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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
管理番号 1346746
異議申立番号 異議2017-701057  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-01-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-11-10 
確定日 2018-10-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6123956号発明「繊維強化熱可塑性樹脂成形品および繊維強化熱可塑性樹脂成形材料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6123956号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕、〔6、8、9〕及び〔7-9〕について訂正することを認める。 特許第6123956号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 特許第6123956号の請求項9に係る特許に対する本件異議申立を却下する。 
理由 第1 手続の経緯・本件異議申立の趣旨

1.本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第6123956号(以下、単に「本件特許」という。)に係る出願(特願2016-565713号、以下「本願」という。)は、平成28年10月21日(優先権主張:平成27年10月30日、特願2015-214363号)の国際出願日にされたものとみなされる出願人東レ株式会社(以下「特許権者」ということがある。)によりされた特許出願であり、平成29年4月14日に特許権の設定登録(請求項の数9)がされ、平成29年5月10日に特許公報が発行されたものである。

2.本件異議申立の趣旨
本件特許につき平成29年11月10日付けで特許異議申立人村戸良至(以下「申立人」という。)により「特許第6123956号の特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された発明についての特許は取り消されるべきものである。」という趣旨の本件異議申立がなされた。

3.以降の手続の経緯
以降の手続の経緯は、以下のとおりである。

平成30年 2月 1日付け 取消理由通知
平成30年 4月 2日 意見書
平成30年 5月11日付け 取消理由通知(決定の予告)
平成30年 7月11日 訂正請求書・意見書(特許権者)
平成30年 7月24日付け 通知書(申立人あて)
平成30年 8月27日 意見書(申立人)

第2 申立人が主張する取消理由
申立人は、本件特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、下記甲第1号証ないし甲第5号証を提示し、申立書における取消理由に係る主張を当審で整理すると、概略、以下の取消理由1及び2が存するとしているものと認められる。

取消理由1:本件発明は、(本件特許に係る明細書の)発明の詳細な説明の記載を請求項1、6及び7に記載された範囲まで拡張又は一般化できないものであり、(本件特許に係る明細書の)発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、本件特許に係る請求項1、6及び7並びに同各項を引用する請求項2ないし5、8及び9の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同条同項(柱書)の規定を満たしていないものであって、本件特許は、同法第36条第6項の規定を満たしていない特許出願にされたものであるから、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。
取消理由2:本件発明1ないし9は、いずれも、甲第1号証又は甲第2号証のいずれかに記載された発明に基づき、甲第3号証ないし甲第5号証に記載された事項を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、それらの発明についての特許は、同法第29条に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。

・申立人提示の甲号証
甲第1号証:特開2015-143339号公報
甲第2号証:国際公開2014/098103号
甲第3号証:特開2011-89060号公報
甲第4号証:特開平8-20651号公報
甲第5号証:特開2009-13331号公報
(以下、それぞれ「甲1」ないし「甲5」と略していうことがある。)

第3 当審が取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由の概要
当審が平成30年5月11日付けで通知した取消理由の概略は、以下のとおりである。

「当審は、特許権者が提出した意見書の内容を踏まえ、再度検討しても、
申立人が主張する上記取消理由1により、依然として、本件発明1ないし9についての特許はいずれも取り消すべきもの、
と判断する。・・(中略)・・

1.取消理由1についての検討
・・(中略)・・
したがって、本件の請求項1ないし9の記載は、いずれも特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同法同条同項(柱書)に規定する要件を満たしていない。

2.特許権者の主張について
・・(中略)・・
(d)してみると、特許権者の上記主張は、根拠を欠くものであって、本件特許明細書の記載に基づかないものであり、採用することができず、当審の上記1.の検討結果を左右するものではない。

3.当審の判断のまとめ
以上のとおり、本件の請求項1ないし9に係る発明についての特許は、いずれも特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(取消理由1)から、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。」

第4 平成30年7月11日付け訂正請求の適否

1.訂正請求の内容
上記平成30年7月11日付け訂正請求では、本件特許に係る特許請求の範囲及び明細書を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲及び訂正明細書のとおり、訂正後の請求項1ないし5、請求項6及び8並びに請求項7及び8についてそれぞれ一群の請求項ごとに訂正することを求めるものであり、以下の(ア)ないし(キ)の訂正事項を含むものである。(なお、下線は、当審が付したもので訂正箇所を表す。)

(ア)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項5を「前記有機繊維(B)がポリエステル繊維であり、前記熱可塑性樹脂(C)がポリオレフィン樹脂およびポリカーボネート樹脂より選択される少なくとも1種である請求項1?4のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形品。」に訂正する。

(イ)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6を「炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5?45重量部、有機繊維(B)を1?45重量部、熱可塑性樹脂(C)を10?94重量部、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)を1?25重量部含む成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であって、前記有機繊維(B)の数平均繊維径(d_(B))が35?300μmであり、炭素繊維(A)と有機繊維(B)を含む繊維束(E)に化合物(D)を含浸させてなる複合体(F)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含み、繊維束(E)断面において炭素繊維(A)と有機繊維(B)が偏在し、繊維束(E)の長さと繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の長さが実質的に同じである成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であり、前記有機繊維(B)がポリエステル繊維であり、前記熱可塑性樹脂(C)がポリオレフィン樹脂およびポリカーボネート樹脂より選択される少なくとも1種であり、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記炭素繊維(A)の平均繊維長(L_(A))が0.3?3mmであり、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記有機繊維(B)の平均繊維長(L_(B))が0.5?5mmである成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。」に訂正する。

(ウ)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項7を「炭素繊維(A)、熱可塑性樹脂(C)および200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5?45重量部、熱可塑性樹脂(C)を35?94重量部、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)を1?25重量部含み、炭素繊維(A)に化合物(D)を含浸させてなる複合体(G)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含み、炭素繊維(A)の長さと炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の長さが実質的に同じである炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(X)と、有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(H)および200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(H)より低い化合物(I)の合計100重量部に対し、有機繊維(B)を1?45重量部、熱可塑性樹脂(H)を35?94重量部、化合物(I)を1?25重量部含み、前記有機繊維(B)の数平均繊維径(d_(B))が35?300μmである有機繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(Y)とを含む成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であり、前記有機繊維(B)がポリエステル繊維であり、前記熱可塑性樹脂(C)がポリオレフィン樹脂およびポリカーボネート樹脂より選択される少なくとも1種であり、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記炭素繊維(A)の平均繊維長(L_(A))が0.3?3mmであり、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記有機繊維(B)の平均繊維長(L_(B))が0.5?5mmである成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。」に訂正する。

(エ)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項8を「前記繊維強化熱可塑性樹脂成形材料中における前記有機繊維(B)のアスペクト比(L_(B)/d_(B))が10?500である、請求項6または7に記載の成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。」に訂正する。

(オ)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項9を削除する。

(カ)訂正事項6
明細書の段落【0008】を「また、本発明の成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料は、次のいずれかの構成を有する。すなわち、炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5?45重量部、有機繊維(B)を1?45重量部、熱可塑性樹脂(C)を10?94重量部、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)を1?25重量部含む成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であって、前記有機繊維(B)の数平均繊維径(dB)が35?300μmであり、炭素繊維(A)と有機繊維(B)を含む繊維束(E)に化合物(D)を含浸させてなる複合体(F)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含み、繊維束(E)断面において炭素繊維(A)と有機繊維(B)が偏在し、繊維束(E)の長さと繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の長さが実質的に同じである成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であり、前記有機繊維(B)がポリエステル繊維であり、前記熱可塑性樹脂(C)がポリオレフィン樹脂およびポリカーボネート樹脂より選択される少なくとも1種であり、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記炭素繊維(A)の平均繊維長(L_(A))が0.3?3mmであり、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記有機繊維(B)の平均繊維長(L_(B))が0.5?5mmである成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料、または、
炭素繊維(A)、熱可塑性樹脂(C)および200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5?45重量部、熱可塑性樹脂(C)を35?94重量部、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)を1?25重量部含み、炭素繊維(A)に化合物(D)を含浸させてなる複合体(G)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含み、炭素繊維(A)の長さと炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の長さが実質的に同じである炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(X)と、有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(H)および200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(H)より低い化合物(I)の合計100重量部に対し、有機繊維(B)を1?45重量部、熱可塑性樹脂(H)を35?94重量部、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(I)を1?25重量部含み、前記有機繊維(B)の数平均繊維径(dB)が35?300μmである有機繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(Y)とを含む成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であり、前記有機繊維(B)がポリエステル繊維であり、前記熱可塑性樹脂(C)がポリオレフィン樹脂およびポリカーボネート樹脂より選択される少なくとも1種であり、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記炭素繊維(A)の平均繊維長(L_(A))が0.3?3mmであり、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記有機繊維(B)の平均繊維長(L_(B))が0.5?5mmである成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料、である。」に訂正する。

(キ)訂正事項7
明細書の段落【0108】を「次に、本発明の成形品を得るために適した、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(「成形材料」という場合がある)について説明する。本発明においては、(1)炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5?45重量部(5重量部以上45重量部以下)、有機繊維(B)を1?45重量部(1重量部以上45重量部以下)、熱可塑性樹脂(C)を10?94重量部(10重量部以上94重量部以下)、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)を1?25重量部(1重量部以上25重量部以下)含む成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であって、有機繊維(B)の数平均繊維径(dB)が35?300μm(35μm以上300μm以下)であり、炭素繊維(A)と有機繊維(B)を含む繊維束(E)に化合物(D)を含浸させてなる複合体(F)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含み、繊維束(E)断面において炭素繊維(A)と有機繊維(B)が偏在し、繊維束(E)の長さと繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の長さが実質的に同じである成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であり、前記有機繊維(B)がポリエステル繊維であり、前記熱可塑性樹脂(C)がポリオレフィン樹脂およびポリカーボネート樹脂より選択される少なくとも1種であり、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記炭素繊維(A)の平均繊維長(L_(A))が0.3?3mmであり、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記有機繊維(B)の平均繊維長(L_(B))が0.5?5mmである成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(以下、「第一の態様の成形材料」という場合がある)や、(2)炭素繊維(A)、熱可塑性樹脂(C)および200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5?45重量部(5重量部以上45重量部以下)、熱可塑性樹脂(C)を35?94重量部(35重量部以上94重量部以下)、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)を1?25重量部(1重量部以上25重量部以下)含み、炭素繊維(A)に化合物(D)を含浸させてなる複合体(G)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含み、炭素繊維(A)の長さと炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の長さが実質的に同じである炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(X)と、有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(H)および200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(H)より低い化合物(I)の合計100重量部に対し、有機繊維(B)を1?45重量部(1重量部以上45重量部以下)、熱可塑性樹脂(H)を35?94重量部(35重量部以上94重量部以下)、化合物(I)を1?25重量部(1重量部以上25重量部以下)含み、有機繊維(B)の数平均繊維径(dB)が35?300μm(35μm以上300μm以下)である有機繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(Y)とを含む成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であり、前記有機繊維(B)がポリエステル繊維であり、前記熱可塑性樹脂(C)がポリオレフィン樹脂およびポリカーボネート樹脂より選択される少なくとも1種であり、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記炭素繊維(A)の平均繊維長(L_(A))が0.3?3mmであり、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記有機繊維(B)の平均繊維長(L_(B))が0.5?5mmである成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(以下、「第二の態様の成形材料」という場合がある)を、本発明の成形品を得るための成形材料として好適に用いることができる。」に訂正する。

2.検討
なお、以下の検討において、この訂正請求による訂正を「本件訂正」といい、本件訂正前の特許請求の範囲における請求項1ないし9を「旧請求項1」ないし「旧請求項9」、本件訂正後の特許請求の範囲における請求項1ないし9を「新請求項1」ないし「新請求項9」という。

(1)訂正の目的要件について
上記の各訂正事項による訂正の目的につき検討する。
上記訂正事項1に係る訂正は、旧請求項5における有機繊維に係る並列選択枝の一部を削除すると共に、明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき熱可塑性樹脂の種別に係る事項を直列的に付加して減縮し新請求項5としたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
上記訂正事項2ないし4に係る訂正は、旧請求項6及び7について、それぞれ、旧請求項9及び明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき、有機繊維の種別、熱可塑性樹脂の種別並びに有機繊維及び炭素繊維の平均繊維長に関する事項を直列的に付加して減縮し新請求項6及び7としたものであり、旧請求項6及び7を引用する旧請求項8についても、上記減縮に伴い減縮され新請求項8となっているものであるから、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。(なお、「成形品用」なる事項を付加する点については、「成形材料」が、もともと「成形するための材料」、すなわち「成形品を製造するための材料」を意味するものと認められるから、「成形品用」なる事項を付加したとしてもそれ自体で特許請求の範囲が減縮されるものとは認められない。)
上記訂正事項5に係る訂正は、旧請求項9に記載された事項の全てを削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とすることが明らかである。
上記訂正事項6及び7に係る訂正は、それぞれ、上記訂正事項2ないし4に係る訂正により特許請求の範囲が減縮された新請求項6及び7に記載された事項と不整合となる明細書の記載を単に正したものであるから、いずれも明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められる。
したがって、上記訂正事項1ないし7による訂正は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に規定の目的要件に適合するものである。

(2)新規事項の追加及び特許請求の範囲の実質的拡張・変更について
上記(1)に示したとおり、訂正事項1ないし5に係る訂正により、新請求項5ないし9の特許請求の範囲が旧請求項5ないし9に記載された事項に対して減縮されていることが明らかであり、訂正事項6及び7に係る訂正は、訂正事項2ないし4に係る訂正により対応関係が不明瞭となった明細書の記載につき単に正したものであるから、上記訂正事項1ないし7による訂正は、いずれも新たな技術的事項を導入しないものであり、また、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものではないことが明らかである。
してみると、上記訂正事項1ないし7による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定を満たすものである。

(3)一群の請求項等について
本件訂正前の旧請求項2ないし5は、いずれも旧請求項1を直接的又は間接的に引用するものであり、また、旧請求項8及び9は、旧請求項6又は7を択一的に引用するものであるから、本件訂正前の請求項1ないし5、請求項6、8及び9並びに請求項7ないし9は、それぞれ、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
さらに、上記訂正事項6及び7に係る訂正は、上記訂正事項2ないし4に係る訂正により特許請求の範囲が減縮された新請求項6及び7に記載された事項と不整合となる明細書の記載に係る訂正であって、請求項6、8及び9並びに請求項7ないし9の各一群の請求項の全てについて訂正されたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定を満たすものである。

(4)訂正に係る検討のまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-5〕、〔6、8〕及び〔7、8〕について訂正を認める。

第5 本件特許に係る請求項に記載された事項
本件訂正後の本件特許に係る請求項1ないし9には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5?45重量部、有機繊維(B)を1?45重量部、熱可塑性樹脂(C)を10?94重量部含む繊維強化熱可塑性樹脂成形品であって、
繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記炭素繊維(A)の平均繊維長(L_(A))が0.3?3mmであり、
繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記有機繊維(B)の平均繊維長(L_(B))が0.5?5mmであり、数平均繊維径(d_(B))が35?300μmである繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
【請求項2】
前記繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記有機繊維(B)のアスペクト比(L_(B)[μm]/d_(B)[μm])が5?100である、請求項1に記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
【請求項3】
前記繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記炭素繊維(A)の換算本数n_(A)に対する前記有機繊維(B)の換算本数n_(B)の比(n_(B)/n_(A))が0.001?0.01である、請求項1または2に記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
【請求項4】
前記繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記有機繊維(B)の数平均繊維径(d_(B))が50?150μmである、請求項1?3のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
【請求項5】
前記有機繊維(B)がポリエステル繊維であり、前記熱可塑性樹脂(C)がポリオレフィン樹脂およびポリカーボネート樹脂より選択される少なくとも1種である請求項1?4のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
【請求項6】
炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5?45重量部、有機繊維(B)を1?45重量部、熱可塑性樹脂(C)を10?94重量部、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)を1?25重量部含む成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であって、前記有機繊維(B)の数平均繊維径(d_(B))が35?300μmであり、炭素繊維(A)と有機繊維(B)を含む繊維束(E)に化合物(D)を含浸させてなる複合体(F)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含み、繊維束(E)断面において炭素繊維(A)と有機繊維(B)が偏在し、繊維束(E)の長さと繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の長さが実質的に同じである成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であり、前記有機繊維(B)がポリエステル繊維であり、前記熱可塑性樹脂(C)がポリオレフィン樹脂およびポリカーボネート樹脂より選択される少なくとも1種であり、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記炭素繊維(A)の平均繊維長(L_(A))が0.3?3mmであり、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記有機繊維(B)の平均繊維長(L_(B))が0.5?5mmである成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。
【請求項7】
炭素繊維(A)、熱可塑性樹脂(C)および200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5?45重量部、熱可塑性樹脂(C)を35?94重量部、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)を1?25重量部含み、炭素繊維(A)に化合物(D)を含浸させてなる複合体(G)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含み、炭素繊維(A)の長さと炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の長さが実質的に同じである炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(X)と、有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(H)および200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(H)より低い化合物(I)の合計100重量部に対し、有機繊維(B)を1?45重量部、熱可塑性樹脂(H)を35?94重量部、化合物(I)を1?25重量部含み、前記有機繊維(B)の数平均繊維径(d_(B))が35?300μmである有機繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(Y)とを含む成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であり、前記有機繊維(B)がポリエステル繊維であり、前記熱可塑性樹脂(C)がポリオレフィン樹脂およびポリカーボネート樹脂より選択される少なくとも1種であり、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記炭素繊維(A)の平均繊維長(L_(A))が0.3?3mmであり、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記有機繊維(B)の平均繊維長(L_(B))が0.5?5mmである成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。
【請求項8】
前記繊維強化熱可塑性樹脂成形材料中における前記有機繊維(B)のアスペクト比(L_(B)/d_(B))が10?500である、請求項6または7に記載の成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。
【請求項9】
(削除)」
(以下、上記請求項1ないし9に係る各発明につき、項番に従い「本件発明1」ないし「本件発明9」といい、併せて「本件発明」と総称することがある。)

第6 当審の判断
当審は、
当審が通知した取消理由については理由がなく、また、申立人が主張する上記取消理由1及び2についてもいずれも理由がないから、本件発明1ないし8についての特許は取り消すことはできず、維持すべきものである、
本件の請求項9に係る特許に対する異議の申立ては、同項の記載事項が上記第4で説示した理由により適法なものと認められる訂正により全て削除されたことにより、申立ての対象を欠く不適法なものとなったところ、当該不適法とされる点は、その補正ができないものであるから、請求項9に係る特許に対する本件異議申立は、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである、
と判断する。以下、詳述する。

I.当審が取消理由通知で通知した理由について

1.通知した理由の内容
当審が上記取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由に係る検討内容は、要約すると以下のとおりである。

「本件特許に係る明細書(以下「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載(【0005】?【0006】等)からみて、本件特許に係る発明の解決課題は、「衝撃強度および表面外観に優れる繊維強化熱可塑性樹脂成形品」及び「樹脂成形材料」の提供にあるものといえる。
しかるに、本件の各請求項の記載を検討すると、本件請求項1では、炭素繊維の平均繊維長及び有機繊維の平均繊維長並びに数平均繊維径が規定されているのみであり、また、本件請求項6及び7では、有機繊維の数平均繊維径が規定されているのみ(なお、炭素繊維及び有機繊維の平均繊維長については規定されていない。)であり、有機繊維の材料種別及び熱可塑性樹脂の種別については規定されておらず、請求項1、6又は7を引用する請求項5又は9において、有機繊維の材料種別が4種から選択されることに規定されているのみである。
そこで、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載のうち、実施例(比較例)に係る部分以外の部分(【0001】?【0152】)の記載を検討すると、いかなる種別の炭素繊維、有機繊維及び熱可塑性樹脂(並びに化合物(D))を使用した場合であっても、本件の上記各請求項に記載された事項を具備することにより、上記課題を解決できる、すなわち従来の繊維強化熱可塑性樹脂組成物を使用した成形品に比して、その衝撃強度及び表面外観がいずれも改善されるであろうと当業者が認識できるような作用機序につき記載されていない。
なお、申立人が申立書第12頁下から第6行ないし第17頁第6行で主張するとおり、繊維強化熱可塑性樹脂組成物又はその成形品の技術分野において、繊維自体の物性、熱可塑性樹脂の物性、繊維と熱可塑性樹脂との相互作用(繊維の配向状態、繊維と樹脂との親和性など)、成形方法により、樹脂組成物又はその成形品の耐衝撃性などの物性及び成形品表面外観が有意に変化することは、特に論証するまでもなく、当業者の技術常識であるものと認められる。
してみると、本件明細書の上記部分の記載では、本件発明が、各請求項記載の事項を具備することにより、上記解決課題を解決できると当業者が認識することはできないものである。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載のうち、実施例(比較例)に係る部分(【0153】?【0217】)の記載を検討すると、単一種の炭素繊維、6種のPET有機繊維及びそれぞれ単一種のPP又はPCである熱可塑性樹脂を組み合わせた場合に係る極めて限られた実施例(及び比較例)が記載されているのみであり、当該実施例(及び比較例)に係る記載からみて、当該限られた場合においては、実施例の「成形品」の場合に衝撃強度及び「成形品表面外観」(この点については下記2.(b)参照。)が改善されている傾向にあることは一応確認できるものの、本件の各請求項に記載された事項を具備する場合につき、成形品の衝撃強度及び表面外観のいずれもが従来の繊維強化熱可塑性樹脂組成物を使用した場合に比して改善されているか否かを当業者が客観的に認識することができるものではない。
さらに、当該限られた実験例である実施例1と比較例5及び6の各結果を対比すると、各例とも「成形材料」の点では同一であり、請求項6又は7に記載された事項を具備するものであると理解されるところ、成形方法の差異によって、「成形品」となった時点で、衝撃強度につき有意な差異(比較例5及び6が明らかに劣っている。)が発現していることが看取できるから、特に、炭素繊維及び有機繊維の繊維長に係る規定がない請求項6及び7に記載された事項を具備する発明であれば、たとえ成形品とした場合に請求項1における炭素繊維及び有機繊維の繊維長に係る規定を満たさない場合(例えば有機繊維の繊維長が0.5mm未満となった場合)であっても、成形品の衝撃強度及び表面外観のいずれもが従来の繊維強化熱可塑性樹脂組成物を使用した場合に比して改善されるであろうと当業者が認識することができるものではない。
してみると、本件明細書の上記実施例に係る部分の記載では、本件発明が、各請求項記載の事項を具備することにより、上記解決課題を解決できると当業者が認識することはできないものである。
さらに、本願の出願日(優先日)前の当業者において、本件の各請求項に記載された事項を具備する場合につき、成形品の衝撃強度及び表面外観のいずれもが従来の繊維強化熱可塑性樹脂組成物に比して改善されるであろうと認識すべき技術常識が存するものとも認められない。
以上を総合すると、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、たとえ当業者の技術常識に照らしても、本件の各請求項に記載された事項を具備する場合に、本件発明に係る上記課題を解決できるであろうと当業者が認識することができるように記載したものということはできないから、本件発明1、6及び7並びにそれらを引用する本件発明2ないし5、8及び9が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものということはできない。(知財高裁平成17年(行ケ)10042号判決参照。)
したがって、本件の請求項1ないし9の記載は、いずれも特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同法同条同項(柱書)に規定する要件を満たしていない。」

2.検討
上記1.で示した理由について、訂正された本件請求項1ないし8の記載に対する当否を以下検討する。

(1)請求項5ないし8について
まず、請求項5ないし8の各記載につき検討すると、上記第4で示したとおりの理由により適法にされたものと認められる本件訂正により、請求項5では、引用する請求項1に記載された炭素繊維の平均繊維長並びに有機繊維の平均繊維長及び数平均繊維径に係る各事項に加えて、請求項5に訂正前に記載されていた有機繊維の材料種別及び熱可塑性樹脂の種別に係る事項を概ね実施例で使用されている範囲に限定されており、また、本件請求項6ないし8では、訂正前に記載されていた有機繊維の数平均繊維径に係る事項に加えて、炭素繊維及び有機繊維の平均繊維長に係る事項が付加されると共に、概ね実施例で使用されている範囲の有機繊維の材料種別及び熱可塑性樹脂の種別に係る事項についても付加されているから、請求項5ないし8に記載された事項で特定される発明は、明細書の発明の詳細な説明における実施例に係る記載により概ね裏付けられた範囲となったものと認められる。
そして、明細書の発明の詳細な説明における実施例(及び比較例)に係る対比からみて、当該実施例の「成形品」の場合に衝撃強度及び「成形品表面外観」が改善されている傾向にあることは一応確認できるのであるから、当該実施例を含めた本件訂正後の明細書(以下「本件訂正明細書」という。)の発明の詳細な説明に記載された事項に基づいて、請求項5ないし8に記載された事項を具備する発明が、本件発明に係る解決課題を解決できるであろうと当業者が認識することができるものと認めるのが自然である。
したがって、請求項5ないし8に記載された事項を具備する発明は、本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載したものということができ、特許法第36条第6項第1号に適合する。

(2)請求項1ないし4について
請求項1ないし4の各記載につき検討すると、請求項1ないし4は、上記本件訂正による訂正がされておらず、請求項1ないし4につき、先の取消理由通知(決定の予告)において示した取消理由が直ちに解消されているものではない。
しかるに、特許権者は、平成30年7月11日付け意見書において、本件訂正明細書の【0048】における「有機繊維(B)の数平均繊維径(d_(B))が35μm未満の場合、数平均繊維径(d_(B))が35μm以上の有機繊維と比較して、同じ重量でもより多い本数の有機繊維が成形品中に存在することになり、有機繊維同士の絡み合いを抑制しにくく、成形品の表面外観を向上させることができない。・・(中略)・・一方、有機繊維(B)の数平均繊維径(d_(B))が300μmを超えると、成形品表面で繊維の凹凸が目立つようになり、結果として表面外観が低下する。」との記載に基づいて、他の条件が同一の有機繊維において、繊維径の大小により繊維の絡み合いの発生が大きく左右され、繊維径が小さくなれば絡み合いが起きやすくなり、繊維が絡み合うことによりいわゆるだんご状となり空隙を持つ部分となって、成形収縮により凹部を形成する原因となり、当該「だんご状」部分が成形品の表面付近に存在することにより成形品の表面外観が悪化するとの繊維径の大小による絡み合いの発生に係る作用機序につき説明・主張している(意見書5/7頁第10行?第36行)。
そして、特許権者が主張する上記作用機序に係る説明・主張につき検討すると、特別な事情が存する場合(例えば、成形温度において有機繊維の破断、融解などが起きる場合、有機繊維が剛直で屈曲が起きない場合等)を除き、上記作用機序につき首肯できるものであって、当該作用機序を否定できるような技術常識が存するものとも認められないから、本件訂正明細書の【0048】の記載に接した当業者は、当該作用機序に基づき、有機繊維の繊維径を適当な範囲のものとすることにより、有機繊維同士の絡み合いを制御し、成形品の表面外観を向上させることができるであろうと認識することができるものと理解するのが自然である。
してみると、請求項1ないし4についても、本件訂正明細書の発明の詳細な説明において、各項に記載された事項を具備する発明が、本件発明に係る解決課題が解決されるであろうと当業者が認識できるように記載されたものということができるから、特許法第36条第6項第1号に適合するものと認められる。

(3)小括
以上のとおり、本件訂正後の請求項1ないし8の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、同法同条同項(柱書)に規定する要件を満たすものである。

3.まとめ
よって、本件訂正後の請求項1ないし8に係る記載については、当審が通知した取消理由は理由がない。

II.申立人が主張する取消理由について
申立人が主張する上記取消理由につき、再度検討する。

1.取消理由1について
申立人が主張する取消理由1は、当審が通知した取消理由と同旨のものと認められるところ、上記I.で説示した理由により、本件訂正後の請求項1ないし8に係る記載については、理由がない。

なお、申立人は、平成30年8月27日付けの意見書において、取消理由1につき、要約すると、本件訂正明細書の発明の詳細な説明においては、限られた繊維及び樹脂を用いて得た特殊形態の成形材料を中間材料として用い、それを更に限られた条件にて射出成形した成形品についてのみ、効果が確認されているに過ぎず(「指摘事項1」及び「指摘事項2」)、各成分の種別(特に有機繊維の種別、引張破断強度、密度等)、繊維の分散度及び成形方法などにより、効果が得られない場合があることが想起できる(「指摘事項2」及び「指摘事項3」)から、本件の請求項1ないし8の記載では、いわゆるサポート要件に適合しない旨主張している(意見書第2頁?第34頁中段)。
しかしながら、上記I.でも説示したとおり、請求項1ないし4については、特に有機繊維の選択(繊維径)による効果に至る作用機序につき明確化され、その作用機序を否定するような技術常識等が存するものとは認められず、また、請求項5ないし8については、本件訂正明細書の実施例等で効果の発現の有無につき裏付けられるものと評価できる範囲まで、訂正により減縮されているから、請求項1ないし8の記載は、いわゆるサポート要件に適合すると認められるべきものであって、上記申立人の主張は、当該認定を覆すことができるような具体的挙証(追試結果等)又は技術説明を伴うものではなく、積極的にサポート要件に適合しないと評価すべきものでもないから、採用することができず、上記判断の結果を左右するものではない。

2.取消理由2について

(1)甲1ないし5に記載された事項及び甲1及び甲2に記載された発明
以下、上記取消理由につき検討するにあたり、当該取消理由2は特許法第29条に係るものであるから、上記甲1ないし5に記載された事項を確認・摘示するとともに、甲1及び甲2に記載された発明の認定を行う。

ア.甲1

(ア)甲1に記載された事項
上記甲1には、申立人が申立書第17頁下から第5行ないし第22頁第9行で指摘したとおりの事項を含めて、【特許請求の範囲】には、「炭素繊維(A)、引張破断伸度が10?50%である有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(C)および難燃剤(D)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5?45重量部、引張破断伸度が10?50%である有機繊維(B)を1?45重量部、熱可塑性樹脂(C)を20?93重量部、難燃剤(D)を1?20重量部含む繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。」(【請求項1】)、「さらに、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(E)を、炭素繊維(A)、引張破断伸度が10?50%である有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(C)および難燃剤(D)の合計100重量部に対して1?20重量部含む請求項1?3のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。」(【請求項4】)、「炭素繊維(A)と引張破断伸度が10?50%である有機繊維(B)を含む繊維束(F)に、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(E)を含浸させてなる複合体(G)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含み、複合体(G)内および/またはその外側に難燃剤(D)を含み、繊維束(F)断面において炭素繊維(A)と引張破断伸度が10?50%である有機繊維(B)が偏在し、繊維束(F)の長さと繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の長さが実質的に同じである請求項4に記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。」(【請求項6】)、「請求項1?7のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を成形して得られる繊維強化熱可塑性樹脂成形品であって、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記炭素繊維(A)の平均繊維長(LA)が0.3?1.5mmであり、かつ、炭素繊維(A)の始点から終点までの平均繊維端部間距離(DA)と平均繊維長(LA)が下記式[1]を満たし、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記引張破断伸度が10?50%である有機繊維(B)の平均繊維長(LB)が1.5?4mmであり、かつ、有機繊維(B)の始点から終点までの平均繊維端部間距離(DB)と平均繊維長(LB)が下記式[2]を満たす繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
0.9×L_(A)≦D_(A)≦L_(A) [1]
0.1×L_(B)≦D_(B)≦0.9×L_(B) [2]」(【請求項8】)
がそれぞれ記載されており、【発明の詳細な説明】には、有機繊維(B)としては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂など種々の樹脂からなる繊維が使用できるとともに、熱可塑性樹脂(C)の成形温度(溶融温度)に対して有機繊維(B)の溶融温度が30℃以上高いものを使用すること(【0033】)及び実施例として「テトロン2200T-480-705M」なる商品名の単糸繊度4.6dtex、融点260℃のポリエステル繊維を使用した場合(実施例3)につき記載されている(【0123】?【0127】、【0134】、【0137】、【0149】及び【0150】)が記載されている。

(イ)甲1に記載された発明
上記甲1には、上記(ア)の記載事項からみて、
「炭素繊維(A)、引張破断伸度が10?50%である有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(C)および難燃剤(D)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5?45重量部、引張破断伸度が10?50%である有機繊維(B)を1?45重量部、熱可塑性樹脂(C)を20?93重量部、難燃剤(D)を1?20重量部含み、さらに、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(E)を、炭素繊維(A)、引張破断伸度が10?50%である有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(C)および難燃剤(D)の合計100重量部に対して1?20重量部含む繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であって、炭素繊維(A)と引張破断伸度が10?50%である有機繊維(B)を含む繊維束(F)に、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(E)を含浸させてなる複合体(G)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含み、複合体(G)内および/またはその外側に難燃剤(D)を含み、繊維束(F)断面において炭素繊維(A)と引張破断伸度が10?50%である有機繊維(B)が偏在し、繊維束(F)の長さと繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の長さが実質的に同じである成形材料。」
に係る発明(以下「甲1発明1」という。)及び
「甲1発明1の繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を成形して得られる繊維強化熱可塑性樹脂成形品であって、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記炭素繊維(A)の平均繊維長(L_(A))が0.3?1.5mmであり、かつ、炭素繊維(A)の始点から終点までの平均繊維端部間距離(D_(A))と平均繊維長(L_(A))が下記式[1]を満たし、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記引張破断伸度が10?50%である有機繊維(B)の平均繊維長(L_(B))が1.5?4mmであり、かつ、有機繊維(B)の始点から終点までの平均繊維端部間距離(D_(B))と平均繊維長(L_(B))が下記式[2]を満たす繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
0.9×L_(A)≦D_(A)≦L_(A) [1]
0.1×L_(B)≦D_(B)≦0.9×L_(B) [2]」
に係る発明(以下「甲1発明2」という。)が記載されているものといえる。

イ.甲2

(ア)甲2に記載された事項
上記甲2には、申立人が申立書第22頁下段(【表3】)ないし第27頁第1行で指摘したとおりの事項を含めて、「請求の範囲」には、「炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5?45重量部、有機繊維(B)を1?45重量部、熱可塑性樹脂(C)を20?94重量部含む繊維強化熱可塑性樹脂成形品であって、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記炭素繊維(A)の平均繊維長(L_(A))が0.3?1.5mmであり、かつ、炭素繊維(A)の始点から終点までの平均繊維端部間距離(D_(A))と平均繊維長(L_(A))が下記式[1]を満たし、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記有機繊維(B)の平均繊維長(L_(B))が1.5?4mmであり、かつ、有機繊維(B)の始点から終点までの平均繊維端部間距離(D_(B))と平均繊維長(L_(B))が下記式[2]を満たす繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
0.9×L_(A)≦D_(A)≦L_(A) [1]
0.1×L_(B)≦D_(B)≦0.9×L_(B) [2]」([請求項1])、
「前記有機繊維(B)がポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアリーレンスルフィド繊維およびフッ素樹脂繊維からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1?4のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形品。」([請求項5])、「炭素繊維(A)、有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(C)および200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5?45重量部、有機繊維(B)を1?45重量部、熱可塑性樹脂(C)を20?93重量部、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)を1?20重量部含む繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であって、炭素繊維(A)と有機繊維(B)を含む繊維束(E)に化合物(D)を含浸させてなる複合体(F)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含み、繊維束(E)断面において炭素繊維(A)と有機繊維(B)が偏在し、繊維束(E)の長さと繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の長さが実質的に同じである繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。」([請求項7])、「炭素繊維(A)、熱可塑性樹脂(C)および200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5?45重量部、熱可塑性樹脂(C)を94?35重量部、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)を1?20重量部含み、炭素繊維(A)に化合物(D)を含浸させてなる複合体(F)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含み、炭素繊維(A)の長さと炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の長さが実質的に同じである炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(X)と、有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(G)および200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(G)より低い化合物(H)の合計100重量部に対し、有機繊維(B)を1?45重量部、熱可塑性樹脂(G)を94?35重量部、化合物(H)を1?20重量部含む有機繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(Y)とを含む繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。」([請求項10])及び「前記有機繊維(B)がポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアリーレンスルフィド繊維およびフッ素樹脂繊維からなる群より選択される少なくとも1種である請求項7?17のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。」([請求項18])がそれぞれ記載されており、「明細書」には、有機繊維(B)としては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂など種々の樹脂からなる繊維が使用できるとともに、熱可塑性樹脂(C)の成形温度(溶融温度)に対して有機繊維(B)の溶融温度が30℃以上高いものを使用すること([0039])及び実施例として「テトロン2200T-480-705M」なる商品名の単糸繊度4.6dtex、融点260℃のポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)繊維を使用した場合(実施例11)につき記載されている([0124]?[0128]及び[0138][表1]ないし[表3])が記載されている。

(イ)甲2に記載された発明
上記甲2には、上記(ア)の記載からみて、
「炭素繊維(A)、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアリーレンスルフィド繊維およびフッ素樹脂繊維からなる群より選択される少なくとも1種の有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5?45重量部、有機繊維(B)を1?45重量部、熱可塑性樹脂(C)を20?94重量部含む繊維強化熱可塑性樹脂成形品であって、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記炭素繊維(A)の平均繊維長(L_(A))が0.3?1.5mmであり、かつ、炭素繊維(A)の始点から終点までの平均繊維端部間距離(D_(A))と平均繊維長(L_(A))が下記式[1]を満たし、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記有機繊維(B)の平均繊維長(L_(B))が1.5?4mmであり、かつ、有機繊維(B)の始点から終点までの平均繊維端部間距離(D_(B))と平均繊維長(L_(B))が下記式[2]を満たす繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
0.9×L_(A)≦D_(A)≦L_(A) [1]
0.1×L_(B)≦D_(B)≦0.9×L_(B) [2]」
に係る発明(以下「甲2発明1」という。)、
「炭素繊維(A)、有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(C)および200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5?45重量部、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアリーレンスルフィド繊維およびフッ素樹脂繊維からなる群より選択される少なくとも1種である有機繊維(B)を1?45重量部、熱可塑性樹脂(C)を20?93重量部、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)を1?20重量部含む繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であって、炭素繊維(A)と有機繊維(B)を含む繊維束(E)に化合物(D)を含浸させてなる複合体(F)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含み、繊維束(E)断面において炭素繊維(A)と有機繊維(B)が偏在し、繊維束(E)の長さと繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の長さが実質的に同じである繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。」
に係る発明(以下「甲2発明2」という。)及び
「炭素繊維(A)、熱可塑性樹脂(C)および200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5?45重量部、熱可塑性樹脂(C)を94?35重量部、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)を1?20重量部含み、炭素繊維(A)に化合物(D)を含浸させてなる複合体(F)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含み、炭素繊維(A)の長さと炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の長さが実質的に同じである炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(X)と、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアリーレンスルフィド繊維およびフッ素樹脂繊維からなる群より選択される少なくとも1種である有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(G)および200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(G)より低い化合物(H)の合計100重量部に対し、有機繊維(B)を1?45重量部、熱可塑性樹脂(G)を94?35重量部、化合物(H)を1?20重量部含む有機繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(Y)とを含む繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。」
に係る発明(以下「甲2発明3」という。)が記載されているものといえる。

ウ.甲3ないし甲5に記載された事項

(ア)甲3に記載された事項
上記甲3には、申立人が申立書第27頁第4行ないし第19行で指摘したとおりの事項を含めて、「a)単糸繊維径が20?100μm、繊維長が0.8?15mmであること」との「要件を満足する繊維を含むことを特徴とする繊維強化樹脂複合体。」(【請求項1】)、「本発明の繊維強化樹脂複合体に使用する(補強材)繊維の繊維長は0.8?15mm」「で、繊維径は20?100μm」「のものを用いる必要があ」り、「繊維の繊維長が0.8mm未満や繊維径が100μmを超える場合は、繊維が均一に分散するものの、樹脂との接着が不足して強度や耐久性に乏しくな」り、「逆に繊維長が15mmを超えたり、繊維径が20μm未満であると、繊維同士の絡まりが発生し、樹脂中で繊維が均一に存在せず十分な補強効果が得られない」こと(【0011】)及び「上記繊維強化樹脂複合体に使用する繊維としては、カーボン繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、鋼繊維、アスベスト繊維等の無機繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリアリレート繊維、ポリベンズオキサゾール(PBO)繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、ポリケトン繊維、アクリル繊維、塩化ビニル繊維、セルロース繊維、パルプ繊維等の有機繊維のいずれをも使用することができる」こと(【0016】)がそれぞれ記載されている。

(イ)甲4に記載された事項
上記甲4には、申立人が申立書第27頁第22行ないし第26行で指摘したとおりの事項を含めて、「少なくとも4.0GPaの引張強度と少なくとも140GPaの初期引張弾性率を有し、且つボイド直径が35Å以下のポリベンザゾール繊維を主たる補強材としたことを特徴とする繊維強化複合材料。」(【請求項1】)において、「ポリベンザゾール繊維の単糸繊度に特に制限はないが通常0.3?10デニールの範囲が好ましい。単糸繊度を下げて繊維本数を多くすると複合材にした時に外力が分散して衝撃強度は向上する」こと及び「他方、単糸繊度が太くすると紡出糸中のポリリン酸の除去に要する時間が長くなり糸条洗浄装置の長大化と糸掛け操作性の低下につながる」と共に「同一ヤーン繊度の場合、単糸繊度を太くすれば繊維本数は減ることになり複合材にした時に外力は分散しにくくなり衝撃強度が低下する」こと(【0010】)が記載されている。

(ウ)甲5に記載された事項
上記甲5には、申立人が申立書第28頁第3行ないし第6行で指摘したとおりの事項を含めて、「プロピレン系樹脂である」「オレフィン系樹脂、」「ポリエステル繊維またはポリアミド繊維である」「有機長繊維、炭素繊維を含有して成り、オレフィン系樹脂100重量部に対する、有機長繊維の割合が10?150重量部、炭素繊維の割合が0.1?30重量部であることを特徴とする長繊維強化複合樹脂組成物。」(【請求項1】、【請求項2】及び【請求項7】)において、「有機長繊維の繊維径が太すぎると成形品のアイゾット衝撃強度が低下する」「一方、繊維径が細すぎても何ら問題はなく、ナノサイズの繊維まで使用可能と思われ、成形品の用途によっては良好な結果をもたらす」こと(【0020】)が記載されている。

(2)対比・検討
以下、事案に鑑み、まず、本件発明6及び7(並びに本件発明8)につき、各甲号証に記載された発明と個々に対比・検討し、さらに本件発明1(及び本件発明2ないし5)につき対比・検討する。

ア.本件発明6ないし8について

(ア)甲1発明1に基づく対比・検討

(a)対比
本件発明6と甲1発明1とを対比すると、下記の相違点1で明らかに相違し、その余で実質的に一致するものと認められる。
また、本件発明7と甲1発明1とを対比すると、下記相違点1’に加えて下記相違点2で明らかに相違し、その余で一致するものと認められる。

相違点1:本件発明6では「前記有機繊維(B)の数平均繊維径(d_(B))が35?300μmであり」、「繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記炭素繊維(A)の平均繊維長(L_(A))が0.3?3mmであり、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記有機繊維(B)の平均繊維長(L_(B))が0.5?5mmである」のに対して、甲1発明1では、「成形材料」中の上記「有機繊維(B)の数平均繊維径(d_(B))」並びに「繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における・・炭素繊維(A)の平均繊維長(L_(A))」及び「有機繊維(B)の平均繊維長(L_(B))」につき特定されていない点
相違点1’:本件発明7では「前記有機繊維(B)の数平均繊維径(d_(B))が35?300μmである」及び「繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記炭素繊維(A)の平均繊維長(L_(A))が0.3?3mmであり、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記有機繊維(B)の平均繊維長(L_(B))が0.5?5mmである」のに対して、甲1発明1では、「成形材料(Y)」中の上記「有機繊維(B)の数平均繊維径(d_(B))」並びに「繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における・・炭素繊維(A)の平均繊維長(L_(A))」及び「有機繊維(B)の平均繊維長(L_(B))」につき特定されていない点
相違点2:「成形材料」につき、本件発明7では「炭素繊維(A)・・、熱可塑性樹脂(C)・・、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)を・・含み、炭素繊維(A)に化合物(D)を含浸させてなる複合体(G)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含み、炭素繊維(A)の長さと炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の長さが実質的に同じである炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(X)と、有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(H)および200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(H)より低い化合物(I)・・を・・含み、前記有機繊維(B)の数平均繊維径(d_(B))が35?300μmである有機繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(Y)とを含む」のに対して、甲1発明1では、「炭素繊維(A)と引張破断伸度が10?50%である有機繊維(B)を含む繊維束(F)に、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(E)を含浸させてなる複合体(G)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含み、複合体(G)内および/またはその外側に難燃剤(D)を含み、繊維束(F)断面において炭素繊維(A)と引張破断伸度が10?50%である有機繊維(B)が偏在し、繊維束(F)の長さと繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の長さが実質的に同じである」点

(b)検討

(b-1)相違点1及び1’について
上記相違点1及び1’につき併せて検討すると、上記(1)ウ.で示した甲3ないし甲5にも記載されているとおり、繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の技術分野において、強化繊維である有機繊維の繊維径につき、その成形材料から形成される成形品の機械的強度などに係る所望に応じて、繊維径を調節すべきであることは、当業者の技術常識であると理解できるものの、本件発明においては、当該繊維径を「35?300μm」なる特定の範囲とすることにより、成形品の機械的強度のみならず、特に35μm未満の場合(本願訂正明細書の「比較例1」及び「比較例7」参照。)に比して表面外観につき改善されているのであるから、甲1発明1において、成形材料における有機繊維の繊維径につき、上記「35?300μm」なる特定の範囲、特に下限を「35μm」とすることは、上記当業者の技術常識に照らしたとしても、当業者が適宜なし得ることということはできない。

(b-2)小括
してみると、上記相違点1又は1’は、たとえ甲2ないし甲5の記載に照らしたとしても、甲1発明1において、当業者が適宜なし得たものということはできない。

(c)甲1発明1に基づく対比・検討のまとめ
したがって、上記相違点2につき検討するまでもなく、本件発明6又は7は、甲1発明1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(イ)甲2発明2又は3に基づく対比・検討

(a)対比
上記甲2発明2と本件発明6及び甲2発明3と本件発明7とをそれぞれ対比すると、いずれも下記の相違点1’’で明らかに相違し、その余で実質的に一致するものと認められる。

相違点1’’:本件発明6及び7では「前記有機繊維(B)の数平均繊維径(d_(B))が35?300μmであ」る及び「繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記炭素繊維(A)の平均繊維長(L_(A))が0.3?3mmであり、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記有機繊維(B)の平均繊維長(L_(B))が0.5?5mmであ」るのに対して、甲2発明2又は3では、上記「有機繊維(B)の数平均繊維径(d_(B))」並びに「繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における・・炭素繊維(A)の平均繊維長(L_(A))」及び「有機繊維(B)の平均繊維長(L_(B))」につき特定されていない点

(b)検討
上記相違点1’’につき検討すると、上記(1)ウ.で示した甲3ないし甲5にも記載されているとおり、繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の技術分野において、強化繊維である有機繊維の繊維径につき、その成形材料から形成される成形品の機械的強度などに係る所望に応じて、繊維径を調節すべきであることは、当業者の技術常識であると理解できるものの、本件発明においては、当該繊維径を「35?300μm」なる特定の範囲とすることにより、成形品の機械的強度のみならず、特に35μm未満の場合(本願訂正明細書の「比較例1」及び「比較例7」参照。)に比して表面外観につき改善されているのであるから、甲2発明2又は3において、成形材料における有機繊維の繊維径につき、上記「35?300μm」なる特定の範囲、特に下限を「35μm」とすることは、上記当業者の技術常識に照らしたとしても、当業者が適宜なし得ることということはできない。
以上のとおり、上記相違点1’’は、たとえ甲1及び甲3ないし甲5の記載に照らしたとしても、甲2発明2又は3において、当業者が適宜なし得たものということはできない。

(c)甲2発明2又は3に基づく対比・検討のまとめ
したがって、本件発明6又は7は、甲2発明2又は3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(ウ)本件発明6又は7についての検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明6又は7及び同各発明を引用する本件発明8は、甲1又は2に記載された発明あるいは同各発明に甲3ないし5に記載された当業者の技術常識を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

イ.本件発明1ないし5について

(ア)甲1発明2に基づく対比・検討

(a)対比
本件発明1と甲1発明2とを対比すると、下記の相違点3でのみ明らかに相違し、その余で実質的に一致するものと認められる。

相違点3:本件発明1では「有機繊維(B)の・・数平均繊維径(d_(B))が35?300μmである」のに対して、甲1発明2では「有機繊維(B)の数平均繊維径(d_(B))」につき特定されていない点

(b)検討
上記相違点3につき検討すると、上記(1)ウ.で示した甲3ないし甲5にも記載されているとおり、繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の技術分野において、強化繊維である有機繊維の繊維径につき、その成形材料から形成される成形品の機械的強度などに係る所望に応じて、繊維径を調節すべきであることは、当業者の技術常識であると理解できるものの、本件発明においては、当該繊維径を「35?300μm」なる特定の範囲とすることにより、成形品の機械的強度のみならず、特に35μm未満の場合(本願訂正明細書の「比較例1」及び「比較例7」参照。)に比して表面外観につき改善されているのであるから、甲1発明2において、成形材料における有機繊維の繊維径につき、上記「35?300μm」なる特定の範囲、特に下限を「35μm」とすることは、上記当業者の技術常識に照らしたとしても、当業者が適宜なし得ることということはできない。
なお、甲2に記載された事項に照らしても、本件発明1の上記相違点3における「有機繊維(B)の・・数平均繊維径(d_(B))が35?300μmである」との事項を想到すべき事項が存するものとは認められない。

(b-2)小括
してみると、上記相違点3は、たとえ甲2ないし甲5の記載に照らしたとしても、甲1発明2において、当業者が適宜なし得たものということはできない。

(c)甲1発明2に基づく対比・検討のまとめ
したがって、本件発明1は、甲1発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(イ)甲2発明1に基づく対比・検討

(a)対比
上記甲2発明1と本件発明1とを対比すると、下記の相違点3’で明らかに相違し、その余で実質的に一致するものと認められる。

相違点3’:本件発明1では「有機繊維(B)の・・数平均繊維径(d_(B))が35?300μmである」のに対して、甲2発明1では「有機繊維(B)の数平均繊維径(d_(B))」につき特定されていない点

(b)検討
上記相違点3’につき検討すると、上記(1)ウ.で示した甲3ないし甲5にも記載されているとおり、繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の技術分野において、強化繊維である有機繊維の繊維径につき、その成形材料から形成される成形品の機械的強度などに係る所望に応じて、繊維径を調節すべきであることは、当業者の技術常識であると理解できるものの、本件発明においては、当該繊維径を「35?300μm」なる特定の範囲とすることにより、成形品の機械的強度のみならず、特に35μm未満の場合(本願訂正明細書の「比較例1」及び「比較例7」参照。)に比して表面外観につき改善されているのであるから、甲2発明1において、成形材料における有機繊維の繊維径につき、上記「35?300μm」なる特定の範囲、特に下限を「35μm」とすることは、上記当業者の技術常識に照らしたとしても、当業者が適宜なし得ることということはできない。
なお、甲1に記載された事項に照らしても、本件発明1の上記相違点3’における「有機繊維(B)の・・数平均繊維径(d_(B))が35?300μmである」との事項を想到すべき事項が存するものとは認められない。
以上のとおり、上記相違点3’は、たとえ甲1及び甲3ないし甲5の記載に照らしたとしても、甲2発明1において、当業者が適宜なし得たものということはできない。

(c)甲2発明1に基づく対比・検討のまとめ
したがって、本件発明1は、甲2発明1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(ウ)本件発明1ないし5についての検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1及び同発明を引用する本件発明2ないし5は、甲1又は2に記載された発明あるいは同各発明に甲3ないし5に記載された当業者の技術常識を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(3)取消理由2についての検討のまとめ
以上のとおり、本件発明1ないし8は、甲1発明1及び2並びに甲2発明1ないし3、すなわち、甲1に記載された発明並びに甲2に記載された発明に基づいて、たとえ甲3ないし甲5に記載された当業者の技術常識を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものということはできないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。
よって、申立人が主張する取消理由2は、理由がない。

3.新たな取消理由について
申立人は、平成30年8月27日付けの意見書において、本件訂正後の請求項6ないし8の記載では、同各項記載の発明が明確でないとして、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないとする旨(いわゆるクレームの明確性違反)の新たな取消理由につき主張している(意見書第34頁第17行ないし第35頁第10行)ので、念のため検討する。
申立人が主張する上記理由は、要約すると、成形後の成形品中における炭素繊維及び有機繊維の各繊維長は、成形前の成形材料における各繊維長及び成形時の成形条件などにより変動するものであるところ、上記本件訂正で請求項6及び7にそれぞれ加入された「繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記炭素繊維(A)の平均繊維長(L_(A))が0.3?3mmであり、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記有機繊維(B)の平均繊維長(L_(B))が0.5?5mmである」との事項が、成形前の「成形材料」に係る本件発明6又は7のいかなる技術事項を特定するのか不明であるという点に基づくものと認められる。
しかるに、成形前の「成形材料」に係る本件発明6又は7について、上記「繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記炭素繊維(A)の平均繊維長(L_(A))が0.3?3mmであり、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記有機繊維(B)の平均繊維長(L_(B))が0.5?5mmである」との事項を訂正により加入することは、請求項6又は7に記載された他の事項を具備する「成形材料」につき、当業界慣用の成形方法により成形する場合、その成形方法の種別・条件等を問わず、当然に当該成形品における繊維長に係る各事項を具備する「成形材料」に意図的に限定したものと理解するのが自然であり、例えば、当業界慣用の成形方法により成形する場合であっても、その成形方法の種別・条件等により、上記成形品における繊維長に係る各事項を具備するかしないかが変化するような「成形材料」については、除外されたものと理解するのが自然である。
してみると、本件の請求項6又は7並びに同各項を引用する請求項8の記載では、同各項に記載された事項で特定される発明(本件発明6ないし8)が明確であり、特に明確でないとすべき理由が存するものとも認められない。
したがって、申立人が主張する上記新たな取消理由は、理由がない。

4.申立人が主張する取消理由に係る検討のまとめ
以上のとおり、申立人が主張する上記取消理由1及び2並びに上記新たな取消理由につき、いずれも理由がない。

III.当審の判断のまとめ
以上のとおり、申立人が主張する取消理由及び当審が通知した取消理由は、いずれも理由がないから、本件訂正後の請求項1ないし8に係る発明についての特許を取り消すことはできない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、申立人が主張する理由及び提示した証拠によっては、本件の請求項1ないし8に係る発明についての特許を取り消すことができない。
また、ほかに本件の請求項1ないし8に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件の請求項9に対する異議の申立ては、適法な訂正によりその内容が全て削除されたから、申立ての対象を欠くものであり、不適法なものであるから、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
繊維強化熱可塑性樹脂成形品および繊維強化熱可塑性樹脂成形材料
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維と有機繊維を含む繊維強化熱可塑性樹脂成形品および繊維強化熱可塑性樹脂成形材料に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維と熱可塑性樹脂を含む成形品は、軽量で優れた力学特性を有するために、スポーツ用品用途、航空宇宙用途および一般産業用途などに広く用いられている。これらの強化繊維としては、アルミニウム繊維やステンレス繊維などの金属繊維、シリコンカーバイド繊維、炭素繊維などの無機繊維、アラミド繊維やポリパラフェニレンベンズオキサゾール(PBO)繊維などの有機繊維などが挙げられる。比強度、比剛性および軽量性のバランスの観点から炭素繊維が好適であり、その中でもポリアクリロニトリル系炭素繊維が好適に用いられる。
【0003】
炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形品の力学特性を高める手段としては、例えば、炭素繊維の含有量を増やす方法が挙げられるが、炭素繊維含有量を増やすと、炭素繊維が炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形品の中で、不均一に存在しやすくなるため、衝撃強度の低下を引き起こすことが多い。そこで、炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形品の力学特性を高める別の手段として、例えば、炭素繊維に加え、柔軟性と優れた破断伸度を持つ有機繊維を加える方法が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
機械的強度に優れ、導電性を付与した長繊維強化複合樹脂組成物として、オレフィン系樹脂、有機長繊維、炭素繊維を含有してなる長繊維強化複合樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、耐衝撃性能に優れた繊維強化プラスチックとして、強化繊維と熱可塑性樹脂とからなる繊維強化プラスチックであって、強化繊維が炭素繊維および耐熱有機繊維からなる繊維強化プラスチックが提案されている(例えば、特許文献2参照)。また、衝撃強度および低温衝撃強度に優れる繊維強化熱可塑性樹脂成形品として、炭素繊維、有機繊維および熱可塑性樹脂を含む繊維強化熱可塑性樹脂成形品であって、炭素繊維と有機繊維の平均繊維長がそれぞれ特定の範囲にあり、さらに、炭素繊維と有機繊維の平均繊維端部間距離と平均繊維長が特定の関係にある繊維強化熱可塑性樹脂成形品が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2009-114332号公報
【特許文献2】特開2014-62143号公報
【特許文献3】国際公開第2014/098103号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1?2に記載の技術を用いて得られる成形品は、衝撃強度は向上するものの、有機繊維を添加することにより成形品の表面外観が低下する課題があった。また、特許文献3に記載の技術を用いて得られる成形品は、衝撃強度が大きく向上し、繊維長を特定範囲にすることによって表面外観も改善されている。しかしながら、近年様々な用途への適用拡大に伴い、部材、部品への衝撃強度の確保に加えて、さらなる表面外観向上が期待されている。
【0006】
本発明は従来技術の有する上記課題に鑑み、衝撃強度および表面外観に優れる繊維強化熱可塑性樹脂成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂成形品は以下の構成からなる。すなわち、
炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5?45重量部、有機繊維(B)を1?45重量部、熱可塑性樹脂(C)を10?94重量部含む繊維強化熱可塑性樹脂成形品であって、
繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記炭素繊維(A)の平均繊維長(L_(A))が0.3?3mmであり、
繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記有機繊維(B)の平均繊維長(L_(B))が0.5?5mmであり、数平均繊維径(d_(B))が35?300μmである繊維強化熱可塑性樹脂成形品、である。
【0008】
また、本発明の成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料は、次のいずれかの構成を有する。すなわち、
炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5?45重量部、有機繊維(B)を1?45重量部、熱可塑性樹脂(C)を10?94重量部、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)を1?25重量部含む成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であって、前記有機繊維(B)の数平均繊維径(d_(B))が35?300μmであり、炭素繊維(A)と有機繊維(B)を含む繊維束(E)に化合物(D)を含浸させてなる複合体(F)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含み、繊維束(E)断面において炭素繊維(A)と有機繊維(B)が偏在し、繊維束(E)の長さと繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の長さが実質的に同じである成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であり、前記有機繊維(B)がポリエステル繊維であり、前記熱可塑性樹脂(C)がポリオレフィン樹脂およびポリカーボネート樹脂より選択される少なくとも1種であり、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記炭素繊維(A)の平均繊維長(L_(A))が0.3?3mmであり、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記有機繊維(B)の平均繊維長(L_(B))が0.5?5mmである成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料、または、
炭素繊維(A)、熱可塑性樹脂(C)および200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5?45重量部、熱可塑性樹脂(C)を35?94重量部、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)を1?25重量部含み、炭素繊維(A)に化合物(D)を含浸させてなる複合体(G)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含み、炭素繊維(A)の長さと炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の長さが実質的に同じである炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(X)と、有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(H)および200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(H)より低い化合物(I)の合計100重量部に対し、有機繊維(B)を1?45重量部、熱可塑性樹脂(H)を35?94重量部、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(I)を1?25重量部含み、前記有機繊維(B)の数平均繊維径(d_(B))が35?300μmである有機繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(Y)とを含む成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であり、前記有機繊維(B)がポリエステル繊維であり、前記熱可塑性樹脂(C)がポリオレフィン樹脂およびポリカーボネート樹脂より選択される少なくとも1種であり、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記炭素繊維(A)の平均繊維長(L_(A))が0.3?3mmであり、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記有機繊維(B)の平均繊維長(L_(B))が0.5?5mmである成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料、である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂成形品は、補強効果が高く、衝撃強度および表面外観に優れる。本発明の繊維強化熱可塑性樹脂成形品は、電気・電子機器、OA機器、家電機器、筐体および自動車の部品などに極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】繊維束(E)断面において、炭素繊維(A)が有機繊維(B)を内包している形態の、成形材料断面を示す模式図である。
【図2】繊維束(E)断面において、有機繊維(B)が炭素繊維(A)を内包している形態の、成形材料断面を示す模式図である。
【図3】繊維束(E)断面において、炭素繊維(A)の束と有機繊維(B)の束がある境界部によって分けられた状態でそれぞれ存在している形態の、成形材料断面を表す模式図である。
【図4】炭素繊維(A)および有機繊維(B)の繊維径を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂成形品(以下、「成形品」という場合がある)は、少なくとも炭素繊維(A)、有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(C)を含む。本発明の成形品は、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)よりも低い化合物(D)をさらに含むことが好ましい。
【0012】
炭素繊維(A)は、連続した強化繊維束であり、強化材として成形品に高い力学特性を付与するものである。有機繊維(B)も連続した強化繊維束であり、柔軟性を持つことが特徴である。有機繊維(B)は柔軟性を有することから、成形時に折れにくく、湾曲して長い繊維長を保ったまま成形品中に存在しやすい。そのため、剛直でもろく、絡まりにくく折れやすい炭素繊維(A)のみから構成される繊維束に比べて、有機繊維(B)を含む繊維束(E)を用いることにより、強化材として成形品に高い衝撃強度を付与することができる。熱可塑性樹脂(C)は比較的高粘度の、例えば靭性などの物性が高いマトリックス樹脂であり、成形品において炭素繊維(A)および有機繊維(B)を強固に保持する役割をもつ。
【0013】
本発明の成形品は、炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5?45重量部(5重量部以上45重量部以下)含有する。炭素繊維(A)の含有量が5重量部未満であると、成形品の曲げ特性および衝撃強度が低下する。炭素繊維(A)の含有量は10重量部以上が好ましい。また、炭素繊維(A)の含有量が45重量部を超えると、成形品中の炭素繊維(A)の分散性が低下し、成形品の衝撃強度および表面外観の低下を引き起こすことが多い。炭素繊維(A)の含有量は30重量部以下が好ましい。
【0014】
炭素繊維(A)の種類として特に制限はないが、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、気相成長系炭素繊維、これらの黒鉛化繊維などが例示される。PAN系炭素繊維はポリアクリロニトリル繊維を原料とする炭素繊維である。ピッチ系炭素繊維は石油タールや石油ピッチを原料とする炭素繊維である。セルロース系炭素繊維はビスコースレーヨンや酢酸セルロースなどを原料とする炭素繊維である。気相成長系炭素繊維は炭化水素などを原料とする炭素繊維である。これらのうち、強度と弾性率のバランスに優れる点で、PAN系炭素繊維が好ましい。また、導電性を付与するために、ニッケル、銅またはイッテルビウムなどの金属を被覆した炭素繊維を用いることもできる。
【0015】
炭素繊維(A)としては、X線光電子分光法により測定される繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度比[O/C]が、0.05?0.5であるものが好ましい。表面酸素濃度比が0.05以上であることにより、炭素繊維表面に十分な官能基量を確保でき、より強固な接着性を得ることができることから、曲げ強度および引張強度がより向上する。0.08以上がより好ましく、0.1以上がさらに好ましい。また、表面酸素濃度比の上限には特に制限はないが、炭素繊維の取り扱い性、生産性のバランスから、一般的に0.5以下が好ましい。表面酸素濃度比は、0.4以下がより好ましく、0.3以下がさらに好ましい。
【0016】
炭素繊維(A)の表面酸素濃度比は、X線光電子分光法により、次の手順にしたがって求める。まず、炭素繊維表面にサイジング剤などが付着している場合には、溶剤で炭素繊維表面に付着しているサイジング剤などを除去する。炭素繊維束を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べて、測定サンプルとする。測定サンプルをX線光電子分光装置の試料チャンバーにセットし、試料チャンバー中を1×10^(-8)Torrに保ち、X線源としてAlKα1、2を用いて、測定を行う。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC_(1s)の主ピークの運動エネルギー値(K.E.)を1,202eVに合わせる。K.E.として1,191?1,205eVの範囲で直線のベースラインを引くことによりC_(1s)ピーク面積を求める。K.E.として947?959eVの範囲で直線のベースラインを引くことによりO_(1s)ピーク面積を求める。
【0017】
ここで、表面酸素濃度比は、上記O_(1s)ピーク面積とC_(1s)ピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出する。X線光電子分光装置として、国際電気(株)製モデルES-200を用いる場合には、感度補正値を1.74とする。
【0018】
表面酸素濃度比[O/C]を0.05?0.5に調整する手段としては、特に限定されるものではないが、例えば、電解酸化処理、薬液酸化処理および気相酸化処理などの手法を挙げることができ、中でも電解酸化処理が好ましい。
【0019】
炭素繊維(A)を強化繊維束とした場合の単繊維数には、特に制限はないが、100?350,000本が好ましく、生産性の観点から、20,000?100,000本がより好ましい。
【0020】
炭素繊維(A)とマトリックス樹脂である熱可塑性樹脂(C)の接着性を向上する等の目的で、炭素繊維(A)は表面処理されたものであってもかまわない。表面処理の方法としては、例えば、電解処理、オゾン処理、紫外線処理等を挙げることができる。
【0021】
炭素繊維(A)の毛羽立ちを防止したり、炭素繊維(A)とマトリックス樹脂である熱可塑性樹脂(C)との接着性を向上する等の目的で、炭素繊維はサイジング剤が付与されたものであってもかまわない。サイジング剤を付与することにより、熱可塑性樹脂(C)との接着性および成形品の曲げ強度および衝撃強度をより向上させることができる。
【0022】
サイジング剤としては、具体的には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエチレングリコール、ポリウレタン、ポリエステル、乳化剤あるいは界面活性剤などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。サイジング剤は、水溶性もしくは水分散性であることが好ましく、炭素繊維(A)との濡れ性に優れるエポキシ樹脂が好ましい。中でも多官能エポキシ樹脂がより好ましい。
【0023】
多官能エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、マトリックス樹脂との接着性を発揮しやすい脂肪族エポキシ樹脂が好ましい。脂肪族エポキシ樹脂は、柔軟な骨格のため、架橋密度が高くとも靭性の高い構造になりやすい。炭素繊維/熱可塑性樹脂間に存在させた場合、柔軟で剥離しにくくさせるため、成形品の強度をより向上させることができる。
【0024】
多官能の脂肪族エポキシ樹脂としては、例えば、ジグリシジルエーテル化合物、ポリグリシジルエーテル化合物などが挙げられる。ジグリシジルエーテル化合物としては、エチレングリコールジグリシジルエーテルおよびポリエチレングリコールジグリシジルエーテル類、プロピレングリコールジグリシジルエーテルおよびポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル類、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル類等が挙げられる。また、ポリグリシジルエーテル化合物としては、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル類、ソルビトールポリグリシジルエーテル、アラビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル類トリメチロールプロパングリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、脂肪族多価アルコール等が挙げられる。
【0025】
上記脂肪族エポキシ樹脂の中でも、3官能以上の脂肪族エポキシ樹脂が好ましく、反応性の高いグリシジル基を3個以上有する脂肪族のポリグリシジルエーテル化合物がより好ましい。脂肪族のポリグリシジルエーテル化合物は、柔軟性、架橋密度、マトリックス樹脂との相溶性のバランスがよく、接着性をより向上させることができる。これらの中でも、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールグリシジルエーテル類、ポリプロピレングリコールグリシジルエーテル類がさらに好ましい。
【0026】
サイジング剤の付着量は、炭素繊維(A)とサイジング剤との合計重量を100重量%として、0.01重量%以上10重量%以下が好ましい。サイジング剤付着量が0.01重量%以上であれば、熱可塑性樹脂(C)との接着性がより向上する。0.05重量%以上がより好ましく、0.1重量%以上がさらに好ましい。一方、サイジング剤付着量が10重量%以下であれば、熱可塑性樹脂(C)の物性をより高いレベルで維持することができる。5重量%以下がより好ましく、2重量%以下がさらに好ましい。サイジング剤の付着量は、例えばサイジング剤が付着した炭素繊維を窒素雰囲気下で500℃×15分間加熱して、加熱前後の重量変化から500℃×15分間の加熱で焼き飛ばされたサイジング剤の重量を算出することにより求めることができる。
【0027】
サイジング剤の付与手段としては、特に限定されるものではないが、例えば、サイジング剤を溶媒(分散させる場合の分散媒含む)中に溶解または分散させたサイジング処理液を調製し、該サイジング処理液を炭素繊維に付与した後に、溶媒を乾燥・気化させて除去する方法が挙げられる。サイジング処理液を炭素繊維に付与する方法としては、例えば、ローラーを介して炭素繊維をサイジング処理液に浸漬する方法、サイジング処理液の付着したローラーに炭素繊維を接する方法、サイジング処理液を霧状にして炭素繊維に吹き付ける方法などが挙げられる。また、サイジング処理液の付与方法は、バッチ式および連続式のいずれでもよいが、生産性がよくバラツキが小さくできる連続式が好ましい。この際、炭素繊維(A)に対するサイジング剤の付着量が適正範囲内で均一になるように、サイジング処理液濃度、温度、糸条張力などを調整することが好ましい。また、サイジング処理液付与時に炭素繊維(A)を超音波で加振させることがより好ましい。
【0028】
乾燥温度と乾燥時間はサイジング剤の付着量によって調整すべきである。サイジング処理液に用いる溶媒の完全な除去、乾燥に要する時間を短くし、一方、サイジング剤の熱劣化を防止し、サイジング処理された炭素繊維(A)が固くなって拡がり性が悪化することを防止する観点から、乾燥温度は、150℃以上350℃以下が好ましく、180℃以上250℃以下がより好ましい。
【0029】
サイジング処理液に使用する溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトン等が挙げられるが、取扱いが容易であることおよび防災の観点から、水が好ましい。従って、水に不溶、若しくは難溶の化合物をサイジング剤として用いる場合には、乳化剤、界面活性剤を添加し、水性分散液として用いることが好ましい。具体的には、乳化剤または界面活性剤としては、スチレン-無水マレイン酸共重合体、オレフィン-無水マレイン酸共重合体、ナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物、ポリアクリル酸ソーダ等のアニオン系乳化剤、ポリエチレンイミン、ポリビニルイミダゾリン等のカチオン系乳化剤、ノニルフェノールエチレンオキサイド付加物、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンエーテルエステル共重合体、ソルビタンエステルエチルオキサイド付加物等のノニオン系乳化剤等を用いることができる。相互作用の小さいノニオン系乳化剤が、サイジング剤に含まれる官能基の接着効果を阻害しにくく好ましい。
【0030】
本発明の成形品における炭素繊維(A)の平均繊維長(L_(A))は、0.3?3mm(0.3mm以上3mm以下)である。炭素繊維(A)の平均繊維長(L_(A))が0.3mm未満である場合、成形品における炭素繊維(A)の補強効果が十分に発現せず、曲げ強度および引張強度が低下する。L_(A)は0.5mm以上が好ましい。一方、炭素繊維(A)の平均繊維長(L_(A))が3mmを超える場合、炭素繊維(A)同士の単繊維間における絡み合いが増加し、成形品内で均一分散しにくくなるため、曲げ強度、引張強度および分散性が低下する。L_(A)は2mm以下が好ましく、1.5mm以下がより好ましく、1.2mm以下がさらに好ましい。ここで、本発明における炭素繊維(A)の「平均繊維長」とは、重量平均分子量の算出方法を繊維長の算出に適用し、単純に数平均を取るのではなく、繊維長の寄与を考慮した下記の式から算出される平均繊維長を指す。ただし、下記の式は、炭素繊維(A)の繊維径および密度が一定の場合に適用される。
【0031】
平均繊維長=Σ(Mi^(2)×Ni)/Σ(Mi×Ni)
Mi:繊維長(mm)
Ni:繊維長Miの炭素繊維の個数。
【0032】
上記平均繊維長の測定は、次の方法により行うことができる。成形品を300℃に設定したホットステージの上にガラス板間に挟んだ状態で加熱し、フィルム状にして均一分散させる。炭素繊維が均一分散したフィルムを、光学顕微鏡(50?200倍)にて観察する。無作為に選んだ1,000本の炭素繊維(A)の繊維長を計測して、上記式から平均繊維長(L_(A))を算出する。
【0033】
なお、成形品中における炭素繊維(A)の平均繊維長は、例えば、成形条件などにより調整することができる。成形条件としては、例えば、射出成形の場合、背圧や保圧力などの圧力条件、射出時間や保圧時間などの時間条件、シリンダー温度や金型温度などの温度条件などが挙げられる。背圧などの圧力条件を増加させることで、シリンダー内での剪断力を高めることができるため、炭素繊維(A)の平均繊維長を短くすることができる。また、射出時間を短くすることでも射出時の剪断力を高くすることができ、炭素繊維(A)の平均繊維長を短くすることができる。さらにシリンダー温度や金型温度などの温度を下げることで、流動する樹脂粘度を上げることができ剪断力を高めることができるため、炭素繊維(A)の平均繊維長を短くすることができる。本発明においては、上記のように条件を適宜変更することにより、成形品中における炭素繊維(A)の平均繊維長を所望の範囲とすることができる。
【0034】
本発明の成形品における炭素繊維(A)の数平均繊維径(d_(A))は特に限定されないが、成形品の力学特性と表面外観の観点から、1?20μmが好ましく、3?15μmがより好ましい。
【0035】
ここで、本発明における炭素繊維(A)の「数平均繊維径」とは、下記の式から算出される平均繊維径を指す。
【0036】
数平均繊維径=Σ(di×Ni)/Σ(Ni)
di:繊維径(μm)
Ni:繊維径diの炭素繊維の個数。
【0037】
上記数平均繊維径の測定は、次の方法により行うことができる。成形品を300℃に設定したホットステージの上にガラス板間に挟んだ状態で加熱し、フィルム状にして均一分散させる。炭素繊維が均一分散したフィルムを、光学顕微鏡(200?1,000倍)にて観察する。無作為に選んだ10本の炭素繊維(A)の繊維径を計測して、上記式から数平均繊維径を算出する。ここで、炭素繊維の繊維径とは、図4に示すように、観察される炭素繊維(A)の繊維輪郭部A上の任意の点Bと、繊維輪郭部A(4)と向かい合う繊維輪郭部A’(5)との最短距離(6)を、炭素繊維(A)1本あたり無作為に選んだ20箇所について計測した合計200箇所の数平均値とする。観察画面内で炭素繊維(A)が10本に満たない場合には、観察画面を計測可能な新しい観察画面に適宜移動させて計測する。
【0038】
炭素繊維の繊維径は成形前後で基本的に変化しないため、成形材料に用いる炭素繊維として、種々の繊維径を有する炭素繊維から所望の繊維径を有するものと選択することにより、成形品中の炭素繊維の繊維径を上記範囲にすることができる。
【0039】
本発明の成形品は、前述した炭素繊維(A)に加えて有機繊維(B)を含有する。炭素繊維(A)などの無機繊維は剛直で脆いため、絡まりにくく折れやすい。そのため、無機繊維だけからなる繊維束は、成形品の製造中に切れ易かったり、成形品から脱落しやすいという課題がある。そこで、柔軟で折れにくい有機繊維(B)を含むことにより、成形品の衝撃強度を大幅に向上させることができる。本発明において、成形品中の有機繊維(B)の含有量は、炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、1?45重量部(1重量部以上45重量部以下)である。有機繊維(B)の含有量が1重量部未満である場合、成形品の衝撃特性が低下する。有機繊維(B)の含有量は5重量部以上が好ましい。逆に、有機繊維(B)の含有量が45重量部を超える場合、繊維同士の絡み合いが増加し、成形品中における有機繊維(B)の分散性が低下し、成形品の衝撃強度および表面外観の低下を引き起こすことが多い。有機繊維(B)の含有量は30重量部以下が好ましい。
【0040】
有機繊維(B)の引張破断伸度は、有機繊維の平均繊維長を後述する範囲に調整し、衝撃強度をより向上させる観点から、10%以上が好ましく、20%以上がさらに好ましい。一方、繊維強度および成形品の剛性を向上させる観点から、50%以下が好ましく、40%以下がより好ましい。
【0041】
有機繊維(B)の引張破断伸度(%)は、次の方法により求めることができる。標準状態(20℃,65%RH)の室内で、つかみ間隔250mm、引張速度300mm/分の条件で引張試験を行い、繊維切断時の長さを測定し(ただし、チャック近傍で切断した場合はチャック切れとしてデータから除く)、次式により小数点2桁まで算出し、小数点2桁目を四捨五入する。データ数n3の平均値を求め、本発明における引張破断伸度とする。
【0042】
引張破断伸度(%)=[(切断時の長さ(mm)-250)/250]×100 。
【0043】
有機繊維(B)は、成形品の力学特性を大きく低下させない範囲で適宜選択することができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ナイロン6、ナイロン66、芳香族ポリアミド等のポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、ポリアリーレンスルフィド、液晶ポリエステル等の樹脂を紡糸して得られる繊維を挙げることができる。これらを2種以上用いてもよい。これらの有機繊維(B)の中から、マトリックス樹脂である熱可塑性樹脂(C)との組み合わせにより適宜選択して用いることが好ましい。特に、熱可塑性樹脂(C)の成形温度(溶融温度)に対して、有機繊維(B)の溶融温度が30℃?150℃高いことが好ましく、50℃?100℃高いことがより好ましい。あるいは、熱可塑性樹脂(C)と非相溶性である樹脂を用いてなる有機繊維(B)は、成形品内に繊維状態を保ったまま存在するため、成形品の衝撃強度をより向上できるため好ましい。溶融温度の高い有機繊維(B)として、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアリーレンスルフィド繊維、フッ素樹脂繊維などが挙げられ、本発明においては、有機繊維(B)としてこれらからなる群より選ばれる少なくとも1種の繊維を用いることが好ましい。
【0044】
本発明の成形品における有機繊維(B)の平均繊維長(L_(B))は、0.5mm?5mm(0.5mm以上5mm以下)である。有機繊維(B)の平均繊維長(L_(B))が0.5mm未満である場合、成形品における有機繊維(B)の補強効果が十分に発現せず、衝撃強度が低下する。L_(B)は1mm以上が好ましく、1.5mm以上がさらに好ましい。一方で、平均繊維長(L_(B))が5mmを超える場合、有機繊維(B)同士の単糸間での絡み合いが増加し、成形品内で均一分散しにくくなるため、衝撃強度が低下する。L_(B)は4mm以下が好ましく、3mm以下がさらに好ましい。ここで、本発明における有機繊維(B)の「平均繊維長」とは、炭素繊維(A)と同様に、重量平均分子量の算出方法を繊維長の算出に適用し、単純に数平均を取るのではなく、繊維長の寄与を考慮した下記の式から算出される平均繊維長を指す。ただし、下記の式は、有機繊維(B)の繊維径および密度が一定の場合に適用される。
【0045】
平均繊維長=Σ(Mi^(2)×Ni)/Σ(Mi×Ni)
Mi:繊維長(mm)
Ni:繊維長Miの有機繊維の個数。
【0046】
上記平均繊維長の測定は、次の方法により行うことができる。成形品を300℃に設定したホットステージの上にガラス板間に挟んだ状態で加熱し、フィルム状にして均一分散させる。有機繊維が均一分散したフィルムを、光学顕微鏡(50?200倍)にて観察する。無作為に選んだ1,000本の有機繊維(B)の繊維長を計測して、上記式から平均繊維長(L_(B))を算出する。
【0047】
なお、成形品中における有機繊維(B)の平均繊維長は、例えば、前述の有機繊維(B)の種類や、成形条件などにより調整することができる。成形条件としては、例えば、射出成形の場合、背圧や保圧力などの圧力条件、射出時間や保圧時間などの時間条件、シリンダー温度や金型温度などの温度条件などが挙げられる。背圧などの圧力条件を増加させることで、シリンダー内での剪断力を高めることができるため、有機繊維(B)の平均繊維長を短くすることができる。また、射出時間を短くすることでも射出時の剪断力を高くすることができ、有機繊維(B)の平均繊維長を短くすることができる。さらにシリンダー温度や金型温度などの温度を下げることで、流動する樹脂粘度を上げることができ剪断力を高めることができるため、有機繊維(B)の平均繊維長を短くすることができる。本発明においては、上記のように条件を適宜変更することにより、成形品中における有機繊維(B)の平均繊維長を所望の範囲とすることができる。
【0048】
また、本発明の成形品における有機繊維(B)は、その数平均繊維径(d_(B))が35?300μm(35μm以上300μm以下)であることを特徴とする。有機繊維(B)の数平均繊維径(d_(B))が35μm未満の場合、数平均繊維径(d_(B))が35μm以上の有機繊維と比較して、同じ重量でもより多い本数の有機繊維が成形品中に存在することになり、有機繊維同士の絡み合いを抑制しにくく、成形品の表面外観を向上させることができない。有機繊維(B)の数平均繊維径(d_(B))は50μm以上が好ましく、さらに好ましくは80μm以上である。一方、有機繊維(B)の数平均繊維径(d_(B))が300μmを超えると、成形品表面で繊維の凹凸が目立つようになり、結果として表面外観が低下する。数平均繊維径(d_(B))は150μm以下が好ましい。
【0049】
ここで、本発明における有機繊維(B)の「数平均繊維径」とは、下記の式から算出される平均繊維径を指す。
【0050】
数平均繊維径=Σ(di×Ni)/Σ(Ni)
di:繊維径(μm)
Ni:繊維径diの有機繊維の個数。
【0051】
上記数平均繊維径の測定は、次の方法により行うことができる。成形品を300℃に設定したホットステージの上にガラス板間に挟んだ状態で加熱し、フィルム状にして均一分散させる。有機繊維が均一分散したフィルムを、光学顕微鏡(200?1,000倍)にて観察する。無作為に選んだ10本の有機繊維(B)の繊維径を計測して、上記式から数平均繊維径を算出する。ここで、有機繊維の繊維径とは、図4に示すように、観察される有機繊維(B)の繊維輪郭部A上の任意の点Bと、繊維輪郭部A(4)と向かい合う繊維輪郭部A’(5)との最短距離(6)を、有機繊維(B)1本あたり無作為に選んだ20箇所について計測した合計200箇所の数平均値とする。観察画面内で有機繊維(B)が10本に満たない場合には、観察画面を計測可能な新しい観察画面に適宜移動させて計測する。
【0052】
有機繊維の繊維径は成形前後で基本的に変化しないため、成形材料に用いる有機繊維として、種々の繊維径を有する有機繊維から所望の繊維径を有するものを選択することにより、成形品中の有機繊維の繊維径を上記範囲にすることができる。
【0053】
また、本発明の成形品中における有機繊維(B)は、そのアスペクト比(L_(B)[μm]/d_(B)[μm])が5?100(5以上100以下)の範囲であることが好ましい。アスペクト比を上記範囲とする手段としては、平均繊維長と、数平均繊維径とのバランスをとることが挙げられる。有機繊維(B)のアスペクト比を5以上とすることにより、衝撃時に加えられた荷重を有機繊維に伝わりやすくすることができ、成形品の衝撃強度をより向上させることができる。アスペクト比を5以上とする手段としては、平均繊維長L_(B)を適度に大きくし、数平均繊維径L_(A)を適度に小さくすることが挙げられる。アスペクトは10以上がより好ましく、20以上がさらに好ましい。一方、アスペクト比を100以下とすることにより、有機繊維(B)の成形品表面への凹凸形成を抑制することができ、成形品の表面外観をより高めることができる。アスペクト比を100以下とする手段としては、平均繊維長L_(B)を適度に小さくし、数平均繊維径L_(A)を適度に大きくすることが挙げられる。アスペクト比は70以下がより好ましい。ここで、アスペクト比(L_(B)/d_(B))は、先に記載した平均繊維長L_(B)と数平均繊維径d_(B)とを用いて算出する。
【0054】
成形品中における有機繊維(B)のアスペクト比を上記範囲にするための手段としては、例えば、成形品中における平均繊維長L_(B)と数平均繊維径d_(B)とを前述の好ましい範囲にすることなどが挙げられる。
【0055】
また、本発明の成形品中における炭素繊維(A)の換算本数n_(A)に対する有機繊維(B)の換算本数n_(B)の比(n_(B)/n_(A))は、0.001?0.01(0.001以上0.01以下)であることが好ましい。ここで換算本数とは、成形品1g中の炭素繊維または有機繊維の本数を表す指標であり、各々の数平均繊維径d(μm)、平均繊維長L(mm)、繊維含有量w(質量%)、比重ρ(g/cm^(3))から、下記式により算出される数値である。
【0056】
換算本数=((1×w/100)/((d/2)^(2)×π×L×ρ))×10^(9)
π:円周率
換算本数の比(n_(B)/n_(A))が0.001以上であると、耐衝撃特性を向上させる有機繊維(B)が炭素繊維(A)の本数の0.1%以上含まれることになる。炭素繊維(A)は剛直で脆いため絡まりにくく折れやすいが、柔軟で折れにくい有機繊維(B)が炭素繊維(A)の0.1%以上成形品中に存在することで、成形品の衝撃強度を向上させることができる。換算本数の比(n_(B)/n_(A))は0.003以上がより好ましい。また、換算本数の比(n_(B)/n_(A))が0.01以下であると、有機繊維(B)が1本1本容易に分散が可能な程度の本数とすることができ、成形品の表面外観をより向上させることができる。換算本数の比(n_(B)/n_(A))は上0.008以下がより好ましい。
【0057】
ここで、炭素繊維(A)あるいは有機繊維(B)の比重は、炭素繊維(A)あるいは有機繊維(B)の一部を成形品から取り出して液浸法により測定することができる。液浸法の液としては蒸留水を用い、0.5gの炭素繊維(A)あるいは有機繊維(B)の比重を3回測定して、その平均値を算出することにより比重を求めることができる。成形品から炭素繊維(A)を取り出すには、有機繊維(B)およびマトリックス樹脂を所定の温度で焼き飛ばして炭素繊維(A)のみを残存させる方法や、マトリックス樹脂と有機繊維を可溶な溶媒に溶かしてから炭素繊維(A)を取り出す方法がある。有機繊維を取り出す方法は、炭素繊維(A)と有機繊維(B)との比重差を利用して取り出す方法がある。マトリックス樹脂のみ可溶な溶媒に溶かして炭素繊維(A)と有機繊維(B)を取り出してから、例えば有機繊維(B)よりも比重が大きく、炭素繊維(A)よりは比重が小さい溶媒に入れることで、有機繊維(B)のみが溶媒に浮かぶ状況となり、有機繊維(B)を取り出すことが可能となる。
【0058】
また、換算本数を上記範囲とする手段としては、例えば、成形品中における有機繊維の数平均繊維径および平均繊維長を上記した好ましい範囲とすること、炭素繊維(A)、有機繊維(B)の量を前述の好ましい範囲とすることなどが挙げられる。
【0059】
本発明の成形品は、炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、熱可塑性樹脂(C)を10?94重量部(10重量部以上94重量部以下)含有する。熱可塑性樹脂(C)の含有量が10重量部未満の場合、繊維の分散性が低下し、衝撃強度が低下する。熱可塑性樹脂(C)の含有量は20重量部以上が好ましく、30重量部以上がより好ましい。一方、熱可塑性樹脂(C)の含有量が94重量部を超える場合、相対的に炭素繊維(A)、有機繊維(B)の含有量が少なくなるため、繊維による補強効果が低くなり、衝撃強度が低下する。熱可塑性樹脂(C)の含有量は85重量部以下が好ましく、75重量部以下がより好ましい。
【0060】
本発明において熱可塑性樹脂(C)は、成形温度(溶融温度)が200?450℃であるものが好ましい。例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ハロゲン化ビニル樹脂、ポリアセタール樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリールスルホン樹脂、ポリアリールケトン樹脂、ポリアリーレンエーテル樹脂、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリアリールエーテルケトン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアリーレンサルファイドスルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶ポリエステル樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。これらはいずれも、電気絶縁体に相当する。これらを2種以上用いることもできる。これらの樹脂は、末端基が封止または変性されていてもよい。
【0061】
前記熱可塑性樹脂(C)の中でも、軽量で力学特性や成形性のバランスに優れるポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂がより好ましく、耐薬品性や吸湿性にも優れることから、ポリプロピレン樹脂がさらに好ましい。
【0062】
ポリプロピレン樹脂は、無変性のものであっても、変性されたものであってもよい。
【0063】
無変性のポリプロピレン樹脂としては、具体的には、プロピレンの単独重合体や、プロピレンとα-オレフィン、共役ジエン、非共役ジエンおよび他の熱可塑性単量体からなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体との共重合体などが挙げられる。共重合体としては、ランダム共重合体またはブロック共重合体が挙げられる。α-オレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、1-ノネン、1-オクテン、1-ヘプテン、1-ヘキセン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン等の、プロピレンを除く炭素数2?12のα-オレフィンなどが挙げられる。共役ジエンまたは非共役ジエンとしては、例えば、ブタジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,5-ヘキサジエン等が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。例えば、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体、エチレン・プロピレン・1-ブテン共重合体などが好適なものとして挙げられる。プロピレンの単独重合体は、成形品の剛性をより向上させる観点から好ましい。プロピレンとα-オレフィン、共役ジエンおよび非共役ジエンなどとのランダム共重合体あるいはブロック共重合体は、成形品の衝撃強度をより向上させる観点から好ましい。
【0064】
また、変性ポリプロピレン樹脂としては、酸変性ポリプロピレン樹脂が好ましく、重合体鎖に結合したカルボン酸および/またはカルボン酸塩基を有する、酸変性ポリプロピレン樹脂がより好ましい。上記酸変性ポリプロピレン樹脂は種々の方法で得ることができる。例えば、無変性のポリプロピレン樹脂に、中和されているか、中和されていないカルボン酸基を有する単量体、および/または、ケン化されているか、ケン化されていないカルボン酸エステル基を有する単量体を、グラフト重合することにより得ることができる。
【0065】
ここで、中和されているか、中和されていないカルボン酸基を有する単量体、または、ケン化されているか、ケン化されていないカルボン酸エステル基を有する単量体としては、例えば、エチレン系不飽和カルボン酸、その無水物、エチレン系不飽和カルボン酸エステルなどが挙げられる。
【0066】
エチレン系不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマール酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸などが例示される。その無水物としては、ナジック酸TM(エンドシス-ビシクロ[2,2,1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸)、無水マレイン酸、無水シトラコン酸などが例示できる。
【0067】
エチレン系不飽和カルボン酸エステルとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、iso-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、n-アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウロイル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類、ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、ラクトン変性ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル類、グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル類、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N-ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジヒドロキシエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノアルキル(メタ)アクリレート類などが挙げられる。
【0068】
これらを2種以上用いることもできる。これらの中でも、エチレン系不飽和カルボン酸の酸無水物類が好ましく、無水マレイン酸がより好ましい。
【0069】
成形品の曲げ強度および引張強度を向上させるためには、無変性ポリプロピレン樹脂と変性ポリプロピレン樹脂を共に用いることが好ましい。特に難燃性および力学特性のバランスの観点から、無変性ポリプロピレン樹脂と変性ポリプロピレン樹脂の重量比が95/5?75/25となるように用いることが好ましい。より好ましくは95/5?80/20、さらに好ましくは90/10?80/20である。
【0070】
ポリアミド樹脂は、アミノ酸、ラクタム、あるいはジアミンとジカルボン酸を主たる原料とする樹脂である。その主要原料の代表例としては、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε-カプロラクタム、ω-ラウロラクタムなどのラクタム、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどの芳香族ジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどの脂環族ジアミン、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0071】
本発明においては、耐熱性や強度に優れるという点から、200℃以上の融点を有するポリアミド樹脂が特に有用である。その具体的な例としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ナイロン6T/6)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/12)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ(2-メチルペンタメチレン)テレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/M5T)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)およびこれらの共重合体などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、ナイロン6、ナイロン66がより好ましい。
【0072】
ポリアミド樹脂の重合度には特に制限はないが、98%濃硫酸25mLにポリアミド樹脂0.25gを溶解した溶液を25℃で測定した相対粘度が1.5?5.0の範囲であることが好ましく、2.0?3.5の範囲のポリアミド樹脂がより好ましい。
【0073】
ポリカーボネート樹脂は、二価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させて得られるものである。2種以上の二価フェノールまたは2種以上のカーボネート前駆体を用いて得られる共重合体であってもよい。反応方法の一例として、界面重合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、および環状カーボネート化合物の開環重合法などを挙げることができる。例えば、特開2002-129027号公報に記載のポリカーボネート樹脂を使用できる。
【0074】
二価フェノールとしては、例えば、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカン(ビスフェノールAなど)、2,2-ビス{(4-ヒドロキシ-3-メチル)フェニル}プロパン、α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-m-ジイソプロピルベンゼン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、ビスフェノールAが好ましく、耐衝撃特性により優れたポリカーボネート樹脂を得ることができる。一方、ビスフェノールAと他の二価フェノールを用いて得られる共重合体は、高耐熱性または低吸水率の点で優れている。
【0075】
カーボネート前駆体としては、例えば、カルボニルハライド、炭酸ジエステルまたはハロホルメートなどが使用され、具体的には、ホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは二価フェノールのジハロホルメートなどが挙げられる。
【0076】
上記二価フェノールとカーボネート前駆体からポリカーボネート樹脂を製造するにあたっては、必要に応じて触媒、末端封止剤、二価フェノールの酸化を防止する酸化防止剤などを使用してもよい。
【0077】
また、ポリカーボネート樹脂は、三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂であってもよいし、芳香族または脂肪族(脂環族を含む)の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂であってもよいし、二官能性脂肪族アルコール(脂環族を含む)を共重合した共重合ポリカーボネート樹脂であってもよいし、二官能性カルボン酸および二官能性脂肪族アルコールを共に共重合したポリエステルカーボネート樹脂であってもよい。また、これらのポリカーボネート樹脂を2種以上用いてもよい。
【0078】
ポリカーボネート樹脂の分子量は特定されないが、粘度平均分子量が10,000?50,000のものが好ましい。粘度平均分子量が10,000以上であれば、成形品の強度をより向上させることができる。15,000以上がより好ましく、18,000以上がさらに好ましい。一方、粘度平均分子量が50,000以下であれば、成形加工性が向上する。40,000以下がより好ましく、30,000以下がさらに好ましい。ポリカーボネート樹脂を2種以上用いる場合、少なくとも1種の粘度平均分子量が上記範囲にあることが好ましい。この場合、他のポリカーボネート樹脂として、粘度平均分子量が50,000を超える、好ましくは80,000を超えるポリカーボネート樹脂を用いることが好ましい。かかるポリカーボネート樹脂は、エントロピー弾性が高く、ガスアシスト成形等を併用する場合に有利となる他、高いエントロピー弾性に由来する特性(ドリップ防止特性、ドローダウン特性、およびジェッティング改良などの溶融特性を改良する特性)を発揮する。
【0079】
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(M)は、塩化メチレン100mLにポリカーボネート樹脂0.7gを溶解した溶液から20℃で求めた比粘度(η_(sp))を次式に代入して求めたものである。
【0080】
η_(sp)/c=[η]+0.45×[η]^(2)(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10^(-4)×M^(0.83)
c=0.7 。
【0081】
本発明の成形品は、炭素繊維(A)と有機繊維(B)と熱可塑性樹脂(C)に加えて、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)を含むことが好ましい。200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)(「化合物(D)」という場合がある)の200℃における溶融粘度は、5Pa・s以下が好ましく、2Pa・s以下がより好ましく、1.5Pa・s以下がさらに好ましい。この範囲内に調整することで、炭素繊維(A)および有機繊維(B)の成形時の分散性をより向上させ、成形品の曲げ強度および引張強度をより向上させることができる。ここで、熱可塑性樹脂(C)および化合物(D)の200℃における溶融粘度は、40mmのパラレルプレートを用いて、0.5Hzにて、粘弾性測定器により測定することができる。
【0082】
なお、本発明の成形品は、後述する本発明の成形材料を用いることにより得ることができる。成形材料を製造するに際して、後述するように、まずはじめに炭素繊維(A)のロービング、有機繊維(B)のロービング、または炭素繊維(A)と有機繊維(B)を有する繊維束(E)を作製する。次いで、溶融させた化合物(D)を炭素繊維(A)のロービング、有機繊維(B)のロービング、または繊維束(E)に含浸させてそれぞれ複合体(G)、(J)、(F)を作製する。このとき化合物(D)を供給する際の溶融温度(溶融バス内の温度)は100?300℃が好ましいことから、化合物(D)の炭素繊維(A)のロービング、有機繊維(B)のロービング、または繊維束(E)への含浸性の指標として、化合物(D)の200℃における溶融粘度に着目した。200℃における溶融粘度が上記の好ましい範囲であれば、かかる好ましい溶融温度範囲において、含浸性に優れるため、炭素繊維(A)および有機繊維(B)の分散性がより向上し、成形品の衝撃強度をより向上させることができる。
【0083】
化合物(D)としては、例えば数平均分子量が200?50,000の化合物が例示できる。数平均分子量が200?50,000の化合物は、常温においては通常比較的脆く破砕しやすい固体であったり、液体であることが多い。かかる化合物は低分子量であるため、高流動性であり、炭素繊維(A)と有機繊維(B)の熱可塑性樹脂(C)内への分散効果を高めることができる。すなわち、数平均分子量が200以上であれば、成形品の力学特性、特に曲げ強度および引張強度をより向上させることができる。数平均分子量は1,000以上がより好ましい。また、数平均分子量が50,000以下であれば、粘度が適度に低いことから、成形品中に含まれる炭素繊維(A)および有機繊維(B)への含浸性に優れ、成形品中における炭素繊維(A)および有機繊維(B)の分散性をより向上させることができる。数平均分子量は3,000以下がより好ましい。なお、かかる化合物の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
【0084】
化合物(D)としては、熱可塑性樹脂(C)と親和性の高いものが好ましい。熱可塑性樹脂(C)との親和性が高い化合物(D)を選択することによって、熱可塑性樹脂(C)と効率よく相溶するため、炭素繊維(A)や有機繊維(B)の分散性をより向上させることができる。
【0085】
化合物(D)は、マトリックス樹脂である熱可塑性樹脂(C)との組み合わせに応じて適宜選択される。例えば、成形温度が150℃?270℃の範囲であればテルペン樹脂が好適に用いられ、270℃?320℃の範囲であればエポキシ樹脂が好適に用いられる。具体的には、熱可塑性樹脂(C)がポリプロピレン樹脂である場合には、化合物(D)はテルペン樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂(C)がポリカーボネート樹脂である場合は、化合物(D)はエポキシ樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂(C)がポリアミド樹脂である場合は、化合物(D)はテルペンフェノール樹脂が好ましい。
【0086】
本発明の成形品における化合物(D)の含有量は、炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、1?25重量部(1重量部以上25重量部以下)が好ましい。化合物(D)の含有量が1重量部以上であれば、成形品内での炭素繊維(A)および有機繊維(B)の流動性がより向上し、分散性がより向上する。2重量部以上がより好ましく、4重量部以上がさらに好ましい。一方、化合物(D)の含有量が25重量部以下であれば、成形品の曲げ強度、引張強度および衝撃強度をより向上させることができる。20重量部以下がより好ましく、15重量部以下がさらに好ましい。
【0087】
化合物(D)は、10℃/分昇温(空気中)条件で測定した成形温度における加熱減量が5重量%以下であることが好ましい。かかる加熱減量が5重量%以下の場合、炭素繊維(A)および有機繊維(B)へ含浸した際に分解ガスの発生を抑制することができ、成形した際にボイドの発生を抑制することができる。また、特に高温における成形において、発生ガスを抑制することができる。3重量%以下がより好ましい。
【0088】
ここで、化合物(D)の成形温度における加熱減量とは、加熱前の化合物(D)の重量を100%として、前記加熱条件における加熱後の化合物(D)の重量減量率を表し、下記式により求めることができる。なお、加熱前後の重量は、白金サンプルパンを用いて、空気雰囲気下、昇温速度10℃/分の条件にて、成形温度における重量を熱重量分析(TGA)により測定することにより求めることができる。
【0089】
加熱減量[重量%]={(加熱前重量-加熱後重量)/加熱前重量}×100 。
【0090】
本発明において、化合物(D)として好ましく用いられるエポキシ樹脂は、2つ以上のエポキシ基を有する化合物であって、実質的に硬化剤が含まれておらず、加熱しても、いわゆる三次元架橋による硬化をしないものである。化合物(D)はグリシジル基を有することが好ましく、炭素繊維(A)および有機繊維(B)と相互作用しやすくなり、含浸時に繊維束(E)と馴染みやすく、含浸しやすい。また、成形加工時の炭素繊維(A)および有機繊維(B)の分散性がより向上する。
【0091】
ここで、グリシジル基を有する化合物としては、例えば、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0092】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エーテル結合を有する脂肪族エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0093】
グリシジルエステル型エポキシ樹脂としては、例えば、ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル、ダイマー酸ジグリシジルエステル等が挙げられる。
【0094】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、例えば、トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、アミノフェノール型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0095】
脂環式エポキシ樹脂としては、例えば、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチルカルボキシレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルカルボキシレート等が挙げられる。
【0096】
中でも、粘度と耐熱性のバランスに優れるため、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂が好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂がより好ましい。
【0097】
また、化合物(D)として用いられるエポキシ樹脂の数平均分子量は、200?5,000であることが好ましい。エポキシ樹脂の数平均分子量が200以上であれば、成形品の力学特性をより向上させることができる。800以上がより好ましく、1,000以上がさらに好ましい。一方、エポキシ樹脂の数平均分子量が5,000以下であれば、繊維束(E)への含浸性に優れ、炭素繊維(A)および有機繊維(B)の分散性をより向上させることができる。4,000以下がより好ましく、3,000以下がさらに好ましい。なお、エポキシ樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
【0098】
また、テルペン樹脂としては、例えば、有機溶媒中でフリーデルクラフツ型触媒存在下、テルペン単量体を、必要に応じて芳香族単量体等と重合して得られる重合体または共重合体などが挙げられる。
【0099】
テルペン単量体としては、例えば、α-ピネン、β-ピネン、ジペンテン、d-リモネン、ミルセン、アロオシメン、オシメン、α-フェランドレン、α-テルピネン、γ-テルピネン、テルピノーレン、1,8-シネオール、1,4-シネオール、α-テルピネオール、β-テルピネオール、γ-テルピネオール、サビネン、パラメンタジエン類、カレン類等の単環式モノテルペンなどが挙げられる。また、芳香族単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン等が挙げられる。
【0100】
中でも、α-ピネン、β-ピネン、ジペンテン、d-リモネンが熱可塑性樹脂(C)との相溶性に優れるため好ましく、さらに、これらのテルペン単量体の単独重合体がより好ましい。また、これらテルペン樹脂を水素添加処理して得られる水素化テルペン樹脂が、より熱可塑性樹脂(C)、特にポリプロピレン樹脂との相溶性に優れるため好ましい。
【0101】
また、テルペン樹脂のガラス転移温度は、特に限定しないが、30?100℃であることが好ましい。ガラス転移温度が30℃以上であると、成形加工時に化合物(D)の取扱性に優れる。また、ガラス転移温度が100℃以下であると、成形加工時の化合物(D)を適度に抑制し、成形性を向上させることができる。
【0102】
また、テルペン樹脂の数平均分子量は、200?5,000であることが好ましい。数平均分子量が200以上であれば、成形品の力学特性、特に曲げ強度および引張強度をより向上させることができる。また、数平均分子量が5,000以下であれば、テルペン樹脂の粘度が適度に低いことから含浸性に優れ、成形品中における炭素繊維(A)および有機繊維(B)の分散性をより向上させることができる。なお、テルペン樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
【0103】
テルペンフェノール樹脂は、テルペン単量体とフェノール類を、触媒により反応させたものである。ここで、フェノール類としては、フェノールのベンゼン環上に、アルキル基、ハロゲン原子および/または水酸基を1?3個有するものが好ましく用いられる。その具体例としては、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、ブチルフェノール、t-ブチルフェノール、ノニルフェノール、3,4,5-トリメチルフェノール、クロロフェノール、ブロモフェノール、クロロクレゾール、ヒドロキノン、レゾルシノール、オルシノールなどを挙げることができる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、フェノールおよびクレゾールが好ましい。
【0104】
また、テルペンフェノール樹脂の数平均分子量は、200?5,000であることが好ましい。数平均分子量が200以上であれば、成形品の曲げ強度および引張強度をより向上させることができる。また、数平均分子量が5,000以下であれば、テルペンフェノール樹脂の粘度が適度に低いことから含浸性に優れ、成形品中における炭素繊維(A)や有機繊維(B)の分散性をより向上させることができる。なお、テルペンフェノール樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
【0105】
本発明の成形品は、本発明の目的を損なわない範囲で、前記(A)?(D)に加えて他の成分を含有してもよい。他の成分の例としては、熱硬化性樹脂、炭素繊維以外の無機充填材、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、あるいは、カップリング剤などが挙げられる。
【0106】
続いて、本発明の成形品の製造方法について説明する。
【0107】
好ましくは後述する本発明の成形材料を成形することにより、成形品を得ることができる。成形方法としては、射出成形、オートクレーブ成形、プレス成形、フィラメントワインディング成形、スタンピング成形などの生産性に優れた成形方法を挙げることができる。これらを組み合わせて用いることもできる。また、インサート成形、アウトサート成形などの一体化成形を適用することができる。さらに、成形後に、加熱による矯正処置や、熱溶着、振動溶着、超音波溶着などの生産性に優れた接着工法を活用することもできる。これらの中でも、金型を用いた成形方法が好ましく、特に射出成形機を用いた成形方法により、連続的に安定した成形品を得ることができる。射出成形の条件としては、特に規定はないが、例えば射出時間:0.5秒?10秒、より好ましくは2秒?10秒、背圧力:0.1MPa?10MPa、より好ましくは2MPa?8MPa、保圧力:1MPa?50MPa、より好ましくは1MPa?30MPa、保圧時間:1秒?20秒、より好ましくは5秒?20秒、シリンダー温度:200℃?320℃、金型温度:20℃?100℃の条件が好ましい。ここで、シリンダー温度とは、射出成形機の成形材料を加熱溶融する部分の温度を示し、金型温度とは、所定の形状にするための樹脂を注入する金型の温度を示す。これらの条件、特に射出時間、背圧力および金型温度を適宜選択することにより、成形品中の強化繊維の繊維長を容易に調整することができる。
【0108】
次に、本発明の成形品を得るために適した、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(「成形材料」という場合がある)について説明する。本発明においては、(1)炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5?45重量部(5重量部以上45重量部以下)、有機繊維(B)を1?45重量部(1重量部以上45重量部以下)、熱可塑性樹脂(C)を10?94重量部(10重量部以上94重量部以下)、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)を1?25重量部(1重量部以上25重量部以下)含む成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であって、有機繊維(B)の数平均繊維径(d_(B))が35?300μm(35μm以上300μm以下)であり、炭素繊維(A)と有機繊維(B)を含む繊維束(E)に化合物(D)を含浸させてなる複合体(F)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含み、繊維束(E)断面において炭素繊維(A)と有機繊維(B)が偏在し、繊維束(E)の長さと繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の長さが実質的に同じである成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であり、前記有機繊維(B)がポリエステル繊維であり、前記熱可塑性樹脂(C)がポリオレフィン樹脂およびポリカーボネート樹脂より選択される少なくとも1種であり、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記炭素繊維(A)の平均繊維長(L_(A))が0.3?3mmであり、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記有機繊維(B)の平均繊維長(L_(B))が0.5?5mmである成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(以下、「第一の態様の成形材料」という場合がある)や、(2)炭素繊維(A)、熱可塑性樹脂(C)および200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5?45重量部(5重量部以上45重量部以下)、熱可塑性樹脂(C)を35?94重量部(35重量部以上94重量部以下)、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)を1?25重量部(1重量部以上25重量部以下)含み、炭素繊維(A)に化合物(D)を含浸させてなる複合体(G)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含み、炭素繊維(A)の長さと炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の長さが実質的に同じである炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(X)と、有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(H)および200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(H)より低い化合物(I)の合計100重量部に対し、有機繊維(B)を1?45重量部(1重量部以上45重量部以下)、熱可塑性樹脂(H)を35?94重量部(35重量部以上94重量部以下)、化合物(I)を1?25重量部(1重量部以上25重量部以下)含み、有機繊維(B)の数平均繊維径(d_(B))が35?300μm(35μm以上300μm以下)である有機繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(Y)とを含む成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であり、前記有機繊維(B)がポリエステル繊維であり、前記熱可塑性樹脂(C)がポリオレフィン樹脂およびポリカーボネート樹脂より選択される少なくとも1種であり、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記炭素繊維(A)の平均繊維長(L_(A))が0.3?3mmであり、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記有機繊維(B)の平均繊維長(L_(B))が0.5?5mmである成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(以下、「第二の態様の成形材料」という場合がある)を、本発明の成形品を得るための成形材料として好適に用いることができる。
【0109】
まず、第一の態様の成形材料について説明する。前述した成形品を得るために用いられる、本発明の第一の態様の成形材料は、少なくとも炭素繊維(A)、有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(C)および化合物(D)を含み、有機繊維(B)の数平均繊維径(d_(B))が35?300μm(35μm以上300μm以下)であることを特徴とする。また、本発明の第一の態様の成形材料は、炭素繊維(A)と有機繊維(B)を含む繊維束(E)に、前記化合物(D)を含浸させてなる複合体(F)を含み、複合体(F)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含む構成を有する。炭素繊維(A)、有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(C)および化合物(D)の効果は、本発明の成形品について先に説明したとおりである。
【0110】
本発明の第一の態様の成形材料は、熱可塑性樹脂(C)内に、連続繊維束である炭素繊維(A)および有機繊維(B)の各単繊維間に化合物(D)が満たされている複合体(F)を有する。複合体(F)は、化合物(D)の海に、炭素繊維(A)および有機繊維(B)が島のように分散している状態である。
【0111】
本発明の第一の態様の成形材料は、前記繊維束(E)に前記化合物(D)を含浸させてなる複合体(F)の外側に、熱可塑性樹脂(C)を含む。成形材料の長手方向に対して垂直な断面において、熱可塑性樹脂(C)が複合体(F)の周囲を被覆するように配置されているか、複合体(F)と熱可塑性樹脂(C)が層状に配置され、最外層が熱可塑性樹脂(C)である構成が望ましい。
【0112】
本発明の第一の態様の成形材料において、化合物(D)は低分子量である場合が多く、常温においては通常比較的脆く破砕しやすい固体であったり、液体であることが多い。複合体(F)の外側に、熱可塑性樹脂(C)を含む構成とすることにより、高分子量の熱可塑性樹脂(C)が複合体(F)を保護し、成形材料の運搬や取り扱い時の衝撃、擦過などによる化合物(D)の破砕、飛散などを抑制し、成形材料の形状を保持することができる。本発明の成形材料は、取り扱い性の観点から、成形に供されるまで前述の形状を保持することが好ましい。
【0113】
複合体(F)と熱可塑性樹脂(C)は、境界付近で部分的に熱可塑性樹脂(C)が複合体(F)の一部に入り込み、相溶しているような状態であってもよいし、繊維束(E)に熱可塑性樹脂(C)が含浸しているような状態になっていてもよい。
【0114】
本発明の第一の態様の成形材料は、繊維束(E)断面において炭素繊維(A)と有機繊維(B)が偏在することが好ましい。ここで、繊維束(E)断面とは、繊維束(E)の繊維長手方向に対して垂直な断面を指す。繊維束(E)断面において、炭素繊維(A)と有機繊維(B)が偏在することにより、成形時の炭素繊維(A)および有機繊維(B)の絡み合いを抑制し、炭素繊維(A)および有機繊維(B)が均一に分散した成形品を得ることができる。このため、成形品の衝撃強度をより向上させることができる。ここで、本発明において「偏在」とは、繊維束(E)断面において、炭素繊維(A)と有機繊維(B)がそれぞれ全ての領域において均等に存在するのではなく、部分的に偏って存在することを言う。例えば、図1に示すような、繊維束(E)断面において、炭素繊維(A)が有機繊維(B)を内包している形態や、図2に示すような、有機繊維(B)が炭素繊維(A)を内包している形態などのいわゆる芯鞘型構造や、図3に示すような、繊維束(E)断面において、炭素繊維(A)の束と有機繊維(B)の束がある境界部によって分けられた状態でそれぞれ存在している構造などが、本発明における「偏在」の態様として挙げられる。ここで、本発明において「内包」とは、炭素繊維(A)を芯部、有機繊維(B)を鞘部に配する状態や、または、有機繊維(B)を芯部、炭素繊維(A)を鞘部に配する状態をいう。図3に示す態様の場合、繊維束(E)断面において炭素繊維(A)と有機繊維(B)のそれぞれ少なくとも一部がいずれも外層の熱可塑性樹脂(C)に接している。このとき、炭素繊維(A)または有機繊維(B)が熱可塑性樹脂(C)に接している態様には、炭素繊維(A)または有機繊維(B)が化合物(D)を介して熱可塑性樹脂(C)に接している態様も含むものとする。
【0115】
なお、本発明において、繊維束(E)断面において炭素繊維(A)、有機繊維(B)が偏在していることを確認する方法としては、例えば、成形材料の繊維長手方向に対して垂直な断面を倍率300倍に設定した光学顕微鏡にて観察し、得られた顕微鏡像の画像処理を行い解析する手法が挙げられる。
【0116】
繊維束(E)の断面において炭素繊維(A)、有機繊維(B)を偏在させる方法としては、炭素繊維(A)の束と有機繊維(B)の束とを引き揃えて上記成形材料を作製する方法が挙げられる。それぞれの束同士を引き揃えて成形材料を作製することで、炭素繊維(A)と有機繊維(B)とが独立した繊維束として存在することになり、偏在させることができる。使用する炭素繊維(A)の束と有機繊維(B)の束の単繊維数を多くすると束を大きくでき、単繊維数を少なくすると束を小さくでき、束の大きさを変えて偏在させることが可能である。
【0117】
本発明の第一の態様の成形材料は、繊維束(E)の長さと成形材料の長さが実質的に同じであることが好ましい。繊維束(E)の長さが成形材料の長さと実質的に同じであることにより、成形品における炭素繊維(A)と有機繊維(B)の繊維長を長くすることができるため、より優れた力学特性を得ることができる。なお、成形材料の長さとは、成形材料中の繊維束(E)配向方向の長さである。また、「実質的に同じ長さ」とは、成形材料内部で繊維束(E)が意図的に切断されていたり、成形材料全長よりも有意に短い繊維束(E)が実質的に含まれたりしないことである。特に、成形材料全長よりも短い繊維束(E)の量について限定するわけではないが、成形材料全長の50%以下の長さの繊維束(E)の含有量が、全繊維束(E)中30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。成形材料は、長手方向にほぼ同一の断面形状を保ち連続であることが好ましい。
【0118】
第一の態様の成形材料の長さは、通常3mm?15mmの範囲である。
【0119】
第一の態様の成形材料の各構成要素(A)?(D)としては、本発明の成形品について先に説明した(A)?(D)を用いることができる。また、本発明の成形品について他の成分として例示したものを含有することもできる。
【0120】
第一の態様の成形材料は、炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5?45重量部(5重量部以上45重量部以下)含有する。成形品の曲げ特性および衝撃強度をより向上させる観点から、炭素繊維(A)の含有量は10重量部以上がより好ましい。一方、成形品中の炭素繊維(A)の分散性を向上させ、成形品の衝撃強度をより向上させる観点から、炭素繊維(A)の含有量は30重量部以下がより好ましい。また、前記(A)?(C)の合計100重量部に対して、有機繊維(B)を1?45重量部(1重量部以上45重量部以下)含有する。成形品の衝撃特性をより向上させる観点から、有機繊維(B)の含有量は5重量部以上が好ましい。一方、成形品中の有機繊維(B)の分散性を向上させ、成形品の衝撃強度をより向上させる観点から、有機繊維(B)の含有量は30重量部以下がより好ましい。また、前記(A)?(C)の合計100重量部に対して、熱可塑性樹脂(C)を10?94重量部(10重量部以上94重量部以下)含有する。熱可塑性樹脂(C)の含有量は20重量部以上が好ましく、30重量部以上がより好ましい。成形品の衝撃強度を向上させる観点から、熱可塑性樹脂(C)の含有量は85重量部以下が好ましく、75重量部以下がより好ましい。また、(A)?(C)の合計100重量部に対して、化合物(D)を1?25重量部(1重量部以上25重量部以下)含有する。成形加工時の炭素繊維(A)および有機繊維(B)の流動性および分散性を向上させる観点から、化合物(D)の含有量は2重量部以上がより好ましく、4重量部以上がさらに好ましい。一方、成形品の曲げ強度、引張強度および衝撃強度をより向上させる観点から、化合物(D)の含有量は20重量部以下がより好ましく、15重量部以下がさらに好ましい。
【0121】
また、第一の態様の成形材料中における有機繊維(B)は、その数平均繊維径(d_(B))が35?300μm(35μm以上300μm以下)であることを特徴とする。有機繊維(B)の数平均繊維径(d_(B))は成形材料の製造前後で基本的には変化しないため、原料としての有機繊維(B)の数平均繊維径(d_(B))を35?300μmとすることにより、成形材料中における有機繊維(B)の数平均繊維径(d_(B))を前述の所望の範囲に容易に調整することができる。
【0122】
ここで、本発明における有機繊維(B)の「数平均繊維径」とは、下記の式から算出される平均繊維径を指す。
【0123】
数平均繊維径=Σ(di×Ni)/Σ(Ni)
di:繊維径(μm)
Ni:繊維径diの有機繊維の個数。
【0124】
成形材料中における有機繊維の数平均繊維径は、成形品中における有機繊維の数平均繊維径と同様に求めることができる。
【0125】
次に、本発明の第二の態様の成形材料について説明する。前述した成形品を得るために用いられる、本発明の第二の態様の成形材料は、少なくとも炭素繊維(A)、熱可塑性樹脂(C)および200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)を含む炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(X)(「炭素繊維強化成形材料」という場合がある)と、少なくとも有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(H)および200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(H)より低い化合物(I)(「化合物(I)」という場合がある)を含み、有機繊維(B)の数平均繊維径(d_(B))が35?300μm(35μm以上300μm以下)である有機繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(Y)(「有機繊維強化成形材料」という場合がある)を含む。炭素繊維強化成形材料(X)は、炭素繊維(A)に、前記化合物(D)を含浸させてなる複合体(G)を含み、複合体(G)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含む構成を有することが好ましい。また、有機繊維強化成形材料(Y)は、有機繊維(B)に、前記化合物(I)を含浸させてなる複合体(J)を含み、複合体(J)の外側に熱可塑性樹脂(H)を含む構成を有する。炭素繊維(A)および有機繊維(B)の効果は、本発明の成形品について先に説明したとおりである。また、熱可塑性樹脂(C)および熱可塑性樹脂(H)は比較的高粘度の、例えば靭性などの物性が高いマトリックス樹脂であり、成形時に炭素繊維(A)または有機繊維(B)に含浸され、成形品において炭素繊維(A)または有機繊維(B)を強固に保持する役割をもつ。なお、熱可塑性樹脂(H)は、先に説明した熱可塑性樹脂(C)において例示した樹脂を用いることができ、熱可塑性樹脂(C)と熱可塑性樹脂(H)は、同一の樹脂であっても、異なる樹脂であってもよい。また、化合物(D)および化合物(I)は、炭素繊維(A)または有機繊維(B)と共に複合体を形成し、成形時にマトリックス樹脂(熱可塑性樹脂(C)または(H))を炭素繊維(A)または有機繊維(B)に含浸させることを助け、また炭素繊維(A)または有機繊維(B)がマトリックス樹脂(熱可塑性樹脂(C)または(H))中に分散することを助ける、いわゆる含浸助剤・分散助剤としての役割を持つものである。なお、化合物(D)および化合物(I)は同種であってもよい。
【0126】
本発明における炭素繊維強化成形材料(X)は、熱可塑性樹脂(C)内に、連続繊維束である炭素繊維(A)の各単繊維間に化合物(D)が満たされている複合体(G)を有する。複合体(G)は、化合物(D)の海に、炭素繊維(A)が島のように分散している状態であることが好ましい。また、有機繊維強化成形材料(Y)も同様に、有機繊維(B)の各単繊維間に化合物(I)が満たされている複合体(J)を有し、化合物(I)の海に、有機繊維(B)が島のように分散している状態であることが好ましい。
【0127】
本発明の第二の態様の成形材料における炭素繊維強化成形材料(X)は、前記炭素繊維(A)に前記化合物(D)を含浸させてなる複合体(G)の外側に、熱可塑性樹脂(C)を含むことが好ましい。炭素繊維強化成形材料(X)の長手方向に対して垂直な断面において、熱可塑性樹脂(C)が複合体(G)の周囲を被覆するように配置されているか、複合体(G)と熱可塑性樹脂(C)が層状に配置され、最外層が熱可塑性樹脂(C)である構成が望ましい。有機繊維強化成形材料(Y)も同様に、前記有機繊維(B)に前記化合物(I)を含浸させてなる複合体(J)の外側に、熱可塑性樹脂(H)を含むことが好ましい。有機繊維強化成形材料(Y)の長手方向に対して垂直な断面において、熱可塑性樹脂(H)が複合体(J)の周囲を被覆するように配置されているか、複合体(J)と熱可塑性樹脂(H)が層状に配置され、最外層が熱可塑性樹脂(H)である構成が望ましい。
【0128】
第二の態様の成形材料において、化合物(D)および化合物(I)は低分子量である場合が多く、常温においては通常比較的脆く破砕しやすい固体であったり、液体であることが多い。炭素繊維強化成形材料(X)または有機繊維強化成形材料(Y)においては、複合体(G)または複合体(J)の外側に、熱可塑性樹脂(C)または(H)を含む構成とすることにより、高分子量の熱可塑性樹脂(C)または(H)が複合体(G)または複合体(J)を保護し、成形材料の運搬や取り扱い時の衝撃、擦過などによる化合物(D)または(I)の破砕、飛散などを抑制し、成形材料の形状を保持することができる。本発明の第二の態様の成形材料は、成形に供されるまで前述の形状を保持することが好ましい。
【0129】
炭素繊維強化成形材料(X)における、複合体(G)と熱可塑性樹脂(C)は、境界付近で部分的に熱可塑性樹脂(C)が複合体(G)の一部に入り込み、相溶しているような状態であってもよいし、炭素繊維(A)に熱可塑性樹脂(C)が含浸しているような状態になっていてもよい。また、有機繊維強化成形材料(Y)における、複合体(J)と熱可塑性樹脂(H)も同様に、境界付近で部分的に熱可塑性樹脂(H)が複合体(J)の一部に入り込み、相溶しているような状態であってもよいし、有機繊維(B)に熱可塑性樹脂(H)が含浸しているような状態になっていてもよい。
【0130】
また、炭素繊維強化成形材料(X)における炭素繊維(A)は、炭素繊維強化成形材料(X)の長さと実質的に同じ長さであることが好ましい。炭素繊維(A)の長さが炭素繊維強化成形材料(X)の長さと実質的に同じであることにより、成形品における炭素繊維(A)の繊維長を長くすることができるため、優れた力学特性を得ることができる。なお、炭素繊維強化成形材料(X)の長さとは、炭素繊維強化成形材料中の炭素繊維(A)の配向方向の長さである。また、「実質的に同じ長さ」とは、成形材料内部で炭素繊維(A)が意図的に切断されていたり、成形材料全長よりも有意に短い炭素繊維(A)が実質的に含まれたりしないことである。特に、成形材料全長よりも短い炭素繊維(A)の量について限定するわけではないが、成形材料全長の50%以下の長さの炭素繊維(A)の含有量が、全炭素繊維(A)中30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。成形材料は、長手方向にほぼ同一の断面形状を保ち連続であることが好ましいが、これに限定されるものではない。炭素繊維強化成形材料(X)の長さは、通常3mm?15mmの範囲である。
【0131】
本発明における有機繊維強化成形材料(Y)は、有機繊維(B)と熱可塑性樹脂(H)および化合物(I)を含み、前記有機繊維(B)に前記化合物(I)を含浸させてなる複合体(J)の外側に、熱可塑性樹脂(H)を含む構造であるか、または複合体(J)と熱可塑性樹脂(H)の溶融混練により得られるペレットであってもよい。
【0132】
本発明の第二の態様の成形材料は、有機繊維強化成形材料(Y)が溶融混練により得られるペレットである場合は、有機繊維(B)の平均繊維長が0.1mm?10mmの範囲であることが好ましい。有機繊維(B)の平均繊維長の長さが前記範囲であることにより、成形品における有機繊維(B)の繊維長を長くすることができるため、成形品の衝撃強度をより向上させることができる。1.5mm?10mmの範囲がより好ましい。
【0133】
また、有機繊維強化成形材料(Y)が有機繊維(B)に前記化合物(I)を含浸させてなる複合体(J)の外側に、熱可塑性樹脂(H)を含む構造である場合は、有機繊維(B)は、有機繊維強化成形材料(Y)の長さと実質的に同じ長さであることが好ましい。有機繊維(B)の長さが有機繊維強化成形材料(Y)の長さと実質的に同じであることにより、成形品における有機繊維(B)の繊維長を長くすることができるため、優れた力学特性を得ることができる。なお、有機繊維強化成形材料(Y)の長さとは、有機繊維強化成形材料中の有機繊維(B)の配向方向の長さである。また、「実質的に同じ長さ」とは、成形材料内部で有機繊維(B)が意図的に切断されていたり、成形材料全長よりも有意に短い有機繊維(B)が実質的に含まれたりしていないことである。より具体的には、有機繊維強化成形材料(Y)における有機繊維(B)の長手方向の端部間の距離が、有機繊維強化成形材料(Y)の長手方向の長さと同じことを指し、成形材料全長の50%以下の長さの有機繊維(B)の含有量が、全有機繊維(B)中30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。成形材料は、長手方向にほぼ同一の断面形状を保ち連続であることが好ましいが、これに限定されるものではない。また、有機繊維強化成形材料(Y)の長さは、通常3mm?15mmの範囲である。
【0134】
ここで、本発明の成形材料における「平均繊維長」とは、成形品中の平均繊維長と同様に求めることができる。
【0135】
第二の態様の成形材料の各構成要素(A)?(D)としては、本発明の成形品について先に説明した(A)?(D)を用いることができる。また、(H)および(I)としては、それぞれ本発明の成形品について先に説明した(C)および(D)を用いることができる。さらに、本発明の成形品について他の成分として例示したものを含有することもできる。
【0136】
第二の態様の成形材料において、炭素繊維強化成形材料(X)は、炭素繊維(A)、熱可塑性樹脂(C)および化合物(D)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5?45重量部(5重量部以上45重量部以下)含有する。成形品の曲げ特性および衝撃強度をより向上させる観点から、炭素繊維(A)の含有量は10重量部以上がより好ましい。一方、成形品中の炭素繊維(A)の分散性を向上させ、成形品の衝撃強度をより向上させる観点から、炭素繊維(A)の含有量は30重量部以下がより好ましい。また、熱可塑性樹脂(C)を35?94重量部(35重量部以上94重量部以下)含有する。熱可塑性樹脂(C)の含有量は20重量部以上が好ましく、30重量部以上がより好ましい。成形品の衝撃強度を向上させる観点から、熱可塑性樹脂(C)の含有量は85重量部以下が好ましく、75重量部以下がより好ましい。
【0137】
また、化合物(D)を1?25重量部(1重量部以上25重量部以下)含有することが好ましい。成形加工時の炭素繊維(A)および有機繊維(B)の流動性および分散性を向上させる観点から、化合物(D)の含有量は2重量部以上がより好ましく、4重量部以上がさらに好ましい。一方、成形品の曲げ強度、引張強度および衝撃強度をより向上させる観点から、化合物(D)の含有量は20重量部以下がより好ましく、15重量部以下がさらに好ましい。
【0138】
有機繊維強化成形材料(Y)は、有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(H)および化合物(I)の合計100重量部に対し、有機繊維(B)を1?45重量部(1重量部以上45重量部以下)含有する。成形品の衝撃特性をより向上させる観点から、有機繊維(B)の含有量は5重量部以上が好ましい。一方、成形品中の有機繊維(B)の分散性を向上させ、成形品の衝撃強度をより向上させる観点から、有機繊維(B)の含有量は30重量部以下がより好ましい。また、熱可塑性樹脂(H)を35?94重量部(35重量部以上94重量部以下)含有する。熱可塑性樹脂(H)の含有量は20重量部以上が好ましく、30重量部以上がより好ましい。成形品の衝撃強度を向上させる観点から、熱可塑性樹脂(H)の含有量は85重量部以下が好ましく、75重量部以下がより好ましい。
【0139】
また、化合物(I)を1?25重量部含有する。成形加工時の炭素繊維(A)および有機繊維(B)の流動性および分散性を向上させる観点から、化合物(I)の含有量は2重量部以上がより好ましく、4重量部以上がさらに好ましい。一方、成形品の曲げ強度、引張強度および衝撃強度をより向上させる観点から、化合物(I)の含有量は20重量部以下がより好ましく、15重量部以下がさらに好ましい。
【0140】
本発明の第二の態様の成形材料における、炭素繊維強化成形材料(X)は、例えば、次の方法により得ることができる。まず、炭素繊維(A)のロービングを繊維長手方向にし、次いで、溶融させた化合物(D)を炭素繊維束に含浸させて複合体(G)を作製し、さらに、溶融した熱可塑性樹脂(C)で満たした含浸ダイに複合体(G)を導き、熱可塑性樹脂(C)を複合体(G)の外側に被覆させ、ノズルを通して引き抜く。冷却固化後に所定の長さにペレタイズして、成形材料を得る方法である。熱可塑性樹脂(C)は、複合体(G)の外側に含まれていれば、炭素繊維束中に含浸されていてもよい。また、本発明の第二の成形材料における、有機繊維強化成形材料(Y)は、例えば、前述した炭素繊維強化成形材料(X)と同様の方法により製造しても良い。その他の方法として、例えば次の方法により得ることができる。まず、溶融させた化合物(I)を有機繊維束に含浸させて複合体(J)を作製し、複合体(J)を、熱可塑性樹脂(H)と共に単軸または二軸押出機内にて、溶融混練し、ダイ先端から吐出されるストランドを冷却固化後に所定の長さにペレタイズして、成形材料を得る方法である。
【0141】
本発明の第二の態様の成形材料における、炭素繊維強化成形材料(X)および有機繊維強化成形材料(Y)をドライブレンドにて混合し、成形することにより、炭素繊維(A)および有機繊維(B)の分散性に優れ、衝撃強度および低温衝撃強度に優れる繊維強化熱可塑性樹脂成形品を得ることができる。炭素繊維強化成形材料(X)と有機繊維強化成形材料(Y)の混合比としては、炭素繊維強化成形材料(X)と有機繊維強化成形材料(Y)の合計100重量部に対して、炭素繊維強化成形材料(X)を50?80重量部、有機繊維強化成形材料(Y)を20?50重量部含有することが好ましい。さらに、溶融混練により製造した有機繊維強化成形材料(Y)を用いることで、より生産性よく繊維強化熱可塑性樹脂成形品を得ることができる。成形方法としては、金型を用いた成形方法が好ましく、射出成形、押出成形、プレス成形など、種々の公知の手法を用いることができる。特に射出成形機を用いた成形方法により、連続的に安定した成形品を得ることができる。
【0142】
また、本発明の第二の形態の成形材料中における有機繊維(B)は、その数平均繊維径(d_(B))が35?300μm(35μm以上300μm以下)であることを特徴とする。有機繊維(B)の数平均繊維径(d_(B))は成形材料の製造前後で基本的には変化しないため、原料としての有機繊維(B)の数平均繊維径(d_(B))を35?300μmとすることにより、成形材料中における有機繊維(B)の数平均繊維径(d_(B))を前述の所望の範囲に容易に調整することができる。成形材料中における有機繊維(B)の数平均繊維径(d_(B))は50μm以上がより好ましく、また、150μm以下がより好ましい。
【0143】
ここで、本発明における有機繊維(B)の「数平均繊維径」とは、下記の式から算出される平均繊維径を指す。
【0144】
数平均繊維径=Σ(di×Ni)/Σ(Ni)
di:繊維径(μm)
Ni:繊維径diの有機繊維の個数。
【0145】
成形材料中における有機繊維の数平均繊維径は、成形品中における有機繊維の数平均繊維径と同様に求めることができる。
【0146】
また、本発明の第一および第二の態様の成形材料は、有機繊維(B)のアスペクト比(L_(B)[μm]/d_(B)[μm])が10?500(10以上500以下)であることが好ましい。
【0147】
本発明の成形品中の有機繊維(B)のアスペクト比について先に説明したとおり、アスペクト比を上記範囲とする手段としては、平均繊維長と、数平均繊維径とのバランスをとることが挙げられる。有機繊維(B)のアスペクト比を10以上とすることにより、衝撃時に加えられた荷重を有機繊維に伝わりやすくすることができ、成形品の衝撃強度をより向上させることができる。アスペクトは20以上がより好ましい。一方、アスペクト比を500以下とすることにより、有機繊維(B)の成形品表面への凹凸形成を抑制することができ、成形品の表面外観をより高めることができる。
【0148】
成形材料中の有機繊維(B)のアスペクト比は、成形材料中に存在する有機繊維(B)の平均繊維径と数平均繊維長から算出することができる。成形材料中における有機繊維(B)の数平均繊維径は、前述の方法により求めることができる。また、成形材料中における有機繊維(B)の平均繊維長は、次の方法により測定することができる。成形材料を300℃に設定したホットステージの上にガラス板間に挟んだ状態で加熱し、フィルム状にして均一分散させる。有機繊維が均一分散したフィルムを、光学顕微鏡(50?200倍)にて観察する。無作為に選んだ1,000本の有機繊維(B)の繊維長を計測して、上記式から平均繊維長(L_(B))を算出する。
【0149】
平均繊維長=Σ(Mi^(2)×Ni)/Σ(Mi×Ni)
Mi:繊維長(mm)
Ni:繊維長Miの有機繊維の個数
成形材料中の有機繊維(B)のアスペクト比を上記好ましい範囲にするための手段としては、例えば、成形材料中における有機繊維(B)の平均繊維長と数平均繊維径を前述の好ましい範囲にすることなどが挙げられる。
【0150】
次に、本発明の成形材料の製造方法について説明する。
【0151】
本発明の第一の態様の成形材料は、例えば、次の方法により得ることができる。まず、炭素繊維(A)のロービングおよび有機繊維(B)のロービングを繊維長手方向に対して並列に合糸し、炭素繊維(A)と有機繊維(B)を有する繊維束(E)を作製する。次いで、溶融させた化合物(D)を繊維束(E)に含浸させて複合体(F)を作製し、さらに、溶融した熱可塑性樹脂(C)で満たした含浸ダイに複合体(F)を導き、熱可塑性樹脂(C)を複合体(F)の外側に被覆させ、ノズルを通して引き抜く。冷却固化後に所定の長さにペレタイズして、成形材料を得る方法がある。熱可塑性樹脂(C)は、複合体(F)の外側に含まれていれば、繊維束(E)中に含浸されていてもよい。また、本発明の第二の態様の成形材料は、例えば、次の方法により得ることができる。炭素繊維(A)のロービングを繊維長手方向に対して引き出し、次いで、溶融させた化合物(D)を炭素繊維(A)のロービングに含浸させて複合体(G)を作製し、さらに、溶融した熱可塑性樹脂(C)で満たした含浸ダイに複合体(G)を導き、熱可塑性樹脂(C)を複合体(G)の外側に被覆させ、ノズルを通して引き抜く。冷却固化後に所定の長さにペレタイズして、炭素繊維強化成形材料(X)を得る。また、数平均繊維径(d_(B))が35?300μmである有機繊維(B)のロービングを繊維長手方向に対して引き出し、次いで、溶融させた化合物(I)を有機繊維(B)のロービングに含浸させて複合体(J)を作製し、さらに、溶融した熱可塑性樹脂(H)で満たした含浸ダイに複合体(J)を導き、熱可塑性樹脂(H)を複合体(J)の外側に被覆させ、ノズルを通して引き抜く。冷却固化後に所定の長さにペレタイズして、有機繊維強化成形材料(Y)を得る。または、溶融させた化合物(I)を有機繊維束に含浸させて複合体(J)を作製し、複合体(J)を、熱可塑性樹脂(H)と共に単軸または二軸押出機内にて、溶融混練し、ダイ先端から吐出されるストランドを冷却固化後に所定の長さにペレタイズして、有機繊維強化成形材料(Y)を得る。そして、有機繊維強化成形材料(X)および(Y)の2種の成形材料をドライブレンドして成形材料とする方法がある。熱可塑性樹脂(C)または(H)は、炭素繊維(A)のロービングまたは有機繊維(B)のロービングの外側に含まれていれば、炭素繊維(A)のロービングまたは有機繊維(B)のロービング中に含浸されていてもよい。
【0152】
本発明の成形品は、衝撃強度に優れる繊維強化熱可塑性樹脂成形品であり、本発明の成形品の用途としては、インストルメントパネル、ドアビーム、アンダーカバー、ランプハウジング、ペダルハウジング、ラジエータサポート、スペアタイヤカバー、フロントエンドなどの各種モジュール等の自動車部品に好適である。また、電話、ファクシミリ、VTR、コピー機、テレビ、電子レンジ、音響機器、トイレタリー用品、“レーザーディスク(登録商標)”、冷蔵庫、エアコンなどの家庭・事務電気製品部品も挙げられる。また、パーソナルコンピューター、携帯電話などに使用される筐体や、パーソナルコンピューターの内部でキーボードを支持するキーボード支持体に代表される電気・電子機器用部材なども挙げられる。なかでも、良好な外観を要求されることが多く、衝撃強度も必要となる用途として、インストルメントパネル、電気・電子機器用筐体の部品類が好ましい。
【実施例】
【0153】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。まず、本実施例で用いる各種特性の評価方法について説明する。
【0154】
(1)溶融粘度測定
各実施例および比較例に用いた熱可塑性樹脂(C)、(H)、化合物(D)および(I)について、40mmのパラレルプレートを用いて、0.5Hzにて、粘弾性測定器により200℃における溶融粘度を測定した。
【0155】
(2)成形品および成形材料中における炭素繊維(A)および有機繊維(B)の平均繊維長の測定
成形品または成形材料を300℃に設定したホットステージの上にガラス板間に挟んだ状態で加熱し、フィルム状にして均一分散させた。炭素繊維(A)または有機繊維(B)が均一分散したフィルムを、光学顕微鏡(50?200倍)にて観察した。無作為に選んだ1,000本の炭素繊維(A)と、同様に無作為に選んだ1,000本の有機繊維(B)について、それぞれ繊維長を計測して、下記式から平均繊維長を算出した。
【0156】
平均繊維長=Σ(Mi^(2)×Ni)/Σ(Mi×Ni)
Mi:繊維長(mm)
Ni:繊維長Miの繊維の個数。
【0157】
(3)成形品および成形材料中における炭素繊維(A)および有機繊維(B)の数平均繊維径の測定
成形品または成形材料を300℃に設定したホットステージの上にガラス板間に挟んだ状態で加熱し、フィルム状にして均一分散させた。炭素繊維(A)または有機繊維(B)が均一分散したフィルムを、光学顕微鏡(5?1,000倍)にて観察した。無作為に選んだ10本の炭素繊維(A)または有機繊維(B)の繊維径を計測して、下記式から数平均繊維径を算出した。ここで、炭素繊維(A)または有機繊維(B)の繊維径とは、図4に示すように、観察される炭素繊維(A)または有機繊維(B)の繊維輪郭部A上の任意の点Bと、繊維輪郭部A(4)と向かい合う繊維輪郭部A’(5)との最短距離(6)を、炭素繊維(A)または有機繊維(B)1本あたり無作為に選んだ20箇所について計測した合計200箇所の数平均値とした。なお、観察画面内で炭素繊維(A)または有機繊維(B)が10本に満たない場合には、観察画面を計測可能な新しい観察画面に適宜移動させて計測した。
【0158】
数平均繊維径=Σ(di×Ni)/Σ(Ni)
di:繊維径(μm)
Ni:繊維径diの繊維の個数。
【0159】
(4)成形品における炭素繊維(A)および有機繊維(B)の換算本数比(n_(B)/n_(A))の測定
各実施例および比較例により得られたISO型ダンベル試験片より炭素繊維(A)および有機繊維(B)を取り出し、その比重を、液浸法により測定した。炭素繊維は試験片を500℃で30分間窒素雰囲気下で熱処理することで取り出した。有機繊維(B)は試験片を1クロロナフタレンに溶解させて炭素繊維(A)と有機繊維(B)とを取り出し、クロロホルム中に投入することで炭素繊維(A)を沈め、有機繊維(B)を浮かべて分離して取り出した。なお、液浸法の液としては蒸留水を用い、5本の試験片の比重を測定して、その平均値を算出した。前述の方法で求めた各々の数平均繊維径d(μm)、平均繊維長L(mm)、繊維含有量w(質量%)、比重ρ(g/cm^(3))から、下記式により算出した。
【0160】
換算本数=((1×w/100)/((d/2)^(2)×π×L×ρ))×10^(9)
(5)引張破断伸度測定
有機繊維(B)の引張破断伸度(%)は、標準状態(20℃,65%RH)の室内で、つかみ間隔250mm、引張速度300mm/分の条件で引張試験を行い、繊維切断時の長さを算出し(ただし、チャック近傍で切断した場合はチャック切れとしてデータから除く)、次式により小数点2桁まで算出し、小数点2桁目を四捨五入した。各有機繊維(B)についてデータn3の平均値を求め、引張破断伸度とした。
【0161】
引張破断伸度(%)=[(切断時の長さ(mm)-250)/250]×100。
【0162】
(6)成形品の曲げ強度測定
各実施例および比較例により得られたISO型ダンベル試験片について、ISO 178に準拠し、3点曲げ試験冶具(圧子半径5mm)を用いて支点距離を64mmに設定し、試験速度2mm/分の試験条件にて曲げ強度を測定した。試験機として、“インストロン”(登録商標)万能試験機5566型(インストロン社製)を用いた。
【0163】
(7)成形品のシャルピー衝撃強度測定
各実施例および比較例により得られたISO型ダンベル試験片の平行部を切り出し、(株)東京試験機製C1-4-01型試験機を用い、ISO179に準拠してVノッチ付きシャルピー衝撃試験を実施し、衝撃強度(kJ/cm^(2))を算出した。
【0164】
(8)成形材料の生産性評価
有機繊維強化成形材料(Y)の時間当たりにおける製造量について計量を行った。10kg/時間以上をA、それ未満をBとした。
【0165】
(9)成形材料を用いて得られた成形品の繊維分散性評価
各実施例および比較例により得られた、80mm×80mm×2mmの試験片の表裏それぞれの面に存在する未分散炭素繊維束の個数を目視でカウントした。評価は50枚の成形品について行い、その合計個数について繊維分散性の判定を以下の基準で行い、A、Bを合格とした。
A:未分散炭素繊維束が1個未満
B:未分散炭素繊維束が1個以上5個未満
C:未分散炭素繊維束が5個以上10個未満
D:未分散炭素繊維束が10個以上。
【0166】
(10)成形品の塗装表面外観評価
各実施例および比較例により得られた、80mm×80mm×2mmの試験片に、アクリル-ウレタン2液塗料(ウレタンPG60/ハードナー、関西ペイント(株)製)、塗装ロボット:川崎重工株式会社製 KE610H、ABB社製カートリッジベルを用い、塗膜厚み30μmでそれぞれ塗布した後、乾燥温度80℃で30分間乾燥させた。得られた塗装成形品の鮮明度と外観から塗装表面外観を以下基準により目視で判定を行った。AとBを合格レベルとし、CとDを不合格レベルとした。
A:高光沢感が確認される
B:光沢感はあるが高光沢ではない
C:一部分に若干の塗装ムラがある
D:全体的に塗装ムラが目立つ。
【0167】
(参考例1)炭素繊維(A)の作製
ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体から紡糸、焼成処理、表面酸化処理を行い、総単糸数24,000本、単繊維径7μm、単位長さ当たりの質量1.6g/m、比重1.8g/cm^(3)、表面酸素濃度比[O/C]0.2の連続炭素繊維を得た。この連続炭素繊維のストランド引張強度は4,880MPa、ストランド引張弾性率は225GPaであった。続いて、多官能性化合物としてポリグリセロールポリグリシジルエーテルを2重量%になるように水に溶解させたサイジング剤母液を調製し、浸漬法により炭素繊維にサイジング剤を付与し、230℃で乾燥を行った。こうして得られた炭素繊維のサイジング剤付着量は1.0重量%であった。
【0168】
(参考例2)有機繊維(B)
ポリエステル(PET)繊維1:東レ(株)製“テトロン”(登録商標)56T-36-262(単繊維繊度1.6dtex、繊維径12μm、融点260℃)を用いた。破断伸度を上記(5)に記載の方法により測定した結果、15%であった。
【0169】
ポリエステル繊維2:東レ(株)製“テトロン”(登録商標)2200T-480-705M(単繊維繊度4.6dtex、繊維径20μm、融点260℃)を用いた。破断伸度を上記(5)に記載の方法により測定した結果、15%であった。
【0170】
ポリエステル(PET)繊維3:公知の溶融重縮合と固相重縮合とによって製造した粘度〔η〕0.94、COOH末端基濃度13当量/10^(6)gのPET乾燥チップ(以下、PETチップという)を計量しながら、1軸エクストルダーのホッパーから1軸エクストルダーに連続供給した。同時にホッパー下部のポリマー配管中の上記PETチップ100重量部に対して、モノカルボジイミド化合物(以下、TICという)として80℃で加熱溶融した“Stabilizer”(登録商標)7000(RaschigAG社製品)を、1.3重量部の量比で計量しながら連続供給した。1軸エクストルダー内で約288℃で3分間溶融混練した溶融ポリマーを、ギアポンプを経て紡糸パック内の濾過層を通し、円形断面糸用紡糸口金より紡出した。紡出フィラメントを70℃の湯浴で冷却後、常法に従い合計5.0倍に延伸および熱セットを行い、直径35μmの円形の断面形状を有するPET繊維(単繊維繊度13dtex、繊維径35μm、融点260℃)を得た。破断伸度を上記(5)に記載の方法により測定した結果、15%であった。
【0171】
ポリエステル(PET)繊維4:円形断面糸用紡糸口金の大きさを変更した以外はPET繊維3と同様にして、直径50μmの円形の断面形状を有するPET繊維(単繊維繊度27dtex、繊維径50μm、融点260℃)を得た。破断伸度を上記(5)に記載の方法により測定した結果、15%であった。
【0172】
ポリエステル(PET)繊維5:
円形断面糸用紡糸口金の大きさを変更した以外はPET繊維3と同様にして、直径100μmの円形の断面形状を有するPET繊維(単繊維繊度108dtex、繊維径100μm、融点260℃)を得た。破断伸度を上記(5)に記載の方法により測定結果、15%であった。
【0173】
ポリエステル(PET)繊維6:
円形断面糸用紡糸口金の大きさを変更した以外はPET繊維3と同様にして、直径290μmの円形の断面形状を有するPET繊維(単繊維繊度975dtex、繊維径290μm、融点260℃)を得た。破断伸度を上記(5)に記載の方法により測定結果、15%であった。
【0174】
(参考例3)熱可塑性樹脂(C)および(H)
PP:ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー(株)製“プライムポリプロ”(登録商標)J137)とマレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(三井化学(株)製“アドマー”(登録商標)QE840)(PP)を重量比85/15でペレットブレンドしたものを用いた。200℃における溶融粘度を上記(1)に記載の方法により測定した結果、50Pa・sであった。
【0175】
PC:ポリカーボネート樹脂(出光(株)製“パンライト”(登録商標)L-1225L)を用いた。前述したポリプロピレン樹脂と同様に、200℃における溶融粘度を上記(1)に記載の方法により測定した結果、14,000Pa・sであった。
【0176】
(参考例4)化合物(D)および(I)
固体の水添テルペン樹脂(ヤスハラケミカル(株)製“クリアロン”(登録商標)P125、軟化点125℃)を用いた。これを含浸助剤塗布装置内のタンク内に投入し、タンク内の温度を200℃に設定し、1時間加熱して溶融状態にした。この時の、200℃における溶融粘度を上記(1)に記載の方法により測定した結果、1Pa・sであった。
【0177】
(製造例1)炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(X-1)
上記に示した炭素繊維(A)束に、表1に示す割合で化合物(D)を含浸させて得られた複合体(G)を、(株)日本製鋼所製TEX-30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、L/D=32)の先端に設置された電線被覆法用のコーティングダイ中に通した。一方、表1に示した熱可塑性樹脂(C)をTEX-30α型2軸押出機のメインホッパーから供給し、スクリュー回転数200rpmで溶融混練した。2軸押出機からダイ内に溶融した熱可塑性樹脂(C)を吐出し、複合体(G)の周囲を被覆するように連続的に配置した。得られたストランドを冷却後、カッターでペレット長7mmに切断して、炭素繊維(A)束の長さと成形材料の長さが実質的に同じである長繊維ペレット(X-1)とした。この時、(A)、(C)および(D)の合計100重量部に対し、炭素繊維(A)が30重量部となるように、炭素繊維(A)束の引取速度を調整した。
【0178】
(製造例2)炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(X-2)
上記に示した、製造例1と同様にして長繊維ペレット(X-2)を作製した。この時、(A)、(C)および(D)の合計100重量部に対し、炭素繊維(A)が40重量部となるように、炭素繊維(A)束の引取速度を調整した。
【0179】
(製造例3)有機繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(Y-1)
上記に示した有機繊維(B)束に、表1に示す割合で化合物(I)を含浸させた複合体(J)を、(株)日本製鋼所製TEX-30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、L/D=32)の先端に設置された電線被覆法用のコーティングダイ中に通した。一方、表1に示した熱可塑性樹脂(H)をTEX-30α型2軸押出機のメインホッパーから供給し、スクリュー回転数200rpmで溶融混練した。2軸押出機からダイ内に溶融した熱可塑性樹脂(H)を吐出し、複合体(J)の周囲を被覆するように連続的に配置した。得られたストランドを冷却後、カッターでペレット長7mmに切断して、有機繊維(B)束の長さと成形材料の長さが実質的に同じである長繊維ペレット(Y-1)とした。この時、(B)、(H)および(I)の合計100重量部に対し、有機繊維(B)が30重量部となるように、有機繊維(B)束の引取速度を調整した。
【0180】
(製造例4)有機繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(Y-2)
上記に示した、製造例3と同様にして長繊維ペレット(Y-2)を作製した。この時、(B)、(H)および(I)の合計100重量部に対し、有機繊維(B)が40重量部となるように、有機繊維(B)束の引取速度を調整した。
【0181】
(製造例5)有機繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(Y-3)
上記に示した、製造例3と同様にして長繊維ペレット(Y-3)を作製した。この時、(B)、(H)および(I)の合計100重量部に対し、有機繊維(B)が50重量部となるように、有機繊維(B)束の引取速度を調整した。
【0182】
(製造例6)有機繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(Y-4)
上記に示した有機繊維(B)束に、表1に示す割合で化合物(I)を含浸させた複合体(J)を、(株)日本製鋼所製TEX-30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、L/D=32)内で溶融させた熱可塑性樹脂(H)と共に、スクリュー回転速度を200rpmに設定し、シリンダー内で溶融混練し、ダイ先端から吐出されるストランドを冷却固化後、カッターでペレット長7mmに切断しペレット(Y-4)を作製した。この時、(B)、(H)および(I)の合計100重量部に対し、有機繊維(B)が30重量部となるように、有機繊維(B)束の引取速度を調整した。
【0183】
(実施例1)
(株)日本製鋼所製TEX-30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、L/D=32)の先端に設置された電線被覆法用のコーティングダイを設置した長繊維強化樹脂ペレット製造装置を使用し、押出機シリンダー温度を220℃に設定し、表2に示した熱可塑性樹脂(C)をメインホッパーから供給し、スクリュー回転数200rpmで溶融混練した。200℃にて加熱溶融させた化合物(D)を、(A)?(C)の合計100重量部に対し、8重量部となるように吐出量を調整し、溶融した熱可塑性樹脂(C)を吐出するダイス口(直径3mm)へ供給して、炭素繊維(A)および有機繊維(B)からなる繊維束(E)の周囲を被覆するように連続的に配置した。この時の繊維束(E)内部断面は、炭素繊維(A)および有機繊維(B)が偏在していた。偏在状態は、炭素繊維(A)、有機繊維(B)のそれぞれ少なくとも一部が、熱可塑性樹脂(C)に接していた。得られたストランドを冷却後、カッターでペレット長7mmに切断し、長繊維ペレットとした。この時、(A)?(C)の合計100重量部に対し、炭素繊維(A)が20重量部、有機繊維(B)が10重量部となるように、引取速度を調整した。
【0184】
こうして得られた長繊維ペレットを、(株)日本製鋼所製射出成形機J110ADを用いて、射出時間5秒、背圧5MPa、保圧力20MPa、保圧時間10秒、シリンダー温度230℃、金型温度60℃の条件で射出成形することにより、成形品としてのISO型ダンベル試験片および80mm×80mm×2mmの試験片を作製した。ここで、シリンダー温度とは、射出成形機の成形材料を加熱溶融する部分の温度を示し、金型温度とは、所定の形状にするための樹脂を注入する金型の温度を示す。得られた試験片(成形品)を、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間静置後に特性評価に供した。前述の方法により評価した評価結果をまとめて表2に示した。
【0185】
(実施例2)
有機繊維(B)にポリエステル(PET)繊維4を用いたこと以外は、実施例1と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果はまとめて表2に示した。
【0186】
(実施例3)
有機繊維(B)にポリエステル(PET)繊維5を用いたこと以外は、実施例1と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果はまとめて表2に示した。
【0187】
(実施例4)
有機繊維(B)にポリエステル(PET)繊維6を用いたこと以外は、実施例1と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果はまとめて表2に示した。
【0188】
(実施例5)
射出成形を射出時間3秒、背圧10MPaと設定したこと以外は、実施例3と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果はまとめて表2に示した。
【0189】
(実施例6)
(A)?(C)の合計100重量部に対し、炭素繊維(A)が30重量部、熱可塑性樹脂(C)が60重量部、化合物(D)が11重量部となるようにした以外は、実施例2と同様にして長繊維ペレットを作製し、評価を行った。評価結果はまとめて表3に示した。
【0190】
(実施例7)
(A)?(C)の合計100重量部に対し、有機繊維(B)が30重量部、熱可塑性樹脂(C)50重量部、化合物(D)が14重量部となるようにした以外は、実施例2と同様にして長繊維ペレットを作製し、評価を行った。評価結果はまとめて表3に示した。
【0191】
(実施例8)
繊維束(E)において、炭素繊維(A)が有機繊維(B)を内包するように配列した以外は、実施例2と同様にして長繊維ペレットを作製し、評価を行った。評価結果はまとめて表3に示した。
【0192】
(実施例9)
繊維束(E)において、有機繊維(B)が炭素繊維(A)を内包するように配列した以外は、実施例2と同様にして長繊維ペレットを作製し、評価を行った。評価結果はまとめて表3に示した。
【0193】
(実施例10)
製造例1により得られた長繊維ペレット(X-1)と製造例3により得られた長繊維ペレット(Y-1)を、(X-1)および(Y-1)の合計100重量部に対して、(X-1)が67重量部、(Y-1)が33重量部となるようにドライブレンドして成形材料を作製した。得られた成形材料全体としては炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)が22重量部、有機繊維(B)が12重量部、熱可塑性樹脂(C)が66重量部、化合物(D)が9重量部となり、この成形材料について、前述の方法により評価した評価結果をまとめて表4に示した。
【0194】
(実施例11)
製造例1により得られた長繊維ペレット(X-1)、製造例4により得られた長繊維ペレット(Y-2)と、表4に示した熱可塑性樹脂(C)のペレットを、(X-1)が17重量部、(Y-2)が75重量部、(C)が8重量部となるようにドライブレンドした以外は、実施例9と同様にして成形材料を作製し、評価を行った。得られた成形材料全体としては炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)が6重量部、有機繊維(B)が33重量部、熱可塑性樹脂(C)が61重量部、化合物(D)が10重量部となり、この成形材料の評価結果はまとめて表4に示した。
【0195】
(実施例12)
製造例2により得られた長繊維ペレット(X-2)および製造例4により得られた長繊維ペレット(Y-2)を、(X-2)および(Y-2)の合計100重量部に対して、(X-2)が75重量部、(Y-2)が25重量部となるようにドライブレンドした以外は、実施例9と同様にして成形材料を作製し、評価を行った。得られた成形材料全体としては炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)が33重量部、有機繊維(B)が11重量部、熱可塑性樹脂(C)が56重量部、化合物(D)が11重量部となり、この成形材料の評価結果はまとめて表4に示した。
【0196】
(実施例13)
長繊維ペレット(Y-1)にかえて製造例6により得られたペレット(Y-4)を用いた以外は、実施例10と同様にして成形材料を作製し、評価を行った。得られた成形材料全体としては炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)が22重量部、有機繊維(B)が11重量部、熱可塑性樹脂(C)が67重量部、化合物(D)が9重量部となり、この成形材料の評価結果はまとめて表4に示した。
【0197】
(比較例1)
有機繊維(B)にPET繊維2を用いたこと以外は、実施例1と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果はまとめて表5に示した。
【0198】
(比較例2)
(A)?(C)の合計100重量部に対し、炭素繊維(A)が3重量部、熱可塑性樹脂(C)が87重量部、化合物(D)が6重量部となるようにした以外は、実施例1と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果はまとめて表5に示した。
【0199】
(比較例3)
(A)?(C)の合計100重量部に対し、炭素繊維(A)が50重量部、熱可塑性樹脂(C)が40重量部、化合物(D)が14重量部となるようにした以外は、実施例1と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果はまとめて表5に示した。
【0200】
(比較例4)
(A)?(C)の合計100重量部に対し、有機繊維(B)が50重量部、熱可塑性樹脂(C)が30重量部、化合物(D)が16重量部となるようにした以外は、実施例1と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果はまとめて表5に示した。
【0201】
(比較例5)
射出成形における背圧力を13MPaとした以外は、実施例1と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果はまとめて表5に示した。
【0202】
(比較例6)
射出成形における射出時間を0.5秒とし、背圧力を15MPaとした以外は、実施例1と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果はまとめて表5に示した。
【0203】
(比較例7)
有機繊維(B)にPET繊維1を用いたこと以外は、実施例1と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果はまとめて表5に示した。
【0204】
(比較例8)
(A)?(C)の合計100重量部に対し、炭素繊維(A)が3重量部、有機繊維(B)が20重量部、熱可塑性樹脂(C)が77重量部、化合物(D)が8重量部となるようにした以外は、実施例1と同様にして長繊維ペレットを作製し、評価を行った。評価結果はまとめて表6に示した。
【0205】
(比較例9)
(A)?(C)の合計100重量部に対し、炭素繊維(A)が10重量部、有機繊維(B)が50重量部、熱可塑性樹脂(C)が40重量部、化合物(D)が16重量部となるようにした以外は、実施例1と同様にして長繊維ペレットを作製し、評価を行った。評価結果はまとめて表5に示した。
【0206】
(比較例10)
繊維束(E)内部断面において、炭素繊維(A)および有機繊維(B)が均一に混在する状態で配列させた以外は、実施例1と同様にして長繊維ペレットを作製し、評価を行った。評価結果はまとめて表6に示した。
【0207】
(比較例11)
製造例1により得られた長繊維ペレット(X-1)と、表7に示した熱可塑性樹脂(C)ペレットを、(X-1)および(C)の合計100重量部に対して、(X-1)が67重量部、(C)が33重量部となるようにドライブレンドした以外は、実施例7と同様にして成形材料を作製し、評価を行った。得られた成形材料全体としては炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)が20重量部、有機繊維(B)が0重量部、熱可塑性樹脂(C)が80重量部、化合物(D)が5重量部となり、この成形材料の評価結果はまとめて表7に示した。
【0208】
(比較例12)
製造例1により得られた長繊維ペレット(X-1)、製造例5により得られた長繊維ペレット(Y-3)と、表7に示した熱可塑性樹脂(C)ペレットを、(X-1)、(Y-3)および(C)の合計100重量部に対して、(X-1)が10重量部、(Y-3)が20重量部、(C)が70重量部となるようにドライブレンドした以外は、実施例7と同様にして成形材料を作製し、評価を行った。得られた成形材料全体としては炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)が3重量部、有機繊維(B)が11重量部、熱可塑性樹脂(C)が86重量部、化合物(D)が3重量部となり、この成形材料の評価結果はまとめて表7に示した。
【0209】
【表1】

【0210】
【表2】

【0211】
【表3】

【0212】
【表4】

【0213】
【表5】

【0214】
【表6】

【0215】
【表7】

【0216】
実施例1?13いずれの材料も、炭素繊維(A)および有機繊維(B)の分散性に優れ、高い衝撃強度(シャルピー衝撃強度)と良好な表面外観を示した。
【0217】
一方、比較例1、7では、有機繊維(B)の数平均繊維径が小さいため、表面外観が不十分であった。比較例2、8、12は、炭素繊維(A)の含有量が少ないため、衝撃強度および曲げ強度が低い結果となった。比較例3は、炭素繊維(A)の含有量が多いため、分散性が低く、衝撃強度および表面外観が低い結果となった。比較例4、9は、有機繊維(B)の含有量が多いため、有機繊維(B)同士の絡み合いが多く、分散性および表面外観が低下し、また、繊維同士の接触増加による繊維破断が起きたため、衝撃強度が低い結果となった。比較例5、6では、炭素繊維(A)または有機繊維(B)の平均繊維長が短いため、繊維補強効果が弱く、衝撃強度が低い結果となった。比較例10は、成形材料の繊維束(E)内部断面において、炭素繊維(A)と有機繊維(B)を均一に混在する状態で配列させたので、繊維束(E)内での繊維同士の絡み合いが多く、炭素繊維(A)の平均繊維長が短くなり、また、成形品内に均一分散せず、衝撃強度が低い結果となった。比較例11は、有機繊維(B)を含まないため、繊維補強効果が弱く、衝撃強度が低い結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0218】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂成形品は、優れた繊維分散性を有し、優れた力学特性、特に衝撃強度と良好な表面外観を有するため、電気・電子機器、OA機器、家電機器、筐体および自動車の部品などに好適に用いられる。
【符号の説明】
【0219】
1 炭素繊維
2 有機繊維
3 熱可塑性樹脂
4 繊維輪郭部A
5 繊維輪郭部Aと向かい合う繊維輪郭部A’
6 最短距離
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5?45重量部、有機繊維(B)を1?45重量部、熱可塑性樹脂(C)を10?94重量部含む繊維強化熱可塑性樹脂成形品であって、
繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記炭素繊維(A)の平均繊維長(L_(A))が0.3?3mmであり、
繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記有機繊維(B)の平均繊維長(L_(B))が0.5?5mmであり、数平均繊維径(d_(B))が35?300μmである繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
【請求項2】
前記繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記有機繊維(B)のアスペクト比(L_(B)[μm]/d_(B)[μm])が5?100である、請求項1に記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
【請求項3】
前記繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記炭素繊維(A)の換算本数n_(A)に対する前記有機繊維(B)の換算本数n_(B)の比(n_(B)/n_(A))が0.001?0.01である、請求項1または2に記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
【請求項4】
前記繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記有機繊維(B)の数平均繊維径(d_(B))が50?150μmである、請求項1?3のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
【請求項5】
前記有機繊維(B)がポリエステル繊維であり、前記熱可塑性樹脂(C)がポリオレフィン樹脂およびポリカーボネート樹脂より選択される少なくとも1種である請求項1?4のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
【請求項6】
炭素繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5?45重量部、有機繊維(B)を1?45重量部、熱可塑性樹脂(C)を10?94重量部、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)を1?25重量部含む成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であって、前記有機繊維(B)の数平均繊維径(d_(B))が35?300μmであり、炭素繊維(A)と有機繊維(B)を含む繊維束(E)に化合物(D)を含浸させてなる複合体(F)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含み、繊維束(E)断面において炭素繊維(A)と有機繊維(B)が偏在し、繊維束(E)の長さと繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の長さが実質的に同じである成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であり、前記有機繊維(B)がポリエステル繊維であり、前記熱可塑性樹脂(C)がポリオレフィン樹脂およびポリカーボネート樹脂より選択される少なくとも1種であり、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記炭素繊維(A)の平均繊維長(L_(A))が0.3?3mmであり、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記有機繊維(B)の平均繊維長(L_(B))が0.5?5mmである成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。
【請求項7】
炭素繊維(A)、熱可塑性樹脂(C)および200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5?45重量部、熱可塑性樹脂(C)を35?94重量部、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(C)より低い化合物(D)を1?25重量部含み、炭素繊維(A)に化合物(D)を含浸させてなる複合体(G)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含み、炭素繊維(A)の長さと炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の長さが実質的に同じである炭素繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(X)と、有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(H)および200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(H)より低い化合物(I)の合計100重量部に対し、有機繊維(B)を1?45重量部、熱可塑性樹脂(H)を35?94重量部、化合物(I)を1?25重量部含み、前記有機繊維(B)の数平均繊維径(d_(B))が35?300μmである有機繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(Y)とを含む成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であり、前記有機繊維(B)がポリエステル繊維であり、前記熱可塑性樹脂(C)がポリオレフィン樹脂およびポリカーボネート樹脂より選択される少なくとも1種であり、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記炭素繊維(A)の平均繊維長(L_(A))が0.3?3mmであり、繊維強化熱可塑性樹脂成形品中における前記有機繊維(B)の平均繊維長(L_(B))が0.5?5mmである成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。
【請求項8】
前記繊維強化熱可塑性樹脂成形材料中における前記有機繊維(B)のアスペクト比(L_(B)/d_(B))が10?500である、請求項6または7に記載の成形品用繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。
【請求項9】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-10-05 
出願番号 特願2016-565713(P2016-565713)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C08J)
P 1 651・ 121- YAA (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 高崎 久子  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 海老原 えい子
橋本 栄和
登録日 2017-04-14 
登録番号 特許第6123956号(P6123956)
権利者 東レ株式会社
発明の名称 繊維強化熱可塑性樹脂成形品および繊維強化熱可塑性樹脂成形材料  

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