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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C07F
管理番号 1346995
審判番号 不服2017-17018  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-11-16 
確定日 2018-12-11 
事件の表示 特願2013- 56814「イソシアナトアルキル-トリアルコキシシラン及び脂肪族のアルキルで分岐したジオール又はポリオールからの付加物」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月30日出願公開、特開2013-194055〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成25年3月19日〔パリ条約による優先権主張 2012年3月19日(DE)ドイツ連邦共和国〕の出願であって、
平成28年3月16日に手続補正がなされ、
平成28年12月2日付けの拒絶理由通知に対して、平成29年3月9日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、
平成29年7月7日付けの拒絶査定に対して、平成29年11月16日に審判請求と同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成29年11月16日にされた手続補正についての補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
平成29年11月16日にされた手続補正を却下する。

〔理由〕
1.補正の内容
平成29年11月16日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、
補正前の請求項1における
「コーティング剤であって、
A)式(I)
OCN-(アルキル)-Si(アルコキシ)_(3) (I)
の化合物と、式(II)
HO-(R)-OH (II)
の化合物との反応からの本発明による付加物であって、前記式中、アルキルは、1?4個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキレン鎖を意味し、アルコキシは、同時に又は互いに独立して、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基もしくはブトキシ基を意味し、かつRは、20個以下の炭素原子を有する分枝鎖状のアルキレン基もしくはシクロアルキレン基を意味し、その際、Rは、ヒドロキシ置換されていてよい前記付加物と、
B)1もしくは複数の結合剤成分と、
C)任意に、4質量%までの少なくとも1種の触媒と、
D)任意に、助剤及び添加剤と、
E)任意に、有機溶剤と
を含有し、
前記成分C)として、C1)60℃を上回る融点を有する少なくとも1種の有機カルボン酸及び/又はC2)少なくとも1種のテトラアルキルアンモニウムカルボキシレートからの触媒を使用する前記コーティング剤。」との記載を、
補正後の請求項1における
「コーティング剤であって、
A)式(I)
OCN-(アルキル)-Si(アルコキシ)_(3) (I)
の化合物と、式(II)
HO-(R)-OH (II)
の化合物との反応からの本発明による付加物であって、前記式中、アルキルは、1?4個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキレン鎖を意味し、アルコキシは、同時に又は互いに独立して、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基もしくはブトキシ基を意味し、かつRは、7?20個の炭素原子を有する分枝鎖状のアルキレン基を意味する前記付加物と、
B)1もしくは複数の結合剤成分と、
C)任意に、4質量%までの少なくとも1種の触媒と、
D)任意に、助剤及び添加剤と、
E)任意に、有機溶剤と
を含有し、
前記成分C)として、C1)60℃を上回る融点を有する少なくとも1種の有機カルボン酸及び/又はC2)少なくとも1種のテトラアルキルアンモニウムカルボキシレートからの触媒を使用する前記コーティング剤。」との記載に改める補正を含むものである(なお、補正に関連する記載箇所に下線を付した。)。

2.補正の適否
(1)補正の目的
上記請求項1についての補正は、補正前の請求項1における「20個以下の炭素原子を有する分枝鎖状のアルキレン基もしくはシクロアルキレン基を意味し、その際、Rは、ヒドロキシ置換されていてよい」との記載部分を、補正後の請求項1において「7?20個の炭素原子を有する分枝鎖状のアルキレン基を意味する」との記載に改めることにより請求項に記載した発明特定事項を限定する補正からなるものであって、その補正前の請求項1に記載される発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、当該補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものに該当する。
そこで、補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について検討する。

(2)引用文献2及びその記載事項
本願優先日前の平成14年3月5日に頒布された刊行物であって、原査定において「引用文献2」として引用された「特表2002-507246号公報」には、次の記載がある。

摘記2a:請求項1及び14
「1.(A)式I

[式中、
R^(1)は、炭化水素基、アシル基、アルキルシリル基、もしくはアルコキシシリル基である;R^(2)は、一価の炭化水素基である;R^(3)はアルキレンであり、場合によっては、1個以上のエーテル酸素原子によって中断される;aは0又は1である;Zは、直接的結合又は二価の有機連結基である;Xはm価の有機基又はHである;及び、mは1-20である]
を有するシラン又はその加水分解物もしくは縮合物の少なくとも一つ;及び
(B)少なくとも一つの有機樹脂成分;
を含有する粉末の塗料組成物又は接着剤組成物。…
14.シランは、イソシアナトアルキルトリアルコキシシランと、2,3-ブタンジオール;1,6-ヘキサンジオール;1,4-シクロヘキサンジメタノール;1,4-シクロヘキサンジオール;1,7-ヘプタンジオール;1,8-オクタンジオール;ペンタエリトリトール;1,12-ドデカンジオール;1,10-ドデカンジオール;3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール;1,9-ノナンジオール;ビスフェノールA;水素化ビスフェノールA;及び、1,4-ブタンジオール;からなる群から選択される一員との付加物であることを特徴とする請求項1?6及び8のいずれか1項に記載の発明。」

摘記2b:第8頁第16?17行
「粉末塗料は数工程を含む。その内、最重要の工程は、成分の前混合である。最初の工程の間、結合剤は他の添加剤と一緒に、装置中で徹底的に混合される。」

摘記2c:第24頁第6行?第25頁第23行
「本発明の塗料組成物に含まれうる通常の塗料用添加剤の例は、加速触媒、顔料、平滑化剤、流動改善剤、光安定化剤、抗酸化剤、充填剤などであるが、全ては当業界で周知である。これらの成分は、本発明の組成物中で通常の量が使用されうる。…
上記シラン化合物は、架橋剤、接着促進剤、及び/又は環境耐性やキズ耐性のようなフィルム性質の改善剤として有用である。…固体が本発明の好適な実施形態であるが、液体又はワックス形態のシランも通常の粉末塗料樹脂システムでの添加剤として使用できる。」

摘記2d:第28頁第21行?第30頁表1の続き(実施例1)
「実施例1
シランカルバメート化合物は、イソシアナトプロピルトリメトキシシランと表1に列挙したポリオールとの反応によって製造された。イソシアナトプロピルトリエトキシシラン:ジオールの2:1.05モル比を用い、ジブチルスズジラウレート(DBTDL)触媒300-500ppmを加えて、総スケール約30gで反応を行わせた。100mLの丸底3首フラスコに磁気攪拌棒を入れた。一側面に温度計を配置した。…固体生成物の生成物形態と融点を表1に示す。



摘記2e:第33頁第2行?第34頁下から12行
「実施例7
粉末塗料組成物7Aと7Bを、表IIに記載した成分から製造した。…表II…7A比較…7B本発明…上記結果によると、本発明のシランを含有する組成物のキズ耐性及び溶媒耐性は、試験した他の性質の劣化なく改良された。」

(3)引用文献2に記載された発明
摘記2aの請求項1及び14の記載からみて、引用文献2には、その請求項1を引用する請求項14に記載された発明として、
『(A)式I

[式中、
R^(1)は、炭化水素基、アシル基、アルキルシリル基、もしくはアルコキシシリル基である;R^(2)は、一価の炭化水素基である;R^(3)はアルキレンであり、場合によっては、1個以上のエーテル酸素原子によって中断される;aは0又は1である;Zは、直接的結合又は二価の有機連結基である;Xはm価の有機基又はHである;及び、mは1-20である]
を有するシラン又はその加水分解物もしくは縮合物の少なくとも一つ;及び
(B)少なくとも一つの有機樹脂成分;
を含有する粉末の塗料組成物又は接着剤組成物であって、
シランは、イソシアナトアルキルトリアルコキシシランと、2,3-ブタンジオール;1,6-ヘキサンジオール;1,4-シクロヘキサンジメタノール;1,4-シクロヘキサンジオール;1,7-ヘプタンジオール;1,8-オクタンジオール;ペンタエリトリトール;1,12-ドデカンジオール;1,10-ドデカンジオール;3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール;1,9-ノナンジオール;ビスフェノールA;水素化ビスフェノールA;及び、1,4-ブタンジオール;からなる群から選択される一員との付加物である粉末の塗料組成物又は接着剤組成物。』についての発明(以下「引2発明」という。)が記載されているといえる。

(4)対比
補正発明と引2発明とを対比する。
引2発明の「イソシアナトアルキルトリアルコキシシラン」は、その「イソシアナトアルキル」の部分が「OCN-(アルキル)-」の構造を意味し、その「トリアルコキシシラン」の部分が「-Si(アルコキシ)_(3)」の構造を意味するので、補正発明の「式(I)」の「OCN-(アルキル)-Si(アルコキシ)_(3)」の構造を有する化合物に相当する。
引2発明の「1,10-ドデカンジオール」は、構造式で表すと「CH_(3)CH_(2)CH(OH)(CH_(2))_(9)OH」で表される化合物(CAS登録番号:39516-27-3)であるから、補正発明の「式(II)」の「HO-(R)-OH」の構造において「R」が「12個の炭素原子を有する分枝鎖状のアルキレン基」の化合物に相当する。
引2発明の「(A)式I[…]を有するシラン」としての「イソシアナトアルキルトリアルコキシシランと、…1,10-ドデカンジオール…からなる群から選択される一員との付加物」は、イソシアナトアルキルトリアルコキシシランと1,10-ドデカンジオールの付加物を含むから、補正発明の「A)式(I)…の化合物と、式(II)…の化合物との反応からの付加物であって、Rは、7?20個の炭素原子を有する分枝鎖状のアルキレン基を意味する前記付加物」に相当する。
引2発明の「塗料組成物」は、補正発明の「コーティング剤」に相当する。

してみると、補正発明と引2発明は、両者とも『コーティング剤であって、
A)式(I)
OCN-(アルキル)-Si(アルコキシ)_(3) (I)
の化合物と、式(II)
HO-(R)-OH (II)
の化合物との反応からの付加物であって、Rは、7?20個の炭素原子を有する分枝鎖状のアルキレン基を意味する前記付加物、
を含有する前記コーティング剤。』という点において一致し、次の〔相違点α〕?〔相違点γ〕において一応相違する。

〔相違点α〕式(I)の化合物と式(II)の化合物との反応からの「本発明の付加物」を構成するための「式(I)」の化合物が、補正発明においては「前記式中、アルキルは、1?4個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキレン鎖を意味し、アルコキシは、同時に又は互いに独立して、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基もしくはブトキシ基を意味」するものに特定されているのに対して、引2発明においては、その「アルキル」が「1?4個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキレン鎖」を意味し、その「アルコキシ」が「メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基もしくはブトキシ基」を意味するものに特定されていない点。

〔相違点β〕式(I)の化合物と式(II)の化合物との反応からの「本発明の付加物」を構成するための「式(II)」の化合物が、補正発明においては「前記式中、…Rは、7?20個の炭素原子を有する分枝鎖状のアルキレン基を意味」するものに特定されているのに対して、引2発明は「2,3-ブタンジオール;1,6-ヘキサンジオール;1,4-シクロヘキサンジメタノール;1,4-シクロヘキサンジオール;1,7-ヘプタンジオール;1,8-オクタンジオール;ペンタエリトリトール;1,12-ドデカンジオール;1,10-ドデカンジオール;3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール;1,9-ノナンジオール;ビスフェノールA;水素化ビスフェノールA;及び、1,4-ブタンジオール;からなる群から選択される一員」であって、例えば「2,3-ブタンジオール」のように、補正発明の式(II)において「Rが4個の炭素原子を有する分枝鎖状のアルキレン基」である化合物などの補正発明の範囲外の化合物をも選択肢として含んでいる点。

〔相違点γ〕コーティング剤が、補正発明においては「B)1もしくは複数の結合剤成分と、C)任意に、4質量%までの少なくとも1種の触媒と、D)任意に、助剤及び添加剤と、E)任意に、有機溶剤とを含有し、前記成分C)として、C1)60℃を上回る融点を有する少なくとも1種の有機カルボン酸及び/又はC2)少なくとも1種のテトラアルキルアンモニウムカルボキシレートからの触媒を使用する」のに対して、引2発明においては「(B)少なくとも一つの有機樹脂成分」を含有するものである点。

(5)判断
ア.上記〔相違点α〕について
引用文献2の第28頁第21?23行(摘記2d)の「実施例1 シランカルバメート化合物は、イソシアナトプロピルトリメトキシシランと表1に列挙したポリオールとの反応によって製造された。」との記載にあるように、引用文献2の「実施例1」では、引2発明の「イソシアナトアルキルトリアルコキシシラン」として「イソシアナトプロピルトリメトキシシラン」が実際に用いられているところ、当該「イソシアナトプロピルトリメトキシシラン」は、補正発明の「式(I)」に照らして、その「アルキル」が「3個の炭素原子を有する直鎖状のアルキレン鎖」を意味し、その「アルコキシ」が「同時」に「メトキシ基」を意味するものに該当する。
してみると、上記〔相違点α〕について、引2発明の「イソシアナトアルキルトリアルコキシシラン」の種類を、引用文献2の「実施例1」において実際に用いられている「イソシアナトプロピルトリメトキシシラン」とすることは、引用文献2の「実施例1」に具体例としての記載があるので、引用文献2の記載に接した当業者が容易に想到し得るものと認められる。

イ.上記〔相違点β〕について
引2発明の「1,10-ドデカンジオール」は、補正発明の「式(II)」の「R」が「12個の炭素原子を有する分枝鎖状のアルキレン基」を意味する化合物に該当するから、上記〔相違点β〕は相違点に該当しない。
また、仮に上記〔相違点β〕に実質上の差異があるとしても、引用文献2の第28?30頁(摘記2d)には、引用文献2に記載の発明の「実施例1」として、補正発明の「式(II)」の定義を満たす「1,2-オクタンジオール」、「1,10-ドデカンジオール」及び「2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール」の3種類のジオールを、補正発明の「式(I)」の定義を満たす「イソシアナトプロピルトリメトキシシラン」と反応させてなる「シランカルバメート化合物」を実際に合成した事例が記載されており、引用文献2の第25頁第21?22行(摘記2c)の「液体又はワックス形態のシランも通常の粉末塗料樹脂システムでの添加剤として使用できる」との記載があるので、引2発明の「式I…を有するシラン」として、引用文献2の「実施例1」において実際に合成された上記3種類のジオールとイソシアナトプロピルトリメトキシシランとの付加物からなるシランを採用することは、引用文献2の「実施例1」に具体例としての記載があるので、引用文献2の記載に接した当業者が容易に想到し得るものと認められる。

ウ.上記〔相違点γ〕について
引2発明の「(B)少なくとも一つの有機樹脂成分」は、本願明細書の段落0028の「本発明によるコーティング剤は…当業者に公知のあらゆる種類の結合剤…が適している。」との記載、及び同段落0033の「結合剤は…樹脂」との記載からみて、引2発明の「有機樹脂成分」という「樹脂」の成分は、補正発明の「結合剤成分」の範疇に含まれるといえるので、補正発明の「B)1もしくは複数の結合剤成分」に相当する。
また、補正発明の「C)任意に、4質量%までの少なくとも1種の触媒と、D)任意に、助剤及び添加剤と、E)任意に、有機溶剤とを含有し、前記成分C)として、C1)60℃を上回る融点を有する少なくとも1種の有機カルボン酸及び/又はC2)少なくとも1種のテトラアルキルアンモニウムカルボキシレートからの触媒を使用する」という事項は「任意」の事項であることから、補正発明と引2発明との対比において相違点を構成しない。
このため、上記〔相違点γ〕は相違点に該当しない。
また、仮に上記〔相違点γ〕に実質上の差異があるとしても、引用文献2の第8頁第16?17行(摘記2b)の「粉末塗料…結合剤は他の添加剤と一緒に、装置中で徹底的に混合される。」との記載にあるように、塗料組成物の技術分野において「結合剤」と「他の添加剤」を含有させることは技術常識として普通に知られているから、引2発明の塗料組成物に、結合剤成分などをさらに含有させるようにすることは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲である。

エ.補正発明の効果
補正発明の効果について検討するに、本願明細書の段落0058には「得られたコーティングは、本発明による生成物を使用した場合に、高光沢性であり、表面薄層がなく、かつ耐化学薬品性であり、かつ耐引掻性である。例2からの本発明によるものではない生成物の場合に、室温硬化後に、薄層の形成によってマットな表面が得られる。」との記載がなされているが、本願明細書の段落0055の「第1表:各例の配合と、生成物の物理化学データ」の試験結果をみるに、補正発明の範囲内にある「例1」のものは、補正発明の範囲外にある「例3」及び「例4」のものに比べて、その「色数(ヘイズ)」が劣っており、同段落0059の「第2表:コーティングの特性」の試験結果をみても、補正発明の範囲内にある「TMH-ジオール」は、補正発明の範囲外にある「NPG」や「HPN」に比べて、格別の効果を奏していない。
これに対して、引用文献2の第34頁(摘記2e)の「本発明のシランを含有する組成物のキズ耐性及び溶媒耐性は、試験した他の性質の劣化なく改良された」との記載にあるように、引用文献2に記載の発明は、光沢などの性質の劣化を生じることなく、キズ耐性(耐引掻性)や溶媒耐性(耐化学薬品性)の改良を達成できるとされているから、補正発明に格別の効果があるとは認められない。

オ.進歩性の総括
以上総括するに、補正発明は、引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

なお、平成29年11月16日付けの審判請求書の第5頁第15?17行の「引用文献1?4に開示された化合物は、何れも、二つの水酸基の間の基Rが7?20個の炭素原子を有する分枝鎖状のアルキレン基を意味する、補正後の本願発明の式(II)の化合物ではありません。」との主張について、引用文献2の表1(摘記2c)の「1,2-オクタンジオール…1,10-ドデカンジオール…2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール」との記載にあるように、引用文献2には、補正発明の式(II)の化合物に該当する化合物が多数記載されているので、審判請求人の上記主張は採用できない。

3.まとめ
以上のとおり、補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、本件補正は、その余のことを検討するまでもなく、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、〔補正の却下の決定の結論〕のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?5に係る発明は、平成29年3月9日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。
そして、本願請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記『第2 1.』に補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は「この出願については、平成28年12月2日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶をすべきものです。」というものであって、
当該「平成28年12月2日付け拒絶理由通知書」には、理由2として「2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」との理由が示され、
その「記」には、「●理由1、2について ・請求項1-6 ・引用文献等 1-3 ・備考…引用文献2には、塗料組成物において、式Iのシラン化合物を添加すること、当該シラン化合物としてイソシアナトアルキルトリアルコキシシランと様々なジオール化合物との付加物を用いることも記載されている(特許請求の範囲、実施例1-5参照)。…<引用文献等一覧>…2.特表2002-507246号公報」との指摘がなされている。

3.判断
本願発明は、補正発明の「Rは、7?20個の炭素原子を有する分枝鎖状のアルキレン基を意味する」という事項を「Rは、20個以下の炭素原子を有する分枝鎖状のアルキレン基もしくはシクロアルキレン基を意味し、その際、Rは、ヒドロキシ置換されていてよい」という事項に拡張したものであるから、本願発明は補正発明を包含するものである。
してみると、上記『第2 2.(3)?(5)』に示したのと同様の理由により、本願発明は引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本願発明は、本願優先日前に頒布された刊行物である引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条の規定により特許をすることができないものに該当するから、その余の事項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-07-12 
結審通知日 2018-07-17 
審決日 2018-07-31 
出願番号 特願2013-56814(P2013-56814)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07F)
P 1 8・ 575- Z (C07F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 佑一水野 浩之  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 原 賢一
木村 敏康
発明の名称 イソシアナトアルキル-トリアルコキシシラン及び脂肪族のアルキルで分岐したジオール又はポリオールからの付加物  
代理人 上島 類  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 前川 純一  
代理人 二宮 浩康  

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