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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B65D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B65D
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B65D
審判 全部申し立て 2項進歩性  B65D
管理番号 1347692
異議申立番号 異議2018-700722  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-02-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-09-07 
確定日 2018-12-25 
異議申立件数
事件の表示 特許第6287426号発明「プラスチックボトル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6287426号の請求項1?5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6287426号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成26年3月24日に特許出願され、平成30年2月16日にその特許権の設定登録がされ、特許掲載公報が平成30年3月7日に発行され、その後、その請求項1?5に係る特許に対し、平成30年9月7日に特許異議申立人白澤榮樹(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6287426号の請求項1?5の特許に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明5」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】
プラスチックボトルにおいて、
口部と、
前記口部に連結された肩部と、
前記肩部に連結された胴部と、
前記胴部に連結された底部とを備え、
前記胴部は、複数の水平方向溝と、各水平方向溝間に設けられた円筒面とを有し、
前記胴部は、前記肩部直下から前記底部直上まで全体にわたり、前記水平方向溝と前記円筒面とを交互に繰り返し配置した構造をもち、
前記複数の水平方向溝は、少なくとも3種類の深さの水平方向溝を含み、
前記複数の水平方向溝は、最大の深さをもつ第1水平方向溝と、中間の深さをもつ第2水平方向溝と、最小の深さをもつ第3水平方向溝とを含み、
前記第1水平方向溝、前記第2水平方向溝および前記第3水平方向溝の開き角は、全て同一であり、
前記第1水平方向溝、前記第2水平方向溝および前記第3水平方向溝の開き角は、40°?90°であることを特徴とするプラスチックボトル。
【請求項2】
プラスチックボトルにおいて、
口部と、
前記口部に連結された肩部と、
前記肩部に連結された胴部と、
前記胴部に連結された底部とを備え、
前記胴部は、複数の水平方向溝と、各水平方向溝間に設けられた円筒面とを有し、
前記胴部は、前記肩部直下から前記底部直上まで全体にわたり、前記水平方向溝と前記円筒面とを交互に繰り返し配置した構造をもち、
前記複数の水平方向溝は、少なくとも3種類の深さの水平方向溝を含むとともに、少なくとも3種類の開き角の水平方向溝を含み、
前記複数の水平方向溝は、最大の深さをもつ第1水平方向溝と、中間の深さをもつ第2水平方向溝と、最小の深さをもつ第3水平方向溝とを含み、
前記第2水平方向溝が最大の開き角をもち、前記第1水平方向溝が中間の開き角をもち、前記第3水平方向溝が最小の開き角をもち、
前記第1水平方向溝、前記第2水平方向溝および前記第3水平方向溝の開き角は、45°?150°であることを特徴とするプラスチックボトル。
【請求項3】
各水平方向溝間に形成された複数の前記円筒面は、前記肩部直下から前記底部直上までいずれも均一な径を有することを特徴とする請求項1または2記載のプラスチックボトル。
【請求項4】
前記複数の水平方向溝は、前記胴部の上下方向中央部を基準として上下非対称に配置されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項記載のプラスチックボトル。
【請求項5】
前記複数の水平方向溝は、断面において平坦面からなる底面と、前記底面に連接する内側湾曲面と、前記内側湾曲面に連接するとともに前記円筒面に対して傾斜する側面と、前記側面と前記円筒面とを連結する外側湾曲面とを有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項記載のプラスチックボトル。

第3 特許異議の申立て理由の概要
申立人の主張する取消理由は、次のとおりである。
なお、申立人が本件特許異議申立書に添付した甲第1号証等をそれぞれ「甲1」等といい、甲1等に記載された発明あるいは事項を「甲1発明」等、「甲1事項」等という。

1 申立て理由1(特許法第36条第6項第1号)
本件発明は、特許請求の範囲の記載について、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではないため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。よって、本件発明に係る特許は、特許法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。

2 申立て理由2(特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号)
本件発明は、特許請求の範囲の記載について、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではないため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。また、本件発明は、発明の詳細な説明が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。よって、本件発明に係る特許は、特許法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。

3 申立て理由3(特許法第29条第1項第3号)
本件発明1、4?5は、甲1発明ないし甲3発明のいずれかであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない発明であり、本件発明1、4?5に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

4 申立て理由4(特許法第29条第2項)
本件発明2、3は、甲1発明ないし甲3発明のいずれか、及び従来周知事項に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない発明であり、本件発明2、3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

5 証拠の一覧
甲1:特開2012-111546号公報
甲2:特開2013-23277号公報
甲3:意匠登録第1452940公報

第4 刊行物の記載事項
1 甲1?3に記載された事項
(1)甲1の記載事項
甲1には、次の記載がある。
ア 【発明の名称】
「ボトル」

イ 【特許請求の範囲】
「合成樹脂材料で有底筒状に形成されたボトルであって、
底部の底壁部は、
外周縁部に位置する接地部と、
該接地部にボトル径方向の内側から連なり上方に向けて延びる立ち上がり周壁部と、
該立ち上がり周壁部の上端部からボトル径方向の内側に向けて突出する環状の可動壁部と、
該可動壁部のボトル径方向の内端部から上方に向けて延びる陥没周壁部と、を備え、
前記可動壁部は、前記陥没周壁部を上方に向けて移動させるように、前記立ち上がり周壁部との接続部分を中心に回動自在に配設され、
前記立ち上がり周壁部は、前記接地部から前記可動壁部との前記接続部分に向かうに従い漸次ボトル径方向の内側に向けて傾斜するように延在すると共に、その傾斜角度がボトル軸に対して0°以上、20°未満の角度をなし、
前記接地部から前記立ち上がり周壁部と前記可動壁部との前記接続部分までの高さが、3.5mm以上、7.5mm以下とされていることを特徴とするボトル。」(【請求項1】)

ウ 「そこで、本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、その目的は、ボトル内の減圧吸収性能を向上させることができるボトルを提供することである。」(段落【0005】)

エ 「以下、図面を参照し、本発明の実施形態に係るボトルを説明する。
本実施形態に係るボトル1は、図1から図3に示すように、口部11、肩部12、胴部13及び底部14を備え、これらがそれぞれの中心軸線を共通軸上に位置した状態でこの順に連設された概略構成とされている。」(段落【0014】)

オ 「以下、前記共通軸をボトル軸Oといい、ボトル軸O方向に沿って口部11側を上側、底部14側を下側という。また、ボトル軸Oに直交する方向をボトル径方向といい、ボトル軸Oを中心に周回する方向をボトル周方向という。
なお、ボトル1は、射出成形により有底筒状に形成されたプリフォームがブロー成形されて形成され、合成樹脂材料で一体に形成されている。また、口部11には、図示されないキャップが螺着される。更に、口部11、肩部12、胴部13及び底部14は、それぞれボトル軸Oに直交する横断面視形状が円形状とされている。」(段落【0015】)

カ 「肩部12と胴部13との間には、第1環状凹溝15が全周に亘って連続して形成されている。
胴部13は筒状に形成されていると共に、肩部12の下端部及び底部14の後述するヒール部17よりも小径に形成されている。また、この胴部13には、ボトル軸O方向に間隔を開けて複数の第2環状凹溝16が形成されている。図示の例では、ボトル軸O方向に等間隔を開けて第2環状凹溝16が4つ形成されている。これら各第2環状凹溝16は、胴部13の全周に亘って連続して形成された溝部とされている。」(段落【0016】)

キ 「底部14は、上端開口部が胴部13の下端開口部に接続されたヒール部17と、ヒール部17の下端開口部を閉塞し、且つ外周縁部が接地部18とされた底壁部19と、を備えるカップ状に形成されている。」(段落【0017】)

ク 「ヒール部17のうち、上記接地部18にボトル径方向の外側から連なるヒール下端部27は、該ヒール下端部27に上方から連なる上ヒール部28より小径に形成されている。なお、この上ヒール部28は、肩部12の下端部と共にボトル1の最大外径部とされている。」(段落【0018】)

ケ 「また、ヒール下端部27と上ヒール部28との連結部分29は、上方から下方に向かうに従い漸次縮径されており、これによりヒール下端部27が上ヒール部28より小径とされている。また、上ヒール部28には、上記第2環状凹溝16と略同じ深さの第3環状凹溝20が全周に亘って連続して形成されている。」(段落【0019】)




」(【図1】)

(2)甲2の記載事項
甲2には、次の記載がある。
ア 【発明の名称】
「ボトル」

イ 【特許請求の範囲】
「合成樹脂材料で有底筒状に形成されたボトルであって、
底部の底壁部は、
外周縁部に位置する接地部と、
該接地部にボトル径方向の内側から連なり上方に向けて延びる立ち上がり周壁部と、
該立ち上がり周壁部の上端部からボトル径方向の内側に向けて突出する環状の可動壁部と、
該可動壁部のボトル径方向の内端部から上方に向けて延びる陥没周壁部と、を備え、
前記可動壁部は、前記陥没周壁部を上方に向けて移動させるように、前記立ち上がり周壁部との接続部分を中心に回動自在に配設され、
前記立ち上がり周壁部には、ボトル径方向の内側に向けて窪み且つ上方に向けて開放された縦リブが、ボトル周方向に沿って複数形成されていることを特徴とするボトル。」(【請求項1】)

ウ 「そこで、本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、その目的は、ボトル内の減圧吸収性能を向上させることができるボトルを提供することである。」(段落【0005】)

エ 「以下、図面を参照し、本発明の実施形態に係るボトルを説明する。
(ボトルの構成)
本実施形態に係るボトル1は、図1に示すように、口部11、肩部12、胴部13及び底部14を備え、これらがそれぞれの中心軸線を共通軸上に位置した状態でこの順に連設された概略構成とされている。」(段落【0013】)

オ 「以下、前記共通軸をボトル軸Oといい、ボトル軸O方向に沿って口部11側を上側、底部14側を下側という。また、ボトル軸Oに直交する方向をボトル径方向といい、ボトル軸Oを中心に周回する方向をボトル周方向という。
なお、ボトル1は、射出成形により有底筒状に形成されたプリフォームがブロー成形されて形成され、合成樹脂材料で一体に形成されている。また、口部11には、図示されないキャップが螺着される。更に、口部11、肩部12、胴部13及び底部14は、それぞれボトル軸Oに直交する横断面視形状が円形状とされている。」(段落【0014】)

カ 「肩部12と胴部13との間には、第1環状凹溝15が全周に亘って連続して形成されている。
胴部13は筒状に形成されていると共に、肩部12の下端部及び底部14の後述するヒール部17よりも小径に形成されている。また、この胴部13には、ボトル軸O方向に間隔を開けて複数の第2環状凹溝16が形成されている。図示の例では、ボトル軸O方向に等間隔を開けて第2環状凹溝16が5つ形成されている。これら各第2環状凹溝16は、胴部13の全周に亘って連続して形成された溝部とされている。」(段落【0015】)

キ 「底部14は、上端開口部が胴部13の下端開口部に接続されたヒール部17と、ヒール部17の下端開口部を閉塞し、且つ外周縁部が接地部18とされた底壁部19と、を備えるカップ状に形成されている。」(段落【0016】)

ク 「ヒール部17のうち、上記接地部18にボトル径方向の外側から連なるヒール下端部27は、該ヒール下端部27に上方から連なる上ヒール部28より小径に形成されている。なお、この上ヒール部28は、肩部12の下端部と共にボトル1の最大外径部とされている。」(段落【0017】)

ケ 「また、ヒール下端部27と上ヒール部28との連結部分29は、上方から下方に向かうに従い漸次縮径されており、これによりヒール下端部27が上ヒール部28より小径とされている。また、上ヒール部28には、例えば上記第1環状凹溝15と略同じ深さの複数の第3環状凹溝20が全周に亘って連続して形成されている。図示の例では、ボトル軸O方向に間隔を開けて第3環状凹溝20が2つ形成されている」(段落【0018】)




」(【図1】)

(3)甲3の記載事項
甲3には、次の記載がある。
ア 【意匠に係る物品】
「包装用容器」

イ 【意匠に係る物品の説明】
「本物品に係る包装用容器は、底部の上げ底された箇所において、容器外方に凸となる曲面状底板に螺旋形放射状リブを備えている。そして、本物品がポリエチレンテレフタレートなどの合成樹脂製の薄肉容器である場合、以下の効果がある。まず、容器内に室温より高い温度の飲料、調味料などの液体を充填し、口部をキャップなどで密封後、容器が充填した液体の自重による荷重を受けつつ温められ、また、容器内が充填した液体の蒸気圧等により大気圧を超える陽圧となった場合、上記容器外方に凸となる曲面状底板の「耐膨出適性」と、上記螺旋形放射状リブの「熱による異常変形の抑制」との効果により、上げ底部が容器外方に異常形態に膨出するのを抑制する。次に密封後に、容器内に充填した液体が室温以下に冷めて容器内の蒸気の凝集や液体の温度低下による体積減容等により、容器内が大気圧未満の負圧となった場合、上記螺旋形放射状リブの、「曲面状底板が容器内方に撓みやすくなる効果」により、曲面状底板が容器内方に引き込まれることで容器が減容し、容器内の負圧を緩和する。」

ウ 【図面】



」(【正面図】)

第5 検討
1 申立て理由1(特許法第36条第6項第1号)について
(1)本件特許明細書には、以下の記載がある。

ア 【背景技術】
「近時、飲食品等の内容液を収容するボトルとして、プラスチック製のものが一般化してきている。」(段落【0002】)

イ 「このような内容液を収容するプラスチックボトルは、全体として軽量化が求められている。また、一般に、プラスチックボトルに内容液を充填した後、内容液の比重が変化したり、内容液がプラスチックボトルの空寸部に存在する酸素を吸収したりするため、ボトル内部が減圧する現象が知られている。しかしながら、プラスチックボトルを軽量化した場合、その厚みが薄くなるため、このような減圧が生じた場合にプラスチックボトルが変形しやすくなってしまう。」(段落【0003】)

ウ 【発明が解決しようとする課題】
「一方、プラスチックボトルの胴部に減圧吸収パネルを設けることにより、プラスチックボトル内部の減圧を吸収する技術も知られている(特許文献1)。しかしながら、このような減圧吸収パネルを設けた場合、減圧吸収パネルの大きさの分、プラスチックボトルの容量が減少してしまうという問題がある。」(段落【0005】)

エ 「また、プラスチックボトルの胴部に周状リブを等間隔に配置したものも知られているが(特許文献2)、このプラスチックボトルを軽量化した場合、ボトル内部の減圧を十分に吸収することは難しい。一方、周状リブを大きくすることも考えられるが、この場合、プラスチックボトルの容量が減少してしまうおそれがある。」(段落【0006】)

オ 「本発明はこのような点を考慮してなされたものであり、プラスチックボトルを軽量化した場合であっても、その容量を確保するとともに、ボトル内部の減圧による変形を防止することが可能なプラスチックボトルを提供することを目的とする。」(段落【0007】)

カ 【課題を解決するための手段】
「本発明は、プラスチックボトルにおいて、口部と、前記口部に連結された肩部と、前記肩部に連結された胴部と、前記胴部に連結された底部とを備え、前記胴部は、複数の水平方向溝と、各水平方向溝間に設けられた円筒面とを有し、前記胴部は、前記肩部直下から前記底部直上まで全体にわたり、前記水平方向溝と前記円筒面とを交互に繰り返し配置した構造をもち、前記複数の水平方向溝は、少なくとも3種類の深さの水平方向溝を含むか、又は、少なくとも3種類の開き角の水平方向溝を含むことを特徴とするプラスチックボトルである。」(段落【0008】)

(2)上記ア?カの記載から、プラスチックボトルを軽量化しようとして、その厚みを薄くした場合は、ボトル内部が減圧した場合にプラスチックボトルが変形しやすくなるとの問題点があり、従来は、プラスチックボトルの胴部に減圧吸収パネルを設けたり、プラスチックボトルの胴部に周状リブを等間隔に配置することで、ボトル内部に生じる減圧を吸収しようとしたところ、減圧吸収パネルでは、その大きさの分、プラスチックボトルの容量が減少するとの問題点、等間隔に周状リブを配置することは、減圧を十分に吸収することが難しく、一方、周状リブを大きくすると、プラスチックボトルの容量が減少してしまうおそれがある、との問題点があった。
本件発明は、当該問題点を解決し、プラスチックボトルを軽量化した場合であっても、その容量を確保するとともに、ボトル内部の減圧による変形を防止することが可能なプラスチックボトルを提供することを課題とするものであることが、理解できる。

(3)ここで、本件発明1及び2は、「前記胴部は、複数の水平方向溝と、各水平方向溝間に設けられた円筒面とを有し、前記胴部は、前記肩部直下から前記底部直上まで全体にわたり、前記水平方向溝と前記円筒面とを交互に繰り返し配置した構造」を備えるようにしたものである。
上記構成を備えることで、本件発明1及び2は、上記減圧吸収パネルを設けないので、上記ボトル容量が減少することはない。さらに、本件発明1及び2は、「複数の水平方向溝は、少なくとも3種類の深さの水平方向溝を含」み、「前記複数の水平方向溝は、最大の深さをもつ第1水平方向溝と、中間の深さをもつ第2水平方向溝と、最小の深さをもつ第3水平方向溝とを含」むものであり、「胴部20にそれぞれ異なる深さを有する複数の水平方向溝22?24が形成されている。このことにより、胴部20のうち変形しやすい部分の強度を重点的に高めるとともに、プラスチックボトル10の内部が減圧した際にその減圧を吸収すること」ができ、また、「水平方向溝22?24を設けたことに伴ってプラスチックボトル10の容量が大きく減少することがなく、その容量を確保すること」ができるものである。(本件特許明細書段落【0056】)
以上のとおりであるから、本件発明1及び2は、上記本件発明の課題を解決することが理解できる。

(4)申立人の主張について
ア 申立人は、特許発明1?2について、3種類の水平方向溝を各1本ずつ計3本しか有さない場合は、ボトル内部の減圧による変形を防止する効果はほとんどなく、または胴部がほぼすべて3種類の水平方向溝のいずれかで構成された場合は、ボトル内部の減圧によりボトルの形状が容易に変形してしまうと考えられることから、特許発明1?2が、本発明の課題を解決できるのか不明であるため、発明の詳細な説明に記載された発明の内容を特許発明1?2にまで拡張ないし一般化できると言えない、と主張している。(異議申立書3.(4)(4-2)(i))

イ しかし、申立人の主張するように、3種類の水平方向溝を各1本ずつ計3本しか有さない場合であっても、程度の差こそあれ、上記本件発明の課題を解決することは、当業者にとって明らかであり、さらに、例えばプラスチックボトルの容量が小さいものは、ボトル内部の減圧による変形を吸収するために必要なボトル体積の減少量は小さくてよいため、計3本の水平方向溝であっても変形防止の効果が顕著なものとなることは明らかである。
また、申立人の主張するように、胴部がほぼすべて3種類の水平方向溝のいずれかで構成された場合であっても、例えばプラスチックボトルの材質が硬い、又は厚いものは、水平方向溝1本当たりの変形量が小さく、また材質や厚さの影響もあって全体として強度が高いため、多数の水平方向溝があっても、ボトル内部の減圧によりボトルの形状が容易に変形することがないことは、技術常識からみて明らかである。
よって、申立人の上記主張は、採用することができない。

(5)小括
以上によれば、本件発明1及び2について、当業者は、本件特許明細書の記載により本件発明の課題を解決できると認識することができる。
また、本件発明3?5は、それぞれ本件発明1、または2を引用するものであるから、本件発明3?5についても、当業者は、本件特許明細書の記載により本件発明の課題を解決できると認識することができる。
したがって、本件特許請求の範囲の記載は、本件発明1及び2、並びに本件発明1、2を引用する本件発明3?5が、当業者が出願時の技術常識に照らし上記本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでないとはいえない。
よって、本件特許の請求の範囲の記載は、特許法第36条6項第1号に規定する要件をみたさないとはいえないから、本件発明1?5に係る特許は、特許法第113条第4号の規定に該当せず、取り消すことはできない。

2 申立て理由2(特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号)について
(1)実施可能要件違反(特許法第36条第4項第1号)について
ア 本件発明1について
本件特許明細書の段落【0058】?【0075】に記載された実施例1は、段落【0059】に「まず、図1乃至図4に示す構成からなる、容量615mlのプラスチックボトル10を作製した。」と記載されているから、本件特許明細書の【図1】?【図4】、及び【図1】?【図4】の説明である段落【0019】?【0057】の記載もあわせみると、実施例1が本件発明1の実施例に相当することは明らかである。
すなわち、本件発明1は、実施例1として記載されているのだから、実施ができる程度に記載されているものである。

次に、本件発明の課題については、上記「第5 1(2)」で示したように、プラスチックボトルを軽量化した場合であっても、その容量を確保するとともに、ボトル内部の減圧による変形を防止することが可能なプラスチックボトルを提供することにある。
そして、本件特許明細書の段落【0071】?【0075】の記載、特に「実施例のプラスチックボトル10においては、密閉した容器に充填した内容物をその容量の2%だけ抜き取った際、プラスチックボトル10の全高が1%以上低くなることが判明した。」(段落【0071】)、「実施例によるプラスチックボトル10は、内部が負圧になっても大変形(陥没変形、楕円変形、屈曲変形等)が生じにくい形状であることが確認できた。」(段落【0073】)、「なお、上記については、プラスチックボトルの重量が18.3gのものと28gのものとの両方について当てはまる。」(段落【0075】)なる記載から、実施例1は、プラスチックボトルを軽量化した場合であっても、減圧吸収パネルを設けないことでその容量を確保するとともに、プラスチックボトルの内部が減圧した際にその減圧を吸収し、またボトル内部の減圧による変形を防止するという、本件発明の課題を解決していることが理解できる。
よって、本件特許明細書は、当業者が本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているということができる。

イ 本件発明2について
本件特許明細書の段落【0076】?【0101】に記載された実施例2は、段落【0076】に「図5乃至図7に示す第2の実施の形態は、胴部20が、少なくとも3種類の開き角をもつ複数の水平方向溝27?29を含む点が異なるものであり、他の構成は上述した第1の実施の形態と略同一である。」と記載されており、実施例1とは「胴部20が、少なくとも3種類の開き角をもつ複数の水平方向溝27?29を含む点」が異なるだけであって、その他の構成は実施例1と同じであるから、実施例2が本件発明2の実施例に相当することは明らかである。
すなわち、本件発明2は、実施例2として記載されているのだから、当業者が実施することができる程度に記載されているものである。

そして、本件特許明細書の段落【0076】?【0101】の記載、特に「第3水平方向溝29の深さが(例えば第1水平方向溝27又は第2水平方向溝28程度に)大きすぎないことにより、プラスチックボトル10Aの容量が減少することを防止することができる。」(段落【0084】)、「水平方向溝27?29の開き角R_(1)?R_(3)をこの範囲にした場合、減圧時に上下方向の変形が容易であり、且つ垂直荷重、側壁荷重時の強度が優れているという効果が得られる。」(段落【0095】)、「このように水平方向溝27?29が上下方向に変形するので、プラスチックボトル10Aが高さ方向に減縮する。この結果、プラスチックボトル10Aの体積が全体として減少し、ボトルの減圧分を吸収することができる。一方、プラスチックボトル10Aには、外観上大きな変形は生じない。」(段落【0099】)、「胴部20のうち変形しやすい部分の強度を重点的に高めるとともに、プラスチックボトル10Aの内部が減圧した際にその減圧を吸収することができる。また、水平方向溝27?29を設けたことに伴ってプラスチックボトル10の容量が大きく減少することがなく、その容量を確保することができる。」(段落【0100】)なる記載から、実施例2は、プラスチックボトルを軽量化した場合であっても、減圧吸収パネルを設けないことでその容量を確保するとともに、プラスチックボトルの内部が減圧した際にその減圧を吸収し、またボトル内部の減圧による変形を防止するという、本件発明の課題を解決していることが理解できる。
よって、本件特許明細書は、当業者が本件発明2を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているということができる。

ウ 申立人の主張について
(ア)申立人は、3種類の水平方向溝の深さ「da、db、dc」が具体的にどの程度の数値範囲を有するものなのか説明が記載されていないことから、記載が不明確である、と主張している。(異議申立書3.(4)(4-2)(ii))

(イ)ここで、プラスチックボトルの容量の大小や内容物によって、要求されるボトル体積の減少量が大きく変わること、さらにプラスチックボトルの材質や厚さによって、水平方向溝1本当たりの変形量が異なるものとなることなどの各種条件が、3種類の水平方向溝の深さを定める際に大きな影響を与えることは自明である。
そうすると、上記のような各種条件と無関係に、3種類の水平方向溝の深さ「da、db、dc」の具体的数値範囲を定める必要がないことは明らかである。
よって、申立人の上記主張は、採用することができない。

エ 小括
したがって、本件特許明細書は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないとはいえない。
よって、本件特許明細書の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件をみたさないとはいえないから、本件特許は、特許法第113条第4号の規定に該当せず、取り消すことはできない。

(2)サポート要件違反(特許法第36条第6項第1号)について
ア 申立人は、申立て理由2として、本件発明1?5が特許法第36条第6項第1号の規定に違反している旨主張しているが、上記「第5 1申立て理由1」で示したように、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものである。

イ ここで、申立人は、特許発明1?2について、厚み250μm、da=25μm、db=20μm、dc=15μmの場合は、ボトルがほとんど収縮しないことから変形を防止する効果はなく、厚み50μm、da=1000μm、db=800μm、dc=500μmの場合は、ボトル内部の減圧によりボトルの形状が容易に変形すると考えられることから、特許発明1?2が、本発明の課題を解決することができるのか不明であるため、発明の詳細な説明に記載された発明の内容を特許発明1?2にまで拡張ないし一般化できると言えない、と主張している。(異議申立書3.(4)(4-2)(ii))

ウ しかし、申立人の主張するように、厚み250μm、da=25μm、db=20μm、dc=15μmの場合であっても、程度の差こそあれ、上記本件発明の課題を解決することは、当業者にとって明らかであり、さらに、例えばプラスチックボトルの容量が小さいものは、ボトル内部の減圧による変形を吸収するために必要なボトル体積の減少量は小さくてよいため、そのような厚み、深さであっても変形防止の効果が顕著なものとなることは、明らかである。
また、申立人の主張するような厚み50μm、da=1000μm、db=800μm、dc=500μmの場合は、厚みの10?20倍という極端な深さであり、そのような極端な形状のプラスチックボトルの要求があるのか否か疑わしいものではあるけれども、例えばプラスチックボトルの材質が極端に硬いものなどは、水平方向溝1本当たりの変形量が極端に小さく、また材質の影響もあって全体として強度が高いため、そのような極端な厚み、深さであっても、ボトル内部の減圧によりボトルの形状が容易に変形することがないことは、技術常識からみて明らかである。
よって、申立人の上記主張は、採用することができない。

エ 小括
以上によれば、本件発明1及び2について、当業者は、本件特許明細書の記載により本件発明の課題を解決できると認識することができる。
また、本件発明3?5は、それぞれ本件発明1、または2を引用するものであるから、本件発明3?5についても、当業者は、本件特許明細書の記載により本件発明の課題を解決できると認識することができる。
したがって、本件特許請求の範囲の記載は、本件発明1及び2、並びに本件発明1、2を引用する本件発明3?5が、当業者が出願時の技術常識に照らし上記本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでないとはいえない。
よって、本件特許の請求の範囲の記載は、特許法第36条6項第1号に規定する要件をみたさないとはいえないから、本件発明1?5に係る特許は、特許法第113条第4号の規定に該当せず、取り消すことはできない。

3 申立て理由3(特許法第29条第1項第3号)について
(1)甲1発明を主とする新規性について
ア 本件発明1について
(ア)甲1発明
a 申立人は、甲1の図1を拡大して観察すると、第1環状凹溝15、第2環状凹溝16および第3環状凹溝20の溝深さはそれぞれ異なると主張している。(異議申立書3.(4)(4-3-1)(ア))
しかしながら、甲1の段落【0019】には「上記第2環状凹溝16と略同じ深さの第3環状凹溝20」と記載されている。
すなわち、甲1の【図1】において、第2環状凹溝16の溝深さと第3環状凹溝20の溝深さが異なるように見えたとしても、特許出願書類の図面は、出願に関する技術的事項をわかりやすく説明するためのものであるから、図面に記載されたものにおける寸法、形状等は、設計図面のように正確であるとはいえない。
また、甲1には、上記のように第2環状凹溝16の溝深さと第3環状凹溝20の溝深さが略同じ深さであると明記されているのだから、甲1の第2環状凹溝16の溝深さと第3環状凹溝20の溝深さが異なるものであるということはできない。
よって、本件発明1の発明特定事項である
「前記複数の水平方向溝は、少なくとも3種類の深さの水平方向溝を含み、
前記複数の水平方向溝は、最大の深さをもつ第1水平方向溝と、中間の深さをもつ第2水平方向溝と、最小の深さをもつ第3水平方向溝とを含み、」
とする点を、甲1発明が備えたものであるとはいえない。

b 申立人は、甲1の図1を拡大して観察すると、第1環状凹溝15、第2環状凹溝16および第3環状凹溝20それぞれの溝の開き角を測定するとすべて61°で同一であると主張している。(異議申立書3.(4)(4-3-1)(ア))
しかしながら、上述のように、特許出願書類の図面に記載されたものにおける寸法、形状等は、設計図面のように正確であるとはいえない。
また、甲1においても各図面の寸法、形状等が正確である旨の記載はない上に、第1環状凹溝15、第2環状凹溝16および第3環状凹溝20それぞれの溝の開き角を同一とする直接的、間接的記載もなく、開き角に関する技術的思想の記載も示唆もない。
さらに、申立人が本件特許異議申立書に添付した甲1の【図1】の拡大図は、拡大によって輪郭が階段状になっているため、第1環状凹溝15、第2環状凹溝16および第3環状凹溝20の開き角を正確に測定することが困難であるといわざるを得ず、申立人の主張する61°という測定値を、直ちに採用することはできない。
すなわち、甲1の【図1】は、第1環状凹溝15、第2環状凹溝16および第3環状凹溝20それぞれの溝の開き角が近い角度であるように描かれていることがみてとれる、という程度であって、それぞれの溝の開き角が61°であり、また同一であるということが甲1の【図1】に記載されているということはできない。
よって、本件発明1の発明特定事項である
「前記第1水平方向溝、前記第2水平方向溝および前記第3水平方向溝の開き角は、全て同一であり、
前記第1水平方向溝、前記第2水平方向溝および前記第3水平方向溝の開き角は、40°?90°である」
とする点を、甲1発明が備えたものであるとはいえない。

c 上記a、bを踏まえると、上記「第4 1(1)」のア?ケの記載、及びコの図示から、甲1には、次の甲1発明が記載されている。
「口部11と、
前記口部11に連結された肩部12と、
前記肩部12に連結された胴部13と、
前記胴部13に連結された底部14とを備え、
前記胴部13は、1つの第1環状凹溝15と、4つの第2環状凹溝16と、第1環状凹溝15と第2環状凹溝16の間にそれぞれ設けられた円筒面とを有し、
前記底部14の上ヒール部28は、1つの第3環状凹溝20を有し、
前記上ヒール部28は、ボトル1の最大外径部とされ、
前記胴部13は、前記肩部12直下から前記底部14直上まで全体にわたり、前記第1環状凹溝15、及び前記第2環状凹溝16と前記円筒面とを交互に繰り返し配置した構造をもち、
前記第2環状凹溝16と前記第3環状凹溝20が略同じ深さである、合成樹脂材料で一体に形成されたボトル1。」

(イ)本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明を対比すると、少なくとも次の点で相違する。
<相違点A1-(1)>
水平方向溝の深さについて、本件発明1は、
「前記複数の水平方向溝は、少なくとも3種類の深さの水平方向溝を含み、
前記複数の水平方向溝は、最大の深さをもつ第1水平方向溝と、中間の深さをもつ第2水平方向溝と、最小の深さをもつ第3水平方向溝とを含み、」
としているのに対して、甲1発明は、第2環状凹溝16と第3環状凹溝20が略同じ深さであり、第1環状凹溝15と、第2環状凹溝16及び第3環状凹溝20との深さの関係が不明である点。

<相違点B1-(1)>
水平方向溝の開き角について、本件発明1は、
「前記第1水平方向溝、前記第2水平方向溝および前記第3水平方向溝の開き角は、全て同一であり、
前記第1水平方向溝、前記第2水平方向溝および前記第3水平方向溝の開き角は、40°?90°である」
としているのに対して、甲1発明は、第1環状凹溝15、第2環状凹溝16、第3環状凹溝20の開き角が不明である点。

<相違点C1-(1)>
水平方向溝の配置について、本件発明1は、
「前記胴部は、複数の水平方向溝と、各水平方向溝間に設けられた円筒面とを有し、
前記胴部は、前記肩部直下から前記底部直上まで全体にわたり、前記水平方向溝と前記円筒面とを交互に繰り返し配置した構造をもち」
としており、すべての水平方向溝が胴部に設けられると共に、水平方向溝と円筒面とを交互に繰り返し配置した構造としているのに対して、甲1発明は、第3環状凹溝20が底部14の上ヒール部28に設けられており、第3環状凹溝20の直上は胴部の円筒面ではない点。

(ウ)相違点についての検討
<相違点A1-(1)>について
相違点A1-(1)は、水平方向溝の深さについての相違点であり、本件発明1は、当該相違点A1-(1)に係る構成により、「胴部20にそれぞれ異なる深さを有する複数の水平方向溝22?24が形成されている。このことにより、胴部20のうち変形しやすい部分の強度を重点的に高めるとともに、プラスチックボトル10の内部が減圧した際にその減圧を吸収することができる。」(本件特許明細書段落【0056】)、「第3水平方向溝24の深さが(例えば第1水平方向溝22又は第2水平方向溝23程度に)大きすぎないことにより、プラスチックボトル10の容量が減少することを防止することができる。」(本件特許明細書段落【0030】)、との作用効果を奏するから、形式的な相違点ではなく、実質的な相違点である。

<相違点B1-(1)>について
相違点B1-(1)は、水平方向溝の開き角についての相違点であり、本件発明1は、当該相違点B1-(1)に係る構成により、「水平方向溝22?24の開き角R_(x)を全て同一にしたことにより、垂直荷重時に応力の局所集中が生じづらく、均一に負荷が掛かる為、容器全体の剛性が増す。」(本件特許明細書段落【0043】)、「水平方向溝22?24の開き角R_(x)をこの範囲にした場合、減圧時に上下方向の変形が容易であり、且つ垂直荷重、側壁荷重時の強度が優れているという効果が得られる。」(本件特許明細書段落【0044】)、との作用効果を奏するから、形式的な相違点ではなく、実質的な相違点である。

<相違点C1-(1)>について
相違点C1-(1)は、水平方向溝の配置と胴部形状の関係についての相違点であり、本件発明1は、当該相違点C1-(1)に係る構成により、「各水平方向溝22?24間に形成された複数の円筒面25は、肩部12の直下から底部30の直上までいずれも均一な径を有している。これにより、プラスチックボトル10を自動販売機内で横向きに収納した際、隣接する他のプラスチックボトル10に対して広い面積で接触させることができるので、自動販売機内で胴部20が変形することを防止することができる。」(本件特許明細書段落【0035】)、「胴部20は、各水平方向溝22?24および円筒面25のみから構成されているので、胴部20に減圧吸収パネルを設ける必要が無い。このため、減圧吸収パネルによってプラスチックボトル10の容量が大きく減少することもない。」(本件特許明細書段落【0055】)、との作用効果を奏するから、形式的な相違点ではなく、実質的な相違点である。

したがって、本件発明1は、甲1発明であるとはいえないので、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。

イ 本件発明4?5について
本件発明4?5は、本件発明1を引用し、さらに構成を限定する発明であって、相違点A1-(1)?相違点C1-(1)を包含するものである。
したがって、本件発明4?5は、本件発明1と同様に甲1発明であるとはいえないので、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。

(2)甲2発明を主とする新規性について
ア 本件発明1について
(ア)甲2発明
a 申立人は、甲2の図1を拡大して観察すると、第1環状凹溝15、第2環状凹溝16および第3環状凹溝20の溝深さはそれぞれ異なると主張している。(異議申立書3.(4)(4-3-1)(イ))
しかしながら、甲2の段落【0018】には、「上記第1環状凹溝15と略同じ深さの複数の第3環状凹溝20」と記載されている。
すなわち、甲2の【図1】において、第1環状凹溝15の溝深さと第3環状凹溝20の溝深さが異なるように見えたとしても、上述のように、特許出願書類の図面に記載されたものにおける寸法、形状等は、設計図面のように正確であるとはいえない。
また、甲2には、上記のように略同じ深さと明記されているのだから、甲2の第1環状凹溝15の溝深さと第3環状凹溝20の溝深さが異なるものであるということはできない。
よって、本件発明1の発明特定事項である
「前記複数の水平方向溝は、少なくとも3種類の深さの水平方向溝を含み、
前記複数の水平方向溝は、最大の深さをもつ第1水平方向溝と、中間の深さをもつ第2水平方向溝と、最小の深さをもつ第3水平方向溝とを含み、」
とする点を、甲2発明が備えたものであるとはいえない。

b 申立人は、甲2の図1を拡大して観察すると、第1環状凹溝15、第2環状凹溝16および第3環状凹溝20それぞれの溝の開き角を測定するとすべて80°で同一であると主張している。(異議申立書3.(4)(4-3-1)(イ))
しかしながら、上述のように、特許出願書類の図面に記載されたものにおける寸法、形状等は、設計図面のように正確であるとはいえない。
また、甲2においても各図面の寸法、形状等が正確である旨の記載はない上に、第1環状凹溝15、第2環状凹溝16および第3環状凹溝20それぞれの溝の開き角を同一とする直接的、間接的記載もなく、開き角に関する技術的思想の記載も示唆もない。
さらに、申立人が本件特許異議申立書に添付した甲2の【図1】の拡大図は、拡大によって輪郭が階段状になっているため、第1環状凹溝15、第2環状凹溝16および第3環状凹溝20の開き角を正確に測定することが困難であるといわざるを得ず、申立人の主張する80°という測定値を、直ちに採用することはできない。
すなわち、甲2の【図1】は、第1環状凹溝15、第2環状凹溝16および第3環状凹溝20それぞれの溝の開き角が近い角度であるように描かれていることがみてとれる、という程度であって、それぞれの溝の開き角が80°であり、また同一であるということが甲2の【図1】に記載されているということはできない。
よって、本件発明1の発明特定事項である
「前記第1水平方向溝、前記第2水平方向溝および前記第3水平方向溝の開き角は、全て同一であり、
前記第1水平方向溝、前記第2水平方向溝および前記第3水平方向溝の開き角は、40°?90°である」
とする点を、甲2発明が備えたものであるとはいえない。

c 上記a、bを踏まえると、上記「第4 1(2)」のア?ケの記載、及びコの図示から、甲2には、次の甲2発明が記載されている。
「口部11と、
前記口部11に連結された肩部12と、
前記肩部12に連結された胴部13と、
前記胴部13に連結された底部14とを備え、
前記胴部13は、1つの第1環状凹溝15と、5つの第2環状凹溝16と、第1環状凹溝15と第2環状凹溝16の間にそれぞれ設けられた円筒面とを有し、
前記底部14の上ヒール部28は、2つの第3環状凹溝20を有し、
前記上ヒール部28は、ボトル1の最大外径部とされ、
前記胴部13は、前記肩部12直下から前記底部14直上まで全体にわたり、前記第1環状凹溝15、及び前記第2環状凹溝16と前記円筒面とを交互に繰り返し配置した構造をもち、
前記第1環状凹溝15と前記第3環状凹溝20が略同じ深さである、合成樹脂材料で一体に形成されたボトル1。」

(イ)本件発明1と甲2発明との対比
本件発明1と甲2発明を対比すると、少なくとも次の点で相違する。
<相違点A1-(2)>
水平方向溝の深さについて、本件発明1は、
「前記複数の水平方向溝は、少なくとも3種類の深さの水平方向溝を含み、
前記複数の水平方向溝は、最大の深さをもつ第1水平方向溝と、中間の深さをもつ第2水平方向溝と、最小の深さをもつ第3水平方向溝とを含み、」
としているのに対して、甲2発明は、第1環状凹溝15と第3環状凹溝20が略同じ深さであり、第2環状凹溝16と、第1環状凹溝15及び第3環状凹溝20との深さの関係が不明である点。

<相違点B1-(2)>
水平方向溝の開き角について、本件発明1は、
「前記第1水平方向溝、前記第2水平方向溝および前記第3水平方向溝の開き角は、全て同一であり、
前記第1水平方向溝、前記第2水平方向溝および前記第3水平方向溝の開き角は、40°?90°である」
としているのに対して、甲2発明は、第1環状凹溝15、第2環状凹溝16、第3環状凹溝20の開き角が不明である点。

<相違点C1-(2)>
水平方向溝の配置について、本件発明1は、
「前記胴部は、複数の水平方向溝と、各水平方向溝間に設けられた円筒面とを有し、
前記胴部は、前記肩部直下から前記底部直上まで全体にわたり、前記水平方向溝と前記円筒面とを交互に繰り返し配置した構造をもち」
としており、すべての水平方向溝が胴部に設けられると共に、水平方向溝と円筒面とを交互に繰り返し配置した構造としているのに対して、甲2発明は、第3環状凹溝20が底部14の上ヒール部28に設けられており、第3環状凹溝20の直上は胴部の円筒面ではない点。

(ウ)相違点についての検討
<相違点A1-(2)>について
甲2発明と本件発明1の相違点A1-(2)は、甲1発明と本件発明1の相違点A1-(1)と同じ本件発明1の発明特定事項に関するものである。
よって、本件発明1は、上記「第5 3(1)ア(ウ)<相違点A1-(1)>について」で示したように、 相違点A1-(2)に係る構成による作用効果を奏するものであるから、相違点A1-(2)は、形式的な相違点ではなく、実質的な相違点である。

<相違点B1-(2)>について
甲2発明と本件発明1の相違点B1-(2)は、甲1発明と本件発明1の相違点B1-(1)と同じ本件発明1の発明特定事項に関するものである。
よって、本件発明1は、上記「第5 3(1)ア(ウ)<相違点B1-(1)>について」で示したように、 相違点B1-(2)に係る構成による作用効果を奏するものであるから、相違点B1-(2)は、形式的な相違点ではなく、実質的な相違点である。

<相違点C1-(2)>について
甲2発明と本件発明1の相違点C1-(2)は、甲1発明と本件発明1の相違点C1-(1)と同じ本件発明1の発明特定事項に関するものである。
よって、本件発明1は、上記「第5 3(1)ア(ウ)<相違点C1-(1)>について」で示したように、 相違点C1-(2)に係る構成による作用効果を奏するものであるから、相違点C1-(2)は、形式的な相違点ではなく、実質的な相違点である。

したがって、本件発明1は、甲2発明であるとはいえないので、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。

イ 本件発明4?5について
本件発明4?5は、本件発明1を引用し、さらに構成を限定する発明であって、相違点A1-(2)?相違点C1-(2)を包含するものである。
したがって、本件発明4?5は、本件発明1と同様に甲2発明であるとはいえないので、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。

(3)甲3発明を主とする新規性について
ア 本件発明1について
(ア)甲3発明
a 甲3の上記「第4 1(3)」のエの図示をみると、上から3番目の溝と4番目の溝の間には、上から下に向かって拡径するとともに、拡径する部分に半円形の平面が円周方向に並べられた、略角錐台形状の拡径部が存在していること、また、上から1?3番目の溝が配置された部分を胴体部分とすると、拡径部から下は、胴部よりも大径となっており(以下「大径部分」という)であり、その大径部分に上から4番目の溝が配置されていることがみてとれる。

b 申立人は、甲3の正面図を拡大して観察すると、4つの水平方向に設けられた溝について、上から1番目と3番目の溝は同一の形状、深さを有しており、上から2番目はそれより深い溝であり、上から4番目はそれより浅い溝であること、及び4本の水平方向溝の開き角を測定するとすべて60°であると主張している。(異議申立書3.(4)(4-3-1)(ウ))
しかしながら、意匠出願書類の図面が正確な形状をあらわすことが求められるとしても、【正面図】ないし【右側面図】に描かれた4本の溝は、その大きさが小さいため、正確な深さ、開き角を測定することが困難であるし、申立人が本件特許異議申立書に添付した甲3の【正面図】の拡大図をもってしても、拡大によって輪郭が階段状になっているため、各水平方向溝の深さ、開き角を正確に測定することが困難であるといわざるを得ず、申立人の主張する深さの関係や60°という測定値を直ちに採用することはできない。
さらに、甲3には、水平方向溝の形状、深さ、開き角等について何ら記載がなく、水平方向溝の形状、開き角を同一とすることや、深さを3種類とする技術的思想についての記載も示唆もない。
すなわち、甲3の【正面図】ないし【右側面図】は、4本の溝の深さが異なるように描かれていることがみてとれる、また、4本の溝それぞれの開き角が近い角度であるように描かれていることがみてとれる、という程度であって、溝の深さが3種類あるということや、それぞれの溝の開き角が60°であり、また同一であるといったことが甲3の【図面】に記載されているということはできない。
よって、本件発明1の発明特定事項である
「前記複数の水平方向溝は、少なくとも3種類の深さの水平方向溝を含み、
前記複数の水平方向溝は、最大の深さをもつ第1水平方向溝と、中間の深さをもつ第2水平方向溝と、最小の深さをもつ第3水平方向溝とを含み、」
及び
「前記第1水平方向溝、前記第2水平方向溝および前記第3水平方向溝の開き角は、全て同一であり、
前記第1水平方向溝、前記第2水平方向溝および前記第3水平方向溝の開き角は、40°?90°である」
とする点を、甲3発明が備えたものであるとはいえない。

c 上記a、bを踏まえると、上記「第4 1(3)」のア?ウの記載、及びエの図示から、甲3には、次の甲3発明が記載されている。
「 口部と、
前記口部に連結された肩部と、
前記肩部に連結された胴体部分と、
前記胴体部分に連結された底部とを備え、
前記胴体部分は、上から1?3番目の水平方向に設けられた溝と、前記上から1?3番目の水平方向に設けられた溝間にそれぞれ設けられた円筒面とを有し、
前記胴体部分の下方に位置する大径部分は、上から4番目の水平方向に設けられた溝を有し、
前記胴体部分は、前記肩部直下から拡径部直上まで全体にわたり、前記上から1?3番目の水平方向に設けられた溝と前記円筒面とを交互に繰り返し配置した構造をもつ、合成樹脂製の包装用容器。」

(イ)本件発明1と甲3発明との対比
本件発明1と甲3発明を対比すると、少なくとも次の点で相違する。
<相違点A1-(3)>
水平方向溝の深さについて、本件発明1は、
「前記複数の水平方向溝は、少なくとも3種類の深さの水平方向溝を含み、
前記複数の水平方向溝は、最大の深さをもつ第1水平方向溝と、中間の深さをもつ第2水平方向溝と、最小の深さをもつ第3水平方向溝とを含み、」
としているのに対して、甲3発明は4本の溝の深さの関係が不明である点。

<相違点B1-(3)>
水平方向溝の開き角について、本件発明1は、
「前記第1水平方向溝、前記第2水平方向溝および前記第3水平方向溝の開き角は、全て同一であり、
前記第1水平方向溝、前記第2水平方向溝および前記第3水平方向溝の開き角は、40°?90°である」
としているのに対して、甲3発明は、4本の溝の開き角が不明である点。

<相違点C1-(3)>
水平方向溝の配置について、本件発明1は、
「前記胴部は、複数の水平方向溝と、各水平方向溝間に設けられた円筒面とを有し、
前記胴部は、前記肩部直下から前記底部直上まで全体にわたり、前記水平方向溝と前記円筒面とを交互に繰り返し配置した構造をもち」
としており、すべての水平方向溝が胴部に設けられると共に、水平方向溝と円筒面とを交互に繰り返し配置した構造としているのに対して、甲3発明は、上から4番目の水平方向溝が大径部分に設けられており、上から4番目の水平方向溝の直上は、大径部分、拡径部となっており、胴部の円筒面ではない点。

(ウ)相違点についての検討
<相違点A1-(3)>について
甲3発明と本件発明1の相違点A1-(3)は、甲1発明と本件発明1の相違点A1-(1)と同じ本件発明1の発明特定事項に関するものである。
よって、本件発明1は、上記「第5 3(1)ア(ウ)<相違点A1-(1)>について」で示したように、 相違点A1-(3)に係る構成による作用効果を奏するものであるから、相違点A1-(3)は、形式的な相違点ではなく、実質的な相違点である。

<相違点B1-(3)>について
甲3発明と本件発明1の相違点B1-(3)は、甲1発明と本件発明1の相違点B1-(1)と同じ本件発明1の発明特定事項に関するものである。
よって、本件発明1は、上記「第5 3(1)ア(ウ)<相違点B1-(1)>について」で示したように、 相違点B1-(3)に係る構成による作用効果を奏するものであるから、相違点B1-(3)は、形式的な相違点ではなく、実質的な相違点である。

<相違点C1-(3)>について
甲3発明と本件発明1の相違点C1-(3)は、甲1発明と本件発明1の相違点C1-(1)と同じ本件発明1の発明特定事項に関するものである。
よって、本件発明1は、上記「第5 3(1)ア(ウ)<相違点C1-(1)>について」で示したように、 相違点C1-(3)に係る構成による作用効果を奏するものであるから、相違点C1-(3)は、形式的な相違点ではなく、実質的な相違点である。

したがって、本件発明1は、甲3発明であるとはいえないので、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。

イ 本件発明4?5について
本件発明4?5は、本件発明1を引用し、さらに構成を限定する発明であって、相違点A1-(3)?相違点C1-(3)を包含するものである。
したがって、本件発明4?5は、本件発明1と同様に甲3発明であるとはいえないので、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件発明1、4?5は、甲1発明?甲3発明のいずれでもなく、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえないから、本件発明1、4?5に係る特許は、特許法第113条第2号の規定に該当せず、取り消すことはできない。

4 申立て理由4(特許法第29条第2項)について
(1)甲1発明を主とする進歩性について
ア 本件発明2について
(ア)甲1発明及び対比
甲1発明は、上記「第5 3(1)ア(ア)c」に示したとおりである。
そして、本件発明2と甲1発明を対比すると、少なくとも次の点で相違する。
<相違点A2-(1)>
水平方向溝の深さと開き角の関係について、本件発明2は、
「前記複数の水平方向溝は、少なくとも3種類の深さの水平方向溝を含むとともに、少なくとも3種類の開き角の水平方向溝を含み、
前記複数の水平方向溝は、最大の深さをもつ第1水平方向溝と、中間の深さをもつ第2水平方向溝と、最小の深さをもつ第3水平方向溝とを含み、
前記第2水平方向溝が最大の開き角をもち、前記第1水平方向溝が中間の開き角をもち、前記第3水平方向溝が最小の開き角をもち、」
としているのに対して、甲1発明は、第2環状凹溝16と第3環状凹溝20が略同じ深さであり、第1環状凹溝15と、第2環状凹溝16及び第3環状凹溝20との深さの関係が不明であると共に、各水平方向溝の深さと開き角の関係が不明である点。

<相違点B2-(1)>
水平方向溝の開き角について、本件発明2は、
「前記第1水平方向溝、前記第2水平方向溝および前記第3水平方向溝の開き角は、45°?150°である」
としているのに対して、甲1発明は、第1環状凹溝15、第2環状凹溝16、第3環状凹溝20の開き角が不明である点。

<相違点C2-(1)>
水平方向溝の配置について、本件発明2は、
「前記胴部は、複数の水平方向溝と、各水平方向溝間に設けられた円筒面とを有し、
前記胴部は、前記肩部直下から前記底部直上まで全体にわたり、前記水平方向溝と前記円筒面とを交互に繰り返し配置した構造をもち」
としており、すべての水平方向溝が胴部に設けられると共に、水平方向溝と円筒面とを交互に繰り返し配置した構造としているのに対して、甲1発明は、第3環状凹溝20が底部14の上ヒール部28に設けられており、第3環状凹溝20の直上は胴部の円筒面ではない点。

(イ)相違点についての検討
<相違点A2-(1)>について
a 相違点A2-(1)は、水平方向溝の深さと開き角の関係について、最大の深さをもつ第1水平方向溝が中間の開き角をもち、中間の深さをもつ第2水平方向溝が最大の開き角をもち、最小の深さをもつ第3水平方向溝が最小の開き角をもつという、各水平方向溝それぞれの深さと開き角の組合せを特定するものである。
そして、本件発明2は、当該相違点A2-(1)に係る構成により、「プラスチックボトル10Aの内部が減圧された際(図7(b))、水平方向溝27?29の開き角R_(y)は、減圧される前(図7(a))の開き角R_(x)(R_(1)?R_(3))と比べて小さくなる(R_(x)>R_(y))。また、水平方向溝27?29の上下方向幅w_(y)は、減圧される前の上下方向幅w_(x)(w_(a)、w_(b)、w_(c))と比べて小さくなる(w_(x)>w_(y))。一方、水平方向溝27?29の底面41の長さL_(y)は、減圧される前(図7(a))の底面41の長さL_(x)と比べてほとんど変化しない(L_(x)=L_(y))。」(本件特許明細書段落【0098】)とあるように、各水平方向溝の変形量が異なることから、「胴部20のうち変形しやすい部分の強度を重点的に高めるとともに、プラスチックボトル10Aの内部が減圧した際にその減圧を吸収することができる。また、水平方向溝27?29を設けたことに伴ってプラスチックボトル10の容量が大きく減少することがなく、その容量を確保することができる。」(本件特許明細書段落【0100】)という作用効果を奏するものである。

b 一方、甲1発明は、各水平方向溝それぞれの深さと開き角の組合せを特定することに関する記載も示唆もなく、甲2発明、甲3発明にもそのような記載も示唆もない。
すなわち、各水平方向溝それぞれの深さと開き角の組合せを特定するという技術的な思想は、甲1発明?甲3発明のいずれにも存在しない。
したがって、甲1発明に甲2発明、甲3発明を適用しても、各水平方向溝それぞれの深さと開き角の組合せを特定するという技術思想は得られず、さらには、相違点A2-(1)のように、最大の深さをもつ水平方向溝が中間の開き角をもち、中間の深さをもつ水平方向溝が最大の開き角をもち、最小の深さをもつ水平方向溝が最小の開き角をもつという組合せの選択までに至らないことは明らかである。

c そして、本件発明2は、上記aで述べたように、相違点A2-(1)によって作用効果を奏するものであって、そのための構成として、最大の深さをもつ水平方向溝が中間の開き角をもち、中間の深さをもつ水平方向溝が最大の開き角をもち、最小の深さをもつ水平方向溝が最小の開き角をもつという具体的な組合せを選択しているのだから、そのような具体的組合せを選択することが、当業者が発明の実施にあたり適宜選択し得る設計事項であるということはできない。

d よって、甲1発明に甲2発明、甲3発明を適用することにより相違点A2-(1)に係る構成とすることが当業者にとって容易に想到し得るものであるということはできず、また、当業者が発明の実施にあたり適宜選択し得る設計事項であるということもできない。

<相違点B2-(1)>について
a 本件発明2は、相違点B2-(1)に係る構成により、「水平方向溝27?29の開き角R_(1)?R_(3)をこの範囲にした場合、減圧時に上下方向の変形が容易であり、且つ垂直荷重、側壁荷重時の強度が優れているという効果が得られる。」(本件特許明細書段落【0095】)という作用効果を奏するものである。

b 一方、甲1発明は、水平方向溝の開き角について「上記第2環状凹溝16と略同じ深さの第3環状凹溝20」(甲1明細書段落【0019】)とあるのみで、各水平方向溝の開き角の具体的な値や角度範囲については記載も示唆もなく、甲2発明、甲3発明にもそのような記載も示唆もない。
すなわち、3種類の深さの水平方向溝の開き角の具体的な値や角度範囲に関する技術的な思想は、甲1発明?甲3発明のいずれにも存在しない。
したがって、甲1発明に、甲2発明、甲3発明を適用しても、3種類の深さの水平方向溝の開き角を45°?150°という角度範囲とする根拠がない。

c そして、本件発明2は、上記aで述べたように、相違点B2-(1)によって作用効果を奏するものであると共に、相違点A2-(1)の水平方向溝の深さと開き角の関係と、相違点C2-(1)の水平方向溝の配置と胴部形状の関係との組合せにより、肩部の直下から底部の直上までを円筒面と水平方向溝で構成した構造でも、胴部のうち変形しやすい部分の強度を重点的に高めつつ、垂直荷重、側壁荷重時の強度が優れているものであって、そのための構成として3種類の深さの水平方向溝の開き角を45°?150°という角度範囲とするものであるから、そのような3種類の深さの水平方向溝の開き角の角度範囲が、当業者が発明の実施にあたり適宜選択し得る設計事項であるということはできない。

d よって、甲1発明に甲2発明、甲3発明を適用することにより相違点B2-(1)に係る構成とすることが、当業者にとって容易に想到し得るものであるということはできず、また、当業者が発明の実施にあたり適宜選択し得る設計事項であるということもできない。

<相違点C2-(1)>について
a 本件発明2は、相違点C2-(1)に係る構成により、「各水平方向溝22?24間に形成された複数の円筒面25は、肩部12の直下から底部30の直上までいずれも均一な径を有している。これにより、プラスチックボトル10を自動販売機内で横向きに収納した際、隣接する他のプラスチックボトル10に対して広い面積で接触させることができるので、自動販売機内で胴部20が変形することを防止することができる。」(本件特許明細書段落【0035】)、「胴部20は、各水平方向溝22?24および円筒面25のみから構成されているので、胴部20に減圧吸収パネルを設ける必要が無い。このため、減圧吸収パネルによってプラスチックボトル10の容量が大きく減少することもない。」(本件特許明細書段落【0055】)、との作用効果を奏するものである。

b 一方、甲1発明は、第3環状凹溝20を、最大外径部である底部14の上ヒール部28に設ける構造しか記載されておらず、肩部の直下から底部の直上までを円筒面と水平方向溝で構成することに関する記載も示唆もなく、甲2発明、甲3発明にもそのような記載も示唆もない。
すなわち、肩部の直下から底部の直上までを円筒面と水平方向溝で構成するという技術的な思想は、甲1発明?甲3発明のいずれにも存在しない。
したがって、甲1発明に甲2発明、甲3発明を適用しても、肩部の直下から底部の直上までを円筒面と水平方向溝で構成することにはならないことが明らかである。

c そして、本件発明2は、上記aで述べたように、相違点C2-(1)によって作用効果を奏するものであると共に、相違点A2-(1)の水平方向溝の深さと開き角の関係と、相違点B2-(1)の水平方向溝の開き角が45°?150°であることとの組合せにより、肩部の直下から底部の直上までを円筒面と水平方向溝で構成した構造でも、胴部のうち変形しやすい部分の強度を重点的に高めつつ、垂直荷重、側壁荷重時の強度が優れているものである。
一方、甲1発明は、胴部と底部の径が異なることを前提として、胴部13に1つの第1環状凹溝15と4つの第2環状凹溝16を、底部14の上ヒール部28に1つの第3環状凹溝20を配置するものである。
そうすると、申立人が主張するように胴部が円筒形状のボトルにおいて、肩部直下から底部直上まで均一な径とすることが周知・慣用の技術であったとしても、最大外径部である底部14の上ヒール部28に配置されていた第3環状凹溝20の配置変更のみならず、肩部直下から底部直上まで均一な径となった胴部のうち変形しやすい部分の強度を重点的に高めつつ、垂直荷重、側壁荷重時の強度が優れたものとなるように、相違点A2-(1)の水平方向溝の深さと開き角の関係と、相違点B2-(1)の各水平方向溝の開き角が45°?150°であることとの組合せを考慮して各水平方向溝の配置を変更することが周知・慣用の技術の適用により達成できるとはいえない。

d よって、甲1発明に甲2発明、甲3発明を適用することにより相違点C2-(1)に係る構成とすることが当業者にとって容易に想到し得るものであるということはできず、また、周知・慣用の技術の適用であるということもできない。

(ウ)したがって、本件発明2は、甲1発明を主引例として、甲2発明、甲3発明、従来周知事項を適用すること、ないし設計的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができた発明であるということはできないので、特許法第29条第2項に該当するとはいえない。

(エ)申立人の主張について
a 申立人は、甲第1号証?甲第3号証には、3種類の深さの水平方向溝を含み、当該水平方向溝の開き角は全て同一で、それぞれ61゜、80°、60°であることが記載されている、と主張している。(異議申立書3.(4)(4-3-2)(エ))

しかしながら、甲第1号証?甲第3号証にそのような記載がなされているといえないことは、上記「第5 3(1)ア(ア)甲1発明」、上記「第5 3(2)ア(ア)甲2発明」、上記「第5 3(3)ア(ア)甲3発明」でそれぞれ示したとおりである。
もし仮に、上記主張のように甲第1号証?甲第3号証に水平方向溝の開き角が全て同一であることが記載されているとしても、相違点A2-(1)における「3種類の開き角」とする技術思想は記載されていないし、むしろ「3種類の開き角」に変更することに対する阻害要因ともとれるものである。
さらにもし仮に、上記主張のように甲第1号証?甲第3号証にそれぞれ61゜、80°、60°であることが記載されているとしたら、61゜と60°という値はあまりに近く、図面記載上の形状誤差、あるいは図面測定時の測定誤差である蓋然性が高い上に、略等しい値ともいえるから実質的には2種類しか記載されていないというべきであって3種類の開き角であるということは困難であるし、上記「第5 4(1)ア(イ)<相違点A2-(1)>について」で示したように、各水平方向溝それぞれの深さと開き角の具体的組合せを選択するという技術的な思想は、甲1発明?甲3発明のいずれにも存在しない。
よって、申立人の上記主張は、採用することができない。

b 申立人は、本件発明2において、水平方向溝の開き角が45°?150°の範囲であるとすることの臨界的意義についてなんら説明が記載されていない、と主張している。(異議申立書3.(4)(4-3-2)(エ))

しかしながら、上記「第5 4(1)ア(イ)<相違点(1)-B2>について」に示したように、本件発明2における開き角の角度範囲の臨界的意義は別論として、各水平方向溝の開き角の具体的な値や角度範囲に関する技術的な思想が甲1発明?甲3発明のいずれにも存在しないのだから、申立人の上記主張は、進歩性の判断に影響しない。
そして、本件特許明細書には、開き角の角度範囲の境界前後に関する実験データ等、臨界的意義に関して直接的な記載はないけれども、本件特許明細書段落【0090】?【0100】等をみると、具体的な角度を挙げつつ水平方向溝の深さと開き角の関係と、その目的、効果についての記載はあることから、角度範囲の意義について一応の記載があると理解できる。
よって、申立人の上記主張は、採用することができない。

イ 本件発明3について
本件発明3は、本件発明2を引用し、さらに構成を限定する発明であって、相違点A2-(1)?相違点C2-(1)を包含するものである。
したがって、本件発明3は、本件発明2と同様に、当業者が容易に発明をすることができた発明であるということはできないので、特許法第29条第2項に該当するとはいえない。

(2)甲2発明を主とする進歩性について
ア 本件発明2について
(ア)甲2発明及び対比
甲2発明は、上記「第5 3(2)ア(ア)c」に示したとおりである。
そして、本件発明2と甲2発明を対比すると、少なくとも次の点で相違する。
<相違点A2-(2)>
水平方向溝の深さと開き角の関係について、本件発明2は、
「前記複数の水平方向溝は、少なくとも3種類の深さの水平方向溝を含むとともに、少なくとも3種類の開き角の水平方向溝を含み、
前記複数の水平方向溝は、最大の深さをもつ第1水平方向溝と、中間の深さをもつ第2水平方向溝と、最小の深さをもつ第3水平方向溝とを含み、
前記第2水平方向溝が最大の開き角をもち、前記第1水平方向溝が中間の開き角をもち、前記第3水平方向溝が最小の開き角をもち、」
としているのに対して、甲2発明は、第1環状凹溝15と第3環状凹溝20が略同じ深さであり、第2環状凹溝16と、第1環状凹溝15及び第3環状凹溝20との深さの関係が不明であると共に、各水平方向溝の深さと開き角の関係が不明である点。

<相違点B2-(2)>
水平方向溝の開き角について、本件発明2は、
「前記第1水平方向溝、前記第2水平方向溝および前記第3水平方向溝の開き角は、45°?150°である」
としているのに対して、甲2発明は、第1環状凹溝15、第2環状凹溝16、第3環状凹溝20の開き角が不明である点。

<相違点C2-(2)>
水平方向溝の配置について、本件発明2は、
「前記胴部は、複数の水平方向溝と、各水平方向溝間に設けられた円筒面とを有し、
前記胴部は、前記肩部直下から前記底部直上まで全体にわたり、前記水平方向溝と前記円筒面とを交互に繰り返し配置した構造をもち」
としており、すべての水平方向溝が胴部に設けられると共に、水平方向溝と円筒面とを交互に繰り返し配置した構造としているのに対して、甲2発明は、第3環状凹溝20が底部14の上ヒール部28に設けられており、第3環状凹溝20の直上は胴部の円筒面ではない点。

(イ)相違点についての検討
甲2発明は、甲1発明と比較すると、甲2発明が5つの第2環状凹溝16、2つの第3環状凹溝20、第1環状凹溝15と第3環状凹溝20が略同じ深さであるのに対して、甲1発明が4つの第2環状凹溝16、1つの第3環状凹溝20、第2環状凹溝16と第3環状凹溝20が略同じ深さである点で異なるだけであるから、甲2発明と本件発明2の相違点A2-(2)?相違点C2-(2)は、甲1発明と本件発明2の相違点A2-(1)?相違点C2-(1)と実質的に同じ相違点である。
したがって、甲2発明と本件発明2の相違点A2-(2)?相違点C2-(2)については、上記「第5 4(1)ア(イ)相違点についての検討」で示した甲1発明と本件発明2の相違点A2-(1)?相違点C2-(1)と同様の理由により、甲2発明に甲1発明、甲3発明を適用することにより相違点A2-(2)?相違点C2-(2)に係る構成とすることも、当業者が発明の実施にあたり適宜選択し得る設計事項であるということも、周知・慣用の技術の適用であるということもできない。

(ウ)したがって、本件発明2は、甲2発明を主引例として、甲1発明、甲3発明、従来周知事項を適用すること、ないし設計的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができた発明であるということはできないので、特許法第29条第2項に該当するとはいえない。

イ 本件発明3について
本件発明3は、本件発明2を引用し、さらに構成を限定する発明であって、相違点A2-(2)?相違点C2-(2)を包含するものである。
したがって、本件発明3は、本件発明2と同様に、当業者が容易に発明をすることができた発明であるということはできないので、特許法第29条第2項に該当するとはいえない。

(3)甲3発明を主とする進歩性について
ア 本件発明3について
(ア)甲3発明及び対比
甲3発明は、上記「第5 3(3)ア(ア)c」に示したとおりである。
そして、本件発明2と甲3発明を対比すると、少なくとも次の点で相違する。
<相違点A2-(3)>
水平方向溝の深さと開き角の関係について、本件発明2は、
「前記複数の水平方向溝は、少なくとも3種類の深さの水平方向溝を含むとともに、少なくとも3種類の開き角の水平方向溝を含み、
前記複数の水平方向溝は、最大の深さをもつ第1水平方向溝と、中間の深さをもつ第2水平方向溝と、最小の深さをもつ第3水平方向溝とを含み、
前記第2水平方向溝が最大の開き角をもち、前記第1水平方向溝が中間の開き角をもち、前記第3水平方向溝が最小の開き角をもち、」
としているのに対して、甲3発明は4本の溝の深さの関係が不明である点。

<相違点B2-(3)>
水平方向溝の開き角について、本件発明2は、
「前記第1水平方向溝、前記第2水平方向溝および前記第3水平方向溝の開き角は、45°?150°である」
としているのに対して、甲3発明は4本の溝の開き角が不明である点。

<相違点C2-(3)>
水平方向溝の配置について、本件発明2は、
「前記胴部は、複数の水平方向溝と、各水平方向溝間に設けられた円筒面とを有し、
前記胴部は、前記肩部直下から前記底部直上まで全体にわたり、前記水平方向溝と前記円筒面とを交互に繰り返し配置した構造をもち」
としており、すべての水平方向溝が胴部に設けられると共に、水平方向溝と円筒面とを交互に繰り返し配置した構造としているのに対して、甲3発明は、上から4番目の水平方向溝が大径部分に設けられており、上から4番目の水平方向溝の直上は、大径部分、拡径部となっており、胴部の円筒面ではない点。

(イ)相違点についての検討
<相違点A2-(3)>について
a 甲3発明と本件発明2の相違点A2-(3)は甲1発明と本件発明2の相違点A2-(1)と同じ本件発明2の発明特定事項に関するものである。
よって、本件発明2は、上記「第5 4(1)ア(イ)<相違点A2-(1)>についてa」で示したように、 相違点A2-(3)に係る構成による作用効果を奏するものである。

b 各水平方向溝それぞれの深さと開き角の組合せを特定するという技術的な思想が、甲1発明?甲3発明のいずれにも存在せず、甲3発明に甲1発明、甲2発明を適用しても、各水平方向溝それぞれの深さと開き角の組合せを特定するという技術思想は得られず、さらには、相違点A2-(3)のように、最大の深さをもつ水平方向溝が中間の開き角をもち、中間の深さをもつ水平方向溝が最大の開き角をもち、最小の深さをもつ水平方向溝が最小の開き角をもつという組合せの選択までに至らないことが明らかなことは、上記「第5 4(1)ア(イ)<相違点A2-(1)>についてb」で示したとおりである。

c 相違点A2-(3)のような各水平方向溝それぞれの深さと開き角の組合せを選択することが、当業者が発明の実施にあたり適宜選択し得る設計事項であるということができないことは、上記「第5 4(1)ア(イ)<相違点A2-(1)>についてb」で示したとおりである。

d よって、甲3発明に甲1発明、甲2発明を適用することにより相違点A2-(3)に係る構成とすることが当業者にとって容易に想到し得るものであるということはできず、また、当業者が発明の実施にあたり適宜選択し得る設計事項であるということもできない。

<相違点B2-(3)>について
a 甲3発明と本件発明2の相違点B2-(3)は甲1発明と本件発明2の相違点B2-(1)と同じ本件発明2の発明特定事項に関するものである。
よって、本件発明2は、上記「第5 4(1)ア(イ)<相違点B2-(1)>についてa」で示したように、 相違点B2-(3)に係る構成による作用効果を奏するものである。

b 3種類の深さの水平方向溝の開き角の具体的な値や角度範囲に関する技術的な思想が、甲1発明?甲3発明のいずれにも存在せず、甲3発明に甲1発明、甲2発明を適用しても、3種類の深さの水平方向溝の開き角を45°?150°という角度範囲とする根拠がないことは、上記「第5 4(1)ア(イ)<相違点B2-(1)>についてb」で示したとおりである。

c 3種類の深さの水平方向溝の開き角の角度範囲が、当業者が発明の実施にあたり適宜選択し得る設計事項であるということができないことは、上記「第5 4(1)ア(イ)<相違点B2-(1)>についてc」で示したとおりである。

d よって、甲3発明に甲1発明、甲2発明を適用することにより相違点B2-(3)に係る構成とすることが、当業者にとって容易に想到し得るものであるということはできず、また、当業者が発明の実施にあたり適宜選択し得る設計事項であるということもできない。

<相違点C2-(3)>について
a 甲3発明と本件発明2の相違点C2-(3)は甲1発明と本件発明2の相違点C2-(1)と同じ本件発明2の発明特定事項に関するものである。
よって、本件発明2は、上記「第5 4(1)ア(イ)<相違点C2-(1)>についてa」で示したように、 相違点C2-(3)に係る構成による作用効果を奏するものである。

b 肩部の直下から底部の直上までを円筒面と水平方向溝で構成するという技術的な思想は、甲1発明?甲3発明のいずれにも存在せず、甲3発明に甲1発明、甲2発明を適用しても、肩部の直下から底部の直上までを円筒面と水平方向溝で構成することにはならないことが明らかであることは、上記「第5 4(1)ア(イ)<相違点C2-(1)>についてb」で示したとおりである。

c そして、本件発明2は、上記aで述べたように、相違点C2-(3)によって作用効果を奏するものであると共に、相違点A2-(3)の水平方向溝の深さと開き角の関係と、相違点B2-(3)の水平方向溝の開き角が45°?150°であることとの組合せにより、肩部の直下から底部の直上までを円筒面と水平方向溝で構成した構造でも、胴部のうち変形しやすい部分の強度を重点的に高めつつ、垂直荷重、側壁荷重時の強度が優れているものである。
一方、甲3発明は、胴部の構造や強度、4本の溝の配置等に関して、技術的思想や作用効果は、なんら記載されていない。
そうすると、申立人が主張するように、胴部が円筒形状のボトルにおいて、肩部直下から底部直上まで均一な径とすることが周知・慣用の技術であったとしても、大径部分に配置されていた上から4番目の水平方向溝の配置変更のみならず、肩部直下から底部直上まで均一な径となった胴部のうち変形しやすい部分の強度を重点的に高めつつ、垂直荷重、側壁荷重時の強度が優れたものとなるように、相違点A2-(3)の水平方向溝の深さと開き角の関係と、相違点B2-(3)の水平方向溝の開き角が45°?150°であることとの組合せを考慮して各水平方向溝の配置を変更することが、周知・慣用の技術の適用により達成できるとはいえない。

d よって、甲3発明に甲1発明、甲2発明を適用することにより相違点C2-(3)に係る構成とすることが当業者にとって容易に想到し得るものであるということはできず、また、周知・慣用の技術の適用であるということもできない。

(ウ)したがって、本件発明2は、甲3発明を主引例として、甲1発明、甲2発明、従来周知事項を適用すること、ないし設計的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができた発明であるということはできないので、特許法第29条第2項に該当するとはいえない。

イ 本件発明3について
本件発明3は、本件発明2を引用し、さらに構成を限定する発明であって、相違点A2-(3)?相違点C2-(3)を包含するものである。
したがって、本件発明3は、本件発明2と同様に、当業者が容易に発明をすることができた発明であるということはできないので、特許法第29条第2項に該当するとはいえない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件発明2、3は、甲1発明ないし甲3発明のいずれか、及び従来周知事項に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であるということはできないので、特許法第29条第2項に該当するとはいえない。
したがって、本件発明2、3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当するものとはいえないから、それらの発明に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-12-13 
出願番号 特願2014-60748(P2014-60748)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (B65D)
P 1 651・ 536- Y (B65D)
P 1 651・ 121- Y (B65D)
P 1 651・ 113- Y (B65D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 植前 津子  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 西藤 直人
横溝 顕範
登録日 2018-02-16 
登録番号 特許第6287426号(P6287426)
権利者 大日本印刷株式会社
発明の名称 プラスチックボトル  
代理人 高田 泰彦  
代理人 堀田 幸裕  
代理人 中村 行孝  
代理人 宮嶋 学  
代理人 永井 浩之  
代理人 朝倉 悟  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 村田 卓久  

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