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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B01F |
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管理番号 | 1349423 |
審判番号 | 不服2016-16922 |
総通号数 | 232 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-04-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-11-11 |
確定日 | 2019-02-26 |
事件の表示 | 特願2013-546420「エマルジョンを製造する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年6月28日国際公開、WO2012/088409、平成26年3月6日国内公表、特表2014-505585〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2011年(平成23年)12月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年12月23日、(US)米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 平成25年 8月26日 :翻訳文提出 平成27年11月11日付け:拒絶理由の通知 平成28年 5月16日 :意見書、手続補正書の提出 平成28年 7月 6日付け:拒絶査定(同年同月11日送達) 平成28年11月11日 :審判請求書、手続補正書の提出 平成29年 4月11日 :上申書の提出 平成30年 2月20日付け:拒絶理由の通知 平成30年 5月24日 :意見書、手続補正書の提出 平成30年 9月 7日 :応対記録 第2 本願発明 本願の請求項1?15に係る発明は、平成30年5月24日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定されるものであり、そのうち請求項1に係る発明は、次のとおりのものである(下線は、補正部分として審判請求人が付した)。 「【請求項1】 エマルジョンを製造する方法であって、 カラム内に充填材料を配置し、前記カラムは、長手方向軸線と、内部キャビティを形成する周面とを有し、前記内部キャビティは長手方向長さを有し、前記充填材料は、前記長手方向軸線に沿ってカラムに流体を流過させるように構成されており、前記カラムは、 前記内部キャビティと流体連通した入口と、 前記内部キャビティと流体連通した出口と、 前記内部キャビティ内に配置された少なくとも1つのディバイダであって、該少なくとも1つのディバイダのうちの各ディバイダは、前記内部キャビティの前記長手方向長さの少なくとも一部に沿って延びている、少なくとも1つのディバイダ、とを備え、 前記少なくとも1つのディバイダは、前記充填材料を分割しかつ前記内部キャビティを通る流体流れを方向付けるように構成されており、 層流条件下において複数の流体を前記カラムの前記入口を通じて導入し、前記複数の流体は、前記ディバイダによって前記内部キャビティを通る層流を維持しつつ、前記充填材料内の間隙を流過する際に前記カラムの前記内部キャビティ内で組み合わさり、エマルジョン製品を形成し、 前記カラムの前記出口を通じて前記エマルジョン製品を収集し、 前記方法は前記層流条件下の流量に影響されず、 前記カラムは、前記層流条件下において前記充填材料内の間隙を流過する際の抵抗を克服するために必要なあらゆる圧力で使用することができることを特徴とする、エマルジョンを製造する方法。」(以下「本願発明」という。) 第3 当審の拒絶の理由 当審にて請求項1について通知した、平成30年2月20日付け拒絶理由通知の理由は、概略、次のとおりのものである。 1 理由1 この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 刊行物.特開平4-193337号公報 2 理由3 この出願は,上記理由1の請求項1に対する拒絶理由に記載したように,本願明細書には,段落【0066】に「これらの層は、繰返し互いの経路を横切り、連続的な相(通常は水)が、不連続な相(通常は油)を液滴に分割し、これにより、エマルジョンを形成する。」と記載されているが,層流では流体は秩序正しく層をなして運動するから,2つの相が混ざることはなく,したがって,目的の液滴サイズのエマルジョンを生成することはない。むしろ,目的の液滴サイズのエマルジョンは乱流によって生成されれているのではないか。 よって,層流によって目的の液滴サイズのエマルジョンが生成されるとする特許請求の範囲に記載したとおりの発明を実施しようとする際,本願明細書は,発明に沿った内容を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。 したがって,本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本願請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないから,本願は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 第4 当審の判断 1 発明の詳細な説明の記載内容 発明の詳細な説明には、次の内容が記載されている(下線は、理解のため当審で付した。以下同様)。 「【0038】 別の態様では、図2A?図5Bを参照すると、カラム10は、内部キャビティ16内に配置された少なくとも1つのディバイダ50を有していてもよい。この態様では、少なくとも1つのディバイダの各ディバイダ50は、内部キャビティ16の長手方向長さ13の少なくとも一部に沿って延びていてもよいと考えられる。別の態様では、少なくとも1つのディバイダは、充填材料40を分割し、カラム10の内部キャビティ16を流過する流体を方向付けるように構成することができる。少なくとも1つのディバイダ50は、充填材料40内の好適な経路および静的領域の形成を制限し、これにより、カラム10の内部キャビティ16を通る層流を維持するように構成することができる。少なくとも1つのディバイダ50は、カラムのサイズにかかわらず、同様の利益を提供するために、カラム10に対応する形式で拡大縮小することができる。 ・・・ 【0065】 カラムおよび微粒子を製造するためにカラムを使用する方法は、乱流に依存しない。むしろ、本発明の微粒子を製造する方法は、層流量で機能する。狭くかつ反復して正確な粒子サイズ分布を備えた微粒子を開示された方法を用いて製造することができると考えられる。付加的に、微粒子は、小さなスケールで製造することができ、単にカラムの直径を変化させることによって製造サイズに合わせて容易に拡大縮小することができると考えられる。 【0066】 開示された方法の適用によって、エマルジョンは、2つの流体、もしくは相(油および水)が充填材料内の間隙を流過する際に形成される。2つの相が充填材料の層を流過するときに、これらの層は、繰返し互いの経路を横切り、連続的な相(通常は水)が、不連続な相(通常は油)を液滴に分割し、これにより、エマルジョンを形成する。この不連続な相の液滴は、最終的な液滴サイズが達成されるまで繰り返し減じられる。不連続な液滴が所定のサイズに達すると、そのサイズは、充填材料を流過しつづけるとしてもそれ以上減じられることはない。開示された方法は、層流条件において、正確にサイズ決めされたエマルジョンの形成を可能にする。 【0067】 充填材料の極めて独特の動力学は、極めて低い流量における微粒子の連続的な製造を可能にする。これらの低い流量は、0.1グラムほどの小ささのバッチにおいて高品質微粒子の一定の製造を可能にし、これは、一定の粒子サイズ分布を維持する。付加的に、これらの独特の流れ動力学は、実験室から製造サイズのバッチまでの拡大・縮小可能性をも提供する。 【0068】 開示されたカラムおよびカラムを使用する方法は、層流領域内の流量に影響されない微粒子を製造するためのエマルジョンベースのプロセスを提供する。乱流ミキサベースのプロセスとは異なり、本発明の方法は、層流領域内で作動察せられたときの流量の変化に影響されない。本発明において使用される流量は、あらゆる層流量であってよい。1つの典型的な態様では、カラムを通る流体の流量は、約10ml/分?約50リットル/分の範囲であってよい。別の典型的な態様では、カラムを通る流体の流量は、約20ml/分?5リットル/分の範囲であってよい。」 2 理由3(特許法第36条第4項第1号違反)について 上記第2に示したように、請求項1に記載された本願発明は、「層流条件」であることが必要である。 そして、「層流」に関しては、明細書の発明の詳細な説明には、上記1の記載が見受けられるものの、これらの記載からは、どのような状況が、本願発明を実施するための「層流条件」であるのかを理解して実施することができない。 技術常識として、「層流」は、流体が層をなしている、すなわち水と油の2層があった場合には、それぞれが層のまま流れていくものと理解できるところ、段落【0066】には「2つの相が充填材料の層を流過するときに、これらの層は、繰返し互いの経路を横切り」と記載され、流体がお互いに横切る、すなわち交わる場合も、「層流条件」に含まれるとも解釈できる。 そうすると、水と油が交わらないように層をなす層流でありながら、交わるという矛盾する記載ということになり、どのような「層流」によって、エマルジョンが生成されるのかを理解して実施することができない。 例えば、装置の構造は、理由1で引用した刊行物1に示された技術と類似しているところ、流速を遅くすれば層流となることは技術的には理解できるが、普通は流速が速ければよく混じり合うと考えられるところ、より遅くすることによってエマルジョンが生成できるとすることを理解して実施することができない。 さらに、段落【0068】に「約50リットル/分」と記載されているが、上記刊行物1に示された技術では、毎分50リットルの流量で層流となるとは到底理解できないところ、どのような装置が実施例となるのかも理解することができない。 したがって,本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本願請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないから,本願は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 3 審判請求人の主張について 請求項1に記載された「層流条件」に関連して、平成30年5月24日提出の意見書に、理由1について次の記載がある。 「これに対し、引用文献1には、『・・・流体がブレードを通過するとき、分割、反転、転換等の作用に基づき混合されると同時に、固体充填物によって大きく乱流域を生じさせる・・・』と記載されています(第2頁左下欄3行目?6行目)。即ち、引用発明1では、ブレード3a,3bと固体充填物7との両方が、流体を混合可能にする機能(乱流を生じさせる機能)を有するように構成されています。そして、引用発明1では、ブレード3a,3bにおいて流体を混合する機能を実現するために、長方形板状体を約180度捩ってブレード3a,3bを形成しています(第2頁左下欄19行目?右下欄4行目)。 このように、引用発明1のブレード3a,3bは、本願発明のディバイダとは異なり、パイプ2内を通る流体の層流を維持するように機能するものではありません。又、引用文献1には、ブレード3a,3bがパイプ2内を通る流体の層流を維持する機能を有することについて記載も示唆もされていません。 以上の通り、本願請求項1に係る発明は、引用発明1ではなく引用発明1に対して新規性を有しております。又、引用文献1には、上記本願発明独特の構成が記載も示唆もされていないため、引用発明1に基づいて、当業者が本願発明に容易に想到することはありません。 そして、本願発明によれば、乱流に依存することなく、層流量で機能させることで、狭くかつ反復して正確な粒子サイズ分布を備えた微粒子を製造することができるという、有利な効果を奏することができます。」 一般的には、「層流」は流体が交わらないので、上記意見書に記載された、「流体を混合可能にする機能(乱流を生じさせる機能)」は有しないのは技術常識として理解でき、審判請求人も認めているところである。 しかしながら、上記のように、乱流ではない、層流において、なぜエマルジョンが生成できるのかを理解することができない。 このように、平成30年5月24日提出の意見書においては、上記のように本願発明における「層流」の意味するところが不明であったので、再度、審判請求人に問い合わせをおこない、平成30年8月24日に審判請求人から、FAXにて回答があった(同年9月7日の応対記録参照)。 その回答1は次のとおりである。 「流量が所定のレイノルズ数以下を維持されている限り、流体が充填材料内の間隙を通過する場合であっても層流を維持することは可能です。」 この回答は、流速が遅い場合に層流となるという技術常識に沿った回答がなされている。流速が遅ければ、水と油を流した場合にはそれぞれが層となって交わらずに流れていくといういわゆる「層流」と理解できる。 その前提で、合議体から質問2として次の質問をした。 「複数の流体が層流を維持できた場合、層流条件下において、水と油を混合することで生成されるエマルジョンを製品を製造することはできるか?」 これに対する回答2は次のとおりである。 「二つの流体が交わる相において、エマルジョンを形成する要因となる剪断力が発生します。このため、エマルジョン製品を製造することが可能です。」 これらの記載からすると、請求項1に記載された「層流条件」とは、流速が遅くて水と油が交わらない、いわゆる層流でありつつ、水と油が交わる相を有することが実現される条件となり、技術常識を踏まえても、どのように実施すれば本願発明を実施したことになるのか理解することができないので、審判請求人の主張は採用することができない。 第5 むすび 以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、他の拒絶理由を検討するまでもなく拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2018-09-20 |
結審通知日 | 2018-10-01 |
審決日 | 2018-10-12 |
出願番号 | 特願2013-546420(P2013-546420) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
WZ
(B01F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 安島 智也、河野 隆一朗 |
特許庁審判長 |
西村 泰英 |
特許庁審判官 |
中川 隆司 平岩 正一 |
発明の名称 | エマルジョンを製造する方法 |
代理人 | 前川 純一 |
代理人 | 二宮 浩康 |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |
代理人 | 上島 類 |