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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 E04F
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 E04F
管理番号 1348212
審判番号 不服2017-17914  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-01 
確定日 2019-02-05 
事件の表示 特願2013-141952「目地構造、及びタイル張り工法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 1月22日出願公開、特開2015- 14148、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年7月5日の出願であって、平成29年1月27日付けで拒絶理由通知がされ、平成29年3月31日付けで手続補正がされ、平成29年8月23日付け(謄本送達日:平成29年9月5日)で拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成29年12月1日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、平成30年9月20日付け(発送日:平成30年9月25日)で拒絶理由通知がされ、平成30年11月26日付けで手続補正がされたものである。


第2 本願発明
本願請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」、「本願発明2」という。)は、平成30年11月26日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される、以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
コンクリート壁面に形成された躯体目地と、
前記躯体目地に、表面が前記コンクリート壁面の表面より面落ちした状態で充填され、ポリウレタン系材料で形成されたシーリング材と、
前記コンクリート壁面及び前記シーリング材の上に変成シリコーン系材料を用いて形成され、前記コンクリート壁面の収縮に追随できる伸縮性を備え前記コンクリート壁面の不陸を調整する不陸調整層と、
前記不陸調整層の上に変成シリコーン系材料を用いて形成され、前記コンクリート壁面の収縮に追随できる伸縮性を備え前記コンクリート壁面にタイルを接着させる接着層と、
を有し、
前記シーリング材と前記不陸調整層の重ね面は、前記シーリング材と前記不陸調整層が直接接触する接触面とされ、前記シーリング材と前記不陸調整層との接着性が、前記シーリング材と前記躯体目地における前記コンクリート壁面との接着性より低い目地構造。
【請求項2】
コンクリート壁面に形成された躯体目地に、ポリウレタン系材料で形成されたシーリング材を表面が前記コンクリート壁面の表面より面落ちした状態で充填する工程と、
前記コンクリート壁面及び前記シーリング材の上に、前記コンクリート壁面の収縮に追随できる伸縮性を備え、前記シーリング材との相互間の接着性が前記シーリング材と前記躯体目地における前記コンクリート壁面との接着性より低い変成シリコーン系材料を用いて形成された弾性下地材を塗布することにより不陸調整層を形成する工程と、
前記不陸調整層の上に、前記コンクリート壁面の収縮に追随できる伸縮性を備え変成シリコーン系材料を用いて形成された接着剤を塗布してタイルを張る工程と、
を備えたタイル張り工法。」


第3 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2013-32675号公報)には次の事項が記載されている。

(1) 「【特許請求の範囲】【請求項1】下地材表面の少なくとも一部に、B形粘度計を用いて、JIS K6833-1に準拠し、23℃の温度条件下、回転数1r/minで測定した粘度Aが、1000Pa・s?3000Pa・sの範囲であり、該粘度Aと回転数10r/minで測定した粘度Bとの粘度比(A/B)が6以上であり、且つ、硬化して得られた硬化物が示すJIS A5557に準拠して測定したダンベル物性が、最大引張強さが0.4N/mm^(2)?2.0N/mm^(2)であり、破断時の伸び率が40%?200%である不陸調整用組成物を塗布して不陸調整層を形成する工程Xと、
該不陸調整層が形成された下地材上に、反応硬化型接着剤を用いて、外装材を張り付ける工程Yと、を含む外装工法。
【請求項2】前記下地材が、セメント系硬化体である請求項1に記載の外装工法。
・・・
【請求項8】前記Y工程に用いる反応硬化型接着剤が、1液湿気硬化型変成シリコーン樹脂系接着剤である請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の外装工法。」

(2) 「【発明の効果】【0015】本発明によれば、不陸を有する下地に対して、外装材を優れた密着性及び追従性にて張ることができ、且つ、施工性に優れた外装工法を提供することができる。」

(3) 「【発明を実施するための形態】・・・【0022】〔工程X〕工程Xでは、下地材表面の少なくとも一部に不陸調整用組成物を塗布して不陸調整層を形成する。
・・・
【0024】(不陸調整層)工程Xで形成される不陸調整層は、下地材表面の少なくとも一部において、不陸調整用組成物を塗布して形成される。本発明における不陸調整層の形成態様としては、少なくとも不陸部分を埋めるように形成されていればよく、下地材表面の一部において不陸部分を埋めるように不陸調整用組成物を塗布して、下地材表面の一部に不陸調整層形成する態様、及び、下地材表面の全面を覆うように不陸調整用組成物を塗布して、下地材表面の全面に不陸調整層を形成する態様の双方を含む。
・・・
【0026】(下地材)下地材としては、本発明の工法が適用できる下地材であれば、特に限定されないが、セメント系硬化体であることが好ましい。
本発明における下地材として適用しうるセメント系硬化体の例としては、押出成型セメント板、鉄筋コンクリート(RC)、プレキャストコンクリート(PC)、軽量気泡コンクリート(Autoclaved Lightweight Concrete)などのコンクリートが挙げられる。
・・・
【0028】不陸調整用組成物は、下地材及び工程Yにおいて用いられる反応硬化型接着剤の双方との密着性に優れ、下地材の歪み追従性に寄与する優れた弾性を有する不陸調整層を形成でき、且つ、不陸調整層を形成する際に容易に塗布できる作業性にも優れた組成物である。
【0029】更に、例えば、本発明の工法を用いて外壁にタイル等の外装材を張る場合においては、不陸調整用組成物を用いて不陸調整層を形成して不陸調整する際に、不陸調整用組成物を、外壁全面、外壁躯体施工時に生じる打ち重ね部、コールドジョイント部、打ち継ぎ目地などに塗布することにより、不陸調整と共に、外壁の防水機能及び施工性についても向上させることもできる。
・・・
【0040】不陸調整用組成物Aは、硬化性樹脂(A)、エポキシ化合物(B)、非反応性液状成分(C)、及び、無機系充填材(D)の他、必要に応じて、更に他の成分を含有してもよい。・・・
【0045】硬化性樹脂(A)としては、シリコーン樹脂又は変成シリコーン樹脂として販売されている市販品を用いてもよい。・・・
【0102】工程Xにおいて形成された不陸調整層が硬化した後、工程Yが行われる。・・・
【0103】〔工程Y〕工程Yでは、工程Xにおいて不陸調整層が形成された下地材上に、反応硬化型接着剤を用いて、外装材を張り付ける。
【0104】工程Yの一例として、先ず、工程Xにおいて不陸調整が行われた下地材上に、反応硬化型接着剤を塗布する。反応硬化型接着剤の塗布は、外装材を張り付ける領域に塗布されればよい。
・・・
【0107】(反応硬化型接着剤)工程Yに用いる反応硬化型接着剤としては、下地材と外装材との接着に用いられる公知の接着剤を適用することができる。
下地材及び不陸調整層との密着性、耐久性の観点からは、反応硬化型接着剤としては、変成シリコーン系接着剤が好ましい。特に外装用として使用する場合には、耐水接着性を兼ね備えた変成シリコーン・エポキシ樹脂系接着剤を用いることがより好ましい。・・・
【0110】(外装材の張り付け)反応硬化型接着剤の塗布に次いで、外装材を張り付ける。
外装材としては、タイル、石材、レンガ、外装用ボード、等が挙げられる。本発明の工法は、タイルの張り付けに特に好適に適用することができる。・・・
【0113】-実態態様例1- 図1は、本発明の工法の実施形態の一例を示す概略断面図である。
図1中、1はコンクリートからなる下地材を示す。実施態様例1においては、該下地材1の表面に存在する不陸部分のみを埋めるように不陸調整用組成物を塗布し、硬化させて、不陸調整層2(硬化物)が形成される(工程X)。
次いで、不陸調整層2の形成後の下地材1の表面の所定の領域に反応硬化型接着剤3を塗布した後、外装材であるタイル4を張り付ける(工程Y)。
反応硬化型接着剤3が硬化した後、目地にシーリング処理を施す(不図示)。
【0114】-実施態様例2- 図2は、本発明の工法の他の実施形態の一例を示す概略断面図である。図2中に示される各符号は、図1と同一のものを示す。
図2に示す実施形態2では、図1に示す実施態様例1において、下地材1の表面に存在する不陸部分のみを埋めるように形成された不陸調整層2を、下地材1の表面全体に亘って形成した以外は、実施態様例1と同様の工程を実施する。」

(4) 図1は次のものである。


(5) 図2は次のものである。


(6) 上記(3)の段落0029における「打ち継ぎ目地」は、「不陸調整用組成物」が塗布される位置にあるから、下地材に設けられるものと解される。

(7) 上記(3)の段落0114(あるいは0024)において、下地材表面の一部に不陸調整層を形成する場合と同様に、下地材の表面全体に不陸調整層を形成する場合も、下地材表面の不陸部分を埋めるように不陸調整層が形成されることは明らかである。

(8) 以上より、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「コンクリートからなる下地材と、
変成シリコーン樹脂を含む不陸調整用組成物が、前記下地材の表面全体に塗布、硬化して、前記下地材の表面に存在する不陸部分を埋めるように形成される、前記下地材の歪み追従性に寄与する優れた弾性を有する、不陸調整層と、
不陸調整が行われた前記下地材上に塗布され、外装材のタイルを接着させる、変成シリコーン系接着剤である反応硬化型接着剤と、を有する、外壁の構造において、
前記下地材に打ち継ぎ目地が設けられ、前記不陸調整用組成物は、前記打ち継ぎ目地にも塗布される、構造。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2001-355328号公報)には、次の事項が記載されている。

(1) 「【特許請求の範囲】【請求項1】下地材の表面にタイル・石材等の化粧材を接着して仕上げる場合であって、下地材の表面にエラストマー系塗膜防水材を塗布し、その上にエラストマー系接着剤を介して化粧材を接着することを特徴とする防水兼用化粧材接着仕上げ工法。
【請求項2】前記エラストマー系塗膜防水材は、下地材の傾斜面及び垂直面へ施工できる材料で、0.5mm以上のひび割れとムーブメントに追従できる請求項1記載の防水兼用化粧材接着仕上げ工法。
【請求項3】前記エラストマー系接着剤は、下地コンクリートの傾斜面及び垂直面へ施工したエラストマー系塗膜防水材の上に施工でき、化粧材接着強度が40N/cm^(2)以上である請求項1記載の防水兼用化粧材接着仕上げ工法。」

(2) 「【0010】【発明の実施の形態】次に、本発明に係る防水兼用化粧材接着仕上げ工法の実施形態を添付図面に基づいて説明する。図1において、1は下地材であって表面が傾斜面に形成され、この傾斜面にエラストマー系塗膜防水材2を塗布し、その上にエラストマー系接着剤3によりタイル化粧材4を張り付ける。
【0011】具体的な作業手順としては、先ず下地材1の表面調整を行う。この表面調整は、下地材1の不陸調整工程・脆弱性除去と、ひび割れ1a、パネル接合部・コンクリート打ち継ぎ部(図略)及びひび割れ誘発目地等のシーリング処理工程と、乾燥工程とを含む。
【0012】次いで塗膜防水工程を行う。これはエラストマー系塗膜防水材2を、下地材1の表面に適量の塗布量で塗布し、必要に応じて下塗り用としてウレタン系、シラン系等のプライマー(図略)を塗布する。エラストマー系塗膜防水材2は、下地材1の傾斜面及び垂直面へ施工できる材料で、0.5mm以上のひび割れ1aとムーブメントに追従できるものを用いる。
【0013】塗膜防水工程後にゴム状に硬化させてから、エラストマー系接着剤3でタイル化粧材4を張り付ける。この張付工程において、エラストマー系接着剤3が硬化してから、必要に応じて目地モルタル5を施工する。更に、伸縮目地にはシーリング材を(図略)施工する。エラストマー系接着剤3は、前記エラストマー系塗膜防水材2の上に施工できる材料で、タイル化粧材4の接着強度が40N/cm^(2)以上有するものを用いる。
【0014】本発明による効果を確かめるために実験を行った。その実験結果を表1に示す。
ここで、塗膜防水材の接着強さは、モルタル/防水材/タイル接着剤という層構成の試験体による接着試験の結果を示す。タイル接着剤の接着強さは、モルタル/接着剤/タイルという層構成の試験体による接着試験の結果を示す。
【0015】この試験結果によると、ひび割れ追従性に関しては実施例1?3の場合が良好であった。即ち、1成分形ウレタン系の塗膜防水材と、2成分形変成シリコーン・エポキシ系タイル接着剤との組み合わせ(実施例1)、1成分形変成シリコーン系の塗膜防水材(プライマー塗布)と、2成分形変成シリコーン・エポキシ系タイル接着剤との組み合わせ(実施例2)、及び1成分形ウレタン系の塗膜防水材と、1成分形ウレタン・エポキシ系タイル接着剤との組み合わせ(実施例3)である。タイルの接着強さは、40N/cm^(2)以上であることが要求されるが、実施例1と2が190N/cm^(2)、実施例3が140N/cm^(2)であっていずれも3倍以上の充分な接着強度が得られた。
【0016】前記実施形態では、コンクリート下地の表面が傾斜面の場合を説明したが、垂直面の場合でも本発明を適用することが可能であり、又外壁のみならず浴室、トイレ、厨房及び屋内プール等の内壁や床等にも適用することができる。
【0017】【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、塗膜防水材としてエラストマー系のものを使用したので、下地コンクリートに対する追従性が良好であり、このため防水層の信頼性が高く、漏水故障を生じることがなく、更に化粧材の接着剤としてエラストマー系のものを用いることで、下地コンクリートと化粧材との接着性が良好となり、このため化粧材の剥離や剥落が生じず、安全性が高い等の効果が得られる。」

(3) 表1は次のものである。


(4) 図1は次のものである。


(5) 上記(2)の段落0011における「ひび割れ誘発目地」は、その「シーリング処理工程」が「下地材1の表面調整」に含まれるものであるから、下地材に設けられるものと解される。

(6) 以上より、上記引用文献2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「下地材である下地コンクリートと、
前記下地コンクリートの表面に塗布、硬化される、下地コンクリートに対する追従性が良好な、変成シリコーン系の塗膜防水材と、
タイル化粧材を張り付ける接着剤であって、前記塗膜防水材上に施工される、変成シリコーン・エポキシ系タイル接着剤と、を有する、外壁の構造において、
下地コンクリートにひび割れ誘発目地が設けられ、前記塗膜防水材の形成前に、前記ひび割れ誘発目地がシーリング処理されている、構造。」


第4 対比・判断
1 本願発明1について
(1) 対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると、次のことがいえる。

ア 引用発明1の、外壁における「コンクリートからなる下地材」は、その上に「不陸調整層」が形成される箇所のものであり、壁面状をなしていると解され、一方本願発明1における「コンクリート壁面」も、その上に「不陸調整層」が形成される箇所のものである。
よって、引用発明1の「コンクリートからなる下地材」は、本願発明1における「コンクリート壁面」に相当する。

イ 上記アのとおり、引用発明1の「コンクリートからなる下地材」は、本願発明1における「コンクリート壁面」に相当するから、引用発明1の「変成シリコーン樹脂を含む不陸調整用組成物が、前記下地材の表面全体に塗布、硬化して、前記下地材の表面に存在する不陸部分を埋めるように形成される」「不陸調整層」は、本願発明1の「前記コンクリート壁面」「の上に変成シリコーン系材料を用いて形成され、」「前記コンクリート壁面の不陸を調整する不陸調整層」に相当する。

ウ 本願発明1の「前記コンクリート壁面にタイルを接着させる接着層」における「タイル」とは、本願明細書の段落0018の「タイル24は、・・・コンクリート壁面12の外周面を覆う構成とされている。」という記載を参照して、外装材としてのタイルであると解されるので、引用発明1の「外装材のタイルを接着させる、変成シリコーン系接着剤である反応硬化型接着剤」における「外装材のタイル」は、本願発明1の「前記コンクリート壁面にタイルを接着させる接着層」における「タイル」に相当する。
また、引用発明1において接着剤が塗布される「不陸調整が行われた前記下地材」は、不陸調整層が形成された下地材であるから、「不陸調整が行われた前記下地材上に塗布」とは、該不陸調整層上に塗布することである。
以上より、引用発明1の「不陸調整が行われた前記下地材上に塗布され、外装材のタイルを接着させる、変成シリコーン系接着剤である反応硬化型接着剤」は、本願発明1の「前記不陸調整層の上に変成シリコーン系材料を用いて形成され、」「前記コンクリート壁面にタイルを接着させる接着層」に相当する。

エ 本願発明1の「コンクリート壁面に形成された躯体目地」における「躯体」は、本願明細書段落0015の「コンクリート壁面(躯体コンクリート)」という記載を参照して、コンクリート壁面を構成するコンクリートを指すと解される。
そして、本願発明1の「躯体目地」は、本願明細書段落0015の「躯体目地10には、型枠の継ぎ目部分に発生する水平打継目地と、ひび割れを誘発するためのひび割れ誘発目地がある(図3参照)。いずれの目地も基本的な構成は同じであり、両者を区別せずに、以下、躯体目地10として説明する。」という記載を参照して、打継目地を含むものと解される。
よって、引用発明1の「コンクリートからなる下地材」に設けられた「打ち継ぎ目地」は、本願発明1の本願発明1の「コンクリート壁面に形成された躯体目地」に相当する。
さらに、引用発明1の「前記不陸調整用組成物は、前記打ち継ぎ目地にも塗布される、構造」と、本願発明1の「前記躯体目地に、表面が前記コンクリート壁面の表面より面落ちした状態で充填され、ポリウレタン系材料で形成されたシーリング材と、」「前記シーリング材の上に変成シリコーン系材料を用いて形成され」「る不陸調整層と、」を有する「目地構造」とは、
「躯体目地が不陸調整層で覆われる目地構造」である点で共通する。

したがって、本願発明1と引用発明1との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「コンクリート壁面に形成された躯体目地と、
前記コンクリート壁面の上に変成シリコーン系材料を用いて形成され、前記コンクリート壁面の不陸を調整する不陸調整層と、
前記不陸調整層の上に変成シリコーン系材料を用いて形成され、前記コンクリート壁面にタイルを接着させる接着層と、
を有し、
躯体目地が不陸調整層で覆われる目地構造。」

(相違点)
(相違点1)本願発明1は、「前記躯体目地に、表面が前記コンクリート壁面の表面より面落ちした状態で充填され、ポリウレタン系材料で形成されたシーリング材」を有し、「前記シーリング材の上に」不陸調整層が形成され、「前記シーリング材と前記不陸調整層の重ね面は、前記シーリング材と前記不陸調整層が直接接触する接触面とされ、前記シーリング材と前記不陸調整層との接着性が、前記シーリング材と前記躯体目地における前記コンクリート壁面との接着性より低い」のに対し、引用発明1はそのような構成を備えていない点。

(相違点2)本願発明1の不陸調整層が「前記コンクリート壁面の収縮に追随できる伸縮性を備え」るのに対し、引用発明1の不陸調整層は「前記下地材の歪み追従性に寄与する優れた弾性を有する」ものである点。

(相違点3)本願発明1の接着層が「前記コンクリート壁面の収縮に追随できる伸縮性を備え」るのに対し、引用発明1の接着剤はそのような構成を備えていない点。

(2) 相違点についての判断
上記相違点1について検討する。

ア 引用発明2は、下地材である下地コンクリートにひび割れ誘発目地が設けられ、
前記下地コンクリートに対する追従性が良好な変成シリコーン系の塗膜防水材の形成前に、前記ひび割れ誘発目地がシーリング処理されている構造を有するものである。
しかしながら、仮に、引用発明2の該構造は、ひび割れ誘発目地という下地コンクリートの表面より面落ちした箇所のシーリング処理であり、かつその後塗膜防水材が形成されるものであることから、シーリング材は下地コンクリートの表面より面落ちした状態で充填されているものと解し、
また目地のシーリング材にポリウレタン系材料を用いることが周知技術(原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3である特開平6-240845号公報(段落0020等)及び同様に引用された引用文献4である特開2007-291683号公報(段落0027等)参照。)であり、
加えて目地のシーリング材に絶縁テープを配設することが周知技術(原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5である特開昭53-103625号公報(2頁右上欄5から12行等)、同様に引用された引用文献6である特開平10-196066号公報(段落0004、図5等)参照。)であり、
さらに、目地埋め材上に仕上げ材とは別の化粧コーキングを打つことにより、目地部と仕上げ材との縁を切ることが周知技術(特開平7-139120号公報(段落0005ないし0007、図2ないし4等)参照。)であったとしても、
本願発明1の「前記シーリング材と前記不陸調整層との接着性が、前記シーリング材と前記躯体目地における前記コンクリート壁面との接着性より低い」という、重ね面の縁切りに関する構成が、引用発明2及び上記周知技術から示唆されるものではない。
よって、相違点1に係る本願発明1の構成は、当業者が容易に想到できたものとはいえない。

イ なお、仮に引用発明2を主引用例、引用発明1を副引用例としたとしても、上記アでの検討と同様に、本願発明1の「前記シーリング材と前記不陸調整層との接着性が、前記シーリング材と前記躯体目地における前記コンクリート壁面との接着性より低い」という、重ね面の縁切りに関する構成が、当業者が容易に想到できたものとはいえないことに変わりはない。

ウ したがって、上記相違点2、3について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明1及び引用発明2並びに上記周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2について
本願発明2は、本願発明1に対応する方法の発明であり、本願発明1の「前記シーリング材と前記不陸調整層との接着性が、前記シーリング材と前記躯体目地における前記コンクリート壁面との接着性より低い」ことに対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明1及び引用発明2並びに上記周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第5 原査定の概要及び原査定についての判断
1 特許法第36条第6項第2号について
原査定の、平成29年3月31日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5について、「コンクリート壁面の変形に追随できる伸縮性」という記載ではコンクリート壁面の変形として、どの程度の変形に対応できる伸縮性を意味するものかが不明であり、「伸縮性」について明確に把握できないため、発明が不明確であるとの拒絶の理由は、平成30年11月26日付け手続補正書により「コンクリート壁面の収縮に追随できる伸縮性」と補正された結果、解消した。

2 特許法第29条第2項について
原査定は、平成29年3月31日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5について、引用文献1記載の発明及び周知技術、あるいは引用文献2記載の発明及び引用文献1記載の発明並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。しかしながら、上記第4における検討のとおり、平成30年11月26日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1及び2における、シーリング材と不陸調整層との接着性を、シーリング材と躯体目地におけるコンクリート壁面との接着性より低いものとするという事項は、引用文献1記載の発明及び周知技術、あるいは引用文献2記載の発明及び引用文献1記載の発明並びに周知技術に基づいて当業者が容易に想到できたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。


第6 当審拒絶理由について
1 特許法第36条第6項第2号について
当審では、請求項1、2の、コンクリート壁面に追随できる伸縮性という発明特定事項について、「コンクリート壁面の収縮に追随できる伸縮性」という記載と、「コンクリート壁面の変形に追随できる伸縮性」という記載とが混在しており、整合していないため、発明が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが、平成30年11月26日付け手続補正書により「コンクリート壁面の収縮に追随できる伸縮性」という記載に統一する補正がなされた結果、この拒絶の理由は解消した。


第7 むすび
以上のとおり、本願発明1及び2は、当業者が、引用発明1及び引用発明2並びに上記周知技術に基づいて容易に発明できたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-01-21 
出願番号 特願2013-141952(P2013-141952)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (E04F)
P 1 8・ 121- WY (E04F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 五十幡 直子  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 住田 秀弘
前川 慎喜
発明の名称 目地構造、及びタイル張り工法  
代理人 加藤 和詳  
代理人 中島 淳  
代理人 福田 浩志  
代理人 加藤 和詳  
代理人 福田 浩志  
代理人 中島 淳  

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