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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1345368
審判番号 不服2017-15613  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-10-20 
確定日 2018-10-18 
事件の表示 特願2016- 93029「発光装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月 1日出願公開、特開2016-157979〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年5月6日の出願(原出願の出願日:平成23年9月8日)であって、その後の主な手続の経緯は、以下のとおりである。

平成29年 1月18日:拒絶理由通知(同年1月24日発送)
同年 5月19日:意見書・手続補正
同年 8月 1日:拒絶査定(同年8月8日送達)
同年10月20日:審判請求・手続補正


第2 平成29年10月20日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成29年10月20日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[補正却下の決定の理由]
1 補正内容
本件補正は、特許請求の範囲を補正するものであり、本件補正の前後で特許請求の範囲の請求項1は以下のとおりである。

(補正前)
「屈曲性と透光性を有する平板状の第1基体からなる第1支持体と、
屈曲性と透光性を有する平板状の第2基体からなる第2支持体と、
前記支持体に設けられた一対の導電層と、
少なくとも両方向に発光する発光素子と、
前記第1の支持体前記第2の支持体との間に充填された屈曲性と透光性を持つ電気絶縁性の樹脂で形成された中間層と、を備え、
前記第1の支持体前記第2の支持体は前記発光素子を中心として外側に突出した状態に変形され、
前記発光素子の一方の端部には、前記発光素子より面積が小さい電極が設けられ、
断面形状において、前記第1支持体に設けられた導電層と前記発光素子の前記一方の端部が接触しない形状であり、
前記発光素子から発光された光が前記第1支持体と前記第2支持体の両面から放出されることを特徴とする発光装置。」とあったものを、

(補正後)
「屈曲性と透光性を有する平板状の第1基体からなる第1支持体と、
屈曲性と透光性を有する平板状の第2基体からなる第2支持体と、
前記第1支持体に設けられた第1導電層と、
前記第2支持体に設けられた第2導電層と、
少なくとも両方向に発光する発光素子と、
前記発光素子における一方の端部に設けられ、前記発光素子より面積が小さく前記第1導電層に接する第1電極と、
前記発光素子における他方の端部に設けられ、前記発光素子と同等の面積でなり前記第2導電層に接する第2電極と、
前記第1支持体の前記第1導電層及び前記第2支持体の前記第2導電層の間に充填され、屈曲性と透光性を持つ電気絶縁性の樹脂で形成された中間層と
を備え、
前記中間層における一部の厚さが、前記発光素子における前記第1電極及び前記第2電極の間の距離よりも小さく、
前記第1支持体及び前記第1導電層並びに前記第2支持体及び前記第2導電層が、前記発光素子を中心として外側に突出した状態にそれぞれ変形され、
断面形状において、前記第1導電層と前記発光素子における前記一方の端部とが接触しない形状であり、
前記発光素子から発光された光が、前記第1支持体と前記第2支持体の両面から放出される
ことを特徴とする発光装置。」

2 補正目的
上記「1」の補正内容は、
本件補正前の請求項1に係る発明の「一対の導電層」が「第1導電層」と「第2導電層」とからなるものであること、「第1導電層」と「第2導電層」が「第1支持体」と「第2支持体」にそれぞれ設けられたものであること、本件補正前の請求項1に係る発明の「発光素子より面積が小さい電極」が「第1電極」であること、「第1電極」が「第1導電層」に接すること、第2電極を有すること、第2電極が発光素子における他方の端部に設けられ、前記発光素子と同等の面積でなり前記第2導電層に接すること、中間層が第1支持体の第1導電層及び第2支持体の前記第2導電層の間に充填されること、中間層における一部の厚さが、発光素子における第1電極及び第2電極の間の距離よりも小さいこと、第1導電層及び第2導電層が、発光素子を中心として外側に突出した状態にそれぞれ変形されていること、を含み、それぞれによって本件補正前の請求項1に係る発明の内容を限定するものである。
そして、本件補正の前後で、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であることから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
よって、本件補正後の請求項1についての補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)について、これが特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)否かを、以下に検討する。

3 独立特許要件
(1)本願の分割の実体的要件について
請求項1及び[0007]の「断面形状において、前記第1導電層と前記発光素子における前記一方の端部とが接触しない形状」が、原出願の出願当初の特許請求の範囲、明細書及び図面に記載された事項の範囲内であるかどうか検討する。
原出願の特許請求の範囲、明細書及び図1、図2、図4には、前記形状について記載も示唆もされていない。また、図3の発光素子62と導電層54は図3の断面において、互いに接触していないように見て取れるものの、同じ図3に記載されている発光素子32と第1導電層14とは互いに接触しているように見て取れる。そして、明細書には、同じように構成される発光素子32と発光素子64が、導電層との配置関係を異なるように構成することについては記載されていないこと、また、図面は発光素子、支持体、導電層及び中間層の積層構造を模式的に図示するものであって、設計図のように精密に記載されたものではないことに鑑みれば、図3は、導電層と発光素子における一方の端部とが実際に接触しないことの明示を意図して記載されたものということはできない。
よって、原出願の特許請求の範囲、明細書及び図面には、前記形状が記載されているとはいえない。
本願は分割の実体的要件を満たしていないため、出願日は平成28年5月6日である。

(2)引用文献
平成29年8月1日付け拒絶査定で引用文献1として引用した国際公開第2014/156159号(2014(平成26)年10月2日公開)には、以下の記載がある(下線は当審で付した。以下同じ。)。

ア 「【0018】
第1の実施形態で用いるLEDチップ8は、図2に示すように、活性層(PN接合界面やダブルヘテロ接合構造の発光部位となる半導体層等)11を有するチップ本体(発光ダイオード本体)12と、チップ本体12の活性層11に近い第1の面に設けられた第1の電極9と、チップ本体12の活性層11から遠い第2の面に設けられた第2の電極10とを備えている。ここでは便宜的に活性層11に近い第1の面を発光面、活性層11から遠い第2の面を非発光面と記す場合があるが、これに限られない。第2の導電回路層7やチップ本体12等の構成材料によっては、両面を発光面とすることができる。」
イ 「【0059】
(第3の実施形態)
図10は第3の実施形態による発光装置の構成を示す断面図である。なお、前述した第1および第2の実施形態と同一部分については同一符号を付し、それらの説明を一部省略する場合がある。図10に示す発光装置31は、所定の間隙を持って対向配置された第1の透光性支持基体2と第2の透光性支持基体3とを具備している。第1の透光性支持基体2は、第1の透光性絶縁体4とその表面に形成された第1の導電回路層5とを備えている。第2の透光性支持基体3は、第2の透光性絶縁体6とその表面に形成された第2の導電回路層7とを備えている。第1の透光性支持基体2と第2の透光性支持基体3とは、第1の導電回路層5と第2の導電回路層7とが対向するように、それらの間に所定の間隙を設けて配置されている。第1の透光性支持基体2と第2の透光性支持基体3との間隙には、複数の発光ダイオード8が配置されている。
【0060】
透光性絶縁体4、6には、例えば絶縁性と透光性と屈曲性とを有する樹脂材料が用いられる。このような樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンサクシネート(PES)、環状オレフィン樹脂(例えばJSR社製のアートン(商品名))、アクリル樹脂等が挙げられる。透光性絶縁体4、6の全光透過率(JIS K7105)は90%以上であることが好ましく、さらに95%以上であることがより好ましい。透光性絶縁体4、6の厚さは50?300μmの範囲であることが好ましい。透光性絶縁体4、6の厚さが厚すぎると、透光性支持基体2、3に良好な屈曲性を付与することが困難となり、また透光性も低下するおそれがある。透光性絶縁体4、6の厚さが薄すぎると、導電回路層5、7の形成基材としての特性等が十分に得られなくなるおそれがある。
【0061】
第1の透光性絶縁体4の表面には、第1の導電回路層5が形成されている。同様に、第2の透光性絶縁体6の表面には、第2の導電回路層7が形成されている。導電回路層5、7には、例えば酸化インジウムスズ(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化亜鉛、酸化インジウム亜鉛(IZO)等の透明導電材料が用いられる。透明導電材料からなる導電回路層5、7としては、例えばスパッタ法や電子ビーム蒸着法等を適用して薄膜を形成し、得られた薄膜をレーザ加工やエッチング処理等でパターニングして回路を形成したものが挙げられる。また、透明導電材料の微粒子(例えば平均粒子径が10?100nmの範囲の微粒子)と透明樹脂バインダとの混合物をスクリーン印刷等で回路形状に塗布したものや、上記混合物の塗布膜にレーザ加工やフォトリソグラフィによるパターニング処理を施して回路を形成したものであってもよい。」
ウ 「【0063】
第1の透光性支持基体2の第1の導電回路層5を有する表面と第2の透光性支持基体3の第2の導電回路層6を有する表面との間には、複数の発光ダイオード8が配置されている。発光ダイオードとしては、一般的にPN接合を有するダイオードチップ(以下ではLEDチップ8と記す)が用いられている。ここで用いる発光ダイオードは、LEDチップ8に限られるものではなく、レーザダイオード(LD)チップ等であってもよい。複数のLEDチップ8は、チップ間の最小間隔である最小距離dが500μm以上となるように配置されている。複数のLEDチップ8の最小距離dは、1つのLEDチップ8の外周面から最も近い位置に配置されたLEDチップ8の外周面までの距離である。なお、LEDチップ8の最小距離dについては後に詳述する。
【0064】
LEDチップ8としては、例えばN型半導体基板上にP型半導体層を形成したもの、P型半導体基板上にN型半導体層を形成したもの、半導体基板上にN型半導体層とP型半導体層とを形成したもの、P型半導体基板上にP型ヘテロ半導体層とN型ヘテロ半導体層を形成したもの、N型半導体基板上にN型ヘテロ半導体層とP型ヘテロ半導体層を形成したもの等が知られており、いずれの場合にもLEDチップ8の上下両面に電極9、10が設けられている。第3の実施形態で用いるLEDチップ8は、図11に示すように、活性層(PN接合界面やダブルヘテロ接合構造の発光部位となる半導体層等)11を有するチップ本体(発光ダイオード本体)12と、チップ本体12の活性層11に近い側の表面(発光面)に設けられた第1の電極9と、チップ本体12の活性層11から遠い側の表面(非発光面)に設けられた第1の電極10とを備えている。
【0065】
第1の電極9は第1の導電回路層5と直接接触することで電気的に接続されている。後述するように、第1の導電回路層5を第1の電極9に押し付けることによって、第1の導電回路層5と第1の電極9とを電気的に接続させている。同様に、第2の電極10は第2の導電回路層7と直接接触することで電気的に接続されている。第2の導電回路層7を第2の電極10に押し付けることによって、第2の導電回路層7と第2の電極10とを電気的に接続させている。導電回路層5と第1の電極9とは、図12に示すように、第1の電極9上に設けられたバンプ電極9Bを介して電気的に接続してもよい。LEDチップ8は、第1および第2の電極9、10を介して印加される直流電圧により点灯する。
【0066】
チップ本体12の発光面に設けられた第1の電極9は、活性層11からの発光が外部へ放出されることを妨げないように、発光面より小さい面積を有している。チップ本体12の発光面は、第1の電極9の形成面と非形成面とを有している。さらに、第1の電極9は発光面から突出した形状、例えば0.1μm以上突出した形状を有している。第2の電極10は、チップ本体12の非発光面全体に設けられている。第2の電極10の表面(導電回路層7との接触面)は、第2の導電回路層7との電気的な接続信頼性等を高めるために、例えば1μm以上の凹凸形状を有していることが好ましく、さらに微細な凹凸が繰り返した形状を有することが好ましい。第1の電極9の表面(導電回路層5との接触面)も同様な凹凸形状を有していることが好ましい。なお、通常のLEDチップの電極の表面には、電気的な接続信頼性の向上用とは別に凹凸形状が形成されている場合がある。
【0067】
第1の透光性支持基体2と第2の透光性支持基体3との間における複数のLEDチップ8の配置部分を除く部分には、第3の透光性絶縁体13が埋め込まれている。第3の透光性絶縁体13は80?160℃の範囲のビカット軟化温度を有することが好ましい。第3の透光性絶縁体13の0℃から100℃の間の引張貯蔵弾性率は、0.01?10GPaの範囲であることが好ましい。第3の透光性絶縁体13のビカット軟化温度は100?140℃の範囲であることがより好ましい。第3の透光性絶縁体13の0℃から100℃の間の引張貯蔵弾性率は0.1?7GPaの範囲であることが好ましい。
【0068】
さらに、第3の透光性絶縁体13は、ビカット軟化温度で溶融しておらず、ビカット軟化温度における引張貯蔵弾性率が0.1MPa以上であることが好ましい。第3の透光性絶縁体13は180℃以上の融解温度、もしくはビカット軟化温度より40℃以上高い融解温度を有することが好ましい。加えて、第3の透光性絶縁体13は-20℃以下のガラス転移温度を有することが好ましい。第3の透光性絶縁体13のガラス転移温度は-40℃以下であることがより好ましい。これら特性の測定方法は前述した通りである。
【0069】
第3の透光性絶縁体13は、上記したビカット軟化温度、引張貯蔵弾性率、融解温度、ガラス転移温度等の特性を満足する透光性絶縁樹脂、特にエラストマーで構成されていることが好ましい。エラストマーとしては、アクリル系エラストマー、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、エステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー等が知られている。これらのうち、上述した特性を満足するアクリル系エラストマーは、透光性、電気絶縁性、屈曲性等に加えて、軟化時の流動性、硬化後の接着性、耐候性等に優れることから、第3の透光性絶縁体13の構成材料として好適である。第3の透光性絶縁体13は、上記したようなエラストマーを主成分として含む材料からなることが好ましく、また必要に応じて他の樹脂成分等を含んでいてもよい。
【0070】
第3の透光性絶縁体13は、導電回路層5、7と電極9、10との接触性を高める上で、LEDチップ8の高さT1(第1の電極9の表面から第2の電極10の表面までの高さ)より薄い厚さを有している。なお、第1の電極9上にバンプ電極9Aを設ける場合には、LEDチップ8の高さT1はバンプ電極9Aの頂部から第2の電極10の表面までの高さを示すものとする。第3の透光性絶縁体13と密着している透光性支持基体2、3は、LEDチップ8が配置されている部分から隣接するLEDチップ8間の中間部分に向けて内側に湾曲した形状を有している。第1および第2の透光性支持基体2、3は、それぞれ反対方向から内側に湾曲した形状を有している。従って、第1の透光性支持基体2は第1の導電回路層5を第1の電極9に押し付けており、第2の透光性支持基体3は第2の導電回路層7を第2の電極10に押し付けている。これらによって、導電回路層5、7と電極9、10との電気的な接続性やその信頼性を高めることができる。
【0071】
第3の透光性絶縁体13は、LEDチップ8の高さT1より5μm以上1/2T1以下の範囲で薄い最小厚さT2、すなわち隣接するLEDチップ8間における最小厚さT2を有している。言い換えると、LEDチップ8の高さT1と第3の透光性絶縁体13の最小厚さT2との差ΔT(T1-T2)は、5μm以上1/2T1以下の範囲とされている。厚さの差ΔTが5μm未満であると、導電回路層5、7を電極9、10に押し付ける力が不足し、導電回路層5、7と電極9、10との電気的な接続状態、特に耐屈曲試験や熱サイクル試験時に電気的な接続状態が不安定になる。厚さの差ΔTがLEDチップ8の高さT1の1/2(1/2T1)を超えると、第3の透光性絶縁体13の形状を維持することが困難となったり、またLEDチップ8に対する密着性等が低下するおそれがある。厚さの差ΔTは20?80μmの範囲であることがより好ましい。
【0072】
第3の透光性絶縁体13の最小厚さT2は、LEDチップ8の高さT1に加えて、LEDチップ8の最小距離dを考慮して設定する必要がある。LEDチップ8の最小距離dが短い場合に、LEDチップ8の高さT1と第3の透光性絶縁体13の最小厚さT2との差ΔT(T1-T2)を小さくしすぎると、導電回路層5、7の湾曲形状がきつくなりすぎて不具合を招くことがある。すなわち、第1の導電回路層5にLEDチップ8の発光面側の角部が食い込んで、例えばLEDチップ8のN型半導体層とP型半導体層とが導電回路層5によりショートするおそれがある。これはLEDチップ8の発光不良の発生原因となる。そこで、実施形態の発光装置31においては、第3の透光性絶縁体13の最小厚さT2がLEDチップ8の高さT1とLEDチップ8の最小距離dとに基づいて設定されている。」
エ 「【0078】
第1の電極9の周囲の状態に関しては、第3の透光性絶縁体13を第1の電極9の周囲にまで配置することが好ましい。第1の電極9がチップ本体12の発光面より小さい面積と発光面から突出した形状とを有する場合、第1の電極9を第1の導電回路層5に接触させた状態で、発光面内における第1の電極9が形成されていない面(第1の電極9の非形成面)と第1の導電回路層5との間に空間が生じる。このような第1の電極9の非形成面と第1の導電回路層5との間の微小空間にも、第3の透光性絶縁体13が充填されていることが好ましい。第3の透光性絶縁体13の微小空間に対する充填状態は、ビカット軟化温度が80?160℃の範囲のエラストマーを用いることで高めることができる。」
オ 「【0086】
次に、図14(e)に示すように、第2の透光性支持基体3と第2の透光性絶縁樹脂シート15とLEDチップ8と第1の透光性絶縁樹脂シート14と第1の透光性支持基体2とが順に積層された積層体を真空雰囲気中で加熱しながら加圧する。積層体の加圧工程は、第3の透光性絶縁体13の最小厚さT2がLEDチップ8の高さT1より薄くするように、隣接するLEDチップ8間に局部的に圧力を加えることが可能な加圧装置、例えばゴムのような弾性体を表面に設けた加圧板を有する加圧装置を用いて実施することが好ましい。これによって、LEDチップ8の高さT1と第3の透光性絶縁体13の最小厚さT2との差ΔT(T1-T2)を、図13に示す直線1と直線2と直線3と直線4と直線5とで囲われる範囲内にすることができる。」
カ 「【0101】
第1の透光性絶縁体4は、第1の透光性支持基体2を内側に湾曲させるために、透光性と屈曲性とを有する絶縁樹脂体(シート等)で形成されていることが好ましい。」

したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「屈曲性と透光性を有するシート状の第1の透光性絶縁体4と、
屈曲性と透光性を有するシート状の第2の透光性絶縁体6と、
第1の透光性絶縁体4の表面に形成された透明導電材料からなる第1の導電回路層5と、
第2の透光性絶縁体6の表面に形成された透明導電材料からなる第2の導電回路層7と、
チップ本体12の両面を発光面とする複数のLEDチップ8と、
チップ本体12の活性層11に近い側の表面に設けられ、前記表面より小さい面積を有し、第1の導電回路層5に接する第1の電極9と、
チップ本体12の活性層11から遠い側の表面全体に設けられ、第2の導電回路層7に接する第2の電極10と、
第1の透光性支持基体2と第2の透光性支持基体3との間における複数のLEDチップ8の配置部分を除く部分に埋め込まれている、電気絶縁性と屈曲性と透光性を有する樹脂からなる第3の透光性絶縁体13と、
第3の透光性絶縁体13の最小厚さT2は、LEDチップ8の高さT1(第1の電極9の表面から第2の電極10の表面までの高さ)より20?80μm小さく、
第1の透光性絶縁体4とその表面に形成された第1の導電回路層5並びに第2の透光性絶縁体6とその表面に形成された第2の導電回路層7は、隣接するLEDチップ8間に局部的に圧力を加えられることで、LEDチップ8が配置されている部分から隣接するLEDチップ8間の中間部分に向けて内側に湾曲した形状を有しており、
第1の電極9の非形成面と第1の導電回路層5との間の空間に、第3の透光性絶縁体13が充填されている、
発光装置。」

(3)対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

ア 引用発明の「屈曲性と透光性を有するシート状の第1の透光性絶縁体4」は、シート状は平板状といえること、第1の透光性絶縁体4はLEDチップ8の支持するものであることから、本願補正発明の「屈曲性と透光性を有する平板状の第1基体からなる第1支持体」に相当する。
イ 引用発明の「屈曲性と透光性を有するシート状の第2の透光性絶縁体6」は、シート状は平板状といえること、第2の透光性絶縁体6はLEDチップ8の支持するものであることから、本願補正発明の「屈曲性と透光性を有する平板状の第2基体からなる第2支持体」に相当する。
ウ 引用発明の「第1の透光性絶縁体4の表面に形成された透明導電材料からなる第1の導電回路層5」は、本願補正発明の「前記第1支持体に設けられた第1導電層」に相当する。
エ 引用発明の「第2の透光性絶縁体6の表面に形成された透明導電材料からなる第2の導電回路層7」は、本願補正発明の「前記第2支持体に設けられた第2導電層」に相当する。
オ 引用発明の「チップ本体12の両面を発光面とする複数のLEDチップ8」は、本願補正発明の「少なくとも両方向に発光する発光素子」に相当する。
カ 引用発明の「チップ本体12の活性層11に近い側の表面に設けられ、前記表面より小さい面積を有し、第1の導電回路層5に接する第1の電極9」は、本願補正発明の「前記発光素子における一方の端部に設けられ、前記発光素子より面積が小さく前記第1導電層に接する第1電極」に相当する。
キ 引用発明の「チップ本体12の活性層11から遠い側の表面全体に設けられ、第2の導電回路層7に接する第2の電極10」は、本願補正発明の「前記発光素子における他方の端部に設けられ、前記発光素子と同等の面積でなり前記第2導電層に接する第2電極」に相当する。
ク 引用発明の「第1の透光性支持基体2と第2の透光性支持基体3との間における複数のLEDチップ8の配置部分を除く部分に埋め込まれている、電気絶縁性と屈曲性と透光性を有する樹脂からなる第3の透光性絶縁体13」は、本願補正発明の「前記第1支持体の前記第1導電層及び前記第2支持体の前記第2導電層の間に充填され、屈曲性と透光性を持つ電気絶縁性の樹脂で形成された中間層」に相当する。
ケ 引用発明の「第3の透光性絶縁体13の最小厚さT2は、LEDチップ8の高さT1(第1の電極9の表面から第2の電極10の表面までの高さ)より20?80μm小さく」は、対向電極型LEDチップの上下の電極のそれぞれの厚さは通常数μm程度であることを考慮すると、本願補正発明の「前記中間層における一部の厚さが、前記発光素子における前記第1電極及び前記第2電極の間の距離よりも小さく」に相当するといえる。
コ 引用発明の「第1の透光性絶縁体4とその表面に形成された第1の導電回路層5並びに第2の透光性絶縁体6とその表面に形成された第2の導電回路層7は、隣接するLEDチップ8間に局部的に圧力を加えられることで、LEDチップ8が配置されている部分から隣接するLEDチップ8間の中間部分に向けて内側に湾曲した形状を有しており」は、本願補正発明の「前記第1支持体及び前記第1導電層並びに前記第2支持体及び前記第2導電層が、前記発光素子を中心として外側に突出した状態にそれぞれ変形され」に相当する。
サ 引用発明のLEDチップ8はチップ本体12の両面を発光面とするものであること、第1の透光性絶縁体4、第1の導電回路層5、第2の透光性絶縁体6及び第2の導電回路層7がいずれも透光性であることから、LEDチップ8から発光された光は第1の透光性絶縁体4、第2の透光性絶縁体6の両面から放出されるといえる。
よって、引用発明は、本願補正発明の「前記発光素子から発光された光が、前記第1支持体と前記第2支持体の両面から放出される」構成を備えているといえる。

したがって、本願補正発明と引用発明とは、次の一致点及び相違点を有する。

(一致点)
「屈曲性と透光性を有する平板状の第1基体からなる第1支持体と、
屈曲性と透光性を有する平板状の第2基体からなる第2支持体と、
前記第1支持体に設けられた第1導電層と、
前記第2支持体に設けられた第2導電層と、
少なくとも両方向に発光する発光素子と、
前記発光素子における一方の端部に設けられ、前記発光素子より面積が小さく前記第1導電層に接する第1電極と、
前記発光素子における他方の端部に設けられ、前記発光素子と同等の面積でなり前記第2導電層に接する第2電極と、
前記第1支持体の前記第1導電層及び前記第2支持体の前記第2導電層の間に充填され、屈曲性と透光性を持つ電気絶縁性の樹脂で形成された中間層と
を備え、
前記中間層における一部の厚さが、前記発光素子における前記第1電極及び前記第2電極の間の距離よりも小さく、
前記第1支持体及び前記第1導電層並びに前記第2支持体及び前記第2導電層が、前記発光素子を中心として外側に突出した状態にそれぞれ変形され、
前記発光素子から発光された光が、前記第1支持体と前記第2支持体の両面から放出される
ことを特徴とする発光装置。」
(相違点)
本願補正発明は「断面形状において、前記第1導電層と前記発光素子における前記一方の端部とが接触しない形状であ」るのに対して、引用発明は「第1の電極9の非形成面と第1の導電回路層5との間の空間に、第3の透光性絶縁体13が充填されている」ものの、第1の電極9の非形成面と第1の導電回路層5とが接触するかどうかは不明である点。

前記相違点について検討する。
引用文献1の【0072】に「導電回路層5、7の湾曲形状がきつくなりすぎて不具合を招くことがある。すなわち、第1の導電回路層5にLEDチップ8の発光面側の角部が食い込んで、例えばLEDチップ8のN型半導体層とP型半導体層とが導電回路層5によりショートするおそれがある。」、同【0078】に「第1の電極9の非形成面と第1の導電回路層5との間の微小空間にも、第3の透光性絶縁体13が充填されていることが好ましい。」と記載がある。
してみると、引用発明において、第1の導電回路層5にLEDチップ8の発光面側の角部が食い込んでショートしないよう、両者の間に第3の透光性絶縁体13を介在させ、両者が接触しないようにすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
よって、本願補正発明は特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)本件補正についてのむすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成29年10月20日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成29年5月19日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1乃至5に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2の[補正却下の決定の理由]1に補正前の請求項1として記載されたとおりのものである。

2 引用文献の記載事項、引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項、引用発明は、前記第2の[補正却下の決定の理由]3(2)に記載したとおりである。

3 対比、判断
本願発明は、本件補正発明から、第1電極が導電層に接すること、「前記発光素子における他方の端部に設けられ、前記発光素子と同等の面積でなり前記第2導電層に接する第2電極」、第1導電層及び第2導電層が発光素子を中心として外側に突出した状態にそれぞれ変形されること、をそれぞれ削除したものと大略同じである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[補正却下の決定の理由]2(3)(4)で検討したとおり、引用発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、本願発明も、同じ理由により、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-08-15 
結審通知日 2018-08-21 
審決日 2018-09-04 
出願番号 特願2016-93029(P2016-93029)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小濱 健太  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 村井 友和
近藤 幸浩
発明の名称 発光装置  
代理人 田辺 恵基  

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