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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 E02D
管理番号 1348505
審判番号 不服2018-4340  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-02 
確定日 2019-02-20 
事件の表示 特願2015-230802「振動杭打抜機および杭の打込み・引抜き工法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 6月 1日出願公開、特開2017- 96019、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年11月26日の出願であって、平成29年4月25日付けで拒絶理由通知がされ、平成29年6月2日付けで手続補正がされ、平成29年8月14日付けで拒絶理由通知がされ、平成29年12月28日付けで拒絶査定(原査定)がされ、同査定の謄本は平成30年1月16日に請求人に発送された。これに対し、平成30年4月2日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成29年12月28日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1 理由1(特許法第29条第2項)
本願請求項1及び6に係る発明は、以下の引用文献1及び2に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本願請求項2ないし4、7及び8に係る発明は、以下の引用文献1ないし4に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、請求項5及び9に係る発明については、現時点では、拒絶の理由を発見しない。

引用文献一覧
引用文献1:特開平4-83016号公報
引用文献2:特開2014-201971号公報
引用文献3:特開2012-136910公報
引用文献4:特開平9-323068号公報

第3 本願発明
本願請求項1ないし9に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明9」という。)は、平成29年6月2日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
油圧モータである主モータを含み、当該主モータによって駆動される起振機と、
杭を把持する杭把持装置と、
オイルタンクと、
前記主モータに前記オイルタンクのオイルを圧送する主ポンプと、
前記杭把持装置に前記オイルタンクのオイルを圧送する把持装置用ポンプと、
前記主ポンプを駆動する発動機と、
前記把持装置用ポンプを駆動する第1の小型動力源と、
を備え、
前記杭把持装置が把持対象物を把持しており、かつ当該把持対象物の打込みおよび引き抜きをしていないとき、前記第1の小型動力源により前記把持装置用ポンプを駆動し、かつ前記発動機を停止し、
前記杭把持装置が把持対象物を把持しており、かつ当該把持対象物の打込みまたは引き抜きをしているとき、前記第1の小型動力源により前記把持装置用ポンプを駆動し、かつ前記発動機により前記主ポンプを駆動する、
ことを特徴とする振動杭打抜機。
【請求項2】
油圧モータである主モータと、予冷または暖機および潤滑を行う強制潤滑装置と、負荷に応じて振動力を変化させる変換装置とを含み、前記主モータによって駆動される起振機と、
杭を把持する杭把持装置と、
オイルタンクと、
前記主モータに前記オイルタンクのオイルを圧送する主ポンプと、
前記杭把持装置に前記オイルタンクのオイルを圧送する把持装置用ポンプと、
前記強制潤滑装置に前記オイルタンクのオイルを圧送する強制潤滑装置用ポンプと、
前記変換装置に前記オイルタンクのオイルを圧送する変換装置用ポンプと、
前記主ポンプと、前記強制潤滑装置用ポンプと、前記変換装置用ポンプとを駆動する発動機と、
前記把持装置用ポンプを駆動する第1の小型動力源と、
を備え、
前記杭把持装置が把持対象物を把持しており、かつ当該把持対象物の打込みおよび引き抜きをしていないとき、前記第1の小型動力源により前記把持装置用ポンプを駆動し、かつ前記発動機を停止し、
前記杭把持装置が把持対象物を把持しており、かつ当該把持対象物の打込みまたは引き抜きをしているとき、前記第1の小型動力源により前記把持装置用ポンプを駆動し、かつ前記発動機により前記主ポンプを駆動する、
ことを特徴とする振動杭打抜機。
【請求項3】
油圧モータである主モータと、予冷または暖機および潤滑を行う強制潤滑装置と、負荷に応じて振動力を変化させる変換装置とを含み、前記主モータによって駆動される起振機と、
杭を把持する杭把持装置と、
オイルタンクと、
前記主モータに前記オイルタンクのオイルを圧送する主ポンプと、
前記杭把持装置に前記オイルタンクのオイルを圧送する把持装置用ポンプと、
前記強制潤滑装置に前記オイルタンクのオイルを圧送する強制潤滑装置用ポンプと、
前記変換装置に前記オイルタンクのオイルを圧送する変換装置用ポンプと、
前記主ポンプを駆動する発動機と、
前記把持装置用ポンプを駆動する第1の小型動力源と、
前記強制潤滑装置用ポンプと、前記変換装置用ポンプとを駆動する第2の小型動力源と、
を備え、
前記杭把持装置が把持対象物を把持しており、かつ当該把持対象物の打込みおよび引き抜きをしていないとき、前記第1の小型動力源により前記把持装置用ポンプを駆動し、かつ前記発動機を停止し、
前記杭把持装置が把持対象物を把持しており、かつ当該把持対象物の打込みまたは引き抜きをしているとき、前記第1の小型動力源により前記把持装置用ポンプを駆動し、かつ前記発動機により前記主ポンプを駆動する、
ことを特徴とする振動杭打抜機。
【請求項4】
油圧モータである主モータと、予冷または暖機および潤滑を行う強制潤滑装置と、負荷に応じて振動力を変化させる変換装置とを含み、前記主モータによって駆動される起振機と、
杭を把持する杭把持装置と、
オイルタンクと、
前記主モータに前記オイルタンクのオイルを圧送する主ポンプと、
前記杭把持装置に前記オイルタンクのオイルを圧送する把持装置用ポンプと、
前記強制潤滑装置に前記オイルタンクのオイルを圧送する強制潤滑装置用ポンプと、
前記変換装置に前記オイルタンクのオイルを圧送する変換装置用ポンプと、
前記主ポンプを駆動する発動機と、
前記把持装置用ポンプを駆動する第1の小型動力源と、
前記強制潤滑装置用ポンプを駆動する第2の小型動力源と、
前記変換装置用ポンプを駆動する第3の小型動力源と、
を備え、
前記杭把持装置が把持対象物を把持しており、かつ当該把持対象物の打込みおよび引き抜きをしていないとき、前記第1の小型動力源により前記把持装置用ポンプを駆動し、かつ前記発動機を停止し、
前記杭把持装置が把持対象物を把持しており、かつ当該把持対象物の打込みまたは引き抜きをしているとき、前記第1の小型動力源により前記把持装置用ポンプを駆動し、かつ前記発動機により前記主ポンプを駆動する、
ことを特徴とする振動杭打抜機。
【請求項5】
油圧モータである主モータと、予冷または暖機および潤滑を行う強制潤滑装置と、負荷に応じて振動力を変化させる変換装置とを含み、前記主モータによって駆動される起振機と、
杭を把持する杭把持装置と、
オイルタンクと、
前記主モータに前記オイルタンクのオイルを圧送する主ポンプと、
前記杭把持装置に前記オイルタンクのオイルを圧送する把持装置用ポンプと、
前記強制潤滑装置に前記オイルタンクのオイルを圧送する強制潤滑装置用ポンプと、
前記変換装置に前記オイルタンクのオイルを圧送する変換装置用ポンプと、
前記主ポンプを駆動する発動機と、
前記把持装置用ポンプと、強制潤滑装置用ポンプと、前記変換装置用ポンプとを駆動する第1の小型動力源と、
を備え、
前記杭把持装置が把持対象物を把持しており、かつ当該把持対象物の打込みおよび引き抜きをしていないとき、前記第1の小型動力源により前記把持装置用ポンプを駆動し、かつ前記発動機を停止し、
前記杭把持装置が把持対象物を把持しており、かつ当該把持対象物の打込みまたは引き抜きをしているとき、前記第1の小型動力源により前記把持装置用ポンプを駆動し、かつ前記発動機により前記主ポンプを駆動する、
ことを特徴とする振動杭打抜機。
【請求項6】
油圧モータである主モータを含み、当該主モータによって駆動される起振機と、
杭を把持する杭把持装置と、
オイルタンクと、
前記主モータに前記オイルタンクのオイルを圧送する主ポンプと、
前記杭把持装置に前記オイルタンクのオイルを圧送する把持装置用ポンプと、
前記主ポンプを駆動する発動機と、
前記把持装置用ポンプを駆動する第1の小型動力源と、
を有する振動杭打抜機を用いる杭の打込み・引抜き工法であって、
前記第1の小型動力源を起動するステップと、
前記第1の小型動力源によって駆動される杭把持装置が把持対象物を把持するステップと、
前記発動機を起動するステップと、
前記第1の小型動力源によって駆動される杭把持装置が把持対象物を把持しているときに、前記発動機によって駆動される主ポンプが前記起振機を駆動し、前記起振機を用いて前記把持対象物の打込みまたは引き抜きを行うステップと、
前記第1の小型動力源によって駆動される前記杭把持装置が前記把持対象物を把持しており、かつ前記把持対象物の打込みおよび引き抜きをしていないときに、前記発動機を停止するステップと、
を備えることを特徴とする杭の打込み・引抜き工法。
【請求項7】
油圧モータである主モータと、予冷または暖機および潤滑を行う強制潤滑装置と、負荷に応じて振動力を変化させる変換装置とを含み、前記主モータによって駆動される起振機と、
杭を把持する杭把持装置と、
オイルタンクと、
前記主モータに前記オイルタンクのオイルを圧送する主ポンプと、
前記杭把持装置に前記オイルタンクのオイルを圧送する把持装置用ポンプと、
前記強制潤滑装置に前記オイルタンクのオイルを圧送する強制潤滑装置用ポンプと、
前記変換装置に前記オイルタンクのオイルを圧送する変換装置用ポンプと、
前記主ポンプを駆動する発動機と、
前記把持装置用ポンプを駆動する第1の小型動力源と、
前記強制潤滑装置用ポンプと、前記変換装置用ポンプとを駆動する第2の小型動力源と、
を有する振動杭打抜機を用いる杭の打込み・引抜き工法であって、
前記第1の小型動力源を起動するステップと、
前記第2の小型動力源を起動するステップと、
前記強制潤滑装置が前記起振機の予冷または暖機および潤滑を行うステップと、
前記第1の小型動力源によって駆動される杭把持装置が把持対象物を把持するステップと、
前記発動機を起動するステップと、
前記第1の小型動力源によって駆動される杭把持装置が把持対象物を把持しているときに、前記発動機によって駆動される主ポンプが前記起振機を駆動し、前記起振機を用いて前記把持対象物の打込みまたは引き抜きを行うステップと、
前記第1の小型動力源によって駆動される前記杭把持装置が前記把持対象物を把持しており、かつ前記把持対象物の打込みおよび引き抜きをしていないときに、前記発動機を停止するステップと、
を備えることを特徴とする杭の打込み・引抜き工法。
【請求項8】
油圧モータである主モータと、予冷または暖機および潤滑を行う強制潤滑装置と、負荷に応じて振動力を変化させる変換装置とを含み、前記主モータによって駆動される起振機と、
杭を把持する杭把持装置と、
オイルタンクと、
前記主モータに前記オイルタンクのオイルを圧送する主ポンプと、
前記杭把持装置に前記オイルタンクのオイルを圧送する把持装置用ポンプと、
前記強制潤滑装置に前記オイルタンクのオイルを圧送する強制潤滑装置用ポンプと、
前記変換装置に前記オイルタンクのオイルを圧送する変換装置用ポンプと、
前記主ポンプを駆動する発動機と、
前記把持装置用ポンプを駆動する第1の小型動力源と、
前記強制潤滑装置用ポンプを駆動する第2の小型動力源と、
前記変換装置用ポンプを駆動する第3の小型動力源と、
を有する振動杭打抜機を用いる杭の打込み・引抜き工法であって、
前記第1の小型動力源を起動するステップと、
前記第2の小型動力源を起動するステップと、
前記強制潤滑装置が前記起振機の予冷または暖機および潤滑を行うステップと、
前記第1の小型動力源によって駆動される杭把持装置が把持対象物を把持するステップと、
前記発動機を起動するステップと、
前記第1の小型動力源によって駆動される杭把持装置が把持対象物を把持しているときに、前記発動機によって駆動される主ポンプが前記起振機を駆動し、前記起振機を用いて前記把持対象物の打込みまたは引き抜きを行うステップと、
前記第1の小型動力源によって駆動される前記杭把持装置が前記把持対象物を把持しており、かつ前記把持対象物の打込みおよび引き抜きをしていないときに、前記発動機を停止するステップと、
を備えることを特徴とする杭の打込み・引抜き工法。
【請求項9】
油圧モータである主モータと、予冷または暖機および潤滑を行う強制潤滑装置と、負荷に応じて振動力を変化させる変換装置とを含み、前記主モータによって駆動される起振機と、
杭を把持する杭把持装置と、
オイルタンクと、
前記主モータに前記オイルタンクのオイルを圧送する主ポンプと、
前記杭把持装置に前記オイルタンクのオイルを圧送する把持装置用ポンプと、
前記強制潤滑装置に前記オイルタンクのオイルを圧送する強制潤滑装置用ポンプと、
前記変換装置に前記オイルタンクのオイルを圧送する変換装置用ポンプと、
前記主ポンプを駆動する発動機と、
前記把持装置用ポンプと、強制潤滑装置用ポンプと、前記変換装置用ポンプとを駆動する第1の小型動力源と、
を有する振動杭打抜機を用いる杭の打込み・引抜き工法であって、
前記第1の小型動力源を起動するステップと、
前記強制潤滑装置が前記起振機の予冷または暖機および潤滑を行うステップと、
前記第1の小型動力源によって駆動される杭把持装置が把持対象物を把持するステップと、
前記発動機を起動するステップと、
前記第1の小型動力源によって駆動される杭把持装置が把持対象物を把持しているときに、前記発動機によって駆動される主ポンプが前記起振機を駆動し、前記起振機を用いて前記把持対象物の打込みまたは引き抜きを行うステップと、
前記第1の小型動力源によって駆動される前記杭把持装置が前記把持対象物を把持しており、かつ前記把持対象物の打込みおよび引き抜きをしていないときに、前記発動機を停止するステップと、
を備えることを特徴とする杭の打込み・引抜き工法。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)

(1) 「〔産業上の利用分野〕本発明は、水底の地盤に打設された鋼管杭の頂部にヤットコを装着して長時間(少なくとも数時間)放置する場合、該ヤットコに設けられている油圧シリンダ内の油圧が低下したとき、この油圧シリンダに圧力油を供給し得るように構成した非常用の油圧ユニットに関するものである。」(2頁左上欄2?8行)

(2) 「第7図は前記第1の先願の発明に係るヤットコの一実施例を示し、同図(A)は側面図であり同図(B)は正面図である。
本例のヤットコ11は、その本体杭11aの下端部に鋼管矢板8用のチャック11bが設けられている。
そして、このヤットコ11の上端部11cは、振動装置1に装着されたチャック装置2によって把持し得る把持部になっている。
・・・本例のヤットコ11は、その下端部のチャック11bによって鋼管矢板8を把持したり解放したりすることができ、かつ、その上端を振動装置1のチャック装置2によって把持されたり解放されたりできる構造になっている。」(4頁右上欄5?左下欄4行)

(3) 「振動装置を用いて杭(矢板を含む意)を打設する場合、防振吊具を介して該振動装置を吊持する技術は公知である。この公知技術を適用すれば、クレーンにより防振吊具を介して振動装置を吊持した状態から吊持力を減じ(ないしは零とし)、振動装置を作動させて振動打込を行うことができる。
このため、第8図(C)の状態においてクレーン9′と振動装置1とを、防振吊具10を介して連結したままで振動打込を行うことができ、第8図(D)のように振動装置1のチャック装置2の把持を解放して、第8図(F)のごとく該チャック装置2によってヤットコ11Aに持ち替えることができる。このような操作が可能であることと、第7図に示した構成との関係について、第8図,第6図を参照しつつ次に述べる。
第6図(A)?(F)は、本発明者の創作に係る未公知の発明工法のアイデアを模式的に示したものであるが、これを実施するための装置が今日まで未完成であった。
第8図(A)?(G)は第1の先願の発明に係る水底杭打工事用ヤットコを用い、上記発明工法のアイデアを実施可能ならしめた段階における実際の工程を模式的に描いたものであって、次に述べるごとく第8図,第6図の間には若干の差が有る。
アイデアを示した第6図(A)では、クレーン9によってヤットコ7dを直接的に吊持し、同第6図(B)?(D)においては上記クレーン9をヤットコ7dから切り離すとともに、該ヤットコ7dの頂部に振動装置1を取り付けている。そして、同第6図(E)では振動装置1をヤットコ7dの頂部に残置したままクレーン9でヤットコ7aを吊り上げている。
これに比して第1の先願に係る発明の実施例である第7図の構成では、クレーン9′によって吊持された防振吊具10と、該防振吊具10によって吊持された振動装置1とは強固に連結されていて、容易には着脱できない。
そして、従来一般には鋼管杭(矢板を含む)を把持するように構成されているチャック装置2に対して、ヤットコ11を適合せしめて把持され得るように、該ヤットコ11の頂部に把持部11cを設けてある。
本例のヤットコ11を実際に使用した工法を示す第8図の(C),(D)図においては、防振吊具10を介してクレーン9′に連結されたままの振動装置1により、チャック装置2を介してヤットコ11Dを把持して鋼管矢板8dの振動打込みを行い、
同第8図(E)ではチャック装置2によるヤットコ11Dの把持を解除し、(F)図のごとく該チャック装置2でヤットコ11Aに持ち替えて該ヤットコ11Aを吊り上げる。
吊り上げたヤットコ11Aによって新たな鋼管矢板8eを把持して所定位置に吊り降ろすと(第8図(G))、
該ヤットコ11Aを介して鋼管矢板8eの振動打込みを行い得る状態となる。
このように、第6図(アイデアを示す)においてはクレーン9による吊持相手部材の持ち替えを第8図(実用の工程)においてはチャック装置2による吊持相手部材の持ち替えにより、同様の作用,効果を達成している。
このような用法を可能ならしめ、このような作用,効果を奏した理由の主たるものは(第7図参照)、
ヤットコ11の下端に設けたチャック11bによって鋼管矢板8を着脱自在に把持し得る構造であること、および、
該ヤットコ11の頂部を、振動装置のチャック装置2によって着脱自在に把持され得る構造としたことによる。
而して、多数の鋼管矢板を並べて、正しい位置へ容易に打設できることの理由は、ヤットコ11の側面に、鋼管矢板8の鋼管矢板継手9に対応する矢板継手11dを設けたことによる。
以上説明したように、前記第1の先願の発明に係る水底杭打工事用ヤットコによれば、多数の鋼管矢板を並べて水底に打設し、該多数の鋼管矢板の頂部を水面下まで打ち込むことができ、しかも、打ち込むべき鋼管矢板の位置決めを迅速,容易,高精度で行うことができることが確認された。」(6頁左下欄2行?7頁左下欄3行)

(4) 「上述の事情に鑑みて前記第1の先願の発明のヤットコの効果を妨げることなく、さらに改良を加えて、
i.斜方向の波浪を受けてもヤットコが倒れるおそれ無く、
ii.列設される鋼管矢板のそれぞれに固着されたヤットコのチャック同志が干渉するおそれも無く、
iii.ヤットコを使用する際、その方向性について格別な制約が無い、
水底杭打工事用ヤットコを提供するための構成として、
長手方向の片方の端に杭用チャック装置が設けられており、他方の端は振動装置のチャックで把持し得るようになっており、かつ、側面に沿って長手方向に矢板用継手が設けられている水底杭打工事用ヤットコであって、
前記杭用チャック装置が設けられている片方の端に、杭内に挿入されて拡張される拡張形サポータが設けられていて、
該サポータが拡張されると杭の内面に圧着され、ヤットコと杭とが相互に固定される構造が有効である。上記の構成は本発明者らが創作して本出願人により別途出願中の発明(以下、第2の先願という)である。」(7頁右下欄16行?8頁左上欄最下行)

(5) 「第10図から容易に理解できるように、本例の水底杭打工事用ヤットコは、第1の先願の発明に係る水底杭打工事用ヤットコの実施例(第7図)に拡張形サポータを併設した構造であるから、第1の先願の発明における特有の効果、すなわち「多数の鋼管矢板を並べて水底に打設し、その頂部を水面下まで打ち込み、しかも鋼管矢板の位置決めが容易であること」という長所を総べて備えている。
〔発明が解決しようとする課題〕
本発明者らは前記第2の先願に係る水底杭打工事用ヤットコについて、
多数の鋼管矢板を並べて、その頂部が水面下となるように打設することができ、
打設する鋼管矢板を迅速かつ容易に高精度で位置決めすることができ、
しかも、ヤットコに対して何れの方向から波浪の力が加えられても該ヤットコが倒れるおそれが無いという、優れた実用的効果を奏し得ることを確認したが、さらに実用化試験研究を続けたところ、次に述べるような改良の余地が発見された。
すなわち、例えば第12図に示すように鋼管矢板8を水底地盤5′に打設し、その上にヤットコ11を取りつけ、その頂部を水面6上に突出させた状態で相当長時間(例えば数日間もしくはそれ以上)放置しなければならない場合が有る。
夜間,休日の作業中止中は勿論であるが、他の関連工事との調整のため数日間の休止も有り得る。
第12図に示したようにチャック11bで鋼管矢板8を把持するとともに、拡張形サポータ21の拡開レバー21a,21bを拡張させた状態で長時間放置した場合、上記チャック11bの油圧シリンダおよび拡開レバー21a,21bの油圧シリンダの圧力油が漏洩して圧力低下を招く場合が無いとは言えない。
このようにして、漏油のためシリンダの保持力が低下した状態で海が荒れるとヤットコ11が波浪の力で倒されることになる。
このように海が荒れているときは作業船が接近できないので、油圧の保持状態を点検したり圧力油を補充したりすることができない。
本発明は上述の事情に鑑みて為されたもので、ヤットコに設けられているチャック用の油圧シリンダや拡張形サポータ用の油圧シリンダの保持油圧が低下したとき、自動的に圧力油を補充することができ、しかも、作動中に外部からエネルギーの補給を必要としない、非常用の油圧ユニットを提供することを目的とする。
〔課題を解決するための手段〕
上記の目的を達成するため、本発明は、
ヤットコに設けられている杭用チャック装置の油圧シリンダ、及び、ヤットコに設けられている内部拡張形サポータの油圧シリンダの、少なくとも何れか一つに接続される油圧ポンプと、
上記油圧ポンプを回転駆動する動力源と、
上記動力源に供給するエネルギーを貯蔵する手段と、
を具備していることを特徴とする。
本発明を実施する場合、油圧シリンダ内の保持圧力油を検出して作動する圧力感応スイッチを設けておいて、保持油圧が低下したとき前記の動力源を作動させるように構成しておくと好都合である。
また、前記の動力源としてエアポンプを用いるとともにエネルギー貯蔵手段として高圧気体ボンベを用いれば、エネルギー源としての高圧気体の補給が容易である(海が荒れていないとき、作業船から圧縮空気を補充すると便利である)。
本発明においてエアポンプとは、狭義の空気圧送ポンプではなく、圧力気体により駆動されて高圧油を吐出するポンプの意である。
また、前記の動力源として直流モータを用い、エネルギー貯蔵手段として蓄電池もしくは燃料電池を用いれば、動力源の出力制御が容易である。
前記の油圧ポンプ,動力源,およびエネルギー貯蔵手段は、これらの付属部品と一緒に取り纏めてフロートに搭載し、若しくは防水ケースに収めてヤットコの頂部に取り付けておくと好都合である。
〔作用〕
前記の構成によれば、この非常油圧ユニットの中に油圧ポンプと、その動力源と、エネルギー貯蔵手段とが設けられているので、外部からのエネルギー補給(例えば送電線による給電など)を受ける必要なく動力源を作動させて油圧ポンプを回し、チャック装置の油圧シリンダや拡張形サポータの油圧シリンダに対して、保持油圧を補充することができる。
〔実施例〕
第1図は本発明に係る非常油圧ユニットの一実施例を含む油圧,空気圧系統図である。
図の右上に示したチャックシリンダ11b_(-1)は第11図に示した第2の先願におけるヤットコ11のチャック11bを作動させる油圧シリンダである。
また、サポータシリンダ21dは上記第11図における拡張形サポータ21の拡開作動用の油圧シリンダである。
上記の油圧シリンダ11b_(-1),21dは、通常の稼動時はカップラー31aを介して常用油圧ユニット32に接続されている。
上記の常用油圧ユニット32は作業船(図示せず)に搭載されていて、駆動モータ32aで駆動される油圧ポンプ32bの吐出圧力油を、操作弁Vを介して前記のシリンダ11b_(-1),21dに供給する。
32cは作動油タンクである。
上記のシリンダ11b_(-1),21dは、また、カップラー31aおよび油圧ホース31bを介して非常用油圧ユニット33に、着脱可能に接続される構造である。
この非常用油圧ユニット33は、高圧ガスタンク33aを備えている。
本例の高圧ガスタンク33aは、5kg/cm^(2)の減圧弁33a_(-1)を備えた窒素ガスボンベ(容量3.4l)である。本発明を実施する際、この高圧ガスタンク33aは圧縮空気タンクであっても良い。
上記高圧ガスタンク33aに貯蔵されている圧力エネルギーを有する高圧窒素ガスは、電磁弁33bを介してエアポンプ33eおよび予備のエアポンプ33fに供給される(電磁弁33bの制御については後述する)。
本例のエアポンプ33eは、吐出圧力210kg/cm^(2)において吐出量1.4l/minである。
鋼管矢板の打設作業を休止して、作業船に搭載されている常用油圧ユニット32をチャックシリンダ11b_(-1)やサポータシリンダ21dから切り離すときは、非常用油圧ユニット33のエアポンプ33e,33fの吐出口は、カップラー31a,油圧ホース31bを介して油圧シリンダ11b_(-1),21dに接続される。
前記管路内の圧力が210kg/cm^(2)未満になると、高圧ガスタンク33a内のガス(5kg/cm^(2)に減圧される)をエアポンプ33eに供給し、該エアポンプ33eを作動させる。
33iは作動油タンクである。
エアポンプ33eの吐出圧力油は調圧弁33hで調圧されつつシリンダ11b_(-1),21dに供給される。
エアーポンプ33fは、前記エアーポンプ33eの予備として設けた予備エアーポンプである。
いま、何らかの故障によって油圧が回復せず、徐々に圧力が低下したとする。このような場合、170kg/cm^(2)以下になると電磁弁33bが(b)位置に作動せしめられて予備のエアポンプ33fが運転される。
第1図について以上に説明した非常用油圧ユニットを構成している機器類は、第2図(A)に示すようにケースに収納してフロート34に搭載し、油圧ホース31bを介して繋留しておく。
これにより、鋼管矢板8にヤットコ11を装着した状態で長時間放置しておいても、チャック装置11bの油圧シリンダや拡開形サポータの油圧シリンダ(本第2図(A)では隠れている)の保持油圧は常に210kg/cm^(2)以上に(万一の故障があっても170kg/cm^(2)以上に)維持され、鋼管矢板8に対してヤットコ11が強固に固定されるので、波浪によってヤットコ11が倒されるおそれが無い。」(9頁左上欄最下行?11頁左上欄18行)

(6) 上記(5)に摘記(「本例の高圧ガスタンク33aは、5kg/cm^(2)の減圧弁33a_(-1)を備えた窒素ガスボンベ(容量3.4l)である。」)したとおり、「非常用油圧ユニット」の「高圧ガスタンク」は、「容量3.4l」と例示されるものであるから、小型のガスタンクであると解される。

(7) 上記(1)ないし(6)より、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「振動装置と、
その上端部が該振動装置に把持され、その下端部がチャックで鋼管矢板を把持するヤットコを用いて、
水底の地盤に鋼管杭の一種である前記鋼管矢板を打設する装置であって、

作業中止中、前記チャックで前記鋼管矢板を把持させた状態で長時間放置した場合において、
前記ヤットコに設けられるチャック用の油圧シリンダの保持油圧が低下したとき、自動的に圧力油を補充することができ、しかも、作動中に外部からエネルギーの補給を必要としない、
非常用油圧ユニットを備え、

通常の稼動時は、前記油圧シリンダは、作動油タンク、油圧ポンプ、及び駆動モータとを有する常用油圧ユニットに接続されて、駆動モータで駆動される油圧ポンプの吐出圧力油を供給され、

打設作業休止時は、前記油圧シリンダは、前記常用油圧ユニットから切り離されて、作動油タンク、圧力気体により駆動されて高圧油を吐出するエアポンプ、小型高圧ガスタンク、及び前記油圧シリンダ内の保持油圧を検出して作動する圧力感応スイッチとを有する、前記非常用油圧ユニットに接続され、
保持油圧が低下したとき、前記小型高圧ガスタンク内のガスを前記エアポンプに供給し該エアポンプを作動させ、エアポンプの吐出圧力油を前記油圧シリンダに供給する、
装置。」


2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、次の事項が記載されている。

(1) 「【0001】
本発明は、起振機を備えた振動杭打抜機により杭の打込み又は引抜きを行う施工方法に関する。」

(2) 「【0018】
以下、本発明の適用例を示した図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1は、振動杭打抜機において打込み又は引抜きの作業を行う主要部の構成を概略的に示した図である。振動杭打抜機1の主要部には、起振機2及び杭把持装置3が設けられている。起振機2は、クレーン等で吊り下げられている。起振機2は、上述した図10に示した偏心重錘を回転駆動するモータを具備する。モータは、油圧モータMo又は電動モータMeである。杭把持装置3は起振機2の下端に取り付けられている。杭把持装置3は、鋼管杭や鋼矢板等の杭50の頭部を把持する。杭把持装置3が規定圧力で杭50を把持した状態で、油圧モータMo又は電動モータMeにより起振機2を回転駆動することにより、杭50を対象地盤に打ち込んだり、対象地盤から引き抜いたりする作業を行う。」

(3) 「【0020】
図2に示すように、油圧回路は、オイルタンクTのオイルを適宜のポンプにより目的とする油圧機器に圧送し、再びオイルタンクTに戻すように構成されている。起振機2の油圧モータMoに対しては、油圧モータ用ポンプP1からオイルが圧送される。起振機2の位相調整器2aに対しては、位相調整器用ポンプP2からオイルが圧送される。杭把持装置3の油圧シリンダ3aに対しては、把持用ポンプP3からオイルが圧送される。」

(4) 「【0022】
駆動源である発動機Eoは、油圧モータ用ポンプP1、位相調整器用ポンプP2、把持用ポンプP3を並列的に駆動する。油圧モータ用ポンプP1と把持用ポンプP2は、発動機Eoと同じ回転数で回転するか、又は、ギヤ又はプーリを介した所定比率の回転数で回転する。」

(5) 「【0065】
駆動源(発動機又は発動発電機)を始動し、アイドリング状態とする(ステップS04)。」

(6) 「【0066】
杭把持装置を作動させ、所定の把持圧力で杭を把持させることで杭の把持を完了する(ステップS04)。これにより、起振機のモータの駆動が可能となる。」

(7) 「【0067】
起振機のモータの駆動を開始し、モータ負荷率を検知しつつ、設定した偏心モーメントにて杭の打込み又は引抜きを開始する(ステップS07)。」

(8) 「【0069】
杭打込みにおいては最終深度に到達したとき、杭引抜きにおいてはモータ負荷率がゼロすなわち空運転状態となったとき、モータを駆動源から切り離し、駆動源をアイドリング状態とする(ステップS12)。」

(9) 「【0070】
その後、杭把持装置を作動させて杭を開放する(ステップS13)。最後に駆動源を停止する(ステップS14)。」

(10) 上記(1)ないし(9)より、上記引用文献2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「起振機2は偏心重錘を回転駆動するモータを具備し、モータは、油圧モータMoであり、
杭把持装置3は、鋼管杭や鋼矢板等の杭50の頭部を把持し、
オイルタンクTを備え、
油圧回路は、オイルタンクTのオイルを適宜のポンプにより目的とする油圧機器に圧送し、再びオイルタンクTに戻すように構成されていて、油圧モータMoに対しては、油圧モータ用ポンプP1からオイルが圧送され、
杭把持装置3の油圧シリンダ3aに対しては、把持用ポンプP3からオイルが圧送され、
駆動源である発動機Eoは、油圧モータ用ポンプP1を駆動し、
駆動源である発動機Eoは、把持用ポンプP3を駆動し、
駆動源(発動機)を始動し、アイドリング状態とし、杭把持装置を作動させ、所定の把持圧力で杭を把持させることで杭の把持を完了し、起振機のモータの駆動を開始し、設定した偏心モーメントにて杭の打込み又は引抜きを開始し、杭打込みにおいては最終深度に到達したとき、杭引抜きにおいてはモータ負荷率がゼロすなわち空運転状態となったとき、モータを駆動源から切り離し、駆動源をアイドリング状態とし、杭把持装置を作動させて杭を開放し、駆動源を停止する、
起振機を備えた振動杭打抜機及び杭の打込み又は引抜きを行う施工方法」

3 引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、次の事項が記載されている。

(1) 「【0001】
本発明は、油圧式バイブロハンマ及びその運転方法並びに杭の打設方法に関する。」

(2) 「【0003】
油圧式バイブロハンマ本体1は、起振機2と主油圧モータM1を具備し、主油圧モータM1の回転が軸受け3の支持する軸を介して内部の偏心重錘(図示せず)に伝達される。起振機2の下方には、杭を把持又は開放するチャックCHが取り付けられている。起振機2の周囲には弾性体5を介してハンガー4が取り付けられ、ハンガー4は吊下げ用の吊環を具備する。起振機2とチャックCHの間には潤滑油貯留部6が設けられている。」

(3) 「【0006】
潤滑クーリングポンプP4は、起振機2及び主油圧モータM1を潤滑又はクーリング(後述)するために油を圧送する。第2方向切替弁SV2は、潤滑クーリングポンプP4からの油を起振機2及び主油圧モータM1へ送るか、又は、起振機2等へ送らずにそのままタンクTへ戻すかの2つの経路を切り替える。」

(4) 「【0039】
図2?図5に示すように、発動機Eは、主油圧ポンプP1、チャージポンプP2、チャック用ポンプP3及び潤滑クーリングポンプP4を回転駆動可能である。主油圧ポンプP1のみは、発動機Eの回転を伝達せずに、空回りさせるように制御できる。他の3つのポンプP2、P3、P4は、発動機Eの回転により必ず回転する。一例では、発動機Eの回転が伝達されると、これらのポンプが発動機Eと同じ回転数で回転する。あるいは、別の例として、ポンプP2は発動機Eと同じ回転数で回転し、ポンプP3及びP4は所定のギヤ比又はプーリ比に応じて発動機Eの回転数に対し所定比率の回転数で回転するようにしてもよい。つまり、ポンプP1、P2、P3、P4のいずれも、基本的に発動機Eの回転数の変化に比例してその回転数が変化するが、ポンプP1のみは空回りさせることが可能である。」

(5) 「【0044】
作業開始前に、先ず、クーリング工程を行う(S4)。これは、起振機2の内部及び主油圧モータM1の潤滑及び冷却のためであり、作業を行う日の最初に必ず行う。図2に示すように、クーリング工程の作業中には、潤滑クーリングポンプP4が、第2方向切替弁SV2を介して起振機2及び主油圧モータM1に油を圧送する。クーリング工程は、第2方向切替弁SV2をタンクTからモータM2へ向かう方へ切り替えることにより開始される。これと同時に、発動機Eの回転数を定常回転数に上げる。
なお、クーリング工程の途中に、何らかの事情により中断するときは、第2方向切替弁SV2をタンクTに切替えると同時に、発動機Eを最小安定回転数に低下させ、図5の非作業中の状態とする。クーリング工程の完了時にも、同様に非作業中の状態とする。」

(6) 上記(1)ないし(5)より、上記引用文献3には次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。

「起振機2とチャックCHの間には潤滑油貯留部6が設けられ、起振機2の内部及び主油圧モータM1の潤滑及び冷却のためのクーリング工程を行い、クーリング工程の作業中には、潤滑クーリングポンプP4が起振機2及び主油圧モータM1に油を圧送し、発動機Eは潤滑クーリングポンプP4を回転駆動可能である、
油圧式バイブロハンマ」

4 引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には、次の事項が記載されている。

(1) 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、杭打ち用のロータリ式起振機に設けられている固定偏心重錘と可動偏心重錘との位相差を制御するために創作した位相差制御方法および位相差制御機構に関するものであって、杭打ち用以外のロータリ起振機に適用することもできる。」

(2) 「【0033】
本図1(A)に示すように固定偏心重錘49を円弧矢印R方向に回すと、可動偏心重錘51は位相差制御バネ53で押される形で円弧矢印r方向に回転せしめられる。この状態で、双方の偏心重錘は回転軸41に関して対称に位置しているので、該双方の偏心重錘の総合偏心モーメントがゼロであり、回転しても起振力を発生しない。本図1(B)に示すように、固定偏心重錘49を円弧矢印R方向に回転駆動しつつ、可動偏心重錘51に軽い制動力を与えると、位相差制御バネ53を撓ませて該可動偏心重錘51の位相が遅れ、図示の状態において双方の偏心重錘の総合偏心モーメントが最大となり、起振力を発生する。本図1(B)の状態(起振力最大状態)で回転させることによって起振機としての機能が発揮されるが、この場合、可動偏心重錘51に与える制動力は、可動偏心重錘51を遅相させて起振力最大状態ならしめ得る最小限の制動力よりもあまり大きくしないことが望ましい。このためには、制動手段は制動力の大きさを調節し得るものであることを必要とするが、その具体的な方法および構成については図2を参照して後述する。」

(3) 「【0037】
上記2組の起振ユニットを構成している固定偏心重錘49と同50とは、それぞれ固定偏心重錘歯車47,同48を一体に連設されており、これらの歯車を介して相互に強制的に同期せしめられている。同様に、可動偏心重錘51と同52とは可動偏心重錘歯車54,55を介して、相互に、強制的に同期せしめられている。回転軸42に取り付けられている符号M_(2)の部材は制動機である。この制動機としては、オイルモータ56などの流体圧モータ,電気モータ,電磁ブレーキ,もしくは摩擦ブレーキなど、公知の制動機器を適用することができる。制動機M_(2)としてオイルモータ56を用いた場合は、可変オリフィス57を設けて制動力の調節を可能ならしめる。また、制動機として電気モータ58を設けたときは、仮想線で示したように可変電気抵抗器59を設けて制動力の調節を可能ならしめる。前記の制動機として、電磁ブレーキ60,もしくは摩擦ブレーキを用いても良い。このようにして、2組の起振ユニットを1基を駆動機器M_(1)で駆動するとともに1基の制動機器M_(2)によって位相差制御を行なうことができる。」

(4) 上記(1)ないし(3)より、上記引用文献4には次の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。

「固定偏心重錘49と可動偏心重錘51を有する、杭打ち用のロータリ式起振機において、制動機M_(2)としてオイルモータ56などの流体圧モータを用いた場合に、可変オリフィス57を設けて制動力の調節を可能にすることで、可動偏心重錘51に軽い制動力を与えると、固定偏心重錘49に対称な位置から位相差制御バネ53を撓ませて該可動偏心重錘51の位相が遅れ、双方の偏心重錘の総合偏心モーメントが最大となり、起振力を発生させる、
杭打ち用のロータリ式起振機」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)本願発明1と引用発明1の対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。

ア 引用発明1の、「振動装置」「を用いて、水底の地盤に鋼管杭の一種である前記鋼管矢板を打設する装置」と、
本願発明1の「振動杭打抜機」とは、
「振動杭打機」である点で共通する。

イ 引用発明1の、鋼管杭の一種である鋼管矢板を把持する「チャック」及び「チャック用の油圧シリンダ」は、
本願発明1の「杭を把持する杭把持装置」に相当する。

ウ 引用発明1の「作業中止中、前記チャックで前記鋼管矢板を把持させた状態で長時間放置した場合」は、
本願発明1の「前記杭把持装置が把持対象物を把持しており、かつ当該把持対象物の打込みおよび引き抜きをしていないとき」に相当し、
引用発明1の、「非常用油圧ユニット」の「作動油タンク」、「吐出圧力油を前記油圧シリンダに供給する」「エアポンプ」、「ガスを前記エアポンプに供給し該エアポンプを作動させ」る「小型高圧ガスタンク」は、
それぞれ本願発明1の「オイルタンク」、「前記杭把持装置に前記オイルタンクのオイルを圧送する把持装置用ポンプ」、「前記把持装置用ポンプを駆動する第1の小型動力源」に相当する。
以上より、引用発明1において、「作業中止中、前記チャックで前記鋼管矢板を把持させた状態で長時間放置した場合において、前記ヤットコに設けられるチャック用の油圧シリンダの保持油圧が低下したとき、自動的に圧力油を補充することができ、しかも、作動中に外部からエネルギーの補給を必要としない、非常用油圧ユニットを備え、」「打設作業休止時は、前記油圧シリンダは、前記常用油圧ユニットから切り離されて、作動油タンク、圧力気体により駆動されて高圧油を吐出するエアポンプ、小型高圧ガスタンク、及び前記油圧シリンダ内の保持油圧を検出して作動する圧力感応スイッチとを有する、前記非常用油圧ユニットに接続され、保持油圧が低下したとき、前記小型高圧ガスタンク内のガスを前記エアポンプに供給し該エアポンプを作動させ、エアポンプの吐出圧力油を前記油圧シリンダに供給する」ことは、
本願発明1において「オイルタンクと、」「前記杭把持装置に前記オイルタンクのオイルを圧送する把持装置用ポンプと、」「前記把持装置用ポンプを駆動する第1の小型動力源と、を備え、」「前記杭把持装置が把持対象物を把持しており、かつ当該把持対象物の打込みおよび引き抜きをしていないとき、前記第1の小型動力源により前記把持装置用ポンプを駆動」することに相当する。

以上のことから、本願発明1と引用発明1とは、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「杭を把持する杭把持装置と、
オイルタンクと、
前記杭把持装置に前記オイルタンクのオイルを圧送する把持装置用ポンプと、
前記把持装置用ポンプを駆動する第1の小型動力源と、
を備え、
前記杭把持装置が把持対象物を把持しており、かつ当該把持対象物の打込みおよび引き抜きをしていないとき、前記第1の小型動力源により前記把持装置用ポンプを駆動する、
振動杭打機。」

(相違点1)本願発明1は打込みとともに引き抜きを行う「振動杭打抜機」であるのに対し、引用発明1では引き抜きについて特定がされていない点。
(相違点2)本願発明1は「油圧モータである主モータを含み、当該主モータによって駆動される起振機と、前記主モータに前記オイルタンクのオイルを圧送する主ポンプと、前記主ポンプを駆動する発動機と、を備え、
前記杭把持装置が把持対象物を把持しており、かつ当該把持対象物の打込みおよび引き抜きをしていないとき、前記発動機を停止し、
前記杭把持装置が把持対象物を把持しており、かつ当該把持対象物の打込みまたは引き抜きをしているとき、前記発動機により前記主ポンプを駆動する」ものであるのに対し、引用発明1ではそのような特定がされていない点。
(相違点3)本願発明1は「前記杭把持装置が把持対象物を把持しており、かつ当該把持対象物の打込みまたは引き抜きをしているとき」に、「把持対象物の打込みおよび引き抜きをしていないとき」と同じ「前記第1の小型動力源」により、同じ「前記把持装置用ポンプを駆動」するのに対し、引用発明1では、「通常の稼動時」(「杭把持装置が把持対象物を把持しており、かつ当該把持対象物の打込み」をしているとき。)、チャック用の油圧シリンダは、非常用油圧ユニットとは別の常用油圧ユニットに接続され、常用油圧ユニットの「駆動モータで駆動される油圧ポンプの吐出圧力油を供給」される点。

(2)判断
事案に鑑み、まず上記相違点3について検討する。
引用発明1では、「チャック用の油圧シリンダ」を、「通常の稼動時」には「駆動モータで駆動される油圧ポンプ」を有する「常用油圧ユニット」に接続する一方、「打設作業休止時」には「常用油圧ユニットから切り離されて」、「圧力気体により駆動されて高圧油を吐出するエアポンプ」を有する「非常用油圧ユニット」に接続することが前提であり、「チャック用の油圧シリンダ」に用いる油圧ユニットを、「通常の稼動時」と「打設作業休止時」とで同一のものとする動機付けはない。
また、引用文献2には、上記第4の2のとおり引用発明2が記載されているが、上記相違点3に係る本願発明1の構成である、「前記杭把持装置が把持対象物を把持しており、かつ当該把持対象物の打込みまたは引き抜きをしているとき」に、「把持対象物の打込みおよび引き抜きをしていないとき」と同じ「前記第1の小型動力源」により、同じ「前記把持装置用ポンプを駆動」することは、引用文献2に記載も示唆もされていない。
さらに、引用文献3には、上記第4の3のとおり引用発明3が記載されており、引用文献4には、上記第4の4のとおり引用発明4が記載されているが、当該相違点3に係る本願発明1の構成は記載されておらず、当該相違点3に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
よって、引用発明1において、本願発明1の相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
なお、原査定では、本願発明1は引用発明1と引用文献2等に記載された周知技術とに基いて当業者が容易に想到し得たものであるとしている。しかしながら、引用発明1と引用文献2等に記載された周知技術とに基いて、上記相違点3に係る本願発明1の構成を得ることが、当業者が容易に想到し得たものではないことは、上記に示したとおりである。
したがって、上記相違点1及び2について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者が引用文献1ないし4に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

2 本願発明2ないし5について
本願発明2ないし5は、本願発明1と同様に上記相違点1ないし3に係る構成を含むものである。
よって、本願発明2ないし5は、本願発明1と同様の理由で、当業者が引用文献1ないし4に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

3 本願発明6について
本願発明6は、本願発明1に対応する方法の発明であり、本願発明1の発明特定事項に対応する構成を全て含むものであるといえる。
よって、本願発明6は、本願発明1と同様の理由で、当業者が引用文献1ないし4に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

2 本願発明7ないし9について
本願発明7は本願発明3に、本願発明8は本願発明4に、本願発明9は本願発明5に対応する方法の発明であり、本願発明7ないし9は、本願発明3ないし5の発明特定事項に対応する構成を全て含むものであるといえる。
よって、本願発明7ないし9は、本願発明1と同様の理由で、当業者が引用文献1ないし4に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-01-28 
出願番号 特願2015-230802(P2015-230802)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (E02D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 袴田 知弘  
特許庁審判長 前川 慎喜
特許庁審判官 須永 聡
有家 秀郎
発明の名称 振動杭打抜機および杭の打込み・引抜き工法  
代理人 小島 高城郎  

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