ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L |
---|---|
管理番号 | 1348351 |
審判番号 | 不服2017-14592 |
総通号数 | 231 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-03-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-10-02 |
確定日 | 2019-01-24 |
事件の表示 | 特願2015-223286「ウェーハ研磨方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 5月25日出願公開,特開2017- 92347〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成27年11月13日の特許出願であって,その後の手続の概要は,以下のとおりである。 平成28年 9月14日:拒絶理由通知(起案日) 平成28年11月 4日:意見書,手続補正書 平成29年 1月11日:拒絶理由通知(起案日) 平成29年 3月21日:意見書,手続補正書 平成29年 7月 7日:拒絶査定 (以下「原査定」という。) 平成29年10月 2日:審判請求 第2 本願発明 本願の請求項に係る発明は,特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものと認められるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,以下のとおりである。 「【請求項1】 ウェーハ加圧機構から独立した押圧動作が可能なリテーナリングを有する独立加圧方式の研磨ヘッドを用いてウェーハを研磨する第1の研磨ステップと, ウェーハ加圧機構に固定されたリテーナリングを有する固定加圧方式の研磨ヘッドを用いて前記第1の研磨ステップで研磨加工されたウェーハを研磨する第2の研磨ステップとを備え, 前記第2の研磨ステップは,前記第1の研磨ステップよりも前記ウェーハの研磨量が少ない仕上げ研磨であり, 前記独立加圧方式の研磨ヘッドは,エアー加圧によって膨らんだ状態の単室構造のメンブレンを前記ウェーハの上面に接触させてウェーハの全面を加圧することにより,前記ウェーハを回転定盤上の研磨布に押し付けると共に,前記リテーナリングを当該研磨布に押し付け, 前記固定加圧方式の研磨ヘッドは,バックパットを介して剛体のベースをウェーハの上面に押し付けることにより,前記ウェーハを回転定盤上の研磨布に押し付けると共に,前記リテーナリングを当該研磨布に接触させないことを特徴とするウェーハ研磨方法。」 第3 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は,この出願の請求項1ないし5に係る発明は,本願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1ないし3に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないというものである。 1.特開2015-193065号公報 2.特開2010-274415号公報 3.特開平11-221761号公報 第4 引用文献の記載及び引用発明 1 引用文献1 (1)原査定に引用され,本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2015-193065号公報(以下「引用文献1」という。)には,次の記載がある。(下線は当審で付与した。以下同じ。) 「【請求項1】 研磨パッドをそれぞれ支持するための複数の研磨テーブルと, 基板を前記研磨パッドに押し付ける複数の研磨ヘッドと, 前記基板を前記複数の研磨ヘッドのうちの少なくとも2つに搬送する搬送装置とを備え, 前記複数の研磨ヘッドは互いに異なる構造を有することを特徴とする研磨装置。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0008】 そこで,本発明は,ウェハなどの基板の多段研磨を実行することができる研磨装置を低コストで提供することを第1の目的とする。」 「【0010】 <途中省略> 好ましい態様は,前記少なくとも1つの等圧型研磨ヘッドは,剛体研磨ヘッドおよび単室研磨ヘッドのうちの少なくとも1つであり,前記剛体研磨ヘッドは,円形の平坦面を有する剛体と,前記平坦面に貼り付けられ,前記基板を前記研磨パッドに押し付ける円形の基板保持材と,前記研磨パッドに非接触で前記基板を保持するガイドリングとを備え,前記単室研磨ヘッドは,キャリヤと,前記キャリヤの下方に配置されたプレートと,前記プレートの下に単一の圧力室を形成する円形の弾性膜と,前記基板を囲むように前記キャリヤに固定され,前記研磨パッドを押し付けるリテーナリングとを備えたことを特徴とする。」 「【発明の効果】 【0013】 本発明の一態様によれば,構造の異なる複数の研磨ヘッド,すなわち初期コストおよびメンテナンス費の異なる研磨ヘッドが用いられる。構造の異なる複数の研磨ヘッドを使用すると,メンテナンス費の高い研磨ヘッドの使用頻度を下げることができる。したがって,研磨装置全体としてのメンテナンス費を下げることができる。」 「【発明を実施するための形態】 【0015】 以下,本発明の実施形態に係る研磨装置について図面を参照して説明する。図1は,本発明の実施形態に係る研磨装置を示す図である。図1に示すように,この研磨装置は,略矩形状のハウジング1を備えており,ハウジング1の内部は隔壁1a,1bによってロード/アンロード部2と研磨部3と洗浄部4とに区画されている。研磨装置は,ウェハ処理動作を制御する動作制御部5を有している。 【0016】 ロード/アンロード部2は,多数のウェハ(基板)をストックする基板カセットが載置されるフロントロード部20を備えている。このロード/アンロード部2には,フロントロード部20の並びに沿って走行機構21が敷設されており,この走行機構21上に基板カセットの配列方向に沿って移動可能な搬送ロボット(ローダー)22が設置されている。搬送ロボット22は走行機構21上を移動することによってフロントロード部20に搭載された基板カセットにアクセスできるようになっている。 【0017】 研磨部3は,ウェハの研磨が行われる領域であり,第1研磨ユニット3A,第2研磨ユニット3B,第3研磨ユニット3C,第4研磨ユニット3Dを備えている。図1に示すように,第1研磨ユニット3Aは,研磨面を有する研磨パッド10が取り付けられた第1研磨テーブル30Aと,ウェハを保持しかつウェハを研磨テーブル30A上の研磨パッド10に押圧しながら研磨するための研磨ヘッド31Aと,研磨パッド10に研磨液(例えばスラリー)やドレッシング液(例えば,純水)を供給するための第1研磨液供給ノズル32Aと,研磨パッド10の研磨面のドレッシングを行うための第1ドレッサ33Aと,液体(例えば純水)と気体(例えば窒素ガス)の混合流体を霧状にして研磨面に噴射する第1アトマイザ34Aとを備えている。 【0018】 同様に,第2研磨ユニット3Bは,研磨パッド10が取り付けられた第2研磨テーブル30Bと,研磨ヘッド31Bと,第2研磨液供給ノズル32Bと,第2ドレッサ33Bと,第2アトマイザ34Bとを備えており,第3研磨ユニット3Cは,研磨パッド10が取り付けられた第3研磨テーブル30Cと,研磨ヘッド31Cと,第3研磨液供給ノズル32Cと,第3ドレッサ33Cと,第3アトマイザ34Cとを備えており,第4研磨ユニット3Dは,研磨パッド10が取り付けられた第4研磨テーブル30Dと,研磨ヘッド31Dと,第4研磨液供給ノズル32Dと,第4ドレッサ33Dと,第4アトマイザ34Dとを備えている。」 「【0029】 次に,研磨装置の動作について説明する。搬送ロボット22は,基板カセットからウェハを取り出して,第1リニアトランスポータ6に渡し,さらにウェハは第1リニアトランスポータ6および/または第2リニアトランスポータ7を経由して研磨ユニット3A?3Dのうちの少なくとも2つに搬送される。ウェハは,研磨ユニット3A?3Dのうちの少なくとも2つで研磨される。」 「【0033】 4つの研磨ヘッド31A,31B,31C,31Dは,互いに異なる構成を有している。以下,研磨ヘッド31A,31B,31C,31Dについて説明する。図3は,研磨ヘッド31Aを示す断面図である。研磨ヘッド31Aは,円形の平坦面101aを有する剛体101と,平坦面101aに貼り付けられ,ウェハWを研磨パッド10に押し付ける円形のウェハ保持材(基板保持材)103と,研磨パッド10に非接触で基板を保持するガイドリング105とを備えている。ウェハ保持材(基板保持材)103は,バッキングフィルムとも呼ばれる。 【0034】 剛体101は,自在継手110を介してヘッドシャフト16Aの下端に連結されている。したがって,研磨ヘッド31Aの全体は,ヘッドシャフト16Aに対して自在に傾動することが可能となっている。ヘッドシャフト16Aは,上下動機構120に連結されている。この上下動機構120は,ヘッドシャフト16Aおよび研磨ヘッド31Aを上昇および下降させ,さらに所定の下向きの荷重を発生させるように構成されている。上下動機構120としては,エアシリンダ,またはサーボモータとボールねじ機構の組み合わせなどが使用される。 【0035】 円形のウェハ保持材103は,ウェハWの裏面(すなわち,被研磨面と反対側の面)に接触する。この状態で,上下動機構120が下向きの荷重をヘッドシャフト16Aを通じて研磨ヘッド31Aに伝えると,研磨ヘッド31Aは,ウェハWの被研磨面を研磨パッド10に押し付ける。研磨圧力は,ウェハ保持材103を介して剛体101の平坦面101a(下面)からウェハWに伝えられる。以下,研磨ヘッド31Aを剛体研磨ヘッドと呼ぶことがある。 【0036】 図4は,研磨ヘッド31Bを示す断面図である。研磨ヘッド31Bは,円板状のキャリヤ201と,キャリヤ201の下方に配置されたプレート209と,プレート209の下に単一の圧力室P1を形成する円形の柔軟な弾性膜(メンブレン)203と,ウェハWを囲むようにキャリヤ201に固定され,研磨パッド10を押し付けるリテーナリング205とを備えている。弾性膜203はプレート209に取り付けられており,圧力室P1はプレート209と弾性膜203との間に形成されている。この圧力室P1は,流体ライン231に接続されており,圧力調整された加圧気体(例えば加圧空気)が流体ライン231を通じて圧力室P1内に供給されるようになっている。流体ライン231には真空ライン232が接続されており,真空ライン232によって圧力室P1に負圧が形成されるようになっている。 【0037】 リテーナリング205はキャリヤ201の下面に固定されている。キャリヤ201は,自在継手210を介してヘッドシャフト16Bの下端に連結されている。したがって,キャリヤ201およびリテーナリング205は,ヘッドシャフト16Bに対して自在に傾動することが可能となっている。ヘッドシャフト16Bは,上下動機構235に連結されている。この上下動機構235は,ヘッドシャフト16Bおよび研磨ヘッド31Bを上昇および下降させ,さらに所定の下向きの荷重を発生させるように構成されている。この上下動機構235としては,エアシリンダ,またはサーボモータとボールねじ機構の組み合わせなどが使用される。上下動機構235が下向きの荷重をヘッドシャフト16Bを通じて研磨ヘッド31Bに伝えると,リテーナリング205は研磨パッド10を押し付ける。 【0038】 キャリヤ201とプレート209とは,環状のダイヤフラム220で接続されており,キャリヤ201とプレート209との間には圧力室P2が形成されている。この圧力室P2は,流体ライン238に接続されており,圧力調整された加圧気体(例えば加圧空気)が流体ライン238を通じて圧力室P2内に供給されるようになっている。また,流体ライン238には真空ライン239が接続されており,真空ライン239によって圧力室P2に負圧が形成されるようになっている。圧力室P2内の圧力変化に伴い,プレート209および弾性膜203の全体が上下方向に動くことができる。 【0039】 図4から分かるように,プレート209はキャリヤ201にダイヤフラム220を介して接続されているので,プレート209,弾性膜203,およびウェハWは,キャリヤ201およびリテーナリング205に対して柔軟に傾動することが可能となっている。弾性膜(メンブレン)203の下面は,ウェハWの裏面(すなわち,被研磨面と反対側の面)に接触し,弾性膜203はウェハWの被研磨面を研磨パッド10に押し付ける。研磨圧力は,圧力室P1内の圧力によって発生され,この研磨圧力は弾性膜203からウェハWに伝えられる。以下,研磨ヘッド31Bを単室研磨ヘッドと呼ぶことがある。 【0040】 上述した剛体研磨ヘッド31Aおよび単室研磨ヘッド31Bは,ウェハWの全面に均等な研磨圧力を加える等圧型研磨ヘッドである。これら等圧型研磨ヘッド31A,31Bは,比較的簡単な構造を有しており,メンテナンス費も少なくてすむ。例えば,剛体研磨ヘッド31Aでは,ガイドリング105は研磨パッド10に接触しないので,摩耗しない。また,研磨ヘッド31Aはウェハ保持材103を用いた簡単な構成を有しているので,コストが安い。研磨ヘッド31Bにおいては圧力室が少ないため,初期費用およびメンテナンス費用が低減される。」 「【0047】 図6は,研磨ヘッド31Dを示す断面図である。研磨ヘッド31Dは,円板状のキャリヤ401と,キャリヤ401の下に複数の圧力室D1,D2,D3,D4を形成する円形の柔軟な弾性膜(メンブレン)403と,ウェハWを囲むように配置され,研磨パッド10を押し付けるリテーナリング405とを備えている。圧力室D1,D2,D3,D4は弾性膜403とキャリヤ401の下面との間に形成されている。 <途中省略> 【0050】 リテーナリング405とキャリヤ401との間には,環状の弾性膜406が配置されている。この弾性膜406の内部には環状の圧力室D5が形成されている。この圧力室D5は,流体ラインG5に接続されており,圧力調整された加圧気体(例えば加圧空気)が流体ラインG5を通じて圧力室D5内に供給されるようになっている。また,流体ラインG5には真空ラインU5が接続されており,真空ラインU5によって圧力室D5に負圧が形成されるようになっている。圧力室D5内の圧力変化に伴い,リテーナリング405の全体が上下方向に動くことができる。圧力室D5内の圧力はリテーナリング405に加わり,リテーナリング405は弾性膜(メンブレン)403とは独立して研磨パッド10を直接押圧することができるように構成されている。ウェハWの研磨中,リテーナリング405はウェハWの周囲で研磨パッド10を押し付けながら,弾性膜403がウェハWを研磨パッド10に対して押し付ける。」 「【0054】 さらに,ウェハWの処理タイプに従って使用すべき研磨ヘッドを選択することによって,研磨ヘッドの寿命を長くし,メンテナンス費を下げることが可能である。図3および図4に示す研磨ヘッド31A,31Bは,ウェハWの粗研磨および仕上げ研磨に使用されることが好ましい。ウェハWの粗研磨では,高い研磨レート(高除去レート)でウェハWが研磨される。このような粗研磨ではリテーナリングの摩耗も早い。研磨ヘッド31A,31Bを粗研磨に使用することで,研磨ヘッド31C,31Dの使用頻度を低くすることができる。結果として,メンテナンス費の高い研磨ヘッド31C,31Dのメンテナンス頻度を低下させることができ,メンテナンスの総費用を低くすることができる。図3に示す剛体研磨ヘッド31Aは,特にウェハWの仕上げ研磨に適している。これは,ガイドリング105が研磨パッド10に接触しないので,ウェハWの研磨中にガイドリング105の摩耗粉が発生しないからである。 【0055】 仕上げ研磨では,通常,ウェハのプロファイル制御を行う必要はない。したがって,ウェハプロファイル制御が可能な複数の圧力室を備えた研磨ヘッド31C,31Dを使用する必要はない。そこで,研磨ヘッド31A,31Bを仕上げ研磨に使用することで,研磨ヘッド31C,31Dのメンテナンス頻度を低下させることができ,メンテナンスの総費用を低くすることができる。 【0056】 以下,上記4つの異なるタイプの研磨ヘッド31A,31B,31C,31Dのうちの少なくとも2つを用いてウェハを研磨する例について図7を参照して説明する。図7は,4つの研磨ヘッド31A,31B,31C,31Dを用いて,ウェハの粗研磨,ウェハの第1プロファイル制御研磨,ウェハの第2プロファイル制御研磨,およびウェハの仕上げ研磨をこの順に実行する例を示す図である。この例では,ウェハは,第1研磨ユニット3A,第3研磨ユニット3C,第4研磨ユニット3D,および第2研磨ユニット3Bの順に搬送される。第1研磨ユニット3Aでは,研磨ヘッド31Aを用いてウェハの粗研磨が行われ,第3研磨ユニット3Cでは,研磨ヘッド31Cを用いてウェハの第1プロファイル制御研磨が行われ,第4研磨ユニット3Dでは,研磨ヘッド31Dを用いてウェハの第2プロファイル制御研磨が行われ,第2研磨ユニット3Bでは,研磨ヘッド31Bを用いてウェハの仕上げ研磨が行われる。 <途中省略> 【0062】 上述した4つの異なる研磨ヘッド31A,31B,31C,31Dの組み合わせおよび配置は,適宜変更することができる。例えば,図13に示すように,剛体研磨ヘッド31Aを第1研磨ユニット3Aに配置し,第2複室研磨ヘッド31Dを第2研磨ユニット3Bに配置し,第2複室研磨ヘッド31Dを第3研磨ユニット3Cに配置し,そして剛体研磨ヘッド31Aを第4研磨ユニット3Dに配置してもよい。この例では,2台の剛体研磨ヘッド31Aおよび2台の第2複室研磨ヘッド31Dが使用され,単室研磨ヘッド31Bおよび第1複室研磨ヘッド31Cは使用されない。2台の第2複室研磨ヘッド31Dのうちの一方の圧力室の配置は,図9に示すように,他方の第2複室研磨ヘッド31Dの圧力室の配置と異なっている。したがって,2台の第2複室研磨ヘッド31Dは,それぞれウェハのプロファイルを積極的に制御する(または生成する)ための研磨と,ウェハのプロファイルの微調整のための研磨を行うことができる。 【0063】 図13に使用される2台の剛体研磨ヘッド31Aのうちのいずれか一方または両方は,単室研磨ヘッド31Bに置き換えられてもよい。また,図13に使用される2台の第2複室研磨ヘッド31Dのうちのいずれか一方または両方は,第1複室研磨ヘッド31Cに置き換えられてもよい。」 「【0066】 上述した実施形態は,本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は,当業者であれば当然になしうることであり,本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって,本発明は,記載された実施形態に限定されることはなく,特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。」 【図13】 (2)上記記載から,引用文献1には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。 ア 引用文献1に記載された技術は,研磨装置に関するものであり,ウェハなどの基板の多段研磨を実行することができる研磨装置を低コストで提供することを目的として(【0008】),研磨装置が,互いに異なる構造を有する複数の研磨ヘッドを備えるようにしたものである(【請求項1】)。 イ 引用文献1に記載された技術の実施形態に係る研磨装置は,研磨面を有する研磨パッド10が取り付けられた第1研磨テーブル30Aと研磨ヘッド31Aとを備えた第1研磨ユニット3A,研磨パッド10が取り付けられた第2研磨テーブル30Bと研磨ヘッド31Bとを備えた第2研磨ユニット3B,研磨パッド10が取り付けられた第3研磨テーブル30Cと研磨ヘッド31Cとを備えた第3研磨ユニット3C,及び,研磨パッド10が取り付けられた第4研磨テーブル30Dと研磨ヘッド31Dとを備えた第4研磨ユニット3Dを備えている(【0015】-【0018】)。 ウ 研磨ヘッド31Aは,円形の平坦面101aを有する剛体101と,平坦面101aに貼り付けられ,ウェハWを研磨パッド10に押し付ける円形のウェハ保持材(基板保持材)103と,研磨パッド10に非接触で基板を保持するガイドリング105とを備えており(【0033】),研磨ヘッド31Aを剛体研磨ヘッドと呼ぶことがある(【0035】)。 エ 研磨ヘッド31Bは,円板状のキャリヤ201と,キャリヤ201の下方に配置されたプレート209と,プレート209の下に単一の圧力室P1を形成する円形の柔軟な弾性膜(メンブレン)203と,ウェハWを囲むようにキャリヤ201に固定され,研磨パッド10を押し付けるリテーナリング205とを備えたものであって,弾性膜203はプレート209に取り付けられており,圧力室P1はプレート209と弾性膜203との間に形成されており,この圧力室P1は,流体ライン231に接続されており,圧力調整された加圧気体(例えば加圧空気)が流体ライン231を通じて圧力室P1内に供給されるようになっており(【0036】),リテーナリング205はキャリヤ201の下面に固定され(【0037】),研磨圧力は,圧力室P1内の圧力によって発生され,この研磨圧力は弾性膜203からウェハWに伝えられるものであり,研磨ヘッド31Bを単室研磨ヘッドと呼ぶことがある(【0039】)。 オ 剛体研磨ヘッド31Aでは,ガイドリング105は研磨パッド10に接触しないので,摩耗しない(【0040】)。 カ 研磨ヘッド31Dは,円板状のキャリヤ401と,キャリヤ401の下に複数の圧力室D1,D2,D3,D4を形成する円形の柔軟な弾性膜(メンブレン)403と,ウェハWを囲むように配置され,研磨パッド10を押し付けるリテーナリング405とを備えている。圧力室D1,D2,D3,D4は弾性膜403とキャリヤ401の下面との間に形成されており(【0047】),リテーナリング405とキャリヤ401との間には,環状の弾性膜406が配置されており,この弾性膜406の内部には環状の圧力室D5が形成され,圧力室D5内の圧力変化に伴い,リテーナリング405の全体が上下方向に動くことができ,圧力室D5内の圧力はリテーナリング405に加わり,リテーナリング405は弾性膜(メンブレン)403とは独立して研磨パッド10を直接押圧することができるように構成されている(【0050】)。 キ 研磨ヘッド31A,31Bは,ウェハWの粗研磨および仕上げ研磨に使用されることが好ましい(【0054】)。 ク ガイドリング105が研磨パッド10に接触しないので,ウェハWの研磨中にガイドリング105の摩耗粉が発生しないから,剛体研磨ヘッド31Aは,特にウェハWの仕上げ研磨に適している(【0054】)。 ケ 図7は,4つの研磨ヘッド31A,31B,31C,31Dを用いて,ウェハの粗研磨,ウェハの第1プロファイル制御研磨,ウェハの第2プロファイル制御研磨,およびウェハの仕上げ研磨をこの順に実行する例を示す図であって,この例では,ウェハは,第1研磨ユニット3A,第3研磨ユニット3C,第4研磨ユニット3D,および第2研磨ユニット3Bの順に搬送されることで,第1研磨ユニット3Aでは,研磨ヘッド31Aを用いてウェハの粗研磨が行われ,第3研磨ユニット3Cでは,研磨ヘッド31Cを用いてウェハの第1プロファイル制御研磨が行われ,第4研磨ユニット3Dでは,研磨ヘッド31Dを用いてウェハの第2プロファイル制御研磨が行われ,第2研磨ユニット3Bでは,研磨ヘッド31Bを用いてウェハの仕上げ研磨が行われる(【0056】)。 コ 上述した4つの異なる研磨ヘッド31A,31B,31C,31Dの組み合わせおよび配置は,適宜変更することができ,例えば,図13に示すように,剛体研磨ヘッド31Aを第1研磨ユニット3Aに配置し,第2複室研磨ヘッド31Dを第2研磨ユニット3Bに配置し,第2複室研磨ヘッド31Dを第3研磨ユニット3Cに配置し,そして剛体研磨ヘッド31Aを第4研磨ユニット3Dに配置してもよい(【0062】)。 サ 図13に使用される2台の剛体研磨ヘッド31Aのうちのいずれか一方または両方は,単室研磨ヘッド31Bに置き換えられてもよい(【0063】)。 シ 第1研磨ユニットに配置した剛体研磨ヘッドを用いて粗研磨を行い,第2研磨ユニットに配置した第2複室研磨ヘッドを用いてプロファイル制御を行い,第3研磨ユニットに配置した第2複室研磨ヘッドを用いてプロファイル微調整を行い,第4研磨ユニットに配置した剛体研磨ヘッドを用いて仕上げ研磨を行う(【図13】)。 (3)上記(1),(2)から,引用文献1には,引用文献1の図13に示される次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「第1研磨ユニットに配置した剛体研磨ヘッドを用いて粗研磨を行い,第2研磨ユニットに配置した第2複室研磨ヘッドを用いてプロファイル制御を行い,第3研磨ユニットに配置した第2複室研磨ヘッドを用いてプロファイル微調整を行い,第4研磨ユニットに配置した剛体研磨ヘッドを用いて仕上げ研磨を行うウェハの研磨方法であって, 前記剛体研磨ヘッドは,円形の平坦面を有する剛体と,前記平坦面に貼り付けられ,ウェハを研磨テーブル上の研磨パッドに押し付ける円形のウェハ保持材(基板保持材)と,研磨パッドに非接触で基板を保持するガイドリングとを備えたものである, ウェハの研磨方法。」 2 引用文献2 (1)同じく原査定に引用され,本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2010-274415号公報(以下「引用文献2」という。)には,次の記載がある。 「【0025】 次に,本発明の研磨装置における研磨ヘッドの1態様について説明する。図2は,研磨対象物である半導体ウエハWを保持して研磨テーブル上の研磨面に押圧する研磨ヘッドを構成するトップリング1の模式的な断面図である。図2においては,トップリング1を構成する主要構成要素だけを図示している。 図2に示すように,トップリング1は,半導体ウエハWを研磨面101aに対して押圧するトップリング本体2と,研磨面101aを直接押圧するリテーナリング3とから基本的に構成されている。トップリング本体2は,概略円盤状の部材からなり,リテーナリング3はトップリング本体2の外周部に取り付けられている。トップリング本体2は,エンジニアリングプラスティック(例えば,PEEK)などの樹脂により形成されている。トップリング本体2の下面には,半導体ウエハの裏面に当接する弾性膜4が取り付けられている。弾性膜4は,エチレンプロピレンゴム(EPDM),ポリウレタンゴム,シリコンゴム等の強度および耐久性に優れたゴム材によって形成されている。 【0026】 前記弾性膜4は,円形状の隔壁4aを有し,この隔壁4aによって,弾性膜4の上面とトップリング本体2の下面との間に円形状のセンター室5と環状のアウター室7とが形成されるようになっている。トップリング本体2内には,センター室5に連通する流路11とアウター室7に連通する流路13とが形成されている。そして,流路11はチューブやコネクタ等からなる流路21を介して流体供給源30に接続されており,流路13はチューブやコネクタ等からなる流路23を介して流体供給源30に接続されている。流路21には開閉バルブV1と圧力レギュレータR1が設置されており,流路23には開閉バルブV3と圧力レギュレータR3が設置されている。流体供給源30は,圧縮空気等の圧力流体を供給するようになっている。 【0027】 また,リテーナリング3の直上にもリテーナ室9が形成されており,リテーナ室9は,トップリング本体2内に形成された流路15およびチューブやコネクタ等からなる流路25を介して流体供給源30に接続されている。流路25には開閉バルブV5と圧力レギュレータR5が設置されている。圧力レギュレータR1,R3,R5は流体供給源30からセンター室5,アウター室7およびリテーナ室9に供給する圧力流体の圧力を調整する圧力調整機能を有している。そして,圧力レギュレータR1,R3およびR5および開閉バルブV1,V3およびV5は,制御装置33に接続されていて,それらの作動が制御されるようになっている。 【0028】 図2に示すように構成されたトップリング1においては,弾性膜4とトップリング本体2との間に圧力室,すなわち,センター室5およびアウター室7が形成され,リテーナリング3の直上に圧力室,すなわち,リテーナ室9が形成され,これらセンター室5,アウター室7およびリテーナ室9に供給する流体の圧力を圧力レギュレータR1,R3,R5によってそれぞれ独立に調整することができる。このような構造により,半導体ウエハWを研磨パッド101に押圧する押圧力を半導体ウエハの領域毎に調整でき,かつリテーナリング3が研磨パッド101を押圧する押圧力を調整できる。 すなわち,センター室5の直下にある半導体ウエハの円形領域(円形エリア),アウター室7の直下にある半導体ウエハの環状領域(リング状エリア)ごとに研磨パッド101に押圧する押圧力を独立に調整でき,リテーナリング3が研磨パッド101を押圧する押圧力を独立に調整できる。」 (2)上記記載から,引用文献2には,次の技術が記載されていると認められる。 「トップリング本体の外周部に取り付けられているリテーナリングの直上に,トップリング本体内に形成された流路およびチューブやコネクタ等からなる流路を介して流体供給源に接続されたリテーナ室を形成することで,リテーナリングが研磨パッドを押圧する押圧力を独立に調整できること。」 第5 対比 本願発明と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。 1 引用発明の「第1研磨ユニットに配置した剛体研磨ヘッドを用いて粗研磨を行い」と,本願発明の「ウェーハ加圧機構から独立した押圧動作が可能なリテーナリングを有する独立加圧方式の研磨ヘッドを用いてウェーハを研磨する第1の研磨ステップ」とは,「研磨ヘッドを用いてウェーハを研磨する第1の研磨ステップ」である点で一致する。 2 引用発明の「ガイドリング」及び「『剛体研磨ヘッド』が備える『円形の平坦面を有する剛体』」は,それぞれ,本願発明の「リテーナリング」及び「ウェーハ加圧機構」に相当するから,引用発明の「剛体研磨ヘッド」は,本願発明の「ウェーハ加圧機構に固定されたリテーナリングを有する固定加圧方式の研磨ヘッド」に相当する。 さらに,引用発明において,第4研磨ユニットに配置した剛体研磨ヘッドを用いた仕上げ研磨は,第1研磨ユニットに配置した剛体研磨ヘッドを用いた粗研磨よりも後の工程であるから,前記第4研磨ユニットに配置した剛体研磨ヘッドを用いた仕上げ研磨で研磨加工されるウェハが,前記第1研磨ユニットに配置した剛体研磨ヘッドを用いた粗研磨で研磨加工されたウェハであることは明らかである。 そうすると,引用発明の「第4研磨ユニットに配置した剛体研磨ヘッドを用いて仕上げ研磨を行う」と,本願発明の「ウェーハ加圧機構に固定されたリテーナリングを有する固定加圧方式の研磨ヘッドを用いて前記第1の研磨ステップで研磨加工されたウェーハを研磨する第2の研磨ステップ」とは,「ウェーハ加圧機構に固定されたリテーナリングを有する固定加圧方式の研磨ヘッドを用いて前記第1の研磨ステップで研磨加工されたウェーハを研磨する第2の研磨ステップ」である点で一致する。 また,引用発明の「研磨テーブル」,「研磨パッド」は,それぞれ,本願発明の「回転定盤」,「研磨布」に相当し,したがって,引用発明の「円形の平坦面を有する剛体」及び「ウェハを研磨パッドに押し付ける円形のウェハ保持材(基板保持材)」は,それぞれ,本願発明の「剛体のベース」及び「バックパッド」に相当する。 以上のことから,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。 <一致点> 「研磨ヘッドを用いてウェーハを研磨する第1の研磨ステップと, ウェーハ加圧機構に固定されたリテーナリングを有する固定加圧方式の研磨ヘッドを用いて前記第1の研磨ステップで研磨加工されたウェーハを研磨する第2の研磨ステップとを備え, 前記第2の研磨ステップは,仕上げ研磨であり, 前記固定加圧方式の研磨ヘッドは,バックパットを介して剛体のベースをウェーハの上面に押し付けることにより,前記ウェーハを回転定盤上の研磨布に押し付けると共に,前記リテーナリングを当該研磨布に接触させないウェーハ研磨方法。」 <相違点1> 第1の研磨ステップで用いる研磨ヘッドが,本願発明では「ウェーハ加圧機構から独立した押圧動作が可能なリテーナリングを有する独立加圧方式」の研磨ヘッドであって,「エアー加圧によって膨らんだ状態の単室構造のメンブレンを前記ウェーハの上面に接触させてウェーハの全面を加圧することにより,前記ウェーハを回転定盤上の研磨布に押し付けると共に,前記リテーナリングを当該研磨布に押し付け」るものであるのに対して,引用発明では,「剛体研磨ヘッド」である点。 <相違点2> 本願発明においては,「前記第2の研磨ステップは,前記第1の研磨ステップよりも前記ウェーハの研磨量が少ない」ことが特定されているのに対して,引用発明では,粗研磨と仕上げ研磨の研磨量の関係が明らかでない点。 第6 判断 以下,相違点について検討する。 1 相違点1について 上記第4の1(2)サのとおり,引用文献1には,図13に使用される2台の剛体研磨ヘッド31Aのうちのいずれか一方または両方を,単室研磨ヘッド31Bに置き換えられてもよいとする技術的事項が記載されている。 さらに,上記第4の1(2)クのとおり,引用文献1には,ガイドリング105が研磨パッド10に接触しないので,ウェハWの研磨中にガイドリング105の摩耗粉が発生しないから,剛体研磨ヘッド31Aは,特にウェハWの仕上げ研磨に適しているとする技術的事項が記載されている。 してみれば,当該引用文献1のこれらの記載に接した当業者において,引用発明で使用されている,2台の剛体研磨ヘッドのうちのいずれか一方を,単室研磨ヘッドに置き換えることは,適宜なし得たことであり,その際に,「剛体研磨ヘッド31Aは,特にウェハWの仕上げ研磨に適しているとする技術的事項が記載されている」とする前記記載に基づいて,引用発明の仕上げ研磨は,研磨ヘッドを置き換えることなく剛体研磨ヘッドを用いて行い,粗研磨で用いられている剛体研磨ヘッドを,単室研磨ヘッド31Bに置き換えることは直ちになし得たことである。 そして,上記第4の1(2)エのとおり,引用文献1に記載された単室研磨ヘッド31Bは,円板状のキャリヤ201と,キャリヤ201の下方に配置されたプレート209と,プレート209の下に単一の圧力室P1を形成する円形の柔軟な弾性膜(メンブレン)203と,ウェハWを囲むようにキャリヤ201に固定され,研磨パッド10を押し付けるリテーナリング205とを備えたものであって,弾性膜203はプレート209に取り付けられており,圧力室P1はプレート209と弾性膜203との間に形成されており,この圧力室P1は,流体ライン231に接続されており,圧力調整された加圧気体(例えば加圧空気)が流体ライン231を通じて圧力室P1内に供給されるようになっており,リテーナリング205はキャリヤ201の下面に固定され,研磨圧力は,圧力室P1内の圧力によって発生され,この研磨圧力は弾性膜203からウェハWに伝えられるという構造を有するものであって,この単室研磨ヘッド31Bの前記「プレート209の下に単一の圧力室P1を形成する円形の柔軟な弾性膜(メンブレン)203」は,本願発明の「エアー加圧によって膨らんだ状態の単室構造のメンブレン」に相当するといえる。 さらに,前記単室研磨ヘッド31Bの「リテーナリング205」は,「ウェハWを囲むようにキャリヤ201に固定され,研磨パッド10を押し付け」られるのであるから,当該「リテーナリング205」による押圧動作には,ウェーハ加圧機構である「プレート209の下に単一の圧力室P1を形成する円形の柔軟な弾性膜(メンブレン)203」が介在しておらず,ウェーハ加圧とは独立して,「キャリヤ201」によって加圧することが可能であるといえる。 そうすると,引用発明の剛体研磨ヘッドに置き換えられる「単室研磨ヘッド31B」は,本願発明の「ウェーハ加圧機構から独立した押圧動作が可能なリテーナリングを有する独立加圧方式」の研磨ヘッドであって,「エアー加圧によって膨らんだ状態の単室構造のメンブレンを前記ウェーハの上面に接触させてウェーハの全面を加圧することにより,前記ウェーハを回転定盤上の研磨布に押し付けると共に,前記リテーナリングを当該研磨布に押し付け」るものに相当する。 してみれば,引用発明において,上記相違点1について本願発明の構成を採用することは,当業者が容易に想到し得たことである。 なお,仮に,本願発明の「ウェーハ加圧機構から独立した押圧動作が可能なリテーナリング」を,本願明細書【0029】の「リテーナリング34はウェーハ加圧機構を構成するメンブレン32から独立した押圧動作が可能であり,メンブレン32とは別のエアー加圧によって回転定盤50上に押し付けられて研磨布51と接触している。すなわち,リテーナリング34は,メンブレン32とは別のエアー供給源からのエアー加圧によって加圧制御されるものである。」との記載から,リテーナリングを,ウェーハ加圧機構を構成するメンブレンとは別のエアー加圧によって加圧制御する構造を特定しようとしたものであると解したとしても,リテーナリングを,ウェーハ加圧機構を構成するメンブレンとは別のエアー加圧によって加圧制御する構造は,上記第4の1(2)カ,及び,上記第4の2(2)にも記載されるように周知の構造であるから,引用文献1に記載された単室研磨ヘッド31Bの「リテーナリング205」を,このような構造のものとすることは適宜なし得たことである。 すなわち,引用発明と,引用文献1に記載された技術的事項に基づいて,あるいは,引用発明と,引用文献1,2に記載された技術的事項に基づいて,引用発明において,上記相違点1について本願発明の構成を採用することは,当業者が容易に想到し得たことである。 2 相違点2について 「仕上げ研磨」の研磨量が,「粗研磨」の研磨量よりも少ないことは普通であるから,相違点2は実質的なものではない。 仮に,相違点2が実質的なものであるとしても,「仕上げ研磨」の研磨量を,「粗研磨」の研磨量よりも少なくすることは,技術常識に基づいて当業者が容易になし得たことである。 したがって,引用発明において,上記相違点2は実質的なものではないか,仮に実質的なものであるとしても,相違点2について本願発明の構成を採用することは,当業者が容易に想到し得たことである。 3 そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本願発明の奏する作用効果は,引用発明及び引用文献1,2に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。 4 審判請求人の主張について (1)審判請求人は,審判請求の理由において,次のように主張する。 「本発明において,独立加圧方式の研磨ヘッド(等圧型研磨ヘッド)を用いた第1の研磨ステップの後の固定加圧方式の研磨ヘッド(等圧型研磨ヘッド)を用いた第2の研磨ステップは,他の研磨ステップを経由することなく直ちに実施されるものであり,第1の研磨ステップと第2の研磨ステップとの間に複室型研磨ヘッドによる研磨ステップが介在することを許容するものではない。このことは,本願請求項1における,『前記第1の研磨ステップで研磨加工されたウェーハを研磨する第2の研磨ステップ』という記載からも明らかである。本発明は,上記構成とすることにより,ウェーハの平坦度とLPD品質の両方を高めることができるものである。」 しかしながら,本願発明は,上記第2に記載したとおりのものであって,請求項1には,独立加圧方式の研磨ヘッド(等圧型研磨ヘッド)を用いた第1の研磨ステップの後の固定加圧方式の研磨ヘッド(等圧型研磨ヘッド)を用いた第2の研磨ステップが,「他の研磨ステップを経由することなく直ちに実施される」との記載は存在しない。 一方,本願明細書の発明の詳細な説明には,次の記載がある。 「【0051】 以上,本発明の好ましい実施形態について説明したが,本発明は,上記の実施形態に限定されることなく,本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり,それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。 【0052】 例えば,上記実施形態においては,2段の研磨ユニットの直列配置からなるウェーハ研磨装置を例に挙げたが,本発明において研磨ユニットの段数は3段以上であってもよい。ただしこの場合,最終段の研磨ユニットの研磨ヘッドが固定加圧方式であり,最終段以外の研磨ユニットの少なくとも一つが独立加圧方式であることが必要である。このように,2台以上の研磨ユニットが直列に配置されている場合に,第2の研磨ユニットが最終段の研磨ユニットを構成しているので,スラリーの種類等の研磨条件は研磨ユニットごとに異なっていてもよく,同じであってもよい。」 ここで,上記記載における「本発明」が,本願の特許請求の範囲に記載された発明であることは明らかである。そして,当該記載からは,最終段の研磨ユニットの研磨ヘッドが固定加圧方式であり,最終段以外の研磨ユニットの少なくとも一つが独立加圧方式であれば,研磨ユニットの段数は3段以上であっても,本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもなく,本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であることが理解される。 そうすると,最終段の研磨ユニットの研磨ヘッドが固定加圧方式であり,最終段以外の研磨ユニットである最初の研磨ユニットが独立加圧方式であり,さらに,第2及び第3段の研磨ユニットとして複室型研磨ヘッドを用いたウェーハ研磨方法が,本願の特許請求の範囲に記載された発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもないから,審判請求人の前記主張は,本願明細書の記載に基づかないものであって採用することはできない。 (2)さらに,審判請求人は,審判請求の理由において,次のように主張する。 「これに対し,本発明は,本発明の段落[0033]で記載する,『固定加圧方式の研磨ヘッド12Bを用いて仕上げ研磨を行うことにより,独立加圧方式の研磨ヘッド12Aを用いた研磨によって低下したウェーハWのLPD品質を回復又は向上させることができる。』という知見に基づき完成された発明であり,この知見は本発明者によって得られた知見である。リテーナリングの消耗によるLPDの発生については,拒絶査定の理由でも示されているように,引用文献1の段落[0054]において,『研磨ヘッド31Aはガイドリング(リテーナーリング)が研磨布と接触しないので,研磨中にガイドリングの消耗粉が発生しない』旨が示され,仕上げ研磨への研磨ヘッド31Aの適用が示唆されている。しかしながら,上記記載は,ガイドリングが研磨布に接触しない『研磨ヘッド31A』はガイドリングの消耗粉が発生しないと言っているだけであり,一旦,『研磨ヘッド31B』による粗研磨で発生したLPD(ウェーハ表面の欠陥,パーティクルなど)を『研磨ヘッド31A』を用いれば回復できることを意味するものではない。」 しかしながら,引用文献1には,以下の記載がある。 「【0064】 図13に示す研磨ヘッドの組み合わせを用いて,ウェハを研磨する例について説明する。図14は,ウェハの研磨量,ウェハ表面の平坦化の要求,およびスクラッチなどの欠陥がないことの要求などの研磨目標に従って選択される研磨ヘッドの組み合わせの例を示す図である。図14に示す例1は,ウェハの研磨量が多く,ウェハ表面の平坦化の要求が高く,欠陥がないことの要求が高い場合の,研磨ヘッドの選択例を示す。この例1では,4つの研磨ユニット3A,3B,3C,3Dの4つの研磨ヘッドがすべて使用されて,ウェハが研磨される。 【0065】 例2は,ウェハの研磨量が少なく,ウェハ表面の平坦化の要求が高く,欠陥がないことの要求が高い場合の,研磨ヘッドの選択例を示す。この例2では,第1研磨ユニット3Aの剛体研磨ヘッドは使用されないが,第2研磨ユニット3Bの第2複室研磨ヘッド,第3研磨ユニット3Cの第2複室研磨ヘッド,および第4研磨ユニット3Dの剛体研磨ヘッドが使用される。例3は,ウェハの研磨量が少なく,ウェハ表面の平坦化の要求が低く,欠陥がないことの要求が高い場合の,研磨ヘッドの選択例を示す。この例3では,第1研磨ユニット3Aの剛体研磨ヘッドおよび第3研磨ユニット3Cの第2複室研磨ヘッドは使用されないが,第2研磨ユニット3Bの第2複室研磨ヘッドおよび第4研磨ユニット3Dの剛体研磨ヘッドが使用される。例4は,ウェハの研磨量が多く,ウェハ表面の平坦化の要求が低く,欠陥がないことの要求が低い場合の,研磨ヘッドの選択例を示す。この例4では,第3研磨ユニット3Cの第2複室研磨ヘッドおよび第4研磨ユニット3Dの剛体研磨ヘッドは使用されないが,第1研磨ユニット3Aの剛体研磨ヘッドおよび第2研磨ユニット3Bの第2複室研磨ヘッドが使用される。例5は,ウェハの研磨量が少なく,ウェハ表面の平坦化の要求が高く,欠陥がないことの要求が低い場合の,研磨ヘッドの選択例を示す。この例5では,第1研磨ユニット3Aおよび第4研磨ユニット3Dの剛体研磨ヘッドは使用されず,第2研磨ユニット3Bおよび第3研磨ユニット3Cの第2複室研磨ヘッドが使用される。」 【図14】 すなわち,引用文献1には,ウェハの研磨量が少なく,ウェハ表面の平坦化の要求が高いという研磨目標が与えられた場合には,第2研磨ユニット3Bおよび第3研磨ユニット3Cの第2複室研磨ヘッドを使用する研磨ヘッドの組み合わせ(例5)を選択するのに対して,前記ウェハの研磨量が少なく,ウェハ表面の平坦化の要求が高いという研磨目標に加えて,更に,欠陥がないことの要求が高いという研磨目標が与えられた場合には,第2研磨ユニット3Bの第2複室研磨ヘッド,第3研磨ユニット3Cの第2複室研磨ヘッド,および第4研磨ユニット3Dの剛体研磨ヘッドを使用するという組み合わせ(例2)を選択することが記載されている。 ここで,例5と例2の違いは,第2研磨ユニット3Bの第2複室研磨ヘッド,第3研磨ユニット3Cの第2複室研磨ヘッドを使用した研磨を行った後に,第4研磨ユニット3Dの剛体研磨ヘッドを使用するか否かという違いだけであり,当該第4研磨ユニット3Dの剛体研磨ヘッドを使用するか否かによって,欠陥がないという結果が得られるか否かが定まることが理解される。 そうすると,引用文献1の前記記載から,剛体研磨ヘッドを用いて仕上げ研磨を行うことにより,当該仕上げ研磨に先立って行われた研磨によって低下したウェハ表面の品質を回復又は向上させて,欠陥がない表面を備えたウェハを得ることができるという知見が既に知られていたと認められるから,審判請求人の前記主張は,採用することはできない。 第7 むすび 以上のとおり,本願発明は,引用文献1に記載された発明と,引用文献1,2に記載された技術的事項に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2018-11-20 |
結審通知日 | 2018-11-27 |
審決日 | 2018-12-11 |
出願番号 | 特願2015-223286(P2015-223286) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01L)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 梶尾 誠哉、山口 大志 |
特許庁審判長 |
恩田 春香 |
特許庁審判官 |
加藤 浩一 鈴木 和樹 |
発明の名称 | ウェーハ研磨方法 |
代理人 | 緒方 和文 |
代理人 | 鷲頭 光宏 |
代理人 | 黒瀬 泰之 |