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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A01M
管理番号 1345698
審判番号 不服2017-8210  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-06-07 
確定日 2018-11-08 
事件の表示 特願2013- 62704「土壌燻蒸用フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月 2日出願公開、特開2014-183806〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年3月25日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年 8月15日:拒絶理由通知(起案日)
平成28年10月24日:意見書、手続補正書
平成29年 2月27日:拒絶査定(起案日)
平成29年 6月 7日:審判請求書、手続補正書
平成30年 2月22日:上申書
平成30年 5月18日:拒絶理由通知(起案日)
平成30年 7月20日:意見書、手続補正書


第2 本願発明
本願の請求項1ないし7に係る発明は、平成30年7月20日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものであって、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「 【請求項1】
土壌燻蒸用の燻蒸剤ガスバリアフィルムであって、
最外側層と、中間層と、最内側層とを少なくとも備えてなり、
前記中間層が、燻蒸剤ガスバリア層であり、かつ、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)を含んでなり、
前記エチレン-ビニルアルコール共重合体は、
延伸限界(同時二軸延伸)が、3.5×3.5以上5.0×5.0以下であり、
延伸限界(逐次二軸延伸)が、1.5×1.5以上4.5×4.5以下であり、
ガラス転移温度が35℃以上55℃以下であり、
サンプル瓶に、燻蒸薬剤を50cc入れて、前記土壌燻蒸用の燻蒸剤ガスバリアフィルムで前記サンプル瓶の開口部を塞ぎ、かつ、前記土壌燻蒸用の燻蒸剤ガスバリアフィルムの側面をシールテープで封止した後、前記サンプル瓶の重量を秤量し、60℃で24時間養生した後、重量を秤量し下記式にて算出した値(透過した前記燻蒸薬剤の減少比率)が500[g/m^(2)・60℃・day]未満である、土壌燻蒸用の燻蒸剤ガスバリアフィルム。
(養生前のサンプル瓶の重量(g) - 養生後のサンプル瓶の重量(g))/(サンプル瓶の開口部の面積(m^(2)))[g/m^(2)・60℃・day]」


第3 拒絶の理由
平成30年5月18日付けで当審が通知した拒絶理由は、次のとおりのものである。

1 理由1
この出願の請求項1、2、4、5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

2 理由2
この出願の請求項1、2、4、5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基いて、
また請求項1、2、4に係る発明は、下記の引用文献1及び3ないし5、または引用文献2ないし5に記載された発明に基いて、
また請求項3、7に係る発明は、下記の引用文献1ないし5に記載された発明に基いて、
また請求項5、6に係る発明は、下記の引用文献1ないし6に記載された発明に基いて、
その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:”EVAL RESIN&FILM”,[online],2011年1月,株式会社クラレ,[平成30年5月11日検索],インターネット
<URL:http://www.eval.jp/media/56951/eval_general_brochure__jp__20110131.pdf>
引用文献2:特開平8-238049号公報
引用文献3:特開平8-325108号公報
引用文献4:特表2010-533779号公報
引用文献5:“ニュースリリース 柔軟性と高度なガスバリア性をあわせ持つ新素材 EVOH系樹脂<エバールSP>生産設備の稼働開始について”,[online],2004年10月28日,株式会社クラレ,[平成30年5月11日検索],インターネット
<URL:http://www.kuraray.co.jp/release/2004/041028.html>
引用文献6:特開2000-312538号公報

3 理由3
この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1
上記引用文献1(”EVAL RESIN&FILM”)には、以下の事項が記載されている(審決で下線を付した。以下同様。)。

(1) 「「エバール_(○R)(審決注;○Rは丸囲みRを示す。以下同様。)」はクラレが1972年以来製造販売しているエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂です。」(6頁2行)

(2) 「特徴
■ハイガスバリア性
酸素をはじめ、気体をほとんど通しません。」(6頁8?10行(左欄))

(3) 8頁に以下の表が記載されている。


(4) 上記(3)の表にはエバール_(○R)樹脂の各種銘柄が掲載されているが、その中に、「SPシリーズ」として「SP521B」、「SP482B」及び「SP292B」が記載されている。
また同表の「ガラス転移点(℃)」欄に、上記「SP521B」、「SP482B」及び「SP292B」それぞれについて「40」、「41」及び「48」と記載されている。
また同表の「酸素透過速度」欄に、上記「SP521B」、「SP482B」及び「SP292B」それぞれについて「0.3」、「0.6」及び「1.8」「cc・20μm/m^(2)・day・atm」、並びに「0.03」、「0.07」及び「0.21」「fm・20μm/Pa・s」と記載されている。

(5) 19頁に次の写真と表が記載されている。


(6) 上記(5)の表において、「構成例」欄に矢印記号とともに記載されている「外」、「内」はそれぞれ外側、内側の層を示すと解され、また同欄の「/]で区切られる記載は各層の材質を示していると解される。
また、上記(5)の表の「用途例」欄に「土壌くん蒸用被覆フィルム」と記載されるフィルムに対応する「構成例」欄をみると、外側層、中間層、内側層の3層からなり、外側及び内側層の材質は「LDPE」、中間層の材質は「EVAL^(TM)」と記載されている。
この中間層の材質の「EVAL^(TM)」が上記(1)、(3)及び(4)の「エバール_(○R)」と同じものを指すことは明らかであり(以下「エバール_(○R)」及び「EVAL^(TM)」をまとめて「エバール」という。)、そして上記(2)の摘記のとおりエバールはハイガスバリア性を特徴とする材質であるから、当該中間層はハイガスバリア性を有する層であり、当該中間層を含む「土壌くん蒸用被覆フィルム」もハイガスバリア性を有するフィルムであると解される。
また外側及び内側層の材質の「LDPE」が低密度ポリエチレンを意味することは明らかである(引用文献4の段落【0067】参照。)。

(7) 上記(5)の写真と表の関係について、4枚の写真の中で右下の写真が表の「用途例」の「土壌くん蒸用被覆フィルム」に相当するのは明らかである。そして当該写真からは、フィルムが圃場の土壌の表面を覆っていることが看て取れる。

(8) 上記(1)ないし(7)からみて、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「圃場の土壌表面を覆う土壌くん蒸用被覆フィルムであって、
外側層、中間層、内側層の3層からなり、
前記外側層及び内側層はLDPE(低密度ポリエチレン)を材質とし、
前記中間層は、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂であるエバールを材質とし、ハイガスバリア性を有する層である、
ハイガスバリア性を有する土壌くん蒸用被覆フィルム」

2 引用文献3
上記引用文献3(特開平8-325108号公報)には、以下の事項が記載されている。

(1) 「【特許請求の範囲】【請求項1】・・・ガスバリア性フィルムで土壌表面を覆うことを特徴とする土壌燻蒸方法。」

(2) 「【0009】本発明で使用できる被覆フィルムは・・・高ガスバリア性を有していれば特に限定されず・・・例えばポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ナイロンMSD6、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル(硬質)、ポリビニルアルコール、エチレン・ビニルアルコール共重合物などの1種または2種類以上の共重合物および混合物からなる特に高バリア性フィルムが好適に選択されるが、・・・また、破れにくく、柔軟性の面からも取り扱いやすいフィルム、経済的にも優れているフィルムを使用する必要があり、・・・。」

3 引用文献4
上記引用文献4(特表2010-533779号公報)には、以下の事項が記載されている。

(1) 「【0001】本発明は、特に、農業燻蒸用の、バリア機能を有するポリマー複合フィルム、該ポリマー複合フィルムの製造方法およびその使用に関する。」

(2) 「【0005】しかしながら、樹脂コスト、ポリマー加工性、フィルム強度、フィルム寿命およびフィルムバリア能におけるバランスは、いまだ課題である。
【0006】この課題は、・・・土壌被覆材において深刻な問題である。」

(3) 「【0008】・・・さらに、最もよく知られた燻蒸フィルムは、その膨張を防ぐために、オレフィンポリマー層にはさまれた、ポリエチレンビニルアルコールまたはポリアミドのようなバリアポリマーを含有する。あるいは、金属化多層フィルムが使用される。そのような多層構造は、高い巻き取り性とともに著しい剛性を示す。これらの2つの特性は、現場における応用を困難にし、大きな労力を要することになる。」

(4) 「【0014】用語ベースポリマー化合物のもと、全てのポリマー化合物は、少なくとも12ヶ月の常時の屋外曝露に耐える十分なUV安定性および気候安定性を示し、農業で使用される有機殺生物剤と反応せず、その特性が有機殺生物剤により変化しないものであると理解される。ポリマー材料の柔軟性は、材料の厚さに依存しているため;特に、厚さ10?250μmの柔らかいフィルムが、用語ベースポリマー材料に含まれると理解される。」

4 引用文献5
上記引用文献5(“ニュースリリース 柔軟性と高度なガスバリア性をあわせ持つ新素材 EVOH系樹脂<エバールSP>生産設備の稼働開始について”)には、以下の事項が記載されている。

(1) 「<エバールSP>は、あらゆるプラスチックの中で最高レベルのガスバリア性(気体を透過させない性質)を持つEVOH樹脂<エバール>をベースとし、柔軟性・弾力性、優れた加工性を付与した新素材です。」


第5 対比・判断
1 対比
本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。

(1) 引用発明の「ハイガスバリア性を有する土壌くん蒸用被覆フィルム」と、本願発明の「土壌燻蒸用の燻蒸剤ガスバリアフィルム」とは、「土壌燻蒸用のガスバリアフィルム」である点で共通する。

(2) 引用発明のフィルムが「外側層、中間層、内側層の3層からな」ることは、本願発明のフィルムが「最外側層と、中間層と、最内側層とを少なくとも備えてな」ることに相当する。

(3) 引用発明の「中間層は、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂であるエバールを材質とし、ハイガスバリア性を有する層である」ことと、本願発明の「中間層が、燻蒸剤ガスバリア層であり、かつ、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)を含んで」いることとは、「中間層が、ガスバリア層であり、かつ、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)を含んで」いる点で共通する。

以上(1)ないし(3)より、本願発明と、引用発明とは、
「土壌燻蒸用のガスバリアフィルムであって、
最外側層と、中間層と、最内側層とを少なくとも備えてなり、
前記中間層が、ガスバリア層であり、かつ、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)を含んでなる、
土壌燻蒸用のガスバリアフィルム」
で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
フィルム及び中間層のガスバリアの対象について、本願発明では「燻蒸剤」ガスバリアと特定されているのに対し、引用発明ではそのような特定がされていない点。

[相違点2]
中間層のエチレン-ビニルアルコール共重合体の物性について、本願発明では
「延伸限界(同時二軸延伸)が、3.5×3.5以上5.0×5.0以下であり、
延伸限界(逐次二軸延伸)が、1.5×1.5以上4.5×4.5以下であり、
ガラス転移温度が35℃以上55℃以下」
とされ、
またフィルムのガスバリア性能について、本願発明では
「サンプル瓶に、燻蒸薬剤を50cc入れて、前記土壌燻蒸用の燻蒸剤ガスバリアフィルムで前記サンプル瓶の開口部を塞ぎ、かつ、前記土壌燻蒸用の燻蒸剤ガスバリアフィルムの側面をシールテープで封止した後、前記サンプル瓶の重量を秤量し、60℃で24時間養生した後、重量を秤量し下記式にて算出した値(透過した前記燻蒸薬剤の減少比率)が500[g/m^(2)・60℃・day]未満である」「(養生前のサンプル瓶の重量(g) - 養生後のサンプル瓶の重量(g))/(サンプル瓶の開口部の面積(m^(2)))[g/m^(2)・60℃・day]」
とされているのに対し、
引用発明では、中間層がエバールであるが、そのような特定がされていない点。

2 判断
(1) 相違点1について
土壌くん蒸において、フィルムで土壌を被覆し、土壌くん蒸剤が揮散し周辺に影響を与えることを防ぐことは、例えば農林水産省「平成17年農業生産の技術指導について」(平成17年4月)の「II 技術指導の具体的留意事項 (I)共通 1 安全な農産物の供給に向けた取組・・・(3)農業生産資材の安全な使用 ア 農薬の安全な使用・・・(オ)土壌くん蒸剤の適正使用」に、「土壌くん蒸剤を使用する場合にあっては、容器等に表示されている被覆期間を通して、フィルム等により農薬を使用した土壌を被覆するなど、農薬の揮散を防止するために必要な措置を講ずるものとし、当該農薬使用者に安全かつ適正な使用の指導の徹底を図る。特に、やむを得ず住宅地周辺において土壌くん蒸を行う場合には、薬剤が揮散し周辺に影響を与えないよう、風向き、土壌水分量等に十分注意し、作業終了後適切な方法により土壌の被覆を完全に行う。」と記載されているように本願出願時の技術常識であるから、引用発明の圃場の土壌表面を覆う土壌くん蒸用被覆フィルムが、くん蒸剤の揮散を防止するものであり、ハイガスバリア性のフィルム、中間層は土壌くん蒸剤をガスバリアするものであることは当業者には自明である。よって、相違点1は、実質的な相違点ではない。
そもそも、当業者であれば、引用発明の圃場の土壌表面を覆う土壌くん蒸用被覆フィルムは、くん蒸剤の揮散を防止するものであると認識又は理解するといえる。

(2) 相違点2について
ア 引用文献1の土壌くん蒸用被覆フィルムは、同文献のエバールの用途例・構成例であるから、その中間層に用いるエバールは、同文献に記載された各種エバール中のいずれかのエバールが用いられているものと解される。
そして引用文献1には、上記第4の1(3)、(4)に記載したとおり、エバール樹脂の各種銘柄中に、「SPシリーズ」として「SP521B」、「SP482B」及び「SP292B」が記載されている。ここで、エバールのSPシリーズが「最高レベルのガスバリア性」を有した上で、「柔軟性・弾力性、優れた加工性を付与した」ものであることは公知である(上記第4の4(1)に摘記した引用文献5の記載参照。)。
また、土壌くん蒸用被覆フィルムに柔軟性が求められることも周知(上記第4の2、3に摘記した、引用文献3及び4の記載参照。)である。
以上より、引用発明の土壌くん蒸用被覆フィルムの中間層に用いるエバールとして、最高レベルのガスバリア性を有した上で柔軟性を備えるとされるSPシリーズ、すなわち引用文献1の上記第4の(3)、(4)の表の「SPシリーズ」の、「SP292B」、「SP482B」あるいは「SP521B」を選択することは、当業者であれば容易に想到し得ることである。

イ 一方、本願発明の相違点2に係る構成の物性(延伸限界(同時二軸延伸)」及び「延伸限界(逐次二軸延伸)」並びに「ガラス転移温度℃」。)を有する「中間層のエチレン-ビニルアルコール共重合体」、及び本願発明の相違点2に係る構成のガスバリア性能を有するフィルムの「中間層のエチレン-ビニルアルコール共重合体」の具体例について、本願明細書を参照すると、
「【0016】上記物性値を有するエチレン-ビニルアルコール共重合体としては、市販品を使用することができ、例えば、クラレ株式会社製のEVAL(エバール:商品名)SPシーズを挙げることができ、より具体的には、EVALSP292、EVALSP295、EVALSP451、EVALSP482、EVALSP521等が例示される。これらの物性値は下記表1に表した通りである。」と記載され、「【表1】」には「SP292」、「P295」、「SP451」、「SP482」、「SP521」の「延伸限界(同時二軸延伸)」及び「延伸限界(逐次二軸延伸)」並びに「ガラス転移温度℃」(いずれも本願発明の数値範囲内。)を含む各物性値が記載されている。
加えて、各「評価試験」(「【0029】評価試験1:引き裂き強度」、「【0030】評価試験2:耐指抜け性」及び「【0031】評価試験3:ガスバリア性」。)を行った「【実施例】」として、
「【0027】
成分
最外側層、最内側層:直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)(プライムポリマー社製、0138N)
接着剤: 三井化学社製、アドマー
中間層:
実施例:EVAL SP292(クラレ社製)
比較例:EVAL E151(クラレ社製)
物性は下記表2に示した通りである。」と記載され、「【表2】」には「SP292」の「延伸限界(同時二軸延伸)」及び「延伸限界(逐次二軸延伸)」並びに「ガラス転移温度℃」を含む各物性値(いずれも表1と同じ数値。)が記載され、さらに上記「評価試験」の結果として、「【表3】」に「EVOH」(エチレン-ビニルアルコール共重合体)が「SP292」である実施例の試験結果が記載されている。
このように、本願発明の相違点2に係る構成の具体例として、エバールのSP292、SP482、及びSP521が採用されている。

ウ 上記ア、イより、引用発明において、中間層のエチレン-ビニルアルコール共重合体のエバールとして、本願発明の上記具体例に相当するSP292B、SP482BあるいはSP521Bを採用することは、当業者が容易に想到し得ることであるといえる。

エ そして、引用発明の中間層のエバールにSP292B、SP482BあるいはSP521Bを採用した場合、本願発明の相違点2に係る構成の「中間層のエチレン-ビニルアルコール共重合体」の物性(延伸限界(同時二軸延伸)」及び「延伸限界(逐次二軸延伸)」並びに「ガラス転移温度℃」。)を有することは明らかである。
また、フィルムのガスバリア性能についても、フィルムの高ガスバリア性能は、本願発明の相違点2に係る構成の物性を有する「中間層のエチレン-ビニルアルコール共重合体」、すなわち上記エバール各SPシリーズによるものであることは当業者には自明であるから(なおこの点、本願明細書でも、「【0011】本発明によれば、所定の物性値を有するエチレン-ビニルアルコール共重合体を採用することにより、極めて高い次元においてガスバリア性を達成することができる・・・土壌燻蒸用フィルムを提供することができる。」と説明されている。)、引用発明のフィルムの中間層のエバールにSP292B、SP482BあるいはSP521Bを採用した場合、本願発明の相違点2に係る構成のフィルムのガスバリア性能を有することも明らかである。

オ ここで、上記アで述べた本願明細書の「【0031】評価試験3:ガスバリア性」を行った実施例のフィルムの中間層は「SP292」(のみ)であるが、上記第4の1(3)、(4)のとおり「SP521B」及び「SP482B」は「SP292B」より酸素透過速度が遅い、すなわちより高いガスバリア性を有するものであり、引用発明のフィルムの中間層のエバールにSP482BあるいはSP521Bを採用した場合も、本願発明の相違点2に係る構成のフィルムのガスバリア性能を有するものと解される。

カ さらに補足すると、相違点2に係る本願発明の構成の中間層のエチレン-ビニルアルコール共重合体の物性値について、本願明細書の「【表1】」に「SP292」、「P295」、「SP451」、「SP482」、「SP521」の「延伸限界(同時二軸延伸)」及び「延伸限界(逐次二軸延伸)」並びに「ガラス転移温度℃」(いずれも本願発明の数値範囲内。)を含む各物性値が、また「【表2】」に「SP292」の「延伸限界(同時二軸延伸)」及び「延伸限界(逐次二軸延伸)」(表1の「SP292」と同じ値。)が記載されているが、比較例については、明細書本文にも各表にも「延伸限界(同時二軸延伸)」及び「延伸限界(逐次二軸延伸)」の記載はない。また「ガラス転移温度℃」については、比較例も相違点2に係る本願発明の構成を満たすものとなっている。
すなわち、上記数値範囲の内外での効果の差異を示す試験結果も、あるいはそれに代わる説明の記載等もなく、上記のように「延伸限界(同時二軸延伸)」及び「延伸限界(逐次二軸延伸)」並びに「ガラス転移温度℃」の数値範囲を定めたことに格別の臨界的意義を有するものとは認められない。
また、本願発明の相違点2に係る構成のフィルムのガスバリア性能の、「(透過した前記燻蒸薬剤の減少比率)」が500[g/m^(2)・60℃・day]未満である点について、本願明細書を参照しても、
「【0031】
評価試験3:ガスバリア性・・・
評価基準3
評価○:500未満であった。
評価△:500以上2000未満であった。
評価×:2000以上であった。」
と、「500」が数値範囲の境界値(「○」と「△」)の境界値)であること自体が記載されているのみで、数値範囲の内外での効果の差異についての説明の記載等もなく、上記のように「(透過した前記燻蒸薬剤の減少比率)」の数値範囲を定めたことに格別の臨界的意義を有するものとは認められない。

キ 以上のように、相違点2に係る本願発明の構成は、当業者が容易に想到し得たことである。


(3) 請求人の主張について
平成30年7月20日付け意見書において、請求人は各引用文献について以下の主張をおこなっている。

a 引用文献1にあっては、土壌くん蒸用被覆フィルム(LDPE/EVAL/LDPE)が、(「EVAL」に加え)如何なる「LDPE」を使用したのかについて開示されていない。

b 引用文献3にあっては、「柔軟性」を達成させるために、当該フィルムの厚さを薄くするといった事項を開示するに止まっており、本願発明における従来技術の諸問題の認識、解決すべき課題、解決手段(発明の構成)、及び発明の効果については全く開示も示唆もなされていない。
引用文献4にあっては、「剛性および巻き取り性が減少するガスバリアーフィルム」を提供することのみを提案するに止まり、本願発明における従来技術の諸問題の認識、解決すべき課題、解決手段(発明の構成)、及び発明の効果については全く開示も示唆もなされていない。
よって、引用文献3、4は、本願発明に対する周知な解決課題を全く開示するものとはなっておらず、かつ、本願発明に容易に想到することができる理論付け(引例)を全く開示するものではないことは明らかである。

c 引用文献5にあっては、本願実施例が採用した「エバールSP292」は開示も示唆も全くなされていない。そうすると、引用文献5には、具体的な「エバールSP」、例えば、「エバールSP292」を採用することの動機付けすら全く開示されていない。

これら主張について検討する。
まず上記aの主張について検討する。
本願発明も「最外側層」、「最内側層」がいかなる材質か特定するものではない。
なお「(透過した前記燻蒸薬剤の減少比率)」が500[g/m^(2)・60℃・day]未満というフィルムとしてのガスバリア性も、上記(2)で検討したとおり、当業者が容易に想到できるものである。
よって、請求人の主張は採用できない。

次に上記bの主張について検討する。
引用文献3、4は、引用文献1の土壌くん蒸用被覆フィルムのエバールを、同文献に記載された各種エバール中のいずれのエバールを選択するかに関して、柔軟性という課題が周知であることを示すものであり、それ以上の構成や効果等を引用したものではない。
よって、請求人の主張は採用できない。

次に上記cの主張について検討する。
引用文献5はSPシリーズ(全体)の特徴について引用したものであり、同シリーズの個々の銘柄について引用したものではない。
よって、請求人の主張は採用できない。

(4) 小括
したがって、本願発明は、当業者が引用文献1に記載された発明及び引用文献5に記載された事項並びに上記周知技術(引用文献3及び4参照。)に基づいて容易に発明をすることができたものである。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が引用文献1に記載された発明及び引用文献5に記載された事項並びに周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-08-31 
結審通知日 2018-09-04 
審決日 2018-09-21 
出願番号 特願2013-62704(P2013-62704)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 門 良成川野 汐音竹中 靖典  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 前川 慎喜
井上 博之
発明の名称 土壌燻蒸用フィルム  
代理人 大野 聖二  
代理人 堅田 健史  

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