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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 A01H
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A01H
管理番号 1350355
審判番号 不服2017-11980  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-08-09 
確定日 2019-04-23 
事件の表示 特願2013-522015「植物形質転換率を高めるように改変されたアグロバクテリウム(Agrobacterium)株」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 2月 2日国際公開、WO2012/016222、平成25年10月 3日国内公表、特表2013-537412、請求項の数(21)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
この出願(以下「本願」という。)は、2011年(平成23年)7月29日(パリ条約による優先権主張外国受理官庁2010年(平成22年)7月29日、米国)を国際出願日とする特許出願であって、以降の手続の概略は次のとおりである。
拒絶理由通知 平成27年 8月31日付け
意見書、手続補正書の提出 平成28年 2月 8日
拒絶理由通知《最後》 平成28年 6月29日付け
意見書、手続補正書の提出 平成28年12月22日
補正の却下の決定 平成29年 4月 4日付け
拒絶査定 平成29年 4月 4日付け
拒絶査定不服審判請求 平成29年 8月 9日
当審拒絶理由通知 平成30年11月 6日付け
意見書、手続補正書の提出 平成31年 2月26日


第2 平成29年4月4日付けの補正の却下の決定について
1 平成29年4月4日付けの補正の却下の決定(以下「本件補正却下の決定」という。)の概要
平成28年12月22日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)による請求項1?37についての補正は、特許請求の範囲の限定的減縮を目的としているものの、本件補正後の請求項1?37に係る発明は、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。したがって、本件補正は、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するものであるから、同法53条1項の規定により却下する。

2 請求人の主張
請求人は、平成29年8月9日付け審判請求書において、要するに、本件補正後の請求項1?37に係る発明は新規でありかつ進歩性を有するものであると主張する。
ここで、前記1のとおり、本件補正は、本件補正後の請求項1?37に係る発明の進歩性欠如を理由として、却下されたものであるところ、請求人の主張は、本件補正後の請求項1?37に係る発明が進歩性を有するものであることを主張していることから、請求人の主張は、本件補正却下の決定について、不服を申し立てているものと認められる。
そこで、本件補正却下の決定の適否について検討する。

3 本件補正却下の決定の適否
(1)本件補正後の発明
本件補正後の請求項1?37に係る発明は、平成28年12月22日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?37に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明は以下のとおりである。
「【請求項1】
植物を形質転換する方法であって、前記植物の細胞を、pSB1の14.8KpnI VirBCDG断片を含む少なくとも1つのpTiヘルパープラスミドと、少なくとも1つの無害化T-DNA領域を有する第2の異なるpTiプラスミドとを有するRecA欠損アグロバクテリウム(Agrobacterium)株と接触させるステップを含み、前記T-DNA領域が少なくともT-DNA右側境界および前記境界に隣接する外来性遺伝子配列を含み、前記pTiヘルパープラスミドおよび前記無害化T-DNA領域を含む前記pTiプラスミドが互いに対して異なる複製開始点を有する、方法。」

(2)本件補正後の請求項1に係る発明について
ア 本件補正却下の決定における進歩性欠如の理由の概要
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明1」という。)と、引用文献1及び2にそれぞれ記載された発明(以下「引用発明1」及び「引用発明2」という。)とは、アグロバクテリウム株について、前者はRecA欠損していることが特定されているのに対し、後者はそのようなことが特定されていない点で相違するものの、引用発明1及び2において、植物への形質転換効率を向上させるために、引用文献3及び4の記載に基づき、RecA欠損アグロバクテリウム株又はRecA機能を欠失させたアグロバクテリウム株を用いることは、当業者が容易に想到し得たことであって、また、本件補正発明1が、当業者が予測し得ない程の効果を奏するものとは認められないから、本件補正発明1は、引用文献1?4の記載に基づいて、当業者が容易にすることができたものである。
<引用文献等一覧>
引用文献1:国際公開第2008/001414号
引用文献2:国際公開第2007/148819号
引用文献3:特開平10-155485号公報
引用文献4:Transgenic Research (2001) Vol. 10, p.121-132

イ 当審での検討
本件補正発明1と、引用発明1及び2とは、アグロバクテリウム株について、前者はRecA欠損していることが特定されているのに対し、後者はそのようなことが特定されていない点で相違することは前記アのとおりである。そこで、引用発明1及び2におけるアグロバクテリウム株として、RecA欠損株を用いることを、引用文献3及び4の記載から、当業者が容易に想到し得るか否かを検討する。
まず、引用文献3について検討する。引用発明1及び2で使用するアグロバクテリウム株であるLBA4404株は、引用文献1及び2において、35kb程度の比較的大きなDNA断片を安定して保持し得ること(引用文献1の実施例2及び3、引用文献2の実施例2及び3)、並びに高い効率でトウモロコシの形質転換をなし得ることが記載されている(引用文献1の実施例5、引用文献2の実施例5)。すなわち、引用文献1及び2の記載に接した当業者は、引用発明1及び2で使用するLBA4404株が十分な安定性や形質転換効率を有するものであると認識するといえる。一方、引用文献3には、高転換率のアグロバクテリウム株のrecA遺伝子に部位特異的突然変異を導入することにより、recA^(-)のアグロバクテリウム株を作製すること、当該recA^(-)のアグロバクテリウム株が、大型インサートを有するバイナリーベクターを安定に維持すること、及び植物の形質転換に利用できることが記載されている(【請求項19】、【請求項20】、【0016】、【0017】、【0047】、【0048】)。しかし、引用文献3には、アグロバクテリウムの高転換率株のrecA^(-)株を採用することにより安定性や転換率がどの程度向上するのかが具体的に記載されてはいない。そうすると、十分な安定性や形質転換効率を有していると当業者が認識し得る引用発明1及び2で使用するLBA4404株を、引用文献3に記載されたアグロバクテリウムの高転換率株のrecA^(-)株に換える動機付けを、引用文献3の記載から見いだすことはできないといえる。
次に、引用文献4について検討する。引用文献4には、RecA^(-)のアグロバクテリウム株であるUIA143株と、RecA^(+)のアグロバクテリウム株であるLBA4404株などの形質転換効率を比較したところ、T-DNAへの挿入が30kbのときはRecA^(+)株の方が形質転換効率が高く、一方で、T-DNAへの挿入が150kbのときはRecA^(-)株の方が形質転換効率が高いことが記載されている(126頁右欄19行?127頁左欄4行、表4)。すなわち、引用文献4には、T-DNAへの挿入が30kbのときは、RecA^(-)株よりもRecA^(+)株の方が形質転換効率が高いことが記載されているといえる。ここで、引用文献1及び2の記載からみて、引用発明1及び2が解決しようとする課題には、30?40kb程度の大きさのDNA断片を効率よくクローン化し、クローン化した目的のDNA断片を植物に効率よく導入すること(引用文献1の[0018]、引用文献2の[0018])があるといえるところ、引用文献4の記載に接した当業者は、30?40kb程度の大きさのDNA断片であれば、RecA^(-)株よりもRecA^(+)株の方が形質転換効率が高いと理解するから、引用文献4には、引用発明1及び2で用いるアグロバクテリウムLBA4404株すなわちRecA^(+)株をRecA^(-)株に換える動機付けは記載されてないといえる。
以上からみて、引用発明1及び2におけるアグロバクテリウム株として、RecA欠損株を用いることを、引用文献3及び4の記載から、当業者が容易になし得るとまではいえない。
したがって、本件補正発明1は、引用文献1?4の記載に基づいて当業者が容易にすることができたものであるということはできない。

(3)本件補正後の請求項2?37に係る発明について
本件補正却下の決定における、本件補正後の請求項2?37に係る発明(以下「本件補正発明2」?「本件補正発明37」という。)の進歩性欠如の理由は、本件補正発明1の進歩性欠如を前提としていると認められる。
しかし、前記(2)のとおり、本件補正発明1の進歩性が欠如しているとはいえないから、本件補正却下の決定における進歩性欠如の理由により、本件補正発明2?37の進歩性が欠如しているとすることはできない。

(4)まとめ
以上からみて、本件補正却下の決定における進歩性欠如の理由により、本件補正発明1?37が、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるとすることはできない。
したがって、本件補正却下の決定は理由がない。
よって、本件補正却下の決定を取り消す。


第3 原査定について
原査定は、本件補正を却下し、本件補正前の発明、すなわち、平成28年2月8日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?39に記載された事項により特定される発明について、平成28年6月29日付け拒絶理由通知書に記載した理由により拒絶をすべきものと判断した。
しかし、前記第2で検討したとおり、本件補正却下の決定は取り消されるから、本件補正発明1?37について検討することなく判断された原査定の拒絶理由により本願を拒絶すべきものとすることはできない。


第4 当審の拒絶理由の概要
原査定については前記第3に示したとおりであるから、当審において、本件補正却下の決定を取り消すことを前提に、本件補正発明1?37について改めて検討し、平成30年11月6日付けで拒絶理由を通知した。
当審で通知した拒絶理由(以下「当審拒理」という。)の概要は以下のとおりである。
[理由1]この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
[理由2]この出願は、発明の詳細な説明の記載について、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。
(1)本願明細書において、実際に植物の形質転換に用いられたアグロバクテリウム株は、EHA105株が保持するpTiBo542プラスミド由来のヘルパープラスミド(pTiEHA105)が導入されており、この点と、本願明細書の段落【0109】の記載をも併せ考慮すれば、本願明細書の記載からは、「pSB1の14.8KpnI VirBCDG断片を含むpTiヘルパープラスミド」及び「無害化T-DNA領域を有する第2の異なるpTiプラスミド」に加え、「pTiEHA105」をも含むRecA欠損アグロバクテリウム株を用いて植物を形質転換することが可能であることは理解できるものの、当該「pTiEHA105」を欠き、「pSB1の14.8KpnI VirBCDG断片を含むpTiヘルパープラスミド」と、「無害化T-DNA領域を有する第2の異なるpTiプラスミド」という2種類のプラスミドのみを含むRecA欠損アグロバクテリウム株を用いて植物を形質転換することが可能であるとまでは理解できない。したがって、請求項1及び18に係る発明は本願明細書に記載したものでなく、また、本願明細書は、当業者が請求項1及び18に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。さらに、請求項1を引用する請求項2?17、並びに請求項18を引用する請求項19?29及び37についても同様である。
(2)請求項1及び18に係る発明には、「互いに対して異なる複製開始点」を有してはいるものの、不和合性グループとしては共通する複製開始点を有している態様が包含されているといえるところ、このような態様では、pTiヘルパープラスミド及び無害化T-DNA領域を含むpTiプラスミドの両方を安定して保持することができないから、結局、植物の形質転換もできないといえる。したがって、請求項1及び18に係る発明は本願明細書に記載したものでなく、また、本願明細書は、当業者が請求項1及び18に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。さらに、請求項1を引用する請求項2?17、並びに請求項18を引用する請求項19?29及び37についても同様である。
(3)本願明細書に「RecA欠損アグロバクテリウムLBA4404株」が記載されているとは理解できないから、請求項29に係る発明は本願明細書に記載したものでなく、また、本願明細書は、当業者が請求項29に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

[理由3]この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。
(1)請求項2の記載は技術的に意味不明である。また、請求項26、27及び37についても同様である。
(2)請求項4の記載は、1つのpTiプラスミド中に複数のT-DNA領域が存在するようにも解せる記載となっており、技術的に意味不明である。また、請求項19の記載についても同様である。
(3)請求項8の「外来性遺伝子配列が60%以上の配列同一性を有する」という記載は、請求項8に記載された「外来性遺伝子配列」を何と比較して「60%以上の配列同一性を有する」とするのかが不明確な記載である。また、請求項22についても同様である。
(4)請求項13?16の記載は、請求項1に記載された発明特定事項のいずれを特定しようとしているのかが不明であったり、そもそも、請求項1に記載された発明特定事項に対応した記載になっていない記載となっており、意味が不明確である。
(5)請求項17は、植物を形質転換する方法の後のステップを記載していると解されるにもかかわらず、同項の末尾の記載が、植物を形質転換する方法である「請求項1?16のいずれかに記載の方法」となっているため、同項に係る発明を不明確なものとしている。
(6)物の発明に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)第2658号)。しかし、本願明細書等には不可能・非実際的事情について何ら記載がなく、当業者にとって不可能・非実際的事情が明らかであるとも言えないから、請求項30に係る発明は不明確である。また、請求項31?36に係る発明についても同様に不明確である。

[理由4]この出願の請求項30?36に係る発明は、引用文献1及び2又は引用文献1、2、5及び6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
引用文献1:国際公開第2008/001414号
引用文献2:国際公開第2007/148819号
引用文献5:特表2007-535327号公報
引用文献6:特開平3-224487号公報


第5 本願発明
前記第1で示したとおり、当審拒理後、平成31年2月26日付けで手続補正書が提出されたため、本願の請求項1?21に係る発明は、当該平成31年2月26日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?21に記載された事項により特定されるとおりのものである。


第6 当審の判断
1 平成31年2月26日付け手続補正書による補正により、当該補正前の請求項2、13?16、26、27及び29?37は削除されたため、これらの請求項を対象とする当審拒理、すなわち、[理由1]及び[理由2]の(3)、[理由3]の(1)、(4)及び(6)、並びに[理由4]に示した当審の拒絶理由は解消した。
そこで、その余の当審拒理について以下で検討する。

2 検討
(1)[理由1]及び[理由2]の(1)について
平成31年2月26日付け手続補正書におよる補正(以下「当審拒理後補正」という。)により、補正前の請求項1及び18に対応する請求項1及び13において、「RecA欠損アグロバクテリウム株」が「EHA105株が保持するpTiBo542プラスミド由来のヘルパープラスミド(pTiEHA105)」を有するとの特定が追加されたため、この点についての当審の拒絶理由は解消した。

(2)[理由1]及び[理由2]の(2)について
当審拒理後補正により、補正前の請求項1及び18に対応する請求項1及び13において、「複製開始点」が「不和合性である」との特定が追加されたため、この点についての当審の拒絶理由は解消した。

(3)[理由3]の(2)について
当審拒理後補正により、補正前の請求項4及び19に対応する請求項3及び14において、それぞれ、「pTiプラスミドが少なくとも1つのT-DNA境界に隣接する少なくとも1つのさらなる外来性遺伝子配列をさらに含む」及び「pTiプラスミドが、少なくとも1つのT-DNA境界に隣接する少なくとも1つの追加の外来性遺伝子配列をさらに含む」との記載となったため、この点についての当審の拒絶理由は解消した。

(4)[理由3]の(3)について
当審拒理後補正により、補正前の請求項8及び22に対応する請求項7及び17において、それぞれ、「外来性遺伝子配列が互いに60%以上の配列同一性を有する」及び「外来性遺伝子配列が互いに60%を超える配列同一性を有する」との記載となったため、この点についての当審の拒絶理由は解消した。

(5)[理由3]の(5)について
当審拒理後補正により、補正前の請求項17に対応する請求項12において、「請求項1?11のいずれかに記載の方法であって、前記方法におけるステップの後に、・・・ステップをさらに含む、方法。」との記載となったため、この点についての当審の拒絶理由は解消した。

3 小括
以上のとおりであるから、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法36条6項1号又は2号に規定する要件を満たしていないとすることはできず、かつ、発明の詳細な説明の記載について、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていないとすることはできないから、当審で通知した拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。


第7 むすび
以上のとおりであるから、本願については、原査定の理由、及び当審で通知した拒絶理由を検討しても、その理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-04-08 
出願番号 特願2013-522015(P2013-522015)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (A01H)
P 1 8・ 121- WY (A01H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山本 匡子戸来 幸男池上 文緒小林 薫  
特許庁審判長 長井 啓子
特許庁審判官 大宅 郁治
小暮 道明
発明の名称 植物形質転換率を高めるように改変されたアグロバクテリウム(Agrobacterium)株  
代理人 大森 規雄  
代理人 小林 浩  
代理人 鈴木 康仁  
代理人 藤田 尚  
代理人 片山 英二  

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