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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G09B 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G09B |
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管理番号 | 1349081 |
審判番号 | 不服2018-2388 |
総通号数 | 232 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-04-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-02-20 |
確定日 | 2019-03-08 |
事件の表示 | 特願2013-103556「プラネタリウム投映機およびプラネタリウムシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月 4日出願公開、特開2014-224871、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成25年5月15日の出願であって、平成29年5月30日付けで拒絶理由が通知され、同年12月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成30年2月20日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされた。その後、当審より平成30年10月19日付けで拒絶理由が通知され、同年12月18日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、当審より平成31年1月23日付けで拒絶理由が通知され、同年1月24日に手続補正がなされたものである。 第2 原査定の概要 平成29年12月5日付け拒絶査定(以下、「原査定」という。)の概要は次のとおりである(引用文献については、下記の引用文献等一覧を参照。)。 1 願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1-12に係る発明は、引用文献A又はBに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 2 願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項3の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 3 願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項3の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 引用文献等一覧 A.特開2002-328597号公報 B.特開昭60-232588号公報 第3 当審拒絶理由の概要 1 平成30年10月19日付け拒絶理由(以下、「当審拒絶理由1」という。)の概要は次のとおりである(引用文献については、下記の引用文献等一覧を参照。)。 (1) 平成30年2月20日付け手続補正後の請求項1-2に係る発明は、引用文献1に記載された発明、及び、引用文献2に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (2) 平成30年2月20日付け手続補正後の請求項1に係る発明は、引用文献3又は4に記載された発明、及び、引用文献2に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (3) 平成30年2月20日付け手続補正後の請求項1-2の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 引用文献等一覧 1.特開2008-225294号公報 2.実願昭52-123687号(実開昭54-51061号)のマイクロフィルム 3.特開2002-328597号公報 4.特開昭60-232588号公報 2 平成31年1月23日付け拒絶理由(以下、「当審拒絶理由2」という。)の概要は次のとおりである。 (1) 平成30年12月18日付け手続補正後の請求項1の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 第4 本願発明 本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成31年1月24日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明であり、本願発明は以下のとおりの発明である。 【請求項1】 「光源と単一の光点、あるいはごく限られた小さな領域に配した複数の光点を配したピンホールを有する投映光学系により、単一あるいは複数の光点を単位光点として恒星を投映可能とするとともに、投映する光点の色、あるいは明るさを変更可能とした単位光点投映筒と、 それを支持する架台からなる単位光点投映機の複数台の集合からなり、 上記単位光点投映機は支持した単位光点投映筒を任意の投映方向に制御する手段を有する複数台のプラネタリウム投映機と 複数台のデジタル式プラネタリウム投映機を有するプラネタリウムシステムにおいて、 前記複数台のデジタル式プラネタリウム投映機のビデオプロジェクタ映像の位置合わせを行うための複数の調整点をドームスクリーンに投映するにあたり、 前記複数台の単位光点投映機をアライメント用投映機としても用いることにより、 複数の調整点を提示して前記の映像の調整を可能としたことを特徴とするプラネタリウムシステム。」 第5 特許法第29条第2項に関する原査定の理由について 1 引用文献Aに関して (1) 原査定の理由に引用された引用文献Aには、次の記載がある(下線は当審で付した。)。 ア 「【請求項1】 恒星投影球の才差軸と同心に配されるか又は才差軸近傍に設けた才差軸と平行な固定軸に回動自在に配されることによりX軸運動を行う回転ステージと、この回転ステージ上のX軸に対する偏心位置に配されると共に回転ステージに対して投影方向を上下に可変するY軸運動を行う1又は複数の惑星投影筒からなり、これらのX軸運動及びY軸運動を日時データを受け取った惑星運行演算装置により演算した値に基づき制御することにより惑星の運行を投影する惑星投影装置を備えたことを特徴とするプラネタリウム。 」 イ 「【請求項4】 惑星投影筒が配される回転ステージはX軸方向に複数設けられる請求項1から3の何れかに記載のプラネタリウム。」 ウ 「【0006】 【発明の実施の形態】以下、この発明の具体的実施例を添付図面に基づいて説明する。図1はこの発明のプラネタリウムの惑星投影装置を示す図である。図中符号1は恒星投影球であり、プラネタリウム本体Pの架台に運動自在に支持される。図中符号Sは惑星投影装置であり、この惑星投影装置は固定軸10とこの固定軸10に対し回動自在に配されることによりX軸運動を行う回転ステージ20と、この回転ステージ20上に配されて投影方向を上下に可変するY軸運動を行う惑星投影筒30から構成される。固定軸10は恒星投影球1に固定され、この実施例においては恒星投影球の才差軸1Aと同心に配されるが、才差軸近傍に設けられてもよく、この場合の固定軸10は才差軸と平行に設けられることが望ましい。この実施例においては固定軸10は恒星投影球1に対して適宜手段により着脱自在に取り付けられる。尚、図1においては北天側の恒星投影球のみを図示しているが、惑星投影装置Sは南天側の恒星投影球にも同じように設けられる。又、南北2 つの恒星球の間に歯車式の惑星投影機構部を設けた、従来の他型式のプラネタリウムにも、この発明は適用できる。」 エ 「【0009】惑星投影筒30は電球31、コンデンサレンズ32、原板33、投影レンズ34を内蔵した公知の構造のものである。この惑星投影筒30は回転ステージ20上のX軸に対する偏心位置に配されると共に回転ステージに対して投影方向を上下に可変するY軸運動を行うよう構成される。この実施例においては投影方向を上下に可変する手段として回転ステージ上に設けたY軸運動用モータ35により惑星投影筒30を上下に揺動させることにより惑星投影筒自体にY軸運動を与えている(図4参照)。惑星投影筒30は一つの回転ステージ20に対して複数設けてもよく、図5に2つ設けた例を図示する。 」 (2)ア 上記(1)ウの「北天側の恒星投影球のみを図示しているが、惑星投影装置Sは南天側の恒星投影球にも同じように設けられる。」との記載より、引用文献Aには、「北天側の恒星投影球」、及び、「南天側の恒星投影球」に「惑星投影装置」を設けることが記載されていると認められる。 イ 以上より、引用文献Aには、次の発明(以下、「引用発明A」という。)が記載されていると認められる。 「プラネタリウム本体の架台に運動自在に支持される恒星投影球、及び、 固定軸と、前記固定軸に対し回動自在に配されることによりX軸運動を行う複数の回転ステージと、前記回転ステージ上に配されると共にY軸運動用モータにより投影方向を上下に可変するY軸運動を行う複数の惑星投影筒から構成される惑星投影装置を備えたプラネタリウムであって、 前記惑星投映筒は、電球とコンデンサレンズと原板と投影レンズとを内蔵し、 前記惑星投影装置は、北天側の恒星投影球、及び、南天側の恒星投影球に設けられた、プラネタリウム。」 (3) 本願発明と引用発明Aとを対比する。 ア 引用発明Aの「電球」は、本願発明の「光源」に相当する。 イ 引用発明Aの「電球とコンデンサレンズと原板と投影レンズ」と、本願発明の「光源と単一の光点、あるいはごく限られた小さな領域に配した複数の光点を配したピンホールを有する投映光学系」とは、「光源を有する投映光学系」という点で共通する。 ウ 引用発明Aの「惑星投影筒」と本願発明の「恒星を投映可能とする」「単位光点投映筒」とは、星を投映可能とする投映筒という点で共通する。 エ 引用発明Aの「回転ステージ」は、本願発明の「架台」に相当する。そして、引用発明Aの「惑星投影筒」及び「回転ステージ」と、本願発明の「単位光点投映筒と、それを支持する架台からなる単位光点投映機」とは、星を投映可能とする投映筒とそれを支持する架台からなる投映機という点で共通する。 オ 引用発明Aの「複数の惑星投影筒から構成される惑星投影装置」と、本願発明の「単位光点投映機の複数台の集合からな」る「プラネタリウム投映機」とは、「投映機の複数台の集合からな」る「プラネタリウム投映機」という点で共通する。 カ 引用発明Aの「北天側の恒星投影球、及び、南天側の恒星投影球に設けられた」「惑星投影装置」は、本願発明の「複数台のプラネタリウム投映機」に相当する。 キ 引用発明Aの「惑星投映筒」は「X軸運動を行う」「回転ステージ上に配されると共にY軸運動用モータにより投影方向を上下に可変するY軸運動を行う」ものであるから、引用発明Aは本願発明の「任意の投映方向に制御する手段」を備えるといえる。 ク 引用発明Aの「プラネタリウム」は、「恒星投影球」と「惑星投影装置」とを備えており、二つの異なる種類の投映機を備えているという点において、本願発明の「プラネタリウムシステム」に相当する。 ケ 以上のことから、本願発明と引用発明Aとの一致点及び相違点は、次のとおりである。 【一致点】 「光源を有する投映光学系により、星を投映可能とする投映筒と、それを支持する架台からなる投映機の複数台の集合からなり、上記投映機は支持した投映筒を任意の投映方向に制御する手段を有する複数台のプラネタリウム投映機を有するプラネタリウムシステム。」 【相違点A1】 本願発明の「単位光点投映筒」は、「単一の光点、あるいはごく限られた小さな領域に配した複数の光点を配したピンホールを有する投映光学系により、単一あるいは複数の光点を単位光点として恒星を投映可能とするとともに、投映する光点の色、あるいは明るさを変更可能と」するものであるのに対して、引用発明Aの「惑星投映筒」は、そのように特定されていない点。 【相違点A2】 本願発明は「複数台のデジタル式プラネタリウム投映機」を有し「前記複数台のデジタル式プラネタリウム投映機のビデオプロジェクタ映像の位置合わせを行うための複数の調整点をドームスクリーンに投映するにあたり、前記複数台の単位光点投映機をアライメント用投映機としても用いることにより、複数の調整点を提示して前記の映像の調整を可能とした」のに対して、引用発明Aはそもそも「デジタル式プラネタリウム投映機」を有していない点。 (4) 判断 上記相違点のうち、本件補正により追加された発明特定事項に関する上記相違点A2について、まず検討する。 「前記複数台のデジタル式プラネタリウム投映機のビデオプロジェクタ映像の位置合わせを行うための複数の調整点をドームスクリーンに投映するにあたり、前記複数台の単位光点投映機をアライメント用投映機としても用いることにより、複数の調整点を提示して前記の映像の調整を可能とした」点については、引用文献Aに記載されておらず、また、周知技術であるともいえない。したがって、上記相違点A2に係る本願発明の発明特定事項は、当業者であっても容易に想到し得たことであるとはいえない。 したがって、本願発明は、引用発明Aに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 2 引用文献Bに関して (1) 原査定の理由に引用された引用文献Bには、次の記載がある(下線は当審で付した。)。 ア 「第1図および第2図はプラネタリウムと投映器の概観図で、Aは傾斜ド-ム、Bは三軸制御が行われる一球レンズ式の恒星投映器、Cはそれぞれ二軸制御が行われる太陽、月、水星、金星、地球、火星、木星、土星用の投映器である。第3図は本発明の一実施例を示す二軸合成運動による投映装置で、投映器1(第2図のCに相当する)は半周以上の円弧部材2内で、その直径方向への軸3の中央部に設けられたリング4と螺合する複数個のネジ5により、軸3の中心線方向と一致する第2回転軸IIのまわりに回動可能に保持されている。6は軸3の両端を円弧部材2の内面に枢支する軸受で、投映器1は、円弧部材2の内面に取付けられた第2モ-タ7の駆動歯車8と噛合う軸3に取付けの被動歯車9により、第2回転軸IIのまわりに回動され、その回動角は、第2モ-タ7の駆動歯車8と噛合う別の被動歯車10を介して第2エンコ-ダ11により検出される。 円弧部材2は、その周面中央部全体にわたってV形溝12が形成され、このV形溝12と係合する回転自在の複数個のコロ13によって保持されるとともに、V形溝12によって区分された一方の周面に設けられた被動歯車14と噛合う第1モ-タ15の駆動歯車16によって、円弧部材2と直角な第1回転軸Iのまわりに投映器1を回動する。このときの投映器1の回動角は、円弧部材2の被動歯車14と噛合う歯車17を介して第1エンコ-ダ18により検出される。 それ故、第1モ-タ15により円弧部材2を第1回転軸Iのまわりに回動するとともに、第2モ-タ7により軸3を第2回転軸IIのまわりに回動する二軸合成運動によって、投映器1は、惑星、月、太陽の投映像をド-ム内の任意の方向に投映することがてきる。 第4図は、惑星と太陽の投映に使用される像回転装置付の投映器1Aの一実施例を示したもので、リング4によって外周部が保持され第2回転軸IIのまわりに回動される投映器1Aには、光源19、コンデンサ-レンズ20、原板21、および投映レンズ22からなる投映レンズユニットが収納されている。コンデンサ-レンズ20の前方に配設される投映用の原板21は、ボス部外周を軸受23によって保持される原板回転歯車24の中央凹部25の底壁に設けられた円形穴26の前面に固着され、原板回転歯車24と噛合う投映器1Aの外部に設けられたエンコ-ダ内蔵のモ-タ27の駆動歯車28によって、自転軸が所定の方向に向くように回転される。」(第2頁右上欄第7行-第3頁左上欄第10行) (2) 以上より、引用文献Bには、次の発明(以下、「引用発明B」という。)が記載されていると認められる。 「光源とコンデンサ-レンズと原板と投影レンズとからなる投映レンズユニットが収納されている筒状の投映機であって、第1モ-タ15により円弧部材2を第1回転軸Iのまわりに回動するとともに、第2モ-タ7により軸3を第2回転軸IIのまわりに回動する二軸合成運動によって任意の方向に投映することができる、それぞれ太陽、月、水星、金星、地球、火星、木星、土星用の投映機と、一球レンズ式の恒星投映機とを有するプラネタリウム。」 (3) 本願発明と引用発明Bとを対比する。 ア 引用発明Bの「投映レンズユニット」は、本願発明の「投映光学系」に相当する。 イ 引用発明Bの「太陽、月、水星、金星、地球、火星、木星、土星用」の「筒状の投映機」と、本願発明の「恒星を投映可能とする」「単位光点投映筒」を有する「単位光点投映機」とは、星を投映可能とする投映筒を有する投映機である点で共通する。 ウ 引用発明Bの「投映機」は「それぞれ太陽、月、水星、金星、地球、火星、木星、土星用」のものであるから、引用発明Bにおいて「投映機」は計8台であることは明らかである。そして、引用発明Bにおいて、「太陽、月、水星、金星」用の「投映機」と「地球、火星、木星、土星用」の「投影機」とにグループ分けすると、これらと、本願発明の「単位光点投映機の複数台の集合からな」る「複数台のプラネタリウム投映機」とは、「投映機の複数台の集合からな」る「複数台のプラネタリウム投映機」という点で共通する。 エ 引用発明Bの「第1モータ」及び「第2モータ」は、本願発明の「任意の投映方向に制御する手段」に相当する。 オ 引用発明Bの「プラネタリウム」は、「太陽、月、水星、金星、地球、火星、木星、土星用の投映機」と「一球レンズ式の恒星投映機」とを備えており、二つの異なる種類の投映機を備えているという点において、本願発明の「プラネタリウムシステム」に相当する。 カ 以上のことから、本願発明と引用発明Bとの一致点及び相違点は、次のとおりである。 【一致点】 「光源を有する投映光学系により、星を投映可能とする投映筒を有する投映機の複数台の集合からなり、上記投映機は投映筒を任意の投映方向に制御する手段を有する複数台のプラネタリウム投映機を有するプラネタリウムシステム。」 【相違点B1】 本願発明の「単位光点投映機」は、「単一の光点、あるいはごく限られた小さな領域に配した複数の光点を配したピンホールを有する投映光学系により、単一あるいは複数の光点を単位光点として恒星を投映可能とするとともに、投映する光点の色、あるいは明るさを変更可能とした単位光点投映筒と、それを支持する架台からなる」ものであるのに対して、引用発明Bの「投映機」は、そのように特定されていない点。 【相違点B2】 本願発明は「複数台のデジタル式プラネタリウム投映機」を有し「前記複数台のデジタル式プラネタリウム投映機のビデオプロジェクタ映像の位置合わせを行うための複数の調整点をドームスクリーンに投映するにあたり、前記複数台の単位光点投映機をアライメント用投映機としても用いることにより、複数の調整点を提示して前記の映像の調整を可能とした」のに対して、引用発明Bはそもそも「デジタル式プラネタリウム投映機」を有していない点。 (4) 判断 上記相違点のうち、本件補正により追加された発明特定事項に関する上記相違点B2について、まず検討する。 「前記複数台のデジタル式プラネタリウム投映機のビデオプロジェクタ映像の位置合わせを行うための複数の調整点をドームスクリーンに投映するにあたり、前記複数台の単位光点投映機をアライメント用投映機としても用いることにより、複数の調整点を提示して前記の映像の調整を可能とした」点については、引用文献Bに記載されておらず、また、周知技術であるともいえない。したがって、上記相違点B2に係る本願発明の発明特定事項は、当業者であっても容易に想到し得たことであるとはいえない。 したがって、本願発明は、引用発明Bに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 3 小括 以上のとおり、特許法第29条第2項に関する原査定の理由は解消した。 第6 特許法第36条に関する原査定の理由について 1 特許法第36条第6項第2号(明確性)に関する原査定の理由は、次のとおりである。この項における請求項3は、願書に最初に添付した特許請求の範囲のものである。 請求項3に「パラレルメカニズムを介して単位光点投映筒を架台に対して支持することにより・・・」と記載されているが、「パラレルメカニズム」とはどのようなメカニズムなのかが不明なため、請求項3に係る発明は不明確である。 2 特許法第36条第6項第2号(明確性)に関する原査定の理由についての判断 上記1の点に関して、本件補正後の請求項1には「パラレルメカニズム」との記載はない。 してみると、上記1の原査定の理由は解消した。 3 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に関する原査定の理由は、次のとおりである。この項における請求項3は、願書に最初に添付した特許請求の範囲のものである。 請求項3に係る発明は「単位光点投映筒」の支持に「パラレルメカニズム」という機構を採用するものであるが、本願明細書の記載(発明の詳細な説明)全体を参照しても、「パラレルメカニズム」に関する詳細な開示は認められない。 よって、この点において本願請求項3に係る発明は、本願明細書(発明の詳細な説明)に記載されたものであるとは言えない。 4 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に関する原査定の理由についての判断 上記3の点に関して、本件補正後の請求項1には「パラレルメカニズム」との記載はない。 してみると、上記3の原査定の理由は解消した。 第7 特許法第29条第2項に関する当審拒絶理由1について 1 引用文献1 (1) 当審拒絶理由1に引用された引用文献1には、次の記載がある(下線は当審で付した。)。 ア 「【請求項1】 光学式恒星投影機と、映像生成装置および映像投影用プロジェクタを有するディジタル映像装置を有し、 前記光学式恒星投影機は、最も明るい輝星から高輝度領域側の所定の光度までの範囲内の任意の恒星を投影し、 前記ディジタル映像装置は、前記高輝度領域側の所定の光度未満の任意の恒星を投影し、 星空を完成させることを特徴とする複合プラネタリウムシステム。」 イ 「【0016】 以下図面を参照して発明の実施の形態を詳しく説明する。 図1は、本発明による複合プラネタリウムシステムの外観を示す概略図である。 ドームスクリーンの中心には、光学式輝星投影機31が設置されている。光学式輝星投影機31は、恒星のうち、一定の光度、例えば2.0等星より明るい星(以下輝星)をドームスクリーン上に投影する機能を有する。輝星は、日周運動や緯度変換が可能である。 ドームスクリーン33の周辺には、映像を投影可能なビデオプロジェクタ32a?32nがドーム中心方向を向いて複数台が設置されており、ドームスクリーン33のほぼ全面に映像を投影可能となっている。」 ウ 「【0019】 南天と北天用の恒星球41,42には、それぞれ多数の輝星投影筒51が日周テーブル52上に取り付けられている構造となっている。ランプハウス53内には光源ランプ54があり、光源ランプ54を出た光は、コンデンサレンズ55で集光されて光ファイバ束56に入射する。光ファイバ束56は個別の光ファイバ57に分岐され、それぞれの輝星投影筒51に導かれている。光ファイバ57の端部から出射した光は、輝星投影筒51内で投影レンズ58を通してドームスクリーンに点像を結ぶ。それぞれの輝星投影筒51は、実際の恒星、例えばシリウスやリゲルなどの恒星に相当する角度に調整されて据えつけられ、なおかつ、投影される光量が、NDフィルタまたは絞りによって調整され、それぞれの恒星の光度に相当する明るさで投影されるようになっている。」 エ 「【0020】 図3に輝星投影筒の詳細を示す。 鏡筒60内には、電気信号によって駆動されるソレノイド61によって開閉駆動するシャッター板62が取り付けられており、光ファイバから出射した光を透過,遮蔽(オン,オフ)させることが可能である。電気信号は、例えばマイクロコンピュータ35からパワーアンプを通じて個別の輝星投影筒に供給される。このような輝星投影機により、2.0等級より明るい恒星を、所定の位置に、なおかつ任意かつ個別にON/OFFをして投影することができる。 この実施の形態では複数の輝星投影筒51が同じ光源を共有する例を示したが、それぞれが個別の光源を持ち、シャッタ機構を用いずに光源自体のON/OFFを行っても同様の効果が得られることは勿論である。」 オ 「【0024】 なお、この実施の形態においては、輝星と微光星の位置関係が正確に維持されている必要があるが、このためには、恒星投影機にレーザーなどによる基準マーク手段を搭載し、任意の地平座標を指定してマークを照射し、これを基準に恒星投影機から投影される輝星の高度,方位角と、ビデオプロジェクタで投影される画像の位置関係を測定する演算回路をマイクロコンピュータ35に搭載すればよい。本件出願人が提案している特開2006-337682の方法が有効である。 また、この実施の形態では2等星以上は輝星投影筒で、2.1等星以下はビデオプロジェクタで投影する例を説明したが、ある明るさ範囲(例えば2.5等星から1.5等星の範囲)の恒星は輝星投影筒,ビデオプロジェクタの両方で個々の恒星を決めて投影することも可能である。」 (2)ア 引用文献1の段落【0016】に記載の「光学式輝星投影機」、及び、段落【0024】に記載の「恒星投影機」は、請求項1に記載の「光学式恒星投影機」に対応する。また、引用文献1の段落【0016】及び【0024】に記載の「ビデオプロジェクタ」は、請求項1に記載の「映像投影用プロジェクタ」に対応する。 イ 以上のことから、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 「光学式恒星投影機と、映像生成装置および複数台の映像投影用プロジェクタを有するディジタル映像装置を有し、 前記光学式恒星投影機は、最も明るい輝星から高輝度領域側の所定の光度までの範囲内の任意の恒星を投影し、 前記ディジタル映像装置は、前記高輝度領域側の所定の光度未満の任意の恒星を投影し、 星空を完成させる複合プラネタリウムシステムであって、 前記光学式恒星投影機は、 個別の光源を持ち、実際の恒星に相当する角度に調整されて据えつけられ、投影される光量がNDフィルタまたは絞りによって調整され、投影レンズを通してドームスクリーンに点像を結ぶ多数の輝星投影筒が、南天と北天用の恒星球の日周テーブル上に取付けられる構造となっており、 レーザーなどによる基準マーク手段を搭載し、 前記基準マーク手段から任意の地平座標を指定して照射されたマークを基準に前記光学式恒星投影機から投影される輝星の高度、方位角と、前記プロジェクタで投影される画像の位置関係を測定する演算回路がマイクロコンピュータに搭載された、複合プラネタリウムシステム。」 2 引用文献2 (1) 当審拒絶理由1に引用された引用文献2には、次の記載がある(下線は当審で付した。)。 ア 「この考案は、プラネタリウムの主として恒星用投影機に関するものである。」(第2頁第11行-第12行) イ 「第2図はこの考案に係る投影機で、前記光輝星投影機(6)として用いるものの一例を示すもので、機体(10)内には、光源(11)、コンデンサ-レンズ(12)、光輝星投影原板(13)、投映レンズ(14)のそれぞれが、光軸(15)上に順次配列されている。」(第6頁第4行-第8行) ウ 「光源(11)からの光は、コンデンサ-レンズ(12)により原板(13)上に集光される。この集束光の原板(13)にあるピンホ-ルを通過した光は、レンズ(14)によって図示しないド-ム上に大きさが認められない点像として投影される。」(第8頁第10行-第14行) (2) 以上のことから、引用文献2には、「プラネタリウムの光輝星投影機において、ピンホ-ルを用いる」という技術が記載されていると認められる。 3 本願発明と引用発明1とを対比する。 (1) 引用発明1の「輝星投影筒」は「投影レンズを通してドームスクリーンに点像を結ぶ」のであるから、引用発明1の「輝星投影筒」と本願発明の「恒星を投映可能とする」「単位光点投映筒」とは、「単一」の「光点を単位光点として恒星を投映可能とする」という点で共通する。 (2) 引用発明1の「投影される光量がNDフィルタまたは絞りによって調整される」は、本願発明の「投映する光点」の「明るさを変更可能とした」に相当する。 (3) 引用発明1の「輝星投影筒」は、「実際の恒星に相当する角度に調整されて据えつけられ、」「南天と北天用の恒星球の日周テーブル上に取付けられ」ている以上、本願発明の「単位光点投映筒」を「支持する架台」に相当する構成を有することは明らかである。 (4) 引用発明1の「光学式恒星投影機」は、本願発明の「プラネタリウム投映機」に相当する。そして、引用発明1において、「光学式恒星投影機」は、「多数の輝星投影筒が、南天と北天用の恒星球の日周テーブル上に取付けられる構造となって」いるのであるから、「南天」用と「北天用」の2台があることは明らかである。 (5) 引用発明1の「複数台の映像投影用プロジェクタ」は、本願発明の「複数台のデジタル式プラネタリウム投映機」に相当する。 (6) 以上のことから、本願発明と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。 【一致点】 「光源を有する投映光学系により、単一の光点を単位光点として恒星を投映可能とするとともに、投映する光点明るさを変更可能とした単位光点投映筒と、 それを支持する架台からなる単位光点投映機の複数台の集合からなる複数台のプラネタリウム投映機と 複数台のデジタル式プラネタリウム投映機を有するプラネタリウムシステム。」 【相違点1】 本願発明では「投映光学系」が「単一の光点、あるいはごく限られた小さな領域に配した複数の光点を配したピンホールを有する」のに対して、引用発明1ではそのような「ピンホール」を有していない点。 【相違点2】 本願発明では「単位光点投映機は支持した単位光点投映筒を任意の投映方向に制御する手段を有する」のに対して、引用発明1ではそのような「制御する手段」を有していない点。 【相違点3】 本願発明では「前記複数台のデジタル式プラネタリウム投映機のビデオプロジェクタ映像の位置合わせを行うための複数の調整点をドームスクリーンに投映するにあたり、前記複数台の単位光点投映機をアライメント用投映機としても用いることにより、複数の調整点を提示して前記の映像の調整を可能とした」のに対して、引用発明1では「レーザーなどによる基準マーク手段」から「任意の地平座標を指定して照射されたマークを基準に」位置関係を測定している点。 4 判断 上記相違点のうち、本件補正により追加された発明特定事項に関する上記相違点3について、まず検討する。 上記相違点3に係る本願発明の発明特定事項は、引用文献2にも記載されておらず、また、周知技術であるともいえない。してみると、当該発明特定事項は、当業者であっても容易に想到し得たことであるとはいえない。 したがって、本願発明は、引用発明1、及び、引用文献2に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 5 引用文献3、4について 当審拒絶理由1で引用された引用文献3及び4は、それぞれ、原査定の理由に引用された引用文献A及びBである。 そして、上記第5の1(4)及び2(4)で検討したとおり、引用文献3及び4には、本願発明の「前記複数台のデジタル式プラネタリウム投映機のビデオプロジェクタ映像の位置合わせを行うための複数の調整点をドームスクリーンに投映するにあたり、前記複数台の単位光点投映機をアライメント用投映機としても用いることにより、複数の調整点を提示して前記の映像の調整を可能とした」点が記載されていない。また、上記4で検討したとおり、この点は引用文献2にも記載されていない。さらに、この点は周知技術であるともいえない。 したがって、本願発明は、引用文献3又は4に記載された発明、及び、引用文献2に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 6 小括 以上のとおり、特許法第29条第2項に関する当審拒絶理由1は解消した。 第8 特許法第36条に関する当審拒絶理由1について 1 特許法第36条第6項第2号(明確性)に関する当審拒絶理由1は、次のとおりである。この項における請求項1,2は、平成30年2月20日付け手続補正後のものである。 (1) 請求項1,2には「光学式プラネタリウム投映機」との記載があるが、当該「光学式プラネタリウム投映機」にはどのようなものが含まれるのかが曖昧であり、その定義が不明確である。例えば、請求項1,2に記載される「光源と単一の光点、あるいはごく限られた小さな領域に配した複数の光点を配したピンホールを有する投映光学系により、単一あるいは複数の光点を単位光点として恒星を投映可能とするとともに、投映する光点の色、あるいは明るさを変更可能とした単位光点投映筒と、それを支持する架台からなる単位光点投映機の複数台の集合からなり、上記単位光点投映機は支持した単位光点投映筒を任意の投映方向に制御する手段を有するプラネタリウム投映機」は光学的に星を投映するものであるといえるところ、当該「プラネタリウム投映機」は前記「光学式プラネタリウム投映機」に含まれるのか否かが不明確である。 したがって、請求項1,2の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 (2) 請求項2には「光学式プラネタリウム投映機、あるいはデジタル式プラネタリウム投映機を有するプラネタリウムシステムにおいて」と記載されており、「光学式プラネタリウム投映機」を有していて「デジタル式プラネタリウム投映機」を有さない場合も含まれるところ、この場合には、「プラネタリウム投映機を、デジタル式プラネタリウム投映機のアライメント用投映機としても用いる」との請求項2の発明特定事項は、「デジタル式プラネタリウム投映機」を有さないことと整合が取れていない。 したがって、請求項2の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 2 特許法第36条第6項第2号(明確性)に関する当審拒絶理由1についての判断 (1) 上記1(1)の点に関して、本件補正後の請求項1には「光学式プラネタリウム投映機」との記載はない。 してみると、上記1(1)の当審拒絶理由1は解消した。 (2) 上記1(2)の点に関して、本件補正後の請求項1には「光学式プラネタリウム投映機、あるいはデジタル式プラネタリウム投映機を有するプラネタリウムシステム」との記載はない。 してみると、上記1(2)の当審拒絶理由1は解消した。 第9 当審拒絶理由2について 1 特許法第36条第6項第2号(明確性)に関する当審拒絶理由2は、次のとおりである。この項における請求項1,2は、平成30年12月18日付け手続補正後のものである。 (1) 請求項1に係る発明において、「プラネタリウムシステム」を構成する物品(投映機等)が何であるのかが規定されていないため、請求項1の記載は不明確である。 (2) 請求項1には「デジタル式プラネタリウム投映機のアライメント用投映機としても用いる」との記載があるが、どのように「アライメント」に用いるのかが具体的に特定されていないから、請求項1の記載は不明確である。 2 特許法第36条第6項第2号(明確性)に関する当審拒絶理由2についての判断 (1) 上記1(1)の点に関して、本件補正後の請求項1では「プラネタリウムシステム」が「複数台のプラネタリウム投映機」と「複数台のデジタル式プラネタリウム投映機」を有することが明確になった。 してみると、上記1(1)の当審拒絶理由2は解消した。 (2) 上記1(2)の点に関して、本件補正後の請求項1では、「アライメント」に関して、「前記複数台のデジタル式プラネタリウム投映機のビデオプロジェクタ映像の位置合わせを行うための複数の調整点をドームスクリーンに投映するにあたり、前記複数台の単位光点投映機をアライメント用投映機としても用いることにより、複数の調整点を提示して前記の映像の調整を可能とした」と記載されており、どのように「アライメント」に用いるのかが具体的に特定された。 してみると、上記1(2)の当審拒絶理由2は解消した。 第10 むすび 以上のとおり、原査定の理由、並びに、当審拒絶理由1及び2によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2019-02-26 |
出願番号 | 特願2013-103556(P2013-103556) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WY
(G09B)
P 1 8・ 121- WY (G09B) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 彦田 克文 |
特許庁審判長 |
尾崎 淳史 |
特許庁審判官 |
吉村 尚 後藤 昌夫 |
発明の名称 | プラネタリウム投映機およびプラネタリウムシステム |
代理人 | 神保 欣正 |