• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A63B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 A63B
管理番号 1347234
審判番号 不服2017-16113  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-10-31 
確定日 2019-01-08 
事件の表示 特願2013- 78178「3ローター式ピッチングマシン」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月27日出願公開、特開2014-200417、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成25年4月4日を出願日とする特許出願(特願2013-078178号)であって,平成29年1月24日付で拒絶の理由が通知され,同年3月31日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年7月26日付で拒絶の査定がなされ,同査定の謄本は,同年8月1日に請求人に送達された。
これに対して,同年10月31日付で拒絶査定不服審判の請求がなされ,それと同時に手続補正書の提出がなされた。
その後,当審において,平成30年6月6日付けで拒絶理由が通知され,同年8月10日に意見書が提出されたものである。

第2 平成29年7月26日付の拒絶の査定(以下,「原査定」という。)の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は,本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は,引用文献1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当するものであって,特許を受けることができない。
本願の特許請求の範囲の請求項2に係る発明は,引用文献1及び2に記載の発明に基づいて,同請求項3に係る発明は,引用文献1ないし3に記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
引用文献1:特開2010-273930号公報
引用文献2:特開2005-224356号公報
引用文献3:特開2006-61231号公報

第3 当審拒絶理由の概要
平成30年6月6日付けで当審において通知した拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」という。)の概要はつぎのとおりのものである。
本件出願の請求項1及び2に係る発明は,引用文献1及び2に記載された発明に基づいて,請求項3に係る発明は,引用文献1ないし3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特開2010-273930号公報(原査定の拒絶理由で引用された引用文献1)
引用文献2:特開2005-224356号公報(原査定の拒絶理由で引用された引用文献2)
引用文献3:特開2006-61231号公報 (原査定の拒絶理由で引用された引用文献3)

第4 本願発明
本件特許出願に係る請求項1ないし3に係る発明(以下,「本願発明1」ないし「本願発明3」という。)3は,平成29年10月31日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるつぎのとおりのものである。
【請求項1】
ボールの投球方向周りに3つのローターを正面より見て逆Y型に配置し,各ローターはそれぞれの回転を制御する回転駆動装置を備え,3つの前記ローターで挟持してボールを投球する3ローター式ピッチングマシンにおけるローター回転速度の設定方法であって,
直球,変化球を問わず上側中央の前記ローターの回転速度に比べて下側左右の前記両ローターの回転速度が速くなるように設定することを特徴とするピッチングマシンにおけるローター回転速度の設定方法。
【請求項2】
前記各ローターの全周面に,ウレタン樹脂層を有する請求項1記載のピッチングマシンにおけるローター回転速度の設定方法。
【請求項3】
前記各ローターとそれらの回転駆動装置を共通の支持枠内に支持し,前記支持枠を支持台上に水平旋回可能に設置するとともに,前記支持枠の前記ボール投球方向を前記支持台に対し上下方向に調整可能に構成した請求項1または2記載のピッチングマシンにおけるローター回転速度の設定方法。

第5 引用文献,引用発明等(なお,引用箇所の摘示において,一部改行を省略した。)
1 引用文献1:特開2010-273930号公報
当審拒絶理由及び原査定の拒絶の理由において引用文献1として引用された引用文献1には,つぎの事項が記載されている。
(1)「【技術分野】【0001】 本発明は,ローター式ピッチングマシーンの改良に関するものであって,主として,3つの投球用ローターをY型に配置し,3つの投球用ローターによりボールを挟持し,投球用ローターの回転力にて,ボールを投球するピッチングマシーンにおいて,各々の投球用ローターの位置をローター取付体の回転により変化させて,種々の球種を,高いボールコントロール性を確保して投球することを可能とする3ローター式ピッチングマシーンに関するものである。」
(2)「【背景技術】【0002】 従来より,投球用ローターの回転力でボールを投球するのに,コントロールの安定を求めるため,3つの投球用ローターでボールを挟持して投球する3ローター式ピッチングマシーンが利用されていた。
・・・
【0004】 各種球種を投手が投げる場合,投手の手によりボールに対し,種々の方向への回転を加えることが可能である。3つの投球用ローターで挟持し,投球用ローターの回転で投球する場合,投球用ローターでボールを圧縮することで安定した投球が可能となる他,各々の投球用ローターの回転スピードを変えて,球種を変えたりすることも可能であるが,斜め方向や進行方向への回転力を与えるなどの,微妙な変化を簡単なピッチングマシーンの構造で可能とするものは存在しなかった。」
(3)「【課題を解決するための手段】【0007】 第1の発明は,上記課題を解決するため,ボール投球軸線を中心として回転固定可能なローター取付体に,3つの投球用ローターを取り付け,該3つの投球用ローターにてボールを挟持し,該投球用ローターの回転力によりボールを投球することを特徴とする3ローター式ピッチングマシーンを提供する。・・・
【発明の効果】【0009】 本発明は,ボール投球軸線を中心として回転固定可能なローター取付体に,3つの投球用ローターを取り付け,ローラー取付体(当審注:ローター取付体の誤記と認める。)を回転させることにより,投球されるボールに対する投球用ローターが接する方向を変化させることができるので,各種球種を投球することが可能な3ローター式ピッチングマシーンとなった。このローラー取付体(当審注:ローター取付体の誤記と認める。)の回転方向への変化は,投球用ローラー(当審注:投球用ローターの誤記と認める。)の回転数の変更制御や,投球用ローターの形状や材質の違いで異なった球種を設定するのに比べて容易であり,その構造も簡単なものとすることができた。」
(4)「【発明を実施するための形態】【0012】 以下,図面に従って,実施例と共に本発明の実施の形態について説明する。図1は,3ローター式ピッチングマシーンの投球部の1実施例を示す斜視図であり,図2は,同正面説明図であり,図3は,同側面説明図であり,図4は,ローター取付体を回転固定させた状態の正面説明図である。
【0013】 実施例にかかる3ローター式ピッチングマシーンの概要を説明する。3ローター式ピッチングマシーンは,図示されていない架台上に図1に示される投球部1を設けたものである。尚,図示されていない架台は,移動用の車輪が前後左右の3カ所又は4カ所に設置されるとともに,ボール発射方向を上下左右に調整する調整機能を有する従来の2ローター式ピッチングマシーンや3ローター式ピッチングマシーンに用いられているものと同様のものであるので詳細な説明は省略する。
【0014】 投球部1は,各図に示されるように,本発明におけるローター取付体となる発射筒2と,発射筒2に取り付けられ支えられた3つの投球用ローター(第1投球用ローター3,第2投球用ローター4,第3投球用ローター5)と,ボールシューター6と,発射筒2をボール投球軸線20を中心に回転させる駆動部7とよりなる。尚,図2では,第3投球用ローター5が前方にあるため,駆動部7が隠れて図示されていない。
【0015】 発射筒2は,ボール投球軸線方向(図1及び図3中左右方向)に円筒状のもので,筒体内部21を図2及び図4に示すように投球用のボールBが通過可能な大きさとしている。発射筒2の中央部付近には,図1及び図3に示すようにY型に配置された第1投球用ローター3,第2投球用ローター4,第3投球用ローター5が発射筒2内部に進入可能となる切欠窓8が,3カ所形成されている。」
(5)「【0021】 以下,3ローター式ピッチングマシーンの投球部1の動作について説明する。
まず,ボール溜まりより1個ずつ供給されるボールBは,ボールシューター6に案内され,発射筒2内のボール挿入空間に配球される。ボール挿入空間において,ボールBは第1投球用ローター3,第2投球用ローター4,第3投球用ローター5の外周面で挟持される。
【0022】 この時,ボールBと第1投球用ローター3,第2投球用ローター4,第3投球用ローター5の外周面の接触は図2に示されるように,第1投球用ローター3は,ボールBに対して左斜め上方より接し,第2投球用ローター4は,ボールBに対して右斜め上方より接し,第3投球用ローター5は,ボールBに対して真下より接している。
【0023】 この時,第1投球用ローター3,第2投球用ローター4,第3投球用ローター5は,ローター駆動用の投球用モータMにより外方向(投球方向)への回転力を与えられているので,ボールBはボール投球軸線方向に投球される。各投球用ローター3,4,5とボールBの接触が上記図2のようであれば,ボールBに対し真下から接している第3投球用ローター5の回転数を上げたり,ボールBに対する圧力を上げたりすることにより,ボールBはボール投球軸線方向と逆方向に回転しながら発射され,ホップした球種となって投球される。」
(6)「【0025】 球種の変更を行う場合,駆動部7を作動させ,発射筒2の従動歯車15を回転させる。詳しくは,図示されていない駆動モータにより駆動軸13が回転し,該駆動軸13に取り付けられている駆動歯車14も回転し,駆動歯車14と噛み合った従動歯車15も回転する。これにより発射筒2は,ボール投球軸線20を中心として回転する。図4は,図1の状態から60度右方向に回転させ,その位置で停止固定させた状態を示している。もちろん,回転方向は左右とも可能であり,回転角度も自由に変更可能である。
【0026】 発射筒2を図4に示される位置まで回転させ固定すると,ボールBと第1投球用ローター3,第2投球用ローター4,第3投球用ローター5の外周面の接触は図4に示されるように,第1投球用ローター3は,ボールBに対して真上より接し,第2投球用ローター4は,ボールBに対して右斜め下より接し,第3投球用ローター5は,ボールBに対して左斜め下より接している。
【0027】 この状態で,ボールを投球するに際し,ボールBに対し真上から接している第1投球用ローター3の回転数を上げたり,ボールBに対する圧力を上げたりすることにより,ボールBはボール投球軸線方向に回転しながら発射され,下方へと変化する球種となって投球される。 」
(7)図1

(8)図2


(9)図4


(10)図2には,第1投球用ローター3,第2投球用ローター4及び第3投球用ローター5がY字型に配置されている様が,図4には,第1投球用ローター3,第2投球用ローター4及び第3投球用ローター5が,逆Y字型に配置されている様が看て取れる。
(11)上記(6)によれば,「発射筒2を図4に示される位置まで回転させ固定」することで,「ボールBと第1投球用ローター3,第2投球用ローター4,第3投球用ローター5の外周面の接触は図4に示されるように,第1投球用ローター3は,ボールBに対して真上より接し,第2投球用ローター4は,ボールBに対して右斜め下より接し,第3投球用ローター5は,ボールBに対して左斜め下より接」することとなり,図4を参照すれば,この時の3つのローターの配置は逆Y字型に配置されているものといえる。
そして,「この状態」で,「ボールを投球するに際し,ボールBに対し真上から接している第1投球用ローター3の回転数を上げたり」「することにより,ボールBはボール投球軸線方向に回転しながら発射され,下方へと変化する球種となって投球され」ることが記載されていることからすれば,第1投球用ローターの回転数を上げること(ここでの回転数を上げるとは,その他のローターの回転数と比べて回転数を上げることであることは自明である)により,下方へと変化する球種を投球する回転設定方法が記載されているものということができる。
(12)してみると,引用文献1には,「ボール投球軸線を中心として回転固定可能なローター取付体に,3つの投球用ローターを取り付け,該3つの投球用ローターにてボールを挟持し,該投球用ローターの回転力によりボールを投球することを特徴とする3ローター式ピッチングマシーンにおいて,ローター取付体を回転させることにより,投球されるボールに対する投球用ローターが接する方向を変化させることにより,各種球種を投球することが可能で,発射筒を回転させ固定し逆Y型に配置された第1投球用ローター,第2投球用ローター,第3投球用ローターの外周面は,第1投球用ローターは,ボールに対して真上より接し,第2投球用ローターは,ボールに対して右斜め下より接し,第3投球用ローターは,ボールに対して左斜め下より接し,この状態で,ボールを投球するに際し,ボールに対し真上から接している第1投球用ローターの回転数を上げることにより,ボールはボール投球軸線方向に回転しながら発射され,下方へと変化する球種を投球する回転設定方法。」の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
(13)また,上記(5)の記載によれば,引用文献1には,「ボール投球軸線を中心として回転固定可能なローター取付体に,3つの投球用ローターを取り付け,該3つの投球用ローターにてボールを挟持し,該投球用ローターの回転力によりボールを投球することを特徴とする3ローター式ピッチングマシーンにおいて,発射筒を回転させ固定しY型に配置された第1投球用ローター,第2投球用ローター,第3投球用ローターの外周面は,第1投球用ローターは,ボールに対して左斜め上方より接し,第2投球用ローターは,ボールに対して右斜め上方より接し,第3投球用ローターは,ボールに対して真下より接し,ボールに対し真下から接している第3投球用ローターの回転数を上げることにより,ボールはボール投球軸線方向と逆方向に回転しながら発射され,ホップした球種を投球する回転設定方法。」(以下,「引用文献1Y字回転設定方法」という。)が記載されているものと認められる。
2 引用文献2:特開2005-224356号公報
原査定及び当審拒絶理由において引用された引用文献2には,次の事項が記載されている。
(1)「【0013】 ボール供給装置3の前方に配置のボール投出装置4は,垂直回転ホイール28とこの垂直回転ホイール28に対して後方から見て右側に120度回転して斜め上に配置された右傾斜回転ホイール29と左側に120度回転して斜め上に配置された左傾斜回転ホイール30がホイール枠21に配設され,互いのホイール面を三角形状に対面配置している。この対面配置する三角形状のホイール面の間隙にボール供給装置3から供給されたボールを通過させるボール投出路35を形成している。垂直回転ホイール28と右傾斜回転ホイール29と左傾斜回転ホイール30はいずれも表面にウレタン樹脂を被覆したアルミホイールからなり,その径はφ310mmである。上記のボール投出路35はボール供給路34から供給されたボールに回転ホイールのウレタン樹脂による摩擦でさらに回転力及び球速を付与して前方に投出する。
【0014】 上記の装置において,ボール供給装置3の垂直回転ホイール28と右傾斜回転ホイール29と左傾斜回転ホイール30はそれぞれモータ31を有し,それぞれのモータ31からベルト伝動機構32により独立して制御されて回転される。さらにボール供給装置3の上ホイール26と下ホイール27は垂直回転ホイール28のモータ31からベルト伝動機構32により駆動される。」
(2)「【0019】 この発明のピッチングマシーン1の操作方法について説明する。ピッチングマシーン1をバッターボックスから所定の距離,例えば18m,離れた位置にボール通路枠25を後方に向けて設置する。さらにピッチングマシーン1のボール通路枠25へボールを供給するボール供給手段をボール通路枠25の後部に設置する。これらのピッチングマシーン1の設置準備が終了すると,ピッチングマシーン1は図5のブロック図に示すボール制御手段を有する制御ボックス13と球種選別指示盤14により操作される。この場合,素人が打者として練習するバッティングセンターなどでは,バッターボックスの近くにも球種選別指示盤を補助的に設ける。ボールの速度は素人用には毎時100キロメートル前後に設定する。この場合は,表1に示すように球種選別指示盤14から各球種と速度により10種のボールの速度を設定可能とし,本発明の場合,球種選別指示盤14の10個の押しボタンを選択することにより,10種の球種を選択することができる。また,付設の球速変更ボタンを押すことにより,球速を毎時100キロメートル前後の低速と,下記に説明するプロの野球選手やアマの野球選手でも程度の高い人などの高速の毎時135キロメートル前後に切り換えることができる。
【0020】
【表1】


【0021】 この表1は,素人用のボールの速度が毎時80?130キロメートル前後の場合の各球種を定める際におけるボール投出装置4の垂直回転ホイール28と右傾斜回転ホイール29と左傾斜回転ホイール30のそれそれのホイールの毎分当たりの回転数を示している。」
(3)表1には,ストレート,スライダー,シュートの各球種について垂直回転ホイールの回転速度を右傾斜回転ホイール及び左傾斜回転ホイールの回転速度よりも大きく設定することが読み取れる。
(4)上記(1)ないし(3)によれば,引用文献2には,「ボール供給装置の前方に配置のボール投出装置は,垂直回転ホイールとこの垂直回転ホイールに対して後方から見て右側に120度回転して斜め上に配置された右傾斜回転ホイールと左側に120度回転して斜め上に配置された左傾斜回転ホイールがホイール枠に配設され,互いのホイール面を三角形状に対面配置し,対面配置する三角形状のホイール面の間隙にボール供給装置から供給されたボールを通過させ回転力及び球速を付与して前方に投出するよう構成されているピッチングマシーンの各回転ホイールの回転速度を操作して球種と速度により10種のボールの速度を設定可能とするものにおいて,ストレート,スライダー,シュートの各球種について垂直回転ホイールの回転速度を右傾斜回転ホイール及び左傾斜回転ホイールの回転速度よりも大きく設定する設定方法。」が記載されているものと認められる。

3 引用文献3:特開2006-61231号公報
原査定及び当審拒絶理由において引用された引用文献3には次の事項が記載されている。
(1)「【0016】 本発明の基本的な構成は,図1に示すように,3個のローラ1,2,3が作るボール挿入空間5と,該ボール挿入空間5内に挿入されたボール4に初速および回転を付与する前記3個のローラ1,2,3を各別に回転制御する各駆動装置M1,M2,M3と,これら3個のローラ1,2,3および駆動装置M1,M2,M3が搭載された構造台6を有するピッチングマシンPにおいて,前記構造台6を上下および左右に所定角度で揺動可能に駆動する方向制御駆動部M4,M5を設けたことを特徴とするものである。」
(2)「【実施例】【0017】 図1に示すように,製作した新型のピッチングマシンPは,コンピュータ8およびコントローラ11等の制御部とともに制御システムを構成する。コンピュータ8には階層型ニューラルネットワーク(NN)および投球決定プログラム10等が格納さている。試作品の写真図を図2に示す。図1から分かるように,ボール4は発射位置周りに120°間隔でY字型に設置された3個のゴム製のローラ1,2,3の外周面との摩擦力を利用して発射される。各ローラ1,2,3にはそれぞれ駆動装置であるモータM1,M2,M3が設置されており,Vベルトを介して連動し回転数は0?2300rpmまで可変でき,各モータM1,M2,M3は各々独立(各別)に回転制御される。
【0018】 さらに,ボール4を任意の目標範囲に投げ分けるため,ピッチングマシンPの下部に方向制御駆動部を構成するモータM4およびM5を設置した。前記ローラ1,2,3および駆動装置であるモータM1,M2,M3ならびにピッチングマシンPの上下角θを調整する駆動モータM4は構造台6に設置され,該構造台6の左右角φを調整する駆動モータM5は構造台6の下部の台車7に設置される。これらの駆動モータM4,M5の設置位置を交替してもよい。ピッチングマシンP本体の上下角θを-6°?+6°,左右角φを-5°?+5°まで可変できるようにした。これらの新機構を採用した新型ピッチングマシンでは,最高速160km/hまでの任意の球速で,かつ広範囲の希望する目標範囲に,任意の球種のボールを投球することが可能である。」
(3)図1

(4)上記(1)及び(2)並びに図1によれば,引用文献3には,「3個のローラが作るボール挿入空間と,該ボール挿入空間内に挿入されたボールに初速および回転を付与する前記3個のローラを各別に回転制御する各駆動装置と,これら3個のローラおよび駆動装置が搭載された構造台を有するピッチングマシンにおいて,前記構造台を上下および左右に所定角度で揺動可能に駆動する方向制御駆動部を設ける」技術について記載されているものと認める。

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「ボール投球軸線を中心として回転固定可能なローター取付体に,3つの投球用ローターを取り付け,該3つの投球用ローターにてボールを挟持し,該投球用ローターの回転力によりボールを投球することを特徴とする3ローター式ピッチングマシーン」は,本願発明1の「ボールの投球方向周りに3つのローターを」「配置し,各ローターはそれぞれの回転を制御する回転駆動装置を備え,3つの前記ローターで挟持してボールを投球する3ローター式ピッチングマシン」に相当する。
イ 引用発明1の「ローター取付体を回転させることにより,投球されるボールに対する投球用ローターが接する方向を変化させることにより,各種球種を投球することが可能で,発射筒を回転させ固定し逆Y型に配置された第1投球用ローター,第2投球用ローター,第3投球用ローターの外周面は,第1投球用ローターは,ボールに対して真上より接し,第2投球用ローターは,ボールに対して右斜め下より接し,第3投球用ローターは,ボールに対して左斜め下より接し,この状態で,ボールを投球する」ことは,本願発明1の「ボールの投球方向周りに3つのローターを正面より見て逆Y型に配置し,各ローターはそれぞれの回転を制御する回転駆動装置を備え,3つの前記ローターで挟持してボールを投球する」ことに相当する。
ウ 本願発明1の「直球,変化球を問わず上側中央の前記ローターの回転速度に比べて下側左右の前記両ローターの回転速度が速くなるように設定することを特徴とするピッチングマシンにおけるローター回転速度の設定方法」と引用発明1の「ボールを投球するに際し,ボールに対し真上から接している第1投球用ローターの回転数を上げることにより,ボールはボール投球軸線方向に回転しながら発射され,下方へと変化する球種を投球する回転設定方法」とは,「各ローターの回転速度を異なる回転速度に設定するローター回転速度の設定方法」との概念に限り共通するものといえる。
エ してみると,本願発明1と引用発明1とは,つぎの一致点で一致し,相違点において相違する。
<一致点>
「ボールの投球方向周りに3つのローターを正面より見て逆Y型に配置し,各ローターはそれぞれの回転を制御する回転駆動装置を備え,3つの前記ローターで挟持してボールを投球する3ローター式ピッチングマシンにおけるローター回転速度の設定方法であって,各ローターの回転速度を異なる回転速度に設定するローター回転速度の設定方法」である点。
<相違点>
本願発明1は,「直球,変化球を問わず上側中央の前記ローターの回転速度に比べて下側左右の前記両ローターの回転速度が速くなるように設定する」ものであるのに対して,引用発明1は「下方へと変化する球種」を投球する際に「ボールに対し真上から接している第1投球用ローターの回転数を上げる」ものである点。

(2)相違点についての検討
ア 相違点を検討するに当たり,本願発明1の「直球,変化球を問わず上側中央の前記ローターの回転速度に比べて下側左右の前記両ローターの回転速度が速くなるように設定する」ことの技術的意義について検討する。
本願明細書の段落【0007】及び【0008】の記載によれば,本願発明は,下側2つ・中央上1つの逆Y型のローター配置として,下側の左右のローターの回転を上側の一つのローターよりも早くすることにより,従来の上側2つ・中央下1つのY型ロータ配置よりも下側ローターの滑りが生じにくく,ボールに下側の左右のローターによる回転力が確実に伝達されることで,球速を速くしても特に直球がホームベース上でおじぎすることがなく,ボールがホップアップするように伸び,スピンのきいた切れのよい投球ができるという技術的意義を有するものといえる。
イ 引用文献1には,上記第5の1(13)の「引用文献1Y字回転設定方法」として,「ボールに対し真下から接している第3投球用ローターの回転数を上げることにより,ボールはボール投球軸線方向と逆方向に回転しながら発射され,ホップした球種を投球する」ことが記載されているものの,引用文献1においては,引用発明1として認定したところの「3つのローターを逆Y型に配置」した態様は,下方へと変化する球種を投球するためであるから,回転数を他のローターの回転数よりも上げるローターを,「ボールに対し真上から接している第1投球用ローター」から,「ボールに対して右斜め下より接する第2投球用ローター及びボールに対して左斜め下より接する第3投球用ローター」とすることには,阻害要因があるものというべきである。
ウ 上記第5の2(4)のとおり,引用文献2には,「ボール供給装置の前方に配置のボール投出装置は,垂直回転ホイールとこの垂直回転ホイールに対して後方から見て右側に120度回転して斜め上に配置された右傾斜回転ホイールと左側に120度回転して斜め上に配置された左傾斜回転ホイールがホイール枠に配設され,互いのホイール面を三角形状に対面配置し,対面配置する三角形状のホイール面の間隙にボール供給装置から供給されたボールを通過させ回転力及び球速を付与して前方に投出するよう構成されているピッチングマシーン」の各回転ホイールの回転速度を操作して球種と速度により10種のボールの速度を設定可能とするものにおいて,ストレート,スライダー,シュートの各球種について垂直回転ホイールの回転速度を右傾斜回転ホイール及び左傾斜回転ホイールの回転速度よりも大きく設定する設定方法」が記載されているものと認められるものの,当該技術も,上記「引用文献1Y字回転設定方法」と同様,ボールに対し真下に接している第3投球用ローターの回転速度を他ローターの速度よりも大きく設定する」ものであって,本願発明1のように「上側中央の前記ローターの回転速度に比べて下側左右の前記両ローターの回転速度が速くなるように設定する」ものではない。
エ また,「引用発明1Y字回転設定方法」や引用文献2に記載の技術事項から,ホップした球種を投球するにはボールの下側に接するローターの回転速度を上側のローターの回転速度よりも速くなるよう設定すれば良いことが当業者にとって理解できる結果,当該技術が周知の技術事項であるものであり,たとえ,そのような周知の技術事項を引用発明1の逆Y字型のローターの配置態様において適用することが容易になし得るものであったとしても,本願発明が奏する「球速を速くしても特に直球がホームベース上でおじぎすることがなく,ボールがホップアップするように伸び,スピンのきいた切れのよい投球ができる」という効果が,引用文献1や周知の技術事項から当業者予測し得るものとする根拠はない。
オ なお,引用文献3には,「上側中央の前記ローターの回転速度に比べて下側左右の前記両ローターの回転速度が速くなるように設定する」ことについては記載されていない。
カ 上記のとおりであるから,引用発明1において,「下方へと変化する球種」を投球する際に「ボールに対し真上から接している第1投球用ローターの回転数を上げる」ことを,「直球,変化球を問わず上側中央の前記ローターの回転速度に比べて下側左右の前記両ローターの回転速度が速くなるように設定する」ようにし,本願発明1の相違点1に係る構成のようにすることは,当業者が容易になし得るものということはできない。
そして効果についてもみても,上記エで既に検討したように,当該相違点により,本願発明1は,「球速を速くしても特に直球がホームベース上でおじぎすることがなく,ボールがホップアップするように伸び,スピンのきいた切れのよい投球ができる」という格別の効果を奏するものである。
(3)小括
以上の次第であるから,本願発明1は,当業者であっても,引用文献1に記載の発明及び引用文献2及び3に記載のものに基づいて容易に発明をすることができたものということはできない。
なお,本願発明1と引用発明1との間には,相違点が存在する以上,原査定の理由を維持することはできない。

2 本願発明2及び3について
請求項2及び3は,上記第4で説示したように,請求項1を引用するものであるから,本願発明2及び3は,いずれも本願発明1の発明特定事項を含むものであって,引用発明1とは,上記1の(1)エの相違点において少なくとも相違するものであり,当該相違点に係る構成が容易に想到し得るものということができないことは,上記1(2)のとおりであるから,本願発明1と同様の理由により,当業者であっても引用発明1及び引用文献2及び3に記載のものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
そして,本願発明2及び3については,原査定の理由と当審拒絶理由とは同様の理由であるから,原査定の理由も維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおりであるから,本願は,原査定の理由及び当審拒絶理由によっては,拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,上記結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-12-18 
出願番号 特願2013-78178(P2013-78178)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A63B)
P 1 8・ 113- WY (A63B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 砂川 充  
特許庁審判長 吉村 尚
特許庁審判官 尾崎 淳史
藤本 義仁
発明の名称 3ローター式ピッチングマシン  
代理人 鳥巣 慶太  
代理人 中嶋 慎一  
代理人 鳥巣 実  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ