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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1345553
審判番号 不服2018-856  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-01-23 
確定日 2018-11-20 
事件の表示 特願2013-178934「インゴットとワークホルダの接着方法及び接着装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 3月16日出願公開、特開2015- 50215、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成25年8月30日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年 4月10日 拒絶理由通知
平成29年 5月12日 意見書・手続補正
平成29年10月20日 拒絶査定(以下,「原査定」という。)
平成30年 1月23日 審判請求

第2 本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明6」という。)は,本願の特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりである。
「【請求項1】
円柱状のインゴットの円周面上にワークホルダを接着する方法であって,
インゴットの結晶方位を測定する第1の測定ステップと,
前記第1の測定ステップの測定結果を用いて,前記結晶方位が基準平面と平行になるように前記インゴットを円周方向に回転させる第1の回転ステップと,
前記第1の回転ステップで回転させた前記インゴットの結晶方位を再び測定する第2の測定ステップと,
前記基準平面に対して前記結晶方位がなす第1の傾斜角度が許容範囲内に収まっていない場合に,前記第2の測定ステップの測定結果を用いて,前記結晶方位が前記基準平面と平行となるように前記インゴットを円周方向に再び回転させる第2の回転ステップと,
前記インゴットにスライス台を接着するスライス台接着ステップと,
前記スライス台の上面にワークホルダを仮接着するワークホルダ仮接着ステップと,
前記第1及び第2の測定ステップの少なくとも一方の測定結果を用いて,前記ワークホルダの取付軸線が前記結晶方位と平行となるように前記ワークホルダを前記基準平面内で回転させる角度調整ステップと,
前記角度調整ステップを経た前記ワークホルダを前記スライス台に本接着するワークホルダ本接着ステップとを備え,
前記第1及び第2の回転ステップでは,前記インゴットの下側の円周面に当接させた一対のローラを用いて前記インゴットをその下方のみから支持し,前記一対のローラの少なくとも一方の回転に合わせて前記インゴットを回転させることを特徴とするインゴットとワークホルダの接着方法。
【請求項2】
前記第1の傾斜角度が許容範囲内に収まるまで,前記第2の測定ステップ及び前記第2の回転ステップを予め設定された制限回数の範囲内で繰り返し行う,請求項1に記載のインゴットとワークホルダの接着方法。
【請求項3】
前記角度調整ステップは,前記ワークホルダの前記基準平面と平行な方向の変位量を測定し,前記変位量から前記結晶方位に対して前記ワークホルダの取付軸線がなす第2の傾斜角度を求め,前記第2の傾斜角度が許容範囲内に収まっていない場合に,前記取付軸線が前記結晶方位と平行となるように前記ワークホルダを前記基準平面内で再び回転させる,請求項1又は2に記載のインゴットとワークホルダの接着方法。
【請求項4】
前記第2の傾斜角度が許容範囲内に収まるまで,前記角度調整ステップを予め設定された制限回数の範囲内で繰り返し行う,請求項3に記載のインゴットとワークホルダの接着方法。
【請求項5】
円柱状のインゴットの円周面上にスライス台を介してワークホルダを接着する接着装置であって,
X線の回折を利用してインゴットの結晶方位を測定する方位測定装置と,
前記インゴットの下側の円周面に当接させることにより前記インゴットをその下方のみから支持する一対のローラを有し,前記一対のローラの少なくとも一方を回転させることにより,前記インゴットを基準平面と平行に支持しながら円周方向に回転させる回転支持機構と,
前記インゴットの上部にスライス台を接着するためのスライス台取付機構と,
前記スライス台の上面にワークホルダを接着するためのワークホルダ取付機構と,
前記方位測定装置,前記回転支持機構,前記スライス台取付機構及び前記ワークホルダ取付機構を制御する制御部とを備え,
前記制御部は,
前記方位測定装置にインゴットの結晶方位を測定させた第1の測定結果に基づいて,前記結晶方位が前記基準平面と平行になるように前記回転支持機構を用いて前記インゴットを円周方向に回転させ,
前記方位測定装置に前記回転したインゴットの結晶方位を再び測定させた第2の測定結果に基づいて,前記基準平面に対して前記インゴットの結晶方位がなす第1の傾斜角度が許容範囲内に収まっているか否かを判断し,前記第1の傾斜角度が前記許容範囲内に収まっていない場合に,前記結晶方位が前記基準平面と平行となるように前記回転支持機構を用いて前記インゴットを円周方向に再び回転させることを特徴とする接着装置。
【請求項6】
前記ワークホルダ取付機構は,前記ワークホルダの取付軸線が前記結晶方位と平行になるように前記ワークホルダを基準平面内で回転させる角度調整機構を含み,
前記制御部は,前記ワークホルダの前記基準平面と平行な方向の変位量の測定結果から前記結晶方位に対して前記取付軸線がなす第2の傾斜角度を求め,前記第2の傾斜角度が許容範囲内に収まっていない場合に,前記取付軸線が前記結晶方位と平行となるように前記角度調整機構を用いて前記ワークホルダを前記基準平面内で再び回転させる,請求項5に記載の接着装置。」

第3 原査定の概要
原査定の拒絶の理由は,この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1,5
・引用文献等 1-3,5
引用文献1および2に記載された,インゴットを3点あるいは4点で支持している方法であっても,ローラがスリップする他の要因でインゴットの実際の回転量が目標回転量からずれる懸念があることは当業者にとって明らかであり,このずれを解消するための手段として,引用文献3に記載されている,インゴットの結晶方位を調整した後に再測定して再調整する技術を採用することは,当業者が容易に想到し得るものと認められる。
そして,引用文献5(特に段落[0023]-[0024],[図1]を参照されたい。)に記載されているように,インゴットの下側の円周面に当接させた一対のローラを用いてインゴットをその下方のみから支持し回転させる構成は当業者にとって周知技術であり,インゴットを支持する方法として何点の支持とするかは,当業者が実施に当たり適宜選択する設計事項と認められる。なお,2点により支持方法はインゴットの支持構造が単純で容易に載せたり降ろしたりできる反面,ローラがスリップする課題を持っていることは当業者にとって明らかである(引用文献1および2に記載されたものは2点の支持ではスリップするため2点よりも多い3点あるいは4点で支持しているものと認められる。)。

・請求項 2
・引用文献等 1-5
引用文献4の段落[0011]には,インゴットの結晶方位合わせ方法において,偏差が許容誤差未満となるまで繰り返し行う技術が開示されており,段落[0014]には,所定回数だけ繰り返し行う技術が開示されている。引用文献1に記載された構成に引用文献2?5に記載された技術を適用して,請求項2に係る発明とすることは,当業者が容易に想到し得るものと認められる。

・請求項 3,4,6
・引用文献等 1-5
インゴットの結晶方位調整において,第2の傾斜角度についても,繰り返し調整を行うことは,当業者であれば容易に想到し得るものと認められる。
<引用文献等一覧>
1.特開平10-329133号公報
2.特開平09-207128号公報
3.特開平09-325124号公報
4.特開2000-043031号公報
5.特開2008-180526号公報

第4 引用文献及び引用発明
1 引用文献1について
(1)引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付加した。以下同じ。)
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は,インゴットと取付ステーの接着方法及び接着装置に関するものである。」
イ 「【0004】
【発明が解決しようとする課題】従って,各ワイヤソーにゴニオ角設定器を装着する必要があるため,加工装置の設備費を低減することができないという問題がある。又,ゴニオ角設定器にインゴットを取り付ける必要があるため,インゴットの取付作業を手動によりボルト締めする必要があり,取付作業が面倒でインゴットの方位調整に時間を要し,この結果,ワイヤソーへのインゴットの取付作業を自動化して,ワイヤソーの稼働率を向上することができないという問題がある。
【0005】この発明は,このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものであって,その目的は,接着の段階において予めインゴットの結晶方位に基づいてインゴットと取付ステーを互いに位置調整した状態で接着し,加工機へ搬入することにより加工機にゴニオ角設定器を装着する必要を無くして,加工装置全体の設備費を低減することができるとともに,加工機へのインゴットの取付作業を自動化して,加工機の稼働率を向上することができるインゴットと取付ステーの接着方法及び接着装置を提供することにある。」
ウ 「【0031】最初に,図7及び図11により,この実施形態で接着される円柱状をなすSi単結晶インゴット11,カーボン等の可切断材よりなる中間ステー12,絶縁プレート13及び取付ステー14について説明する。
【0032】図11に示すように,中間ステー12の下面にはその取付軸線に沿ってインゴット11の円柱面にはまり合う円弧凹溝12aが形成され,横円柱状に置かれたインゴット11の上部円柱面に中間ステー12が前記円弧凹溝12a部分で接着剤により接着され,その上面にはガラス製の絶縁プレート13が水平に接着され,該絶縁プレート13の上面には取付ステー14が接着剤により水平に接着されている。絶縁プレート13は予め取付ステー14に接着されている。又,図7においてインゴット11の結晶格子面15の法線,つまり結晶方位16はインゴット11の中心軸線17,水平面18及び垂直面19に対しそれぞれ傾斜している。この結晶方位16のインゴット11の両端面における中心軸線17からの水平方向の変位量は符号20で,垂直方向の変位量は符号21で示されているが,この結晶方位16の傾斜角は実際にはインゴット11の中心軸線17に対して最大で±3°程度である。又,取付ステー14の取付軸線とは,図7において該取付ステー14の長手方向の仮想軸線23を言い,同図のステー14の左右両側面は仮想軸線23と平行である。この実施形態の接着方法及び接着装置はインゴット11の前記結晶方位16と取付ステー14の取付軸線23とを平行に位置調整して,インゴット11と取付ステー14とを適正に接着するものである。」
エ 「【0036】次に,図1?図6により前記接着装置27について説明する。
【0037】この接着装置27は概略的に見て,インゴット11をその中心軸線17を水平に保持してクランプし回転させるための回転支持機構38と,該回転支持機構38を搭載して中間ステー12の接着位置と方位測定装置28に対応する測定位置との間を往復動可能に設けられた移動手段としての搬送台車39と,後述する方位測定後にその測定データに基づいてインゴット11を回転させてその結晶方位16を水平面内に位置するように調整し,かつ前記回転支持機構38を兼用する第1調整手段としての結晶方位調整機構40とを備えている。さらに,接着装置27は前記結晶方位調整機構40により位置調整されたインゴット11の上部に対し中間ステー12を接着する中間ステー接着機構71と,前記測定データに基づいて,中間ステー12の上面に対し取付ステー14を水平面内で回転し,インゴット11の水平面上に位置された結晶方位16に対し取付ステー14の水平面内における取付軸線23が平行になるように位置調整する第2調整手段としての水平角度調整機構91とを備えている。
【0038】そこで,回転支持機構38及び搬送台車39について説明すると,図2に示すように中間ステー接着機構71に対応する接着位置と方位測定装置21に対応する測定位置間において,地面に固定された平行な左右一対の案内レール41に沿って水平可動盤42が水平方向に往復動可能に支持されている。この可動盤42の上面には図2において左右一対の軸受板43が立設固定され,両軸受板43間には複数(この実施形態では図5に示すように7個)の支持ローラ44が遊転可能に支持されている。又,図1に示すように最右端の支持ローラ44と搬送装置26の端部との間には案内ローラ45が所定位置に支持され,搬送装置26側からインゴット11を前記支持ローラ44上に移送可能である。すなわち,この案内ローラ45と支持ローラ44とによりインゴット搬入出手段が構成されている。前記可動盤42の測定装置21側の端部上面には図1に示すようにストッパ46が立設固定され,図1及び図3においてインゴット11の測定基準面となる左端面の位置決めを行うようになっている。
【0039】図2?図5に示すように可動盤42の上面には一対の支持盤47が立設固定され,該支持盤47間には上下一対のインゴットクランプ用ローラ48が遊転可能に支持されている。前記可動盤42の上面には一対の支持体49が立設固定され,該支持体49には一対の案内棒50が所定間隔をおいて平行に,かつ水平に支持されており,両案内棒50には複数の支持体51を介して支持盤52が案内棒50に沿って水平方向に往復動可能に支持されている。この支持盤52は,シリンダ53のロッド54によって水平方向に往復動される。前記支持盤52の両側壁にはインゴット11の外周面に回転接触してインゴット11を回転する上下一対の駆動ローラ55が軸支されている。これらのクランプ用ローラ48と駆動ローラ55のローラ高さは,インゴット11を把持したとき,インゴット11の中心が支持ローラ44上での搬送時のインゴット11中心より高い位置になるように設定されている。そして,この上下一対のクランプ用ローラ48及び駆動ローラ55が支持ローラ44上のインゴット11を把持したとき,インゴット11は上部に若干持ち上げられ,ローラ44より上方に離れる。
(中略)
【0048】次に,X線の回析を利用してインゴットの結晶方位を測定する前記方位測定装置28について説明する。
(中略)
【0051】図14に示すように,接着装置27は制御装置118を有し,この制御装置118を介して前記各モータ56,82,86,95,115,搬送装置26の駆動モータ119,搬送台車39の送りモータ120及び方位測定装置28が動作される。又,制御装置118には演算装置117が接続され,モータ115からの測定角度,モータ56,95からのインゴット11及び水平角度調整板93の回転角度が読み取られる。」
オ 「【0061】次に,前記のように構成したインゴット11に対する中間ステー12及び取付ステー14の接着方法について図15のフローに従って説明する。
【0062】最初に,自動倉庫25から取り出された単体のインゴット11は搬送装置26によって運ばれ,図1に示すように搬送台車39上の複数の支持ローラ44の上面に受け渡され,基準単面がストッパ46に当接して所定位置に停止される。(ステップS1)
次に,図2に示すように,シリンダ53が作動されて駆動ローラ55がインゴット11の外周面に押圧され,支持ローラ44より離れ,インゴット11が4つのローラ48,48,ローラ55,55によりクランプされる。このインゴット11のクランプ動作が終了すると,搬送台車39すなわち可動盤42がインゴット11をクランプした回転支持機構38とともに方位測定装置28に向かって移送される。(ステップS2)
図1及び図5に鎖線で示すようにインゴット11の基準端面がX線投光器11と受光器112とに対応する正規の測定基準位置Koに移動されたら,可動盤42を図示しない制動装置により固定する。(ステップS3)
次に,方位測定装置28を起動し,インゴット11の端面に一方向よりX線を照射して反射させ,その反射X線を受光器112により受光する。モータ115により測定ヘッド114を90度ずつ回転させて,他の3方向からも,この測定動作を繰り返す。測定器116は,受光器112からの反射X線の4方向での出力データを演算装置117に送る。(ステップS4)
この方位測定が終了すると,演算装置117は各照射方向データと出力データに基づいて,結晶方位16の回転角データα及び傾角データβ(図8参照)を演算する。(ステップS5)
また,方位測定終了後は,インゴット11は可動盤42とともに案内レール41に沿って測定基準位置Koから接着装置71へ向かって搬送される。(ステップS6)
この搬送途中又は接着装置71に対応する接着位置にインゴット11が搬送された位置において,前記演算装置117からの回転角データαにより,中心軸線17を中心とする回転調整が行われる。すなわち,サーボモータ56を起動して駆動プーリ57を回転させ,ベルト59を介して両駆動ローラ55を回転し,インゴット11を4つのローラ48,55に支持したまま角度α回転させる。これにより,インゴット11の結晶方位16が水平面18に位置される。(ステップS7)
次に,図2においてモータ86を起動し,中間ステー12を装着したアーム74を案内レール73に沿って下方に移動し,図3に示すように該中間ステー12をインゴット11の上面に互いに軸線をほぼ一致させて載置し接着剤によりインゴット11と中間ステー12を接着する。この時,オシレート機構89のモータ82を起動して偏心軸83を回動すると,案内レール76に沿ってホルダー77がインゴット11の中心軸線17と平行方向に往復動されて,接着剤に含まれる気泡が排除され,中間ステー12の接着が迅速かつ確実に行われる。(ステップS8)
この中間ステー12の接着が完了すると,シリンダ80によってクランプ板79による中間ステー12のクランプを解除した後,前記モータ86を逆転駆動して支持アーム74を図4に示すように上昇させて,ホルダー77を上方の待機位置に移動停止する。
【0063】インゴット11と中間ステー12との間の接着剤が乾燥すると,次に,予め下面に絶縁プレート13を接着しかつ絶縁プレート13の下面に接着剤を塗布した取付ステー14が搬入装置103によって軽く把持された状態でインゴット11の中間ステー12上面位置へ向かって搬入され,中間ステー12の上面に接着剤を介して載置される。この場合も取付ステー14は図示しないオシレート機構を介してインゴット11の中心軸線17方向に往復動されながら中間ステー12上面に軽く接着される。(ステップS9)
次に,演算装置117からの傾角データβにより,水平角度調整機構91のサーボモータ95が回動され,図6の平面に示すように水平角度調整板93の水平面内での中心軸線17に対する傾角θが角度βと同一となるように微調整される。前記中間ステー12と取付ステー14との間の接着剤が乾燥しないうちに,前記角度調整された水平角度調整板93の端面に取付ステー14の側面が押し当てられて水平面内での方位調整が行われる。これにより,インゴット11の結晶方位16と取付ステー14の水平面内での取付軸線23とは平行になる。(ステップS10)
この状態で搬入装置103が取付ステー14をアンクランプし,退避する。前記中間ステー12と取付ステー14との間の接着剤が乾燥すると,図4において,シリンダ53を作動して駆動ローラ55によるインゴット11のクランプを解除した後,該インゴット11を取付ステー14とともに支持ローラ44上を転動させて搬送装置26上に移動し,搬出される。(ステップS11)
そして,インゴット11は搬送装置29を通して乾燥室30に導かれ接着部を完全に乾燥させた後,搬送装置29,搬送台車32を介してワイヤソー31へ送られる。
【0064】この接着完了状態では図11に示すように,インゴット11の結晶方位16及び取付ステー14の取付軸線23は紙面と直交し,かつ水平面18内にあって,インゴット11の中心軸線17は水平面内で結晶方位16に対しβだけ傾斜している。インゴット11は図示しない受け渡し装置によって搬送台車32からワイヤソー31のワーク取付機構121へ受け渡される。このとき,このインゴット11の取付ステー14は,図12に示すようにワーク取付機構121の取付片144内に挿入され,クランプと同時に位置決めされる。そして,そのインゴット11は,ワイヤソーのワイヤ34により多数の薄いウエハに切断加工される。取付ステー14をワーク取付機構121の取付片144に取り付けるのみで,取付ステー14の取付軸線23つまりインゴット11の結晶方位16がワイヤソー31のワイヤ34走行(水平)方向と直交する方向に位置決めされるため,加工後のウエハの切断面は,結晶格子面と平行になる。
【0065】このため図16のフローで示すようにインゴット11をワイヤソー31に取り付けた後は,ゴニオ調整することなく,直ちに加工を開始できる。
【0066】さて,前記のように構成したインゴット11と取付ステー14の接着方法の作用効果を以下に説明する。
【0067】(1)前記第1実施形態では,インゴット11の結晶方位16に対し取付ステー14の取付軸線23が平行となるように両部材が接着固定されているので,この取付ステー14を図12に示すワイヤソー31のワーク取付機構121に取り付けるのみで,直ちにインゴット11の切断加工を精度良く行うことができる。従って,ワイヤソー31にゴニオ角設定器を装備しなくても済み,設備費を大幅に低減することができる。
【0068】(2)前記第1実施形態では,インゴット11の中心軸線17を水平に保ったまま,インゴット11の結晶方位16を一旦水平面内に移動し,この結晶方位16に対し平行になるように取付ステー14の取付軸線23を水平面内で移動して位置調整した状態で互いに接着したため,インゴット11及び取付ステー14を共に水平状態で搬出され,そのままの姿勢でワイヤソー31のワーク取付機構121に把持でき,取付作業を迅速に行うことができる。
【0069】(3)前記第1実施形態では,インゴット11を測定基準位置Koに位置決め固定した状態で方位測定を行っているので,方位測定が正確に行える。測定データα,βに基づいて後の工程で方位調整を行うことができるため,方位調整や接着機構を作業性の良い場所に設置することができ,種々のシステムに容易に対応できる。
【0070】(4)前記第1実施形態では,クランプ用ローラ48及び駆動ローラ55によってインゴット11は所定位置に位置決めされると同時に,支持ローラ44上から離されるため,方位測定及び回転調整が正確かつ円滑に行える。」
カ 「【0071】次に,図18?図24に基づいて本発明の第2実施形態について説明する。
【0072】図18の平面に示すように第1調整手段としての回転支持機構38,移動手段としての搬送台車39の側方には,ベルトコンベア方式のインゴット搬入装置161及びインゴット搬出装置162が設けられ,インゴット搬入装置161のベルトコンベア上には,図20(a)に示すようにインゴット11が支持されたパレット163が載置され,所定の位置に搬送される。前記インゴット搬出装置162上には図20(b) に示すように中間ステー12及び取付ステー14を接着したインゴット11がパレット164に支持された状態で搬出される。
【0073】図19に示すように回転支持機構38,インゴット搬入装置161及びインゴット搬出装置162の上方には,インゴット搬入出手段としての第1インゴット搬入出機構165が装設されている。この第1インゴット搬入出機構165は,門型のフレーム166と,該フレーム166に装着された水平移動機構167と,該水平移動機構167に装着されたシリンダ方式の昇降機構168と,該昇降機構168に装着された把持機構169とにより構成されている。そして,インゴット搬入装置161のパレット163上のインゴット11を把持して上方へ持ち上げた後,水平方向に移動し,後述する第2インゴット搬入出機構181の受け渡し位置P1(図22参照)へインゴット11を供給可能である。また,第2インゴット搬入出機構181上に移動され,かつ中間ステー12及び取付ステー14が接着されたインゴット11を把持して上方へ持ち上げ,次に水平方向に移動して前記インゴット搬出装置162のパレット164上へインゴット11を搬出するようになっている。
(中略)
【0079】図21に示すように,前記水平可動盤42の上面には,支持板197が立設され,該板にはブラケット198が取り付けられ,該ブラケットにはレバー199が軸200を中心に上下方向の回動可能に支持されている。前記レバー199の先端には押えローラ201が支持され,レバー199はシリンダ202によって上下方向に往復傾動される。従って,インゴット11が駆動ベルト186によって第2インゴット搬入出機構181の受け渡し位置P1から接着位置P2へ移動されて前記駆動ローラ193上に移動される。この状態で水平支持アーム183を支えているシリンダ400のピストンが下がり水平支持アーム183は軸404を中心にして下方へ回動する。これによりインゴット11は一対の駆動ローラ193上に載置された状態となり,ここでシリンダ202を作動させて押えローラ201をインゴット11の上部外周面に押圧し,インゴット11を3つのローラ193,193,201により挟着把持する。同時に支持板191に固設されたブラケット410,411に取り付けられたシリンダ412,413が作動し,クランパー414,415がインゴット11を両サイド方向よりクランプしてステーの接着作業時の上方への押圧力を受け止めるようになっている。
【0080】図22に示すように機台37の上面には軸受203,204が所定間隔をおいて支持され,両軸受203,204にはボールねじ205が水平に支持されている。このボールねじ205には前記水平可動盤42の下面に取り付けたブラケットにボールねじのナット206が嵌合固定されている。前記軸受203の近傍には駆動モータ207が設けられボールねじ205を回動可能である。従って,このモータ207の回動によりボールねじ205が回転され,ナット206を介して水平可動盤42上の回転支持機構38が接着位置P2と方位測定位置P3との間で往復動される。このため回転支持機構38に支持されたインゴット11が方位測定装置28に向かって所定位置まで前進し,センサSの確認によりインゴット11端面が測定基準位置Koに位置決めされた状態で,方位測定が行われる。
【0081】次に,インゴット11の下面に対し中間ステー12の接着と取付ステー14の接着とを同一のステーションで行う方式の接着機構を図21?23に基づいて説明する。」
(2)引用方法発明
前記(1)より,引用文献1には次の方法の発明(以下,「引用方法発明」という。)が記載されていると認められる。
「インゴットに対する中間ステー及び取付ステーの接着方法であって,
インゴットが4つのローラによりクランプされ,クランプ動作が終了すると,インゴットをクランプした回転支持機構とともに方位測定装置に向かって移送され,
方位測定装置を起動し,測定動作を繰り返し,結晶方位の回転角データα及び傾角データβを演算し,
方位測定終了後,インゴットは接着装置へ向かって搬送され,
接着装置に対応する接着位置において,両駆動ローラを回転し,インゴットを4つのローラに支持したまま角度α回転させ,これにより,インゴットの結晶方位が水平面に位置され,
中間ステーをインゴットの上面に載置し接着剤によりインゴットと中間ステーを接着し,
取付ステーが中間ステーの上面に接着剤を介して載置され,
水平角度調整板の傾角が角度βと同一となるように微調整され,中間ステーと取付ステーとの間の接着剤が乾燥しないうちに,角度調整された水平角度調整板の端面に取付ステーの側面が押し当てられて水平面内での方位調整が行われることにより,インゴットの結晶方位と取付ステーの水平面内での取付軸線とは平行になり,
中間ステーと取付ステーとの間の接着剤が乾燥すると,駆動ローラによるインゴットのクランプを解除すること。」
(3)引用装置発明
前記(1)より,引用文献1には次の物の発明(以下,「引用装置発明」という。)が記載されていると認められる。
「接着装置であって,インゴットをその中心軸線を水平に保持してクランプし回転させるための回転支持機構と,X線の回折を利用してインゴットの結晶方位を測定する方位測定装置と,方位測定後にその測定データに基づいてインゴットを回転させてその結晶方位を水平面内に位置するように調整し,かつ前記回転支持機構を兼用する結晶方位調整機構と,結晶方位調整機構により位置調整されたインゴットの上部に対し中間ステーを接着する中間ステー接着機構と,中間ステーの上面に対し取付ステーを水平面内で回転する水平角度調整機構とを備え,
回転支持機構は上下一対のインゴットクランプ用ローラと上下一対の駆動ローラを有し,
接着装置は制御装置を有し,
インゴットが4つのローラによりクランプされ,クランプ動作が終了すると,インゴットをクランプした回転支持機構とともに方位測定装置に向かって移送され,
方位測定装置を起動し,測定動作を繰り返し,結晶方位の回転角データα及び傾角データβを演算し,
方位測定終了後,インゴットは接着装置へ向かって搬送され,
接着装置に対応する接着位置において,両駆動ローラを回転し,インゴットを4つのローラに支持したまま角度α回転させ,これにより,インゴットの結晶方位が水平面に位置され,
中間ステーをインゴットの上面に載置し接着剤によりインゴットと中間ステーを接着し,
取付ステーが中間ステーの上面に接着剤を介して載置され,
水平角度調整板の傾角が角度βと同一となるように微調整され,中間ステーと取付ステーとの間の接着剤が乾燥しないうちに,角度調整された水平角度調整板の端面に取付ステーの側面が押し当てられて水平面内での方位調整が行われることにより,インゴットの結晶方位と取付ステーの水平面内での取付軸線とは平行になり,
中間ステーと取付ステーとの間の接着剤が乾燥すると,駆動ローラによるインゴットのクランプを解除すること。」
2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は,インゴットと取付ステーの接着方法及び接着装置及びそれを用いたインゴット切断加工方法に関するものである。」
「【0048】最初に,自動倉庫25から取り出された単体のインゴット11は搬送装置26によって運ばれ,図1に示すように搬送台車39上の複数の支持ローラ44の上面に受け渡され,位置規制具46によって所定位置に停止される。(ステップS1)
次に,図2に示すように,シリンダ53が作動されて駆動ローラ55がインゴット11の外周面に押圧され,支持ローラ44より離れ,インゴット11が四つのローラ48,48,ローラ55,55によりクランプされる。このインゴット11のクランプ動作が終了すると,搬送台車39すなわち可動盤42がインゴット11をクランプした回転支持機構38とともに方位測定装置28内に移送される。図1及び図5に鎖線で示すようにインゴット11の端面がX線投光器11と受光器112との正規の結晶測定位置に移動されたら,可動盤42を図示しない制動装置により固定する。(ステップS2)
次に,方位測定装置28を起動し,インゴット11の端面にX線を水平面内で照射して反射させ,その反射X線を受光器112により受光する。この測定動作を継続しつつ,サーボモータ56を起動して駆動プーリ57を回転させ,ベルト59を介して両駆動ローラ55を回転し,インゴット11を四つのローラ48,55に支持したまま回転する。
【0049】この状態で反射X線の出力データが最大となる位置を判別器116により判別し,結晶方位16が水平面内に位置した状態を確認する。すなわち,図9はインゴット11の結晶方位16が水平面18に対し傾斜しているが,インゴット11を矢印方向に回動すると,図10に示すように結晶方位16が水平面18に移動したとき,前記X線の出力データが最大となるので,これを検出し回転を停止する。(ステップS3)
次に,前記X線の出力データが最大となった状態で,サーボモータ16の回転数に比例したインゴット11の回転角を検出するエンコーダ61の検出位置の初期化を行い,その初期化位置からインゴット11を90度ずつ回転して計4回の反射X線の出力データをとる。この4回の出力データにより結晶方位16の水平面18内におけるインゴット11の中心軸線17に対する水平面18内での傾角θ(図8参照)が角度演算装置117により演算される。(ステップS4)この方位測定が終了するとX線投光器111からのX線の照射が停止され,インゴット11は可動盤42とともに案内レール41に沿って方位測定位置から接着装置71の下方へ搬送される。この状態では,インゴット11は図2に示すように中間ステー12の下方に位置する。(ステップS5)
次に,図2においてモータ86を起動し,中間ステー12を装着したアーム74を案内レール73に沿って下方に移動し,図3に示すように該中間ステー12をインゴット11の上面に互いに軸線をほぼ一致させて接触し接着剤によりインゴット11と中間ステー12を接着する。この時,オシレート機構89のモータ82を起動して偏心軸83を回動すると,案内レール76に沿ってホルダー77がインゴット11の中心軸線17と平行方向に往復動されて,接着剤に含まれる気泡が排除され,中間ステー12の接着が迅速かつ確実に行われる。(ステップS6)
この中間ステー12の接着が完了すると,シリンダ80によってクランプ板79による中間ステー12のクランプを解除した後,前記モータ86を逆転駆動して支持アーム74を図4に示すように上昇させて,ホルダー77を上方の待機位置に移動停止する。
【0050】ところで,インゴット11の水平面内における中心軸線17に対する結晶方位16の傾角θは演算されている。この傾角θに基づいて,水平角度調整機構91のサーボモータ95が回動され,図6の平面に示すように水平角度調整板93の水平面内での中心軸線17に対する傾角αが前記傾角θと同一となるように微調整される。」
3 引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はX線を利用したインゴットの結晶軸方位調整方法及び装置に係り,特にX線結晶軸方位測定装置と同一機上でインゴットの結晶軸方位調整ができるX線を利用したインゴットの結晶軸方位調整方法及び装置に関する。」
「【0010】又,X線照射部26とX線受光部28は,図示しないガイド及びレール33上をモータによるネジ送り機構で揺動する。このX線結晶軸方位測定装置20でインゴット12の結晶軸方位を測定する場合には,先ず,スライドテーブル22上にチルトユニット16付インゴット12を固定する。次に,スライドテーブル22を図2上で右方向に移動させ,インゴット12を図中二点鎖線で示す検出位置に位置させる。次いで,X線照射部26からインゴット12の端面に向けてX線を照射し,この反射X線をX線受光部28で受光して,その反射角度に基づいてインゴット12の垂直方向の結晶軸方位を測定する。そして,インゴット12の水平方向の結晶軸方位を測定する。以上で,結晶軸方位の測定が終了する。測定された垂直方向の結晶軸方位と水平方向の結晶軸方位とは,モニタ40上で表示される。
【0011】次に,スライドテーブル22を元の位置に戻し,前記測定された結晶軸方位になるようにインゴット12の垂直方向傾斜角度,及び水平方向傾斜角度をチルトユニット16によって調整する。先ず,垂直方向傾斜角度を調整するために,図3に示すマイクロメータ42のヘッドを回動させて行う。このマイクロメータ42は,スライドテーブル22上に固定されたプレート44に支持されている。マイクロメータ42のスピンドルには押圧棒46が連結されており,この押圧棒46はマイクロメータ42を回動するとスピンドルと共に図中左右方向に移動する。マイクロメータ42で押圧棒46を図中右方向に移動させると,押圧棒46の先端部がチルトユニット16の垂直揺動ブロック70を押すことにより,垂直揺動ブロック70がスプリング48の付勢力に抗して傾動しはじめていき,水平揺動ブロック68に対して垂直方向に傾斜する。この傾斜角度を前記測定された垂直方向の結晶軸方位に合わせて固定すれば,垂直方向傾斜角度が調整される。尚,マイクロメータ42は図4に示すように,垂直揺動ブロック70の中央部を押す位置に設けられている。
【0012】次に,水平方向傾斜角度を調整するために,図3に示すマイクロメータ50のヘッドを回動させて行う。マイクロメータ50は,前記プレート44に支持されている。マイクロメータ50のスピンドルには押圧棒52が連結されており,この押圧棒52はマイクロメータ50を回動するとスピンドルと共に図中左右方向に移動する。マイクロメータ50で押圧棒52を図中右方向に移動させると,押圧棒52の先端部がチルトユニット16の水平揺動ブロック68を押すことにより,水平揺動ブロック68がスプリング54の付勢力に抗して水平方向に回動しはじめていき,取付ブロック66に対して水平方向に傾斜する。この傾斜角度を前記測定された水平方向の結晶軸方位に合わせて固定すれば,水平方向傾斜角度が調整される。尚,マイクロメータ50は図4に示すように,水平揺動ブロック68の角部近傍を押す位置に設けられている。
【0013】次いで,結晶軸方位調整済みのインゴット12を,X線結晶軸方位測定装置20で再度測定して,調整済みの結晶軸方位が正しいか否かを再確認する。再確認後,結晶軸方位が正しく調整されていない場合には,前述した結晶軸方位調整作業を再度実施する。このようなインゴット12の結晶軸方位調整作業は,前記の如くインゴット12を図2中実線で示す元の位置に一旦戻して行っても良く,図中二点鎖線で示す検出位置で結晶軸方位の調整を行っても良い。検出位置で調整を行うと,前記元の位置で調整を行うよりも調整誤差が小さくなる。」
4 引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,インゴットからウェハを切断するとき,その切断面が所定の結晶方位となるように結晶方位合わせを行うインゴットの結晶方位合わせ方法に関するものである。」
「【0011】また,請求項3に記載の発明は,請求項2に記載のインゴットの結晶方位合わせ方法において,前記インゴットの回転調整量の補正は,(ホ):前記演算される変位角度分だけ前記目標とする結晶方位から補正した方位を回転調整目標方位として設定し,前記初期配置状態の仮想切断面の結晶方位と該回転調整目標方位との差角分だけ前記インゴットを回転調整すべく,その回転調整量を再演算すること,(ヘ):前記再演算される回転調整量に基づき前記インゴットの回転調整を行ったときの該インゴットの配置状態において前記ウェハの切断面となる更に新たな仮想切断面と基準平面との交線の該インゴットの中心軸周りの交線方位の,前記初期配置状態の仮想切断面と基準平面との交線に対する変位角度を新たに演算すること,(ト):上記(ホ)及び(ヘ)の演算を,今回新たに演算された変位角度と前回演算された変位角度との偏差が許容誤差未満となるまで繰り返し行い,同偏差が許容誤差未満となったときに演算されている回転調整量を実際に前記インゴットを回転調整するための回転調整量として設定すること,によって行われるものであることをその要旨とする。」
5 引用文献5について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は,円筒状に研削されて側面にノッチが加工されたシリコン(Si)やインジウム・リン(InP)等の単結晶試料であるインゴットの半径方向あるいは軸方向の結晶方位をX線回折を利用して測定する結晶方位測定装置に関する。」
「【0023】
図1で,結晶方位測定装置1は,円筒状結晶であるインゴット(ワーク2)を円筒軸(インゴット軸)Axに対し回転させる回転部11と,ワーク2の側面のノッチ2aを位置決めするあるいはノッチ2aの位置を測定するノッチ測定部(位置決め部)12と,ワーク2の側面の結晶方位を測定する結晶方位測定部13と,ワーク2の回転,ノッチの測定,結晶方位の測定等を制御する計算機14を備える。
【0024】
回転部11は,図1に示すように,ワーク2を支持する2つのローラ111,112とローラ111あるいはローラ112を回転させてワーク2をインゴット軸Axを中心に回転させる回転機構(不図示)と,回転機構を制御する機構制御部(不図示)を有する。」

第5 対比及び判断
1 本願発明1について
(1)本願発明1と引用方法発明との対比
本願発明1と引用方法発明を対比する。なお,引用文献1には「第2の実施形態」として「インゴットを3つのローラにより挟着把持する」ものも記載されている(前記第4の1(1)カ)が,この実施形態においては「インゴットの下面に対し中間ステーの接着と取付ステーの接着」をするものであり,「スライス台の上面にワークホルダを仮接着する」本願発明1とはスライス台及びワークホルダの向きが相反するので,本願発明1と前記「第2の実施形態」との対比は省略する。本願発明2ないし6についても同様である。
ア 引用方法発明の「取付ステー」は本願発明1の「ワークホルダ」に相当し,引用方法発明は,「横円柱状に置かれたインゴットの上部円柱面に中間ステー」,「絶縁プレート」及び「取付ステー」が接着されることを前提とした(前記第4の1(1)ウ),「インゴットに対する中間ステー及び取付ステーの接着方法」であるから,これは本願発明1の「円柱状のインゴットの円周面上にワークホルダを接着する方法」に相当する。
イ 引用方法発明の「方位測定装置を起動し,測定動作を繰り返し,結晶方位の回転角データα及び傾角データβを演算し」は,本願発明1の「インゴットの結晶方位を測定する第1の測定ステップ」に相当する。
ウ 引用方法発明の「接着装置に対応する接着位置において,両駆動ローラを回転し,インゴットを4つのローラに支持したまま角度α回転させ,これにより,インゴットの結晶方位が水平面に位置され」は,本願発明1の「前記第1の測定ステップの測定結果を用いて,前記結晶方位が基準平面と平行になるように前記インゴットを円周方向に回転させる第1の回転ステップ」に相当する。
エ 引用方法発明の「中間ステー」は本願発明1の「スライス台」に相当し,引用方法発明の「中間ステーをインゴットの上面に載置し接着剤によりインゴットと中間ステーを接着し」は,本願発明1の「前記インゴットにスライス台を接着するスライス台接着ステップ」に相当する。
オ 引用方法発明の「取付ステーが中間ステーの上面に接着剤を介して載置され」は,本願発明1の「前記スライス台の上面にワークホルダを仮接着するワークホルダ仮接着ステップ」に相当する。
カ 引用方法発明の「水平角度調整板の傾角が角度βと同一となるように微調整され,中間ステーと取付ステーとの間の接着剤が乾燥しないうちに,角度調整された水平角度調整板の端面に取付ステーの側面が押し当てられて水平面内での方位調整が行われることにより,インゴットの結晶方位と取付ステーの水平面内での取付軸線とは平行になり」は,本願発明1の「前記第1及び第2の測定ステップの少なくとも一方の測定結果を用いて,前記ワークホルダの取付軸線が前記結晶方位と平行となるように前記ワークホルダを前記基準平面内で回転させる角度調整ステップ」に相当する。
キ 引用方法発明の「中間ステーと取付ステーとの間の接着剤が乾燥すると,駆動ローラによるインゴットのクランプを解除する」は,本願発明1の「前記角度調整ステップを経た前記ワークホルダを前記スライス台に本接着するワークホルダ本接着ステップ」に相当する。
ク すると,本願発明1と引用方法発明とは,下記ケの点で一致し,下記コの点で相違する。
ケ 一致点
「円柱状のインゴットの円周面上にワークホルダを接着する方法であって,
インゴットの結晶方位を測定する第1の測定ステップと,
前記第1の測定ステップの測定結果を用いて,前記結晶方位が基準平面と平行になるように前記インゴットを円周方向に回転させる第1の回転ステップと,
前記インゴットにスライス台を接着するスライス台接着ステップと,
前記スライス台の上面にワークホルダを仮接着するワークホルダ仮接着ステップと,
前記第1及び第2の測定ステップの少なくとも一方の測定結果を用いて,前記ワークホルダの取付軸線が前記結晶方位と平行となるように前記ワークホルダを前記基準平面内で回転させる角度調整ステップと,
前記角度調整ステップを経た前記ワークホルダを前記スライス台に本接着するワークホルダ本接着ステップとを備える,
インゴットとワークホルダの接着方法。」
コ 相違点
(ア)相違点1
本願発明1は「前記第1の回転ステップで回転させた前記インゴットの結晶方位を再び測定する第2の測定ステップ」と「前記基準平面に対して前記結晶方位がなす第1の傾斜角度が許容範囲内に収まっていない場合に,前記第2の測定ステップの測定結果を用いて,前記結晶方位が前記基準平面と平行となるように前記インゴットを円周方向に再び回転させる第2の回転ステップ」とを備えるのに対し,引用方法発明はこれらのステップを備えない点。
(イ)相違点2
本願発明1では「前記第1及び第2の回転ステップでは,前記インゴットの下側の円周面に当接させた一対のローラを用いて前記インゴットをその下方のみから支持し,前記一対のローラの少なくとも一方の回転に合わせて前記インゴットを回転させる」のに対し,引用方法発明では,「両駆動ローラを回転し,インゴットを4つのローラに支持したまま」回転させる点。
(2)相違点についての判断
相違点1に係る構成と相違点2に係る構成を同時に備えることはいずれの引用文献にも記載も示唆もされていない。
そして,本願発明1は,相違点1に係る構成と相違点2に係る構成を同時に備えることにより,「インゴットにワークホルダを接着する際,インゴットの結晶方位に対するワークホルダの向きをより高い精度で調整して接着することが可能」(本願明細書段落0017)という格別の有利な効果を奏する。
(3)まとめ
したがって,本願発明1は,引用文献1ないし5に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 本願発明2ないし4について
本願発明2ないし4は,本願発明1を引用するものであるから,前記1と同様の理由により,引用文献1ないし5に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 本願発明5について
(1)本願発明5と引用装置発明との対比
ア 引用装置発明の「中間ステー」及び「取付ステー」はそれぞれ本願発明5の「スライス台」及び「ワークホルダ」に相当し,引用装置発明の「接着装置」は「中間ステーをインゴットの上面に載置し接着剤によりインゴットと中間ステーを接着し,取付ステーが中間ステーの上面に接着剤を介して載置され」るものであるから,本願発明5の「円柱状のインゴットの円周面上にスライス台を介してワークホルダを接着する接着装置」に相当する。
イ 引用装置発明の「X線の回折を利用してインゴットの結晶方位を測定する方位測定装置」は,本願発明5の「X線の回折を利用してインゴットの結晶方位を測定する方位測定装置」に相当する。
ウ 本願発明5の「前記インゴットの下側の円周面に当接させることにより前記インゴットをその下方のみから支持する一対のローラを有し,前記一対のローラの少なくとも一方を回転させることにより,前記インゴットを基準平面と平行に支持しながら円周方向に回転させる回転支持機構」と引用装置発明の「インゴットをその中心軸線を水平に保持してクランプし回転させるための回転支持機構」で「回転支持機構は上下一対のインゴットクランプ用ローラと上下一対の駆動ローラを含み」とは,「前記インゴットを支持する複数のローラを有し,前記複数のローラの少なくとも一方を回転させることにより,前記インゴットを基準平面と平行に支持しながら円周方向に回転させる回転支持機構」という点で共通する。
エ 引用装置発明の「結晶方位調整機構により位置調整されたインゴットの上部に対し中間ステーを接着する中間ステー接着機構」は本願発明5の「前記インゴットの上部にスライス台を接着するためのスライス台取付機構」に相当する。
オ 引用装置発明の「中間ステーの上面に対し取付ステーを水平面内で回転する水平角度調整機構」は,「取付ステーが中間ステーの上面に接着剤を介して載置され,水平角度調整板の傾角が角度βと同一となるように微調整され,中間ステーと取付ステーとの間の接着剤が乾燥しないうちに,角度調整された水平角度調整板の端面に取付ステーの側面が押し当てられて水平面内での方位調整が行われることにより,インゴットの結晶方位と取付ステーの水平面内での取付軸線とは平行になり,中間ステーと取付ステーとの間の接着剤が乾燥する」ものであるから,本願発明5の「前記スライス台の上面にワークホルダを接着するためのワークホルダ取付機構」に相当する。
カ 引用装置発明の「制御装置」は本願発明5の「前記方位測定装置,前記回転支持機構,前記スライス台取付機構及び前記ワークホルダ取付機構を制御する制御部」に相当する。
キ 引用装置発明では「接着装置は制御装置を有し,インゴットが4つのローラによりクランプされ,クランプ動作が終了すると,インゴットをクランプした回転支持機構とともに方位測定装置に向かって移送され,方位測定装置を起動し,測定動作を繰り返し,結晶方位の回転角データα及び傾角データβを演算し,方位測定終了後,インゴットは接着装置へ向かって搬送され,接着装置に対応する接着位置において,両駆動ローラを回転し,インゴットを4つのローラに支持したまま角度α回転させ,これにより,インゴットの結晶方位が水平面に位置され」るから,これは,本願発明5の「前記制御部は,前記方位測定装置にインゴットの結晶方位を測定させた第1の測定結果に基づいて,前記結晶方位が前記基準平面と平行になるように前記回転支持機構を用いて前記インゴットを円周方向に回転させ」に相当する。
ク すると,本願発明5と引用装置発明とは,下記ケの点で一致し,下記コの点で相違する。
ケ 一致点
「円柱状のインゴットの円周面上にスライス台を介してワークホルダを接着する接着装置であって,
X線の回折を利用してインゴットの結晶方位を測定する方位測定装置と,
前記インゴットを支持する複数のローラを有し,前記複数のローラの少なくとも一方を回転させることにより,前記インゴットを基準平面と平行に支持しながら円周方向に回転させる回転支持機構と,
前記インゴットの上部にスライス台を接着するためのスライス台取付機構と,
前記スライス台の上面にワークホルダを接着するためのワークホルダ取付機構と,
前記方位測定装置,前記回転支持機構,前記スライス台取付機構及び前記ワークホルダ取付機構を制御する制御部とを備え,
前記制御部は,
前記方位測定装置にインゴットの結晶方位を測定させた第1の測定結果に基づいて,前記結晶方位が前記基準平面と平行になるように前記回転支持機構を用いて前記インゴットを円周方向に回転させる,接着装置。」
コ 相違点
(ア)相違点3
本願発明5では「回転支持機構」が「インゴットの下側の円周面に当接させることにより前記インゴットをその下方のみから支持する一対のローラ」を有するのに対し,引用装置発明では「回転支持機構」が「上下一対のインゴットクランプ用ローラと上下一対の駆動ローラ」を有する点。
(イ)相違点4
本願発明5では「前記方位測定装置に前記回転したインゴットの結晶方位を再び測定させた第2の測定結果に基づいて,前記基準平面に対して前記インゴットの結晶方位がなす第1の傾斜角度が許容範囲内に収まっているか否かを判断し,前記第1の傾斜角度が前記許容範囲内に収まっていない場合に,前記結晶方位が前記基準平面と平行となるように前記回転支持機構を用いて前記インゴットを円周方向に再び回転させる」のに対し,引用装置発明ではこれらの動作を行わない点。
(2)相違点について判断
相違点3に係る構成と相違点4に係る構成を同時に備えることは何れの引用文献にも記載も示唆もされていない。
そして,本願発明5は,相違点3に係る構成と相違点4に係る構成を同時に備えることにより,「インゴットにワークホルダを接着する際,インゴットの結晶方位に対するワークホルダの向きをより高い精度で調整して接着することが可能」(本願明細書段落0017)という格別の有利な効果を奏する。
4 本願発明6について
本願発明6は,本願発明5を引用するものであるから,前記3と同様の理由により,引用文献1ないし5に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 原査定について
前記第5のとおり,本願発明1ないし6は,引用文献1ないし5に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明することができたものではない。
よって,原査定の理由によって,本願を拒絶することはできない。

第7 結言
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-11-06 
出願番号 特願2013-178934(P2013-178934)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 内田 正和  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 飯田 清司
深沢 正志
発明の名称 インゴットとワークホルダの接着方法及び接着装置  
代理人 鷲頭 光宏  
代理人 緒方 和文  
代理人 黒瀬 泰之  

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