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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08G
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08G
管理番号 1347622
異議申立番号 異議2017-700977  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-02-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-10-12 
確定日 2018-11-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6116852号発明「液状硬化性樹脂組成物及びその用途」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6116852号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。 特許第6116852号の請求項1、2、4、5に係る特許を維持する。 特許第6116852号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6116852号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成24年10月12日に特許出願され、平成29年3月31日にその特許権の設定登録がされ、平成29年4月19日にその特許公報が発行され、その後、その特許について、平成29年10月12日に特許異議申立人荒井夏代により特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年12月27日付け:取消理由通知
平成30年 3月12日 :訂正請求書、意見書の提出(特許権者)
平成30年 4月25日 :意見書の提出(特許異議申立人)
平成30年 5月21日付け:取消理由通知(決定の予告)
平成30年 7月19日 :訂正請求書、意見書の提出(特許権者)
平成30年 9月 5日 :意見書の提出(特許異議申立人)

なお、平成30年3月12日にした訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

2.訂正請求について
(1)訂正の内容
平成30年7月19日に提出された訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」ということがある。)の内容は、以下のとおりである。
ア 訂正事項1 請求項1、2、4、5に係る訂正
特許請求の範囲の請求項1において、「該シアネートエステル樹脂は、2官能以上の多官能化合物であり、かつ重量平均分子量が300?850であり、その形状は、25℃で液状であるか、又は、80℃以下の融点若しくは軟化点を有する固体状であり、」と記載されているのを、「該液状硬化性樹脂組成物に含まれるシアネートエステル樹脂は、2官能以上の多官能化合物であるフェノールノボラック型シアネートエステル樹脂であり、かつ重量平均分子量が400?600であり、その形状は、25℃で液状であるか、又は、80℃以下の融点若しくは軟化点を有する固体状であり、」に訂正する。
また、特許請求の範囲の請求項1において、「該エポキシ樹脂は、エポキシ基及び/又はグリシジル基を、1分子中に3個以上含む多官能化合物である」と記載されているのを、「該エポキシ樹脂は、エポキシ基及び/又はグリシジル基を、1分子中に3個以上含む多官能化合物であって、該液状硬化性樹脂組成物は、更に硬化促進剤としてホスホニウム塩を含み、」に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2、4、5も同様に訂正する。

イ 訂正事項2 請求項1、2、4、5に係る訂正
特許請求の範囲の請求項1において、「ことを特徴とする液状硬化性樹脂組成物。」の記載の前に、「揮発成分の含有量は、液状硬化性樹脂組成物100質量%中に1質量%以下である」を追加する訂正を行う。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2、4、5も同様に訂正する。

ウ 訂正事項3 請求項1、2、4、5に係る訂正
特許請求の範囲の請求項1において、「ことを特徴とする液状硬化性樹脂組成物。」と記載されているのを、「ことを特徴とする液状硬化性樹脂組成物(ただし、アミン系硬化剤を含むものを除く。)。」に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2、4、5も同様に訂正する。

エ 訂正事項4 請求項3に係る訂正
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

オ 訂正事項5 請求4、5に係る訂正
特許請求の範囲の請求項4において、「請求項1?3のいずれか」と記載されているのを、「請求項1又は2」に訂正する。
請求項4の記載を引用する請求項5も同様に訂正する。

(2)訂正の適否についての判断
ア 訂正の目的について
(ア-1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されていた「シアネートエステル樹脂」について、本件特許明細書の[0012]?[0018]における「上記液状硬化性樹脂組成物において、シアネートエステル樹脂は、2官能以上の多官能化合物・・・である。・・・これらの中でも、硬化物の誘電特性や硬化性等の観点から、ノボラック型シアネートエステル樹脂・・・が好適である。・・・より好ましくはノボラック型シアネートエステル樹脂であり、更に好ましくはフェノールノボラック型シアネートエステル樹脂である。」という記載に基づいて、「液状硬化性樹脂組成物に含まれる」シアネートエステル樹脂全般が、「フェノールノボラック型シアネートエステル樹脂」であることを特定し、また、本件特許明細書の[0021]における「上記シアネートエステル樹脂はまた、重量平均分子量が300?850であるものである。・・・より好ましくは350以上、更に好ましくは400以上であり、また、より好ましくは800以下、更に好ましくは750以下、より更に好ましくは700以下、特に好ましくは650以下、最も好ましくは600以下である。」という記載及び訂正前の請求項3の記載に基づいて、訂正前の請求項1に記載されていたシアネートエステル樹脂の重量平均分子量の範囲を減縮し、さらに、本件特許明細書の[0050]における「上記硬化促進剤としては・・・これらの中でも、ホスホニウム塩が好適である。これにより、硬化がより促進され、かつ機械的強度がより高い硬化物を得ることが可能になる。このように更にホスホニウム塩を含む形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。」という記載に基づいて、訂正前の請求項1に記載されていた「液状硬化性樹脂組成物」の含有成分を減縮するものである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(ア-2)訂正事項2について
訂正事項2は、本件特許明細書の[0056]における「本発明の液状硬化性樹脂組成物は、上述したように、揮発成分を含まずとも室温で液状で存在することができ、揮発成分を含まないことが望まれる用途にも好適に用いられるものである。したがって、上記液状硬化性樹脂組成物100質量%中の揮発成分の含有量は、10質量%以下であることが好ましい。・・・特に好ましくは実質的に揮発成分を含まないことである。実質的に揮発成分を含まないとは、揮発成分の含有量が、組成物を溶解させることができる量未満であることを意味し、例えば、上記液状硬化性樹脂組成物100質量%中に1質量%以下であることが好適である。」という記載に基づいて、訂正前の請求項1に記載されていた「液状硬化性樹脂組成物」の含有成分を減縮するものである。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(ア-3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項1に記載されていた「液状硬化性樹脂組成物」において、アミン系硬化剤を含む液状硬化性樹脂組成物を除外することにより、当該組成物の含有成分を訂正前より減縮するものである。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(ア-4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項3を削除するというものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(ア-5)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正事項4の訂正により、訂正前の請求項3が削除されたことに伴い、訂正前の請求項4における「請求項1?3のいずれか」という引用先から、請求項3を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張又は変更について
上記2.(2)ア「訂正の目的について」に記載したとおり、訂正事項1、2、4、5による訂正は、いずれも本件特許明細書に記載された事項の範囲内で行われるものであり、また、訂正事項3による訂正は、本件特許明細書に、アミン系硬化剤を含まない液状硬化性樹脂組成物の態様(実施例1?3等)が記載されていることから、本件特許明細書に記載された事項の範囲内で行われるものといえる。
さらに、訂正事項1?5による訂正が、いずれも訂正の前後において請求項に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項1?5の訂正は、いずれも特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

ウ 一群の請求項について
訂正事項1?5に係る訂正前の請求項1?5は、請求項2?5が請求項1を直接又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。また、訂正事項1?5により訂正された後の請求項2、4、5は、いずれも訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正される。よって、訂正事項1?5は一群の請求項に対して請求されたものといえるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。

エ 独立特許要件について
本件においては、訂正前のすべての請求項1?5に対して特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項1?5に係る訂正事項1?5については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

オ 小括
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに同条第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正を認める。

3.本件発明について
本件訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明5」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「[請求項1]
シアネートエステル樹脂とエポキシ樹脂とを含む液状の硬化性樹脂組成物であって、
該液状硬化性樹脂組成物に含まれるシアネートエステル樹脂は、2官能以上の多官能化合物であるフェノールノボラック型シアネートエステル樹脂であり、かつ重量平均分子量が400?600であり、その形状は、25℃で液状であるか、又は、80℃以下の融点若しくは軟化点を有する固体状であり、
該エポキシ樹脂は、エポキシ基及び/又はグリシジル基を、1分子中に3個以上含む多官能化合物であって、
該液状硬化性樹脂組成物は、更に硬化促進剤としてホスホニウム塩を含み、
揮発成分の含有量は、液状硬化性樹脂組成物100質量%中に1質量%以下であることを特徴とする液状硬化性樹脂組成物(ただし、アミン系硬化剤を含むものを除く。)。
[請求項2]
前記シアネートエステル樹脂及びエポキシ樹脂の含有量は、これらの総量を100質量%とすると、シアネートエステル樹脂が50?95質量%、エポキシ樹脂が5?50質量%であることを特徴とする請求項1に記載の液状硬化性樹脂組成物。
[請求項3](削除)
[請求項4]
請求項1又は2に記載の液状硬化性樹脂組成物を用いてなることを特徴とする液状封止材。
[請求項5]
請求項4に記載の液状封止材を用いてなることを特徴とする半導体装置。」

4.取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要
訂正前の請求項1?5(平成30年3月12日に提出された訂正請求により訂正された請求項1?5)に係る特許に対して平成30年5月21日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
なお、引用文献は、下記5.(4)「引用文献及びその記載事項」に記載したものと同じである。

(1)理由VI(明確性)(訂正により生じた取消理由)
本件発明2に、「エポキシ樹脂が5?50質量%%である」と記載されているが、「質量%%」という記載では、エポキシ樹脂の割合を明確に理解できない。本件発明2を直接又は間接的に引用して記載されている本件発明3?5についても同様である。
よって、本件発明2?5は特許を受けようとする発明を明確に記載したものとすることができないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(2)理由V(明確性)
本件発明1はシアネートエスエル樹脂を2種類以上含有する場合を含み得ると解されるものであり、このような場合、本件発明1において明示的に特定されている「重量平均分子量」の要件は、いずれか1種類のシアネートエステル樹脂の重量平均分子量が「300?850」であればよいのか、あるいは、2種類以上のすべてのシアネートエステル樹脂の重量平均分子量が「300?850」でなければならないのか、本件明細書の記載を参酌しても必ずしも明確に理解できるものではない。本件発明1を直接又は間接的に引用して記載されている本件発明2?5についても同様である。
よって、本件発明1?5は、特許を受けようとする発明を明確に記載したものとすることができないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(3)理由III(サポート要件)及び理由IV(実施可能要件)
(3-1)シアネートエステル樹脂について
本件明細書において実際に硬化性樹脂組成物の調製に用いられ、所定の課題を解決し得ることが実験データにより確認されているシアネートエステル樹脂は1種類だけであるところ、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、本件発明1の範囲まで、上記の課題を解決し得るものとして発明を拡張ないし一般化できるとはいえない。
また、同様の理由により、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1の全範囲において、上記の課題を解決し得る液状硬化性樹脂組成物を製造できるように明確かつ十分な記載がされているとは必ずしもいえない。
本件発明1を直接又は間接的に引用して記載されている本件発明2?5についても同様である。
よって、本件発明1?5は、発明の詳細な説明に実質的に記載されたものとすることができないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとすることができないから、同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(3-2)重量平均分子量が異なるシアネートエステル樹脂について
本件発明1の液状硬化性樹脂組成物は、本件発明1に明示的に特定されているシアネートエステル樹脂以外に、その他の成分として、重量平均分子量が300?850の範囲外であるシアネートエステル樹脂を含んでいてもよいと解することができる。そして、このような2種類以上のシアネートエステル樹脂を含有する場合には、シアネートエスエル樹脂全体の重量平均分子量は「300?850」の範囲外でありながら、本件発明1の範疇に含まれる場合があると解される。
しかし、本件明細書には、そのような形態は具体的には記載されておらず、かつ、上記課題を解決できることを当業者が理解できるものでもない。そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、本件発明1の範囲まで、上記の課題を解決し得るものとして発明を拡張ないし一般化できるとはいえない。
また、同様の理由により、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1の全範囲において、上記の課題を解決し得る液状硬化性樹脂組成物を製造できるように明確かつ十分な記載がされているとは必ずしもいえない。
本件発明1を直接又は間接的に引用して記載されている本件発明2?5についても同様である。
よって、本件発明1?5は、発明の詳細な説明に実質的に記載されたものとすることができないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとすることができないから、同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(4)理由II(進歩性)(引用文献4を主引例とする場合)
(進歩性) 本件特許の請求項1?5に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献4に記載された発明及び周知の技術的事項(引用文献1、2、5?9、11、12)に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(5)理由II(進歩性)(引用文献9を主引例とする場合)
本件特許の請求項1?5に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献9に記載された発明、引用文献4に記載された発明及び周知の技術的事項(引用文献5、10?12)に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

5.取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由についての判断
(1)理由VI(明確性)(訂正により生じた取消理由)について
本件訂正により訂正された後の本件発明2は、上記3.「本件発明について」に記載したとおりのものであるところ、訂正後の本件発明2には「質量%%」という記載は含まれていない。
よって、本件発明2、及び本件発明2を直接又は間接的に引用して記載されている本件発明4、5には、取消理由通知(決定の予告)の理由VI(明確性)で指摘した記載不備は存在しないから、当該取消理由により本件発明2、4、5を取り消すことはできない。

(2)理由V(明確性)について
本件訂正により訂正された後の本件発明1は、上記3.「本件発明について」に記載したとおりのものであるところ、訂正後の本件発明1における「該液状硬化性樹脂組成物に含まれるシアネートエステル樹脂は、」という記載で始まる発明特定事項は、本件発明1の液状硬化性樹脂組成物に含まれるシアネートエステル樹脂の全体を説明したものと理解することができる。
そうすると、本件発明1がフェノールノボラック型シアネートエスエル樹脂を2種類以上含有する場合を含み得るとしても、そのような場合には、本件発明1に記載された「重量平均分子量が400?600」という要件は、2種類以上のすべてのフェノールノボラック型シアネートエステル樹脂の全体の重量平均分子量が「400?600」であることを意味するものと理解することができるから、特段に記載が不明確であるとはいえない。本件発明1を直接又は間接的に引用して記載されている本件発明2、4、5についても同様である。
よって、取消理由通知(決定の予告)の理由V(明確性)の理由により、本件発明1、2、4、5を取り消すことはできない。

(3)理由III(サポート要件)及び理由IV(実施可能要件)について
(3-1)シアネートエステル樹脂について
本件明細書の[0006]等の記載によると、本件発明は、耐熱性等の各種物性に優れるうえ、有機溶剤や希釈剤等の揮発成分を実質的に含まなくても室温で液状で存在でき、高流動性を有する液状硬化性樹脂組成物、それを用いた液状封止材及び半導体装置を提供することを課題とするものと解される。
そして、上記課題の解決手段として、上記3.「本件発明について」に記載されたとおりの本件発明1の硬化性樹脂組成物が記載されているところ、その具体例としては、「ノボラック型シアネートエステル(PT-15、Lonza社製):重量平均分子量489」と、トリフェノールメタン型エポキシと、硬化促進剤(テトラフェニルホスホニウム・テトラ-p-トリルボレート)と、その他の添加剤とを含有する液状組成物1([0086]?[0087]実施例1)、及びトリフェノールメタン型エポキシの代わりに芳香族アミノエポキシ樹脂を用いたこと以外は実施例1と同じ方法で製造された液状組成物3([0089]実施例3)が、いずれも実際に上記課題を解決し得るものであったこと([0093]の[表1])が記載されている。
また、比較例として、「ノボラック型シアネートエステル(PT-15、Lonza社製)」の代わりに、「ビスフェノールE型シアネートエステル(LECy、Lonza社製):重量平均分子量860」を用いたこと以外は、実施例1と同じ方法で製造された比較用組成物1([0086]、[0090]比較例1)では、実施例1及び3よりも耐熱性が劣っていたこと([0093]の[表1])、及び「ノボラック型シアネートエステル(PT-15、Lonza社製)」の代わりに、「ノボラック型シアネートエステル(PT-30、Lonza社製):重量平均分子量264」を用いた比較例2は、流動性に乏しい粘稠液体となり、無機充填剤等との混練ができなかったこと([0086]、[0091])が記載されている。
ここで、本件発明1においては、その主たる構成成分の一つであるシアネートエステル樹脂は、「該液状硬化性樹脂組成物に含まれるシアネートエステル樹脂は、2官能以上の多官能化合物であるフェノールノボラック型シアネートエステル樹脂であり、かつ重量平均分子量が400?600であり、その形状は、25℃で液状であるか、又は、80℃以下の融点若しくは軟化点を有する固体状」であることが特定されているから、フェノールノボラック構造を有するシアネートエステル樹脂であるという構造的特徴、官能基の数、重量平均分子量及び25℃において液状であるか80℃以下の融点若しくは軟化点を有するという形状まで特定されたものであり、かつ、本件訂正前よりも範囲が減縮されている。また、上記5.(2)「理由V(明確性)について」における検討を踏まえると、本件訂正後の液状硬化性樹脂組成物に含まれるシアネートエステル樹脂は、全体として上記の要件を満たすものと理解することができるから、この点でも本件発明1におけるシアネートエステル樹脂は限定的なものである。そうすると、実施例1及び3で用いられた「ノボラック型シアネートエステル(PT-15、Lonza社製):重量平均分子量489)」は、構造的特徴、官能基の数、重量平均分子量及び形状(もし必要であれば、下記引用文献5及び引用文献9を参照)の点で、本件発明1におけるシアネートエステル樹脂の代表的なものであることを理解することができ、本件発明1に特定される範囲まで拡張ないし一般化できないとまではいえない。
また、本件発明1の他の構成成分であるエポキシ樹脂、硬化促進剤及び揮発成分の含有量の要件、及びアミン系硬化剤を含むものが除かれるとの要件についても、上記実施例及び比較例の記載を参酌すると、シアネートエステルについての要件と合わせたときに、上記課題を解決し得る範囲のものと解することができるものである。
そうすると、本件発明1は、当業者が上記課題を解決し得ることを理解し得る程度に発明の詳細な説明に実質的に記載されているものといえるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。また、上記の検討を踏まえると、本件明細書の発明の詳細な説明は、上記の課題を解決し得る本件発明1の液状硬化性樹脂組成物を、当業者が実際に製造できるように明確かつ十分に記載されたものであるといえるから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものである。さらに、本件発明2、4、5についても同様のことがいえるから、特許法第36条第6項第1号及び同条第4項第1号に規定する要件は満たされている。
よって、取消理由通知(決定の予告)の理由III(サポート要件)及び理由IV(実施可能要件)の「(5-1)シアネートエステル樹脂について」に記載した理由によって本件発明1、2、4、5を取り消すことはできない。

(3-2)重量平均分子量が異なるシアネートエステル樹脂について
上記5.(2)「理由V(明確性)について」における検討を踏まえると、本件発明1の液状硬化性樹脂組成物に含まれるシアネートエステル樹脂は、全体として上記の要件を満たすものと理解することができるから、本件発明1がフェノールノボラック型シアネートエスエル樹脂を2種類以上含有する場合を含み得るとしても、そのような場合には、2種類以上のすべてのフェノールノボラック型シアネートエステル樹脂の全体の重量平均分子量が「400?600」であることを意味するものと理解することができる。
そして、そのような理解の下、上記5.(3)(3-1)「シアネートエステル樹脂について」における検討を踏まえると、本件発明1に記載されたシアネートエステルについては、本件明細書に記載された代表的な実施例の記載等により、上記課題を解決し得ることが裏付けられている範囲内のものということができ、上記5.(3)(3-1)「シアネートエステル樹脂について」に記載したのと同様の結論に至る。
よって、取消理由通知(決定の予告)の理由III(サポート要件)及び理由IV(実施可能要件)の「(5-2)重量平均分子量が異なるシアネートエステル樹脂について」に記載した理由によって本件発明1、2、4、5を取り消すことはできない。

(4)引用文献及びその記載事項
<引用文献等一覧>
1.特開2008-198774号公報(甲第1号証)
2.国際公開第2012/018126号(甲第2号証)
3.日本化薬株式会社 機能化学品事業本部 機能性材料事業部, "Epoxy Resins Reactive Flame Retardants Hardeners Thermosetting Resins 第13版", 2016年3月, p.1-18(甲第3号証)
4.特開2011-162710号公報(甲第4号証)
5.ロンザジャパン株式会社 ハイパフォーマンスマテリアルズ事業部, "Primaset(R)(当審注:丸囲みの「R」を「(R)」と表記した。以下、同様に表記する。) Cyanate Esters The next generation of High Performance Thermosets", 2009年, p.4-10(甲第5号証)
6.株式会社ADEKA, "化学品 機能性樹脂 低塩素エポキシ樹脂", [online], [2017年10月11日検索], インターネット(甲第6号証)
7.特表2000-501138号公報(甲第7号証)
8.特開2000-344886号公報(甲第8号証)
9.特表2005-506422号公報(甲第9号証)
10.エース技研株式会社, "ACE GIKEN 粘度の目安・接着剤の種類", [online], [2017年10月11日検索], インターネット(甲第10号証)
11.特開2011-116910号公報(甲第11号証、周知技術を示す文献)
12.小林宇志, 磯野学, 大山俊幸, 高橋昭雄, 「エポキシ変性速硬化性シアナートエステル樹脂の研究」, ネットワークポリマー, 合成樹脂工業協会, 平成24年5月10日発行, vol.33, No.3, p.130-139(甲第12号証、周知技術を示す文献)

(i)引用文献1には、以下の事項が記載されている。
(1-1)「[請求項1]
(A)シアネートエステル樹脂、
(B)分子内に3つ以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂、
(C)無機充填材、
を必須成分とする多層プリント配線板用絶縁樹脂組成物であって、樹脂組成物の硬化物の線熱膨張係数が、15?21ppmの範囲であり且つ、
樹脂組成物の最低動的粘度が、4000Pa・s以下であることを特徴とする樹脂組成物。
[請求項2]
前記樹脂組成物の硬化物は、動的粘弾性試験におけるガラス転移温度が200℃以上である請求項1に記載の樹脂組成物。
[請求項3]
前記樹脂組成物の硬化物は、250℃における弾性率が0.65GPa以上である請求項1または2に記載の樹脂組成物。
[請求項4]
前記(A)シアネートエステル樹脂は、80℃における粘度が15?550mPa・sの範囲である請求項1ないし3のいずれかに記載の樹脂組成物。」

(1-2)「[発明が解決しようとする課題]
[0005]
本発明の目的は、前記多層プリント配線板の絶縁層を形成した場合に、線熱膨張係が15?21ppm、且つ最低動的粘度が、4000Pa・s以下の樹脂組成物を提供する。また、加工性に優れるフィルム付きまたは金属箔付き絶縁樹脂シート、並びに、前記絶縁樹脂シートを用いた信頼性に優れた薄型で、微細配線回路形成が可能な多層プリント配線板およびその製造方法、更には前記多層プリント配線板を用いた信頼性に優れる半導体装置を提供することである。」

(1-3)「[0011]
本発明の樹脂組成物に用いる(A)シアネートエステル樹脂は、特に限定されないが、例えばハロゲン化シアン化合物とフェノール類とを反応させ、必要に応じて加熱等の方法でプレポリマー化することにより得ることができる。具体的には、ノボラック型シアネート樹脂、ビスフェノールA型シアネート樹脂、ビスフェノールE型シアネート樹脂、テトラメチルビスフェノールF型シアネート樹脂等のビスフェノール型シアネート樹脂等を挙げることができる。これらの中でもノボラック型シアネート樹脂が好ましい。これにより、耐熱性を向上させることができる。
[0012]
さらに前記シアネート樹脂は、これをプレポリマー化したものも用いることができる。すなわち、前記シアネート樹脂を単独で用いてもよいし、重量平均分子量の異なるシアネート樹脂を併用したり、前記シアネート樹脂とそのプレポリマーとを併用したりすることもできる。
前記プレポリマーは、通常、前記シアネート樹脂を加熱反応などにより、例えば3量化することで得られるものであり、樹脂組成物の成形性、流動性を調整するために好ましく使用されるものである。
前記プレポリマーは、特に限定されないが、例えば3量化率が20?50重量%のプレポリマーを用いた場合、良好な成形性、流動性を発現できる。
[0013]
さらに前記(A)シアネートエステル樹脂は、80℃における粘度が15?550mPa・sであることが好ましい。これは真空下で加熱加圧積層(ラミネート)した時に内層回路パターン上に平坦性よく絶縁樹脂層を形成するため、またエポキシ樹脂等の他成分との相溶性を保つためである。前記上限値を超えると、絶縁樹脂層表面の平坦性を損ねる恐れがある。また、前記下限値未満であると、相溶性が悪化して、ラミネート時に分離してブリードする恐れがある。
[0014]
前記(A)シアネートエステル樹脂の含有量は、特に限定されないが、(C)無機充填材を除く、前記樹脂組成物全体の10?90重量%が好ましく、特に25?75重量%が好ましい。含有量が前記下限値未満であると絶縁樹脂層を形成するのが困難となる場合があり、前記上限値を超えると絶縁樹脂層の強度が低下する場合がある。」

(1-4)「[0015]
本発明の樹脂組成物に用いる(B)エポキシ樹脂は、分子内に3つ以上のエポキシ基を有していれば特に限定されない。例えばフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、アリールアルキレン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、フェノキシ型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ノルボルネン型エポキシ樹脂、アダマンタン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂などを挙げることができる。この中でも特にフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、アリールアルキレン型エポキシ樹脂が好ましい。これにより、吸湿半田耐熱性および難燃性を向上させることができる。
[0016]
前記(B)エポキシ樹脂の含有量は、特に限定されないが、(C)無機充填材を除く前記樹脂組成物全体の10?90重量%が好ましく、特に25?75重量%が好ましい。含有量が前記下限値未満であると樹脂組成物の硬化性が低下したり、得られる製品の耐湿性が低下したりする場合があり、前記上限値を超えると低熱膨張性、耐熱性が低下する場合がある。」

(1-5)「[0028]
前記(C)無機充填材の含有量は、前記樹脂組成物の硬化物の線熱膨張係数が、15ppm?21ppmになるように調整し含有する。(C)無機充填材の含有量は前記樹脂組成物全体の40?85重量%であれば、硬化物の線熱膨張係数を、15ppm?21ppmに調製することができる。さらに好ましくは(C)無機充填材の含有量が55?75重量%とすることで、低吸水性を付与する効果が発現できる。
[0029]
前記予め表面処理された球状シリカの含有量は、全無機充填材中の5?50重量%であることが好ましい。これにより成形性および機械強度に優れる。前記下限値未満では、機械強度が低下する恐れがある。また、前記上限値より多いと、無機充填材が凝集し成形性が低下する恐れがある。」

(1-6)「[0044]
次に、フィルム付きまたは金属箔付き絶縁樹脂シートについて説明する。
本発明の樹脂組成物の樹脂組成物は、まず、前記(A)シアネートエステル樹脂、(B)エポキシ樹脂、(C)無機充填材を必須成分として含有する。
[0045]
前記樹脂組成物を、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、酢酸エチル、シクロヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンシクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、セルソルブ系、カルビトール系、アニソール等の有機溶剤中で、超音波分散方式、高圧衝突式分散方式、高速回転分散方式、ビーズミル方式、高速せん断分散方式、および自転公転式分散方式などの各種混合機を用いて溶解、混合、撹拌して樹脂ワニスを作製する。
[0046]
前記樹脂ワニス中の樹脂組成物の含有量は、特に限定されないが、45?85重量%が好ましく、特に55?75重量%が好ましい。
[0047]
次に前記樹脂ワニスを、各種塗工装置を用いて、フィルム上または金属箔上に塗工した後、これを乾燥する。または、樹脂ワニスをスプレー装置によりフィルム若しくは金属箔に噴霧塗工した後、これを乾燥する。これらの方法によりフィルム付きまたは金属箔付き絶縁樹脂シートを作製することができる。
前記塗工装置は、特に限定されないが、例えば、ロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、グラビアコーター、ダイコーター、コンマコーターおよびカーテンコーターなどを用いることができる。これらの中でも、ダイコーター、ナイフコーター、およびコンマコーターを用いる方法が好ましい。これにより、ボイドがなく、均一な絶縁樹脂層の厚みを有するフィルム付きまたは金属箔付き絶縁樹脂シートを効率よく製造することができる」

(1-7)「[0054]
次にフィルム付き絶縁樹脂シートを用い、内層回路7を覆うように、積層する(図2(b))。フィルム付き絶縁樹脂シートの積層(ラミネート)方法は、特に限定されないが、真空プレス、常圧ラミネーター、および真空下で加熱加圧するラミネーターを用いて積層する方法が好ましく、更に好ましくは、真空下で加熱加圧するラミネーターを用いる方法である。
[0055]
次に、形成した樹脂層3を加熱することにより硬化させる。硬化させる温度は、特に限定されないが、100℃?250℃の範囲が好ましい。特に、150℃?200℃が好ましい。また、次のレーザー照射および樹脂残渣の除去を容易にするため半硬化状態にしておく場合もある。また、一層目の絶縁樹脂層3を通常の加熱温度より低い温度で加熱により一部硬化(半硬化)させ、絶縁樹脂層3上に、一層ないし複数の絶縁樹脂層をさらに形成し半硬化の絶縁樹脂層を実用上問題ない程度に再度加熱硬化させることにより絶縁樹脂層間および絶縁樹脂層と回路との密着力を向上させることができる。この場合の半硬化の温度は、80℃?200℃が好ましく、100℃?180℃がより好ましい。尚、次工程においてレーザーを照射し、樹脂に開口部12を形成するが、その前にフィルム4を剥離する必要がある、フィルム4の剥離は、絶縁樹脂層を形成後、加熱硬化の前、または加熱硬化後のいずれに行っても特に問題はない。」

(1-8)「[0062]
以下、本発明の樹脂組成物、およびフィルム付き絶縁樹脂シート、多層プリント配線板、半導体装置の実施例および比較例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(実施例1)
1、樹脂組成物の製造
(A)シアネートエステル樹脂としてノボラック型シアネートエステル樹脂(ロンザジャパン社製、プリマセットPT-15、80℃粘度35mPa・s)40重量部、(B)分子内に3つ以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂としてフェノールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬社製、EOCN-120-80)40重量部、(C)無機充填材として球状シリカ(アドマテックス社製、SO-25R、平均粒子径0.5μm)155重量部、硬化促進剤として1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール(四国化成工業社製、キュアゾール1B2PZ)0.5重量部、その他の成分としてフェノキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、EP4275)20重量部、添加剤としてエポキシシラン化合物(GE東芝シリコーン株式会社製、A-187)2重量部とを、メチルイソブチルケトン、およびシクロヘキサノンに溶解・混合させた。次いで、高速撹拌装置を用いて60分間撹拌して、固形分約65重量%の樹脂ワニスを調製した。尚、樹脂組成物中の(C)無機充填材の比率は60.2重量%であった。」

(1-9)「[0063]
2、フィルム付き絶縁樹脂シートの製造
前記で得られた樹脂ワニスを、厚さ50μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(三菱ポリエステルフィルム社製、ダイアホイルMRX-50)の片面に、コンマコーター装置を用いて乾燥後の樹脂層が40μmとなるように塗工し、これを150℃の乾燥装置で10分間乾燥して、フィルム付き絶縁樹脂シートを製造した。
[0064]
実施例1の樹脂組成物に関して、次の測定を行い、樹脂組成物の物性値を表1に示した。尚、各物性値を求めるのに用いた装置、並びに測定条件を以下に示す。
[0065]
<線熱膨張係数>
前記で得られたフィルム付き絶縁樹脂シートよりフィルムを除去し、続いて窒素雰囲気下の乾燥機により200℃で1時間、加熱硬化した樹脂組成物をサンプルとした。
熱機械測定装置(TAインスツルメント社製)を用い、窒素雰囲気下、引っ張りモードで昇温速度10℃/min、温度25?300℃、荷重5g、2サイクル測定を行った。線熱膨張係数は、2サイクル目の温度25?100℃における平均線熱膨張係数とした。
[0066]
<ガラス転移温度>
前記で得られたフィルム付き絶縁樹脂シートよりフィルムを除去し、続いて窒素雰囲気下の乾燥機により200℃で1時間、加熱硬化した樹脂組成物をサンプルとした。
動的粘弾性装置(TAインスツルメント社製)を用い、窒素雰囲気下、周波数10Hz、昇温速度5℃/min、温度25?350℃の引っ張り測定を行った。ガラス転移温度は、tanδ値が極大値を示すさいの温度とした。
[0067]
<250℃における弾性率>
前記で得られたフィルム付き絶縁樹脂シートよりフィルムを除去し、続いて窒素雰囲気下の乾燥機により200℃で1時間、加熱硬化した樹脂組成物をサンプルとした。
前記ガラス転移温度の測定と同様、動的粘弾性装置(TAインスツルメント社製)を用い、窒素雰囲気下、周波数10Hz、昇温速度5℃/min、温度25?350℃の引っ張り測定を行い、温度250℃における貯蔵弾性率の値とした。
[0068]
<最低動的粘度>
前記で得られたフィルム付き絶縁樹脂シートよりフィルムを除去し、サンプルとした。
粘弾性測定装置(Anton Par社製)で、周波数10Hz、昇温速度5℃/min、温度50?220℃の平面ずり測定を行った。最低動的粘度は、複素粘度(η*)の極小値とした。」

(1-10)「[0084]
(実施例5)
実施例1で用いたノボラック型シアネートエステル樹脂40重量部をノボラック型シアネートエステル樹脂(プリマセットPT-15)60重量部に、実施例1で用いたエポキシ樹脂40重量部をフェノールノボラック型エポキシ樹脂(EOCN-120-80)を20重量部に、実施例1で用いた球状シリカ155重量部を球状シリカ125重量部に変更した以外は、実施例1と同じように、フィルム付き絶縁樹脂シートを作製し、樹脂組成物の物性値を測定し、表1に示した。またその後、実施例1同様、フィルム付き絶縁樹脂シート、多層プリント配線板、半導体装置を評価し、その結果を表2に示した。尚、樹脂組成物中の(C)無機充填材の比率を54.9重量%であった。」

(ii)引用文献2には、以下の事項が記載されている。
(2-1)「請求の範囲
[請求項1] 下記一般式(I)で示される末端に水酸基を有するシロキサン樹脂(a)、1分子中に少なくとも2個のシアネート基を有する化合物(b)及び1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物(c)を、(a)?(c)成分の合計量100質量部当たり、(a)成分10?50質量部、(b)成分40?80質量部、(c)成分10?50質量部として、有機金属塩(d)の存在下、トルエン、キシレン及びメシチレンから選ばれる溶媒中で80℃?120℃で反応させ、(b)成分の反応率が30?70モル%であることを特徴とするイミノカーボネート構造及びトリアジン構造を有する相容化樹脂の製造方法。
[化1]

(式中、R_(1)は各々独立に炭素数1?5のアルキレン基又はアルキレンオキシ基,Ar_(1)は各々独立に単結合、アリーレン基又は炭素数1?5のアルキレン基であり、mは5?100の整数である)

[請求項2] 請求項1に記載の方法により製造された相容化樹脂(A1)及び、下記式(II)で示されるトリメトキシシラン化合物により表面処理された溶融シリカ(B)を含有することを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
[化2]



(2-2)「発明が解決しようとする課題
[0010] 本発明の目的は、こうした現状に鑑み、熱硬化性樹脂であるシアネート化合物を用いる場合の上記問題点を解決し、低熱膨張性、銅箔接着性、耐熱性、難燃性、銅付き耐熱性(T-300)、誘電特性、ドリル加工性の全てに優れる熱硬化性樹脂組成物、及びこれを用いたプリプレグ、積層板及び配線板を提供することである。
課題を解決するための手段
[0011] 本発明は、上記の課題を解決するために鋭意研究した結果、シアネート化合物と末端に水酸基を有するシロキサン樹脂、又は更にエポキシ樹脂を、特定の反応率に反応させて得られる相容化樹脂(A1)又は熱硬化性樹脂(A2)とトリメトキシシラン化合物により表面処理された溶融シリカ(B)を含有する樹脂組成物を用いることにより、上記のような特性を有する優れた熱硬化性樹脂組成物が得られること見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。 即ち本発明は、以下の相容化樹脂の製造方法、熱硬化性樹脂組成物、プリプレグ、積層板及び配線板を提供するものである。」

(2-3)「[0017] 以下、本発明について詳細に説明する。
先ず、本発明の相容化樹脂(A1)の製造方法は、下記一般式(I)で示される末端に水酸基を有するシロキサン樹脂(a)、1分子中に少なくとも2個のシアネート基を有する化合物(b)及び1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物(c)を、(a)?(c)成分の合計量100質量部当たり、(a)成分10?50質量部、(b)成分40?80質量部、(c)成分10?50質量部として、有機金属塩(d)の存在下、トルエン、キシレン及びメシチレンから選ばれる溶媒中で80?120℃でイミノカーボネート化反応及びトリアジン環形成反応をさせ、(b)成分の反応率が30?70モル%であることを特徴とする方法である。
[0018][化3]

(式中、R_(1)は各々独立に炭素数1?5のアルキレン基又はアルキレンオキシ基,Ar_(1)は各々独立に単結合、アリーレン基又は炭素数1?5のアルキレン基であり、mは5?100の整数である。)
[0019] なお、イミノカーボネート化反応は、水酸基とシアネート基の付加反応によりイミノカーボネート結合(-O-(C=NH)-O-)が生成される反応であり、トリアジン環化反応は、シアネート基が3量化しトリアジン環を形成する反応である。また、このシアネート基が3量化しトリアジン環を形成する反応により3次元網目構造化が進行するが、この時、1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物(c)が3次元網目構造中に均一に分散され、これによって(a)成分、(b)成分及び(c)成分が均一に分散された相容化樹脂が製造される。」

(2-4)「[0021] 相容化樹脂(A1)の製造に用いられる(b)成分の1分子中に少なくとも2個のシアネート基を有する化合物としては、例えば、ノボラック型シアネート樹脂、ビスフェノールA型シアネート樹脂、ビスフェノールE型シアネート樹脂、ビスフェノールF型シアネート樹脂、テトラメチルビスフェノールF型シアネート樹脂等が挙げられ、1種又は2種以上を混合して使用することができる。これらの中で、誘電特性、耐熱性、難燃性、低熱膨張性、及び安価である点から、ビスフェノールA型シアネート樹脂、下記一般式(III)に示すノボラック型シアネート樹脂が特に好ましい。
[0022][化4]

(nは、0又は1以上の整数である。)
[0023] 上記の一般式(III)のnは、ノボラック型シアネート樹脂の平均繰り返し数であり、特に限定されないが、平均値として0.1?30が好ましい。nが0.1以上であれば結晶化して取り扱いが困難となることがなく、また、30以下であれば硬化物が脆くなることがない。」

(2-5)「[0024] 相容化樹脂(A1)の製造に用いられる(c)成分の1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物としては、例えば、ビスフェノールA系、ビスフェノールF系、ビフェニル系、ノボラック系、多官能フェノール系、ナフタレン系、脂環式系及びアルコール系等のグリシジルエーテル系、グリシジルアミン系並びにグリシジルエステル系等が挙げられ、1種又は2種以上を混合して使用することができる。
これらの中で、高剛性、誘電特性、耐熱性、難燃性、耐湿性及び低熱膨張性の点からナフタレン型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレンアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル・クレゾール共重合型エポキシ樹脂等のナフタレン環含有エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂等のビフェニル基含有エポキシ樹脂が好ましく、芳香族系有機溶剤への溶解性の点からナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル・クレゾール共重合型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂がより好ましく、安価であることやエポキシ当量が小さく少量の配合でよいことから、下記式(IV)に示すビフェニル型エポキシ樹脂が特に好ましい。
[0025][化5]



(2-6)「[0028] 相容化樹脂(A1)の製造における原料組成は(a)?(c)成分の合計量100質量部当たり、(a)成分10?50質量部、(b)成分40?80質量部、(c)成分10?50質量部であり、(a)成分10?30質量部、(b)成分50?70質量部、(c)成分10?40質量部とすることが好ましい。ここで、(a)成分が10質量部未満であると、得られる基材の面方向の低熱膨張性が低下する場合があり、また(a)成分が50質量部を超えると、耐熱性や耐薬品性が低下する場合がある。(b)成分が40質量部未満であると得られる樹脂の相容性が低下する場合があり、また(b)成分が80質量部を超えると、得られる基材の面方向の低熱膨張性が低下する場合がある。(c)成分が10質量部未満であると、耐湿耐熱性が低下する場合があり、また(c)成分が50質量部を超えると、銅箔接着性や誘電特性が低下する場合がある。」

(2-7)「[0030] このようなプレ反応の反応温度は80?120℃であり、好ましくは100?110℃である。反応温度が80℃未満であると製造時間(反応時間)が長くなりすぎる場合があり、120℃を超えるとエポキシ樹脂の副反応が生じるためゲル化する場合がある。
プレ反応の反応率は、シアネート基を有する化合物(b)の反応率(消失率)を30?70モル%となるようし、好ましくは40?68モル%となるようする。反応率が30モル%未満であると、得られる樹脂が相容化されておらず、樹脂が分離して白濁し、Bステージの塗工布が製造でない。また、反応率が70モル%を超えると、得られる熱硬化性樹脂が溶剤に不溶化し、Aステージのワニス(熱硬化性樹脂組成物)が製造できなくなったり、プリプレグのゲルタイムが短くなり過ぎ、プレスの際に成形性が低下する場合がある。」

(2-8)「[0061] 製造例2:相容化樹脂(A1-2)の製造
温度計、攪拌装置、還流冷却管の付いた加熱及び冷却可能な容積3リットルの反応容器に、ノボラック型シアネート樹脂(ロンザジャパン社製;商品名Primaset PT-15,質量平均分子量500?1,000):800.0gと、下記の式(VI)に示すシロキサン樹脂(信越化学社製;商品名KF-6003、水酸基当量;2800):100.0g、ナフトールアラルキル・クレゾール共重合型エポキシ樹脂(日本化薬社製;商品名NC-7000L、エポキシ当量;230):100.0g及びトルエン:1000.0gを投入した。次いで、攪拌しながら120℃に昇温し、樹脂固形分が溶解し均一な溶液になっていることを確認した後、ナフテン酸亜鉛の8質量%ミネラルスピリット溶液を0.01g添加し、約110℃で4時間反応を行った。その後、室温に冷却し相容化樹脂(A-2)の溶液を得た。
この反応溶液を少量取り出し、GPC測定(ポリスチレン換算、溶離液:テトラヒドロフラン)を行ったところ、溶出時間が約12.1分付近に出現する合成原料のノボラック型シアネート樹脂のピーク面積が、反応開始時のノボラック型シアネート樹脂のピーク面積と比較し、ピーク面積の消失率〔(b)成分の反応率〕が43%であった。また、約10.9分付近、及び8.0?10.0付近に出現する熱硬化性樹脂の生成物のピークが確認された。さらに、少量取り出した反応溶液を、メタノールとベンゼンの混合溶媒(混合重量比1:1)に滴下して再沈殿させることにより、精製された固形分を取り出し、FT-IR測定を行ったところ、イミノカーボネート基に起因する1700cm^(-1)付近のピーク、また、トリアジン環に起因する1560cm^(-1)付近、及び1380cm^(-1)付近の強いピークが確認でき、相容化樹脂(A1-2)が製造されていることを確認した。
[0062][化8]

(式中のqは平均値として70?75の数である。)」

(2-9)「[0084]実施例1?10、比較例1?9
(A)成分として、製造例1?4により得られた相容化樹脂、比較製造例1?3で得られた樹脂、又は製造例6?8及び比較製造例4?7で得られた熱硬化性樹脂、製造例5又は商業的に入手した(B)成分、また必要により(C)成分、(D)成分、及び硬化促進剤に、希釈溶剤としてメチルエチルケトンを使用して、第1表及び第2表に示した配合割合(質量部)で混合して樹脂分60質量%の均一なワニスを得た。
次に、得られたワニスを厚さ0.2mmのSガラスクロスに含浸塗工し、160℃で10分加熱乾燥して樹脂含有量55質量%のプリプレグを得た。
このプリプレグを4枚重ね、18μmの電解銅箔を上下に配置し、圧力25kg/cm^(2)(2.45MPa)、温度185℃で90分間プレスを行って、銅張積層板を得た。
このようにして得られた銅張積層板を用いて、銅箔接着性(銅箔ピール強度)、ガラス転移温度、はんだ耐熱性、線膨張係数、難燃性、銅付き耐熱性(T-300)、比誘電率(1GHz)、誘電正接(1GHz)及びドリル加工性について前記の方法で測定・評価した。評価結果を第1表?第4表に示す。」

(2-10)「[0085]
[表1]



(iii)引用文献3には、以下のとおり、耐熱性エポキシ樹脂「NC-7000L」の特性が記載されている。
(3-1)「エポキシ樹脂
耐熱性エポキシ樹脂
・・・

」(第05?06頁)

(iv)引用文献4には、以下の事項が記載されている。
(4-1)「[請求項1]
(A)下記式(1)で表される、平均シアネート基数が2.5以上である多官能シアン酸エステル又はその混合物、(B)下記式(2)で表される平均エポキシ基数が2.5以上である多官能液状エポキシ樹脂又はその混合物、及び、(C)アミン系潜在性硬化剤を含有してなることを特徴とする、無溶剤一液型シアン酸エステル-エポキシ複合樹脂組成物;
式(1):

但し、Aiは成分iのシアネート基数、Xiは成分iの含有割合(%)であり、
式(2):

但し、Bkは成分kのエポキシ基数、Ykは成分kの含有割合(%)である。」

(4-2)「[0009]
本発明のシアン酸エステル-エポキシ樹脂組成物は、優れた硬化性と耐熱性のみならず、低誘電率及び低誘電正接(tanδ)を有しているので、封止用材料、接着剤、フィルム、接着構造物、半導体パッケージ、樹脂被膜物、電子回路基板等の用途に好適である。」

(4-3)「[0015]
これらの多官能シアン酸エステルは、単独で使用することも2種以上のシアン酸エステルと組み合わせて使用することもできるが、次式(1)で表される平均シアネート基数が2.5以上となるように使用することが必要である。
(式(1)は省略)」

(4-4)「[0016]
本発明に使用される(B)成分である多官能液状エポキシ樹脂、及びその混合物を構成しうるエポキシ樹脂としては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシン、ピロカテコール、フロログルクシノール等の単核多価フェノール化合物のポリグリシジルエーテル化合物;ジヒドロキシナフタレン、ビフェノール、メチレンビスフェノール(ビスフェノールF)、メチレンビス(オルトクレゾール)、エチリデンビスフェノール、イソプロピリデンビスフェノール(ビスフェノールA)、イソプロピリデンビス(オルトクレゾール)、テトラブロモビスフェノールA、1,3-ビス(4-ヒドロキシクミルベンゼン)、1,4-ビス(4-ヒドロキシクミルベンゼン)、1,1,3-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1,2,2-テトラ(4-ヒドロキシフェニル)エタン、チオビスフェノール、スルホビスフェノール、オキシビスフェノール、フェノールノボラック、オルソクレゾールノボラック、エチルフェノールノボラック、ブチルフェノールノボラック、オクチルフェノールノボラック、レゾルシンノボラック、テルペンフェノール等の多核多価フェノール化合物のポリグリジルエーテル化合物;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ポリグリコール、チオジグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ビスフェノールA-エチレンオキシド付加物等の多価アルコール類のポリグリシジルエーテル;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、コハク酸、グルタル酸、スベリン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ダイマー酸、トリマー酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸等の脂肪族、芳香族又は脂環族多塩基酸のグリシジルエステル類及びグリシジルメタクリレートの単独重合体又は共重合体;N,N-ジグリシジルアニリン、ビス(4-(N-メチル-N-グリシジルアミノ)フェニル)メタン、ジグリシジルオルトトルイジン、N,N-ビス(2,3-エポキシプロピル)-4-(2,3-エポキシプロポキシ)-2-メチルアニリン、N,N-ビス(2,3-エポキシプロピル)-4-(2,3-エポキシプロポキシ)アニリン、N,N,N’,N’-テトラ(2,3-エポキシプロピル)-4,4’-ジアミノジフェニルメタン等のグリシジルアミノ基を有するエポキシ化合物;ビニルシクロヘキセンジエポキシド、ジシクロペンタンジエンジエポキサイド、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル-6-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル)アジペート等の環状オレフィン化合物のエポキシ化物;エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化スチレン-ブタジエン共重合物等のエポキシ化共役ジエン重合体、トリグリシジルイソシアヌレート等の複素環化合物等があげられる。また、これらのエポキシ樹脂は末端イソシアネートのプレポリマーによって内部架橋されたもの、或いは多価の活性水素化合物(多価フェノール、ポリアミン、カルボニル基含有化合物、ポリリン酸エステル等)で高分子量化したものでもよい。
[0017]
本発明において使用する場合には、これらのエポキシ樹脂を、下記式(2)で表される、平均エポキシ基数が2.5以上となるように使用する必要がある。
(式(2)は省略)」

(4-5)「[0032]
本発明のシアン酸エステル-エポキシ樹脂組成物における(A)成分と(B)成分の使用量は、(A)成分100質量部に対し、通常(B)成分が1?10,000質量部であり、好ましくは10?1,000質量部、更に好ましくは20?500質量部である。」

(4-6)「[0036]
本発明の無溶剤一液型シアン酸エステル-エポキシ樹脂組成物は、例えば、コンクリート、セメントモルタル、各種金属、皮革、ガラス、ゴム、プラスチック、木、布、紙等に対する塗料、或いは接着剤等の広範な用途に使用することができる。特に、高い耐熱性と優れた接着性を有するため、半導体保護封止や電子部品の接着など、電子材料用途や自動車材料用途に好適に使用される。」

(4-7)「[表1]



(4-8)「[0047]
表中の各使用成分は下記の通りである。
CE-1:2官能シアン酸エステル(ロンザ社製;PrimasetLeCy、ビスフェノールE型シアン酸エステル)、
CE-2:多官能シアン酸エステル(ロンザ社製;PrimasetPT-30、フェノールノボラック型シアン酸エステル、平均官能基数7.3)、
EP-1:2官能エポキシ樹脂((株)ADEKA社製;EP-4100L、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量170)
EP-2:3官能エポキシ樹脂((株)ADEKA社製;EP-3950S、アミノフェノール型エポキシ樹脂、エポキシ当量95)
DICY:ジシアンジアミド((株)ADEKA社製;EH-3636AS)
SiO2:シリカフィラー(電気化学工業(株)社製;FB-950)」

(4-9)「[0048]
表1から明らかなように、多官能シアン酸エステル、多官能液状エポキシ樹脂及びアミン系潜在性硬化剤を含有してなる本発明の無溶剤一液型シアン酸エステル-エポキシ複合樹脂組成物(実施例1及び2)は、エポキシ樹脂を単独で使用した比較例3の場合より硬化性が優れる上、誘電率及び誘電性正接が低いので良好な高周波特性が得られる。更に、本発明の無溶剤一液型シアン酸エステル-エポキシ複合樹脂組成物(実施例1及び2)は、2官能のシアン酸エステル及び2官能のエポキシ樹脂を使用した比較例1や、2官能のシアン酸エステル及び多官能のエポキシ樹脂を使用した比較例2の場合より、高温側線膨張係数が小さくなり、耐熱性が高い。また、上記耐熱性の向上は、粘弾性のデータにおける弾性率の低下が少ないことからも明らかである。
[産業上の利用可能性]
[0049]
本発明のシアン酸エステル-エポキシ樹脂組成物を無溶剤一液型で用いることによって、例えば、VOCの発生を抑制することができるだけでなく、環境負荷を押さえた安全性の高い材料を提供することが出来る上、狭間部位への浸透・硬化等、溶剤が使えない用途に使えるので産業上極めて有用である。」

(4-10)「[技術分野]
[0001]
本発明は無溶剤一液型のシアン酸エステル-エポキシ複合樹脂組成物に関し、特に、多官能シアン酸エステル、多官能液状エポキシ樹脂、及びアミン系潜在性硬化剤を含有してなり、硬化性・耐熱性に優れると共に、低誘電率、低誘電正接(低tanδ)など、硬化後の電気特性にも優れる、無溶剤一液型シアン酸エステル-エポキシ複合樹脂組成物に関する。
[背景技術]
[0002]
エポキシ樹脂組成物は優れた電気的性能と接着力を有するため、従来から、電気・電子分野の種々の用途に使用されている。また、既存のエポキシ樹脂を単独で或いは混合して用いただけでは不十分な場合には、エポキシ樹脂とシアン酸エステルを混合してなるシアン酸エステル-エポキシ複合樹脂組成物が、高耐熱性の樹脂組成物として、半導体封止や成形用途などに多用されている。
[0003]
近年では、電子部品用途の拡大に伴い、これまでになく、厳しい環境下での耐久性と生産性が要求されており、これまで以上の耐熱性や優れた硬化性が要求されている。また、半導体周辺の電子回路の高集積化や高速化に伴い、低誘電率と共に低誘電正接(tanδ)を有する有機材料が求められている。
[0004]
このような需要に応えるために、これまでにも、例えば、シアン酸エステル、エポキシ樹脂、無機充填剤、及びジヒドラジド化合物などからなる半導体封止用液状エポキシ樹脂組成物(特許文献1)や、シアン酸エステル及びエポキシ樹脂を含む複合組成物にアミン系硬化剤を使用する例(特許文献2)が提案されている他、シアン酸エステル及びエポキ
シ樹脂にイミダゾール成分を含む潜在性硬化剤を使用した熱硬化性樹脂組成物(特許文献3)など、シアン酸エステル-エポキシ複合樹脂組成物が数多く提案されているが、これらの組成物は硬化に時間がかかるため生産性が低いだけでなく、耐熱性が不十分であったり、低誘電率、低誘電正接(tanδ)の要求を満足する事ができなかったりするため、更なる改善が求められていた。
・・・
[発明が解決しようとする課題]
[0006]
従って本発明の目的は、シアン酸エステルとエポキシ樹脂とを組み合わせてなる、優れた硬化性及び耐熱性と共に低誘電率及び低誘電正接(低tanδ)をも有する、無溶剤一液型シアン酸エステル-エポキシ樹脂組成物を提供することにある。
[課題を解決するための手段]
[0007]
そこで本発明者等は、上記の目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、多官能シアン酸エステル、多官能液状エポキシ樹脂及びアミン系潜在性硬化剤を含有してなるシアン酸エステル-エポキシ複合樹脂組成物が良好であることを見出し、本発明に到達した。」

(4-11)「[0019]
本発明に使用される(C)成分であるアミン系潜在性硬化剤は、活性水素含有アミン系潜在性硬化剤であることが、反応性に優れるので好ましい。このアミン系潜在性硬化剤は、特に、(a-1)ポリアミン化合物及び(a-2)エポキシ化合物を反応させてなる、(a)分子内に活性水素を持つアミノ基を1個以上有する変性アミン、及び、(b)フェノール樹脂を含有してなる潜在性硬化剤であることが好ましい。
・・・
[0021]
上記ポリアミン化合物の中でも、本発明においては特に、(1)分子内にそれぞれ反応性を異にする2個の第1級又は第2級アミノ基を有するジアミン、及び/又は、(2)分子内に2個以上の第1級又は第2級アミノ基を有し、その1個がエポキシ基と反応した場合その立体障害により残りの第1級又は第2級アミノ基のエポキシ基との反応性が低下する、芳香族ポリアミン、脂環式ポリアミン、及び脂肪族ポリアミンの中から選択された少なくとも一つのポリアミン化合物を使用することが、本発明のシアン酸エステル-エポキシ樹脂組成物硬化物の接着性のみならず、硬化物の物性等を向上させることができるため好ましい。」

(4-12)「[0029]
本発明に使用される(C)成分であるアミン系潜在性硬化剤は、グアニジン化合物であることが、配合部数が少なくても、安定性に優れた本発明のシアン酸エステル-エポキシ樹脂組成物が得られるため好ましい。このようなグアニジン化合物としては、例えば、下記一般式で表される化合物等があげられる。
[0030]

但し、上式中のnは0?5の整数、R^(1)は、アミノ基、又は、非置換若しくはフッ素置換の1価の炭化水素基を表す。R^(2)は水素原子又は炭素数1?4のアルキル基である。
[0031]
これらのグアニジン化合物の中でも、安定性と反応性のバランスに優れるという観点から、本発明においては、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン又はジシアンジアミドが好
ましい。」

(v)引用文献5には、以下の事項が記載されている。
(5-1)「Primaset(R)加工
シアネートエステル樹脂類はさまざまな物理的・化学的特性を有することから、注入、オートクレーブ成形、樹脂射出成形(RIM)、樹脂トランスファー成形(RTM)、真空RTM成形法、真空バッグ法、引き抜き成形法、フィラメントワインディング法、プリプレグ法など、さまざまな加工方法に適合させることができます。シアネートエステルは特異な性質を有するため、高性能プリント基板とマルチチップモジュール用の積層樹脂としても利用されます。

Primaset(R) 樹脂類は、混合せずに使用することもできますが、特定の加工や用途に合わせてさまざまなグレード品と混合することもできます。熱可塑性プラスチック、強化繊維、充填剤など各種材料と配合することで、Primaset(R)樹脂類の利用方法の可能性はさらに広がります。エポキシ、ビスマレイミド類などの機能性樹脂も、Primaset(R)樹脂ベースの配合物における共反応体として使用することができます。純粋なシアネートエステルの加工粘度は200mPa・s(室温、溶媒カットタイプ)?10,000mPa・s(90℃)です。シアネートエステルは多くの標準的な溶媒に溶解するので、簡単にプリプレグ工程へと応用することができます。

」(第5頁)

(5-2)「Primaset(R)モノマー類
・・・
Primaset(R)LECyは、反応性希釈剤、ダイ取付け接着剤として、フィラメントワインディング法、樹脂トランスファー成形(RTM)、低コストの真空RTM成形法、樹脂含浸法、引き抜き成形法に適し、また液状封止剤に適している低粘度性の液体モノマーです。LECyはポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリイミドなどのアモルファス熱可塑性樹脂を溶解します。LECyはまた、他のモノマーやオリゴマーのシアネートエステルやエポキシ樹脂類も溶解します。」(第7頁)

(5-3)「Primaset(R)PTとPrimaset(R)PTC
・・・
低可燃性複合材料用の、最高の耐熱性を有する樹脂として、当社のPrimaset(R)PTのラインナップの製品は、最高400℃という極めて高いガラス転移温度を提供しながらも、加工性はそのまま維持しています。さまざまな製造技術における要件を満たすため、Primaset(R)PT樹脂類は、純粋な半固体製品として粘度の異なる3種類の製品、Primaset(R)PT-15、Primaset(R)PT-30、Primaset(R)PT-60を取り揃えています。」(第8頁)

(5-4)「

」(第10頁)

(vi)引用文献6には、以下の事項が記載されている。
(6-1)「アデカレジン FPシリーズ (特殊タイプ)
グレード表



(vii)引用文献7には、以下の事項が記載されている。
(7-1)「I.シアネートエステル合成化学
ノボラック樹脂、トリアルキルアミン及びハロゲン化シアンからのシアネートエステルの合成は、3種の鍵となる反応を包含している。
これらの鍵となる反応の第1は、トリアルキルアミン及びハロゲン化シアンからのハロゲン化シアノトリアルキルアンモニウム錯体(I)の形成である。

(式中、Xはハロゲン原子である。)
この錯体は、フェノール樹脂のフェノール基剤シアネートエステル(II):

(式中、Xはハロゲン原子であり、nは整数であり、そしてフェノール樹脂の芳香族環構造上の置換基結合は概してランダムに生じている。)への転化において活性のあるシアネート化剤である。」(第15頁7行?同頁下から3行)

(7-2)「 本発明のフェノール基剤シアネートエステル樹脂は合成樹脂を製造するための重要な構築ブロックである。本発明のフェノール基剤シアネートエステル樹脂の分子量が高いほど、そのゲル化時間は短い。長いゲル化時間は多くの応用のために好ましい。」(第23頁12?15行)

(viii)引用文献8には、以下の事項が記載されている。
(8-1)「[0023]本発明において、シアネート化合物は、モノマーから数平均分子量が2000程度のものが望ましい。分子量が大きすぎると溶融粘度が高くなり、流動性、充填性、作業性などが損なわれる恐れがある。
[0024]本発明において、シアネート化合物としては、例えば、特開平8-283409号公報に記載されているシアネート化合物等が挙げられる。
[0025]シアネート化合物の具体例としては下記化学式(4)?(12)に示される化合物が挙げられる。これらの化合物は、耐熱性及び機械的強度の高い硬化物を形成する事が出来るため特に好ましい。
[化3]



(ix)引用文献9には、以下の事項が記載されている。
(9-1)「[請求項1]
少なくとも、
(a) 成分(a)及び(b)の合計に対して10?100重量%の少なくとも1の2官能性又は多官能性芳香族シアネート又は少なくとも1の2官能性又は多官能性芳香族シアネートから形成されたプレポリマー又は上記シアネート及び/又はプレポリマーから形成された混合物、
(b) 成分(a)及び(b)の合計に対して0?90重量%の少なくとも1の1官能性、2官能性又は多官能性エポキシ樹脂、
(c) 成分(a)及び(b)の合計に対して0.5?30重量%の少なくとも1の1官能性、2官能性又は多官能性芳香族アミン、及び
(d) 成分(a)及び(b)の合計に対して0?5重量%の少なくとも1の遷移金属化合物及び3ハロゲン化硼素からなる群からの触媒
を包含する硬化性混合物。
[請求項2]
該2官能性又は多官能性芳香族シアネートが、一般式
[化1]

[式中、R^(1)は水素、メチル又は臭素であり、Xは-CH_(2)-、-CH(CH_(3))-、-C(CH_(3))_(2)-、-C(CF_(3))_(2)-、-O-、-S-、-SO_(2)-、-C(=O)-、-OC(=O)-、-OC(=O)O-、及び、
[化2]

からなる群から選ばれる。]、
[化3]

[式中、nは0から10の数であり、R^(2)は水素又はメチルである。]、
及び
[化4]

[式中、nは上記と同様である。]
の化合物、
及びこれらの化合物の1以上から形成されるプレポリマー
からなる群から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の硬化性混合物。
[請求項3]
該エポキシ化合物が、一般式
[化5]

[式中、R^(1)及びXは請求項2と同様である。]、及び対応するオリゴマー、
[化6]

[式中、n及びR^(2)は請求項2と同様である。]、及び
[化7]

[式中、nは上記と同様である。]
の化合物からなる群から選ばれることを特徴とする請求項1又は2に記載の硬化性混合物。」

(9-2)「[技術分野]
[0001]
本発明は、芳香族シアネート類又はシアネート/エポキシド混合物、芳香族アミン類及び場合により触媒から形成されるポリトリアジンベースの熱硬化材料の製造のための硬化性混合物に関する。更に、これらの混合物の硬化により得ることができる熱硬化物質及び成形物品の製造への使用にも関する。
[0002]
2官能性又は多官能性芳香族シアネートから得ることができるポリトリアジン及び上記シアネート及びエポキシ樹脂から得ることができる熱硬化材料は、その優れた熱抵抗性及び良好な誘電性特性のために価値ある材料である。それぞれの場合、多官能性シアネート、多官能性エポキシド又は多官能性アミンは、ここで及び以後は、3個以上のシアネート、エポキシ又はアミノ基を包含する化合物をいうと理解される。
[発明の課題及び解決手段]
[0003]
純粋に熱的ルートによって上記原料を硬化することも可能であることは事実であるが、触媒的に有効な遷移金属化合物、例えばコバルト又は銅アセチルアセトネート又は亜鉛オクタノエート(亜鉛オクトエート)などの添加によって硬化が行われるのが通常である。然し、その毒性及び/又は環境への危険(特にこれらで製造された物質の処分)、及び電気的及び磁気特性への影響があり得ることから、これらはそれ自体望ましくない。
[0004]
従って、本発明の目的は、上記の不利益を示さない芳香族シアネート類及びシアネート/エポキシド混合物の硬化用の代替添加物が利用できるようにすることである。
[0005]
この目的は請求項1に記載した硬化性混合物によって本発明が達成する。驚くべきことに、2官能性又は多官能性シアネート又はエポキシドとこれらの混合物の硬化剤として芳香族アミンを用いることによって、重金属を包含する触媒を不要とすることができるだけではなく、硬化後に優れた特性を有する製品が得られることを見出した。従って、特にガラス転移温度(Tg)が著しく増大し、硬化製品は改良された衝撃強度を示す。それに加えて、スルーキュアリング(through-curing)が改良され、硬化パターン、特に硬化における潜在性(latency)が改良される。」

(9-3)「[0014]
エポキシ樹脂として、次の一般式の化合物からなる群からのものを用いることが好ましい。
[化14]

[0015]
[式中、R^(1)及びXは上記と同様である。]、及び対応するオリゴマー;
[化15]

[0016]
[式中、n及びR^(2)は上記と同様である。]:及び
[化16]

[0017]
[式中、nは上記と同様である。]。
[0018]
これらの化合物も既知であり、種々の業者から市場で入手できる。」

(9-4)「[0022]
上記の混合物を、場合により充填剤及び/又は補助剤を添加して熱硬化することによって得ることができるポリトリアジン-ベースの熱硬化物質は、同様に本発明の対象である。充填剤及び補助剤は、織物、繊維又は粒子の形態で、特に強化剤、着色剤又は特定の機械的、光学的、電気的又は磁気的特性を得るため又は加工特性を改良するための他の添加剤として理解すべきである。これらの充填剤及び補助剤は当業者には既知である。
[0023]
こうして得ることができる熱硬化物質の電子部品、航空機、スペースクラフト、道路車両、鉄道車両、船舶及び工業用途への成形品の製造への使用は、本発明の他の対象である。」

(9-5)「[実施例]
[0024]
次に挙げる例は本発明の態様の例を明らかにするものであり、限定するためのものではない。
例1?8
シアネート(ロンザAGからのPrimaset^((R))PT15;式II、R^(2)=H、粘度20?30 Pa・s、80℃で)、場合によりエポキシド(DOW DER 330;式IV、R^(1)=H、X=-C(CH_(3))_(2)-)、及びアミン(ロンザAGからのLonzacure^((R))DETDA、式VIII、R^(6)=R^(7)=Et、R^(8)=Me、異性体混合物)の混合物を調製し、熱硬化した。熱機械分析によって硬化試験試料からガラス転移温度(Tg)を測定した。混合割合、硬化条件及びガラス転移温度が次の表1にまとめてある。
[表1]



(x)引用文献10には、以下の事項が記載されている。
(10-1)「粘度目安



(xi)引用文献11には、以下の事項が記載されている。
(11-1)「[請求項1]
(A)エポキシ樹脂、(B)シアネート樹脂、(C)一般式(1)で表される4級ホスホニウムボレート及び(D)無機充填材を必須成分とする回路基板用樹脂組成物。
[化1]

[式中、Pはリン原子、R^(1) 、R^(2 )、R^(3 )及びR^(4 )は、置換もしくは無置換の芳香族基、またはアルキル基、置換基を有するアルキル基であり、かつリン原子と各置換基がP-C結合を形成するものでそれらは同一であっても異なっても良い。また、Bはホウ素原子、X^(1)、X^(2) 、X^(3) 及びX^(4)は置換もしくは無置換の芳香族基、またはアルキル基、置換基を有するアルキル基であり、かつホウ素原子と各置換基がB-C結合を形成するものでそれらは同一であっても異なっても良い。]」

(11-2)「[0028]
本発明において、前記一般式(1)で表される4級ホスホニウムボレート(C)は、活性種であるホスホニウムカチオンおよびボレートアニオンが、互いにイオン対を形成して保護されているために、常温では触媒活性が抑制されるが、成形時の温度ではイオン対がアニオンとカチオンに解離して、急激に触媒活性を発現するため、シアネート樹脂及びエポキシ樹脂組成物の常温保存性と硬化性の両立が可能となる。また、これらのホスホニウムボレートの組合わせや樹脂組成物への添加量により、樹脂組成物の硬化速度を容易に調整することが可能になり、成形性の面においても有利である。」

(xii)引用文献12には、以下の事項が記載されている。
(12-1)「概要
金属を含有しない新規リン系硬化促進剤テトラフェニルホスホニウムテトラ-p-トリルボラート(TPP-TTB)を用いたシアナートエステル樹脂,シアナート-エポキシ樹脂硬化物を得た。TPP-TTBを用いて得たシアナートエステル樹脂硬化物は,従来の硬化促進剤を用いた系の硬化温度250℃が大幅に改善され,200℃の低温で硬化が可能となった。得られた硬化物のガラス転移温度(T_(g))が307℃を示し,従来の金属共触媒系に比べ約30℃向上した。続いて,このTPP-TTBを用いてシアナートエステル樹脂-エポキシ樹脂混合系についても検討し,同様に200℃という低温での硬化を可能とした。さらにさまざまな骨格のエポキシ樹脂を系に適用することで樹脂骨格の諸特性への影響を検討し,樹脂骨格の変化によって特性の多様化が可能であることを見出した。さらに,シアナートエステル樹脂系においてTPP-TTBの触媒効果について単官能基化合物を用いて確認した。」(第130頁「概要」)

(12-2)「

」(第131頁「Scheme 1」)

(12-3)「2.1 試薬
シアナートエステル樹脂として,汎用のビスフェノールAジシアナート(BADCY)(三菱ガス化学(株))を用いた。エポキシ樹脂として・・・ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂である(GEBN)(日本化薬(株),NC-3000,エポキシ当量276)を使用した。また,硬化促進剤としてはテトラフェニルホスホニウムテトラ-p-トリルボラート(TPP-TTB)(北興化学工業(株),TPP-MK)を用いた。・・・それぞれの構造式をScheme 1に示した。」(第132頁「2.1 試薬」)

(12-4)「3.2.2 シアナートエステル樹脂-エポキシ樹脂混合系硬化物の特性評価
・・・
また,樹脂構造変化による特性への影響を調査し,さらなる高耐熱化を狙うために,エポキシ樹脂として,多環芳香族型エポキシ樹脂であるGEBN・・・を用いた系を検討した(Scheme 1),硬化物のDVA試験の結果をFig.6に,硬化物の諸特性をTable 6に示す。
GEBNの導入により,T_(d5),T_(d10)値がそれぞれ381℃,395℃を示した。これはGEBNのノボラック構造エポキシ基が高架橋構造であることにより,化学的耐熱性が向上したと推測される。」(第135?137頁「3.2.2 シアナートエステル樹脂-エポキシ樹脂混合系硬化物の特性評価」)

(12-5)「Table6

」(第137頁表6)
(当審仮訳:表題「表6 エポキシ-シアナートエステル樹脂の熱特性」
項目(左から順に)「樹脂^(1)) ガラス転移温度^(2))(℃) ガラス転移温度3)(℃) 架橋密度^(4))(kmol/m^(3)) 熱膨張率^(3))(ppm) 5%重量減少温度^(5))(℃) 10%重量減少温度^(5))(℃) チャー収率^(6))(%)」
表下脚注「^(1))硬化促進剤:TPP-TTB(0.5phr)
^(2))動的粘弾性分析装置による 加熱速度:5℃/分 空気中
^(3))熱機械分析装置による(加熱速度:5℃/分)荷重:5.0g 窒素中(20ml/分)範囲50-100℃
^(4))ゴム状態式による T=(T_(g)+40)K
^(5))熱重量分析装置による(加熱速度:10℃/分)窒素中(20ml/分)
^(6))熱重量分析装置による 800℃において」)

(5)引用文献4、9に記載された発明
ア 引用文献4に記載された発明
引用文献4には、「(A)式(1)(計算式の定義は摘記4-1を参照。)で表される、平均シアネート基数が2.5以上である多官能シアン酸エステル又はその混合物、(B)式(2)(計算式の定義は摘記4-1を参照。)で表される平均エポキシ基数が2.5以上である多官能液状エポキシ樹脂又はその混合物、及び、(C)アミン系潜在性硬化剤を含有してなる、無溶剤一液型シアン酸エステル-エポキシ複合樹脂組成物」が記載されており(摘記4-1)、多官能シアン酸エステルは、単独で使用することも2種以上のシアン酸エステルと組み合わせて使用することもできること(摘記4-3)、(A)成分と(B)成分の使用量は、(A)成分100質量部に対し、通常(B)成分が1?10,000質量部であり、好ましくは10?1,000質量部、更に好ましくは20?500質量部であること(摘記4-5)が記載されている。
また、引用文献4には、上記樹脂組成物の具体例として実施例1及び2の組成物が記載されており(摘記4-7)、多官能シアン酸エステルとしては、「CE-1:2官能シアン酸エステル(ロンザ社製;PrimasetLeCy、ビスフェノールE型シアン酸エステル)」22重量部又は29重量部と、「CE-2:多官能シアン酸エステル(ロンザ社製;PrimasetPT-30、フェノールノボラック型シアン酸エステル、平均官能基数7.3)」14重量部又は19重量部との混合物であって、平均官能基数がいずれも4.1であるもの、エポキシ樹脂としては、「EP-2:3官能エポキシ樹脂((株)ADEKA社製;EP-3950S、アミノフェノール型エポキシ樹脂、エポキシ当量95)」を36重量部又は47重量部用いたこと(摘記4-7、4-8)、実施例1の粘度は155Pa・s/1rpm、25℃であり、実施例2の粘度は81Pa・s/1rpm、25℃であること(摘記4-7)が記載されている。
そうすると、引用文献4には、以下の発明が記載されているものと認められる。
「(A)平均シアネート基数が4.1である多官能シアン酸エステルの混合物であって、「CE-1:2官能シアン酸エステル(ロンザ社製;PrimasetLeCy、ビスフェノールE型シアン酸エステル)」及び「CE-2:多官能シアン酸エステル(ロンザ社製;PrimasetPT-30、フェノールノボラック型シアン酸エステル、平均官能基数7.3)」の混合物、(B)平均エポキシ基数が3である多官能液状エポキシ樹脂であって、「EP-2:3官能エポキシ樹脂((株)ADEKA社製;EP-3950S、アミノフェノール型エポキシ樹脂、エポキシ当量95)」であるエポキシ樹脂、及び(C)アミン系潜在性硬化剤を含有し、(A)成分と(B)成分の使用量が、(A)成分の「CE-1」22質量部及び「CE-2」14質量部に対し、(B)成分が36質量部であるか、又は、(A)成分の「CE-1」29質量部及び「CE-2」19質量部に対し、(B)成分が47質量部である、無溶剤一液型シアン酸エステル-エポキシ複合樹脂組成物。」(以下、「引用発明4a」という。)

また、引用文献4には、上記樹脂組成物が、優れた硬化性と耐熱性のみならず、低誘電率及び低誘電正接(tanδ)を有しているので、封止用材料、接着剤、フィルム、接着構造物、半導体パッケージ、樹脂被膜物、電子回路基板等の用途に好適であること(摘記4-2)、特に、高い耐熱性と優れた接着性を有するため、半導体保護封止や電子部品の接着など、電子材料用途や自動車材料用途に好適に使用されること(摘記4-6)が記載されているから、引用文献4には、以下の発明も記載されているものと認められる。
「引用発明4aを用いてなる液状封止材、及び当該液状封止材を用いてなる半導体装置。」(以下、「引用発明4b」という。)

イ 引用文献9に記載された発明
引用文献9には、「少なくとも、(a) 成分(a)及び(b)の合計に対して10?100重量%の少なくとも1の2官能性又は多官能性芳香族シアネート、(b) 成分(a)及び(b)の合計に対して0?90重量%の少なくとも1の1官能性、2官能性又は多官能性エポキシ樹脂、(c) 成分(a)及び(b)の合計に対して0.5?30重量%の少なくとも1の1官能性、2官能性又は多官能性芳香族アミン、及び(d) 成分(a)及び(b)の合計に対して0?5重量%の少なくとも1の遷移金属化合物及び3ハロゲン化硼素からなる群からの触媒を包含する硬化性混合物」が記載されており(摘記9-1)、該芳香族シアネートとして2?12官能の式(II)(化学構造式と定義は摘記9-1を参照。)が記載されており、該エポキシ樹脂として2?12官能の式(V)及び(VI)(化学構造と定義は摘記9-1を参照。)が記載されている。
また、引用文献9には、上記硬化性混合物の具体例である例1?8において、シアネート(ロンザAGからのPrimaset^((R))PT15;式II、R^(2)=H、粘度20?30 Pa・s、80℃で)、場合によりエポキシド(DOW DER 330;式IV、R^(1)=H、X=-C(CH_(3))_(2)-)、及びアミン(ロンザAGからのLonzacure^((R))DETDA、式VIII、R^(6)=R^(7)=Et、R^(8)=Me、異性体混合物)の混合物を調製し、熱硬化したことが記載されている(摘記9-5)。
ここで、上記「シアネート(ロンザAGからのPrimaset^((R))PT15)」は、引用文献1(摘記1-8)に記載された「ノボラック型シアネートエステル樹脂(ロンザジャパン社製、プリマセットPT-15、80℃粘度35mPa・s)」と同じ商品と認められ、また、引用文献5(摘記5-4)に記載された、Lonza製の「Primaset(R) PT-15」(80℃で30mPa・sの粘度を示す)とも同じ商品と認められるから、引用文献9に記載された「粘度20?30 Pa・s、80℃で」という記載は、「粘度20?30mPa・s、80℃で」の誤記と認められる。
そうすると、引用文献9には、以下の発明が記載されているものと認められる。
「(a)ノボラック型シアネートエステル樹脂(ロンザAGからのPrimaset^((R))PT15;式II、R^(2)=H(化学構造式及び定義は摘記9-1を参照。)、粘度20?30mPa・s、80℃で)、(b)1官能性、2官能性又は多官能性エポキシ樹脂、(c)1官能性、2官能性又は多官能性芳香族アミン、及び(d)遷移金属化合物及び3ハロゲン化硼素からなる群からの触媒を包含する硬化性混合物であって、成分(a)及び(b)の合計に対して、成分(a)が10?100重量%、成分(b)が0?90重量%である、硬化性混合物。」(以下、「引用発明9」という。)

(6)理由II(進歩性)(引用文献4を主引例とする場合)について
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と引用発明4aとの対比
本件発明1と引用発明4aとを対比すると、引用発明4aにおける「(A)平均シアネート基数が4.1である多官能シアン酸エステルの混合物」は、本件発明1における「シアネートエステル樹脂」に相当し、2官能以上(平均シアネート基数が4.1)の多官能化合物である点でも重複している。また、引用発明4aにおける「(B)平均エポキシ基数が3である多官能液状エポキシ樹脂」は、本件発明1における「エポキシ樹脂」に相当し、エポキシ基及び/又はグリシジル基を1分子中に3個含む多官能化合物である点でも一致している。
さらに、引用発明4aの「無溶剤一液型シアン酸エステル-エポキシ複合樹脂組成物」の、配合成分であるシアネートエステル樹脂(「CE-1:2官能シアン酸エステル(ロンザ社製;PrimasetLeCy、ビスフェノールE型シアン酸エステル)」及び「CE-2:多官能シアン酸エステル(ロンザ社製;PrimasetPT-30、フェノールノボラック型シアン酸エステル、平均官能基数7.3)」は、引用文献5(摘記5-4)に外観が液体又は粘稠な液体であることが記載され、特に、前者のPrimaset(R)LECyは、引用文献5(摘記5-2)に、「低粘度性の液体モノマー」であり、「他のモノマーやオリゴマーのシアネートエステルやエポキシ樹脂類も溶解」するものであることが記載され、エポキシ樹脂(「EP-2:3官能エポキシ樹脂((株)ADEKA社製;EP-3950S、アミノフェノール型エポキシ樹脂、エポキシ当量95)」は、引用文献6(摘記6-1)に25℃における粘度が650mPa・sであることが記載され、樹脂組成物全体としては、「硬化性に優れ」る(摘記4-9)ものであることが記載されており、樹脂組成物の具体例である実施例1、2について、粘度がそれぞれ155Pa・s/1rpm、25℃及び81Pa・s/1rpm、25℃であること(摘記4-7)が記載されているから、本件発明1の「液状の硬化性樹脂組成物」に相当する。
そうすると、両者は、
「シアネートエステル樹脂とエポキシ樹脂とを含む液状の硬化性樹脂組成物であって、該液状硬化性樹脂組成物に含まれるシアネートエステル樹脂は、平均4.1官能の2官能以上の多官能化合物であり、該エポキシ樹脂は、エポキシ基及び/又はグリシジル基を、1分子中に3個含む多官能化合物である、液状硬化性樹脂組成物。」の点で一致し、
相違点1”:シアネートエステル樹脂が、本件発明1においては「フェノールノボラック型シアネートエステル樹脂であり、かつ重量平均分子量が400?600であり、その形状は、25℃で液状であるか、又は、80℃以下の融点若しくは軟化点を有する固体状であ」ることが特定されているのに対し、引用発明4aにおいてはそのように特定されていない点
相違点2”:液状硬化性樹脂組成物が、本件発明1においては「更に硬化促進剤としてホスホニウム塩を含」むことが特定されているのに対し、引用発明4aにおいては、そのようなことが明らかでない点
相違点3”:揮発性成分の含有量が、本件発明1においては「液状硬化性樹脂組成物100質量%中に1質量%以下である」ことが特定されているのに対し、引用発明4aにおいては、そのようなことが明らかでない点
相違点4”:液状硬化性樹脂組成物が、本件発明1においては「ただし、アミン系硬化剤を含むものを除く」ものであることが特定されているのに対し、引用発明4aは、「アミン系潜在性硬化剤を含有」する点
で相違する。そこで、上記相違点について検討する。

(イ)相違点4”について
事案に鑑み、相違点4”について検討する。
引用文献4には、引用発明4aの背景技術について、「エポキシ樹脂組成物は優れた電気的性能と接着力を有するため、従来から、電気・電子分野の種々の用途に使用されている」こと、また、「既存のエポキシ樹脂を単独で或いは混合して用いただけでは不十分な場合には、エポキシ樹脂とシアン酸エステルを混合してなるシアン酸エステル-エポキシ複合樹脂組成物が、高耐熱性の樹脂組成物として、半導体封止や成形用途などに多用されている」ことが記載され(摘記4-10の[0002])、「近年では、電子部品用途の拡大に伴い、これまでになく、厳しい環境下での耐久性と生産性が要求されており、これまで以上の耐熱性や優れた硬化性が要求されている。また、半導体周辺の電子回路の高集積化や高速化に伴い、低誘電率と共に低誘電正接(tanδ)を有する有機材料が求められている」ことが記載されている(摘記4-10の[0003])。
そして、従来技術としては、「シアン酸エステル、エポキシ樹脂、無機充填剤、及びジヒドラジド化合物などからなる半導体封止用液状エポキシ樹脂組成物(特許文献1)や、シアン酸エステル及びエポキシ樹脂を含む複合組成物にアミン系硬化剤を使用する例(特許文献2)が提案されている他、シアン酸エステル及びエポキシ樹脂にイミダゾール成分を含む潜在性硬化剤を使用した熱硬化性樹脂組成物(特許文献3)など、シアン酸エステル-エポキシ複合樹脂組成物が数多く提案されているが、これらの組成物は硬化に時間がかかるため生産性が低いだけでなく、耐熱性が不十分であったり、低誘電率、低誘電正接(tanδ)の要求を満足する事ができなかったりするため、更なる改善が求められていた」ことが記載されている(摘記4-10の[0004])。
これらを受けて、引用発明4aが解決しようとする課題は、「シアン酸エステルとエポキシ樹脂とを組み合わせてなる、優れた硬化性及び耐熱性と共に低誘電率及び低誘電正接(低tanδ)をも有する、無溶剤一液型シアン酸エステル-エポキシ樹脂組成物を提供することにある」ことが記載され(摘記4-10の[0006])、その解決手段として「多官能シアン酸エステル、多官能液状エポキシ樹脂及びアミン系潜在性硬化剤を含有してなるシアン酸エステル-エポキシ複合樹脂組成物が良好であることを見出し、本発明に到達した」ことが記載されている(摘記4-10の[0007])
これらの記載を参酌すると、本件発明4aは、シアン酸エステルとエポキシ樹脂とを混合してなるシアン酸エステル-エポキシ複合樹脂組成物において、シアン酸エステル及びエポキシ樹脂を具体的に特定したことに加えて、さらにアミン系潜在性硬化剤を組み合わせて用いたことにより、「優れた硬化性及び耐熱性と共に低誘電率及び低誘電正接(低tanδ)をも有する、無溶剤一液型シアン酸エステル-エポキシ樹脂組成物を提供する」という課題を解決することができたものと解されるから、アミン系潜在性硬化剤は、引用発明4aにおいて必須の配合成分といえる。
また、引用文献4には、硬化剤としてアミン系化合物以外の化合物を用いることは記載されておらず、むしろ、硬化剤がアミン系化合物であることを前提として、「アミン系潜在性硬化剤は、活性水素含有アミン系潜在性硬化剤であることが、反応性に優れるので好ましい。このアミン系潜在性硬化剤は、特に、(a-1)ポリアミン化合物及び(a-2)エポキシ化合物を反応させてなる、(a)分子内に活性水素を持つアミノ基を1個以上有する変性アミン、及び、(b)フェノール樹脂を含有してなる潜在性硬化剤であることが好ましい。・・・本発明のシアン酸エステル-エポキシ樹脂組成物硬化物の接着性のみならず、硬化物の物性等を向上させることができるため好ましい。」(摘記4-11の[0019]?[0021])という、単なる硬化促進にとどまらず、接着性及び硬化物の物性の観点も含めて最適なアミン系化合物について記載されている。
そうすると、引用発明4aにおいて、上記相違点4”に係る「アミン系硬化剤を・・・除く」という構成を採用することは、引用文献4の記載に照らして動機付けを欠くことであるから、当業者が容易に想到し得るこことはいえない。
よって、上記相違点4”は実質的な相違点であり、また、引用発明4aにおいて相違点4”に係る構成を採用することが、当業者にとって容易に想到し得ることであるともいえない。

(ウ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、平成30年9月5日に提出した意見書において、相違点2”に関連して引用文献11(摘記11-1?11-2)及び引用文献12(摘記12-1?12-5)を引用し、「当業者にとって、引用文献4記載の発明において更なる低線熱膨張性、耐熱性等を得るために、ホスホニウムボレートの使用を試みる動機づけが存在するし、その際に、アミン系硬化剤の全量をホスホニウムボレートに置き換えることに特に困難性がないことも明らかである。」と主張している。
しかし、上記5.(6)ア(イ)「相違点4”について」に記載したとおり、引用文献4には、硬化剤がアミン系化合物であることを前提として、単なる硬化促進にとどまらず、接着性及び硬化物の物性の観点も含めて最適なアミン系化合物を選択することが記載されているから、アミン系硬化剤を用いない組成を採用することについては、当業者が積極的に動機付けられることとはいえない。
また、仮に、引用文献11及び引用文献12に基づいて、エポキシ樹脂及びシアネートエステル樹脂を含む硬化性組成物において、4級ホスホニウム塩を硬化促進剤として添加することが本件出願前に周知の技術的事項といえるとしても、硬化触媒として作用する「硬化促進剤」と、それ自体が硬化性成分と反応して架橋に組み込まれる「アミン系硬化剤」とでは、硬化の機構及び硬化物の架橋構造が異なるから、両者をもって直ちに単純に置き換え可能な同等物であるということはできないし、さらに、引用文献4においては、アミン系硬化剤を単なる硬化促進にとどまらず、接着性及び硬化物の物性の最適化のために用いようとしているところ、本件特許に係る出願の出願日前に、4級ホスホニウム塩とアミン系硬化剤とが同じ接着性及び硬化物物性をもたらす同等物であると見なせるという技術常識が存在していたとも認められない。
そうすると、引用発明4aにおけるアミン系硬化剤の全量をホスホニウムボレートに置き換えることは、当業者が積極的に動機付けられることとはいえない。
よって、特許異議申立人の主張を採用することはできない。

(エ)小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は引用文献4に記載された発明及び周知の技術的事項(引用文献1、2、5?9、11、12)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。

イ 本件発明2、4、5について
本件発明1を直接又は間接的に引用して記載されている本件発明2、4、5についても、本件発明1と同様である。
よって、本件発明2、4、5は、いずれも引用文献4に記載された発明及び周知の技術的事項(引用文献1、2、5?9、11、12)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。

(7)引用文献9を主引例とする場合
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と引用発明9との対比
本件発明1と引用発明9とを対比すると、引用発明9における「(a)ノボラック型シアネートエステル樹脂」は、本件発明1における「シアネートエステル樹脂」に相当し、本件発明1における「フェノールノボラック型シアネートエステル樹脂」を包含する上位概念に相当する。また、その化学構造が「式II、R^(2)=H(化学構造式及び定義は摘記9-1を参照。)」であること、及び「粘度20?30mPa・s、80℃で」であることから、本件発明1におけるシアネートエステル樹脂と「2官能以上の多官能化合物であ」る点、及び「その形状は、25℃で液状であるか、又は、80℃以下の融点若しくは軟化点を有する固体状であ」る点で一致する。また、引用発明9における「(b)エポキシ樹脂」は、本件発明1における「エポキシ樹脂」に相当する。そうすると、両者は、
「シアネートエステル樹脂とエポキシ樹脂とを含む硬化性樹脂組成物であって、該液状硬化性樹脂組成物に含まれるシアネートエステル樹脂は、2官能以上の多官能化合物であるノボラック型シアネートエステル樹脂であり、その形状は、25℃で液状であるか、又は、80℃以下の融点若しくは軟化点を有する固体状である、硬化性樹脂組成物。」の点で一致し、
相違点1''':シアネートエステル樹脂が、本件発明1においては「フェノールノボラック型シアネートエステル樹脂であり、かつ重量平均分子量が400?600であ」ることが特定されているのに対し、引用発明9においてはそのようなことが明らかでない点
相違点2''':エポキシ樹脂が、本件発明1においては「エポキシ基及び/又はグリシジル基を、1分子中に3個以上含む多官能化合物である」ことが特定されているのに対し、引用発明9においてはそのようなことが明らかでない点
相違点3''':硬化性樹脂組成物が、本件発明1においては「液状」であることが特定されているのに対し、引用発明9においては、そのようなことが明らかでない点
相違点4''':液状硬化性樹脂組成物が、本件発明1においては「更に硬化促進剤としてホスホニウム塩を含」むことが特定されているのに対し、引用発明9においては、そのようなことが明らかでない点
相違点5''':揮発性成分の含有量が、本件発明1においては「液状硬化性樹脂組成物100質量%中に1質量%以下である」ことが特定されているのに対し、引用発明9においては、そのようなことが明らかでない点
相違点6''':液状硬化性樹脂組成物が、本件発明1においては「ただし、アミン系硬化剤を含むものを除く」ものであることが特定されているのに対し、引用発明9は、「(c)1官能性、2官能性又は多官能性芳香族アミン」を含有する点
で相違する。そこで、上記相違点について検討する。

(イ)相違点6'''について
事案に鑑み、相違点6'''について検討する。
引用文献9には、引用発明9が属する技術分野が、「芳香族シアネート類又はシアネート/エポキシド混合物、芳香族アミン類及び場合により触媒から形成されるポリトリアジンベースの熱硬化材料の製造のための硬化性混合物に関する」分野であることが記載されており(摘記9-2の[0001])、従来技術に相当する「ポリトリアジン及び上記シアネート及びエポキシ樹脂から得ることができる熱硬化材料は、その優れた熱抵抗性及び良好な誘電性特性のために価値ある材料であ」るところ(摘記9-2の[0002])、「純粋に熱的ルートによって上記原料を硬化することも可能であることは事実であるが、触媒的に有効な遷移金属化合物、例えばコバルト又は銅アセチルアセトネート又は亜鉛オクタノエート(亜鉛オクトエート)などの添加によって硬化が行われるのが通常である」こと、しかし、課題として、「その毒性及び/又は環境への危険(特にこれらで製造された物質の処分)、及び電気的及び磁気特性への影響があり得る」ことから、引用発明9の解決しようとする課題は、「上記の不利益を示さない芳香族シアネート類及びシアネート/エポキシド混合物の硬化用の代替添加物が利用できるようにすること」であることが記載されている(摘記9-2の[0003]?[0004])。
そして、上記課題の解決手段である引用発明9は、「驚くべきことに、2官能性又は多官能性シアネート又はエポキシドとこれらの混合物の硬化剤として芳香族アミンを用いることによって、重金属を包含する触媒を不要とすることができるだけではなく、硬化後に優れた特性を有する製品が得られることを見出した」ものであり、「特にガラス転移温度(Tg)が著しく増大し、硬化製品は改良された衝撃強度を示す。それに加えて、スルーキュアリング(through-curing)が改良され、硬化パターン、特に硬化における潜在性(latency)が改良される」ことが記載されている(摘記9-2の[0005])。
これらの記載を参酌すると、本件発明9は、芳香族シアネート類及びシアネート/エポキシド混合物を硬化させるために、毒性等の問題のある遷移金属化合物を代替する添加物として、特に芳香族アミンを選択したことにより上記課題を解決し、硬化後に優れた特性を有する製品が得られることを見出したというものであるから、芳香族アミンは引用発明9において必須の配合成分といえる。
また、引用文献9には、上記の課題を解決し得る硬化剤として、芳香族アミン以外の化合物は記載されていない。
そうすると、引用発明9において、上記相違点6'''に係る「アミン系硬化剤を・・・除く」という構成を採用することは、引用文献9の記載に照らして動機付けを欠くことであるから、当業者が容易に想到し得るこことはいえない。
よって、上記相違点6'''は実質的な相違点であり、また、引用発明9において相違点6'''に係る構成を採用することが、当業者にとって容易に想到し得ることであるともいえない。

(ウ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、平成30年9月5日に提出した意見書において、相違点4'''に関連して引用文献11(摘記11-1?11-2)及び引用文献12(摘記12-1?12-5)を引用し、「当業者にとって、引用文献9記載の発明において更なる耐熱性等を得るために、ホスホニウムボレートの使用を試みる動機づけが存在するし、その際に、アミン系硬化剤の全量をホスホニウムボレートに置き換えることに特に困難性がないことも明らかである。」と主張している。
しかし、上記5.(7)ア(イ)「相違点6'''について」に記載したとおり、引用発明9は、芳香族シアネート類及びシアネート/エポキシド混合物を硬化させるために、特に芳香族アミンを選択したことにより上記課題を解決し、硬化後に優れた特性を有する製品が得られることを見出したというものであるから、芳香族アミンは引用発明9において必須の配合成分といえるものであり、アミン系硬化剤を用いない組成を採用することについては、当業者が積極的に動機付けられることとはいえない。
また、仮に、引用文献11及び引用文献12に基づいて、エポキシ樹脂及びシアネートエステル樹脂を含む硬化性組成物において、4級ホスホニウム塩を硬化促進剤として添加することが本件出願前に周知の技術的事項といえるとしても、硬化触媒として作用する「硬化促進剤」と、それ自体が硬化性成分と反応して架橋に組み込まれる「芳香族アミン」とでは、硬化の機構及び硬化物の架橋構造が異なるから、両者をもって直ちに単純に置き換え可能な同等物であるということはできないし、本件特許に係る出願の出願日前に、4級ホスホニウム塩とアミン系硬化剤とが同じ硬化性及び硬化物物性をもたらす同等物であると見なせるという技術常識が存在していたとも認められない。
そうすると、引用発明9におけるアミン系硬化剤の全量をホスホニウムボレートに置き換えることは、当業者が積極的に動機付けられることとはいえない。
よって、特許異議申立人の主張を採用することはできない。

(エ)小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は引用文献9に記載された発明、引用文献4に記載された発明及び周知の技術的事項(引用文献5、10?12)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。

イ 本件発明2、4、5について
本件発明1を直接又は間接的に引用して記載されている本件発明2、4、5についても、本件発明1と同様である。
よって、本件発明2、4、5は、いずれも引用文献9に記載された発明、引用文献4に記載された発明及び周知の技術的事項(引用文献5、10?12)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。

(10)取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由についてのまとめ
以上のとおり、取消理由通知(決定の予告)に記載したいずれの取消理由によっても、本件請求項1、2、4、5に係る特許を取り消すことはできない。

6.取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由の概要
取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。
なお、引用文献は、上記5.(4)「引用文献及びその記載事項」に記載したものと同じである。

(1)理由I(新規性)及び理由II(進歩性)(引用文献1を主引例とする場合)
(1-I)(新規性) 本件特許の請求項1?3に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献1に記載された発明(引用発明1a又は1b)であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
(1-II)(進歩性) 本件特許の請求項1?3に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献1に記載された発明(引用発明1a又は1b)及び周知の技術的事項(引用文献5、9、10)に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(2)理由I(新規性)及び理由II(進歩性)(引用文献2を主引例とする場合)
(2-I)(新規性) 本件特許の請求項1?3に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
(2-II)(進歩性) 本件特許の請求項1?3に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献2に記載された発明及び周知の技術的事項(引用文献5、9)に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(3)理由I(新規性)(引用文献4を主引例とする場合)
(新規性) 本件特許の請求項1?5に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献4に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

なお、特許異議申立人は、平成30年9月5日に提出した意見書において、引用文献11(甲第11号証、平成30年4月25日に提出した意見書に添付。)に基づく進歩性違反、及び引用文献12(甲第12号証、平成30年4月25日に提出した意見書に添付。)に基づく進歩性違反を主張し、さらに引用文献11と組み合わせる周知引例として甲第13号証(特開平10-135634号公報)及び甲第14号証(特開2001-131309号公報)を提出しているが、これらの取消理由及び証拠は、訂正の請求の内容に付随して生じる理由ではなく、実質的に特許異議申立書に記載されていなかった新たな取消理由及び証拠であるから、採用することはできない。

7.取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由についての判断
(1)引用文献及びその記載事項
引用文献1?12及びその記載事項は、上記5.(4)「引用文献及びその記載事項」に記載したとおりである。

(2)引用文献1、2に記載された発明
ア 引用文献1に記載された発明
引用文献1には、「(A)シアネートエステル樹脂、(B)分子内に3つ以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂、(C)無機充填材、を必須成分とする多層プリント配線板用絶縁樹脂組成物であって、樹脂組成物の硬化物の線熱膨張係数が、15?21ppmの範囲であり且つ、樹脂組成物の最低動的粘度が、4000Pa・s以下である樹脂組成物」が記載されており(摘記1-1)、前記(A)シアネートエステル樹脂は、80℃における粘度が15?550mPa・sの範囲であること(摘記1-1、1-3)、前記(A)シアネートエステル樹脂の含有量は、(C)無機充填材を除く、前記樹脂組成物全体の10?90重量%が好ましいこと(摘記1-3)、及び前記(B)エポキシ樹脂の含有量は、(C)無機充填材を除く前記樹脂組成物全体の10?90重量%が好ましいこと(摘記1-4)が記載されている。
また、前記樹脂組成物を有機溶剤中で各種混合機を用いて溶解、混合、撹拌して樹脂ワニスを作製すること(摘記1-6)、次に前記樹脂ワニスを、各種塗工装置を用いて、フィルム上または金属箔上に塗工した後、これを乾燥する等の方法によりフィルム付きまたは金属箔付き絶縁樹脂シートを作製すること(摘記1-6)、次にフィルム付き絶縁樹脂シートを用い、内層回路7を覆うように積層し、形成した樹脂層を加熱することにより硬化させること、硬化させる温度は100℃?250℃の範囲が好ましいこと(摘記1-7)が記載されている。
さらに、実施例1として、(A)シアネートエステル樹脂としてノボラック型シアネートエステル樹脂(ロンザジャパン社製、プリマセットPT-15、80℃粘度35mPa・s)40重量部、(B)分子内に3つ以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂としてフェノールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬社製、EOCN-120-80)40重量部、(C)無機充填材(球状シリカ)155重量部、硬化促進剤(1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール)0.5重量部、その他の成分としてフェノキシ樹脂20重量部、及び添加剤としてエポキシシラン化合物2重量部を、メチルイソブチルケトン、およびシクロヘキサノンに溶解・混合させ、次いで、高速撹拌装置を用いて60分間撹拌して、固形分約65重量%の樹脂ワニスを調製したこと(摘記1-8)、及び実施例5として、実施例1で用いたノボラック型シアネートエステル樹脂40重量部をノボラック型シアネートエステル樹脂(プリマセットPT-15)60重量部に、実施例1で用いたエポキシ樹脂40重量部をフェノールノボラック型エポキシ樹脂(EOCN-120-80)を20重量部に、実施例1で用いた球状シリカ155重量部を球状シリカ125重量部に変更した以外は、実施例1と同じようにした例(摘記1-10)が記載されており、実施例1で得られた樹脂ワニスを、厚さ50μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムの片面に、コンマコーター装置を用いて乾燥後の樹脂層が40μmとなるように塗工し、これを150℃の乾燥装置で10分間乾燥して、フィルム付き絶縁樹脂シートを製造したこと、及び得られたフィルム付き絶縁樹脂シートよりフィルムを除去し、続いて窒素雰囲気下の乾燥機により200℃で1時間、加熱硬化した樹脂組成物をサンプルとして、熱膨張係数、ガラス転移温度、250℃における弾性率を測定したこと(摘記1-9)が記載されている。
そうすると、引用文献1には、以下の発明が記載されているものと認められる。
「(A)シアネートエステル樹脂、(B)分子内に3つ以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂、(C)無機充填材、を必須成分とし、加熱することにより硬化させることができる多層プリント配線板用絶縁樹脂組成物であって、前記(A)シアネートエステル樹脂はノボラック型シアネートエステル樹脂(ロンザジャパン社製、プリマセットPT-15、80℃粘度35mPa・s)であり、前記(B)エポキシ樹脂はフェノールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬社製、EOCN-120-80)であり、前記(A)シアネートエステル樹脂の含有量は、(C)無機充填材を除く前記樹脂組成物全体の10?90重量%であり、前記(B)エポキシ樹脂の含有量は、(C)無機充填材を除く前記樹脂組成物全体の10?90重量%であり、シアネートエステル樹脂とエポキシ樹脂の含有量の比率は、40重量部:40重量部?60重量部:20重量部である、樹脂組成物。」(以下、「引用発明1a」という。)
また、引用文献1には、以下の発明も記載されているものと認められる。
「引用発明1aの樹脂組成物を有機溶剤中で混合機を用いて溶解、混合、撹拌して作製された樹脂ワニス。」(以下、「引用発明1b」という。)

イ 引用文献2に記載された発明
引用文献2には、「一般式(I)(化学構造式及び定義は摘記2-1を参照。)で示される末端に水酸基を有するシロキサン樹脂(a)、1分子中に少なくとも2個のシアネート基を有する化合物(b)及び1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物(c)を、(a)?(c)成分の合計量100質量部当たり、(a)成分10?50質量部、(b)成分40?80質量部、(c)成分10?50質量部として、有機金属塩(d)の存在下、トルエン、キシレン及びメシチレンから選ばれる溶媒中で80℃?120℃で反応させ、(b)成分の反応率が30?70モル%であるイミノカーボネート構造及びトリアジン構造を有する相容化樹脂(A1)の製造方法」が記載されており(摘記2-1)、イミノカーボネート化反応は、水酸基とシアネート基の付加反応によりイミノカーボネート結合(-O-(C=NH)-O-)が生成される反応であり、トリアジン環化反応は、シアネート基が3量化しトリアジン環を形成する反応であり、このシアネート基が3量化しトリアジン環を形成する反応により3次元網目構造化が進行するが、この時、1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物(c)が3次元網目構造中に均一に分散され、これによって(a)成分、(b)成分及び(c)成分が均一に分散された相容化樹脂が製造されること(摘記2-3)が記載されていることから、上記相容化樹脂(A1)の製造工程においては、エポキシ基を有する化合物(c)は反応していないものと解される。
また、相容化樹脂(A1)の製造における原料組成は(a)?(c)成分の合計量100質量部当たり、(a)成分10?50質量部、(b)成分40?80質量部、(c)成分10?50質量部であること(摘記2-6)、(b)成分としては、一般式(III)(化学構造式及び定義は摘記2-4を参照。)に示すノボラック型シアネート樹脂等が好ましいこと、(c)成分としては、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂等が好ましいことが記載されており(摘記2-4、2-5)、相容化樹脂(A1)の製造方法の具体例として、「製造例2:相容化樹脂(A1-2)の製造」(摘記2-8)が記載されており、「反応容器にノボラック型シアネート樹脂(ロンザジャパン社製;商品名Primaset PT-15,質量平均分子量500?1,000):800.0gと、・・・式(VI)(化学構造式及び定義は摘記2-8を参照。)に示すシロキサン樹脂(信越化学社製;商品名KF-6003、水酸基当量;2800):100.0g、ナフトールアラルキル・クレゾール共重合型エポキシ樹脂(日本化薬社製;商品名NC-7000L、エポキシ当量;230):100.0g及びトルエン:1000.0gを投入・・・次いで、攪拌しながら120℃に昇温し、樹脂固形分が溶解し均一な溶液になっていることを確認した後、ナフテン酸亜鉛の8質量%ミネラルスピリット溶液を0.01g添加し、約110℃で4時間反応を行った。その後、室温に冷却し相容化樹脂(A-2)の溶液を得た。」ことが記載されている。
さらに、引用文献2には、上記方法により製造された相容化樹脂(A1)及び、式(II)(化学構造式及び定義は摘記2-1を参照。)で示されるトリメトキシシラン化合物により表面処理された溶融シリカ(B)を含有する熱硬化性樹脂組成物が記載されており(摘記2-1)、その具体例として、「(A)成分として、製造例1?4により得られた相容化樹脂・・・製造例5又は商業的に入手した(B)成分、また必要により(C)成分、(D)成分、及び硬化促進剤に、希釈溶剤としてメチルエチルケトンを使用して、第1表及び第2表に示した配合割合(質量部)で混合して樹脂分60質量%の均一なワニスを得た。次に、得られたワニスを厚さ0.2mmのSガラスクロスに含浸塗工し、160℃で10分加熱乾燥して樹脂含有量55質量%のプリプレグを得た。このプリプレグを4枚重ね、18μmの電解銅箔を上下に配置し、圧力25kg/cm^(2)(2.45MPa)、温度185℃で90分間プレスを行って、銅張積層板を得た。」ことが記載されており(摘記2-9)、摘記2-7を参酌すると、上記「樹脂分60質量%の均一なワニス」は、「Aステージのワニス(熱硬化性組成物)」であり、上記「樹脂含有量55質量%のプリプレグ」は、「Bステージの塗工布」に当たるものと解される。
そうすると、引用文献2には、以下の発明が記載されているものと認められる。
「一般式(I)(化学構造式及び定義は摘記2-1を参照。)で示される末端に水酸基を有するシロキサン樹脂(a)、1分子中に少なくとも2個のシアネート基を有する化合物(b)及び1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物(c)を、(a)?(c)成分の合計量100質量部当たり、(a)成分10?50質量部、(b)成分40?80質量部、(c)成分10?50質量部として、溶媒中で(b)成分の反応率が30?70モル%となるよう反応させることにより得られるものであり、イミノカーボネート構造及びトリアジン構造を有し、1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物(c)が3次元網目構造中に均一に分散され、これによって(a)成分、(b)成分及び(c)成分が均一に分散された相容化樹脂する相容化樹脂(A1)の溶液と、式(II)(化学構造式及び定義は摘記2-1を参照。)で示されるトリメトキシシラン化合物により表面処理された溶融シリカ(B)とを含有する熱硬化性樹脂組成物のワニスであって、上記(b)成分はノボラック型シアネート樹脂(ロンザジャパン社製;商品名Primaset PT-15,質量平均分子量500?1,000)であり、上記(c)成分はナフトールアラルキル・クレゾール共重合型エポキシ樹脂(日本化薬社製;商品名NC-7000L、エポキシ当量;230)である、熱硬化性樹脂組成物のワニス。」(以下、「引用発明2」という。)

(3)理由I(新規性)及び理由II(進歩性)(引用文献1を主引例とする場合)について
(3-a)引用発明1aに基づく判断
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と引用発明1aとの対比
本件発明1と引用発明1aとを対比すると、引用発明1aにおける「(A)シアネートエステル樹脂」、「(B)分子内に3つ以上のエポキシ基を有する」、「エポキシ樹脂」、「加熱することにより硬化させることができる」、「樹脂組成物」は、それぞれ本件発明1における「シアネートエステル樹脂」、「エポキシ基及び/又はグリシジル基を、1分子中に3個以上含む」、「エポキシ樹脂」、「硬化性」、「樹脂組成物」に相当し、引用発明1aにおける「ノボラック型シアネートエステル樹脂」は、本件発明1における「フェノールノボラック型シアネートエステル樹脂」を包含する上位概念に相当するから、両者は、
「シアネートエステル樹脂とエポキシ樹脂とを含む硬化性樹脂組成物であって、該硬化性樹脂組成物に含まれるシアネートエステル樹脂は、ノボラック型シアネートエステル樹脂であり、該エポキシ樹脂は、エポキシ基及び/又はグリシジル基を、1分子中に3個以上含む多官能化合物である、硬化性樹脂組成物。」の点で一致し、
相違点1:シアネートエステル樹脂が、本件発明1においては「2官能以上の多官能化合物であるフェノールノボラック型シアネートエステル樹脂であり、かつ重量平均分子量が400?600であり、その形状は、25℃で液状であるか、又は、80℃以下の融点若しくは軟化点を有する固体状であ」ることが特定されているのに対し、引用発明1aにおいてはそのようなことが明らかでない点
相違点2:硬化性樹脂組成物が、本件発明1においては「液状」であることが特定されているのに対し、引用発明1aにおいては、そのようなことが明らかでない点
相違点3:硬化性樹脂組成物が、本件発明1においては「更に硬化促進剤としてホスホニウム塩を含」むことが特定されているのに対し、引用発明1aにおいては、そのようなことが明らかでない点
相違点4:揮発性成分の含有量が、本件発明1においては「液状硬化性樹脂組成物100質量%中に1質量%以下である」ことが特定されているのに対し、引用発明1aにおいては、そのようなことが明らかでない点
相違点5:硬化性樹脂組成物が、本件発明1においては「ただし、アミン系硬化剤を含むものを除く」ものであることが特定されているのに対し、引用発明1aにおいては、そのようなことが明らかでない点

で相違する。そこで、上記相違点について検討する。

(イ)相違点2及び4について
事案に鑑み、相違点2及び4について検討する。
引用発明1aの硬化性樹脂組成物は、多層プリント配線板の絶縁層を形成する樹脂組成物を提供するものであり、加工性に優れるフィルム付きまたは金属箔付き絶縁シート樹脂シートの提供を課題とするものであるところ(摘記1-2)、その作製方法については、(A)シアネートエステル樹脂、(B)エポキシ樹脂、(C)無機充填材を必須成分として含有する樹脂組成物を(摘記1-6の[0044])、有機溶剤中で各種混合機を用いて溶解、混合、撹拌して樹脂ワニスを作製し(摘記1-6の[0045])、次に、前記樹脂ワニスを各種塗工装置を用いてフィルム上又は金属箔上に塗工した後、これを乾燥する、又は、樹脂ワニスをスプレー装置によりフィルム若しくは金属箔に噴霧塗工した後、これを乾燥することにより作製することができることが記載されている(摘記1-6の[0047])。
ここで、前記樹脂ワニス中の樹脂組成物の含有量は、45?85重量%が好ましく、特に55?75重量%が好ましいことが記載されており(摘記1-6の[0046])、また、上記摘記1-6の[0045]の記載等を参酌すると、樹脂ワニス中の樹脂組成物以外の成分はすべて有機溶剤、すなわち「揮発成分」に相当するものと認められる。そうすると、樹脂ワニスとされたときの揮発成分の含有量は、硬化性樹脂組成物100質量%に対して1質量%を超えることが記載されているといえるから、樹脂ワニスとしての引用発明1aの硬化性樹脂組成物は、上記相違点4に係る構成を備えるものではない。
また、作製されたフィルム付き絶縁樹脂シートについては、内層回路を覆うように積層され、次に、形成した樹脂層を加熱することにより硬化させることが記載されていることから(摘記1-7)、上記の方法で作製されたフィルム付き絶縁樹脂シートは、内層回路に積層される前には未硬化の樹脂組成物の層(固体状)を有するものであることが明らかであり、そうすると、有機溶剤を含まない状態の引用発明1aの硬化性樹脂組成物は、上記相違点2に係る構成を備えるものではない。
さらに、引用発明1aがフィルム付きまたは金属箔付き絶縁シート樹脂シートの提供を課題とするものであることを勘案すると、有機溶剤を含まない状態の引用発明1aの硬化性樹脂組成物を、室温において液状の組成物として調製することが、引用文献1の記載から動機付けられるものでもないから、そうすると、室温において液状のシアネートエステル樹脂が本件出願前に周知の技術的事項であること(引用文献5の摘記5-1?5-4、引用文献9の摘記9-5)、及び本件明細書の[0010]に記載された「液状」の範囲(「測定温度60℃での粘度が、100Pa・s以下であることが好適である。」)が、周知の技術的事項(引用文献10の摘記10-1)を参酌すると、60℃で「ハンドクリーム」以下の粘度であることを意味すると解されることを勘案しても、引用発明1aにおいて相違点2の構成を採用することが当業者にとって容易であるとはいえない。
よって、本件発明1と引用発明1aとは、上記相違点2又は4の点において実質的に相違するものであり、また、引用発明1aにおいて、上記相違点2及び4に係る構成を共に備えた構成を採用することが、当業者にとって容易に想到し得ることであるともいえない。

(ウ)小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は引用文献1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、また、本件発明1は、引用文献1に記載された発明及び周知の技術的事項(引用文献5、9、10)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものでもない。

イ 本件発明2について
本件発明1を引用して記載されている本件発明2についても、本件発明1と同様である。
よって、本件発明2は引用文献1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、また、本件発明2は引用文献1に記載された発明及び周知の技術的事項(引用文献5、9、10)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものでもない。

(3-b)引用発明1bに基づく判断
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と引用発明1bとの対比
引用発明1bにおける「樹脂ワニス」は、引用発明1aの樹脂組成物を有機溶剤中で混合機を用いて溶解、混合、撹拌して作製されたものであるから、液状の樹脂組成物であることが明らかである。
そこで、上記7.(3)(3-a)ア(ア)「本件発明1と引用発明1aとの対比」における検討を踏まえて、本件発明1と引用発明1bとを対比すると、両者は、
「シアネートエステル樹脂とエポキシ樹脂とを含む硬化性樹脂組成物であって、該シアネートエステル樹脂は、ノボラック型シアネートエステル樹脂であり、該エポキシ樹脂は、エポキシ基及び/又はグリシジル基を、1分子中に3個以上含む多官能化合物である、液状硬化性樹脂組成物。」の点で一致し、
上記相違点1、3、4及び5の点で相違する(「引用発明1a」を「引用発明1b」と読み替える。)。

(イ)相違点4について
そして、上記相違点4については、上記7.(3)(3-a)ア(イ)「相違点2及び4について」における検討を踏まえると、引用文献1において、液状硬化性樹脂組成物における有機溶媒の含有量を、硬化性樹脂組成物100質量%に対して1質量%以下に調整することが記載されているとはいえないし、また、そのようにすることが引用文献1の記載から動機付けられるものでもないから、上記引用文献5、9、10に記載されたような本件出願前に周知の技術的事項を参酌しても、引用発明1bにおいて相違点4の構成を採用することが当業者にとって容易であるとはいえない。

(ウ)小括
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は引用文献1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、また、本件発明1は、引用文献1に記載された発明及び周知の技術的事項(引用文献5、9、10)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものでもない。

イ 本件発明2について
本件発明1を引用して記載されている本件発明2についても、本件発明1と同様である。
よって、本件発明2は引用文献1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、また、本件発明2は引用文献1に記載された発明及び周知の技術的事項(引用文献5、9、10)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものでもない。

(4)理由I(新規性)及び理由II(進歩性)(引用文献2を主引例とする場合)について
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と引用発明2との対比
本件発明1と引用発明2とを対比すると、引用発明2における「1分子中に少なくとも2個のシアネート基を有する化合物(b)」、「1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物(c)」、「熱硬化性樹脂組成物のワニス」は、それぞれ本件発明1における「シアネートエステル樹脂」、「エポキシ樹脂」、「液状の硬化性樹脂組成物」に相当し、シアネートエステル樹脂は、「2官能以上の多官能性化合物」である点も一致し、引用発明2における「ノボラック型シアネート樹脂」は、本件発明1における「フェノールノボラック型シアネートエステル樹脂」を包含する上位概念に相当する。また、引用発明2におけるシアネートエステル樹脂は「ノボラック型シアネート樹脂(ロンザジャパン社製;商品名Primaset PT-15,質量平均分子量500?1,000)」であるところ、当該質量平均分子量の数値範囲は、本件発明1におけるシアネートエステル樹脂の重量平均分子量400?600と、「500?600」の範囲で重複している。さらに、「(b)成分(シアネートエステル樹脂)の反応率が30?70モル%となるよう反応」させていることから、引用発明2は未反応の「ノボラック型シアネート樹脂」を含むものであり、また、化合物(c)(エポキシ樹脂)が「3次元網目構造中に均一に分散され」ていることから、引用発明2は未反応の「エポキシ樹脂」を含むものである。
なお、特許権者は、平成30年3月12日に提出した意見書の第7頁において、引用文献2の[0061]の記載を引用して、「最終的に得られた相溶化樹脂(A1-2)は、これら原料が除去されて、化学反応で生じた生成物からなるものであることが読み取れます。・・・最終的に得られた相溶化樹脂(A1-2)は、原料であるノボラック型シアネートエステル樹脂とナフトールアラルキル・クレゾール共重合型エポキシ樹脂とを含むとはいえません。」と主張しているが、引用文献2の[0061]の記載は、生成物をFT-IRにより同定するために、反応溶液を少量取り出して精製を行ったことが記載されているにすぎず、後の工程で用いられた相溶化樹脂は、未反応のシアネートエステル樹脂及びエポキシ樹脂を含む反応溶液に含まれる形態で用いられたものと認められる。
そうすると、両者は、
「シアネートエステル樹脂とエポキシ樹脂とを含む液状の硬化性樹脂組成物であって、該液状硬化性樹脂組成物に含まれるシアネートエステル樹脂は、2官能以上の多官能化合物であり、かつ重量平均分子量が500?600であり、ノボラック型シアネートエステル樹脂である、液状硬化性樹脂組成物。」の点で一致し、
相違点1’:シアネートエステル樹脂が、本件発明1においては「フェノールノボラック型シアネートエステル樹脂であり」、「その形状は、25℃で液状であるか、又は、80℃以下の融点若しくは軟化点を有する固体状であ」ることが特定されているのに対し、引用発明2においてはそのようなことが明らかでない点
相違点2’:エポキシ樹脂が、本件発明1においては「エポキシ基及び/又はグリシジル基を、1分子中に3個以上含む多官能化合物である」ことが特定されているのに対し、引用発明2においてはそのようなことが明らかでない点
相違点3’:液状硬化性樹脂組成物が、本件発明1においては「更に硬化促進剤としてホスホニウム塩を含」むことが特定されているのに対し、引用発明2においては、そのようなことが明らかでない点
相違点4’:揮発性成分の含有量が、本件発明1においては「液状硬化性樹脂組成物100質量%中に1質量%以下である」ことが特定されているのに対し、引用発明2においては、そのようなことが明らかでない点
相違点5’:液状硬化性樹脂組成物が、本件発明1においては「ただし、アミン系硬化剤を含むものを除く」ものであることが特定されているのに対し、引用発明2においては、そのようなことが明らかでない点
で相違する。そこで、上記相違点について検討する。

(イ)相違点4’について
事案に鑑み、相違点4’について検討する。
引用文献2には、「製造例2」として、反応容器にノボラック型シアネート樹脂800.0g、シロキサン樹脂100.0g、エポキシ樹脂100.0g及びトルエン1000.0gを投入し、均一な溶液になっていることを確認した後、ナフテン酸亜鉛の8質量%ミネラルスピリット溶液0.01gを添加し、110℃で4時間反応を行い、その後室温に冷却して相容化樹脂(A-2)の溶液を得たこと、ノボラック型シアネート樹脂の反応率が43%であったことが記載され(摘記2-8)、実施例として、製造例1?4により得られた相溶化樹脂((A)成分)、(B)成分(溶融シリカ)及び硬化促進剤に、希釈溶剤としてメチルエチルケトンを使用して、第1表及び第2表に示した配合割合(質量部)で混合して「樹脂分」60質量%の均一なワニスを得たことが記載され(摘記2-9)、第1表(摘記2-10)には、実施例2の「熱硬化性樹脂組成物」(上記「樹脂分」に相当するものと認められる。)が、(A)相溶化樹脂としてA1-2((b)成分反応率43%)(製造例2の相溶化樹脂の溶液を用いたものと認められる。)を100質量部、溶融シリカを100質量部及び硬化促進剤を0.01質量部含むものであったことが記載されている。
そうすると、引用発明2である「熱硬化性樹脂のワニス」の実施例として引用文献2に具体的に記載されているものは、「樹脂分60質量%の均一なワニス」であり、少なくとも「樹脂分」以外の40質量%は希釈溶剤(メチルエチルケトン)であるから、上記相違点4’の構成を備えるものではない。また、希釈溶剤で希釈する前の「相溶化樹脂(A-2)の溶液」について念のため検討しても、反応容器に投入された樹脂原料(合計1000.0g)と溶媒(トルエン)(1000.0g)の仕込み量比を参酌すると、反応終了後に得られる「相溶化樹脂(A-2)の溶液」も、概ね50質量%程度のトルエン(揮発性成分)を含有するものと解されるから、上記相違点4’の構成を備えるものとはいえない。さらに、引用文献2には、上記「熱硬化性樹脂のワニス」及び「相溶化樹脂(A-2)の溶液」に含まれる溶媒量を1質量%以下に低減することは、記載も示唆もされていない。加えて、引用文献2の[0061]には、当該「反応溶液を、メタノールとベンゼンの混合溶媒(混合重量比1:1)に滴下して再沈殿させることにより、精製された固形分を取り出し」たことが記載されているから、仮に、上記「ワニス」や「反応溶液」に含まれる溶媒量を1質量%低減した場合には、熱硬化性樹脂組成物は固体状になり、本件発明2の「液状」の要件を満たさないものとなる蓋然性が高い。そうすると、室温において液状のシアネートエステル樹脂が本件出願前に周知の技術的事項であること(引用文献5の摘記5-1?5-4、引用文献9の摘記9-5)、及び本件明細書の[0010]に記載された「液状」の範囲(「測定温度60℃での粘度が、100Pa・s以下であることが好適である。」)が、周知の技術的事項(引用文献10の摘記10-1)を参酌すると、60℃で「ハンドクリーム」以下の粘度であることを意味すると解されることを勘案しても、引用発明2において相違点4’の構成を採用することが当業者にとって容易であるとはいえない。
よって、上記相違点4’は実質的な相違点であり、また、引用発明2において相違点4’に係る構成を採用することが、当業者にとって容易に想到し得ることであるともいえない。

(ウ)小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は引用文献2に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、また、本件発明1は、引用文献2に記載された発明及び周知の技術的事項(引用文献5、9)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものでもない。

イ 本件発明2について
本件発明1を引用して記載されている本件発明2についても、本件発明1と同様である。
よって、本件発明2は引用文献2に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、また、本件発明2は引用文献2に記載された発明及び周知の技術的事項(引用文献5、9)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものでもない。

(5)理由I(新規性)(引用文献4を主引例とする場合)について
ア 本件発明1について
本件発明1と引用発明4aとを対比すると、上記5.(6)ア(ア)「本件発明1と引用発明4aとの対比」に記載したとおりであり、両者は相違点1”?4”の点で相違する。そして、上記5.(6)ア(イ)「相違点4”について」に記載したとおり、相違点4”は実質的な相違点である。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は引用文献4に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。

イ 本件発明2、4、5について
本件発明1を直接又は間接的に引用文献して記載されている本件発明2、4、5についても、本件発明1と同様である。
よって、本件発明2、4、5は、いずれも引用文献4に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。

(6)取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由についてのまとめ
以上のとおり、取消理由通知(決定の予告)において採用しなかったいずれの特許異議申立理由によっても、本件請求項1、2、4、5に係る特許を取り消すことはできない。

8.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、2、4、5に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1、2、4、5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件請求項3に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項3に対して特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアネートエステル樹脂とエポキシ樹脂とを含む液状の硬化性樹脂組成物であって、
該液状硬化性樹脂組成物に含まれるシアネートエステル樹脂は、2官能以上の多官能化合物であるフェノールノボラック型シアネートエステル樹脂であり、かつ重量平均分子量が400?600であり、その形状は、25℃で液状であるか、又は、80℃以下の融点若しくは軟化点を有する固体状であり、
該エポキシ樹脂は、エポキシ基及び/又はグリシジル基を、1分子中に3個以上含む多官能化合物であって、
該液状硬化性樹脂組成物は、更に硬化促進剤としてホスホニウム塩を含み、
揮発成分の含有量は、液状硬化性樹脂組成物100質量%中に1質量%以下であることを特徴とする液状硬化性樹脂組成物(ただし、アミン系硬化剤を含むものを除く。)。
【請求項2】
前記シアネートエステル樹脂及びエポキシ樹脂の含有量は、これらの総量を100質量%とすると、シアネートエステル樹脂が50?95質量%、エポキシ樹脂が5?50質量%であることを特徴とする請求項1に記載の液状硬化性樹脂組成物。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
請求項1又は2に記載の液状硬化性樹脂組成物を用いてなることを特徴とする液状封止材。
【請求項5】
請求項4に記載の液状封止材を用いてなることを特徴とする半導体装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-11-02 
出願番号 特願2012-227198(P2012-227198)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (C08G)
P 1 651・ 121- YAA (C08G)
P 1 651・ 537- YAA (C08G)
P 1 651・ 113- YAA (C08G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤井 明子  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 蔵野 雅昭
天野 宏樹
登録日 2017-03-31 
登録番号 特許第6116852号(P6116852)
権利者 株式会社日本触媒
発明の名称 液状硬化性樹脂組成物及びその用途  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  
代理人 特許業務法人安富国際特許事務所  

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