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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02K
管理番号 1347007
審判番号 不服2016-14609  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-09-29 
確定日 2018-12-05 
事件の表示 特願2013-548638「磁気的に孤立した相内部永久磁石電気回転機械」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 7月19日国際公開、WO2012/097107、平成26年 4月 3日国内公表、特表2014-508491〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2012年(平成24年)1月11日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年1月11日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成27年9月15日付けの拒絶理由の通知に対し、平成27年12月24日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成28年5月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成28年9月29日に審判の請求がなされ、その審判の請求と同時に手続補正がなされ、その後、当審において、平成29年9月25日付けで拒絶理由が通知され、平成30年3月26日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。

第2 本願発明

本願の請求項に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1ないし91に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「複数の電場相を有する機械のための磁気孤立相固定子を含む装置であって、
前記磁気孤立相固定子は少なくとも一つの固定子相セクションを含み、
前記少なくとも一つの固定子相セクションは、少なくとも二つの固定子歯と、前記少なくとも二つの固定子歯の間の角度距離を有する少なくとも一つの巻きスロットと、及び、前記少なくとも一つの巻きスロットの角度距離を前記電場相の数の逆数と掛けたものに等しい、オフセット角度距離を有する少なくとも一つの磁気的に不活性な孤立領域と
を備える、装置。」

第3 拒絶の理由

平成29年9月25日付けで当審が通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)のうちの理由A及びBは、次のとおりのものである。
A.本願発明は、本願の優先権主張の日(以下、「優先日」という。)前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用例1又は2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
B.本願発明は、優先日前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、以下の引用例3に記載された発明及び引用例5に記載された事項に基いて、また以下の引用例4に記載された発明及び引用例5に記載された事項に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用例1.特開2003-88011号公報
引用例2.特開2006-340425号公報
引用例3.特表平6-502064号公報
引用例4.特公昭61-14743号公報
引用例5.特開平9-233790号公報

第4 引用例の記載及び引用発明

1.引用例1の記載及び引用発明1
(1)引用例1には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。)。
ア.「【請求項1】 周方向に等間隔に磁極を有するマグネットを備えたロータと、ティースに巻線を巻回して、前記ロータを回転させるための回転磁界を発生するU相,V相,W相コイルを備えたステータとを有し、
前記マグネットの極数Pと、前記ティースの数Tとの関係が、
P=14n、かつ、T=12n(但し、nは1以上の整数)
を満たすように構成されるブラシレスモータにおいて、
前記ティースを2つずつU相,V相,W相と順次割り当て、各相に割り当てられた一方のティース間の中心角θ1を、
θ1=(360°×2/T)
とし、その一方のティースに対して他方に配置するティースの中心角θ2を、
(360°/P)≦θ2<(360°/T)
の範囲内として、各ティースの位置を決定したことを特徴とするブラシレスモータ。
【請求項2】 請求項1に記載のブラシレスモータにおいて、
前記各相の一方のティースに対して他方に配置するティースの中心角θ2を、
θ2=(360°/P)
として、各ティースの位置を決定したことを特徴とするブラシレスモータ。」
イ.「【0013】本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、モータ体格を大きくすることなく、高出力とすることができるブラシレスモータ及びブラシレスモータのステータを提供することにある。」
ウ.「【0014】
【課題を解決するための手段】上記問題点を解決するため、請求項1に記載の発明は、周方向に等間隔に磁極を有するマグネットを備えたロータと、ティースに巻線を巻回して、前記ロータを回転させるための回転磁界を発生するU相,V相,W相コイルを備えたステータとを有し、前記マグネットの極数Pと、前記ティースの数Tとの関係が、
P=14n、かつ、T=12n(但し、nは1以上の整数)
を満たすように構成されるブラシレスモータにおいて、前記ティースを2つずつU相,V相,W相と順次割り当て、各相に割り当てられた一方のティース間の中心角θ1を、
θ1=(360°×2/T)
とし、その一方のティースに対して他方に配置するティースの中心角θ2を、
(360°/P)≦θ2<(360°/T)
の範囲内として、各ティースの位置を決定した。
【0015】請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のブラシレスモータにおいて、前記各相の一方のティースに対して他方に配置するティースの中心角θ2を、
θ2=(360°/P)
として、各ティースの位置を決定した。」
エ.「【0028】図1は、本実施の形態のブラシレスモータの概略構成を示す。この形態のブラシレスモータ11は、従来例と同様に、マグネットの極数Pが「14」、ティースの数Tが「12」となるように構成されている。尚、本実施形態のモータ11は、従来と同様のロータ6を用いて構成されている。即ち、ロータ6は、中心角が360°/14(≒25.7°)で等間隔にN,S極を着磁した極数「14」のマグネット9を有している。」
オ.「【0029】これに対し、ステータ12は、円環状のステータコア外輪3、ステータコア内輪14、及び、U相、V相、W相コイル5U,5V,5Wで構成される。・・・(中略)・・・
【0030】一方、内輪14には、放射状に延びる第1?第12ティース14a?14lが形成されている。尚、第1?第12ティース14a?14lは、図1において時計回り方向に順次配置されている。
【0031】各相の一方(左側)のティースである第1,第3,第5,第7,第9,第11ティース14a,14c,14e,14g,14i,14kは、それぞれ中心角が60°等間隔で配置されている。」
カ.「【0032】更に、第1ティース14aと第2ティース14bとは、中心角が360°/14(≒25.7°)となるように配置され、第7ティース14gと第8ティース14hとは、中心角が360°/14(≒25.7°)となるように配置されている。・・・(中略)・・・そして、各ティース14a,14b,14g,14hには、それぞれ巻線が集中巻きされて、前記U相コイル5Uを構成する第1?第4U相コイル5u1?5u4が構成されている。」
キ.「【0034】又、第3ティース14cと第4ティース14dとは、中心角が360°/14(≒25.7°)となるように配置され、第9ティース14iと第10ティース14jとは、中心角が360°/14(≒25.7°)となるように配置されている。・・・(中略)・・・そして、各ティース14c,14d,14i,14jには、それぞれ巻線が集中巻きされて、前記V相コイル5Vを構成する第1?第4V相コイル5v1?5v4が構成されている。」
ク.「【0036】又、第5ティース14eと第6ティース14fとは、中心角が360°/14(≒25.7°)となるように配置され、第11ティース14kと第12ティース14lとは、中心角が360°/14(≒25.7°)となるように配置されている。・・・(中略)・・・そして、各ティース14e,14f,14k,14lには、それぞれ巻線が集中巻きされて、前記W相コイル5Wを構成する第1?第4W相コイル5w1?5w4が構成されている。」
ケ.「【0041】このように構成されたブラシレスモータ11では、図示しない励磁回路からそれぞれ120°位相がずれたU相,V相,W相励磁電流が各相のコイル5U,5V,5Wに対して供給される。すると、各相のコイル5U,5V,5Wがそれぞれ励磁されてステータ12に回転磁界が発生し、その回転磁界に基づいてロータ6は回転する。
【0042】この場合、本実施形態では、各ティース14a?14lを上記のように配置したことで、図1に示すように、例えば第1ティース14aの周方向の中心線上にマグネット9のN極の周方向の中心が配置されたとき、第2ティース14bの周方向の中心線とマグネット9のS極の周方向の中心とが一致する。そのため、第1,第2ティース14a,14bに巻回された第1,第2U相コイル5u1,5u2の誘起電圧V1,V2に対応させてみると(図示略)、各誘起電圧V1,V2の位相のずれが解消される。
【0043】つまり、各誘起電圧V1,V2のプラス側のピーク値を「1」とした場合、上記のように各誘起電圧V1,V2の位相のずれがなくなることから、図5に示すように、各誘起電圧V1,V2を合成した一対のU相コイル5u1,5u2の合成誘起電圧V0は、そのプラス側のピーク値が最大値「2」となる。又、このことは、第7,第8ティース14g,14hに巻回された第3,第4U相コイル5u3,5u4や、V相,W相コイル5V,5Wについても同様のことが言える。従って、この形態のモータ11では、各相のコイル5U?5Wに供給される駆動電流を回転磁界に変換するときの変換ロスが小さく抑えられている。」
コ.「【0044】次に、上記の構成を、一般的なブラシレスモータに適用してみる。マグネットの極数を「P」とし、ティースの数を「T」とした場合、
P=14n、かつ、T=12n(但し、nは1以上の整数)
を満たすように構成されたブラシレスモータにおいて、先ず、「n」を任意に設定して、マグネットの極数P及びティースの数を決定する。
【0045】次に、ティースを2つずつU相→V相→W相→U相→V相→W相…と割り当てる。このとき、各相に割り当てられた一方(左側)のティース間の中心角θ1を次式により決定する。
θ1=(360°×2/T)
そして、求められた「θ1」に基づいて、各相に割り当てられた一方(左側)のティースの位置が決定される。
【0046】次に、位置が決定された一方(左側)のティースに対して、他方(右側)に配置するティースの中心角θ2を次式により決定する。
(360°/P)≦θ2<(360°/T)
そして、求められた「θ2」に基づいて、一方(左側)のティースに対する他方(右側)のティースの位置が決定される。このとき、「θ2」が(360°/P)、即ちマグネット9の各磁極の中心角に近づくほど、各相毎に各ティースの周方向の中心線とマグネットの各磁極の周方向の中心との位置ずれが小さくなる。つまり、各ティースに巻回されたコイルの誘起電圧の位相のずれが小さくなり、図5に示すように、各相のコイルの合成誘起電圧が最大値に近づく。その結果、各コイルに供給される駆動電流を回転磁界に変換するときの変換ロスが小さくなる。
【0047】更に、θ2=(360°/P)とすると、各相毎に各ティースの周方向の中心線とマグネットの各磁極の周方向の中心とが一致するので、各ティースに巻回されたコイルの誘起電圧の位相のずれがなくなる。従って、図5に示すように、各相のコイルの合成誘起電圧が最大値となり、駆動電流を回転磁界に変換するときの変換ロスが最も小さくなる。」
サ.「【0052】上記したように、本実施形態のブラシレスモータ11は、以下のような特徴がある。
(1)本実施形態のブラシレスモータ11は、n=1とし、マグネット9の極数Pが「14」、ティースの数Tが「12」で構成されている。そして、各相に割り当てられた一方(左側)のティース、即ち第1,第3,第5,第7,第9,第11ティース14a,14c,14e,14g,14i,14k間の中心角θ1を「60°」とし、該ティース14a,14c,14e,14g,14i,14kに対して、他方(右側)に配置するティース、即ち第2,第4,第6,第8,第10,第12ティース14b,14d,14f,14h,14j,14lの中心角θ2を「360°/14(≒25.7°)」として、各ティース14a?14lの位置が決定される。そのため、各相毎に各ティース14a?14lの周方向の中心線とマグネット9の各磁極の周方向の中心とが一致するので、各ティース14a?14lに巻回されたコイル5u1?5u4,5v1?5v4,5w1?5w4の誘起電圧の位相のずれがなくなる。従って、各相のコイル5U,5V,5Wの合成誘起電圧が最大値となり、各コイル5U,5V,5Wに供給される駆動電流を回転磁界に変換するときの変換ロスを最も小さくすることができる。その結果、モータ体格を大きくすることなく、確実に高出力とすることができる。」
シ.「【0058】○上記実施形態では、マグネット9の極数Pが「14」、ティースの数Tが「12」でモータ11を構成したが、
P=14n、かつ、T=12n(但し、nは1以上の整数)
を満たすその他のモータであってもよい。この場合、ティースの位置を適宜変更して対応する。」
(2)そうすると、これらの事項からみて、引用例1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「周方向に等間隔に磁極を有するマグネットを備えたロータと、ティースに巻線を巻回して、前記ロータを回転させるための回転磁界を発生するU相,V相,W相コイルを備えたステータとを有するブラシレスモータのステータであって
前記マグネットの極数Pと、前記ティースの数Tとの関係が、P=14n、かつ、T=12n(但し、nは1以上の整数)を満たし、
前記ティースを2つずつU相,V相,W相と順次割り当て、各相に割り当てられた一方のティース間の中心角θ1を、θ1=(360°×2/T)とし、
その一方のティースに対して他方に配置するティースの中心角θ2を、θ2=(360°/P)として、各ティースの位置を決定した、ステータ。」

2.引用例2の記載及び引用発明2
(1)引用例2には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。)。
ア.「【請求項1】
複数の磁極がそれぞれ等角度幅で設けられた環状のマグネットと、
このマグネットと対向して所定のピッチで円弧状に配列された3n個(n:2以上の整数)のスロットを有するコアと、
前記スロットにそれぞれ巻回された3n個のコイルと、を備え、
前記3n個のコイルへの通電により前記マグネットと前記コアとが同芯で相対的に回転移動するよう構成されたモータにおいて、
前記3n個のコイルを、隣接するn個のコイルを1つの相とする3相として構成し、
前記所定のピッチを、前記3相における各相の前記n個のコイルが巻回されたn個の前記スロットについては、前記等角度幅と同じ角度ピッチとする一方、異なる相間で隣接するスロット同士については、前記等角度幅の略4/3倍の角度ピッチとして成ることを特徴とするモータ。」
イ.「【0021】
そこで本発明が解決しようとする課題は、コアが環状であっても、スロットを一部削除した円弧状であっても、マグネットの磁束の活用効率が向上し、小型で、消費電力が少なく、安価でありながら、大きなトルクが得られるモータを提供することにある。」
ウ.「【0022】
上記の課題を解決するために、本願発明は手段として次の構成を有する。
〔1〕 複数の磁極がそれぞれ等角度幅で設けられた環状のマグネット(8)と、このマグネット(8)と対向して所定のピッチで円弧状に配列された3n個(n:2以上の整数)のスロット(6S)を有するコア(6)と、前記スロット(6S)にそれぞれ巻回された3n個のコイル(7)と、を備え、前記3n個のコイル(7)への通電により前記マグネット(8)と前記コア(6)とが同芯で相対的に回転移動するよう構成されたモータにおいて、
前記3n個のコイル(7)を、隣接するn個のコイルを1つの相とする3相(U,V,W)として構成し、前記所定のピッチを、前記3相(U,V,W)における各相の前記n個のコイル(7)が巻回されたn個の前記スロット(6S)については、前記等角度幅と同じ角度ピッチとする一方、異なる相間で隣接するスロット同士については、前記等角度幅の略4/3倍の角度ピッチとして成ることを特徴とするモータ(51)である。」
エ.「【0025】
<第1実施例>
・・・(中略)・・・
まず、図1を用いてこのモータ51について説明する。
・・・(中略)・・・
【0026】
このモータ51は、ステータSとロータRとよりなり、インナーロータの3相駆動構造とされている。
ステータSは、モータベース5と、その中心付近に形成された貫通孔5aに固着され一端側にフランジ部11aを有する略円筒状のハウジング11と、モータベース5にハウジング11と同心で固定された略環状のコア6とを含んで構成される。」
オ.「【0027】
コア6は図2に示す形態である。すなわち、一部が欠落した環状であり、等角度で内側に突出する複数のスロット6Sを備えている。尚、この図は巻回されたコイル7-1?7-9も記載されている。
このスロットは、9極分、すなわち、スロット6S1?6S9が設けられている。当図では各極の番号を〔1〕?〔9〕として示しており、スロット61?6S9がそれぞれの極番号と対応している。
上述したように、このモータ51は3相駆動され、スロット6S1?6S3、スロット6S4?6S6及びスロット6S7?6S9が各相に対応するようコイルが巻回されている。この巻回についての詳細は後述する。
各相のスロット間は、30°ピッチで配置されており、隣接する相のスロット間、すなわち、6S3と6S4との間及び6S6と6S7との間隙は10°に設定されている。換言すれば、異なる相の隣接するスロットのピッチは40°に設定されている。」
カ.「【0030】
一方、ロータRは、シャフト部1を有する略カップ状のハブ2と、所定の磁極数で着磁されハブ2の外周面に固着されたリング状のマグネット8と、内周面に固着されたスラストリング12と、シャフト部1の外周面に挿着された外筒部13とを含んで構成されている。」
キ.「【0032】
次に、マグネット8の磁極数と、コア6に巻回されたコイル7の数と、欠落部L(以下、スペースLとも称する)の関係について図2?図4を用いて説明する。
図4に、この第1実施例のモータ51において取り得るスロットの数,マグネットの着磁極数及びそれらの配置ピッチ等の関の一部を示す。
この実施例においては、常に同じタイミング(位相)で通電される同相のn個のスロット(n:2以上の整数)は、マグネット8の着磁ピッチと同じピッチで配置されている。
また、別相で隣接するスロットの配設ピッチは、マグネットの着磁ピッチの4/3倍とされている。
これにより、1つの相が占める角度範囲は、n個のスロットに対し着磁極数で(n-1)+(4/3)=n+(1/3)であり、3相モータであることから、スロット全体が占める角度範囲は、3×{n+(1/3)}=3n+1となる。」
ク.「【0034】
・・・(中略)・・・
この図4に示した範囲のうち、モータとして成立するものにつき、理解を容易にするためにマグネットとコアとをそれぞれ直線状に表した模式図を、図3(a)?(f)に示す。
この図において右端に斜線で示す範囲は、図4示す極数分について、それに対向するスロットがない範囲、すなわち、スペースLに相当する範囲であり、少なくともこの範囲に一方の記録再生ヘッド71Bを配置することができる。
図3(c)で示す10極9スロットの場合は、コアの全周に渡りスロットが配置されスペースLは確保できないが、モータとしての効率は高く、トルク定数の高いモータを容易に得ることができる形態である。」
(2)そうすると、これらの事項からみて、引用例2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「複数の磁極がそれぞれ等角度幅で設けられた環状のマグネットと、
このマグネットと対向して所定のピッチで円弧状に配列された3n個(n:2以上の整数)のスロットを有するコアと、
前記スロットにそれぞれ巻回された3n個のコイルと、を備え、
前記3n個のコイルへの通電により前記マグネットと前記コアとが同芯で相対的に回転移動するよう構成され、
前記3n個のコイルを、隣接するn個のコイルを1つの相とする3相として構成したモータのコア及びコイルであって、
前記コアは、前記所定のピッチを、前記3相における各相の前記n個のコイルが巻回されたn個の前記スロットについては、前記等角度幅と同じ角度ピッチとする一方、異なる相間で隣接するスロット同士については、前記等角度幅の4/3倍の角度ピッチとして成る、コア及びコイル。」

3.引用例3の記載及び引用発明3
(1)引用例3には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。)。
ア.「1.電気装置であって、
等間隔で交互に形成され、かつ電機子極の端部と対向するように配列された異なる磁極を有する界磁磁石と、
電極子鉄心と電機子巻線を備えた電機子であって、前記鉄心は突出した磁極を備え、これらの磁極の各1つは電気巻線により巻かれて複数位相の電力源に接続されている前記電機子と、
前記界磁磁石の前記磁極と前記電機子との間に空隙か存在するような方法により、相対的に動くように配列されている前記界磁磁石および前記電機子とから成り、
前記磁極は、磁極グループの巻線が同一電気位相に接続されるような方法により磁極グループを構成し、各磁極グループは少なくとも2つの磁極を含み、磁極グループの各磁極は同一磁極グループの他の磁極に隣接して配置され、磁極グループ間で同一位相に接続され、位相ごとに1つ以上の磁極グループがある場合は他の電気位相に接続されている少なくとも1つの磁極グループがあり、
磁極グループの前記磁極のピッチは前記界磁磁石の磁極のピッチに等しく、
磁極グループに属していない磁極は磁束バランシング極であって、磁束バランシング極の各1つは隣接する2つの磁極グループに隣接し、かつ隣接する2つの磁極グループの中間に配置され、前記磁束バランシング極は巻線が無いか、あるいは磁極グループの各磁極に属している巻線のターン数と異なるターン数の巻線、たとえば、前記磁極グループの各磁極に属している巻線のターン数と比較して少ないターン数の巻線を備えている、
ことを特徴とする電気装置。
2.請求項1記載の電気装置であって、全磁極グループは同数の磁極を含んでいることを特徴とする電気装置。
・・・(中略)・・・
4.請求項1?請求項3のいずれか1つに記載の電気装置であって、前記磁束バランシング極のピッチ長は(n/p).aであって、ここn(当審注:「n」は「p」の誤記)は、位相の数、p(当審注:「p」は「n」の誤記)は共通する整数因数を持たない小さい自然数であり、aは前記磁極グループの各磁極のピッチ長、であることを特徴とする電気装置。」(特に第2ページ右上欄第2行?左下欄第18行)
イ.「本発明は乗用車用電気動力機構列に関し、特に該装置に適応される電動機、インバータおよびスイッチに関する。また、ある場合には本動力機構列のコンポーネントを個別に他の目的に使用することもできる。
・・・(中略)・・・
本発明による装置は、電動機や発電機について同等かつ適切に使用することができる。ここに説明する実施例がすべて等しく発電機に使用できるとしても、本説明では電動機という言葉を一般的に使用する。」(第5ページ右下欄第4行(空白行を除く)?第6ページ左上欄第3行)
ウ.「添付の請求の範囲の中で詳細に記述されている諸特長により本発明の目的と利点が達成される。
本発明の目的は、永久磁石化された回転子と、以下の特長を備えた固定子の配列を使用することによって達成される。すなわち、この固定子の配列により、高エネルギー磁性材料の使用が可能となり、単相の巻線を各磁極の周囲に使用することにより、磁束を運ぶ小量の鉄と小量の短い銅の巻線を一様かつ効率的に使用することが可能となり、さらに限定した相数(普通は3相或いは6相)のグループ化した磁極、したがって小数の相の駆動用電子回路を使用することにより、同期して磁束が変化することが可能となるのである。
・・・(中略)・・・
本発明による高度に小型でかつ効率的な電動機/発電機は、高トルクと軽量であることの利点の故に他のアプリケーションにも使用できる。
最も一般的な形態では、本発明は第1に電気装置、電動機や発電機を問題とする。普通の場合は回転型であるがリニヤ設計も可能であり、この場合は磁極のある界磁磁石があり、界磁磁石は固定式或いは回転式である。好適例に於ける磁極は界磁磁石支持体の表面或いは外周に等間隔或いは等ピッチで取り付けられている。従来の方法によれば界磁磁石支持体は高透磁率の材料からつくられている。
電機子(armature)の磁極とすぐ反対側に磁極が配置される。この電機子は可動型、たとえば回転型か固定型かのいずれかである。電機子は界磁磁石に関して移動することができるか、或いは回転型の場合は界磁磁石と同心円で回転することができる。電機子には磁心があるが、この磁心からそ磁極が出ており、これらの磁極は電気巻線を備えている。各磁極の巻線は、多数の相を有する電気システムの相の1つに接続されている。
したがって回転型の場合、1つの界磁磁石を支持する軸と、これらの部分の1つを回転運動させ、また第1の界磁磁石の磁極の外周表面と電機子との間の小さな放射状の空隙を維持させる電機子とがある。
本発明は巻かれた電機子とその巻線の接続とを特に問題にしている。このように各磁極は必ず磁極グループの中に含まれる。磁極グループは電機子のセクターに配置されているすべての電機子極を含んでおり、磁極グループの中の全ての磁極は同一相に接続されている巻き線を有している。したがって磁極グループの中の各磁極は同一相に接続された巻き線を有する他の磁極と隣あっている。
この磁極グループの中の電機子極は一般に界磁磁石の磁極と同一のピッチで配置されている。
隣あう磁極グループの間に1つだけの磁束バランシング極(flux balancing poles)が存在するように磁極グループの間に磁束バランシング極が配置される。これらの極は巻かれていないか、或いは磁極グループの磁極の巻線の巻線ターン数に比較して小数のターンの巻線を有する。電機子空隙の外周方向の磁束バランシング極の長さは磁極グループの磁極の対応する長さと大幅に異なり、好適例の場合、この長さはかなり短い。」(第8ページ右下欄第15行?第9ページ左下欄第3行)
エ.「第1図は本発明による電動機の1実施例であり、乗用車の車輪に内蔵された電動機を示す。本電動機はカップ形をした回転子支持成分102の内側の円筒状表面に取り付けられた外側の回転子101を含んでいる。」(第11ページ右上欄第24行?左下欄第2行)
オ.「本発明に関し第1図で最も大事な部分は、回転子101と、固定子110と、巻線111の突出した部分とである。これらの部分により「リング」あるいは円筒が形成される。」(第11ページ左下欄第25行?右下欄第3行)
カ.「第2図は、第1図に示す本発明による実施例に於ける固定子と回転子の配列をその1/6よりやや大きくして示す。第1図の外側回転子101は鉄のような透磁性の材料でつくられた円筒状リング201と、NdFeB、NdPrFeBのような永久磁石でつくられた磁極202とを有し、これらの磁極はリング201の内側円筒状表面に取り付けられている。」(第12ページ右上欄第20行?左下欄第1行)
キ.「第1図の110に示す通り固定子には、大抵の電動機と同様に、たとえば薄板鉄板でつくられたベースリング203がある。磁極片(pole pieces)205を備えた磁束バランシング極204と主極211-216と磁極片206を備えた主極211とは永久磁石202と外側リング201とからの磁束径路を閉じる。」(第12ページ左下欄第8?13行)
ク.「(211-216のように)巻かれた固定子磁極は同一の相に属している巻線を持ち、外周方向に見られる通り、1つまたはそれ以上のグループにグループ化される。つまり各グループの中では、他の相あるいは巻かれていない磁極に属し、当該グループの磁極の間のグループの内側に位置する他の磁極は1つもないように、各磁極は相互に隣あって位置しているのである。第2図の実施例は3相38極の電動機(つまり回転子は38の極を持っている)であり、各相には、それぞれ6つの磁極を持った2つの磁極グループがある。1つの磁極グループに巻かれた固定子磁極はすべて同じ角ピッチを持つ(第2図の実施例の場合、(360/38°))が、これは外側回転子リングの永久磁石磁極のピッチと同一である。第2図の実施例に於ける磁束バランシング極は巻かれた磁極のピッチの1/3を占有する。固定子は図示の通り、6・6=36の巻かれた磁極と6つの磁束バランシング極とを有する。」(第12ページ左下欄第17行?右下欄第8行)
ケ.「第4a図は第1図、第2図および第3図に示す電動機の全体構造の巻線を模式図的に示す。3つの電気相はそれぞれ2つの磁極グループを持つ。したがって磁極211、212、213、214、215、216と241、242、243、244、245および246は1つの相(相1)に属している。各磁極グループの奇数コイルは偶数コイルに対して反対方向に巻かれるか接続され、反対方向の磁界をつくり出す。
永久磁石回転子磁極は等間隔にあり、かつ各磁極グループの磁極は前記回転子磁極と同一ピッチになっているという条件により幾何学的に決定される通り、3相システムの場合を想定すると、磁束バランシング極のピッチは、巻かれた固定子磁極のピッチの1/3、2/3あるいは4/3のいずれかにすることができる。より一般的な場合には、磁束バランシング極によって取られる角ピッチは(n/p)・aでなければならない。ここにnはpで割り切れないか、あるいはpに共通する整数因数を持たない(小さい)自然数、pは電動機の相数、aは作動(巻かれた)磁極のピッチ、である。」(第13ページ左上欄第21行?右上欄第14行)
(2)そうすると、これらの事項からみて、引用例3には次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
「電動機又は発電機の電機子であって、
電機子鉄心と電機子巻線を備え、
前記鉄心は突出した磁極を備え、これらの磁極の各1つは電気巻線により巻かれて複数位相の電力源に接続され、
前記磁極は、磁極グループの巻線が同一電気位相に接続されるような方法により磁極グループを構成し、各磁極グループは少なくとも2つの磁極を含み、磁極グループの各磁極は同一磁極グループの他の磁極に隣接して配置され、磁極グループ間で同一位相に接続され、位相ごとに1つ以上の磁極グループがある場合は他の電気位相に接続されている少なくとも1つの磁極グループがあり、
磁極グループの前記磁極のピッチは界磁磁石の磁極のピッチに等しく、
磁極グループに属していない磁極は磁束バランシング極であって、磁束バランシング極の各1つは隣接する2つの磁極グループに隣接し、かつ隣接する2つの磁極グループの中間に配置され、前記磁束バランシング極は巻線が無く、
全磁極グループは同数の磁極を含んでおり、
前記磁束バランシング極のピッチ長は(1/p)・aであって、ここにpは位相の数、aは前記磁極グループの各磁極のピッチ長である、電機子。」

4.引用例4の記載及び引用発明4
(1)引用例4には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
ア.「1 等ピッチ間隔もしくは、ほぼ等ピッチ間隔に多極着磁された永久磁石と、前記永久磁石と対向して配置された複数個の巻線用突極を有する電機子鉄心と、前記巻線用突極に巻装された多相の巻線を具備し、前記永久磁石と電機子鉄心のうち、いずれか一方を他方に対して回転自在に構成し、前記電機子鉄心が有する突極の前記永久磁石と対向する部分に補助溝を設け、前記永久磁石の1磁極ピッチを基本周期としたときの前記電機子鉄心の突極の間の溝の位相と前記補助溝の位相を異ならせたことを特徴とする回転電機。
・・・(中略)・・・
3 電機子鉄心は巻線用突極の間に永久磁石の着磁面と対向するごとく位置する磁性体製の補助突極を含めて構成されていることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の回転電機。」(特に第1欄第2?12行、第1欄第19?22行)
イ.「第7図は本発明の一実施例の要部構成図である。同図において、永久磁石1は回転中心Oに対して等角度間隔または、ほぼ等角度間隔(22.5°)毎に16極着磁された円環状の磁石であり、回転子を構成している。上記永久磁石1の着磁面に対向して、永久磁石1の1磁極ピッチ(22.5°)とほぼ等しいピッチを有する15個の巻線用突極13a1,13a2,13a3,13a4,13a5,13b1,13b2,13b3,13b4,13b513c1,13c2,13c3,13c4,13c5と、3個の補助突極15a,15b,15cとを有する電機子鉄心12が設置され、これは固定子を構成している。なお、上記補助突極15aは巻線用突極13a5と13b1の間に、補助突極15bは巻線用突極13b5と13c1の間に、そして補助突極15cは巻線用突極13c5と13a1の間にそれぞれ位置せられ、かつ、それらの先端部は前記永久磁石1の着磁面と所要間隙あけて対向するようになっている。
また、前記巻線用突極13a1?13a5,13b1?13b5,13c1?13c5および補助突極15a?15cは一体的に形成され、これらの各突極を有する電機子鉄心12は例えば硅素鋼板積層体などによって構成できる。また、上記の各巻線用突極13a1?13c5には、それぞれ1固(当審注:「固」は「個」の誤記)の巻線14a1,14a2,14a3,14a4,14a5,14b1,14b2,14b3,14b4,14b5,14c1,14c2,14c3,14c4,14c5がそれぞれ巻装されている。第7図より明らかなごとく、上記14(当審注:「14」は「15」の誤記)個の巻線用突極は永久磁石1との相対位置関係について3相の突極ブロックすなわち、13a1?13a5からなる第1の突極ブロック、13b1?13b5からなる第2の突極ブロック、そして13c1?13c5からなる第3の突極ブロックとに分かれている。補助突極15a?15cは上記各突極ブロックの間に配置され、それらの突極ブロックの両側に位置する巻線用突極13a1,13a5,13b1,13b5,13c1,13c5に不要な磁束が流入しないようになっている。そして、各突極ブロックの隣接する巻線用突極は、永久磁石1との相対位置関係について逆相すなわち、一方がN極に対向する場合に他方がS極に対向するようになっている。従って、巻線14a1?14c5は3相の巻線群すなわち、14a1?14a5からなる第1の巻線群14Aと、14b1?14b5からなる第2の巻線群14Bと、14c1?14c5からなる第3の巻線群14Cに分かれることになる。」(第4欄第25行?第5欄第27行)
ウ.「また、本実施例に示すように、各突極ブロックの間に補助突極15a?15cを設けるならば、各突極ブロックの両側に位置する巻線用突極への不要な磁束の流入を防止できるためトルク・リップルを更に減少させ得る。」(第6欄第28?32行)
エ.「また、前述の本発明の実施例においては、3相駆動方式の電動機を例にとって説明したが、本発明は一般の多相駆動方式の電動機について適用可能である。
・・・(中略)・・・もちろん、本発明は電動機とした場合に特に効果的であるが、必要に応じて発電機とすることが可能である。」(第9欄第16行?第10欄第6行)
そして、記載事項イ及び第7図の記載から、以下の事項が理解できる。
オ.固定子は、永久磁石1の着磁面に対向して、永久磁石1の1磁極ピッチ(22.5゜)と等しいピッチを有する15個の巻線用突極13a1,13a2,13a3,13a4,13a5,13b1,13b2,13b3,13b4,13b5,13c1,13c2,13c3,13c4,13c5と、3個の補助突極15a,15b,15cとを有し、補助突極15aは巻線用突極13a5と13b1の間に、補助突極15bは巻線用突極13b5と13c1の間に、補助突極15cは巻線用突極13c5と13a1の間にそれぞれ位置せられる電機子鉄心12と、各巻線用突極13a1?13c5にそれぞれ巻装された1個の巻線14a1,14a2,14a3,14a4,14a5,14b1,14b2,14b3,14b4,14b5,14c1,14c2,14c3,14c4,14c5と、を含んで構成される。
カ.第1?3の突極ブロックは、それぞれ、112.5°の中心角を有し、補助突極15a?15cが配置される、前記各突極ブロックの間の間隔は、7.5°の中心角を有する。
(2)そうすると、これらの事項からみて、引用例4には次の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。
「回転電機の固定子であって、
回転中心Oに対して等角度間隔(22.5゜)毎に16極着磁された円環状の磁石である永久磁石1の着磁面に対向して、永久磁石1の1磁極ピッチ(22.5゜)と等しいピッチを有する15個の巻線用突極13a1,13a2,13a3,13a4,13a5,13b1,13b2,13b3,13b4,13b5,13c1,13c2,13c3,13c4,13c5と、3個の補助突極15a,15b,15cとを有し、補助突極15aは巻線用突極13a5と13b1の間に、補助突極15bは巻線用突極13b5と13c1の間に、補助突極15cは巻線用突極13c5と13a1の間にそれぞれ位置せられる電機子鉄心12と、各巻線用突極13a1?13c5にそれぞれ巻装された1個の巻線14a1,14a2,14a3,14a4,14a5,14b1,14b2,14b3,14b4,14b5,14c1,14c2,14c3,14c4,14c5と、を含んで構成され、
前記15個の巻線用突極は永久磁石1との相対位置関係について3相の突極ブロックすなわち、13a1?13a5からなる第1の突極ブロック、13b1?13b5からなる第2の突極ブロック、そして13c1?13c5からなる第3の突極ブロックとに分かれ、
補助突極15a?15cは、前記各突極ブロックの間に配置され、それらの突極ブロックの両側に位置する巻線用突極13a1,13a5,13b1,13b5,13c1,13c5に不要な磁束が流入しないようになっており、
巻線14a1?14c5は、3相の巻線群すなわち、14a1?14a5からなる第1の巻線群14Aと、14b1?14b5からなる第2の巻線群14Bと、14c1?14c5からなる第3の巻線群14Cに分かれており、
前記第1?3の突極ブロックは、それぞれ、112.5°の中心角を有し、補助突極15a?15cが配置される、前記各突極ブロックの間の間隔は、7.5°の中心角を有する、固定子。」

5.引用例5の記載
(1)引用例5には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。)。
ア.「【請求項2】 内燃機関により駆動されてn個(nは2以上の整数)の放電灯を点灯するための出力を発生する内燃機関駆動放電灯点灯用発電機において、
多極の回転子と、前記回転子の周方向に沿って並ぶm個(mは整数で、m≧n)の歯部を有する固定子鉄心と該固定子鉄心のk個(kはnの整数倍の整数で、k≦m)の歯部にそれぞれ巻回されたk個の放電灯駆動用単位コイルとを有する固定子とを備え、
前記k個の単位コイルは、固定子の周方向に連続的に並ぶp個(pは整数でp=k/n)の歯部にそれぞれ巻回されたp個の単位コイルを1つの単位コイル群としてn個の単位コイル群に分けられて、該n個の単位コイル群によりそれぞれn個の放電灯を個別に駆動するn個の放電灯駆動用発電コイルが構成され、
前記固定子鉄心の各放電灯駆動用発電コイルを構成する単位コイル群が巻回された部分と隣接の放電灯駆動用発電コイルを構成する単位コイル群が巻回された部分との間にコイルが巻回されない歯部が設けられて、前記n個の放電灯駆動用発電コイルの磁気回路どうしの結合がルーズにされ、
各放電灯駆動用発電コイルの出力電圧が出力電流の増大に伴って垂下する特性を呈し、無負荷時の出力電圧が前記放電灯の放電開始電圧よりも高く、短絡電流が前記放電灯の放電開始直後の放電電流を許容値以下に制限するために必要な大きさを有し、かつ定常時の放電灯の端子電圧及び放電電流を定格範囲に保つように、出力電圧対出力電流特性が設定されていることを特徴とする内燃機関駆動放電灯点灯用発電機。
【請求項3】 内燃機関により駆動されてn個(nは2以上の整数)の放電灯を点灯するための出力を発生する内燃機関駆動放電灯点灯用発電機において、
多極の回転子と、前記回転子の周方向に沿って並ぶm個(mは整数で、m≧n)の歯部を有する固定子鉄心と該固定子鉄心のk個(kはnの整数倍の整数で、k≦m)の歯部にそれぞれ巻回されたk個の放電灯駆動用単位コイルとを有する固定子とを備え、
前記k個の単位コイルは、固定子の周方向に連続的に並ぶp個(pは整数でp=k/n)の歯部にそれぞれ巻回されたp個の単位コイルを1つの単位コイル群としてn個の単位コイル群に分けられて、該n個の単位コイル群によりそれぞれn個の放電灯を個別に駆動するn個の放電灯駆動用発電コイルが構成され、
前記固定子鉄心の各放電灯駆動用発電コイルを構成する単位コイル群が巻回された部分と隣接の放電灯駆動用発電コイルを構成する単位コイル群が巻回された部分との間に磁気的な空隙が設けられて、前記n個の放電灯駆動用発電コイルの磁気回路どうしの結合がルーズにされ、
各放電灯駆動用発電コイルの出力電圧が出力電流の増大に伴って垂下する特性を呈し、無負荷時の出力電圧が前記放電灯の放電開始電圧よりも高く、短絡電流が前記放電灯の放電開始直後の放電電流を許容値以下に制限するために必要な大きさを有し、かつ定常時の放電灯の端子電圧及び放電電流を定格範囲に保つように、出力電圧対出力電流特性が設定されていることを特徴とする内燃機関駆動放電灯点灯用発電機。」
イ.「【0012】本発明においては、上記発電機の固定子に、複数の放電灯駆動用発電コイルが相互に及ぼし合う電機子反作用を抑制するために該複数の放電灯駆動用発電コイルの磁気回路(各発電コイルに鎖交する磁束が流れる磁気回路)どうしの結合をルーズにする手段を設けた。
・・・(中略)・・・
【0014】また「複数の放電等駆動用発電コイルの磁気回路どうしの結合をルーズにする」とは、各放電灯駆動用発電コイルから放電灯に流れる負荷電流により他の放電灯駆動用発電コイルに生じる電圧変動を、放電等の点灯に支障を来さない範囲に抑えることができる程度に、複数の放電灯駆動用発電コイルの磁気回路どうしの磁気結合を粗にすること(各放電灯駆動用発電コイルの磁気回路に他の放電灯駆動用発電コイルと鎖交した磁束が殆ど流れないようにすること)を意味する。」
ウ.「【0044】図4は本発明で用いるのに適した磁石式交流発電機の構成例を示したもので、この発電機は、環状の継鉄部20aの外周部に多数(図示の例では20個)の歯部T1?T20を等角度間隔で形成した構造を有する固定子鉄心20の所定の歯部T2,T3,…にそれぞれ単位コイルu2,u3,…を巻回してなる固定子22と、カップ状に形成されたフライホイール23の周壁部23aの内周に環状を呈するように永久磁石24を固定して該永久磁石24を所定の極数(図示の例では固定子の歯部の数に等しい20極)に着磁して回転子磁極M1?M20を構成したものからなる磁石回転子25とからなっている。」
エ.「【0046】図示の例では、固定子鉄心に設けられた20個の歯部のうち、16個の歯部に単位コイルを巻回している。そして、固定子の周方向に連続的に並ぶ4個の歯部にそれぞれ巻回した4個の単位コイルを1つの単位コイル群として、16個の単位コイルを4個の単位コイル群に分け、各単位コイル群により各放電灯駆動用発電コイルを構成している。
【0047】更に詳細に説明すると、固定子鉄心の歯部T2ないしT5にそれぞれ巻回された単位コイルu2ないしu5を1つの単位コイル群として、これらの単位コイルをそれぞれの極性を合わせた状態で(それぞれの誘起電圧が同極性で相加わる状態で)直列に接続することにより、図1及び図2に示した第1の放電灯駆動用発電コイルW1を構成している。」
オ.「【0051】図4に示した例では、固定子鉄心の放電灯駆動用発電コイルW1?W4をそれぞれ構成する単位コイル群が巻回された部分の間に、コイルが巻回されない空き歯部T1,T6,T11,T16を設けて、これらの空き歯部T1,T6,T11,T16により隣接する放電灯駆動用発電コイルの磁気回路どうしの結合をルーズにしている。」
カ.「【0055】図4に示した例では、固定子鉄心の各放電灯駆動用発電コイルを構成する単位コイル群が巻回された部分と隣接の放電灯駆動用発電コイルを構成する単位コイル群が巻回された部分との間にコイルが巻回されない空き歯部を設けることにより、隣り合う放電灯駆動用発電コイルの磁気回路どうしの結合をルーズにしているが、固定子鉄心の各放電灯駆動用発電コイルを構成する単位コイル群が巻回された部分と、隣接の放電灯駆動用発電コイルを構成する単位コイル群が巻回された部分との間(複数の放電灯駆動用発電コイルの磁気回路相互間)に磁気的な空隙を設けることにより、隣り合う放電灯駆動用発電コイルの磁気回路どうしの結合をルーズにするようにしてもよい。
【0056】図6は、複数の放電灯駆動用発電コイルの磁気回路相互間に空隙を設けることにより、隣り合う放電灯駆動用発電コイルの磁気回路どうしの結合をルーズにした例を示したもので、この例では、図4に示した発電機の固定子鉄心20から歯部T1,T6,T11及びT16を無くすとともに、継鉄部20aの歯部T1,T6,T11及びT16がそれぞれ設けられていた部分に空隙G1?G4を形成することにより、固定子鉄心20を4つの分割鉄心20A?20Dに分割している。その他の点は、図4に示した発電機と同様である。」
そして、これら記載事項及び図4及び6の記載から、次の事項が理解できる。
キ.固定子の周方向に連続的に並ぶp個(pは整数でp=k/n)の歯部にそれぞれ巻回されたp個の単位コイルを1つの単位コイル群とし、
一の単位コイル群の磁気回路と隣接する他のコイル群の磁気回路の結合をルーズにするために、固定子鉄心の前記一の単位コイル群が巻回された部分と前記隣接する他の単位コイル群が巻回された部分との間にコイルが巻回されない歯部又は磁気的な空隙のいずれかを設ける。
(2)そうすると、これらの事項からみて、引用例5には次の技術が記載されていると認められる。
「発電機の固定子であって、永久磁石を所定の極数に着磁して回転子磁極を構成したものからなる多極の回転子の周方向に沿って並ぶm個(m,nは整数で、m≧n≧2)の歯部を有する固定子鉄心と該固定子鉄心のk個(kはnの整数倍の整数で、k≦m)の歯部にそれぞれ巻回されたk個の単位コイルとを有する固定子において、
固定子の周方向に連続的に並ぶp個(pは整数でp=k/n)の歯部にそれぞれ巻回されたp個の単位コイルを1つの単位コイル群とし、
一の単位コイル群の磁気回路と隣接する他の単位コイル群の磁気回路の結合をルーズにするために、前記固定子鉄心の前記一の単位コイル群が巻回された部分と前記隣接する他の単位コイル群が巻回された部分との間に、コイルが巻回されない歯部又は磁気的な空隙のいずれかを設ける。」

第5 対比及び判断

1.引用発明1について
本願発明と引用発明1とを対比する。
本願明細書、特許請求の範囲及び図面の記載を参照すると、本願発明の「機械」は、少なくとも、モータ及び発電機を包含するものであるから、引用発明1の「周方向に等間隔に磁極を有するマグネットを備えたロータと、ティースに巻線を巻回して、前記ロータを回転させるための回転磁界を発生するU相,V相,W相コイルを備えたステータとを有するブラシレスモータ」は、本願発明の「複数の電場相を有する機械」に相当する。
引用発明1の「ステータ」は、本願発明の「磁気孤立相固定子」と、少なくとも「固定子」である点において一致し、引用発明1の「ティース」は、本願発明の「固定子歯」に相当する。そして、引用発明1は、当該ティースを2つずつU相、V相、W相と順次割り当てており、各相に割り当てられた一方のティース(例えば第1ティース14a)と他方のティース(例えば第2ティース14b)の間の領域は、本願発明の「巻きスロット」に相当し、「一方のティースに対して他方に配置するティースの中心角θ2」は、本願発明の「巻きスロットの角度距離」に相当するから、各相に割り当てられた一方のティースと他方のティース(例えば第1ティース14aと第2ティース14b)は、合わせて、本願発明の「固定子相セクション」と、「少なくとも二つの固定子歯と、前記少なくとも二つの固定子歯の間の角度距離を有する少なくとも一つの巻きスロット」を備える点で一致する。

ここで、本願明細書及び図面を参照すると、特に明細書の「孤立領域622?632は、孤立領域軸周りのオフセットなどの、オフセット各距離(当審注:「各距離」は「角距離」の誤記)672として規定され得る。」(段落0038)、「図6?8の孤立領域622?632は、(軸の次元沿いの)軸上の長さ674及びオフセット角距離672を有して、孤立領域の内側面676、外側面678、一方の縁側面680及び他方の縁側面682を規定する、概略円錐台形状として、描かれている」(段落0039)及び「図7に示すように、孤立領域は、オフセット角距離672として規定されるアパーチャであり」(段落0040)との記載並びに図6?8の記載からみて、本願発明は、「磁気的に不活性な孤立領域」が、一の孤立領域(図6?8に記載される実施形態において(以下、同じ。)、例えば孤立領域622)により規定される側面を有する一の固定子相セクション(例えば固定子相セクション610)の少なくとも二つの固定子歯のうちの最も該側面(例えば側面666)側の固定子歯(以下、「一端側の固定子歯」という。)と、当該一の孤立領域により規定される側面を有する他の固定子相セクション(例えば固定子相セクション612)の少なくとも二つの固定子歯のうちの最も該側面側の固定子歯(以下、「他端側の固定子歯」という。)と、の間に位置する、「軸上の長さ674及びオフセット角距離672を有して、孤立領域の内側面676、外側面678、一方の縁側面680及び他方の縁側面682を規定する、概略円錐台形状」の領域(以下、単に「概略円錐形状領域」という。)であるものを包含する。
そして、とくに本願明細書の段落0039?0041及び図6?8の記載からみて、磁気的に不活性な孤立領域が前記概略円錐台形状領域であって、そのオフセット角度距離が、前記少なくとも一つの巻きスロットの角度距離を前記電場相の数の逆数と掛けたものに等しいということは、前記一端側の固定子歯と前記他端側の固定子歯との角度距離が、前記巻きスロットの角度距離にオフセット角度距離を加えたものに等しい、すなわち電場相の数の逆数に1を足したものを前記巻きスロットの角度距離に掛けたものに等しいことと等価である。(なお、明細書段落0041の「よって、孤立領域622の孤立領域軸642から、近接する巻きスロット708の中心点即ち軸706までの距離は、オフセット角距離672に一つの極アーク角距離702を加えたものの半分である。」との記載は、図7,8の記載及び本願に係る国際特許出願の国際出願日における明細書の記載及びからみて、「よって、孤立領域622の孤立領域軸642から、近接する巻きスロット708の中心点即ち軸706までの距離は、オフセット角距離672の半分に一つの極アーク角距離702を加えたものである。」の誤訳であると認める。)

一方、引用発明1において、各相に割り当てられた一方のティース(例えば第1ティース14a)と、該一方のティースに隣接し、該一方のティースが割り当てられた相とは異なる相に割り当てられた他方のティース(例えば第1ティース14aに隣接し、第1ティース14aが割り当てられたU相とは異なるW相に割り当てられた第12ティース14l)との間の中心角はθ1-θ2となる。そして、P=14n、かつ、T=12n(但し、nは1以上の整数)、θ1=(360°×2/T)、θ2=(360°/P)であるから、
θ1-θ2=(1+1/3)×θ2
となり、引用発明1は三相であるから、結果として、引用発明1において、各相に割り当てられた一方のティースと、該一方のティースに隣接し、該一方のティースが割り当てられた相とは異なる相に割り当てられた他方のティースとの間の中心角θ1-θ2は、本願発明の「巻きスロットの角度距離」に相当する、一方のティースに対して他方に配置するティースの中心角θ2に、電場相の数の逆数に1を足したものを掛けたものに等しい。してみれば、引用発明1における、各相に割り当てられた一方のティース(例えば第1ティース14a)と、該一方のティースに隣接し、該一方のティースが割り当てられた相とは異なる相に割り当てられた他方のティース(例えば第1ティース14aに隣接し、第1ティース14aが割り当てられたU相とは異なるW相に割り当てられた第12ティース14l)との間の領域であって、その中心角がθ1-θ2である領域は、本願発明の「前記少なくとも一つの巻きスロットの角度距離を前記電場相の数の逆数と掛けたものに等しい、オフセット角度距離を有する少なくとも一つの磁気的に不活性な孤立領域」に相当する。
そうすると、引用発明1の、「ティースに巻線を巻回して、前記ロータを回転させるための回転磁界を発生するU相,V相,W相コイルを備えたステータ」であって、「前記マグネットの極数Pと、前記ティースの数Tとの関係が、P=14n、かつ、T=12n(但し、nは1以上の整数)を満たし、
前記ティースを2つずつU相,V相,W相と順次割り当て、各相に割り当てられた一方のティース間の中心角θ1を、θ1=(360°×2/T)とし、
その一方のティースに対して他方に配置するティースの中心角θ2を、θ2=(360°/P)として、各ティースの位置を決定した、ステータ」は、
本願発明の「磁気孤立相固定子を含む装置であって、
前記磁気孤立相固定子は少なくとも一つの固定子相セクションを含み、
前記少なくとも一つの固定子相セクションは、少なくとも二つの固定子歯と、前記少なくとも二つの固定子歯の間の角度距離を有する少なくとも一つの巻きスロットと、及び、前記少なくとも一つの巻きスロットの角度距離を前記電場相の数の逆数と掛けたものに等しい、オフセット角度距離を有する少なくとも一つの磁気的に不活性な孤立領域と
を備える、装置」に相当する。

以上のとおりであるから、本願発明と引用発明1との間に異なるところはなく、本願発明は、引用例1に記載された発明である。

これに対し、請求人は、平成30年3月26日付けの意見書(以下、単に「意見書」とう。)において、「引用例1は、磁気的に不活性な孤立領域を開示してないと考えます。本願の段落0012は、例えば、『本開示の磁気的に孤立した相固定子は、少なくとも一つの孤立領域により相互に機械的に孤立した二つ以上の(セクタとも称する)固定子の相セクションを有する。孤立領域は、磁気的に不活性のマテリアルを伴う、一つ以上のアパーチャ及び/又は一つ以上のエリアなどの、磁気的に不活性の領域若しくはエリアである。』と記載しています。本願の図6もご参照下さい。
審判官殿は、(以下に述べる)『所定の領域』は、請求項の磁気的に不活性な孤立領域に相当する、とされています。しかしながら、この『所定の領域』は同じ相におけるティースの間にあります。引用例1のモータが、単独の相セクションにおけるティース間の、磁気的に不活性な孤立領域により意図されるように動作することは、示されておりません。更に、一つの相セクションのティース間のそのような領域は、本願請求項1に適合するものではありません。
審判官殿は、『第2のティース間領域』(例えば、ティース14lとティース14aとの間の領域)を特定し、第2のティース間領域の中心角はθ1-θ2である、とされています。審判官殿は、第2のティース間領域は本願の磁気的に不活性な孤立領域と同じである、とはされていません。そうではなく、『所定の領域』と称される更に別の領域があり、所定の領域がθ1-2×θ2と等しい、とされています。審判官殿は、この『所定の領域』は本願の磁気的に不活性な孤立領域に相当する、とされています。
しかしながら、引用例1のどの部分も、提示される『所定の領域』を記載するものではありません。審判官殿は、提示される『所定の領域』を記載する引用例1の部分を引用されておらず、引用例1におけるそのような領域について言及されていません。よって、引用例1は、本願請求項の磁気的に不活性な孤立領域を記載してないと考えます。
引用例1のどこも、提示される『所定の領域』を、磁気的に不活性なものとして記載していません。出願人は、提示される『所定の領域』は磁気的に不活性ではなく、従って、本願のような磁気的に不活性な孤立領域ではない、と考えます。」と主張している(意見書【意見の内容】(3)(3-1)参照)。
請求人の主張について検討する。
確かに、本願明細書には、請求人が摘記する記載がある。しかしながら、本願の請求項1には、磁気的に不活性の孤立領域が磁気的に不活性のマテリアルを伴うことは記載されていない。請求人が指摘する図6を参照しても、当該領域が特別な磁気的に不活性のマテリアルを伴っていることが記載されているとは認められない。さらに、本願の請求項1を間接的に引用する請求項7の「前記複数の固定子相セクションの各々がアークセグメントを含み、前記複数の磁気的に不活性の孤立領域の各々が一つ以上の凹状エリアにより形成されている」との記載や、同じく本願の請求項1を引用する請求項24の「磁気的に不活性な孤立領域が、一つ以上のアパーチャ、一つ以上のノッチ、一つ以上の凹状エリア、及び磁気的に不活性な部材のうちの、少なくとも一つである」との記載を併せてみても、本願発明の「磁気的に不活性な孤立領域」が磁気的に不活性のマテリアルを伴うものに限られるとは認められない。そして、先に検討したとおり、特に本願明細書の段落0038?0040及び図6?8の記載からみて、本願発明は、「磁気的に不活性な孤立領域」が、前記一端側の固定子歯と前記他端側の固定子歯との間に位置する、「軸上の長さ674及びオフセット角距離672を有して、孤立領域の内側面676、外側面678、一方の縁側面680及び他方の縁側面682を規定する、概略円錐台形状」の領域であるものをも包含する。
また、当審拒絶理由の引用例1に関する備考の記載、特に「該第2のティース間領域から、・・・(中略)・・・となる領域と、・・・(中略)・・・となる領域と、を除いた領域(以下、『所定の領域』という。)」との記載から明らかなように、当審拒絶理由において指摘した「所定の領域」は、当審拒絶理由において指摘した「第2のティース間領域」と全く別な領域ではなく、前記「第2のティース間領域」の一部である。すなわち、前記「所定の領域」は、請求人が主張するような同じ相におけるティースの間にあるものではなく、各相に割り当てられた一方のティース(例えば第1ティース14a)と、該一方のティースに隣接し、該一方のティースが割り当てられた相とは異なる相に割り当てられた他方のティース(例えば第1ティース14aに隣接し、第1ティース14aが割り当てられたU相とは異なるW相に割り当てられた第12ティース14l)との間に位置するものである。そして、本願明細書及び図面の記載、特に明細書段落0039?0041及び図6?8を参照すると、本願発明においても、磁気的に不活性な孤立領域は、該孤立領域に隣接する一対の固定子歯の間の領域全体ではなく、少なくとも一方の縁側面680と他方の縁側面とに画成される一部である。
さらに、確かに、引用例1には、前記「所定の領域」に関する直接的な記載はなく、前記「第2のティース間領域」内に磁気的に不活性な孤立領域が存在するとの記載もない。しかしながら、先に検討したとおり、本願発明は、「前記少なくとも一つの巻きスロットの角度距離を前記電場相の数の逆数と掛けたものに等しい、オフセット角度距離を有する少なくとも一つの磁気的に不活性な孤立領域」を備えるということが、前記一端側の固定子歯と前記他端側の固定子歯との角度距離が、前記巻きスロットの角度距離にオフセット角度距離を加えたものに等しい、すなわち電場相の数の逆数に1を足したものを前記巻きスロットの角度距離に掛けたものに等しいことと等価であるものを包含し、この点において、本願発明と引用発明1に異なるところはない。
したがって、請求人の主張は、本願発明は引用例1に記載された発明であるとの判断を変えるものではない。

2.引用発明2について
本願発明と引用発明2とを対比すると、後者の「複数の磁極がそれぞれ等角度幅で設けられた環状のマグネットと、このマグネットと対向して所定のピッチで円弧状に配列された3n個(n:2以上の整数)のスロットを有するコアと、前記スロットにそれぞれ巻回された3n個のコイルと、を備え、前記3n個のコイルへの通電により前記マグネットと前記コアとが同芯で相対的に回転移動するよう構成され、前記3n個のコイルを、隣接するn個のコイルを1つの相とする3相として構成したモータ」は、前者の「複数の電場相を有する機械」に相当する。
引用発明2の「コア及びコイル」は、本願発明の「磁気孤立相固定子」と、少なくとも「固定子」である点において一致し、引用発明2の「スロット」は、本願発明の「固定子歯」に相当する。そして、引用発明2は、3n個(n:2以上の整数)のスロットにそれぞれ巻回された3n個のコイル、隣接するn個のコイルを1つの相とする3相として構成しており、3相における各相のn個のコイルが巻回されたn個のスロット間の領域は、本願発明の「巻きスロット」に相当し、前記3相における各相のn個のコイルが巻回されたn個のスロットの角度ピッチは、本願発明の「巻きスロットの角度距離」に相当するから、「前記3相における各相の前記n個のコイルが巻回されたn個の前記スロット」は、合わせて、本願発明の「固定子相セクション」と、「少なくとも二つの固定子歯と、前記少なくとも二つの固定子歯の間の角度距離を有する少なくとも一つの巻きスロット」を備える点で一致する。
前記「第5 1.」において検討したとおり、本願発明は、「前記少なくとも一つの巻きスロットの角度距離を前記電場相の数の逆数と掛けたものに等しい、オフセット角度距離を有する少なくとも一つの磁気的に不活性な孤立領域」を備えるということが、前記一端側の固定子歯と前記他端側の固定子歯との角度距離が、前記巻きスロットの角度距離にオフセット角度距離を加えたものに等しい、すなわち電場相の数の逆数に1を足したものを前記巻きスロットの角度距離に掛けたものに等しいことと等価であるものを包含する。
一方、引用発明2は、前記3相における各相の前記n個のコイルが巻回されたn個の前記スロットの角度ピッチが、環状のマグネットの磁極の等角度幅と同じ角度ピッチであり、異なる相間で隣接するスロット同士の角度ピッチが、前記等角度幅の4/3倍の角度ピッチであり、かつ引用発明2は3相であるから、結果として、引用発明2において、異なる相間で隣接するスロット同士の角度ピッチは、本願発明の「巻きスロットの角度距離」に相当する、前記3相における各相の前記n個のコイルが巻回されたn個の前記スロットの角度ピッチに、電場相の数の逆数に1を足したものを掛けたものに等しい。してみれば、引用発明2における、異なる相間で隣接するスロットであって、その角度ピッチが前記等角度幅の4/3倍であるスロット間の領域は、本願発明の「前記少なくとも一つの巻きスロットの角度距離を前記電場相の数の逆数と掛けたものに等しい、オフセット角度距離を有する少なくとも一つの磁気的に不活性な孤立領域」に相当する。
そうすると、引用発明2の、「このマグネットと対向して所定のピッチで円弧状に配列された3n個(n:2以上の整数)のスロットを有するコアと、前記スロットにそれぞれ巻回された3n個のコイル」であって、「前記コアは、前記所定のピッチを、前記3相における各相の前記n個のコイルが巻回されたn個の前記スロットについては、前記等角度幅と同じ角度ピッチとする一方、異なる相間で隣接するスロット同士については、前記等角度幅の4/3倍の角度ピッチとして成る、コア及びコイル」は、
本願発明の「磁気孤立相固定子を含む装置であって、
前記磁気孤立相固定子は少なくとも一つの固定子相セクションを含み、
前記少なくとも一つの固定子相セクションは、少なくとも二つの固定子歯と、前記少なくとも二つの固定子歯の間の角度距離を有する少なくとも一つの巻きスロットと、及び、前記少なくとも一つの巻きスロットの角度距離を前記電場相の数の逆数と掛けたものに等しい、オフセット角度距離を有する少なくとも一つの磁気的に不活性な孤立領域と
を備える、装置」に相当する。

以上のとおりであるから、本願発明と引用発明2との間に異なるところはなく、本願発明は、引用例2に記載された発明である。

これに対し、請求人は、意見書において、「引用例2は、磁気的に不活性な孤立領域を開示していないと考えます。引用例2は『6S6と6S7の空隙や、6S3と6S4の空隙』などを記載しています。しかしながら、引用例2は、空隙の目的や、その空隙がモータの機能にどのような影響を与えるか、を記載していません。引用例2は空隙を、磁気的に不活性であるとしては記載していませんし、孤立領域としても記載していません。引用例2は、磁気的に不活性である、固定子内の領域について何ら記載していません。」と主張している(意見書【意見の内容】(3)(3-2)参照)。
確かに、引用例2には、「6S6と6S7の空隙」や「6S3と6S4の空隙」が磁気的に不活性である旨の記載はない。しかしながら、先に検討したとおり、本願発明は、「前記少なくとも一つの巻きスロットの角度距離を前記電場相の数の逆数と掛けたものに等しい、オフセット角度距離を有する少なくとも一つの磁気的に不活性な孤立領域」を備えるということが、前記一端側の固定子歯と前記他端側の固定子歯との角度距離が、前記巻きスロットの角度距離にオフセット角度距離を加えたものに等しい、すなわち電場相の数の逆数に1を足したものを前記巻きスロットの角度距離に掛けたものに等しいことと等価であるものを包含し、この点において、本願発明と引用発明2に異なるところはない。
したがって、請求人の主張は、本願発明は引用例2に記載された発明であるとの判断を変えるものではない。

3.引用発明3について
(1)対比
本願発明と引用発明3を対比すると、後者の「電動機又は発電機」は、複数の電気位相を有するから、前者の「複数の電場相を有する機械」に相当し、後者の「電機子」は、前者の「磁気孤立相固定子」と、「固定子」である点において一致する。
引用発明3の「磁極」は、本願発明の「固定子歯」に相当する。引用発明3は、前記磁極が、磁極グループの巻線が同一電気位相に接続されるような方法により磁極グループを構成し、各磁極グループは少なくとも2つの磁極を含み、磁極グループの各磁極は同一磁極グループの他の磁極に隣接して配置されており、磁極グループの各磁極間の領域は、本願発明の「巻きスロット」に相当し、「磁極グループの前記磁極のピッチ」は、本願発明の「巻きスロットの角度距離」に相当するから、引用発明3の「磁極グループ」は、本願発明の「固定子相セクション」と、「少なくとも二つの固定子歯と、前記少なくとも二つの固定子歯の間の角度距離を有する少なくとも一つの巻きスロット」を備える点で一致する。
そして、引用発明3において、磁束バランシング極のピッチ長である「(1/p)・a」は、本願発明の「前記少なくとも一つの巻きスロットの角度距離を前記電場相の数の逆数と掛けたもの」に相当する。
そうすると、引用発明3の「電機子であって、
電機子鉄心と電機子巻線を備え、
前記鉄心は突出した磁極を備え、これらの磁極の各1つは電気巻線により巻かれて複数位相の電力源に接続され、
前記磁極は、磁極グループの巻線が同一電気位相に接続されるような方法により磁極グループを構成し、各磁極グループは少なくとも2つの磁極を含み、磁極グループの各磁極は同一磁極グループの他の磁極に隣接して配置され、磁極グループ間で同一位相に接続され、位相ごとに1つ以上の磁極グループがある場合は他の電気位相に接続されている少なくとも1つの磁極グループがあり、
磁極グループの前記磁極のピッチは界磁磁石の磁極のピッチに等しく、
磁極グループに属していない磁極は磁束バランシング極であって、磁束バランシング極の各1つは隣接する2つの磁極グループに隣接し、かつ隣接する2つの磁極グループの中間に配置され、前記磁束バランシング極は巻線が無く、
全磁極グループは同数の磁極を含んでおり、
前記磁束バランシング極のピッチ長は(1/p)・aであって、ここにpは位相の数、aは前記磁極グループの各磁極のピッチ長である、電機子」は、
本願発明の「磁気孤立相固定子を含む装置であって、
前記磁気孤立相固定子は少なくとも一つの固定子相セクションを含み、
前記少なくとも一つの固定子相セクションは、少なくとも二つの固定子歯と、前記少なくとも二つの固定子歯の間の角度距離を有する少なくとも一つの巻きスロットと、及び、前記少なくとも一つの巻きスロットの角度距離を前記電場相の数の逆数と掛けたものに等しい、オフセット角度距離を有する少なくとも一つの磁気的に不活性な孤立領域と
を備える、装置」と、
「固定子を含む装置であって、
前記固定子は少なくとも一つの固定子相セクションを含み、
前記少なくとも一つの固定子相セクションは、少なくとも二つの固定子歯と、前記少なくとも二つの固定子歯の間の角度距離を有する少なくとも一つの巻きスロットと、及び、前記少なくとも一つの巻きスロットの角度距離を前記電場相の数の逆数と掛けたものに等しい、装置」である点において一致する。
以上のことから、本願発明と引用発明3との一致点及び相違点は、以下のとおりと認められる。
【一致点】
「複数の電場相を有する機械のための固定子を含む装置であって、
前記固定子は少なくとも一つの固定子相セクションを含み、
前記少なくとも一つの固定子相セクションは、少なくとも二つの固定子歯と、前記少なくとも二つの固定子歯の間の角度距離を有する少なくとも一つの巻きスロットと、
を備える、装置。」
【相違点】
本願発明は、前記固定子が、少なくとも一つの固定子相セクションが、前記少なくとも一つの巻きスロットの角度距離を前記電場相の数の逆数と掛けたものに等しい、オフセット角度距離を有する少なくとも一つの磁気的に不活性な孤立領域を備える磁気孤立相固定子であるのに対し、
引用発明は、前記電機子が、各1つが隣接する2つの磁極グループに隣接し、かつ隣接する2つの磁極グループの中間に配置され、巻線が無く、ピッチ長が前記少なくとも一つの巻きスロットの角度距離を前記電場相の数の逆数と掛けたものである磁束バランシング極を備えるものである点。
(2)判断
相違点について検討する。
引用例5に記載された技術の「永久磁石を所定の極数に着磁して回転子磁極を構成したものからなる多極の回転子の周方向に沿って並ぶm個(m,nは整数で、m≧n≧2)の歯部を有する固定子鉄心と該固定子鉄心のk個(kはnの整数倍の整数で、k≦m)の歯部にそれぞれ巻回されたk個の単位コイルとを有する固定子」は、引用発明3の「電機子であって、電機子鉄心と電機子巻線を備え、前記鉄心は突出した磁極を備え、これらの磁極の各1つは電気巻線により巻かれて複数位相の電力源に接続されて」いる電機子と、「電機子であって、電機子鉄心と電機子巻線を備え、前記鉄心は突出した磁極を備え、これらの磁極の各1つは電気巻線により巻かれている電機子」である点において一致する。してみれば、引用発明3と引用例5に記載された技術は、少なくとも、発電機の電機子であって、電機子鉄心と電機子巻線を備え、前記鉄心は突出した磁極を備え、これらの磁極の各1つは電気巻線により巻かれている電機子に係るものであるという点において、同一の技術分野に属する。
さらに、引用発明3の「磁束バランシング極」と引用例5に記載された技術の「コイルが巻回されない歯部」は、いずれも、巻線が巻かれていない磁極である。さらに、引用例3の記載、特に記載事項キ(前記「第4 3.(1)」参照)からみて、引用発明3においても、磁束バランシング極は、隣接する2つの磁極グループであって、その中間に当該磁束バランシング極が配置される2つの磁極グループの磁気回路同士の結合をルーズにしているといえるから、引用例5に記載された技術の「コイルが巻回されない歯部」は、引用発明3の「磁束バランシング極」に相当する。
してみれば、引用発明3に引用例5に記載された技術を適用し、引用発明3において、前記磁束バランシング極に代えて、ピッチ長が前記少なくとも一つの巻きスロットの角度距離を前記電場相の数の逆数と掛けたものである磁気的な空隙を前記隣接する2つの磁極グループの中間に配置することは、当業者が容易になし得る事項である。
そして、前記「第5 1.」において検討したとおり、本願発明は、「少なくとも一つの磁気的に不活性な孤立領域」が前記概略円錐台形状領域(前記「第5 1.」参照)であるものを包含しており、引用発明3に引用例5に記載された技術を適用することにより、引用発明3において、前記磁束バランシング極に代えて配置される磁気的な空隙は、本願発明の「少なくとも一つの磁気的に不活性な孤立領域」に相当する。
そうすると、引用発明3において、相違点に係る本願発明を特定する事項のようにすることは、引用例5に記載された技術に基いて、当業者が容易に想到し得る事項である。
そして、本願発明の奏する効果に、引用例3及び5に記載された事項に基いて当業者が容易に想到し得る範囲を越えるものは見いだせない。
したがって、本願発明は、引用発明3及び引用例5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

これに対し、請求人は、意見書において、「引用例3も引用例5も、磁気的に不活性な孤立領域を開示していないと考えます。
・・・(中略)・・・
引用例5は『コイルが巻回されない歯部』を開示しています。段落0051では『コイルが巻回されない空き歯部T1、T6、T11、T16を設けて、これらの空き歯部T1、T6、T11、T16により隣接する放電灯駆動用発電コイルの磁気回路どうしの結合をルーズにしている。』と記載しています。引用例5は、空き歯部T1、T6、T11、T16により磁気的に境界付けられる歯部を開示しています。引用例5のいずれも、磁気的に不活性である固定子の領域を記載していません。
上述のように、引用例3は、磁束バランシング極204が磁束経路にあることを積極的に述べています。従って、磁束バランシング極は、磁気的に不活性な孤立領域では有り得ません。当業者であれば、磁束経路にあることを明確に要求される引用例3の構造を、審判官殿が磁束経路にないことを示されている引用例5の構造と、置き換えることはありません。結果としてモータが動かなくなります。
審判官殿は、引用例3の磁束バランシング極204の構成を引用例5の『コイルが巻回されない歯部』と組み合わされていますが、引用例3と引用例5との組み合わせは、磁気的に不活性な孤立領域を記載するものとは成り得ません。引用例3は磁束バランシング極204が磁束経路にあることを述べており、引用例5は空き歯部T1、T6、T11、T16により磁気的に境界付けられる歯部を開示しているからです。
以上のことから、請求項1、43、83に係る発明は、引用例3及び引用例5に開示された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではありません。
請求項1、43、83を引用するその他の請求項に係る発明も、引用例3及び引用例5に開示された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではありません。」と主張している(意見書【意見の内容】(3)(3-3)参照)。
しかしながら、先に検討したとおり、引用例5には「コイルが巻回されない歯部」を「磁気的な空隙」に置換し得ることが記載されており、該「磁気的な空隙」は、本願発明の「少なくとも一つの磁気的に不活性な孤立領域」に相当する。そして、引用例5には、「コイルが巻回されない歯部」ではなく「磁気的な空隙」を設けたものも発電機の構成例として記載されており、引用例5に記載された技術を引用発明3に適用し、引用発明3において、前記磁束バランシング極に代えて、磁気的な空隙を前記隣接する2つの磁極グループの中間に配置すると、結果としてモータが動かなくなるとの請求人の主張は認められない。
したがって、請求人の主張は、本願発明は引用発明3及び引用例5に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるとの判断を変えるものではない。

4.引用発明4について
(1)対比
本願発明と引用発明4を対比すると、後者の「回転電機」は、3相であるから、前者の「複数の電場相を有する機械」に相当し、後者の「固定子」は、前者の「磁気孤立相固定子」と、「固定子」である点において一致する。
引用発明4の「巻線用突極」は、本願発明の「固定子歯」に相当する。引用発明4は、前記巻線用突極が3相の突極ブロックに分かれ、各突極ブロックは5個の巻線用突極からなり、突極ブロックの各巻線用突極間の領域は、本願発明の「巻きスロット」に相当し、巻線用突極の「ピッチ」は、本願発明の「巻きスロットの角度距離」に相当するから、「突極ブロック」は、本願発明の「固定子相セクション」と、「少なくとも二つの固定子歯と、前記少なくとも二つの固定子歯の間の角度距離を有する少なくとも一つの巻きスロット」を備える点で一致する。
そして、引用発明4において、回転電機は3相であり、突極ブロックの巻線用突極のピッチは22.5°、補助突極が配置される各突極プロックの間の間隔は7.5°であるから、補助突極が配置される各突極プロックの間の間隔である「7.5°」は、本願発明の「前記少なくとも一つの巻きスロットの角度距離を前記電場相の数の逆数と掛けたもの」に相当する。
そうすると、引用発明4の「固定子であって、
回転中心Oに対して等角度間隔(22.5゜)毎に16極着磁された円環状の磁石である永久磁石1の着磁面に対向して、永久磁石1の1磁極ピッチ(22.5゜)と等しいピッチを有する15個の巻線用突極13a1,13a2,13a3,13a4,13a5,13b1,13b2,13b3,13b4,13b5,13c1,13c2,13c3,13c4,13c5と、3個の補助突極15a,15b,15cとを有し、補助突極15aは巻線用突極13a5と13b1の間に、補助突極15bは巻線用突極13b5と13c1の間に、補助突極15cは巻線用突極13c5と13a1の間にそれぞれ位置せられる電機子鉄心12と、各巻線用突極13a1?13c5にそれぞれ巻装された1個の巻線14a1,14a2,14a3,14a4,14a5,14b1,14b2,14b3,14b4,14b5,14c1,14c2,14c3,14c4,14c5と、を含んで構成され、
前記15個の巻線用突極は永久磁石1との相対位置関係について3相の突極ブロックすなわち、13a1?13a5からなる第1の突極ブロック、13b1?13b5からなる第2の突極ブロック、そして13c1?13c5からなる第3の突極ブロックとに分かれ、
補助突極15a?15cは、前記各突極ブロックの間に配置され、それらの突極ブロックの両側に位置する巻線用突極13a1,13a5,13b1,13b5,13c1,13c5に不要な磁束が流入しないようになっており、
巻線14a1?14c5は、3相の巻線群すなわち、14a1?14a5からなる第1の巻線群14Aと、14b1?14b5からなる第2の巻線群14Bと、14c1?14c5からなる第3の巻線群14Cに分かれており、
前記第1?3の突極ブロックは、それぞれ、112.5°の中心角を有し、補助突極15a?15cが配置される、前記各突極ブロックの間の間隔は、7.5°の中心角を有する、固定子」は、
本願発明の「磁気孤立相固定子を含む装置であって、
前記磁気孤立相固定子は少なくとも一つの固定子相セクションを含み、
前記少なくとも一つの固定子相セクションは、少なくとも二つの固定子歯と、前記少なくとも二つの固定子歯の間の角度距離を有する少なくとも一つの巻きスロットと、及び、前記少なくとも一つの巻きスロットの角度距離を前記電場相の数の逆数と掛けたものに等しい、オフセット角度距離を有する少なくとも一つの磁気的に不活性な孤立領域と
を備える、装置」と、
「固定子を含む装置であって、
前記固定子は少なくとも一つの固定子相セクションを含み、
前記少なくとも一つの固定子相セクションは、少なくとも二つの固定子歯と、前記少なくとも二つの固定子歯の間の角度距離を有する少なくとも一つの巻きスロットと、及び、前記少なくとも一つの巻きスロットの角度距離を前記電場相の数の逆数と掛けたものに等しい、装置」である点において一致する。
以上のことから、本願発明と引用発明4との一致点及び相違点は、以下のとおりと認められる。
【一致点】
「複数の電場相を有する機械のための固定子を含む装置であって、
前記固定子は少なくとも一つの固定子相セクションを含み、
前記少なくとも一つの固定子相セクションは、少なくとも二つの固定子歯と、前記少なくとも二つの固定子歯の間の角度距離を有する少なくとも一つの巻きスロットと、
を備える、装置。」
【相違点】
本願発明は、前記固定子が、該磁気孤立相固定子が含む少なくとも一つの固定子相セクションが、前記少なくとも一つの巻きスロットの角度距離を前記電場相の数の逆数と掛けたものに等しい、オフセット角度距離を有する少なくとも一つの磁気的に不活性な孤立領域を備える磁気孤立相固定子であるのに対し、
引用発明は、前記固定子が、各突極プロックの間の、中心角が前記少なくとも一つの巻きスロットの角度距離を前記電場相の数の逆数と掛けたものである間隔に配置される補助突極を有するものである点。
(2)判断
相違点について検討する。
引用例5に記載された技術の「永久磁石を所定の極数に着磁して回転子磁極を構成したものからなる多極の回転子の周方向に沿って並ぶm個(m,nは整数で、m≧n≧2)の歯部を有する固定子鉄心と該固定子鉄心のk個(kはnの整数倍の整数で、k≦m)の歯部にそれぞれ巻回されたk個の単位コイルとを有する固定子」は、引用発明4の「固定子であって、回転中心Oに対して等角度間隔(22.5゜)毎に16極着磁された円環状の磁石である永久磁石1の着磁面に対向して、永久磁石1の1磁極ピッチ(22.5゜)と等しいピッチを有する15個の巻線用突極13a1,13a2,13a3,13a4,13a5,13b1,13b2,13b3,13b4,13b5,13c1,13c2,13c3,13c4,13c5と、3個の補助突極15a,15b,15cとを有し、補助突極15aは巻線用突極13a5と13b1の間に、補助突極15bは巻線用突極13b5と13c1の間に、補助突極15cは巻線用突極13c5と13a1の間にそれぞれ位置せられる電機子鉄心12と、各巻線用突極13a1?13c5にそれぞれ巻装された1個の巻線14a1,14a2,14a3,14a4,14a5,14b1,14b2,14b3,14b4,14b5,14c1,14c2,14c3,14c4,14c5と、を含んで構成され」る固定子と、「回転中心に対して等角度間隔毎に複数極着磁された円環状の磁石である永久磁石の着磁面に対向する複数個の巻線用突極を有する電機子鉄心と、各巻線用突極にそれぞれ巻装された1個の巻線と、を含んで構成される固定子」である点において一致する。してみれば、引用発明4と引用例5に記載された技術は、少なくとも、回転電機の固定子であって、回転中心に対して等角度間隔毎に複数極着磁された円環状の磁石である永久磁石の着磁面に対向する複数個の巻線用突極を有する電機子鉄心と、各巻線用突極にそれぞれ巻装された1個の巻線と、を含んで構成される固定子に係るものであるという点において、同一の技術分野に属する。
さらに、引用発明4の「補助突極」と引用例5に記載された技術の「コイルが巻回されない歯部」は、いずれも、巻線が巻かれていない突極である。さらに、引用例4の記載、特に記載事項イ及びウ(前記「第4 4.(1)」参照)からみて、引用発明4においても、補助突極は、2つの突極ブロックであって、その間に当該補助突極が配置される2つの突極ブロックの磁気回路同士の結合をルーズにしているといえるから、引用例5に記載された技術の「コイルが巻回されない歯部」は、引用発明4の「補助突極」に相当する。
してみれば、引用発明4に引用例5に記載された技術を適用し、引用発明4において、前記補助突極を無くし、前記各突極ブロックの間を、中心角が前記少なくとも一つの巻きスロットの角度距離を前記電場相の数の逆数と掛けたものである磁気的な空隙とすることは、当業者が容易になし得る事項である。
そして、前記「第5 1.」において検討したとおり、本願発明は、「少なくとも一つの磁気的に不活性な孤立領域」が前記概略円錐台形状領域(前記「第5 1.」参照)であるものを包含しており、引用発明4に引用例5に記載された技術を適用することにより、引用発明4において、前記補助突極に代えて備えられる磁気的な空隙は、本願発明の「少なくとも一つの磁気的に不活性な孤立領域」に相当する。
そうすると、引用発明4において、相違点に係る本願発明を特定する事項のようにすることは、引用例5に記載された技術に基いて、当業者が容易に想到し得る事項である。
そして、本願発明の奏する効果に、引用例4及び5に記載された事項に基いて当業者が容易に想到し得る範囲を越えるものは見いだせない。
したがって、本願発明は、引用発明4及び引用例5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

これに対し、請求人は、意見書において、「引用例4も引用例5も、磁気的に不活性な孤立領域を開示していないと考えます。
引用例5は『コイルが巻回されない歯部』を開示しています。段落0051では『コイルが巻回されない空き歯部T1、T6、T11、T16を設けて、これらの空き歯部T1、T6、T11、T16により隣接する放電灯駆動用発電コイルの磁気回路どうしの結合をルーズにしている。』と記載されています。引用例5は、空き歯部T1、T6、T11、T16により磁気的に境界付けられる歯部を開示しています。引用例5のいずれも、磁気的に不活性である固定子の領域を記載していません。
従って、引用例5は、引用例4と組み合わせることができません。
また、引用例4も引用例5もいずれも、『少なくとも一つの巻きスロットの角度距離を電場相の数の逆数と掛けたものに等しい、オフセット角度距離を有する少なくとも一つの磁気的に不活性な孤立領域を備える』『複数の電場相を有する機械のための磁気孤立相固定子』を開示していません。このような特定の磁気的に不活性な孤立領域のための特徴が引用例4か引用例5のいずれかに開示されている、とは審査官殿は述べられていません。引用例4も引用例5もいずれも、このような特定の磁気的に不活性な孤立領域のための特徴を記載していません。』と主張している(意見書【意見の内容】(3)(3-4)参照)。
しかしながら、先に検討したとおり、引用例5には「コイルが巻回されない歯部」を「磁気的な空隙」に置換し得ることが記載されており、該「磁気的な空隙」は、本願発明の「少なくとも一つの磁気的に不活性な孤立領域」に相当する。
そして、引用例4及び引用例5のいずれも、1つの引用例のみによって「少なくとも一つの巻きスロットの角度距離を電場相の数の逆数と掛けたものに等しい、オフセット角度距離を有する少なくとも一つの磁気的に不活性な孤立領域を備える、複数の電場相を有する機械のための磁気孤立相固定子」の全てを開示するものではないことは、請求人が主張するとおりであるが、本願発明が引用発明4及び引用例5に記載された技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであることは、先に検討したとおりである。
したがって、請求人の主張は、本願発明は引用発明4及び引用例5に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるとの前記判断を変えるものではない。

第6 むすび

以上のとおり、本願発明は、引用例1又は2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、また引用発明3及び引用例5に記載された技術に基いて、若しくは引用発明4及び引用例5に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-07-09 
結審通知日 2018-07-10 
審決日 2018-07-25 
出願番号 特願2013-548638(P2013-548638)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (H02K)
P 1 8・ 121- WZ (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池田 貴俊  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 久保 竜一
矢島 伸一
発明の名称 磁気的に孤立した相内部永久磁石電気回転機械  
代理人 山田 卓二  
代理人 川端 純市  
代理人 田中 光雄  

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