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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01D
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G01D
管理番号 1350059
審判番号 不服2018-4052  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-03-23 
確定日 2019-04-09 
事件の表示 特願2013- 56897「測長器および原点位置検出方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 9月29日出願公開、特開2014-182015、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年3月19日の出願であって、平成28年10月27日付けで拒絶理由が通知され、平成28年12月19日付けで手続補正がなされ、平成29年5月18日付けで拒絶理由が通知され、平成29年7月20日付けで手続補正がなされたが、平成29年12月18日付けで拒絶査定がなされ(発送日:平成29年12月26日)、これに対し、平成30年3月23日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされ、当審において、平成30年11月30日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成31年2月1日付けで手続補正がなされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成29年12月18日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

理由1 この出願の請求項1、5に係る発明は、引用文献Aに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

理由2 この出願の請求項1-8に係る発明は、引用文献A-Cに記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
引用文献A:特開2009-69038号公報
引用文献B:特開昭63-135803号公報
引用文献C:特開2001-165700号公報

第3 当審拒絶理由(最後)の概要
当審拒絶理由(最後)の概要は次のとおりである。

この出願の請求項1-6に係る発明は、引用文献1-3に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
引用文献1:特開2009-69038号公報(拒絶査定における引用文献A)
引用文献2:特開平3-282326号公報(当審において新たに引用した文献)
引用文献3:特開昭63-135803号公報(拒絶査定における引用文献B)

第4 本願発明
本願の請求項1-6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明6」という。)は、平成31年2月1日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
所定の媒体に一定間隔で記録された測長用の記録パターンを検出してインクリメント信号を得ることで、前記記録パターンとの位置で決まる位相を検出する第1の検出部と、
前記媒体に記録されたリファレンス用の記録パターンのレベルを検出する第2の検出部と、
前記第2の検出部で得たリファレンス用の記録パターンの検出レベルのピーク位置を判別するピーク位置判定部と、
前記ピーク位置判定部が判定したピーク位置と一定の関係がある、前記第1の検出部の検出信号を、原点位置に決定する原点判定部とを備え、
前記第1の検出部は、前記媒体に一定間隔で記録された測長用の記録パターンから検出したインクリメント信号の位相が、特定の位相であることを検出し、
前記原点判定部は、前記ピーク位置判定部が判定したピーク位置を基準にして、その基準となるピーク位置から前記記録パターンを走査するいずれか一方の特定の方向にずれた状態で、基準となるピーク位置から最も近い前記特定の位相の位置を、原点位置に決定し、
前記ピーク位置判定部が判定するピーク位置と、前記第1の検出部が検出する特定の位相の位置とは、干渉しない離れた位置に設定する
測長器。
【請求項2】
一定間隔の前記測長用の記録パターンが前記媒体に記録されていない箇所を設け、
前記第2の検出部は、その測長用の記録パターンが記録されていない箇所をリファレンス用の記録パターンの検出信号とする
請求項1記載の測長器。
【請求項3】
前記媒体は磁性媒体であり、前記第1の検出部および前記第2の検出部は、磁性媒体上の磁化方向を検出する
請求項1?2のいずれか1項に記載の測長器。
【請求項4】
所定の媒体に一定間隔で記録された測長用の記録パターンを検出してインクリメント信号を検出することで、前記記録パターンとの位置で決まる位相を検出する第1の信号検出処理ステップと、
前記媒体に記録されたリファレンス用の記録パターンを検出する第2の信号検出処理ステップと、
前記第2の信号検出処理ステップで得たリファレンス用の記録パターンのピークを判定するピーク位置判定処理ステップと、
前記ピーク位置判定処理ステップで判別したリファレンス用の記録パターンのピーク位置と一定の関係がある、前記測長用のインクリメント信号が検出された位置を、原点位置に決定する原点判定処理ステップとを含み、
前記第1の信号検出処理ステップでは、前記媒体に一定間隔で記録された測長用のインクリメント信号の位相が、特定の位相であることを検出し、
前記原点判定処理ステップでは、前記ピーク位置判定処理ステップで判定したピーク位置を基準にして、その基準となるピーク位置から前記記録パターンを走査するいずれか一方の特定の方向にずれた状態で、基準となるピーク位置から最も近い前記特定の位相の位置を、原点位置に決定するし、
前記ピーク位置判定処理ステップで判定するピーク位置と、前記第1の信号検出処理ステップで検出する特定の位相の位置とは、干渉しない離れた位置に設定する
原点位置検出方法。
【請求項5】
一定間隔の前記測長用の記録パターンが前記媒体に記録されていない箇所を設け、
前記第2の信号検出処理ステップでは、その測長用の記録パターンが記録されていない箇所をリファレンス用の記録パターンの検出信号とする
請求項4記載の原点位置検出方法。
【請求項6】
前記媒体は磁性媒体であり、前記第1の信号検出処理ステップおよび前記第2の信号検出処理ステップは、磁性媒体上の磁化方向を検出する
請求項4?5のいずれか1項に記載の原点位置検出方法。」

第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
当審における拒絶理由に引用された引用文献1には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0001】
本発明は絶対位置の計測装置に係り、特に、エンコーダやレーザ干渉計など、位置もしくは角度の変動に伴って位相が変化する信号を出力する絶対位置の計測装置に関する。」

「【0010】
本発明は、簡易な構成で信頼性の高い絶対位置の計測装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の絶対位置の計測装置のうち代表的な一つは、被測定物の位置に応じて位相が変化する複数の第一の信号を出力する第一の出力手段と、前記被測定物の位置に応じて位相が変化し、前記第一の信号より干渉性の低い複数の第二の信号を出力する第二の出力手段と、前記第一の信号の位相を算出する位相演算器と、前記第二の信号の振幅値を算出する振幅演算器と、前記第一の信号の周期毎に、前記振幅演算器により算出された前記第二の信号の振幅値の平均値を算出する平均値演算手段と、前記平均値演算手段により算出された前記平均値を用いて二次回帰演算を行う回帰演算手段と、前記二次回帰演算により求められた前記第二の信号のピーク位置から前記被測定物の原点位置を求めるピーク位置演算手段と、前記ピーク位置演算手段で求めた前記原点位置から前記被測定物の絶対位置を算出する絶対位置算出手段とを有する。」

「【0013】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
本実施例における絶対位置の計測装置は、位置又は角度の変化に対応して位相が変化する二つの信号の組を用いる。それぞれの信号の組は、従来のエンコーダ又はレーザ干渉計と同様の二相信号、又は、三相信号からなる。第二の信号は、被測定物の原点付近で振幅が大きく、原点から離れるに従い振幅が減少する。
【0015】
このような計測装置の基本的なハード構成部分は、公知の技術を用いて容易に構成される。例えば、光学式のエンコーダであれば、第二の信号を出力するスケールとして、原点付近において正常な開口を有する一方、原点から離れるに従い開口度又は幅を縮小することにより所望の信号が出力される。
【0016】
レーザ干渉計においては、第二の光源に干渉性の低い低可干渉性の光源を選択すればよい。
(エンコーダ200の構成)
本発明の計測装置の一例として用いられるエンコーダについて、図3を参照しながら説明する。図3は、エンコーダの構成の概略図である。
【0017】
エンコーダ200は、光学式のリニアエンコーダであり、直線的な機械変位量を測定するものである。エンコーダ200は、可動スケール90、固定スケール120、発光素子(発光ダイオード)140-1、140-2、及び、受光素子(フォトダイオード)150からなる。
【0018】
可動スケール90は被測定物とともに直線的に移動可能に構成されている。一方、固定スケール120は固定されている。エンコーダ200は、発光素子140-1、140-2と受光素子150の間に可動スケール90及び固定スケール120を配置した構成となっている。
【0019】
可動スケール90には、移動した距離を計測するために、一定幅のスリット100が設けられている。また、可動スケール90には、被測定物の原点を計測するために、原点付近で幅が拡大するスリット110が設けられている。
【0020】
固定スケール120は、可動スケール90に対向して配置されており、同一ピッチの固定スリット130を有する。固定スケール120の裏面、すなわち可動スケール90が配置されている側の面とは反対の面には、受光素子150が設けられている。
【0021】
可動スケール90の裏面、すなわち固定スケール120が配置されている側の面とは反対の面には、二つの発光素子140-1、140-2が設けられている。被測定物の変位長さを計測するために、一定幅のスリット100の裏面に設けられた発光素子140-1は常時点灯する。一方、被測定物の原点を計測するために、原点付近で幅が拡大するスリット110の裏面に設けられた発光素子140-2は、原点計測時において点滅させて用いられる。
【0022】
発光素子140-1、140-2の光は、可動スケール90が移動することにより、透過又は遮断する。また、固定スケール120は、エンコーダ200の出力信号を複数相(A相、B相、A’相、B’相)にするため、固定スリット130は実際には複数に分かれている。このため、受光素子150もそれぞれ複数個設けられている。
【0023】
スリット100に基づくA相、B相の出力信号は、互いに位相が90°異なり、後述の第一の信号の組(C1、S1)として扱われる。また、スリット110に基づくA’相、B’相の出力信号は、互いに位相が90°異なり、後述の第二の信号の組(C2、S2)として扱われる。
【0024】
受光素子の出力信号(A相、B相、A’相、B’相)は、後述のように、図1に示される位置計測部400により処理される。被測定物の原点位置では、固定スケール120に対向するスリット110の幅が最大の点で第二の信号(C2、S2)の強度が最大となる。この結果、被測定物の原点を正確に計測することが可能になる。
【0025】
なお、エンコーダ200には、受光素子の出力信号を処理するため、後述の位置計測部400が設けられている。」

「【0060】
また、位相演算器3において算出された第一の信号の位相は、マルチプレクサ12を介して、内部レジスタ4に入力される。内部レジスタ4に入力された第一の信号の位相は、内部レジスタ4に保持される。第一の信号の位相は、位相演算器3により第一の信号の位相が算出されるたびに更新される。なお、内部レジスタ4は、第一の信号の位相情報を保持するのに必要なビット長より長いビット長を備えている。内部レジスタ4の上位ビットには、第一の信号の波数(周期)が保持される。」

「【0075】
以上のように、デジタルシグナルプロセッサ40は、第一の信号の周期毎に、振幅演算器30により算出された第二の信号の振幅値の平均値を算出する平均値演算手段を有する。また、デジタルシグナルプロセッサ40は、平均値演算手段により算出された平均値を用いて二次回帰演算を行う回帰演算手段を有する。また、デジタルシグナルプロセッサ40は、、第二の信号のピーク位置を算出して被測定物の原点位置を求めるピーク位置検出手段を有する。
【0076】
このように、ピーク位置演算手段にて求められたピーク位置を、被測定物の原点位置と判断することができる。しかし、二次回帰演算から求められるピーク位置の精度と比較して、第一の信号から求められる位相の精度のほうが高い。
【0077】
このため、本実施例では、位相演算器3で計測された第一の信号の位相が所定値(例えば、位相ゼロ)になるときの複数の位置のうち、ピーク位置に最も近い位置を被測定物の原点位置と判定する判定手段を設けることもできる。この判定手段は、例えば、デジタルシグナルプロセッサ40に設けられる。
【0078】
デジタルシグナルプロセッサ40の判定手段にて求められた位置は、バイアスレジスタ6に入力される。バイアスレジスタ6の値と内部レジスタ4に保持されている波数(周期)との差分が被測定物の原点位置となり、減算器17を介して絶対位置が算出される。減算器17は、ピーク位置演算手段で求めた原点位置から被測定物の絶対位置を算出する絶対位置算出手段である。」

「【0089】
以上詳細に説明したように、本発明の絶対位置の計測装置によれば、簡素なハードウエア構成で、正確な被測定物の原点計測が可能となる。このため、安価で高精度の絶対位置の計測装置を提供することができる。」

したがって、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「被測定物の変位長さを計測するための(段落【0021】より。以下、同様。)絶対位置の計測装置(【0001】)であって、
被測定物の位置に応じて位相が変化する複数の第一の信号を出力する第一の出力手段と、前記被測定物の位置に応じて位相が変化し(【0011】)、被測定物の原点付近で振幅が大きく、原点から離れるに従い振幅が減少する(【0014】)複数の第二の信号を出力する第二の出力手段と、前記第一の信号の位相を算出する位相演算器と、前記第二の信号の振幅値を算出する振幅演算器と、前記第一の信号の周期毎に、前記振幅演算器により算出された前記第二の信号の振幅値の平均値を算出する平均値演算手段と、前記平均値演算手段により算出された前記平均値を用いて二次回帰演算を行う回帰演算手段と、前記二次回帰演算により求められた前記第二の信号のピーク位置から前記被測定物の原点位置を求めるピーク位置演算手段とを有し(【0011】)、
計測装置としてエンコーダ200が用いられ(【0016】)、エンコーダ200は、光学式のリニアエンコーダであり、可動スケール90、固定スケール120からなり(【0017】)、可動スケール90には、移動した距離を計測するために、一定幅のスリット100が設けられ、また、可動スケール90には、被測定物の原点を計測するために、原点付近で幅が拡大するスリット110が設けられ(【0019】)、
固定スケール120は、同一ピッチの固定スリット130を有し(【0020】)、スリット100に基づくA相、B相の出力信号は、互いに位相が90°異なり、第一の信号の組(C1、S1)として扱われ、また、スリット110に基づくA’相、B’相の出力信号は、互いに位相が90°異なり、第二の信号の組(C2、S2)として扱われ(【0023】)、
位相演算器3において算出された第一の信号の位相は、内部レジスタに入力され、第一の信号の位相は、位相演算器3により第一の信号の位相が算出されるたびに更新され、内部レジスタ4は、第一の信号の位相情報を保持するのに必要なビット長より長いビット長を備え、内部レジスタの上位ビットには、第一の信号の波数(周期)が保持され(【0060】)、
二次回帰演算から求められるピーク位置の精度と比較して、第一の信号から求められる位相の精度のほうが高い(【0076】)ため、位相演算器3で計測された第一の信号の位相が所定値(例えば、位相ゼロ)になるときの複数の位置のうち、ピーク位置に最も近い位置を被測定物の原点位置と判定する判定手段を設け(【0077】)、
絶対位置算出手段である減算器17を介して、判定手段にて求められた位置の値と内部レジスタに保持されている波数(周期)との差分が算出され、被測定物の絶対位置を算出する(【0078】)、
計測装置(【0001】)。」

2.引用文献2について
当審における拒絶理由に引用された引用文献2には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。行数には、空白行も含めている。)。
ア 「[産業上の利用分野]
本発明は、例えば工作機械及び測定機等の相対変位する2部材間の相対変位量を検出するスケール装置に通用して好適な原点回路に関する。」(第1頁左下欄第19行-同頁右上欄第2行)

イ 「このようなスケール装置では作業終了後に電源を切るとそれまでの変位量が失われると共に、作業中に電源ノイズ等により変位量を誤って検出するとこの誤った変位量がそのまま維持されてしまうため、原点位置の設定機構が設けられている。即ち、そのスケール装置に内蔵する形式又はそのスケール装置とは別体でそれら2部材が所定の位置関係になったときに原点トリガー信号を生成する一種の高精度なリミットスイッチを設け、作業開始時や電源ノイズにより誤検出が生じたとき等にはその原点トリガー信号によりそれら2部材間の相対変位量を例えばゼロ等の値にプリセットすることにより、原点合わせの作業が行われる。従って、その原点位置の設定機構によりインクリメンタル方式のスケール装置を一種のアブソリュート方式のスケール装置として使用することができる。」(第2頁左上欄第16行-同頁右上欄第12行)

ウ 「次に本例の最初の原点設定時の動作につき第3図のステップ(106)以下を参照して説明する。この場合本例では、原点トリガー信号DAが最初にトリガーされた後に位相変調信号DSが立ち上がる時点(例えば第4図Dの時点t20)における相対位置を原点とみなす如くなす。言い替えると、基準信号DS_(0)と位相変調信号DSとの位相差がその原点トリガー信号DAが最初にトリガーされたときの位相差に合致する位置であって且つその原点トリガー信号DAがトリガーされる位置に最も近い位置(例えば第7図の位置x_(0))をそのスケール(1)の原点とみなす如くなす。即ち、第7図においてその位相差がx_(0)における位相差に合致する位置にはx_(0),x_(1),x_(2),・・・があるが、これらの内でその原点トリガー信号DAがトリガーされる位置に最も近い位置x_(0)がスケール(1)の原点とみなされる。従って、本例における原点の位置x_(0)はそのスケール(1)に沿う任意の位置になりえる。」(第5頁右下欄第2-20行)

エ 「次に、本例の原点回路で2回目以後の原点設定を行う場合の動作につき第6図を参照して説明するに、ステップ(106)からステップ(111)までは第3図例の最初の原点設定動作と共通であるため同一符号を付してその詳細説明を省略し、ステップ(117)以下の動作につき説明する。」(第7頁左上欄第5-10行)

オ 「上述のように本例によれば、基準信号DS_(0)と位相変調信号DSとの位相差が最初の原点設定時に求められた値に合致する位置であって且つ原点トリガー信号DAのトリガーされる位置に最も近い位置x_(0)が原点位置とされるため、その原点トリガー信号DAのトリガー位置の変動量が-λ/2からλ/2の間に収まっている限り検出される原点位置は一定である。従って、第1図に示す如く、基準信号DS_(0)と位相変調信号DSとの選択回路としてのスイッチ回路(23)を設けるだけの簡単な回路構成で、常に位置の再現性のある原点設定をおこなうことができる利益がある。」(第7頁右下欄第6-17行)

カ 「更に、発磁体(13)上をセンサー(14)が左から右方向に横切る場合であっても右から左方向に横切る場合であっても、その原点トリガー信号DAがトリガーされる位置と原点x_(0)との位置関係は同一であるため、2部材の相対変位の方向に依らず常に位置の再現性のある原点設定をおこなうことができる利益がある。」(第8頁左上欄第1-7行)

したがって、引用文献2には、次の技術事項が記載されているものと認められる。
「相対変位する2部材間の相対変位量を検出するインクリメンタル方式のスケール装置において(「ア」、「イ」より。)、
作業開始時や電源ノイズにより誤検出が生じたとき等にはその原点トリガー信号によりそれら2部材間の相対変位量を例えばゼロ等の値にプリセットすることにより、原点合わせの作業が行われ(「イ」より。)、
最初の原点設定時、原点トリガー信号DAが最初にトリガーされた後に位相変調信号DSが立ち上がる時点における相対位置(基準信号DS_(0)と位相変調信号DSとの位相差が原点トリガー信号DAが最初にトリガーされたときの位相差に合致する位置であって且つその原点トリガー信号DAがトリガーされる位置に最も近い位置)を、そのスケールの原点とみなし、原点の位置x_(0)はそのスケールに沿う任意の位置になりえ(「ウ」より。)、
2回目以後の原点設定を行う場合には(「エ」より。)、基準信号DS_(0)と位相変調信号DSとの位相差が最初の原点設定時に求められた値に合致する位置であって且つその原点トリガー信号DAのトリガーされる位置に最も近い位置x_(0)が原点位置とされるため(「オ」より。)、発磁体(13)上をセンサー(14)が左から右方向に横切る場合であっても右から左方向に横切る場合であっても、その原点トリガー信号DAがトリガーされる位置と原点x_(0)との位置関係は同一である(「カ」より。)、
スケール装置(「ア」より。)。」

なお、引用文献2に記載された上記技術における「且つその原点トリガー信号DAがトリガーされる位置に最も近い位置を、」とは、上記「ウ」のとおり、「且つ、位相差に合致する位置x_(0),x_(1),x_(2),・・・の内で原点トリガー信号DAのトリガー位置に最も近い位置を、」の意味である。

3.引用文献3について
当審における拒絶理由に引用された引用文献3には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。行数には、空白行も含めている。)。
ア 「〔産業上の利用分野〕
本発明は磁界中において電気抵抗が変化する所謂磁気抵抗効果を利用して電気信号に変換し,位置検出等を行う磁気センサに関するものであり,特に磁界を形成するトラック幅の小さい磁気センサの改良に関するものである。」(第1頁左下欄第18行-同頁右下欄第3行)

イ 「〔問題点を解決するための手段〕
上記問題点を解決するため,本発明においては。円周表面にNS磁極が円周方向に交互に出現するように形成した回転磁石体の磁界が作用する範囲内に,回転磁石体の磁極配設面と対向しかつ所定の間隙を介して感磁素子を配設した磁気センサにおいて,インクリメント相の一部に磁束密度が相対的に異なるZ相を設ける,という技術的手段を採用したのである。」(第2頁右上欄第18行-同頁左下欄第6行)

ウ 「以上の構成により、Z相4aとインクリメント相5とを同一トラック上に配設しても,各々対応する感磁素子(図示せず)の特性を上記磁束密度に適合させておけば,Z相4aおよびインクリメント相5に対応する信号を出力することができる。
本実施例においては,Z相をインクリメント相より磁束密度を大にした例を示したが,上記と逆にインクリメント相より磁束密度を小に形成しても作用は同一である。」(第2頁右下欄第10-18行)

したがって、引用文献3には、次の技術事項が記載されているものと認められる。
「位置検出を行う磁気センサにおいて(「ア」より。)、インクリメント相より磁束密度を小に形成して(「ウ」より。)、インクリメント相の一部に磁束密度が相対的に異なるZ相を設ける(「イ」より。)。」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
以下、本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
ア 引用発明の「可動スケール90」における、「移動した距離を計測するために」「設けられ」た「一定幅のスリット100」が、本願発明1における「所定の媒体に一定間隔で記録された測長用の記録パターン」に相当する。

イ 引用発明における、「被測定物の位置に応じて」「変化」する「位相」(及び「波数(周期)」)が、本願発明1における「インクリメント信号」に相当する。
また、引用発明における「位相演算器」が、「被測定物の位置に応じて」「変化」する「位相」(及び「波数(周期)」)を検出していることは明らかであって、このことが、本願発明1における「所定の媒体に一定間隔で記録された測長用の記録パターンを検出してインクリメント信号を得ることで、前記記録パターンとの位置で決まる位相を検出する」ことに相当する。
よって、引用発明における、「可動スケール90」の上記「スリット100」に基づいて「被測定物の位置に応じて位相が変化する複数の第一の信号を出力する第一の出力手段」、及び該「複数の第一の信号」の「出力」から、「被測定物の位置に応じて」「変化」する「位相」(及び「波数(周期)」)を「計測」する「位相演算器」が、本願発明1における「所定の媒体に一定間隔で記録された測長用の記録パターンを検出してインクリメント信号を得ることで、前記記録パターンとの位置で決まる位相を検出する第1の検出部」に相当する。

ウ 引用発明の「可動スケール90」における、「被測定物の原点を計測するために、原点付近で幅が拡大するスリット110」が、本願発明1における「前記媒体に記録されたリファレンス用の記録パターン」に相当する。

エ 引用発明における上記「スリット110」に基づく「A’相、B’相の出力信号」の「第二の信号の組(C2、S2)」(すなわち、「被測定物の原点付近で振幅が大きく、原点から離れるに従い振幅が減少する複数の第二の信号」)を「出力する第二の出力手段」と、「前記第二の信号の振幅値を算出する振幅演算器」とが、本願発明1における「前記媒体に記録されたリファレンス用の記録パターンのレベルを検出する第2の検出部」に相当する。

オ 引用発明における「前記第一の信号の周期毎に、前記振幅演算器により算出された前記第二の信号の振幅値の平均値を算出する平均値演算手段と、前記平均値演算手段により算出された前記平均値を用いて二次回帰演算を行う回帰演算手段と、前記二次回帰演算により求められた前記第二の信号のピーク位置から前記被測定物の原点位置を求めるピーク位置演算手段」が、本願発明1における「前記第2の検出部で得たリファレンス用の記録パターンの検出レベルのピーク位置を判別するピーク位置判定部」に相当する。

カ 引用発明における「二次回帰演算から求められるピーク位置の精度と比較して、第一の信号から求められる位相の精度のほうが高いため」、「位相演算器で計測された」、「複数の位置のうち、ピーク位置に最も近い位置」を「被測定物の原点位置と判定する判定手段」が、本願発明1における「前記ピーク位置判定部が判定したピーク位置と一定の関係がある、前記第1の検出部の検出信号を、原点位置に決定する原点判定部」に相当する。

キ 引用発明における「位相演算器」が、「可動スケール90」の上記「スリット100」に基づいて「出力」された「第一の信号の位相」が「所定値(例えば、位相ゼロ)」であることを「計測」することが、本願発明1における「前記第1の検出部は、前記媒体に一定間隔で記録された測長用の記録パターンから検出したインクリメント信号の位相が、特定の位相であることを検出」することに相当する。

ク 引用発明における「判定手段」が、「二次回帰演算から求められるピーク位置の精度と比較して、第一の信号から求められる位相の精度のほうが高いため」、「位相演算器で計測された第一の信号の位相が所定値(例えば、位相ゼロ)になるときの複数の位置のうち、ピーク位置に最も近い位置を被測定物の原点位置と判定する」ことと、本願発明1における「前記原点判定部は、前記ピーク位置判定部が判定したピーク位置を基準にして、その基準となるピーク位置から前記記録パターンを走査するいずれか一方の特定の方向にずれた状態で、基準となるピーク位置から最も近い前記特定の位相の位置を、原点位置に決定し、前記ピーク位置判定部が判定するピーク位置と、前記第1の検出部が検出する特定の位相の位置とは、干渉しない離れた位置に設定する」こととは、「前記原点判定部は、前記ピーク位置判定部が判定したピーク位置に最も近い前記特定の位相の位置を、原点位置に決定する」点で共通する。

ケ 引用発明における「計測装置」は、「被測定物の変位長さを計測する」ためのものであるから、本願発明1における「測長器」に相当する。

すると、本願発明1と引用発明とは、次の一致点、相違点を有する。
(一致点)
「所定の媒体に一定間隔で記録された測長用の記録パターンを検出してインクリメント信号を得ることで、前記記録パターンとの位置で決まる位相を検出する第1の検出部と、
前記媒体に記録されたリファレンス用の記録パターンのレベルを検出する第2の検出部と、
前記第2の検出部で得たリファレンス用の記録パターンの検出レベルのピーク位置を判別するピーク位置判定部と、
前記ピーク位置判定部が判定したピーク位置と一定の関係がある、前記第1の検出部の検出信号を、原点位置に決定する原点判定部とを備え、
前記第1の検出部は、前記媒体に一定間隔で記録された測長用の記録パターンから検出したインクリメント信号の位相が、特定の位相であることを検出し、
前記原点判定部は、前記ピーク位置判定部が判定したピーク位置に最も近い前記特定の位相の位置を、原点位置に決定する
測長器。」

(相違点)
本願発明1では、前記原点判定部が、「前記ピーク位置判定部が判定したピーク位置を基準にして、その基準となるピーク位置から前記記録パターンを走査するいずれか一方の特定の方向にずれた状態で、基準となるピーク位置から最も近い前記特定の位相の位置を、原点位置に決定し、前記ピーク位置判定部が判定するピーク位置と、前記第1の検出部が検出する特定の位相の位置とは、干渉しない離れた位置に設定する」のに対し、
引用発明では、判定手段が、「二次回帰演算から求められるピーク位置の精度と比較して、第一の信号から求められる位相の精度のほうが高いため」、「位相演算器で計測された第一の信号の位相が所定値(例えば、位相ゼロ)になるときの複数の位置のうち、ピーク位置に最も近い位置を被測定物の原点位置と判定」しているものの、「ピーク位置に最も近い位置」を、「可動スケール90」の移動における「特定の方向」にずれた状態で、「ピーク位置」と干渉しない離れた位置に「設定」することは示されていない点。

(2)判断
そこで、上記相違点について検討すると、
ア 引用文献2に記載された技術は、「原点トリガー信号によりそれら2部材間の相対変位量を例えばゼロ等の値にプリセットすることにより、原点合わせの作業が行われる」ものであるから、その「原点」とは、「原点トリガー信号」の検出を契機としたプリセットにより、原点と「みな」されることになる、「スケールに沿う任意の位置」(つまり、最初の原点設定時において、原点トリガー信号DAがトリガーされたときに偶々計測された「基準信号DS_(0)と位相変調信号DSとの位相差」に合致する位置であって、予め決められていた位置ではない。)である。
これに対し、引用発明における「原点位置」とは、「位相演算器で計測された第一の信号の位相が所定値(例えば、位相ゼロ)になるとき」の位置である。
したがって、引用発明における「所定値(例えば、位相ゼロ)になるとき」の「位置」は、原点位置の候補として予め選定されている位置であって、引用文献2に記載された技術におけるような、「スケールに沿う任意の位置」ではない。
よって、引用文献2に記載された「原点設定」の手法は、そのままでは引用発明に適用することができないものであるから、当業者であっても、引用発明に引用文献2に記載された技術を適用することは、直ちには動機付けられないことである。

イ また、引用発明に引用文献2に記載された技術を適用したとしても、引用発明における「原点位置」は、該適用の結果、可動スケール90が「左から右方向に横切る場合」(あるいは、「右から左方向に横切る場合」)において、「第二の信号のピーク位置」が「二次回帰演算により求められた」ときに偶々算出された「第一の信号の位相」(位相ゼロなどの「所定値」に限られない。)の位置となってしまい、上記相違点に係る本願発明1のような、「基準となるピーク位置から最も近い前記特定の位相の位置を、原点位置に決定し、前記ピーク位置判定部が判定するピーク位置と、前記第1の検出部が検出する特定の位相の位置とは、干渉しない離れた位置に設定する」という構成とはならない。

ウ さらに、上記相違点に係る本願発明1の構成は、引用文献3にも記載されておらず、本願出願前に周知技術であるともいえない。

エ よって、本願発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2-3に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2.本願発明2、3について
本願発明2、3も、本願発明1と同じく、「前記原点判定部」が「前記ピーク位置判定部が判定したピーク位置を基準にして、その基準となるピーク位置から前記記録パターンを走査するいずれか一方の特定の方向にずれた状態で、基準となるピーク位置から最も近い前記特定の位相の位置を、原点位置に決定し、前記ピーク位置判定部が判定するピーク位置と、前記第1の検出部が検出する特定の位相の位置とは、干渉しない離れた位置に設定する」構成(以下、「本願発明1-3に係る原点判定部の構成」という。)を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2-3に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3.本願発明4-6について
本願発明4-6は、それぞれ、本願発明1-3に係る「測長器」の発明を「原点位置検出方法」として表現した発明であって、本願発明1-3と同様に、「原点判定処理ステップ」が「前記ピーク位置判定処理ステップで判定したピーク位置を基準にして、その基準となるピーク位置から前記記録パターンを走査するいずれか一方の特定の方向にずれた状態で、基準となるピーク位置から最も近い前記特定の位相の位置を、原点位置に決定するし、前記ピーク位置判定処理ステップで判定するピーク位置と、前記第1の信号検出処理ステップで検出する特定の位相の位置とは、干渉しない離れた位置に設定する」構成(以下、「本願発明4-6に係る原点判定処理ステップの構成」という。)を備えるものである。
よって、本願発明4-6は、本願発明1-3と同様の理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2-3に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第7 原査定についての判断
平成31年2月1日付けの手続補正により、補正後の請求項1-3は、上記「本願発明1-3に係る原点判定部の構成」を備え、補正後の請求項4-6は、上記「本願発明4-6に係る原点判定処理ステップの構成」を備えるものとなった。
そして、本願発明1-6が、上記各相違点に係る構成を備えている点で、当業者であっても、原査定における引用文献A、B(当審拒絶理由で引用した引用文献1、3)に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえないことは、上記「第6」で述べとおりである。。
また、原査定における拒絶の理由に引用された引用文献Cには、
「磁気記録媒体としての長尺帯状の検出マグネット2と、この検出マグネット2に近接対面するように配置された磁気検出器としての磁気センサー3とを備え、上記検出マグネット2の表面には、移動部材の移動方向に沿って磁気トラックが記録され(段落【0016】より。以下、同様。)、前記検出マグネット2の磁気トラックには、トラック方向にN極とS極とが交互に連続して着磁された位置検出用磁極部2a1が設けられる(【0018】)、磁気式位置検出装置(【0001】)。」
が記載されているにすぎず、引用文献Cには、上記「本願発明1-3に係る原点判定部の構成」、あるいは、上記「本願発明4-6に係る原点判定処理ステップの構成」は記載されていない。
よって、本願発明1-6は、当業者であっても、原査定における引用文献A-Cに基づいて容易に発明することができたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-03-26 
出願番号 特願2013-56897(P2013-56897)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (G01D)
P 1 8・ 121- WY (G01D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉田 久  
特許庁審判長 小林 紀史
特許庁審判官 清水 稔
中村 説志
発明の名称 測長器および原点位置検出方法  
代理人 特許業務法人信友国際特許事務所  

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