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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 B41C
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 B41C
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B41C
管理番号 1347216
審判番号 不服2018-2423  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-02-21 
確定日 2019-01-08 
事件の表示 特願2013-219335「缶の印刷用凸版の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 4月27日出願公開、特開2015- 80891、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年10月22日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年5月25日付け :拒絶理由通知書
平成29年7月26日 :手続補正書の提出
平成29年11月15日付け:拒絶査定
平成30年2月21日 :審判請求書の提出
平成30年6月13日付け :拒絶理由通知書
平成30年8月8日 :手続補正書の提出
平成30年10月29日付け:拒絶理由通知書
平成30年11月7日 :手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定(平成29年11月15日付け拒絶査定)の拒絶の理由の概要は次のとおりである。

この出願の各請求項に係る発明は、以下の引用文献1?4に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等
1.特開2011-88353号公報
2.特開2009-190264号公報
3.特開2010-155371号公報
4.特開2008-230195号公報

第3 当審拒絶理由の概要
1 平成30年6月13日付けの当審拒絶理由の概要
平成30年6月13日付けの当審拒絶理由の概要は以下のとおりである。

本件出願は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

2 平成30年10月29日付けの当審拒絶理由の概要
平成30年10月29日付けの当審拒絶理由の概要は以下のとおりである。

1)本件出願は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
2)本件出願は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

第4 本願発明
本願請求項1?2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明2」という。)は、平成30年11月7日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1?2は以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
インキが付着する画像部分に、複数の突起体が配設された網点部と、前記網点部以外の部分と、を有する缶の印刷用凸版を製造する方法であって、
前記画像部分のうち、前記網点部をレーザー彫刻する工程と、
前記網点部をレーザー彫刻する工程の後に、前記画像部分のうち、前記網点部以外の部分をレーザー彫刻する工程と、を備え、
前記網点部以外の部分をレーザー彫刻する工程では、レーザー彫刻後の前記網点部の高さを基準として±0.03mmの範囲内の高さとなるように、前記網点部以外の部分をレーザー彫刻し、
前記網点部の高さとは、前記突起体の頂面の面積が9×10^(-3)mm^(2)よりも小さい場合には、前記突起体の最頂点から、印刷により所期の網点太さが得られるように当該缶の印刷用凸版の厚さ方向に後退した高さを指し、前記突起体の頂面の面積が9×10^(-3)mm^(2)以上の場合には、前記突起体の最頂点の高さを指すことを特徴とする缶の印刷用凸版の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の缶の印刷用凸版の製造方法であって、
前記網点部をレーザー彫刻する工程に比べて、前記網点部以外の部分をレーザー彫刻する工程では、レーザー出力を小さくし、かつ、彫刻面のレーザー焦点直径を大きくすることを特徴とする缶の印刷用凸版の製造方法。」

第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
上記引用文献1には、次の事項が記載されている。(下線は当審が付した。以下同じ。)

(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷版の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、紙・フィルム等の軟質包装材料に対する印刷方法として、いわゆるフレキソ印刷が広く用いられており、例えば、段ボール、紙器、紙袋、軟包装用フィルム等の各種包装材、壁紙、化粧板等の各種建装材、ラベルに対する印刷法として、その比重が高まりつつある。
フレキソ印刷用の印刷版を製造するためには、通常、感光性樹脂(液状の樹脂又はシート状に成形された固体樹脂板等)が用いられる。」

(2)「【0011】
[第一の形態の印刷版の製造方法]
本実施の第一の形態の印刷版の製造方法は、網点部の頭頂部の高さを、ベタ部と高低差がないように、印刷原版をレーザー彫刻する工程を有する印刷版の製造方法である。
特開2008-183888などに開示されている技術のように、レーザー彫刻によって得られる従来の印刷版は、通常は網点の頭頂部の高さはベタ部よりも低くなることが知られている。しかし、このような網点を使用した印刷において印圧が変動すると、印刷版上における網点面積率の設計値と被印刷物上に形成される網点面積率の実測値が顕著に変動し、印刷品質も変動する傾向がある。
【0012】
網点の頭頂部の高さと、網点部の頭頂部の高さを、ベタ部と高低差がないように、印刷原版をレーザー彫刻する工程を有する本実施の第一の形態の製造方法によって得られた印刷版と、網点の頭頂部の高さがベタ部より低い従来の印刷版とを比較すると、印刷中の印刷品質安定性に差異があり、網点の頭頂部の高さと、ベタ部の高低差が無い本実施の形態の印刷版は、印圧の振れに対して、印刷版上における網点面積率の設計値と被印刷物上に形成される網点面積率の実測値の変動が小さく、印圧の触れに対しても印刷品質を維持しやすい印刷版であることが分かった。
【0013】
本実施の第一の形態において、網点部の頭頂部の高さを、ベタ部と高低差が無いように印刷原版をレーザー彫刻する方法としては、例えば、網点のショルダーに照射されるエネルギーの量を制御する方法や、網点のショルダーに照射されるエネルギーの勾配を制御する方法や、それらを組み合わせる方法、ベタ部を彫刻する方法等が挙げられるが、この限りではない。
ここで、「網点の頭頂部の高さと、ベタ部との高低差が無い」とは、実質的に網点部の頭頂部の高さとベタ部とに高低差がないものを意味する。実質的な高低差として許容される範囲としては、10μm未満が好ましく、5μm以下がより好ましく、1μm以下が更に好ましい。
【0014】
本実施の形態の印刷版の製造方法において、網点とはスクリーン線数の密度で形成した円錐状もしくは円筒状の形状を意味し、網点部の頭頂部とは網点が円錐状の場合は最先端部を、網点が円筒状の場合は先端の平坦な部分を意味する。
本実施の形態の印刷版の製造方法において、ベタ部と高低差がない網点の網点率は特に制限されないが、網点率が5%以上の網点がベタ部と高低差がないようにレーザー彫刻することが好ましい。」

(3)「【0022】
樹脂層に対するレーザー彫刻を行う雰囲気に限定はなく、例えば、酸素含有ガス下、一般的に空気存在下又は気流下でレーザー彫刻を実施できるが、炭酸ガス、窒素ガス存在下で行ってもよい。
レーザー彫刻終了後、発生する粉末状又は液状の物質は、所定の方法、例えば、溶剤や界面活性剤を含有する水等で洗浄する方法、強アルカリ性電解水、高圧スプレー等により水系洗浄剤を使用する方法、高圧スチームを照射する方法等により除去できる。
レーザー彫刻工程においては、所望の画像をデジタル型のデータとしておき、所定のコンピューターを利用し、彫刻用のレーザー装置を用いてレーザー彫刻を行い、樹脂層上にレリーフ画像を形成することができる。」

(4)「【0028】
[印刷原版]
本実施の形態において、印刷原版とは、レーザーを照射により凹部を形成することが可能な樹脂層を含んでいれば特に制限されない。樹脂層としては、例えば熱可塑性樹脂層や硬化性樹脂組成物の硬化物層が挙げられ、レーザー彫刻性の観点から好ましくは硬化性樹脂組成物の硬化物層である。硬化性樹脂組成物の硬化物層としては、熱硬化性樹脂組成物の熱硬化物層や、感光性樹脂組成物の光硬化物層が挙げられる。樹脂層の厚みは、最終的に目的とする凹凸パターンの使用目的に応じて任意に選択でき、0.1?7mmが好ましい。」

(5)「【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、フレキソ印刷、グラビア印刷、ドライオフセット印刷等の各種印刷版の製造方法として好適である。また、エンボス加工等の表面パターンの形成、タイル等の印刷用レリーフ画像形成、電子部品の導体、半導体、絶縁体、パターン形成、光学部品の反射防止膜、カラーフィルター、(近)赤外線カットフィルター等の機能性材料のパターン形成、更には液晶ディスプレイあるいは有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ等の表示素子の製造における配向膜、下地層、発光層、電子輸送層、封止材層の塗膜・パターン形成にも利用できる。」

上記(1)?(5)を総合すると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

「網点部の頭頂部の高さを、ベタ部と高低差がないように、印刷原版をレーザー彫刻する工程を有する、フレキソ印刷用の印刷版の製造方法であって、
印刷原版は、レーザーの照射により凹部を形成することが可能な樹脂層を含んでおり、
レーザー彫刻工程において、所望の画像をデジタル型のデータとしておき、所定のコンピューターを利用し、彫刻用のレーザー装置を用いてレーザー彫刻を行い、樹脂層上にレリーフ画像が形成され、
網点部の頭頂部の高さを、ベタ部と高低差が無いように印刷原版をレーザー彫刻する方法は、網点のショルダーに照射されるエネルギーの量を制御する方法や、網点のショルダーに照射されるエネルギーの勾配を制御する方法や、それらを組み合わせる方法、ベタ部を彫刻する方法が用いられ、
網点の頭頂部の高さと、ベタ部との高低差は、好ましくは10μm未満、より好ましくは5μm以下、更に好ましくは1μm以下とされており、
網点は、スクリーン線数の密度で形成した円錐状もしくは円筒状の形状であって、網点部の頭頂部は、網点が円錐状の場合は最先端部を、網点が円筒状の場合は先端の平坦な部分を指し、
網点の頭頂部の高さと、ベタ部の高低差が無いことで、印圧の振れに対して、印刷版上における網点面積率の設計値と被印刷物上に形成される網点面積率の実測値の変動が小さく、印圧の触れに対しても印刷品質を維持しやすい、
フレキソ印刷用の印刷版の製造方法。」

2 引用文献2について
上記引用文献2には、次の事項が記載されている。

「【0002】
従来、ダンボールなどの紙製品や包装フィルム等の印刷には、フレキソ印刷なる版式が多く用いられており、例えば特許文献1,2に開示されるものが知られている。
フレキソ印刷は、印刷版の表層部分に柔軟(フレキシブル)な樹脂層を備えており、この樹脂層に三次元の凹凸を形成し、該凹凸の凸部(画像部)にインキを着肉させた後、ダンボール等の被印刷体にインキを転写させて印刷するようになっている。このようなフレキソ印刷によれば、印刷時の印圧を低く設定でき、ベタ部分のインキ掠れが少なく、網点部分が精細に表現可能であり、近年様々な物品の印刷に用いられている。
【0003】
フレキソ印刷の印刷版の素材としては、一般に感光性樹脂からなるものが採用されている。感光性樹脂を用いて印刷版を製作するには、まず、感光性樹脂上にネガフィルムを設置し、ネガフィルムを介して感光性樹脂に露光して架橋反応を起こさせた後、非架橋部分を現像液で洗い流し(現像工程)、さらに後露光して機械的強度を上げ、画像部を形成する。このようなフレキソ印刷版は凸版であるから、凸版印刷全般、例えばブランケットを介して印刷対象物に画像を転写するオフセット印刷用版材にも使用可能であり、オフセット印刷方式をとる缶印刷にも転用できる。」

上記記載から、引用文献2には、以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。

「樹脂層に三次元の凹凸を形成し、網点部分が精細に表現可能である、
缶印刷にも転用できるフレキソ印刷版。」

3 引用文献3について
上記引用文献3には、次の事項が記載されている。

(1)「【背景技術】
【0002】
近年、紙・フィルム等の軟質包装材料に対する印刷方法として、いわゆるフレキソ印刷が広く用いられており、例えば、段ボール、紙器、紙袋、軟包装用フィルム等の各種包装材、壁紙、化粧板等の各種建装材、ラベルに対する印刷法として、その比重が高まりつつある。
【0003】
フレキソ印刷用の印刷版を製造するためには、通常、感光性樹脂(液状の樹脂又はシート状に成形された固体樹脂板等)が用いられる。
具体的には、所定のフォトマスクを感光性樹脂上に置き、マスクを介して光照射し、感光性樹脂を架橋反応させた後、架橋反応していない未露光部分を、現像液で洗い落として、パターンが形成された印刷版を作製するという方法が用いられている。
【0004】
近年においては、所定の感光性樹脂版の表面に、ブラックレイヤーという薄い光吸収層を設け、これにレーザー光を照射し、感光性樹脂版上に直接マスク画像を形成し、そのマスク画像を通して光照射を行い架橋反応させ、その後、非架橋部分を現像液で洗い落とすという効率的な印刷版の製造方法であるフレキソCTP(Computer to Plate)技術が開発されている。
しかしながら、このフレキソCTP技術においても、印刷版作製工程で現像工程が必須であるため、さらなる製造工程の効率化が求められている。」

(2)「【0014】
〔印刷版の製造方法〕
本実施の形態における印刷版の製造方法は、レーザー彫刻(α)により印刷原版層に印刷パターンを形成する第1工程と、レーザー彫刻(β)により前記印刷原版層の前記印刷パターン形成面を改質する第2工程とを有する印刷版の製造方法である。
【0015】
本実施の形態における印刷版の製造方法においては、前記第2工程のレーザー彫刻(β)により印刷原版層を彫刻する深さが、100μm以下とすることが好ましい。これにより、最終的に得られる印刷版において優れたベタ品質が実現できる。
また、前記第2工程のレーザー彫刻(β)により、前記印刷原版層の表面粗さRaを0.3μm以上、減少させることが好ましい。これにより、印刷版のベタ品質の向上効果が確実に発揮できる。これは、レーザー彫刻(β)の前後の表面粗さRaの変化が0.3μm以上であると印刷版はより平滑となり、印刷品質に好適な影響を及ぼす傾向があるからである。」

(3)「【0019】
レーザー彫刻(α)により形成する印刷パターンとしては、網点、細線、白抜き線、細字等が挙げられる。
解像度は100dpi(インチあたりのドットの数)?5000dpiの範囲が好ましい。この範囲とすることにより、シャドウ及びハイライトのバランスのとれた印刷版が得られる。
線数は30(lpi)(インチ当たりのピクセル数)?300(lpi)の範囲が好ましい。この範囲であればシャドウ及びハイライトのバランスのとれた印刷版が得られる。
網点は1%?99%を個々に作成し、別途グラデーションを作成することが好ましい。
細線は、30μm幅以上、白抜き線は30μm幅以上、細字は1point以上を明朝体、ゴシック体で作成するのが好ましい。
なお、彫刻深さ(レリーフ深度)を大きく設定すると、微細な網点部のパターンのレリーフ面の面積が確保できず、形状も崩れて不鮮明となるため、彫刻深さは0.2mm以上1.5mm以下が好ましい。さらに好ましくは0.4mm以上1.0mm以下、よりさらに好ましくは0.4mm以上0.6mm以下である。版再現性の確認としてドットの形状が円錐状となっているか観察することが有効である。「版再現性」とは印刷画像を印刷版に転写する正確さを意味する。
【0020】
(レーザー彫刻(β)により、印刷原版層を改質する第2工程)
上述したようにレーザー彫刻(α)を行った後、レーザー彫刻(β)を行い、印刷パターンが彫刻された部位を含む印刷原版層の改質を行う。
なお、この第2工程においては、レーザー彫刻(β)を、印刷パターン形成面及び印刷パターン非形成面の両方、すなわち印刷原版の全体に亘り行ってもよく、印刷パターン形成面のみに対して行ってもよい。
なお、目的とする印刷版が凸版である場合は、印刷パターン形成面は凸部であり、印刷パターン非形成面が凹部となる。
目的とする印刷版が凹版である場合、印刷パターン形成面は凹部となり、印刷パターン非形成面が凸部となる。」

(3)「【0024】
レーザー彫刻(β)の具体的な方法としては、レーザー彫刻機の制御装置を用いて、レーザーの走査速度を上げる方法、レーザーの送りピッチを大きくする方法、レーザーの出力を低下させる方法等が適用できる。
なお、レーザー彫刻機のレーザー出力については、例えば、レーザーヘッドから射出したレーザーの出力を、レーザパワーメータ ディスプレイであるフィールド・メイト(商品名、米国、コヒレント社製)をパワーセンサーPM5K(商品名、米国、コヒレント社製)と組み合わせる等して測定できる。
【0025】
また、レーザー彫刻(β)を行う方法としては、フォーカスを適性値から所定量ずらす方法も適用できる。
通常の使用方法として、レーザー彫刻機は、フォーカスを調整し、レーザーのスポットを最小にした状態で使用されるが、レーザー彫刻(β)においては、あえてスポット径を大きくし、広範囲なスポット径での彫刻を行うことで、レーザーの走査線を発生しにくくして行うことができる。
フォーカスのずらし方は、印刷原版層に対する彫刻が確保されるレーザー出力の範囲であれば、プラス/マイナスのいずれの方向であってもよい。
レーザーの分布が狭いレーザー彫刻機等を用いる場合には、フォーカスを変動させる方法が好適である。 また、上記のほかにも、レーザー彫刻機の制御装置に組み込まれているソフトウェアの機能を利用して、レーザー彫刻(β)を行ってもよい。」

(4)「【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、フレキソ印刷、グラビア印刷、ドライオフセット印刷を行う印刷版の製造方法として好適であり、エンボス加工等の表面パターンの形成、タイル等の印刷用レリーフ画像形成、電子部品の導体、半導体、絶縁体、パターン形成、光学部品の反射防止膜、カラーフィルター、(近)赤外線カットフィルター等の機能性材料のパターン形成、更には液晶ディスプレイあるいは有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ等の表示素子の製造における配向膜、下地層、発光層、電子輸送層、封止材層の塗膜・パターン形成技術として産業上の利用可能性がある。」

上記(1)?(4)を総合すると、引用文献3には、以下の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されている。

「レーザー彫刻(α)により印刷原版層に印刷パターンを形成する第1工程と、レーザー彫刻(β)により前記印刷原版層の前記印刷パターン形成面を改質する第2工程とを有する印刷版の製造方法であって、
レーザー彫刻(α)により形成する印刷パターンは、網点、細線、白抜き線、細字であり、
レーザー彫刻(α)を行った後に行う、印刷原版層を改質する第2工程であるレーザー彫刻(β)は、印刷パターン形成面及び印刷パターン非形成面の両方、すなわち印刷原版の全体に亘り行うか、印刷パターン形成面のみに対して行うものであり、
レーザー彫刻(β)の具体的な方法としては、レーザー彫刻機の制御装置を用いて、レーザーの走査速度を上げる方法、レーザーの送りピッチを大きくする方法、レーザーの出力を低下させる方法、あるいは、フォーカスを適性値から所定量ずらす方法が適用される、
フレキソ印刷を行う印刷版の製造方法。」

4 引用文献4について
上記引用文献4には、次の事項が記載されている。

(1)「【0007】
前記の課題を解決するために、本発明に係る凸版は、円柱状をなす版胴とこの版胴に塗布されたインキが転写されるブランケットとを備えた缶の印刷装置に用いられ、前記版胴の外周面に配設される凸版であって、前記版胴の外周面に配設された状態において、最も径方向外方に位置するベタ部と、このベタ部から径方向内方に向けて凹んだ基底部及びこの基底部から径方向外方に向けて突出する概略錐台状の突起部を有する網点部と、が形成され、前記ベタ部と前記突起部の頂部との径方向距離H1が、0μm<H1≦80μmの範囲内に設定されていることを特徴としている。」

(2)「【0010】
また、本発明に係る凸版の製造方法は、前述の凸版の製造方法であって、版素材にレーザを照射し、版素材の表面を焼失させて前記網点部を形成することを特徴としている。
この構成の凸版の製造方法によれば、レーザによって版素材を焼失させて網点部(基底部及び突起部)を形成しているので、突起部を精度良く形成することができる。これにより、突起部によって印刷される点(ドット)のサイズの下限値を従来の50μmから10μmへと大幅に向上させることが可能となる。つまり、従来では表現できなかった、10μm?50μmの点を再現することができるのである。ここで、点(ドット)の大きさとは、点の輪郭がなす円又は多角形の内接円の直径である。」

上記(1)?(2)を総合すると、引用文献4には、以下の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されている。

「版素材にレーザを照射し、版素材の表面を焼失させて網点部を形成することで、突起部を精度良く形成することができ、10μm?50μmの点を再現することができる、缶の印刷装置に用いられる凸版の製造方法。」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1) 対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。

ア 引用発明1において、(「印刷原版」の)「樹脂層」上に形成された「レリーフ画像」は、印刷を行う際にインキが付着することは明らかであるから、引用発明1における、「樹脂層」上に形成された「レリーフ画像」に、「スクリーン線数の密度で形成した円錐状もしくは円筒状の形状」の「網点」を有した「網点部」と、「ベタ部」と、を有する「フレキソ印刷用の印刷版の製造方法」と、本願発明1の「インキが付着する画像部分に、複数の突起体が配設された網点部と、前記網点部以外の部分と、を有する缶の印刷用凸版を製造する方法」とは、「インキが付着する画像部分に、複数の突起体が配設された網点部と、前記網点部以外の部分と、を有する印刷用凸版を製造する方法」との概念で共通する。

イ 引用発明1において、「レーザー彫刻工程において、所望の画像をデジタル型のデータとしておき、所定のコンピューターを利用し、彫刻用のレーザー装置を用いてレーザー彫刻を行い、樹脂層上にレリーフ画像が形成され」た際に、「網点部」がレーザー彫刻されたものとなることは明らかであるから、当該「レーザー彫刻工程」における、「レリーフ画像」の「網点部」をレーザー彫刻する工程は、本願発明1の「前記画像部分のうち、前記網点部をレーザー彫刻する工程」に相当する。

ウ 引用発明1において、「網点部の頭頂部の高さを、ベタ部と高低差が無いように印刷原版をレーザー彫刻する方法」として「ベタ部を彫刻する方法」が用いられる点と、本願発明1の「前記網点部をレーザー彫刻する工程の後に、前記画像部分のうち、前記網点部以外の部分をレーザー彫刻する工程」を備える点とは、「前記画像部分のうち、前記網点部以外の部分をレーザー彫刻する工程」を備える点で共通する。

したがって、本願発明1と引用発明1との間には、次の一致点、相違点がある。
(一致点)
「インキが付着する画像部分に、複数の突起体が配設された網点部と、前記網点部以外の部分と、を有する印刷用凸版を製造する方法であって、
前記画像部分のうち、前記網点部をレーザー彫刻する工程と、
前記画像部分のうち、前記網点部以外の部分をレーザー彫刻する工程と、を備える、
印刷用凸版を製造する方法。」

(相違点1)
本願発明1は「缶の印刷用凸版を製造する方法」であるのに対し、
引用発明1は、「缶の」印刷用凸版を製造する方法であるのか明らかでない点。
(相違点2)
「前記画像部分のうち、前記網点部以外の部分をレーザー彫刻する工程」に関し、
本願発明1においては、当該工程を「前記網点部をレーザー彫刻する工程の後に」行うのに対し、
引用発明1においては、「ベタ部を彫刻する方法」は、「レリーフ画像」の「網点部」をレーザー彫刻する工程の後に行うのか明らかではない点。
(相違点3)
本願発明1においては、「前記網点部以外の部分をレーザー彫刻する工程では、レーザー彫刻後の前記網点部の高さを基準として±0.03mmの範囲内の高さとなるように、前記網点部以外の部分をレーザー彫刻」するのに対し、
引用発明1においては、「ベタ部を彫刻する方法」は、「レーザー彫刻後の前記網点部の高さを基準として±0.03mmの範囲内の高さとなるように」、ベタ部を(レーザー)彫刻するのか明らかではない点。
(相違点4)
本願発明1においては、「前記網点部の高さとは、前記突起体の頂面の面積が9×10^(-3)mm^(2)よりも小さい場合には、前記突起体の最頂点から、印刷により所期の網点太さが得られるように当該缶の印刷用凸版の厚さ方向に後退した高さを指し、前記突起体の頂面の面積が9×10^(-3)mm^(2)以上の場合には、前記突起体の最頂点の高さを指す」のに対し、引用発明1では、網点部の高さをそのように定義していない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み上記相違点4について先に検討すると、引用発明2ないし4のいずれも、「前記網点部の高さとは、前記突起体の頂面の面積が9×10^(-3)mm^(2)よりも小さい場合には、前記突起体の最頂点から、印刷により所期の網点太さが得られるように当該缶の印刷用凸版の厚さ方向に後退した高さを指し、前記突起体の頂面の面積が9×10^(-3)mm^(2)以上の場合には、前記突起体の最頂点の高さを指す」と、定義していないことは明らかである。
また、上記相違点4に係る本願発明1の発明特定事項が、当業者にとって設計事項であるとする根拠もない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明1ないし4に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明2について
本願発明2は本願発明1を減縮した発明であるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明1ないし4に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第7 原査定について
原査定の拒絶の理由の概要は上記「第2」のとおりであるが、上記「第5」?「第6」のとおりであるから、本願発明1?2は、引用発明1ないし4に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第8 当審拒絶理由通知について
1 平成30年6月13日付けの当審拒絶理由通知では、本件出願は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない、との拒絶の理由を通知している。
具体的には、請求項1の「前記網点部の高さとは、前記突起体の頂面の面積が9×10^(-3)mm^(2)よりも小さい場合には、前記突起体の最頂点から所定の高さだけ当該缶の印刷用凸版の厚さ方向に後退した高さを指す」点が不明確である(請求項1を引用する請求項2?3も同様。)、というものである。

2 平成30年10月29日付けの当審拒絶理由通知では、
1)本件出願は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない、及び、
2)本件出願は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない、
との拒絶の理由を通知している。
具体的には、
理由1は、請求項1の「前記網点部の高さとは、頂面の面積が9×10^(-3)mm^(2)よりも小さい前記突起体の最頂点から、印刷により所期の網点太さが得られるように当該缶の印刷用凸版の厚さ方向に後退した高さを指す」とあるが、突起体の頂面の面積が9×10^(-3)mm^(2)以上のとき、網点部の高さはどのようなものか不明確である(請求項1を引用する請求項2?3も同様。)、というものであり、
また、理由2は、請求項1に係る発明は、「前記画像部分のうち、前記網点部以外の部分をレーザー彫刻する工程」を先に実行し、その「網点部以外の部分をレーザー彫刻する工程」では、「レーザー彫刻後の前記網点部の高さを基準として±0.03mmの範囲内の高さとなるように、前記網点部以外の部分をレーザー彫刻」するものであって、その後、「前記画像部分のうち、前記網点部をレーザー彫刻する工程」を実行する態様が含まれると解されるが、発明の詳細な説明において、そのような態様がどのように実施されているのか不明であり、発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない(請求項1を引用する請求項のうち、請求項3についても同様。)、というものである。

3 しかしながら、平成30年11月7日付けの手続補正で、請求項1は、上記「第4」のとおり補正されており(旧請求項2は削除され、旧請求項3が請求項2に繰り上がっている。)、 上記拒絶の理由はいずれも解消した。

第9 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-12-18 
出願番号 特願2013-219335(P2013-219335)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B41C)
P 1 8・ 537- WY (B41C)
P 1 8・ 536- WY (B41C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 村田 顕一郎  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 吉村 尚
荒井 隆一
発明の名称 缶の印刷用凸版の製造方法  
代理人 細川 文広  
代理人 大浪 一徳  
代理人 松沼 泰史  
代理人 寺本 光生  

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