• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1345882
異議申立番号 異議2018-700574  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-07-13 
確定日 2018-11-01 
異議申立件数
事件の表示 特許第6272690号発明「両面セパレータ付き封止用シート,及び,半導体装置の製造方法」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6272690号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6272690号の請求項1?2に係る特許についての出願は,平成25年12月26日に出願され,平成30年1月12日にその特許権の設定登録がされ,平成30年1月31日に特許掲載公報が発行された。その後,その特許に対し,平成30年7月13日に特許異議申立人 古郡 裕介は,特許異議の申立てを行った。

2 本件発明
特許第6272690号の請求項1?2の特許に係る発明は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
封止用シートと,
前記封止用シートの一方の面に積層されたセパレータAと,
前記封止用シートの他方の面に積層されたセパレータBと
を備え,
前記封止用シートと前記セパレータAとの間の剥離力をF1,前記封止用シートと前記セパレータBとの間の剥離力をF2,前記封止用シートの厚みをt,前記封止用シートの面積をAとしたときに,下記(1)の関係を満たすことを特徴とする両面セパレータ付き封止用シート。
(1) 0<F2(N/20mm)×A(m^(2))×t(mm)≦1.864(ただし,F1<F2を満たす。)
<前記剥離力F1及び前記剥離力F2の測定条件>
温度:23℃
剥離角度:180°
引張速度:300mm/min。
【請求項2】
半導体チップが支持体上に固定された積層体を準備する工程Aと,
請求項1に記載の両面セパレータ付き封止用シートを準備する工程Bと,
前記両面セパレータ付き封止用シートから前記セパレータAを剥離して片面セパレータ付き封止用シートを得る工程Cと,
前記片面セパレータ付き封止用シートの前記セパレータAを剥離した側の面と前記積層体の前記半導体チップの面とが対向するように,前記片面セパレータ付き封止用シートを,前記積層体の前記半導体チップ上に配置する工程Dと,
前記半導体チップを前記封止用シートに埋め込み,前記半導体チップが前記封止用シートに埋め込まれた封止体を形成する工程Eと,
前記セパレータBを剥離する工程Fとを有することを特徴とする半導体装置の製造方法。」

3 申立理由の概要
特許異議申立人 古郡 裕介は,主たる証拠として,特開2012-224062号公報(以下「甲第1号証」という。)及び従たる証拠として,東レフィルム加工株式会社「セラピール(登録商標)製品情報」<http://www.toray-taf.co.jp/product/pdf/1_015_1cerapeel.pdf>2018年6月1日アクセス(以下「甲第2号証」という。)を提出し,請求項1?2に係る特許は特許法第29条第1項第3号に該当するから,請求項1?2に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。
また,特許異議申立人 古郡 裕介は,主たる証拠として,甲第1号証,甲第2号証,特開2005-340520号公報(以下「甲第3号証」という。)及び特開2008-260845号公報(以下「甲第4号証」という。)を提出し,請求項2に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,請求項2に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。
さらに,特許異議申立人 古郡 裕介は,本件特許の請求項1?2に係る発明は,特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものであるから,請求項1?2に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。
さらに,特許異議申立人 古郡 裕介は,本件特許の請求項1?2に係る発明は,特許法第36条第6項第1号及び第2号の規定に違反してされたものであるから,請求項1?2に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。

4 甲号証の記載
(1)甲第1号証には,以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
第一剥離フィルム,第一樹脂層,第二樹脂層,第二剥離フィルムがこの順序で積層されてなる樹脂積層体であって,
前記第一剥離フィルムの剥離力が100mN/50mm以上250mN/50mm以下であり,前記第二剥離フィルムの剥離力が35mN/50mm以上100mN/50mm以下であり,前記第一剥離フィルムの剥離力と前記第二剥離フィルムの剥離力の差が50mN/50mm以上であって,
前記第一樹脂層はシリコーン骨格含有高分子化合物,架橋剤およびフィラーを含有し,
前記第二樹脂層はシリコーン骨格含有高分子化合物,架橋剤を含有し,さらに,前記第一樹脂層に含まれるフィラーの含有率を100とした場合に,含有率が0以上100未満となるようにフィラーを含有するものであることを特徴とする樹脂積層体。
【請求項2】
前記第一樹脂層及び前記第二樹脂層の厚みの合計が100μm以上700μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂積層体。
<途中省略>
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の樹脂積層体の前記第二剥離フィルムを前記第二樹脂層から剥離し,表面に露出した前記第二樹脂層を半導体ウエハに貼り付け,前記第一剥離フィルムを前記第一樹脂層から剥離して前記半導体ウエハをモールドする工程と,前記モールドされた半導体ウエハを個片化する工程とを有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の樹脂積層体を加熱硬化した加熱硬化皮膜でモールドされた半導体ウエハを個片化したものであり,前記加熱硬化皮膜を有することを特徴とする半導体装置。」

「【0004】
本発明は,上記課題を解決するためになされたものであり,液状ではなくフィルム状の樹脂積層体であって,ウエハを一括してモールド(ウエハモールド)できるものであり,特に,大口径,薄膜ウエハに対して良好な転写性能を有し,また,モールド前ではウエハ表面への充填性が良好で,同時に,モールド後において低反り性及び良好なウエハ保護性能を有するものであり,さらに,モールド工程を良好に行うことができ,ウエハーレベルパッケージに好適に用いることができる樹脂積層体を提供することを目的とする。また,該樹脂積層体によりモールドされた半導体装置,及びその半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。」

「【0006】
このような樹脂積層体であれば,フィルム状であるためウエハを一括してモールド(ウエハモールド)でき,かつ,大口径,薄膜ウエハに対して良好な転写性能を有する。また,低反り性及びウエハ保護性に優れる高フィラータイプである第一樹脂層と,ウエハ表面への充填性が良好でウエハを一括してモールドできる低フィラータイプである第二樹脂層の性能の異なる二種のフィルムの多層構造を有するため,モールド前では優れたウエハ表面の充填性を有し,同時に,モールド後には低反り性及び良好なウエハ保護性能を有することができる。さらに,このような剥離力であれば,第二樹脂層を保護する第二剥離フィルムを第一剥離フィルムよりも先に剥離し,表面に露出した第二樹脂層を半導体ウエハへ貼り付け(モールドし),その後,第一樹脂層を保護する第一剥離フィルムを剥離するモールド工程を良好に行うことができ,ウエハーレベルパッケージに好適に用いることができる樹脂積層体となる。」

「【0070】
なお,剥離フィルムの剥離力は,ポリエステル粘着テープ(日東電工(株)製,品番:NO.31B)に対する剥離力を測定することによって求められた値である。」

「【0091】
[ウエハへの転写及びモールド]
ウエハ厚み100μmの直径8インチ(200mm)シリコンウエハを用意した。実施例1?3及び比較例1のフィルムC-1?C-4について,第二剥離フィルムを剥離し,真空ラミネーター((株)タカトリ製,製品名:TEAM-100RF)を用いて,真空チャンバー内を真空度100Paに設定し,100℃で,第一剥離フィルム側の第一樹脂層及び第二樹脂層から成る樹脂層を上記シリコンウエハに密着させた。常圧に戻した後,上記シリコンウエハを25℃に冷却して上記真空ラミネーターから取り出し,第一剥離フィルムを剥離した。また,同じシリコンウエハを用いて,比較例2?3について,ポリエチレンフィルム(保護フィルム)を剥離し,(株)タカトリ製の真空ラミネーター(製品名:TEAM-100RF)を用いて,真空チャンバー内を真空度100Paに設定し,100℃で,樹脂層を上記シリコンウエハに密着させた。常圧に戻した後,上記シリコンウエハを25℃に冷却して上記真空ラミネーターから取り出し,剥離フィルムを剥離した。
【0092】
[評価]
樹脂層からの剥離フィルムの剥離性,ウエハへの樹脂積層体のウエハ転写性,モールド樹脂硬化後のウエハサポート性およびウエハ反り量を表2に示す。なお剥離フィルムの剥離性は,第二樹脂層から第二剥離フィルムを剥離する際に,もう一方の剥離フィルム(第一剥離フィルム)が剥離してしまい,第二剥離フィルム側に第二樹脂層が残存したり,第一剥離フィルムと第一樹脂層の間に浮き(所謂「泣き別れ」)が生じた場合を不良とし,第二剥離フィルムが上記のような問題を生じることなく剥離できた場合を良好とした。また,ウエハ転写性は,第二剥離フィルム剥離後の樹脂積層体をラミネーターにてウエハへ気泡を巻き込むことなく貼れた場合を良好,気泡を巻き込んだり,ウエハに貼り付かなかった場合を不良とした。ウエハサポート性はウエハの端を支持した際のウエハのたわみ量を測定し,20mm以内を良好とし,20mmを超えた場合を不良と判断した。」

そうすると,上記記載から,甲第1号証の請求項1に記載された「第一剥離フィルムの剥離力」及び「第二剥離フィルムの剥離力」が,甲第1号証の【0070】に記載された「なお,剥離フィルムの剥離力は,ポリエステル粘着テープ(日東電工(株)製,品番:NO.31B)に対する剥離力を測定することによって求められた値である。」との記載からみて,それぞれ,「ポリエステル粘着テープ(日東電工(株)製,品番:NO.31B)と第一剥離フィルムとの間の剥離力」及び「ポリエステル粘着テープ(日東電工(株)製,品番:NO.31B)と第二剥離フィルムとの間の剥離力」であることが明らかであることから,甲第1号証には,以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「第一剥離フィルム,第一樹脂層,第二樹脂層,第二剥離フィルムがこの順序で積層されてなる樹脂積層体であって,
ポリエステル粘着テープ(日東電工(株)製,品番:NO.31B)と前記第一剥離フィルムとの間の剥離力が100mN/50mm以上250mN/50mm以下であり,前記ポリエステル粘着テープ(日東電工(株)製,品番:NO.31B)と前記第二剥離フィルムとの間の剥離力が35mN/50mm以上100mN/50mm以下であり,前記ポリエステル粘着テープ(日東電工(株)製,品番:NO.31B)と前記第一剥離フィルムとの間の剥離力と,前記ポリエステル粘着テープ(日東電工(株)製,品番:NO.31B)と前記第二剥離フィルムとの間の剥離力の差が50mN/50mm以上であり,
前記第一樹脂層はシリコーン骨格含有高分子化合物,架橋剤およびフィラーを含有し,
前記第二樹脂層はシリコーン骨格含有高分子化合物,架橋剤を含有し,さらに,前記第一樹脂層に含まれるフィラーの含有率を100とした場合に,含有率が0以上100未満となるようにフィラーを含有するものであり,
前記第一樹脂層及び前記第二樹脂層の厚みの合計が100μm以上700μm以下であり,
前記樹脂積層体は,当該樹脂積層体の前記第二剥離フィルムを前記第二樹脂層から剥離し,表面に露出した前記第二樹脂層を,直径8インチ(200mm)シリコンウエハである半導体ウエハに貼り付け,前記第一剥離フィルムを前記第一樹脂層から剥離して前記半導体ウエハをモールドする工程と,前記モールドされた半導体ウエハを個片化する工程とを有する半導体装置の製造において用いるものであり,
前記樹脂積層体を加熱硬化した加熱硬化皮膜によって,前記半導体ウエハがモールドされるものである,
樹脂積層体。」

(2)甲第2号証に記載の表から,以下の製品の剥離力と測定方法が記載されていることが読み取れる。
セラピールWZ :剥離力0.10N/50mm
セラピールBX :剥離力0.15?0.70N/50mm
測定方法:日東電工社製No.31Bテープを貼り付け,300mm/minの速度,180°の角度で剥離

(3)甲第3号証には,以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
支持シートと,該支持シート上に剥離可能に積層されてなる封止樹脂層とからなり,
該封止樹脂層が,熱硬化性を有し,熱硬化前の封止樹脂層の弾性率が1.0×10^(3)?1.0×10^(4)Paであり,熱硬化前の封止樹脂層の120℃における溶融粘度が100?200Pa・秒であり,熱硬化前の封止樹脂層を120℃で温度一定とした場合に,溶融粘度が最小値に達するまでの時間が60秒以下である半導体封止用樹脂シート。
【請求項2】
フリップチップボンドされたデバイスまたはワイヤボンドされたデバイスの封止に用いる請求項1に記載の半導体封止用樹脂シート。」

(4)甲第4号証には,以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
基板上に搭載されたチップ型デバイスを封止するために用いられる封止用熱硬化型接着シートであって,熱硬化前の80℃における引張弾性率が5×10^(5 )?5×10^(7 )Paであり,かつ熱硬化後の150℃における引張弾性率が5.5×10^(7) ?1×10^(9) Paであることを特徴とする封止用熱硬化型接着シート。
【請求項2】
封止用熱硬化型接着シートが,下記の(A)?(E)成分を含有するエポキシ樹脂組成物を用いてシート状に形成されてなる請求項1記載の封止用熱硬化型接着シート。
(A)エポキシ樹脂。
(B)フェノール樹脂。
(C)エラストマー。
(D)無機質充填剤。
(E)硬化促進剤。」

甲第4号証の図1に,甲第4号証に記載された発明の封止用熱硬化型接着シートを用いて封止してなる半導体デバイスの一例を模式的に示す断面図が記載されていることを見て取ることができる。

5 当審の判断
(1)請求項1に係る発明について(特許法第29条第1項第3号について)
ア 本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)と引用発明1とを対比すると,本件発明の「封止用シート」と,引用発明1の「『第一樹脂層,第二樹脂層』がこの順序で積層されてなる『積層体』」とは,「シート」である点で一致する。
さらに,引用発明1の「第一剥離フィルム」あるいは「第二剥離フィルム」の一方は,本件発明の「セパレータA」に,また,引用発明1の前記「第一剥離フィルム」あるいは前記「第二剥離フィルム」の他の一方は,本件発明の「セパレータB」に相当する。

イ そうすると,本件発明と引用発明1とは,「シートと,前記シートの一方の面に積層されたセパレータAと,前記シートの他方の面に積層されたセパレータBとを備えた両面セパレータ付きシート。」の点で一致するものの,
(a)相違点1:本件発明の「シート」が,「封止用」シートであるのに対して,引用発明1の「第一樹脂層,第二樹脂層」がこの順序で積層されてなる「積層体」は,「『シリコンウエハである半導体ウエハに貼り付け』,『積層体を加熱硬化した加熱硬化皮膜によって』『前記半導体ウエハをモールドする』」ためのものである点,及び,
(b)相違点2:本件発明は,前記封止用シートと前記セパレータAとの間の剥離力F1,及び,前記封止用シートと前記セパレータBとの間の剥離力F2を,温度:23℃,剥離角度:180°,引張速度:300mm/minの条件で測定したときの値,前記封止用シートの厚みt及び前記封止用シートの面積Aが,0<F2(N/20mm)×A(m^(2))×t(mm)≦1.864(ただし,F1<F2を満たす。)の条件を満たすものであるのに対して,引用発明1は,ポリエステル粘着テープ(日東電工(株)製,品番:NO.31B)と前記第一剥離フィルムとの間の剥離力が100mN/50mm以上250mN/50mm以下であり,前記ポリエステル粘着テープ(日東電工(株)製,品番:NO.31B)と前記第二剥離フィルムとの間の剥離力が35mN/50mm以上100mN/50mm以下であり,前記ポリエステル粘着テープ(日東電工(株)製,品番:NO.31B)と前記第一剥離フィルムとの間の剥離力と,前記ポリエステル粘着テープ(日東電工(株)製,品番:NO.31B)と前記第二剥離フィルムとの間の剥離力の差が50mN/50mm以上であると特定する点で相違する。

ウ そして,上記相違点2について検討すると,引用発明1は,「前記第一樹脂層はシリコーン骨格含有高分子化合物,架橋剤およびフィラーを含有し,前記第二樹脂層はシリコーン骨格含有高分子化合物,架橋剤を含有し,さらに,前記第一樹脂層に含まれるフィラーの含有率を100とした場合に,含有率が0以上100未満となるようにフィラーを含有するもの」であるところ,粘着性を備えた材料とセパレータとの間の剥離力が,当該粘着性を備えた材料の種類(組成)によって異なることは自明であるから,ポリエステル粘着テープ(日東電工(株)製,品番:NO.31B)と第一剥離フィルムとの間の剥離力が100mN/50mm以上250mN/50mm以下であり,前記ポリエステル粘着テープ(日東電工(株)製,品番:NO.31B)と第二剥離フィルムとの間の剥離力が35mN/50mm以上100mN/50mm以下であり,前記ポリエステル粘着テープ(日東電工(株)製,品番:NO.31B)と前記第一剥離フィルムとの間の剥離力と,前記ポリエステル粘着テープ(日東電工(株)製,品番:NO.31B)と前記第二剥離フィルムとの間の剥離力の差が50mN/50mm以上である引用発明1であっても,「第一剥離フィルム」と,「第一樹脂層」との間の剥離力(剥離力F2),及び「第二剥離フィルム」と,「第二樹脂層」との間の剥離力(剥離力F1)が,それぞれ,「100mN/50mm以上250mN/50mm以下」,「35mN/50mm以上100mN/50mm以下」であって,かつ,両者の差が「50mN/50mm以上」であるという特性を常に備えていると認めることはできない。
すなわち,甲第1号証には,「第一剥離フィルム」と,「『シリコーン骨格含有高分子化合物,架橋剤およびフィラーを含有』する『第一樹脂層』」との間の剥離力,あるいは,「第二剥離フィルム」と,「『シリコーン骨格含有高分子化合物,架橋剤を含有し,さらに,前記第一樹脂層に含まれるフィラーの含有率を100とした場合に,含有率が0以上100未満となるようにフィラーを含有するものであ』る『第二樹脂層』」との間の剥離力は,記載も示唆もされていない。
さらに,甲第2号証ないし甲第4号証の記載事項及び技術常識を参酌しても,引用発明1の「第一剥離フィルム」と,「『シリコーン骨格含有高分子化合物,架橋剤およびフィラーを含有』する『第一樹脂層』」との間の剥離力,及び,「第二剥離フィルム」と,「『シリコーン骨格含有高分子化合物,架橋剤を含有し,さらに,前記第一樹脂層に含まれるフィラーの含有率を100とした場合に,含有率が0以上100未満となるようにフィラーを含有するものであ』る『第二樹脂層』」との間の剥離力が,上記相違点2で特定する本件発明の関係を満たすことが自明であると認めることはできない。

エ よって,他の相違点については検討するまでもなく,本件発明は,甲第1号証に記載された発明と同一ではない。

(2)請求項2に係る発明について(特許法第29条第1項第3号,第2項について)
請求項2に係る発明は,請求項1に係る両面セパレータ付き封止用シートを用いた半導体装置の製造方法に係る発明であって,請求項1に係る発明に対して,技術的事項を追加したものである。
よって,上記(1)に示した理由と同様の理由により,請求項2に係る発明は,上記甲第1号証に記載された発明と同一ではない。
さらに,上記相違点2について検討すると,甲第1号証には,「第一剥離フィルム」と,「『シリコーン骨格含有高分子化合物,架橋剤およびフィラーを含有』する『第一樹脂層』」との間の剥離力,あるいは,「第二剥離フィルム」と,「『シリコーン骨格含有高分子化合物,架橋剤を含有し,さらに,前記第一樹脂層に含まれるフィラーの含有率を100とした場合に,含有率が0以上100未満となるようにフィラーを含有するものであ』る『第二樹脂層』」との間の剥離力は記載も示唆もされておらず,甲第2号証ないし甲第4号証の記載事項及び技術常識を参酌しても,引用発明1の「第一剥離フィルム」と,「『シリコーン骨格含有高分子化合物,架橋剤およびフィラーを含有』する『第一樹脂層』」との間の剥離力,及び,「第二剥離フィルム」と,「『シリコーン骨格含有高分子化合物,架橋剤を含有し,さらに,前記第一樹脂層に含まれるフィラーの含有率を100とした場合に,含有率が0以上100未満となるようにフィラーを含有するものであ』る『第二樹脂層』」との間の剥離力を,上記相違点2で特定する本件発明の関係を満たすものとする動機付けも存在しないから,請求項2に係る発明は,上記甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第4号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易になし得るものではない。

以上のとおり,請求項1?2に係る発明は,甲第1号証に記載された発明ではなく,また,請求項2に係る発明は,甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第4号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)特許法第36条第4項第1号について
特許法第36条第4項第1号は,明細書の発明の詳細な説明の記載要件について,「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること」と規定しており,当業者が,明細書及び図面に記載された発明の実施についての説明と出願時の技術常識とに基づいて,請求項に係る発明を実施しようとした場合に,どのように実施するかを理解できない場合(例えば,どのように実施するかを見いだすために,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤,複雑な実験等をする必要がある場合)には,当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されていないことになる。
そして,上記における「実施」とは,「物の発明」においては,その物を作れ,かつその物を使用できることであり,「物を生産する方法の発明」においては,その方法により物を生産できるように記載されていることである。
そこで,上記の観点に立って,本件明細書の発明の詳細な説明が実施可能要件に適合するか否か,すなわち,本件の請求項1及び2に係る発明について,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されているか否かについて検討すると,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件の請求項1で特定する特性を備えた両面セパレータ付き封止用シートの作り方,及び,本件の請求項1で特定する特性を備えた両面セパレータ付き封止用シートを用いて本件の請求項2で特定する方法によって半導体装置を生産する方法が具体的に記載されているものと認められる。
したがって,発明の詳細な説明の記載は,当業者が請求項1及び2に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであるから,特許法第36条第4項第1号の要件を満たす。
なお,特許異議申立人 古郡 裕介は,特許異議申立書において,「特許請求の範囲に含まれる封止シートであっても,その大きさによっては当業者が製造するのに過度な試行錯誤を要することになる。」旨を主張するが,封止シートの面積の上限及び下限を特定しない本件の請求項1及び2に係る発明に係る特許法第36条第4項第1号の要件は,特許請求の範囲に文言上は含まれる無限大に近い面積を有する封止シートから,無限小に近い面積の封止シートまでの全てにおいて,当業者が実施できるように記載することを求めるものではないから,特許異議申立人 古郡 裕介のかかる主張は,採用することができない。

(4)特許法第36条第6項第1号について
特許異議申立人 古郡 裕介は,特許異議申立書において,本件特許の明細書に記載された実施例1?8においては,高々1m^(2)の封止用シートしか開示されておらず,比較例1及び2に開示された大きさ100m^(2)の封止シートとの大きさの隔たりがあまりに大きいから,1m^(2)より大きく,100m^(2)より小さい封止用シートに関しては本件特許の目的とする効果が得られるのか予測できなく,また,本件特許の明細書の実施例,比較例には単一組成の封止用シートに一種類のセパレータを貼り付けて作成した両面セパレータ付き封止用シートの剥離試験結果しか開示がないから,本件特許の請求項1及び請求項2は,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものではなく,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでもない旨を主張する。
そこで検討すると,本件特許明細書には,所定の材料からなる,1cm×1cm,10cm×10cm,30cm×30cm,1m×1m及び10m×10mの大きさの評価用の封止用シートを用いた,「封止用シートに割れや破れが生じていないものを○,割れや破れの少なくともいずれかが生じていれば×と」する評価が記載されている。
そして,封止用シートの大きさが,「1m×1m」である場合と,「10m×10m」である場合との間に,当該「封止用シート」の「割れや破れ」の生じやすさという特性において,大きさが「1m×1m」及び「10m×10m」である「封止用シート」の「割れや破れ」の生じやすさと比較して,顕著に異なる特異的な特性を示す「大きさ」が存在することを示す特段の事情は認められない。
してみれば,「1m×1m」及び「10m×10m」の大きさの封止用シートについての評価に基づいて,「1m^(2)より大きく,100m^(2)より小さい封止用シートに関」する効果を予測することは合理的であって,これを否定する具体的な主張もされていない。
さらに,本件特許明細書に記載された,所定の材料からなる封止用シートの評価において,前記所定の材料に替えて他の材料を用いた場合に,前記評価とは異なる結果を示すことが明らかであることを示す具体的な主張もされていない。
したがって,本件特許の請求項1及び請求項2は,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものではなく,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでもないとする特許異議申立人 古郡 裕介のかかる主張は,採用することができない。
したがって,請求項1及び2に係る発明は,発明の詳細な説明に記載されたものであって,特許請求の範囲の記載は,特許法第36条第6項第1号の要件を満たすものである。

(5)特許法第36条第6項第2号について
ア 特許異議申立人 古郡 裕介は,特許異議申立書において,本件特許明細書の「そして,セパレータBと封止用シートとの剥離力F2に封止用シートの厚さtと面積Aとをかけあわせた積が,10.0未満であれば,セパレータBを剥離する際の封止用シートの破れが抑制できることを見出した。」等との記載と,請求項1の「(1) 0<F2(N/20mm)×A(m^(2))×t(mm)≦1.864(ただし,F1<F2を満たす。)」との特定において,数字上の矛盾があることから,明らかに明確性要件を満足しない旨を主張する。
しかしながら,本件発明は,セパレータBと封止用シートとの剥離力F2に封止用シートの厚さtと面積Aとをかけあわせた積が,10.0未満であれば,セパレータBを剥離する際の封止用シートの破れが抑制できることを見出したところ,その「セパレータBと封止用シートとの剥離力F2に封止用シートの厚さtと面積Aとをかけあわせた積」が,「10.0未満」とする範囲の一部である,「(1) 0<F2(N/20mm)×A(m^(2))×t(mm)≦1.864(ただし,F1<F2を満たす。)」の範囲について,特許請求をしたものと理解することができ,本件特許明細書の前記記載と,請求項1の前記特定において数字上の矛盾があるとは認められないから,特許異議申立人 古郡 裕介のかかる主張は,採用することができない。
したがって,請求項1及び2に係る発明は明確であり,特許請求の範囲の記載は,特許法第36条第6項第2号の要件を満たすものである。

イ 特許異議申立人 古郡 裕介は,特許異議申立書において,「しかるに,表4や,表6に示すように,関係式(1)に基づく積の値を境界として,臨界的に封止用シートに割れや破れが発生する場合と,そうでない場合が発生するとは到底理解しがたいところである。それにもかかわらず,関係式(1)に基づく積の値,特に上限を,実施例8の所定実験のみから限定的に定めている本件特許の請求項1は,発明の効果との関係で,発明の構成が余りに不明瞭であって,明らかに明確性要件を満足しないと思料する。」等と主張する。
しかしながら,上記アのとおり,本件発明は,セパレータBと封止用シートとの剥離力F2に封止用シートの厚さtと面積Aとをかけあわせた積が,10.0未満であれば,セパレータBを剥離する際の封止用シートの破れが抑制できることを見出したところ,その「セパレータBと封止用シートとの剥離力F2に封止用シートの厚さtと面積Aとをかけあわせた積」が,「10.0未満」とする範囲の一部である,「(1) 0<F2(N/20mm)×A(m^(2))×t(mm)≦1.864(ただし,F1<F2を満たす。)」の範囲について,特許請求をしたものと理解されるから,前記「1.864」という値に臨界的な意義があるとは認められない。
してみれば,前記「1.864」に臨界的な意義が存在することを前提とした,特許異議申立人 古郡 裕介のかかる主張は,その主張の前提を欠くから,採用することができない。
したがって,請求項1及び2に係る発明は明確であり,特許請求の範囲の記載は,特許法第36条第6項第2号の要件を満たすものである。

ウ 特許異議申立人 古郡 裕介は,特許異議申立書において,「また,このような3つのパラメータを掛け合わせた値が10という切のいい数値で封止用シートが破れるというのは疑問である。さらに,出願人はサポート要件違反の拒絶理由通知に対してなんら反論や実験成績証明書の提出をすることなく,これを実施例のうち最も大きな値である1.864に単に減縮している。加えて,式(1)は封止用シートが破れるかどうかは封止用シートの容積と,封止用シートにかかる力とによって決まると言っているに等しい。同じ容積の封止用シートに同じ力がかかっても封止用シートの材質によっては当然破れるはずであり,上限の数字1.864は封止用シートの材質によって変動するはずである。以上のように,F2×t×Aには何ら技術的意味がないか,封止用シートが破れる条件となる重要な要素が抜け落ちている未完成な式である蓋然性が極めて高い。したがって,本件特許の請求項1は,発明特定事項の技術的意味を当業者が理解できず,さらに,出願時の技術常識を考慮すると発明特定事項が不足していることが明らかである。」等と主張する。
しかしながら,上記アのとおり,本件発明は,セパレータBと封止用シートとの剥離力F2に封止用シートの厚さtと面積Aとをかけあわせた積が,10.0未満であれば,セパレータBを剥離する際の封止用シートの破れが抑制できることを見出したところ,その「セパレータBと封止用シートとの剥離力F2に封止用シートの厚さtと面積Aとをかけあわせた積」が,「10.0未満」とする範囲の一部である,「(1) 0<F2(N/20mm)×A(m^(2))×t(mm)≦1.864(ただし,F1<F2を満たす。)」の範囲について,特許請求をしたものと理解されるから,前記「1.864」という値に臨界的な意義があるとは認められない。
また,出願時の技術常識を考慮しても,発明特定事項が不足していることが明らかであるとまでは認められない。
してみれば,前記「1.864」に臨界的な意義が存在すること,及び,出願時の技術常識を考慮すると発明特定事項が不足していることが明らかであることを前提とした,特許異議申立人 古郡 裕介のかかる主張は,その主張の前提を欠くから,採用することができない。
したがって,請求項1及び2に係る発明は明確であり,特許請求の範囲の記載は,特許法第36条第6項第2号の要件を満たすものである。

6 むすび
したがって,特許異議の申立ての理由及び証拠によっては,請求項1?2に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に請求項1?2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-10-24 
出願番号 特願2013-270259(P2013-270259)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01L)
P 1 651・ 537- Y (H01L)
P 1 651・ 113- Y (H01L)
P 1 651・ 536- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 柴山 将隆  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 加藤 浩一
河合 俊英
登録日 2018-01-12 
登録番号 特許第6272690号(P6272690)
権利者 日東電工株式会社
発明の名称 両面セパレータ付き封止用シート、及び、半導体装置の製造方法  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ