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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B25J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B25J
管理番号 1349321
審判番号 不服2017-19381  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-27 
確定日 2019-02-21 
事件の表示 特願2013-229061「ロボット、制御装置及びロボットシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年5月11日出願公開、特開2015-89576〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年11月5日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年 9月21日 :審査請求
平成29年 7月26日付け:拒絶理由通知書
同 年 9月28日 :意見書の提出
同 年10月 4日付け:拒絶査定
同 年12月27日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成30年 3月30日 :上申書の提出

第2 平成29年12月27日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成29年12月27日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「ロボットアームと、
前記ロボットアームを駆動する駆動部と、
少なくとも1つが、前記アームの角速度、加速度、または角加速度を検出する慣性センサーである複数の検出部と、
前記駆動部の駆動を制御するとともに、前記慣性センサーの出力に基づいて前記アームの制振制御を行う、駆動制御部と、
前記複数の検出部及び前記駆動制御部を直列的に接続する配線部と、
前記慣性センサーから出力される信号をアナログ値からデジタル値に変換するアナログ/デジタル変換部と、を備え、
前記慣性センサーと前記アナログ/デジタル変換部とは、同一の基板上に配置されていることを特徴とするロボット。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「ロボットアームと、
前記ロボットアームを駆動する駆動部と、
少なくとも1つが慣性センサーである複数の検出部と、
前記駆動部の駆動を制御する駆動制御部と、
前記複数の検出部及び前記駆動制御部を直列的に接続する配線部と、
前記慣性センサーから出力される信号をアナログ値からデジタル値に変換するアナログ/デジタル変換部と、を備え、
前記慣性センサーと前記アナログ/デジタル変換部とは、同一の基板上に配置されていることを特徴とするロボット。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「慣性センサー」及び「駆動制御部」について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2013-84111号公報(平成25年5月9日出願公開。以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
「【0019】
<<実施形態1>>
(システム構成)
図1は本実施形態に係るロボットシステムの概要図である。本ロボットシステムは、コントローラ1、視覚モジュール2、関節モジュール3及び4、エンドエフェクタ5及び6により構成される。コントローラ1は、ロボットシステム全体の動作制御を実施する。また、不図示の上位の管理システムへ、作業進捗やエラー情報等を随時送信する。視覚モジュール2は、加工対象物8のようなロボットシステムが影響を及ぼす外部環境の取得(撮影)を実施する。関節モジュール3及び関節モジュール4は、ロボットアームの関節の角度制御を実施する。エンドエフェクタ5は、図示するようロボットアーム先端に取り付けられ、加工対象物8に対して所定の加工を実行する。エンドエフェクタ6は、エンドエフェクタ5とは異なる所定の加工を実行することができるエンドエフェクタである。エンドエフェクタ5とエンドエフェクタ6は、作業内容に応じて人手を介さず自律的に交換される。なお、コントローラ1と視覚モジュール2や関節モジュール3等を含むロボット本体とは、配線7により接続される。配線7を介してコントローラ1と各モジュールとの間の信号の伝送が行われる。」

「【0020】
図2は本実施形態のロボットシステムの接続形態例を表す構成図である。本ロボットシステムは、親局10と子局A20?子局E60を有する通信システムである。親局10はコントローラ1に含まれるものとする。また、子局A20は視覚モジュール2に、子局B30は関節モジュール3に、子局C40は関節モジュール4に、子局D50はエンドエフェクタ5に、そして子局E60はエンドエフェクタ6に、それぞれ含まれるものとする。
【0021】
親局10は下位局接続コネクタ11を有し、最上位の子局となる子局A20の上位局接続コネクタ21と接続される。子局A20?子局D50は、それぞれ、上位局と接続するための上位局接続コネクタ21?上位局接続コネクタ51を有する。同様に、子局A20?子局D50は、下位局と接続するための下位局接続コネクタ22?下位局接続コネクタ52を有する。以上のように、親局10と子局A20?子局D50はデイジーチェーン接続されてシステムが構成される。また、データは各子局がデータ中継を行うことで伝送される。子局A20?子局E60には、それぞれモータ23?モータ63、センサ24?センサ64が接続されている。なお、本実施形態では、子局D50及び子局E60も下位局接続コネクタ52及び下位局接続コネクタ62を有する例を示しているが、接続される下位局が存在しない場合は、これらはなくてもよい。」

「【0022】
本実施形態では、視覚モジュール2はモータ23、センサ24を有する。ここでモータ23は例えばオープンループ方式で制御されるステッピングモータであり、センサ24はCCDカメラのような外部環境を撮影により取得するセンサである。子局A20は、センサ24が検出した外部環境情報(撮影画像等)を、サンプリング周期毎にAD変換や圧縮処理などの検出用情報処理と変調処理を施した後に、検出信号として親局10へ送信する。モータ23は、センサ24の撮影角度調整を行うために設けられている。子局A20は、親局10から駆動制御信号を受信すると、パルス電圧に変換する駆動準備を実行し、駆動信号をモータ23へ出力する。
【0023】
また、本実施形態では、関節モジュール3はモータ33及びセンサ34を、関節モジュール4はモータ43及びセンサ44を有する。ここでモータ33及びモータ43は例えばクローズループ方式で制御されるサーボモータであり、センサ34及びセンサ44はロータリーエンコーダといった角度検出を行うセンサである。子局B30は、親局10から送信される目標角度情報を含む駆動制御信号とセンサ34が検出した角度情報とを用いて駆動準備を実行し、駆動信号を生成する。そして、子局B30は、生成した駆動信号をモータ33へ出力する。また、子局B30は、センサ34が検出した外部環境情報を、サンプリング周期毎にAD変換などの検出用情報処理と変調処理を施し、親局10へ送信する。子局C40も子局B30と同様の動作を実施する。
【0024】
さらに、本実施形態では、エンドエフェクタ5はモータ53及びセンサ54を、エンドエフェクタ6はモータ63及びセンサ64を有する。ここでモータ53は例えばオープンループ方式で制御されるステッピングモータであり、モータ63は例えばクローズループ方式で制御されるサーボモータである。またセンサ54、センサ64は力覚センサのようなトルクを検出するセンサである。子局D50は、センサ54が検出した力覚などの外部環境情報を、サンプリング周期毎にAD変換などの検出用情報処理と変調処理を施し、検出信号として親局10へ送信する。モータ53は、加工対象物8の把持や加工を行うハンドを駆動するために設けられる。子局D50は、親局10から駆動制御信号を受信すると、パルス電圧に変換する駆動準備を実行し、駆動信号としてモータ53へ出力する。子局E60も同様の動作を実施する。
【0025】
また親局10は、子局A20?子局E60から検出信号を受信すると、当該検出信号に含まれる画像情報、角度情報、力覚情報などの外部環境情報を取得し、当該情報に基づいて各モータの駆動制御信号を生成する。生成された駆動制御信号は各子局へ送信される。
【0026】
以上に示すようにサンプリング周期毎にフィードバック制御を実施することで、所定の動作を実現する。」

(イ)上記記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 引用文献1に記載された技術は、ロボットシステムに関するものであり(【0019】)、ロボットは、2つの関節モジュール3,4で繋がったロボットアームの先端にエンドエフェクタ5または6が交換可能に取り付けられ、加工作業中のエンドエフェクタの様子など、外部環境を撮影する視覚モジュール2を備え、コントローラ1によって動作制御するものである。また、コントローラ1とロボット本体とは、配線7により接続されている。
b ロボットを構成する関節モジュール(3、4)を子局(B30、C40)とし、エンドエフェクタ(5、6)を子局(D50、E60)とし、視覚モジュール2を子局A20とし、コントローラ1を親局10とすると、これら各々は、図2に示すように接続コネクタを介したデイジーチェーン接続されてシステムが構成される(【0020】-【0021】)。
c ロボットシステムの実施形態として、関節モジュール3、4はいずれもモータ33、43と、角度検出を行うセンサ34、44とを有する(【0023】)。
センサ34が検出した情報は、AD変換などの検出用情報処理がなされ、親局10であるコントローラ1(【0020】)に送信される。
d 親局10は、子局A20?子局E60とされる、関節モジュール3,4や、エンドエフェクタ5,6から検出信号を受信すると、当該検出信号に含まれる角度情報、力覚情報などの外部環境情報を取得し、当該情報に基づいて各モータの駆動制御信号を生成する(【0025】)。

(ウ)上記(ア)、(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ロボットアームと、
前記ロボットアームを駆動するモータ33、43と、
外部環境情報を取得する複数のセンサであって、角度検出を行うセンサ34、44と、
前記モータ33、43の駆動を制御する親局10のコントローラ1と、
前記センサ34、44の信号は、関節モジュール3、4である子局B30、C40にてAD変換され、前記コントローラ1に送信され、
親局10と子局B30と子局C40とは、コネクタを介して配線によりデイジーチェーン接続されている、ロボットシステム。」

イ 引用文献2
(ア)同じく原査定に引用され、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2012-35361号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。
「【0009】
〔適用例1〕本適用例によるロボット装置は、アクチュエーター、前記アクチュエーターのトルクが所定の減速比で伝達されるトルク伝達機構及び前記アクチュエーターの回転角度を検出する角度センサー、を含むアーム連結装置と、複数のアームが、前記アーム連結装置により直列且つ回転可能に連結されたアーム体と、前記アーム体の一方の端部に設けられた前記アクチュエーター、前記アクチュエーターのトルクが所定の減速比で伝達されるトルク伝達機構及び前記アクチュエーターの回転角度を検出する角度センサーを含む基体連結装置により前記アーム体が回転可能に連結された基体と、前記アームに取り付けられた、少なくとも角速度センサーを含む、慣性センサーと、前記角度センサーの回転角度検出データより、前記角度センサーを備える前記アクチュエーターによって動作する前記アームの角速度を演算する第1演算部と、前記第1演算部の演算対象の前記アクチュエーターを含む前記連結装置を介して連結される前記アームに備える前記慣性センサーの角速度検出データより、前記連結装置を軸とする前記アクチュエーターにより作動する前記アームの角速度を演算する第2演算部と、前記アクチュエーターによって動作する前記アームの前記角速度及び前記慣性センサーの前記角速度検出データによって演算された前記アームの前記角速度の差に含まれる低周波成分を除去した、前記アクチュエーター及び前記アームの間のねじれ角速度を演算する第3演算部と、を備えることを特徴とする。
【0010】
上述の適用例によれば、ねじれ角速度をロボット装置の振動抑制制御の基となるデータとして用いることで、正確な制御を可能とする。」
「【0025】
(実施形態)
本発明に係る実施形態について説明する。図1は実施形態に係るロボット装置を示し、(a)は概略平面図、(b)は概略断面図である。本実施形態のロボット装置は、水平方向に回転可能に3本のアームが連結された、いわゆる3軸水平多関節ロボット100(以下、ロボット装置100という)である。
【0026】
ロボット装置100は、第1アーム11と第2アーム12とが第1アーム連結装置21、第2アーム12と第3アーム13とが第2アーム連結装置22によって回転可能に直列的に連結されて構成されるアーム体10を備えている。アーム体10は、更に基体連結装置30により、基盤に固定された基体40と回転可能に連結され、ロボット装置100を構成している。
【0027】
第1アーム連結装置21は、アクチュエーター51と、アクチュエーター51のトルクを所定の減速比で伝達するトルク伝達装置61と、を含み、第2アーム連結装置22も同様にアクチュエーター52とトルク伝達装置62と、を含む。また、基体連結装置30は、アクチュエーター53と、アクチュエーター53のトルクを所定の減速比で伝達するトルク伝達装置63と、を含む。アーム体10の基体40とは反対の端部となる第3アーム13の端部には加工用ツールもしくは被加工物を保持するワーク保持装置70が備えられている。
【0028】
第1アーム連結装置21に含まれるアクチュエーター51には回転角度を検出する角度センサー81が備えられ、同様に第2アーム連結装置にはアクチュエーター52に角度センサー82が備えられている。また、基体連結装置30にも、アクチュエーター53に角度センサー83が備えられている。更に、第1アーム11には慣性センサー91、第2アーム12には慣性センサー92、第3アーム13には慣性センサー93が備えられている。慣性センサー91、92、93は、少なくとも角速度センサーを含み、慣性センサー91は第1アーム11の、慣性センサー92は第2アーム12の、慣性センサー93は第3アーム13の各慣性センサー取り付け位置での角速度を検出可能としている。
【0029】
図2は、本実施形態に係るロボット装置100の構成を示すブロック図である。CPU200は、後述する第1演算部510、第2演算部520、第3演算部530、第4演算部540および制御部600を含み、ROM300に記憶されたプログラムを読み出して実行する。また、RAM400はCPU200におけるプログラム実行によって得られるデータを保存し、CPU200へ保存されたデータから必要なデータを送出する。
【0030】
ロボット装置100に備える角度センサー81、82、83によって検出されたアクチュエーター51、52、53の回転角度データは、第1演算部510においてアクチュエーター51の回転角度θ1、アクチュエーター52の回転角度θ2、アクチュエーター53の回転角度θ3、に換算され、換算されたそれぞれの回転角度θ1、θ2、θ3を時間で1回微分し、アクチュエーターの回転角速度を演算する。
【0031】
得られたアクチュエーターの回転角速度から、アクチュエーターが駆動するアームの回転角速度を求める。第1アーム11の場合は、アクチュエーター53から減速比1/N3を持つトルク伝達装置63によって駆動されるため、基体連結装置30の出力部の回転角速度ω3は、
ω3=(dθ3/dt)×(1/N3)
となる。
【0032】
同様に、第2アーム12を駆動するアクチュエーター51を含む第1アーム連結装置21の出力部の回転角速度ω1は、
ω1=(dθ1/dt)×(1/N1)
N1:トルク伝達装置61の減速比
となり、第3アーム13を駆動するアクチュエーター52を含む第2アーム連結装置22の出力部の回転角速度ω2は、
ω2=(dθ2/dt)×(1/N2)
N2:トルク伝達装置62の減速比
となる。
【0033】
第2演算部520では、第1アーム11、第2アーム12、第3アーム13に備えられた慣性センサー91、92、93が検出したデータから、第1アーム11の角速度、第2アームの角速度、第3アームの角速度を演算する。検出データから演算される角速度は、基体連結装置30を回転軸とする角速度である。従って、第2アーム12の場合には第1アーム連結装置21、第3アーム13の場合には第2アーム連結装置22を回転軸としたアームの角速度は、得られた角速度から更に演算する。
【0034】
すなわち、第2アーム12の場合には、第1アーム11に備える慣性センサー91から得られる検出データから換算される角速度ω_(a1)と、第2アームに備える慣性センサー92の検出データから換算される角速度ω_(a2)から、第2アーム12の第1アーム連結装置21を回転軸とする角速度ω_(j2)は、
ω_(j2)=ω_(a2)-ω_(a1)
と求められる。
【0035】
同様に、第3アーム13の場合には、第2アーム12に備える慣性センサー92から得られる検出データから換算される角速度ω_(a2)と、第3アームに備える慣性センサー93の検出データから換算される角速度ω_(a3)から、第3アーム13の第2アーム連結装置22を回転軸とする角速度ω_(j3)は、
ω_(j3)=ω_(a3)-ω_(a2)
と求められる。
【0036】
第1アーム11の場合、第1アーム11は基体40に備える基体連結装置30を中心に回動するため、慣性センサー91から得られた角速度ω_(a1)が、第1アーム11の角速度となる。
【0037】
第3演算部530では、上記のように演算されたアクチュエーターの回転によるアクチュエーターを含む連結装置を回転軸とする第2アーム12の角速度ω_(1)、第3アームの角速度ω_(2)、第1アーム11の角速度ω_(3)と、各アームに取り付けられた慣性センサーから得られた連結装置を回転軸とする第2アームの角速度ω_(j2)、第3アームの角速度ω_(j3)、第1アームの角速度ω_(a1)との差であるねじれ角速度を演算する。
【0038】
すなわち、基体連結装置30と第1アーム11とのねじれ角速度ω_(t1)は、
ω_(t1)=ω_(a1)-ω1
と求められる。同様に、第1アーム連結装置21と第2アーム12とのねじれ角速度ω_(t2)は、
ω_(t2)=ω_(J2)-ω2
と求められ、第2アーム連結装置22と第3アーム13とのねじれ角速度ω_(t3)は、
ω_(t3)=ω_(J3)-ω3
と求められる。
【0039】
図3はロボット装置100におけるアクチュエーターのトルクに対する、アクチュエーターからトルク伝達装置を介してアームを駆動する角速度Ω_(act)と、慣性センサーにより得られるアームの角速度Ω_(arm)と、ねじれ角速度Ω_(tor)の応答を説明するボード線図である。図3に示すように、Ω_(act)、Ω_(arm)においては、低周波成分に本来の動作成分も含まれるが、Ω_(tor)には実際の動作成分がほとんど低周波成分には含まれない。この点に着眼し、本発明はねじれ角速度Ω_(tor)の低周波成分をセンサーのバイアスドリフト等による誤差による影響分とみなし、除去することでロボット装置100の低周波ノイズを除去し、ロボット装置100の振動を正確に制御することを可能とするものである。」

(イ)上記記載から、引用文献2には、次の技術が記載されていると認められる。
「水平方向に回転可能に3本のアームが連結された、3軸水平多関節ロボット100の第1アーム11、第2アーム12、及び第3アーム13に少なくとも角速度センサを含む慣性センサー91?93を備えさせ、該慣性センサーが検出したデータをCPU200へ送り、該CPU200は連結されたアーム間の角速度ω_(j2),_(j3)を、慣性センサー92と91との差、同じく慣性センサー93と92との差を演算することにより得て、第1アーム11の角速度ω_(a1)を慣性センサー91から得て、3本のアーム角速度ω_(j2),_(j3、a1)を用いてCPU200がロボット100の制震制御を行う技術。」

(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。(下線は、当審で付した。)
(ア)引用発明は、関節を有するロボットアームやセンサ、コントローラを互いにデイジーチェーン接続して構成したロボットシステムに係る技術であり、本件補正発明と、技術分野が共通する。
(イ)引用発明の「ロボットアーム」、「前記ロボットアームを駆動するモータ33、43」、「前記モータ33、43の駆動を制御する親局10のコントローラ1」、「ロボットシステム」は、各々本件補正発明の「ロボットアーム」、「前記ロボットアームを駆動する駆動部」、「前記駆動部の駆動を制御する」とした「駆動制御部」、「ロボット」に相当する。
(ウ)引用発明の「関節モジュール3、4である子局B30、C40」にある「センサ34、43」は、検出変量を除く限りにおいて、本件補正発明の「複数の検出部」と一致する。
(エ)引用発明の「親局10と子局B30と子局C40とは、コネクタを介して配線によりデイジーチェーン接続されている」は、本件補正発明の「前記複数の検出部及び前記駆動制御部を直列的に接続する配線部」に相当する。
(オ)引用発明の「前記センサ34、43の信号は、関節モジュール3、4である子局B30、C40にてAD変換され」は、関節モジュール内でAD変換されることから見て、関節モジュール内にAD変換部を備えることが明らかであるから、本件補正発明の「出力される信号をアナログ値からデジタル値に変換するアナログ/デジタル変換部」に相当する。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「ロボットアームと、
前記ロボットアームを駆動する駆動部と、
複数の検出部と、
前記駆動部の駆動を制御する駆動制御部と、
前記複数の検出部及び前記駆動制御部を直列的に接続する配線部と、
前記検出部から出力される信号をアナログ値からデジタル値に変換するアナログ/デジタル変換部と、を備えるロボット。」

【相違点1】
「検出部」について、本件補正発明は、「少なくとも1つが、前記アームの角速度、加速度、または角加速度を検出する慣性センサーである」のに対し、引用発明は、「角度検出を行うセンサ34、43」である点。
【相違点2】
「駆動制御部」が行う制御について、本件補正発明では「前記駆動部の駆動を制御する」ことに加えて、「前記慣性センサーの出力に基づいて前記アームの制振制御を行う」としているのに対して、引用発明は「前記駆動部の駆動を制御する」相当の制御を行うに留まる点。
【相違点3】
本件補正発明では、「前記慣性センサーと前記アナログ/デジタル変換部とは、同一の基板上に配置されている」ことを特定しているのに対して、引用発明はセンサとAD変換を行うものがある子局とが同一の基板上に配置されているかどうかは不明な点。

(4)判断
以下、相違点について検討する。
ア 相違点1及び2について
アームを有するロボットの制御として、ロボットアーム駆動制御に加えて、ロボットのアームに慣性センサーを備えること、及び、備えられた慣性センサーの出力信号に基づいて制震制御を付加的に行うとしたことは、上記(2)イのとおり、ロボットの分野における当業者にとり公知の技術にすぎない。
そうすると、引用発明のロボットシステムにおけるコントローラ1が行う制御の態様として、引用文献2に記載された、ロボットに慣性センサーを備えて当該センサーの出力に基づいて制震制御を付加的に行うようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点3について
本件補正発明の慣性センサーについて、本件出願前に該センサーがAD変換器搭載済みの基板上に併せて実装搭載できるチップサイズの態様をとることが、当業者には周知の技術である(要すれば、後述する「第3 本願発明について」の2に拒絶の理由で引用した引用文献4:特開2005-114443号公報の【0016】-【0019】、同じく引用文献5:特開平10-332446号公報の【0021】、引用文献6:特開2000-305959号公報の【0163】-【0167】及び図16、引用文献7:特開2008-64528号公報の【0090】や、特許第3119542号公報の図1や、特開2007-43134号公報の図6及び【0100】を参照。)。
本件明細書の【0033】によると、中継基板21と角速度センサー20とをモジュール化することによりアナログ信号が伝送される配線を短くでき、ノイズの影響を低減できるとしているが、上述の周知技術も同じ構造上の特徴を有する限り同じ作用効果を奏することを期待できるのであるから、周知技術の採用に伴い同一の作用効果が奏され、なんら新規で特別の作用効果ではない。

ウ そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用文献2に記載された技術並びに周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

エ したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成29年12月27日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、出願当初の特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1ないし8に係る発明は、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2ないし7に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2013-84111号公報
引用文献2:特開2004-88208号公報
引用文献3:特開2012-35361号公報
引用文献4:特開2005-114443号公報
引用文献5:特開平10-332446号公報
引用文献6:特開2000-305959号公報
引用文献7:特開2008-64528号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及び3の記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「慣性センサー」に係る限定事項である「前記アームの角速度、加速度、または角加速度を検出する」と、「駆動制御部」に係る限定事項である「するとともに、前記慣性センサーの出力に基づいて前記アームの制振制御を行う」とを削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明及び引用文献2に記載された技術並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献2に記載された技術並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、請求人は審判請求書にて、ひずみセンサーや加速度センサーが検出した情報を、A/D変換して送信するに過ぎない引用文献4,6に記載された発明とは異なること、本願発明では可動部分に慣性センサー等が搭載されることから、ノイズの発生原因として、アームの動作に伴うノイズも考えられ、慣性センサーとアナログ/デジタル変換部とを同一基板に配置することにより、かかるノイズを抑制することが可能になること、等を主張しているが、そもそも引用発明も引用文献2に記載の公知技術もともにロボットを対象としている以上、引用発明を当該公知技術に倣って慣性センサーを設けようとすれば、可動部分のアームに配置することになるのが自然であるから、ノイズの抑制が果たされる点で予期せぬ作用効果が本願に限って起こるとは考えられず、その上、公知技術の適用に伴い、慣性センサーの採用として周知の態様の中から選択して用いることになるところ、センサーとAD変換部が1チップとなったものが知られている以上、そのようなチップを用いることに困難性はない。そして、1チップとされているものは、拒絶の理由に引用された引用文献4では図1、引用文献6では図16に示されているように、文言上、基板と言えるものであって、本願の補正後の発明特定事項をも満足する記載といえる。
請求人の主張は、センサーとアナログ/デジタル変換部とが別のチップであって、それを一つの基板上に配置することとも考えられるが、全体を1チップとする技術が知られているところ、わざわざ、別のチップとされているものを選択して、それらを一つの基板上に配置することに格別の意味があると認める根拠が見いだせない。
そうすると、請求人のいずれの主張も、採用の限りではない。
また、上申書にて、前置審査を行った原審審査官が周知技術を示すものとして示した上記「2 原査定の拒絶の理由」の引用文献4-7が、ロボットに関するものとされていない点を指摘し、また、「ロボットアーム」を「第1のロボットアーム」及び「第2のロボットアーム」へと変更する、審判請求と同時にした手続補正による請求項4に関する、複数(2体)のロボットの発明へと変更する趣旨の補正案の準備があると述べている。
当審合議体はこれら上申内容を検討したものの、本件出願前に慣性センサーを利用した機器がロボット以外に限らず様々存在するうえ、ロボットに慣性センサーを用いるとした事例も、現に引用文献2に示したとおり公知である以上、たとえ引用文献4-7に記載の技術がロボットを対象とするように記載されていなかったとしても当該技術が周知とされない事態は起こりようがなく、また、ロボット1体の構成が容易想到であるなら、2体のロボットを同様に処すことに格別な困難性は考えにくく、上申書で示した補正案全体を見ても、2体のロボット以外の新たな特定事項、例えば、力覚センサーを備えることや、慣性センサーが3方向の角速度を検出することは、いずれもロボットの公知の態様(引用文献1にも力覚センサー相当の「センサ64」の記載がある。また、慣性センサーはそもそも3方向の変位出力を常套とすることが自明である。)の範囲内にすぎず、上記第2の「2 補正の適否」で示した検討に、係る補正案にて示した発明特定事項を加味したとしても上述の結論を左右するものでもない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-12-19 
結審通知日 2018-12-25 
審決日 2019-01-09 
出願番号 特願2013-229061(P2013-229061)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B25J)
P 1 8・ 575- Z (B25J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 永冨 宏之  
特許庁審判長 平岩 正一
特許庁審判官 齋藤 健児
西村 泰英
発明の名称 ロボット、制御装置及びロボットシステム  
代理人 仲井 智至  
代理人 渡辺 和昭  

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