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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A47K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A47K
管理番号 1345900
異議申立番号 異議2018-700584  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-07-17 
確定日 2018-11-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第6262439号発明「衛生薄葉紙ロール及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6262439号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6262439号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成25年3月28日に出願され、平成29年12月22日にその特許権の設定登録がされ、平成30年1月17日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、平成30年7月17日に異議申立人安東和恭(以下「申立人A」という。)及び村上清子(以下「申立人B」という。)は、それぞれ特許異議の申立てを行った。

2 本件発明
特許第6262439号の請求項1?6の特許に係る発明(以下「本件発明1」等といい、全体を「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
2枚の衛生薄葉紙を重ねた積層体をロール状に巻き取った衛生薄葉紙ロールであって、前記衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が13g/m^(2)を超え17g/m^(2)以下、かつ紙厚が0.6mm/10枚を超え1.1mm/10枚以下であり、
ロール外側となる表面のエンボスが凹になっており、裏面のエンボスが凸になっているシングルエンボスが付され、
当該衛生薄葉紙ロールの巻長が74?93m、巻直径が100?130mmである衛生薄葉紙ロール。
【請求項2】
ティシューソフトネス測定装置TSAにより、試料台に設置した前記積層体のロール外側の表面を上にしたサンプルに対し、ブレード付きロータを100mNの押し込み圧力として上から押し込んだ後に回転数2.0(/sec)で回転させ、前記試料台の振動を振動センサで測定したとき、
TSA上のソフトウェアにて自動的に取得した、低周波数側からの最初のスペクトルの極大ピークの強度(TS750)が12?27dBV^(2)rmsであり、6500Hzを含むスペクトルの極大ピークの強度(TS7)が13?22dBV^(2)rmsであり、
前記TS750の値を1とした時、前記積層体のロール内側の裏面を上にして前記試料台に設置したときのTS750の値が1.06?2.30である請求項1記載の衛生薄葉紙ロール。
【請求項3】
前記TSAにより、前記試料台に設置した前記積層体のロール外側の表面を上にしたサンプルに対し、前記ブレード付きロータを回転させずに100mNと600mNの押し込み圧力でそれぞれ上から押し込んだとき、
それぞれ押し込み圧力100mNと600mNの間での前記サンプルの上下方向の変形変位量で表される、剛性(D)の測定値が2.3?3.5mm/Nである請求項2記載の衛生薄葉紙ロール。
【請求項4】
前記衛生薄葉紙ロールは、原紙をカレンダー処理して製造され、該カレンダー処理後の紙厚が0.65mm?1.00mm/10枚であり、かつ前記カレンダー処理の前後の紙厚の差ΔCが0.05?0.40mm/10枚である請求項1?3のいずれかに記載の衛生薄葉紙ロール。
【請求項5】
前記衛生薄葉紙の比容積が4.0?6.5cm^(3)/gである請求項1?4のいずれかに記載の衛生薄葉紙ロール。
【請求項6】
2枚の衛生薄葉紙を重ねた積層体をロール状に巻き取った衛生薄葉紙ロールの製造方法であって、前記衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が13g/m^(2)を超え17g/m^(2)以下、かつ紙厚が0.6mm/10枚を超え1.1mm/10枚以下であり、
原紙をカレンダー処理し、該カレンダー処理後の紙厚を0.65mm?1.00mm/10枚とし、かつ前記カレンダー処理の前後の紙厚の差ΔCを0.05?0.40mm/10枚とし、
ロール外側となる表面のエンボスが凹になっており、裏面のエンボスが凸になっているシングルエンボスを付し、かつエンボス処理前後の衛生薄葉紙の紙厚の差ΔE(エンボス処理前の紙厚-エンボス処理後の紙厚)を-0.20?0.18mm/10枚とし、
当該衛生薄葉紙ロールの巻長が74?93m、巻直径が100?130mmである衛生薄葉紙ロールの製造方法。」

3 申立理由の概要
申立人Aは、主たる証拠として甲第1号証(以下「文献1」という。)及び従たる証拠として甲第2号証?甲第4号証(以下、それぞれ「文献2」?「文献4」という。)を提出し、請求項1?6に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1?6に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。また、申立人Bは、主たる証拠としてて甲第1号証(以下「文献4」という。)及び従たる証拠として甲第2号証?甲第7号証(以下、それぞれ「文献5」、「文献3」、「文献6」?「文献9」という。)を提出し、請求項1?6に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1?6に特許を取り消すべきものであり、また請求項5に係る発明は特許請求の範囲の記載が不明確であるから、請求項5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものであって、取り消すべきものである旨、主張する。
(申立人A及び申立人Bが提出した特許異議申立書を、以下、それぞれ「申立書A」及び「申立書B」という。)

〔証拠〕
文献1:特開平10-234614号公報(申立書Aの甲第1号証)
文献2:特開2006-320688号公報(申立書Aの甲第2号証)
文献3:特開2012-170659号公報(申立書Aの甲第3号証、申立書Bの甲第3号証)
文献4:特開2006-87703号公報(申立書Aの甲第4号証、申立書Bの甲第1号証)
文献5:特開2009-34278号公報(申立書Bの甲第2号証)
文献6:特開2009-183411号公報(申立書Bの甲第4号証)
文献7:特表2011-503370号公報(申立書Bの甲第5号証)
文献8:「紙パルプ製造技術シリーズ○7 仕上」、紙パルプ技術協会、2000年12月8日初版、37-39頁(申立書Bの甲第6号証)
(注:丸囲み数字の7は、「○7」と表記する。)
文献9:「最新 紙加工便覧」、株式会社テックタイムス、昭和63年8月20日、366-370頁(申立書Bの甲第7号証)

4 証拠の記載事項
(1)文献1
ア 「【要約】
【課題】 ロール状のトイレットペーパーにおいて、トイレットペーパーの坪量、巻長を変更することなく、かつ柔軟性を失なうことなく、ロール直径を小さくし、在庫面積の減少、輸送量の増加、販売店の展示面積の縮少を図る。」

イ 「【0002】
【従来の技術】・・・
【0003】このように一般家庭、事業所などで広くロール状のトイレットペーパーが使用されるようになり、日本工業規格でも紙幅114mm、ロール直径120mm以下と規格化されているが、一般には断裁、巻取仕上機の構造より内径38mmの紙筒が巻芯として使用され、柔軟性と水に分散し易くするため原料パルプの叩解度をおさえ、また抄造工程中にクレープ処理を施すなどをしており、この性質を損わないように1枚のときは65m、2枚重ねのときは32.5mの長さに柔らかく巻き付け、直径が120mm以下約115mmになるように仕上げられている。」

ウ 「【0005】
【発明が解決しようとする課題】・・・
【0006】また輸送時の容積を少くするため実開平7-25894号公報に見られる如く、ロール状の製品を側面より圧着して巻芯の紙管をつぶして平に変形させる方法が提案されているが、使用時に円筒状に復元させる必要があるが、巻芯の紙管が完全に円筒状に復元せずに変形したり、トイレットペーパーの形状も変形し、使用時にがたつき音が発生したり、使いにくいなどの欠点があり、また、坪量を少くしたり巻長を短かくし、さらには柔かさを多少損うも硬く巻き付けて直径を小さくすることが行なわれるようになって来たが、少なくも同じ長さのロール状のトイレットペーパーにおいて、ロールの直径が小さく、かつ柔らかさを失なうことのない製品が要求されるようになって来た。」

エ 「【0008】
【課題を解決するための手段】・・・
【0009】また、二枚重ねの場合製紙用晒パルプを使用したトイレットペーパーと、雑誌など下級古紙回収パルプを用いたトイレットペーパーを重ね合わせ、エンボスロールで圧着しながらロールに巻き上げることにより、ロールの直径を長さ約32.5m巻で約90mmとすることができ、かつ表側に製紙用晒パルプを使用したトイレットペーパーを位置せしめることにより外観も良好でかつ柔軟性良好な二枚重ねのトイレットペーパーが得られたものである。この場合、製紙用晒パルプは未使用の製紙用晒パルプの外、牛乳用カートン、上質紙の印刷部を含まぬ断裁屑など上質回収古紙パルプを使用するも差支えなく、製紙用晒パルプ製のトイレットペーパーと下級回収古紙製のトイレットペーパーを重ね合わせたのち、エンボスロールと弾性ロールの間を通して密着させたのち断裁しロールで圧着しながらロール状に巻き上げるも差支えない。」

オ 「【0010】
【発明の実施の形態】発明の実施の形態を実施例に基づき図面を参照して説明する。
(実施例1)本発明のロール状のトイレットペーパー(1)に巻き上げる装置は、図2に示す如く、2本の支持ロール(4),(4)により回転される巻芯となる紙管(3)は、紙管(3)に挿通され上下に自在に移動する巻軸(5)により保持され、圧着ロール(6)により支持ロール(4),(4)に押し付けられながら回転するよう構成される。
【0011】巻軸(5)の直径は約25mmとして内径約28mmの紙管(3)に容易に挿通できるようにし、圧着ロール(6)により紙管(3)が2本の回転する支持ロール(4),(4)に押し付けられ回転し、所要幅に切断されたトイレットペーパー(2)が紙管(3)に巻付けられるよう構成される。この際圧着ロール(6)はエンボス付きのロールを用い、トイレットペーパーを圧着する際にエンボスの凹凸により圧着圧に差ができるようにするとよく、支持ロール(4),(4)の直径および間隙は内径約28mmの紙管(3)を支持、回転せしめるよう調節される。
【0012】以上の如く調節された巻き上げ装置を用い、従来通り製紙用木材晒パルプを原料とし、常法に従がい坪量18.2g/m^(2)に抄造したクレープ付きのトイレットペーパーを1枚で65mの長さに巻上げ、ロール状のトイレットペーパーを得た。得られたロール状のトイレットペーパーの直径は90mmで従来品よりも約15mm小さく仕上げられており、使用時の柔らかさは従来品と変らなかった。
【0013】(実施例2)実施例1と同じ巻き上げ装置で圧着ロール(6)にエンボスロールを用い、製紙用木材晒パルプに印刷古紙を含まない牛乳パック、上質紙断裁屑紙を原料とした上級回収古紙パルプを等量配合して常法に従がい坪量18.0g/m^(2)に抄造したクレープ付のトイレットペーパー(以下、良質のクレープ付のトイレットペーパーという。)と、雑誌古紙など印刷物を含む回収古紙を脱墨、漂白した下級回収古紙パルプを主原料とし坪量18.5g/m^(2)に抄造したクレープ付のトイレットペーパー(以下、印刷古紙を含むクレープ付のトイレットペーパーという。)を重ね合わせ、良質のクレープ付のトイレットペーパーが表側に位置するように内径28mmの紙管にエンボス付の圧着ロール(6)で圧しながら巻長が32.5mになるようロール状に巻き上げたところ、直径90.5mmのロール状のトイレットペーパーを得た。」

カ 「【0015】
【発明の効果】・・・
【0016】また、二枚重ねの場合も良質のトイレットペーパーと印刷古紙などを含む下級古紙パルプよりなるトイレットペーパーを重ね合わせることにより、従来の良質のトイレットペーパーの2枚重ねは、1枚重ねよりも直径が大きくなり易すかったが、1枚重ねとほゞ同様に約90mmと小さく巻上げることができ、かつ良質のトイレットペーパーを表側に出しエンボスロールで圧着してあるので、従来品同様の外観と柔かさをもち、かつ安価に消費者に提供でき、かつ古紙の再利用に役立つことができるなどの効果を有するものである。さらに、巻芯の紙管の内径を小さくした結果、多少変形するも使用時にがたつく恐れなく、円滑に取り出すことができるなどの効果も有するものである。また、直径90mmとしたためホルダーへの装着などの取扱いが極めて容易となるものである。」

キ 図1及び図2は以下のとおり。

【図1】


【図2】


ク 上記オの「【0011】・・・圧着ロール(6)により紙管(3)が2本の回転する支持ロール(4),(4)に押し付けられ回転し、所要幅に切断されたトイレットペーパー(2)が紙管(3)に巻付けられるよう構成される。この際圧着ロール(6)はエンボス付きのロールを用い、」との記載を参酌して、図2をみると、圧着ロール(6)が、トイレットペーパー(2)の外側に凹状のエンボスを形成していることが看取できる。

ケ 上記アないしクからみて、文献1には、次の発明(以下「文献1発明」という。)が記載されているものと認める。
「坪量18.0g/m^(2)に抄造した良質のクレープ付のトイレットペーパー(以下、良質のクレープ付のトイレットペーパーという。)と、下級回収古紙パルプを主原料とし坪量18.5g/m^(2)に抄造した印刷古紙を含むクレープ付のトイレットペーパー(以下、印刷古紙を含むクレープ付のトイレットペーパーという。)を重ね合わせ、
良質のクレープ付のトイレットペーパーが表側に位置するように内径28mmの紙管にエンボス付の圧着ロール(6)で圧しながら、外側に凹状のエンボスが形成され、巻長が32.5mになるようロール状に巻き上げた、直径90.5mmのロール状のトイレットペーパー。」

(2)文献2
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースパルプを主原料とするシートからなり、該シートが原料パルプに対して分散剤を0.01?0.1質量%、紙力増強剤を0.02?0.1質量%、サイズ剤を0.05?0.2質量%添加して形成されていることを特徴とする洗浄便座用トイレットロール。
【請求項2】
前記トイレットロールが1枚のシートからなり、その坪量が15?25g/m^(2)で、厚さが65?110μmであることを特徴とする請求項1記載の洗浄便座用トイレットロール。
【請求項3】
前記トイレットロールが2枚のシートを重ね合わせてなり、シート1枚の坪量が12?25g/m^(2)で、厚さが50?110μmであり、2枚重ね合わせた坪量が22?48g/m^(2)で、厚さが90?200μmであることを特徴とする請求項1記載の洗浄便座用トイレットロール。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような従来の洗浄便座用トイレットペーパーの有する問題点を克服し、水に濡れたとき破れにくく、吸水性に優れ、風合いのよい、洗浄便座型トイレでの使用に適したトイレットロールを提供するものである。」

ウ 「【0030】
上記のような本発明のトイレットロールは、トイレットロールを製造する際に、カレンダー処理工程においてシートのテンションや線圧をコントロールする、あるいは、ロール状に巻き取る工程においてシートのテンションをコントロールする等により製造することができる。
本発明のトイレットロールでは、原紙にエンボス加工が施されていることが好ましい。エンボス加工を施すことにより、得られるトイレットロールの手触り感が向上する。」

エ 「【0035】
(実施例3)
実施例1と同じ原料に、分散剤を対原料パルプ0.03質量%、紙力増強剤を対原料パルプ0.05質量%、サイズ剤を対原料パルプ0.1質量%添加し、サクションシリンダー方式のヤンキー抄紙機で抄紙・乾燥して、坪量18.0g/m^(2)、水分4.2%、紙厚75μmのトイレットロール用原紙を抄造した。
【0036】
このトイレットロール用原紙2本を、各々の原紙のヤンキードライヤー側の面が外側になるように、センターワインディング方式のトイレットロール加工機(PCMC社製)にセットし1枚ずつエンボス加工したのちに2枚重ねにして、紙管(直径42mm)に巻き取り、ロール直径110mm、巻き取り長さ27.5mのロール状2プライトイレットペーパーを製造した。得られたトイレットロールは、2枚重ねで、坪量35.1g/m^(2)、厚さ145μmであった。」

(3)文献3
ア 「【0062】
ここで、一次原反ロールJRを構成する一次連続シートS1は、後にトイレットペーパー1に加工されるものであり、最終製品を構成するトイレットペーパーとほぼ同等の坪量となる。従って、これを考慮して一次連続シートS1は具体的にはJIS P 8124による坪量が、10?25g/m^(2)、好ましくは12?20g/m^(2)、より好ましくは13?18g/m^(2)とする。坪量が10g/m^(2)未満であると、トイレットペーパーの柔らかさの点においては好ましいが、使用時の適正な強度の確保することが難しくなるとともに、後段のワインダーにおける再巻き取り(ログ製造)が困難となる。他方、坪量が25g/m^(2)を超えると、トイレットペーパーが硬くなりすぎて、肌触りが悪化する。」


(4)文献4
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚のウェブを重ね合せた積層体をロール状に巻き取ってなるロール状トイレットペーパーであって、前記ウェブ1枚当りの坪量が8?13g/m^(2)であり、前記ウェブを重ね合せた前記積層体の坪量が15?30g/m^(2)であり、前記積層体を巻き取ったロールは、その巻き取り長さが60?100mであり、且つ、直径が100?115mmであることを特徴とするロール状トイレットペーパー。
【請求項2】
前記ウェブ1枚当りの厚さが35?60μmであり、前記ウェブを重ね合せた前記積層体の厚さが65?125μmであることを特徴とする請求項1記載のロール状トイレットペーパー。
【請求項3】
前記積層体のソフトネスが、縦方向及び横方向共に10?45mN/100mmであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のロール状トイレットペーパー。
【請求項4】
前記ウェブを2枚重ね合せたことを特徴とする請求項1?請求項3のいずれか1項に記載のロール状トイレットペーパー。」

イ 「【0001】
本発明は、ウェブを複数枚重ねたロール状トイレットペーパーに関する。さらに詳しくは、本発明は、柔らかくて肌触りが良く、ロールの巻き取り長さが長く、消費者に経済的な満足感を与えるロール状トイレットペーパーに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ロール状トイレットペーパー(以下、トイレットロールという場合がある)は、紙管に1枚又は2枚重ねのウェブを巻き取って形成されており、1枚のウェブを巻き取ったものを1プライ、2枚重ねのウェブを巻き取ったものを2プライと称している。
【0003】
このようなトイレットロールは、通常、坪量20?30g/m^(2)のウェブを直径45mm程度の紙管に巻き取り、巻き取り長さを1プライのもので約60m、2プライのもので約30mとし、その直径をいずれも約110mmとしたものが一般的である。
【0004】
しかしながら、従来のトイレットロールは、1プライのものは、2プライのものに比較して、2倍長く巻き取ることができるが、手で触った場合の柔らかさが劣り、肌触りが悪く、使用感の劣るものであった。
一方、2プライのものは、1プライのものに比較して、柔らかくて肌触りが良く、使用感に優れているが、巻き取り長さが短いため、消費者に不経済であるという印象を与えていた。この場合、巻き取り長さを長くするとロールの直径が大きくなり過ぎてしまい、通常のホルダーに収まらなくなってしまう。
そのため、2プライの有する使用感を維持しつつ、巻き取り長さを1プライと同じにしたトイレットロールが強く求められていた。
【0005】・・・
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来のトイレットロールの有する問題点を克服し、2プライ等の有する使用感を維持しつつ、巻き取り長さを1プライと同じにして消費者に経済的な満足感を与えるトイレットロールを提供するものである。」

ウ 「【発明の効果】
【0016】
本発明のロール状トイレットペーパー(トイレットロール)は、坪量8?13g/m^(2)のウェブを2?3枚重ね合せて坪量15?30g/m^(2)の積層体としたものをロール状に巻き取り、巻き取り長さが60?100m、ロール直径が100?115mmとなるように形成したものである。すなわち、本発明のトイレットロールは、積層体を形成するウェブとして従来のウェブよりも低坪量で厚さの薄いものを使用し、さらに、積層体の坪量及び厚さを各ウェブの坪量及び厚さの合計よりも少なくしたものを巻き取って形成したものである。
このような本発明のトイレットロールは、トイレットロールを製造する際に、カレンダー処理工程においてウェブのテンションや線圧をコントロールする、あるいはロール状に巻き取る工程においてウェブのテンションをコントロールする等により製造することができる。
【0017】
このような構成を有する本発明のトイレットロールは、これを1プライと同じ長さに巻き取った場合でも1プライと同じロール直径を維持することができ、さらに、ウェブを重ね合せて積層した場合にはウェブの間に空気が含まれるために1プライの場合よりも肌触りが良く、柔らかくて使用感に優れている。」

エ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明において、トイレットロールである積層体を形成するためのウェブは、1枚当りの坪量が8?13g/m^(2)であり、積層体の坪量が15?30g/m^(2)であることが好ましい。ウェブの坪量が8g/m^(2)未満では、ウェブの強度が弱くなり、トイレットロールを製造することができなくなる。また、坪量が13g/m^(2)を超えて多くなると、形成される積層体が厚くなり、これを所定の長さに巻き取った場合にロール直径が大きくなり過ぎてしまい、通常のホルダーに収まらなくなってしまう。
【0019】
本発明において、積層体を巻き取ってなるロールは、巻き取り長さが60?100mであり、且つ、直径が100?115mmであることが好ましい。巻き取り長さが60?100mであれば、消費者に経済的な満足感を与えることができ、また、直径が100?115mmであれば、通常のホルダーに収めることができる。
【0020】
本発明において、ウェブは、1枚当りの厚さが35?60μmであることが好ましく、ウェブを重ね合せた積層体は、厚さが65?125μmであることが好ましい。ウェブの厚さが35μm未満になるとウェブの強度が低下し、一方、60μmを超えて厚くなると、これを重ね合せた積層体を所定長さに巻き取った場合にロール直径が大きくなり、通常のホルダーに収まらなくなる。
また、積層体の厚さを65μm未満まで薄くすると、ウェブの密度が高くなり、柔らかさが損なわれてしまい、一方、125μmを超えて厚くすると、積層体を所定長さに巻き取った場合にロール直径が大きくなり、通常のホルダーに収まらなくなる。
【0021】
本発明において、積層体は、J.TAPPI 紙パルプ試験法No.34-80.衛生用薄葉紙の柔らかさ試験法により測定したソフトネスが、縦方向及び横方向共に、10?45mN/100mmであることが好ましい。ソフトネスが10mN/100mm未満では積層体の強度が低下してしまい、一方、45mN/100mmを超えて大きくなると手触り感が悪くなる。
【0022】
本発明において、トイレットロールである積層体は、ウェブを2?3枚重ね合せて形成することが好ましい。ウェブを2?3枚重ね合せて積層体を形成することにより、肌触りが良く、柔らかくて使用感に優れた積層体を形成することができ、さらに、所定長さに巻き取った場合にも所定の直径を有するロールを得ることができる。一方、ウェブを4枚以上重ね合せた場合には、積層体の厚さが厚くなり、所定長さに巻き取った場合にロール直
径が大きくなり過ぎて通常のホルダーに収まらなくなり、さらに、トイレットロールを必要長さに切取って使用する場合に切取り難くなる。」

オ 「【0036】
本発明において、トイレットロールを製造するためのカレンダー処理は、オンマシンカレンダー処理及び/又はプライマシンカレンダー処理によるソフトカレンダー処理が行われる。ソフトカレンダー処理は、通常、1本の金属ロールと1本の弾性ロールからなるカレンダー装置により行われる。

カ 「【0040】
本発明においてソフトカレンダー処理は、スイミングロールを使用して4?10kg/cmの線圧を加えて行うことが好ましい。スイミングロールを用いることにより、固定ロールを用いた場合に比較して、カレンダー処理後のウェブの幅方向のテンションを均一なものにすることができる。
【0041】
ソフトカレンダー処理は、例えば、2プライのトイレットロールの場合、オンマシンカレンダーで1スタック処理した後、プライマシンで2枚重ねとして、更に1?2スタック処理することが好ましい。
また、ソフトカレンダー処理後の重ね合せたウェブの密度は、0.26?0.34g/cm^(3)とすることが好ましい。ウェブの密度をこの範囲にすることにより、得られるトイレットロールは肌触りの良好なものとなる。
【0042】
本発明において、ソフトカレンダー処理後のウェブは、加工工程において、所定長さのロールに巻き取られ、所定幅に切断されてトイレットロール製品が製造される。さらに、加工工程において、必要に応じてミシン目の形成、エンボス加工等を行うことができる。また、加工機としては、センターワインダー方式のものでも良く、サーフェスワインダー方式のものでも良い。」

キ 「【0048】
得られたトイレットロール用原紙(ウェブ)を、ワインダーにより、LBKPの層が外側になるように2枚重ね合わせ、ソフトカレンダー処理を行い、2枚重ねの積層体を形成した。なお、ソフトカレンダー処理は、上側がショアー硬度92度のウレタンゴム被覆弾性ロールからなり、下側が金属ロールのスイミングロールからなる一対のロールにより、線圧5kg/cmの条件で行った。
次いで、2枚重ねの積層体をサーフェスワインディング方式のトイレットロール加工機(ペリーニ社製)により、紙管(ロール直径45mm)に巻き取り、ロール直径110mm、巻き取り長さ70mのロール状トレットペーパーを製造した。また、この際、マッチドスチール方式のエンボスロールによりエンボス加工を施した。得られたロール状トイレットペーパーは、2枚重ねで、坪量24.1g/m^(2)、厚さ85μmであった。

ク 上記アないしキからみて、文献4には、次の発明(以下「文献4発明」という。)が記載されているものと認める。
「1枚当りの坪量8?13g/m^(2)、厚さが35?60μmのウェブを2?3枚重ね合わせて坪量15?30g/m^(2)、厚さが65?125μmの積層体としたものをロール状に巻き取り、エンボスロールによりエンボス加工を施し、巻き取り長さが60?100m、ロール直径が100?115mmとなるように形成したロール状トイレットペーパー。」

(5)文献5
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンボスを有する衛生薄葉紙であって、
一方の面に、平面視形状が円形又は楕円形であり、平面視面積が0.3?2.0mm^(2)であるエンボス凸部が1cm^(2)あたり10?30個配されていることを特徴とする衛生薄葉紙。
【請求項2】
・・・
【請求項3】
2プライであって、これを1組として5組重ねたときの厚さが、750?2000μmである請求項1又は2記載の衛生薄葉紙。
【請求項4】
・・・
【請求項5】
・・・
【請求項6】
ニップロールとエンボス付与凸部を有するエンボスロールとで構成される一対のエンボス付与ロール間に衛生薄葉紙を通して、エンボスが付与された衛生薄葉紙を製造する方法であって、
前記エンボロールは、円錐台、楕円錐台又はこれらの頂縁が面取りされた立体形状のエンボス付与凸部を1cm^(2)あたり10?30個有することを特徴とする衛生薄葉紙の製造方法。
【請求項7】
・・・
【請求項8】
前記衛生薄葉紙を紙厚70?300μm、坪量10?40g/m^(2)のものとし、前記エンボス付与ロール間におけるニップ圧5?30kgf/cmとする、請求項6又は7記載の衛生薄葉紙の製造方法。
【請求項9】
2プライでこれを1組として5組重ねたときの厚さがを、エンボス付与後に1.1?1.8倍とする請求項6?8記載の衛生薄葉紙の製造方法。」

イ 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンボスを有する衛生薄葉紙及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
嵩だか性や柔軟性、吸収性等の機能性の向上、意匠性の向上を図る目的で衛生薄葉紙にエンボス(凹凸)を付与することがよく行われる。
エンボスの付与形態としては、いくつかの提案がなされており、例えば、一方面側からのみエンボスパターンの押し付けを行い、一方の面がエンボス凹部、他方の面がエンボス凸部となる所謂シングルエンボス、二枚重ねの場合に、いずれの面もエンボス凹部となっているTip to Tip形態やNested形態などの所謂ダブルエンボスが知られる。
なかでもシングルエンボスは、他の形態と比較して簡易に付与できるという利点があり広く普及しているが、ダブルエンボスと比較すると、凸エンボスが形成される面にざらつきが感じられる、嵩高さ、厚み感が得られ難いという欠点があった。
特に、衛生薄葉紙の用途として、上面にスリットの入ったフィルムを貼り付けた取出口を備えるカートン箱に収め、前記スリットから一枚ずつ取り出して用いるティシュペーパーがあるが、シングルエンボスは、このティシュペーパーのような低い坪量の場合に嵩高さ、厚み感が特に発現しづらい。
その上、シングルエンボスでは、一方の面にエンボス凸部が形成されるため、スリットからの取出し時に音が大きく、紙粉が発生しやすく、また、鼻かみ時にざらつきを感じやすい薄葉紙となるため、ポップアップ式のティシュペーパー用途には不向きとされていた。
【特許文献1】特開2003-116741
【特許文献2】特開2003-275128
【特許文献3】特開2002-369765
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、本発明の主たる課題は、シングルエンボスのように一方面に凸エンボスを有する衛生薄葉紙において、その肌に触れたときのざらつき感、凹凸感を低減し、肌触りに優れたものとすることにあり、他の課題は、ポップアップ形式で取り出すようなティシュペーパー製品に好適に利用できるものとすることにある。」

ウ 「【発明の効果】
【0015】
以上のとおり、本発明によれば、シングルエンボスが付与された衛生薄葉紙における、肌に触れたときのざらつき感、凹凸感が低減され、肌触りに優れたものとなる。
また、ポップアップ形式で取り出すティシュペーパー製品に好適に利用できるものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次いで、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら以下に詳述する。
〔エンボスを有する衛生薄葉紙〕
図1は、本発明の実施形態のエンボス10を有する衛生薄葉紙X1の平面図である。図2はそのII-II線断面図を表している。
本実施形態の衛生薄葉紙X1は、一方面にエンボス凸部11、他方の面にこのエンボス凸部11に対応するエンボス凹部12を有する所謂シングルエンボスが付与された衛生薄葉紙である。」

エ 「【0021】
本発明では、プライ数については特に限定されないが、ティシュペーパー用途であれば1?3プライ程度、好適には2プライである。図示の形態は2プライである。
他方、本発明では衛生薄葉紙の坪量は、特に限定されない。ただし、本発明はティシュペーパーのような比較的低坪量の衛生薄葉紙において特に効果的であり、JIS P 8124による坪量が、プライ数に関係なく、全体として10?40g/m^(2)である場合により効果的となる。なお、複数プライ数とする場合には、前記坪量の範囲内に収まるように、各プライの坪量を調整する。
【0022】
他方、本実施形態の衛生薄葉紙X1は、好適な例として、2プライであって、これを1組とし5組重ねたときの厚さが、750?2000μmとなっている。なお、重ねるにあたってはエンボス凸部形成面とエンボス凹部形成面が対面するようにして重ねる。
この厚みの具体的な測定方法は、測定子径30mmのピーコック(例えば、株式会社尾崎製作所製:G型等)を用いて、エンボスを潰さないようにゆっくりと測定子を下ろして、厚みを測定する。
他方、本形態の衛生薄葉紙X1は、非エンボス部分の紙厚T1とエンボス部分の紙厚の差T2が50?500μmであるのが望ましい。差が50μm未満であるとエンボスが不明瞭となり模様がぼやけた感じとなり、500μmを超えると肌に触れたときにざらつき感のあるものとなる。なお、非エンボス部分の紙厚は、70?300μmであるのがよい。300μmを超えると、硬くなり、特にティシュペーパー用途に適さなくなる。
ここでの紙厚差を算出する場合の紙厚は、レーザー顕微鏡(例えば、株式会社キーエンス製、VK-9510)により測定するのがよい。」

オ 「【0034】
また、エンボス付与するにあたっては、エンボス凸部形成面のMMDが11以下、エンボス凹部形成面のMMDが10以下となるように、ニップ圧、被加工衛生薄葉紙の厚さ、坪量を選択するのがよい。滑らかさ感がより感じられるようになる。
以上のようにしてエンボス付与された衛生薄葉紙は、長紙管に巻き付けられた後、裁断して細幅のトイレットペーパーロールとされたり、インターホルダに導かれてティシュペーパーなどの製品とする。
【0035】
・・・
【0036】
【表1】


5 当審の判断
(1)特許法29条2項
ア 本件発明1について(その1・申立書Aの取消理由)
文献1を主引用例として検討する。
(ア)対比
本件発明1と文献1発明を対比する。
a 文献1発明の「良質のクレープ付のトイレットペーパー」と「印刷古紙を含むクレープ付のトイレットペーパー」は、本件発明1の「衛生薄葉紙」に相当するから、文献1発明の「良質のクレープ付のトイレットペーパー」と「印刷古紙を含むクレープ付のトイレットペーパー」「を重ね合わせ、」「紙管に、」「ロール状に巻き上げた、」「ロール状のトイレットペーパー」は、本件発明1の「2枚の衛生薄葉紙を重ねた積層体をロール状に巻き取った衛生薄葉紙ロール」に相当する。

b また、文献1発明のロール状のトイレットペーパーが、上記の両トイレットペーパーを重ね合わせ、巻き長が32.5m、直径が90.5mmにロール状に巻き上げること、及び紙管の内径は28mmであって、紙管の紙厚を1mmと仮定すると、紙管の直径は30mmとなることからみて、上記重ね合わせたものの厚さは、0.176mm(=π((90.5÷2)^(2)-((28+2)÷2)^(2))÷32500)であるから、上記の両トイレットペーパーを重ね合わせたものの5組の厚さ、つまり計10枚当たりの厚さは、0.88mmとなる。
該10枚当たりの厚さ0.88mmは、本件発明1の紙厚0.6mm/10枚を超え1.1mm/10枚以下の範囲に含まれる。

c 文献1発明の紙管の紙厚を1mmと仮定した場合、上記a及びbからみて、本件発明1と文献1発明とは、「2枚の衛生薄葉紙を重ねた積層体をロール状に巻き取った衛生薄葉紙ロールであって、前記衛生薄葉紙の紙厚が0.88mm/10枚であり、
ロール外側となる表面のエンボスが凹になっており、裏面のエンボスが凸になっているシングルエンボスが付された、
衛生薄葉紙ロール。」で一致するものの、少なくとも以下の2点で相違している。
(相違点1)坪量が、本件発明1は、13g/m^(2)を超え17g/m^(2)以下であるのに対し、文献1発明は、18.0g/m^(2)又は18.5g/m^(2)である点。
(相違点2)衛生薄葉紙ロールの巻長及び巻直径が、本件発明1は、それぞれ74?93m、100?130mmであるのに対し、文献1発明は、それぞれ32.5m、90.5mmである点。

(イ)判断
上記相違点1及び2について検討する。
a 相違点1
(a)トイレットペーパーの坪量や紙厚等は、用途等に応じて、当業者が適宜選択し得る設計上の事項といえるが、坪量や紙厚等は互いに関連しており、関連するうちの特定の1つの条件を変えようとすると、通常、その他の条件も連動して変わるから、仮に、文献1発明の坪量を変更すると、トイレットペーパーの紙厚が変わり、同時に巻長や巻直径のどちらかも変わる。そこで、特定の1つの条件のみを変えようとしても、その他の条件を維持する付加的な設計が必要となるので、文献1発明の坪量のみを変える積極的な理由が必要と認められる。
そして、坪量について、文献2に、「12?25g/m^(2)」と記載され、文献3に、「10?25g/m^(2)、好ましくは12?20g/m^(2)、より好ましくは13?18g/m^(2)」と記載されているものの、文献2や文献3に記載された坪量のみを文献1発明に適用する動機付けは存在しない。
また、申立人A及び申立人Bが提示するその他の文献をみても、坪量を13g/m^(2)を超え17g/m^(2)以下とすることが記載されていないか、それに近い数値が記載されていたとしても、該坪量の数値のみを文献1発明に適用する動機付けは存在しない。
したがって、文献1発明の紙厚等を維持したまま、文献2や文献3に記載された坪量のみ適用することは、当業者が容易に想到し得るものではない。

(b)申立書Aにおいて、「基本的に、衛生薄葉紙(トイレットペーパー)の坪量、紙厚、及び後述するロール直径、巻長さは、本質的に、当該衛生薄葉紙の用途等に応じて当業者者が適宜選択できる設計事項である。そして、甲第2号証には、・・・。また、甲第3号証には、・・・。なお、構成要件(B)の1枚当りの坪量を13g/m^(2)を『超え』17g/m^(2)『以下』とすることにおける『超え』『以下』について、特許明細書段落0039及び0040の表1、2において、何ら臨界的な意義は見いだせず、また、特許明細書の記載からも技術的意義は見いだせないので、以下の検討において、『超え』『以下』は考慮しないで、検討を行い、・・・。そうすると、1枚当りの坪量を13g/m^(2)?17g/m^(2)とすることは、甲第2号証及び甲第3号証の記載から当業者が容易になしうることであると認められる。」(20頁15行?末行)と主張するが、特許明細書の【0039】?【0043】に記載されたとおり、紙厚が0.6mm/10枚を超え1.1mm/10枚以下であることと併せて、坪量を13g/m^(2)を超え17g/m^(2)以下とすることに顕著な効果が認められるから、上記坪量の範囲に臨界的意義がないことを前提とする申立書Aの主張は採用することができない。

b 相違点2
(a)文献1発明のロール状のトイレットペーパーの直径は90.5mmであるが、申立人Aが主張するように、130mmと仮定すると、巻長は71.4m(=π((90.5÷2)^(2)-((28+2)÷2)^(2))÷ 0.176)となる。そして、この巻長71.4mは、本件発明1の巻長74?93mの範囲外である。
このように、文献1発明において、直径を130mmと仮定しても、巻長は71.4mにしかならないから、直径を130mm未満の数値を仮定したところで、本件発明1の巻長の範囲74?93mの範囲に入らない。
また、申立人A及び申立人Bが提示するその他の文献をみても、トイレットロールの直径及び巻長として、74?93m及び100?130mmの両方を満たすものは、記載も示唆もされていない。
よって、文献1発明の直径及び巻長を増加することによって、上記相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。

(b)申立書Aにおいて、「甲第4号証には、・・・坪量が大きくなると、積層体が厚くなり、ロール直径が大きくなると記載されている。反対にロール直径を小さくするためには、坪量を少なくしたり巻長を短くすることが記載されている。・・・そしてこのことは、本件特許出願時において、周知の技術である。そうすると、甲第1号証記載の発明において、坪量を甲第2号証及び甲第3号証に記載されているように、例えば、坪量18g/m^(2)より小さい坪量13g/m^(2)に選定すると、トイレットペーパーの巻長が73?94mmの範囲含まれることは、当業者にとって明らかなことである。」(21頁下から8行?22頁4行)と主張するが、上記a(a)で説示したとおり、文献2や文献3に記載された坪量を文献1発明に適用して、本件発明1の坪量とすることは当業者が容易になし得たことではないから、文献2や文献3に記載された坪量を文献1発明に適用することを前提とする申立書Aの主張は採用することはできない。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、文献1発明及び文献2?9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明1について(その2・申立書Bによる取消理由)
次に、文献4を主引用例として検討する。
(ア)対比
本件発明1と文献4発明を対比する。
a 文献4発明の「ロール状トイレットペーパー」の「ウェブ」は、本件発明1の「衛生薄葉紙」に相当するから、文献4発明の「ウェブを2?3枚重ね合わせて」「積層体としたものをロール状に巻き取り」「形成したロール状トイレットペーパー」は、本件発明1の「2枚の衛生薄葉紙を重ねた積層体をロール状に巻き取った衛生薄葉紙ロール」に相当する。

b 文献4発明の「ウェブ」は「厚さが35?60μm」であるから、10枚当りに換算すると、0.35?0.60mmとなる。

c 文献4発明の「エンボスロールによりエンボス加工を施し」たことと、本件発明1の「ロール外側となる表面のエンボスが凹になっており、裏面のエンボスが凸になっているシングルエンボスが付され」たこととは、「エンボスが付され」たことで共通する。

d 文献4発明の「巻き取り長さが60?100m、ロール直径が100?115mm」であることと、本件発明1の「巻長が74?93m、巻直径が100?130mmである」こととは、「巻長が74?93m、巻直径が100?115mmである」点で共通する。

e 上記aないしdからみて、本件発明1と文献4発明とは、「2枚の衛生薄葉紙を重ねた積層体をロール状に巻き取った衛生薄葉紙ロールであって、
エンボスが付され、
当該衛生薄葉紙ロールの巻長が74?93m、巻直径が100?115mmである衛生薄葉紙ロール。」で一致し、少なくとも以下の2点で相違している。
(相違点A)坪量について、本件発明1は、13g/m^(2)を超え17g/m^(2)以下であるのに対し、文献4発明は、8?13g/m^(2)である点。
(相違点B)紙厚について、本件発明1は、0.6mm/10枚を超え1.1mm/10枚以下であるのに対し、文献4発明は、0.35?0.60mm/10枚である点。

(イ)判断
a 上記相違点A及びBについて検討する。
(a)文献5には、坪量について「10?40g/m^(2)」と記載され、紙厚について、「750?2000μm」と、さらに表1において710,720,803,810,825μmが記載されているものの、特に上記坪量については、本件発明1の「13g/m^(2)を超え17g/m^(2)以下」の範囲を上下方向に大きく超えるものであるから、仮に、紙厚を上記表1の710,720,803,810,825μmを文献1発明に採用し得たとしても、坪量を13g/m^(2)を超え17g/m^(2)以下とすることが、当業者が容易になし得たこととはいえない。

(b)また、文献4には、「ウェブの坪量が8g/m^(2)未満では、ウェブの強度が弱くなり、トイレットロールを製造することができなくなる。また、坪量が13g/m^(2)を超えて多くなると、形成される積層体が厚くなり、これを所定の長さに巻き取った場合にロール直径が大きくなり過ぎてしまい、通常のホルダーに収まらなくなってしまう。」(上記4(4)エの【0018】)と記載されているように、文献4発明の坪量を13g/m^(2)を超えるようにすることには阻害要因があるから、文献4発明の坪量を13g/m^(2)を超え17g/m^(2)以下とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
同じく、紙厚についても、文献4には「ウェブは、1枚当りの厚さが35?60μmであることが好ましく、・・・。ウェブの厚さが35μm未満になるとウェブの強度が低下し、一方、60μmを超えて厚くなると、これを重ね合せた積層体を所定長さに巻き取った場合にロール直径が大きくなり、通常のホルダーに収まらなくなる。また、積層体の厚さを65μm未満まで薄くすると、ウェブの密度が高くなり、柔らかさが損なわれてしまい、一方、125μmを超えて厚くすると、積層体を所定長さに巻き取った場合にロール直径が大きくなり、通常のホルダーに収まらなくなる。」(上記4(4)エの【0020】)と記載されているように、ウェブ1枚当りの厚さを60μm以上とすること、つまりウェブの厚さを0.60mm/10枚を超えて厚くすることには阻害要因があるから、文献4発明の紙厚を、「0.6mm/10枚を超え1.1mm/10枚以下」とすることは、当業者が容易になし得たことではない。

(c)なお、申立人A及び申立人Bが提示するその他の文献をみても、坪量を13g/m^(2)を超え17g/m^(2)以下とし、紙厚を0.6mm/10枚を超え1.1mm/10枚以下とすることは記載されていないか、それに近い数値が記載されていたとしても、文献4発明の坪量及び紙厚を、それぞれ13g/m^(2)を超えるようにすること、厚さを0.60mm/10枚を超えて厚くすることには、上記(b)で説示したとおり阻害要因がある。


(d)申立書Bにおいて、「衛生薄葉紙の1枚当りの坪量の上限値を13g/m^(2)とする甲1発明において、衛生薄葉紙の1枚当りの坪量を13g/m^(2)超えにすることは当業者が適宜選択できる技術的事項であることは明らかである。」(18頁下から8行?5行)、「甲第1号証には『ウェブは、・・・好ましい。』(【0020】)及び請求項2の各記載に基づき、単純に10枚当りの紙厚に換算すると、(65?125μm)×5=325?625μmとなる紙厚が開示され、甲1発明の紙厚と本件特許発明の紙厚とは、少なくとも(0.600?0.625)mm/10枚の範囲で重複している。たしかに、上記単純換算では正確ではないとしても10枚当たりの場合に極端に相違する理由は見当たらない。他方で、甲第2号証【0021】には、『坪量が、プライ数に関係なく、全体として10?40g/m^(2)である場合により効果的となる。・・・』としており、甲1発明における上限の坪量が13g/m^(2)を超えるものが可能であると開示しており、・・・。現に、甲第2号証には、『・・・厚さが、750?2000μである・・・』・・・。また、【表1】において10枚当たりの紙厚・・・として、710?825μmのものが明記されている。」(19頁下から8行?20頁19行)と主張するが、上記(b)で説示したとおり、文献4発明において、坪量を13g/m^(2)を超えるようにすること、及び、紙厚を600μm(=60μm×10枚)を超えて厚くすることには阻害要因があるから、申立書Bの主張は採用できない。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、文献4発明及び文献1?3、59に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明2ないし5について
本件発明2ないし5は、本件発明1を直接又は間接的に引用し、技術的事項を追加したものである。よって、上記ア(イ)及びイ(イ)に示した理由と同様の理由により、本件発明2ないし5は、文献1発明及び文献2?9に記載された技術事項に基いて、又は文献4発明及び文献1?3、5?9に記載された技術事項に基いて、当業者が容易になし得たものではない。

エ 本件発明6について
本件発明6(「衛生薄葉紙ロールの製造方法」)は、物の発明である本件発明1(「衛生薄葉紙ロール」)を、実質的に製造方法の発明に書き替え、さらに技術的事項を追加したものであるところ、本件発明6は、少なくとも、本件発明1の「衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が13g/m^(2)を超え17g/m^(2)以下、かつ紙厚が0.6mm/10枚を超え1.1mm/10枚以下であ」ること、及び「衛生薄葉紙ロールの巻長が74?93m、巻直径が100?130mmである」ことを、発明特定事項として備えている。
そうすると、本件発明6を文献1発明と対比すると、少なくとも、上記ア(ア)cで示した相違点1及び相違点2で相違し、また、本件発明6を文献4発明で対比すると、少なくとも、上記イ(ア)eで示した相違点A及び相違点Bで相違する。
そして、上記相違点1及び相違点2は、上記ア(イ)で示した理由と同様の理由により、また、上記相違点A及び相違点Bは、上記イ(イ)で示した理由と同様の理由により、当業者が容易になし得たことではない。
したがって、本件発明6は、文献1発明及び文献2?9に記載された技術事項、又は文献4発明及び文献1?3、5?9に記載された技術事項に基いて、当業者が容易になし得たものではない。

オ まとめ
以上のとおり、本件発明1ないし6は、文献1ないし文献9に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)特許法36条6項2号
本件発明5について、申立書Bにおいて、
「請求項の引用発明に注目すると、引用する請求項4では、『前記衛生薄葉紙ロールは、原紙をカレンダー処理して製造され』として、原紙をカレンダー処理して製造されることが記載されているが、請求項1?請求項3のいずれにも『前記衛生薄葉紙ロールは、原紙をカレンダー処理して製造され』とは記載されていない。トイレットロールの製造にあたり、カレンダー処理が必須であるとの技術常識は存在しない。してみると、本件特許発明5はカレンダー処理をしない衛生薄葉紙と、カレンダー処理をした衛生薄葉紙との2とおりの形態を含んで、比容積を規定している。比容積は、本件特許明細書【0036】にあるように『衛生薄葉紙1枚当たりの厚さを1枚当たりの坪量で割り、単位gあたりの容積cm^(3)で表した。』ものであり、カレンダー処理の有無で厚さが明らかに相違するようになるから、結局、カレンダー処理の有無で比容積は当然相違するものとなる。してみると、本件特許発明5の『衛生薄葉紙』がカレンダー処理をしたものなのか、カレンダー処理をしないものなのか不明であり、特許法第36条第6項第2号のいわゆる明確性要件に違背して特許されたものである。」(25頁7行?26行)と主張している。
しかしながら、請求項5の記載は、「前記衛生薄葉紙の比容積が4.0?6.5cm^(3)/gである」ことについて規定したものであって、その記載の意味自体は明確であり、衛生薄葉紙が、カレンダー処理をしたものなのかどうかによって、その意味に影響を受けるものではない。
請求項5の記載が引用する請求項によって、衛生薄葉紙がカレンダー処理されることが特定されたり、逆にカレンダー処理されることが特定されなかったりし、そしてカレンダー処理の有無で、比容積が相違するとしても、カレンダー処理の有無を規定しないことにより、本件発明5の記載が不明確となるものではない。
よって、本件発明5は、不明確なものではないから、特許法第36条第6項第2号の要件に違背して特許されたものではない。

6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由によって、本件発明1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-10-31 
出願番号 特願2013-69610(P2013-69610)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A47K)
P 1 651・ 121- Y (A47K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 七字 ひろみ  
特許庁審判長 井上 博之
特許庁審判官 住田 秀弘
西田 秀彦
登録日 2017-12-22 
登録番号 特許第6262439号(P6262439)
権利者 日本製紙クレシア株式会社
発明の名称 衛生薄葉紙ロール及びその製造方法  
代理人 下田 昭  
代理人 栗原 和彦  
代理人 赤尾 謙一郎  

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