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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61L
管理番号 1345701
審判番号 不服2017-9830  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-07-03 
確定日 2018-11-08 
事件の表示 特願2014-537259「薬物送達のための医療用デバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 4月25日国際公開、WO2013/059509、平成27年 1月15日国内公表、特表2015-501178〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 主な手続の経緯
本願は、2012年(平成24年)10月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年10月18日、2011年12月29日、2012年7月12日 いずれも米国(US))を国際出願日とする特許出願であって、その主な手続の経緯は以下のとおりである。

平成27年10月16日 :手続補正書の提出
平成28年 8月24日付け:拒絶理由の通知
平成29年 1月27日 :意見書及び手続補正書の提出
同年 2月24日付け:拒絶査定(以下、「原査定」という。)
同年 7月 3日 :拒絶査定不服審判の請求及び手続補正書の提 出

第2 補正却下の決定
[結論]
平成29年7月3日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.平成29年7月3日付けの手続補正の内容
平成29年7月3日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の全文を変更する補正事項からなるものであるところ、特許請求の範囲全体の記載のうち、本件補正前の請求項1及び本件補正後の請求項1の記載を掲記すると、それぞれ以下のとおりである。

<本件補正前>(平成29年1月27日の手続補正書)
【請求項1】
バルーンと、
バルーンの少なくとも一部上に被着された被膜とを含む医療用デバイスであって、
前記被膜が、少なくとも部分的に第1のポリマーに封入された医薬製剤の粒子によって形成され、
前記被膜が被着されたバルーンの上に、さらに第2のポリマーが被着されていることを特徴とする、
医療用デバイス。

<本件補正後>(下線は補正箇所。)
【請求項1】
バルーンと、
バルーンの少なくとも一部上に被着された被膜とを含む医療用デバイスであって、
前記被膜が、少なくとも部分的に第1のポリマーに封入された医薬製剤の粒子によって形成され、
前記被膜が被着されたバルーンの上に、さらに第2のポリマーが被着され、
第1のポリマーが2ミクロンから20ミクロンの平均厚みを有し、
医薬製剤の平均粒径が1ミクロンから10ミクロンまでであることを特徴とする、
医療用デバイス。

2.本件補正の目的
本件補正前の請求項1と本件補正後の請求項1との対比において、本件補正は、請求項1の医療用デバイスに含まれる「第1のポリマー」ついて、「2ミクロンから20ミクロンの平均厚みを有し」と特定するとともに、医療用デバイスに含まれる「医薬製剤」について、「平均粒径が1ミクロンから10ミクロンまでである」と特定することで、補正前の発明特定事項を限定するものである。そして、本件補正の前後で、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は変わらない。
よって、本件補正のうち請求項1についてする補正は、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認める。
また、この補正はいわゆる新規事項を追加するものではないと判断される。

3.独立特許要件の有無について
上記2.のとおりであるから、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、要するに、本件補正が特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に適合するものであるか(いわゆる独立特許要件違反の有無)について検討するところ、以下説示のとおり、本件補正は当該要件に違反すると判断される。
すなわち、本願補正発明は、本願の出願前に頒布された刊行物である下記引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない(なお、引用文献1は、原査定の理由で引用された「引用文献1」と同じである)。

・引用文献1 国際公開2010/009335号

4.本願補正発明
本願補正発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものであると認められる。

「バルーンと、
バルーンの少なくとも一部上に被着された被膜とを含む医療用デバイスであって、
前記被膜が、少なくとも部分的に第1のポリマーに封入された医薬製剤の粒子によって形成され、
前記被膜が被着されたバルーンの上に、さらに第2のポリマーが被着され、
第1のポリマーが2ミクロンから20ミクロンの平均厚みを有し、
医薬製剤の平均粒径が1ミクロンから10ミクロンまでであることを特徴とする、
医療用デバイス。」

5.本願補正発明が特許を受けることができない理由
(1)引用文献の記載事項
引用文献1には、以下の事項(1-1)?(1-6)が記載されている。(なお、引用文献1は英語文献であるため、以下には引用文献1に対応する公表公報である特表2011-528275号公報の対応部分の記載を基本にしつつ、当審で一部加筆修正した翻訳文を示す。また、下線は当審による。)

(1-1)「一般的な製造方法
[00576] いくつかの実施形態において、被膜は、e-RESS、e-SEDS、または、e-DPCプロセスによって、ポリマーおよび/または活性薬剤を載置する工程を含むプロセスによって、前記基体上に形成される。・・・
[00578] いくつかの実施形態において、被膜は微細構造を含む。いくつかの実施形態において、活性薬剤の粒子は、前記微細構造内部で隔離されるか封入される(encapsulated)。いくつかの実施形態において、微細構造は、マイクロチャネル、微小孔、および/または、マイクロキャビティを含む。いくつかの実施形態において、微細構造は、活性薬剤の徐放を可能にするために選択される。いくつかの実施形態において、微細構造は、活性薬剤の制御放出を可能にするために選択される。
・・・
[00580] 本発明の別の利点は、制御された(ダイヤルインした(dialed-in))薬物の溶出プロファイルを備える、送達デバイスを形成する能力である。ラミネート構造の各層に異なる材料を有する能力、および、これらの層の中で薬物の位置を独立的に制御する能力によって、この方法は、著しく特定の溶出プロファイル、プログラムされた連続的および/または類似する溶出プロファイルで薬物を放出することができるデバイスを可能にする。さらに、本発明は、第2の薬剤(または、異なる投与量の同じ薬剤)の溶出に影響を与えることなく、1つの薬の制御溶出を可能にする。」

(1-2)「バルーン上の被膜
[00600] 本明細書に記載される及び/または本明細書に開示される方法により作成された被覆されたバルーンが調製される。いくつかの例において、被覆されたバルーンは?15ミクロン(?5ミクロンの活性薬剤)の厚さを有する。いくつかの例において、被覆プロセスは、RESS法及び本明細書に記載される機材による、乾燥した粉末の形態の薬物の載置及びポリマー粒子の載置を用いた、PDPDP(ポリマー、焼結物、薬物、ポリマー、焼結物、薬物、ポリマー、焼結物)である。本明細書において図示されるように、得られる被覆されたバルーンは、第1層にポリマー(例えばPLGA)、第2層に薬物(例えば、ラパマイシン)及び第3層にポリマーを備える3層の被膜を有し、第3層の一部は、ほぼ薬物を含まない(例えば、第3層の厚さの小片と等しい厚さを有する第3層内の副層)。記載された層として、中間層(すなわち薬物層)は、第1(ポリマー)層及び第3(ポリマー)層の1又は両方で重複していてもよい。薬物層とポリマー層の間の重複は、ポリマー材料が、薬物で大部分占有される物理的空間へと伸張することにより定義される。薬物層とポリマー層との間の重複は、薬物層の形成の間で、薬物粒子の部分的充填に関係する。結晶の薬物粒子が第1ポリマー層の上面に載置される場合、空隙又は間隙が乾燥した結晶粒子の間に残留する。間隙及び空隙は、第3(ポリマー)層の形成の間に載置された粒子により占有されることが可能である。・・・
[00601] ポリマーを含有するが薬物を含有しない被膜を有する、ポリマーで被覆されたバルーンが本明細書に記載される方法によって作成され、例えば、約0.5、1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35、40、45あるいは50ミクロンの目標の被膜の厚さを有するように調製され、被膜の厚さは、被膜が水和で伸張するかどうかに部分的に基づき、及びもしそうであれば、被膜が水和されているかどうかに部分的に基づいている。実施形態において、被膜の厚さは、1から5ミクロンである。他の実施形態において、1から10ミクロンである。」

(1-3)「例1:一般的なeDPCおよびeRESSの載置方法及びステントの被膜
[00612] ・・・
[00613] 被覆された冠状動脈ステントは、以下のように準備される。
・・・
[00615] 薬物含有ポリマーの被膜が、以下のように、ステント上に載置される。
・・・
[00617] ?2ミクロンの平均(結晶質)粒子の大きさへとジェットミルにかけられた、170マイクログラムのラパマイシン(Chemwerth www.chemwerth.comから);0.63dL/gインヘレント粘度(Durect Corp. http://www.absorbables.com/)である、50%のグリコール酸含有量を備えたPLGAポリマーが使用される。ラパマイシンは、ポート(1)を介して(PV)にロードされ、その後、ポート(1)は閉鎖位置へと作動される。気体状二酸化炭素は、その後、20℃で400から600psigに至るよう、(PV)にポート(2)を介して加えられ、そしてポート(2)がソースの気体に対して閉鎖される。
[00618] ・・・。以下の被膜及び焼結工程が完了される。
・e-RESSポリマー(約200マイクログラム)、
・圧縮ガスでの焼結
・e-DPC薬物(?85マイクログラム
・e-RESSポリマー(?200-250マイクログラム)、
・圧縮ガスでの焼結
・e-DPC薬物(?85マイクログラム)、
・e-RESSポリマー(?200-300マイクログラム)及び
・圧縮ガスでの焼結
[00619] プロセスは、?170マイクログラムの薬物、600-750マイクログラムのポリマーを用いて、3層マイクロラミネート構成物を生成し、全体の被膜厚さは?15ミクロンである。」

(1-4)「例12:切断バルーン
切断バルーン(1)-被膜を解放させる機械的刺激
[00641] 切断バルーンはポリマーと活性薬剤を含んで被覆されている。被覆された切断バルーンは、介在部位に位置する。バルーンは、その公称膨張圧力の少なくとも25%未満に加圧される。介在部位から切断バルーンが収縮及び除去されると、少なくとも約5%から少なくとも約30%までの被膜が、切断バルーンの表面から解放され、介在部位に載置される。
[00642] いくつかの例において、バルーンは膨張の間に広がり、機械的せん断力を引き起こし、被膜を、バルーンから介在部位へと、少なくとも増大して移動させ及び/又は解放させ及び/又は載置させる。
[00643] いくつかの例で、膨張の間にバルーンがねじれ、機械的せん断力を引き起こし、被膜を、バルーンから少なくとも増大して移動させ及び/又は解放させ及び/又は載置させる。
[00644] 1の例において、被膜のポリマーは、50:50のPLGA-エステル末端基、MW?19kD、分解速度?1-2か月であり、又は50:50のPLGAカルボン酸塩末端基、MW?10kD、分解速度?28日である。活性薬剤はマクロライド免疫抑制剤等の医薬薬剤である。例1に類似する機材及び被覆プロセスが使用される。介在部位は血管内腔壁である。切断バルーンが膨張すると、被膜の少なくとも約50%は介在部位でデバイスから解放される。」

(1-5)「例14.弱い結合薬物のバルーン送達
[00783] 弾性バルーンは、弱い結合薬物で静電気的に被覆され、該結合薬物は、乾燥粉末形態の生体吸収性ポリマーマトリクスの一部として、2.4ミクロンの公称粒子の大きさを有する結晶性シロリムスであり、被膜は低温で焼結された。被覆されたバルーンをモデル管腔(本明細書に記載されるTygonチューブからできている)に導入し、続いて膨張させることにより、薬物被膜が管腔の内部へと移動することが、断面分析により示された。この結果は、生体吸収性ポリマーマトリクス内において弱い結合薬物を粒子として隔離する乾燥プロセスが、弱い結合薬物の送達を制御する能力を提供することを示す。」

(1-6)「特許請求の範囲
1.基体と、
基体の少なくとも一部上の被膜を含み、
前記被膜は、複数の層を含み、少なくとも1つの層が結晶である医薬薬剤を含み、
前記被膜を刺激すると前記基体から少なくとも1部の前記被膜を解放するよう構成されることを特徴とする、
医療用デバイス。
・・・
7.基体と、
基体の少なくとも一部上の被膜を含み、
前記被膜は、活性薬剤を含み、及び
前記デバイスは、前記被膜の単一刺激に接して前記基体から35%を超える前記被膜を解放するよう構成されることを特徴とする、
医療用デバイス。
・・・
25.前記基体がバルーンを含むことを特徴とする請求項1乃至12及び18乃至24いずれかに記載のデバイス。
・・・
188.前記被膜は微小構造を含むことを特徴とする請求項1乃至12、及び18乃至24のいずれかに記載のデバイス。
189.前記活性薬剤の粒子は、前記微小構造内に隔離され又は封入される(encapsulated)ことを特徴とする請求項188に記載のデバイス。
・・・
257.前記被膜は、前記基体上に載置される複数の層を含み、少なくとも1つの前記層は前記活性薬剤を含むことを特徴とする請求項7乃至12、及び18乃至24のいずれか1つに記載のデバイス。
・・・
261.前記活性薬剤と前記ポリマーは、同じ層であるか、個別の層であるか、又は層の重ね合わせで形成することを特徴とする請求項257記載のデバイス。
・・・
263.前記複数の層は、第1のポリマー層、第1の活性薬剤層、第2のポリマー層、第2の活性薬剤層および第3のポリマー層として載置される5つの層を含むことを特徴とする請求項257記載のデバイス。
・・・」

(2)引用発明の認定
上記記載事項(1-3)によると、引用文献1には、例1として、ステントを薬物含有ポリマーによって被覆した実施例が記載されており、特に段落[00617]?[00618]に示された具体的な製造工程を考慮すると、この例においては、上記記載事項(1-6)の請求項263に示されるような、第1のポリマー層、第1の活性薬剤層、第2のポリマー層、第2の活性薬剤層および第3のポリマー層として載置される5つの層を含む医療用デバイス(ステント)が製造されており、上記第1?第3のポリマー層はいずれも50%のグリコール酸含有量を備えたPLGAポリマー層であり、上記第1?第2の活性薬剤層はいずれも平均(結晶質)粒径が?2ミクロンのラパマイシン層であるものと認められる。また、全体の被膜厚さが?15ミクロンであることも記載されている(段落[00619]参照)。
ここで、上記記載事項(1-4)によると、引用文献1には、例12として、切断バルーンをポリマーと活性薬剤によって被覆した実施例も示されており、段落[00644]には、その具体的な製造工程について、「例1に類似する機材及び被覆プロセスが使用される。」と記載されている。そうすると、例12においても例1と同様に、第1のポリマー層、第1の活性薬剤層、第2のポリマー層、第2の活性薬剤層および第3のポリマー層として載置される5つの層を含む医療用デバイス(切断バルーン)が製造されており、その第1?第3のポリマー層はいずれも50%のグリコール酸含有量を備えたPLGAポリマー層(以下、「50%PLGA層」という。)であり、第1?第2の活性薬剤層はいずれも平均(結晶質)粒径が?2ミクロンのラパマイシン層であり、全体の被膜厚さは?15ミクロンであるものと認められる。
したがって、上記記載事項(1-6)の請求項1、7、25の記載も考慮すると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「切断バルーンと、
切断バルーンの少なくとも一部上に、第1のポリマー層、第1の活性薬剤層、第2のポリマー層、第2の活性薬剤層および第3のポリマー層として載置される5つの層を含み、
第1?第3のポリマー層はいずれも50%PLGA層であり、
第1?第2の活性薬剤層はいずれも平均(結晶質)粒径が?2ミクロンのラパマイシン層であり、
全体の被膜厚さが?15ミクロンである、
医療用デバイス」

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「切断バルーン」は、本願補正発明における「バルーン」に相当する。また、引用発明における「活性薬剤層」に含まれる「ラパマイシン」は、本願補正発明における「医薬製剤」に相当し、「平均(結晶質)粒径が?2ミクロンのラパマイシン」は、本願補正発明における「医薬製剤の粒子」に相当する。
また、上記両発明は、いずれも医療用デバイスの上に形成された「被膜」を含んでおり、当該「被膜」が「医薬製剤の粒子」を含有する点でも共通している。
よって、上記両発明の一致点及び相違点は以下のとおりであると認められる

<一致点>
「バルーンと、
バルーンの少なくとも一部上に被着された被膜とを含む医療用デバイスであって、
前記被膜が、医薬製剤の粒子を含む、
医療用デバイス。」

<相違点>
相違点1:
本願補正発明においては、「被膜が、少なくとも部分的に第1のポリマーに封入された医薬製剤の粒子によって形成され」ることが特定されているのに対し、引用発明では、そのことが明示的には特定されていない点。

相違点2:
本願補正発明においては、「被膜が被着されたバルーンの上に、さらに第2のポリマーが被着され」ることが特定されているのに対し、引用発明では、そのことが明示的には特定されていない点。

相違点3:
本願補正発明においては、「第1のポリマーが2ミクロンから20ミクロンの平均厚みを有」することが特定されているのに対し、引用発明では、「第1のポリマー」に相当する部分の平均厚みが不明である点。

相違点4:
本願補正発明においては、「医薬製剤の平均粒径が1ミクロンから10ミクロンまでである」ことが特定されているのに対し、引用発明では「ラパマイシン」(医薬製剤)の平均粒径が、「?2ミクロンである」ことが特定されている点。

(4)相違点についての判断
以下、上記相違点1?4についてそれぞれ判断する。

ア 相違点1について
本願明細書には「封入」の定義は記載されていないが、実施例において、噴霧乾燥(実施例10:段落【0478】?【0479】)、流動床被膜(実施例11:段落【0480】)、パンコーティング(実施例12:段落【0481】)といった方法を用いることによって、ラパマイシン粒子をPLGAに「封入」し得ることが示されている。これらの実施例におけるラパマイシン粒子は、その周囲をPLGAによって囲まれているものと解されるから、本願発明でいうところの「第1のポリマーに封入された」とは、その周囲を第1のポリマーによって囲まれていることを意味しているものと解される。
他方、引用発明においては、「第1の活性薬剤層」である平均(結晶質)粒径が?2ミクロンのラパマイシン層は、「第1のポリマー層」である50%PLGA層と、「第2のポリマー層」である50%PLGA層の間に挟まれるものである。そして、引用文献1の段落[00600]の「結晶の薬物粒子が第1ポリマー層の上面に載置される場合、空隙又は間隙が乾燥した結晶粒子の間に残留する。間隙及び空隙は、第3(ポリマー)層の形成の間に載置された粒子により占有されることが可能である。」(上記記載事項(1-2)参照)との記載も考慮すると、引用発明においては、実質的に、結晶の薬物粒子であるラパマイシン粒子は、その周囲を50%PLGAによって取り囲まれている、すなわち、「封入」されているものといえる。
そうしてみると、引用発明における「第1のポリマー層、第1の活性薬剤層、第2のポリマー層」は全体として、本願補正発明における「少なくとも部分的に第1のポリマーに封入された医薬製剤の粒子によって形成され」たものである「被膜」に相当するものと認められる。
よって、上記相違点1は、実質的な相違点ではない。

なお、仮にこの点が実質的な相違点であるとしても、引用文献1には、活性薬剤の粒子を被膜の微細構造に封入し得ることや(上記記載事項(1-1)段落[00578]、記載事項(1-6)請求項189参照)、活性薬剤とポリマーを同じ層で形成し得ること(記載事項(1-6)請求項261参照)が記載されており、微細構造を選択したり、層の中で薬剤の位置を制御することによって、薬剤の溶出を制御し得ることも記載されているから(上記記載事項(1-1)段落[00578]及び[00580]参照)、引用発明において、活性薬剤であるラパマイシンの溶出を制御するために、「第1のポリマー層」や「第2のポリマー層」にラパマイシンを封入することは、当業者が容易に想到し得た事項と認められる。
また、それによる効果が格別であるとも認められない(下記(6)も参照。)。

イ 相違点2について
上記アで述べたとおり、引用発明における「第1のポリマー層、第1の活性薬剤層、第2のポリマー層」は全体として、本願補正発明における「少なくとも部分的に第1のポリマーに封入された医薬製剤の粒子によって形成され」たものである「被膜」に相当するといえる。そして、引用発明は、上記「被膜」の上にさらに「第2の活性薬剤層」及び「第3のポリマー層」を有するものであるから、上記相違点2は、以下のように言い換えることができる。

本願補正発明においては、「被膜が被着されたバルーンの上に、さらに第2のポリマーが被着され」ることが特定されているのに対し、引用発明では、「被膜」が被着されたバルーンの上に、「第2の活性薬剤層」を介して、「第3のポリマー層」が形成されることが特定されている点。

この点について検討するに、本願補正発明においては、第2のポリマーが、「被膜」の上に直接被着されるとは特定されていないから、間に他の層を介する場合も包含されるものと解される
実際、例えば本願明細書段落【0226】には、「いくつかの例では、被膜されたバルーンは?15ミクロン(?5ミクロンの活性薬剤)の目標の被膜の厚さを有する。いくつかの例では、被膜プロセスは、RESS法及び本明細書に記載される機材による、乾燥した粉末の形態の薬物の被着及びポリマー粒子の被着を用いた、PDPDP(ポリマー、焼結物、薬物、ポリマー、焼結物、薬物、ポリマー、焼結物)である。」と記載されており、引用発明のような実施形態も、本願補正発明に包含され得るものと解される(なお、段落【0093】、【0094】、【0223】にも同様の趣旨が記載されている。)。
そうすると、引用発明における「第3のポリマー層」(50%PLGA層)は、間に「第2の活性薬剤層」を介するものであるものの、「被膜」が被着されたバルーンの上に形成されるものといえるから、本願補正発明における「被膜が被着されたバルーンの上に、さらに」「被着される」ものである「第2のポリマー」に相当すると認められる。
よって、上記相違点2は実質的な相違点ではない。

ウ 相違点3について
上記アで述べたとおり、「第1のポリマー層、第1の活性薬剤層、第2のポリマー層」は全体として、本願補正発明における「少なくとも部分的に第1のポリマーに封入された医薬製剤の粒子によって形成され」たものである「被膜」に相当するといえるところ、本願補正発明における「第1のポリマー」の「厚み」とは、「封入された医薬製剤の粒子」の厚みも含む、「被膜」全体の厚みを意味するものと解されるから、引用発明における「第1のポリマー層」、「第1の活性薬剤層」、及び「第2のポリマー層」それぞれの厚みを加算した値が、本願補正発明における「第1のポリマー」の「厚み」に相当するものと認められる。
ここで、引用発明においては、「全体の被膜厚さ」(「第1のポリマー層」、「第1の活性薬剤層」、「第2のポリマー層」、「第2の活性薬剤層」及び「第3のポリマー層」それぞれの厚みを加算した値と解される。)が「?15ミクロンである」ことは特定されているものの、「第1のポリマー層」、「第1の活性薬剤層」、及び「第2のポリマー層」それぞれの厚みを加算した値の平均値は特定されていない。しかしながら、上記記載事項(1-2)の記載からも明らかなように、目的に応じて、被膜の厚みを調整する程度のことは当業者が通常行うことであり、引用発明において、「全体の被膜厚さ」が15ミクロンの近傍の値となるような範囲内で、任意の層の好適な平均厚みの範囲を適宜設定することは、当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎない。そして、その際に、「第1のポリマー層」、「第1の活性薬剤層」、及び「第2のポリマー層」それぞれの厚みを加算した値の平均値として、2ミクロンから20ミクロンの範囲内の値を設定することに格別の困難性が存在したとも認められない。
また、それによる効果が格別であるとも認められない。

エ 相違点4について
引用発明では「ラパマイシン」(医薬製剤)の平均粒径が、「?2ミクロンである」ことが特定されているものの、具体的な値は特定されていない。しかしながら、目的に応じて、配合する薬剤の粒径を調整する程度のことは当業者が通常行うことであり、引用発明において、2ミクロンの近傍の値となるような範囲内で、ラパマイシンの粒径の好適な範囲を適宜設定することは、当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎない。そして、その際に、1ミクロンから10ミクロンの範囲内の値を設定することに格別の困難性が存在したとも認められない(実際、例えば上記記載事項(1-5)には、粒径が2.4ミクロンのシロリムス(ラパマイシン)を用いたことが記載されている。)。
また、それによる効果が格別であるとも認められない。

(5)本願補正発明の効果について
上記(4)ア、ウ及びオで述べたとおりであるから、本願補正発明が、引用発明に比較して格別な効果を奏したとは認められない。

(6)請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、「本願発明は、予め第1のポリマーに封入された医薬製剤の粒子で被膜を形成(すなわち、医薬製剤の粒子と第1のポリマーの複合体で被膜を形成)することによって、ポリマーに取り囲まれた医薬製剤の粒子を標的部位に提供でき、単に医薬製剤の粒子の層上に第1のポリマーを設けた場合と比較して、医薬製剤の粒子の標的部位での分解時間を長くすることができ、医薬製剤の粒子の放出を遅らせることができるという、優れた効果を奏します。」と記載し、本願補正発明が優れた効果を有する旨主張している。
しかしながら、本願明細書においては、かかる効果を裏付ける具体的な実施例や理論的根拠等は何ら示されておらず、意見書や審判請求書においても、そのような根拠は一切提示されていない。また、そもそも、本願明細書には、「封入」の定義すら記載されておらず、医薬製剤を「封入」することによる効果についても何ら記載されていない。
したがって、請求人の上記主張を採用できない。

(7)小括
上記検討のとおり、本願補正発明は、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

6.まとめ
以上、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないから、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
上記第2のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項1?11に係る発明は、平成29年1月27日付けの手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「バルーンと、
バルーンの少なくとも一部上に被着された被膜とを含む医療用デバイスであって、
前記被膜が、少なくとも部分的に第1のポリマーに封入された医薬製剤の粒子によって形成され、 前記被膜が被着されたバルーンの上に、さらに第2のポリマーが被着されていることを特徴とする、
医療用デバイス。」

2.拒絶の理由について
原査定の拒絶の理由は、要するに、本願発明は引用文献1に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない、という理由(理由2)を含むものである。
また、平成28年8月24日付けで通知した拒絶理由は、要するに、本願発明は引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、という理由(理由3)を含むものである。

3.引用発明
引用発明は、上記第2の5(2)において認定したとおりである。

4.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、上記第2の5(3)に示した<一致点>において一致し、<相違点>の相違点1及び2において一見相違する。
しかしながら、上記第2の5(4)ア及びイに示したのと同じ理由により、相違点1及び相違点2は実質的な相違点ではない。また、仮に相違点1が実質的な相違点であるとしても、この点は当業者が容易に想到し得た事項である。
よって、本願発明は、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができないか、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、本願の出願日前に頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明であり、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができないか、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断される。
そうすると、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-06-14 
結審通知日 2018-06-18 
審決日 2018-06-28 
出願番号 特願2014-537259(P2014-537259)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A61L)
P 1 8・ 121- Z (A61L)
P 1 8・ 575- Z (A61L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小森 潔  
特許庁審判長 内藤 伸一
特許庁審判官 安川 聡
穴吹 智子
発明の名称 薬物送達のための医療用デバイス  
代理人 清原 義博  

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