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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F04B
管理番号 1349603
審判番号 不服2017-18766  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-18 
確定日 2019-03-07 
事件の表示 特願2013-119911「真空ポンプ」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月18日出願公開,特開2014-238020〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成25年 6月 6日の出願であって,平成29年 9月26日付けで拒絶査定がなされ,この査定を不服として,平成29年12月18日に本件拒絶査定不服審判が請求されると同時に,手続補正がなされた。
そして,平成30年 9月25日付けで当審において拒絶理由が通知され,その応答期間内である平成30年11月19日に意見書及び手続補正書が提出されたところである。


第2 本願発明
この出願の請求項1?20に係る発明は,平成30年11月19日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?20に記載された事項により特定されるものと認められるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。
【請求項1】
「真空ポンプであって,
箱体内部に,
電子部品を実装した電子回路の少なくとも一部と,
前記箱体内部の含有水蒸気量を取得する第1の取得手段と,
前記箱体内部の飽和水蒸気量を取得する第2の取得手段と,
を配置したコントロールユニットと,
前記コントロールユニットを冷却する冷却手段と,
を備え,
前記電子回路は,
前記含有水蒸気量と前記飽和水蒸気量との比較結果に基づいて,前記冷却手段を操作し,該冷却手段と前記箱体内部の温度を調整することにより,下記《条件式》が満たされるように冷却制御する冷却制御手段と,
前記真空ポンプのロータの回転と磁気軸受を駆動制御する駆動制御手段と,
を有し,
前記冷却制御手段は,前記駆動制御手段から独立して,前記冷却制御する
ことを特徴とする真空ポンプ。
《条件》
含有水蒸気量<飽和水蒸気量」

第3 拒絶の理由
平成30年 9月25日付けで当審が通知した拒絶理由のうちの理由Bは,次のとおりのものである。
本件出願の請求項1?10,13?20に係る発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,以下の引用文献2に記載された発明及び引用文献3?10に記載された事項に基づいて,又は,引用文献3に記載された発明及び引用文献2,4?10に記載された事項に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献2:特開2009-174333号公報
引用文献3:国際公開第2012/121383号
引用文献4:実願平4-16675号(実開平5-77992号)のCD-ROM
引用文献5:特開2000-111545号公報
引用文献6:特開平6-164178号公報
引用文献7:特開昭55-62757号公報
引用文献8:特開2007-103833号公報
引用文献9:実願昭54-119323号(実開昭56-37791号)のマイクロフィルム
引用文献10:特開2005-181779号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1.引用文献2(特開2009-174333号公報)
(1)引用文献2の記載
引用文献2には,「真空ポンプ」に関し,以下の事項が記載されている(特に,当審により本願発明に関連する事項に下線を付した。)。
・「【請求項1】
ポンプ本体と一体となった電源装置を備えた真空ポンプにおいて,
前記電源装置の内部に冷媒を流通させる冷媒路と,
前記冷媒路内の冷媒流量を調整するバルブと,
前記電源装置の内部の結露を検出する結露センサと,
前記バルブの開閉を制御する制御手段とを備え,
前記制御手段は,前記結露センサが前記電源装置の内部の結露を検出すると,前記バルブの開度を制御して前記冷媒路内の冷媒流量を減少させ,または冷媒の流れを停止させることを特徴とする真空ポンプ。」
・「【技術分野】
【0001】
本発明は,電源装置と一体化された,あるいは電源装置を近傍に備えた真空ポンプに関する。」
・「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら,通常,電源装置は半密閉型構造となっているので,電源装置内部の露点温度は外気と同じになっている。ターボ分子ポンプ本体は高温に保持されているため,電源装置周囲の温度は比較的暖かく,一方,電源装置そのものは冷却ジャケットで冷却されているので比較的低温に保たれている。そのため,電源装置の温度が周囲の露点温度よりも低くなって結露が発生しやすい。電源装置の内部で結露が発生すると,回路のショートなどによって電源装置に誤動作が生じる場合がある。」
・「【発明の効果】
【0007】
(1)本発明によれば,電源装置内部の結露の発生を防止することができる。」
・「【0008】
-第1の実施の形態-
以下,図を参照して本発明を実施するための第1の実施の形態について説明する。図1は,本発明による第1の実施の形態におけるターボ分子ポンプ1の構成を示す図である。ターボ分子ポンプ1は,ポンプ本体2と電源装置3とからなる。ホンプ本体2と,電源装置3とは物理的に結合され,一体化されている。
【0009】
ポンプ本体2は,不図示の,回転翼が形成されたロータと,ロータを回転駆動するモータと,ロータを磁気浮上支持する磁気受軸とを備えている。また,ポンプ本体2はヒータを用いた不図示の加熱装置と,冷却水路4とを備える。冷却水路4は,ポンプ本体内部に冷却水を流すための水路である。加熱装置による加熱と,冷却水による冷却とにより,ポンプ本体2の温度は,高温(たとえば,50?70℃)に保持される。また,冷却水路4を通じて流れる冷却水により,ロータを回転駆動するモータや磁気受軸が冷却される。
【0010】
電源装置3は,ポンプ本体2におけるモータや磁気受軸の駆動制御を行う。電源装置3は,冷却水路5と,冷却水バルブ6と,結露センサ7と,CPU(中央処理装置)8とを備える。冷却水路5は,電源装置内部に冷却水を流通させるための水路である。冷却水バルブ6は,冷却水路5を流れる冷却水の流量を制御するための電磁バルブである。冷却水バルブ6を開くと,冷却水路5を通じて冷却水が電源装置内部に流れ,冷却水バルブ6を閉じると,電源装置内部への冷却水の流通が止まる。
【0011】
結露センサ7は,電源装置内部の結露を検出するためのセンサである。結露センサ7としては,たとえば電気抵抗式のものや,水晶振動子式のものを用いる。結露センサ7は,結露を検出しているときに結露検出信号をCPU8に出力し,結露を検出していないときに結露不検出信号をCPU8に出力する。CPU8は,結露センサ7から出力される信号に基づいて,冷却水バルブ6の開閉を制御する制御装置である。
【0012】
次に,本発明の第1の実施の形態における冷却水バルブ6の開閉処理について,図2のフローチャートを参照して説明する。図2の処理は,電源装置3の電源がオン状態になるとスタートするプログラムにより,CPU8において実行される。
【0013】
ステップS201では,結露センサ7から出力される信号に基づいて,結露センサ7が結露を検出したか否かを判定する。結露センサ7が結露を検出した場合はステップS201が肯定判定され,ステップS202へ進む。ステップS202では,冷却水バルブ6を閉にして,ステップS203へ進む。結露センサ7が結露を検出しない場合はステップS201が否定判定され,ステップS205へ進む。ステップS205では,冷却水バルブ6を開にして,ステップS203へ進む。
【0014】
ステップS203では,電源装置3の電源がオフ状態であるか否かを判定する。電源装置3の電源がオフ状態でない場合はステップS203が否定判定され,ステップS201に戻る。電源装置3の電源がオフ状態である場合はステップS203が肯定判定され,ステップS204へ進む。ステップS204では,冷却水バルブ6を閉にする。そして,冷却水バルブ6の開閉制御の処理を終了する。
【0015】
以上の第1の実施の形態は次のような作用効果を奏する。
(1)電源装置3の内部に結露センサ7を設置し,結露センサ7が結露を検出すると,電源装置3を冷却するための冷却水の流れを停止するようにした。これにより,電源装置3の内部に発生した結露は,電源装置3から発生する熱により消滅し,結露が原因で発生する電源装置3の誤動作を防止することができる。
【0016】
(2)電源装置3の電源がオフ状態のとき,電源装置3を冷却するための冷却水の流れを停止するようにした。これにより,電源装置3の停止中に,電源装置3の内部に結露が発生するのを未然に防止することができる。電源装置3の停止中は,結露センサ7により結露を検出できず,また電源装置3から熱が発生しないので,発生した結露を消滅できないからである。」

・段落【0010】,【0011】の記載及び図1の図示内容からみて,電源装置3は,ポンプ本体2におけるモータや磁気軸受の駆動制御を行うものであるから,ポンプ本体2におけるモータや磁気軸受の駆動制御を行う制御装置が存在することが理解でき,また,段落【0010】,【0011】の記載及び図1の図示内容からみて,電源装置3の内部に冷却水路5と結露センサ7とCPU(中央処理装置)8を備えるから,冷却水バルブ6の開閉を制御する制御装置であるCPU(中央処理装置)8やポンプ本体2におけるモータや磁気軸受の駆動制御を行う制御装置は,当然,電子部品を実装した電子回路を備えたものであって,電源装置3の内部に,CPU(中央処理装置)8,即ち,電子部品を実装した電子回路の少なくとも一部を備えていることが理解できる。

(2)引用発明
そうすると,引用文献2には,以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「ターボ分子ポンプ1であって,
電源装置3の内部に,
電子部品を実装した電子回路の少なくとも一部と,
結露センサ7と,
を配置した電源装置3と,
前記電源装置3を冷却する冷却水路5及び冷却水バルブ6と,
を備え,
前記電子回路は,
前記結露センサ7が結露を検出すると電源装置3を冷却するための冷却水の流れを停止し,電源装置3の内部に発生した結露を電源装置3から発生する熱によって消滅させ,結露で発生する電源装置3の誤動作を防止するCPU(中央処理装置)8と,
前記ターボ分子ポンプ1のポンプ本体2のロータを回転駆動するモータや磁気軸受の駆動制御を行う制御装置とを有する,
ターボ分子ポンプ1。」

2.引用文献5(特開2000-111545号公報)の記載
・「【0008】結露は,水蒸気を含んだ空気の温度を一定の圧力の下で下げてゆくと,空気が飽和状態(相対温度100%RHの状態)となり,その時の温度を露点温度と呼ぶ,露点温度以下で結露が生じる。例えば,盤内の露点温度以下の部分(金属や水管等)に水滴が生じる。
【0009】結露が発生すると,
(1)結露によって生じた水滴が電気・電子部品に接触し,短絡が生じる可能性がある。
(2)光学式の測定器では光学系に水滴あるいは曇り生じ,測定値に影響を及ぼす可能性がある。
【0010】この発明は,上記課題に鑑みてなされたものであり,その目的とするところは,結露発生状態を盤内の結露を防止する水質測定器の結露防止方法を提供することにある。」,
「【0020】結露は温度と湿度との関係により生じるものであり,その結露発生の特性が既知であることを利用する。まず,その既知の結露発生条件(特性)を予めコントローラ3に記録しておく。温度計5,7及び湿度計6のデータはコントローラ3に入力されているため,コントローラ3はそれらのデータから次のようにして結露が生じるか否かを判断する。
【0021】即ち,コントローラ3は,温度計5と湿度計6の計測値から盤内の単位体積当たりの水蒸気を計算し,それが水温温度計7の示す温度での上記既知の結露発生条件における飽和水蒸気量より多いか少ないかで結露発生するか否かを判断する。
【0022】コントローラ3は結露が発生すると判断した場合,盤内環境管理機器4をONとする。盤内環境管理機器4のヒータのONにより盤内温度は上昇し,その結果周囲の空気の飽和水蒸気量は大きくなる。」,
「【0031】そのため,実施の形態3は,温度計5と湿度計6の値から単位体積当たりの水蒸気量を計算し,それが湿度計7の温度での結露発生特性の飽和水蒸気量を80%あるいは90%などに減じて設定した条件で結露が生じるか否かを判断する。結露が生じると判断した場合,盤内環境管理機器4のヒータ又はヒータと除湿器をONして結露を防止する。」

3.引用文献6(特開平6-164178号公報)の記載
・「【要約】【目的】 発熱する回路素子を高密度実装した電子機器を被冷却体として,液体冷媒を循環供給する冷却装置に関し,特に被冷却体の環境条件に応じて液体冷媒の吐出温度を制御する冷却装置に関するものである。
【構成】 被冷却体配置区画14の温湿度環境をセンサ16,17で検出し,この情報から演算回路18にて液冷媒循環系周辺での結露を防止できる液冷媒供給温度下限値を計算し,この計算値に従って制御回路13により2次側配管系のコントロールバルブ6の開度を調節して液冷媒供給温度を制御することにより,被冷却体1内部及び冷媒循環配管等での結露発生を防止することが可能となる。また,液冷媒供給温度を必要最低温度に設定することにより被冷却体1である電子機器の信頼性を十分に確保することが可能となる。」
・「【0006】
【課題を解決するための手段】本発明による冷却装置においては,被冷却体配置区画に区画内空気温度及び相対湿度を検出するセンサを設置し,冷却装置内の演算回路において予め記憶されている空気の飽和蒸気圧曲線から,結露を防止できる冷媒供給温度下限値を計算し,これを信号として受けた制御回路が2次側コントロールバルブの開度をコントロールして熱交換能力を制御することにより液冷媒吐出温度を演算回路にて計算した下限値に制御するものである。ここで,
T: 温度センサで検知される被冷却体配置区画の環境温度
t: 被冷却体への液冷媒供給温度(℃)
H_(R): 湿度センサで検知される被冷却体配置区画の環境相対湿度(%)
P_(S)(t): 温度tにおける空気の飽和蒸気圧を示す関数(mmHg)
P: 被冷却体配置区画の蒸気分(mmHg)
とすれば,温度tで被冷却体に液冷媒を供給した場合に,冷媒循環部周辺に結露が発生しない条件は,
P_(S)(t)>P=P_(S)(T)XH_(R)
したがって,t=P^(-1)_(S){P_(S)(T)XH_(R)}+a (但し a:計測誤差及び冷媒温度制御精度を配慮した余裕値)によって定義される温度tを演算回路で計算し,制御回路に信号として送信すればいい(図3参照)。」

4.引用文献7(特開昭55-62757号公報)の記載
「特許請求の範囲
1.建屋内に電気機器を設置し,冷却媒体を用いてこの電気機器を強制冷却する電気機器の冷却方法において,前記建屋内の空気温度および空気蒸気圧の少なくとも一方と前記冷却媒体温度とを検出し,電気機器の冷却媒体による冷却部周囲の空気の蒸気圧をその温度における飽和蒸気圧以下になるよう前記冷却媒体温度,建屋内空気温度,建屋内空気蒸気圧の少なくとも一つを制御することを特徴とする電気機器の冷却方法。
2.前記特許請求の範囲第1項において,前記冷却媒体温度と建屋内空気蒸気圧とを検出し,空気蒸気圧を前記冷却媒体温度における飽和蒸気圧以下に制御することを特徴とする電気機器の冷却方法。」

第5 対比
本願発明と引用発明とを対比すると,後者の「ターボ分子ポンプ1」は前者の「真空ポンプ」に相当し,以下同様に,「冷却水路5及び冷却水バルブ6」は「冷却手段」に相当する。
引用文献2の段落【0008】の記載によれば,「電源装置3」はポンプ本体2と物理的に結合され,一体化されるものであり,図1を参照すると,後者の「電源装置3」は,区画されていることから前者の「箱体」を備えるものといえる。「電源装置3」は,ポンプ本体2におけるモータや磁気軸受の駆動制御を行うものであるから,前者の「コントロールユニット」に相当する。
後者の「電源装置3の内部に」「配置した」「結露センサ7」と前者の「前記箱体内部の含有水蒸気量を取得する第1の取得手段と,前記箱体内部の飽和水蒸気量を取得する第2の取得手段」とは,「前記箱体内部の状態を取得する取得手段」において共通する。
後者の「前記結露センサ7が結露を検出すると電源装置3を冷却するための冷却水の流れを停止し,電源装置3の内部に発生した結露を電源装置3から発生する熱によって消滅させ,結露で発生する電源装置3の誤動作を防止するCPU(中央処理装置)8」と,前者の「前記含有水蒸気量と前記飽和水蒸気量との比較結果に基づいて,前記冷却手段を操作し,該冷却手段と前記箱体内部の温度を調整することにより,下記《条件式》が満たされるように冷却制御する冷却制御手段」,「《条件》含有水蒸気量<飽和水蒸気量」とは,「前記箱体内部の状態に基づいて,冷却手段を操作し,冷却制御する冷却制御手段」において共通する。
後者の「前記ターボ分子ポンプ1のポンプ本体2のロータを回転駆動するモータや磁気軸受の駆動制御を行う制御装置」は前者の「前記真空ポンプのロータの回転と磁気軸受を駆動制御する駆動制御手段」に相当する。
そうすると,両者は,
「真空ポンプであって,
箱体内部に,
電子部品を実装した電子回路の少なくとも一部と,
前記箱体内部の状態を取得する取得手段と,
を配置したコントロールユニットと,
前記コントロールユニットを冷却する冷却手段と,
を備え,
前記電子回路は,
前記箱体内部の状態に基づいて,冷却手段を操作し,冷却制御する冷却制御手段と,
前記真空ポンプのロータの回転と磁気軸受を駆動制御する駆動制御手段とを有する,
真空ポンプ。」
の点で一致し,以下の各点で相違する。
<相違点1>
本願発明では,「前記箱体内部の含有水蒸気量を取得する第1の取得手段と,前記箱体内部の飽和水蒸気量を取得する第2の取得手段と」を備え,「前記含有水蒸気量と前記飽和水蒸気量との比較結果に基づいて,前記冷却手段を操作し,該冷却手段と前記箱体内部の温度を調整することにより,下記《条件式》が満たされるように冷却制御する冷却制御手段」,「《条件》含有水蒸気量<飽和水蒸気量」を有するものであるのに対して,引用発明では,前記電源装置3の(箱体)内部に結露センサを備え,前記結露センサ7が結露を検出すると電源装置3を冷却するための冷却水の流れを停止し,電源装置3の内部に発生した結露を電源装置3から発生する熱によって消滅させ,結露で発生する電源装置3の誤動作を防止するものである点。
<相違点2>
本願発明では,前記冷却制御手段は,前記駆動制御手段から「独立して」,前記冷却制御するのに対して,引用発明では,前記冷却制御手段は,前記駆動制御手段から「独立して」,前記冷却制御することが明記されていない点。

第6 判断
<相違点1について>
引用発明は,「電源装置の内部で結露が発生すると,回路のショートなどによって電源装置に誤動作が生じる場合がある」(引用文献2の段落【0005】)という課題を解決し,「電源装置内部の結露の発生を防止する」(引用文献2の段落【0007】)という効果を得ることを意図しているものである。引用発明では,結露センサ7が結露を検出した後で冷却を停止し結露を消滅させる構成であるため,前記意図した効果を完全に実現できているとはいえないが,前記意図した効果を完全に実現するためには,「電源装置内部の結露の発生を『完全に』防止する」方が良いことは当業者にとって明らかである。
一方,本願発明の「箱体含有水蒸気量を取得する第1の取得手段と,前記箱体内部の飽和水蒸気量を取得する第2の取得手段と,前記含有水蒸気量と前記飽和水蒸気量との比較結果に基づいて」「前記箱体内部の温度を調整することにより,《条件式》含有水蒸気量<飽和水蒸気量 が満たされるように制御する」との事項は,要するに「箱体内部の温度を露点温度以上に制御する」ことにより,「箱体内部の結露の発生を『完全に』防止するように制御する」ことにほかならない。
そして,電子回路等を有する機器において,結露の発生を完全に防止するために,温湿度を計測して得られる含有水蒸気量及び飽和水蒸気量の比較に基づき,それら機器の結露発生が問題となる部位を「露点温度以上に制御する」ことは,例えば,引用文献5?7に記載されているように,電子回路等の結露発生が問題となる部位を有する機器全般において本願出願前に周知の事項である。
したがって,引用発明にこの周知の事項を適用して,電源装置内部を「露点温度以上に制御する」ことにより,「電源装置内部の結露の発生を『完全に』防止するように制御する」ようにして,相違点1に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
<相違点2について>
引用発明を開示する引用文献2の実施の形態1では,結露センサ7が結露を検出した場合に,冷却水バルブ6を閉にする冷却制御のフローチャート(図2)において,電源装置3の電源の状態を監視するものの,ターボ分子ポンプ1のポンプ本体2のロータを回転駆動するモータや磁気軸受の駆動制御を行う制御装置(真空ポンプのロータの回転と磁気軸受を駆動制御する駆動制御手段)の制御状態自体は関係ないから,冷却制御手段は,駆動制御手段から独立して冷却制御することも想定される。
そして,冷却制御手段を駆動制御手段に関連させて制御することに比較して,冷却制御手段は駆動制御手段から独立して冷却制御するものとすることは,シンプルであって当業者にとってありふれた手段ともいえるから,引用発明において相違点2における本願発明の構成とすることは,当業者が容易になし得たことである。

本願発明が奏する効果について検討しても,引用発明,引用文献2の記載,上記周知の事項から予期される程度のもので格別なものとはいえない。

請求人は,平成30年11月19日付け意見書にて,「引用文献2には,本願発明における前提の必須要件である「駆動制御手段」の記載が無く,また,引用文献3には,本願発明のような「駆動制御手段」と「冷却制御手段」との関連についての記載がないことから,引用文献2,3に記載された発明が少なくとも本願発明の必須要件である制御構成,すなわち,冷却制御手段が駆動制御手段から独立して冷却制御するという発明特定事項を欠くことは明らかです。
引用文献4-10の技術分野は磁気軸受式真空ポンプに関連する分野ではないので,本願発明の必須要件である「駆動制御手段」に関する技術の開示は何もなく,よって,引用文献4-10に記載された発明もまた同様に,本願発明の必須要件である制御構成(冷却制御手段が駆動制御手段から独立して冷却制御する)を欠くことは明らかです。」と主張する。
しかしながら,上述したように,引用文献2には,段落【0010】に電源装置3は,ポンプ本体2におけるモータや磁気軸受の駆動制御を行うものであることが記載されているから,ポンプ本体2におけるモータや磁気軸受の駆動制御を行う制御装置が存在することが理解できるものであり,また,冷却制御手段は,駆動制御手段から独立して冷却制御することも想定されるから,請求人の上記主張は採用することができない。

第7 むすび
以上のとおり,本願発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,引用発明,引用文献2に記載された事項及び周知の事項に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は,拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-01-08 
結審通知日 2019-01-10 
審決日 2019-01-22 
出願番号 特願2013-119911(P2013-119911)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 新井 浩士北川 大地  
特許庁審判長 佐々木 芳枝
特許庁審判官 山村 和人
藤井 昇
発明の名称 真空ポンプ  
代理人 和田 成則  

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