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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F16D
審判 全部申し立て 2項進歩性  F16D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  F16D
管理番号 1349647
異議申立番号 異議2017-701037  
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-04-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-11-07 
確定日 2019-01-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6125732号発明「等速ユニバーサルジョイント」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6125732号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第6125732号の請求項2ないし4に係る特許を維持する。 特許第6125732号の請求項1についての特許異議申立を却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6125732号の請求項1ないし4に係る発明についての出願は、2014年9月11日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年9月11日 韓国(KR))を国際出願日とする出願であって、平成29年4月14日にその特許権の設定登録がされ、平成29年5月10日に特許掲載公報が発行され、その後、平成29年11月7日に特許異議申立人NTN株式会社(以下、「異議申立人A」という。)より請求項1ないし4に対して特許異議の申立てがされ、平成29年11月10日に特許異議申立人中嶋庸亮(以下、「異議申立人B」という。)より請求項1ないし4に対して特許異議の申立てがされ、平成30年3月8日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年6月8日に意見書の提出及び訂正の請求がされ、その訂正の請求に対して異議申立人A及び異議申立人Bから同年7月27日にそれぞれ意見書が提出され、平成30年9月28日付けで訂正拒絶理由が通知され、平成30年11月21日に特許権者から意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
平成30年6月8日の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「前記ボールケージは、前記トルク伝達ボールと接触する部位が接触面の内側端から外側端方向に1/8乃至1/12の間の地点に位置する、請求項1に記載の等速ユニバーサルジョイント。」と記載されているのを
「複数の外側ボールグルーブを備える外側ジョイント部材と、
前記複数の外側ボールグルーブにそれぞれ対応する複数の内側ボールグルーブを備える内側ジョイント部材と、
前記一対の外側ボールグルーブおよび内側ボールグルーブによりそれぞれ案内される複数のトルク伝達ボールと、
前記複数のトルク伝達ボールを収容する複数のウィンドウが形成されたボールケージと、を含み、
前記外側および内側ボールグルーブは、互いに異なる形状が連結されてなる二重形状をそれぞれ有し、
前記外側ジョイント部材と前記内側ジョイント部材がゼロ(0)の角度をなす状態において、前記内側ジョイント部材の中心線と、前記トルク伝達ボールの中心との間の距離(H)に対する前記外側ボールグルーブの変曲中心点と、前記複数のトルク伝達ボールの中心を連結する線との間の距離であるオフセット(offset)値(O)の比率(O/H)が0.07乃至0.11であり、
前記内側ジョイント部材の回転により、前記トルク伝達ボールが前記ウィンドウの内周面に8字型の接触軌道を形成する8字運動をするものであり、
前記外側ジョイント部材と前記内側ジョイント部材がゼロの角度をなす状態において、前記トルク伝達ボールと接触する前記内周面の部位が前記内周面の内側端から外側端方向に1/8乃至1/12の間の地点に位置する等速ユニバーサルジョイント。」に訂正する。(下線は特許権者が付したものである。(3)及び(4)の下線も同様。)

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「前記内側ジョイント部材は、前記外側ジョイント部材に対して50度以上の折れ角で回動可能である、請求項1に記載の等速ユニバーサルジョイント。」と記載されているのを
「複数の外側ボールグルーブを備える外側ジョイント部材と、
前記複数の外側ボールグルーブにそれぞれ対応する複数の内側ボールグルーブを備える内側ジョイント部材と、
前記一対の外側ボールグルーブおよび内側ボールグルーブによりそれぞれ案内される複数のトルク伝達ボールと、
前記複数のトルク伝達ボールを収容する複数のウィンドウが形成されたボールケージと、を含み、
前記外側および内側ボールグルーブは、互いに異なる形状が連結されてなる二重形状をそれぞれ有し、
前記外側ジョイント部材と前記内側ジョイント部材がゼロ(0)の角度をなす状態において、前記内側ジョイント部材の中心線と、前記トルク伝達ボールの中心との間の距離(H)に対する前記外側ボールグルーブの変曲中心点と、前記複数のトルク伝達ボールの中心を連結する線との間の距離であるオフセット(offset)値(O)の比率(O/H)が0.07乃至0.11であり、
前記内側ジョイント部材の回転により、前記トルク伝達ボールが前記ウィンドウの内周面に8字型の接触軌道を形成する8字運動をするものであり、
前記外側ジョイント部材と前記内側ジョイント部材がゼロの角度をなす状態において、前記トルク伝達ボールと接触する前記内周面の部位が前記内周面の内側端から外側端方向に1/8乃至1/12の間の地点に位置し、
前記内側ジョイント部材は、前記外側ジョイント部材に対して50度以上の折れ角で回動可能である等速ユニバーサルジョイント。」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「前記変曲中心点は、前記トルク伝達ボールの中心を連結する線から前記外側ジョイント部材の開放側にオフセットされる、請求項1に記載の等速ユニバーサルジョイント。」と記載されているのを
「複数の外側ボールグルーブを備える外側ジョイント部材と、
前記複数の外側ボールグルーブにそれぞれ対応する複数の内側ボールグルーブを備える内側ジョイント部材と、
前記一対の外側ボールグルーブおよび内側ボールグルーブによりそれぞれ案内される複数のトルク伝達ボールと、
前記複数のトルク伝達ボールを収容する複数のウィンドウが形成されたボールケージと、を含み、
前記外側および内側ボールグルーブは、互いに異なる形状が連結されてなる二重形状をそれぞれ有し、
前記外側ジョイント部材と前記内側ジョイント部材がゼロ(0)の角度をなす状態において、前記内側ジョイント部材の中心線と、前記トルク伝達ボールの中心との間の距離(H)に対する前記外側ボールグルーブの変曲中心点と、複数のトルク伝達ボールの中心を連結する線との間の距離であるオフセット(offset)値(O)の比率(O/H)が0.07乃至0.11であり、
前記内側ジョイント部材の回転により、前記トルク伝達ボールが前記ウィンドウの内周面に8字型の接触軌道を形成する8字運動をするものであり、
前記外側ジョイント部材と前記内側ジョイント部材がゼロの角度をなす状態において、前記トルク伝達ボールと接触する前記内周面の部位が前記内周面の内側端から外側端方向に1/8乃至1/12の間の地点に位置し、
前記変曲中心点は、前記トルク伝達ボールの中心を連結する線から前記外側ジョイント部材の開放側にオフセットされる等速ユニバーサルジョイント。」に訂正する。

本件訂正請求は、一群の請求項〔1-4〕に対して請求されたものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の有無
(1)訂正事項1
訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的としたものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合し、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。そして、訂正前の請求項1について特許異議申立てがされているので、同法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、訂正前の請求項2の記載が訂正前の請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しない独立形式の請求項2へ改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。」を目的としている。
また、訂正前の請求項2が引用する請求項1では「前記外側ジョイント部材と前記内側ジョイント部材がゼロ(0)の角度をなす状態で前記内側ジョイント部材の中心線と、前記トルク伝達ボールの中心との間の距離(H)に対する前記外側ボールグルーブの変曲中心点と、前記外側ジョイント部材と前記内側ジョイント部材がゼロ(0)の角度をなす状態で前記複数のトルク伝達ボールの中心を連結する線との間の距離であるオフセット(offset)値(O)の比率(O/H)が0.07乃至0.11である」と記載されていたのに対して、訂正後の請求項2では「前記外側ジョイント部材と前記内側ジョイント部材がゼロ(0)の角度をなす状態において、前記内側ジョイント部材の中心線と、前記トルク伝達ボールの中心との間の距離(H)に対する前記外側ボールグルーブの変曲中心点と、前記複数のトルク伝達ボールの中心を連結する線との間の距離であるオフセット(offset)値(O)の比率(O/H)が0.07乃至0.11であり、」と記載されている。このことから、訂正事項2は、比率(O/H)の分子が「前記外側ボールグルーブの変曲中心点と、前記複数のトルク伝達ボールの中心を連結する線との間の距離であるオフセット(offset)値(O)」であり、比率の分母が「前記内側ジョイント部材の中心線と、前記トルク伝達ボールの中心との間の距離(H)」であることを明確にするための訂正を含んでおり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」も目的としている。
そして、訂正後の請求項2には、訂正前の請求項1及び2に記載されていない「複数のウィンドウが形成された」との事項及び「前記内側ジョイント部材の回転により、前記トルク伝達ボールが前記ウィンドウの内周面に8字型の接触軌道を形成する8字運動をするものであり、」との事項が付加されているから、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」も目的としている。
さらに、ボールケージとトルク伝達ボールが接触する位置について、訂正前の請求項2には「前記ボールケージは、前記トルク伝達ボールと接触する部位が接触面の内側端から外側端方向に1/8乃至1/12の間の地点に位置する、」と記載されていて、「接触面」がどこであり、どのようなときに「接触する部位」が「1/8乃至1/12の間の地点に位置する」か不明瞭であるところ、訂正後の請求項2では、「前記外側ジョイント部材と前記内側ジョイント部材がゼロの角度をなす状態において、前記トルク伝達ボールと接触する前記内周面の部位が前記内周面の内側端から外側端方向に1/8乃至1/12の間の地点に位置する」と記載されており、訂正前の「接触する部位」を訂正後は「接触する前記内周面の部位」に改め、訂正前の「接触面」を訂正後は「前記内周面」に改めることで、接触する部位がボールケージのウィンドウの内周面であることを明確にし、さらに、外側ジョイント部材と内側ジョイント部材が「ゼロの角度をなす状態」において「前記トルク伝達ボールと接触する部位が接触面の内側端から外側端方向に1/8乃至1/12の間の地点に位置する」ことを明確にするものであるから、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」も目的としている。

イ 新規事項の有無について
訂正後の請求項2の「前記外側ジョイント部材と前記内側ジョイント部材がゼロ(0)の角度をなす状態において、前記内側ジョイント部材の中心線と、前記トルク伝達ボールの中心との間の距離(H)に対する前記外側ボールグルーブの変曲中心点と、前記複数のトルク伝達ボールの中心を連結する線との間の距離であるオフセット(offset)値(O)の比率(O/H)が0.07乃至0.11であり、」との事項は、訂正前の請求項1の「前記外側ジョイント部材と前記内側ジョイント部材がゼロ(0)の角度をなす状態で前記内側ジョイント部材の中心線と、前記トルク伝達ボールの中心との間の距離(H)に対する前記外側ボールグルーブの変曲中心点と、前記外側ジョイント部材と前記内側ジョイント部材がゼロ(0)の角度をなす状態で前記複数のトルク伝達ボールの中心を連結する線との間の距離であるオフセット(offset)値(O)の比率(O/H)が0.07乃至0.11である」との記載から明らかな事項である。
そして、訂正後の請求項2の「複数のウィンドウが形成された」との事項は、訂正前の明細書の段落【0020】に「ボールケージ40は、複数のトルク伝達ボール30の収容のために複数のウィンドウ41が形成される。」と記載されており、明細書の発明の詳細な説明に記載された事項である。
さらに、内側ジョイント部材のボールグルーブ及び外側側ジョイント部材のボールグルーブにトルク伝達ボールを配置する形式の等速ユニバーサルジョイントが折れ曲がった状態で回転すると、トルク伝達ボールは、ボールケージのウィンドウの接触面である内周面に対してアラビア数字の「8」に似た接触軌道をとることや、ボールケージに対してアラビア数字の「8」に似た運動することは、当業者には周知の事項(必要であれば、特開2012-21608号公報の【図2】や、特開平9-291945号公報の【図10】等参照。)であり、訂正前の明細書の段落【0026】の「これは実際作動時に0乃至50度のトルク伝達ボール30とウィンドウ41上の動きをみれば、仮分数形態の8字運動をするが、」との記載を、前述の周知の事項に照らせば、訂正後の請求項2の「前記内側ジョイント部材の回転により、前記トルク伝達ボールが前記ウィンドウの内周面に8字型の接触軌道を形成する8字運動をするものであり、」との事項は、明細書の発明の詳細な説明に記載されたに等しい事項であるといえる。
そして、明細書の段落【0004】、【0012】、【0022】、【0024】の「ゼロ(0)の角度」に関する記載からみて、明細書の段落【0026】の「(0度)」との記載が、外側ジョイント部材と内側ジョイント部材とのなす角が0度であることを意味しているのは明らかであり、また、「接触面の内側端(CI)から外側端(CO)方向に1/8乃至1/12の間の地点」は「非常に下側に偏る」地点と解することができるところ、明細書の段落【0026】の「図3を参照すれば、ボールケージ40は、トルク伝達ボール30と接触するボール接触位置が接触面の内側端(CI)から外側端(CO)方向に1/8乃至1/12の間の地点に位置することができる。」との記載及び「50度角度を実現するためのボールケージ40とトルク伝達ボール30との接触(0度)を非常に下側に偏るように設計する」との記載からは、「外側ジョイント部材と内側ジョイント部材とのなす角が0度のときに、ボールケージ40とトルク伝達ボール30との接触を非常に下側に偏った位置、すなわち接触面の内側端(CI)から外側端(CO)方向に1/8乃至1/12の間の地点に位置とするよう設計するのは、外側ジョイント部材と内側ジョイント部材との折れ角50度を実現するため」であることが把握できる。そうすると、訂正後の請求項2に記載された「前記外側ジョイント部材と前記内側ジョイント部材がゼロの角度をなす状態において、前記トルク伝達ボールと接触する前記内周面の部位が前記内周面の内側端から外側端方向に1/8乃至1/12の間の地点に位置する」との事項は、明細書の発明の詳細な説明に記載された事項である。
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張、変更の有無について
訂正事項2は、請求項間の引用関係を解消するために請求項1の記載を引用しないものとして独立形式の請求項とするとともに、訂正前の請求項2に係る発明に発明特定事項を追加し、さらに、明瞭でない記載を明瞭にするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。

エ 独立特許要件について
訂正前の請求項2について特許異議申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(3)訂正事項3
訂正事項3は、訂正前の請求項3の記載が訂正前の請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しない独立形式の請求項3へ改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。」を目的としている。
また、訂正事項3は、訂正事項2と同様に、比率(O/H)の分子が「前記外側ボールグルーブの変曲中心点と、前記複数のトルク伝達ボールの中心を連結する線との間の距離であるオフセット(offset)値(O)」であり、比率の分母が「前記内側ジョイント部材の中心線と、前記トルク伝達ボールの中心との間の距離(H)」であることを明確にするための訂正を含んでおり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」も目的としている。
また、訂正事項3により「複数のウィンドウが形成された」との事項、「前記内側ジョイント部材の回転により、前記トルク伝達ボールが前記ウィンドウの内周面に8字型の接触軌道を形成する8字運動をするものであり、」との事項及び「前記外側ジョイント部材と前記内側ジョイント部材がゼロの角度をなす状態において、前記トルク伝達ボールと接触する前記内周面の部位が前記内周面の内側端から外側端方向に1/8乃至1/12の間の地点に位置し、」との事項が付加されており、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」も目的としている。
そして、訂正事項2と同様に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合し、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合し、訂正前の請求項3について特許異議申立てがされているので、同法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(4)訂正事項4
訂正事項4は、訂正前の請求項4の記載が訂正前の請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しない独立形式の請求項4へ改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。」を目的としている。
また、訂正事項4は、訂正事項2と同様に、比率(O/H)の分子が「前記外側ボールグルーブの変曲中心点と、前記複数のトルク伝達ボールの中心を連結する線との間の距離であるオフセット(offset)値(O)」であり、比率の分母が「前記内側ジョイント部材の中心線と、前記トルク伝達ボールの中心との間の距離(H)」であることを明確にするための訂正を含んでおり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」も目的としている。
また、訂正事項4により「複数のウィンドウが形成された」との事項、「前記内側ジョイント部材の回転により、前記トルク伝達ボールが前記ウィンドウの内周面に8字型の接触軌道を形成する8字運動をするものであり、」との事項及び「前記外側ジョイント部材と前記内側ジョイント部材がゼロの角度をなす状態において、前記トルク伝達ボールと接触する前記内周面の部位が前記内周面の内側端から外側端方向に1/8乃至1/12の間の地点に位置し、」との事項が付加されており、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」も目的としている。
そして、訂正事項2と同様に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合し、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合し、訂正前の請求項4について特許異議申立てがされているので、同法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(5)訂正拒絶理由について
平成30年9月28日付けの訂正拒絶理由は、訂正事項2ないし4における「前記外側ジョイント部材と前記内側ジョイント部材がゼロの角度をなす状態において、前記トルク伝達ボールと接触する前記内周面の部位が前記内周面の内側端から外側端方向に1/8乃至1/12の間の地点に位置」するとの訂正が、明細書の段落【0026】及び【図3】の記載から導き出せるものではなく特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しないというものであった。
これに対して、特許権者は平成30年11月21日付けで意見書を提出し、釈明を行った。
その結果、当審においては、上記2(2)ないし2(4)のとおりの解釈が合理的であるといえることから、当該訂正拒絶理由は解消したと判断した。

(6)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的としており、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するので、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項2ないし4に係る発明(以下、「本件発明2」ないし「本件発明4」という。)は、その訂正特許請求の範囲の請求項2ないし請求項4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項2】
複数の外側ボールグルーブを備える外側ジョイント部材と、
前記複数の外側ボールグルーブにそれぞれ対応する複数の内側ボールグルーブを備える内側ジョイント部材と、
前記一対の外側ボールグルーブおよび内側ボールグルーブによりそれぞれ案内される複数のトルク伝達ボールと、
前記複数のトルク伝達ボールを収容する複数のウィンドウが形成されたボールケージと、を含み、
前記外側および内側ボールグルーブは、互いに異なる形状が連結されてなる二重形状をそれぞれ有し、
前記外側ジョイント部材と前記内側ジョイント部材がゼロ(0)の角度をなす状態において、前記内側ジョイント部材の中心線と、前記トルク伝達ボールの中心との間の距離(H)に対する前記外側ボールグルーブの変曲中心点と、前記複数のトルク伝達ボールの中心を連結する線との間の距離であるオフセット(offset)値(O)の比率(O/H)が0.07乃至0.11であり、
前記内側ジョイント部材の回転により、前記トルク伝達ボールが前記ウィンドウの内周面に8字型の接触軌道を形成する8字運動をするものであり、
前記外側ジョイント部材と前記内側ジョイント部材がゼロの角度をなす状態において、前記トルク伝達ボールと接触する前記内周面の部位が前記内周面の内側端から外側端方向に1/8乃至1/12の間の地点に位置する等速ユニバーサルジョイント。
【請求項3】
複数の外側ボールグルーブを備える外側ジョイント部材と、
前記複数の外側ボールグルーブにそれぞれ対応する複数の内側ボールグルーブを備える内側ジョイント部材と、
前記一対の外側ボールグルーブおよび内側ボールグルーブによりそれぞれ案内される複数のトルク伝達ボールと、
前記複数のトルク伝達ボールを収容する複数のウィンドウが形成されたボールケージと、を含み、
前記外側および内側ボールグルーブは、互いに異なる形状が連結されてなる二重形状をそれぞれ有し、
前記外側ジョイント部材と前記内側ジョイント部材がゼロ(0)の角度をなす状態において、前記内側ジョイント部材の中心線と、前記トルク伝達ボールの中心との間の距離(H)に対する前記外側ボールグルーブの変曲中心点と、前記複数のトルク伝達ボールの中心を連結する線との間の距離であるオフセット(offset)値(O)の比率(O/H)が0.07乃至0.11であり、
前記内側ジョイント部材の回転により、前記トルク伝達ボールが前記ウィンドウの内周面に8字型の接触軌道を形成する8字運動をするものであり、
前記外側ジョイント部材と前記内側ジョイント部材がゼロの角度をなす状態において、前記トルク伝達ボールと接触する前記内周面の部位が前記内周面の内側端から外側端方向に1/8乃至1/12の間の地点に位置し、
前記内側ジョイント部材は、前記外側ジョイント部材に対して50度以上の折れ角で回動可能である等速ユニバーサルジョイント。
【請求項4】
複数の外側ボールグルーブを備える外側ジョイント部材と、
前記複数の外側ボールグルーブにそれぞれ対応する複数の内側ボールグルーブを備える内側ジョイント部材と、
前記一対の外側ボールグルーブおよび内側ボールグルーブによりそれぞれ案内される複数のトルク伝達ボールと、
前記複数のトルク伝達ボールを収容する複数のウィンドウが形成されたボールケージと、を含み、
前記外側および内側ボールグルーブは、互いに異なる形状が連結されてなる二重形状をそれぞれ有し、
前記外側ジョイント部材と前記内側ジョイント部材がゼロ(0)の角度をなす状態において、前記内側ジョイント部材の中心線と、前記トルク伝達ボールの中心との間の距離(H)に対する前記外側ボールグルーブの変曲中心点と、前記複数のトルク伝達ボールの中心を連結する線との間の距離であるオフセット(offset)値(O)の比率(O/H)が0.07乃至0.11であり、
前記内側ジョイント部材の回転により、前記トルク伝達ボールが前記ウィンドウの内周面に8字型の接触軌道を形成する8字運動をするものであり、
前記外側ジョイント部材と前記内側ジョイント部材がゼロの角度をなす状態において、前記トルク伝達ボールと接触する前記内周面の部位が前記内周面の内側端から外側端方向に1/8乃至1/12の間の地点に位置し、
前記変曲中心点は、前記トルク伝達ボールの中心を連結する線から前記外側ジョイント部材の開放側にオフセットされる等速ユニバーサルジョイント。」

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし4に係る特許に対して平成30年3月8日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

[取消理由1]本件特許の請求項1、3及び4に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
[取消理由2]本件特許の請求項1?4に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
[取消理由3]本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
[取消理由4]本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

引用文献1:特開2001-97063号公報(異議申立人Aの甲第1号証)
引用文献2:特開2012-21608号公報(異議申立人Aの甲第2号証)
引用文献3:欧州特許出願公開第1512879号明細書(異議申立人Bの甲第1号証)
引用文献4:米国特許第6431988号公報(異議申立人Bの甲第2号証)
引用文献5:欧州特許出願公開第2594821号明細書(異議申立人Bの甲第3号証)
引用文献6:欧州特許出願公開第0802341号明細書(異議申立人Bの甲第4号証)

[取消理由1]について
請求項1、3及び4について
引用文献1又は引用文献3

[取消理由2]について
請求項1ないし4について
引用文献1又は引用文献3ないし6

[取消理由3]について
【図3】は、【図1】及び【図2】と同様に、ボールケージの軸線を含む縦断面の断面図であって、【図3】の紙面垂直方向の奥側に位置するボール接触位置は、ウィンドウ41の円周方向壁面とトルク伝達ボール30の接触位置と解することができる。
また、ボールケージ40のウィンドウ41の壁面は、円周方向壁面と軸方向壁面の2対が想定できるところ、請求項2の「前記ボールケージは、前記トルク伝達ボールと接触する部位が接触面の内側端から外側端方向に1/8乃至1/12の間の地点に位置する」との特定事項は、ボールケージ40のウィンドウ41の円周方向壁面とトルク伝達ボール30との接触に関する特定事項とも解釈でき、そのように解釈した場合、ウィンドウ41の円周方向壁面とトルク伝達ボール30との接触は、ジョイントの機能上、偶発的かつ不必要な現象であり、このような偶発的かつ不必要な現象に対して、「接触面の内側端から外側端方向に1/8乃至1/12の間」に規制することの技術的意味が明細書の段落【0026】の記載では不明である。
したがって、請求項2に係る発明について、発明の詳細な説明の記載(特に明細書の段落【0026】及び【図2】の記載)が不備のため、当業者が容易に発明を実施することができない。

[取消理由4]について
請求項2の「前記ボールケージは、前記トルク伝達ボールと接触する部位が接触面の内側端から外側端方向に1/8乃至1/12の間の地点に位置する」との事項は、外側ジョイント部材と内側ジョイント部材とがどのような状態にあるのか不明なため、特定しようとする事項が不明確である。

3 引用文献1ないし6
(1)引用文献1の記載事項及び引用発明1
引用文献1には、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付した。以下同様。)
ア「【0016】アウトボード側の等速自在継手J_(1)は、アンダーカットフリー型等速自在継手(UJ)で構成される。UJは、図2に示すように、球面状の内周面2aに複数(通常は6本)の曲線状のトラック溝2bを軸方向に形成した外側部材2(外輪)と、球面状の外周面3aに複数(通常は6本)の曲線状のトラック溝3bを軸方向に形成した内側部材3(内輪)と、外側部材2のトラック溝2bと内側部材3のトラック溝3bとが協働して形成されるボールトラックにそれぞれ配された複数(通常は6個)のトルク伝達ボール4と、トルク伝達ボール4を保持する複数のポケット5cを有するケージ5(保持器)とで構成される。内側部材3の内周にセレーション等を介して上記中間軸1が結合され、外側部材2のステム部2cにホイールが結合される。
【0017】外側部材2のトラック溝2bの中心O_(TO)と内側部材3のトラック溝3bの中心O_(TI)とは、継手中心Oに対して軸方向に等距離だけ反対側(中心O_(TO)は継手の開口側、O_(TI)は継手の奥部側)にオフセットされている(トラックオフセット)。そのため、ボールトラックは開口側が広く、奥部側に向かって漸次縮小した形状(くさび状)になっている。外側部材2のトラック溝2bの一部領域U_(O) および内側部材3のトラック溝3bの一部領域U_(I )には、それぞれ縦断面で見て溝底が直線状のストレート部2b1,3b1が形成される。外側部材2のストレート部2b1は、トラック溝2bの一端側(継手の開口側の端部)に形成され、内側部材3のストレート部3b1は、トラック溝3bの他端側(継手の奥部側の端部)に形成される。このストレート部2b 1、3b 1の存在により、UJの許容最大作動角は、従来の乗用車用BJのそれ(46.5°)よりも大きくとることができる(例えば50°)。
【0018】外側部材2のトラック溝中心O_(TO)(または内側部材3のトラック溝中心O_(TI))、ボール中心Q(継手平面PとPCDの交点)、および継手中心Oで形成されるトラックオフセット角φ_(T) (∠O_(TO)QOまたは∠O_(TI)QO)は、5°以上7°以下に設定される。このトラックオフセット角φT は従来の乗用車用BJのトラックオフセット角(8°以上)よりも小さく、これより軽量・コンパクト化と、耐久性(例えば従来の70%)の確保という相反する目的が同時に達成され、かつ良好な作動性も確保される。」

イ 【図2】には、トラック溝2bの溝底を通る縦断面でみて、外側部材2と内側部材3がゼロの角度をなす状態の図面が記載されている。

上記記載事項及び【図2】の図示内容を、本件発明2の記載振りに則って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

[引用発明1]
「複数のトラック溝2bを備える外側部材2と、
前記複数のトラック溝2bにそれぞれ対応する複数のトラック溝3bを備える内側部材3と、
前記一対のトラック溝2bおよびトラック溝3bによりそれぞれ案内される複数のトルク伝達ボール4と、
前記複数のトルク伝達ボール4を保持する複数のポケット5Cを有するケージ5と、を含み、
トラック溝2bは、外側部材2のトラック溝中心O_(TO)を中心とする溝底が曲線状の部分と、一部領域U_(O)内であって溝底が直線状のストレート部2b1を有し、トラック溝3bは、内側部材3のトラック溝中心O_(TI)を中心とする溝底が曲線状の部分と、溝底が直線状のストレート部3b1を有し、
トラック溝2bの溝底を通る縦断面でみて、外側部材2と内側部材3がゼロの角度をなす状態で、外側部材2のトラック溝中心O_(TO)、ボール中心Q(継手平面PとPCDの交点)、および継手中心Oで形成されるトラックオフセット角φ_(T)(∠O_(TO)QO)は、5°以上7°以下に設定されており、上記一部領域U_(O)の開口側とは反対側の境界線上に外側部材2のトラック溝中心O_(TO)が存在する
アンダーカットフリー型等速自在継手(UJ)。」

(2)引用文献2
引用文献2には、以下の事項が記載されている。

ア「【0012】
本実施形態の等速ジョイント10は、自動車の舵取用車輪に駆動力を伝達すると共に舵取用車輪の舵角に応じてジョイント作動角θが変化するボール型等速ジョイント、具体的には自動車のフロント用ドライブシャフトに適用されるボール型等速ジョイントである。この等速ジョイント10は、図1に示すように、ジョイント中心固定式ボール型等速ジョイント(「ツェッパ形等速ジョイント」とも称す)を例に挙げて説明する。特に、本実施形態においては、アンダーカットフリー型(UF)のジョイント中心固定式ボール型等速ジョイントを例に挙げて説明する。なお、特開2008-008323号公報などに記載のバーフィールド型(BF)のジョイント中心固定式ボール型等速ジョイント、および、ダブルオフセット型摺動式等速ジョイントにも適用した場合にも適用可能である。」

イ「【0023】
また、ジョイント作動角θをとった状態で、ボール40が外輪ボール溝23および内輪ボール溝32を転動する際には、ボール40は保持器50の窓部53のうち外輪20の開口側の面に接触する。これは、外輪ボール溝23および内輪ボール溝32によるくさび効果によって、ボール40を外輪20の開口側へ押し出す力が発生するためである。そして、保持器50の窓部53においてボール40が接触する位置は移動する。図2に示すように、窓部53におけるボール40の接触軌跡Gは、「8」字型となる。ボール40が外輪20の開口側(図1の左側)に位置する場合に、窓部53におけるボール40の接触位置は、「8」字型のうち径方向外方の位置となる。一方、ボール40が外輪20の奧側(図1の右側)に位置する場合に、窓部53におけるボール40の接触位置は、「8」字型のうち径方向内方の位置となる。この「8」字型の接触軌跡Gにおける保持器50の径方向接触範囲はW1となる。
【0024】
そして、保持器50の径方向厚はT1としている。つまり、保持器50の径方向厚T1は、窓部53におけるボール40の径方向接触範囲W1より大きくなるように設定されている。より詳細には、保持器50の窓部53は、ジョイント作動角θが最大の場合に、窓部53におけるボール40の径方向接触範囲W1に対して保持器50の径方向外方および径方向内方に、ボール40の非接触領域を形成するように設定されている。」

(3)引用文献3
引用文献3には、以下の事項が記載されている。(異議申立人Bの抄訳文に基づく当審仮訳。以下の引用文献4ないし6も同様。)

ア「【0005】
固定式等速自在継手において、高角(最大作動角50°)対応の等速自在継手は、ボール13が6個のアンダーカットフリージョイント(以下、UJタイプと称する。)であったが、ボール個数を増やし、ボール径を小さくすることで、強度、耐久性が同等で、よりコンパクトな8個ボールのUJタイプが開発されている(例えば、特開平9-317784号公報参照)。」

イ「【0012】
オフセット量Fと、外側継手部材の案内溝の中心または内側継手部材の案内溝の中心とボールの中心とを結ぶ線分の長さPCRとの比(F/PCR)の値R1は、0.069≦R1≦0.121の範囲内であると規定されてよい。」

ウ「【0015】
表1から、接触角αが小さいほど、くさび角反転開始角度を大きくなることが分かる。また、オフセット量Fが大きいほど、くさび角反転開始角度は大きくなる。したがって、上記の構成のように、オフセット量Fと、外側継手部材の案内溝の中心または内側継手部材の案内溝の中心とボールの中心とを結ぶ線分の長さPCRとの比(F/PCR)の値R1を0.069≦R1≦0.121の範囲内に設定するとともに、各案内溝とボールとの接触角αを29°?40°とすることにより、ボールの接触楕円が案内溝部から外れて球面部に乗り上げてしまうことがなくなるとともに、少なくとも車両などの常用作動角以下の作動角において、案内溝の中でのボールの遊びがなくなり、打音の発生がなくなる。」

エ「【0020】
図2a、図2bおよび図3に示すように、固定式等速自在継手は、外輪1と内輪2とボール3と保持器4を主要な構成要素としている。外側継手部材としての外輪1は、カップ状で、閉じた端部側に、連結すべき二軸のうちの一方と接続するための軸部を形成している。外輪1は球状の内周面すなわち内球面1aを有し、その内球面1aに、軸方向に伸びる8本の曲線状の案内溝1bが形成されている。内側継手部材としての内輪2は、連結すべき二軸のうちの他方(軸部5)と接続するための歯型(セレーションまたはスプライン)2dを有する。内輪2は球状の外周面すなわち外球面2aを有し、その外球面2aに、軸方向に伸びる8本の曲線状の案内溝2bが形成されている。外輪1の案内溝1bと内輪2の案内溝2bは対をなし、各対の案内溝1b,2bによって形成されるボールトラックに1個のボール3が配される。合計8個のボール3は、保持器4によって円周方向に等間隔に保持される。保持器4は同心の外・内球面4a,4bを有し、外球面4aは外輪1の内球面1aと球面接触し、内球面4bは内輪2の外球面2aと球面接触する。
【0021】
この実施の形態において、案内溝1b,2bの中心P,Qは、それぞれ、継手中心Oに対し、軸方向の左右に等距離(PO=QO=F)だけオフセットさせてある。すなわち、外輪1の案内溝1bの中心(外輪トラックセンタ)Pは内球面1aの球面中心Oに対し、距離POだけ、外輪1の開口側にオフセットさせてある。内輪2の案内溝2bの中心(内輪トラックセンタ)Qは外球面2aの球面中心Oに対し、距離QOだけ、外輪1の奥側にオフセットさせてある。保持器4の外球面4aの球面中心、および、保持器4の外球面4aの案内面となる外輪1の内球面1aの球面中心は、いずれも、継手中心Oと一致している。また、保持器4の内球面4bの球面中心、および、保持器4の内球面4bの案内面となる内輪2の外球面2aの球面中心は、いずれも、継手中心Oと一致している。したがって、外輪1のオフセット量(PO=F)は、案内溝1bの中心Pと継手中心Oとの間の軸方向距離となり、内輪2のオフセット量(QO=F)は、案内溝2bの中心Qと継手中心Oとの間の軸方向距離となり、両者は相等しい。」

オ「【0024】
前述のように、案内溝1b,2bのオフセット量(F=PO=QO)は、比F/PCRの値R1が0.069≦R1≦0.121の範囲内になるように設定するのが、許容負荷トルクの確保、保持器強度の確保、耐久性の確保、作動性の確保の諸点から好ましい、この実施の形態では、R1=0.104(または0.1038)に設定してある。比較品(図8に示すような6個ボールの固定式等速自在継手)におけるR1の一般的な値は0.14であり、この実施の形態のR1は比較品よりもかなり小さい。」

カ「【0027】
図6にUJタイプの実施の形態を示す。この実施の形態は、外輪1の案内溝1bにストレート部1cを設け、内輪2の案内溝2bにストレート部1cを設けた点と、保持器4の外球面4aと内球面4bの球面中心p,qを軸方向に等距離fだけ反対方向にオフセットさせた点を除き、上述の図1の実施の形態と変わるところはない。」

キ FIG.6の案内溝1bからは、曲線状の部分とストレート部1cとがなめらかに連結している状態が見て取れるから、当該FIG.6からは、外輪1と内輪2がゼロの角度をなす状態において、案内溝1bの中心Pからストレート部1cに下ろした垂線とストレート部1cとの交点で、案内溝1bの中心Pを中心とする曲線状の部分とストレート部1cとが連結している構成が把握できる。

上記記載事項及びFIG.6の図示内容を、本件発明2の記載振りに則って整理すると、引用文献3には、次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。

[引用発明3]
「複数の案内溝1bを備える外輪1と、
前記複数の案内溝1bと対をなす複数の案内溝2bを備える内輪2と、
前記案内溝1b及び前記案内溝2bの各対によりそれぞれ案内される複数のボール3と、
前記複数のボール3を保持する保持器4と、を含み、
案内溝1bは、中心Pを中心とする曲線状の部分と、ストレート部1cとを有し、中心Pからストレート部1cに下ろした垂線とストレート部1cとの交点で案内溝1bの中心Pを中心とする曲線状の部分とストレート部1cとが連結し、案内溝2bは、中心Qを中心とする曲線状の部分と、ストレート部2cとを有し、
外輪1と内輪2がゼロの角度をなす状態で、継手中心Oと外輪1の案内溝1bの中心Pの距離PO(=F)と、外輪1の案内溝1bの中心Pとボールの中心とを結ぶ線分の長さPCRとの比(F/PCR)の値R1は0.069≦R1≦0.121の範囲内であるアンダーカットフリージョイント。」

(4)引用文献4
引用文献4には、以下の事項が記載されている。

ア「例えば、図15に示されたUF(アンダーカットフリー)タイプの形式の固定型等速自在継手がある。この等速自在継手は、マウス部4を有しかつ内球面1には、開口端3に向かって延びるように円周方向等間隔に配置された複数のトラック溝2が形成されている外輪5と、外球面6に、外輪5のトラック溝2と対をなしかつ軸方向に延びるように円周方向等間隔に配置された複数のトラック溝7が形成された内輪8と、トルク伝達のために外輪5および内輪8のトラック溝2,7間に介在した複数のボール9と、ボール9を保持するために外輪5の内球面1と内輪8の外球面6との間に介在したケージ10とを備えている。複数のボール9は、ケージ10に形成されたポケット13に収容されており、円周方向等間隔に配置されている。
外輪5のマウス部4から一体的に延びるステム部(図示せず)は、例えばそこに接続された駆動側において回転可能な軸を有するのに対し、内輪8は、セレーションなどによってそこに接続された駆動側における回転可能な軸を有する。その結果、2つの回転可能な軸の間に作動角変位を許容しながらトルク伝達を可能にする構成が生じる。
図15は作動角θが0°の状態、図16は作動角θが最大角(50°)の状態を示している。作動角θとは、外輪5の回転可能な軸Xと、内輪8の回転可能な軸Yとの間に形成された角度を意味する。また、外輪および内輪5,8の回転可能な軸X,Yが0°以外の作動角θをとったとき、2つの回転可能な軸X,Yの間の角度θの二等分線に対して垂直な平面をジョイント中央平面P’と称する。作動角θをとったとき、すべてのボール9がジョイント中央平面P’上にあれば、ボール中心から2つの回転可能な軸X,Yまでの距離は等しい。従って、2つの回転可能な軸X,Y間で、等速度で回転運動の伝達が行われる。ジョイント中央平面P’と回転可能な軸X,Yとの交点をジョイント中心O’と称する。この等速継手では、作動角θに関わりなくジョイント中心O’は固定されている。
外輪5の各トラック溝2は、外輪5の内球面1から所定の深さで形成されているが、その深さは軸方向で徐々に変化している。このトラック溝2は、マウス部4の最も内側の領域における円弧底2aと、マウス部4の開口側における、回転可能な軸Xに対して平行なストレート底2bとを有する。内輪8の各トラック溝7は、内輪8の外球面6から所定の深さで形成されるが、その深さは軸方向で徐々に変化している。このトラック溝7は、マウス部4の開口側における円弧底7aと、マウス部4の最も内側の領域における、回転可能な軸Yに対して平行なストレート底7bを有する。」(第1欄第11ないし67行)

イ「外輪25のマウス部24のトラック溝22の開口側溝底を、開口端23に向かって線形に直径が拡大したテーパ底22b(例えば拡径角φ=20°)として成形することによって、図5に示したように、外輪25のマウス部24の外径を増大することなく、作動角θmax=52°(従来の作動角θmax+2°)となるように差動角の増大が実現される。」(第9欄第19ないし26行)

(5)引用文献5
引用文献5には、以下の事項が記載されている。

「【0019】
しかしながら、従来のボールタイプ等速ジョイントは、最大のジョイント角度量が46°?50°の範囲内にあることで制限されている。
【0020】
したがって、本発明の目的は、先行技術において生じた上述した問題を解決することであり、アウターレースのボールトラックをアウターレースの半径トラックおよび直線トラックの2つのセクションに分割し、インナーレースのボールトラックをインナーレースの直線トラックおよび半径トラックの2つのセクションに分割して、アウターレースの半径トラックの回転中心とインナーレースの半径トラックの回転中心とが、等しい鉛直オフセット量を有していて、鉛直中心軸上の同じ点に位置決めされることにより、最大のジョイント角度量を増加させることができ、また、ボールとアウターレースとの接触圧力を減少させることができる、車両用のボールタイプ等速ジョイントを提供することである。」

(6)引用文献6
引用文献6には、以下の事項が記載されている。

「図20Aおよび図20Bに示された実施形態では、外側及び内側の継手部材1および2の案内溝1bおよび2bの所定の領域U1およびU2は、ストレート状である。領域U1以外の案内溝1bの領域は、点O1を中心とする曲線状であり、領域U2以外の案内溝2bの領域は、点O2を中心とする曲線状である。この構造の残りの部分は、図15Aおよび図15Bに示された実施形態と同様であり、その説明が省略される。」(第17欄第2ないし11行)

4 判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由1及び2について
ア 引用文献1を主引例とした場合について
本件発明2と引用発明1とを対比すると、後者の「トラック溝2b」は前者の「外側ボールグルーブ」に相当し、以下同様に、「外側部材2」は「外側ジョイント部材」に、「トラック溝3b」は「内側ボールグルーブ」に、「内側部材3」は「内側ジョイント部材」に、「トルク伝達ボール4」は「トルク伝達ボール」に、「複数のポケット5Cを有するケージ5」は「複数のウィンドウが形成されたボールケージ」に、「アンダーカットフリー型等速自在継手(UJ)」は「等速ユニバーサルジョイント」に、それぞれ相当する。

また、引用発明1の 「トラック溝2b」の「トラック溝中心O_(TO)を中心とする溝底が曲線状の部分」と「直線状のストレート部2b1」とは異なる形状であり、「トラック溝3b」の「トラック溝中心O_(TI)を中心とする溝底が曲線状の部分」と「溝底が直線状のストレート部3b1」とは異なる形状であるから、引用発明1の 「トラック溝2b」及び「トラック溝3b」は、どちらも、互いに異なる形状が連結されてなる二重形状を有しているといえる。
そうすると、引用発明1の「トラック溝2bは、外側部材2のトラック溝中心O_(TO)を中心とする溝底が曲線状の部分と、一部領域U_(O)内であって直線状のストレート部2b1とを有し、トラック溝3bは、内側部材3のトラック溝中心O_(TI)を中心とする溝底が曲線状の部分と、溝底が直線状のストレート部3b1とを有し」という構成は、
本件発明2の「前記外側および内側ボールグルーブは、互いに異なる形状が連結されてなる二重形状をそれぞれ有し」という構成に相当する。

そして、引用発明1の「トラックオフセット角φ_(T)(∠O_(TO)QO)」について、引用文献1の【図2】を参照すると、「O_(TO)O」及び「QO」が本件発明2の「オフセット(offset)値(O)」及び「距離(H)」に相当することは明らかである。そうすると、引用発明1において、tanφ_(T)は、本件発明2の「比率(O/H)」に相当することとなり、引用発明1においてφ_(T)は「5°以上7°以下」であるので、tanφ_(T)は0.87以上0.12以下となり、本件発明2の「比率(O/H)」が0.07乃至0.11であることと、0.87乃至0.11で重複している。
以上を総合すると、引用発明1の「トラック溝2bの溝底を通る縦断面でみて、外側部材2と内側部材3がゼロの角度をなす状態で、外側部材2のトラック溝中心O_(TO)、ボール中心Q(継手平面PとPCDの交点)、および継手中心Oで形成されるトラックオフセット角φ_(T)(∠O_(TO)QO)は、5°以上7°以下に設定されており、上記一部領域U_(O)の開口側とは反対側の境界線上に外側部材2のトラック溝中心O_(TO)が存在する」ことと、本件発明2の「前記外側ジョイント部材と前記内側ジョイント部材がゼロ(0)の角度をなす状態において、前記内側ジョイント部材の中心線と、前記トルク伝達ボールの中心との間の距離(H)に対する前記外側ボールグルーブの変曲中心点と、前記複数のトルク伝達ボールの中心を連結する線との間の距離であるオフセット(offset)値(O)の比率(O/H)が0.087乃至0.11である」こととは、比率(O/H)が0.087乃至0.11の範囲において重複する。

したがって、本件発明2と引用発明1とは
「複数の外側ボールグルーブを備える外側ジョイント部材と、
前記複数の外側ボールグルーブにそれぞれ対応する複数の内側ボールグルーブを備える内側ジョイント部材と、
前記一対の外側ボールグルーブおよび内側ボールグルーブによりそれぞれ案内される複数のトルク伝達ボールと、
前記複数のトルク伝達ボールを収容する複数のウィンドウが形成されたボールケージと、を含み、
前記外側および内側ボールグルーブは、互いに異なる形状が連結されてなる二重形状をそれぞれ有し、
前記外側ジョイント部材と前記内側ジョイント部材がゼロ(0)の角度をなす状態において、前記内側ジョイント部材の中心線と、前記トルク伝達ボールの中心との間の距離(H)に対する前記外側ボールグルーブの変曲中心点と、前記複数のトルク伝達ボールの中心を連結する線との間の距離であるオフセット(offset)値(O)の比率(O/H)が0.087乃至0.11である等速ユニバーサルジョイント。」の点で一致する一方、
本件発明2は「前記内側ジョイント部材の回転により、前記トルク伝達ボールが前記ウィンドウの内周面に8字型の接触軌道を形成する8字運動をするものであり、
前記外側ジョイント部材と前記内側ジョイント部材がゼロの角度をなす状態において、前記トルク伝達ボールと接触するボールケージのウィンドウの内周面の部位が、前記内周面の内側端から外側端方向に1/8乃至1/12の間の地点に位置する」構成であるのに対し、引用発明1は、このような構成でない点(以下、「相違点1」という。)で相違する。

以下、相違点1について検討する。
引用文献2ないし6には、外側ジョイント部材と内側ジョイント部材がゼロの角度をなす状態において、トルク伝達ボールと接触するボールケージのウィンドウの内周面の部位が、前記内周面の内側端から外側端方向に1/8乃至1/12の間の地点に位置することについて、記載も示唆もされていない。
そして、本件発明2は、上記相違点1のとおり、外側ジョイント部材と内側ジョイント部材がゼロの角度をなす状態において、「内周面の内側端から外側端方向に1/8乃至1/12の間の地点」という下側に偏った位置でトルク伝達ボールとボールケージのウィンドウとが接触することにより、「前記トルク伝達ボールが前記ウィンドウの内周面に8字型の接触軌道を形成する8字運動」をしつつ、外側ジョイント部材と内側ジョイント部材とのなす角が「0乃至50度」となり得るという格別顕著な効果を奏すると認められる。
そうすると、本件発明2は、引用発明1と同一でなく、また、引用発明1及び引用文献3ないし6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

そして、本件発明3及び4と引用発明1とを対比すると、少なくとも上記相違点1と同様の相違点を有するから、上記本件発明2と同様の理由により、本件発明3及び4は、引用発明1と同一でなく、また、引用発明1及び引用文献3ないし6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 引用発明3を主引例とした場合について
本件発明2と引用発明3とを対比すると、後者の「案内溝1b」は、前者の「外側ボールグルーブ」に相当し、以下同様に、「外輪1」は「外側ジョイント部材」に、「案内溝2b」は「内側ボールグルーブ」に、「内輪2」は「内側ジョイント部材」に、「ボール3」は「トルク伝達ボール」に、「保持器4」はボール3を保持する開口を有することは明らかなので「複数のウィンドウを有するボールケージ」に、「アンダーカットフリージョイント」は「等速ユニバーサルジョイント」に、それぞれ相当する。

また、引用発明3の「案内溝1b」の「中心Pを中心とする曲線状の部分」と「ストレート部1c」とは互いに異なる形状であり、「案内溝2b」の「中心Qを中心とする曲線状の部分」と「ストレート部2c」とは互いに異なる形状であるから、引用発明3の「案内溝1b」及び「案内溝2b」は、どちらも、互いに異なる形状が連結されてなる二重形状を有しているといえる。
そうすると、引用発明3の「案内溝1bは、中心Pを中心とする曲線状の部分と、ストレート部1cとを有し、中心Pからストレート部1cに下ろした垂線とストレート部1cとの交点で案内溝1bの中心Pを中心とする曲線状の部分とストレート部1cとが連結し、案内溝2bは、中心Qを中心とする曲線状の部分と、ストレート部2cとを有し、」という構成は、
本件発明2の「前記外側および内側ボールグルーブは、互いに異なる形状が連結されてなる二重形状をそれぞれ有し」という構成に相当する。

そして、引用発明3の「外輪1と内輪2がゼロの角度をなす状態で、継手中心Oと外輪1の案内溝1bの中心Pの距離PO(=F)と、外輪1の案内溝1bの中心Pとボールの中心とを結ぶ線分の長さPCRとの比(F/PCR)の値R1は0.069≦R1≦0.121の範囲内である」ことと、本件発明2の「前記外側ジョイント部材と前記内側ジョイント部材がゼロ(0)の角度をなす状態において、前記内側ジョイント部材の中心線と、前記トルク伝達ボールの中心との間の距離(H)に対する前記外側ボールグルーブの変曲中心点と、前記複数のトルク伝達ボールの中心を連結する線との間の距離であるオフセット(offset)値(O)の比率(O/H)が0.07乃至0.11である」こととは、比率(O/H)が0.07乃至0.11の範囲において重複する。

したがって、本件発明2と引用発明3とは
「複数の外側ボールグルーブを備える外側ジョイント部材と、
前記複数の外側ボールグルーブにそれぞれ対応する複数の内側ボールグルーブを備える内側ジョイント部材と、
前記一対の外側ボールグルーブおよび内側ボールグルーブによりそれぞれ案内される複数のトルク伝達ボールと、
前記複数のトルク伝達ボールを収容する複数のウィンドウを有するボールケージと、を含み、
前記外側および内側ボールグルーブは、互いに異なる形状が連結されてなる二重形状をそれぞれ有し、
前記外側ジョイント部材と前記内側ジョイント部材がゼロ(0)の角度をなす状態において、前記内側ジョイント部材の中心線と、前記トルク伝達ボールの中心との間の距離(H)に対する前記外側ボールグルーブの変曲中心点と、前記複数のトルク伝達ボールの中心を連結する線との間の距離であるオフセット(offset)値(O)の比率(O/H)が0.07乃至0.11である等速ユニバーサルジョイント。」の点で一致する一方、
本件発明2が「前記内側ジョイント部材の回転により、前記トルク伝達ボールが前記ウィンドウの内周面に8字型の接触軌道を形成する8字運動をするものであり、
前記外側ジョイント部材と前記内側ジョイント部材がゼロの角度をなす状態において、前記トルク伝達ボールと接触するボールケージのウィンドウの内周面の部位が、前記内周面の内側端から外側端方向に1/8乃至1/12の間の地点に位置する」構成であるのに対し、引用発明3はこのような構成でない点(以下、「相違点2」という。)で相違する。

以下、相違点2について検討する。

相違点2は、上記相違点1と同じ内容であるから、上記「ア 引用文献1を主引例とした場合について」と同様に、本件発明2は、引用発明3と同一でなく、また、引用発明3並びに引用文献2及び引用文献4ないし引用文献6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

そして、本件発明3及び4と引用発明3とを対比すると、少なくとも上記相違点2と同様の相違点を有するから、上記本件発明2と同様の理由により、本件発明3及び4は、引用発明3と同一でなく、また、引用発明3及び引用文献2及び引用文献4ないし引用文献6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)取消理由通知に記載した取消理由3について
内側ジョイント部材のボールグルーブ及び外側側ジョイント部材のボールグルーブにトルク伝達ボールを配置する形式の等速ユニバーサルジョイントにおいて、トルク伝達ボールは、ボールケージのウィンドウの内周面の、軸方向壁面に接触することは、当業者には周知の事項であり、明細書の段落【0026】の「これは実際作動時に0乃至50度のトルク伝達ボール30とウィンドウ41上の動きをみれば、仮分数形態の8字運動をするが、」との記載から、内側ジョイント部材と外側ジョイント部材のなす角が0乃至50度の範囲で等速ユニバーサルジョイントが回転する実際作動時、トルク伝達ボールが、ウィンドウ41の内周面の軸方向壁面上に、8字運動の接触軌道を形成し得ることは、当業者であれば容易に理解できる。
また、「前記トルク伝達ボールと接触する前記内周面の部位」がボールケージのウィンドウの円周方向壁面に位置しないことは、明細書の段落【0026】の「ボールケージ40に必要な円周方向空間は、実際トルク伝達ボール30の回転半径方向の運動量全体の1.2乃至1.4倍でありうる。」との記載からも、当業者であれば容易に理解できる。

そして、明細書の段落【0026】に「これは実際作動時に0乃至50度のトルク伝達ボール30とウィンドウ41上の動きをみれば、仮分数形態の8字運動をする」と記載されているが、「仮分数」とは分子が分母より大きい分数であって、外側のループが内側のループより大きい8字運動(例えば引用文献6のFIG.19A参照)を「仮分数形態の8字運動」と表現していると認められる。そして、この仮分数形態の8字運動は、外側ジョイント部材と内側ジョイント部材との折れ角が「0乃至50度」の範囲で、トルク伝達ボール30の接触点がウィンドウ41上を移動する際に観測できることは、当業者であれば予測可能である。

また、明細書の段落【0026】の「50度角度を実現するためのボールケージ40とトルク伝達ボール30との接触(0度)を非常に下側に偏るように設計するためのものである。このような値により高折れ角が実現され得る。」との記載からは、本件発明2ないし4の「前記外側ジョイント部材と前記内側ジョイント部材がゼロの角度をなす状態において、前記トルク伝達ボールと接触する前記内周面の部位が前記内周面の内側端から外側端方向に1/8乃至1/12の間の地点に位置する」との特定事項の「1/8乃至1/12」との数値限定が、従来技術に比べて「非常に下側に偏る」ものであり、この数値限定により、外側ジョイント部材と内側ジョイント部材との折れ角が、「50度角度を実現する」あるいは「高折れ角が実現され得る」ことが当業者であれば理解できる。

そして、ウィンドウ41の内周面の軸方向壁面とトルク伝達ボール30が接触するのだから、【図3】は、ボールケージの軸線と垂直な断面の断面図であって、外側ジョイント部材と内側ジョイント部材がゼロの角度をなす状態において、ウィンドウ41の軸方向壁面における、トルク伝達ボール30と接触する部位の位置を、紙面垂直方向の奥側に位置する「ボール接触位置」として明確に示していると解することができる。

そうすると、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明2ないし4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。

(3)取消理由通知に記載した取消理由4について
上記訂正事項2により、本件発明2には
「前記内側ジョイント部材の回転により、前記トルク伝達ボールが前記ウィンドウの内周面に8字型の接触軌道を形成する8字運動をするものであり、
前記外側ジョイント部材と前記内側ジョイント部材がゼロの角度をなす状態において、前記トルク伝達ボールと接触する前記内周面の部位が前記内周面の内側端から外側端方向に1/8乃至1/12の間の地点に位置する」との事項が特定された。
これにより、本件発明2のボールケージの、トルク伝達ボールと接触する部位についての特定事項は明確となったから、取消理由4は解消した。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取り消し理由によっては、本件請求項2ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
さらに、他に請求項2ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件の請求項1は本件訂正請求による訂正により削除されたため、請求項1に対して、異議申立人A、Bがした特許異議申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
複数の外側ボールグルーブを備える外側ジョイント部材と、
前記複数の外側ボールグルーブにそれぞれ対応する複数の内側ボールグルーブを備える内側ジョイント部材と、
前記一対の外側ボールグルーブおよび内側ボールグルーブによりそれぞれ案内される複数のトルク伝達ボールと、
前記複数のトルク伝達ボールを収容する複数のウィンドウが形成されたボールケージと、を含み、
前記外側および内側ボールグルーブは、互いに異なる形状が連結されてなる二重形状をそれぞれ有し、
前記外側ジョイント部材と前記内側ジョイント部材がゼロ(0)の角度をなす状態において、前記内側ジョイント部材の中心線と、前記トルク伝達ボールの中心との間の距離(H)に対する前記外側ボールグルーブの変曲中心点と、前記複数のトルク伝達ボールの中心を連結する線との間の距離であるオフセット(offset)値(O)の比率(O/H)が0.07乃至0.11であり、
前記内側ジョイント部材の回転により、前記トルク伝達ボールが前記ウィンドウの内周面に8字型の接触軌跡を形成する8字運動をするものであり、
前記外側ジョイント部材と前記内側ジョイント部材がゼロの角度をなす状態において、前記トルク伝達ボールと接触する前記内周面の部位が前記内周面の内側端から外側端方向に1/8乃至1/12の間の地点に位置する等速ユニバーサルジョイント。
【請求項3】
複数の外側ボールグルーブを備える外側ジョイント部材と、
前記複数の外側ボールグルーブにそれぞれ対応する複数の内側ボールグルーブを備える内側ジョイント部材と、
前記一対の外側ボールグルーブおよび内側ボールグルーブによりそれぞれ案内される複数のトルク伝達ボールと、
前記複数のトルク伝達ボールを収容する複数のウィンドウが形成されたボールケージと、を含み、
前記外側および内側ボールグルーブは、互いに異なる形状が連結されてなる二重形状をそれぞれ有し、
前記外側ジョイント部材と前記内側ジョイント部材がゼロ(0)の角度をなす状態において、前記内側ジョイント部材の中心線と、前記トルク伝達ボールの中心との間の距離(H)に対する前記外側ボールグルーブの変曲中心点と、前記複数のトルク伝達ボールの中心を連結する線との間の距離であるオフセット(offset)値(O)の比率(O/H)が0.07乃至0.11であり、
前記内側ジョイント部材の回転により、前記トルク伝達ボールが前記ウィンドウの内周面に8字型の接触軌跡を形成する8字運動をするものであり、
前記外側ジョイント部材と前記内側ジョイント部材がゼロの角度をなす状態において、前記トルク伝達ボールと接触する前記内周面の部位が前記内周面の内側端から外側端方向に1/8乃至1/12の間の地点に位置し、
前記内側ジョイント部材は、前記外側ジョイント部材に対して50度以上の折れ角で回動可能である等速ユニバーサルジョイント。
【請求項4】
複数の外側ボールグルーブを備える外側ジョイント部材と、
前記複数の外側ボールグルーブにそれぞれ対応する複数の内側ボールグルーブを備える内側ジョイント部材と、
前記一対の外側ボールグルーブおよび内側ボールグルーブによりそれぞれ案内される複数のトルク伝達ボールと、
前記複数のトルク伝達ボールを収容する複数のウィンドウが形成されたボールケージと、を含み、
前記外側および内側ボールグルーブは、互いに異なる形状が連結されてなる二重形状をそれぞれ有し、
前記外側ジョイント部材と前記内側ジョイント部材がゼロ(0)の角度をなす状態において、前記内側ジョイント部材の中心線と、前記トルク伝達ボールの中心との間の距離(H)に対する前記外側ボールグルーブの変曲中心点と、前記複数のトルク伝達ボールの中心を連結する線との間の距離であるオフセット(offset)値(O)の比率(O/H)が0.07乃至0.11であり、
前記内側ジョイント部材の回転により、前記トルク伝達ボールが前記ウィンドウの内周面に8字型の接触軌跡を形成する8字運動をするものであり、
前記外側ジョイント部材と前記内側ジョイント部材がゼロの角度をなす状態において、前記トルク伝達ボールと接触する前記内周面の部位が前記内周面の内側端から外側端方向に1/8乃至1/12の間の地点に位置し、
前記変曲中心点は、前記トルク伝達ボールの中心を連結する線から前記外側ジョイント部材の開放側にオフセットされる等速ユニバーサルジョイント。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-12-21 
出願番号 特願2016-542635(P2016-542635)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (F16D)
P 1 651・ 121- YAA (F16D)
P 1 651・ 113- YAA (F16D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 尾形 元  
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 尾崎 和寛
内田 博之
登録日 2017-04-14 
登録番号 特許第6125732号(P6125732)
権利者 イレ エイエムエス カンパニー リミテッド
発明の名称 等速ユニバーサルジョイント  
代理人 山田 強  
代理人 山田 強  
代理人 熊野 剛  
代理人 城村 邦彦  

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