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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1349388
審判番号 不服2017-15167  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-10-11 
確定日 2019-02-27 
事件の表示 特願2014-537787「血液または他の媒質からの粒子の濾過」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月 2日国際公開、WO2013/061257、平成26年12月18日国内公表、特表2014-534436〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年(平成24年)10月24日(パリ条約による優先権主張 2011年10月25日 米国、2011年11月10日 欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成28年7月13日付けで拒絶理由が通知され、同年10月13日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年12月1日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成29年5月29日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年6月13日付けで、同年5月29日付けの手続補正書でした補正についての補正の却下の決定がなされ、同日付けで拒絶査定されたところ、同年10月11日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成29年10月11日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成29年10月11日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の請求項1
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である)。

「 少なくとも1つの開口を通して流れ方向に流れる媒質の成分を保持するためのフィルタ・エレメントであって、
前記開口が、
- 前記媒質の流路におけるボトルネックであり、
- 流れ方向における前記開口の長さの延びに沿って縮小する、前記流れ方向に対して垂直に測定される細長い横断面を有し、
- 前記開口のスケーリングは、細胞が損傷する可能性がある圧力降下に基づいて求められ、
- 透明な壁によって境界が作られるフィルタ・エレメント。」

(2)本件補正前の請求項1
本件補正前の、平成28年10月13日にされた手続補正による特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

「 少なくとも1つの開口を通して流れ方向に流れる媒質の成分を保持するためのフィルタ・エレメントであって、
前記開口が、
- 前記媒質の流路におけるボトルネックであり、
- 流れ方向における前記開口の長さの延びに沿って縮小する、前記流れ方向に対して垂直に測定される細長い横断面を有し、
- 透明な壁によって境界が作られるフィルタ・エレメント。」

2 本件補正の適否
(1)上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「開口」について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(2)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(3)本件補正発明の明確性について
本件補正発明は、「前記開口のスケーリングは、細胞が損傷する可能性がある圧力降下に基づいて求められ」るものである。
まず、「細胞が損傷する可能性がある圧力降下に基づいて求められ」は、「開口のスケーリング」を設計する方法を特定するものであり、この記載自体により、「前記開口のスケーリング」の具体的な数値を特定できるものではない。
そこで、当該事項に関連して、本願明細書の発明の詳細な説明には、次のような記載がある。

(本a)「【0073】
異なる診断用途に対してフィルタ・エレメントの寸法を調整することができる。例えば小細胞肺癌では、CTCが非常に大きいことが知られている。細胞サイズの差がそれよりも小さい他の用途については、ギャップの高さの間隔をより小さくする必要がある。理想的なギャップの高さは、診断用途に使用する前に実験によって決定することができる。最小シナリオでは、免疫捕捉後に、細胞をさらに特異的に分離することなしに、捕捉された細胞から遊離の磁性ビーズを分離するため、ならびに染色を用いた同定および病理学的調査のための単層を形成するためだけに、フィルタが使用されることになる。
【0074】
設計のスケーリングに関して、考慮すべき第1のパラメータは、流量に対する流動抵抗である。流量は、試料の体積および所望の分析時間から導き出される。ギャップ内では、圧力降下Δpvが下式のようにスケーリングされる(下式で、ηは媒質の粘度、Vは媒質の速度である)。
【0075】
【数1】


【0076】
高さ(h)をできるだけ大きく保ちたいところだが、高さ(h)は、捕捉する必要がある細胞のサイズによって与えられる。そのため、試みることができるのは、長さLをできるだけ小さくすること、および同様に幅をできるだけ広くすることだけである。幅は上式に含まれていないが、これは上式が、無限に広いチャネルに対して有効であるためである。体積流量QはV・Aであり、Aはチャネルの断面積(=b・h)である。
【0077】
全幅b=10mmのチャネルの中を16分間に10mlが通過する体積流量Q(Q=10μl/秒)では、ギャップ内の剪断速度が10^(4)秒^(-1)、圧力降下が10^(7)Pa/mになる。これによって細胞が損傷する危険性が生じる。したがって、チャネルの幅をさらに広くすることが好ましい。これは、横方向の流れを有する図1に示されているような複数のチャネルを形成することによって達成される。このようにすると、顕微鏡スライドの表面においてn×1cmのチャネル幅を実現することができる。nは、10から最大数百とすることができ、それに比例して流量および圧力降下は低下する。
【0078】
大きな圧力勾配による細胞の損傷は、従来のフィルタの懸念事項である。本発明は、ギャップが完全に塞がるまで流体の連続性が常に保存されるようにギャップを設ける。
【0079】
従来のフィルタでは、捕捉された細胞が細孔を完全に封鎖し、そのため、細孔の内側の圧力が、その細孔の上の圧力よりも低くなる(この圧力差は、依然として開いている近隣の細孔内の流れによる圧力降下に起因する)。全ての細孔が充填された後、この圧力降下は入口に加わる圧力に等しくなる。この圧力差は、細胞膜がフィルタの細孔と接する非常に小さな領域で生じる。この局所的な勾配が細胞膜を破裂させることがある。
【0080】
提案のフィルタ・システムでは、細長い開口が細胞によって封鎖されず、そのため、圧力降下は緩やかなままであり、細胞膜にわたって連続的である。この圧力降下は、流れにより、より幅の広いチャネル内の圧力降下に等しい。」

これらの記載から、「圧力降下」は、細胞のサイズで与えられる「高さ(h)」、「媒質の粘度(η)」、「長さ(L)」、「体積流量(Q)」により異なってくるものである。また、「細胞が損傷する可能性がある圧力降下」が、細胞の種類により異なることは明らかである。
すると、これらの条件について何ら特定されていない本件補正発明では、「細胞が損傷する可能性がある圧力降下に基づいて求められた開口のスケーリング」が具体的にどの程度の数値になるのかを特定することができない。 したがって、本件補正発明は明確でない。
よって、本件補正後の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)本件補正発明の新規性について
ア 引用文献1の記載事項、引用発明
原査定で引用された引用文献1(特表2011-519553号公報)には、次の事項が記載されている。(下線については、当審で付した。以下同様。)

(引1a)「【0007】
本明細書に開示される本発明は細胞などの粒子を分離する装置に関するものである。前記装置は、本体、カバー、分離素子を含む。前記本体及びカバーは、を画定するものである。前記分離素子は、前記の内側に含まれる。前記は流体入口領域、及び流体出口領域を有するものである。前記分離素子は、前記空所内の前記入口領域、及び出口領域を流体接続する階段状通路を画定する形状を有する。前記分離素子は、第1の段と第2の段を含み、それぞれの段が前記階段状通路へと延出しているものである。前記第2の段が境界を定める経路は、前記第1の段が境界を定める経路よりも寸法が狭くなっている。粒子を含む流体が前記入口領域に存在する場合、流体は前記入口領域から前記第1の経路を通り、そして前記第2の経路を通って前記出口領域へと流動する。もし前記粒子の大きさがそれぞ
れの経路の狭寸法を超えないような場合、若しくは前記粒子が十分に変形可能であって、変形後の形状の粒子がそれぞれの経路を通ることができるような場合は、前記流体中に懸濁する粒子が、前記第1の経路及び第2の経路を通過することが可能となる。ある一定の粒子のみが経路を通過することが可能となるよう、第2の経路の狭寸法を選択することによって粒子を分離することができる。前記第1の経路の狭寸法は、前記流体中の粒子が前記第1の経路を独立的に通過することができるような幅が選択され、また一方で、もし2つの粒子が前記第1の経路の狭寸法全体に積み重なるような場合には、2つの粒子が同時に前記第1の経路を通過することができないような幅が選択される。」

(引1a)「【0013】
ここに開示される発明は、粒子が経路を通過する能力に基づき粒子を分離する装置に関する。粒子(例えば、液体中またはガス状の流体中に懸濁する粒子、もしくは真空中の粒子)は、前記装置内の分離素子によって画定される階段状通路中を移動する。前記階段状通路は、少なくとも2つの経路を含むものであり、それぞれの経路は狭寸法を有し、連続して流体接続されるものである。流体中の大半または全ての粒子は、前記第1の経路の中を移動可能であるが、前記粒子のうちいくつかだけが前記第2の経路を移動することができる。その結果、一部の粒子が階段状通路の全てを移動し、反面残りの粒子は前記装置内、例えば前記第1の経路中、に留まることとなり、粒子の分離がなされる。粒子の移動は、例えば、流体流動、重力、振動、またはこれらの如何なる組合せによって刺激される。」

(引1b)「【0018】
経路の「狭寸法」とは、前記分離素子の段の広い部分と、そこに(通常は平衡に)向かい合う、前記装置の表面(すなわち、前記カバー部または本体の前記空所に面している側の表面のこと)との間の距離を表す。例えば、経路中の流体流動の方向の大半に対して垂直であるような平面からみたところ、矩形状の断面を有するような経路の場合、当該経路の狭寸法とは、前記段の平坦な表面と、そこから前記装置の向かいあった側面の平坦な表面とのそれぞれに直角でその間に延出している線の長さとなる。更に一例として、図1Bの経路51および52のそれぞれの「狭寸法」とは、前記段表面31および32のそれぞれと、カバー12の最も近い表面部との間の最短距離のことである。」

(引1c)「【0020】
詳細な説明
ここに開示される発明は、粒子を分離する装置に関するものであり少なくとも2つの経路(第2の経路52(下流)が第1の経路51(上流)よりも狭いもの)内を、粒子が通過する能力に基づくものである。前記装置は、本体10およびカバー12によって形成される空所11の中に配置される、分離素子14を具備する。前記空所11内で、前記分離素子14が前記空所の出口領域17から前記空所の入口領域15を分離している。前記入口および出口領域は、前記分離素子14と、前記本体10およびカバー12のうちの1つかまたは両方によって画定される階段状通路を使うことよって流体のやり取りを行うものである。前記分離素子に形成された段は前記第1および第2の経路を画定する。前記装置は、選択的に、前記空所11の前記入口領域15と流体的なやり取りを行う入口ポート16、および前記空所11の前記出口領域17と流体的なやり取りを行う出口ポート18を有し、前記入口領域および前記出口領域へ流体を供給したり採取することを促進するものである。
【0021】
作業においては、前記入口領域15の粒子は前記第1の経路51および、もしそれが可能であれば、前記第2の経路52へと通過する。前記第2の経路52の粒子は、前記出口領域17へと通過する。前記第2の経路52へと通過し、経路に沿って流れることができない細胞は前記出口領域17に到達することができない。この方法では、前記出口領域17に到達可能な粒子が、前記出口領域17に到達不可である粒子から分離される。前記2つの粒子の集団は、前記装置から個別に回収することができる。例えば、前記出口領域17の粒子は、前記出口領域17から採取された液体の流れとして回収することができる。(すなわち、出口ポートを使うか、または前記出口領域17へと挿入されたカテーテルを使う方法である。前記第2の経路52を前記出口領域17へと通過することができなかった粒子は、前記第1の経路51から前記入口領域15といった逆方向へと流し出すことによって回収できる。このような粒子は、前記入口領域15から採取される。あるいは、前記第2の経路52を前記出口領域17へと通過できなかった粒子を前記装置中に残すことも可能であり、前記装置を分解し回収することができる。前記第1の経路51または前記第2の経路52の何れにも入ることができなかった粒子は、前記入口領域15から回収することができる。」

(引1d)「【0024】
本体およびカバー
当該装置は本体10およびカバー12を有し、これらの間に空所11を画定するものである。前記空所11の一部は、分離素子14によって部分的に画定され階段状通路である。また、前記階段状通路は、前記分離素子14の階段状表面31および32と向かい合う前記本体10の表面、前記カバー12の表面、またはこれらの組合せによってもまた画定される(すなわち、前記本体10および/またはカバー12の階段状通路を画定している表面は、前記分離素子14の階段状通路を画定している表面と、これらの表面同志がその間に(例えば前記階段状通路のような)延出する内腔部を形成するような状態で接している。前記装置の構造を単純化するには、階段状通路を画定しているほとんど、もしくはその全ての表面が、分離素子14を形成するか、機械的に加工されているのがよい。分離素子14は、前記カバー12若しくは前記本体10の凹部に形成される一体的なものであって、前記凹部部分は平坦な表面に囲われているため、前記本体10または前記カバー12の向かい合う表面が、前記本体10およびカバー12の前記平らな表面の間に接触し階段状通路を形成するためには、もう1つの平らな表面しか必要としないものである。
【0025】
前記分離素子14は、好ましくは、前記本体10およびカバー12のうち1つと(その一部として形成されるか機械加工されるかして)一体的であるものである。本実施形態において、前記装置の動作部分は基本的に2つの箇所からなる。カバー12および分離素子14をその一部として有する本体10か、本体10および分離素子14をその一部として有するカバー12の何れかである。前記本体10か、カバー12のどちらが前記分離素子14を有するのかは重要ではない。それはなぜなら、前記本体10およびカバー12は、空所11の壁を形成し、前記分離素子14が配置される前記空所11を画定しているからである。好ましくは、前記分離素子14を支えていない部分の前記部品は、単に平坦な面であり、前記分離素子14を支えている前記部品の平坦な端と嵌合するものである。面の内側に前記空所11を有し、したがってこれら2つの部品を組み立てると、前記空所11は、前記平坦な面の嵌合によってシールされることになり、前記分離素子14はシールされた前記空所11の中に配置されるものである。本実施形態において、前記部品のうち1つは、前記空所11および、その内側に形成されるかまたは機械加工された前記分離素子14の両方を有するものであり、または、その代わりに、内側に形成されるか機械加工された前記空所11を有し、前記空所内に設置され、組立てられ、形成され、または接着された前記分離素子14を有するものである。
【0026】
前記本体10およびカバー12の形状について、前記本体10および/またはカバー12の前記階段状通路を前記空所11内に画定する部分と、前記本体10およびカバー12の前記空所11をシールし嵌合する部分を除いては、これらの形状は重要ではない。前記本体10および/または前記カバー12の前記階段状通路を画定している部分に関する必要条件は、本明細書の前記階段状通路に関する部分で述べられている。前記本体10および前記カバー12のうち、前記空所11をシールし嵌合している部分について、当該装置が組立てられた際に、前記本体10および前記カバー12の両方によって境界が定められる開口部(例えば、入口ポートや出口ポート)が割り当てられていれば、前記空所11がシールされること以外に特定の形状や場所に関する必要条件は存在しない。シールは、前記本体10と前記カバー12の関係箇所の間をじかに接触させることによって達成される。もしくは、またはそれに加えて、接着剤、油脂、ガスケット材、ろうなどのシーリング材を前記本体10および前記カバー12の表面に適用してもよい。前記シールは、作業中に当該装置内で発生すると予想される内部圧力に耐えうるものでなければならない。例えば多くの実施形態では、内部流体圧力は25ポンド毎平方インチ(ゲージ)(psig)を超えることはまれであり、当該圧力において流体のリークを防ぐのに有効なシールであれば事足りる。当該装置を使用して生体細胞を分離する実施形態における、一層典型的な作業気圧は、>0?15psigの範囲内であると予想される。いくつかの実施形態では
、前記装置は、負圧(例えば真空)を出口領域へ適用することによって作業され、これらの実施形態では前記シールは当該装置の外側から前記空所内への空気や液体の通路を防ぐものであるべきである(もちろん、前記入口領域経由の他にである)。
【0027】
前記本体10およびカバー12の残りの部分の大きさと形状は重要ではなく、例えば、当該装置の製造、取扱い、または動作を促進するように選択可能となっている。一例として、装置は実質的に平坦なカバー12(すなわち、顕微鏡のスライドガラスのようなカバースリップ)を有するので、前記本体10は、その中に形成または機械加工された前記空所11および分離素子14を有し、前記空所11の外側の前記本体10の部分は、前記本体10を枠の中やホルダーといった決まった形状に固定するよう調整が効くように形成または機械加工してもよい。したがって、例えば、前記本体10のその中やその上に、フランジ、取っ手、ねじ穴、滑らかな穴、クランプ保持用の凹みや刻み目、またはその他の機能を形成、適用、または機械加工してもよい。それらの機能は、当該装置を動作させるデバイスにおける前記本体10の再現性のある方向性を促進する。または、前記本体10内に前記空所11および前記分離素子14のうち1つまたはその両方を機械加工するデバイスにおける前記本体10の再現性のある方向性を促進する。
【0028】
前記本体10、前記カバー12、またはその両方は、ポートを画定し、ポートを通って流体が前記空所11へと導入されそこから採取される。例えば、前記本体10は、入口ポート16を画定し、前記入口領域15と流体的にやり取りを行う。前記入口ポート16に導入された流体は、前記入口領域15へと流れ、そこに既に存在する流体を前記階段状通路へと移動させ(なぜなら前記空所はシールされているからである)、そこから前記第1の経路51および前記第2の経路52、そして前記出口領域17へと移動させる。これらの領域および通路のうちのの1つで流体に懸濁している粒子は、前記粒子がその地点およびその間に存在する通路を取って流れることができる場合は、下流の領域または通路へと運ばれる。同様に、前記本体10に形成された出口ポート18による前記出口領域17から流体の採取は、前記出口領域17との流体のやり取りにおける通路からと、そこでの流体のやり取りにおける通路および領域からの流体の流れを誘導する。
【0029】
ポートは、前記カバーまたは本体に延出する単純な穴でよく、もしくはポートに関連する付属品(バリ(burrs)、リング、ハブ、またはその他の接続金具)を有し、これらはデバイスから前記ポートへの流体接続を促進する。前記本体10、カバー12、またはその両方は、前記空所11の前記入口領域15内に入口ポート16を画定し、前記空所11の前記出口領域17に出口ポート18を画定し、もしくは、入口ポート16および出口ポート18の両方を画定する。流体の前記入口領域15への連続的な導入し同時に前記出口領域17から流体の採取と放出をすることは、前記装置内を通じて連続的な流体の流れを生成することができる。同様に、前記出口領域17から流体を連続的な採取し同時に前記入口領域15へと流体を流入又は導入することは、連続的な流れを生成する。
【0030】
空所
前記本体10および前記カバー12は、組立てられると、空所11を形成する。前記空所11は、入口領域15と、出口領域17と、および前記入口領域15と前記出口領域17の間に入る分離領域を有する。分離素子14は、前記分離領域内に配置され、前記本体10、前記カバー12、又はその両方と共に、階段状通路を画定する。前記階段状通路は、少なくとも第1の段51および第2の段52を有し、これらは連続して流体接続され、前記分離素子14の段によって画定されている。前記階段状通路は如何なる数の追加の段を含むことができ、そのそれぞれが前記空所内に追加された通路を画定する。
【0031】
前記デバイスの動作中は、少なくとも前記入口領域15、前記出口領域17、および前記空所11の階段状通路は流体で満たされている。好ましくは、動作中、空所11全体が流体で満たされている。1実施形態では、前記入口領域15および前記出口領域17を接続する唯一の流体の経路は前記階段状通路である。前記入口領域15に存在する粒子は、大きさ(例えば狭寸法)、又は前記第1の経路51の形状によって除外されない限り、前記階段状通路の第1の経路51に入って通過する。前記第1の経路51内に存在する粒子は、大きさ(例えば狭寸法)又は前記第2の経路52の形状によって除外されるか、もしくは、前記第1の経路51内の移動が大きさ(例えば狭寸法)又は前記第1の経路51の形状によって抑制されない限り、前記階段状通路の第2の経路52に入る。前記第2の経路52内に存在する粒子は、前記第2の経路内の粒子の移動が大きさ(例えば狭寸法)または前記第2の経路52の形状によって阻害されない限り、前記出口領域17に入る。当該装置内の粒子の移動は、前記装置内の流体の流れ、または細胞に本来備わっている運動性、もしくはその2つの組み合わせによって誘導される。時間がたつと、前記第1の経路51に入ることができない粒子は、前記入口領域15で分離され、前記第1の経路に入ることはできるが、前記第2の経路52に入ることができない粒子(または前記第1の経路51内を自由に移動できない粒子)は、前記第1の経路51で分離され、前記第2の経路52には入ることができるが、その中を自由に移動できない粒子は、前記第2の経路52で分離され、そして、前記第1の経路51および前記第2の経路52の両方を移動できる粒子(もしくは、前記出口領域17から採取されるか放出される流体内の粒子)は、前記出口領域17にて分離される。」

(引1e)「【0033】
分離素子
本体10およびカバー12によって画定される空所11に位置し、空所11の入口領域15と出口領域17との間にある分離素子14は、階段状通路の一部を画定する表面を有する装置の一部である。本体10およびカバー12の一方または両方が、階段状通路の残りの境界を画定し、これは、入口領域15と出口領域17とを流体接続する。分離素子14は、少なくとも2つの段を含む形状を有し、段は、第1の経路51および第2の経路52の各々の境界の少なくとも一方を形成する。本体10およびカバー12の一方または両方は、第1の経路51および第2の経路52の残りの境界を画定する。
【0034】
階段状通路は、装置の動作中に、粒子が移動するか、流体が流動するか、またはその両方、の場合に通るオリフィスである。分離素子14は、階段状構造物を有し、これは、階段状通路の少なくとも一方の側部の階段状形状を画定する。分離素子14は、少なくとも2つの段を有し、すなわち、第1の段61および第2の段62である。第1の段61は、階段状通路の第1の経路51の境界を画定する。第2の段62は、第2の経路52の境界を画定し、第2の経路52は、第1の経路51よりも小さい狭寸法を有する(たとえば、図2B参照)。第1および第2の経路は連続して流体接続され、第2の経路52は、装置の通常の動作中に、第1の通路51から下流にある。流体は、装置が組み立てられるときに入口領域15から出口領域17へ移動するために、階段状通路の第1および第2の経路の各々を通って流動しなければならない。
【0035】
分離素子14は、本体10およびカバー12の少なくとも一方に連結される。分離素子14は、本体10またはカバー12の表面に接着することができる。分離素子14は、その代わりに、本体10およびカバー12が組み立てられるときに、分離素子14の階段状表面(単/複)が、階段状通路の境界を形成する本体10またはカバー12の表面(単/複)とは反対にもたらせられるように、本体10またはカバー12の一方と一体的であることもできる。あるいは、分離素子14は、カバー12または本体10とは別個の部品であってもよい。本体10、カバー12および分離素子14が別個の部品である場合には、装置が組み立てられるときに、分離素子14がカバー12と本体10との間に圧縮によって適所に保持されるように、部品が寸法づけられ形状づけられることが好ましい。
【0036】
装置内(たとえば、第2の経路52内)の流圧が、流体によって接触されるすべての表面にかかり、そのような流圧は、変形しやすい材料が曲がるかまたは膨張することを誘発することができる。さらに、組み立てられた状態に固定するために装置の部品に加えられる外部圧力(たとえば、カバー12を本体10の部分に対して促す1若しくはそれ以上のクランプ)はまた、装置の1若しくはそれ以上の部品を形成する可撓性のある材料が屈曲するかまたは膨張することを誘発することもできる。分離素子14と、本体10およびカバー12の少なくとも一方と、それによって画定された第2の経路52は、動作中の装置によって粒子が分離される一次機構であるため、第2の経路52の狭寸法は、第2の段62の幅にわたって比較的一定に注意深く維持されることが好ましい。
【0037】
例として、第2の経路52は、分離素子14の第2の段62によって、且つ、本体10およびカバー12の一方または両方によって、画定された境界を有する。本体10およびカバー12を一緒にクランプすることは、第2の経路52の境界を形成する部品に外部力をかける可能性があり、それによって、第2の経路52の部品の屈曲および狭寸法の狭窄を誘発する傾向がある。そのような屈曲および狭窄は、第2の経路52の内腔内に1若しくはそれ以上の支持部20を具備することによって、減少するか排除することができる。支持部20は、たとえば、第2の経路52の境界を画定する分離素子14の表面から本体10またはカバー12の反対表面の方向に延出するロッド形状の拡張部であってもよい。あるいは、矩形断面を有する拡張部が、第2の経路52の境界を画定する本体10またはカバー12の表面から離れて、分離素子14の反対表面の方向に延出してもよく、支持部20を形成することができる。2以上の支持部20を並列にまたは順次に配列して1若しくはそれ以上の一枚壁またはセグメント壁を形成することができ、そのような支持部は、空所内に複数の流動路を画定することができ、複数の流動路は、それらの端の一方または両方で合流する。第3の代替として、支持部20は、第2の経路52の内腔に配置された別々の部品でありえ、分離素子14の反対表面と本体10またはカバー12の反対表面との間の狭寸法に実質的にまたは完全に及ぶ。第2の経路52を画定する分離素子14の表面に、第2の経路52を画定する本体10またはカバー12の表面に、または両方の表面に、支持部20が衝突することは、表面の屈曲を制限するかまたは停止し、を支持部20の厚さに実質的に等しいかまたはそれよりも大きい値に狭寸法維持する(たとえば、カバー12が第2の段62の広面32を完全に押圧し、第2の経路52の狭寸法が所望の値よりも下に減少するのを防止する)。
【0038】
支持部20は、装置の部品をその適切な構造に支え、装置の寸法安定性を上げる。寸法安定性を上げることによって、支持部20は、様々な動作状態下で(たとえば、変動するクランプ圧力で、または、変動する流圧で)装置の動作性を高めることができ、装置の寿命を延長することができる。支持部20は、本体10またはカバー12が、階段状通路の1若しくはそれ以上の第1および第2の経路の狭寸法を変形し変えるのを防止することによって、装置の粒子分離精度を高めることもできる。支持部20はまた、第1および第2の経路の外部の空所11に配置されることもでき、空所の高さに及ぶ。そのような支持部20は、第1および第2の経路の外部に空所11の開放性を維持することができる。支持部20が支持部20によって衝突される表面と一体的ではない場合には、支持部20は、表面に接着されなくてもよく、表面に付着されてもよく(たとえば、表面と支持部の一部との間に入れられた接着剤を使用して、その両方を結合して)、または、表面と融合されてもよい。
【0039】
支持部20は、そうでなければ一体である流体流動路を、空所11内の2若しくはそれ以上の流体流動路に分離することができる(たとえば、図2Aの支持部20参照)。図2に示された実施形態において、装置は、平坦なカバー12と、カバー12に噛み合う平坦な表面を有し入口領域15および出口領域17を有する空所11を画定する本体10と、第1の段61および第2の段62を具備し4つの支持部20と一体的である分離素子14と、から成る。分離素子14が、空所11に、入口領域15と出口領域17との間に配置されるときには、支持部20の高さは空所11の深さに等しく、支持部20の上面が本体10の平坦な表面と実質的に同一平面上にあるようにする(図2Bおよび2Cに示されるように)。カバー12が本体10の平坦な表面に対して組み立てられるときには、支持部20の頂面が空所11を画定するカバー12の表面に接触し、それによって、クランプ圧力(カバー12に加えられて、これを本体10の平坦な表面に対して同一平面上に保持する)がカバー12を変形するのを防止する。支持部20によってカバー12に提供されるブレーシングは、そうでなければカバー12を空所へ向けて内向きに撓ませるであろうクランプ圧力がカバー12に加えられるときでさえ、第2の経路52の狭寸法および第1の経路51の狭寸法を維持するように働く。カバー12が1若しくはそれ以上の支持部20と融合されるかそれに付着される場合には、図2に示された装置は、そうでなければ、装置内の流圧によって誘発されるカバー12の外向きの(すなわち、空所11から離れた)屈曲から生じたかもしれない第1の経路51および第2の経路52の狭寸法の膨張に抵抗することもできる。
【0040】
支持部20の形状、輪郭、サイズ、および配向は、重要ではない。支持部20は、たとえば、矩形、偏菱形、円形、楕円形、または翼形状の断面を有することができる。流体の流動を方向づける壁(図2に示された支持部20と同様に)を形成するのに加えて、支持部20は、流体流動路に乱流を誘発することができ、そのような支持部からすぐ下流に粒子の混合および/または変位を誘発することができる。例として、丸みを帯びた断面を有し第2の経路52の前(すなわち、もっとも上流の)縁近傍に配置された支持部は、第2の経路52の前縁に乱流を誘発することができ、そうでなければ第2の経路52を塞ぐかもしれない粒子を押しのけ、それによって、第2の経路52を通る流体の流動を高める。
【0041】
分離素子14は、本明細書に検討された階段状通路以外の流体流動路を画定することができる。そのような流体流動路は、たとえば、入口領域15と階段状通路との間または階段状通路と出口領域17との間に延出することができる。さらに、例として、分離素子14の第1の段61によって画定された第1の経路51は、分離素子によって画定された流体流動路によって、分離素子14の第2の段62によって画定された第2の経路52に接続されることができる(すなわち、第1の経路51が第2の経路52に直接連通するのではない)。
【0042】
いくつかの用途において、入口領域15に存在する粒子のサンプルが実質的に同時に複数の階段状通路の各々に入ることが重要である。図2に示されたような装置が使用される場合には、入口ポート16によって入口領域15に提供される粒子は、入口ポート16にもっとも近い階段状通路(図2Aの中心の経路)に到達するときよりも遅くに、もっとも外側の階段状通路(図2Aのもっとも左側およびもっとも右側の経路)に到達することが明らかである。図2に示された装置を参照して、分離素子14は、入口ポート16に端を発し様々な路によって個別の階段状通路の各々に延出する壁または水路を画定することができ、各流動路に沿った直線流動距離が等しいようにする。このようにして、入口ポート16と中心流動路との間に延出する流動路は、入口ポート16ともっとも外側の流動路との間に延出する流動路に対して、湾曲するか、角を成すか、または、曲がりくねる。最終結果は、直線流動路は長さが等しいため、流動路の各々の入口ポート端に提供された粒子は、実質的に同時に流動路の階段状通路端に到達するということである。
【0043】
分離素子14は、少なくとも2つの段を具備し、第2の段62よりも入口領域15に近い(階段状通路端に沿って)第1の段61を具備する。流体に懸濁した粒子は、第1の経路51と第1の経路51よりも小さい狭寸法を有する第2の経路52とを具備する階段状通路を通って流動する。流体内の大半の粒子またはすべての粒子が第1の経路51内に流れ込むことが可能であるが、第2の経路52内に流れ込むことが可能である粒子は一部のみである。正味結果は、流体内の幾分の粒子が階段状通路全体を通って流動することができ、一方、他の粒子は装置内に、たとえば第1の経路51内に、保持される。粒子の分離は、このようにして達成される。
【0044】
分離素子14の段は、様々な形状のいずれを有することができる。1つの実施形態において(たとえば、図1に示された装置において)、第1の段61および第2の段62は、従来の「階段」状の段構成、すなわち、直角で交差する2つの平面を有する。すなわち、第1の段61の昇降面41および第1の段61の広面31は直角で交わり、第2の段62の昇降面42および第2の段62の広面32も同様である。あるいは、段の昇降面および広面は、たとえば、図3に示されるように、90度から180度の間の角度で交わることができる。段の昇降面および広面はまた、0度から90度の間の角度で交わることができ、張出しを形成する。
【0045】
張出しを形成する段および90度に近い角度で交わる面を有する段は、段の面が交わる縁近傍で乱流を誘発することができる。そのような乱流は、そうでなければ、段の広面と本体10またはカバー12の反対面との間の経路を塞ぐかもしれない粒子を除去することができ、この乱流は、それによって、経路の詰まりを抑制することができ、装置を通る流体流動を高める(流圧低下を減少する)が、これは有益な効果である。さらに、段が張出しを形成し、そうでなければ経路を詰まらせるかもしれない粒子が、張出しによって形成された窪み内にあることができるように段の高さが充分に高いときには、そのような段は、経路の詰まりを減少して装置の性能を改良することもできる。サンプル内の比較的大きな望ましくない粒子の適切なサイズを予測することができる範囲まで、階段状通路を通って流体が流動するのを著しく抑制しない場所および量で望ましくない粒子を捕らえるために、そのような粒子を捕らえるかまたは排除するように設計された1若しくはそれ以上の段を装置内に組み込むことができる。
【0046】
90度から180度の間の角度で交わる昇降面および広面を有する段は、様々なサイズを有する粒子(すなわち、段の広面によって画定される通路の狭寸法と段から上流の空間の狭寸法との間の中間のサイズを有するもの)が進むのを妨げることができる。段の昇降面における異なる位置でわずかに異なるサイズを有する粒子が通過するのを停止することによって、90度から180度の間の角度で交わる昇降面および広面を有する段は、90度未満の角度で交わる昇降面および広面を有する段よりも、かなりの程度で、段の広面によって画定される経路が詰まるのを防止することができる。
【0047】
段の広面によって画定される経路を塞ぐ粒子によって段を過ぎる流体流動の詰まりはまた、段の幅を広げることによって減少するか回避することもできる。各粒子が流体流動を妨げるのは粒子によって隠される流動区域のみであるため、より広い段が詰まるのは、必然的により多くの数の閉塞粒子によってである。段の幅は、2つのやり方のいずれかまたは両方で、広くすることができる。第1に、段の幅は、単に段の直線幅を増加することによって(図4に示されるように)広くすることができる。第2に、段の幅は、段の直線性(すなわち、真直度)を減少することによって段の広面および昇降面が交わる縁の長さを増やすことによって、広くすることができる。
【0048】
例として、矩形断面を有する流体水路において、水路を直接横切って(すなわち、側部に対して直角で)延出する段は、もっとも上流の縁が、単に水路の幅に等しい長さの縁を備える。段の形状が半円形であり、半円の中心が半円のもっとも上流の縁から下流にあるように半円の弧が延出する場合には、段の縁の長さは、半円の長さに等しく、これは、πに水路の幅をかけて2で割った数である(すなわち、おおよそ、1.57×水路の幅である)。同様に、円または楕円の弧のような、山形のような(すなわち、V字型のような)、ジグザグのような、曲がりくねった線のような、または、不規則な線のような形状の縁を有する段は、矩形断面を有する流体水路を垂直に横切って延出する段の縁の長さよりも大きい縁の長さを有する。そのような形状を備えた縁を有する段は、本明細書に記載される装置に使用することができる。
【0049】
第1の段61および第2の段62の寸法は重要ではないが、第2の段62が第2の経路52の境界を画定し、それが、本明細書に記載されるように、粒子を分離するように働くことを除く。その理由のため、第2の段62の寸法、および分離素子14および本体10またはカバー12の反対面(単/複)の第2の段62によって画定された対応する第2の経路52の寸法は、注意深く選択されなければならない。これらの寸法を選択することに関する基準は、第2の経路52を通過する能力によって分離されるべき粒子の寸法を含む。
【0050】
例として、比較的大きな細胞を、混合されたサイズの細胞の集団から分離すべき場合には、比較的大きな細胞が第2の経路52に実質的に入ることができないように且つ集団の他の細胞は第2の経路52に入り通過することができるように、第2の経路52の狭寸法は選択されなければならない。この場合、比較的大きな細胞による第2の経路52の詰まりを減少するか、遅延するか、または回避することができるように、第2の段62の形状および幅は、サンプル内に存在すると予想される比較的大きな細胞の数に基づいて選択されなければならない。
【0051】
同様に、限定された流動度の粒子(すなわち、比較的変形しやすくない粒子)が、より大きな流動度の類似したサイズの粒子(すなわち、比較的変形しやすい粒子)から分離されるべき場合には、第2の経路52の狭寸法は、2つのタイプの粒子のサイズに密接に整合するように選択されなければならず、両方のタイプの粒子が第2の経路52に入ることができるが、比較的変形しやすい粒子が、平均して、限定された流動度の粒子よりも短い時間で、第2の経路52を通過することができると理解される。この例において、複数の第2の経路52を具備し、各々が、著しく詰まらずに、予想される数の粒子を収納するのに充分な幅および形状を有することが有利でありうる。この例では、各第2の経路52が、限定された流動度の粒子よりも短い時間で第2の経路52を通過する、比較的変形しやすい粒子による詰まりを最小限にするように、比較的短い長さを有することも有利でありうる。
【0052】
第1の段61および第2の段62の各々の幅(すなわち、本明細書に規定され図4に示されるように)は、装置を使用して処理されると予想されるサンプルを考慮して、段に粒子が蓄積する予想に基づいて、選択することができる。第2の経路52の狭寸法に基づいて、第2の経路52に入ることができない粒子の割合および数を概算することができる。この情報を第2の経路52に入ることができない粒子の平均サイズと組み合わせて、第2の経路に入ることができない粒子によって塞がれがちである段の合計長さを概算することができ、この概算を使用して、適切な段の幅を選択することができる。各段の幅は、段を過ぎて流動するのをすべて妨げるのを防止するように選択されることが好ましい。段の幅(および段によって画定される対応する経路)は、経路の狭寸法よりも遙かに(たとえば、10倍、1000倍、または100000倍)大きく選択することができる。例として、母体の血液から胎児様細胞を分離するためには、対応する経路の狭寸法のおよそ少なくとも1000(一千)倍、好ましくは10000(一万)倍の段幅が望ましいと見なされる。比較的広い段は、経路が詰まるのを制限しながら経路内に粒子が蓄積するのを可能にする。
【0053】
いくつかの例において、第2の経路52に入ることができない粒子が1粒子深さ(すなわち、第1の経路51の狭寸法の方向に)を超えない層を形成するように、第1の経路51の狭寸法を選択することが望ましい。第1の段61の幅および長さは、そのような細胞の予想数を収容するように選択することができる。
【0054】
分離素子14の第1および第2の段の長さ(すなわち、本明細書に規定され図4に示されるように)は、一般に重要ではなく、本明細書に記載された装置の分離機能を提供する第1および第2の経路(それぞれ、第1および第2の段によって境界を定められる)の狭寸法も同様である。段上に粒子を蓄積するか観察することが望ましい状況では、段の長さは、段上の粒子の予想されたか概算された数およびサイズを収容するように選択することができる。異なるタイプの粒子が第1の経路51および第2の経路52の一方または両方を通過することができる相対速度の差に装置の分離能力が依存する場合には、段の長さは、達成される分離の程度に影響を与える可能性があり、より長い段は、異なる速度の通過によって行われる分離を高める。段の長さは、単一の段の長さを大きくすることによって、選択された長さの段の数を増やすことによって(各段は同一の狭寸法を有する経路を画定する)、またはこれらの組み合わせによって、大きくすることができる。
【0055】
いくつかの実施形態において、平面的な段領域は、カバーの一部、本体の一部、またはその両方に実質的に平行であって、かつそれが境界を定める経路の狭寸法の倍数(たとえば、2、4、10、または1000)と同等の長さ(大半の流体流動の方向において)が好ましく、平面的な領域の幅(大半の流体流動に垂直な方向において)は、それが境界を定める経路の狭寸法の倍数(たとえば、10000の10、1000)と同等なものが好ましい。本明細書に記載された装置の実施形態のいくつかの例において、平面的な領域の幅(大半の流体流動に垂直な流動の方向において)の比率は、3つの別個のカセット設計の各々では、もっとも開いた端で1,318からもっとも狭い(出口)端で805、もっとも開いた端で659からもっとも狭い(出口)端で967、もっとも開いた端で537からもっとも狭い(出口)端で725の範囲である。チップの各々におけるグラデーションは、カセットの入口から出口側部へ、段の幅の高さに対する比率を66.7上げる。この幅の高さに対する比率は、カセット内で捕らえることが望ましい粒子の数の、カセットを通って進むことが望ましいものに対する比率に依存して変動する。本明細書の実施例4に記載されるように、胎児細胞の、本明細書に記載されたタイプの装置によって捕らえられる(白血球+赤血球)に対する比率は、非常に高くなりえ、適切な段の高さおよび長さを選択することは、母体血液サンプル中のすべての有核血球の99.99%を超える通過を可能にすることができる。
【0056】
装置は、第1の段61および第2の段62を参照して本明細書に記載されているが、追加の段(たとえば、3、4、10または100段)が装置内に具備されてもよく、各段は、特徴的な狭寸法を有する階段状通路内に経路を画定する。
【0057】
装置は、単一の分離素子14または複数の分離素子14を具備することができる。例として、装置は、第1の段61を画定する第1の分離素子と、第2の段62を画定する第2の別個の分離素子と、を具備することができる。本体10と一体的である場合には、第1および第2の分離素子14は、両方の分離素子14が空所11内にあり、空所11の入口領域15と出口領域17との間に入り、同一の階段状通路に段を画定する限り、本体10上の異なる位置に配置されることができる。あるいは、両方の分離素子が空所11内にあり、空所11の入口領域15と出口領域17との間に入り、同一の階段状通路に段を画定する限り、第1の段61を画定する第1の分離素子は本体10と一体的でありえ(または、これに接着され)、第2の段62を画定する第2の分離素子は、カバー12と一体的でありえる(または、これに接着される)。同様に、2つの分離素子は、同一の条件が満足されるならば、別々の片でありえる。」

(引1f)「【0059】
経路形状
各段の形状は、少なくともいくつかの粒子がその段によって画定された経路を通って進むことができるように、且つ、少なくともいくつかの他の粒子はその段によって画定された経路を通って進むことができないように、選択されなければならない。経路を通って進むことができる固い粒子の能力は、粒子の特徴的な寸法に依存する。固い粒子は、粒子の短寸法よりも低い高さを有する経路を通って進むことができない。固い粒子は、粒子の長寸法よりも高い高さを有する経路を通って進むことは実質的に抑制されない。固い粒子は、短寸法よりも高いが長寸法よりも低い高さを有する経路を通って進むことはできるが、その経路は、粒子が進むのを少なくとも幾分は抑制する。
【0060】
経路を通過する変形しやすい粒子(たとえば、生体細胞、気泡、または穀物)の能力は、固い粒子の能力同様、その特徴的な寸法に依存する。加えて、変形しやすい粒子は、粒子が経路を通って「圧搾する」ように変形することができる範囲まで、粒子の短寸法よりも小さな狭寸法を有する経路を通過することができる。この能力は、粒子の固さ、経路のサイズ、および粒子に対して加えられる流圧に依存する。これらの量は知られていないか予測可能ではないため、実験によって得られたデータを集めて、そのような粒子が所与のサイズの経理を通過する能力を決定するか概算することができ、そのような実験によって得られたデータを使用して、本明細書に記載された装置の第1および第2の経路に適切な寸法を選択することができる。
【0061】
本開示の数箇所において、例として、矩形断面を有する流体経路が参照される(そのような断面は、大半の流体流動の方向に垂直に取られる)。本明細書に記載された装置の流体経路は、そのような矩形水路に限定されない。流体経路の壁は、互いに対して且つ本体10、カバー12、および分離素子14の1若しくはそれ以上に対して、垂直でありうる。壁はまた、他の配列を有することができる。1つの実施形態において、流体経路は丸みを帯びており、たとえば、丸みを帯びた先端を有する回転ビットによって材料を除去することによって形成された経路等である。同様に、流体経路は、一方の側部(たとえば、本体10内に形成された)が丸みを帯びてもよく、他方の側部(たとえば、平坦なカバー12によって境界を定められた)が平らであってもよい。
【0062】
剪断応力の減少
流体剪断応力は、生体細胞等の変形しやすい粒子または壊れやすい粒子を害する可能性がある。したがって、そのような粒子を処理するために装置が使用されるべきときには、装置内の流体剪断応力を減少することが望ましい。著しい流体剪断応力は、直線流動速度が急激に変化する流体水路の位置で、たとえば、流体水路の形状が変化する場所で、発生する可能がある。流体水路の形状は、装置内の直線流動速度を、増加するか、減少するか、または一定に維持するように選択することができる。直線流動速度を増減することが、流体剪断応力を創出する。流体剪断応力のレベルは、ある種類の粒子を、他の種類の粒子よりも、破裂させるか、変形するか、または破壊するように選択することができる。たとえば、耐久性のある粒子は、壊れやすい粒子を破裂させる流体剪断応力を誘発することによって、同一サイズの壊れやすい粒子から分離することができる。耐久性のある粒子は通路に保持され、一方、壊れやすい粒子の破片は第2の段62を進み、出口領域17内に流れ込む。同様に、実質的に一定な直線流動速度は、適切な粒子水路寸法を選択することによって、装置全体にわたって(または、少なくともその階段状通路全体にわたって)維持することができる。
【0063】
本体10、カバー12、および分離素子14は、階段状通路の断面積が流体が流動する方向に対して増加するか、減少するか、または一定に維持するように形成することができる。階段状通路の断面積が、装置内の流体の圧力および流量に影響を与える。分離素子が一定の幅を有する場合には、第1の経路51の高さおよび幅によって画定される断面積は、入口領域15の断面積よりも小さくなる。第2の経路52の断面積(たとえば、断面が矩形であるならば、第2の経路の高さおよび幅によって画定される)は、第1の経路51のものよりも小さくなる。経路の断面積が減少するにつれて、その断面を通って流動する流体の流圧および流量が増加する。流体水路の形状は、流圧および流量のこれらの変化に対抗するように選択することができる。たとえば、矩形断面を有する経路の幅は、経路の断面積が一定であるように、経路の高さが減少するのに比例して、増加することができる。傾斜した昇降面によって各段が分離される分離素子14では、昇降面によって画定された経路の幅は、一定の率で増加することができ、経路の高さが減少する率に等しい。そのような分離素子によって画定された通路を通る流圧および流量は、一定のままである。そのような通路の例は、図3に示される。」

(引1g)「【0070】
構造物の材料および方法
本体10およびカバー12を作るのに使用される材料(単/複)の固有性は重要ではないが、本明細書に記載されたような装置の動作中に、部品がその形状を維持し、実質的に変形したり壊れたりしないように充分に固くなければならないことを除く。変形しやすい材料が使用される場合には、動作の状況下で予想される変形を、部品のサイズおよび形状を設計する際に考慮に入れなければならない。適切な材料の例として、ガラス、固体ポリマー、たとえばポリテトラフルオロエチレンおよびエポキシ樹脂等、および結晶性鉱物、たとえばシリコン等が挙げられる。本体10、カバー12、分離素子14、および本明細書に記載された他の構成要素は、各々が、所望により、異なる材料から形成されることができる。たとえば、部品の膨張および収縮に対する温度の効果がすべての部品で類似しているように、すべての部品が同一の材料から形成されることが好ましい。
【0071】
装置内の粒子の移動、状態または振る舞いを観察することが有益でありうる。そのような場合には、本体10およびカバー12の少なくとも一方は、組み立てられた装置における粒子の観察を容易にする材料から作られなければならない。例として、多くのガラスが、ヒトの目に見える光学スペクトルの領域における光の波長に透明である。そのようなガラスから装置の1若しくはそれ以上の部品を作ることは、装置の動作中に、空所内の粒子(たとえば、第1の経路51における粒子の蓄積)を操作者が目視検査するのを可能にする。」

(引1h)「【0076】
分離可能な粒子
装置は、本明細書に記載された装置の第1および第2の経路を様々な粒子が通過することができる能力に基づいて粒子を分離する。装置を使用して分離することができる粒子は、生きた粒子、たとえば、動物または植物の細胞、バクテリア、または原虫、または生きていない粒子を含む。本明細書に記載された装置を使用して、より大きな粒子(たとえば、穀物、齧歯類の糞、気泡、およびボウリングボール)と、より小さな粒子(たとえば、細胞内小器官、ウイルス、および沈殿した鉱物粒子)と、を分離することができる。」

(引1i)「【0082】
階段状通路内の粒子は、剪断力、圧縮力、および通路を通って流動するいずれの流体によって作用する他の力を受ける。変形、圧縮、破裂、溶解、または破損(すなわち、第1および第2の経路の一方または両方を通過する粒子の速度または能力を変えるいずれの特徴)に対して異なる抵抗を呈する粒子(たとえば、生体細胞)が存在する場合には、流体流動に対する粒子の応答の違いを使用して、階段状通路を通って粒子が進むこと(または進まないこと)に異なる影響を与えることができる。例として、流体剪断下で容易に溶解する細胞および流体剪断下で実質的に溶解しない実質的に同一サイズの細胞を含む細胞タイプの混合物内で、これらの2つのタイプの細胞は、比較的低い流体流動(すなわち、溶解する細胞があまりないかほとんど無いほど充分に低い流動)の状態下で他の粒子から分離することができる。そのような分離の後に、階段状通路内の少なくとも一部分内に、第2のタイプの細胞ではなく第1のタイプの細胞が溶解し、出口領域からの流出液に第1の細胞タイプの溶解生成物を産し第2のタイプの細胞を装置内に保持するほどの充分な流体剪断を生成するために、流体流量を上げることができる。」

(引1j)「【0088】
流体脈動または別の急速な流動変化が、流体中および流体内に懸濁した粒子上に剪断応力を誘発することができ、粒子がそのような剪断応力により損傷を与えられる可能性がある。粒子の損傷(たとえば、生体細胞の溶解)は、流体内部の剪断応力、および剪断応力の原因を低減することにより低減されることができる。本開示の他の所で議論される装置の流体チャネルの幾何形状の修正は別として、装置と接続される流体置換装置のタイプおよび特性の変更が、流体内部の剪断応力を増大させるまたは低減させることができる。例として、比較的一定な容積流量で(すなわち、より脈動する容積流量ではなく、多くの蠕動ポンプと同様に)流体を引き渡すポンプが、装置内部の流体圧力の周期的な急上昇により誘発される流体剪断応力を低減することができる。さらに、例として、比較的一定な圧力で(すなわち、ポンプの出力流れ内部の流体圧力を監視し、それに従って容積流量を調節して、一定な圧力を維持する)流体を引き渡すポンプが、容積流量が適宜に調節されなければ、階段状通路の第1の経路および/または第2の経路の部分が粒子または破片でふさがれるようになるとき、他の方法では高まる流体剪断応力を低減することができる。装置を通って流体を移動させるのに適したポンプの一例が、低パルス・シリンジポンプ(low pulse syringe pump)である。そのようなポンプは攪拌機構を具備することができ、攪拌機構は装置の動作中に粒子が沈殿するのを妨げるのに有用であることがある。」

(引1k)引用文献1の【図1B】には、次の図面が記載されている。


この図面及び段落【0020】の記載より、引用文献1の第1の経路51は、入口領域15よりも小さい狭寸法を有することが見てとれる。

上記摘記事項より、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「細胞などの粒子を分離する装置であって、
前記装置は、少なくとも2つの経路(第2の経路52(下流)が第1の経路51(上流)よりも狭いもの)内を、粒子が通過する能力に基づくものであり、
前記装置は、本体10およびカバー12によって形成される空所11の中に配置される、分離素子14を具備し、前記空所11内で、前記分離素子14が前記空所の出口領域17から空所の入口領域15を分離し、
分離素子14は、少なくとも2つの段を含む形状を有し、段は、第1の経路51および第2の経路52の各々の境界を形成し、本体10およびカバー12は、第1の経路51および第2の経路52の残りの境界を画定し、
流体に懸濁した粒子は、入口領域15より小さい狭寸法を有する第1の経路51と、第1の経路51よりも小さい狭寸法を有する第2の経路52とを具備する階段状通路を通って流動し、一部の粒子が階段状通路の全てを移動し、残りの粒子は前記装置内、例えば前記第1の経路中51、に留まることとなり、粒子の分離がなされ、
流体経路は、大半の流体流動の方向に垂直に取られる矩形断面を有し、
第1の段61および第2の段62の各々の幅(および段によって画定される対応する経路)は、経路の狭寸法よりも遙かに大きく選択され、
第1の経路51の高さおよび幅によって画定される断面積は、入口領域15の断面積よりも小さくなり、断面が矩形の第2の経路52の断面積は、第1の経路51のものよりも小さくなり、
本体10およびカバー12は透明であるガラスから作られる、
細胞などの粒子を分離する装置。」

イ 対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、次のとおりである。

(ア)引用発明の「細胞などの粒子」は、本件補正発明の「媒質の成分」に相当する。

(イ)引用発明の「第1の経路51」及び「第2の経路52」は、本件補正発明の「開口」に相当する。

(ウ)引用発明の「流体に懸濁した粒子は、入口領域15より小さい狭寸法を有する第1の経路51と、第1の経路51よりも小さい狭寸法を有する第2の経路52とを具備する階段状通路を通って流動し、一部の粒子が階段状通路の全てを移動し、残りの粒子は前記装置内、例えば前記第1の経路中、に留まることとなり、粒子の分離がなされ」る「細胞などの粒子を分離する装置」は、本件補正発明の「少なくとも1つの開口を通して流れ方向に流れる媒質の成分を保持するためのフィルタ・エレメント」に相当する。

(エ)本件補正発明の「ボトルネック」は、本願明細書の段落【0009】に「・・・・フィルタ・エレメントの開口は、媒質の流路上の何らかの種のボトルネックであるものとし、すなわち、媒質の流路は、このような開口の前および典型的にはこのような開口の後ろの幅もより広いものとする。・・・」と記載されるものである。
したがって、引用発明の「入口領域より小さい狭寸法を有する第1の経路51」と「第1の経路51よりも小さい狭寸法を有する第2の経路52」は、本件補正発明の「前記媒質の流路におけるボトルネック」に相当する。

(オ)引用発明の「大半の流体流動の方向に垂直に取られる矩形断面」は、本件補正発明の「前記流れ方向に対して垂直に測定される」「横断面」という構成を具備する。また、引用発明における、「第1の段61および第2の段62の各々の幅(および段によって画定される対応する経路)は、経路の狭寸法よりも遙かに大きく選択され」、ここでいう「段によって画定される対応する経路」とは、「第1の経路」及び「第2の経路」をいうことが明らかであるから、「第1の経路」及び「第2の経路」の断面は、「細長い」形状であると認める。
よって、引用発明の「第1の経路」及び「第2の経路」の「矩形断面」は、本件補正発明の「細長い横断面」に相当する。さらに、引用発明の「第1の経路51」及び「第2の経路52」は、各々、「入口領域15の断面積よりも小さくな」る「第1の経路51の高さおよび幅によって画定される断面積」及び「第1の経路51のものよりも小さくな」る「断面が矩形の第2の経路52の断面積」を有するものであるから、本件補正発明の「流れ方向における前記開口の長さの延びに沿って縮小する、前記流れ方向に対して垂直に測定されている細長い横断面を有」するという構成を具備するものと認められる。

(カ)引用発明の「本体10及びカバー12は、透明なガラスで作られ」、また、「分離素子14」とともに「第1の経路51および第2の経路52の残りの境界を画定」するものであるから、引用発明の「本体10及びカバー12」は、本件補正発明の「境界」を作る「透明な壁」に相当する。

(キ) よって、本件補正発明と引用発明とは、次の点で一致する。

「 少なくとも1つの開口を通して流れ方向に流れる媒質の成分を保持するためのフィルタ・エレメントであって、
前記開口が、
前記媒質の流路におけるボトルネックであり、
流れ方向における前記開口の長さの延びに沿って縮小する、前記流れ方向に対して垂直に測定される細長い横断面を有し、
透明な壁によって境界が作られるフィルタ・エレメント。」

また、次の点で相違する。

(相違点1)
本件補正発明の「開口」は、「細胞が損傷する可能性がある圧力降下に基づいて求められ」る「スケーリング」を有するのに対して、引用発明の「第1の経路」及び「第2の経路」は、それらの幅が「経路の狭寸法よりも遙かに大きく選択され」ることを除いて、それらのスケールが特定されていない点。

ウ 判断
前記相違点1について検討する。
本件補正発明の「開口のスケーリング」は、「細胞が損傷する可能性がある圧力降下に基づいて」求められたものであるところ、上記2(3)にて前述したように、「細胞が損傷する可能性のある圧力降下」は、細胞の種類、細胞のサイズによって与えられる「高さ(h)」、「媒質の粘度(η)」、「長さ(L)」、「体積流量(Q)」等により異なってくるものであるといえ、これらの条件について何ら特定されていない本件補正発明では、「細胞が損傷する可能性のある圧力降下」に基づいて求められた「開口のスケーリング」がどの程度となるのか、明確に特定することができない。したがって、前記相違点1は、実質的な相違点であるとはいえない。

エ 小括
よって、本件補正発明は、引用発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
以上より、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成29年10月11日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成28年10月13日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-15に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2の[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由(理由2)は、概略、次のとおりである。

理由2.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

●理由2(新規性)について
・請求項1-7、9-10、13-15
・引用文献等1

引用文献1:特表2011-519553号公報

3 引用文献、引用発明等
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1の記載事項及び引用発明については、前記第2の[理由]2(4)アのとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2(4)で検討した本件補正発明から、「前記開口のスケーリングは、細胞が損傷する可能性がある圧力降下に基づいて求められ」という限定事項を削除したものである。そして、削除した後に残った特定事項は、前記第2の[理由]2(4)イで一致点とされているから、本願発明は、引用発明である。

5 結言
したがって、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当する発明であるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-09-12 
結審通知日 2018-09-18 
審決日 2018-10-15 
出願番号 特願2014-537787(P2014-537787)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (G01N)
P 1 8・ 537- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡邊 吉喜福田 裕司  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 東松 修太郎
渡戸 正義
発明の名称 血液または他の媒質からの粒子の濾過  
代理人 大貫 進介  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠重  

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