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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
管理番号 1344171
審判番号 不服2016-6089  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-25 
確定日 2018-09-11 
事件の表示 特願2012-542230「無間質条件下におけるヒト胚性幹細胞からの機能的巨核球および血小板の大規模生成」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 6月 9日国際公開、WO2011/069127、平成25年 4月18日国内公表、特表2013-512676〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年12月3日(パリ条約による優先権主張 2009年12月4日 米国、 2010年9月17日 米国)の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成27年2月3日付け 拒絶理由通知書
平成27年8月4日 意見書、手続補正書の提出
平成27年12月17日付け 拒絶査定
平成28年4月25日 審判請求書、手続補正書の提出
平成29年6月1日付け 拒絶理由通知書
平成29年12月7日 意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1?24に係る発明は、平成29年12月7日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?24に記載された事項により特定されるものであり、そのうち請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。
「【請求項1】 血小板を生成する方法であって、
血管芽細胞から分化した巨核球(MK)を準備すること、ここで、前記血管芽細胞の前記MKへの分化が、トロンボポエチン(TPO)および幹細胞因子(SCF)を含む無血清培地中で、約2?8日間培養することを含み、及び
TPOおよびSCFを含む無血清培地中で前記MKを少なくとも4日間培養して、血小板へと分化させることを含む方法。」(以下、「本願発明」という。)

第3 当審における拒絶の理由
当審が平成29年6月1日付けで通知した拒絶理由のうちの理由1(1)は、本願の請求項1?24に係る発明は、本願優先日前に日本国内又は外国において、頒布されたBlood, vol.114(22), Abstract2540 (Nov.20,2009)(以下、「引用文献1」という。)に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

第4 引用文献の記載事項
当審における上記拒絶の理由で引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である引用文献1は、本願発明者らによる学会抄録であって、次の事項が記載されている。(英語で記載されているので、当審による翻訳文で示す。)
1 「ドナーから収集された血小板の寿命はとても限られているが、輸血の必要性は増加している。・・・現在のin vitroでのヒトES細胞からの巨核球/血小板生成の方法は効率的でないうえ、規定されていない動物間質細胞を必要としている。我々は、無血清無間質細胞条件下でヒトES細胞から巨核球を生成する新たな系を開発した。」(第1頁本文の第1?7行)
2 「この系では、胚様体形成および血管芽細胞生成を含むステップを通じて、ヒトES細胞を巨核球に誘導する。CD41a及びCD235aという両方のマーカーを発現する二分化能細胞集団が血管芽細胞培養の終点とみなされる。これらの細胞は、FACS選別やCFUアッセイにより示されたとおり、巨核球と赤血球細胞の両方を生成することができる。懸濁培養中でヒトES細胞から得られた血管芽細胞を巨核球にさらに誘導するために、TPO、SCF及びIL-11が用いられる。・・・さらに精製することなく、懸濁培養で得られた生細胞の>90%がCD41a+で、これらの大半がCD42b+でもあった(>70%)。これらin vitroで得られた巨核球は、ギムザ染色及び細胞質顆粒中のvWFの免疫蛍光染色で示されるように、成熟した多倍数体性の巨核球の形態学的特徴を有している。重要なことに、胞体突起形成細胞が、巨核球培養の終盤において絶えず観察された。このことは、この系で得られた巨核球が無フィーダー条件下で終末分化できることを示している。血小板様粒子もFACSにより培地中に検出された。これらの巨核球は、OP9細胞上に播種すると、トロンビン刺激に応答する機能的な血小板を産生した。」(第1頁本文の第8行?第2頁第8行)
3 「要約すると、我々は、ヒトES細胞から血小板を産生する巨核球を生成するための新しい系を構築した。この系は、スケールアップや将来的な前臨床及び臨床研究に適している。」(第2頁第8?10行)

第5 当審の判断
1 引用発明
上記第4の2によれば、引用文献1には、次のとおりの発明が記載されていると認められる。
「血小板様粒子を生成する方法であって、
血管芽細胞をTPOおよびSCFを含む無血清培地中で培養することにより、巨核球、次いで胞体突起形成細胞へと分化させ、血小板様粒子を放出させることを含む方法。」(以下、「引用発明」という。)

2 対比
巨核球は十分に成熟すると胞体突起形成細胞となり、その胞体突起が断裂して血小板として放出されることが本願優先日当時の技術常識であるから(例えば、Transfusion Medicine Reviews, vol.24(1), pp33-43 (January,2010)の図1。この文献は、本願第1優先日の約1?2ヶ月後に発行されたものであるが、本願第1優先日よりも前に発行された論文を引用して記載された総説であるから、本願優先日当時の技術常識を示すものと認める。)、引用発明の「巨核球、次いで胞体突起形成細胞へと分化させ、血小板様粒子を放出させること」は、本願発明の「前記MKを・・・血小板へと分化させること」に対応する。
したがって、本願発明と引用発明との一致点及び相違点はそれぞれ次のとおりのものとなる。
一致点: 粒子を生成する方法であって、血管芽細胞から分化した巨核球(MK)を準備すること、ここで前記血管芽細胞の前記MKへの分化が、トロンボポエチン(TPO)および幹細胞因子(SCF)を含む無血清培地中で培養することを含み、及びTPOおよびSCFを含む無血清培地中で前記MKをさらに培養して、粒子へと分化させることを含む方法。
相違点1: 本願発明では、培養日数が、血管芽細胞から巨核球への分化のために「約2?8日間」、巨核球から血小板への分化のために「少なくとも4日間」と特定されているのに対して、引用発明では特定されていない点。
相違点2: 生成される粒子が、本願発明では「血小板」であるのに対して、引用発明では「血小板様粒子」である点。

3 判断
(1)相違点1について
引用文献1には、血管芽細胞から巨核球への分化及び巨核球から血小板様粒子への分化のための培養日数については記載がない。しかし、引用文献1には、血管芽細胞をTPOおよびSCFを含む培地で培養していると90%より多くの細胞が巨核球へと分化することが記載されているうえ(上記第4の2)、in vitroにおける細胞の分化誘導は、TPOおよびSCFのような分化誘導因子を添加した培地で数日間培養することにより自発的、連続的に行われるものであることは本願優先日当時の技術常識である。よって、引用文献1に接した当業者であれば、その記載にしたがって血管芽細胞が巨核球を経て血小板様粒子へと分化するまでTPOおよびSCFを含む無血清培地中で培養を続けるのであって、結果として、本願発明で特定する「約2?8日間」のうちに巨核球へと分化し、その後「少なくとも4日間」が経過すれば血小板様粒子が放出されるものと認められる。そして、これらの培養日数は、in vitroで幹細胞から所望の細胞を分化誘導するにあたって通常行われる程度の日数であるから(例えば、Transfusion Medicine Reviews, vol.24(1), pp33-43 (January,2010)の表1、表2)、引用文献1の記載にしたがって血小板様粒子が放出されるまで培養を行い、その経過を培養日数として特定することに何ら困難性は認められない。
以上のとおりであるから、相違点1に係る本願発明の構成は、引用文献1の記載及び本願優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に決定をすることができたものである。

(2)相違点2について
引用文献1には、血小板様粒子の機能に関しては記載がない。しかしながら、引用文献1は輸血のための血小板を製造することを目的としており(上記第4の1、3)、成熟巨核球から生じた胞体突起形成細胞が放出する粒子はもっぱら血小板であることが本願優先日当時の技術常識であるうえ(例えば、Transfusion Medicine Reviews, vol.24(1), pp33-43 (January,2010)の図1)、引用文献1の方法で得られた巨核球が機能的な血小板を放出する能力を有するものであることが確認されており(上記第4の2)、引用発明で生成される粒子も「血小板様粒子」と表現され、血小板に類似する形態のものであると示唆されるのだから、引用文献1に接した当業者にとって、「血小板様粒子」が機能を有する血小板であると予想して、周知の手法(例えば、Transfusion Medicine Reviews, vol.24(1), pp33-43 (January,2010)の表2)で確認することは、ごく自然な流れである。そして、「血小板様粒子」が機能を有しており、血小板と呼べるものであったことは、上述の予想の範囲内のことにすぎない。
したがって、相違点2に係る本願発明の構成も、引用文献1の記載及び本願優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に確認し得たことである。

(3)小括
上述のとおり、相違点1及び2は、いずれも引用文献1の記載及び本願優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に決定ないし確認をすることができたものである。
そして、in vitroにおける細胞の分化誘導は、TPOおよびSCFのような分化誘導因子を添加した培地で培養することにより自発的、連続的に行われるものであるという本願優先日当時の技術常識に鑑みれば、引用文献1の記載にしたがって血管芽細胞をTPOおよびSCFを含む無血清培地中で培養を行いさえすれば自然に機能を有する血小板が得られると考えられ、培養日数に依存して機能の有無が変わるものとは認められない。このことは、本願明細書の記載全体とも矛盾しない。
したがって、相違点1及び相違点2を総合しても、本願発明に進歩性を認めることはできない。

(4)請求人の主張について
請求人は、本願実施例及び本願発明に対応する本願出願後の論文であるCell Res., vol.21(3), pp.530-545 (2011)を引用して、TPO及びSCFの両方を用いることで有意な数の血小板を得ることができるという相乗効果が生じる旨を主張する。
しかし、引用文献1にはTPO及びSCFを用いることが記載されているのだから、上記効果は引用文献1にしたがって培養を行うことで自ずと生じる効果にすぎず、引用発明に対する本願発明の進歩性を示すものとは認めることができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-03-23 
結審通知日 2018-03-26 
審決日 2018-05-01 
出願番号 特願2012-542230(P2012-542230)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小金井 悟  
特許庁審判長 大宅 郁治
特許庁審判官 山中 隆幸
長井 啓子
発明の名称 無間質条件下におけるヒト胚性幹細胞からの機能的巨核球および血小板の大規模生成  
代理人 ▲吉▼田 和彦  
代理人 服部 博信  
代理人 市川 さつき  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 弟子丸 健  
代理人 箱田 篤  
代理人 浅井 賢治  
代理人 山崎 一夫  

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