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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1347673
異議申立番号 異議2017-701216  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-02-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-12-21 
確定日 2018-11-29 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6150557号発明「セラミックヒーター」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6150557号の特許請求の範囲を,訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6150557号の請求項1及び3ないし5に係る特許を維持する。 特許第6150557号の請求項2に係る特許について特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
1 特許第6150557号の請求項1?5に係る特許についての出願は,平成29年6月2日にその特許権の設定登録がされ,平成29年6月21日に特許掲載公報が発行された。その後,本件特許に対して1件の特許異議の申立てがあり,次のとおり手続が行われた。

平成29年12月21日 :特許異議申立人 藤本信男 による請求
項1?5に係る特許に対する特許異議の
申立て
平成30年 3月19日付け:取消理由通知書
平成30年 5月15日 :特許権者による意見書の提出
平成30年 5月28日付け:取消理由通知書(決定の予告)
平成30年 7月26日 :特許権者による意見書の提出及び訂正請
求(以下,「本件訂正請求」という。)
平成30年 9月 3日 :特許異議申立人 藤本信男 による意見
書(以下,「意見書」という。)の提出

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容(下線は,訂正の箇所を示す。)
本件訂正請求による訂正の内容は,以下のとおりである。

(1)請求項1を以下の事項により特定されるとおりの請求項1として訂正する。請求項1を引用する請求項2?5も同様に訂正する。(以下,「訂正事項1」という。)

「【請求項1】
ウェハが載置されるヒータープレートと、前記ヒータープレートと接続する支持部材とを備えるセラミックヒーターであって、
前記ウェハが載置される面と反対側の面であり、前記支持部材が接続される前記ヒータープレートのヒータープレート端面と、
前記ヒータープレート端面に対して接続される前記支持部材の第1端面と、
前記ヒータープレート端面側において前記ヒータープレートに形成され、環状の開口外縁が前記ヒータープレートと前記支持部材との接続領域の内側に位置するヒータープレート凹部、及び、前記第1端面側において前記支持部材に形成され、環状の開口外縁が前記接続領域の内側に位置し、前記ウェハが載置される面の上方から臨んだときに円形をなす第1凹部のうち少なくとも前記第1凹部とを備え、
前記支持部材は、円柱部分と前記円柱部分よりも前記第1端面側に、前記第1凹部の周りを囲む環板状のフランジ部とを備え、
前記第1凹部の半径R1と前記円柱部分の半径R2と前記フランジ部の半径R3とが、R2≦R1<R3の関係式を満たし、
前記フランジ部の前記支持部材の軸方向の厚さは、前記第1端面から前記第1凹部底部までの深さより大きいことを特徴とするセラミックヒーター。」

(2)特許請求の範囲の請求項2を削除する。(以下,「訂正事項2」という。)

(3)請求項3を以下の事項により特定されるとおりの請求項3として訂正する。請求項3を引用する請求項4及び5も同様に訂正する。(以下,「訂正事項3」という。)。

「【請求項3】
請求項1記載のセラミックヒーターにおいて、
前記支持部材は、前記第1端面と反対側の第2端面と、前記第2端面側において前記支持部材に形成され、開口の外縁が環状かつ有底の第2凹部とを備えることを特徴とするセラミックヒーター。」

(4)請求項5を以下の事項により特定されるとおりの請求項5として訂正する(以下,「訂正事項4」という。)。

「【請求項5】
前記ヒータープレートと前記支持部材とを不活性ガス雰囲気の真空炉中にいれて接合することを特徴とする請求項1、3または4記載のセラミックヒーターの製造方法。」

本件訂正請求は,一群の請求項〔1-5〕に対して請求されたものである。

2 訂正の目的の適否,新規事項の有無,特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
訂正事項1は,訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2記載の選択的な発明特定事項である「前記フランジ部の前記支持部材の軸方向の厚さは、前記第1端面から前記第1凹部の底部までの深さと等しい又は前記深さより大きい」ことについて,「前記フランジ部の前記支持部材の軸方向の厚さは、前記第1端面から前記第1凹部の底部までの深さより大きい」とし,請求項1に追加し限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的としており,新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2
訂正事項2は,請求項2を削除する訂正であるから,特許請求の範囲の減縮を目的としており,新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3
訂正事項3は,請求項1または請求項2を直接引用する請求項3について,請求項2の削除に伴い,請求項2に関する引用の記載を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的としており,新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。

(4)訂正事項4
訂正事項4は,請求項1ないし4を直接引用する請求項5について,請求項2の削除に伴い,請求項2に関する引用の記載を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的としており,新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。

3 小括
以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は,特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって,特許請求の範囲を,訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし5に係る発明(以下,「本件発明1ないし5」という。)は,その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである

本件発明1
「ウェハが載置されるヒータープレートと、前記ヒータープレートと接続する支持部材とを備えるセラミックヒーターであって、
前記ウェハが載置される面と反対側の面であり、前記支持部材が接続される前記ヒータープレートのヒータープレート端面と、
前記ヒータープレート端面に対して接続される前記支持部材の第1端面と、
前記ヒータープレート端面側において前記ヒータープレートに形成され、環状の開口外縁が前記ヒータープレートと前記支持部材との接続領域の内側に位置するヒータープレート凹部、及び、前記第1端面側において前記支持部材に形成され、環状の開口外縁が前記接続領域の内側に位置し、前記ウェハが載置される面の上方から臨んだときに円形をなす第1凹部のうち少なくとも前記第1凹部とを備え、
前記支持部材は、円柱部分と前記円柱部分よりも前記第1端面側に、前記第1凹部の周りを囲む環板状のフランジ部とを備え、
前記第1凹部の半径R1と前記円柱部分の半径R2と前記フランジ部の半径R3とが、R2≦R1<R3の関係式を満たし、
前記フランジ部の前記支持部材の軸方向の厚さは、前記第1端面から前記第1凹部の底部までの深さより大きいことを特徴とするセラミックヒーター。」

本件発明2
(削除)

本件発明3
「請求項1記載のセラミックヒーターにおいて、
前記支持部材は、前記第1端面と反対側の第2端面と、前記第2端面側において前記支持部材に形成され、開口の外縁が環状かつ有底の第2凹部とを備えることを特徴とするセラミックヒーター。」

本件発明4
「請求項3記載のセラミックヒーターにおいて、前記第1端面から前記第1凹部の底部までの深さが前記第2端面から前記第2凹部の底面までの深さより小さいか、または前記第1凹部と前記第2凹部との開口の半径が異なることを特徴とするセラミックヒーター。」

本件発明5
「前記ヒータープレートと前記支持部材とを不活性ガス雰囲気の真空炉中にいれて接合することを特徴とする請求項1、3または4記載のセラミックヒーターの製造方法。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし5に係る特許に対して,当審が平成30年5月28日に特許権者に通知した取消理由の要旨は,次のとおりである。
請求項1ないし5に係る発明は,甲第2号証に記載された発明に,甲第3号証及び甲第4号証に記載された技術を組み合わせることにより,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
よって,請求項1ないし5に係る特許は,取り消されるべきものである。

2 甲号証の記載
(1)甲第2号証
ア 甲第2号証の記載
取消理由通知において引用した甲第2号証(特開2005-123582号公報)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は,当審で付与した。以下,同じ。)

「【技術分野】
【0001】
本発明は、基板処理装置において被処理基板を保持するのに使われる基板保持構造物、並びにこのような基板保持構造物を用いた基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
CVD装置、プラズマCVD装置、熱処理装置、エッチング装置などの基板処理装置では、被処理基板を保持するため、処理容器内部に基板保持構造物が設けられる。このような基板保持構造物は、被処理基板を保持する基板保持台と、前記基板保持台を支持する支柱とを含む。基板保持台の内部には、基板を所定温度に加熱するための加熱機構が設けられる。」

「【0010】
本発明の目的は、安価に製造でき、かつ熱応力の集中を抑制できる基板保持構造物、およびこのような基板保持構造物を使った基板処理装置を提供することにある。
【0011】
本発明の更なる目的は、基板保持台に生じる温度勾配を抑制することにある。」

「【0026】
本発明によれば、上端部にフランジ部が形成された支柱と、前記フランジ部に接合された基板保持台とを備えた基板保持構造物において、前記基板保持台に加熱機構を設け、前記基板保持台の下面に、前記フランジ部の外周面に沿って伸びるU字型の溝を形成し、前記U字型の溝の内周面と前記フランジ部の外周面とを、連続した単一の面を形成するように接続することにより、前記基板保持台下面への最小限の研削加工で前記支柱および基板保持台における熱応力の集中を緩和することが可能になる。
【0027】
また本発明によれば、上端部にフランジ部が形成された支柱と、前記フランジ部に接合された基板保持台とを備えた基板保持構造物において、前記基板保持台に加熱機構を設け、前記支柱が前記基板保持台との接合部に、内周面と外周面とを有するフランジ部を含むように構成し、前記内周面を、前記基板保持台の下面に向かって前記フランジ部の内径が連続的に増大するように傾斜した傾斜面を成すように構成し、前記外周面を、前記基板保持台の下面に向かって前記フランジ部の外径が連続的に増大するように傾斜した傾斜面を成すように構成し、前記外周面を成す前記傾斜面を、前記基板保持台の下面に連続的に移行するように構成することにより、前記基板保持台下面に研削加工を行うことなく、前記支柱および基板保持台における熱応力の集中を緩和することが可能になる。」

「【0030】
前記基板保持台23はAlNなどの耐食性に優れ、高い熱伝導率と抵抗率、さらに優れた熱衝撃耐性を有するセラミック材料よりなる。基板保持台23は、この基板保持台23と同様にAlNなどのセラミックよりなる支柱23A上に支持されている。これらセラミック部品23,23A同士の接合は、好ましくは固相接合により行われるが、固液接合またはろう付けにより行うことも可能である。支柱23Aは処理容器21の下部に延在する延在部21B中を延在し、延在部21Bの端部21C上に固定されている。支柱23A中には前記基板保持台23中に埋設された加熱機構(ヒータ)を駆動する電源ライン23a,23bが延在している。電源ライン23a,23bは、前記端部21Cに電源ラインの酸化あるいは腐食防止のために設けられた端子室21Dを介して外部に取り出される。また前記端子室21Dには、前記支柱23A内部を排気する排気ポート21dが設けられている。」

「【0038】
図7は、図3の基板保持台23において使われる熱応力を緩和するための構造を示す。図7を参照すると、前記基板保持台23を支持する支柱23Aは、支柱23Aの上端部に設けられたフランジ部23Bと、フランジ部23Bの下方に設けられた外径dを有する円筒状の本体部と、を有している。なお基板保持台23および支柱23Aは、実質的に、幾何学用語としての回転体(平面を所定の軸線周りに回転することにより得られる立体)をなしている。
【0039】
基板保持台23の下面231には、U字型断面を有するリング状の溝23U(以下、「U字型溝23U」という)が形成されている。U字型溝23Uは、内周面23U_(1)と外周面23U_(2)とを接続する底面23U_(3)とにより画成されている。内周面23U_(1)と底面23U_(3)並びに外周面23U_(2)と底面23U_(3)は、曲率半径がR1の曲面を介して滑らかに接続されている。曲率半径R_(1)はU字型溝23Uの深さDより小さい。フランジ部23Bの外周面23B_(1)の輪郭線は鉛直方向に延び、かつU字型溝23Uの内周面23U_(1)の輪郭線は外周面23B_(1)の輪郭線の延長上を鉛直方向に延びている。すなわち、外周面23B_(1)の輪郭線および内周面23U_(1)の輪郭線は、鉛直方向に延びる連続した単一の直線(線分)をなし、両輪郭線の接続点Pには段差は実質的に存在しない。すなわち、外周面23B_(1)と内周面23U_(1)とは基板保持台23と支柱23Aとの接合面235(接続点P)の近傍で、円筒形状の連続した単一の曲面をなす。曲率半径がR_(1)の曲面の輪郭線は、接続点Pと同じ高さに位置する点Oを中心とする中心角が90度の円弧を成し、接続点Pから所定距離上方に離間した位置P‘からスタートする。この構成によれば、熱応力が最大となる部位を、曲率半径がR_(1)の曲面の輪郭線の内周面23U_(1)の輪郭線の端部に対応する部位に位置させることができ、言い換えれば、材料強度が弱い基板保持台23と支柱23Aとの接合面235(接続点P)以外の場所に位置させることができる。」

「【0042】
基板保持台23の下面231には、さらにリング状の溝232が形成されている。溝232の深さは大きくする必要ななく、例えば約1mmである。溝232を設けることにより、支柱23Aのフランジ部23Bの上面234と基板保持台23との間に隙間を形成し、これにより、基板保持台23と支柱23Aとの接合面235の面積を小さくしている。加熱機構を内蔵する基板保持台23と加熱機構を持たない支柱23Aとの温度差は大きいため、接合面235の面積を大きくしすぎると接合面235近傍における熱応力が大きくなる。また、接合面235の面積を大きくしすぎると、基板保持台23から支柱23Aに流れ込む熱量が大きくなり、基板保持台23の温度均一性を悪化させる。このような問題を回避するため、接合面235の幅W‘は、基板保持台23と支柱23Aとの間の充分な接合強度を確保できる限りにおいてなるべく小さい値、例えば約4mmに設定される。なお、U字型溝23Uおよびリング状の溝232は、単一の水平面内に位置する基板保持台23の平坦な下面231を研削加工することにより形成される。また、接合面235は、支柱23Aの直径dと同じ直径を有する支柱23Aと同軸の円筒より外側に位置している。
【0043】
さらにフランジ部23Bの内周面は傾斜面23fとなっており、これにより当該部分への熱応力の集中が緩和される。また、支柱23Aの本体部からフランジ部23Bへの遷移部にも曲率R_(2)の曲面23Rが形成されており、これにより当該部分における熱応力の集中が緩和される。
【0044】
図8(A)は、図7の基板保持構造物において、前記基板保持台23中に中心部の温度が低く周辺部の温度が高い、いわゆるセンタークールの温度勾配が生じた場合の応力分布を示す。各領域に付されたアルファベットは応力のレベルを示しており、Aが+6.79kgf・mm^(-2)超の応力が生じている領域、Bが+5.43?+6.79kgf・mm^(-2)の応力が生じている領域、Cが+4.07?+5.43kgf・mm^(-2)の応力が生じている領域、Dが+2.71?+4.07kgf・mm^(-2)の応力が生じている領域、Eが+1.35?+2.71kgf・mm^(-2)の応力が生じている領域、Fが0?+1.35kgf・mm^(-2)の応力が生じている領域、Gが-1.37?0kgf・mm^(-2)の応力が生じている領域をそれぞれ示している。なお、プラスは引っ張り応力、マイナスは圧縮応力を意味している。
【0045】
図8(A)を参照すると、センタークールの状態では前記基板保持台23中には、中央部が周辺部に対して収縮するため、特にフランジ部23Bの外周面に対応する位置に大きな引張応力が生じる傾向にある。しかし、外周面23B_(1)に対応する位置にU字溝23Uを形成することにより、応力の集中が著しく緩和されるのがわかる。図8(A)の状態では、最大引張応力(その値は8.15kg・mm^(-2)超である)がU字型溝23Uの曲率半径がR_(1)の曲面部において生じているのがわかる(矢印MAXを参照)。特に注意すべき点は、応力集中が基板保持台23と支柱23Aとの接合部に生じていない点である。
【0046】
これに対し図8(B)は、前記基板保持台23Bの中心部が高温で周辺部が低温の、いわゆるセンターホットの状態における応力分布を示す。
【0047】
この場合には、基板保持台23中、前記支柱23Aとの接合部近傍における熱応力の集中はほとんど生じていないのがわかる。
【0048】
上述したように、本実施例に係わる基板保持構造物において、基板保持台23下面研削加工量を最小限にしつつ(図1および2に示す従来技術を比較参照)、熱応力の集中を緩和することができる。またヒータ24A,24Bを独立に駆動することにより、基板保持台23に生じる温度勾配を最小化することができる。これにより、破損の恐れのない、信頼性の高い基板保持構造物を、安価に形成することが可能になる。」

【図7】

【図8】


イ 甲2発明
【図7】および【図8】から、甲第2号証には以下の点が記載されていると認められる。
・基板保持台23の下方にある「傾斜面23f」は、基板保持台23と支柱23Aとの接合面235の内側にあること。
・「リング状の溝232」は、上記接合面235の内側にあること。
・「傾斜面23f」の上端の内径と、「円筒状の本体部」の外径dと、「フランジ部23B」の上端の外径は、「円筒状の本体部」の外径d<「傾斜面23f」の上端の内径<「フランジ部23B」の上端の外径 の関係を有すること。

そうすると、上記アより、甲第2号証には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

「基板を所定温度に加熱するための加熱機構が設けられた被処理基板を保持する基板保持台23と、前記基板保持台を支持する支柱23Aとを含む、セラミック材料からなる基板保持構造物であって、
前記基板保持台23を支持する前記支柱23Aは、前記支柱23Aの上端部に設けられたフランジ部23Bと、フランジ部23Bの下方に設けられた外径dを有する円筒状の本体部とを有し、
前記フランジ部23Bの内周面は、熱応力の集中を緩和する為に、基板保持台23と支柱23Aとの接合面235の内側にある、傾斜面23fを有し、
前記接合面235の内側の前記基板保持台23の下面231に、リング状の溝232が形成され、前記支柱23Aの前記フランジ部23Bの上面234と前記基板保持台23との間に隙間を形成し、これにより、前記基板保持台23と前記支柱23Aとの接合面235の面積を小さくし、
傾斜面23fの上端の内径と、円筒状の本体部の外径dと、フランジ部23Bの上端の外径が、
「円筒状の本体部」の外径d<「傾斜面23f」の上端の内径<「フランジ部23B」の上端の外径
の関係を有する、基板保持構造物。」

(2)甲第3号証
ア 甲第3号証の記載
取消理由通知において引用した甲第3号証(特開2011-165891号公報)には、図面とともに、次の記載がある。

「【0001】
本発明は、半導体ウエハ等の被処理体の処理装置及び載置台構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体集積回路を製造するには、半導体ウエハ等の被処理体に、成膜処理、エッチング処理、熱処理、改質処理、結晶化処理等の各種の枚葉処理を繰り返し行なって、所望する集積回路を形成するようになっている。上記したような各種の処理を行なう場合には、その処理の種類に対応して必要な処理ガス、例えば成膜処理の場合には成膜ガスやハロゲンガスを、改質処理の場合にはオゾンガス等を、結晶化処理の場合にはN_(2) ガス等の不活性ガスやO_(2) ガス等をそれぞれ処理容器内へ導入する。
【0003】
半導体ウエハに対して1枚毎に熱処理を施す枚葉式の処理装置を例にとれば、真空引き可能になされた処理容器内に、例えば抵抗加熱ヒータを内蔵した載置台を設置し、この上面に半導体ウエハを載置し、所定の温度(例えば100℃から1000℃)で加熱した状態で所定の処理ガスを流し、所定のプロセス条件下にてウエハに各種の熱処理を施すようになっている(特許文献1?4)。このため処理容器内の部材については、これらの加熱に対する耐熱性と処理ガスに曝されても腐食されない耐腐食性が要求される。
【0004】
ところで、半導体ウエハを載置する載置台構造に関しては、一般的には耐熱性耐腐食性を持たせると共に、金属コンタミネーション等の金属汚染を防止する必要から例えばAlN等のセラミック材中に発熱体として抵抗加熱ヒータを埋め込んで高温で一体焼成して載置台を形成し、また別工程で同じくセラミック材等を焼成して支柱を形成し、この一体焼成した載置台側と上記支柱とを、例えば熱拡散接合で溶着して一体化して載置台構造を製造している。そして、このように一体成形した載置台構造を処理容器内の底部に起立させて設けるようにしている。また上記セラミック材に代えて耐熱耐腐食性があり、また熱伸縮も少ない石英ガラスを用いる場合もある。
【0005】
ここで従来の載置台構造の一例について説明する。図8は従来の載置台構造の一例を示す断面図である。この載置台構造は、真空排気が可能になされた処理容器内に設けられており、図8に示すように、この載置台構造はAlN等のセラミック材よりなる円板状の載置台2を有している。そして、この載置台2の下面の中央部には同じく例えばAlN等のセラミック材よりなる円筒状の支柱4が例えば熱拡散接合にて接合されて一体化されている。
・・・ 中 略 ・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、処理装置のメンテナンス時等において、この処理装置自体を移動したり、或いは搬送したりする必要が生じた場合、作業を迅速に行うために上述したような載置台構造を処理装置内に組み込んだ状態でこれを移動、或いは搬送する必要が生ずる。このような場合、上述したように円筒状の支柱4の上端を載置台2の下面に接合して両者を固定しただけでは接合部分の強度が不足してこの部分に割れ等が生ずる恐れがあった。また、支柱4自体も比較的薄肉構造であるため、支柱4自体が破損する恐れもあった。
【0010】
また地震等の大きな振動により、載置台自体が共娠してこの破損を引き起こす恐れもあった。このような危惧は、特許文献4に示すような複数の支持部材で載置台を支持するようにした載置台構造においても同様に存在する。特に、ウエハWの直径が300mm程度から更に大口径化する傾向にあるので、それに伴って載置台2自体の直径も更に大きくなってより重量化することから、上記問題点の早期な解決が望まれている。
【0011】
本発明は、以上のような問題点に着目し、これを有効に解決すべく創案されたものである。本発明は、載置台と支柱との連結部の強度及び支柱自体の強度を向上させることが可能な載置台構造及び処理装置である。」

「【0017】
以下に、本発明に係る載置台構造及び処理装置の好適な一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
図1は本発明に係る載置台構造を有する処理装置を示す断面構成図、図2は載置台に設けた加熱手段の一例を示す平面図、図3は図1中のA-A線に沿った矢視断面図、図4は図1中の載置台構造の一部の貫通孔の部分を代表的に取り出して示す部分拡大断面図、図5は図4中の載置台構造の組み立て状態を説明するための説明図である。ここではプラズマを用いて成膜処理を行う場合を例にとって説明する。尚、以下に説明する「機能棒体」とは、1本の金属棒のみならず可撓性のある配線、複数の配線を絶縁材で被覆して1本に結合して棒状に形成された部材等も含むものとする。
・・・ 中 略 ・・・
【0023】
そして、この処理容器22内の底部44には、これより起立させて本発明の特徴とする載置台構造54が設けられる。具体的には、この載置台構造54は、上面に上記被処理体を載置するための載置台58と、上記載置台58に連結される支柱63とにより主に構成されている。上記支柱63は、上記載置台58を上記処理容器22の底部から起立させて支持すると共に、内部に長さ方向に沿って形成された複数の貫通孔60を有している。上記各貫通孔60内には、機能棒体62が挿通されている。上記支柱63は、例えば円柱状の支柱材料に穿孔により複数の貫通孔60を形成することにより製作される。」

「【0060】
このような状況において、例えば地震等により大きな振動が発生した場合、重量物である載置台58が支柱63との連結部から割れ等が生じて破壊したり、或いは支柱63自体に割れ等が生じるおそれがある。
【0061】
しかしながら、本発明においては、支柱63自体を円柱状に成形して、この円柱に機能棒体等を挿通させるための複数本の貫通孔60を形成するようにしており、そして、支柱63の上端部を載置台58の下面に連結しているので、支柱63自体の強度を大幅に向上させることができ、しかも載置台58と支柱63との連結部の強度も向上させることができる。この場合、支柱63の上端面と載置台58の下面とに形成される熱溶着接合部63Aにおける接合面積は十分に大きくなされているので、特に、載置台58と支柱63との接合強度を向上させることができる。
【0062】
従って、地震等の大きな振動が発生しても、載置台構造54自体が破損や破壊したりすることを防止することができる。また、上述のように振動に対する載置台構造54自体の強度を向上できることから、載置台構造54を組み込んだ状態で処理装置を移動したり、搬送したりすることができる。」

「【0068】
<第2変形実施例>
次に、本発明の第2変形実施例について説明する。先の図4に示す実施例においては、支柱63の上端部及び下端部は共に平坦な状態であったが、これに限定されず、溶接を行い易くするためにこれらの部分に凹部状に削り込み部を形成するようにしてもよい。図7は上記したような本発明の第2変形実施例の支柱の部分を示す部分拡大図である。尚、図4に示す構成部分と同一構成部分については、同一参照符号を付して、その説明を省略する。
【0069】
図7に示すように、ここでは支柱63の上端部及び下端部に、その周辺部をリング状に残して凹部状に削り込むことにより形成された削り込み部206A、206Bがそれぞれ設けられている。尚、上記2つの削り込み部206A、206Bの内のいずれか一方のみを設けるようにしてもよい。この場合、上記削り込み部206A、206Bの部分の支柱63の周辺部の厚さL1は、例えば2?5mm程度であり、載置台本体59の厚さの2?9%程度の厚さに設定する。
【0070】
そして、この支柱63の上端部を載置台本体59の下面に溶接することにより支柱63と載置台58とを接合することになる。また支柱63の下端部を固定台96の上面に溶接することにより、支柱63と固定台96とを接合することになる。この熱溶接を行う場合、溶接対象となる両母材を共に高温に加熱する必要があるが、上記したように凹部状に削り込み部206A、206Bを形成することにより、薄肉となったリング状の周辺部を、溶接対象となる載置台本体59の下面の中央部の部分と同様に迅速に加熱することができ、両者を容易に且つ迅速に接合することができる。
【0071】
また、支柱63の上下端部の厚さL1をある程度、例えば2mm以上、より好ましくは2.5mm以上に設定しておけば、載置台本体59や固定台96との接合面積も十分に大きくすることができ、特に載置台本体59と支柱63との接合強度も高く維持することができる。従って、この第2変形実施例の場合にも、先の図4において説明した実施例と同様な作用効果を発揮することができる。」

イ 甲3記載事項
上記アより、甲第3号証には次の事項(以下、「甲3記載事項」という。)が記載されていると認められる。

「半導体ウエハを載置し、所定のプロセス条件下にてウエハに各種の熱処理を施す載置台において、従来技術の円筒状の支柱は支柱自体が比較的薄肉構造であるため、支柱自体が破損する恐れがあったので、支柱を円柱状に成形し、強度を大幅に向上させること。」

(3)甲第4号証
ア 甲第4号証の記載
取消理由通知において引用した甲第4号証(特開2004-22382号公報)には、図面とともに、次の記載がある。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、セラミックサセプターの取付構造、セラミックサセプターの支持構造、セラミックサセプターの支持部材、セラミックサセプターの支持構造を形成する方法、および加圧治具に関するものである。」

「【0054】好適な実施形態においては、サセプターと支持部材とが固相接合されている。固相接合法においては、サセプターを構成するセラミックスと、支持部材を構成するセラミックスとの少なくとも一方に対して有効な焼結助剤を含有する溶液を接合面に塗布し、接合面に対して略垂直方向へと向かって圧力を加えながら、焼結温度よりも若干低い程度の温度で熱処理する。特に好ましくは、以下のようにして固相接合を行う。
【0055】(1)アルミニウム-窒素結合を有する窒化アルミニウムの前駆体化合物を、支持部材の端面とサセプター背面との間に介在させた状態で熱分解させることによって、両者を接合する。この場合において好ましくは、平板状部およびサセプターが、窒化アルミニウム質セラミックスからなる。」

「【0057】アルミニウム-窒素結合を有する化合物の熱分解温度は、好ましくは1600℃以下である。接合時の雰囲気は、アルゴン等の不活性ガスやアンモニア-窒素等の還元性雰囲気が好ましく、熱分解時にアルミニウム-窒素結合を有する化合物から発生する炭素を除去するためには、アンモニア-不活性ガスの雰囲気が好ましい。」

3 当審の判断
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲2発明との対比
(ア)甲2発明の「基板」,「基板を所定温度に加熱するための加熱機構が設けられた被処理基板を保持する基板保持台23」,「前記基板保持台を支持する支柱23A」,「セラミック材料からなる基板保持構造物」および「前記基板保持台23の下面231」は、それぞれ本件発明1の「ウェハ」,「ウェハが載置されるヒータープレート」,「前記ヒータープレートと接続する支持部材」,「セラミックヒーター」および「ヒータープレート端面」に相当する。

(イ)甲2発明は、「基板保持台23と支柱23Aとの接合面235」を有し、該「接合面235」の「支柱23A」側が、本件発明1の「前記ヒータープレート端面に対して接続される前記支持部材の第1端面」に相当する。

(ウ)甲2発明は、「前記接合面235の内側の前記基板保持台23の下面231には、リング状の溝232が形成され」ているから、この「リング状の溝232」は、本件発明1の「前記ヒータープレート端面側において前記ヒータープレートに形成され、環状の開口外縁が前記ヒータープレートと前記支持部材との接続領域の内側に位置するヒータープレート凹部」に相当する。

(エ)甲2発明は、「前記フランジ部23Bの内周面は、熱応力の集中を緩和する為に、基板保持台23と支柱23Aとの接合面235の内側にある、傾斜面23fを有し」ており、この「傾斜面23f」により凹部を形成していると言える。そうすると、「傾斜面23f」により形成された凹部は、本件発明1の「前記第1端面側において前記支持部材に形成され、環状の開口外縁が前記接続領域の内側に位置し、前記ウェハが載置される面の上方から臨んだときに円形をなす第1凹部」に相当する。

(オ)甲2発明は「前記基板保持台23を支持する前記支柱23Aは、前記支柱23Aの上端部に設けられたフランジ部23Bと、フランジ部23Bの下方に設けられた外径dを有する円筒状の本体部とを有し」ているから、甲2発明の「支柱23A」と、本件発明1の「円柱部分と前記円柱部分よりも前記第1端面側に、前記第1凹部の周りを囲む環板状のフランジ部とを備え」る「支持部」は、柱となる部分と前記柱となる部分よりも前記第1端面側に、前記第1凹部の周りを囲む環板状のフランジ部とを備える「支持部」である点で共通する。

(カ)甲2発明の「「円筒状の本体部」の外径d」,「「傾斜面23f」の上端の内径」および「「フランジ部23B」の上端の外径」は、それぞれ本件発明1の「前記円柱部分の半径R2」,「前記第1凹部の半径R1」および「前記フランジ部の半径R3」に相当し、甲2発明の「「円筒状の本体部」の外径d<「傾斜面23f」の上端の内径<「フランジ部23B」の上端の外径」の関係は、本件発明1の「R2≦R1<R3の関係式を満たすこと」に相当する。

(キ)上記(ア)ないし(カ)から、本件発明1と甲2発明は、以下の点で一致し、また相違する。

[一致点]
「ウェハが載置されるヒータープレートと、前記ヒータープレートと接続する支持部材とを備えるセラミックヒーターであって、
前記ウェハが載置される面と反対側の面であり、前記支持部材が接続される前記ヒータープレートのヒータープレート端面と、
前記ヒータープレート端面に対して接続される前記支持部材の第1端面と、
前記ヒータープレート端面側において前記ヒータープレートに形成され、環状の開口外縁が前記ヒータープレートと前記支持部材との接続領域の内側に位置するヒータープレート凹部、及び、前記第1端面側において前記支持部材に形成され、環状の開口外縁が前記接続領域の内側に位置し、前記ウェハが載置される面の上方から臨んだときに円形をなす第1凹部のうち少なくとも前記第1凹部とを備え、
前記支持部材は、柱となる部分と前記柱となる部分よりも前記第1端面側に、前記第1凹部の周りを囲む環板状のフランジ部とを備え、
前記第1凹部の半径R1と前記円柱部分の半径R2と前記フランジ部の半径R3とが、R2≦R1<R3の関係式を満たすことを特徴とするセラミックヒーター。」

[相違点1]
本件発明1は、「支持部材」の柱となる部分が「円柱」であるのに対して、甲2発明は「支持部材」の柱となる部分が「円筒」である点。

[相違点2]
本件発明1は、「前記フランジ部の前記支持部材の軸方向の厚さは、前記第1端面から前記第1凹部の底部までの深さより大きい」のに対して、甲2発明はそのようになっていない点。

イ 相違点についての判断
[相違点1]及び[相違点2]について
甲3記載事項にあるように、半導体ウエハを載置し、所定のプロセス条件下にてウエハに各種の熱処理を施す載置台において、円筒状の支柱は支柱自体が比較的薄肉構造であるため、支柱自体が破損する恐れがあったので、支柱を円柱状に成形し、強度を大幅に向上させることは、公知の技術である。
甲2発明においても、円筒状の支柱は破損する恐れがあり、より強度のあるものとするために、支柱自体の薄肉構造である円筒状の本体の部分を円柱とすることは、当業者が容易に想到する事項である。[相違点1]
その際、熱応力の集中を緩和する為に設けられた、「傾斜面23f」(甲第2号証段落【0043】)を残しながら、支柱自体の薄肉構造である円筒状の本体部分のみを円柱とすると認められる。
してみると,甲2発明の円筒状の支柱を円柱とした際,本件発明1の「第1凹部の底部」に相当する構成は,「傾斜面23f」の下端と同じ高さになると認められる。
そして,「傾斜面23f」は,熱応力の集中を緩和するために十分な長さを必要とすることは当業者にとって自明の事項であるから,甲2発明の円筒状の支柱を円柱とした際の,本件発明1の「前記第1端面から前記第1凹部の底部までの深さ」に相当する構成を,本件発明1の「前記フランジ部の前記支持部材の軸方向の厚さ」に相当する「フランジ部23B」の厚さより薄くすることは,甲2発明の「熱応力の集中を抑制できる」(甲第2号証段落【0010】)という目的に反し,阻害要因があると言える。[相違点2]
そして,本件発明1は[相違点2]に係る構成を有することにより,「H1≧L1の関係を満たす本実施形態のセラミックヒーター1は、支持部材100の第1端面110から第2端面120の方向に向かって第1フランジ部150において急激な温度変化が生じることを低減するので、第1フランジ部150において破壊の原因となる熱応力の低減を図ることができる。」(本件特許明細書段落【0031】)との格別の効果を有する。

ウ 特許異議申立人の意見について
(ア)異議申立人は,意見書において,甲第2号証の図8(a)を基に,「甲2号証図8(a)図には,フランジ部の支柱の軸方向の厚さH1は,第1端面から第1凹部の底部までの深さL1より大きい点が記載または示唆されている。」旨主張している(意見書第2頁14行乃至第3頁2行)。
しかしながら,甲第2号証の図8は,「図7の基板保持構造物中に生じる熱応力分布を、それぞれセンタークールの状態およびセンターホットの状態について示す図」であって,対応する図7において,「フランジ部の支柱の軸方向の厚さH1は,第1端面から第1凹部の底部までの深さL1より大きい」とはなっていないから,図8をもって,甲第2号証に[相違点2]に係る構成が記載または示唆されているとは言えない。

(イ)異議申立人の意見書におけるその他の主張(意見書第3頁4行乃至第7頁40行)は,甲2発明の「傾斜面23f」を前提としておらず,採用することはできない。

エ まとめ
したがって,本件発明1は,甲2発明及び甲3記載事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明3ないし5について
本件発明3ないし5は,本件発明1を引用するものであり,本件発明1の発明特定事項を全て備えるから,前記「(1)」と同様の理由により,甲第2号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明することができたものではない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許法29条2項について
(1)甲第1号証
ア 甲第1号証の記載
特許異議申立書において引用された甲第1号証(特開2001-250858号公報)には、図面とともに、次の記載がある。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、セラミックスサセプターのチャンバーへの取付構造に関するものである。」

「【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、加熱されるセラミックスサセプターと、サセプターの接合面に接合されているセラミックス製の支持部材と、この支持部材に接合されている、開口が設けられたチャンバーとを備えており、チャンバーの開口と支持部材の内側空間とが連通し、かつ支持部材の内側空間がチャンバーの内部空間に対して気密に封止されている取付構造であって、支持部材が蛇腹状をなしていることを特徴とする。
【0009】また、本発明は、前記取付構造であって、サセプターの支持部材への接合面に対して平行な方向に向かって支持部材を見たときに、複数枚のセラミックスが重ね合わされる重ね合わせ部分が設けられていることを特徴とする。
【0010】本発明について、図1-図4を参照しつつ更に説明する。図1-図4は、本発明の各実施形態に係る取付構造を示す断面図である。」

「【0017】図2-図4の各実施形態においては、前記の重ね合わせ部分を設けた。図2においては、サセプター1の接合面1bとチャンバー13の内側壁面13aとの間が、支持部材2Bによって連結されている。支持部材2Bにおいては、支持部材の一端4に直筒部5Gが連続しており、この直筒部5Gが連結部7Fを介して別の直筒部5Hに連続している。この直筒部5Hの一端はチャンバー13内にあるが、他端はチャンバー13外に出ている。直筒部5Hの他端が折り返し部分9Aを介して別の直筒部8Aに連続しており、直筒部8Aにチャンバー13への接合部6が連続している。この結果、サセプター1の接合面1bに平行な方向に見たときに、直筒部5Hと直筒部8Aとが重ね合わされており、即ち重複して存在している。15は重ね合わせ部分である。
【0018】こうした構造によれば、折り返し部分9Aを設けることによって、応力緩和作用が得られる。これに加えて、直筒部5G、5H、8Aの全長が長いことによって、更に応力緩和作用が得られる。この点を更に説明する。一般的に言って、直筒部とは垂直な方向(接合面と平行な方向)へと向かって支持部材2Bの一端4に引張応力が加わったときには、この応力と平行な連結部7Fは応力緩和に対してはほとんど寄与しない。これとは逆に、応力と垂直に延びる直筒部5G、5H、8Aはすべて応力緩和に寄与する。そして、直筒部による応力緩和の度合いは、すべての直筒部5G、5H、8Aの全長の合計に比例する。これに加えて、折り返し部分9Aも、その角度が拡大-縮小する方向への変形が容易であることから、前記引張応力の緩和に有効に寄与する。」

「【0037】
【発明の効果】以上述べたように、本発明によれば、支持部材のセラミックスサセプター側の端部における引張応力を緩和することで、支持部材とサセプターとの接合部分の周辺における気体の漏れを防止できるようにし、同時にサセプターとチャンバーとの間隔をコンパクトにできる。」

【図2】

イ 甲1発明
【図2】から、甲第1号証には以下の点が記載されていると認められる。
・「支持部材の一端4」の外径は、「直筒部5G」の外径より大きいこと。
・「支持部材の一端4」の外径は、「支持部材の一端4」の内径より大きいこと。
・「支持部材の一端4」の外径部分の垂直方向の長さは、「支持部材の一端4」の内径部分の垂直方向の長さより大きいこと。

そうすると、上記アより、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「加熱されるセラミックスサセプター1と、サセプターの接合面に接合されているセラミックス製の支持部材2Bにおいて、
支持部材2Bを、支持部材の一端4に直筒部5Gが連続しており、支持部材の一端4の外径は、直筒部5Gの外径および支持部材の一端4の内径より大きく、この直筒部5Gが連結部7Fを介して、一端はチャンバー13内にあり他端はチャンバー13外に出ている別の直筒部5Hに連続し、
この直筒部5Hの他端が折り返し部分9Aを介して、チャンバー13への接合部6が連続している別の直筒部8Aに連続し、
折り返し部分9Aを設けることによって、応力緩和作用が得られ、
直筒部5G、5H、8Aの全長が長いことによって、更に応力緩和作用が得られ、
セラミックスサセプター1と、サセプターの接合面に接合されており,
支持部材の一端4の外径部分の垂直方向の長さは、支持部材の一端4の内径部分の垂直方向の長さより大きい
セラミックス製の支持部材2B。」

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明との対比
(ア)甲1発明の「加熱されるセラミックスサセプター1」,「サセプターの接合面に接合されているセラミックス製の支持部材2B」および「サセプターの接合面」は、それぞれ本件発明1の「ウェハが載置されるヒータープレート」,「前記ヒータープレートと接続する支持部材」および「ヒータープレート端面」に相当する。

(イ)甲1発明の「加熱されるセラミックスサセプター1」と「サセプターの接合面に接合されているセラミックス製の支持部材2B」は、本件発明1の「セラミックヒーター」に相当する。

(ウ)甲1発明の「支持部材2B」のサセプターの接合面に接合する面は、本件発明1の「前記支持部材の第1端面」に相当する。

(エ)甲1発明の「支持部材2B」は、「支持部材の一端4に直筒部5Gが連続しており、この直筒部5Gが連結部7Fを介して、一端はチャンバー13内にあり他端はチャンバー13外に出ている別の直筒部5Hに連続し、この直筒部5Hの他端が折り返し部分9Aを介して、チャンバー13への接合部6が連続している別の直筒部8Aに連続」しており、この「直筒部5G」および「連結部7F」からなる構成は、本件発明1の「前記第1端面側において前記支持部材に形成され、環状の開口外縁が前記接続領域の内側に位置し、前記ウェハが載置される面の上方から臨んだときに円形をなす第1凹部」に相当する。

(オ)甲1発明は、「支持部材の一端4」に「直筒部5G」が連続していること、および、「支持部材の一端4」の外径は、「直筒部5G」の外径より大きいことから、「支持部材の一端4」は、「直筒部5G」および「連結部7F」からなる構成の周りを取り囲んでいる、環板状をなしていると言える。そうすると、甲1発明の「支持部材の一端4」は、本件発明1の「前記第1凹部の周りを囲む環板状のフランジ部」に相当する。

(カ)甲1発明の「支持部材2B」の「支持部材の一端4」を除く部分、すなわち、「支持部材2B」の「直筒部5G」,「連結部7F」,「直筒部5H」,「折り返し部分9A」,「接合部6」および「直筒部8A」からなる部分と、本件発明1の「支持部材」の「円柱部分」とは、円形の柱である点で共通する。

(キ)甲1発明の「支持部材の一端4の内径」,「直筒部5Gの外径」および「支持部材の一端4の外径」は、それぞれ、本件発明1の「第1凹部の半径R1」,「円柱部分の半径R2」および「フランジ部の半径R3」に相当するから、甲1発明の「支持部材の一端4の外径は、直筒部5Gの外径および支持部材の一端4の内径より大き」いことは、本件発明1の「前記第1凹部の半径R1と前記円柱部分の半径R2と前記フランジ部の半径R3とが、R2≦R1<R3の関係式を満たすこと」のうち、「R2<R3」および「R1<R3」の関係式を満たすことに相当する。

(ク)甲1発明の「前記フランジ部の前記支持部材の軸方向の厚さは、前記第1端面から前記第1凹部の底部までの深さより大きい」ことは,甲1発明の「支持部材の一端4の外径部分の垂直方向の長さは、支持部材の一端4の内径部分の垂直方向の長さより大きい」ことに相当する。

(ケ)上記(ア)ないし(ク)から、本件発明1と甲1発明は、以下の点で一致し、また相違する。

[一致点]
「ウェハが載置されるヒータープレートと、前記ヒータープレートと接続する支持部材とを備えるセラミックヒーターであって、
前記ウェハが載置される面と反対側の面であり、前記支持部材が接続される前記ヒータープレートのヒータープレート端面と、
前記ヒータープレート端面に対して接続される前記支持部材の第1端面と、
前記ヒータープレート端面側において前記ヒータープレートに形成され、環状の開口外縁が前記ヒータープレートと前記支持部材との接続領域の内側に位置するヒータープレート凹部、及び、前記第1端面側において前記支持部材に形成され、環状の開口外縁が前記接続領域の内側に位置し、前記ウェハが載置される面の上方から臨んだときに円形をなす第1凹部のうち少なくとも前記第1凹部とを備え、
前記支持部材は、円形の柱部分と前記円形の柱部分よりも前記第1端面側に、前記第1凹部の周りを囲む環板状のフランジ部とを備え,
前記フランジ部の前記支持部材の軸方向の厚さは、前記第1端面から前記第1凹部の底部までの深さより大きいことを特徴とするセラミックヒーター。」

[相違点ア]
本件発明1の円形の柱は「円柱」であるのに対して、甲1発明の円形の柱は「円柱」でない点。

[相違点イ]
本件発明1は「前記第1凹部の半径R1と前記円柱部分の半径R2と前記フランジ部の半径R3とが、R2≦R1<R3の関係式を満たす」のに対して、甲1発明は「R2<R3」および「R1<R3」の関係式を満たすものの、R1とR2の大小関係は不明である点。

イ 相違点についての判断
[相違点ア]について
甲1発明は「支持部材2B」の円形の柱に対応する部分を、「直筒部5G、5H、8A」と「連結部7F」および「折り返し部分9A」並びに「接合部6」で形成し、「折り返し部分9A」および「直筒部5G、5H、8Aの全長が長いことによって」応力緩和作用が得られるものであり、「直筒部5G、5H、8A」を「円柱」とし、結果として「直筒部5G、5H、8A」をなくすことは、「応力と垂直に延びる直筒部5G、5H、8Aはすべて応力緩和に寄与」(甲第1号証段落【0018】)する仕組みをなくし、「支持部材のセラミックスサセプター側の端部における引張応力を緩和することで、支持部材とサセプターとの接合部分の周辺における気体の漏れを防止できるようにし、同時にサセプターとチャンバーとの間隔をコンパクトにできる」(甲第1号証段落【0037】)という、甲1発明の効果を無くすものであるから、甲1発明の「円筒」部分を「円柱」とすることは、阻害要因があるというべきである。
したがって、甲1発明の[相違点ア]に係る構成を、本件発明1と同様の構成とすることは当業者が容易に想到しうることではない。

ウ 小括
したがって、本件発明1は、[相違点イ]を検討するまでもなく、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)本件発明3ないし5について
本件発明3ないし5は,本件発明1を引用するものであり,本件発明1の発明特定事項を全て備えるから,前記「(2)」と同様の理由により,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明することができたものではない。

2 特許法29条1項3号について
(1)甲第1号証について
本件発明1と甲1発明とを対比すると、前記「1(2)ア(ケ)」の[相違点ア]及び[相違点イ]の点で相違する。
従って、本件発明1は、甲1発明でない。また、本件発明1を引用する本件発明3ないし4も、甲1発明でない。

(2)甲第2号証について
本件発明1と甲2発明とを対比すると、前記「第4の3(1)キ」の[相違点1]及び[相違点2]の点で相違する。
従って、本件発明1は、甲2発明でない。また、本件発明1を引用する本件発明3ないし4も、甲2発明でない。

第5 むすび
以上のとおりであるから,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件発明1及び3ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件発明1及び3ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項2に係る特許は,訂正により,削除されたため,請求項2に対して,特許異議申立人がした特許異議申立てについては,対象となる請求項が存在しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェハが載置されるヒータープレートと、前記ヒータープレートと接続する支持部材とを備えるセラミックヒーターであって、
前記ウェハが載置される面と反対側の面であり、前記支持部材が接続される前記ヒータープレートのヒータープレート端面と、
前記ヒータープレート端面に対して接続される前記支持部材の第1端面と、
前記ヒータープレート端面側において前記ヒータープレートに形成され、環状の開口外縁が前記ヒータープレートと前記支持部材との接続領域の内側に位置するヒータープレート凹部、及び、前記第1端面側において前記支持部材に形成され、環状の開口外縁が前記接続領域の内側に位置し、前記ウェハが載置される面の上方から臨んだときに円形をなす第1凹部のうち少なくとも前記第1凹部とを備え、
前記支持部材は、円柱部分と前記円柱部分よりも前記第1端面側に、前記第1凹部の周りを囲む環板状のフランジ部とを備え、
前記第1凹部の半径R1と前記円柱部分の半径R2と前記フランジ部の半径R3とが、R2≦R1<R3の関係式を満たし、
前記フランジ部の前記支持部材の軸方向の厚さは、前記第1端面から前記第1凹部の底部までの深さより大きいことを特徴とするセラミックヒーター。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
請求項1記載のセラミックヒーターにおいて、
前記支持部材は、前記第1端面と反対側の第2端面と、前記第2端面側において前記支持部材に形成され、開口の外縁が環状かつ有底の第2凹部とを備えることを特徴とするセラミックヒーター。
【請求項4】
請求項3記載のセラミックヒーターにおいて、前記第1端面から前記第1凹部の底部までの深さが前記第2端面から前記第2凹部の底面までの深さより小さいか、または前記第1凹部と前記第2凹部との開口の半径が異なることを特徴とするセラミックヒーター。
【請求項5】
前記ヒータープレートと前記支持部材とを不活性ガス雰囲気の真空炉中にいれて接合することを特徴とする請求項1、3または4記載のセラミックヒーターの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-11-20 
出願番号 特願2013-36813(P2013-36813)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H01L)
P 1 651・ 113- YAA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 ▲高▼須 甲斐  
特許庁審判長 深沢 正志
特許庁審判官 小田 浩
飯田 清司
登録日 2017-06-02 
登録番号 特許第6150557号(P6150557)
権利者 日本特殊陶業株式会社
発明の名称 セラミックヒーター  
代理人 特許業務法人創成国際特許事務所  
代理人 特許業務法人創成国際特許事務所  

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