台の油圧ポンプ装置を備え、各油圧ポンプ装置からの作動油を合流させてアクチュエータ側へ導く構成のものが提案されている。射出成形機には、金型キャビティに原料樹脂を注入するための射出シリンダをはじめ、該射出シリンダへ原料樹脂を送る計量スクリューコンベアのための回転駆動用油圧モータ、成形時の金型の型締めシリンダ、成形後の成形品を金型から取り出すためのエジェクタシリンダ等、各種複数のアクチュエータ装置が備えられており、これらのアクチュエータ装置全体に必要な作動油が合算され、これに応じた作動油が油圧システムから供給される。
【0004】
また、特許文献2には、タイヤ加硫機の油圧システムとして、複数の加硫機の運転駆動を複数の油圧ポンプ装置で行うものが提案されている。各加硫機は、フレーム内で、下テーブル上に取り付けた下側金型に対して、上側金型が装着された上テーブルを油圧駆動により開閉シリンダによって上昇及び下降させて金型を開閉するものである。最初の金型上昇時の開状態でタイヤを投入するタイヤ投入工程と、その後上側金型を下降させて閉状態としてタイヤを加熱加圧する加硫工程と、加硫工程後に上側金型を再び上昇させて加硫済みタイヤを取り出す工程、という一連のサイクルが繰り返される。また、開閉シリンダだけでなく、タイヤからプラダーを取り外すラム用シリンダや金型内へのタイヤの投入および取り出しを行うローダーも、油圧駆動されるものである。
【0005】
通常、複数の加硫機を運転させて大量にタイヤの加硫処理を行う場合、油圧供給量が最大となるタイヤ投入工程やタイヤ取り外し工程が多くの加硫機で重なりすぎないように、各加硫機で互いにサイクルをずらして運転が行われている。特許文献2では、各加硫機に設けられた加硫機情報データ送信装置からの加硫機の識別情報と加硫運転情報に基づいて、全加硫機に必要とされる圧油流量の時系列的データを油圧制御PLCにて求め、該データに基づいて油圧ポンプ装置が運転制御されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許4408134号公報
【特許文献2】特許5486633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の如く、大型の母機へ大容量の圧油を複数台の油圧ポンプ装置の合算で供給する油圧システムでは、経時的に変化する必要圧油量に応じて無駄なく高い応答性で対応することが望まれる。
【0008】
上記特許文献1の射出成形機用の油圧システムは、複数基の油圧ポンプ装置の各サーボ制御ユニットを統括制御する制御装置によって、電動機のサーボモータの回転速度が各サーボ制御ユニットを介してサーボ制御されるものであり、制御装置において必要な作動油が合算され各油圧ポンプ装置において互いに同等の動作特性となるよう各電動機の回転速度が同期して制御されている。
【0009】
具体的には、射出成形機の各アクチュエータの駆動に応じて予めプログラムされた速度変化パターンに対応して変化する指令信号が制御装置から各サーボ制御ユニットに与えられ、各油圧ポンプ装置は、サーボモータが互いに同期した状態を維持しながら前記速度変化パターンに対応して回転速度が制御され、その回転速度の変化に応じて吐出流量を変化させる。
【0010】
また、上記特許文献2のタイヤ加硫機の油圧システムでは、過剰分の無いように必要な時に必要な分の最適な圧油流量を発生させ、油圧ポンプの稼働を最小限に抑えてエネルギーコストを削減することを目的として各油圧ポンプをインバータ式としている。即ち、油圧ユニット制御装置が、油圧制御PLCからの流量データに基づいて、油圧ポンプの駆動モータをインバータ制御することでポンプ出力を調整している。
【0011】
以上のように、必要とされる圧油流量の経時変化に応じて、油圧ポンプ装置のモータ回転速度を高精度に制御するために、インバータを介した周波数制御が行われている。なお、ここで言う「インバータ」は単に直流電力を交流電力に変換するインバータ回路を指すのではなく、現在一般に使用されているように、インバータ回路が組み込まれた商用電源等の交流電力から可変周波数の交流電力に変換する電力変換装置までも含む広い範囲の装置を意味するものとする。このようなインバータによる制御では、モータ自体の回転速度を効率的に調整するものであるため、必要圧油流量の低下に伴って必要動力も低下し、省エネに寄与するという利点がある。
【0012】
しかしながら、インバータの採用においては、装置の配線が面倒であり、装置全体の組み立て工程数が増える上に、故障リスクが高くなるという問題がある。また母機が大型であるほど、インバータを設置するための占有空間も大きくなり、装置全体の大型化を招いてしまう。また、実際の大型装置への大容量作動油供給用の油圧システムにおいて、回転速度制御による高精度でリニアリティな制御を必要とする装置は希であり、回転速度制御は無駄でコスト高となり、装置メーカーへの負担を大きくする。
【0013】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、インバータを使用することなく、効率的に無駄なく大容量の作動油を大型母機へ供給することができる省エネ型の大容量体系対応の油圧システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明に係る大容量体系対応油圧システムは、各々オンオフ制御可能なモータによって駆動される複数台の油圧ポンプ装置と、
各油圧ポンプ装置の吐出口から該油圧ポンプ装置側への逆流を阻止する逆止弁を介して吐出される作動油を合流させて負荷側の複数の加硫機から構成されるタイヤ加硫機へ送る合流油路と、
各油圧ポンプ装置から吐出される作動油の合算供給流量が、前記タイヤ加硫機の駆動に必要な全圧油流量相当となるように各油圧ポンプ装置のモータの駆動・停止制御を行う制御装置と、を備え、
前記複数台の油圧ポンプ装置は、各油圧ポンプ装置による最大吐出量の合算供給流量が前記タイヤ加硫機の駆動における必要最大圧油流量を越える容量と台数の組み合わせで備えられ、
前記制御装置は、前記タイヤ加硫機の各加硫機の運転サイクルが互いにずらされる運転プログラムに対応する必要圧油流量の経時的変化に応じて、全油圧ポンプ装置から前記必要圧油流量の供給を満たす合算供給流量となる組み合わせの油圧ポンプ装置を選択し、各油圧ポンプ装置のモータの駆動・停止の切換制御を行うものであって、
前記複数台の油圧ポンプ装置は、互いに容量の同じ定容量ポンプ装置であり、
前記制御装置は、油圧ポンプ装置の駆動に偏りが生じて負担が他より増大することがないように全油圧ポンプ装置のモータに対して予め定められた期間内での駆動・停止の回数の平均化制御を行うものであり、前記平均化制御にフィードバック利用できる各油圧ポンプ装置の駆動回数及び駆動時間のデータを蓄積する記憶部を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の大容量体系対応油圧システムによれば、インバータ式のポンプを使用することなく、安価な汎用モータや短時間定格(S2)モータによって駆動される複数台の油圧ポンプ装置を備え、適宜、予め定められた時間間隔または任意の時点で制御装置からのオンオフ信号により各モータを駆動・停止させる制御だけで、適宜選択された組み合わせの油圧ポンプ装置から、負荷側の母機装置が必要とする圧油流量を満たす合算流量をその経時的な変化に対応させながら供給することができる。この構成によって、インバータ制御による油圧ポンプ装置全体の回転速度制御の場合と同程度の省エネ性を得ながらも、装置全体の大型化を招いていたインバータ制御用の構成部材自体は必要なくなり、その故障リスクを負うこともなくなる。従って、油圧システムを含む装置全体の構築において、インバータ制御のための設備設置の占有空間も、配線等の工数の手間も省かれ、装置全体の低コスト化に寄与するという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施例による大容量体系対応油圧システムとして、タイヤ加硫機に組み合わされた場合の全体構成を示す概略油圧回路図である。
【図2】図1の油圧システムの制御装置における制御動作を示す説明図である。
【図3】経過時間(横軸)に沿って変化する負荷側の必要圧油流量(縦軸)を油圧システムにおける最大合算供給流量相当(%)で示したグラフに、該必要圧油流量の変化に応じて図2の制御装置において選択されるモードを対応させた説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明による大容量体系対応油圧システムにおいて、各々オンオフ制御可能なモータによって駆動される複数台の油圧ポンプ装置と、各油圧ポンプ装置の吐出口から該油圧ポンプ装置側への逆流を阻止する逆止弁を介して吐出される作動油を合流させて負荷側の母機装置へ送る合流油路と、各油圧ポンプ装置から吐出される作動油の合算供給流量が、前記母機装置の駆動に必要な全圧油流量相当となるように各油圧ポンプ装置のモータの駆動制御を行う制御装置と、を備え、複数台の油圧ポンプ装置が、各油圧ポンプ装置による最大吐出量の合算供給流量が母機装置の駆動における必要最大圧油流量を越える容量と台数の組み合わせとなるように備えられており、制御装置によって、母機装置の運転プログラムに対応する必要圧油流量の経時的変化に応じて、全油圧ポンプ装置から前記必要圧油流量の供給を満たす合算供給流量となる組み合わせの油圧ポンプ装置が選択され、各油圧ポンプ装置のモータの駆動・停止の切換制御が行われる。
【0020】
従って、本発明の油圧システムによれば、インバータ式のポンプを使用することなく、適宜、予め定められた時間間隔または任意の時点で複数台の油圧ポンプ装置に対して制御装置からのオンオフ信号により各モータを駆動・停止させる制御だけで、適宜選択された組み合わせの油圧ポンプ装置から、負荷側の母機装置が必要とする圧油流量を満たす合算流量をその経時的な変化に対応させながら供給することができる。
【0021】
このような本発明の油圧ポンプ装置に組み込まれるモータとしては、所定の時間間隔や任意の時点で駆動・停止のオンオフ制御が可能であれば良いため、それほど高精度な応答性を必要としない大型母機への対応としては既存のインダクションモータ、所謂汎用モータで済み、インバータ式モータで駆動される油圧ポンプ装置を備える場合に比べて格段に安価で済む。もちろん汎用モータに限らず、瞬時の駆動・停止が可能な間欠運転モータ、例えば短時間定格モータを採用しても良い。
【0022】
このオンオフ制御のみで済むモータ制御では、モータ停止時において動力は必要なくなるため、インバータ制御によって油圧ポンプ装置全体の回転速度制御を行う場合と同程度の省エネ性となる。さらに、装置全体の大型化を招いていたインバータ制御用の構成部材自体も必要がなく、その故障リスクを負うこともなくなる。これにより、油圧システムを含む装置全体の構築において、インバータ制御のための設備設置の占有空間も、配線等の工数の手間も省かれ、装置全体の低コスト化に寄与する。
【0023】
なお、本発明に備えられる複数台の油圧ポンプ装置は、各最大吐出量の合算供給流量が負荷側の母機装置の駆動に必要とされる圧油流量の最大量に対して過剰となることなく該最大量を越え、不足が生じることのない容量となる組み合わせとしなければならない。一方、母機装置の駆動に必要とされる圧油流量の最小量に対して複数台のうちの1台の油圧ポンプ装置で賄える構成が効率的であることは明らかである。
【0024】
一方、必要圧油流量の最小量から最大量の変化幅が比較的大きい母機装置に対応させる場合には、前記最大量を供給するために最小量に応じた容量の油圧ポンプ装置を揃えると、必要台数が膨大になる可能性がある。そこで、互いに容量の異なる複数種のポンプ装置を備える構成とすることによって、必要圧油流量の最小量に相当する油圧ポンプ装置を揃える構成よりも油圧ポンプ装置の台数を抑えることができる。
【0025】
即ち 予め、容量の異なる複数種の油圧ポンプ装置から、負荷側の運転プログラムにおいて変化する必要圧油流量の最小量から最大量までの異なる複数段階の圧油流量にそれぞれ対応する合算供給流量となる油圧ポンプ装置の複数の組み合わせモードを設定して制御装置に備えておけば、制御装置は、前記必要圧油流量の経時的変化に応じて、複数のモードから必要圧油流量の変化時点毎にその必要圧油流量の供給を満たすモードを選択するだけで、該選択されたモードに沿って各油圧ポンプ装置のモータの駆動・停止の切換制御が行われ、効率的に必要圧油流量の変化に速やかに対応することができる。
【0026】
また、必要圧油流量の最小量から最大量までの変化幅が比較的小さい場合には、容量の同じ油圧ポンプ装置を揃えて構成を簡便にしても良い。この場合、全ての油圧ポンプ装置の駆動を必要とする場合以外は、各容量が同じであるためどの油圧ポンプ装置を選択しても同じ台数であれば合算供給流量は変わりない。従って、制御装置は、オンオフ制御による駆動・停止回数を全体的に平均化するように選択制御することによって、使用する油圧ポンプ装置に偏りが生じないようにすることができる。この平均化制御は、一連の運転プログラム内においておこなうことが望ましいが、数連の運転プログラム分、例えば、日単位など、実際の母機装置に対するモータを含む各油圧ポンプ装置の規模や負担に応じて、適宜設定すればよい。
【0027】
この場合、制御装置の記憶部に各油圧ポンプ装置の駆動回数や駆動時間等のデータを蓄積させ、平均化のフィードバック制御にこれらデータを利用することができる。また、長期にわたる運転駆動において、これらの蓄積データに基づいて、的確な時期に油圧ポンプ装置、モータを交換することも可能であり、母機装置運転中の停止や故障、交換の手間などの作業効率を低下させる問題を回避することも可能となる。
【実施例】
【0028】
本発明の一実施例による大容量体系対応油圧システムとして、負荷側の複数の加硫機から構成されるタイヤ加硫機に対して、容量の異なる複数種の油圧ポンプ装置から吐出される作動油を合流させて供給する場合を例に図1、2に示す。図1は、タイヤ加硫機100及び本油圧システム1の全体構成図を示す概略油圧回路図であり、図2は、油圧システム1の制御装置における制御動作を示す説明図である。図3は、経過時間(横軸)に沿って変化する負荷側の必要圧油流量(縦軸)を油圧システムにおける最大合算供給流量相当(%)で示したグラフに、該必要圧油流量の変化に応じて図2の制御装置において選択されるモードを対応させた説明図である。
【0029】
本実施例における油圧システム1は、吐出容量の比が1:2:4:8である4種の第1?第4油圧ポンプ装置(11、12、13、14)を備えた構成とした。各油圧ポンプ装置(11、12、13、14)は、インダクションモータまたは短時間定格モータ(11M、12M、13M、14M)によってそれぞれ駆動され、各モータ(11M、12M、13M、14M)は、AC電源からの通電が制御装置50からの指令に応じてオンオフ制御され、駆動・停止の切換制御がなされる。
【0030】
各油圧ポンプ装置(11、12、13、14)の各吐出油路は、逆流を防ぐ逆止弁Cを介して一つの合流油路20に接続されており、モータ駆動によってフィルタFを介してタンクTから吸い上げた作動油をこの合流油路20へ送り出す。また合流油路20は、圧力調整バネ付リリーフ弁Rを介して熱交換器Hが配設されたタンクTへの戻り油路30にも接続されている。
【0031】
また、合流油路20は、負荷側で各供給油路(121、122、123、124、125、126、127)へ分岐し、それぞれ方向制御弁(111、112、113、114、115、116、117)を介して、各加硫機(101、102、103、104、105、106、107)の油圧作動器(不図示)に接続されている。油圧システム1から合流油路20を経て供給される作動油は、各加硫機において、方向制御弁の電磁切換制御によって、予め定められた運転プログラムに応じた加硫運転サイクルに沿って、油圧作動器である金型開閉を行う開閉シリンダ、加硫済みタイヤからプラダーを外すラム用シリンダ、金型内へのタイヤの投入・取り出しを行うローダーのいずれかへ適宜油路が切り換えられながら供給され、各加硫機にてサイクル単位で運転が行われる。
【0032】
タイヤ加硫機100全体の運転プログラムは、このような各加硫機の運転サイクルが互いに適宜ずらされるように設定されている。したがってこの運転プログラムに沿ってタイヤ加硫機100の運転駆動に必要とされる全圧油流量は経時的に変化する。油圧システム1側では、前記運転プログラムに応じて変化する必要圧油流量に相当する合算供給量となるように制御装置50により各油圧ポンプ装置の駆動・停止が制御される。同時に、合流油路20から供給される該合算供給流量の作動油が、前記運動プログラムに沿って制御される方向制御弁を介して各加硫機の油圧作動器へ必要分が供給される。このように、油圧ポンプ装置も方向制御弁も同じ運転プログラムに沿って同期して制御されるため、一つの制御装置50からの指令によって同期制御される構成としても良い。
【0033】
ここで、上記4種の油圧ポンプ装置(11、12、13、14)の圧油吐出量の最大合算供給流量で、母機装置であるタイヤ加硫機の最大必要圧油流量を充分賄えるものとし、該最大合算供給流量を100%とすると、各油圧ポンプ装置の組み合わせによって、表1に示すように、油圧ポンプ装置全停止における0%から、最小吐出量である第1の油圧ポンプ装置11のみによる前記最大合算量の約6.7%の供給流量、第2の油圧ポンプ装置12のみによる前記最大合算量の約13.3%の供給流量、第1と第2の油圧ポンプ装置(11、12)の組み合わせによる前記最大合算量の約20%の合算供給流量、次いで第3の油圧ポンプ装置13のみによる前記最大合算量の約26.7%の供給流量、と順次合算供給流量が大きくなる組み合わせが100%までで全16種得られる。
【0034】
【表1】

【0035】
そこで、制御装置50において、予めこの16種の組み合わせによる油圧ポンプ装置の作動状態をそれぞれm1?m16の16個のモードとして設定しておけば、図2に示すように、制御装置50は実際のタイヤ加硫機の運転プログラムに沿って変化する必要圧油流量の流量指令に応じて、随時、比較器51で流量指令を満たす供給量を決定し、決定された供給量が得られる対応モードをポンプ選択器52に選択される構成とするだけで、選択されたモードに応じたオンオフ指令によって、各油圧ポンプ装置のモータへの電源接続のオンオフ制御を行うことができる。これによって、適宜モータ、そして油圧ポンプ装置の駆動・停止の切換制御が行われ、必要圧油流量の変化に応じて常に適切な作動油の合算供給流量を合流油路20へ送り出すことができる。
【0036】
例えば、タイヤ加硫機100の必要圧油流量が、図3のグラフに示すように運転プログラムに沿って変化する場合、制御装置50にて、流量指令が油圧システム1の最大合算供給流量の0%から50%相当になった場合、比較器51は、最大合算量の約53.3%分の合算供給流量を割り当て、ポンプ選択器52は該合算供給流量が得られる対応モードm9を選択し、このモードm9への変更を指令する。この指令に従って、第1?第3の油圧ポンプ装置(11?13)の各モータ(11M、12M、13M)への電源接続がオフにされると同時に第4の油圧ポンプ装置14のモータ14Mへの電源接続がオンとされ、第1?第3の油圧ポンプ装置は停止状態、第4の油圧ポンプ装置14が駆動状態となる。これにより該油圧ポンプ装置14から最大合算量の約53.3%の吐出流量が合流油路20へ送られ、タイヤ加硫機100へ供給される。
【0037】
所定時間後、必要圧油流量が油圧システム1の合算供給流量の30%相当に変化し、その流量指令が入力されると、制御装置50にて、上記と同様に比較器51を経てポンプ選択器52にて合算供給流量約33.3%が得られる対応モードm6が選択され、このモードm6への変更が指令される。これによって第1と第3の油圧ポンプ装置のモータ(11M、13M)への電源接続がオンにされると同時に第2と第4の油圧ポンプ装置のモータ(12M、14M)への電源接続がオフにされ、第2と第4の油圧ポンプ装置(12、14)が停止状態、第1と第3の油圧ポンプ装置(11、13)が駆動状態となる。これによって、第1と第3の油圧ポンプ装置(11、13)から合算で最大合算量の約33.3%の吐出流量が合流油路20へ送られ、タイヤ加硫機100へ供給される。
【0038】
以降、同様に、必要圧油流量の経時的変化、例えば油圧システム1の最大合算供給流量の前記30%相当から、15%相当、95%相当、80%相当、65%相当、5%相当、40%相当、70%相当へと変化していくと、制御装置50では、それぞれ順次対応する流量指令に対して、モードm6からモードm4、モードm16、モードm13、モードm11、モードm2、モードm7、モードm12へと順次選択されるモードが切り換えられ、各モードに対応する指令に従って、第1?第4の油圧ポンプ装置の各モータ(11M、12M、13M、14M)への電源接続のオンオフが切換制御され、第1?第4の油圧ポンプ装置(11、12、13、14)の駆動・停止の切換制御がなされる。そして、油圧システム1からの合算供給流量が、最大合算量の約33.3%から20%、100%、80%、約66.7%、約6.7%、40%、約73.3%へと変化しながら合流油路20を経てタイヤ加硫機100へ供給される。
【0039】
なお、制御装置50には、油圧システム1のポンプ稼働情報を蓄積する記憶部53を設け、各油圧ポンプ装置の起動回数および稼働時間のデータを該記憶部53に蓄積する構成とすることが望ましい。これらのデータを利用すれば、各油圧ポンプ装置またはモータの長期使用に伴う摩耗や損傷を想定して設定された適切な交換時期にて、問題が生じる前にこれらを交換することが可能となる。
【0040】
また、以上の実施例においては、容量の異なる種類の油圧ポンプ装置を備えた油圧システム1の場合を示したが、本発明はこの構成に限定されるものではなく、例えば負荷側の母機装置における必要圧油流量の最小から最大までの変化幅がそれほど大きくない場合は、適度な容量の同一油圧ポンプ装置を揃えて備える構成とすることもできる。
【0041】
この場合、容量が同じであれば、どの油圧ポンプ装置を選択しても同じ台数で同じ合算供給流量が得られるが、ポンプ選択器52は、限られた油圧ポンプ装置に対して駆動に偏りが生じて負担が他より増大することがないように、所定期間内で全油圧ポンプ装置の駆動・停止回数が平均化するように選択する設定が望ましい。この時、記憶部53にポンプ稼働情報として蓄積された各油圧ポンプ装置の起動回数や稼働時間のデータを平均化制御のためのフィードバックに利用することができる。
【0042】
また、上記実施例では、タイヤ加硫機を母機装置とした場合を示したが、本発明による大容量体系対応油圧システムは、例えば、大型射出成形機など、経時的に必要圧油流量が変化する大型母機装置への作動油供給に広く採用可能であり有効である。
【符号の説明】
【0043】
1:大容量体系対応油圧システム
11,12,13,14:油圧ポンプ装置
11M,12M,13M,14M:モータ
20:合流油路
30:戻り油路
50:制御装置
51:比較器
52:ポンプ選択器
53:記憶部
C:逆止弁
F:フィルタ
R:リリーフ弁
H:熱交換器
T:タンク
100:タイヤ加硫機(母機装置)
101,102,103,104,105,106,107:加硫機
111,112,113,114,115,116,117:方向制御弁
121,122,123,124,125,126,127:供給油路
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々オンオフ制御可能なモータによって駆動される複数台の油圧ポンプ装置と、
各油圧ポンプ装置の吐出口から該油圧ポンプ装置側への逆流を阻止する逆止弁を介して吐出される作動油を合流させて負荷側の複数の加硫機から構成されるタイヤ加硫機へ送る合流油路と、
各油圧ポンプ装置から吐出される作動油の合算供給流量が、前記タイヤ加硫機の駆動に必要な全圧油流量相当となるように各油圧ポンプ装置のモータの駆動・停止制御を行う制御装置と、を備え、
前記複数台の油圧ポンプ装置は、各油圧ポンプ装置による最大吐出量の合算供給流量が前記タイヤ加硫機の駆動における必要最大圧油流量を越える容量と台数の組み合わせで備えられ、
前記制御装置は、前記タイヤ加硫機の各加硫機の運転サイクルが互いにずらされる運転プログラムに対応する必要圧油流量の経時的変化に応じて、全油圧ポンプ装置から前記必要圧油流量の供給を満たす合算供給流量となる組み合わせの油圧ポンプ装置を選択し、各油圧ポンプ装置のモータの駆動・停止の切換制御を行うものであって、
前記複数台の油圧ポンプ装置は、互いに容量の同じ定容量ポンプ装置であり、
前記制御装置は、油圧ポンプ装置の駆動に偏りが生じて負担が他より増大することがないように全油圧ポンプ装置のモータに対して予め定められた期間内での駆動・停止の回数の平均化制御を行うものであり、前記平均化制御にフィードバック利用できる各油圧ポンプ装置の駆動回数及び駆動時間のデータを蓄積する記憶部を備えていることを特徴とする大容量体系対応油圧システム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-06-28 
出願番号 特願2016-20626(P2016-20626)
審決分類 P 1 651・ 855- YAA (F15B)
P 1 651・ 852- YAA (F15B)
P 1 651・ 121- YAA (F15B)
P 1 651・ 854- YAA (F15B)
P 1 651・ 841- YAA (F15B)
P 1 651・ 853- YAA (F15B)
最終処分 維持  
特許庁審判長 久保 竜一
特許庁審判官 山村 和人
藤井 昇
登録日 2017-03-31 
登録番号 特許第6117956号(P6117956)
権利者 油研工業株式会社
発明の名称 大容量体系対応油圧システム  
代理人 花村 太  
代理人 花村 太  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ