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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G05B
管理番号 1347331
審判番号 不服2018-12330  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-13 
確定日 2019-01-08 
事件の表示 特願2017-80956「産業用制御装置、制御方法、プログラム、包装機、および包装機用制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年11月15日出願公開、特開2018-181021、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本件審判請求に係る出願(以下、「本願」という。)は、平成29年4月14日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成30年 2月14日: 審査請求
同 年 4月 5日付け:拒絶理由通知書
同 年 5月29日: 意見書、手続補正書の提出
同 年 8月 6日付け:拒絶査定
同 年 9月13日: 審判請求書、手続補正書の提出
同 年10月 5日付け:前置報告
同 年11月 1日: 上申書の提出


第2 原査定の概要
原査定(平成30年8月6日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1-7に係る発明は、以下の引用文献1ないし4に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2014-237476号公報
2.実公平5-20651号公報
3.特公平7-106734号公報
4.特開2016-120932号公報


第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正によって、以下の(1)ないし(3)が補正された。
(1)請求項1ないし3に係る産業用制御装置の発明、及び、同じく請求項4に係る包装機用制御装置、並びに、請求項6-7に係るプログラム及び包装機の発明、の各々を特定するための事項である「制御指示部」が行う「タクト」の「特定」について、「当該異常の要因」及び「前記要因に起因して、時間遅れをもって生じる不具合との因果関係を示す因果関係情報」の2つを用いる(=「基づいて」)とした事項を追加する補正
(2)請求項5に係る産業用制御装置が実行する制御方法の発明を特定する事項である「制御する」実行対象とされた「タクト」の「特定」について、「当該異常の要因」及び「前記要因に起因して、時間遅れをもって生じる不具合との因果関係を示す因果関係情報」の2つを用いる(=「基づいて」)とした事項を追加する補正
(3)明細書の補正(【0011】、【0014】、【0015】)
そこで、特許請求の範囲を対象とする(1)及び(2)の補正について目的要件を検討する。
上記(1)及び(2)の補正はいずれも補正前に記載されていた「制御指示部」及び「制御する」を、更に限定するものであるから、当該補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、これら(1)ないし(3)に係る補正は、本件の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明における【0084】-【0097】に記載された事項であるから、いずれも当初明細書等に記載された事項であり、新規事項を追加するものではない。
そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1-7に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。


第4 本願発明
本願請求項1-7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明7」という。)は、平成30年9月13日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-7に記載された事項により特定される、以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
上流側から下流側に向けて並べて配置された複数の工程において、生産対象物に対し順次生産のための処理を実施する生産装置を制御する産業用制御装置であって、
前記複数の工程の各々が実施する処理の単位処理時間をタクトと定義する場合に、前記複数の工程のうち監視対象となる工程における処理の状態を表す物理量を前記タクト毎に取得する物理量取得部と、
前記取得された物理量または当該物理量から抽出される特徴量に基づいて、前記監視対象となる工程における異常の発生を判定する異常判定部と、
前記監視対象となる工程において異常が発生したと判定された場合に、当該異常の要因と、前記要因に起因して、時間遅れをもって生じる不具合との因果関係を示す因果関係情報に基づいて、当該異常の影響を受けた生産対象物に対し下流側の工程が処理を実施するタクトを特定し、前記生産装置の処理を停止させることなく、前記下流側の工程による前記特定したタクトにおける処理を異常対応処理とするように制御する制御指示部と
を具備する産業用制御装置。
【請求項2】
前記監視対象となる工程が複数ある場合に、これらの工程の各々に対応付けて、前記異常の影響を受けた生産対象物に対し前記下流側の工程が処理を実施するタクトを特定するタクト特定情報を記憶した記憶部をさらに備え、
前記制御指示部は、前記監視対象となる複数の工程の1つで異常が発生したと判定された場合に、当該異常が発生した工程に対応する前記タクト特定情報を前記記憶部から読み出し、当該読み出したタクト特定情報に基づいて、前記下流側の工程による前記特定したタクトにおける処理を異常対応処理とするように制御する、請求項1記載の産業用制御装置。
【請求項3】
前記制御指示部は、前記監視対象となる工程において異常の発生が判定された時点から、前記異常の影響を受けた生産対象物に対し前記下流側の工程が処理を実施するまでの間に当該下流側の工程が処理を実施するタクトの数を求め、前記下流側の工程が前記求められた数のタクトの次のタクトにおいて実施する処理を異常対応処理とするように制御する、請求項1記載の産業用制御装置。
【請求項4】
上流側から下流側に向けて並べて配置された複数の工程において、生産対象物に対し順次包装のための処理を実施する包装機を制御する包装機用制御装置であって、
前記複数の工程の各々が実施する処理の単位処理時間をタクトと定義する場合に、前記複数の工程のうち監視対象となる工程における処理の状態を表す物理量を前記タクト毎に取得する物理量取得部と、
前記取得された物理量または当該物理量から抽出される特徴量に基づいて、前記監視対象となる工程における異常の発生を判定する異常判定部と、
前記監視対象となる工程において異常が発生したと判定された場合に、当該異常の要因と、前記要因に起因して、時間遅れをもって生じる不具合との因果関係を示す因果関係情報に基づいて、当該異常の影響を受けた生産対象物に対し下流側の工程が処理を実施するタクトを特定し、前記包装機の処理を停止させることなく、前記下流側の工程による前記特定したタクトにおける処理を異常対応処理とするように制御する制御指示部と
を具備する包装機用制御装置。
【請求項5】
上流側から下流側に向けて並べて配置された複数の工程において、生産対象物に対し順次生産のための処理を実施する生産装置を制御する産業用制御装置が実行する制御方法であって、
前記複数の工程の各々が実施する処理の単位処理時間をタクトと定義する場合に、前記複数の工程のうち監視対象となる工程における処理の状態を表す物理量を前記タクト毎に取得し、
前記取得された物理量または当該物理量から抽出される特徴量に基づいて、前記監視対象となる工程における異常の発生を判定し、
前記監視対象となる工程において異常が発生したと判定された場合に、当該異常の要因と、前記要因に起因して、時間遅れをもって生じる不具合との因果関係を示す因果関係情報に基づいて、当該異常の影響を受けた生産対象物に対し下流側の工程が処理を実施するタクトを特定し、前記生産装置の処理を停止させることなく、前記下流側の工程による前記特定したタクトにおける処理を異常対応処理とするように制御する、制御方法。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれかに記載の産業用制御装置が備える前記各部としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【請求項7】
請求項1乃至3のいずれかに記載の産業用制御装置を備え、前記産業用制御装置によって制御される前記生産装置である包装機。」


第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は、当審にて附加した。)

A
「【0001】
この発明は、実際の包装運転に即した設定値を得ることができる横形充填包装機における噛み込み防止制御方法およびその装置に関するものである。【背景技術】
【0002】
横形製袋充填機において、筒状フィルム中に供給された物品を検知センサで検知して得た物品の送り込み位置が、規定の位置からずれていることが判った際に、横シール手段におけるシール体の作動を休止して、位置ズレした物品の間を横シールしないようにした技術が提案されている(例えば特許文献1?3参照)。このような技術は、検知センサの位置から横シール手段における一対のシール体の挟持位置までの距離から、一対のシール体が挟持するタイミングが前後の物品間の規定位置に合致しないと判断される場合に、両シール体を挟持させないように制御している。」

B
「【0018】
図1に示すように、実施例に係る横形充填包装機(単に包装機という)は、フィルム供給源から引き出した熱収縮性を有するフィルムFに向けて供給手段10,12により物品Gを所定間隔毎に供給すると共に、フィルム成形手段(図示せず)により物品Gの周囲を覆うように成形したフィルムFの重合部に、一対のシールローラからなる縦シール手段14で縦シールを施すよう構成される。実施例の供給手段は、第1供給コンベヤ10と、この第1供給コンベヤ10の下流側に接続され、1個の物品Gを載置可能な第2供給コンベヤ12とを備え、第1供給コンベヤ10の搬送終端部に到来した物品Gを供給検知センサ16により検知し、物品G間が不揃いで送られてきた物品Gでも第2供給コンベヤ12に所定間隔毎に切り離して移送し得るようになっている。縦シール手段14の上側には、搬送ベッド18が配設され、第2供給コンベヤ12から所定間隔毎にフィルムFに供給された物品GがフィルムFの搬送に伴って搬送ベッド18に載置されて下流側に搬送されると共に、搬送ベッド18から下方に延出したフィルムFの長手方向端縁部を重ね合わせた重合部が、縦シール手段14により加熱されて連続して縦シールされる。そして、縦シールが施されて筒状とされたフィルムFと共に物品Gが搬入コンベヤ20で横シール手段22に向けて搬送され、筒状のフィルムF中に所定間隔毎に供給されている各物品G,G間の中間位置(横シール位置)でフィルム搬送方向と交差する方向に横シール手段22における一対のシール体24,24によって横シールを施すと共に切断して、包装品を得るようにしている。横シールおよびカットされて得られた包装品は、搬出コンベヤ26で搬出され、その下流側に配設された加熱トンネル(図示せず)を通過することで、熱収縮したフィルムFが物品Gの外周に沿って密着した包装品となる。第1供給コンベヤ10は、シール体24,24によるフィルムFの挟持位置がフィルムFに送り込まれた物品相互の前後間隔に合致するよう、物品Gが第2供給コンベヤ12を経てフィルム成形手段により成形されるフィルムF中に所定間隔毎に搬送されるようにコンベヤの速度を変速または停止制御するようになっている。なお、供給検知センサ16が次の包装サイクルに対する一定期間に亘って物品Gを検知しない場合は、第1供給コンベヤ10、第2供給コンベヤ12、搬入コンベヤ20、シール体24,24およびフィルム搬送手段の包装動作が休止される。
【0019】
前記横シール手段22は、フィルムFの搬送路の上下に対向配置された一対のシール体24,24を備え、一対のシール体24,24は、サーボモータ等の駆動手段で作動する公知の作動機構(何れも図示せず)によって筒状のフィルムFを挟持しながら下流側に向けて所要距離だけ水平移動した後に相互に離間する動作を行う、所謂ボックスモーション動作を繰り返す。搬入コンベヤ20および搬出コンベヤ26は、シール体24,24の横シール動作に合わせて対向端部のプーリが互いに近接・離間移動するようになっている。
【0020】
前記包装機は、制御手段28によって、フィルムFを送る送りローラ30を備えたフィルム搬送手段と供給手段10,12と横シール手段22とを含む各種作動機構を、包装品種毎に設定された動作パラメータに従って駆動制御する。また、包装機は、運転状況や前記動作パラメータの各種設定条件や後述する判定情報等を表示する表示手段と、該表示手段の操作画面のタッチ操作によって前記動作パラメータの入力・設定等を行う設定手段としての機能を兼ねる、例えばタッチパネル式表示器32を備えている。
【0021】
前記包装機は、前記縦シール手段14で縦シールを施す位置より下流側でかつ前記シール体24,24の挟持位置より上流側において、横シール手段22に向けて搬送されるフィルムF中の物品Gを検知するズレ検知センサ(検知手段)34を備えている。ズレ検知センサ34は、搬送ベッド18の上方に配設され、フィルム搬送方向前後に連続する2つの物品G,Gのうち、先行物品Gの後端と後続物品Gの前端とを少なくとも検知し得るようになっている。また、制御手段28は、ズレ検知センサ34による先行物品Gの後端の通過検知および後続物品Gの前端の通過検知により得た前後の物品G,G間の隙間の半分となる中間位置を横シールすべき位置として求め、タッチパネル式表示器32により予め設定されているズレ検知センサ34からシール体24,24の挟持位置までの距離に関するデータ(設定距離データ)Dおよび1包装分のフィルム長さ(シールピッチ)の関係から、前記中間位置がシール体24,24の挟持位置に対して実際のフィルムFの送り位置との関係で位置ズレしているか否かが判定される。物品Gのズレ位置が噛み込み値すると判定した場合には、その位置ズレ判定した物品Gの前側または後側がシール体24,24により横シールされる挟持位置までに搬送される包装サイクル数後において、一対のシール体24,24がフィルムFを挟持することなく横シール動作が一時休止されるよう動作制御される。なお、図2(a)に示すタッチパネル式表示器32に表示されるホーム画面には、シール体24,24での物品Gの噛み込み防止動作制御の使用の有無を切り替え設定し得る切替部35が設けられ、噛み込み防止動作制御を行う場合は「カットレス」「入」となっている。」

【図1】

上記記載事項Bと【図1】の図示とを併せ見ると、図中にある6個のG(物品)は、最も右側にあるものだけが2点鎖線で図示されたF(フィルム)によって上下左右が覆われており、図で左方向に向かう順に、Fによる覆いが段階的に緩やかとされ、左から1個目や2個目のGにはFが被されていないから、図1の図示は、物品Gの処理のための各種工程上の位置づけでは、左側を上流、右側を下流として示した状態図である。また、記載事項Bの【0021】で、シール体24,24の挟持位置より上流側とされたズレ検知センサ34は、図1の図示では横シール手段22の直前に置かれた物品Gの後端と、2個前に置かれた物品G前端との中間位置に配置されている。
また、記載事項Bの【0018】末尾の記載からみて、コンベヤ12,20,シール体24,24、フィルム搬送手段で構成される包装機全体の休止は、図1図示中の最も上流側に配される供給検知センサ16が物品を一定期間以上検知しない場合に止められるとされているのを除き、包装機全体が休止する記載がないことから見て、横シール動作の一時休止時に、包装機全体の処理は停止させられないと理解できる。
これらをまとめると、以下の事項が引用文献1には開示されていると認定できる。

認定事項
連結された供給コンベヤ10及び12上に1個単位で所定間隔に載置された物品Gをコンベヤで搬送する工程の下流に、供給源からフィルムFを引き出しつつ前記物品Gの周囲を覆うようにフィルムFを成形する工程を合流させ、搬送ベッド18上で物品Gと成形されたフィルムFとを重ね合わせる縦シール工程を配し、物品GとフィルムFとが重ね合わされ搬送ベッド18及び搬入コンベア20とで搬送される下流側に、筒状のフィルムFの中に所定間隔毎に供給されている各物品G、Gが縦シールされたものを切断しかつ横シールする横シール手段22が横シールする工程を配した、横形充填包装機であり、横シール手段22の上流側にズレ検知センサ34が設けられ、該ズレ検知センサ34の検出に起因する横シール動作を一時休止させる制御時には、包装機全体の処理は停止させられないこと。

したがって、記載事項A?B及び認定事項から、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「連結された供給コンベヤ10及び12上に1個単位で所定間隔に載置された物品Gをコンベヤで搬送する工程の下流に、供給源からフィルムFを引き出しつつ前記物品Gの周囲を覆うようにフィルムFを成形する工程を合流させ、搬送ベッド18上で物品Gと成形されたフィルムFとを重ね合わせる縦シール工程を配し、物品GとフィルムFとが重ね合わされ搬送ベッド18及び搬入コンベア20とで搬送される下流側に、筒状のフィルムFの中に所定間隔毎に供給されている各物品G、Gが縦シールされたものを切断しかつ横シールする横シール手段22が横シールする工程を配した、横形充填包装機のフィルム搬送手段と供給コンベヤ10、12と横シール手段22とを含む各種作動機構を、包装品種毎に設定された動作パラメータに従って駆動制御するとともに横シールする工程を実行した際の噛み込みを防止する動作制御を行う制御手段28からなる制御装置であって、
前記制御手段28は、縦シール手段14で縦シールを施す位置より下流側でかつ前記シール体24,24の挟持位置より上流側に備えられた、横シール手段22に向けて搬送されるフィルムF中の物品Gの、先行する物品Gの後端及び該物品Gに後続する次の物品Gの前端を検知するズレ検知センサ(検知手段)34の信号を受けて、前記後端と前記前端との中間位置が横シール手段22の挟持予定位置と比べて大きく位置ズレしているか否かを判定し、
前記判定で位置ズレ判定された物品Gが横シールされる挟持位置まで搬送される包装サイクル数の後に、包装機全体の処理は停止させられることなく、横シール動作のカットレス,即ち一対のシール体24,24がフィルムFを挟持しないよう一時休止の動作制御を行う、制御装置。」

2.引用文献2ないし4について
また、原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2の第11欄第18行-第12欄第20行にかけて、同じく引用文献3の第5欄第44行-第6欄第16行にかけて、同じく引用文献4の【0036】には、上流の工程で位置ずれが発生した場合であっても、下流の横シール処理工程に支障が出ないように調整すること、具体的には引用文献2ではシール体40の減速開始タイミングを調整することで対応することが、引用文献3ではトップシール部の回転溶断刃を異常検知物品Bが到来したときだけ動作させず通過させること、引用文献4ではシール不良信号が発声した不良フィルム12aを下流の横シール手段32でシールせず通過させることが、各々記載されていると認められる。

3.その他の文献について
また、前置報告書において周知技術を示す文献として引用された引用文献5(特開2016-55904号公報)には(特に【0045】-【0046】、【0056】、【0059】、【0062】、図5-6)、給袋装置を備えてビスケットを被包装物kの一例として、包装袋a内に被包装物kを充填し施封して機外排出する装置であって、給袋工程(1)を上流とし、順に不良品排出工程(15)を下流とした15工程を順次行うものに対して、掴み確認工程(2)にセンサを配置し、包装袋aの掴みが良好である場合に限り次工程の印字工程(3)の印字を実行すること、印字工程(3)にも検査カメラ70が設置されて印刷の良否を画像検出する印字検査工程(4)が準備され、印刷不良の包装袋aは次工程の空袋排出工程(6)で機外排出されることが記載されている。


第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

引用発明の「連結された供給コンベヤ10及び12上に1個単位で所定間隔に載置された物品Gをコンベヤで搬送する工程の下流に、供給源からフィルムFを引き出しつつ前記物品Gの周囲を覆うようにフィルムFを成形する工程を合流させ、搬送ベッド18上で物品Gと成形されたフィルムFとを重ね合わせる縦シール工程を配し、物品GとフィルムFとが重ね合わされ搬送ベッド18及び搬入コンベア20とで搬送される下流側に、筒状のフィルムFの中に所定間隔毎に供給されている各物品G、Gが縦シールされたものを切断しかつ横シールする横シール手段22が横シールする工程を配した、横形充填包装機」及び「フィルム搬送手段と供給コンベヤ10、12と横シール手段22とを含む各種作動機構を、包装品種毎に設定された動作パラメータに従って駆動制御するとともに横シールする工程を実行した際の噛み込みを防止する動作制御を行う制御手段28」は、各々、本願発明1の「上流側から下流側に向けて並べて配置された複数の工程において、生産対象物に対し順次生産のための処理を実施する生産装置」、「生産装置を制御する産業用制御装置」に相当する。
また、引用発明の「縦シール手段14で縦シールを施す位置より下流側でかつ前記シール体24,24の挟持位置より上流側に備えられた、横シール手段22に向けて搬送されるフィルムF中の物品Gの、先行する物品Gの後端及び該物品Gに後続する次の物品Gの前端を検知するズレ検知センサ(検知手段)34」による「検知」は、本願発明1の「前記複数の工程のうち監視対象となる工程における処理の状態を表す物理量を」「取得する」に相当する。
また、引用発明の「制御装置28」が行う「前記後端と前記前端との中間位置が横シール手段22の挟持予定位置と比べて大きく位置ズレしているか否かを判定」する処理と、本願発明1の「異常判定部」が行う「異常の発生を判定する」処理とを対比すると、
引用発明の「先行する物品Gの後端及び該物品Gに後続する次の物品Gの前端」は、本願発明1の「前記取得された物理量」に相当し、引用発明の「前記後端と前記前端との中間位置」は、本願発明1の「当該物理量から抽出される特徴量」に相当し、引用発明の「縦シール工程」及び「噛み込み」は、各々本願発明1の「前記監視対象となる工程」及び「異常の発生」に相当するから、結局、
引用発明の「前記後端と前記前端との中間位置が横シール手段22の挟持予定位置と比べて大きく位置ズレしているか否かを判定」する処理は、本願発明1の「前記取得された物理量または当該物理量から抽出される特徴量に基づいて、前記監視対象となる工程における異常の発生を判定する異常判定部」の処理に相当すると認められる。
更に、引用発明の「物品G」の「位置ズレ」と「横シールする工程を実行した際の噛み込み」との関係は、各々本願発明1の「異常の要因と、前記要因に起因して、時間遅れをもって生じる不具合との因果関係」に相当するから、引用発明の「制御装置28」が行う「前記判定で位置ズレ判定された物品G」を「包装機全体の処理は停止させられることなく、横シール動作のカットレス,即ち一対のシール体24,24がフィルムFを挟持しないよう一時休止の動作制御を行う」処理は、本願発明1の「制御指示部」が行う処理のうち、「前記監視対象となる工程において異常が発生したと判定された場合に、当該異常の要因と、前記要因に起因して、時間遅れをもって生じる不具合との因果関係を示す因果関係」「に基づいて、当該異常の影響を受けた生産対象物に対し」「前記生産装置の処理を停止させることなく、前記下流側の工程による」「処理を異常対応処理とするように制御する」処理に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「上流側から下流側に向けて並べて配置された複数の工程において、生産対象物に対し順次生産のための処理を実施する生産装置を制御する産業用制御装置であって、
前記複数の工程のうち監視対象となる工程における処理の状態を表す物理量を取得し、
前記取得された物理量から抽出される特徴量に基づいて、前記監視対象となる工程における異常の発生を判定し、
前記監視対象となる工程において異常が発生したと判定された場合に、当該異常の要因と、前記要因に起因して、時間遅れをもって生じる不具合との因果関係に基づいて、当該異常の影響を受けた生産対象物に対し、前記生産装置の処理を停止させることなく、前記下流側の工程による処理を異常対応処理とするように制御する産業用制御装置。」

(相違点)
(相違点1)本願発明1は、「前記複数の工程の各々が実施する処理の単位処理時間をタクトと定義する場合」とした上で、該「タクト」を使用して、「物理量取得部」が「取得」する「物理量」が「前記タクト毎に取得する」としているのに対し、引用発明は「タクト」を定義していない点。
(相違点2)本願発明1は、相違点1で挙げた「タクト」を用いつつ、「前記監視対象となる工程において異常が発生したと判定された場合に、当該異常の要因と、前記要因に起因して、時間遅れをもって生じる不具合との因果関係を示す因果関係情報に基づいて、当該異常の影響を受けた生産対象物に対し下流側の工程が処理を実施するタクトを特定し、前記生産装置の処理を停止させることなく、前記下流側の工程による前記特定したタクトにおける処理を異常対応処理とするように制御する制御指示部」という構成を備えるのに対し、引用発明はそのような構成を備えていない点。
(相違点3)本願発明1は、相違点1で挙げた「タクト」を用いて、「制御指示部」が行う「異常対応処理」を行うにあたり、「当該異常の影響を受けた生産対象物に対し下流側の工程が処理を実施するタクトを特定」するという構成を備えているのに対して、引用発明では「前記判定で位置ズレ判定された物品Gが横シールされる挟持位置まで搬送される包装サイクル数」の後に「横シール動作のカットレス,即ち一対のシール体24,24がフィルムFを挟持しないよう一時休止の動作制御を行う」としており、当該「前記判定で位置ズレ判定された物品Gが横シールされる挟持位置まで搬送される包装サイクル数」が本願発明1の「タクト」に当たるか不明な点。

(2)相違点についての判断
まず、上記相違点1について検討する。
引用発明における「前記判定で位置ズレ判定された物品Gが横シールされる挟持位置まで搬送される包装サイクル数」とした事項中の「包装サイクル数」とされた用語の技術的意味について、引用文献1内の他の記載から理解してみる。
引用文献1には、関連する他の記載として以下の2箇所がある。
ア.摘記事項Bの【0018】「なお、供給検知センサ16が次の包装サイクルに対する一定期間に亘って物品Gを検知しない場合は、第1供給コンベヤ10、第2供給コンベヤ12、搬入コンベヤ20、シール体24,24およびフィルム搬送手段の包装動作が休止される。」
イ.【0022】「ここで、ズレ検知センサ34からシール体24,24の挟持位置までの機械的距離に関する設定距離データDが実際の測定値により入力設定され、ズレ検知センサ34から挟持位置までに至る区間に対する包装サイクル数38が、図3(b)に示す如く算出されている。」
上記アの記載から、「包装サイクル」とは、コンベヤで搬送される複数の物品Gに対して、定位置に配置される供給検知センサ16が正常動作の際に各個を検知する時間間隔のことを「次の包装サイクル」と呼んでおり、異常がない場合は「一定期間」であることが理解できる。
上記イの記載と前記包装サイクルが一定期間とされる理解とを総合すると、相違点1に係る引用発明の「前記判定で位置ズレ判定された物品Gが横シールされる挟持位置まで搬送される包装サイクル数」とは、ズレ検知センサ34からシール体24,24の挟持位置までの機械的距離Dを一定期間で割ったものを、「包装サイクル数」と扱っていることが理解できる。
上述の理解は、本件補正発明や引用発明が属する横形充填包装機の技術分野における公知文献である、特開昭63-288813号公報に記載された「[産業上の利用分野〕
この発明は、例えばベルトコンベアなどによって連続的かつランダムな送りピッチをもって搬送される物品を、一個づつ一定の単位処理時間(以下、タクトという。)をもって後工程へ供給する装置に係わり、特に、物品の供給タクトを大幅に短縮することができる物品供給装置に関するものである。」にて示される、タクトと呼称される一定の単位処理時間の概念として当業者に周知なこととも整合する。
また、コンベヤで移送される物品に対して、複数の工程で順次物品を扱うに当たり、サイクルないしタクトの呼称で呼ばれる単位処理時間をベースに、諸工程で行う処理がサイクルないしタクト毎に行われることも、当業者には周知の事項である(要すれば、計装システムの基礎と応用,オーム社,平成9年,第1版第12刷,p.672-675の、生産管理用コンピュータがタクトタイム内に各工程におかれた自動機へ作業指示するとした記載を参照。)。
加えて、本件の手続で、請求人は拒絶理由通知に対する意見書、拒絶査定に対する審判請求書、及び上申書のいずれにも、タクトの定義内容が引用文献1の包装サイクルと異なるとした反論を行った形跡は見られない。
よって、上記相違点1に係る、引用発明の「包装サイクル」と、本件補正発明における「タクト」とは、同じ技術的事項を指す関係にあり、また、このような前提に立った場合に、「物理量取得部」が「取得」する「物理量」が「前記タクト毎に取得する」とした事項も、当該分野における当業者に周知の事項であるといえるから、相違点1は、本件補正発明の「タクト」と実質的に同義である「包装サイクル」を引用発明でも使われている点で相違するものではない上、ベルトコンベアなどによって連続的かつランダムな送りピッチをもって搬送される物品の処理システムの制御では、検出を含めてタクトないしサイクル毎に同期して各工程の処理が行われることが当該分野で周知の事項であることを踏まえると、「タクト」を使用して、「物理量取得部」が「取得」する「物理量」が「前記タクト毎に取得する」とした事項についても、当業者が周知技術に基づいて、容易に想到し得た事項と認められる。

次に、上記相違点1の検討結果を踏まえて、相違点2について検討する。
本願発明1の発明特定事項である「前記監視対象となる工程において異常が発生したと判定された場合に、当該異常の要因と、前記要因に起因して、時間遅れをもって生じる不具合との因果関係を示す因果関係情報に基づいて、当該異常の影響を受けた生産対象物に対し下流側の工程が処理を実施するタクトを特定し」の技術的な意義について考察する。
請求人は、上記「第1 手続の経緯」で示した、審判請求書の「(3)反駁意見」において「引用文献1には、同文献段落[0022]に、機械的距離に関する設定距離データDが入力設定されることによって、下流側の工程が処理を実施する包装サイクルが特定されることが記載されています。つまり、一時休止すべき工程が、距離のような単純な情報に基づいて決定されています。
一方、本願発明では、出願時明細書の段落[0087]?[0092]および図10に記載されているように、空間および時間を考慮した因果関係に基づいて、異常対応処理すべきタクトが特定されています。
異常対応処理すべきタクトを決定するために、空間および時間を考慮した因果関係を使用していることは、一時休止すべき工程を決定するために、距離のような単純な情報を使用することとは、明らかに異なります。また、引用文献2、3、4を参照しても、異常対応処理すべきタクトを決定するために、因果関係を使用していることを示唆するような記載もありません。
したがって、本願の補正後の独立項1、4、5に係る発明は、異常対応処理すべきタクトを決定するために、距離のような単純な情報ではなく、空間および時間を考慮した因果関係を使用しているという点において、引用文献1?4の何れにも開示も示唆もされていない技術的構成を備えるようになります。」と主張し、上申書の「(3)進歩性の主張」において「本願発明では、出願時の明細書の[0087]?[0092]および図10に記載されているように、空間および時間を考慮した因果関係に基づいて、異常対応処理すべきタクトが特定されています。」と主張している。そして、明細書の発明の詳細な説明における【0085】-【0093】の記載(特に、【0093】の「異常の監視対象となる複数の前工程の各々に対応付けて」)や添付図面の【図10】-【図13】の図示を総合すると、「異常の要因」と「不具合」との因果関係が形成される数が、図10中ではY1?Y4のいずれかとEとの計4つが、図11ではワーク位置ずれと製品噛み込み不良、図12では異物混入と異物噛み込み不良、図13ではフィルムすべり性不適と製品噛み込み不良、ワーク位置ずれと製品噛み込み不良が、複数示されていることが窺える。してみると、本件における当該発明特定事項で「タクト」を「特定」するとしたことは、元々想定した複数の「因果関係」の中から、「異常が発生した」とする「工程」をキーとすることで、「下流側の工程」と「異常が発生した」上流の工程との間の「タクト」の数が初めて定まることを、発明の技術的思想としていると理解できる。
そうすると、上記相違点2に係る引用発明の構成は、想定する監視対象の工程が1つに限られ、不具合との因果関係も1つに限られるため、タクト数も予め定めた数になることが明らかであるから、複数の因果関係を示す、因果関係情報を持った上で、その情報からタクト自体をわざわざ特定する必要がなく、上述の理解に立つ本願発明1とは実質的な相違がある。
そして、上記「第5 引用文献、引用発明等」の2.に示した引用文献2ないし4に記載されている技術的事項、3.に示した引用文献5に記載の周知技術を見渡しても、引用文献5の記載から、上流から下流に向けて複数の工程が配置されてなる産業用生産装置では、複数の工程で異常の有無を検査することが周知であるとはいえても、引用文献5の複数の異常はいずれも下流側で不具合の原因となる開示はなく、異常が発生したら直ちに機外排出をその都度行うとされている。よって、「異常の要因」と「不具合」との因果関係が形成される数を複数に設定した上で、「異常が発生した」とする「工程」をキーとすることで、「下流側の工程」と「異常が発生した」上流の工程との間の「タクト」の数を「特定」する処理を開示したものは、引用文献5はもとより引用文献2ないし4にも見当たらない。
したがって、上記相違点3について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献2ないし4に記載された技術的事項及び上記引用文献5に記載の周知技術に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2ないし4、及び本願発明7について
本願発明2ないし4、及び本願発明7も、本願発明1の「前記監視対象となる工程において異常が発生したと判定された場合に、・・・(中略)・・・タクトを特定し、前記生産装置の処理を停止させることなく、前記下流側の工程による前記特定したタクトにおける処理を異常対応処理とするように制御する制御指示部」と同一または対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2ないし4に記載された技術的事項及び上記引用文献5に記載の周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3.本願発明5、6について
本願発明5、6は、本願発明5が本願発明1に対応する方法の発明であり、本願発明6は、本願発明1の産業用制御装置が備える各部をコンピュータが機能させるためのプログラム発明であり、本願発明1の「前記監視対象となる工程において異常が発生したと判定された場合に、・・・(中略)・・・タクトを特定し、前記生産装置の処理を停止させることなく、前記下流側の工程による前記特定したタクトにおける処理を異常対応処理とするように制御する制御指示部」に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2ないし4に記載された技術的事項及び上記引用文献5に記載の周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第7 原査定について

審判請求時の補正により、本願発明1-7は「前記監視対象となる工程において異常が発生したと判定された場合に、当該異常の要因と、前記要因に起因して、時間遅れをもって生じる不具合との因果関係を示す因果関係情報に基づいて、当該異常の影響を受けた生産対象物に対し下流側の工程が処理を実施するタクトを特定し、前記生産装置の処理を停止させることなく、前記下流側の工程による前記特定したタクトにおける処理を異常対応処理とするように制御する」という事項を有するものとなっており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1-4に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。


第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-12-19 
出願番号 特願2017-80956(P2017-80956)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G05B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大古 健一黒田 暁子牧 初  
特許庁審判長 刈間 宏信
特許庁審判官 西村 泰英
平岩 正一
発明の名称 産業用制御装置、制御方法、プログラム、包装機、および包装機用制御装置  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 野河 信久  
代理人 飯野 茂  
代理人 井上 正  
代理人 河野 直樹  
代理人 鵜飼 健  

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