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審決分類 審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する F16H
管理番号 1349009
審判番号 訂正2018-390125  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2018-08-29 
確定日 2019-02-07 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第4893133号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4893133号の明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯
本件訂正請求審判に係る特許第4893133号(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成18年7月19日(優先権主張 平成18年1月13日)に出願され、その請求項1?4に係る発明について平成24年1月6日に特許権の設定登録がされたものである。
その後、平成30年8月29日に特許権者日本精工株式会社(以下、「請求人」という。)より、本件特許に対して訂正審判の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされ、その後の手続の経緯は次のとおりである。
平成30年10月16日付け:訂正拒絶理由通知
平成30年11月2日 :意見書及び手続補正書の提出

第2 訂正拒絶理由の概要
当審が平成30年10月16日付けで請求人に通知した訂正拒絶理由の概要は次のとおりである。
・訂正事項5の明細書の段落【0029】についての訂正は、特許法第126条第1項ただし書各号に掲げるいずれの事項を目的とするものでない。

第3 手続補正の適否
1.補正の内容
請求人が、平成30年11月2日に提出した手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)の内容は以下のとおりである。
(1)補正事項1
審判請求書の「(2)訂正事項」の「オ 訂正事項5」から『明細書の段落【0029】の「上記実施の形態」との記載を「上記実施及び参考の形態」に訂正し、』との記載を削除する。
(2)補正事項2
審判請求書の「(3)訂正の理由」の「(オ) 訂正事項5」中の、『訂正前の明細書の段落【0029】の「上記実施の形態」は、「第1実施形態」?「第3実施形態」を示すから、訂正事項3及び4により訂正される「第2参考形態」及び「第3参考形態」との関係で、不明瞭となる。』との記載を『訂正前の明細書の段落【0030】の「上記実施形態」は、「第1実施形態」?「第3実施形態」を示すから、訂正事項3及び4により訂正される「第2参考形態」及び「第3参考形態」との関係で、不明瞭となる。』に補正する。
(3)補正事項3
審判請求書に添付した訂正明細書の段落【0029】の記載を特許査定時の記載に戻す。
2.本件補正についての当審の判断
本件補正は、補正前の訂正事項5が、実質的には明細書の段落【0029】に関するものと、段落【0030】に関するものであったものを、段落【0029】に関する訂正事項を削除することを目的とするものであるといえる。
したがって、本件補正は、実質的には訂正事項を削除するものといえ、審判請求書の要旨を変更するものではない。
よって、本件補正は、特許法第131条の2第1項の記載に適合するから、本件補正を認める。
そして、このことにより当審による上記訂正拒絶理由は解消した。

第4 請求の趣旨、訂正の内容
上記「第3」のとおり、審判請求書の補正が認められることから、本件訂正審判請求の趣旨は、特許第4893133号の明細書を、本件審判請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを認める、との審決を求めるというものであり、その訂正の内容は以下の訂正事項1?5のとおりである(下線は訂正箇所である。)。
1.訂正事項1
明細書の段落【0010】の記載を削除する。
2.訂正事項2
明細書の段落【0012】から「また、ボールねじ内に形成された螺旋状通路からボールをすくい上げるタング部を備えたリターンチューブであって、前記タング部は、根元の隅がR形状に形成され、そのR形状とされた部分及び側面部分の表面粗さを示す最大高さが1μmより大きく且つ20μmより小さいものとしてもよい。」との記載を削除する。
3.訂正事項3
明細書の段落【0021】の「第2実施形態」との記載を「第2参考形態」に訂正し、明細書の段落【0023】の「本実施形態」との記載を「本参考形態」に訂正し、明細書の段落【0024】の「上記実施形態」との記載を「上記参考形態」に訂正し、明細書の段落【0024】の「実施例」との記載を「参考例」に訂正する。
4.訂正事項4
明細書の段落【0026】の「第3実施形態」との記載を「第3参考形態」に訂正し、明細書の段落【0027】の「本実施形態」との記載を「本参考形態」に訂正し、明細書の段落【0028】の「上記実施形態」との記載を「上記参考形態」に訂正、明細書の段落【0028】の「実施例」との記載を「参考例」に訂正する。
5.訂正事項5
明細書の段落【0030】の「上記実施形態」との記載を「上記実施形態及び参考形態」に訂正する。


第5 当審の判断
1.訂正事項1
(1)訂正の目的
訂正前の明細書の段落【0010】には、「また、本発明のリターンチューブは、ボールねじ内に形成された螺旋状通路からボールをすくい上げるタング部を備えたリターンチューブであって、前記タング部は、根元の隅がR形状に形成され、そのR形状とされた部分及び側面部分の表面粗さを示す算術平均粗さが0.2μmより大きく且つ10μmより小さくなっていることを特徴とする。」と記載されている。しかし、この態様は、明細書の段落【0008】及び【0009】の記載との関係からみて、特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明の発明特定事項である「そのR形状とされた部分の内径側縁部が面取りされ、前記タング部は、前記R形状とされた部分の内径側縁部がチューブ肉厚の20?50%で面取りされていること」を含まないものであるから、特許請求の範囲の記載との間で不明瞭である。
訂正事項1は、上記不明瞭な点を解消するために、特許請求の範囲の記載と明細書の記載を整合させることを目的とするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるといえる。
(2)新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、特許請求の範囲に含まれない態様を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
2.訂正事項2
(1)訂正の目的
訂正前の明細書の段落【0012】には、「また、ボールねじ内に形成された螺旋状通路からボールをすくい上げるタング部を備えたリターンチューブであって、前記タング部は、根元の隅がR形状に形成され、そのR形状とされた部分及び側面部分の表面粗さを示す最大高さが1μmより大きく且つ20μmより小さいものとしてもよい。」と記載されている。しかし、この態様は、特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明の発明特定事項である、「そのR形状とされた部分の内径側縁部が面取りされ、前記タング部は、前記R形状とされた部分の内径側縁部がチューブ肉厚の20?50%で面取りされていること」を含まないものであるから、特許請求の範囲の記載との間で不明瞭である。
訂正事項2は、上記不明瞭な点を解消するために、特許請求の範囲の記載と明細書の記載を整合させることを目的とするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるといえる。
(2)新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は、特許請求の範囲に含まれない態様を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
3.訂正事項3
(1)訂正の目的
訂正前の明細書の段落【0021】?【0025】には、特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明の発明特定事項である「そのR形状とされた部分の内径側縁部が面取りされ、前記タング部は、前記R形状とされた部分の内径側縁部がチューブ肉厚の20?50%で面取りされていること」を含まない態様(第2の方法)が「第2実施形態」及び「実施例」として記載されており、特許請求の範囲の記載との間で不明瞭である。
訂正事項3は、上記不明瞭な点を解消するために、特許請求の範囲の記載と明細書の記載を整合させることを目的として、特許請求の範囲に含まれない態様を参考形態及び参考例に訂正するものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるといえる。
(2)新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正前の明細書の段落【0030】には「そのR形状とされた部分の内径側縁部を面取りする方法(第1の方法)、前記R形状とされた部分及び側面部分の表面粗さを算術平均粗さで0.2μmより大きく且つ10μmより小さくする方法(第2の方法)、前記R形状とされた部分及び側面部分の表面粗さを示す最大高さが1μmより大きく且つ20μmより小さくする方法(第3の方法)をそれぞれ個別に行う例を示した。」と記載されており、第2の方法すなわち第2実施形態が、第1の方法すなわち請求項1?4の発明特定事項を含まないことが記載されている。
訂正事項3は、「第2実施形態」が特許請求の範囲に含まれないことを明らかにするための訂正であり、何ら新規事項を追加するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
4.訂正事項4
(1)訂正の目的
訂正前の明細書の段落【0026】?【0029】には、特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明の発明特定事項である「そのR形状とされた部分の内径側縁部が面取りされ、前記タング部は、前記R形状とされた部分の内径側縁部がチューブ肉厚の20?50%で面取りされていること」を含まない態様(第3の方法)が「第3実施形態」及び「実施例」として記載されており、特許請求の範囲の記載との間で不明瞭である。
訂正事項4は、上記不明瞭な点を解消するために、特許請求の範囲の記載と明細書の記載を整合させることを目的として、特許請求の範囲に含まれない態様を参考形態及び参考例に訂正するものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるといえる。
(2)新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正前の明細書の段落【0030】には「そのR形状とされた部分の内径側縁部を面取りする方法(第1の方法)、前記R形状とされた部分及び側面部分の表面粗さを算術平均粗さで0.2μmより大きく且つ10μmより小さくする方法(第2の方法)、前記R形状とされた部分及び側面部分の表面粗さを示す最大高さが1μmより大きく且つ20μmより小さくする方法(第3の方法)をそれぞれ個別に行う例を示した。」と記載されており、第3の方法すなわち第3実施形態が、第1の方法すなわち請求項1?4の発明特定事項を含まないことが記載されている。
訂正事項4は、「第3実施形態」が特許請求の範囲に含まれないことを明らかにするための訂正であり、何ら新規事項を追加するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
5.訂正事項5
(1)訂正の目的
訂正事項3及び4により、明細書中の「第2実施形態」及び「第3実施形態」をそれぞれ「第2参考形態」及び「第3参考形態」に訂正する。一方、訂正前の明細書の段落【0030】の「上記実施形態」は、「第1実施形態」?「第3実施形態」を示すから、訂正事項3及び4により訂正される「第2参考形態」及び「第3参考形態」との関係で不明瞭となる。
訂正事項5は、訂正事項3及び4により生じる不明瞭な記載を整合させるための訂正であり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
(2)新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項5は、訂正事項3及び4により生じる不明瞭な記載を整合させるものにすぎず、何ら新規事項を追加するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

なお、本件訂正審判の訂正の趣旨は、上記「第4」のとおりであり、特許権全体に対して訂正審判を請求する場合に該当するといえる。

第6 むすび
以上のとおり、本件訂正請求に係る訂正事項1?5は、いずれも特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
リターンチューブ、及びボールねじ
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ内に形成された螺旋状通路からボールをすくい上げるタング部を備えたリターンチューブ、及び前記リターンチューブを備えたボールねじに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボールねじとしては、例えば、断面半円状のねじ溝を有して軸方向に伸びているねじ軸と、そのねじ軸のねじ溝に対向する断面半円状のねじ溝を有し、前記ねじ軸に嵌合されたボールナットと、それら両ねじ溝間に挿入された複数の鋼球と、を含んで構成され、複数の鋼球を介してボールナットがねじ軸の軸方向に相対移動可能としたものがある。
【0003】
このようなボールねじにあっては、ボールナットの肉厚部に、前記ねじ溝による螺旋状通路に接線方向から連通するとともにねじ軸を跨いで一対をなしボールナット外部に開口する循環穴と、それら循環穴を連結するU字型のリターンチューブと、を含んで構成され、ボールナットの相対移動につれて、鋼球も螺旋状通路内及びリターンチューブ内を転動しつつ移動して無限循環し、ボールナットが継続して移動できるようになっている。
【0004】
また、リターンチューブには、螺旋状通路を転動する鋼球をリターンチューブ内に滑らかに導くために、転動する鋼球をすくい上げるタング部が端部に形成されている。
ところで、このようなボールねじにあっては、鋼球がタング部に繰返衝突することで、タング部の根元部分に応力集中が発生してタング部が破損する恐れがあった。
そのため、通常、鋼球が衝突する際の衝撃力によってタング部が破損することを防ぐために、タング部の根元の隅はR形状に形成して強度を向上するようになっている。
【0005】
また、例えば、さらなる強度の向上のために、タング部を燒結金属の成型品とし、且つ、タング部の下部裏側の肉厚を増したものもある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10?196654号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のように、タング部の根元をR形状に形成するだけでは、ボールナットの移動速度が増し、衝撃力が大きくなると、タング部が破損する恐れがあった。
また、上記特許文献1記載の従来の技術にあっては、ボールねじのロット数量が少ない場合には、リターンチューブの金型代がかさむため、コスト高となる恐れがあった。
本発明は、上記従来の技術の未解決の課題を解決することを目的とするものであって、タング部の強度を容易に向上可能なリターンチューブ、及び前記リターンチューブを備えたボールねじを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本願発明者は、図9に示すように、タング部根元の隅がR形状とされた従来のリターンチューブに対してFEM(finite-element method)応力解析を行った。そして、R形状部分の内径側縁部(リターンチューブの内径側の端部、ボールと接触する側の端部)の応力が高くなっており、タング部に衝撃力が作用すると、前記内径部が破損の起点となることを発見し、今回の発明にいたった。
【0008】
即ち、本発明のリターンチューブは、ボールねじ内に形成された螺旋状通路からボールをすくい上げるタング部を備えたリターンチューブであって、前記タング部は、根元の隅がR形状に形成され、そのR形状とされた部分の内径側縁部が面取りされ、前記タング部は、前記R形状とされた部分の内径側縁部がチューブ肉厚の20?50%で面取りされていることを特徴とする。
このような構成によれば、ボールナットの移動速度が速くなり、タング部へのボールの衝突速度が増した場合に、タング部の根元の隅における応力集中を抑制することができ、その結果、例えば、材質を変えたり肉厚を増したりすることで、タング部の強度を向上する方法に比べ、タング部の強度を容易に向上することができる。
【0009】
また、本願発明者は、図9に示すように、R形状部分の内径側縁部において、ボールと接触する側(B)よりもタング部の側面側(C)のほうが応力集中している領域が広く、表面粗さの影響を大きく受けやすいことを発見し、今回の発明にいたった。
さらに、前記タング部は、前記R形状とされた部分及び側面部分の表面粗さを算術平均粗さで0.2μmより大きく且つ10μmより小さいものとしてもよい。
【0010】(削除)
【0011】
このような構成によれば、表面粗さが小さいほど疲労強度を向上できるので、例えば、ボールナットの移動速度が速くなり、タング部へのボールの衝突速度が増したとしても、タング部の根元部分の側面部分、つまり、応力集中を広範に生じている部分の強度を増すことができる。その結果、例えば、材質を変えたり肉厚を増したりすることで、タング部の強度を向上する方法に比べ、タング部の強度を容易に向上することができる。
【0012】
さらに、前記タング部は、前記R形状とされた部分及び側面部分の表面粗さを示す最大高さが1μmより大きく且つ20μmより小さいものとしてもよい。
【0013】
このような構成によれば、応力集中の原因となる切り欠き効果を生じさせるクラック状の加工跡を防止でき、例えば、ボールナットの移動速度が速くなり、タング部へのボールの衝突速度が増したとしても、タング部の根元部分の側面部分、つまり、応力集中を広範に生じている部分で切り欠き効果を防止することができる。その結果、例えば、材質を変えたり肉厚を増したりすることで、タング部の強度を向上する方法に比べ、タング部の強度を容易に向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明のリターンチューブを適用したボールねじを図面に基づいて説明する。
<第1実施形態>
<ボールねじの構成>
図1は、本実施形態のボールねじの概略構成を破断して示す側面図である。この図1に示すように、ボールねじ1は、断面半円状のねじ溝2aを有して軸方向に伸びているねじ軸2と、そのねじ軸2のねじ溝2aに対向する断面半円状のねじ溝3aを有し、ねじ軸2に嵌合されたボールナット3と、それら両ねじ溝間に挿入された複数の鋼球4と、を含んで構成される。そして、ボールねじ1は、複数の鋼球4を介してボールナット3がねじ軸2の軸方向に相対移動可能となっている。
【0015】
また、ボールねじ1は、ボールナット3の肉厚部に、ねじ溝2a、3aによる螺旋状通路5に接線方向から連通するとともにねじ軸2を跨いで一対をなしボールナット3外部に開口する循環穴6と、それら循環穴6を連結するU字型のリターンチューブ7と、を含んで構成される。そして、ボールねじ1は、ボールナット3の相対移動につれて、鋼球4も螺旋状通路5内及びリターンチューブ7内を転動しつつ移動して無限循環し、ボールナット3が継続して移動できるようになっている。
【0016】
また、リターンチューブ7には、螺旋状通路5を転動する鋼球4をリターンチューブ7内に導くために、転動する鋼球4をすくい上げるタング部8が端部に形成されている。また、タング部8は、図2に示すように、根元の隅がR形状に形成され、そのR形状とされた部分から先端まで内径側縁部(リターンチューブ7の内径側の端部、鋼球4と接触する側の端部)8aがR面取りされている。
【0017】
なお、本実施形態では、R形状とされた部分(隅R)からタング部8先端まで内径側縁部8a全域を面取りする例を示したが、これに限られるものではない。例えば、応力が集中する根元部のみを面取りするようにしてもよい。ちなみに、全域に面取りする方法にあっては、根元部のみを面取りする方法に比べ、加工が容易となる。
また、内径側縁部8aをR面取りする例を示したが、これに限られるものではない。例えば、図3に示すように、C面取りするようにしてもよい。
【0018】
このように、本実施形態のボールねじ1にあっては、タング部8の根元の隅をR形状に形成し、そのR形状とされた部分から先端までタング部8の内径側縁部8aを面取りした。そのため、ボールナット3の移動速度が速くなり、タング部8への鋼球4の衝突速度が増したとしても、タング部8の根元部分における応力集中を抑制することができる。その結果、例えば、材質を変えたり肉厚を増したりすることで、タング部8の強度を向上する方法に比べ、タング部8の強度を容易に向上することができる。
また、本実施形態のボールねじ1を搬送や精密位置決め等に用いることで、早送り速度向上及び加工サイクルタイムの低減を図ることができる。
【0019】
<実施例>
次に、面取りを行っていない従来のタング部8と、面取りを行った上記実施形態のタング部8とにFEM応力解析を行った解析結果を、図面に基づいて説明する。
図4は、リターンチューブ7のタング部8に一定の加重を加えたときに生じた応力分布の解析結果であって、(a)は面取りを行っていない従来のタング部8の応力分布図であり、(b)は面取りを行った上記実施形態のタング部8の応力分布図である。
この応力分布図によれば、面取を行っていない従来のタング部8は内径側縁部8aに応力が集中しているのに比べ、面取を行った本実施形態のタング部8にあっては内径側縁部8aの周囲に応力が分散しており、応力集中が抑制されていることがわかる。
【0020】
また、図5は、面取りを行っていない従来のタング部8のモデルと、R面取りを行った4種類のタング部8のモデル(半径0.07t、0.21t、0.36t、0.50t(t=チューブ肉厚)の面取りを施したモデル)それぞれとの最大発生応力の応力比(面取りを行っていない従来のタング部8の最大発生応力を「1」としたときの比)を示すグラフである。
このグラフによれば、面取り量が大きくなるにつれて応力比は減少し、0.2t以上で期待する効果が得られているが、ある程度以上になると応力低下率が減少し、応力低下がサチレートしていることから、0.2t?0.5tが好ましいことがわかる。
【0021】
<第2参考形態>
次に、本発明のリターンチューブの第2参考形態を図面に基づいて説明する。
この第2参考形態は、タング部8の根元の隅の内径縁部に面取りを行うことに代え、当該部分及びタング部8の側面部の表面粗さを示す算術平均粗さを小さくすることで、タング8の強度を向上するようにした点が前記第1実施形態と異なる。
具体的には、第2参考形態では、タング部8は、根元の隅がR形状に形成され、そのR形状とされた部分及び側面部分の表面粗さを示す算術平均粗さが0.2μmより大きく且つ10μmより小さく形成されている。
【0022】
なお、タング部8の表面粗さを小さくする方法としては、タング部8の形成に用いるボールエンドミルの回転速度を上げる方法、切り込み量を減らす方法、砥石等を先端に付けたハンドグラインダーで最終仕上げを行う方法等を挙げることができる。なお、ハンドグラインダーで最終仕上げを行う場合には、ゴム製砥石を用いると簡単に加工できる。
【0023】
このように、本参考形態のボールねじ1にあっては、タング部8の根元の隅をR形状に形成し、そのR形状とされた部分及び側面部分の表面粗さを算術平均粗さで0.2μmより大きく且つ10μmより小さく形成した。そのため、表面粗さが小さいほど疲労強度を向上できるので、例えば、ボールナット3の移動速度が速くなり、タング部8への鋼球4の衝突速度が増したとしても、タング部8の根元部分の側面部分、つまり、応力集中を広範に生じている部分の強度を増すことができる。その結果、例えば、材質を変えたり肉厚を増したりすることで、タング部8の強度を向上する方法に比べ、タング部8の強度を容易に向上することができる。
また、例えば、タング部8全体の表面粗さを小さくすることで、タング部8の強度を向上する方法や表面粗さを算術平均粗さで0.2以下とすることで、タング部8の強度を向上する方法に比べ、タング部8の強度をより容易に向上することができる。
【0024】
<参考例>
次に、R形状とされた根元の隅及び側面部分の表面粗さを示す算術平均粗さを小さくした上記参考形態のタング部8に繰返荷重をかけた試験結果、図面に基づいて説明する。
図6は、タング部8のR形状とされた根元の隅及び側面部分の算術平均粗さが異なる9種類のタング部8(算術平均表面粗さRaが20、10、5、2、1、0.5、0.2、0.1、0.005μmのタング部8、評価数n=5)に繰返荷重をかける試験を行い、タング部8が10^(7)回以内に疲労破壊したときの荷重の平均を示すグラフである。
なお、図6では、前記疲労破壊したときの荷重の平均(耐荷重)を、最大粗さRa=20における耐荷重で除してなる耐荷重比で表す。
【0025】
このグラフによれば、算術平均表面粗さRaが小さくなるにつれて耐荷重比は大きくなり、10μmよりも小さい範囲で大きな効果が得られているが、ある程度以下(0.2μm以下)となると耐荷重比の増加率が減少し、耐荷重比の増加がサチレートしていることから、0.2μm?10μmが好ましいことがわかる。
【0026】
<第3参考形態>
次に、本発明のリターンチューブの第3参考形態を図面に基づいて説明する。
この第3参考形態は、タング部8の根元の隅の内径縁部に面取りを行うことに代え、当該部分及びタング部8の側面部の表面粗さを示す最大高さを小さくすることで、タング8の強度を向上するようにした点が前記第1実施形態と異なる。
具体的には、第3参考形態では、タング部8は、前記R形状とされた部分及び側面部分の表面粗さを示す最大高さが1μmより大きく且つ20μmより小さく形成されている。
【0027】
このように、本参考形態のボールねじ1にあっては、タング部8の根元の隅をR形状に形成し、そのR形状とされた部分及び側面部分の表面粗さを最大高さで1μmより大きく且つ20μmより小さく形成した。そのため、応力集中の原因となる切り欠き効果を生じさせるクラック状の加工跡を防止でき、例えば、ボールナット3の移動速度が速くなり、タング部8への鋼球4の衝突速度が増したとしても、タング部8の根元部分の側面部分、つまり、応力集中を広範に生じている部分で切り欠き効果を防止することができる。その結果、例えば、材質を変えたり肉厚を増したりすることで、タング部8の強度を向上する方法に比べ、タング部8の強度を容易に向上することができる。
また、例えば、タング部8全体の表面粗さを小さくすることで、タング部8の強度を向上する方法や最大高さで1μm以下とすることで、タング部8の強度を向上する方法に比べ、タング部8の強度をより容易に向上することができる。
【0028】
<参考例>
次に、R形状とされた根元の隅及び側面部分の表面粗さを示す最大高さを小さくした上記参考形態のタング部8に繰返荷重をかけた試験結果、図面に基づいて説明する。
図7は、タング部8のR形状とされた根元の隅及び側面部分の最大高さが異なる9種類のタング部8(最大高さRzが100、50、20、10、5、2、1、0.5、0.2μmのタング部8、評価数n=5)に繰返荷重をかける試験を行い、タング部8が10^(7)回以内に疲労破壊したときの荷重の平均を示すグラフである。
【0029】
なお、図7では、前記疲労破壊したときの荷重の平均(耐荷重)を、最大粗さRz=100における耐荷重で除してなる耐荷重比で表す。
このグラフによれば、最大高さRzが小さくなるにつれて耐荷重比は大きくなり、20μmよりも小さい範囲で大きな効果が得られているが、ある程度以下(1.0μm以下)となると耐荷重比の増加率が減少し、耐荷重比の増加がサチレートしていることから、1.0μm?20μmが好ましいことがわかる。
なお、本発明のリターンチューブは、上記実施の形態の内容に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0030】
上記実施形態及び参考形態では、根元の隅をR形状に形成し、そのR形状とされた部分の内径側縁部を面取りする方法(第1の方法)、前記R形状とされた部分及び側面部分の表面粗さを算術平均粗さで0.2μmより大きく且つ10μmより小さくする方法(第2の方法)、前記R形状とされた部分及び側面部分の表面粗さを示す最大高さが1μmより大きく且つ20μmより小さくする方法(第3の方法)をそれぞれ個別に行う例を示した。ここで、第1の方法は必須で必ず行う必要があるが、第2の方法と第3の方法は任意である。例えば、第1の方法と第2の方法を同時に行ってもよいし、第1の方法と第3の方法とを同時に行ってもよいし、第1の方法のみでもよい。また、第1の方法と第2の方法と第3の方法とを同時に行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のリターンチューブを適用したボールねじの一実施形態を示す構成図である。
【図2】図1のタング部を拡大して示す要部拡大図である。
【図3】図2のタング部の変形例を説明する説明図である。
【図4】従来のタング部及び図1のタング部に作用する応力を示す応力分布図である。
【図5】タング部の面取比とタング部に作用する応力比との関係を示すグラフである。
【図6】タング部の算術平均粗さとタング部が疲労破壊したときの耐荷重比との関係を示すテーブル及びグラフである。
【図7】タング部の最大高さとタング部が疲労破壊したときの耐荷重比との関係を示すテーブル及びグラフである。
【図8】従来のリターンチューブのFEM応力解析の解析結果を示す応力分布図である。
【図9】従来のリターンチューブのFEM応力解析の解析結果を示す応力分布図である。
【符号の説明】
【0032】
1はボールねじ、2はネジ軸、2aはねじ溝、3はボールナット、3aはねじ溝、4は鋼球、5は螺旋状通路、6は循環穴、7はリターンチューブ、8はタング部、8aは内径側縁部
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2019-01-16 
結審通知日 2019-01-18 
審決日 2019-01-29 
出願番号 特願2006-196970(P2006-196970)
審決分類 P 1 41・ 853- Y (F16H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 高吉 統久  
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 尾崎 和寛
内田 博之
登録日 2012-01-06 
登録番号 特許第4893133号(P4893133)
発明の名称 リターンチューブ、及びボールねじ  
代理人 松山 美奈子  
代理人 松山 美奈子  

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