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審決分類 審判 一部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  G06K
審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G06K
管理番号 1349468
審判番号 無効2017-800019  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-02-07 
確定日 2019-03-11 
事件の表示 上記当事者間の特許第3823487号発明「光学情報読取装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
平成 9年10月27日 特許出願(特願平9-294447号)
平成18年 7月 7日 設定登録(特許第3823487号)
平成24年12月 7日 訂正審判請求
(訂正2012-390156号)
平成25年 3月19日 訂正拒絶審決
平成25年 4月25日 審決取消訴訟
(平成25年(行ケ)第10115号)
平成27年 2月26日 判決言渡(訂正拒絶審決取消)
平成27年 7月 2日 訂正認容審決

平成29年 2月 7日 本件無効審判請求
平成29年 5月 1日 手続補正(無効審判請求書)
平成29年 6月 1日 答弁、訂正請求
平成29年 6月16日 訂正請求の取下げ、手続補正(答弁書)
平成29年 7月27日 審理事項通知書(1)
平成29年 9月 1日 口頭審理陳述要領書(1)
平成29年 9月20日 審理事項通知書(2)
平成29年10月20日 口頭審理陳述要領書(2)
平成29年10月30日 口頭審理
平成30年 1月16日 審理終結通知

第2 請求の趣旨等
1 請求の趣旨
特許第3823487号の特許請求の範囲の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。
との審決を求める。
(以下、特許第3823487号の特許請求の範囲の請求項1に係る発明を「本件発明」といい、本件発明についての特許を「本件特許」という。)

2 答弁の趣旨
本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。
との審決を求める。

3 本件発明
本件発明は、平成27年7月2日付訂正認容審決による訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載からみて、次のとおりのものである。(審判請求書に倣って「構成A」等と分説し、さらに,構成Dについては、当審において、D1?D5に分説した。)

A 複数のレンズで構成され、読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと、
B 前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され、その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に、当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサと、
C 該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りと、
D D1 前記光学的センサからの出力信号を増幅して、
D2 閾値に基づいて2値化し、
D3 2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し、
D4 検出結果を出力する
カメラ部制御装置と、
E を備える光学情報読取装置において、
F 前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう、前記絞りを配置することによって、前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し、
G 前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように、前記射出瞳位置を設定して、露光時間などの調整で、中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにしたことを特徴とする
H 光学情報読取装置。

第3 無効理由
1 無効理由1
本件特許は,構成Dの「所定の周波数成分比」,構成Fの「相対的に長く設定し」,構成Gの「所定値」について,特許請求の範囲の記載が明確でなく,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,同法第123条第1項第4号に該当し,無効にすべきものである。

2 無効理由2
本件特許は,本件発明の構成Dの「所定の周波数成分比」,構成Fの「相対的に長く設定し」及び構成Gの「所定値」をそれぞれ含む構成D,F及びGについて,発明の詳細な説明の記載が明確かつ十分でなく,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,同法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきものである。

第4 証拠方法
1 甲号証
甲第1号証 広辞苑(第五版)「所定」の項
甲第2号証 特開平11-134429号公報
甲第3号証 平成28年(ワ)第32038号の原告準備書面(11)

2 乙号証
乙第1号証 JIS二次元コードシンボル-QRコード-基本仕様
乙第2号証 特開平8-180125号公報

第5 当事者の主張
1 請求人の主張
(1)無効理由1について
ア 構成Dの「所定の周波数成分比」について
「周波数成分比」の文言は一般的な用語でなく、本件特許の明細書にも「所定の周波数成分比」がいかなるものか、いかなるものが「周波数成分」の「比」なのかについて何ら説明がない。本件特許の出願前の公開公報において「周波数成分比」の用語を使用したものはわずか2件でいずれも同一出願人によるものであったから、当該用語は出願人による「造語」とも考えられ、その説明が明細書にない以上、当業者がその意味を理解できない。「周波数成分」が排除されるとの一事をもって「周波数成分比」の積極的な意味が定義されるものではない。(請求書、口頭審理陳述要領書(1)(2))

2値化された信号が「2次元コード」であることは、本件特許の特許請求の範囲から読み取れない。(口頭審理陳述要領書(1))

2次元コードのデータが記載される領域は、そのデータの内容によってパターンが変化するため、「所定の」が意味する「定められた」ものである「周波数成分比」の検出は行われないから、データが記載される領域も含めて2次元コードの読み取り全般が「所定の周波数成分比の検出」に含まれるとの被請求人解釈は、文言の意味に反する。(口頭審理陳述要領書(1))

構成Dのカメラ部制御装置におけるD1?D4によって2次元コードの読み取りが行われる旨の被請求人解釈は誤っているものの、仮にこのように読取が行われるとしても、D3の「2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出」する処理は、読み取りを行うための前段階の一部の処理にすぎず、2次元コードの読み取りとは別の処理であることが明らかである。「周波数成分比の検出」について、明細書には【0031】の記載があり、所定の周波数成分比を検出するのは周波数分析器が行う処理であることが読み取れるが、具体的にどのような周波数成分の比を検出するかについて記載がない。図4には、図4と実質的に同じ図面を使用した同日付出願(甲2)によれば、「補助アンプ-2値化回路-周波数分析器ルート」と「A/D変換器ルート」の2つが記載されており、2次元コードの読み取りは後者から出力されたデータに基づいて行われているから、「所定の周波数成分比(の検出)」が「2次元コードの読み取りをすること」を意味するとの被請求人の主張は明細書の記載に反する。(口頭審理陳述要領書(1))

イ 構成Fの「相対的に長く設定し」について
特許請求の範囲において「相対的」の基準が明確でないため、「相対的に長く設定し」とは「射出瞳位置まえの距離がどのように設定されていることを意味するかが不明である。
「前記絞りを配置することによって」、「相対的に長く設定」できるという因果関係が明示されているとしても、「相対的に長く設定」する際の比較対象となる「絞りの配置」が「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう、絞りを配置」していない場合と比較することは特許請求の範囲に記載されていない。(請求書、口頭審理陳述要領書(1))

ウ 構成Gの「所定値」について
「所定値」は「あらかじめ定められた一定の値」と理解されるが、かかる「所定値」について、特許請求の範囲に何ら限定がなく、明細書にいかなる値が「所定値」に該当するか何ら説明がない。「所定値」に限定がないから、明細書の図5(c)の従来例のセンサでも中心部出力と周辺部出力の比が「所定値以上」となる関係が存在し得る。(請求書、口頭審理陳述要領書(2))

被請求人の口頭審理陳述要領書(1)における主張は、「射出瞳位置」について異なる条件を規定した旨を述べるのみで、これが異なる条件を規定するものであっても明確性要件違反がない旨の主張となっていない点では、答弁書の主張と変わらない。(口頭審理陳述要領書(2))

「所定値」が明確であるというためには、どのような値をもつものが技術的範囲に含まれるのか(外延)が明確でなければならないが、特許請求の範囲からも明細書を参酌しても、これを理解することができない。(口頭審理陳述要領書(2))

被請求人は、「所定値」とは「露光時間等」により「適切な読取」が実現できるような値を意味すると主張しているようである。
しかし、(a)上記したとおり、この解釈を行うと(1)アのとおり従来例が含まれることになり不合理である。(b)「・・・所定値以上となるように前記射出瞳位置を設定」することと結果的に「適切な読取」ができることとは別の事項である。従来例でも適切な読取は実現されていたから、適切な読取ができてさえいれば「・・・所定値以上となるように」射出瞳位置が設定されているという関係は成り立たない。(c)そもそも「適切な」読み取りなるものが具体的に如何なる意味で「適切」か、明細書に記載はなく、不明である。結果的に読み取りがが出来ていればよいというのであれば、従来例でも読み取りはできており、(a)で上記したとおり不合理である。(口頭審理陳述要領書(2))

(2)無効理由2について
ア 「所定の周波数成分比」を含む構成Dについて
(1)アのとおり、「周波数成分比」の文言は一般的な用語でなく、明細書にも【0031】に「周波数分析器58は、2値化された走査線信号の内から所定の周波数成分比を検出し」との記載があるのみで、いかなるものが「所定の周波数成分比」であるのか何ら説明がなされていない。当業者は「所定の周波数成分比」の意味を理解できず、かかる技術的意義も理解できず、実現方法も記載されていないから、構成Dの「カメラ制御装置」を実施できない。(請求書)合議体の見解においてもこの点は明らかでない。(口頭審理陳述要領書(2))
「所定の周波数成分比」の「検出」が2次元コードからデータを読み取ることを意味することについての記載もない。「所定の周波数成分比の検出」は2次元コードの読取とは別の処理である。メモリコントローラ61は検出結果を受けるのみであり、「所定の周波数成分比の検出」を行うものでなく、仮にメモリコントローラ61が2次元コードを読み取るとしても周波数分析器58の行う「所定の周波数成分比の検出」とは別の処理である。(口頭審理陳述要領書(1))
合議体は(a)カメラ部制御装置における(周波数分析器を用いない)「所定の周波数成分比の検出,(b)画像解析を待たずに行われる他のパターンの検出について自明であれば、この観点からも実施可能というが、(a)(b)が自明であるか否かと「所定の周波数成分比」がいかなるものかは別問題であり、(a)(b)が自明でも「所定の周波数成分比」は不明であって実施可能でない。(口頭審理陳述要領書(2))
合議体のいう(a)は明細書に全く開示がない。(口頭審理陳述要領書(2))
合議体のいう(b)も明細書から到底理解できない。合議体の見解は他出願公報や本件特許出願後の知見に基づいて本件明細書を見た結果である。(口頭審理陳述要領書(2))

イ 「相対的に長く設定し」を含む構成Fについて
(1)イのとおりである。図6bの絞りの位置に設定すれば複数のレンズからなる光学系すべてにおいて射出瞳位置が図6bのように設定されるとは限らない。(請求書)
光学的センサから射出瞳位置までの距離は、絞りの位置だけでなく、使用レンズの具体的構成(枚数、レンズ形状、絞りの大きさ等)によってそれぞれ異なるが、本件明細書には、レンズが2枚のものの説明があるのみであり、複数レンズからなる光学系すべてにおいてどのようにすれば「相対的に長く設定」されるか理解できない。(口頭審理陳述要領書(1)(2))

ウ 「所定値」を含む構成Gについて
どのように所定値を設定すれば課題を解決できるのか、明細書の発明の詳細な説明に手掛かりとなる記載がない。(請求書、口頭審理陳述要領書(2))

2 被請求人の主張
(1)無効理由1について
ア 構成Dの「所定の周波数成分比」について
特許請求の範囲の記載によれば、カメラ部制御装置は、D1出力信号の増幅、D2閾値に基づく2値化、D32値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出、及びD4検出結果の出力を行うことによって、二次元コードの読み取りを行う。そして、D3の周波数成分比の検出は、D2で2値化されたデータの読み取りを行うことであり、この読み取りが行われて、次のD4の検出結果の出力が可能となる。
2次元コードには、位置検出パターン、位置合わせパターン、タイミングパターン等が含まれており、これらのパターンの読み取りも周波数成分比検出に含まれている。ただ、位置検出パターン等の検出は周波数成分比検出の一例であるが、周波数成分比検出は、この位置検出パターンの検出のみに限られるものではない。
QRコードのシンボルは機能パターンのみでなく、符号化領域であってもその配置は予め定められている。(符号化領域であるデータ、形式情報、型番情報、これらの誤り訂正符号、残余ビットも「所定のセル構造となっている。)定められた領域から情報を読み取る(デコードする)のに、バイナリーコードである2次元コードは「0」(明)か「1」(暗)かに2値化された信号からデコードを行うので、本件発明の「カメラ制御装置」では「0」(明)か「1」(暗)かの周波数成分比を検出すると規定している。(答弁書、口頭審理陳述要領書(2))

符号化領域の「0」と「1」とのパターンも、一定ではないものの、その情報に応じて予め定まったパターンとなっている。乙第2号証にあるように、2次元コードの位置情報を検出するためにソフト的に画像処理する方法とハード的に位置決めシンボルの存在を検出する方法が知られており、ハード的な処理に代えてソフト的な処理を採用することは、当業者にとって自明である。
「所定の周波数成分比」は「形式情報やデータ等の符号化領域の情報」を含む。2次元コードからデータを読み取るのに符号化領域のデータ等がなければ、2次元コードのデコードはできない。符号化領域のデータ等の情報がなければ、2次元コードデコードはできない。
A/D変換器からの2次元コードの画像情報をデコードする処理も「所定の周波数成分比」の検出に含まれる。(口頭審理陳述要領書(2)

イ 構成Fの「相対的に長く設定し」について
特許請求の範囲には「前記絞りを配置することによって」、「相対的に長く設定」できるという因果関係が明示されているから、「相対的に長く設定」する際の比較対象となる「絞りの配置」が「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう、絞りを配置」していないものであることは、特許請求の範囲の記載から明らかであり、また、明細書【0009】の記載を参酌すれば、一層明らかである。(答弁書)

ウ 構成Gの「所定値」について
「所定値」に関する構成Gは、構成A?Fを備える光学情報読取装置の作用効果を記載しており、特許請求の範囲では、光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が「所定値」以上となるように、「前記射出瞳位置を設定」すると記載しており、「所定値」は、「絞りの配置」に伴う「射出瞳位置の設定」に起因する作用効果である。【0042】の明細書の作用効果に照らしても、上記の出力の比が「所定値以上」となるようにするのは「射出瞳位置の設定」である。(答弁書)
答弁書で主張としようとしたのは、構成Gが「射出瞳位置」の設定に関する条件の特定でないとするのではない。構成Gの「所定値」は、本件発明の目的及び効果が奏せられるようにすることの前提(構成F)を踏まえた上で、本件発明の目的及び効果が奏する射出瞳位置の条件を特定したもの。構成Fと構成Gとは「射出瞳位置」の設定について異なる条件を設定するもので、かつ、その規定する内容は明確である。(口頭審理陳述要領書(1))
構成Gで「所定値以上となるように射出瞳位置を設定」することの意義は、適切な読み取りを実現するために、センサ周辺部にある受光素子からの出力レベルを所定レベル以上になるように、射出瞳位置を設定することを意味している。(口頭審理陳述要領書(1))

(2)無効理由2について
ア 「所定の周波数成分比」を含む構成Dについて
明細書のカメラ部制御装置50からシステム制御装置70に出力されるデータには、画像メモリ60に記憶された周波数分析器58における所定の周波数成分比の検出結果が反映されている。(口頭審理陳述要領書(2))
符号化領域の「0」と「1」とのパターンも、一定ではないものの、その情報に応じて予め定まったパターンとなっている。(第2陳述5、8頁)2次元コードの位置情報を検出するためにソフト的に画像処理する方法とハード的に位置決めシンボルの存在を検出する方法が知られており(乙2)、ハード的な処理に代えてソフト的な処理を採用することは、当業者にとって自明である。(口頭審理陳述要領書(2))

イ 「相対的に長く設定し」を含む構成Fについて
特許請求の範囲及び段落【0009】の記載に照らして実施可能要件違反はない。光学的センサから射出瞳位置までの距離が、使用されるレンズの枚数等の具体的構成によって異なることには同意するが、本件発明の「相対的に長く設定」とは、全く異なる光学系における相対比較を規定したものでなく、光学系を定めた上で、絞りの配置位置を工夫して「相対的に長く設定」するものである。レンズが2枚であれ3枚であれ、光学系が定まった状態では、通常、光学的センサから遠くに絞りを配置(前絞り配置)した方が、光学的センサに近づくレンズ間の絞り配置(中絞り配置)よりは、光学的センサから射出瞳位置までの距離は長くなり、「相対的に長く設定」はこのことを指している。(口頭審理陳述要領書(2))

ウ 「所定値」を含む構成Gについて
構成Fの絞り配置とすることで適切な読み取りの実現に寄与することが、本件明細書【0041】に記載されている。そして、「照射光の光量や露光時間などを調整することが容易となり、中心部においても周辺部においても適切に読取が可能となる」所定値以上となるよう射出瞳位置を設定(【0042】)し、これにより、上記効果(適切な読取りの実現)が生じる。(口頭審理陳述要領書(1))

第6 当審の判断
1 本件特許の明細書の発明の詳細な説明及び図面(以下、単に「発明の詳細な説明」という。)の記載について
(1)構成Dに関する記載
「【0027】次に、2次元コード読取装置4の制御系統のブロック図である図4を参照してさらに説明を進める。本実施例の2次元コード読取装置4は、カメラ部制御装置50とシステム制御装置70の2つの制御装置を備えており、それぞれで分担して各種制御を行っている。」

「【0028】まず、カメラ部制御装置50側に関連する構成としては、CCDエリアセンサ41と、AGCアンプ52と、ローパスフィルタ(LPF)53と、基準電圧生成部54と、負帰還アンプ55と、補助アンプ56と、2値化回路57と、周波数分析器58と、A/D変換器59と、画像メモリ60と、画像メモリコントローラ61と、メモリ62と、照明発光ダイオード(照明LED)45などが挙げられる。
【0029】CCDエリアセンサ41は、2次元的に配列された複数の受光素子であるCCDを有しており、外界を撮像してその2次元画像を水平方向の走査線信号として出力する。この走査線信号はAGCアンプ52によって増幅されて補助アンプ56及びA/D変換器59に出力される。
【0030】AGCアンプ52は、外部から入力したゲインコントロール電圧に対応する増幅率で、CCDエリアセンサ41から出力された走査線信号を増幅するのであるが、このゲインコントロール電圧は負帰還アンプ55から出力される。この負帰還アンプ55には、AGCアンプ52から出力される走査線信号をローパスフィルタ53で積分して得た出力平均電圧Vavと、基準電圧生成部54からの基準電圧Vstとが入力されており、これらの電圧差△Vに所定ゲインを掛けたものがゲインコントロール電圧として出力される。
【0031】補助アンプ56は、AGCアンプ52によって増幅された走査線信号を増幅して2値化回路57に出力する。この2値化回路57は、上記走査線信号を、閾値に基づいて2値化して周波数分析器58に出力する。周波数分析器58は、2値化された走査線信号の内から所定の周波数成分比を検出し、その検出結果は画像メモリコントローラ61に出力される。
【0032】一方、A/D変換器59は、AGCアンプ52によって増幅されたアナログの走査線信号をディジタル信号に変換して、画像メモリコントローラ61に出力する。画像メモリコントローラ61は、アドレスバス及びデータバスによって画像メモリ60と接続されていると共に、やはりアドレスバス及びデータバスによってカメラ部制御装置50及びメモリ62と接続されている。
【0033】カメラ部制御装置50は、ここでは32bitのRISCCPUを用いて構成されており、基準電圧生成部54、A/D変換器59及び照明発光ダイオード45を制御することができるようにされている。基準電圧生成部54に対する制御とは、基準電圧を変更設定するなどの制御である。また、照明発光ダイオード45は、読取対象の2次元コードに対して照明用の赤色光を照射するものである。
【0034】また、カメラ部制御装置50は、システム制御装置70との間でデータのやり取りができるようにされている。・・・」

「【0034】・・・一方、システム制御装置70側に関連する構成としては、認識用LED21と、ブザー72と、液晶ディスプレイ(LCD)20と、キーパット74と、読み取り用スイッチ17と、シリアルI/F回路76と、IrDAI/F回路77と、FLASHメモリ78と、DRAM79と、リアルタイムクロック80と、メモリバックアップ用電池81などを備えている。
【0035】認識用LED21は、読み取り対象の画像情報が適切にデコードされた場合に点灯され、所定時間後に消灯される。また、ブザー72も、読み取り対象の画像情報が適切にデコードされた場合に鳴動される。液晶ディスプレイ20は、読み込んだ2次元コードなどを表示するためなどに用いられる。本実施例では2階調表示のLCDとして構成されている。キーパット74は、例えばテンキーや各種ファンクションキーを備えており、情報入力のために用いられる。読み取り用スイッチ17は、利用者が読取処理の開始を指示するためのスイッチである。
【0036】IrDAI/F回路77は、IrDA(Infrared Data Association )規格に準じた方法により図示しない外部装置との間で通信を行うものであり、通信モジュール35(図1(b)参照)を介してデータを外部装置に送信したり、外部装置からの信号(例えばシステムを動かすためのプログラムや送信を待機する命令等)を受信する。」

(2)構成F及び構成Gに関する記載
「【0007】本光学情報読取装置によれば、結像レンズが読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させ、その読取位置に配置された光学的センサが読み取り対象の画像を受光する。ここで、光学的センサは、受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されていると共に、受光素子毎に集光レンズが設けられているため、結像レンズによって結像された読み取り対象からの反射光は、集光レンズによって集光されて受光素子に入射する。
【0008】したがって、反射光が受光素子に対して垂直に入射する場合には、集光レンズによって集光されることで見かけ上の開口面積が拡大し、感度を向上させる効果があるが、反射光が受光素子に対して斜めに入射する場合には、集光レンズによって集光されることで逆に受光素子への集光率が低下して感度が低下する原因ともなる。光学的センサ単位で見ると、センサの中央部にある受光素子には反射光が垂直に入射するが、センサ周辺部にある受光素子に対しては反射光が斜めに入射する傾向にある。そのため、このセンサ周辺部にある受光素子に対して入射する反射光が極力斜めにならないようにすれば、適切な読取の点で有効である。
【0009】そこで、本光学情報読取装置においては、読み取り対象からの反射光が絞りを通過した後で結像レンズに入射するよう、絞りを配置している。つまり、結像レンズの複数のレンズ間に介装されていた場合(図6(a)参照)に比べて、複数のレンズで構成される結像レンズよりも前に配置した場合(図6(b)参照)には、光学的センサから絞りまでの光学的な距離が相対的に長くなる。絞りよりも像側(つまり光学的センサ側)にある光学系によって物体空間に生じる絞りの虚像を射出瞳(exit pupil)というが、光学的センサから射出瞳までの距離(射出瞳距離)は、光学的センサから絞りまでの光学的距離が長くなれば、それに伴って長くなるため、このような絞りの配置とすることで、結果的に光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定することができる。
【0010】そして、光学的センサから射出瞳位置までの距離が長くなれば、センサ周辺部にある受光素子に対して入射する反射光が斜めになる度合も、それに伴って小さくなる。したがって、光学的センサの周辺部の受光素子に対する集光レンズによる集光率の低下を極力防止することができ、適切な読み取りの実現に寄与する。
【0011】最終的には適切な読み取りを実現することが目的であるので、本発明の光学情報読取装置においては、光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように、射出瞳位置を設定している。このようにしておけば、中央部と周辺部の出力差を考慮しながら、例えば照射光の光量や露光時間などを調整することが容易となり、中心部においても周辺部においても適切に読取が可能となる。」

「【0039】このような構成の本実施例の2次元コード読取装置4によれば、結像レンズ34b,34c(図3参照)によって結像された2次元コードからの反射光は、CCDエリアセンサ41において、集光レンズ41bによって集光されてから受光素子41aに入射する。したがって、図5(a)に示すように、受光素子41aに対して垂直に入射する光は、集光レンズ41bによって集光されることで見かけ上の開口面積が拡大し、感度を向上させる効果があるが、図5(b)に示すように、受光素子41aに対して斜めに入射する光は、集光レンズ41bによって集光されることで逆に受光素子41aへの集光率が低下して感度が低下する原因ともなる。特に、CCDエリアセンサ41の中央部にある受光素子41aには反射光が垂直に入射するが、センサ周辺部にある受光素子41aに対しては反射光が斜めに入射する傾向にある。
【0040】この周辺部にある受光素子41aに対して入射する反射光が極力斜めにならないようにするため本実施例の2次元コード読取装置4では、図3に示すように、鏡筒43内において絞り34aを結像レンズ34b,34cよりも読取口25(図1,2参照)側に配置している。つまり、2次元コードにより反射された赤色光がまず絞り34aを通過し、その後、結像レンズ34b,34cに入射するよう、絞り34aが配置されている。これにより、結像レンズの複数のレンズ間に介装されていた場合(図6(a)参照)に比べて、複数のレンズで構成される結像レンズ(図3の34b,34cが相当する)よりも前に配置した場合(図6(b)参照)には、CCDエリアセンサ41から絞り34aまでの光学的な距離が相対的に長くなる。
【0041】CCDエリアセンサ41から射出瞳までの距離(射出瞳距離)は、CCDエリアセンサ41から絞り34aまでの光学的距離が長くなれば、それに伴って長くなるため、本実施例のように絞り34aを結像レンズ34b,34cよりも前(読取口25側)に配置することで、結果的にCCDエリアセンサ41から射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定することができる。そして、CCDエリアセンサ41から射出瞳位置までの距離が長くなれば、センサ周辺部にある受光素子41aに対して入射する反射光が斜めになる度合も、それに伴って小さくなる。したがって、図5(c)のグラフ中に破線で示すように、CCDエリアセンサ41の周辺部の受光素子41aに対する集光レンズ41bによる集光率の低下を極力防止することができ、適切な読み取りの実現に寄与する。」

「【0042】なお、適切な読み取りを実現するためには、センサ周辺部にある受光素子41aからの出力レベルが所定レベル以上になる必要がある。そのため、例えば、センサ中心部に位置する受光素子41aからの出力に対するセンサ周辺部に位置する受光素子41aからの出力の比が所定値以上となるよう射出瞳位置を設定することが考えられる。つまり、このような射出瞳位置となるように絞り34aの位置を設定するのである。このようにしておけば、中央部と周辺部の出力差を考慮しながら、例えば照射光の光量や露光時間などを調整することが容易となり、中心部においても周辺部においても適切に読取が可能となる。そして、絞り34aの位置を設定する場合においても利点がある。つまり、結像レンズ34b,34cの間に絞り34aが存在する構成の場合には、絞り34aの位置を変更すると、それに伴って結像レンズ34b,34cの位置も変更しなくてはならなくなるが、結像レンズ34b,34cよりも前に絞り34aが存在する本実施例の場合には、結像レンズ34b,34cの位置はそのままで絞り34aの位置だけを変更することができる。」

2 各号証の記載について
(1)甲第2号証(特開平11-134429号公報)
「【0035】(A)まず、2次元画像内における2次元コードの存在領域を特定する際の処理について説明する。本実施例では、図2に示すような2次元コード52を読み取ることを前提としている。この2次元コード52は、白色の台紙53の上に印刷されており、3個の位置決め用シンボル54、データ領域56、原点セルCstから構成されている。これら全体はセル数が縦横同数(21セル×21セル)の正方形状に配置されている。各セルは、光学的に異なった2種類のセルから選ばれており、図および説明上では白(明)・黒(暗)で区別して表す。なお、図2では便宜上、データ領域56のデータセルのパターンは省略している。
【0036】位置決め用シンボル54は、2次元コード52の4つの頂点の内、3つに配置されている。そのセルの明暗配置は、黒部からなる枠状正方形54a内の中心に白部からなる縮小した枠状正方形54bが形成され、その内の中心に黒部からなる更に縮小した正方形54cが形成されているパターンである。
【0037】この位置決め用シンボル54を走査した場合の明暗検出を図3に示す。図3(A)に示すように、位置決め用シンボル54の中心を代表的な角度で横切る走査線(a),(b),(c)での明暗検出パターンは、図3(B)に示すごとく、すべて同じ周波数成分比を持つ構造になっている。即ち、位置決め用シンボル54の中心を横切るそれぞれの走査線(a),(b),(c)の周波数成分比は暗:明:暗:明:暗=1:1:3:1:1となっている。勿論、走査線(a),(b),(c)の中間の角度の走査線においても比率は1:1:3:1:1である。また、図3(A)の図形が、CCDエリアセンサ11側から斜めの面に配置されていたとしても、上記走査線(a),(b),(c)の周波数成分比は暗:明:暗:明:暗=1:1:3:1:1となる。
【0038】なお、図3(B)は、2値化回路17からの2値化された走査線信号に該当する。したがって、周波数分析器18によって、このような特定周波数成分比となる位置決め用シンボル54を3つ検出し、1画面中におけるそれらの位置が判れば、正方形である2次元コード52が存在する領域を特定することができる。なお、この2次元コード52の存在領域を特定する際の処理については、例えば特開平8-180125号公報に詳しく開示されているので、必要であればそれを参照されたい。」

「【0049】・・・[その他]
(1)上述した各実施例では、2次元画像内における2次元コードの存在領域を特定する際に、周波数分析器18によって特定周波数成分比となる位置決め用シンボル54(図2,3参照)を検出し、1画面中におけるそれらの位置に基づいて存在領域を特定するようにしたが、別の特定方法も考えられる。つまり、AGCアンプ12によって増幅された走査線信号をA/D変換器19によってディジタルデータに変換したものを取り込み、そのデータに基づいて、2次元画像内に含まれている2次元コードの存在領域を特定するのである。具体的には、1画面分のデータを画像メモリ20に記憶させ、カメラ部制御装置10がその1画面分のデータを所定方向に走査していき、ソフト的に特定周波数成分比が得られる位置を検出し、その位置に基づいて存在領域を特定するのである。
【0050】このようにソフト的に処理する場合には、上記各実施例で示した補助アンプ16、2値化回路17、周波数分析器18は無くてもよい。この場合には、A/D変換器19及びカメラ部制御装置10が存在領域特定手段に該当する。」

(2)乙第2号証(特開平8-180125号公報)
「【0047】位置決め用シンボル54は、2次元コード52の4つの頂点の内、3つに配置されている。そのセルの明暗配置は、黒部からなる枠状正方形54a内の中心に白部からなる縮小した枠状正方形54bが形成され、その内の中心に黒部からなる更に縮小した正方形54cが形成されているパターンである。
【0048】この位置決め用シンボル54を走査した場合の明暗検出を図5に示す。図5(A)に示すように、位置決め用シンボル54の中心を代表的な角度で横切る走査線(a),(b),(c)での明暗検出パターンは、図5(B)に示すごとく、すべて同じ周波数成分比を持つ構造になっている。即ち、位置決め用シンボル54の中心を横切るそれぞれの走査線(a),(b),(c)の周波数成分比は暗:明:暗:明:暗=1:1:3:1:1となっている。勿論、走査線(a),(b),(c)の中間の角度の走査線においても比率は1:1:3:1:1である。また、図5(A)の図形が、CCD4側から斜めの面に配置されていたとしても、上記走査線(a),(b),(c)の周波数成分比は暗:明:暗:明:暗=1:1:3:1:1となる。
【0049】尚、図5(B)は、2値化回路6からの2値化された走査線信号に該当する。次に上述した2次元コード52の内容を解読するために、2次元コード52の存在および配置を認識する処理のフローチャートを図6に示す。本処理は、CPU24により実行される。
【0050】尚、2次元コード読取装置2の電源オンに伴って、CPU24の処理と共に、2次元コード読取装置2の他の構成も各々の処理を開始する。すなわち、上述した処理により、メモリ回路16,18には交互に1フレームづつの画像データが蓄積される。更にその蓄積に際して、周波数成分比検出回路8により行われる上述の処理により走査線信号中に、「2以上:1:1:3:1:1」または「1:1:3:1:1:2以上」を満足する周波数成分比が存在する場合には、周波数成分比検出回路8からラッチ信号が出力され、アドレスラッチ回路14にては、そのラッチ信号出力タイミングでアドレス発生回路12から出力されたアドレスをラッチし、周波数成分比検出回路8からのレフトマージンあるいはライトマージンを表す信号と共に、現在画像データ書き込み中のメモリ回路16,18に記憶している。」

「【0055】このようなデータがメモリ回路16,18に存在している状態で、CPU24の処理がなされる。CPU24は、フレーム検出回路20の出力信号から判断して、メモリ回路16,18の内で、書き込みが終了しているメモリ回路16,18に対して、アクセスして、その画像データの処理を図6のように実行する。」

【0056】まず、CPU24において、処理が開始されると、位置決め用シンボル54の検出がなされる。・・・位置決め用シンボル54の位置を検出する(ステップ100)。・・・
【0058】・・・こうして得られた位置決め用シンボル54の位置の数をチェックし、その位置決め用シンボル54が有効か否かを判定する(ステップ110)。・・・
【0061】次のステップ120処理は、上述のごとく決定された位置決め用シンボル54の3つの位置が、2次元コード52内のいかなる位置の位置決め用シンボル54であるかを決定する配置決定処理である。・・・
【0065】ステップ120にて3つの位置決め用シンボル54の配置が決定すると、ステップ100にて決定した位置決め用シンボル54の位置とその位置決め用シンボル54の配置とにより、2次元コード52全体の姿勢が判明するので、図11に示すごとく、実際の2次元コード52(図4)では、直交している直線j1,j2の長さ、および走査線方向Lに対する傾きα,βに基づいて、位置決め用シンボル54の形状を推定して、図4における各位置決め用シンボル54の左上のコーナセルCs0の位置を算出する(ステップ130)。
【0066】次に、各位置決め用シンボル54の残りのコーナセルCs1,Cs2,Cs3の位置および原点セルCstを、直交している直線j1,j2の長さ、および走査線Lに対する傾きα,βに基づいて決定する(ステップ140)。・・・
【0067】ステップ140にて位置決め用シンボル54の四隅のセルと原点セルCstとが決定すると、次に、図12に示す2次元コード52の4辺G1,G2,G3,G4のセル毎の位置を検出する(ステップ150)。・・・
【0069】次に、4辺G1,G2,G3,G4におけるセル毎の位置に基づいて、データ領域56内の全データセルの位置を決定する(ステップ160)。すなわち、対向する2辺G1,G3における同じ位置の2つのセルCa1,Ca2をつなぐ直線と、他の対向する2辺G2,G4における同じ位置の2つのセルCb1,Cb2をつなぐ直線との交差位置をデータセルCxyの位置として決定する。これを各辺G1,G2,G3,G4における全てのセルについて実施して、データ領域56内の全てのデータセルの位置を決定する。
【0070】次に、こうして位置が決定されたデータセルの明暗の内容を、定められた順番で読み込んで、データセルの解読を行ってその結果を記憶したり、他の装置に出力したり、あるいは表示したりして(ステップ170)、処理を終了する。・・・
【0071】本実施例は、上述のごとく、周波数成分比検出回路8によりハード的に位置決め用シンボル54の存在を示す周波数成分比の有無を検出しているので、ソフト的に画像処理しなくても2次元コード52が画像中に存在するか否かが判明する。周波数成分比検出回路8によるハード的な処理は極めて迅速である。周波数成分比検出回路8の検出により2次元コード52の存在の可能性がある場所が判明している状態で、ソフト処理がなされるので、ソフト処理も2次元コード52を探すという時間のかかる処理が不要となる。したがって、物品Wが高速に移送されていても、読み逃したり、読み誤ることなく、2次元コード52のコードの解読が可能となる。逆に、2次元コード読取装置2の解読が迅速なので、物品Wを高速に移送でき、移送効率を上げることができ、物品Wの生産ラインに悪影響を及ぼすことがない。」

3 無効理由1について
(1)構成Dの「所定の周波数成分比」について
ア 判断
(ア)本件特許の特許請求の範囲の請求項1(以下、単に「特許請求の範囲」という。)には、「カメラ部制御装置」が「(D1)前記光学的センサからの出力信号を増幅して(D1)」、「閾値に基づいて2値化し(D2)」、「2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し(D3)」、「検出結果を出力する(D4)」旨が記載されており、この記載によれば、「光学的センサからの出力信号を増幅した信号」について「2値化」が行われ、「2値化」された信号から「所定の周波数成分比」の検出が行われ、その検出結果が出力されるものである。

(イ)発明の詳細な説明における構成Dに関する記載は、1(1)において上記したとおりであり、これによれば、発明の詳細な説明は、次のことを記載したものと認められる。
まず、特許請求の範囲の「カメラ部制御装置」に対応する“2次元コード読取装置4の「カメラ部制御装置50」”は、「システム制御装置70」とともに「2次元コード読取装置4」の各種制御を「分担」している。そして、「AGCアンプ52」による「増幅」の「増幅率」は、「負帰還アンプ55」から出力される「ゲインコントロール電圧」(「AGCアンプ52」によって「増幅」された「走査線信号」の出力平均電圧と「カメラ部制御装置」により「変更設定」される「基準電圧」との「電圧差」に「所定ゲインを掛けたもの」、【0030】)に対応しているところ、「カメラ部制御装置」は、この「増幅率」に係る「制御」を行い、さらに、「A/D変換器59」と「照明発光ダイオード45」の「制御」をも行うものである(明細書の【0027】【0033】【0034】)。
次に、特許請求の範囲の「光学的センサからの出力信号を増幅した信号」は、発明の詳細な説明の「2次元的に配列された複数の受光素子」である「CCD」を有する「CCDエリアセンサ41」が「撮像」した「2次元画像」である「水平方向」の「走査線信号」が「AGCアンプ52」によって「増幅」され、「補助アンプ56」によってさらに増幅された信号に対応しており、また、「カメラ部制御装置」に接続する「画像メモリコントローラ61」には、「A/D変換器59」を経由した入力ルート(以下、「A/D変換ルート」という。)と区別される「2値化回路57」及び「周波数分析器58」を経由した入力ルート(同「補助アンプ-2値化回路-周波数分析器ルート」)が存在している。「補助アンプ-2値化回路-周波数分析器ルート」においては、「補助アンプ56」によって増幅された信号が「2値化回路57」において「2値化」され、「周波数分析器58」において「所定」の「周波数成分比」が「検出」され、この「検出結果」が「画像メモリ60」に接続された「画像メモリコントローラ61」に出力されて、「画像メモリ60」に記憶される(【0031】?【0034】)。
また、特許請求の範囲の「検出結果を出力する」点についてみると、「カメラ部制御装置」から「システム制御装置70」に出力されるデータ(【0034】)には、「液晶ディスプレイ20に表示させ」られる「2次元コードの画像」(【0038】)のみならず、「システム制御装置70」における「認識用LED」の「点灯」及び「ブザー72」の「鳴動」のために「読み取り対象の画像情報が適切にデコードされた場合」か否かの判断(【0035】)のための情報が含まれている。このうち、前者の「2次元コードの画像」は、「A/D変換ルート」を経由したものであることが明らかである。他方、「読み取り対象の画像情報が適切にデコードされた場合」か否かの判断(【0035】)のための情報については、いずれのルートを経由したものかは明示されていないものの、この判断のために「A/D変換ルート」を経由した情報のみを用いるのであれば「補助アンプ-2値化回路-周波数分析器ルート」を設けた意味が失われ、これを設けたことと矛盾することになる。このことに照らせば、この判断のための情報は、少なくとも、「画像メモリ60」に記憶された「周波数分析器58」における「所定の周波数成分比」の「検出結果」(【0031】)が反映されたものであることが明らかである。
このように、発明の詳細な説明においては、「カメラ部制御装置」が、「AGCアンプ52」による「増幅」の「増幅率」に係る「制御」を通じて間接的に上記の「2値化」及び「所定の周波数成分比」の「検出」を制御する旨が示されており、特許請求の範囲の構成Dは、この「カメラ部制御装置」による制御に対応しているものである。
してみると、特許請求の範囲のD3の「周波数成分比」は、発明の詳細な説明に記載された「カメラ部制御装置」による制御における、“「2値化」された「走査線信号」”から“「カメラ部制御装置」により制御される「周波数分析器58」”において検出されるものに対応していることになる。

(ウ)そして、一般に、「2値化」された「走査線信号」は、交互に出現する「明」と「暗」の波と捉えることが可能であるところ、発明の詳細な説明の“「カメラ部制御装置」により制御される「周波数分析器58」”は、このような「2値化」された「走査線信号」における「明」又は「暗」が連続する長さではなく、「明」が連続する長さと「暗」が連続する長さとの比が所定のものであることを検出するためのものである。
このことは、2(2)において上述した、2次元バーコード(いわゆるQRコード)の位置決めパターン(位置決め用シンボルの中心を横切る線における明と暗のパターン)をソフト的にではなくハード的に検出する技術を開示する乙第2号証や特開平7-254037号公報において、「明」が連続する長さと「暗」が連続する長さとの比が所定のものであることの検出を「周波数成分比」の「検出」と表現していること、これら乙第2号証等に記載された位置決めパターンをハード的に検出する技術は、本件特許の特許出願前に公開されたものであるとともに、本件特許の対応出願の同日出願での乙第2号証の文献への参照(甲第2号証、段落【0038】)によっても示されているように、本件特許の対応出願の出願当時の技術水準を構成するものであって、当業者における技術常識であること、そして、発明の詳細な説明の記載においてこの技術を前提としなければ存在していない「A/D変換ルート」と区別された「補助アンプ-2値化回路-周波数分析器ルート」の存在が示されており、いうなれば、発明の詳細な説明の記載が当時の技術水準を前提として記載されていることが示されていることから、明らかである。
さらに、乙第2号証の段落【0071】の記載からみて、「所定」の「周波数成分比」の「検出」を「ソフト的」な「画像処理」によって実現可能であることも、乙第2号証に記載された位置決めパターンをハード的に検出する技術の前提であって、同様に、本件特許の対応出願の出願時点における当業者の技術水準を構成する技術常識である。
これらの点について、本件特許は、2値化後の走査線信号の処理についての技術水準を構成する技術を具体的に示した公報(乙第2号証等)の公開番号を明示していないものの、上述したとおり、発明の詳細な説明において、この技術水準を前提とした「補助アンプ-2値化回路-周波数分析器ルート」の存在が明示されており、それによって発明の詳細な説明が前提とする技術水準が示されているのであるから、乙第2号証等の公開番号の明示がないことをもって明確性要件(あるいは実施可能要件)に違反するとはいえない。

(エ)なお、被請求人は、QRコードにおける符号化領域の「0」と「1」とのパターンも一定ではないもののその情報に応じて予め定まったパターンであり「所定の周波数成分比」は「形式情報やデータ等の符号化領域の情報」を含み、2次元コードの画像情報をデコードする処理も「所定の周波数成分比」の検出に含まれる等と主張しているものの、この主張は、発明の詳細な説明の記載に即したものではない。
すなわち、乙第2号証等に示された「位置検出パターン」の検出と同様の「所定」の「周波数成分比」の「検出」によって、2次元コードに含まれる位置検出パターン以外のパターン(位置合わせパターン、タイミングパターン等(乙第1号証))の検出は可能であるとしても、このようなパターンでないものまで「所定」の「周波数成分比」として「検出」できるとは必ずしもいえないことが明らかである。また、発明の詳細な説明は、「A/D変換ルート」と「補助アンプ-2値化回路-周波数分析器ルート」との役割分担については明示されておらず、「周波数成分比」の「検出」を「A/D変換ルート」に関連して行う等、「所定」の「周波数成分比」の「検出」が2次元コードの画像情報のデコード処理一般を意味する旨の主張を裏付ける記載は見当たらない。
してみると、発明の詳細な説明の記載によれば、「所定の周波数成分比」の「検出」が一定のパターンの検出によって行うことができない処理を含めた2次元コードの画像情報のデコード処理一般を意味するということはできない。もっとも、このこと自体は、請求人の主張する明確性要件(あるいは実施可能要件)に違反することの理由にならない。

(オ)以上を踏まえれば、特許請求の範囲の「所定の周波数成分比」の「検出」とは、「2値化」された「光学的センサからの出力信号を増幅した信号」における「明」と「暗」のパターンにおける「明」の長さと「暗」の長さの比が所定のものであることを検出する意味であることが明らかであって、これ以外の意味であると解する余地がない。
よって、この点において、明確性要件違反はない。

イ 請求人の主張に対し
(ア)請求人は、「周波数成分比」の文言は一般的な用語でなく、明細書にも「所定の周波数成分比」がいかなるものか何ら説明がない、当該用語は出願人による「造語」とも考えられ、その説明が本件明細書にない以上、当業者がその意味を理解できない、等と主張している。
しかし、アにおいて上述したとおり、本件特許は、2値化後の走査線信号の処理について、発明の詳細な説明の「周波数分析器58」を用いた「補助アンプ-2値化回路-周波数分析器ルート」の存在を示す記載によって本件特許の対応出願が当時の技術水準である乙第2号証の記載を前提としたものであることを示しているのであるから、「周波数成分比」は、乙第2号証等における「周波数成分比」と同様の、「明」と「暗」のパターンにおける「明」が連続する長さと「暗」が連続する長さとの比を意味する文言として、明確である。
よって、請求人の主張を採用することはできない。

(イ)請求人は、2値化された信号が「2次元コード」であることは特許請求の範囲から読み取れないと主張している。
しかし、アにおいて上述したとおり、「所定」の「周波数成分比」が発明の詳細な説明における「2次元コード読取装置4」に係る「周波数分析器58」において検出されるものであることが示されているのであるから、特許請求の範囲において2次元コードの読取であることが明示的に特定されていないことによって「所定」の「周波数成分比」の意味は明確でないことにはならない。
この主張は、明確性要件違反の主張として失当である。

(ウ)請求人は、2次元コードのデータが記載される領域は、そのデータの内容によってパターンが変化するため、「所定の」が意味する「定められた」ものである「周波数成分比」の検出は行われないから、データが記載される領域も含めて2次元コードの読み取り全般が「所定の周波数成分比の検出」に含まれるとの被請求人解釈は、文言の意味に反する、と主張している。
この点、ア(エ)において上述したとおり、被請求人の主張のうち、「所定の周波数成分比」の「検出」が一定のパターンの検出によって行うことができない処理を含めた2次元コードの画像情報のデコード処理一般を意味する旨の主張については、発明の詳細な説明の記載に即したものでなく、採用することはできない。
しかし、アにおいて上述したとおり、「所定の周波数成分比」の「検出」とは、「2値化」された「光学的センサからの出力信号を増幅した信号」における「明」と「暗」のパターンにおける「明」の長さと「暗」の長さの比が所定のものであることを検出する意味であることが明らかであり、そうである以上、被請求人の主張の一部に発明の詳細な説明に即していないものがあること自体は、本件特許に明確性要件違反があることの根拠にならない。

(エ)請求人は、「所定の周波数成分比を検出」する処理は読み取りを行うための前段階の一部の処理にすぎず2次元コードの読み取りとは別の処理である旨、及び、「補助アンプ-2値化回路-周波数分析器ルート」と「A/D変換器ルート」のうち2次元コードの読み取りは後者から出力されたデータに基づいて行われるから「所定の周波数成分比(の検出)」が「2次元コードの読み取りをすること」を意味するとの被請求人の主張が明細書の記載に反する旨、を主張している。
しかし、特許請求の範囲の「所定の周波数成分比」の「検出」とは、「2値化」された「光学的センサからの出力信号を増幅した信号」における「明」と「暗」のパターンにおける「明」の長さと「暗」の長さの比が所定のものであることを検出する意味であり、このことは、アで上述したとおり、発明の詳細な説明の記載において示されている。
そして、ア(イ)において上述したとおり、発明の詳細な説明においては、「A/D変換器ルート」のみならず、周波数分析器を含む「補助アンプ-2値化回路-周波数分析器ルート」の存在も明示されており、「読み取り対象の画像情報が適切にデコードされた場合」か否かの判断(【0035】)のための情報は、少なくとも、「画像メモリ60」に記憶された「周波数分析器58」における「所定の周波数成分比」の「検出結果」(【0031】)が反映されたものであることが明らかであるから、「所定の周波数成分比を検出」が2次元コードの読み取りとは別の前段階の一部の処理にすぎないともいえない。
また、ア(エ)において上述したとおり、被請求人の主張の一部が発明の詳細な説明に即したものでないこと自体は、明確性要件違反の理由にならない。

(2)構成Fの「相対的に長く設定し」について
ア 判断
特許請求の範囲には、構成Fについて、「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう、前記絞りを配置することによって、前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し、」と記載されている。
この記載中の「によって」の文言は、「射出瞳位置までの距離」が「相対的に長く設定」されることが「「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう、前記絞りを配置すること」の結果であることを明示するものであり、このような「絞り」の「配置」によって「射出瞳位置までの距離」が「相対的に長く設定」されるという因果関係を示すことによって、文理上、このような「絞り」の「配置」がなければ「射出瞳位置までの距離」が「相対的に長く設定」されていないことをも示しているものである。
このことから、「相対的に長く設定」する際の比較対象となる「絞りの配置」が「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう、絞りを配置」していないものであることは、特許請求の範囲の記載から明らかであり、明確性要件違反はない。

イ 請求人の主張に対し
請求人は、特許請求の範囲に「因果関係」が明示されていても「相対的に」の基準は明示されていないと主張している。
しかし、アで上述したことに照らせば、「因果関係」が明示されている以上、文理上、「相対的に」の基準も明らかであって、他の解釈を採用すべき特段の事情は見当たらない。請求人の主張は、文理に反するものであって、採用し得ないものである。

(3)構成Gの「所定値」について
ア 判断
(ア)特許請求の範囲には、構成Gについて、「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように、前記射出瞳位置を設定」する旨、及び、「露光時間などの調整で、中心部においても周辺部においても読取が可能となる」旨が記載されている。
このうち、「露光時間などの調整で、中心部においても周辺部においても読取が可能となる」旨の記載は、特許請求の範囲の構成F及び構成Gの「(F)・・・距離を相対的に長く設定し、(G)・・・射出瞳位置を設定して、・・・中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにした」という記載ぶりに照らせば、露光時間などが読取時に調整され得ることを前提としつつも、構成F及び構成Gにおいて規定された絞りの配置及び射出瞳位置の設定によって中心部においても周辺部においても読取が可能となるという作用効果を示していることが明らかであって、このような絞りの配置及び射出瞳位置の設定と無関係に「露光時間など」を読取時に調整することのみによって実現される作用効果を示しているのではない。さらに、明細書の段落【0039】?【0041】、段落【0042】、図5及び6の記載内容も、この解釈を裏付ける内容となっている。
このことを踏まえれば、特許請求の範囲において「露光時間などの調整で、中心部においても周辺部においても読取が可能となる」旨を記載し、すなわち、構成F及び構成Gにおいて規定された絞りの配置及び射出瞳位置の設定による作用効果を示す「露光時間などの調整で、中心部においても周辺部においても読取が可能となる」との作用的記載によって発明を特定しているのであるから、この作用的記載は、「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように、前記射出瞳位置を設定」する旨を限定するためのものであると解さざるを得ないのであって、このような「射出瞳位置」の「設定」と独立した要件を規定したものではない。

(イ)また、本件発明の「光学情報読取装置」は、「受光した光の強さ」に応じた「電気信号」を「出力」する「受光素子」が配列される「光学的センサ」(構成B)からの「出力信号」を「増幅」(構成DのD1)した信号について「閾値に基づ」く「2値化」(同D2)を行うものである。このことから、中心部に位置する受光素子からの出力信号を2値化するために用いられる閾値に基づいて周辺部に位置する受光素子からの出力信号を2値化することが可能であるような強さの光を周辺部に位置する受光素子が受光できれば、「中心部においても周辺部においても読取が可能」である。
逆に、周辺部に位置する受光素子が、本来「白」と認識すべき場合に上記閾値に基づく2値化によっては「黒」と認識してしまう程度の強さの光しか受光できなければ、この意味での適切な読取ができないこととなる。
よって、特許請求の範囲の文言上、(ア)で述べた構成Gの作用的記載は、本件発明の他の構成を踏まえれば、読取時になされる「露光時間などの調整」を前提として、中心部に位置する受光素子からの出力信号を2値化するために用いられる閾値に基づいて周辺部に位置する受光素子からの出力信号を2値化することが可能であるような強さの光を周辺部に位置する受光素子が受光でき、そのことによって「中心部においても周辺部においても読取が可能となる」旨を規定していることが明らかであって、他の解釈を採用する余地がない。

(ウ)(ア)(イ)を踏まえれば、構成Gの「所定値」は、「露光時間などの調整」で、中心部に位置する受光素子からの出力信号を2値化するために用いられる閾値に基づいて周辺部に位置する受光素子からの出力信号を2値化することが可能であるような強さの光を周辺部に位置する受光素子が受光できるような、「中心部」に位置する「受光素子からの出力」に対する「周辺部」に位置する「受光素子からの出力」との比の値を意味しており、この意味は、特許請求の範囲の記載から一義的に定まる上、明細書の記載内容にも即したものとなっている。
よって、構成Gの「所定値」について、明確性要件違反はない。

イ 請求人の主張に対し
(ア)請求人は、「所定値」が明確であるというためには、どのような値をもつものが技術的範囲に含まれるか、その外延が明確である必要がある等と主張している。
しかし、構成Gの「所定値」の意味するところは、アにおいて上述したとおり明らかであり、被疑侵害品が構成Gを充足するか否かの判断が可能であるように記載されているから、明確性要件違反があるということはできない。

(イ)請求人は、「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように、前記射出瞳位置を設定」する旨と「露光時間などの調整で、中心部においても周辺部においても読取が可能となる」旨とは別の事項である等と主張している。
しかし、ア(ア)で上述したとおり、後者は前者と独立した要件を記載したものではないのであり、請求人の主張は、特許請求の範囲を正解しないものである。

(ウ)請求人は、従来例でも「適切な読取」は実現されており、「所定値」が「露光時間等」により「適切な読取」が実現できるような値を意味するとの解釈によると、本件明細書に記載された従来例が含まれることになり不都合であるとか、そもそも「適切な読取」が如何なる意味で「適切」なのか、不明である、等と主張している。
しかし、「適切な読取」の意味については、アで述べたとおりであり、その意味は明確である。
また、請求人のいう「従来例」の意味は判然としないものの、仮に、構成Fが規定する「絞りの位置」となっていないにもかかわらず、中心部に位置する受光素子からの出力信号を2値化するために用いられる閾値に基づいて周辺部に位置する受光素子からの出力信号を2値化することが可能であるような強さの光を周辺部に位置する受光素子が受光できる例が存在するとしても、このような例では、構成F及び構成Gにおいて規定された絞りの配置及び射出瞳位置の設定によって「露光時間などの調整で、中心部においても周辺部においても読取が可能となる」という作用効果を奏しないこととなり、構成Fのみならず構成Gをも充足しないこととなるから、「従来例が含まれる」ことにはならない。
いずれにしても、請求人の主張は、失当である。

4 無効理由2について
(1)「所定の周波数成分比」を含む構成Dについて
ア 判断
「所定の周波数成分比」の「検出」の意味が明確であることは、3(1)において上述したとおりであり、また、この点についての明細書の発明の詳細な説明の記載については、3(1)ア(イ)及び同(ウ)において上述したとおりである。とりわけ、本件明細書には、「カメラ部制御装置50」が「周波数分析器58」を間接的に制御することによって「所定の周波数成分比を検出」し、この「検出結果」が反映された情報を「システム制御装置70」に出力する構成が明示されている。
よって、「所定の周波数成分比を検出」することについて、実施可能要件違反はない。

イ 請求人の主張に対し
請求人は、「周波数成分比」の文言は一般的な用語でなく、明細書にもいかなるものが「所定の周波数成分比」であるのか何ら説明がなされていないから、当業者は「所定の周波数成分比」の意味を理解できず、かかる技術的意義も理解できないと主張する。
しかし、3(1)において上述したとおり、「所定」の「周波数成分比」の「検出」の意味は明らかであるし、また、アに上述したとおり、この点について実施可能要件違反はない。

(2)「相対的に長く設定し」を含む構成Fについて
ア 判断
明細書の発明の詳細な説明には、構成Fに関連して、【0008】における「光学的センサ単位で見ると、センサの中央部にある受光素子には反射光が垂直に入射するが、センサ周辺部にある受光素子に対しては反射光が斜めに入射する傾向にある。そのため、このセンサ周辺部にある受光素子に対して入射する反射光が極力斜めにならないようにすれば、適切な読取の点で有効である。」との記載を受けて、【0009】に「結像レンズの複数のレンズ間に介装されていた場合(図6(a)参照)に比べて、複数のレンズで構成される結像レンズよりも前に配置した場合(図6(b)参照)には、光学的センサから絞りまでの光学的な距離が相対的に長くなる。」との記載があり、【0040】【0041】においても、同様の記載がある。
これらの記載によれば、発明の詳細な説明は、当業者が課題解決手段としての構成Fを実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。

イ 請求人の主張に対し
請求人は、光学的センサから射出瞳位置までの距離が、使用されるレンズの枚数等の具体的構成によって異なることを理由として、実施可能でないと主張する。
しかし、「3(2)」で上述した構成Fにおける因果関係に照らせば、明細書の発明の詳細な説明の記載としては、光学系における絞りの位置以外の条件が一定であることを前提として絞りの位置に応じて射出瞳までの距離が異なることを示す記載があれば十分であり、また、光学系を所与のものとした場合、その光学系のレンズの枚数に関わらず、レンズ群より光学的センサから遠くの位置に絞りを配置(前絞り配置)した場合とレンズ間に絞りを配置(中絞り配置)した場合とでは、前者の場合において光学的センサから射出瞳位置までの距離が長くなること、及び、アで示した段落【0009】【0040】【0041】の記載がこのことを前提としたものであることは、当業者において明らかである。
してみると、光学系の具体的構成によって光学的センサから射出瞳位置までの距離が異なることは、構成Fについて実施可能要件違反があることの理由にならないのであり、請求人の主張は失当である。

(3)「所定値」を含む構成Gについて
明細書の発明の詳細な説明には、【0041】において、構成Fの絞り配置とすることで適切な読み取りの実現に寄与することが示され、この記載を受けた【0042】において、構成Gに関連して、「適切な読み取りを実現するためには、センサ周辺部にある受光素子41aからの出力レベルが所定レベル以上になる必要がある。そのため、例えば、センサ中心部に位置する受光素子41aからの出力に対するセンサ周辺部に位置する受光素子41aからの出力の比が所定値以上となるよう射出瞳位置を設定することが考えられる。つまり、このような射出瞳位置となるように絞り34aの位置を設定するのである。」と記載されている。ここでは、「光学的センサの中心部」と「光学的センサの周辺部」を区別し、両者に位置する「受光素子からの出力」同士の「比」に着目し、これが「所定値以上」となるように「絞りの位置」の設定による「射出瞳位置」の「設定」を行うことが示されている。
さらにこの記載を受けて、「このようにしておけば、中央部と周辺部の出力差を考慮しながら、例えば照射光の光量や露光時間などを調整することが容易となり、中心部においても周辺部においても適切に読取が可能となる。」と記載されている。ここでは、「照射光の光量」や「露光時間」を読取に際して調整可能なパラメータの例示として示して、このようなパラメータの読取の際の調整を不要とするものではないことを明示している。
これらの記載によれば、上記の「比」が「所定値以上」となる「絞りの位置」としておくことで、「露光時間」等の読取に際して調整可能なパラメータの調整を前提としつつも適切な読取が可能であることが示されているから、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、構成Gに対応する技術内容を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。

第7 むすび
以上のとおり、無効理由1において主張された明確性要件違反はなく、また、無効理由2において主張された実施可能要件違反もない。
よって、無効理由1及び2は、いずれも理由がないから、本件審判の請求は、成り立たない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
 
審理終結日 2018-01-16 
結審通知日 2018-01-19 
審決日 2018-01-31 
出願番号 特願平9-294447
審決分類 P 1 123・ 536- Y (G06K)
P 1 123・ 537- Y (G06K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 梅沢 俊  
特許庁審判長 佐藤 智康
特許庁審判官 相崎 裕恒
金子 幸一
登録日 2006-07-07 
登録番号 特許第3823487号(P3823487)
発明の名称 光学情報読取装置  
代理人 碓氷 裕彦  
代理人 窪田 英一郎  
代理人 本阿弥 友子  
代理人 中岡 起代子  
代理人 今井 優仁  
代理人 乾 裕介  
代理人 中村 広希  

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