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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H05B
管理番号 1347441
審判番号 不服2017-18967  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-21 
確定日 2019-01-22 
事件の表示 特願2014-537761号「通信プロトコルを使用して照明器具を制御する方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月 2日国際公開、WO2013/061206、平成26年12月18日国内公表、特表2014-534578号、請求項の数(15)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2012年10月16日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2011年10月25日 (US)米国)を国際出願日とする出願であって、平成27年10月14日に手続補正書が提出され、平成28年7月22日付けで拒絶理由が通知され、同年10月27日に意見書及び手続補正書が提出され、平成29年2月8日付けで拒絶理由が通知され、同年5月24日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月21日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対し、同年12月21日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要

この出願については、平成29年2月8日付け拒絶理由通知書に記載した以下の理由によって、拒絶をすべきものである。

この出願の請求項1及び4に係る発明は、引用文献1及び5に記載された発明及び引用文献2?4に記載された周知技術に基いて、請求項2及び3に係る発明は、引用文献1、5及び6に記載された発明及び引用文献2?4に記載された周知技術に基いて、請求項5?7、10?13に係る発明は、引用文献1及び5?7に記載された発明及び引用文献2?4に記載された周知技術に基いて、請求項8に係る発明は、引用文献1及び5?7に記載された発明、引用文献2?4に記載された周知技術及び引用文献8に記載された周知技術に基いて、その出願(優先日)前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.特開2010-205733号公報
2.登録実用新案第3105762号公報
3.特開2003-187985号公報
4.特開平6-283272号公報
5.特開2011-82871号公報
6.米国特許第6608552号明細書
7.特開昭58-12292号公報
8.特開2006-330708号公報

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
そして、「第5 当審の判断」に示すように、補正後の請求項1?15に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明

本願の請求項1?15に係る発明(以下「本願発明1?15」という。)は、平成29年12月21日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(下線は補正箇所を示すものとして、審判請求人が付したものである。)

「 【請求項1】
トランスの操作を介して、照明器具ネットワークに照明器具データパケットを送信する方法であって、
前記照明器具ネットワークの1つ以上の照明器具用の適切な照明器具設定を示すデータを受信するステップと、
前記データに基づいて、照明器具データパケットを決定するステップと、
前記1つ以上の照明器具への出力電圧の配線と直列の前記トランスを、前記出力電圧の複数の周期期間の間に、切り替えるステップと、
を含み、
前記トランスを切り替えるステップは、前記出力電圧の周期期間における電圧降下及び電圧上昇のうちの1つを引き起こし、
前記トランスを切り替えるステップは、前記出力電圧の周期期間における前記電圧降下及び前記電圧上昇のうちの少なくとも1つが前記照明器具データパケットに対応するように、前記照明器具データパケットに対応して行われる、方法。
【請求項2】
前記適切な照明器具設定を示す前記データは、メモリに記憶される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記適切な照明器具設定を示すデータは、少なくとも1つのセンサによって送信される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記電圧降下及び前記電圧上昇のうちの少なくとも1つは、4ボルト未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記複数の周期期間は、半正弦周期期間からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記周期期間は、正の半周期期間及び負の半周期期間のうちの一方のみを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記データに基づいて、第2の照明器具データパケットを決定するステップと、前記トランスを、前記正の半周期期間及び前記負の半周期期間のうちの他方の間に、前記第2の照明器具データパケットに対応して切り替えるステップとを更に含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記照明器具データパケットに8-14変調を適用するステップを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか一項に記載の方法のステップを実行する送信器と、前記出力電圧を入力電力波形として受け取るコントローラであって、前記入力電力波形の解析に基づいてデータパケット情報を決定し、前記データパケット情報に基づいて照明器具を制御するための前記コントローラとを含む、システムであって、前記コントローラは、
前記入力電力波形をオーバーサンプリングする動作と、
前記入力電力波形の複数の正弦周期期間の電圧レベルを比較する動作と、
前記複数の正弦周期期間のうちのどの正弦周期期間が減少電圧レベルを有するか、また、どの正弦周期期間が非減少電圧レベルを有するかに基づいて、入来するデータパケットを決定する動作と、
入来する前記データパケットに基づいて、前記照明器具の少なくとも1つの特徴を制御する動作と、
を含む動作を実行する、システム。
【請求項10】
照明器具ネットワークにおいて通信システムを実装する方法であって、
前記照明器具ネットワークに給電する出力電圧の配線と直列にトランスを挿入するステップと、
前記照明器具ネットワークの少なくとも1つの照明器具内の安定器のコントローラにソフトウェアを実装するステップと、
を含み、
前記トランスは、情報データパケットに対応して、前記出力電圧の周期期間における電圧降下及び電圧上昇のうちの1つをもたらし、
前記安定器は、前記出力電圧に結合され、
前記コントローラは、前記出力電圧をモニタリングし、
前記ソフトウェアは、前記複数の正弦周期期間のうちのどの正弦周期期間が前記出力電圧における前記電圧降下及び前記電圧上昇のうちの少なくとも1つを有するかに基づいて
、入来するデータパケットを決定し、
前記コントローラは、入来する前記データパケットに基づいて、前記照明器具の1つ以上の特徴を制御する、方法。
【請求項11】
前記コントローラは、前記安定器の既存のコントローラである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記トランスは、前記照明器具ネットワークの電力キャビネット内に挿入される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記複数の正弦周期期間は、正の半正弦周期期間及び負の半正弦周期期間のうちの一方のみを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
通信システムを有する照明器具ネットワークであって、
複数の照明器具に出力電圧を給電する電力線の配線と直列に挿入されるトランスと、
前記複数の照明器具のうちの少なくとも1つの照明器具内の安定器と、
を含み、
前記トランスは、前記トランスの少なくとも1つのスイッチと通信するコントローラを含み、
前記コントローラは、情報データパケットに対応して、前記出力電圧の周期期間における電圧降下及び電圧上昇のうちの1つをもたらすように前記トランスを切替え、
前記安定器は、前記出力電圧を受け取り、前記出力電圧をモニタリングする安定器コントローラを含み、
前記安定器コントローラは、前記出力電圧における前記電圧降下及び前記電圧上昇のうちの少なくとも1つを、前記複数の正弦周期期間のうちのどの正弦周期期間が有するかに基づいて、前記情報データパケットを決定し、
前記安定器コントローラは、入来する前記情報データパケットに基づいて、前記少なくとも1つの照明器具の1つ以上の特徴を制御する、照明器具ネットワーク。
【請求項15】
前記安定器は更に、前記出力電圧と前記安定器コントローラとの間に配置されるアナログ-デジタルコンバータを含む、請求項14に記載の照明器具ネットワーク。」

第5 当審の判断

1 引用文献の記載事項等

(1)引用文献1の記載事項等

原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1の記載事項等は、以下のとおりである。

(1a)
「【請求項3】
交流電力線から交流電力信号を受信するよう接続される電子安定器の、安定器調光レベルを制御する方法であって、
所望の安定器調光レベルに関連した信号パターンを有する調光レベル情報信号を生成することと、
前記交流電力線と直列に接続された変圧器コイルを備えた変圧器を利用して、前記交流電力信号上に、前記調光レベル情報信号と関連した安定器制御信号を挿入することとを含む
電子安定器の安定器調光レベルを制御する方法。
【請求項4】
前記調光レベル情報信号を生成するときには、さらに、
高周波信号を生成することと、
前記高周波信号を前記変圧器へと伝達させおよび前記高周波信号の前記変圧器への伝達を遮断し、それによって前記調光レベル情報信号の前記信号パターンが一続きの高周波パルスを含むことによって、前記調光レベル情報信号上に前記信号パターンを作り出すこととを含むことを特徴とする
請求項3の電子安定器の安定器調光レベルを制御する方法。」

(1b)
「【0013】
(発明の詳細な説明)
まず図1Aを参照すると、電力線通信システム10は、交流電力線14A,14Bを通じて、一つ又は複数の電子安定器12に所望の安定器調光レベルを伝える。電力線制御器16は、電子安定器12が所望の安定器調光レベルに従ってランプ18を調光できるよう、電子安定器12を制御する。
【0014】
電子安定器12を制御するために、電力線制御器16は、交流電力線14A,14B上を伝達される交流電力信号22に安定器制御信号20を挿入する。電力線受信器24は、交流電力信号22を受信して安定器制御信号20を取り出す。そして、電力線受信器24は、所望の安定器調光レベルに対応した調光レベル信号28を生成する。この調光レベル信号28は例えば、電子安定器12からの出力を制御するインバータ制御回路26で受信される。そしてインバータ制御回路26は、電子安定器12が所望の安定器調光レベルで動作できるように、インバータ回路の動作周波数を調整するようになっている。
【0015】
電力線通信システム10は、電子安定器へ調光レベルを伝えるアナログおよびデジタルの通信コードを使用して動作するものであってもよい。これらのコードは、一般に、ある特定の信号パターンとある特定の安定器調光レベルとを関連づける。例えばデジタルの通信コードを使う場合には、その信号パターンは、一続きの「0」と「1」とを表す。例えば電力線受信器24は、その信号パターンを、特定の安定器調光レベルに対応したデジタルのワードに変換して、適切な調光レベル信号28を作り出す。」

(1c)
「【0019】
次に、図2および図3には、電力線制御器16の一実施形態の動作が示されている。電力線制御器16は、信号パターン44を持った調光レベル情報信号42を生成する、信号パターン回路43を備える。ここで、この信号パターン44は所望の安定器調光レベルを伝えるために使用される。上述のように、例えば交流電力信号22によって情報を伝えるためにコードを使用してもよい。例えば、調光レベル情報信号42の信号パターン44は、このようなコードのうちの一つに従って生成される。
【0020】
例えば、電力線制御器16の図2に示す実施形態では、デジタル高周波注入方式に従って調光レベル情報信号42を生成する信号パターン回路43を備える。デジタル高周波注入方式の信号パターン44は、ある一続きの2進数を表す、ある一続きの高周波パルス44Aである。例えば、図に示すように、調光レベル情報信号42の特定の時間間隔45の間に高周波パルス44Aが在る場合は「1」を表し、一方、特定の時間間隔の間に高周波パルス44Aがない場合は「0」を表す。この一続きの2進数は、所望の安定器調光レベルを表している。
【0021】
一続きの高周波パルス44Aを生成するために、信号パターン回路43は、高周波信号47を生成する高周波信号生成回路46を備える。この高周波信号47の周波数は、交流電力信号22の周波数よりも大きくなっている。図に示す実施形態では、交流電力信号22は50Hzから60Hzで動作するのに対し、高周波信号47の周波数は154kHzよりも大きい。
【0022】
変圧器TX_1の一次巻線50は、信号パターン回路43に接続されている。電力線制御器16の出力端子54A,54Bは、二次巻線54を交流電力線14Bと直列に接続するよう構成されるべきものである。高周波パルス44Aは、高周波信号生成回路46と変圧器TX_1とに接続されたスイッチ48の開閉によって、作り出される。変圧器TX_1は、信号パターン回路43を交流電力信号22から分離して、回路を保護するようになっている。スイッチ48は、スイッチ48が閉じているときには高周波信号47を変圧器TX_1に結合し、スイッチ48が開いているときには高周波信号47が変圧器TX_1へ伝わるのを一時的に止める。スイッチ48の開閉時間の長さを決めることで、調光レベル情報信号42の信号パターン44は、一続きの高周波パルス44Aを通じて所望の安定器調光レベルを表す。
【0023】
安定器制御信号20は交流電力信号22に挿入され、この安定器制御信号20は調光レベル情報信号42と関連している。安定器制御信号20は、調光レベル情報信号42であってもよい。電力線受信器および交流電力システムは、それ自体、調光用の安定器制御信号20すなわち調光レベル情報信号42の受信および処理に耐えられるよう設計されている。しかし、調光レベル情報信号42は、交流電力線14A,14B上を伝達されるには好ましくない特性を持っている場合がある。そのような場合には、電力線制御器16が交流電力信号22に適切な安定器制御信号20を挿入できるように、特定の部品を加えてもよい。」

(1d)
「【0026】
図に示す実施形態では、信号パターン回路43内のスイッチ制御回路56がスイッチ48を開閉して、信号パターン44を生成する。このスイッチ制御回路56は調光レベル入力信号58を受信して、交流電力線14A,14B上を伝達される所望の安定器調光レベルを決定する。調光レベル入力信号58は、所望の調光レベルを表すデジタルの信号であってもよいし、例えばその直流レベルが所望の調光レベルを示す直流信号のような、アナログの信号であってもよい。
【0027】
いずれにせよ、スイッチ制御回路56は、所望の安定器調光レベルを伝達しそれに応じてスイッチ48を開閉することで、この情報を適切な信号パターン44へと変換する。従って、スイッチ制御回路56は、調光レベルコードに関する情報を保存または受信して、適切な調光レベル情報信号42を生成するようになっている。また、調光レベル入力信号58がデジタル信号の場合には、スイッチ制御回路56は単にスイッチ48を開閉させるようになっており、このデジタル信号の「1」と「0」とに従って1と0との信号パターン44を作り出す。
【0028】
一方、電力線受信器が、調光レベル入力信号58のデジタル形式を変換する機器を備えていない場合には、スイッチ制御回路56は、この調光レベル入力信号を所望の安定器調光レベルに合った適切なデジタル形式に変換し、この形式に従って信号パターン44を生成するようになっている。
【0029】
そして、調光レベル入力信号58がアナログ信号の場合には、スイッチ制御回路56は、調光レベル入力信号58の信号レベルと所望の安定器調光レベルとを関連づけ、それに応じてスイッチ48を開閉するようになっている。一旦この安定器制御信号20が交流電力信号22に挿入されると、交流電力信号22は交流電力線14A,14B上を伝達されて、一つ又は複数の電子安定器12に電力を供給する。図に示す実施形態は、調光レベル情報信号42内の一続きの高周波パルス44Aを含んだ、安定器制御信号20を生成する。図3の下図は、安定器制御信号20が挿入された後の交流電力信号22を示す。高周波パルス44Aが、電力線受信器と通信するために交流電力信号22上に挿入されている。」

上記(1a)?(1d)の記載を総合すると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

<引用発明>
交流電力線14A,14Bから交流電力信号22を受信するよう接続される、ランプ18を調光できるよう制御される電子安定器12の、安定器調光レベルを制御する方法であって、
調光レベル入力信号58を受信して、所望の安定器調光レベルに関連した、1と0との信号パターン44を有する調光レベル情報信号42を生成することと、
前記交流電力線14Bと直列に接続された二次巻線54を備えた変圧器TX_1を利用して、前記交流電力信号22上に、前記調光レベル情報信号42と関連した安定器制御信号20を挿入することとを含み、
前記調光レベル情報信号42を生成するときには、さらに、
高周波信号47を生成することと、
前記高周波信号47を前記変圧器TX_1へと伝達させおよび前記高周波信号47の前記変圧器TX_1への伝達を遮断し、それによって前記調光レベル情報信号42の前記信号パターン44が一続きの高周波パルス44Aを含むことによって、前記調光レベル情報信号42上に前記信号パターン44を作り出すこととを含む
電子安定器12の安定器調光レベルを制御する方法。

(2)引用文献5の記載事項等

原査定で引用された引用文献5の記載事項等は、以下のとおりである。

(2a)
「【0018】
本発明の実施の形態に係る送信回路を、照明器具の輝度を調整する調光情報送信回路を例に、図面に基づいて説明する。
図1に示すように調光情報送信回路1は、交流電源に電力線Lを介して接続され、並列接続された複数の照明器具2へ電源を供給すると共に、照明器具2の調光を制御するものである。
照明器具の調光制御は、デジタル信号のH,Lとして送信される調光情報を、電力線Lに流れる交流の正電圧、または負電圧の半サイクル分の有無に対応させて、電力線Lを通じて通信先となる照明器具2へ送信することで行われる。この調光の制御については、後述する。
【0019】
図2に示すように調光情報送信回路1は、ゼロクロス検出回路10と、制御回路20と、操作部30と、信号付加回路40と、電源回路50とを備えている。
ゼロクロス検出回路10は、電力線Lに流れる100Vの交流が0Vを通過するゼロクロスポイントを検出してゼロクロスポイント信号として出力するものである。ゼロクロス検出回路10は、図3に示すように電力線Lに流れる交流が正電圧または負電圧のときに発光する極性が反対同士に接続された一対の発光素子であるLED11aと、LED11aからの光を受けて導通する受光素子であるフォトトランジスタ11bとにより構成されたフォトカプラ11と、フォトトランジスタ11bのコレクタに接続されたプルアップ抵抗12とにより形成されている。
【0020】
制御回路20は、ゼロクロスポイント信号の受信タイミングに基づいて、通信先の照明器具2へ送信するデジタル信号に対応させて半サイクル分の除去を指示する除去信号を出力するものである。この制御回路20は、例えば、ワンチップマイクロコンピュータで形成することができる。ワンチップマイクロコンピュータは、プログラムが格納されたROMと、ワークエリアとして使用されるRAMと、演算チップと、クロックなどの周辺回路が一体的に形成されたものを使用するのが、安価で、かつ基板の占有面積を最小にできるので望ましい。
操作部30は、輝度調整を行うためのものである。本実施の形態では操作部30を2個のスイッチとすることで、4つの状態を制御回路20へ入力することができる。
【0021】
信号付加回路40は、制御回路20からの除去信号を受信したこと、および電力線Lに流れる交流が0Vを通過するゼロクロスポイントを検出したことを条件に、半サイクル分の交流波形を除去して通信先となる照明器具2へ送電する機能を備えている。
【0022】
この信号付加回路40は、図4に示すようにトライアック41と、トライアックドライバ回路42とで形成されている。トライアック41は、ゲート端子GにON信号を印加することで端子A1と端子A2との間を導通状態とし、ゲート端子GにOFF信号を印加することで端子A1と端子A2との間を非導通状態とする双方向サイリスタである。トライアックドライバ回路42は、制御回路20から出力される除去信号が有効(「L」)となったときのゼロクロスポイントを検出して、検出したゼロクロスポイントから次のゼロクロスポイントまでの半サイクルの期間、トライアック41のゲート端子Gに非導通状態とするゲート制御信号を出力する機能を備えている。このトライアックドライバ回路42は、除去信号が有効となったときのゼロクロスポイントを検出すると、除去信号が無効(「H」)となっても、次のゼロクロスポイントを検出するまで、非導通状態とするゲート制御信号を維持する。」

上記(2a)の記載から、引用文献5には、以下の技術(以下「引用文献5技術」という。)が記載されている。
「デジタル信号のH,Lとして送信される調光情報を、トライアック41及びトライアックドライバ回路42により、電力線Lに流れる交流の正電圧、または負電圧の半サイクル分の有無に対応させて、電力線Lを通じて通信先となる照明器具2へ送信する技術」

2 対比・判断

(1)本願発明1について

本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「変圧器TX_1」が、本願発明1の「トランス」に相当する。

イ 引用発明の「ランプ18」が、本願発明1の「照明器具」に相当するとともに、引用発明の「ランプ18」、「交流電力線14A、14B」、「調光レベル入力信号58を受信して、所望の安定器調光レベルに関連した、1と0との信号パターン44を有する調光レベル情報信号42を生成する」構成及び「前記交流電力線14Bと直列に接続された二次巻線54を備えた変圧器TX_1を利用して、前記交流電力信号22上に、前記調光レベル情報信号42と関連した安定器制御信号20を挿入する」構成により、「ランプ18」を含むネットワークを構築しているといえるから、引用発明のこれらの構成により構築されるネットワークが、本願発明1の「照明器具ネットワーク」に相当する。

ウ 引用発明の「調光レベル入力信号58」は、「ランプ18」用の「調光レベル」を表す信号であることは明らかであること及び上記イの相当関係を踏まえると、引用発明の「調光レベル入力信号58を受信」することが、本願発明1の「前記照明器具ネットワークの1つ以上の照明器具用の適切な照明器具設定を示すデータを受信するステップ」に相当する。

エ 引用発明の「所望の安定器調光レベルに関連した、1と0との信号パターン44を有する調光レベル情報信号42」「と関連した安定器制御信号20」が、本願発明1の「照明器具データパケット」に相当する。

オ 上記ア、イ及びエの相当関係を踏まえると、引用発明1の「前記交流電力線14Bと直列に接続された二次巻線54を備えた変圧器TX_1を利用して、前記交流電力信号22上に、前記調光レベル情報信号42と関連した安定器制御信号20を挿入すること」が、本願発明1の「トランスの操作を介して、照明器具ネットワークに照明器具データパケットを送信する方法」に相当する。

カ 上記エの相当関係を踏まえると、引用発明の「所望の安定器調光レベルに関連した、1と0との信号パターン44を有する調光レベル情報信号42を生成すること」は実質的に「安定器制御信号20」を決定しているといえる。
そうすると、引用発明の「所望の安定器調光レベルに関連した、1と0との信号パターン44を有する調光レベル情報信号42を生成すること」が、「前記データに基づいて、照明器具データパケットを決定するステップ」に相当する。

キ 引用発明の「交流電力線14A,14B」は、「ランプ18」の「電子安定器12」に交流電力を供給する配線であり、「変圧器TX_1」は、「前記交流電力線14Bと直列に接続された二次巻線54を備え」ているものである。
そして、引用発明の「電子安定器12の安定器調光レベルを制御する方法」が、「前記高周波信号47を前記変圧器TX_1へと伝達させおよび前記高周波信号47の前記変圧器TX_1への伝達を遮断」することにより、「前記調光レベル情報信号42の前記信号パターンが一続きの高周波パルス44Aを含むことによって、前記調光レベル情報信号42上に前記信号パターン44を作り出」し、「前記交流電力信号22上に、前記調光レベル情報信号42と関連した安定器制御信号20を挿入」していることを踏まえれば、その「伝達」と「遮断」は「交流電力信号22」の複数の周期期間の間に行われているといえ、さらに、引用発明の「交流電力信号22」が、本願発明1の「出力電圧」に相当する。
そうすると、上記ア及びイの相当関係を踏まえると、引用発明1の「前記高周波信号47を前記変圧器TX_1へと伝達させおよび前記高周波信号47の前記変圧器TX_1への伝達を遮断」することが、本願発明1の「前記1つ以上の照明器具への出力電圧の配線と直列の前記トランスを、前記出力電圧の複数の周期期間の間に、切り替えるステップ」に相当する。

ク 引用発明は、「前記高周波信号47を前記変圧器TX_1へと伝達させおよび前記高周波信号47の前記変圧器TX_1への伝達を遮断」して「信号パターン44」を作り出していることから、その「伝達」及び「遮断」により、「交流電力信号22」より「高周波」で、交流電力信号22上に電圧降下及び電圧上昇が引き起こされている。
そうすると、引用発明の「前記高周波信号47を前記変圧器TX_1へと伝達させおよび前記高周波信号47の前記変圧器TX_1への伝達を遮断」して「信号パターン44」を作り出し、「前記交流電力信号22上に、前記調光レベル情報信号42と関連した安定器制御信号20を挿入する」ことと、本願発明1の「前記トランスを切り替えるステップは、前記出力電圧の周期期間における電圧降下及び電圧上昇のうちの1つを引き起こ」すこととは、上記ア及びキの相当関係を踏まえると、「前記トランスを切り替えるステップは、前記出力電圧の周期期間における電圧降下及び電圧上昇を引き起」すことの限度で共通する。

ケ 引用発明の「前記高周波信号47を前記変圧器TX_1へと伝達させおよび前記高周波信号47の前記変圧器TX_1への伝達を遮断」することによって、「所望の安定器調光レベルに関連した、1と0との信号パターン44を有する調光レベル情報信号42」「と関連した安定器制御信号20」を生成しているといえることから、上記エの相当関係及びクを踏まえると、引用発明の「前記高周波信号47を前記変圧器TX_1へと伝達させおよび前記高周波信号47の前記変圧器TX_1への伝達を遮断」することは、本願発明1の「前記トランスを切り替えるステップは、前記照明器具データパケットに対応して行われる、」事項を有しているといえる。

上記ア?ケを踏まえると、本願発明1と引用発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。

<一致点>
トランスの操作を介して、照明器具ネットワークに照明器具データパケットを送信する方法であって、
前記照明器具ネットワークの1つ以上の照明器具用の適切な照明器具設定を示すデータを受信するステップと、
前記データに基づいて、照明器具データパケットを決定するステップと、
前記1つ以上の照明器具への出力電圧の配線と直列の前記トランスを、前記出力電圧の複数の周期期間の間に、切り替えるステップと、
を含み、
前記トランスを切り替えるステップは、前記出力電圧の周期期間における電圧降下及び電圧上昇を引き起こし、
前記トランスを切り替えるステップは、前記照明器具データパケットに対応して行われる、方法。

<相違点>
本願発明1の「前記トランスを切り替えるステップは、前記出力電圧の周期期間における電圧降下及び電圧上昇のうちの1つを引き起こし」ているとともに、「前記出力電圧の周期期間における前記電圧降下及び前記電圧上昇のうちの少なくとも1つが前記照明器具データパケットに対応するように」行われるのに対し、引用発明の「前記高周波信号47を前記変圧器TX_1へと伝達させおよび前記高周波信号47の前記変圧器TX_1への伝達を遮断」して「信号パターン44」を作り出すことにより、「高周波パルス44A」すなわち交流電力信号22より高周波で、複数の電圧降下及び電圧上昇が引き起こされている点。

上記相違点について検討する。
引用文献5技術は、「デジタル信号のH,Lとして送信される調光情報を、トライアック41及びトライアックドライバ回路42により、電力線Lに流れる交流の正電圧、または負電圧の半サイクル分の有無に対応させて、電力線Lを通じて通信先となる照明器具2へ送信する技術」であり、「交流の正電圧、または負電圧の半サイクル分の有無」すなわち「出力電圧の周期期間の電圧降下及び電圧上昇のうちの1つ」を引き起こし、「調光情報」に対応させているといえる。
そこで、引用文献5技術を引用発明に適用し、上記相違点に係る本願発明1の構成が容易に想到できるか否かについて検討する。
引用発明と引用文献5技術は、いずれも照明器具の調光に係る技術であるものの、引用発明は「変圧器TX_1を利用して、前記交流電力信号22上に、前記調光レベル情報信号42と関連した安定器制御信号20を挿入する」ものであり、引用文献5技術は、「トライアック41及びトライアックドライバ回路42により、電力線Lに流れる交流の正電圧、または負電圧の半サイクル分の有無に対応させて、電力線Lを通じて通信先となる照明器具2へ送信する」ものである。
そうすると、引用発明が「変圧器TX_1」による制御を前提としているところ、引用文献5技術は「トライアック41」及び「トライアック回路42」による制御であり、その制御の前提となる構成が異なっているから、引用発明に引用文献5技術を適用することは、当業者であっても容易に想到しうるとまでいうことはできない。
仮に、引用発明に引用文献5技術を適用したとしても、引用発明における「変圧器TX_1を利用して、前記交流電力信号22上に、前記調光レベル情報信号42と関連した安定器制御信号20を挿入する」事項を、引用文献5技術の「トライアック41及びトライアックドライバ回路42により、電力線Lに流れる交流の正電圧、または負電圧の半サイクル分の有無に対応させて、電力線Lを通じて通信先となる照明器具2へ送信する」事項へと置換することとなり、上記相違点に係る本願発明1の構成には至らない。
さらに、引用発明の「変圧器TX_1を利用して、前記交流電力信号22上に、前記調光レベル情報信号42と関連した安定器制御信号20を挿入する」構成を、「前記トランスを切り替えるステップは、前記出力電圧の周期期間における電圧降下及び電圧上昇のうちの1つを引き起こ」す構成とすることは、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2?4及び6?8のいずれにも記載も示唆もされていない。
したがって、引用発明において、上記相違点に係る本願発明1の構成を採用することは、当業者が容易に想到しうるとまでいうことはできないから、本願発明1は、当業者であっても、引用発明、引用文献5技術及び引用文献2?4、6?8に記載の事項に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

(2)本願発明2?8について
本願発明2?8は、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに減縮したものであるから、本願発明1と同様に当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)本願発明10について
本願発明10は、「照明器具ネットワークにおいて、通信システムを実装する方法」に係る発明であるところ、その発明を特定するために必要な事項として、「前記トランスは、情報データパケットに対応して、前記出力電圧の周期期間における電圧降下及び電圧上昇のうちの1つをもたらし、」の事項を有しているものである。
そして、当該事項は、上記相違点に係る本願発明1の事項と実質的に同じであり、上記(1)における相違点の検討と同様の検討により、本願発明10は、当業者であっても引用発明、引用文献5技術及び引用文献2?4、6?8に記載の事項に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

(4)本願発明11?13について
本願発明11?13は、本願発明10の発明特定事項を全て含み、さらに減縮したものであるから、本願発明10と同様に当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(5)本願発明14について
本願発明14は、「通信システムを有する照明器具ネットワーク」に係る発明であるところ、その発明を特定するために必要な事項として、「前記コントローラは、情報データパケットに対応して、前記出力電圧の周期期間における電圧降下及び電圧上昇のうちの1つをもたらすように前記トランスを切替え、」という事項を有しているものである。
そして、当該事項は、上記相違点に係る本願発明1の事項と実質的に同じであり、上記(1)における相違点の検討と同様の検討により、本願発明14は、当業者であっても引用発明、引用文献5技術及び引用文献2?4、6?8に記載の事項に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

(6)本願発明15について
本願発明15は、本願発明14の発明特定事項を全て含み、さらに減縮したものであるから、本願発明15と同様に当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第6 むすび

以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-12-26 
出願番号 特願2014-537761(P2014-537761)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H05B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 松本 泰典  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 仁木 学
中川 真一
発明の名称 通信プロトコルを使用して照明器具を制御する方法及び装置  
代理人 特許業務法人M&Sパートナーズ  

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