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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01R
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G01R
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01R
管理番号 1349431
審判番号 不服2018-4860  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-09 
確定日 2019-03-19 
事件の表示 特願2014-519931「電気接触子及び電気部品用ソケット」拒絶査定不服審判事件〔平成25年12月12日国際公開、WO2013/183484、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
この審判事件に関する出願(以下、「本願」という。)は、平成24年6月6日にされた特許出願に基づく優先権を主張して平成25年5月28日にされた国際特許出願である。
本願については、平成28年10月18日付けで拒絶理由が通知され、同年12月26日に意見書が提出されるとともに明細書及び特許請求の範囲についての補正がなされた。その後、平成29年4月28日付けで拒絶理由が通知され、同年7月10日に意見書が提出されるとともに明細書及び特許請求の範囲についての補正がなされたが、この補正は、同年12月25日付けの決定をもって却下され、同日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がなされ、査定の謄本が翌平成30年1月9日に送達された。
これに対し、同年4月9日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に明細書及び特許請求の範囲についての補正がされた。その後、同年6月22日付けで特許法第164条第3項の規定による報告(以下、「前置報告」という。)がされた。
さらに、合議体による合議の結果、同年12月6日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、これに対し、翌平成31年2月4日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲についての補正(以下、「本件補正」という。)がなされた。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし請求項9に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明9」という。)は、本件補正がされた特許請求の範囲の請求項1ないし請求項9に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
Snを含む端子を備えた電気部品の前記端子に電気的に接触される電気接触子であって、
熱を加えることにより前記端子のSnが溶け込んで拡散する第1層(Pd単体の層を除く)と、
該第1層の外側に形成され、熱を加えることにより前記端子のSnが溶け込んで拡散する速度が前記第1層よりも遅い第2層と、
を有し、
前記第2層が、Agと、該Agよりも重量比が小さいAuとを含む、Ag合金めっき層で構成され、
前記第1層と前記第2層とが、熱を加えたときに前記端子のSnが溶け込んで拡散する速度を前記第1層よりも前記第2層を遅くして、前記端子が張り付くことを防止するように構成されたことを特徴とする電気接触子。
【請求項2】
Snを含む端子を備えた電気部品の前記端子に電気的に接触される電気接触子であって、
熱を加えることにより前記端子のSnが溶け込んで拡散する第1層と、
該第1層の外側に形成され、熱を加えることにより前記端子のSnが溶け込んで拡散する速度が前記第1層よりも遅い第2層(Ag単体の層を除く)と、
を有し、
前記第1層が、Pdと、該Pdよりも重量比が小さいCuとを含む、Pd合金めっき層で構成され、
前記第1層と前記第2層とが、熱を加えたときに前記端子のSnが溶け込んで拡散する速度を前記第1層よりも前記第2層を遅くして、前記端子が張り付くことを防止するように構成されたことを特徴とする電気接触子。
【請求項3】
前記第1層が、Pdと、該Pdよりも重量比が小さいCuとを含む、Pd合金めっき層であることを特徴とする請求項1に記載の電気接触子。
【請求項4】
導電性を有する基材と、該基材の外側に形成されたNiを主成分とする下地層とを更に備え、
該下地層の外側に前記第1層が形成され、且つ、
該第1層の外側に前記第2層が形成された、
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の電気接触子。
【請求項5】
前記第1層としての基材を備え、
該基材の外側に前記第2層が形成された、
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の電気接触子。
【請求項6】
前記第1層が、厚さ0.1μm以上5μm以下であり、且つ、前記第2層が、厚さ0.1μm以上20μm以下であることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の電気接触子。
【請求項7】
ソケット本体と、Snを含む端子を備えた電気部品が収容される収容部と、前記ソケット本体に配設されて前記端子に接触される電気接触子とを有する電気部品用ソケットであって、
前記電気接触子の表面に、
熱を加えることにより前記端子のSnが溶け込んで拡散する第1層(Pd単体の層を除く)と、
該第1層の外側に形成され、熱を加えることにより前記端子のSnが溶け込んで拡散する速度が前記第1層よりも遅い第2層と、
が形成されており、
前記第2層が、Agと、該Agよりも重量比が小さいAuとを含む、Ag合金めっき層で構成され、
前記第1層と前記第2層とが、熱を加えたときに前記端子のSnが溶け込んで拡散する速度を前記第1層よりも前記第2層を遅くして、前記端子が張り付くことを防止するように構成されたことを特徴とする電気部品用ソケット。
【請求項8】
ソケット本体と、Snを含む端子を備えた電気部品が収容される収容部と、前記ソケット本体に配設されて前記端子に接触される電気接触子とを有する電気部品用ソケットであって、
前記電気接触子の表面に、
熱を加えることにより前記端子のSnが溶け込んで拡散する第1層と、
該第1層の外側に形成され、熱を加えることにより前記端子のSnが溶け込んで拡散する速度が前記第1層よりも遅い第2層(Ag単体の層を除く)と、
が形成されており、
前記第1層が、Pdと、該Pdよりも重量比が小さいCuとを含む、Pd合金めっき層で構成され、
前記第1層と前記第2層とが、熱を加えたときに前記端子のSnが溶け込んで拡散する速度を前記第1層よりも前記第2層を遅くして、前記端子が張り付くことを防止するように構成されたことを特徴とする電気部品用ソケット。
【請求項9】
前記第1層が、Pdと、該Pdよりも重量比が小さいCuとを含む、Pd合金めっき層であることを特徴とする請求項7に記載の電気部品用ソケット。」

第3 原査定における拒絶理由の概要
この出願の請求項1、請求項2及び請求項4ないし請求項8に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、この出願の請求項3及び請求項9に係る発明は、以下の引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1.特開2008-270192号公報
引用文献2.国際公開第2007/034921号

第4 引用文献に記載された発明等
1 引用文献1
原査定で引用された引用文献1には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものである。

(1) 段落0002から段落0006まで
「【背景技術】
【0002】
従来、携帯電話機や携帯端末機器等に用いられているプッシュスイッチには、リン青銅やベリリウム銅、近年はコルソン系銅合金などの銅合金や、ステンレスなどの鉄系合金などのばね性に優れた導電性基材に銀めっきを施した材料が使用されてきた。
従来は、導電性基材、特にステンレスなどの鉄系合金上にニッケル下地層を形成した後、直接銀表層めっきを形成した材料を用いていた。一方、携帯電話のeメールの普及により繰り返しのスイッチング動作が多くなっている。短期間でスイッチングを繰り返すことでスイッチング部が発熱し、銀めっきを透過した酸素がニッケルを酸化せしめて銀を剥離しやすくすることが知られていた。
【0003】…(略)…【0006】
そこで、本発明は、スイッチングが繰り返されるような環境下で使用されても、表面の銀層が剥離することなく、かつ製造上の制約が緩和される、可動接点部品用銀被覆材とその製造方法を提供することを目的とする。」

(2) 段落0009から段落0014まで
「【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の可動接点部品用銀被覆材の一実施態様を示す断面図である。図1において、1は導電性基材、2は下地層、3は中間層、4は最表層である。
【0010】
導電性基材1は、可動接点部品用として用いるに足る導電性、バネ特性、耐久性等を有する材料であり、本発明においては銅または銅合金からなる。
基材1として好ましく用いられる銅合金としては、ベリリウム銅(Cu-Be)、リン青銅、黄銅、洋白、コルソン合金などが挙げられる。
基材1の厚さは、0.03?0.3μmが好ましく、0.05?0.1μmであることがさらに好ましい。
【0011】
基体1の面上には厚さ0.01?0.5μm、好ましくは0.05?0.1μmのニッケル(Ni)またはNi合金からなる下地層2が被覆されている。
下地層2に用いられるNi合金としては、Ni-P系、Ni-Sn系、Ni-Co系、Ni-Co-P系、Ni-Cu系、Ni-Cr系、Ni-Zn系、Ni-Fe系などの合金が好適に用いられる。NiおよびNi合金は、めっき処理性が良好で、価格的にも問題がなく、また融点が高いためバリア機能が高温環境下にあっても衰えが少ない。
また、基材1は銅または銅合金からなるので、基材1からの銅の拡散が、最表層4の銀の剥離の要因の一つとなりうる。しかし、この態様では、下地層2が基材1からの銅の拡散を防止するので、最表層4の銀が剥離しにくくなる。下地層2の厚さの下限は、基材1からの銅の拡散を防ぐ観点から決定され、下地層2の厚さの上限は、被覆材から電気接点材料をプレス加工等により形成する際に加工性が低下し、下地層2などに割れが発生するおそれを防ぐ観点から決定される。
【0012】
下地層2上には、パラジウム(Pd)、パラジウム合金、または銀スズ合金からなる厚さ0.01?0.5μm、好ましくは0.05?0.2μmの中間層3が被覆される。中間層3として、パラジウムまたはパラジウム合金を用いた場合には、パラジウム及びその合金は硬度が高く、厚くなると加工性が悪く、割れが発生しやすくなるため、パラジウムまたはパラジウム合金を中間層3とする場合、その厚さは0.2μm以下とすることが好ましい。なお、中間層3の厚さの下限は、下地層2の成分の酸化を防ぐ観点から決定される。
パラジウム、パラジウム合金、および銀スズ合金はいずれも銅より酸化されにくい金属または合金である。したがって、銅中間層を施したものと比較して、中間層3の表面の酸化による最表層4の銀または銀合金層との密着性の低下、および中間層3の成分が最表層4に表れて酸化することによる導電性(接触抵抗)の低下が起こりにくい。
【0013】
中間層3に用いられるパラジウム合金としては、金パラジウム合金(Pd-Au)、銀パラジウム合金(Pd-Ag)、スズパラジウム合金(Pd-Sn)、インジウムパラジウム合金(Pd-In)が好ましい。
また、パラジウム(Pd)を合金化することでより拡散しにくくなるため、銀または銀合金層との密着性が低下しにくくなり、さらに中間層3の成分が最表層4に表れて酸化することによる導電性(接触抵抗)の低下が起こりにくくなる。
また、銀スズ合金層を中間層3に用いることで、パラジウム同様に拡散しにくく、銀または銀合金層との密着性が低下しにくくなり、さらに中間層3の成分が最表層4に表れて酸化することによる導電性(接触抵抗)の低下が起こりにくくなる。
【0014】
中間層3上には、銀(Ag)または銀合金からなる最表層4が形成される。銀(Ag)または銀合金からなる最表層4は接点部材としての導電性を向上させるために設ける層であり、その厚さは好ましくは0.5?3.0μm、さらに好ましくは1.0?2.0μmである。
また、最表層4として好ましく用いることができる銀合金としては、銀スズ合金、銀ニッケル合金、銀銅合金、銀パラジウム合金などの2成分系、それらを組み合わせた多成分系の合金を挙げることができる。」

上記(1)及び(2)の記載によれば、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 スイッチングが繰り返されるような環境下で使用されても、表面の銀層が剥離することなく、かつ製造上の制約が緩和される、可動接点部品であって、
導電性基材1、下地層2、中間層3及び最表層4を有し、
下地層2上には、パラジウム合金からなる厚さ0.01?0.5μm、好ましくは0.05?0.2μmの中間層3が被覆され、中間層3に用いられるパラジウム合金としては、金パラジウム合金(Pd-Au)、銀パラジウム合金(Pd-Ag)、スズパラジウム合金(Pd-Sn)、インジウムパラジウム合金(Pd-In)が好ましく、
中間層3上には、銀合金からなり、接点部材としての導電性を向上させるために設ける層である最表層4が形成され、その厚さは好ましくは0.5?3.0μm、さらに好ましくは1.0?2.0μmであり、最表層4として用いられる銀合金としては、銀スズ合金、銀ニッケル合金、銀銅合金、銀パラジウム合金などの2成分系、それらを組み合わせた多成分系の合金が好ましい、
可動接点部品。」

2 引用文献2
原査定で引用された引用文献2には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものである。

(1) 段落0001から段落0003まで
「技術分野
この発明は、半導体装置(以下「ICパッケージ」という)等の電気部品に電気的に接続される電気接触子及び、この電気接触子が配設された電気部品用ソケットに関するものである。
背景技術
従来から、この種の電気接触子としては、電気部品用ソケットとしてのICソケットに設けられたコンタクトピンが知られている。このICソケットは、配線基板上に配置されると共に、検査対象であるICパッケージが収容されるようになっており、このICパッケージの端子と、配線基板の電極とが、そのコンタクトピンを介して電気的に接続されるようになっている。
そのコンタクトピンは最表層がAuメッキ(極微量のCoが添加されている)層で、下地層がNiで成形されており、一方のICパッケージ端子は鉛が設けられていない、主成分が錫でできている、いわゆる鉛フリー半田により形成されたものがあり、これらが接触されることにより、互いに電気的に接続されて、バーンイン試験が行われるようになっている。」

(2) 段落0007から段落0009まで
「 かかる課題を達成するために、本発明者らは鋭意検討した結果、以下のことを見出した。すなわち、従来では、コンタクトピンの最表層がAuメッキ層で、下地層がNiで成形されているため、鉛フリー半田の端子を有するICパッケージを対象としたバーンイン試験を繰り返すうちにAuが端子側に溶け込んでAuメッキ層が無くなり、下地層Niが露出するようになる。そして、Niが空気中で酸化し、比抵抗の大きい酸化被膜を作る。その結果、コンタクトピンの端子に対する接触部分の電気抵抗値が大きくなることを見出した。
このことにより、本発明者らは、電気接触子側の最表層が電気部品端子側に溶け込まず、下地層Niが露出しないように、電気部品端子の半田中のSnがバーンイン環境(高温)下で、電気接触子側に転写するようにし、且つ、最表層中に拡散して表面にSnが酸化物として蓄積され難いようにすれば、繰り返して使用しても、接触部分の電気抵抗の早期の上昇が抑制されるものと考えた。
そこで、請求項1に記載の発明は、導電性を有する材料から成る基材と、熱を加えることによりSn(錫)が溶け込んで拡散する材料から成る最表層とを有する電気接触子としたことを特徴とする。」

(3) 段落0042から段落0044まで
「 この実施の形態1の電気接触子は、ここでは、バーンイン試験用のICソケット(電気部品用ソケット)に配設されるコンタクトピン11で、このコンタクトピン11を介して、バーンイン試験時に、「電気部品」であるICパッケージと配線基板とを電気的に接続するようにしている。
このICパッケージは、方形状のパッケージ本体の下面に多数の端子が設けられ、この端子は、主成分がSnで鉛を含まないいわゆる鉛フリー半田により成形されている。
そのICソケットは、配線基板上に取り付けられるソケット本体を有し、このソケット本体に、複数のコンタクトピン11が配設されている。」

(4) 段落0083から段落0085まで
「 ここで、図11乃至図16には、それぞれ、発明の実施の形態1の異なる変形例を示す。
図11に示すコンタクトピン11は、Pd-Agメッキ層14aと下地層13との間に、Pdメッキ層14bが形成され、図12に示すコンタクトピン11は、Pd-Agメッキ層14aと下地層13との間に、Agメッキ層14cが形成され、図13に示すコンタクトピン11は、Pd-Agメッキ層14aの上に、Pdメッキ層14bが形成され、図14に示すコンタクトピン11は、Pd-Agメッキ層14aの上に、Agメッキ層14cが形成され、図15に示すコンタクトピン11は、下地層13の上に、Pdメッキ層14bとAgメッキ層14cとが順に積層され、図16に示すコンタクトピン11は、下地層13の上に、Agメッキ層14cとPdメッキ層14bとが順に積層されている。
このようなものにあっても、コンタクトピン11の最表層14にPdとAgからなるメッキ層を設けたため、バーンイン環境下(80℃?170℃)で、ICパッケージ端子の半田中のSnが、コンタクトピン11の最表層14に転写して拡散する。従って、PdとAgがICパッケージ端子側に溶け込むことなく、下地層13のNiが露出しないと共に、最表層14の表面にSnが酸化物として蓄積され難い。その結果、バーンイン試験を繰り返しても、コンタクトピン11の接触部分の電気抵抗の早期の上昇が抑制されることとなる。」

上記(1)ないし(4)の記載によれば、引用文献2には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「 コンタクトピン11を介して、主成分がSnであるICパッケージの端子と配線基板とを電気的に接続するようにして、バーンイン試験を行うにあたり、
従来のようにコンタクトピンの最表層がAuメッキ(極微量のCoが添加されている)層で、下地層がNiで成形されている場合には、バーンイン試験を繰り返すうちにAuが端子側に溶け込んでAuメッキ層が無くなり、下地層Niが露出するようになって、Niが空気中で酸化し、比抵抗の大きい酸化被膜を作る結果、コンタクトピンの端子に対する接触部分の電気抵抗値が大きくなるという課題があったが、
下地層13の上に、Pdメッキ層14bとAgメッキ層14cとが順に積層され、又はAgメッキ層14cとPdメッキ層14bとが順に積層されてコンタクトピン11が形成されることにより、バーンイン環境下(80℃?170℃)で、ICパッケージ端子の半田中のSnが、コンタクトピン11の最表層14に転写して拡散し、従って、PdとAgがICパッケージ端子側に溶け込むことなく、下地層13のNiが露出しないと共に、最表層14の表面にSnが酸化物として蓄積され難く、その結果、バーンイン試験を繰り返しても、コンタクトピン11の接触部分の電気抵抗の早期の上昇が抑制されることとなる。」

3 前置報告で引用された文献
前置報告で引用された文献である特開2011-122194号公報(以下「前置引用文献3」という。)の段落0005の記載によれば、前置引用文献3には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「 Ag25?50wt%、Pd25?50wt%、Cu15?40wt%からなるAg-Pd-Cu合金に、In0.1?5wt%を添加することにより、圧延加工後および析出硬化後の硬さを向上させ、合金の機械特性の向上すなわち耐摩耗性を向上させた電機・電子機器用の材料とし、
さらに、上記Ag-Pd-Cu-Inの4元合金に、用途に応じて特性を改善する添加元素として、Au、Pt、Re、Rh、Co、Ni、Si、Sn、ZnもしくはBの少なくとも1種を0.01?3wt%を添加することで、硬さをさらに向上させ、また、Auは耐酸化性、Ptは耐化学薬品性についても有用であり、Re、RhおよびNiは結晶粒を微細化させる効果材としても作用する。」

また、前置報告で引用された文献である特開2009-122087号公報(以下「前置引用文献4」という。)の段落0021及び0060の記載によれば、前置引用文献4には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「 半導体ウエハ、アレー基板、液晶パネル、PDPパネル等の種々の電子デバイスの電極に直接接触させて通電検査等を行うためのプローブとして、
Pd及びAgを含む合金(Pd=35%、Ag=30%)、Au、Ag及びPtを含む合金(Au=70%、Ag・Pt)、Au、Ag、Cu及びPtを含む合金(Au =50%、Ag・Cu・Pt)、及びPd、Ag及びCuからなる合金又はPd、Ag及びCuを含む合金(Pd=40%、Ag=30%、Cu=30%)を用いる。」

また、前置報告で引用された文献である特開2007-271472号公報(以下「前置引用文献5」という。)の段落0001、0011及び0014の記載によれば、前置引用文献5には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「 LSIチップなどの半導体集積回路の電気的諸特性を測定する際に用いられるプローブピンにおいて、
先端接触部をパッド材料が付着せず接触抵抗値が低く安定したAu合金、Pd合金あるいは純Niなどの先端接合金属で形成し、
先端接合金属のAu合金としては、Au:60?80wt%に、Ag:5?30wt%、Pt:5?15wt%金合金のいずれか又は両方を含有し、残部が亜鉛又は銅、あるいは亜鉛と銅である合金がさらに好ましく、Pd合金としては、Pd:30?40wt%、Ag:25?35wt%、Au:5?15wt%、Pt:5?15wt%、Zn:0.5?10wt%、残部がCuの組成で構成するのが好ましい。」

また、前置報告で引用された文献である特開2009-258100号公報(以下「前置引用文献6」という。)の段落0002、0018、0020及び0030の記載によれば、前置引用文献6には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「 半導体装置(半導体集積回路装置)の電気的特性の検査を行う際に用いられるポゴピン方式の導電性接触子において、
上部プランジャ13を、検査対象の半導体装置の外部電極と接触する非貴金属の先端部aと、前記外部電極に接触せず筒体11に摺接する貴金属のベース部bとで構成し、
ベース部bに用いる貴金属を、Au、Pt、Agの内から選ばれる少なくとも一つとし、先端部aに用いる非貴金属(前記貴金属とは異なる純金属やその金属合金)を、Snに対する溶解速度がPbよりも遅い金属または金属合金から選ばれる少なくとも一つとする。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1) 対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、以下のとおりである。

ア 引用発明の「可動接点部品」は、本願発明1の「電気接触子」に相当する。

イ 引用発明の「パラジウム合金からなる厚さ0.01?0.5μm、好ましくは0.05?0.2μmの中間層3」及び「中間層3上」の「銀合金からなり、接点部材としての導電性を向上させるために設ける層である最表層4」が、本願発明1の「第1層(Pd単体の層を除く)」及び「該第1層の外側に形成され」る「第2層」にそれぞれ相当する。

ウ 引用発明における「最表層4」を構成する「銀スズ合金、銀ニッケル合金、銀銅合金、銀パラジウム合金などの2成分系、それらを組み合わせた多成分系の合金が好ましい」「銀合金」と、本願発明1の「第2層」を構成する「Agと、該Agよりも重量比が小さいAuとを含む、Ag合金めっき層」とは、「第2層」を構成する「Ag合金めっき層」であるという点で共通するものである。

(2) 一致点及び相違点
上記(1)の対比の結果をまとめると、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

ア 一致点

「 電気接触子であって、
第1層(Pd単体の層を除く)と、
該第1層の外側に形成される第2層と、
を有し、
前記第2層が、Ag合金めっき層で構成される
電気接触子。」

イ 相違点

(ア) 相違点1
本願発明1では、「電気接触子」が「Snを含む端子を備えた電気部品の前記端子に電気的に接触される」ものであり、「第1層」が「熱を加えることにより前記端子のSnが溶け込んで拡散する」ものであり、「第2層」が「熱を加えることにより前記端子のSnが溶け込んで拡散する速度が前記第1層よりも遅い」ものであり、「前記第1層と前記第2層とが、熱を加えたときに前記端子のSnが溶け込んで拡散する速度を前記第1層よりも前記第2層を遅くして、前記端子が張り付くことを防止するように構成され」ているのに対して、引用発明では、そのようになっているかどうかが不明である点。

(イ) 相違点2
「第2層」を構成する「Ag合金めっき層」が、本願発明1では、「Agと、該Agよりも重量比が小さいAuとを含む」ものであるのに対して、引用発明では、「銀スズ合金、銀ニッケル合金、銀銅合金、銀パラジウム合金などの2成分系、それらを組み合わせた多成分系の合金が好ましい」とされている点。

(3) 相違点1についての判断
引用発明が相違点1に係る本願発明1の構成を備えるようにするには、引用発明において、「可動接点部品」をSnを含む端子に接触されるものとし、「パラジウム合金からなる厚さ0.01?0.5μm、好ましくは0.05?0.2μmの中間層3」及び「銀合金からなり、接点部材としての導電性を向上させるために設ける層である最表層4」を、ともに熱を加えることによりSnが溶け込んで拡散するものとし、後者にSnが溶け込んで拡散する速度を前者にSnが溶け込んで拡散する速度よりも遅くする必要があるが、引用文献1には、そのようなことを示唆する事項は記載されていない。
また、引用文献2には、「下地層13の上に、Pdメッキ層14bとAgメッキ層14cとが順に積層され」て「コンタクトピン11が形成され」、これを用いてICパッケージのバーンイン試験を行う際に、「バーンイン環境下(80℃?170℃)で、ICパッケージ端子の半田中のSnが、コンタクトピン11の最表層14に転写して拡散」するという技術事項が記載されており、この「下地層13の上に、Pdメッキ層14bとAgメッキ層14cとが順に積層され」て形成された「コンタクトピン11」は、本願の図3で示されたものと同一であることから、引用文献2に記載された「Agメッキ層14c」は、本願の明細書の段落0042等に記載される「Agめっき層」と同様に、「Pdメッキ層14b」よりも、Snが溶け込んで拡散する速度が遅いものであると考えられるが、引用文献2には、「下地層13の上に、Pdメッキ層14bとAgメッキ層14cとが順に積層され」ることの他に、逆に「Agメッキ層14cとPdメッキ層14bとが順に積層され」ることも並列に記載されており、引用文献2の記載から、熱を加えたときにSnが溶け込んで拡散する速度を、第1層よりも、その外側に形成される第2層を遅くするという技術思想を読み取ることはできない。すなわち、引用発明のように「パラジウム合金からなる厚さ0.01?0.5μm、好ましくは0.05?0.2μmの中間層3」及び「銀合金からなり、接点部材としての導電性を向上させるために設ける層である最表層4」を順に積層した場合に、後者にSnが溶け込んで拡散する速度を前者にSnが溶け込んで拡散する速度よりも遅くするといったことは、引用文献2において記載も示唆もされていない。
また、前置引用文献6には、「半導体装置(半導体集積回路装置)の電気的特性の検査を行う際に用いられるポゴピン方式の導電性接触子」において、「検査対象の半導体装置の外部電極と接触する非貴金属の先端部a」に用いる非貴金属を「Snに対する溶解速度がPbよりも遅い金属または金属合金から選ばれる少なくとも一つとする」という技術事項が記載されているが、引用発明のように「中間層3」及び「最表層4」を順に積層した場合に、「最表層4」にSnが溶け込んで拡散する速度を「中間層3」にSnが溶け込んで拡散する速度よりも遅くするといったことは、記載も示唆もされていない。
さらに、前置引用文献3ないし前置引用文献5は、本願発明1のような「第1層」及び「第2層」を有する「電気接触子」を開示するものではないため、相違点1に係る本願発明1の構成を開示するものでもない。
したがって、相違点1に係る本願発明1の構成は、引用発明と引用文献2又は前置引用文献3ないし前置引用文献6に記載された技術事項とに基づいて、当業者が容易に想到し得るものであるということはできない。

(4) 本願発明1についてのまとめ
以上のとおりであるから、本願発明1は、相違点2を検討するまでもなく、引用文献1、引用文献2及び前置引用文献3ないし前置引用文献6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

2 本願発明2ないし本願発明9について
本願発明2ないし本願発明9は、相違点1に係る本願発明1の構成に対応する構成、すなわち、「電気接触子」が「Snを含む端子を備えた電気部品」の「前記端子に電気的に接触される」ものであり、「第1層」が「熱を加えることにより前記端子のSnが溶け込んで拡散する」ものであり、「第2層」が「熱を加えることにより前記端子のSnが溶け込んで拡散する速度が前記第1層よりも遅い」ものであり、「前記第1層と前記第2層とが、熱を加えたときに前記端子のSnが溶け込んで拡散する速度を前記第1層よりも前記第2層を遅くして、前記端子が張り付くことを防止する」との構成を備えるものである。
そして、上記1(3)のとおり、相違点1に係る本願発明1の構成は、引用発明と引用文献2又は前置引用文献3ないし前置引用文献6に記載された技術事項とに基づいて、当業者が容易に想到し得るものであるということはできないから、相違点1に対応する本願発明2ないし本願発明9の構成も同様である。
したがって、本願発明2ないし本願発明9は、引用文献1、引用文献2及び前置引用文献3ないし前置引用文献6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

第6 原査定について
上記第5のとおり、本件補正がされた本願発明1ないし本願発明9は、引用発明と相違しているから、引用文献1に記載された発明とはいえない。
また、本件補正がされた本願発明1ないし本願発明9は、引用文献1、引用文献2及び前置引用文献3ないし前置引用文献6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
したがって、原査定の理由は、維持することができない。

第7 当審拒絶理由について
合議体での合議の結果、請求項6の「前記第1層が、厚さ0.1μm以上5μm以下であり」との記載について、請求項6が請求項5を引用する場合に意味が明確でないとの拒絶理由が通知されていたが、本件補正により請求項6が請求項5を引用しないものとなったため、この拒絶理由は解消した。

第8 むすび
以上のとおりであるから、原査定の理由によっては、本願は拒絶をするべきものであるということはできない。
また、他に、本願は拒絶をするべきものであるとする理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-03-04 
出願番号 特願2014-519931(P2014-519931)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G01R)
P 1 8・ 121- WY (G01R)
P 1 8・ 113- WY (G01R)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山崎 仁之  
特許庁審判長 小林 紀史
特許庁審判官 櫻井 健太
須原 宏光
発明の名称 電気接触子及び電気部品用ソケット  
代理人 佐野 弘  

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