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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A61H
管理番号 1345096
審判番号 無効2016-800086  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-07-21 
確定日 2018-09-19 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5356625号発明「美容器」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5356625号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
平成23年11月16日 原出願(特願2011-250916号)
平成25年 6月20日 本件特許出願
(特願2013-129765号)
平成25年 9月 6日 特許権の設定登録
(特許第5356625号)
平成28年 7月21日 本件無効審判請求
(無効2016-800086号)
平成28年11月22日 被請求人による審判事件答弁書提出
平成28年12月15日付け 審理事項通知書
平成29年 2月 6日 請求人による口頭審理陳述要領書(以下「請
求人要領書」という。)提出
平成29年 2月 6日 請求人による上申書提出
平成29年 2月 7日 被請求人による口頭審理陳述要領書提出
平成29年 2月10日付け 審理事項通知書(2)
平成29年 2月10日 請求人による口頭審理陳述要領書(2)提出
平成29年 2月21日 請求人による口頭審理陳述要領書(3)提出
平成29年 2月21日 被請求人による口頭審理陳述要領書2提

平成29年 2月21日 第1回口頭審理
平成29年 3月31日 審決の予告
平成29年 6月 9日 被請求人による訂正請求書提出
平成29年 6月 9日 被請求人による上申書提出
平成29年 7月18日 請求人による審判事件弁駁書提出
平成29年 8月10日付け 審理事項通知書(3)
平成29年 8月16日付け 審理事項通知書(4)
平成29年 9月 7日 請求人による口頭審理陳述要領書(4)提出
平成29年 9月25日 被請求人による口頭審理陳述要領書3提出
平成29年 9月25日 第2回口頭審理
平成29年 9月26日 請求人による上申書(2)提出
平成29年10月 5日 被請求人による上申書提出

第2 平成29年6月9日付け訂正請求について
1 訂正事項
本件特許請求の範囲及び明細書についての平成29年6月9日提出の訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)は、以下のとおりである(下線は訂正部分を示す。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の
「【請求項1】
ハンドルの先端部に一対のボールを、相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、
往復動作中にボールの軸線が肌面に対して一定角度を維持できるように、ボールの軸線をハンドルの中心線に対して前傾させて構成し、
一対のボール支持軸の開き角度を40?120度、一対のボールの外周面間の間隔を8?25mmとし、
ボールの外周面を肌に押し当ててハンドルの先端から基端方向に移動させることにより肌が摘み上げられるようにしたことを特徴とする美容器。」という記載を、
「【請求項1】
ハンドルの先端部に一対のボールを、相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、
往復動作中にボールの軸線が肌面に対して一定角度を維持できるように、ボールの軸線をハンドルの中心線に対して前傾させて構成し、
一対のボール支持軸の開き角度を65?80度、一対のボールの外周面間の間隔を10?13mmとし、
前記ボールは、非貫通状態でボール支持軸に軸受部材を介して支持されており、
ボールの外周面を肌に押し当ててハンドルの先端から基端方向に移動させることにより肌が摘み上げられるようにした
ことを特徴とする美容器。」と訂正する。

(2)訂正事項2
明細書段落【0007】の
「【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の美容器の発明は、ハンドルの先端部に一対のボールを、相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、往復動作中にボールの軸線が肌面に対して一定角度を維持できるように、ボールの軸線をハンドルの中心線に対して前傾させて構成し、一対のボール支持軸の開き角度を40?120度、一対のボールの外周面間の間隔を8?25mmとし、ボールの外周面を肌に押し当ててハンドルの先端から基端方向に移動させることにより肌が摘み上げられるようにしたことを特徴とする。」という記載を、
「【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の美容器の発明は、ハンドルの先端部に一対のボールを、相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、往復動作中にボールの軸線が肌面に対して一定角度を維持できるように、ボールの軸線をハンドルの中心線に対して前傾させて構成し、一対のボール支持軸の開き角度を65?80度、一対のボールの外周面間の間隔を10?13mmとし、前記ボールは、非貫通状態でボール支持軸に軸受部材を介して支持されており、ボールの外周面を肌に押し当ててハンドルの先端から基端方向に移動させることにより肌が摘み上げられるようにしたことを特徴とする。」と訂正する。

2 訂正請求についての当審の判断
これら訂正事項1及び2の適法性について検討する。

(1)訂正事項1について
ア 訂正前の請求項1においては、(i)一対のボール支持軸の開き角度を40?120度、(ii)一対のボールの外周面間の間隔を8?25mmとし、また、(iii)ボールが先端非貫通か否か具体的に特定されていなかったところ、訂正事項1により、(i)一対のボール支持軸の開き角度を65?80度と限定し、(ii)一対のボールの外周面間の間隔を10?13mmと限定し、(iii)ボールは、非貫通状態でボール支持軸に軸受部材を介して支持されていることを具体的に特定したものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ そして、訂正事項1の(i)「一対のボール支持軸の開き角度を65?80度」に関しては、願書に添付した明細書の段落【0019】に、「一対のボール17の開き角度すなわち一対のボール支持軸15の開き角度βは、・・・特に好ましくは65?80度に設定される。」との記載がある。
また、訂正事項1の(ii)「一対のボールの外周面間の間隔を10?13mm」に関しては、願書に添付した明細書の段落【0021】に、「さらに、ボール17の外周面間の間隔Dは、・・・特に好ましくは10?13mmである。」との記載がある。
さらに、訂正事項1の(iii)「前記ボールは、非貫通状態でボール支持軸に軸受部材を介して支持されており、」に関しては、願書に添付した明細書の段落【0014】に、「前記ボール支持軸15の突出端部には、合成樹脂よりなり、内外周に金属メッキを施した円筒状の軸受部材19が嵌合され、ストップリング25により抜け止め固定されている。この軸受部材19の外周には、一対の弾性変形可能な係止爪19aが突設されている。前記ボール支持軸15上の軸受部材19には、球状をなすボール17が回転可能に嵌挿支持されている。」との記載があり、願書に添付した図7から、ボール17が非貫通状態でボール支持軸15に軸受部材19を介して支持されている構成を看取することができる。
これらを踏まえれば、訂正事項1は、新たな技術的事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」ということがある。)に記載された事項の範囲内といえ、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

ウ さらに、訂正事項1が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に適合することは明らかである。

エ 訂正事項1の適法性に関し、請求人は、訂正事項1の(iii)「前記ボールは、非貫通状態でボール支持軸に軸受部材を介して支持されており、」につき、軸受部材が上位概念化されて記載されており、「係止爪を有さない軸受部材」及び「内周に段差部を有さないボール」も含まれることとなるが、かかる構成については、本件特許明細書等には記載されていない旨主張する(弁駁書第5ページ第9行?第6ページ第17行)。
しかしながら、上記イで示した段落【0014】及び図7を含む本件特許明細書等のすべての事項を総合することにより導かれる技術的事項は、被請求人が主張するとおり、ボールが非貫通状態でボール支持軸に軸受部材を介して支持されている事項である。本件訂正後の特許請求の範囲に、請求人が主張する軸受部材及びボールが含まれるからといって、そのことをもって、新たな技術的事項が導入されるとはいえない。よって、請求人の主張には理由がない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、上記訂正事項1に係る訂正に伴って、訂正後の特許請求の範囲と明細書との整合を図ろうとするものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項2が、新たな技術的事項を導入するものではなく、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内のものであることは、上記(1)イの訂正事項1に関する検討と同様である。
また、訂正事項2が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことも明らかである。

(3)小括
したがって、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、これを認める。

第3 本件訂正発明
上記のとおり本件訂正が認められるところ、本件訂正後の本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件訂正発明」という。)は、本件訂正により訂正した特許請求の範囲及び明細書並びに願書に添付した図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりであると認める。

「【請求項1】
ハンドルの先端部に一対のボールを、相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、
往復動作中にボールの軸線が肌面に対して一定角度を維持できるように、ボールの軸線をハンドルの中心線に対して前傾させて構成し、
一対のボール支持軸の開き角度を65?80度、一対のボールの外周面間の間隔を10?13mmとし、
前記ボールは、非貫通状態でボール支持軸に軸受部材を介して支持されており、
ボールの外周面を肌に押し当ててハンドルの先端から基端方向に移動させることにより肌が摘み上げられるようにした
ことを特徴とする美容器。」

第4 請求人の主張
1 請求の趣旨
請求人の主張する請求の趣旨は、本件訂正発明についての特許を無効にする、との審決を求めるものである。

2 証拠方法
請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。

甲第1号証の1 韓国意匠第30-0408623号公報の写し
(以下「写し」である旨の表記は省略する。)
甲第1号証の2 韓国意匠第30-0408623号公報の翻訳文
甲第1号証の3 韓国意匠第30-0408623号公報の構成部位説明図
甲第1号証の4 韓国意匠第30-0408623号公報の正面図の実測図
甲第2号証 特開2000-24065号公報
甲第3号証 特開2009-142509号公報
甲第4号証 意匠登録第1374522号公報
甲第5号証の1 韓国意匠第30-0399693号公報
甲第5号証の2 韓国意匠第30-0399693号公報の翻訳文
甲第5号証の3 韓国意匠第30-0399693号の角度計測図
甲第6号証 実公平2-15481号公報
甲第7号証 特開平11-76348号公報
甲第8号証 特開2003-10271号公報
甲第9号証 特開2003-79690号公報
甲第10号証 実願平1-94989号(実開平3-33630号)のマ
イクロフィルム
甲第11号証 登録実用新案第3129403号公報
甲第12号証 実願平1-82324号(実開平3-21333号)のマ
イクロフィルム
甲第13号証 登録実用新案第3154738号公報
甲第14号証 「クロワッサン」、第35巻、第17号、26?27ページ
甲第15号証 特開2004-321814号公報
甲第16号証 特開平4-231957号公報
甲第17号証 登録実用新案第3159255号公報
甲第18号証 「広辞苑第六版た-ん」、2577ページ
甲第19号証 「機械工学事典」、842ページ左欄15?18行
甲第20号証 「JIS機械製図の基礎と演習」、第4版、7?11ページ
甲第21号証 「JISハンドブック59製図」、222?239ページ
甲第22号証の1 韓国公開特許第10-2014-0128465号公報
(韓国特許出願10-2014-7028997号)
甲第22号証の2 韓国公開特許第10-2014-0128465号の翻
訳文
甲第23号証の1 韓国特許出願10-2014-7028997号の審決
甲第23号証の2 韓国特許出願10-2014-7028997号の審決
の翻訳文
甲第24号証の1 韓国デザイン審査基準
甲第24号証の2 韓国デザイン審査基準の翻訳文
甲第25号証 「広辞苑第四版」、1800ページ「投影」の項
甲第26号証の1 米国再発行特許発明第19696号明細書
甲第26号証の2 米国再発行特許発明第19696号明細書の翻訳文
甲第27号証の1 米国特許第2011471号明細書
甲第27号証の2 米国特許第2011471号明細書の翻訳文
甲第28号証 「自然から元気:ソフィル-eシミ・しわ・たるみの解消
小顔・体全体のコリに」と題するウェブページ
甲第29号証 インターネットアーカイブによる甲第28号証のアドレ
スの収集日の検索結果を表示するウェブページ
甲第30号証 「サプリメントスキンケア美容雑貨通販 自然から元気/
お問い合わせ(確認ページ)」と題するウェッブページ
甲第31号証 電子メール(差出人:自然から元気、宛先:Yoshinari
Takayama)のプリントアウト
甲第32号証 美顔器「ソフィル-e」を実測している様子を撮影した
写真のプリントアウト(平成29年2月4日撮影)
甲第33号証の1 仏国特許出願公開第2891137号明細書
甲第33号証の2 仏国特許出願公開第2891137号明細書のフロント
ページの英訳
甲第33号証の3 仏国特許出願公開第2891137号明細書の翻訳文
甲第34号証 「支持軸の開き角度に関する証明」、2017年7月18日
弁理士・高山嘉成作成

3 請求の理由の要点
請求の理由は、本件訂正が認められたこと及び請求人の主張の全趣旨を踏まえ、その要点は、以下のとおりである(第2回口頭審理調書の「請求人」欄1及び2)。
なお、本件訂正が認められたことに伴い、審決の予告第3ページに記載の無効理由2は、取り下げられた(同書の「請求人」欄3)。

(1)本件訂正発明は、甲第1号証の1に記載の発明、甲第33号証の1に記載された発明、甲第17及び14号証に記載された発明、並びに、甲第3、4、13、14、26の1、27の1及び33号証の1に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである(以下「無効理由1-1」という。)。

(2)本件訂正発明は、甲第1号証の1に記載の発明、甲第33号証の1に記載された発明、甲第17及び14号証に記載された発明、甲第6、7、10、又は11号証のいずれかに記載された発明、並びに、甲第3、4、13、14、26の1、27の1及び33号証の1に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである(以下「無効理由1-2」という。)。

4 主張の概要
請求人の主張の概要は、以下のとおりである。

(1)無効理由1-1及び無効理由1-2共通の主張について
(1-1)本件訂正発明について
本件訂正発明の数値限定(開き角度を65?80度、間隔を10?13mmとした点)による臨界的意義は存在しない。その理由は、次のとおりである。

まず、開き角度βについては、官能試験の結果を示す表2において、◎の評価(10人中8人以上が良いと感じた場合)が付されているのは、70度の場合のみである。65度及び80度については、評価はなされておらず、明細書には合理的な説明もないため、表2から評価を判断することはできない。仮に、60度及び90度の評価から、○の評価を導き出したとしても、該評価は、5?7人が良いと感じた場合にすぎない(5?3人が良いとは感じていない)。
そもそも、表2では、前提条件として、前傾角度、ボールの直径、及び間隔につき、特定の数値を用いている。これに対して、本件訂正発明には、前傾角度及びボールの直径の数値範囲に限定はない。しかし、いかなる前傾角度やボールの直径においても、表2と同じような結果が得られるのかについては、実験結果は開示されておらず、明細書には合理的根拠も一切記載がない。
その他の官能試験(表1、表3、表5、及び表7)を参酌すると、前提条件の開き角度は、本件訂正発明の数値範囲に含まれるが、前傾角度や直径の値によっては、評価が△となる場合もある。すなわち、本件訂正発明には、前傾角度や直径の限定がない以上、開き角度の限定を加えたところで、格別に効果が高い範囲のみが含まれることにはならない。
なお、被請求人が挙げる段落【0019】の「特に好ましい」との記載も、その根拠は主観的判断にすぎず、臨界的意義を主張できるほどの根拠とはならない。

次に、間隔Dについては、官能試験の結果を示す表4及び表6において、◎の評価が付されているのは、11mmの場合のみであり、10mmは○の評価で、13mmは評価がなされていない。表4及び表6を見る限り、15mmの評価が△であるから、13mmも△の評価となる可能性は否定できない。明細書中には、13mmが格別の効果を有するとの合理的な説明はない。また、表8では、10mm及び11mmは、○の評価に過ぎない。
そもそも、表4、表6、及び表8では、前提条件として、前傾角度、開き角度、及びボールの直径につき、特定の数値が用いられている。これに対して、本件訂正発明には、前傾角度及びボールの直径の数値範囲に限定はない。しかし、いかなる前傾角度やボールの直径においても、表4、表6、及び表8と同じような結果が得られるのかについては、実験結果は開示されておらず、明細書には合理的根拠も一切記載がない。
その他の官能試験(表3、表5、及び表7)を参酌すると、前提条件の間隔は、開き角度とともに、本件訂正発明の数値範囲に含まれるが、ボールの直径の値によっては、評価が△となる場合がある。該評価は、3人又は4人が良いと感じた場合にすぎない(6人又は7人が良くないと感じた)。
なお、被請求人が挙げる段落【0021】の「特に好ましい」との記載も、その根拠は主観的判断にすぎず、臨界的意義を主張できるほどの根拠とはならない。

以上のとおり、本件訂正発明の数値範囲には、評価が低いボールの直径や前傾角度が含まれるのであるから、その数値範囲に臨界的意義は存在しない。
(弁駁書第8ページ第8行?第10ページ第18行)

(1-2)甲1発明、及び本件訂正発明との対比について
甲第1号証の1記載の発明(以下「甲1発明」という。)については、審決の予告に記載のとおり、円形体が回転可能である場合(甲1発明A)と、円形体が回転可能であるか否か不明である場合(甲1発明B)とに分ける。

(ア)甲1発明A
「ハンドルの先端部に一対の円形体を、相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に回転可能に支持したマッサージ器において、
往復運動中に円形体の軸線が人体の部位の面に対して一定角度を維持できるように、円形体の軸線をハンドルの中心線に対して前傾させて構成し、
一対の円形体の支持軸の正面図上のなす角度を80°とし、
一対の円形体の直径を10とした場合の一対の円形体の外周面間の間隔の相対値を4とし、
人体の部位を引っ張り、押して筋肉をほぐしてくれる
マッサージ器。」

(イ)甲1発明B
「ハンドルの先端部に一対の円形体を、相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に回転可能か否か不明な状態で支持したマッサージ器において、
往復運動中に円形体の軸線が人体の部位の面に対して一定角度を維持できるように、円形体の軸線をハンドルの中心線に対して前傾させて構成し、
一対の円形体の支持軸の正面図上のなす角度を80°とし、
一対の円形体の直径を10とした場合の一対の円形体の外周面間の間隔の相対値を4とし、
人体の部位を引っ張り、押して筋肉をほぐしてくれる
マッサージ器。」
(弁駁書第10ページ第20行?第11ページ第14行)

なお、本件訂正発明の「開き角度」とは、審決の予告第42ページ下から5?3行に記載のとおり、美容器の両ボールの軸線を含む面を水平にしたときの平面図において、一対のボール支持軸のなす角度を意味する。審決の予告では、この点を踏まえて、甲1発明A及びBについて、軸線を含む面での開き角度を考慮して、「正面図上のなす角度を80°」を「開き角度を約80°」と言い換えている。
ここでいう「約80°」については、本件訂正発明の開き角度が「65?80°」であるため、「80°よりも大きい」のか「80°未満」なのかを明確にする必要がある。
この点につき、幾何学的に証明すると、甲第34号証に示すように、ボール支持軸の軸線を含む面上でのボール支持軸の開き角度θは、平行投影されたボール支持軸の正面図上での開き角度θ’(正面図上のなす角度)よりも小さくなる。
よって、甲1発明A及びBについて、ボール支持軸の軸線を通る面上での開き角度を用いると、「開き角度は80°を超えない範囲で約80°」となる。
(弁駁書第11ページ第15行?第12ページ第18行)

ア 甲1発明Aを主引用発明とする場合
本件訂正発明と甲1発明Aとを対比すると、両者は、審決の予告第42ページ第4?9行に記載のとおり、以下の点で一致している。

<一致点>
「ハンドルの先端部に一対のボールを、相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、
往復動作中にボールの軸線が肌面に対して一定角度を維持できるように、ボールの軸線をハンドルの中心線に対して前傾させて構成し、
一対のボール支持軸のなす角度を特定の角度とした美容器。」

そして、本件訂正発明と甲1発明Aとは、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件訂正発明は、一対のボール支持軸の開き角度を65?80度としたのに対して、
甲1発明Aは、一対の円形体の支持軸の正面図上のなす角度を80°とした点。

<相違点2>
本件訂正発明は、一対のボールの外周面間の間隔を10?13mmとしたのに対して、
甲1発明Aは、一対の円形体の直径を10とした場合の一対の円形体の外周面間の間隔の相対値を4とした点。

<相違点3>
本件訂正発明は、ボールを非貫通状態でボール支持軸に軸受部材を介して支持させるのに対して、
甲1発明では、円形体は貫通状態であり、支持に軸受部材が用いられていない点。

<相違点4>
本件訂正発明は、ボールの外周面を肌に押し当ててハンドルの先端から基端方向に移動させることにより肌を摘み上げられるようにしたのに対して、
甲1発明Aは、人体の部位を引っ張り、押して筋肉をほぐしてくれるものの、ハンドルの先端から基端方向に移動させることにより肌が摘み上げられるか否か不明である点。
(弁駁書第16ページ第2行?第17ページ第14行)

イ 甲1発明Bを主引用発明とする場合
本件訂正発明と甲1発明Bとを対比する。
本件訂正発明と甲1発明Bの相当関係は、甲1発明Aの場合と同様である。
したがって、本件訂正発明と甲1発明Bとは、以下の点で一致している。

<一致点>
「ハンドルの先端部に一対のボールを、相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に支持した美容器において、
往復動作中にボールの軸線が肌面に対して一定角度を維持できるように、ボールの軸線をハンドルの中心線に対して前傾させて構成し、
一対のボール支持軸のなす角度を特定の角度とした美容器。」

そして、本件訂正発明と甲1発明Bとは、上記相違点1?4に加えて、以下の点で相違する。

<相違点5>
本件訂正発明は、一対のボールを回転可能に支持したのに対して、甲1発明Bは、一対の円形体を回転可能か否か不明な状態で支持した点。
(弁駁書第24ページ第11行?第25ページ第1行)

(1-3)甲1発明の円形体の支持態様について
甲1発明では、円形体が回転可能に支持されているか否かは明確ではない。しかし、甲1発明は、人体の部位を引っ張り、押して筋肉をぼぐすマッサージ器であり、透明の円形体の内部に支持軸が設けられていることから、甲1発明の柄円形体は回転するものであると、当業者であれば、当然に理解する。(請求書第36ページ下から第3行?第37ページ第2行)

甲1発明の円形体が「回転可能」であることは、以下の理由からも認定することができる。すなわち、認定の前提として、Y字状又はV字状の一対のローラ又はボールによる回転体を備える美容器を移動させれば、肌を摘み上げる作用が生じることは、本件訂正発明の出願時において、当業者にとって周知である(甲第26号証の1、第27号証の1、甲第33号証の1、甲第3及び4号証、甲第13及び14号証)。
そして、甲第1号証の1の記載から、(i)「ボール支持軸」の形状は、凹み部分を有しており、このような「ボール支持軸」を円形体の内部に配置するために、二つに分かれた円形体で「ボール支持軸」を挟み込むか、「ボール支持軸」に「抜け止め部」を設けること、(ii)樹脂成形時の成形収縮による公差を考慮すると、円形体と「ボール支持軸」との「はめあい」は「すきまばめ」であること、(iii)「人体の部位を引っ張り、押して筋肉をほぐす」機能は、上記周知技術と同様に、一対の円形体が肌を上方向に引っ張り上げることで実現していること、を導くことができるためである。

なお、ボール支持軸の断面形状については、CAD上で、甲第1号証の1における正面図、左側面図、及び平面図における支持軸の径を測定すると、同一の値であることからみて、その断面形状は、楕円形状ではなく、円形状である。したがって、ボール支持軸は、回転軸として機能している。
また、円形体とボール支持軸との間のクリアランスについては、通常、当業者において、回転するか否かを図示する際は、図面上にクリアランスを設けて作図するのではなく、「はめあい」が「すきまばめ」であることを図面上で指示する。被請求人が主張するように、クリアランスを設けることで、回転可能であることを示すのではない。

仮に、甲1発明の円形体が回転しないものであったとしても、当業者にとって、甲1発明の円形体を回転可能に支持させることは、上記周知技術に基づいて、容易に発明できることである。
(平成29年2月6日付け口頭審理陳述要領書第29ページ第14行?第35ページ第5行)

(2)無効理由1-1について
ア 甲1発明Aを主引用発明とする場合

ア-1 相違点1について
(ア)主位的主張
上記(1-2)のとおり、甲1発明Aについて、ボール支持軸の軸線を通る面上での開き角度を用いると、「開き角度は80°を超えない範囲で約80°」となる。
したがって、甲1発明Aの「開き角度」の数値は、本件訂正発明の「一対のボール支持軸の開き角度」の数値範囲たる65?80度の範囲内にあり、「80°を超えない範囲で約80°」との点で一致する。そうすると、相違点1は、実質的な相違点とはいえない。

(イ)予備的主張
第1に、甲1発明Aは、一対の円形体の支持軸の正面図上のなす角度を80°としており、支軸の軸線を含む面上での開き角度は約80°となる。したがって、当業者であれば、支軸の軸線を含む面上での開き角度を丁度80°とすることは、単なる設計事項にすぎない。よって、相違点1については、当業者であれば、容易想到である。
第2に、甲第33号証の1では、小さい直径を持つ球の2つの軸が70?100°に及ぶ角度をなすことが開示されている。すなわち、甲1発明Aの「開き角度」の数値範囲たる65?80度の範囲の数値が開示されている。よって、甲第33号証の1に基づき、65?80度の範囲の開き角度を有するように、甲1発明Aを構成することは、容易想到である。
なお、本件訂正発明の数値限定に臨界的意義が存在しないことは、上記(1-1)のとおりであり、数値限定により格別の効果が生じることはなく、65?80度の範囲の開き角度とすることは、甲第33号証の1から単に選択する事項にすぎない。

ア-2 相違点2について(主位的主張)
甲第33号証の1において、直径2cm?8cmとの数値範囲は、適宜、選択可能な範囲として例示されており、本件訂正発明の数値限定により格別の効果が生じることはないから、甲第33号証の1の記載事項から直径を一つ選ぶことは、単に選択する事項にすぎない。
そして、甲第33号証の1は、甲1発明Aと同様に、身体をマッサージするマッサージ器具であり、甲第33号証の1の記載事項を甲1発明Aに適用することには十分に動機付けが存在し、阻害要因も存在しない。
甲第33号証の1に記載の球の直径を甲1発明Aの円形体に適用した場合、これを0.4倍することで、円形体の外周面間の間隔が得られる。例えば、3cmの直径のボールを選択し、甲1発明Aに適用すれば、3cm×0.4=1.2cmとなり、本件訂正発明のボールの間隔である10?13mmの範囲に容易に想到できる。

ア-3 相違点3について
甲第17号証には、把持部3の先端部に一対のローラ部5を、相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に回転可能に支持したマグネット美容ローラ1において、ローラ部5が、非貫通状態でローラ保持部4の小径部4bにベアリング8を介して支持されている点が記載されている。そして、ローラ支持部4の構造は、大径部4aと小径部4bを有する、段付きシャフトの構造である。
一方、甲1発明Aも、円形体を支持している部分は、段付きシャフトの構造であり、甲第17号証と同様である。
よって、甲1発明Aと甲第17号証とは、ボール支持軸の構造が共通しており、共に、皮膚をマッサージする器具であることが動機付けとなり、阻害要因も存在しない。甲第17号証の軸受構造及びローラ部5の構造を甲1発明Aに適用することで、円形体を非貫通状態としてボール支持軸に軸受部材を介して支持させることは、当業者にとって容易想到である。

また、甲第17号証の段落【0013】に、ローラ部の端部で顔面等の皮膚を刺激することが記載されている。さらに、甲第14号証には、非貫通状態のボールを使用して、皮膚をマッサージする写真が掲載されている。
したがって、甲1発明Aの円形体を非貫通状態とした際、端部でのマッサージが可能なように、ボール支持軸の先端側の形状を工夫して、甲第17及び14号証に記載されているように、非貫通状態の円形体の先端で、皮膚を刺激したり、マッサージしたりするという作用効果を生み出すことは、当業者とって容易想到である。

なお、甲1発明Aの「円形体」の形状は、本件訂正発明の「ボール」に相当するから、進歩性の判断においては、必ずしも、円形体の形状の変形まで考慮する必要はない。すなわち、円形体を単に、非貫通状態として、軸受部材を介して、ボール支持軸に支持される構成だけでも、本件訂正発明に想到したこととなる。

ア-4 相違点4について
審決の予告第44ページ(ウ)のとおり、出願時の周知技術を考慮すれば、甲1発明Aについても、ハンドルの先端から基端方向に移動させることにより、肌が摘み上げられる作用が生じるといえ、相違点4は、実質的な相違点とはいえない。
(弁駁書第17ページ第16行?第19ページ第9行、第20ページ第1行?第23ページ第8行)

イ 甲1発明Bを主引用発明とする場合

イ-1 相違点1及び2について
相違点1及び2についての主張は、甲1発明Aの場合と同様である。

イ-2 相違点3ないし5について
審決の予告第45ページ下から第4行?第46ページ第1行に記載されているように、一般的に、ハンドルの一端に、一対の略球形又は円筒形の回転体をV字状に軸支したマッサージ具を用い、当該回転体を肌に宛がって押し引きを繰り返すことで、肌を摘み上げるマッサージを行なうことは、本件原出願の出願日前における周知技術である(例えば、甲第3、4、13、14、26の1、27の1及び33号証の1に記載された事項)。

一方、甲1発明Bは、ハンドルの先端部に一対の円形体を、相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に支持したマッサージ器であって、人体の部位を引っ張り、押して筋肉をほぐしてくれるマッサージ器である。

そうすると、甲1発明Bにおいて、基本構成、操作及び作用の共通ないし類似する上記周知技術に照らして、円形体の支持態様を構成することには、十分な動機付けが存在する。
よって、上記周知技術に照らして、甲1発明Bの円形体を回転可能に支持することは、当業者にとって容易である。そして、このように構成した甲1発明Bにあっては、「円形体の外周面を肌に押し当ててハンドルの先端から基端方向に移動させることに肌が摘み上げられる」作用を奏することは、明らかである。

そして、甲1発明Bの円形体を回転可能に支持する際、甲第17号証に記載された発明のように、軸受部材を介して、ボールであるところの円形体を非貫通状態で支持することは、甲1発明Bと甲第17号証に記載された発明とが、共に、段付きシャフト構造を有している点、皮膚をマッサージする器具である点が動機付けとなって、容易に想到できる。
そのように、非貫通状態の円形体を用いた場合に、円形体の先端で、皮膚をマッサージすることができるように円形体の先端の形状を変更することは、上記ア-3のとおり、甲第17及び14号証の記載から、当業者にとって容易に想到できる。
(弁駁書第25ページ第3行?第26ページ第2行)

(3)無効理由1-2について(甲1発明A及びB共通の主張)

ア 相違点2について(予備的主張)
仮に、甲第33号証の1の記載事項を甲1発明A又はBに適用することが困難であるとされた場合に備え、甲第6、7、10又は11号証をボール又はハンドルの大きさを示す副引用発明として用いる場合を予備的に主張する。
すなわち、甲第6号証、甲第7号証、甲第10号証、又は甲第11号証に記載のボールの直径又はハンドルの長さを甲1発明A又はBに適用することで、本件訂正発明のボールの外周面間の間隔である10?13mmの数値範囲に、容易に想到することができる。
(弁駁書第19ページ第10?28行、第25ページ第4行)

第5 被請求人の主張
1 要点及び証拠方法
これに対し、被請求人は、以下の理由、証拠方法に基づき、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めている。

乙第1号証 特開平8-38576号公報
乙第2号証 実願昭57-27147号(実開昭58-133341号)の
マイクロフィルム
乙第3号証 実願平4-39852号(実開平5-91676号)のCD-
ROM
乙第4号証 東京地裁平成25年(ワ)第25813号判決文

2 主張の概要
被請求人の主張の概要は、以下のとおりである。

(1)無効理由1-1及び無効理由1-2共通の主張に対する反論

(1-1)本件訂正発明について
本件訂正発明における、開き角度β及び間隔Dの数値範囲は、本件特許明細書に特に好ましい範囲として記載されている範囲であり、美容器を使用した場合の肌に対する押圧効果と摘み上げ効果を良好に発現させることができる(段落【0019】、段落【0021】)。
特に、本件特許明細書では、開き角度βと間隔Dの数値を異ならせた複数の実施例について使用感の官能評価を行っているが、上記限定に係る範囲は10人中の8人が好ましいと評価した二重丸(◎)を中心とする範囲である(表2、表4、表6、表8)。
このため、本件訂正発明は、開き角度β及び間隔Dの数値範囲を限定して美容器の使用感を極めて好ましい範囲としたものであり、優れた作用効果を奏する点で臨界的意義を有する。

また、本件訂正発明は、ボールが非貫通状態でボール支持軸に軸受部材を介して支持される構成により、ボール先端部分も肌に当てて使用することができ、また軸受部材によりボールの円滑な回転が可能となるものである。
特に、本件訂正発明は、開き角度を65?80度の範囲と限定したため、一対のボール支持軸は鋭角の範囲で位置することとなり、美容器の使用時に先端部分(貫通構成では支持軸等が露出している部分)が肌に接する可能性も高くなる。
このような本件訂正発明においては、ボールが非貫通状態で支持されているため、美容器の使用時にボール先端を肌に当てた状態で力を入れてボール先端を肌に押し込み、ボールを肌に沈み込ませるようなマッサージを行うこともできる。さらに、ボール先端を肌に沈み込ませることによりボールと肌の接触面積が広がるが、その状態で美容器を、ハンドルの基端側に移動させることで、より大きな摘み上げ効果をもたらすことができる。
エステティシャンの手技を自宅で手軽に代替するものとして、使用者は、美容器に痩身効果を期待する。そのため、より強い摘み上げ効果を期待してボール先端を肌に深く沈みこませて使用することが予想できるが、本件訂正発明は、このような使用に適した構成となっている。

これに対して、ボールが貫通状態の構成では、先端部分に回転しない部分と回転する部分との境界部分が露出し、境界部分を肌に当てた際に、回転の有無に伴う作用のずれにより違和感が生じたり、境界部分に皮膚や毛などが噛み込むおそれがある。
このため、使用者は相対回転が生じるボール先端側の境界部分を肌に当てることを無意識に躊躇し、境界部分を避けて回転するボール部分だけでマッサージを行うこととなり、使用感及び操作性が低下する。
加えて、境界部分が露出する構成では、ボールを肌に当ててマッサージ等を繰り返すと、境界部分に皮脂や化粧料等が入り込み、その結果、ボールの回転が円滑ではなくなったり、境界部分の見た目が悪くなったりするため、メンテナンスの必要が生じる。
本件訂正発明は、ボールが非貫通状態で支持される構成であるから、そのような問題は生じない。
(平成29年6月9日付け上申書第2ページ第19行?第4ページ第20行)

(1-2)甲1発明、及び本件訂正発明との対比について
本件訂正発明に対応する甲1発明は、以下のとおりとすべきである。

「ハンドルの先端に一対の円形体を、相互間隔をおいて一軸線を中心に回転可能か否か不明な状態で支持したマッサージ器において、
円形体の軸線をハンドルの中心線に対して前傾させて構成し、
一対のボール支持軸の開き角度を約80度とし、
一対の円形体の直径を10とした場合の一対の円筒体の外周面間の間隔の相対値は4であり、
前記円形体は、貫通状態で支持軸に軸受部材を介さずに支持されており、
人体の部位を引っ張り、押して筋肉をほぐしてくれるが、円形体の外周面を肌に押し当ててハンドルの先端から基端方向に移動させることにより肌が摘み上げられるか否か不明な
マッサージ器。」

本件訂正発明と甲1発明とを対比すると、相違点は以下のとおりとなる。
(ア)相違点1
本件訂正発明は、ボールが回転可能であるのに対して、甲1発明の円形体は回転可能か否か不明である点。

(イ)相違点2
本件訂正発明は、一対のボールの外周面間の間隔を10?13mmとしているのに対して、甲1発明の一対の円形体の間隔は不明な点。

(ウ)相違点3
本件訂正発明は、ボールは、ボール支持軸に軸受部材を介して支持されているのに対して、甲1発明の円形体は、支持軸に軸受部材を介さず支持されている点。

(エ)相違点4
本件訂正発明は、ボールは、非貫通状態で支持されているのに対して、甲1発明の円形体は、貫通状態で支持されている点。

(オ)相違点5
本件訂正発明は、ボールの外周面を肌に押し当ててハンドルの先端から基端方向に移動させることにより肌が摘み上げられるようにしたのに対して、
甲1発明は人体の部位を引っ張り、押して筋肉をほぐすが、円形体が回転可能か否かも不明であるため、円形体の外周面を肌に押し当ててハンドルの先端から基端方向に移動させることにより肌が摘み上げられるか否か不明な点。
(平成29年6月9日付け上申書第7ページ第17行?第8ページ第22行)

(1-3)円形体の支持態様について
甲1発明の円形体が回転するとの請求人の認定が誤りであるのは、以下の理由による。

まず、甲1発明の円形体に関して、透明体で形成されていることは、甲第1号証の1に記載されており、かつ、円形体の中心に支持軸のように見えるものが通っていることは、図から理解できる。しかし、円形体が回転するか否かは明記されておらず、不明である。

また、意匠図面からも、円形体が回転するものと一義的に認定できるものではない。
例えば、甲1発明の円形体が回転するためには、ボール支持軸の断面が円形でなくてはならないが、甲第1号証の1の各図面からは、ボール支持軸の断面が円形とは断定することができない。また、各図面からは、円形体とボール支持軸との間にクリアランスも認められない。クリアランスが認められないから、甲1発明は円形体を回転させる意図がないと推測できる。さらには、円形体をボール支持軸に回転可能に支持するのであれば、ボール支持軸と円形体とは相対移動可能な関係にあるため、円形体の抜け止めが必要となる。しかし、甲第1号証の1の図(甲第1号証の3の拡大図)から、ボール支持軸の先端は同径のまま円形体から突出しており、抜け止めはされていない。支持軸の太径の部分が抜け止めの作用を果たしていると考える余地もあるが、少なくとも、同図面から一義的に判断することはできない。

さらに、先端等に球状の部材を有するマッサージ器において、その球体が回転しない公知技術は複数存在する(乙第1ないし3号証)。このような中で、「円形体は回転する」との具体的記載がない甲1発明について「円形体は回転する」と認定することはできない。

なお、請求人は、Y字状又はV字状の一対のローラ又はボールによる回転体を備える美容器を移動させれば、肌を摘み上げる作用が生じることは、周知であると主張するが、かかる主張内容は、甲1発明の円形体が回転するかどうかの認定には、影響しない。
(平成28年11月22日付け答弁書第4ページ第14行?第5ページ最下行、第9ページ第15行?第10ページ第4行)

(2)無効理由1-1に対する反論
ア 相違点1について
相違点1については、回転可能か否か不明ということは、回転による作用を意図したものか否かも不明ということになるから、円形体を回転可能に支持させることは、容易でない。また、円形体が回転しないものであれば、意図的に回転しない構成を採用するものとなるから、それを回転させる構成とすることは、甲1発明の意図に反するものであり、そのような動機付けは存在しない。
(平成28年11月22日付け答弁書第9ページ第26行?第10ページ第1行、平成29年6月9日付け上申書第8ページ第23行?第9ページ最下行)

イ 相違点2について
甲第33号証の1には、単に球の直径の例として2?8cmの数字が開示されているだけであり、甲第33号証の1に示された構成において球の直径を変更してもよいという例にすぎない。
また、甲第33号証の1は「揉み、長手方向のたたき、およびドレナージュ作用を同じ作用で一緒に結合したマッサージ器に関する。」と記載されている(甲第33号証の3第2ページ)。一方、甲1発明は「揉み、長手方向のたたき、ドレナージュ作用」といった作用を奏するか否か不明であり、この点からも甲第33号証の球の直径を甲1発明に適用する動機付けはない。
(平成29年9月25日付け口頭審理陳述要領書3第4ページ下から第2行?第5ページ第10行)

ウ 相違点3について
甲1発明の円形体を軸受部材を介して支持軸に支持させる構成は採用し得ない。
すなわち、甲1発明の円形体は「透明体」で形成されており、内部が見えるようにデザインされたものである(甲第1号証の2)。これは、デザイン性から意図的に円形体の内部に位置する支持軸を外部から視認できるようにしたものである。
このため、甲1発明の円形体を、軸受部材を介して支持軸に支持させる構造とすれば、支持軸を外部から視認させることができなくなって、円形体を透明体で形成した意義が損なわれることとなり、当業者がそのような構成を採用することは考えられない。

また、甲1発明の円形体が回転可能と仮定すれば、甲1発明は甲1各図にあるとおり、円形体を軸受部材を介さず支持軸に直接支持させる構成により回転可能となっているのである。このため、たとえ、ボールを支持軸に軸受部材を介して支持される構成が公知であったとしても、甲1発明の円形体に対して、あえて部品点数や組み付けコストが発生する軸受部材を採用する動機付けはない。

エ 相違点4について
甲1発明の円形体を非貫通状態で支持させる場合、円形体の基端側に有底の穴を形成し、これに支持軸を挿入するに当たり、抜け止め手段として、円形体と支持軸とを接着剤で固定する構成が考えられる。
しかし、甲1発明の円形体は透明体で形成され、内部が見えるように意図的にデザインされていることから、円形体と支持軸とを接着剤で固定すると、その接着剤も外部から見え、円形体を透明体で形成して内部が見えるようにデザインした趣旨が損なわれてしまうこととなり、そのような構成は採用し得ない。このため、たとえ、ボールを非貫通状態で支持軸に支持させる構成が公知であったとしても、同構成を円形体の内部を見せることを意図した甲1発明に採用する動機付けは存在しない。

なお、ボールが非貫通状態で支持されている構成の作用効果については、上記(1-1)で述べたとおりである。本件訂正発明においては、貫通構成に伴う問題は生じ得ず、特にボール支持軸の角度範囲が狭くなりボールの先端が肌に当たりやすくなった構成においても、使用者は、躊躇することなくボール先端を肌に当ててマッサージを行うことができる。
一方、甲1発明は円形体が回転可能か否か不明であり、本件訂正発明の上記作用効果を奏するか否か不明である。仮に、甲1発明の円形体が回転可能とすると、円形体の先端側には、回転しない支持軸と回転する円形体との境界部分がむき出しで露出していることとなり、上記した問題が存在する。

オ 相違点5
相違点1において説明したように、甲1発明の回転可能か否か不明な円形体を回転可能とすることは容易ではない。そして、肌の摘み上げは円形体が回転可能であることにより初めて生じるのであるから、円形体を回転可能とすることが容易ではない理由と同様の理由により同作用を奏することは容易ではない。
このため、たとえ、ボールの外周面を肌に押し当ててハンドルの先端から基端方向に移動させることにより肌が摘み上げられるようにした構成が公知であったとしても、甲1発明に対して同構成を採用する動機付けは存在しない。
(平成29年6月9日付け上申書第13ページ第13行?第17ページ下から第2行)

(3)無効理由1-2に対する反論

ア 相違点2について
相違点2については、甲第1号証の1が意匠公報であるから、その図が正確な比率で示されていることに特に異論はない。しかしながら、そもそも、「ハンドル長さ」は、曖昧な概念であり、甲第7ないし11号証のハンドルとの間で、共通する概念を観念できないため、間隔を算出する根拠にはなり得ない。
また、甲第6ないし9号証に記載のボールの直径を甲1発明の直径と間隔の比率に適用して、算出した間隔について、その数値に妥当性がなく、相違点2が容易想到である理由はない。なぜなら、甲第6ないし9号証に記載されているものは、一対のボール支持軸の開き角度を80度とした甲1発明とは構成が全く相違するからである。そのような組み合わせの論理自体に誤謬が存在する。また、甲第6ないし9号証のボールの直径だけを甲1発明に適用する動機付けはなく、さらに、回転するボールの直径を適用する動機付けもない。
(平成28年11月22日付け答弁書第6ページ第3行?第8ページ第11行、第10ページ第5行?第12ページ第12行)

本件訂正発明は、間隔を「10?13mm」の範囲としているため甲第6ないし9号証のうち、甲第7ないし9号証のボール等の直径を甲1発明に適用しても、本件訂正発明の間隔「10?13mm」には想到しない。特に、甲第6号証については、その記載事項に基づく動機付けはなく、甲1発明と甲6発明との間に、基本的構成、使用方法、及び作用機能の相違があるため、動機付けは存在しない。
(平成29年6月9日付け上申書第10ページ第1行?第13ページ第12行)

第6 無効理由1-1及び無効理由1-2についての当審の判断
1 各甲号証の記載内容

(1)甲第1号証の1
ア-1 甲第1号証の1に記載された事項
甲第1号証の1には、「マッサージ器」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。
なお、括弧内の日本語は、請求人による仮訳に準じたものである。また、図面から看取される事項については、韓国意匠公報の図面が正投影図法により作成されたものであること(甲第24号証の1及び2)を考慮したものである。

(ア)意匠の対象になる物品・意匠の説明・意匠の創作内容

(意匠の対象となる物品
マッサージ器
意匠の説明
1.材質は合成樹脂材である。
2.本願意匠の上部に形成されている2つの円形体は、透明体で形成されており、内部が見えるようにデザインしたものである。
意匠創作内容の要点
本願マッサージ器は、人体の部位を引っ張り、押して筋肉をほぐすマッサージ器であって、安定感と立体感を強調し、新しい美感を生じさせるようにしたことを創作内容の要点とする。)

(イ)甲第1号証の3の構成部位説明図1/2(以下「説明図1」という。)を参照しつつ、甲第1号証の1の正面図(以下、単に「正面図」ということがある。)から、次の点を看取することができる。

なお、上掲の説明図1(甲第1号証の3)は、正面図に請求人がマッサージ器の構成部位の説明等を書き入れた図である。

a マッサージ器は、正面視で略Y字形状を呈しており、正面図上下方向に延びる部分(説明図1で「ハンドル」と図示された部分。以下「部分A」という。)、及び、部分Aの上部から正面図右上及び左上方向に延びる、ほぼ左右対称な二股状の部分(以下「二股部分」という。)を有しており、二股部分に2つの「円形体」が位置すること。

b 部分Aは、正面図上下方向を向く中心線(説明図1で「ハンドルの中心線」と図示された線。以下「中心線A」という。)に沿って、一定の長さ(説明図1で「ハンドルの長さ」と図示された長さ)を有していること。

c 二股部分は、正面図右上及び左上方向を向く軸線(以下「軸線B」という。)に沿って、一定の長さ(左右の長さは概ね同じ)の軸を有しており、左右の各々の軸において、部分A側と先端との間には、軸線Bに垂直な方向の幅が狭い凹状の部分(以下「凹み部分」という。)を有していること。また、凹み部分は、二股部分の軸のうち、「円形体」が位置する部位に設けられていること。
(請求人要領書30ページの上図)

d 「円形体」は、正面視略円形(ただし、軸線B方向の両端が部分的に切り欠かれている。)を呈しており、軸線Bは、当該正面視略円の中心を通る軸線(説明図1で「ボールの軸線」と図示された線)でもあること。

e 2つの軸線Bは中心線Aにおいて交差し、2つの軸線Bのなす角度は80°であること。

f 2つの「円形体」は、正面視で相互に一定の間隔(説明図1で「円形体の外周面間の間隔」と図示された間隔)をおいて位置していること。

(ウ)甲第1号証の3の構成部位説明図2/2(以下「説明図2」という。)を参照しつつ、甲第1号証の1の左側面図(以下、単に「左側面図」ということがある。)から、次の点を看取することができる。

なお、上掲の説明図2(甲第1号証の3)は、左側面図に請求人がマッサージ器の構成部位の説明等を書き入れた図である。

g マッサージ器は、側面視で略への字形状を呈しており、部分Aの上部から、左側面図右上方向に延びる部分(以下「部分B」という。)を有しており、部分Bに「円形体」が位置すること。

h 部分Bは、左側面図右上方向を向く軸線(説明図2で「ボールの軸線」と図示された線)に沿って、一定の長さを有しており、当該軸線は、部分Aの中心線Aに対して、左側面図右上方向に傾斜していること。

i 「円形体」は、側面視略円形を呈していること。

(エ)上記認定事項(イ)及び(ウ)に照らせば、部分Bは二股部分に相当し、部分Bの上記軸線は軸線Bに相当するものと認められる。したがって、二股部分の軸線(「円形体」の軸線でもある。)は、部分Aの中心線Aに対して、左側面図右上方向に傾斜しているということができる。

(オ)左側面図の上方向を「前方向」であると定義すれば、上記(エ)の「二股部分の軸線(「円形体」の軸線でもある。)は、部分Aの中心線Aに対して、左側面図右上方向に傾斜している」とは、「円形体」の軸線は、中心線Aに対して「前傾」している、と言い換えることができる。

(カ)上記(ア)の「材質は合成樹脂材である。」及び「2つの円形体は、透明体で形成されており、内部が見えるようにデザインしたものである。」との記載に照らせば、「2つの円形体」は、二股部分とは別体の部材であって、透明な合成樹脂材で形成されたものであると認められる。
また、上記認定事項(イ)及び(ウ)に照らせば、「円形体」は、球ないしボール形状の部材であると認められる。
さらに、甲第1号証の1の斜視図、正面図、左側面図、平面図、及び底面図の各図面において、透明な「円形体」の内部における二股部分の態様を看取することができ、これらの図面の図示内容を総合すると、「円形体」は、その軸線において二股部分により貫通されるように構成されているものと認められる。

(キ)上記(ア)の「本願マッサージ器は、人体の部位を引っ張り、押して筋肉をほぐすマッサージ器」の記載に照らせば、部分Aとは、マッサージ器を使用する者が把持する部分である「ハンドル」であり、「2つの円形体」とは、人体の部位に宛がって、当該部位を引っ張り、押す部分であると認められる。また、部分Aの中心線Aは、「ハンドルの中心線」であり、部分Aの上記一定の長さとは、「ハンドルの長さ」であると認められる。

(ク)上記認定事項(カ)及び(キ)に照らせば、マッサージ器としての機能を果たすために、「2つの円形体」と二股部分との位置関係を一定に保ち、「2つの円形体」が人体の部位から受ける力を貫通する二股部分で支える必要がある。そうすると、「2つの円形体」は、二股部分によって「支持」されているものと認められる。また、二股部分は、「2つの円形体」を「支持」する軸(説明図1及び2において「ボール支持軸」と図示された部分。以下、「円形体の支持軸」又は単に「支持軸」という。)を有し、円形体の支持軸は凹み部分を含む、ということができる。

(ケ)上記認定事項(イ)及び(ク)に照らせば、「2つの円形体」は、「ハンドル」の先端部において、相互間隔をおいて、それぞれ「円形体」の軸線たる一軸線を中心に支持されているものと認められる。

(コ)上記(ア)の「本願マッサージ器は、人体の部位を引っ張り、押して筋肉をほぐすマッサージ器」の記載に照らせば、マッサージ器は、「往復動作」するものと認められる。
また、上記認定事項(エ)、(オ)、(キ)?(ケ)に照らせば、マッサージ器は、「往復動作中」に「円形体の軸線が人体の部位の面に対して一定角度を維持できるように」したものであると認められる。

(サ)甲第1号証の4(正面図の実測図)より、「円形体」の直径を10とした場合における、「2つの円形体」の外周面間の間隔の相対値は、概ね4であると認められる。

なお、上掲の図(甲第1号証の4)は、正面図に請求人が実測したマッサージ器の構成部位の寸法等を書き入れた図である。

ア-2 円形体の支持態様について

円形体の支持軸における円形体の支持態様については、請求人と被請求人との間で、「回転可能」であるか否かで争いがある。そこで、以下、「回転可能」の場合と「回転不可」の場合について検討する。

ア-2-1 「回転可能」の場合について

まず、マッサージ器の基本構成、操作及び作用の観点から検討する。

後記(甲3及び4事項、甲13及び14事項、並びに、甲26、27及び33事項参照)のとおり、多数の先行技術文献が存在することからみて、ハンドルの一端に、一対の略球形又は円筒形の回転体をV字状に軸支したマッサージ具を用い、当該回転体を肌に宛がって押し引きを繰り返すことで、肌を摘み上げるマッサージを行うことは、本件原出願の出願日前における技術常識であると認める。

一方、甲第1号証の1のマッサージ器は、ハンドルの一端に、略球形の2つの円形体をV字状に軸支したものであって、上記認定事項(キ)のとおり、2つの円形体を人体の部位に宛がって、「人体の部位を引っ張り、押して筋肉をほぐす」という作用を有するものである。

ここで、2つの円形体が「回転可能」であると仮定すると、円形体は「回転体」に相当することになるから、甲第1号証の1のマッサージ器と当該技術常識のマッサージ具とは、その基本構成が一致することになる。

また、甲第1号証の1のマッサージ器は、人体の部位に2つの円形体を宛がって往復動作を行うものであるから、両者は、回転体を肌に宛がって押し引きを繰り返すという操作も一致する。
かかる操作によって、当該技術常識のマッサージ具は「肌を揉み上げる」作用を奏するところ、「肌を摘み上げる」とは、一対の回転体の間に肌が挟まれて、上方向に引っ張り上げられることを意味する。また、押し引きを繰り返す操作において、「肌を摘み上げる」作用が生じる方向とは逆の方向に、ハンドルを操作すれば、「肌を押し広げる」作用が生じることは明らかであり、「肌を摘み上げる」作用と「肌を押し広げる」作用を繰り返すことで、筋肉がほぐされることも明らかである。
そうすると、当該技術常識のマッサージ具の作用は、「肌を引っ張り、押して筋肉をほぐす」という表現に言い換えることが可能であり、両者は、基本構成及び操作に加えて、作用においても共通するということができる。

次に、円形体の支持軸の形状から検討する。

円形体の支持軸は、上記認定事項(ク)のとおり、軸とは別体の円形体を支持し、凹み部分を含むものである。
そして、円形体のうち、凹み部分に対応する箇所には、上記(ア)の「2つの円形体は、透明体で形成されており、内部が見えるようにデザインしたものである。」との記載、並びに、甲第1号証の1の斜視図、正面図、左側面図、平面図、及び底面図の図示内容に照らせば、凹み部分の形状に対応する部分(以下「凸部分」という。)が存在するものと認められる(なお、仮に、凸部分が存在しない場合には、円形体の貫通孔の内径は、凹み部分に対応する箇所において、凹み部分の外径よりも大きくなるとともに、かかる貫通孔の存在が意匠の美感に影響を与えるものであるため、その存在を示す線がいずれかの図面に描写されていたはずである。)。

(請求人要領書34ページの図)

そうすると、凸部分は、円形体が円形体の支持軸に対して相対的に移動する、すなわち、「回転可能」であることを前提として、円形体が円形体の支持軸から抜けないようにするための「抜け止め」として機能するものと理解するのが妥当である。

また、凸部分が「抜け止め」として機能するとすれば、円形体の支持軸が円形体を貫通する構成を採用する理由を合理的に説明することが可能である。すなわち、円形体の支持軸の先端部には、凸部分に対応する「抜け止め部」が存在することとなり、製造上の理由から、(A)円形体を2つに分割しておき、当該「抜け止め部」を挟み込むように、分割した2つの円形体を組み立てる工程(参考断面図A参照)、若しくは、(B)当該「抜け止め部」は、円形体の支持軸の基端側とは分離しておき、「抜け止め部」と円形体と円形体の支持軸とを組み立てる工程(参考断面図B-1及びB-2参照)が必要である。このため、円形体の支持軸が円形体を貫通する構成とするのが合理的である。

(請求人要領書30ページの図)

(請求人要領書31ページの図)

このように、2つの円形体が「回転可能」であると仮定した場合には、当該技術常識に照らして、甲第1号証の1のマッサージ器と当該技術常識のマッサージ具とは、その基本構成及び操作が一致し作用が共通するとともに、凹み部分及び凸部分の存在理由や円形体を貫通する構成を採用する理由を合理的に説明することが可能である。

ア-2-2 「回転不可」の場合について

2つの円形体が「回転不可」であると仮定すると、甲第1号証の1のマッサージ器は、ハンドルの一端に、略球形の2つの円形体をV字状に軸支したものであって、2つの円形体は円形体の支持軸に固定されたものとなる。

2つの円形体が固定された構成のマッサージ器の場合、公知技術(乙第1ないし3号証)等も考慮すると、想定されるマッサージの態様としては、(i)2つの円形体で人体の部位を「叩くマッサージ」と、(ii)2つの円形体で人体の部位を「圧迫するマッサージ」と、(iii)2つの円形体で人体の部位を「摩擦するマッサージ」の3つの態様が挙げられる。

しかしながら、上記(i)の場合、「人体の部位を引っ張り、押して筋肉をほぐす」というマッサージ器の作用とは、明らかに整合しない。上記(ii)の場合、「人体の部位を・・・押して」の作用は整合するとはいえるが、「人体の部位を引っ張り」の作用は整合しない。

また、上記(iii)の場合には、摩擦作用を奏するために、ハンドルの往復操作が必要となり、往復動作中における摩擦面たる人体の部位の動きを「人体の部位を引っ張り、押して」と表現することも可能である。そうすると、摩擦するマッサージは、「人体の部位を引っ張り、押して筋肉をほぐす」という作用と、一応、表現上整合するといえる。しかしながら、この場合、人体の部位に宛がう部分となる円形体は、球ないしボール形状という形態からみて、肌との密着度が低く、摩擦するマッサージには不向きであると認められるから、そのような「円形体」があえて採用されているとするのは、極めて不自然である。

なお、上記(i)?(iii)のいずれの場合であっても、円形体を一対設けたり、円形体の一部を切り欠いて、円形体の支持軸を貫通したり、凹み部分及び凸部分を設ける合理的な理由は、見出せない。

このように、2つの円形体が「回転不可」であると仮定した場合には、マッサージ器の作用を整合的に説明することはできず、また、仮に整合的に説明することができたとしても、極めて不自然なマッサージ器の形態を採用することとなる。

ア-2-3 被請求人の主張について
被請求人は、甲1発明の円形体が回転するとの認定は誤りであるとして、以下の点を主張する。
(i)甲第1号証の1には、円形体が回転するか否かは明記されていない。
(ii)甲第1号証の1の各図面からも、円形体が回転すると一義的に認定できない。例えば、支持軸の断面が円形とは断定することができず、円形体と支持軸との間にクリアランスも認められない。また、円形体が回転可能であれば、円形体の抜け止めが必要となるが、図面上、円形体の支持軸の先端は同径のまま円形体から突出しており、抜け止めはされていない。
(iii)先端等に球状の部材を有するマッサージ器において、その球体が回転しない公知技術は複数存在する(乙第1ないし3号証)。

しかしながら、円形体の支持軸の断面形状については、甲第1号証の1の正面図、左側面図、及び平面図における支持軸の径をCAD上で測定すると、同一の値となるから(下記図参照)、円形体の支持軸の断面形状は、幾何学的常識からすれば、円形状であると認定するのが相当である。

(請求人要領書33ページの図)

また、円形体と支持軸との間のクリアランスについては、そもそも、甲第1号証の1の図面は、意匠図面であるから、円形体と支持軸との間にクリアランスが存在するとしても、クリアランスは、通常、図面で表現できないほど小さいものである。したがって、甲第1号証の1の図面から、クリアランスが看取されないからといって、クリアランスが存在せず、円形体が回転しないことにはならない。

さらに、抜け止めに関する主張は、上記ア-2-1において、球体が回転しない公知技術に関する主張は、上記ア-2-2において、それぞれ検討したとおりである。

したがって、被請求人の上記主張は、採用することができない。

ア-2-4 小括
(シ)以上のことから、円形体の支持軸における円形体の支持態様については、「回転可能」であるとするのが妥当である。

イ 甲第1号証の1記載の発明(甲1発明A)

そこで、上記記載事項(ア)及び認定事項(イ)?(シ)を、図面を参照しつつ、技術常識を踏まえて、本件訂正発明に照らして整理すると、甲第1号証の1には、以下の発明が記載されているものと認める(以下「甲1発明A」という。)。

「ハンドルの先端部に一対の円形体を、相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に回転可能に支持したマッサージ器において、
往復動作中に円形体の軸線が人体の部位の面に対して一定角度を維持できるように、円形体の軸線をハンドルの中心線に対して前傾させて構成し、
一対の円形体の支持軸の正面図上のなす角度を80°とし、
一対の円形体の直径を10とした場合の一対の円形体の外周面間の間隔の相対値を4とし、
円形体は、貫通状態で軸受部材を介さずに支持されており、
人体の部位を引っ張り、押して筋肉をほぐしてくれる
マッサージ器。」

ウ 甲第1号証の1記載の発明(甲1発明B)

円形体の支持態様については、上記ア-2で検討したところに照らして、「回転可能」であると認定するのが妥当ではあるものの、仮に、上記認定事項(シ)を除いた場合についても、甲第1号証の1記載の発明を認定することとする。

そこで、上記記載事項(ア)及び認定事項(イ)?(サ)を、図面を参照しつつ、技術常識を踏まえて、本件訂正発明に照らして整理すると、甲第1号証には、以下の発明が記載されているものと認める(以下「甲1発明B」という。)

「ハンドルの先端部に一対の円形体を、相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に回転可能か否か不明な状態で支持したマッサージ器において、
往復動作中に円形体の軸線が人体の部位の面に対して一定角度を維持できるように、円形体の軸線をハンドルの中心線に対して前傾させて構成し、
一対の円形体の支持軸の正面図上のなす角度を80°とし、
一対の円形体の直径を10とした場合の一対の円形体の外周面間の間隔の相対値を4とし、
円形体は、貫通状態で軸受部材を介さずに支持されており、
人体の部位を引っ張り、押して筋肉をほぐしてくれる
マッサージ器。」

(2)甲第2号証
甲第2号証には、「マッサージ具」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

ア 「【0006】
【発明の実施の形態】図1のマッサージ具1は、回転軸体8と、その回転軸体8の両端に嵌着した弾性体であるマッサージ部2とその回転軸体8を支持する把持部4とから成る。上記の弾性体であるマッサージ部2は、左右2つの円柱体3、3から成るが、球体、或いは回転楕円体等を用いてもよい。2つの内側側面部3aが顎の輪郭を中心にして両側から顎の皮膚表面に当接するため、マッサージ効果のある部位、即ち顎の表情筋にマッサージを行える道具となる。」

(3)甲第3号証
(3-1)甲第3号証に記載された事項
甲第3号証には、「美肌ローラ」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。なお、下線部は、当審で付したものである。

ア 「【0010】
(第1の実施例)
図1は第1の実施形態の車両における美肌ローラを示す図である。また、図2は第1の実施形態の美肌ローラの側面図である。
【0011】
図1及び図2に示すように、本実施形態の美肌ローラは、柄10と、柄10の一端に一対のローラ20と、を備える。また、太陽電池30を備えていてもよい。
【0012】
図3は本実施形態の美肌ローラのローラ部分の拡大図である。図3に示すように、ローラ20の回転軸φ1、φ2が、柄10の長軸方向の中心線Xとそれぞれ鋭角θ1、θ2に設けられ、一対のローラ20の回転軸φ1、φ2のなす角が鈍角θ0に設けられる。」

イ 「【0015】
次に、第1の実施例の作用を説明する。本実施形態の美肌ローラを肌に押し付け、図3に示す矢印Aの方向に押す。このとき肌は両脇に引っ張られ、毛穴が開く。これにより、毛穴の奥の汚れが毛穴の開口部に向けて移動する。
【0016】
さらに、本実施形態の美肌ローラを肌に押し付けたまま矢印Bの方向に引く。このとき、肌は一対のローラの間に挟み込まれ、毛穴は収縮する。これにより、毛穴の中の汚れが押し出される。
【0017】
この押し引きを繰り返すことにより、毛穴の奥の汚れまで効率的に除去することが可能となる。」

ウ 「【0020】
軽く押さえつけながらローラ20を回転させれば、適度な圧でリンパに働きかけ、顔および全身のリフトアップマッサージができる。引けばつまみ上げ、押せば押し広げるという2パターンの作用により、こり固まったセルライト、脂肪を柔らかくもみほぐす。これにより、セルライト、脂肪を低減させることが可能となる。
【0021】
以上述べたように、本実施形態の美肌ローラは一対のローラ20を角度をつけて柄10の一端に設けた。このため、ローラ20を肌に押し付けて押し引きすることにより、効率的に毛穴の汚れを除去することが可能となるという効果がある。」

(3-2)甲3事項
上記記載事項アないしウを、図面を参照しつつ、技術常識を踏まえて整理すると、甲第3号証には以下の事項が記載されていると認める。(以下「甲3事項」という。)

「柄10の一端に、一対のローラ20をV字状に回転可能に軸支した美肌ローラを用い、ローラ20を肌に押し付けて押し引きを繰り返すことで、肌を摘み上げる作用が生じること。」

(4)甲第4号証
(4-1)甲第4号証に記載された事項
甲第4号証には、「マッサージ具」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。なお、下線部は、当審で付したものである。

ア 意匠に係る物品の説明
「本物品は、健康や美容のために、足首からふくらはぎ、二の腕等の肌や筋肉をマッサージするための器具である。本物品のローラーを肌上でころがしながらグリップ部を肌に対し立てたり寝かせたりするなど角度を変えると、軸部の高さがローラー高さより大きいために、ローラーが中心へ向かって動き、肌や筋肉をググッとつまみあげるというマッサージ効果を得ることができる(使用状態を示す参考図(1)、(2)参照)。」

イ 使用状態を示す参考図(1)から、マッサージ具の使用状態において、ローラーを肌に宛がって押し引きを繰り返すことを看取することができる。

(4-2)甲4事項
上記記載事項ア及び認定事項イを、図面を参照しつつ、技術常識を踏まえて整理すると、甲第4号証には以下の事項が記載されていると認める。(以下「甲4事項」という。)

「グリップ部の一端に、一対のローラーをV字状に回転可能に軸支したマッサージ具を用い、ローラーを肌に宛がって押し引きを繰り返すことで、肌を摘み上げる作用が生じること。」

(5)甲第5号証の1
甲第5号証の1には、「マッサージ器」に関して、図面とともに、以下の日本語訳で示される事項が記載されている。なお、日本語訳は、請求人による仮訳に準じたものである(以下同様)。

ア 意匠の対象になる物品・意匠の説明・意匠の創作内容
「意匠の対象となる物品
マッサージ器
意匠の説明
1.材質は合成樹脂材である。
意匠創作内容の要点
本願マッサージ器は、人体の部位を引っ張り、押して筋肉をほぐすマッサージ器であって、安定感と立体感を強調し、新しい美感を生じさせるようにしたことを創作内容の要点とする。」

(6)甲第6号証
甲第6号証には、「マッサージ用具」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。なお、下線部は、当審で付したものである。

ア 3欄38行?4欄1行
「本考案では、ボールはケース内凹部に収納された状態で自由に回転する。そのためマツサージ用具を手で持つて、ボールのケースから突出している部分を自分の手や足、首筋、腹部などの各所、または他人の体に押し当てながらボールを転動させると、回転するボールの多数の突起がつぎつぎと押圧している部分を刺戟するため、快適な指圧効果が奏される。」

イ 4欄26?34行
「第1?2図において1はケース本体であり、そのケース本体はカバー2と共に収納ケース10を構成している。ケース本体1の上面側には、少なくとも2個のボール3を収納しうる凹部4が形成されている。凹部4の大きさは、たとえば直径28mm前後のボール3を2個、40?80mmピツチで、いくらか余裕をもつて収容しうる大きさであり、凹部4の深さはボール3のほぼ半分程度を収容しうる深さである。」

(7)甲第7号証
甲第7号証には、「回転マッサージ具」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。なお、下線部は、当審で付したものである。

ア 「【0003】
・・・本発明は、皮膚に適用した時に、温熱剤、冷却剤又は保水剤が有する効果に加え、マッサージ効果や皮膚刺激作用等を伴う構成を有し、手軽でかつ使用感に優れたマッサージ具を提供することを目的とする。」

イ 「【0007】
・・・また、把手部の形状も種々可能であり、例えば巾1cm、長さ10?15cm程度のプラスチック板を2枚折り重ねたものが使いやすく便利である。」

ウ 「【0022】
・・・硬質ポリエチレンからなるプラスチック製容器1は、外径約5cmの略球状で、中空となっている。・・・非通気性のフィルム袋を破袋後、保湿クリームを塗った皮膚面に、プラスチック製容器1を回転させて使用したところ・・・」

エ 「【0024】
・・・化粧水を含浸させたスポンジを封入してなる保水剤を収納して本発明の回転マッサージ具を得た。頬にあてて使用したところ・・・」

(8)甲第8号証
甲第8号証には、「手動マッサージ器」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。なお、下線部は、当審で付したものである。

ア 「【0001】
・・・この発明は手動マッサージ器に関し、詳しくは回転自在の球体をからだの表面に転がして皮膚および筋肉をほぐすための器具に関する。」

イ 「【0009】ここで、開口7の内径D1と主ボール3の外径D2と、補助ボールの外径D3との関係は、・・・具体的な数値例を示すと、D1=60mm、D2=40mm、D3=10mm、L=2mm、A=16mmであり、把手5の直径D4=20mm、長さS=90mmである。・・・」

(9)甲第9号証
甲第9号証には、「マッサージ具」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。なお、下線部は、当審で付したものである。

ア 「【0001】
・・・本発明は、マッサージ具に関し、特に、身体の表面に指圧球を回転させながら押圧することによりマッサージを施すことのできる手動式のマッサージ具に関する。

イ 「【0014】ボール3は、ゴルフボール大の大きさを有する球体であり、直径4cm?8cmくらいのサイズであることが好ましい。」

(10)甲第10号証
甲第10号証には、「磁気指圧器」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

ア 7ページ15?16行
「ハンドル1自体の全長はほぼ125mm」

(11)甲第11号証
甲第11号証には、「ボールローラーマッサージャー」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

ア 「【0009】
・・・全長は2のハンドルを含めて130mm程度とする。」

(12)甲第12号証
甲第12号証には、「美顔ローラー」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

ア 3ページ5?20行
「(作用)
上述のように柄(1)の一端にローラー(4)をV字状に軸支することで、面に押し付けたローラーを傾斜させて真横に推進させた時、面とローラー双方の擦れ合う軌跡は螺旋状に生じるが、その作用をV字状に軸支する2本のローラー(4)各々に生起させ得、しかも2本のローラー(4)はV字状に軸支されて傾斜軸か相反するので、一方は下方に、他方は上方に螺旋状に擦れ合う作用を及ぼし、皮膚面(5)は弾力性があるので、各々のローラー(4)の周壁面を埋め込むように摺接し易く、又、微細な突起を有するローラー(4)はフラットな表面に近いなからも、既述の作用が併合的に複合して皮膚面(5)上にマッサーシ効果のある刺激ともみ上げ及びもみ下げ効果を同時に皮膚面(5)に及ほす。」

(13)甲第13号証
(13-1)甲第13号証に記載された事項
甲第13号証には、「Y字型美容ローラー」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。なお、下線部は、当審で付したものである。

ア 「【0012】
該柄部3とローラー部4とはローラー部4が小さな抵抗を感じつつ回動自在となるよう接続されている。両者は例えばベアリングにより接続されていてもよい。
図4を参照して説明すると、本考案のY字型美容ローラーは、弾力素材のラインが1本ないし複数本、円周方向に設けられた2つの円筒ローラー部を、T字ではなく略Y字型の柄に配置した。このため、図4での下方向へ柄を引くと、美容ローラー全体が適用部位上を移動しながら、摩擦をうけて、ローラー部4が、図4での反時計回り方向に回転する。このことでローラーを引く力を適度な挟圧に変換する。しかも、ローラー部4の取り付けにあたっては、接触面に対して平行や垂直ではなく、先端部がより深く接触し、つけね部が浅く接触するように、柄のY字が同一平面外になり傾きを生じるような屈曲を設けた。したがって、この美容ローラーで挟圧をうけた部位はローラーの回転方向にしたがって、ソフトにつまみあげられる。すなわち、本考案の美容ローラーは、つまみあげるような動きを容易に実現できる利点がある。」

イ 「【0013】
本考案により、柄部を持ち、ほぼ中心線方向の下方に引くだけで、ローラー部と接触する部位に適切な挟圧とつまみあげ効果を与えることができる美容ローラーを得られたので、美容産業に貢献することができる。」

(13-2)甲13事項
上記記載事項ア及びイを、図面を参照しつつ、技術常識を踏まえて整理すると、甲第13号証には以下の事項が記載されていると認める。(以下「甲13事項」という。)

「柄の一端に、一対の円筒ローラー部を回転可能に軸支したY字型美容ローラーを用い、ローラー部を肌に宛がって押し引きを繰り返すことで、肌を摘み上げる作用が生じること。」

(14)甲第14号証
(14-1)甲第14号証に記載された事項
甲第14号証には、名称を「ソフィル・イー」とするマッサージ器に関して、写真とともに、以下の事項が記載されている。

ア 26ページ上から第3段の右から14?17行
「プロのエステティシャンのハンド技術を取り入れたもので、先っぽの2つのボールが肌の上を転がり、ギュッとつまみながら引きあげる。」

イ 27ページ左上の写真の下
「頬やフェイスラインがギューンと上がるんですよ。友人にも勧めています」

ウ 甲第14号証の26ページ右下、同27ページ左上及び左下の写真から、ハンドルの一端に一対のボールが取り付けられたマッサージ器が看取される。

(14-2)甲14-1事項
上記記載事項ア及びイ、並びに上記認定事項ウを、写真を参照しつつ、技術常識を踏まえて整理すると、甲第14号証には以下の事項が記載されていると認める。(以下「甲14-1事項」という。)

「ハンドルの一端に、一対のボールを軸支したマッサージ器を用い、2つのボールを肌の上で転がすことで、肌を摘み上げる作用が生じること。」

(14-3)甲14-2事項
また、上記記載事項ア及びイ、上記認定事項ウ、並びに写真から、甲第14号証には以下の事項が記載されていると認める。(以下「甲14-2事項」という。)

「非貫通状態のボールを使用して、皮膚をマッサージすること。」

(15)甲第17号証
(15-1)甲第17号証に記載された事項
甲第17号証には、「マグネット美容ローラ」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

ア 「【0019】
以下、本考案の実施例について、具体的に説明する。本考案に係るマグネット美容ローラ1は、図1に示すように、柄本体部2と、ローラ部5とによって構成される。」

イ 「【0020】
前記柄本体部2は、本実施例では亜鉛合金によって成形され、図2及び図3に示されるように、使用者によって保持される把持部3と、この把持部3から一方の側に角度αで、例えば手前側に傾斜すると共に、角度βで両側に広がるように延出するローラ保持部4とによって構成され、さらにローラ保持部4は、前記把持部3から分かれて延出する大径部4aと、その先端に一体に形成された小径部4bとによって構成される。この小径部4bには、下記するベアリング8が固着される。また、前記把持部3は、一端側の前記ローラ保持部4の分岐部分から他端側に向けて漸次大きくなるように形成され、持ちやすさを向上させるものである。さらに、把持部3の断面は、この実施例では長円形状に形成されるものであるが、円形であっても良いものである。」

ウ 「【0023】
また、前記ローラ部5のローラ本体部50には、軸方向に形成された小径孔53と大径孔54とが連設され、小径孔53には前記ローラ保持部4の小径部4bが挿通され、大径孔54には前記小径部4bに固着されたベアリング8が挿入され、前記大径孔54の内周面に固定される。これによって、前記ローラ部5は、前記ローラ保持部4に対して回転自在に保持されるものである。」

(15-2)甲17事項
上記記載事項アないしウを、図面を参照しつつ、技術常識を踏まえて整理すると、甲第17号証には以下の事項が記載されていると認める。(以下「甲17事項」という。)

「把持部3の先端部に一対のローラ部5を、相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に回転可能に支持したマグネット美容ローラ1において、ローラ部5は、非貫通状態でローラ保持部4の小径部4bにベアリング8を介して支持されていること。」

(16)甲第26号証の1
(16-1)甲第26号証の1に記載された事項
甲第26号証の1には、「MASSAGING DEVICE」(マッサージ器)に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。なお、下線部は、当審で付したものである。

ア 請求項1?請求項3

(以下を本発明としてクレーム主張する。
【請求項1】 支持ヘッドと、そこから突出するハンドルと、互いに対してほぼ直角にかつ前記ハンドルの軸に対してほぼ直角に前記ヘッドから突出する一対の心棒と、前記心棒に回転可能に設置された弾性材料の球形ローラとを組み合わせて有し、前記ローラが、その表面が実質的に接触しており、これにより前記ローラが押しつけられ皮膚に沿って移動される際、皮膚および肉を挟む動作が行われるようなサイズであるマッサージ器。
【請求項2】
・・・以下、訳文省略)

イ 明細書2ページ3欄28?74行

(実際には、マッサージ師はハンドル10によって器具を保持し、例えば16または19などの1セットの球形要素を患者の皮膚または肉に対して押しつけ、器具を皮膚または肉に沿わせて進ませる。球形要素は、皮膚または肉の上を転がる。ハンドルが仰角に対して傾けられ、器具が移動されるにつれて球形要素の軸の前方の対向するように配置された球面の一部が皮膚に噛み合うようにする際、軸の前方の皮膚および肉と噛み合った前記球形要素の一部が、器具を前進させる際、ローラが近接して隣接するために一方のローラと噛み合った肉の一部が、他方のローラが噛み合った肉の一部と相互に作用し合い、肉がローラの間で強制的に上に押し上げられるといった理由により、皮膚または肉に対して挟んだり収縮させたりする作用が行われる。ハンドルが仰角に対して傾けられ、器具が移動されるにつれて球形の軸の後方の対向するように配置された球形の一部が皮膚に噛み合うようにする際、前記球形のその軸の後方の皮膚および肉と噛み合った前記球形要素の一部が、器具を前進させる際、互いから離れるように転がり、それぞれのローラと噛み合った肉の一部が反対方向に引っ張られるといった理由により、皮膚または肉に対して伸ばしたり広げたりする作用が行われる。これにより、皮膚または肉に対する挟んだり収縮させたりする作用を達成するために、ハンドル10は、器具が前方に押される際に上向きに傾けられ、器具が後方に引っ張られる際には下方に傾けられる。皮膚または肉に対して伸ばしたり広げたりする作用を達成するためには、これとは逆にハンドルは、器具が前方に押される際下向きに傾けられ、器具が後方に引っ張られる際上方に傾けられる。このように、場合によって意図的に行われるように前記球面に関する軸の前方またはその後方のいずれかの前記球面の一部が皮膚と噛み合った状態で、器具は皮膚の上で前後に機能し、これにより皮膚および肉を揉み、よって皮膚および肉を鍛錬し、その機能を刺激し血流を喚起し増大させることが分かるであろう。)

ウ 明細書2ページ4欄13?22行

(図2および図3において、線Aは、器具の作用によって球形要素16の間に挟まれたり収縮させられたりする皮膚および肉の一部を表しており、図2における線Bは、前記球形要素16によって伸ばしたり広げたりされた皮膚および肉の一部を表している。図3において器具は、矢印によって示される大まかな方向に、またはより厳密に言うと図面の面に直交する方向に移動される。)

(16-2)甲26事項
上記記載事項アないしウを、図面を参照しつつ、技術常識を踏まえて整理すると、甲第26号証の1には以下の事項が記載されていると認める。(以下「甲26事項」という。)

「ハンドルの一端にある支持ヘッドから、互いに対してほぼ直角に突出する一対の心棒に回転可能に軸支された球形ローラを有するマッサージ器を用い、ローラを肌に押し付けて押し引きを繰り返すことで、肌を摘み上げる作用が生じること。」

(17)甲第27号証の1
(17-1)甲第27号証の1に記載された事項
甲第27号証の1には、「BODY MASSAGING APPLIANCE」(ボディマッサージ器)に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。なお、下線部は、当審で付したものである。

ア 明細書1ページ2欄23?35行

(ヘッド6とハンドル25の軸の間の角度によって、器具が身体に適切に当てるために正確な角度で保持されることを保証する。ヘッドにある孔7は、スピンドル11を互いを基準として適切な鋭角のところに保持する。この角度は、おおよそ50度である。部品がこのように角度を成すように関係付けられ支持される場合、ハンドル25に対する押す動作によってローラ15が身体の上を通過する際、ローラ15は、ローラの間に巻き込まれたまたは折り込まれた身体の皮膚を引っ張り上げ、このように噛み合っている皮膚に対して一定のマッサージ作用を行うことになる。)

イ 明細書1ページ2欄36?43行

(皮膚がローラ15の間に引き込まれる際、ローラに対する反作用が起こり、それらをそれぞれのばね19の圧縮に対抗してそのそれぞれのスピンドル11上を外向きに移動させやすくなる。こういった動きは、スピンドルが角度を成すことによってローラを互いから引き離し、これによりマッサージ動作が激しくなり過ぎるのを阻止する。)

(17-2)甲27事項
上記記載事項ア及びイを、図面を参照しつつ、技術常識を踏まえて整理すると、甲第27号証の1には以下の事項が記載されていると認める。(以下「甲27事項」という。)

「ハンドル25の一端にあるヘッド6に、一対のローラ15をV字状に回転可能に軸支したボディーマッサージ器を用い、ローラ15を肌に押し付けて押すことで、肌を摘み上げる作用が生じること。」

(18)甲第33号証の1
(18-1)甲第33号証の1に記載された事項
甲第33号証の1には、「APPAREIL DE MASSAGE MANUEL」(手動マッサージ器具)に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。なお、下線部は、当審で付したものである。

ア 要約

(1回のパスだけで身体をマッサージし、ドレナージュ(老廃物の排出を促進)し、揉むための器具である。本発明は、引張方向に対して偏心した2個、3個、または4個の球(2)(3)を受容する軸が周囲に固定された、ハンドル(1)に関する。ユーザが2個の球を皮膚に当て、器具を傾けながら引っ張ると、球が筋肉に沿って動きながら筋肉を吸入し、これによりドレナージュ作用を伴いながら長手方向の転がりたたきが実施される。押圧すると反対作用が生じ、皮膚を外側に引き伸ばす。この器具は、家庭でリラックスするために、あるいはプロの治療用に効果的である。)

イ 発明の詳細な説明

(このマッサージ器具は、回転自在な球を各々が受容する2つの軸が周囲に固定された、任意の形状の中央ハンドルを含むことを特徴とする。
この器具は、マッサージする面に適合させるために、より大きな直径を持つ1つまたは2つの追加球をハンドルが受容可能であることを特徴とする。
この器具は、小さい直径を持つ球の2つの軸が70?100°に及ぶ角度をなし、大きい球の場合は90?140°をなすことを特徴とする。
ユーザがハンドル(1)を握り、これを傾けて2個の球(2)を皮膚(4)に当て、引張り力を及ぼすと、球が、進行方向に対して非垂直な軸で回転する。その結果、球の対称な滑りが生じ、これらの球は、球の間に拘束されて挟まれた皮膚を集めて皮膚に沿って動く。引っ張る代わりに押圧すると、球の滑りと皮膚に沿った動きとによって、皮膚が引き伸ばされる。
限定的ではなく例として、球の直径は、直径2?8cmに変えることが可能である。)

(18-2)甲33-1事項
上記記載事項ア及びイを、図面を参照しつつ、技術常識を踏まえて整理すると、甲第33号証の1には以下の事項が記載されていると認める。(以下「甲33-1事項」という。)

「ハンドルに、一対の球をV字状に回転可能に軸支したマッサージ器具を用い、一対の球を肌に宛がって押し引きを繰り返すことで、肌を摘み上げる作用が生じること。」

(18-3)甲33-2事項
また、上記記載事項イから、甲第33号証の1には以下の事項が記載されていると認める。(以下「甲33-2事項」という。)

「ハンドルに、一対の球をV字状に回転可能に軸支したマッサージ器具において、小さい直径を持つ球の2つの軸が70?100°に及ぶ角度をなし、球の直径は、直径2cm?8cmとすること。」

2 無効理由1-1について

(1)甲1発明Aを主引用発明とする場合
ア 対比
本件訂正発明と甲1発明Aとを対比する。
甲1発明Aの「円形体」は、本件訂正発明の「ボール」に相当し、以下同様に、「マッサージ器」は「美容器」に、「円形体の軸線」は「ボールの軸線」に、「円形体の支持軸」は「ボール支持軸」に、「円形体の外周面間の間隔」は「ボールの外周面間の間隔」に、「人体の部位の面」は「肌面」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明Aの「一対の円形体の支持軸の正面図上のなす角度を80°」とすることと、本件訂正発明の「一対のボール支持軸の開き角度を65?80度」とすることとは、「一対のボール支持軸のなす角度を特定の角度」とする限りにおいて共通する。
したがって、本件訂正発明と甲1発明Aとは、以下の点で一致しているということができる。

<一致点>
「ハンドルの先端部に一対のボールを、相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、
往復動作中にボールの軸線が肌面に対して一定角度を維持できるように、ボールの軸線をハンドルの中心線に対して前傾させて構成し、
一対のボール支持軸のなす角度を特定の角度とした美容器。」

そして、本件訂正発明と甲1発明Aとは、以下の点で相違する。

<相違点1>
本件訂正発明は、一対のボール支持軸の開き角度を65?80度としたのに対して、
甲1発明Aは、一対の円形体の支持軸の正面図上のなす角度を80°とした点。

<相違点2>
本件訂正発明は、一対のボールの外周面間の間隔を10?13mmとしたのに対して、
甲1発明Aは、一対の円形体の直径を10とした場合の一対の円形体の外周面間の間隔の相対値を4とした点。

<相違点3>
本件訂正発明は、ボールは、非貫通状態でボール支持軸に軸受部材を介して支持されているのに対して、
甲1発明Aは、円形体は、貫通状態で軸受部材を介さずに支持されている点。

<相違点4>
本件訂正発明は、ボールの外周面を肌に押し当ててハンドルの先端から基端方向に移動させることにより肌が摘み上げられるようにしたのに対して、
甲1発明Aは、人体の部位を引っ張り、押して筋肉をほぐしてくれるものの、ハンドルの先端から基端方向に移動させることにより肌が摘み上げられるか否か不明である点。

イ 相違点についての判断

(ア)本件訂正発明の技術的意義
上記相違点1ないし4の検討に先立って、当該相違点に係る本件訂正発明の構成の技術的意義について検討する。

(ア-1)本件訂正明細書の記載
まず、上記相違点1ないし4に係る本件訂正発明の構成の技術的意義に関連する、本件訂正明細書の記載として、以下の記載がある。なお、下線部は、当審が付したものである。

「【背景技術】
【0002】
従来、この種の美容器が種々提案されており、例えば特許文献1には美肌ローラが開示されている。すなわち、この美肌ローラは、柄と、該柄の一端に設けられた一対のローラとを備え、ローラの回転軸が柄の長軸方向の中心線とそれぞれ鋭角をなすように設定されている。さらに、一対のローラの回転軸のなす角度が鈍角をなすように設定されている。そして、この美肌ローラの柄を手で把持してローラを肌に対して一方向に押し付けると肌は引っ張られて毛穴が開き、押し付けたまま逆方向に引っ張ると肌はローラ間に挟み込まれて毛穴が収縮する。従って、この美肌ローラによれば、効率よく毛穴の汚れを除去することができるとしている。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されている従来構成の美肌ローラでは、柄の中心線と両ローラの回転軸が一平面上にあることから(特許文献1の図2参照)、美肌ローラの柄を手で把持して両ローラを肌に押し当てたとき、肘を上げ、手先が肌側に向くように手首を曲げて柄を肌に対して直立させなければならない。このため、美肌ローラの操作性が悪い上に、手首角度により肌へのローラの作用状態が大きく変化するという問題があった。
【0005】
また、この美肌ローラの各ローラは楕円筒状に形成されていることから、ローラを一方向に押したとき、肌の広い部分が一様に押圧されることから、毛穴の開きが十分に得られない。さらに、ローラを逆方向に引いたときには、両ローラ間に位置する肌がローラの長さに相当する領域で引っ張られることから、両ローラによって強く挟み込まれ難い。その結果、毛穴の開きや収縮が十分に行われず、毛穴の汚れを綺麗に除去することができないという問題があった。加えて、ローラが楕円筒状に形成されているため、肌に線接触して肌に対する抵抗が大きく、動きがスムーズではなく、しかも移動方向が制限されやすい。従って、美肌ローラの操作性が悪いという問題があった。
【0006】
この発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、肌に対して優れたマッサージ効果を奏することができるとともに、肌に対する押圧効果と摘み上げ効果とを顕著に連続して発揮することができ、かつ操作性が良好な美容器を提供することにある。」

「【発明の効果】
【0008】
本発明の美容器によれば、次のような効果を発揮することができる。
請求項1に記載の美容器においては、ハンドルの先端部に一対のボールが相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に回転可能に支持され、ボールの軸線がハンドルの中心線に対して前傾して構成されている。すなわち、美容器の往復動作中にボールの軸線が肌面に対して一定角度を維持できるようになっている。このため、ハンドルを把持して一対のボールを肌に当てるときに手首を曲げる必要がなく、手首を真直ぐにした状態で、美容器を往動させたときには肌を押圧することができるとともに、美容器を復動させたときには肌を摘み上げることができる。
【0009】
また、肌に接触する部分が筒状のローラではなく、真円状のボールで構成されていることから、ボールが肌に対して局部接触する。従って、ボールは肌の局部に集中して押圧力や摘み上げ力を作用することができるとともに、肌に対するボールの動きをスムーズにでき、移動方向の自由度も高い。」

「【0019】
図5に示すように、一対のボール17の開き角度すなわち一対のボール支持軸15の開き角度βは、ボール17の往復動作により肌20に対する押圧効果と摘み上げ効果を良好に発現させるために、好ましくは50?110度、さらに好ましくは50?90度、特に好ましくは65?80度に設定される。この開き角度βが50度を下回る場合には、肌20に対する摘み上げ効果が強く作用し過ぎる傾向があって好ましくない。その一方、開き角度βが110度を上回る場合には、ボール17間に位置する肌20を摘み上げることが難しくなって好ましくない。」

「【0021】
さらに、ボール17の外周面間の間隔Dは、特に肌20の摘み上げを適切に行うために、好ましくは8?25mm、さらに好ましくは9?15mm、特に好ましくは10?13mmである。このボール17の外周面間の間隔Dが8mmに満たないときには、ボール17間に位置する肌20に対して摘み上げ効果が強く作用し過ぎて好ましくない。一方、ボール17の外周面間の間隔Dが25mmを超えるときには、ボール17間に位置する肌20を摘み上げることが難しくなって好ましくない。」

「【0022】
次に、前記のように構成された実施形態の美容器10について作用を説明する。
さて、この美容器10の使用時には、図3に示すように、使用者がハンドル11を把持した状態で、ボール17の外周面を図3の二点鎖線に示す顔、腕等の肌20に押し当てて接触させながらハンドル11の基端から先端方向へ往動(図3の左方向)させると、ボール17がボール支持軸15を中心にして回転される。このとき、図3の二点鎖線に示すように、肌20にはボール17から押圧力が加えられる。ボール17を往動させた後、ボール17を元に戻すように復動させると、図4の二点鎖線に示すようにボール17間に位置する肌20がボール17の回転に伴って摘み上げられる。
【0023】
すなわち、図5に示すように、両ボール17が矢印P1方向に往動される場合、各ボール17は矢印P2方向に回転される。このため、肌20が押し広げられるようにして押圧される。一方、両ボール17が矢印Q1方向に復動される場合、各ボール17は矢印Q2方向に回転される。このため、両ボール17間に位置する肌20が巻き上げられるようにして摘み上げられる。なお、往動時において両ボール17が肌20を押圧することにより、その押圧力の反作用として両ボール17間の肌20が摘み上げられる。」

「【0024】
この場合、ボール支持軸15がハンドル11の中心線xに対して前傾しており、具体的にはハンドル11の中心線xに対するボール支持軸15の側方投影角度αが90?110度に設定されていることから、肘を上げたり、手首をあまり曲げたりすることなく美容器10の往復動作を行うことができる。しかも、ボール支持軸15の軸線yを肌20面に対して直角に近くなるように維持しながら操作を継続することができる。そのため、肌20に対してボール17を有効に押圧してマッサージ作用を効率良く発現することができる。
【0025】
また、肌20に接触する部分が従来の筒状のローラではなく、真円状のボール17で構成されていることから、ボール17が肌20に対してローラより狭い面積で接触する。そのため、ボール17は肌20の局部に集中して押圧力や摘み上げ力を作用させることができると同時に、肌20に対してボール17の動きがスムーズで、移動方向も簡単に変えることができる。」

「【0029】
また、肌20に接触する部分が真円状のボール17で構成されていることから、肌20の所望箇所に押圧力や摘み上げ力を集中的に働かせることができるとともに、肌20に対するボール17の動きをスムーズにでき、かつ移動方向の自由度も高い。」

(ア-2)検討
a 発明の課題について
本件訂正明細書によれば、発明の課題として、以下の事項を看取することができる。
すなわち、従来構成の美肌ローラは、柄と、該柄の一端に設けられた一対のローラとを備え、一対のローラの回転軸のなす角度が鈍角をなすように設定されているものであるところ(段落【0002】)、従来構成の美肌ローラには、マッサージ効果が十分ではなく、美肌ローラの操作性が悪いという、2つの問題点があった。
前者の問題点とは、肌に対する押圧効果と摘み上げ効果に関して、ローラを一方向に押したときには、肌の広い部分が一様に押圧され、毛穴の開きが十分に得られず、ローラを逆方向に引いたときには、両ローラによって強く挟み込まれ難く、その結果、毛穴の収縮が十分に行われない、というものである(段落【0005】)。
後者の問題点とは、柄を手で把持してローラを肌に押し当てたときに、肘を上げたり、手首を曲げたりする動作が必要であることに加えて、ローラの肌に対する抵抗が大きく、ローラの動きがスムーズではなく、移動方向が制限される、というものである(段落【0004】【0005】)。
そして、上記2つの問題点に着目して、肌に対する優れたマッサージ効果と、良好な操作性を共に実現する美容器を提供することが、本件訂正発明が解決しようとする課題である(段落【0006】)。

b マッサージ効果について
本件訂正明細書によれば、マッサージ効果に関する課題解決手段として、次の3点を看取することができる。
(a)肌に接触するローラを(真円状の)ボールで構成すること、特に、肌に接触する部分をボールで構成すること。これにより、ボールは肌に局部接触して、押圧力や摘み上げ力を集中的に作用することができる(段落【0009】【0025】【0029】)。
(b)一対のボール支持軸の開き角度につき、ボールの往復動作により肌に対する押圧効果と摘み上げ効果を特に良好に発現させる、65?80度に設定すること(段落【0019】)。
(c)一対のボールの外周面間の間隔につき、肌の摘み上げ効果を特に良好に発現させる、10?13mmに設定すること(段落【0021】)。

ここで、上記(a)については、本件訂正明細書を踏まえると、次の点が認められる。
すなわち、肌の摘み上げ効果は、美容器の復動時におけるボールの回転作用に加えて、美容器の往動時における、肌に対するボールの押圧力の反作用により得られるものである(段落【0023】)。また、美容器の往動時には、ボール支持軸の軸線を肌面に対して直角に近くなるように維持しながら操作する(段落【0024】、図3)。
そうすると、肌の摘み上げ効果を十分に得るために、美容器の往動時に、肌に対してボールを強く押圧する、すなわち、ボールを肌に深く沈み込ませる使用態様が予定されているといえる。
そして、かかる使用態様において、ボール支持軸の軸線yを肌面に対して直角に近くなるように維持しながら操作すること、及び、上記(b)により、一対のボール支持軸は鋭角の範囲で位置することとなり、ボールの先端部分が肌に接する可能性が高まること(上記第5の2(1-1))を踏まえると、ボールの「肌に接触する部分」には、「ボール支持軸の軸線yが通過する部分」が含まれるものと認められる。
そうすると、上記(a)の「肌に接触するローラをボールで構成すること」には、ボールの外周面のうち「ボール支持軸の軸線yが通過する部分」をボールで構成することが含まれることとなり、当該構成は、ボールの外周面からボール支持軸を露出させない構成、すなわち、「ボールを非貫通状態でボール支持軸に支持する」構成と同義である。

c 操作性について
本件訂正明細書によれば、操作性に関する課題解決手段として、次の点を看取することができる。
(a)ボールの軸線をハンドルの中心線に対して前傾して構成すること(段落【0008】)。
(b)肌に接触するローラを(真円状の)ボールで構成すること、特に、肌に接触する部分をボールで構成すること。これにより、ボールは肌に局部接触して、肌に対するボールの動きをスムーズにでき、移動方向の自由度を高めることができる(段落【0009】【0025】【0029】)。

ここで、上記(b)の「肌に接触するローラをボールで構成すること」については、上記bで示した理由と同様の理由により、「ボールを非貫通状態でボール支持軸に支持する」構成が含まれるものと認められる。

また、かかる「ボールを非貫通状態でボール支持軸に支持する」構成については、技術常識を踏まえると、下記の理由により、操作性に関する課題を解決することができると考えることもできる。

すなわち、柄と該柄の一端に設けられた一対のローラとを備えた美肌ローラたる美容器において、ボール支持軸に対するボールの動きが回転方向のみであることを前提として、上記b(b)のとおり、一対のボール支持軸の開き角度を鋭角に設定すると、従来構成の美肌ローラのように、鈍角に設定した場合と比較して、美容器の往復動時にボール支持軸(ハンドル)からボールに作用する力のうち、ボールの回転方向(ボール支持軸と直交する方向)に作用する力の割合が減少し、逆に、ボール支持軸の軸線方向に作用する力の割合が増加する。後者の力は、ボールの回転抵抗の要因にもなり得る。
結果として、開き角度を鋭角に設定した場合には、鈍角に設定した場合と比較して、ボールの動きをスムーズにできず、上記(a)及び(b)による操作性の効果が減殺される可能性がある。

これに対して、一般的に、「支持軸が貫通状態のローラは、非貫通状態のローラと比べて、支持軸と交差する方向への指向性を有するものと解される」(無効2016-800094号確定審決「第6 無効理由についての当審の判断」「2 無効理由1について」「(3)相違点についての判断」「イ 相違点2についての検討」参照)ことを踏まえ、非貫通状態のボールを選択した場合には、貫通状態のボールと比べて、ボールの動きの自由度(特に、ボール支持軸と直交する方向以外の方向への動き)が相対的に高まることから、上記b(b)のとおり開き角度を鋭角に設定した場合においても、優れたマッサージ効果と良好な操作性を両立することができるものと認められる。

また、被請求人の主張(上記第5の2(1-1))のとおり、ボールが貫通状態の構成では、境界部分を肌に当てた際の違和感や皮膚や毛等の噛込みのおそれがあるため、境界部分を避けてマッサージを行わなければならず、操作性が低下する問題点が存在するが、「ボールを非貫通状態でボール支持軸に支持する」構成では、かかる操作性の問題は生じないものと認められる。

以上のとおり、「ボールを非貫通状態でボール支持軸に支持する」構成も、操作性に関する課題解決手段である。

d 本件訂正発明の技術的意義について
上記a?cの記載を踏まえると、本件訂正発明の技術的意義とは、(i)往復動作中にボールの軸線が肌面に対して一定角度を維持できるように、ボールの軸線をハンドルの中心線に対して前傾させて構成し、(ii)一対のボール支持軸の開き角度を65?80度、一対のボールの外周面間の間隔を10?13mmとし、(iii)ボールの外周面を肌に押し当ててハンドルの先端から基端方向に移動させることにより肌が摘み上げられるようにした美容器において、(iv)マッサージ効果及び操作性の観点から、ボールの先端部分を肌に局部接触させるとともに、貫通状態のボールに伴う操作性低下の問題を回避するために、「ボールは、非貫通状態でボール支持軸に軸受部材を介して支持され」た構成を採用することによって、肌に対する優れたマッサージ効果と良好な操作性を共に実現することにあると認められる。

(イ)相違点1ないし4の容易想到性の総合的検討
上記(ア-2)の検討を踏まえ、上記相違点1ないし4の容易想到性を総合的に検討する。
請求人が無効理由1-1について提出した証拠方法は、甲第1号証の1、甲第33号証の1、甲第17及び14号証、並びに、甲第3、4、13、14、26の1、27の1及び33号証の1である。
このうち、甲第33号証の1には、上記相違点1及び2に関連する事項(甲33-2事項)が、甲第17及び14号証には、上記相違点3に関連する事項(甲17事項及び甲14-2事項)が、甲第3、4、13、14、26の1、27の1及び33号証の1には、上記相違点4に関連する事項(甲3事項、甲4事項、甲13事項、甲14-1事項、甲26事項、甲27事項、及び、甲33-1事項)が、それぞれ記載されている。
しかしながら、上記甲号証のいずれかに、相違点1ないし4に関連する事項が断片的に記載されているとしても、いずれの証拠にも、相違点1ないし4に係る本件訂正発明の構成を総合的に示すものはない。
そして、相違点1、2及び4の構成を含む本件訂正発明は、さらに、相違点3に係る「ボールは、非貫通状態でボール支持軸に軸受部材を介して支持され」た構成を備えることによって、肌に対する優れたマッサージ効果と、良好な操作性を共に実現する、という格別の効果を奏するものである。

(ウ)請求人の主張について
請求人の主張(上記第4の4(2)ア)は、相違点1ないし4の各相違点について、個別に、容易想到性がないとするものであって、相違点1ないし4の容易想到性を総合的な観点から主張するものではない。よって、請求人の主張は、採用することができない。

(エ)小括
よって、本件訂正発明は、甲1発明A、甲第33号証の1に記載された発明、甲第17及び14号証に記載された発明、並びに、甲第3、4、13、14、26の1、27の1及び33号証の1に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(2)甲1発明Bを主引用発明とする場合
ア 対比
本件訂正発明と甲1発明Bとを対比する。

本件訂正発明と甲1発明Bの相当関係は、甲1発明Aの場合と同様である。

したがって、本件訂正発明と甲1発明Bとは、以下の点で一致しているということができる。

<一致点>
「ハンドルの先端部に一対のボールを、相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に支持した美容器において、
往復動作中にボールの軸線が肌面に対して一定角度を維持できるように、ボールの軸線をハンドルの中心線に対して前傾させて構成し、
一対のボール支持軸のなす角度を特定の角度とした美容器。」

そして、本件訂正発明と甲1発明Bとは、上記相違点1?4に加えて、以下の点で相違する。

<相違点5>
本件訂正発明は、一対のボールを回転可能に支持したのに対して、
甲1発明Bは、一対の円形体を回転可能か否か不明な状態で支持した点。

イ 相違点についての判断
(ア)本件訂正発明の技術的意義について
本件訂正発明の技術的意義については、上記(1)イ(ア)に記載したとおりである。

(イ)相違点1ないし5の容易想到性の総合的検討
上記(ア)を踏まえ、上記相違点1ないし5の容易想到性を総合的に検討する。
上記(1)イ(イ)の総合的検討から明らかなとおり、請求人が証拠方法として挙げる各甲号証のいずれにも、相違点1ないし5に係る本件訂正発明の構成を総合的に示すものはない。
そして、相違点1、2、4及び5の構成を含む本件訂正発明は、さらに、相違点3に係る「ボールは、非貫通状態でボール支持軸に軸受部材を介して支持され」た構成を備えることによって、肌に対する優れたマッサージ効果と、良好な操作性を共に実現する、という格別の効果を奏するものである。

(ウ)請求人の主張について
請求人の主張(上記第4の4(2)イ)は、相違点1ないし5の各相違点について、個別に、容易想到性がないとするものであって、相違点1ないし5の容易想到性を総合的な観点から主張するものではない。よって、請求人の主張は、採用することができない。

(エ)小括
よって、本件訂正発明は、甲1発明B、甲第33号証の1に記載された発明、甲第17及び14号証に記載された発明、並びに、甲第3、4、13、14、26の1、27の1及び33号証の1に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(3)無効理由1-1のまとめ
以上によれば、甲1発明A、Bいずれの場合でも、結論に変わりはなく、本件訂正発明は、甲第1号証の1に記載された発明、甲第33号証の1に記載された発明、甲第17及び14号証に記載された発明、並びに、甲第3、4、13及び14号証に記載された周知技術等に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできず、請求人の主張する無効理由1-1には理由がない。

3 無効理由1-2について
(1)甲1発明Aを主引用発明とする場合
ア 対比
本件訂正発明と甲1発明Aとの対比については、上記2(1)アに記載したとおりである。

イ 相違点についての判断
(ア)本件訂正発明の技術的意義
本件訂正発明の技術的意義については、上記2(1)イ(ア)に記載したとおりである。

(イ)相違点1ないし4の容易想到性の総合的検討
無効理由1-1と同様に、上記相違点1ないし4の容易想到性を総合的に検討する。
無効理由1-2について提出した証拠方法は、無効理由1-1の証拠方法に、甲第6、7、10及び11号証を追加したものである。
そして、無効理由1-1の証拠方法に、上記相違点1ないし4に係る本件訂正発明の構成を総合的に示すものはないことは、上記2(1)イ(イ)に記載したとおりである。また、甲第6、7、10及び11号証の中には、上記相違点2に関連する事項が記載されているものがあるが(甲6事項参照)、いずれの証拠にも、相違点1ないし4に係る本件訂正発明の構成を総合的に示すものはない。
そして、相違点1、2及び4の構成を含む本件訂正発明は、さらに、相違点3に係る「ボールは、非貫通状態でボール支持軸に軸受部材を介して支持され」た構成を備えることによって、肌に対する優れたマッサージ効果と、良好な操作性を共に実現する、という格別の効果を奏するものである。

(ウ)請求人の主張について
請求人の主張(上記第4の4(3)ア)は、特に、相違点2について、容易想到性がないとするものであって、相違点1ないし4の容易想到性を総合的な観点から主張するものではない。よって、請求人の主張は、採用することができない。

(エ)まとめ
よって、本件訂正発明は、甲1発明A、甲第33号証の1に記載された発明、甲第17及び14号証に記載された発明、甲第6、7、10、又は11号証のいずれかに記載された発明、並びに、甲第3、4、13、14、26の1、27の1及び33号証の1に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(2)甲1発明Bを主引用発明とする場合
ア 対比
本件訂正発明と甲1発明Bとの対比については、上記2(2)アに記載したとおりである。

イ 相違点についての判断
(ア)本件訂正発明の技術的意義
本件訂正発明の技術的意義については、上記2(1)イ(ア)に記載したとおりである。

(イ)相違点1ないし5の容易想到性の総合的検討
無効理由1-1と同様に、上記相違点1ないし5の容易想到性を総合的に検討する。
無効理由1-2について提出した証拠方法は、無効理由1-1の証拠方法に、甲第6、7、10及び11号証を追加したものである。
そして、かかる追加によっても、上記相違点1ないし5の容易想到性について、容易に想到し得たものとすることができないことは、上記(1)イ(イ)及び(ウ)から明らかである。

(ウ)小括
よって、本件訂正発明は、甲1発明B、甲第33号証の1に記載された発明、甲第17及び14号証に記載された発明、甲第6、7、10、又は11号証のいずれかに記載された発明、並びに、甲第3、4、13、14、26の1、27の1及び33号証の1に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(3)無効理由1-2のまとめ
以上によれば、甲1発明A、Bいずれの場合でも、結論に変わりはなく、本件訂正発明は、甲第1号証の1に記載された発明、甲第33号証の1に記載された発明、甲第17及び14号証に記載された発明、甲第6ないし9号証に記載された発明、並びに、甲第3、4、13及び14号証に記載された周知技術等に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできず、請求人の主張する無効理由1-2には理由がない。

4 まとめ
したがって、請求人の主張する無効理由1-1及び無効理由1-2並びに提出した証拠方法によっては、本件訂正発明に係る特許を無効にすることはできない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、請求人主張の理由及び証拠方法によっては、本件訂正発明に係る特許を無効にすることはできない。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
美容器
【技術分野】
【0001】
この発明は、ハンドルに設けられたマッサージ用のボールにて、顔、腕等の肌をマッサージすることにより、血流を促したりして美しい肌を実現することができる美容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の美容器が種々提案されており、例えば特許文献1には美肌ローラが開示されている。すなわち、この美肌ローラは、柄と、該柄の一端に設けられた一対のローラとを備え、ローラの回転軸が柄の長軸方向の中心線とそれぞれ鋭角をなすように設定されている。さらに、一対のローラの回転軸のなす角度が鈍角をなすように設定されている。そして、この美肌ローラの柄を手で把持してローラを肌に対して一方向に押し付けると肌は引っ張られて毛穴が開き、押し付けたまま逆方向に引っ張ると肌はローラ間に挟み込まれて毛穴が収縮する。従って、この美肌ローラによれば、効率よく毛穴の汚れを除去することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-142509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されている従来構成の美肌ローラでは、柄の中心線と両ローラの回転軸が一平面上にあることから(特許文献1の図2参照)、美肌ローラの柄を手で把持して両ローラを肌に押し当てたとき、肘を上げ、手先が肌側に向くように手首を曲げて柄を肌に対して直立させなければならない。このため、美肌ローラの操作性が悪い上に、手首角度により肌へのローラの作用状態が大きく変化するという問題があった。
【0005】
また、この美肌ローラの各ローラは楕円筒状に形成されていることから、ローラを一方向に押したとき、肌の広い部分が一様に押圧されることから、毛穴の開きが十分に得られない。さらに、ローラを逆方向に引いたときには、両ローラ間に位置する肌がローラの長さに相当する領域で引っ張られることから、両ローラによって強く挟み込まれ難い。その結果、毛穴の開きや収縮が十分に行われず、毛穴の汚れを綺麗に除去することができないという問題があった。加えて、ローラが楕円筒状に形成されているため、肌に線接触して肌に対する抵抗が大きく、動きがスムーズではなく、しかも移動方向が制限されやすい。従って、美肌ローラの操作性が悪いという問題があった。
【0006】
この発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、肌に対して優れたマッサージ効果を奏することができるとともに、肌に対する押圧効果と摘み上げ効果とを顕著に連続して発揮することができ、かつ操作性が良好な美容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の美容器の発明は、ハンドルの先端部に一対のボールを、相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、往復動作中にボールの軸線が肌面に対して一定角度を維持できるように、ボールの軸線をハンドルの中心線に対して前傾させて構成し、一対のボール支持軸の開き角度を65?80度、一対のボールの外周面間の間隔を10?13mmとし、前記ボールは、非貫通状態でボール支持軸に軸受部材を介して支持されており、ボールの外周面を肌に押し当ててハンドルの先端から基端方向に移動させることにより肌が摘み上げられるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の美容器によれば、次のような効果を発揮することができる。
請求項1に記載の美容器においては、ハンドルの先端部に一対のボールが相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に回転可能に支持され、ボールの軸線がハンドルの中心線に対して前傾して構成されている。すなわち、美容器の往復動作中にボールの軸線が肌面に対して一定角度を維持できるようになっている。このため、ハンドルを把持して一対のボールを肌に当てるときに手首を曲げる必要がなく、手首を真直ぐにした状態で、美容器を往動させたときには肌を押圧することができるとともに、美容器を復動させたときには肌を摘み上げることができる。
【0009】
また、肌に接触する部分が筒状のローラではなく、真円状のボールで構成されていることから、ボールが肌に対して局部接触する。従って、ボールは肌の局部に集中して押圧力や摘み上げ力を作用することができるとともに、肌に対するボールの動きをスムーズにでき、移動方向の自由度も高い。
【0010】
よって、本発明の美容器によれば、肌に対して優れたマッサージ効果を奏することができるとともに、肌に対する押圧効果と摘み上げ効果とを顕著に連続して発揮することができ、かつ操作性が良好であるという効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態における美容器を示す斜視図。
【図2】美容器を示す平面図。
【図3】美容器の使用状態を示す正面図。
【図4】美容器を示す左側面図。
【図5】美容器の両ボールの軸線を含む面を水平にしたときの平面図。
【図6】美容器を示す縦断面図。
【図7】美容器のボールの回転機構を示す断面図。
【図8】美容器の別例を示す左側面図。
【図9】別例の美容器におけるボールを示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、この発明を具体化した美容器の実施形態を図1?図7に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態の美容器10を構成するハンドル11の先端には平面Y字型に延びる二股部11aが設けられている。図6に示すように、このハンドル11は、ABS樹脂等の合成樹脂により形成された電気絶縁性の基材12と、その基材12の外周に被覆された上側ハンドルカバー13a及び下側ハンドルカバー13bよりなるハンドルカバー13とにより構成されている。これらの上側ハンドルカバー13a及び下側ハンドルカバー13bはそれぞれ合成樹脂により形成され、その外表面に導電性のメッキが施されるとともに、両ハンドルカバー13は複数のねじ14により基材12と連結されている。
【0013】
図7に示すように、前記ハンドル11の二股部11aにおいて基材12には一対の支持筒16が一体形成されており、この支持筒16には金属製のボール支持軸15が支持されている。ハンドル11の二股部11aの先端外周には、合成樹脂よりなる円筒状のキャップ18が嵌着されている。このキャップ18の嵌着により、二股部11aの先端がシールされるとともに、ボール支持軸15のがたつきが防止され、かつ二股部11aの外表面と、後述するボール17の外表面との導電部間の電気絶縁性が確保されている。
【0014】
前記ボール支持軸15の突出端部には、合成樹脂よりなり、内外周に金属メッキを施した円筒状の軸受部材19が嵌合され、ストップリング25により抜け止め固定されている。この軸受部材19の外周には、一対の弾性変形可能な係止爪19aが突設されている。前記ボール支持軸15上の軸受部材19には、球状をなすボール17が回転可能に嵌挿支持されている。このボール17は、合成樹脂よりなる芯材26と、その芯材26の先端内周に嵌着された合成樹脂よりなるキャップ材27と、芯材26の外周に被覆成形された合成樹脂よりなる外皮材28とより構成されている。
【0015】
前記外皮材28の外表面には、導電部としての導電金属メッキが施され、軸受部材19の金属メッキと電気接続されている。芯材26の内周には軸受部材19の係止爪19aに係合可能な段差部26aが形成されている。そして、ボール17が軸受部材19に嵌挿された状態で、係止爪19aが段差部26aに係合され、ボール17が軸受部材19に対して抜け止め保持されている。また、図3及び図4に示すように、各ボール17の外周面には、肌20の組織に刺激を与える多数の面17aが形成されている。
【0016】
前記各ボール17の内部には、ボール17の回転に伴って発電を行うための永久磁石22が配置されている。この永久磁石22は磁石鋼により円筒状に形成され、ボール17と一体回転可能に構成されている。そして、ボール17の回転に伴い、永久磁石22がボール支持軸15に対してわずかな間隔を隔てて相対回転されることにより、ボール支持軸15表面の微細な凹凸や真円度のわずかな偏り等に起因して微小電力が発生し、その微小電力がボール17外周面の導電部に伝えられるようになっている。
【0017】
図2及び図6に示すように、前記ハンドル11の先端側、つまり二股部11aの付け根側には透明板23が設けられ、その内側には太陽電池パネル24が設置され、この太陽電池パネル24の図示しない出力端子がハンドル11及びボール17の導電部に接続されている。このため、太陽電池パネル24で発電された電力がハンドル11及びボール17の導電部に供給されるようになっている。従って、美容器10の使用時にはハンドル11とボール17との間の太陽電池パネル24の電気が人体を通じて流れ、美容上の効果を得ることができる。
【0018】
本実施形態の美容器10は、前述のように顔に適用できるほか、それ以外の首、腕、脚等の体(ボディ)にも適用することができる。
図3に示すように、美容器10の往復動作中にボール支持軸15の軸線が肌20面に対して一定角度を維持できるように、ボール支持軸15の軸線がハンドル11の中心線xに対して前傾するように構成されている。具体的には、前記ハンドル11の中心線(ハンドル11の最も厚い部分の外周接線zの間の角度を二分する線と平行な線)xに対するボール17の軸線yすなわちボール支持軸15の軸線yの側方投影角度αは、ボール17がハンドル11の中心線xに対し前傾して操作性を良好にするために、90?110度であることが好ましい。この側方投影角度αは93?100度であることがさらに好ましく、95?99度であることが最も好ましい。この側方投影角度αが90度より小さい場合及び110度より大きい場合には、ボール支持軸15の前傾角度が過小又は過大になり、ボール17を肌20に当てる際に肘を立てたり、下げたり、或いは手首を大きく曲げたりする必要があって、美容器10の操作性が悪くなるとともに、肌20面に対するボール支持軸15の角度の調節が難しくなる。
【0019】
図5に示すように、一対のボール17の開き角度すなわち一対のボール支持軸15の開き角度βは、ボール17の往復動作により肌20に対する押圧効果と摘み上げ効果を良好に発現させるために、好ましくは50?110度、さらに好ましくは50?90度、特に好ましくは65?80度に設定される。この開き角度βが50度を下回る場合には、肌20に対する摘み上げ効果が強く作用し過ぎる傾向があって好ましくない。その一方、開き角度βが110度を上回る場合には、ボール17間に位置する肌20を摘み上げることが難しくなって好ましくない。
【0020】
また、各ボール17の直径Lは、美容器10を主として顔や腕に適用するために、好ましくは15?60mm、より好ましくは32?55mm、特に好ましくは38?45mmに設定される。ボール17の直径Lが15mmより小さい場合、押圧効果及び摘み上げ効果を発現できる肌20の範囲が狭くなり好ましくない。一方、ボール17の直径Lが60mmより大きい場合、顔や腕の大きさに対してボール17の大きさが相対的に大きいことから、狭い部分を押圧したり、摘み上げたりすることが難しく、使い勝手が悪くなる。
【0021】
さらに、ボール17の外周面間の間隔Dは、特に肌20の摘み上げを適切に行うために、好ましくは8?25mm、さらに好ましくは9?15mm、特に好ましくは10?13mmである。このボール17の外周面間の間隔Dが8mmに満たないときには、ボール17間に位置する肌20に対して摘み上げ効果が強く作用し過ぎて好ましくない。一方、ボール17の外周面間の間隔Dが25mmを超えるときには、ボール17間に位置する肌20を摘み上げることが難しくなって好ましくない。
【0022】
次に、前記のように構成された実施形態の美容器10について作用を説明する。
さて、この美容器10の使用時には、図3に示すように、使用者がハンドル11を把持した状態で、ボール17の外周面を図3の二点鎖線に示す顔、腕等の肌20に押し当てて接触させながらハンドル11の基端から先端方向へ往動(図3の左方向)させると、ボール17がボール支持軸15を中心にして回転される。このとき、図3の二点鎖線に示すように、肌20にはボール17から押圧力が加えられる。ボール17を往動させた後、ボール17を元に戻すように復動させると、図4の二点鎖線に示すようにボール17間に位置する肌20がボール17の回転に伴って摘み上げられる。
【0023】
すなわち、図5に示すように、両ボール17が矢印P1方向に往動される場合、各ボール17は矢印P2方向に回転される。このため、肌20が押し広げられるようにして押圧される。一方、両ボール17が矢印Q1方向に復動される場合、各ボール17は矢印Q2方向に回転される。このため、両ボール17間に位置する肌20が巻き上げられるようにして摘み上げられる。なお、往動時において両ボール17が肌20を押圧することにより、その押圧力の反作用として両ボール17間の肌20が摘み上げられる。
【0024】
この場合、ボール支持軸15がハンドル11の中心線xに対して前傾しており、具体的にはハンドル11の中心線xに対するボール支持軸15の側方投影角度αが90?110度に設定されていることから、肘を上げたり、手首をあまり曲げたりすることなく美容器10の往復動作を行うことができる。しかも、ボール支持軸15の軸線yを肌20面に対して直角に近くなるように維持しながら操作を継続することができる。そのため、肌20に対してボール17を有効に押圧してマッサージ作用を効率良く発現することができる。
【0025】
また、肌20に接触する部分が従来の筒状のローラではなく、真円状のボール17で構成されていることから、ボール17が肌20に対してローラより狭い面積で接触する。そのため、ボール17は肌20の局部に集中して押圧力や摘み上げ力を作用させることができると同時に、肌20に対してボール17の動きがスムーズで、移動方向も簡単に変えることができる。
【0026】
従って、このボール17の回転に伴う押圧力により、顔、腕等の肌20がマッサージされてその部分における血流が促されるとともに、リンパ液の循環が促される。また、一対のボール17の開き角度βが50?110度に設定されるとともに、ボール17の外周面間の間隔Dが8?25mmに設定されていることから、所望とする肌20部位に適切な押圧力を作用させることができると同時に、肌20の摘み上げを強過ぎず、弱過ぎることなく心地よく行うことができる。さらに、ボール17の直径Lが15?60mmに設定されていることから、顔や腕に対して適切に対応することができ、美容器10の操作を速やかに進めることができる。このため、例えば肌20の弛んだ部分に対してリフトアップマッサージを思い通りに行うことができる。
【0027】
加えて、ボール17の押圧力により肌20が引っ張られたときには毛穴が開き、肌20がボール17間に摘み上げられたときには毛穴が収縮し、毛穴内の汚れが取り除かれる。その上、使用者の肌20がボール17の外周面に接触しているとともに、使用者の手がハンドル11表面の導電部に接触していることから、太陽電池パネル24で発電された電力により、図3に示すようにボール17から肌20及び使用者の手を介して微弱電流が流れて肌20を刺激し、血流の促進やリンパ液の循環促進が図られる。よって、これらのマッサージ作用、押圧・摘み上げ作用、リフトアップ作用、毛穴の汚れ取り作用、電気刺激作用等の作用が肌20に対して相乗的、複合的に働き、望ましい美肌作用が発揮される。
【0028】
従って、この実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態の美容器10では、一対のボール17が相互間隔をおいて各軸線yを中心に回転可能に支持され、ボール支持軸15がハンドル11の中心線xに対して前傾するように、ハンドル11の中心線xに対するボール17の軸線yの側方投影角度αが90?110度に設定されている。すなわち、ボール17の軸線yはハンドル11の中心線xに対して前傾していることから、ハンドル11を把持して一対のボール17を肌20に当てるときに大きく肘を上げたり、手首を曲げたりする必要がない。このため、楽に美容器10を往復動させて肌20を押圧及び摘み上げることができる。
【0029】
また、肌20に接触する部分が真円状のボール17で構成されていることから、肌20の所望箇所に押圧力や摘み上げ力を集中的に働かせることができるとともに、肌20に対するボール17の動きをスムーズにでき、かつ移動方向の自由度も高い。
【0030】
よって、本実施形態の美容器10によれば、肌20に対して優れたマッサージ効果を奏することができるとともに、肌20に対する押圧効果と摘み上げ効果とを顕著に連続して発揮することができ、かつ操作性が良好であるという効果を発揮することができる。
(2)ボール17の軸線yの側方投影角度αが好ましくは93?100度、さらに好ましくは95?99度であることにより、美容器10の操作性及びマッサージ効果等の美容効果を一層向上させることができる。
(3)一対のボール17の開き角度βが好ましくは50?110度、さらに好ましくは50?90度、特に好ましくは65?80度であることにより、美容器10の押圧効果と摘み上げ効果を格段に向上させることができる。
(4)ボール17の直径Lが好ましくは15?60mm、さらに好ましくは32?55mm、特に好ましくは38?45mmであることにより、美容器10を顔や腕に対して好適に適用することができ、マッサージ効果や操作性を高めることができる。
(5)ボール17の外周面間の間隔Dを好ましくは8?25mm、さらに好ましくは9?15mm、特に好ましくは10?13mmであることにより、所望の肌20部位に適切な押圧効果を得ることができると同時に、肌20の摘み上げを適度な強さで心地よく行うことができる。
(6)この美容器10においては、電源がハンドル11に設けられた太陽電池パネル24より構成されている。このため、乾電池等の電源を設ける必要がなく、太陽電池パネル24で発電された電力を利用して、ボール17から肌20に微弱電流を流すことができる。
(7)本実施形態の美容器10においては、ボール17の回転に伴って発電を行うための永久磁石22が配置されている。従って、ボール17の回転に基づいて微小電力を得ることができ、その微小電力によってボール17から肌20に微弱電流を与えることができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1?6、側方投影角度αの評価)
前記実施形態に示した顔と体の双方用に適する美容器10において、ボール17の開き角度βを70度、ボール17の直径Lを40mm及びボール17の外周面間の間隔Dを11mmに設定し、側方投影角度αを90?110度まで変化させて側方投影角度αの評価を実施した。すなわち、美容器10を顔又は腕、首等の体に対して適用し、その使用感について官能評価を行った。
【0032】
官能評価の方法は、美容器10を使用する評価者を10人とし、それらのうち8人以上が良いと感じた場合には◎、5?7人が良いと感じた場合には○、3人又は4人が良いと感じた場合には△、2人以下が良いと感じた場合には×とすることにより行った。
【0033】
それらの結果を表1に示した。
【0034】
【表1】

表1に示したように、側方投影角度αが97度の実施例3及び99度の実施例4の結果が最も良好であった。次いで、側方投影角度αが93度の実施例2及び100度の実施例5の結果が良好であった。さらに、側方投影角度αが90度の実施例1及び110度の実施例6の結果も可能と判断された。
【0035】
従って、美容器10の側方投影角度αは90?110度の範囲が好ましく、93?100度の範囲がさらに好ましい範囲であると認められた。
(実施例7?15、開き角度βの評価)
顔と体の双方用に適する美容器10について、開き角度βを評価した。すなわち、美容器10の側方投影角度αを97度、ボール17の直径Lを40mm及びボール17の外周面間の間隔Dを11mmとして、開き角度βを40?120度まで変化させて開き角度βの評価を実施した。評価方法は前記実施例1と同様に行った。得られた結果を表2に示した。
【0036】
【表2】

表1に示したように、開き角度βが70度の実施例11の結果が最も良好であった。続いて、開き角度βが50?60度の実施例8?10及び90?110度の実施例12?14の結果が良好であった。さらに、開き角度βが40度の実施例7及び120度の実施例15の結果が可能と判断された。
【0037】
従って、美容器10の開き角度βは50?110度の範囲が好ましく、65?80度の範囲が最も好ましいと認められた。
(実施例16?23、ボール17の直径Lの評価)
顔と体の双方用に適する美容器10について、ボール17の直径Lを評価した。すなわち、美容器10の側方投影角度αを97度、ボール17の開き角度βを70度及びボール17の外周面間の間隔Dを11mmとして、ボール17の直径Lを20?40mmまで変化させてボール17の直径Lの評価を実施した。評価方法は前記実施例1と同様に行った。得られた結果を表3に示した。
【0038】
【表3】

表3に示したように、ボール17の直径Lが38.3mmの実施例22及び40mm実施例23の結果が最も良好であった。次いで、ボール17の直径Lが35mmの実施例21の結果が良好であった。さらに、ボール17の直径Lが20?31.5mmの実施例16?20の結果も可能と判断された。
【0039】
従って、美容器10のボール17の直径Lは20?40mmの範囲が好ましく、35?40mmの範囲がさらに好ましく、38.3?40mmの範囲が最も好ましいと認められた。
(実施例24?28、ボール17の外周面間の間隔Dの評価)
顔と体の双方用に適する美容器10について、ボール17の外周面間の間隔Dを評価した。すなわち、美容器10の側方投影角度αを97度、ボール17の開き角度βを70度及びボール17の直径Lを40mmとして、ボール17の外周面間の間隔Dを8?15mmまで変化させてボール17の外周面間の間隔Dの評価を実施した。評価方法は前記実施例1と同様に行った。得られた結果を表4に示した。
【0040】
【表4】

表4に示したように、ボール17の外周面間の間隔Dが11mmの実施例26の結果が最も良好であった。次いで、ボール17の外周面間の間隔Dが10mmの実施例25及び12mmの実施例27の結果が良好であった。さらに、ボール17の外周面間の間隔Dが8mmの実施例24及び15mmの実施例28の結果も可能と判断された。
【0041】
従って、美容器10のボール17の外周面間の間隔Dは8?15mmの範囲が好ましく、10?12mmの範囲がさらに好ましいと認められた。
(実施例29?38、ボール17の直径Lの評価)
主として顔用に適する美容器10について、ボール17の直径Lを評価した。すなわち、美容器10の側方投影角度αを97度、ボール17の開き角度βを70度及びボール17の外周面間の間隔Dを11mmとして、ボール17の直径Lを15?40mmまで変化させてボール17の直径Lの評価を実施した。評価方法は前記実施例1と同様に行った。得られた結果を表5に示した。
【0042】
【表5】

表5に示したように、美容器10が顔用のものである場合には、ボール17の直径Lが25mmの実施例32及び27.5mm実施例33の結果が最も良好であった。次いで、ボール17の直径Lが15?20mmの実施例29?31及びボール17の直径Lが30mmの実施例34の結果が良好であった。さらに、ボール17の直径Lが32.5?40mmの実施例35?38の結果も可能と判断された。
【0043】
従って、美容器10が顔用に適する場合、ボール17の直径Lは15?40mmの範囲が好ましく、15?30mmの範囲がさらに好ましいと認められた。
(実施例39?44、ボール17の外周面間の間隔Dの評価)
主として顔用に適する美容器10について、ボール17の外周面間の間隔Dを評価した。すなわち、美容器10の側方投影角度αを97度、ボール17の開き角度βを70度及びボール17の直径Lを40mmとして、ボール17の外周面間の間隔Dを6?15mmまで変化させてボール17の外周面間の間隔Dの評価を実施した。評価方法は前記実施例1と同様に行った。得られた結果を表6に示した。
【0044】
【表6】

表6に示したように、美容器10が顔用の場合、ボール17の外周面間の間隔Dが11mmの実施例42の結果が最も良好であった。次いで、ボール17の外周面間の間隔Dが8mmの実施例40、10mmの実施例41及び12mmの実施例43の結果が良好であった。さらに、ボール17の外周面間の間隔Dが6mmの実施例39及び15mmの実施例44の結果も可能と判断された。
【0045】
従って、美容器10が顔用である場合、ボール17の外周面間の間隔Dは6?15mmの範囲が好ましく、8?12mmの範囲がさらに好ましいと認められた。
(実施例45?51、ボール17の直径Lの評価)
主として体用に適する美容器10について、ボール17の直径Lを評価した。すなわち、美容器10の側方投影角度αを97度、ボール17の開き角度βを70度及びボール17の外周面間の間隔Dを11mmとして、ボール17の直径Lを30?60mmまで変化させてボール17の直径Lの評価を実施した。評価方法は前記実施例1と同様に行った。得られた結果を表7に示した。
【0046】
【表7】

表7に示したように、ボール17の直径Lが50mmの実施例50及び60mm実施例51の結果が最も良好であった。次いで、ボール17の直径Lが38.3mmの実施例48及びボール17の直径Lが40mmの実施例49の結果が良好であった。さらに、ボール17の直径Lが30?35mmの実施例45?47の結果も可能と判断された。
【0047】
従って、美容器10が体用の場合、ボール17の直径Lは30?60mmの範囲が好ましく、38.3?60mmの範囲がさらに好ましいと認められた。
(実施例52?58、ボール17の外周面間の間隔Dの評価)
主として体用に適する美容器10について、ボール17の外周面間の間隔Dを評価した。すなわち、美容器10の側方投影角度αを97度、ボール17の開き角度βを70度及びボール17の直径Lを40mmとして、ボール17の外周面間の間隔Dを8?25mmまで変化させてボール17の外周面間の間隔Dの評価を実施した。評価方法は前記実施例1と同様に行った。得られた結果を表8に示した。
【0048】
【表8】

表8に示したように、ボール17の外周面間の間隔Dが12mmの実施例55及び15mmの実施例56の結果が最も良好であった。次いで、ボール17の外周面間の間隔Dが10?11mmの実施例53、実施例54及び20?25mmの実施例57及び実施例58の結果が良好であった。さらに、ボール17の外周面間の間隔Dが8mmの実施例52の結果も可能と判断された。
【0049】
従って、美容器10が体用である場合、ボール17の外周面間の間隔Dは8?25mmの範囲が好ましく、10?25mmの範囲がさらに好ましいと認められた。
以上に示した実施例1?58の結果を総合すると、美容器10の側方投影角度αは90?110度であることが必要であり、93?100度が好ましく、95?99度が特に好ましいと判断された。ボール17の開き角度βは50?110度が好ましく、50?90度がさらに好ましく、65?80度が特に好ましいと判断された。ボール17の直径Lは15?60mmが好ましく、32?55mmがさらに好ましく、38?45mmが特に好ましいと判断された。ボール17の外周面間の間隔Dは8?25mmが好ましく、9?15mmがさらに好ましく、10?13mmが特に好ましいと判断された。
【0050】
なお、前記実施形態を次のように変更して具体化することも可能である。
・ 図8及び図9に示すように、前記ボール17の形状を、ボール17の外周面のハンドル11側の曲率がボール支持軸15の先端側の曲率よりも大きくなるようにバルーン状に形成することもできる。このように構成した場合には、曲率の小さな部分で肌を摘み上げ、曲率の大きな部分で摘み上げ状態を保持できるため、ボール17を復動させたときの肌20の摘み上げ効果を向上させることができる。
【0051】
・ 前記ハンドル11の中心線xに対するボール17の軸線yの側方投影角度αを可変にするために、ハンドル11とその二股部11aとの間を回動可能に構成することも可能である。この場合、肌20に対するボール17の軸線yの角度を容易に変更することができ、使い勝手を良くすることができる。
【0052】
・ 前記ボール17の形状を、断面楕円形状、断面長円形状等に適宜変更することも可能である。
・ 前記ボール17の外周部に磁石を埋め込み、その磁力により肌20に対して血流を促すように構成することもできる。
【0053】
・ 前記ボール17の外周部に酸化チタン等の光触媒を埋め込み、肌表面への汚れの付着を抑制したり、汚れを酸化したりするように構成することも可能である。
・ 前記ボール17に遠赤外線を発するアルミナ系やジルコニウム系のセラミックを含ませて、肌20に遠赤外線を当てるように構成することもできる。
【0054】
・ 前記太陽電池パネル24に代えて乾電池を使用することも可能である。
・ 前記上側ハンドルカバー13a及び下側ハンドルカバー13bの導電性メッキを省略し、上側ハンドルカバー13a及び下側ハンドルカバー13b自体をカーボンブラック、金属等の導電性粉末が合成樹脂に分散された導電性樹脂で形成することができる。
【0055】
・ 前記ハンドル11の基材12、ハンドルカバー13等を形成する電気絶縁材料としては、ナイロン樹脂、ABS樹脂のほか、アクリル樹脂、ポリプロピレン樹脂等の合成樹脂を用いることも可能である。
【0056】
・ 前記ボール17の面17aの形状を、三角形以外の多角形や円形に形成することもできる。また、この面17aを縦縞模様、横縞模様、旋回縞模様、梨地模様、模様無し等に形成することもできる。
【0057】
・ 前記永久磁石22や太陽電池パネル24を省略することも可能である。
・ 前記ハンドル11の形状を変更することもできる。例えば、円筒状、円柱状、角柱状等に変更することができる。その場合には、側方投影角度αは、ハンドル11の軸線に対する角度となる。その他、凸凹状、ひょうたん状等に変更することも可能である。
【0058】
・ 前記軸受部材19を導電性樹脂で形成することもできる。
【符号の説明】
【0059】
10…美容器、11…ハンドル、17…ボール、20…肌、x…中心線、y…軸線、α…側方投影角度、β…ボールの開き角度、L…ボールの直径、D…ボールの外周面間の間隔。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドルの先端部に一対のボールを、相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、
往復動作中にボールの軸線が肌面に対して一定角度を維持できるように、ボールの軸線をハンドルの中心線に対して前傾させて構成し、
一対のボール支持軸の開き角度を65?80度、一対のボールの外周面間の間隔を10?13mmとし、
前記ボールは、非貫通状態でボール支持軸に軸受部材を介して支持されており、
ボールの外周面を肌に押し当ててハンドルの先端から基端方向に移動させることにより肌が摘み上げられるようにした
ことを特徴とする美容器。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2017-10-11 
結審通知日 2017-10-13 
審決日 2017-10-24 
出願番号 特願2013-129765(P2013-129765)
審決分類 P 1 113・ 121- YAA (A61H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 土田 嘉一  
特許庁審判長 長屋 陽二郎
特許庁審判官 根本 徳子
平瀬 知明
登録日 2013-09-06 
登録番号 特許第5356625号(P5356625)
発明の名称 美容器  
代理人 小林 徳夫  
代理人 ▲高▼山 嘉成  
代理人 小林 徳夫  
代理人 冨宅 恵  

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