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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L |
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管理番号 | 1350107 |
審判番号 | 不服2018-2458 |
総通号数 | 233 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-05-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-02-21 |
確定日 | 2019-04-09 |
事件の表示 | 特願2014- 93251「炭化珪素半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月24日出願公開,特開2015-211179,請求項の数(6)〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成26年4月30日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。 平成29年 3月22日付け 拒絶理由通知書 平成29年 5月25日 意見書・手続補正書の提出 平成29年11月20日付け 拒絶査定(以下,「原査定」という。) 平成30年 2月21日 審判請求書・手続補正書の提出 平成30年11月29日付け 拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」という。)通知書 平成31年 1月24日 意見書・手続補正書の提出 第2 本願発明 本願請求項1-6に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明6」という。)は,平成31年1月24日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-6に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1-本願発明6は以下のとおりの発明である。 「 【請求項1】 第一導電型の炭化珪素半導体層と, 前記炭化珪素半導体層の表面上に形成された酸化珪素または窒化珪素の厚さ0.5μm?1.5μmのフィールド絶縁膜と, 前記炭化珪素半導体層の表面上であって前記フィールド絶縁膜よりも内周側に形成されるとともに,前記フィールド絶縁膜に乗り上げて形成されたショットキー電極と, 前記ショットキー電極を覆い,前記ショットキー電極の外周端を越えて前記フィールド絶縁膜上に延在する表面電極と, 前記炭化珪素半導体層内の上部において前記ショットキー電極の一部と接して形成され,前記炭化珪素半導体層内において前記表面電極の外周端よりも外周側に延在し,単位面積当りの不純物量が1.0×10^(13)/cm^(2)?1.0×10^(14)/cm^(2)の範囲である第二導電型の終端ウェル領域と, 前記終端ウェル領域内に形成され,第二導電型の単位面積当りの不純物量が2.0×10^(14)/cm^(2)?1.0×10^(15)/cm^(2)の範囲である第二導電型の高濃度終端ウェル領域とを備え, 前記終端ウェル領域および前記高濃度終端ウェル領域は,第二導電型の不純物を100keV?700keVの注入エネルギーでイオン注入して得られる厚さに形成され, 前記表面電極の外周端は,前記終端ウェル領域の外周端よりも15μm以上内側に存在し, 前記表面電極の外周端は,前記高濃度終端ウェル領域上に位置し,前記高濃度終端ウェル領域の外周端よりも2μm以上内側に存在する, ことを特徴とする炭化珪素半導体装置。 【請求項2】 前記フィールド絶縁膜の厚みは,0.5μm以上である, ことを特徴とする請求項1記載の炭化珪素半導体装置。 【請求項3】 前記高濃度終端ウェル領域と前記ショットキー電極の一部とがコンタクトしている, ことを特徴とする請求項1記載の炭化珪素半導体装置。 【請求項4】 前記表面電極の外周端部には,テーパー部が設けられた, ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置。 【請求項5】 前記ショットキー電極は,Ti,Mo,Ni,Auの少なくともいずれか一つの金属を含む, ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置。 【請求項6】 前記表面電極は,Al,Cu,Mo,Niの少なくともいずれか一つの金属を含む, ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置。」 第3 引用文献及び引用発明 1 引用文献1について (1)引用文献1の記載 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2003-101039号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付加した。以下同じ。) 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,高耐圧半導体装置に関する。 【0002】 【従来の技術】従来から,PNダイオード,ショットキーバリアダイオード,MOSFET,IGBT等の高耐圧半導体素子の終端構造として,リサーフ構造やガードリング構造等が知られている。 【0003】先ず,図10にリサーフ構造を有する高耐圧半導体装置を示す。 【0004】図10に示すように,このリサーフ構造を有する高耐圧半導体装置は,n^(-)型半導体層1の表面にp^(-)型半導体層からなるリサーフ層10が形成されている。n^(-)型半導体層1の表面におけるリサーフ層10の内部にp^(+)型半導体層からなるエッジターミネーション層9が形成されている。エッジターミネーション層9上には,第1電極4が形成されている。n^(-)型半導体層1の裏面にはn^(+)半導体層2を介して第2電極3が形成されている。符号5は,第1電極4上に形成され,第1電極4と電気的に接続されたフィールドプレートである。符号6はn^(-)型半導体層1表面上に形成された絶縁膜である。符号7は電極である。符号8はn^(+)型半導体層である。 【0005】このようなリサーフ構造を有する高耐圧半導体装置は,リサーフ層10の不純物濃度,長さ,深さ等を最適化することで,基板の厚さと不純物濃度から算出される理想耐圧に近い耐圧を得ることが可能である。 【0006】リサーフ構造は,エッジターミネーション層9を内部に含み周囲に広がるようにリサーフ層10を形成することにより,逆バイアス印加時にリサーフ層10が空乏化し,エッジターミネーション層9端の電界を緩和して高耐圧を得ることができる。 【0007】しかしながらリサーフ層10の不純物濃度が高い場合には,リサーフ層10が空乏化しきれず,リサーフ層10の端部に電界が集中して耐圧が低下する問題がある。一方リサーフ層10の不純物濃度が低すぎれば,電圧の低い段階でもリサーフ層10が空乏化してしまい,エッジターミネーション層9端の電界を緩和する効果が薄れ耐圧は低下する問題がある。 【0008】このようにリサーフ層10の不純物濃度は高すぎず低すぎず最適値が存在し,最適のピーク耐圧を求めることができる。また,このピーク耐圧は,リサーフ層10の長さに依存し,リサーフ層10が長いほど高耐圧を得ることが可能であり,理想耐圧に近づく。」 「【0041】図1に示すように,このショットキーバリアダイオードは,n^(-)型半導体層1と,n^(-)型半導体層1の表面に形成されたp^(+)型高不純物濃度層からなるエッジターミネーション層9を具備している。 【0042】n^(-)型半導体層1の表面には,複数のp^(+)型高不純物濃度層からなる第1ガードリング層11が形成されている。これら第1ガードリング層11は,エッジターミネーション層9の周囲に位置するように形成されている。第1ガードリング層11は,エッジターミネーション層9と不純物濃度も同程度である。第1ガードリング層11は,複数層あるほうが効果を高くすることができる。 【0043】n^(-)型半導体層1の表面には,エッジターミネーション層9及び第1ガードリング層11を内部に含むようにp^(-)型低不純物層からなるリサーフ層10が形成されている。リサーフ層10は,エッジターミネーション層9及び第1ガードリング層11よりも低い不純物濃度である。 【0044】n^(-)型半導体層1の表面には,リサーフ層10の周囲に位置するようにp^(-)型低不純物層からなる第2ガードリング層12が形成されている。第2ガードリング層12は,リサーフ層10と不純物濃度が同程度である。第2ガードリング層12は,複数あるほうが効果を高くすることができる。 【0045】エッジターミネーション層9上には,第1電極4が設けられている。第1電極4上には,これと電気的に接続されたフィールドプレート5が形成されている。フィールドプレート5は,半導体層1と絶縁膜6を介して形成されている。このフィールドプレート5は,第1ガードリング層11上を覆うように形成され,端部がリサーフ層10上に位置するように設けられている。こうすることでリサーフ層10の不純物濃度が最適値よりも低い場合に,絶縁膜6に負荷をかけることなく,さらに不純物濃度のばらつきによる耐圧の劣化を防ぐことができる。」 「【0066】次に,図5を用いて,図1に示した高耐圧半導体装置の製造方法を説明する。ここでは4H-SiC(シリコンカーバイド)を基板に用いたショットキーバリアダイオードの製造方法について説明する。 【0067】先ず,図5(a)に示すように,裏面にn^(+)型半導体層2が形成されたn^(-)型半導体層1を具備する4H-SiC基板を用意する。例えば,n^(-)型半導体層1の不純物濃度は5×10^(15)cm^(-3),厚さは10μmとする。n^(-)型半導体層1の不純物濃度および厚さは,素子の耐圧系によって異なる。次に,この4H-SiC基板のn^(-)型半導体層1上に,酸化膜からなる絶縁膜6を形成する。 【0068】次に,図5(b)に示すように,4H-SiC基板の表面にマスク30をパターニングして,n^(+)型不純物をイオン注入しチャネルストッパ領域8を形成する。このイオン注入は,例えば,ドーズ量を1×10^(15)cm^(-2)とし,加速電圧を10?100keVの多段階に分けてリンをイオン注入し,ボックス型のプロファイルを形成する。この後マスク30を除去する次に,図5(c)に示すように,4H-SiC基板の表面に,マスク31をパターニングして,p^(-)型不純物をイオン注入し,p^(-)型低不純物濃度層からなるリサーフ層10及びp^(-)型低不純物濃度層からなる第2ガードリング層12を形成する。このイオン注入は,例えば,ドーズ量を1×10^(13)cm^(-2)とし,加速電圧を20?400keVの多段階に分けてアルミニウムをイオン注入し,ボックス型のプロファイルを形成する。この後マスク31を除去する次に,図5(d)に示すように,4H-SiC基板の表面に,マスク32をパターニングして,p^(+)型不純物をイオン注入し,リサーフ層10内部にp^(+)型高不純物濃度層からなるエッジターミネーション層9及びp^(+)型高不純物層からなる第1ガードリング層11を形成する。このイオン注入は,例えば,ドーズ量を5×10^(14)cm^(-2)とし,加速電圧を10?200keVの多段階に分けてアルミニウムをイオン注入し,ボックス型のプロファイルを形成する。この後マスク32を除去する。 【0069】次に,図5(e)に示すように,チャネルストッパ領域8上の絶縁膜6を除去する。次に,このチャネルストッパ領域8上に,ニッケルのオーミック電極7を形成する。このとき基板裏面に電極3を形成し,アニールにより同時に電極7,3を低抵抗化してもよい。電極3としては,基板側からニッケル層,チタン層の積層構造とすることができる。また,基板側からチタン層,ニッケル層,金層の積層構造とすることができる。また,基板側からニッケル層,金層の積層構造とすることができる。 【0070】次に,図5(f)に示すように,エッジターミネーション層9及びリサーフ層10の一部上の絶縁膜6を除去する。次に,このエッジターミネーション層9及びリサーフ層10の一部上にチタンからなるショットキー電極4を形成する。ショットキー電極4端には,エッジターミネーション層9が接するようにする。この工程で同時にチタンからなるフィールドプレート5を絶縁膜6上まで伸びるように形成する。 【0071】次に,図5(g)に示すように,4H-SiC基板の裏面のn^(+)型半導体層2上にニッケルからなるオーミック電極3を形成する。ただし図5(e)に示す段階で電極3を形成した場合は,この工程は必要ない。 【0072】この様にして図1に示す高耐圧半導体装置が完成する。 【0073】リサーフ層10内部の第1ガードリング層11はいくつであってもよく,個数が多いほど耐圧の劣化を防ぐ効果がある。本発明者らの実験の結果第1ガードリング層11は,2?3本とするのが効果的であった。 【0074】また,各第1ガードリング層11の幅を3μmとし,エッジターミネーション層9と最内郭の第1ガードリング層11の間隔を1μmとした。また,最内郭の第1ガードリング層11と次に隣接する第1ガードリング11の間隔を2μmとした。これら第1ガードリング層11の間隔及び幅は,最適化をおこなうことで,さらに理想耐圧の90%以上の耐圧が得られる濃度範囲を広げることが可能である。 【0075】また,リサーフ層10外部の第2ガードリング層12はいくつであってもよく,個数が多いほど耐圧の劣化を防ぐ効果がある。本発明者らの実験の結果第2ガードリング層12は,3?5本とするのが効果的であった。図5の説明では簡単のため2つの第2ガードリング層11としているが,4本の第2ガードリング層12を形成した場合を説明する。 【0076】各第2ガードリング層12の幅を3μmとし,リサーフ層10と最内郭の第2ガードリング層12の間隔を1μmとした。最内郭の第2ガードリング層12と次に隣接する第2ガードリング層12の間隔を1μmとした。この第2ガードリング層12と次に隣接する第2ガードリング層12の間隔を2μmとした。この第2ガードリング層12と次に隣接する第2ガードリング層12の間隔を3μmとした。これら第2ガードリング層12の間隔及び幅は,最適化をおこなうことで,理想耐圧の90%以上の耐圧が得られる濃度範囲を広げることが可能である。 【0077】チャネルストッパ領域8はカソード電極3と電気的に接続され,半導体基板の表面電位を固定するために設けているが,空乏層が到達する場合に,耐圧劣化を防ぐ効果がある。ここでチャネルストッパ領域8の不純物n^(+)はp^(+)であっても良い。ここでは,最外郭の第2ガードリング層12端とチャネルストッパ領域8の距離を30μm以上確保し,空乏層が到達しない距離にチャネルストッパ領域8を形成している。 【0078】フィールドプレート5は,ショットキー電極4と電気的に接続し,フィールドプレート5の端部がリサーフ層10上に位置していることが好ましい。ここでは,フィールドプレート5の端部とリサーフ層10の外周端との距離を10μmとした。また,絶縁膜6の厚さを1μmとした。 【0079】また,このフィールドプレート5の端部とチャネルストッパ層9間の絶縁膜6を厚くし,第2フィールドプレートを形成しても良い。或いは第2ガードリング層12上に,ショットキー電極とは電気的に接続されないフィールドプレートを形成しても良い。 【0080】本高耐圧半導体装置の製造方法では,リサーフ層10内部の第1ガードリング11をエッジターミネーション層9と同時にイオン注入によって形成している。また,リサーフ層10外部の第2ガードリング12をリサーフ層10と同時にイオン注入によって形成している。したがって製造プロセスは従来のリサーフ構造のマスクレイアウトの変更のみでよく,工程数も同じである。 【0081】また,マスクを増やし,リサーフ層10と第2ガードリング層12を,不純物濃度を変えて別々に形成しても良い。また,エッジターミネーション層9と第1ガードリング層11を,不純物濃度を変えて別々に形成しても良い。このように不純物濃度を変えることで,さらに耐圧の劣化を防ぐような最適設計をおこなうことも可能である。」 「【0116】図16に,本発明の別の実施形態にかかる高耐圧半導体装置(ショットキーバリアダイオード)の断面図を示す。基板としては4H-SiCを用いている。 【0117】図16に示すように,このショットキーバリアダイオードは,裏面にn^(+)型半導体層2が形成されたn^(-)型半導体層1と,n^(-)型半導体層1の表面に形成されたp^(+)型高不純物濃度層からなるエッジターミネーション層9を具備している。 【0118】n^(-)型半導体層1の表面には,エッジターミネーション層9を内部に含むようにp^(-)型低不純物層からなるリサーフ層10が形成されている。リサーフ層10は,エッジターミネーション層9よりも低い不純物濃度である。 【0119】n^(-)型半導体層1の表面には,リサーフ層10の周囲に位置するようにp^(-)型低不純物層からなるガードリング層12が形成されている。ガードリング層12は,リサーフ層10と不純物濃度が同程度である。 【0120】また,n^(-)型半導体層1表面上にはショットキー電極として第1電極4が設けられている。第1電極4上には,これと電気的に接続されたフィールドプレート5が形成されている。フィールドプレート5の端部はエッジターミネーション層9の内側に位置する。フィールドプレート5と酸化膜6とエッジターミネーション9の電界は小さく,この構造では逆電圧印加時の酸化膜の絶縁破壊による素子不良が抑制される。 【0121】n^(-)型半導体層1の裏面には,n^(+)型半導体層2を介して第2電極3が形成されている。n^(-)型半導体層1の表面には,第2ガードリング層12の周囲に位置するように,n^(+)型高不純物濃度層からなるチャネルストッパ領域8が形成されている。チャネルストッパ領域8上には,第3電極7が設けられ,第2電極3と電気的に接続されている。このチャネルストッパ領域8によって,素子の外側にチャネルが広がるのを防ぐことができる。 【0122】この高耐圧半導体装置の構造は,第1電極4を中心とした円周構造となっている。 【0123】図16の構造ではリサーフ層10が最適値より高濃度になっても耐圧低下は小さいので高耐圧の半導体装置を得ることができる。このときリサーフ層10の濃度対ガードリング層12の比が1対0.5以上2以下であることが好ましい。」 (2)引用発明1 前記(1)より,図1に示される第1の実施形態に係る高耐圧半導体装置についての記載を参酌してまとめると,引用文献1には,図16に示される別の実施形態に係る高耐圧半導体装置として,以下の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 「裏面にn^(+)型半導体層2が形成されたn^(-)型半導体層1を具備する4H-SiC基板と, 4H-SiC基板のn^(-)型半導体層1上の酸化膜からなる厚さ1μmの絶縁膜6と, 4H-SiC基板の表面に,ドーズ量を1×10^(13)cm^(-2)とし,加速電圧を20?400keVの多段階に分けてアルミニウムをイオン注入し,ボックス型のプロファイルを形成するp^(-)型低不純物濃度層からなるリサーフ層10と, ドーズ量を5×10^(14)cm^(-2)とし,加速電圧を10?200keVの多段階に分けてアルミニウムをイオン注入し,ボックス型のプロファイルを形成するリサーフ層10内部にp^(+)型高不純物濃度層からなるエッジターミネーション層9と, エッジターミネーション層9及びリサーフ層10の一部上に形成されたショットキー電極4と,ショットキー電極4上にこれと電気的に接続されたフィールドプレート5であって,同時の工程で,絶縁膜6上まで伸びるように形成され,端部はエッジターミネーション層9の内側に位置するフィールドプレート5と, を備える高耐圧半導体装置。」 2 引用文献2について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2013-211503号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。 「【技術分野】 【0001】 本発明は,SiCを用いた半導体装置に関し,特にエッジ部のショットキーコンタクトメタルを表面電極メタルで完全に被覆することで,エッチング残渣の発生を防ぎ,信頼性の高い表面電極構造を有する半導体デバイスに関するものである。」 「【0025】 図4は,本発明におけるエッジ部の構造を詳細に説明する図であって,図3と同様に,第1の金属層のエッジ部は,終端構造用のp型領域3上に形成された,層間絶縁膜6の上に位置しており,第2の金属層12は,該第1の金属層上に形成されているが,第1の金属層11は,第2の金属層12で被覆されている。 すなわち,本願発明の図4における構造では,ショットキーコンタクトは,表面電極となる第2の金属層12に完全に覆われているため,エッチング残渣およびプラズマによるダメージの影響を受けず,特性が良好な素子を得ることが出来る。 図4に示すとおり,本発明において,前記第1の金属層及び第2の金属層の外周端部が,共に前記第2導電型の領域B内にあることが好ましい。」 3 引用文献3について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特開2007-235064号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。 「【技術分野】 【0001】 本発明は,ショットキーバリア半導体装置及びその製造方法に関し,より特定的には,高濃度第一導電型(N型)半導体であるシリコン基板上において,金属膜がショットキー接合を形成しているショットキーバリア半導体装置の耐圧性能及び静電気サージ耐量を改善する技術に関する。」 「【0004】 図3は,特許文献1に記載された従来のショットキーバリアダイオードの断面図である。まず,エピタキシャル成長法を用いて,シリコンからなる高濃度N型半導体基板20の上に低濃度N型エピタキシャル層21を形成する。次に,酸化膜の開口部からのイオン注入法を用いて,低濃度N型エピタキシャル層21の表面に,例えばボロンイオンを注入及び拡散させて不純物濃度の高いガードリング領域24aを形成し,その後リンイオンを注入及び拡散させて不純物濃度の低いガードリング領域24bを形成する。これにより,不純物濃度が異なる二層のガードリング領域24a及び24bからなるガードリング24を形成できる。そして,ガードリング24の外側を覆うように,絶縁膜及び保護膜となるシリコン酸化膜22を形成する。電極25はアノード側電極,電極26はカソード電極であり,電極25と低濃度N型エピタキシャル層21との間においてショットキー接合を形成している。」 【図3】 4 引用文献4について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4(特開昭61-288426号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。 「 産業上の利用分野 本発明は半導体装置の製造に広く用いられている配線電極材料のパターン断面形状を制御する方法を提供するものであり,特に多層配線を用いた半導体装置の製造に利用できる。」(第1頁左欄第19行-右欄第3行) 「 アルミニウム膜もしくはアルミニウム合金膜を用いて多層配線製造を形成する場合,第1層目のアルミニウム膜もしくはアルミニウム合金膜の配線パターンのエッジ部での層間絶縁膜のステップカバレージを良好に行なうために,第1層目のアルミニウム膜もしくはアルミニウム合金膜のパターンの断面形状をテーパ状とすることが要求されるが,従来これを行なう方法としては,第2図(a)および(b)の工程順断面図に示したように,アルミニウム膜もしくはアルミニウム合金膜3のドライエッチング時に,レジスト6とのエッチング速度比を制御し,レジスト6のエッチング速度をアルミニウム膜もしくはアルミニウム合金膜3のエッチング速度に近づけると,レジスト6のパターン幅がエッチング中に順次小さくなることにより,アルミニウム膜もしくはアルミニウム合金膜3のパターンの断面形状をテーパ状としていた。」(第1頁右欄第5行-第2頁左上欄第1行) 5 引用文献5について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5(特開2012-124329号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。 「【技術分野】 【0001】 本発明は,SiC半導体装置に関する。」 「【0020】 アノード電極7は,たとえば,フィールド絶縁膜5の開口6内でSiCエピタキシャル層4に接合された障壁形成電極としてのショットキーメタル9と,このショットキーメタル9に積層されたコンタクトメタル10との2層構造を有している。 ショットキーメタル9は,n型のSiCとの接合によりショットキー接合を形成する金属(たとえば,Ni,Auなど)からなる。SiCに接合されるショットキーメタル9は,SiC半導体との間に,たとえば,0.7eV?1.7eVの高さのショットキー障壁(電位障壁)を形成する。また,ショットキーメタル9の厚さは,この実施形態では,たとえば,0.01μm?5μmである。」 第4 対比及び判断 1 本願発明1と引用発明1について (1)本願発明1と引用発明1との対比 ア 引用発明1の「裏面にn^(+)型半導体層2が形成されたn^(-)型半導体層1を具備する4H-SiC基板」は,本願発明1の「第一導電型の炭化珪素半導体層」に相当する。 イ 引用発明1の「4H-SiC基板のn^(-)型半導体層1上の酸化膜からなる厚さ1μmの絶縁膜6」は,本願発明1の「前記炭化珪素半導体層の表面上に形成された酸化珪素」「の厚さ0.5μm?1.5μmのフィールド絶縁膜」に相当する。 ウ 引用発明1の「エッジターミネーション層9及びリサーフ層10の一部上に形成されたショットキー電極4」は,エッジターミネーション層9及びリサーフ層10の一部上の絶縁膜6を除去した領域に形成されているから(第3の1(1)【0070】),「前記炭化珪素半導体層の表面上であって前記フィールド絶縁膜よりも内周側に形成される」状態といえる。 また,引用発明1の「絶縁膜6上まで伸びるように形成され,端部はエッジターミネーション層9の内側に位置するフィールドプレート5」は,「前記フィールド絶縁膜に乗り上げて形成された」状態といえる。 よって,引用発明1の「ショットキー電極4」及び「フィールドプレート5」は,本願発明1の「ショットキー電極」に相当する。 エ 引用発明1の「リサーフ層10」は,4H-SiC基板の表面に形成されているから,「前記炭化珪素半導体層内の上部において」形成されているといえる。 また,引用発明1の「リサーフ層10」は,「リサーフ層10の一部上に」「ショットキー電極4」を有しているから,「前記ショットキー電極の一部と接して形成され」ているといえる。 また,引用発明1の「ドーズ量」「1×10^(13)cm^(-2)」は,本願発明1の「単位面積当りの不純物量が1.0×10^(13)/cm^(2)?1.0×10^(14)/cm^(2)の範囲」に相当する。 よって,引用発明1の「ドーズ量を1×10^(13)cm^(-2)とし,加速電圧を20?400keVの多段階に分けてアルミニウムをイオン注入し,ボックス型のプロファイルを形成するp^(-)型低不純物濃度層からなるリサーフ層10」は,本願発明1の「前記炭化珪素半導体層内の上部において前記ショットキー電極の一部と接して形成され,」「単位面積当りの不純物量が1.0×10^(13)/cm^(2)?1.0×10^(14)/cm^(2)の範囲である第二導電型の終端ウェル領域」に相当する。 オ 引用発明1の「エッジターミネーション層9」は,「リサーフ層10内部」に形成されているから,「前記終端ウェル領域内に形成され」ているといえる。 また,引用発明1の「ドーズ量」「5×10^(14)cm^(-2)」は,本願発明1の「第二導電型の単位面積当りの不純物量が2.0×10^(14)/cm^(2)?1.0×10^(15)/cm^(2)の範囲」に相当する。 よって,引用発明1の「p^(+)型高不純物濃度層からなるエッジターミネーション層9」は,本願発明1の「第二導電型の高濃度終端ウェル領域」に相当する。 カ 引用発明1の「リサーフ層10」および「p^(+)型高不純物濃度層からなるエッジターミネーション層9」は,アルミニウムをイオン注入し,ボックス型のプロファイルを形成するから,「前記終端ウェル領域および前記高濃度終端ウェル領域は」「第二導電型の不純物を」「イオン注入して得られる厚さに形成され」ているといえる。 キ 引用発明1の「高耐圧半導体装置」は,4H-SiC基板に形成されるものであるから,本願発明1の「炭化珪素半導体装置」に相当する。 ク すると,本願発明1と引用発明1とは,下記ケの点で一致し,下記コの点で相違する。 ケ 一致点 「第一導電型の炭化珪素半導体層と, 前記炭化珪素半導体層の表面上に形成された酸化珪素の厚さ0.5μm?1.5μmのフィールド絶縁膜と, 前記炭化珪素半導体層の表面上であって前記フィールド絶縁膜よりも内周側に形成されるとともに,前記フィールド絶縁膜に乗り上げて形成されたショットキー電極と, 前記炭化珪素半導体層内の上部において前記ショットキー電極の一部と接して形成され,単位面積当りの不純物量が1.0×10^(13)/cm^(2)?1.0×10^(14)/cm^(2)の範囲である第二導電型の終端ウェル領域と, 前記終端ウェル領域内に形成され,第二導電型の単位面積当りの不純物量が2.0×10^(14)/cm^(2)?1.0×10^(15)/cm^(2)の範囲である第二導電型の高濃度終端ウェル領域とを備え 前記終端ウェル領域および前記高濃度終端ウェル領域は,第二導電型の不純物をイオン注入して得られる厚さに形成される, ことを特徴とする炭化珪素半導体装置。」 コ 相違点 (ア)相違点1 本願発明1は,「前記ショットキー電極を覆い,前記ショットキー電極の外周端を越えて前記フィールド絶縁膜上に延在する表面電極」を有するに対して,引用発明1は,表面電極を有していない点。 (イ)相違点2 本願発明1は,「終端ウェル領域」が「前記炭化珪素半導体層内において前記表面電極の外周端よりも外周側に延在」するのに対し,引用発明1は,そうではない点。 (ウ)相違点3 本願発明1は,「前記終端ウェル領域および前記高濃度終端ウェル領域は,第二導電型の不純物を100keV?700keVの注入エネルギーでイオン注入して得られる厚さに形成され」るのに対し,引用発明1は,リサーフ層10は,加速電圧を20?400keVの多段階に分けてイオン注入し,ボックス型のプロファイルを形成する,また,p^(+)型高不純物濃度層からなるエッジターミネーション層9は,加速電圧を10?200keVの多段階に分けてイオン注入し,ボックス型のプロファイルを形成する点。 (エ)相違点4 本願発明1は,「前記表面電極の外周端は,前記終端ウェル領域の外周端よりも15μm以上内側に存在」するのに対し,引用発明1は,そうではない点。 (オ)相違点5 本願発明1は,「前記表面電極の外周端は,前記高濃度終端ウェル領域上に位置し,前記高濃度終端ウェル領域の外周端よりも2μm以上内側に存在する」のに対し,引用発明1は,そうではない点。 (2)相違点についての判断 相違点1-5についてまとめて検討する。 ア ショットキー電極を覆い,ショットキー電極の外周端を越えてフィールド絶縁膜上に延在する表面電極を有する半導体装置は周知であり,例えば,上記引用文献2,3に記載されている。 一方,引用文献1には,リサーフ構造を有する高耐圧半導体装置について,「リサーフ構造は,エッジターミネーション層9を内部に含み周囲に広がるようにリサーフ層10を形成することにより,逆バイアス印加時にリサーフ層10が空乏化し,エッジターミネーション層9端の電界を緩和して高耐圧を得ることができる。」((第3の1(1)【0006】),)ことは記載されているが,動的なスイッチング時における電界集中について何ら着目していない。 したがって,上記ショットキー電極を覆い,ショットキー電極の外周端を越えてフィールド絶縁膜上に延在する表面電極を有する半導体装置が周知であるとしても,当業者が,「動的なスイッチング時における表面電極5の外周端での電界集中と静的なオフ状態における表面電極5の外周端での電界集中との双方を緩和するために,終端ウェル領域2上において表面電極5の外周端と終端ウェル領域2の外周端との距離を確保する必要がある。」(本願明細書【0053】)ことを認識することはなく,当業者が,引用発明1において,上記相違点1-5に係る構成を採用することが容易であったとは認められない。 イ そして,本願発明1は,相違点1-5に係る構成を備えることによって,「スイッチング時の変位電流によって発生する電界を緩和することができる。」(本願明細書【0069】)という格別の効果を奏すると認められる。 2 本願発明2-6について 本願発明2-6は,本願発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用文献1-5に記載された発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 第5 原査定の概要及び原査定についての判断 1 理由2(特許法第29条第2項)について 原査定は,平成29年5月25日付け手続補正により補正された請求項1-7に記載された発明について,上記引用文献1-5に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。 しかしながら,平成31年1月24日付け手続補正により補正された請求項1-6に記載された発明は,上記のとおり,引用文献1-5に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。 したがって,原査定の理由2を維持することはできない。 2 理由3(特許法第36条第6項第1号)について 原査定は,平成29年5月25日付け手続補正により補正された請求項1-7に記載された発明について,本願の発明の詳細な説明に記載したものでないから,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないというものである。 しかしながら,平成31年1月24日付け手続補正により補正された請求項1-6に記載された発明は,本願の発明の詳細な説明に記載されたものである。 したがって,原査定の理由3を維持することはできない。 第6 当審拒絶理由について 特許法第36条第6項第2号について 当審では,平成30年2月21日付け手続補正により補正された請求項1-6に係る発明は,明確でないとの拒絶の理由を通知しているが,平成31年1月24日付けの補正において,補正がされた結果,この拒絶の理由は解消した。 第7 むすび 以上のとおり,本願発明1-6は,当業者が引用文献1-5に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。 また,本願発明1-6は,本願の発明の詳細な説明に記載されたものである。 したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2019-03-25 |
出願番号 | 特願2014-93251(P2014-93251) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WY
(H01L)
P 1 8・ 121- WY (H01L) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 早川 朋一 |
特許庁審判長 |
恩田 春香 |
特許庁審判官 |
河合 俊英 小田 浩 |
発明の名称 | 炭化珪素半導体装置 |
代理人 | 有田 貴弘 |
代理人 | 吉竹 英俊 |