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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G08B
管理番号 1345369
審判番号 不服2017-15727  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-10-24 
確定日 2018-10-18 
事件の表示 特願2012-209895「火災受信機およびそれを用いた防災システム」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 4月17日出願公開、特開2014- 67085〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成24年9月24日の出願であって,平成28年4月21日付けで通知された拒絶理由に対して,同年6月24日付けで手続補正書が提出され,その後,同年10月28日付けで通知された最後の拒絶理由に対して,平成29年2月17日付けで手続補正書が提出されたところ,同年7月14日付けで当該手続補正書による補正の却下の決定がされるとともに,同日付けで拒絶査定され,これに対し,同年10月24日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成28年6月24日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。
「感知器を接続した感知器回線に給電し,該回線の電圧レベルに基づいて発報を検出する火災受信機において,
感知器回線に接続された分圧回路と,
前記分圧回路の出力をアナログデジタル変換するA/D変換器と,
このA/D変換器を内蔵し,該変換器の出力に応じて,感知器の発報と回線の断線とを判定する集積回路素子と,
外部機器と通信する通信手段とを備え,
前記A/D変換器の出力と比較して感知器の発報,回線の断線を判断するための閾値を,前記通信手段を通じて外部機器から変更可能であることを特徴とする火災受信機。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,この出願の請求項1,3-5に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

1.特開昭63-221499号公報
2.特開2010-281717号公報(周知技術を示す文献)
3.特開2012-112842号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2011-091915号公報(周知技術を示す文献)

第4 引用発明
1.原査定の拒絶の理由で引用された特開昭63-221499号公報(以下「引用文献1」という。)には,以下に摘記する各事項が記載されている(下線は当審による。)。
(1)「防災制御装置を構成する本発明の火災受信装置は,
A/D変換器を内蔵し,このA/D変換器の出力データの大きさを表すデータを,上記防災制御装置の中央システムに送出するワンチップのマイクロコンピュータと,
火災感知器に電源を供給する抵抗と,
上記抵抗に接続し,この抵抗における電圧降下に対応する電圧を上記A/D変換器に出力する電圧抽出手段とを有する。」(3頁右上欄8?17行)
(2)「上記電圧抽出手段は,上記抵抗における電圧降下に対応する電圧を上記A/D変換器に出力する。上記抵抗における電圧降下は,火災感知器が火災を感知したか否か,あるいは断線しているか否かなどにより変化するので,上記電圧の値もこれらの状態に応じて変化する。A/D変換器はこの電圧をデジタル化して出力する。」(3頁右上欄19行?左下欄9行)
(3)「第1図に本実施例のブロック図を示す。この火災受信装置はマイクロコンピュータ1と一例として4つの火災感知回路2とを持つ。マイクロコンピュータ1はプログラムを格納するためのマスクROM11及びアナログ信号を入力するための8ビツトのA/D変換器12を内部に備えたワンチップのLSIであり,マスクROM11に格納されたプログラムに基いて動作する。マイクロコンピュータ1が出力するコマンド信号C1?C4はバッファ3を介して各火災感知回路2の端子21に入力する。また,A/D変換器12の入力端子13?16に火災感知回路2の出力信号をそれぞれ入力する。
マイクロコンピュータ1は火災感知回路2からのアナログ信号A/D変換器12によってまずデジタル信号に変換し,得られたデジタル信号に基いて火災感知回路2が出力した信号のレベルを調べる。
また,マイクロコンピュータ1と伝送ライン123とをインターフェース4によって接続することにより,中央システムとこの火災受信装置との間のデータのやり取りを行なう。」(3頁左下欄11行?右下欄13行)
(4)「第2図に火災感知回路2の回路図を示す。この回路は,火災感知器保護用のダイオードOFCを介して火災感知器102に直列に接続する直列抵抗RFA,RFBを持つ。抵抗RFAの一端はダイオードDFAによって+24Vの電源に接続し,これにより火災感知器102及びこれに並列接続された終端抵抗RTに電流を供給する。また,直列抵抗RFA,RFBにおける電圧降下を検出するため,一端を接続点22に接続した,抵抗RDF,RFEによる分圧回路を持ち,その分圧点23から火災検出結果としてのアナログ電圧をマイクロコンピュータ1に出力している。この抵抗分圧回路の他端24は電源の0V端子に接続する。火災感知器102の一端は電源の0V端子に接続し,さらに火災感知器102の両端には保護用のダイオードDFDを並列に接続する。」(3頁右下欄14行?4頁左上欄10行)
(5)「火災が発生していない場合には,+24Vの電源端子から供給される電流は,ダイオードDFAと抵抗RFAとを通って接続点22に至り,ここで2つに分れる。すなわち,一方は抵抗RFD,RFEを通って0Vの電源端子にもどり,他方は抵抗RFB,ダイオードDFC,そして終端抵抗RTを通って0Vの電源端子に戻る。この状態ではダイオードDFCを通って火災感知器側に流出する電源は小さいため,抵抗RFAにおける電圧降下小さく,従って分圧点23からは高レベルの電圧がマイクロコンピュータ1に出力される。
火災が発生した場合には,火災感知器102の両端の抵抗値は400Ω程度となるため,火災感知回路2からは大きい電流が流出する。従って,抵抗RFAにおいて大きく電圧が降下し,そのため分圧点23の電圧も大きく低下する。すなわち,火災発生時には低レベルの電圧がマイクロコンピュータ1に出力される。
また,火災感知回路2から出て火災感知器102に至り,火災感知器102を通って再び火災感知回路2に戻る回路で断線が発生した場合,または,終端抵抗RTが脱落した場合には,火災感知器102側には電流が流出しなくなるので,抵抗RFAだの電圧降下は非常に小さくなり,従って分圧点23の電圧は最も高くなる。
すなわち,正常時には高レベルの電圧,火災発生時には低レベルの電圧,そして断線時には最も高レベルの電圧が火災感知回路2からマイクロコンピュータ1に出力される。マイクロコンピュータ1はこれら3種類の電圧をA/D変換した後,そのレベルによって識別し,3種類の状態のうちのどの状態であるかを判定する。」(4頁左上欄14行?左下欄6行)

2.上記1.の各摘記事項から,以下のことがいえる。
(1)上記1(1)ないし(4)によれば,火災受信装置は,火災感知器102を接続した火災感知回路2が電源に接続され,火災感知回路2の抵抗RFAの電圧降下に基づいて火災感知器102の火災の感知を検出するものであり,また,上記1(4)によれば,火災感知回路2は,抵抗RDF,RFEによる分圧回路を備え,その分圧点23からアナログ電圧がマイクロコンピュータ1に出力される。
(2)上記1(3)によれば,火災受信装置はマイクロコンピュータ1を持ち,当該マイクロコンピュータ1は,A/D変換器12を内部に備えるワンチップのLSIであり,インターフェース4によって中央システムと通信する。また,A/D変換器12は,火災感知回路2からのアナログ信号をデジタル信号に変換する。
(3)上記1(5)によれば,マイクロコンピュータ1は,火災感知回路2から出力される電圧をA/D変換した後,そのレベルによって,火災発生時であるか,及び,火災感知回路2から出て火災感知器102に至り火災感知器102を通って再び火災感知回路2に戻る回路で断線が発生した状態であるかを判定する。ここで,上記1(2)から,「火災発生時」とは,火災感知器が火災を感知した状態を意味することが明らかであり,また,上記1(3)から,「A/D変換した後」の「レベル」とは,A/D変換器12の出力であることが明らかである。
(4)上記(1)の「分圧回路」,及び,上記(3)の「火災感知回路2から出て火災感知器102に至り火災感知器102を通って再び火災感知回路2に戻る回路」に関し,引用文献1の第2図も考慮すると,分圧回路は,火災感知回路2から出て火災感知器102に至り火災感知器102を通って再び火災感知回路2に戻る回路と,(抵抗RFA等を含む)火災感知回路2内の回路とからなる回路に接続されたものであるといえる。また,上記(1)の「電源」に関し,上記1(4)の「抵抗RFAの一端はダイオードDFAによって+24Vの電源に接続し,これにより火災感知器102及びこれに並列接続された終端抵抗RTに電流を供給する。」との記載も考慮すると,電源は,火災感知器102を接続した,火災感知回路2内の回路と火災感知回路2から出て火災感知器102に至り火災感知器102を通って再び火災感知回路2に戻る回路とからなる回路に,電流を供給するものであるといえる。

3.したがって,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「火災感知器102を接続した,火災感知回路2内の回路と火災感知回路2から出て火災感知器102に至り火災感知器102を通って再び火災感知回路2に戻る回路とからなる回路に電流を供給し,火災感知回路2の抵抗RFAの電圧降下に基づいて火災感知器102の火災の感知を検出する火災受信装置において,
火災感知回路2内の回路と火災感知回路2から出て火災感知器102に至り火災感知器102を通って再び火災感知回路2に戻る回路とからなる回路に接続された分圧回路と,
前記分圧回路から出力されるアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器12と,
このA/D変換器12を内部に備え,該A/D変換器12の出力に応じて,火災感知器が火災を感知した状態であるか,及び,火災感知回路2から出て火災感知器102に至り火災感知器102を通って再び火災感知回路2に戻る回路で断線が発生した状態であるかを判定するLSIと,
中央システムと通信するインターフェース4とを備える,火災受信装置。」

第5 対比・判断
1.本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「火災感知器102」,「火災感知回路2内の回路と火災感知回路2から出て火災感知器102に至り火災感知器102を通って再び火災感知回路2に戻る回路とからなる回路」,「電流を供給」すること,「火災の感知」,「内部に備え」ること,「LSI」,「中央システム」,「インターフェース4」,「火災受信装置」は,それぞれ,本願発明の「感知器」,「感知器回線」,「給電」すること,「発報」,「内蔵」すること,「集積回路素子」,「外部機器」,「通信手段」,「火災受信機」に相当するといえる。
(2)引用発明の「火災感知回路2の抵抗RFAの電圧降下」は,「火災感知回路2の抵抗RFA」が,本願発明の「感知器回線」に相当する「火災感知回路2内の回路と火災感知回路2から出て火災感知器102に至り火災感知器102を通って再び火災感知回路2に戻る回路とからなる回路」中に存在することから,本願発明の「回線の電圧レベル」に相当するといえる。
(3)本願発明の「感知器回線」の一部に相当する引用発明の「火災感知回路2から出て火災感知器102に至り火災感知器102を通って再び火災感知回路2に戻る回路」で「断線が発生した状態であるかを判定する」ことは,感知器回線の断線を判定することに含まれるといえる。

2.したがって,本願発明と引用発明とは以下の点で一致し,また,相違する。
(一致点)「感知器を接続した感知器回線に給電し,該回線の電圧レベルに基づいて発報を検出する火災受信機において,
感知器回線に接続された分圧回路と,
前記分圧回路の出力をアナログデジタル変換するA/D変換器と,
このA/D変換器を内蔵し,該変換器の出力に応じて,感知器の発報と回線の断線とを判定する集積回路素子と,
外部機器と通信する通信手段とを備える,火災受信機。」
(相違点)本願発明は,「前記A/D変換器の出力と比較して感知器の発報,回線の断線を判断するための閾値を,前記通信手段を通じて外部機器から変更可能である」のに対し,引用発明はその特定がない点。

3.そこで,上記相違点について検討する。
引用発明は,「A/D変換器12の出力に応じて,火災感知器が火災を感知した状態であるか,及び,火災感知回路2から出て火災感知器102に至り火災感知器102を通って再び火災感知回路2に戻る回路で断線が発生した状態であるかを判定する」ものであるところ,当該判定はA/D変換器12の出力のレベルの判定によるものであって,このようなレベルの判定に閾値を用いることは自明のことであるから,引用発明は,「A/D変換器の出力と比較して感知器の発報,回線の断線を判断するための閾値」を実質的に備えている。なお,この点は,引用文献1に,「従来の技術」に係る「火災受信装置」に関し,「判定回路122は,例えば第6図に示したような回路構成となっており,火災感知器102に電流を流し,所定のスレッシュホールドを設定して,火災発生,正常,及び断線の3つの状態を判定し,判定結果を示すデータを伝送制御IC121に送っている。」(2頁右上欄1?6行)との,検出される電気量のレベル判定を行う際に,「スレッシュホールド」,すなわち閾値が用いられる旨の記載があることからも裏付けられる。
また,引用文献1には,上記「従来の技術」に関し,さらに,「これらのスレッシュホールドは回路部品のバラツキや電源電圧の変動によって,第7図に示したようにある程度変化するものであり」との記載(2頁右下欄12?15行)があるところ,引用発明は電源電圧の変動等を防止するものとは認められないことから,引用発明においても同様に,閾値が変化し得るといえる。
他方で,原査定の拒絶の理由で引用された,特開2010-281717号公報(段落【0022】,【0026】等参照),特開2012-112842号公報(段落【0039】,【0041】,【0050】等参照),特開2011-91915号公報(段落【0026】,【0027】,【0037】等参照)によれば,検出対象あるいは監視対象とされている電気量のレベルを判定するための閾値を,通信手段を通じて外部機器から変更可能とすることは,周知技術である。
そして,引用発明と当該周知技術とは,電気量の検出・監視技術に関するものである点で共通しており,引用発明において,変化し得る閾値に対応できるように,上記周知技術を適用して,A/D変換器の出力と比較して感知器の発報,回線の断線を判断するための閾値が,通信手段を通じて外部機器から変更可能であるものとすることは,当業者が容易に想到し得ることである。ここで,引用発明に上記周知技術を適用することが引用発明の目的に反するといった事情はなく,阻害要因は認められない。
また,本願発明の作用効果は,引用発明及び上記周知技術から当業者が予測できる程度のものである。

第6 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-08-13 
結審通知日 2018-08-21 
審決日 2018-09-03 
出願番号 特願2012-209895(P2012-209895)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G08B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉村 伊佐雄  
特許庁審判長 北岡 浩
特許庁審判官 中野 浩昌
富澤 哲生
発明の名称 火災受信機およびそれを用いた防災システム  
代理人 協明国際特許業務法人  

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