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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08L 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08L |
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管理番号 | 1347642 |
異議申立番号 | 異議2017-700791 |
総通号数 | 230 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-02-22 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-08-14 |
確定日 | 2018-11-08 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6092986号発明「ゴム組成物及びタイヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6092986号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第6092986号の請求項1-3に係る特許を取り消す。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第6092986号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成26年11月27日(優先権主張 平成25年11月27日)を国際出願日とする日本語出願(特願2015-539986号)の一部を、平成27年11月5日に新たな特許出願としたものであって、平成29年2月17日にその特許権の設定登録がされ、同年3月8日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対して、同年8月14日に特許異議申立人 渡辺広基(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 その後の経緯は以下のとおりである。 平成29年11月30日付け 取消理由通知 平成30年2月5日付け 意見書及び訂正請求書の提出 平成30年5月16日付け 取消理由通知(決定の予告) 平成30年7月23日付け 意見書及び訂正請求書の提出 なお、平成30年2月5日付けで提出された訂正請求書による訂正の請求及び、同年7月23日付けで提出された訂正請求書による訂正の請求に関し、申立人に対して特許法第120条5第5項に基く通知をしたところ、いずれについても、その指定期間内に申立人から意見書が提出されなかった。 第2 訂正の適否 平成30年7月23日付けの訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の適否について検討する。 なお、同年2月5日付けの訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 1 訂正の内容 本件訂正請求の趣旨は、特許第6092986号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし3について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりのものである。 (訂正事項1) 特許請求の範囲の請求項1に、 「天然ゴムを70質量%以上含むゴム成分(A)を配合してなり、ゴム成分100質量部に対して、C_(5)系樹脂、C_(5)?C_(9)系樹脂、C_(9)系樹脂、テルペン系樹脂、テルペン-芳香族化合物系樹脂、ロジン系樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、及びアルキルフェノール系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂(B)を5?50質量部、並びにシリカ及びカーボンブラックを含む充填剤(C)を20?120質量部配合してなり、前記充填剤(C)中のシリカの含有量が90質量%以上である、ことを特徴とするゴム組成物。」 と記載されているのを、 「天然ゴムを70質量%以上含むゴム成分(A)(エポキシ化天然ゴムを含むゴム成分を除く)を配合してなり、ゴム成分100質量部に対して、C_(5)系樹脂、C_(5)?C_(9)系樹脂、C_(9)系樹脂、ロジン系樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、及びアルキルフェノール系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂(B)を5?30質量部、並びにシリカ及びカーボンブラックを含む充填剤(C)を20?120質量部配合してなり、前記充填剤(C)中のシリカの含有量が90質量%以上100質量%未満であり、軟化剤(D)が配合されていない、ことを特徴とするゴム組成物。」と訂正する。(下線は訂正箇所を示す。) 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び一群の請求項 (1)訂正事項1のうち「(エポキシ化天然ゴムを含むゴム成分を除く)」との事項を追加する訂正(以下、「訂正事項1-1」という。)について 訂正事項1-1は、訂正前の請求項1の「天然ゴムを70質量%以上含むゴム成分(A)」という事項から、「エポキシ化天然ゴムを含むゴム成分」を除くものであり、請求項1の「天然ゴムを70質量%以上含むゴム成分(A)」を減縮するものであるから、当該訂正事項1-1は、特許法第120条の5第2項だたし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そして、かかる訂正事項1-1は、申立人が提示した甲第2号証に記載の、「エポキシ化天然ゴム」を含むゴム成分を除くものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって新たな技術的事項を導入するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項1のうち、熱可塑性樹脂(B)を、「C_(5)系樹脂、C_(5)?C_(9)系樹脂、C_(9)系樹脂、ロジン系樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、及びアルキルフェノール系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種」とする訂正(以下、「訂正事項1-2」という。)について 訂正事項1-2は、訂正前の請求項1に記載の発明では、熱可塑性樹脂(B)として、「C_(5)系樹脂、C_(5)?C_(9)系樹脂、C_(9)系樹脂、テルペン系樹脂、テルペン-芳香族化合物系樹脂、ロジン系樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、及びアルキルフェノール系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種」と特定していたのに対して、訂正後の請求項1に記載の発明では、訂正前の請求項1において選択肢として択一的に記載されていたものの中から「テルペン系樹脂」及び「テルペン-芳香族化合物系樹脂」を削除することにより、熱可塑性樹脂(B)を限定し、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、当該訂正事項1-2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、かかる訂正事項1-2は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)訂正事項1のうち、熱可塑性樹脂(B)の配合量を「5?30質量部」とする訂正(以下、「訂正事項1-3」という。」)について 訂正事項1-3は、熱可塑性樹脂(B)の配合量について、訂正前の「5?50質量部」との数値範囲の上限値を引き下げ、「5?30質量部」とするものであるから、当該訂正事項1-3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、係る訂正事項1-3について、明細書の【0025】には、「上記の熱可塑性樹脂(B)は、ゴム成分(A)100質量部に対して5?50質量部、好ましくは10?30質量部配合される。」と記載されているから、当該訂正事項は新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (4)訂正事項1のうち、充填剤(C)中のシリカの含有量を「90質量%以上100質量%未満」とする訂正(以下、「訂正事項1-4」という。)について 訂正事項1-4は、訂正前の請求項1に記載の発明では、充填剤(C)中のシリカの含有量として、「90質量%以上」と特定していたのに対して、訂正後の請求項1に記載の発明では、当該範囲を「90質量%以上100質量%未満」とすることにより、充填剤(C)中のシリカの含有量を限定し、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、当該訂正事項1-4について、明細書の【0026】には、「充填剤(C)中には、シリカが50?100質量部、好ましくは80?100質量部、更に好ましくは90?100質量部含まれる。」と記載されており、【0029】には、「充填剤(C)としては、シリカの他に、カーボンブラック・・・当を適宜配合することができる。」と記載されていることから、当該「100質量%未満」との上限値を設定することは、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (5)訂正事項1のうち、「り、軟化剤(D)が配合されていない」という事項を追加する訂正(以下、「訂正事項1-5」という。)について 訂正事項1-5は、訂正前の「ゴム組成物」について、「軟化剤(D)」が配合されないことを追加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、係る訂正事項1-5について、明細書の【0032】には、「本発明のゴム組成物は、更に軟化剤(D)を配合することができる。・・・ただし、湿潤路面における制動性能の観点から、本発明のゴム組成物には、軟化剤(D)を配合しないことが特に好ましい。」と記載されているから、軟化剤(D)が配合されないことを追加することは、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (6)一群の請求項 訂正前の請求項2及び3は、訂正前の請求項1を引用しており、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、請求項1ないし3は一群の請求項である。 したがって、訂正事項1は、一群の請求項ごとにされている。 (7)独立特許要件について 特許異議の申立ては、本件特許の全ての請求項について申し立てられているので、訂正後の請求項1ないし3に係る発明については、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。 3 小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、本件訂正請求は適法なものであり、訂正後の請求項1ないし3について訂正することを認める。 第3 本件特許に係る発明 上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は許容されるので、本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明3」という。)は、平成30年7月23日付けの訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 天然ゴムを70質量%以上含むゴム成分(A)(エポキシ化天然ゴムを含むゴム成分を除く)を配合してなり、ゴム成分100質量部に対して、C_(5)系樹脂、C_(5)?C_(9)系樹脂、C_(9)系樹脂、ロジン系樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、及びアルキルフェノール系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂(B)を5?30質量部、並びにシリカ及びカーボンブラックを含む充填剤(C)を20?120質量部配合してなり、前記充填剤(C)中のシリカの含有量が90%以上100質量%未満であり、軟化剤(D)が配合されていない、ことを特徴とするゴム組成物。 【請求項2】 前記ゴム成分(A)中にスチレン-ブタジエン共重合体ゴムが10?30質量%含まれる、請求項1記載のゴム組成物。 【請求項3】 請求項1または2に記載のゴム組成物をトレッドゴムに用いたことを特徴とするタイヤ。」 第4 取消理由(決定の予告)の概要 当審が、取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由の概要は以下の取消理由1に示すとおりである。 1 取消理由1 本件発明1ないし3は、取消理由で通知した甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであって、同法第113号第2項に該当し、それらの特許は取り消すべきものである。 甲第2号証:特開2006-63093号公報 (異議申立人が提出した甲第2号証、以下、「甲2」という。) 第5 合議体の判断 1 甲2刊行物に記載された事項と甲2に記載された発明 (1)甲2に記載された事項 甲2には、以下の事項が記載されている。 ア 「【請求項1】 天然ゴムおよび/またはエポキシ化天然ゴムを80重量%以上含むゴム成分100重量部に対して、8重量部以上のレジン、および白色充填剤80重量%以上からなる充填剤を含有するトレッド用ゴム組成物。」 イ 「【0015】 ゴム成分としては、天然ゴムおよびエポキシ化天然ゴム以外にもスチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、イソブチレンとp-メチルスチレンとの共重合体のハロゲン化物などのゴムを用いることができるが、石油外資源から得られることから、天然ゴムおよびエポキシ化天然ゴムからなることが好ましい。 【0016】 本発明のトレッド用ゴム組成物に使用される充填剤としては、シリカ、炭酸カルシウム、セリサイト、カーボンブラック、水酸化アルミニウム、クレーなどが挙げられる。本発明のトレッド用ゴム組成物としては、シリカ、炭酸カルシウム、セリサイトなどの白色充填剤を用いることが好ましい。これらの白色充填剤を用いることで、カーボンブラックなどの充填剤の場合と異なり、転がり抵抗が低減し、石油外資源の比率が上昇するという効果が得られる。 【0017】 充填剤中の白色充填剤の含有率は80重量%以上、好ましくは90重量%以上である。含有率が80重量%未満では、石油外資源の比率が低下し、好ましくない。白色充填剤の含有率は100重量%であることが好ましい。」 ウ 「【0022】 レジンとしては、芳香族系石油樹脂(C9留分による樹脂)、クマロンインデン樹脂(石炭クマロンインデン樹脂など)、テルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂(天然芳香族テルペンなど)、ロジン樹脂、フェノール系樹脂、石油系レジン(C5留分による樹脂)などがあげられる。なかでも、天然芳香族テルペン、石炭クマロンインデン樹脂などの石油以外の天然資源をもとに得られる(天然由来の)レジンが好ましい。」 エ 「【0024】 レジンの含有量は、ゴム成分100重量部に対して8重量部以上、好ましくは10重量部以上である。含有量が8重量部未満では、グリップ性能の改善効果が小さくなる。また、含有量は50重量部以下、好ましくは35重量部以下である。含有量が50重量部をこえると、硬度が増大する。」) オ 「【0033】 以下に実施例において使用した各種薬品を詳細に説明する。 NR:RSS#1 SBR:日本ゼオン(株)製のNipol 1502 ENR-25:GATHRIE POLYMER SDN. BHD社製のエポキシ化天然ゴム(エポキシ化率:25モル%) カーボンブラック:昭和キャボット(株)製のショウブラックN220 シリカ:テグッサ社製のウルトラシル VN3(BET比表面積:175m^(2)/g) シランカップリング剤:テグッサ社製のSi-69 アロマチックオイル:(株)ジャパンエナジー製のプロセスX-140 ミネラルオイル:出光興産(株)製のダイアナプロセスPA32 植物油:日清製油(株)製の精製パーム油J(S) 石油系レジン:新日本石油化学(株)製のネオポリマー140(軟化点:140℃) 天然芳香族テルペン:ヤスハラケミカル(株)製のTO115(軟化点:115℃) 石炭クマロンインデン樹脂:新日鐵化学(株)製のエスクロンG90(軟化点:90℃) ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックワックス 老化防止剤:精工化学(株)製のオゾノン6C ステアリン酸:日本油脂(株)製のステアリン酸 酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種 硫黄:軽井沢硫黄(株)製の粉末硫黄 加硫促進剤TBBS:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS 加硫促進剤DPG:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD 【0034】 これら薬品のうち石油外資源は、NR、ENR、シリカ、硫黄、シランカップリング剤、植物油、天然芳香族テルペン、石炭クマロンインデン樹脂、ステアリン酸、酸化亜鉛である。 【0035】 実施例1?10および比較例1?4 表1に記載する硫黄および加硫促進剤以外の各種薬品を(株)神戸製鋼所製の1.7Lバンバリーに充填し、77rpmで145℃に到達するまで混練した。 【0036】 得られた混練物に対して、硫黄および加硫促進剤を表1に示す量配合し、オープンロールで80℃で6分間混練し、未加硫物を得た。 【0037】 前記未加硫物をタイヤ成型機上でトレッド形状に成形し、他のタイヤ部材と貼りあわせて未加硫タイヤを作製した。それを160℃で20分間加硫することにより、タイヤを製造した。得られたタイヤを使用して、以下の試験をおこなった。 【0038】 (制動テスト) 得られたタイヤを車に装着し、ドライアスファルト路面およびウェットアスファルト路面において、時速100kmからの制動停止距離を測定し、その測定値から、摩擦係数μを求めた。比較例1のμを100として指数表示した。指数が大きいほど性能は良好である。 【0039】 結果を表1に示す。なお、表1のアセトン抽出分とは、ゴム組成物中におけるアセトン抽出分(石油系レジン、天然芳香族テルペン、石炭クマロンインデン樹脂、ワックスおよび老化防止剤)の含有率を示し、石油外比率とは、ゴム組成物中における石油外資源の含有率を示す。 【0040】 【表1】 」 (2)甲2に記載された発明 甲2の摘記事項アないしオから、甲2には、以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているといえる。 「天然ゴムおよび/またはエポキシ化天然ゴムを80重量%以上含むゴム成分100重量部に対して、10?35重量部のレジンとして、芳香族系石油樹脂(C9留分による樹脂)、クマロンインデン樹脂(石炭クマロンインデン樹脂など)、テルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂(天然芳香族テルペンなど)、ロジン樹脂、フェノール系樹脂、石油系レジン(C5留分による樹脂)、および白色充填剤としてのシリカ90重量%以上からなる75?85重量部の充填剤を含有するトレッド用ゴム組成物。」 2 対比・判断 (1) 本件発明1について ア 対比 甲2発明の「天然ゴムおよび/またはエポキシ化天然ゴムを80重量%以上含むゴム成分」と、本件発明1の「天然ゴムを70質量%以上含むゴム成分(A)(エポキシ化天然ゴムを含むゴム成分を除く)」とは、「天然ゴムを80重量%以上含むゴム成分」の限りで重複する。 甲2発明の、「レジンとして、芳香族系石油樹脂(C9留分による樹脂)、クマロンインデン樹脂(石炭クマロンインデン樹脂など)、テルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂(天然芳香族テルペンなど)、ロジン樹脂、フェノール系樹脂、石油系レジン(C5留分による樹脂)」は、本件発明1の、「C_(5)系樹脂、C_(5)?C_(9)系樹脂、C_(9)系樹脂、ロジン系樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、及びアルキルフェノール系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂(B)」に相当しする。 甲2発明の、「白色充填剤としてのシリカ90重量%以上からなる」「充填剤」は、本件発明1の「シリカ」を含む「充填剤(C)」であって、「シリカの含有量が90質量%である」「充填剤」に、カーボンブラックを含まない点を除いて相当し、甲2発明における充填剤の「樹脂100重量部に対して」「75?85重量部」との配合量は、本件発明1の、「充填剤(C)」の「ゴム成分100質量部に対して」「20?120質量部」との配合量と重複する。 甲2発明の、「トレッド用ゴム組成物」は、本件発明1の「ゴム組成物」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲2発明とは、 「天然ゴムを70質量%以上含むゴム成分(A)を配合してなり、ゴム成分100質量部に対して、C_(5)系樹脂、C_(5)?C_(9)系樹脂、C_(9)系樹脂、ロジン系樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、及びアルキルフェノール系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂(B)を5?30質量部、シリカを含む充填剤(C)を20?120質量部配合してなり、前記充填剤(C)中のシリカの含有量が90質量%以上であるゴム組成物。」 である点で一致し、以下の相違点で相違する。 <相違点1> 充填剤(C)について、本件発明1では、シリカと共に「カーボンブラックを含む」のに対し、甲2発明では、この点について特定されていない点。 <相違点2> 充填剤(C)におけるシリカの割合の上限値について、本件発明1では、「100質量%未満である」と特定されているのに対し、甲2発明では、上限値が特定されていない点 <相違点3> ゴム成分(A)について、 本件発明1では、「エポキシ化天然ゴムを含むゴム成分を除く」と特定されているのに対して、甲2発明ではこの点についての特定がない点。 <相違点4> 熱可塑性樹脂(B)の含有量について、本件発明1では、ゴム成分100質量部に対して、「5?30質量部」であるのに対して、甲2発明では、ゴム成分100重量部に対して、「10?35重量部」である点。 <相違点5> ゴム組成物について、本件発明1では、「軟化剤を含まない」と特定されているのに対して、甲2発明ではこの点についての特定がない点。 イ 判断 上記<相違点1>ないし<相違点5>について検討する。 <相違点1>及び<相違点2>について 甲2の段落【0016】には、「本発明のトレッド用ゴム組成物に使用される充填剤としては、シリカ、炭酸カルシウム、セリサイト、カーボンブラック、水酸化アルミニウム、クレーなどが挙げられる。」と記載されている。そして、甲2の実施例10では、配合割合は本件発明1の範囲内ではないものの、シリカと併用してカーボンブラックが用いられている。 また、カーボンブラックはタイヤトレッドゴム用に用いられる普通の充填剤であり、カーボンブラックとシリカを併用して使用することも通常行われている周知技術である(要すれば、服部六郎「タイヤの話」昭和63年11月30日株式会社 大成社、p.118?119の「8.4.2 カーボンブラック」の項、及び、株式会社 ブリヂストン「自動車用タイヤの基礎と実際」2008年4月10日、東京電機大学出版局、p.266、2?4行、p.284下から8行?下から3行、p.285表5-1-11)。 これらの事項に鑑みれば、甲2発明において、白色充填剤としてのシリカ90重量%以上からなる充填剤の一部として、カーボンブラックを配合してみる程度のことは、当業者が容易になし得ることである。そして、その具体的な配合割合についても、シリカ90重量%以上とされていることから、残りの10重量%未満の量でカーボンブラックを配合するとし、充填剤(C)におけるシリカの割合の上限値を100質量%未満とすることは、当業者が適宜設定し得る程度の事項にすぎない。 確かに、甲2の【0016】には、「本発明のトレッド用ゴム組成物としては、シリカ、炭酸カルシウム、セリサイトなどの白色充填剤を用いることが好ましい。これらの白色充填剤を用いることで、カーボンブラックなどの充填剤の場合と異なり、転がり抵抗が低減し、石油外資源の比率が上昇するという効果が得られる。」と記載され、【0017】には、「充填剤中の白色充填剤の含有率は、80重量%以上、好ましくは90重量%以上である。含有率が80重量%未満では、石油外資源の比率が低下し、好ましくない。白色充填剤の含有率は100重量%であることが好ましい。」と記載されている。しかし、これらの記載は、白色充填剤が好ましいことをいうに止まり、その他の代表的な充填剤であるカーボンブラックを何ら排除するものではない。のみならず、上記したように、カーボンブラックはタイヤトレッドゴム用に用いられる普通の充填剤であり、カーボンブラックとシリカを併用して使用することも通常行われている周知技術であることに照せば、充填剤におけるシリカ90重量%以上との規定の範囲内で、転がり抵抗や石油外資源の比率を考慮し、シリカとカーボンブラックを併用することは当業者に格別困難な事項であるとはいえない。 ここで、上記<相違点1>及び<相違点2>に係る事項により奏される効果について検討する。 本件特許明細書には、シリカとともにカーボンブラックを使用すること、及び、シリカの含有量の上限値を100質量%未満とすることによる効果については何ら記載がない。 平成30年2月5日に提出された意見書に記載された実験データ(追加実施例1ないし4、追加比較例1ないし5)と、本件特許明細書の実施例7、12ないし14を対比すると、充填剤中のシリカの含有率が90質量%以上100質量%未満である場合において、カーボンブラックを併用することで、乾燥路面での制動性能が若干向上することがみてとれる。 しかしながら、当該効果は、実施例7、12ないし14及び追加実施例1ないし4の特定の組成物について確認されるのみであり、例えば、シリカが99.9質量%とカーボンブラックが0.1質量%の配合割合の場合においては、追加比較例1ないし4に近い結果となると解されるのが自然であって、このような場合にも上記効果が奏されるとする根拠はない。 してみると、上記乾燥路面での制動性能が若干向上するという効果が、本件請求項1全体にわたって奏される効果であるとすることはできない。 したがって、上記<相違点1>及び<相違点2>に係る事項により、甲2発明から予測をすることのできない格別の効果が奏されるということはできない。 <相違点3>について 甲2発明には、「天然ゴムおよび/またはエポキシ化天然ゴムを80重量%以上含むゴム成分」とあり、これによれば、「ゴム成分」は、「天然ゴム」と「エポキシ化天然ゴム」のどちらか一方のみを含んでもよいし、両者を含んでもよいものといえる。 また、甲2には、エポキシ化天然ゴムを含まない組成物も、実施例として具体的に記載されている(記載事項(オ)の表1)。 そうであれば、甲2発明は、エポキシ化天然ゴムを含まない態様も包含するといえる。 してみると、相違点3は、実質的な相違点ではない。 また、上記<相違点3>に係る事項により奏される効果を検討するに、本件発明1が、「エポキシ化天然ゴムを含むゴム成分を除く」としたことにより、甲2発明から予測をすることのできない格別の効果を奏するということはできない。 <相違点4> について ゴム成分100質量部に対して、「5?30質量部」との数値範囲と、ゴム成分100重量部に対して、「10?35重量部」との数値範囲とは、「10?30質(重)量部」の範囲で重複しており、相違点4は実質的な相違点ではない。 また、もし仮に、本件発明1と甲2発明とが、<相違点4>において相違していたとしても、甲2発明において、レジンの配合量を、ゴム成分100重量部に対して「10?35重量部」の範囲内で適宜調整することは当業者が容易になし得る事項である。 ここで、<相違点4>に係る事項により奏される効果を検討する。 本件特許明細書の【0025】には、「熱可塑性樹脂(B)の配合量が5質量部未満であると、湿潤路面での制動性能が十分に発揮されにくく、一方、50質量部超であると、所望の耐摩耗性や破壊特性が得られにくくなるおそれがある。」と記載されている。 また、実施例2と実施例3を対比すると、実施例2は実施例3に比して乾燥路面の制動性能に優れるといえなくもない。 しかしながら、甲2発明におけるレジンの配合量は最大でもゴム成分100重量部に対して35重量部であり、上記所望の耐摩耗性や破壊特性が得られにくくなるおそれがある、「50質量部超」との値や、実施例3における、ゴム成分100質量部に対して「45質量部」との値は、当該最大値に比して多量であることに鑑みれば、上記【0025】の記載や実施例2と実施例3の比較をもって、本件発明1が甲2発明から予測をすることのできない格別の効果を奏するということはできない。 よって、上記<相違点4>に係る事項により、本件発明1が、甲2発明から予測をすることのできない格別の効果を奏するということはできない。 <相違点5>について 甲2発明は、「軟化剤」を必須成分とするものではない。そして、軟化剤を含まない組成物も、実施例として具体的に記載されている(記載事項(オ)の表1)ことから、甲2発明は、軟化剤を含まない態様も包含するといえる。 してみると、相違点4は、実質的な相違点ではない。 また、もし仮に、本件発明1と甲2発明とが、<相違点5>において相違していたとしても、当該<相違点5>に係る事項は、以下の理由により、当業者が容易に想到し得るものである。 すなわち、ゴム組成物等のプラスチック組成物において、各種添加剤をその目的に応じて配合することは周知であり(要すれば、「便覧 ゴム・プラスチック配合薬品」、株式会社ポリマーダイジェスト、2003年12月2日、p.63、67、91、107、125、143、177、318、393、405には、各種添加剤の添加について記載されている)、各種添加剤の添加がその目的には合致するとしても当該添加剤を配合することにより目的以外の事項でマイナス面が存在することも周知である(例えば、前出の「便覧 ゴム・プラスチック配合薬品」のp.177には、各種添加剤の一つとして、ゴムの加工を容易にするための「軟化剤」が記載され、ある種の軟化剤は、これを配合することで、脆化温度が高いので低温用製品の場合には問題があり、また、加硫に影響を及ぼす懸念があることが記載されている)。 してみれば、軟化剤が必須成分ではない甲2発明の「ゴム組成物」において、ゴムの加工を容易にする必要がない場合には、配合する悪影響を回避するために、軟化剤を配合しないようにすることは当業者が容易に想到し得ることである。 ここで、<相違点5>に係る事項により奏される効果を検討する。 本件特許明細書の【0032】には、「ただし、湿潤路面における制動性能の観点から、本発明のゴム組成物には、軟化剤(D)を配合しないことが特に好ましい。」と記載されているものの、その作用機序については一切の記載がなく、当該作用機序が本件特許出願時の技術常識であるともいえない。 本件特許明細書の、実施例7と、実施例11、15、16とを対比すると、軟化剤を配合しないゴム組成物(実施例7)は、軟化剤を配合するゴム組成物(実施例11、15、16)に比して鉄板湿潤路面の制動性能が高いことがみてとれるが、当該効果は、実施例に記載された特定の組成を有するゴム組成物において奏されることが確認できるにすぎず、当該効果がこれら特定の組成を有するもの以外のものであっても奏されるということの根拠は何ら見いだせない。 してみると、上記湿潤路面における制動性能が向上するという効果が、本件請求項1全体にわたって奏される効果であるとすることはできない。 したがって、上記<相違点5>に係る事項により、甲2発明から予測をすることのできない格別の効果が奏されるということはできない。 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲2発明及び周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2)本件発明2について 本件発明2における特定事項である「ゴム成分(A)中にスチレン-ブタジエン共重合体ゴムが10?30質量%含まれる」ことについては、甲2の段落【0015】(記載事項イ)に記載されているから、甲2に記載された発明との関係において、本件発明1との対比で述べた、相違点以外の新たな相違点は存在しない。 仮に、この点において本件発明2と甲2発明が相違するとしても、甲2発明において、甲2の【0015】の記載に基いて、さらにスチレンブタジエンゴムを配合することは、当業者であれば適宜なし得ることと認められ、その量範囲をゴム成分中10?30重量%とすることは当業者が適宜なし得たことにすぎない。 したがって、本件発明2は、本件発明1で述べたのと同じ理由により、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 (3)本件発明3について 本件発明3における特定事項である「請求項1または2に記載のゴム組成物をトレッドゴムに用いたことを特徴とするタイヤ。」については、甲2発明が「トレッド用ゴム組成物」に係るものであって、これをトレッドゴムとしたタイヤとすることは自明であるから、甲2に記載された発明との関係において、本件発明1との対比で述べた、相違点以外の新たな相違点は存在しない。 仮に、この点において本件発明3と甲2発明が相違するとしても、甲2発明において、当該トレッド用ゴム組成物をタイヤのトレッドゴムに使用することは、当業者であれば容易になし得たことと認められる。 したがって、本件発明3は、本件発明1で述べたのと同じ理由により、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 第6 特許権者の主張について 1 特許権者は、平成30年2月5日付けの意見書において、以下の主張をする。 ア カーボンブラックの併用について 甲2の段落【0016】には、「本発明のトレッド用ゴム組成物としては、シリカ、炭酸カルシウム、セリサイトなどの白色充填剤を用いることが好ましい。」との記載や、「これらの白色充填剤を用いることで、カーボンブラックなどの充填剤の場合と異なり、転がり抵抗が低減し、石油外資源の比率が上昇するという効果が得られる。」との記載があり、さらに、段落【0017】には、「白色充填剤の含有量は100重量%であることが好ましい。」との記載もされている。 そもそも、甲2発明は、スチレン-ブタジエンゴムやカーボンブラックなどの石油資源からなる原材料に代えて、天然ゴムやシリカ、炭酸カルシウム等の白色充填剤のような石油外資源を使用することを課題とする発明であるから、充填剤として、カーボンブラックよりも、シリカなどの石油外資源である白色充填剤が当然に選択されるものである。 そして、甲2の表1ではカーボンブラックを併用した例(実施例10)があるものの、充填剤中のシリカの含有量が90%未満であり、制動テストにおけるDRYμ及びWETμの評価結果も良好ではないことから、甲2発明においてカーボンブラックの併用は、「ウェット路面およびドライ路面において充分な走行性能を示すタイヤのトレッド用ゴム組成物を提供する」という甲2の課題の解決を阻害するものである(以下、「主張1」という)。 イ 実験データにで示されるデータについて 本件特許明細書の実施例7、12ないし14と、追加実施例1ないし4、追加比較例1ないし5の対比により、本件発明1の構成により、乾燥路面での制動性能と鉄板湿潤路面での制動性能とを両立できる(以下、「主張2」という。) 2 特許権者は、平成30年7月23日付けの意見書において、以下の主張をする。 ウ エポキシ化天然ゴムについて 甲2の、段落【0013】には、エポキシ化天然ゴムについて、「エポキシ化天然ゴムのエポキシ化率の平均は12モル%以上であることが好ましく、15モル%以上であることがより好ましい。エポキシ化率の平均が12モル%未満では、ウェットおよびドライ路面における摩擦係数が低くなる傾向がある。」と記載されおり、ここで、甲2発明における天然ゴムは、エポキシ化率が0モル%の場合に相当するため、甲2は、天然ゴムよりもエポキシ化天然ゴムが好ましく、中でも、エポキシ化率の平均が12モル%以上のエポキシ化天然ゴムが更に好ましいことを教示している(以下、「主張3」という)。 エ レジン、軟化剤の含有量について 甲2の、段落【0021】には、「アセトン抽出分をある程度以上使用することで、グリップ特性を向上することができる」と、段落【0024】には、レジンの含有量に関して、「含有量が8重量%未満では、グリップ性能の改善効果が小さくなる」と、段落【0027】には、アセトン抽出分の含有率に関して、「含有率が8重量%未満では、ドライ路面およびウェット路面における走行性能が不十分となる傾向がある」と記載されており、ここで、アセトン抽出分について、甲2の段落【0021】には、一般的にゴムの加工性を向上させるため、あるいはグリップ性能をさらに発揮させるために、ミネラルオイルや石油材料であるアロマチックオイル、パラフィンオイルなどの可塑剤を使用する。また、ゴム工業において通常使用される老化防止剤およびワックスの量を増量することでゴムを可塑化し、グリップ性能を向上することができる。可塑剤、老化防止剤およびワックスは、アセトン溶媒で抽出されるため、アセトン抽出分とされる。アセトン抽出分をある程度以上使用することで、グリップ特性を向上することができる。さらにアセトン抽出分としてガラス転移点を向上させることができるレジンを使用することで、大幅にドライ路面における走行性能を改善することができる。」と記載されており、また、段落【0025】には、本発明のトレッド用ゴム組成物は、レジン以外の可塑剤としてアロマチックオイルやミネラルオイルなどの軟化剤を用いることができる。」と記載されている。これらの記載から、甲2は、甲2の課題であるウェット路面およびドライ路面における走行性能の観点からは・・・アセトン抽出分に包含される、レジンの量を多くしたり、或いは、レジン以外の可塑剤として教示されているアロマチックオイルやミネラルオイルなどの軟化剤を配合すること教示しているといえる(以下、「主張4」という)。 オ ゴム組成物全体の組成について 甲2の実施例をみるに、甲2には、ゴム成分が、エポキシ化天然ゴムを含まない場合、熱可塑性樹脂(B)の配合量が30質量部以下である場合、軟化剤(D)を配合しない場合について、それぞれ記載はあるが、これらが、相互の関係なく自由に選択できるものではなく、エポキシ化天然ゴムも軟化剤も含まない場合は、レジンの配合量を30重量部を超えて多くする必要があることを、エポキシ化天然ゴムを含まず、レジンの配合量が少ない場合は、軟化剤を配合する必要があることを、軟化剤を含まず、レジンの配合量が少ない場合は、エポキシ化天然ゴムを配合する必要があることを、併せて教示する(以下、「主張5」という)。 カ 本件発明が奏する効果について 本件発明1によれば、本件特許明細書に開示の実施例2と実施例3との対比から分かるように、熱可塑性樹脂(B)の配合量を30質量部以下とすることで、乾燥路面の制動性能が向上する効果が奏され、本件発明1によれば、本件特許明細書に開示の、軟化剤を含まない実施例7と、軟化剤を僅かに含む実施例11、実施例15、実施例16との対比から分かるように、軟化剤(D)を配合しないことで、鉄板湿潤路面での制動性能が向上する効果が奏され、かかる本件発明1によって奏される効果は、当業者といえども、甲2からは予測できない(以下、「主張6」という)。 3 特許権者の主張に対する反論 ア 主張1について 上記第5 2(1)イの、<相違点1>及び<相違点2>の検討で述べたとおり、甲2の、【0016】及び【0017】は、白色充填剤が好ましいことをいうに止まり、その他の代表的な充填剤であるカーボンブラックを何ら排除するものではない。 そして、充填剤におけるシリカ90重量%以上との規定の範囲内で、転がり抵抗や石油外資源の比率、及び、カーボンブラックとシリカを併用するという周知技術を考慮し、シリカとカーボンブラックを併用したことが当業者に格別困難であったとはいえないことも上記第5 2(1)イの<相違点1>及び<相違点2>の検討で述べたとおりである。 また、甲2発明が、充填剤として、カーボンブラックを全く使用しないもののみを意図しているとの根拠はなんら存在しない。 さらに、確かに、甲2の実施例10では、制動テストにおけるDRYμ及びWETμの評価結果も良好ではないが、当該実施例10における、充填剤中のシリカの含有量は「90重量%以上」ではない。 以上のとおりであるから、甲2発明におけるカーボンブラックの併用は、「ウェット路面およびドライ路面において充分な走行性能を示すタイヤのトレッド用ゴム組成物を提供する」という甲2の課題の解決を阻害するものであるとまではいえない。 よって、特許権者の主張1は採用できない。 イ 主張2について 本件特許明細書の実施例7、12ないし14と、追加実施例1ないし4及び追加比較例1ないし4を対比すると、充填剤中のシリカの含有率が90質量%以上100質量%未満である場合において、カーボンブラックを併用することで、乾燥路面での制動性能が若干向上することがみてとれるものの、当該効果は、実施例7、12ないし14及び追加実施例1ないし4の特定の組成物について確認されるのみであり、例えば、シリカが99.9質量%とカーボンブラックが0.1質量%の配合割合の場合にも上記効果が奏されるとする根拠はなく、上記効果が、本件請求項1全体にわたって奏される効果であるとすることはできないことは、上記第5 2(1)イの、<相違点1>及び<相違点2>の検討で述べたとおりである。 また、追加比較例5は、甲2の実施例10に相当する例であるが、実施例7及び追加実施例1とは組成が異なる(実施例7、追加実施例1では、ゴム成分100質量部に対してC_(9)系樹脂を15質量部、充填剤を80質量部配合しているのに対して、追加比較例5では、ゴム成分100質量部に対して、C_(9)系樹脂を8質量部、充填剤を75質量部配合している)ものであるから、実施例7及び追加実施例1と、追加比較例5とをそのまま比較することはできず、これらの対比をもって、本件発明が甲2発明に比して格別の効果を奏すると評価できるものではない。 仮に、組成等の違いを無視して比較するのであれば、追加比較例5(甲2の実施例10)に対して、追加実施例2及び3は格別な顕著効果を奏しているとはいえない。 また、乾燥路面での制動性能は、実施例7、12ないし14及び追加実施例1ないし4が、追加比較例1ないし4に比して、若干優れているといえなくもないが、鉄板湿潤路面での制動性能は、追加比較例1に対して、実施例7は、追加比較例2に対して、実施例12及び追加実施例2は、追加比較例3に対して、実施例13及び追加実施例3は、追加比較例4に対して、実施例14は、それぞれ、劣っている。してみると、カーボンブラックを併用することで、乾燥路面での制動性能と鉄板湿潤路面での制動性能を両立できているとまではいえない。 よって、特許権者の主張2は採用できない。 ウ 主張3について 確かに、甲2の、段落【0013】には、エポキシ化天然ゴムのエポキシ化率について、「エポキシ化天然ゴムのエポキシ化率の平均は12モル%以上であることが好ましく、15モル%以上であることがより好ましい。エポキシ化率の平均が12モル%未満では、ウェットおよびドライ路面における摩擦係数が低くなる傾向がある。」と記載されている。 しかしながら、当該記載は、甲2発明において、「天然ゴムおよび/またはエポキシ化天然ゴム」のうち「エポキシ化天然ゴム」を使用する場合には、特定のエポキシ化率のものが好ましいことを述べているのであって、当該記載をもって、天然ゴムよりもエポキシ化天然ゴムが好ましく、中でも、エポキシ化率の平均が12モル%以上のエポキシ化天然ゴムが更に好ましいことを教示しているとまではいえない。 よって、特許権者の主張3は採用できない。 エ 主張4について 甲2の段落【0021】をみると、「アセトン抽出分」は、「可塑剤、老化防止剤およびワックス」であり、「アセトン抽出分をある程度以上使用することで、グリップ特性を向上することができる。さらにアセトン抽出分としてガラス転移点を向上させることができるレジンを使用することで、大幅にトライ路面における走行性能を改善することができるものである。」と記載され、【0025】には、「レジン以外の可塑剤としてアロマチックオイルやミネラルオイルなどの軟化剤を用いることができる。」と記載されている。 また、【0027】には、「トレッドゴム組成物中のアセトン抽出分(可塑剤、老化防止剤およびワックスの総量)の含有率は、ゴム組成物中において8重量%以上であることが好ましく、13重量%以上であることがさらに好ましい。含有率が8重量%未満では、ドライ路面およびウェット路面における走行性能が不十分となる傾向がある。また、アセトン抽出分の含有率は、25重量%以下であることが好ましく、22重量%以下であることがより好ましい。含有率が25重量%をこえると、耐摩耗性が悪化する傾向がある。」と記載されている。 これらは要するに、ゴム組成物に、可塑剤、老化防止剤およびワックスであるアセトン抽出分をゴム組成物中13重量%以上22重量%以下で配合すること、アセトン抽出分のうち可塑剤として、レジンを使用することができること、レジン以外の可塑剤として軟化剤を用いることができることを記載するものであって、これらの記載に、レジンの量を多くしたり、軟化剤を必須の成分として配合することを意味すると解する根拠はみあたらない。 してみると、これらの記載をもって、甲2が、アセトン抽出分に包含される、レジンの量を多くしたり、或いは、レジン以外の可塑剤として教示されているアロマチックオイルやミネラルオイルなどの軟化剤を配合すること教示しているとまではいえない。 よって、特許権者の主張4は採用できない。 オ 主張5について 甲2のいずれの箇所をみても、エポキシ化天然ゴムを含まないこと、レジンの配合量が30質量部以下であること、軟化剤を配合しないことを自由に選択することができないとする根拠は何ら見当たらない。 確かに、甲2の実施例には、エポキシ化天然ゴムを含まず、軟化剤を含まず、レジンの配合量が30質量部以下であるものについての記載はないものの、このことのみをもって、エポキシ化天然ゴムを含まないこと、レジンの配合量が30質量部以下であること、軟化剤を配合しないことを自由に選択することができないとまではいえないし、エポキシ化天然ゴムも軟化剤も含まない場合は、レジンの配合量を30重量部を超えて多くする必要があることを、エポキシ化天然ゴムを含まず、レジンの配合量が少ない場合は、軟化剤を配合する必要があることを、軟化剤を含まず、レジンの配合量が少ない場合は、エポキシ化天然ゴムを配合する必要があることを、併せて教示するとまでもいえない。 よって、特許権者の主張5は採用できない。 カ 主張6について 本件特許明細書の実施例3における、ゴム成分100質量部に対して「45質量部」との熱可塑性樹脂(B)の含有量が、甲2発明におけるレジンの配合量の最大値に比して多量であることに鑑みれば、実施例2と実施例3との比較をもって、本件発明1が甲2発明から予測をすることのできない格別の効果を奏するということはできないことは、上記第5 2(1)イの、<相違点4>の検討で述べたとおりである。 また、軟化剤を含まない実施例7と、軟化剤を僅かに含む実施例11、実施例15、実施例16との対比から分かるように、軟化剤(D)を配合しないことで、鉄板湿潤路面での制動性能が向上する効果が奏されることについて、当該効果は、実施例に記載された特定の組成を有するゴム組成物において奏されることが確認できるにすぎず、当該効果が本件発明1全体にわたって奏される効果であるとすることはできないことは、上記第5 2(1)イの、<相違点5>の検討で述べたとおりである。 よって、特許権者の主張6は採用できない。 4 小括 以上のとおりであるから、特許権者の主張は採用できない。 第6 まとめ 以上のとおりであるから、本件発明1ないし3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 よって上記結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 天然ゴムを70質量%以上含むゴム成分(A)(エポキシ化天然ゴムを含むゴム成分を除く)を配合してなり、ゴム成分100質量部に対して、C_(5)系樹脂、C_(5)?C_(9)系樹脂、C_(9)系樹脂、ロジン系樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、及びアルキルフェノール系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂(B)を5?30質量部、並びにシリカ及びカーボンブラックを含む充填剤(C)を20?120質量部配合してなり、 前記充填剤(C)中のシリカの含有量が90質量%以上100質量%未満であり、 軟化剤(D)が配合されていない、ことを特徴とするゴム組成物。 【請求項2】 前記ゴム成分(A)中にスチレン-ブタジエン共重合体ゴムが10?30質量%含まれる、請求項1記載のゴム組成物。 【請求項3】 請求項1または2に記載のゴム組成物をトレッドゴムに用いたことを特徴とするタイヤ。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-09-28 |
出願番号 | 特願2015-217867(P2015-217867) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
ZAA
(C08L)
P 1 651・ 121- ZAA (C08L) |
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 水野 明梨 |
特許庁審判長 |
大島 祥吾 |
特許庁審判官 |
海老原 えい子 小柳 健悟 |
登録日 | 2017-02-17 |
登録番号 | 特許第6092986号(P6092986) |
権利者 | 株式会社ブリヂストン |
発明の名称 | ゴム組成物及びタイヤ |
代理人 | 塚中 哲雄 |
代理人 | 冨田 和幸 |
代理人 | 塚中 哲雄 |
代理人 | 杉村 光嗣 |
代理人 | 冨田 和幸 |
代理人 | 杉村 憲司 |
代理人 | 杉村 憲司 |
代理人 | 杉村 光嗣 |