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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  A01C
審判 一部申し立て 2項進歩性  A01C
管理番号 1350650
異議申立番号 異議2018-700513  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-05-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-06-21 
確定日 2019-02-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6253766号発明「シードプライミングの改良された方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6253766号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-13〕について訂正することを認める。 特許第6253766号の請求項1ないし6、9ないし11に係る特許を維持する。 特許第6253766号の請求項7及び8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6253766号の請求項1ないし13に係る特許についての出願は、平成25年4月29日を国際出願日として特許出願され、平成29年12月8日にその特許権の設定登録がされ、平成29年12月27日に特許公報が発行されたものである。
その後、その特許について、平成30年6月21日に特許異議申立人山本英生(以下、「申立人」という。)により、請求項1ないし11に対して特許異議の申立てがされ、平成30年8月28日に取消理由通知が発送され、特許権者から、その指定期間内である平成30年11月26日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して申立人から平成31年1月8日に意見書が提出されたものである。


第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に記載の
「前記種子の水分の量を1?10重量%低減する工程と、前記種子の水分の量を低減する工程の後、前記種子を、相対湿度が95%以上100%未満の空気の雰囲気下でインキュベートする工程と、を含む方法」を、
「前記種子の飽和水分の量を1?10重量%低減する工程と、前記種子の水分の量を低減する工程の後、前記種子を、相対湿度が95%以上100%未満の空気の雰囲気下でインキュベートする工程と、を含み、前記インキュベートする工程の間、前記種子は、回転され、及び、前記インキュベートする工程の間、前記雰囲気は、連続的に又は断続的に入れ替えられる、方法。」に訂正する(なお、訂正前の部分が「・・・方法」と記載されている点は、「・・・方法。」の誤記と認める。請求項1の記載を引用する請求項2ないし13も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項7及び8を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項9に記載の
「前記種子の前記インキュベートする工程の後で、前記種子の前記水分の量を低減する前記工程をさらに含む請求項1?8のいずれか一項に記載の方法。」を、
「前記種子の前記インキュベートする工程の後で、前記種子の前記水分の量を低減する前記工程をさらに含む請求項1?6のいずれか一項に記載の方法。」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項10に記載の
「請求項1?9のいずれか一項に記載の方法により得られるプライミングされた種子。」を、
「請求項1?6及び9のいずれか一項に記載の方法により得られるプライミングされた種子。」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項12に記載の
「請求項1?9のいずれか一項に記載の方法に沿って、酸素含有量が21%で、相対湿度が95%以上100%未満の空気の雰囲気下で種子をインキュベートする装置であって、」を、
「請求項1?6及び9のいずれか一項に記載の方法に沿って、酸素含有量が21%で、相対湿度が95%以上100%未満の空気の雰囲気下で種子をインキュベートする装置であって、」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項、及び独立特許要件について
(1)訂正事項1について
上記訂正事項1に関連して、願書に添付した明細書の段落【0029】には、「所与の種子に関する浸漬工程の時間の範囲は、例えば、ISTA規則に沿って、例えば対象の種の乾燥した種子を浸漬し、それから種子の水分を決定する等して、経験的に決められてよい。一度種子が水に接触すると、種子は水が染み込むまで(飽和するまで)水を吸収する。このように、種子に水が染み込む(飽和する)までの時間は、浸漬工程の下限に対応して決定される。時間の上限は、発芽が起こるまで水が染み込んだ種子を定温放置することで決定されてよい。根が一度出ると、発芽が起きたとみなされる。時間の下限及び上限は、水が一度染み込んでから種子が発芽するまでに必要な時間に対応する。」と記載されており、また願書に添付した請求項7及び8には、「前記インキュベートする工程の間、前記種子は、回転される」及び「前記インキュベートする工程の間、前記雰囲気は、連続的に又は断続的に入れ替えられる」と記載されている。
そのため、上記訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内において、訂正前の請求項1における「前記種子の水分の量」及び「インキュベートする工程」を限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
上記訂正事項2は、訂正前の請求項7及び8を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3ないし5について
上記訂正事項3ないし5は、上記訂正事項2による訂正前の請求項7及び8の削除に伴い、引用する請求項を整理するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)一群の請求項について
訂正前の請求項1?13について、請求項2?13はそれぞれ請求項1を直接又は間接に引用しているから、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正がされるものである。
すなわち、請求項1?13についてなされた、本件訂正は、一群の請求項〔1?13〕に対して請求されたものである。

(5)独立特許要件について
本件においては、訂正前の請求項1?11について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1により限定され、訂正事項2による請求項の削除がされない、訂正後の請求項1?6及び9?11については、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第7項の独立特許要件は課されない。 特許異議の申立てがされていない訂正前の請求項12?13については、訂正後の請求項1に係る発明が、後記するとおり新規性及び進歩性を否定されないものであるから、訂正後の請求項1に係る方法に沿って種子をインキュベートする装置の具体的構成を特定した訂正後の請求項12?13に係る発明については、新規性進歩性を含めて、特許出願の際に独立して特許を受けることができないとする理由はない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項ないし第7項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-13〕について訂正を認める。


第3 特許異議の申立てについて
1 本件訂正発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし6及び9ないし11に係る発明(以下「本件訂正発明1」等という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし6及び9ないし11に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

本件訂正発明1
「【請求項1】
シードプライミング方法であって、
プライミングされるべき乾燥した種子を提供する工程と、
前記種子を水溶液に浸漬する浸漬工程と、
前記種子が一度水で飽和されると、前記水溶液から前記種子を除去する工程であって、浸漬時間は、前記種子が水の吸収の遅滞期である発芽の第二段階に入るのに必要な時間と少なくとも等しく、発芽及び根の発毛に至る発芽の第三段階に入るのに必要な時間よりも短い工程と、
前記種子の飽和水分の量を1?10重量%低減する工程と、
前記種子の水分の量を低減する工程の後、前記種子を、相対湿度が95%以上100%未満の空気の雰囲気下でインキュベートする工程と、を含み、
前記インキュベートする工程の間、前記種子は、回転され、及び、前記インキュベートする工程の間、前記雰囲気は、連続的に又は断続的に入れ替えられる、方法。」

本件訂正発明2
「【請求項2】
前記種子は、内胚乳種、裸子植物種、外胚乳種又は果皮を有する種子からの種子である請求項1に記載の方法。」

本件訂正発明3
「【請求項3】
浸漬時間は、前記種子が発芽の第二段階に入るのに必要な時間と等しい請求項1又は2に記載の方法。」

本件訂正発明4
「【請求項4】
前記浸漬工程の間、前記水溶液は通気される請求項1?3のいずれか一項に記載の方法。」

本件訂正発明5
「【請求項5】
前記水分の量は、水で飽和された前記種子の前記水分の量を低減する工程で、2?8重量%低減される請求項1?4のいずれか一項に記載の方法。」

本件訂正発明6
「【請求項6】
前記種子は、一度水で飽和されると、種子が発芽するまでに必要な時間と等しいか又はそれより長い期間、インキュベートされる請求項1?5のいずれか一項に記載の方法。」

本件訂正発明9
「【請求項9】
前記種子の前記インキュベートする工程の後で、前記種子の前記水分の量を低減する前記工程をさらに含む請求項1?6のいずれか一項に記載の方法。」

本件訂正発明10
「【請求項10】
請求項1?6及び9のいずれか一項に記載の方法により得られるプライミングされた種子。」

本件訂正発明11
「【請求項11】
請求項10に記載のプライミングされた種子を育成することで得られる植物。」

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし11に係る特許に対して、平成30年8月28日に発送し特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

ア(新規性)
請求項1ないし11に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1ないし11に係る特許は、取り消されるべきものである。

イ(進歩性)
請求項1ないし11に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項1ないし11に係る特許は、取り消されるべきものである。


3 各証拠の記載
(1)取消理由で引用した証拠
甲第1号証:特許第3723596号公報 (発行日:平成17年12月7日)
甲第2号証:特開平7-289021号公報(公開日:平成7年11月7日)

(2)甲第1号証
ア 甲第1号証の記載
甲第1号証には、図面と共に次の事項が記載されている(下線は当決定で付した。以下、同様。)。
(ア)
「【請求項1】
生重量基準(fwb)で2?15%の水分含量(MC)を有する、まだ発芽していないが始働した(primed)種子の貯蔵寿命を、その発芽速度を保持したまま延長する方法であって、当該始働種子を上記水分含量にドライバックする前に
(a)1時間あたりの水分減少が種子の乾燥重量の約0.1ないし1.0%の範囲内に維持されるインキュベーションに付す、あるいは
(b)24時間より少ない時間内に生重量基準で水分含量が3%ないし20%単位減少させられ、その後、1時間あたりの水分減少が種子の乾燥重量の0.1ないし1.04%の範囲内に維持されるインキュベーションに付す、あるいは
(c)-0.5ないし-4.0Mpaの範囲の水ポテンシャルに付す、あるいは
(d)1ないし5時間、25ないし45℃の熱処理に付す、あるいは
(e)工程d)と、工程a)、b)およびc)の1つまたはそれ以上の工程との組み合わせに付す
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
種子が、トマト(tomatoes)、トウガラシ(peppers)、メロン(melons)、スイカ(water melons)、キュウリ(cucumbers)、アブラナ属(Brassicas)、白ネギ(leeks)、ニンジン(carrots)、タマネギ(onions)、カボチャ(squashes)、小キュウリ(gherkins)、エンダイブ(endives)、ツリフネソウ属(Impatiens)、クマツヅラ属(Verbenas)、サクラソウ属(Primulas)、テンジクアオイ属(Pelargoniums)、スミレ属(Viola)、チゴリウム(Chigoriums)およびシクラメン属(Cyclamen)の種子からなる群より選択されるものである、請求項1記載の方法。」

(イ)
「【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、常套の始働(primed)種子と比較して長い貯蔵寿命を有する処理始働種子、そのような種子を得る方法およびそれ由来の植物に関する。
【0002】
【従来の技術】
始働種子およびそれらを得る方法は当分野で既知である。始働種子は、未始働種子と比較して、一般に速い発芽および発芽時の良好な同調性を示す。既知の種子始働法は、欧州特許第309511B1号および欧州特許第254569B1号に記載されている。
【0003】
【発明の構成】
本発明は始働種子を水ストレス、熱処理またはそれらの組み合わせ処理に付し、その後必要に応じて所望の水分含量(MC)までドライ・バック(dry back)させることを特徴とする、所望により常套法によりドライ・バックさせた実質的に同じMCを有する同種の始働種子と比較して貯蔵寿命の延長をもたらす、始働種子の処理方法を提供する。
【0004】
上記のような種子のドライ・バックは、種子MCの減少を含むものであって、ドライ・バックは任意の所望のMCまでなし得るが、好ましい態様において未処理種子、即ち始働していない乾燥種子のMCまでである。
以後、「MC」および「水分含量」の語を同義に使用するが、MCは特記しない限り生種子重量に基づいて%で表す。
【0005】
水ストレスは、より低いMCを有する種子をもたらすであろう当分野で既知の任意の方法でなし得る。
一般に水ストレスは、常套法で始働させた種子のMCを5%単位またはそれ以上、即ち既知の始働種子が当初MC25%を有する場合、20%またはそれ以下に減少させ、既知の始働種子が当初MC55%を有する場合、50%またはそれ以下に減少させて得られる。更に具体的には、水ストレスは一般にMCを5?20%単位減少させて得られ、それにより一般にMCの値が15%より少なくならないことが有利である。
【0006】
水ストレスは、とりわけ温度に依存して長時間、一般に1?7日維持されるべきであり、最適条件は種子の種に依存し、標準試験により決定できる。これは常套法で始働させた種子のMCをその所望の減少レベル(便宜的には既知の始働種子のMCより5から20%単位低いレベル)に一定に維持するか、または既知の始働種子を水ストレス下で十分に長期間生き残るようにゆっくり乾燥させることにより達成されることは認められるであろう。
【0007】
従って、延長した貯蔵寿命は、水ストレスを誘導する水ポテンシャルで始働種子をインキュベーションすることにより達成され得る。当該水ストレスの誘導は、始働種子のMCをゆっくりと減少させることにより、または始動種子がなお水ストレスに付されているMCまで初めに迅速なMC減少を行い、次いでここに得られた部分的に乾燥された始働種子をインキュベーションするかまたはゆっくりとしたMC減少を行うことにより、または熱ショックを行うことにより達成することが出来る。遅い、すなわちゆっくりとしたMC減少は、自体常套の方法により、例えば緩和な条件下で乾燥するか、または始働種子をそれに対して毒性を示さない、0MPa以下の水ポテンシャルを有する浸透物質と接触させることにより、達成することができる。以下の工程(a)、(b)および(c)の記載は、始働種子を水ストレスに付する典型的な条件を説明するものである。
【0008】
水ストレスは:
a)始働種子を3から40℃の温度で3から7日間ゆっくり乾燥する、または
b)始働種子のMCを、常套の乾燥条件下5から20%単位まで減少させ、このように乾燥させた種子を1から7日間最少空気および水分交換容器内で、3から40℃に保存する、または
c)始働種子のMCを5から20%単位減少させるために選択した水ポテンシャルで浸透物質中で1から7日間インキュベーションする
ことにより達成し得る。
【0009】
熱処理は、始働種子を25から45℃の範囲で、約1から5時間熱ショックに付することにより、達成し得る。
【0010】
本発明の方法により製造された種子は、常套法で始働させた種子と比較して、大きい乾燥耐性胚を有し、後記の環境保存条件下で長い保存期間生き残る。
【0011】
乾燥耐性胚を有する種子は、脱水種子に典型的な値、例えば約5?7%までの種子のMCの減少が、実質的に種子の生存率に不利に働かない種子を意味し、生存率は、好適な成育条件下に置いた場合、または、環境保存条件で持続保存期間の前または後の好適な標準試験、例えば制御低下試験(後記参照)の後の発芽の能力に関して測定する。
【0012】
種子の胚は、子葉、軸および非突出幼根頂端のような種子の発育に必要な重要な構造から成り、集合的にまたは部分的に乾燥耐性を獲得することが可能である。
【0013】
始働種子は数週間約5℃で保存できるが、環境保存条件下で長期間保存するには不適である。
【0014】
始働種子の語は(特記しない限り)、種子が後記のような常套の始働技術に付され、20から55%(種に依存)のMCを有し、常套の始働種子に典型的な乾燥耐性を有すること意味する。全未始働種子が乾燥耐性、即ち乾燥して生存することができ、乾燥耐性の程度は種依存性であることは認められるであろう。常套の方法による始働において、種子は低乾燥耐性となり(この乾燥耐性の喪失は始働の期間の増加とともに増加する)、種子は種子がもはや乾燥耐性であると言えなくなるまで低乾燥耐性となり、この乾燥耐性の完全な損失は種子の発芽の時点でおこる。後記のような本発明の方法は、常套の始働法で始働した未発芽種子に適用される。未発芽種子は、本明細書では幼根および/または胚軸が種子殻または果皮から突出または出現していない種子と定義する。幼根および/または胚軸は、種子殻の中裂またはひび割れの原因となり得るが、それは中裂またはひび割れから突出しない。胚の回りの内乳は、中裂またはひび割れを通して見ることができる。本発明の方法を適用した未発芽既知の始働種子は、以後処理種子と呼ぶ。本発明の方法を適用していない未発芽既知の始働種子は以後常套法で始働させた種子と呼ぶ。始働していない商業的に許容される種子は、未処理種子と呼ぶ。」

(ウ)
「【0021】
下記に記載のような本発明の方法(a)、(b)または(c)の適用が、種子MCの減少に含まれる。
【0022】
本発明の方法(a)は始働種子の遅い速度での水分損失を含む(以後、遅い乾燥と呼ぶ)。従って、始働種子を、水分損失の速度が約0.1種子乾燥重量%から1.0種子乾燥重量%時間^(-1)、好ましくは約0.2種子乾燥重量%から約0.4種子乾燥重量%h^(-1)の範囲に維持されるインキュベーション相に付する。遅い乾燥は、ドラム缶中で行い(ドラム缶始働)得、酸素化ガスまたは酸素を積極的に供給するか、空気を系中に、単に混合により挿入し得る(受動条件)。水分損失の速度は、インキュベーションの異なった時点で種子を秤量し、期間中の種子重量をプロットすることにより決定する。長い貯蔵寿命の導入に必要である水分損失の速度が、種により、上記定義の範囲内で変化することは認められるであろう。このような条件下に置かれた種子は、始働種子より低い、約5%から約20%、一般に約5%から約15%の間の最終MCを有するであろう。
【0023】
遅い乾燥において、種子は3℃から約40℃までの任意の温度でインキュベーションできる。好ましくは、種子を約20℃から約35℃の温度範囲でインキュベーションする。インキュベーション期間は、インキュベーション温度に依存して約24時間から約1週間またはそれ以上まで続く。従って、例えば、種子の型に依存して、温度が20℃でインキュベーション期間は24時間から約3日またはそれ以上であり、8℃のような低い温度では種に依存してまたは1週間またはそれ以上まであり得る。低温が、例えば病原菌への感染の危険性を少なくするために用いることができる。
【0024】
以後加湿度保存と呼ぶ方法(b)により、始働種子を始働種子の種子MCより少ない種子MCでインキュベーションする。従って始働種子のMCは、(常套の乾燥条件、例えば“速い乾燥条件”により)3から20%単位の間、好ましくは5%から15%単位の間、24時間より少ない時間、例えば8時間またはそれ以下で減少する。種子を乾燥する最少MC値は約15%である。その後、そのように乾燥した種子を、最少空気および水分交換の容器内で、温度およびインキュベーション期間は上記の遅い乾燥に従ってインキュベーションすることにより水ストレスに付する。
【0025】
上記(および下記)方法(b)に関して使用している既知の乾燥条件の語は、常套の乾燥条件、例えば当分野で既知で、一般に既知の始働種子の乾燥に適用される環境温度での高速空気流の手段でドライ・バックすることを意味する。」

(エ)
「【0034】
所望の結果(長い貯蔵寿命を有する始働種子)は、水ストレスおよび熱ストレスの組み合わせ、即ち熱ショックと工程(a)、(b)または(c)の組み合わせによりまた得られ得ることは認められるであろう。
【0035】
与えられた種のための上記の工程(a)から(c)および熱ショックのための最適な工程および最適な条件は、貯蔵寿命ポテンシャルおよび発芽率(t_(50))をそれ自身既知の方法で測定することにより確立し得る。
【0036】
上記のような任意の方法(a)から(c)、熱ショックまたはこのような方法の組み合わせおよび続いて-望ましい場合-種子を所望のMCまで乾燥して戻すことによる始働種子の処理は、実質的に同じMCを有する同種の常套法で始働させた種子と比較して長い貯蔵寿命を有する種子をもたらす。
【0037】
従って、本発明は上記のような方法(a)、(b)、(c)、熱ショックまたはこのような方法の組み合わせおよび続いて-望ましい場合-種子を所望のMCまでドライ・バックすることにより得られる種子を提供する。
【0038】
本発明はまた環境保存条件下で保存した場合、実質的に同じMCを有し、そのMCを所望により既知の乾燥条件下で減少させた同種の常套法で始働させた種子より実質的に長い貯蔵寿命を有する、湿ったまたは乾燥形の処理始働種子を提供する。
【0039】
本発明の種子は、乾燥、即ち未処理種子に一般的なMCから発芽的代謝工程以外の代謝工程が続くMCまでの範囲のMCを有する。
【0040】
本発明の種子の典型的な商業的な型は、15%以上から55%までの範囲(以後、本発明の湿った種子と呼ぶ)を有する種子およびおおまかに乾燥種子のMCまでドライ・バックした、即ち種子の約2%から約15%の範囲のMCを有する(以後、本発明の乾燥種子と呼ぶ)種子を含む。
【0041】
本発明の乾燥種子は、本発明の方法(a)、(b)、(c)、熱ショック、熱ショックと(a)、(b)または(c)の組み合わせにより得られた種子を、非発芽、非始働種子(即ち未処理種子)のMCまで、常套の、即ち速い乾燥条件でドライ・バックすることにより得る。常套の乾燥条件下で、10℃から50℃、一般に20℃から約35℃の範囲の温度、30%から90%、一般に30%から約50%の範囲の相対湿度で、滞留空気または種子のドライ・バックに一般的な速度の空気流中で種子をドライ・バックできる。例えば、空気流速度は2m s^(-1)までまたはそれ以上であり得る。期間は、用いる乾燥条件に依存して、24時間までの任意の間隔であり得る。好適な常套の乾燥条件は、例えば16時間にわたる、2m s^(-1)の空気流中20℃の温度、40%の相対湿度を含む。
【0042】
本発明の乾燥種子は、その発芽速度が同種の未処理種子より実質的に短いため、有用である。発芽速度は一般にt_(50)、即ち種子サンプルの50%が発芽した時間として示す。
本発明の湿った種子は、とりわけそれらが既知の方法で本発明の乾燥種子にドライ・バックできるため、有用である。
本発明の-乾燥および湿った-種子は、同種の実質的に同じMCを有する既知の始働種子より長い貯蔵寿命を有するため、さらに有利である。」

(オ)
「【0052】
本発明の種子は、常套の始働工程を適用できる任意の所望の種であり得る。好適な種子型の例は、トマト(tomatoes)、トウガラシ(peppers)、メロン(melons)、スイカ(waetr melons)、キュウリ(cucumbers)、アブラナ属(Brassicas)、白ネギ(leeks)、ニンジン(carrots)、タマネギ(onions)、カボチャ(squashes)、小キュウリ(gherkins)、エンダイブ(endives)、ツリフネソウ属(Impatiens)、クマツヅラ属(Verbenas)、サクラソウ属(Primulas)、テンジクアオイ属(Pelargoniums)、スミレ属(Viola)、チゴリウム(Chigoriums)およびシクラメン属(Cyclamen)を含む。アブラナ属の具体的な例は、キャベツ、ブロッコリー、カリフラワーおよび芽キャベツである。
【0053】
本明細書に記載の種子から成育した植物もまた本発明の範囲内に含まれる。
【0054】
当分野で既知である多くの種子始働法がある。以下は短い復習である:
種に依存して、未始働、即ち未処理種子を数時間、例えば水カラム内の水性溶液に、予備始働処理として浸し得る。このような予備処理は当分野で既知であり、始働の間種子が違いにくっつくのを防ぎ、および/または種子の始働を容易にする。
【0055】
未始働種子または上記予備始働処理を受けた種子を、種子が水を予備発芽代謝工程が開始し、続くが、(上記定義のような)発芽は不可能である条件、例えば時間、温度、種子が摂取する水の下に置く。
【0056】
吸水は任意の吸水法で行い得る。従って、例えば吸水すべき(未発芽)種子を、ドラム缶または水カラム中に、通気しながらまたはせずに、0MPa(もし種子を水中に置くなら)、またはもし種子を浸透溶液中に置くなら約0MPaから約-1.5MPaの間の水ポテンシャルへ置き得る。選択した始働法に依存して、吸水の量は、始働溶液(水カラムのような水性液体始働技術中)および系に添加すべき水の量(例えばドラム缶始働技術)により決める。
【0057】
種子は、そのMCが、一般的に約25%から約55%、好ましくは約30%から約50%まで、種子の型に依存して上昇するまで、添加した水を吸水する。
種子のMCは、以下の式:
【数1】
Wi-Wa×100
-----
Wi
(式中、Wi=最初の重量、Wa=種子を103℃で16時間、若しくは130℃で2時間にわたって乾燥させた後の重量)
を使用して計算する。
【0058】
吸水は、水の摂取を伝導する任意の温度で行い得、一般に種に依存して、約5℃から約30℃である。吸水を水カラム中で行う場合、通気の割合は、種子を浮かせ続ける、即ち浮遊し続けるのに十分でなければならない。吸水は、24時間までの任意の好適な期間、好ましくは種に依存して約4から約10時間であることができる。始働前の別の工程であり得、または始働の必須部分であり得る。
【0059】
適切な始働のために、種子のMCを相対的に一定の濃度、即ち所望のMC、典型的には種子の約20%から約55%、好ましくは約30%から約50%の±1から3%に維持する。好ましくは始働はドラム缶内で、種に依存して、例えば1から21日、好ましくは約2日から約15日、一般的には約5℃から約30℃の温度範囲、好ましくは約15℃から約25℃の範囲で行う。
【0060】
最適な種子MCおよび始働工程の長さは、使用する具体的な種子の型に依存する。これらの最適な値は既知の方法、例えば種子の異なったMCに合わせ、種子をある制御条件、例えば温度、RHおよび通気下で、異なったインキュベーション時間に付することにより、発見することができる。」

(カ)
「【0067】
以下は、本発明を更に説明する実施例が続く。実施例は本発明をいかなる意味においても限定するものでないことは理解されるべきである。
【0068】
実施例1(遅い乾燥)
スミレ属の乾燥予備処理種子60gを、3rpmでその側が回転している6lのドラム缶に、3日間、室温が20℃に制御され、部屋のRHが70%に制御されている部屋の中で置くことにより始働する。ドラム缶は直径7.5cmの口を蓋に有し、その上に綿のメッシュを置き(メッシュサイズ約0.1mm)、種子の通気を可能にする。始働の間の種子のMCは種子の湿重量の35%に維持する。乾燥種子の最初のMCは、種子の重量を、130℃で2時間乾燥前および後で秤量することにより決定する。種子乾燥重量は、当分野で既知の方法を使用して行う。種子のMCを所望の濃度、この場合、湿重量の35%まで上げるために、好適な量の水をドラム缶に加える。蒸発(生重量を基本にして計算して1日当たり1-2%)を、ドラム缶および含量を秤量して追跡し、一日を基本にして、水をつぎたし、秤量の間に観察された重量変化を埋め合わせる。
【0069】
対照始働種子10g(湿重量)を3日後ドラム缶から取り出し、空気流(2m/s)中で、20℃の温度および40%のRHで、16時間乾燥する。乾燥速度は、乾燥種子重量を基本に計算して5-10%水分損失/時間である。乾燥後の種子MCは6%である。
【0070】
試験サンプルのこのように始働した種子(MC35%)70gを、以下の遅い乾燥条件下の温度、相対湿度および水分損失速度の部屋の中で、同じドラム缶内で更に3日間インキュベーションすることにより、更なるインキュベーションに付する:温度20℃、RH90%および水分損失の速度0.1-0.3%MC/時間、上記のように秤量により測定。ドラム缶口は、ポアサイズ約0.6mmのナイロンメッシュで覆い、蒸発を促進する。種子を、次いで、ドラム缶から取り出し、上記の対象種子と同じ条件下で、MC6%まで乾燥させる。」

(キ)
「【0103】
実施例9(加湿保存)
パンジー種子を実施例1記載のように予備処理し始働する。
対照種子10gを3日後にドラム缶から除去し、実施例1の対照のように6%まで乾燥する。
試験サンプル種子(MC34%)10gを、対照種子のようにであるが、MC25%まで乾燥する。
【0104】
次いで、種子を防水であるが気密ではないプラスチック容器に移し、20℃で3日間インキュベーションする。このインキュベーションの後、種子を更に対照種子と同じまで乾燥する。
対照(既知の始働)、本発明の種子(加湿保存)および未処理種子(即ち未始働)種子の貯蔵寿命を、実施例1に記載のように測定する。
【0105】
表9は、未処理種子と比較した相対値で示した、既知の始働種子および本発明の種子のCD試験24時間後の生存を示す。表は、減少したが一定の種子MC(始働後のMCと比較して)が始働種子の貯蔵寿命を回復させることを示す。
【0106】
【表9】
既知のドラム缶始働または本発明により処理した(加湿保存)のパンジー種子のCD試験データ(未処理種子と比較した)。
CD試験値(24時間)
未処理 100
対照(既知の始働) 20
本発明の種子(加湿種子) 62」

(ク)
「【0107】
実施例10(加湿種子)
トウガラシ属(トウガラシ)シーブイ・アブデラ(cv.Abdera)を実施例3のようにドラム缶始働する。
始働後の種子MCは35.3%であった。165分において、種子をMC4.8%まで、温度25℃、RH40%および空気流2ms^(-1)で乾燥した。2個の複製の種子サンプルを、MC35.3(最初のMC)、30.6%、25.5%、20.0%、14.8%および9.6%で取り出した。これらのサンプルを密閉容器(0.15dl)内で、一つのサンプルは8℃、他方は20℃で、7日間インキュベーションした。
【0108】
インキュベーションの後、全てのサンプルを最初の乾燥工程と同様の条件で最終MC4.8%まで乾燥した。
対照(既知の始働)、本発明の種子(加湿保存)および未処理種子(即ち未始働)の貯蔵寿命を実施例1に記載のように測定する。
【0109】
表10は、始働直後にMC4.8%までドライ・バックした始働種子は、CD試験後低い生存率を示すが、一方始働後のMCと比較して5から15%減少したMCでインキュベーションした種子は、未処理種子と殆ど同様の貯蔵寿命を有する。
本導入工程の間の温度は方法には重要ではない。
【0110】
【表10】
温度8℃および20℃で、7日間、100%RHで、異なった種子MCでの始働種子のインキュベーションのCD試験生存率における効果
CD試験結果(24時間)
正常植物%
8℃で 20℃で
インキュベーション インキュベーション
対照(未処理) 75 75
対照(既知の始働) 12 4
35.3%MCで・・・ 30 34
30.6%MCで・・・ 64 60
25.5%MCで・・・ 54 84
20.0%MCで・・・ 22 52
14.8%MCで・・・ 9 26
9.6%MCで・・・ 14 4」
(当審注;表10中の各「%MCで」の後に付された「インキュベーション」の語は「・・・」で省略した。)

イ 上記記載から、甲第1号証には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
(ア)上記ア(イ)の段落【0003】及び【0014】より、甲第1号証には、種子を「常套の始働技術」に付して「水分含量(MC)」を「種に依存」して「20から55%」とし、「発芽の時点」でおこる「乾燥耐性の完全な損失」を生じていない「未発芽種子」に対して、さらなる「処理」を「適用」して、「処理種子」を得る「方法」が記載されている。
「処理種子」について、上記ア(イ)段落【0007】及び同(エ)の段落【0038】及び【0039】から、甲第1号証には、最終的には「始働」されかつ「貯蔵寿命」が「延長」された、「湿ったまたは乾燥型の処理始働種子」を提供することが記載されている。
すなわち、甲第1号証には、全体として、
「常套の始働技術に付され、種に依存して20から55%の水分含量(MC)を有する、発芽の時点でおこる乾燥耐性の完全な損失を生じていない未発芽種子に、さらなる処理を行い、始働されかつ貯蔵寿命が延長された、湿ったまたは乾燥型の処理始働種子を提供する方法」
が記載されていると認められる。

(イ)上記ア(オ)より、甲第1号証には、「未始動」即ち「未処理種子」である「吸水すべき」「未発芽種子」(段落【0054】及び【0056】参照)に対して、「添加した水を吸水」(段落【0057】参照)させる工程が記載されている。当該水の吸水に関しては「当分野で既知である多くの種子始働法がある」(段落【0054】参照)とも記載されており、甲第1号証において、当該水を吸水させる工程では、上記ア(イ)の段落【0014】にいう「常套の始働技術」に付すことも記載されている。
当該水の吸水に関して、上記ア(オ)には「任意の吸水法」を用いるとして、吸水すべき未発芽種子を「通気しながらまたはせず」に「水中」または「浸透溶液中」に置くこと、例えば「吸水の量」を「始働溶液」により決める「水カラムのような水性液体始働技術」を用いること、あるいは「吸水の量」を「添加すべき水の量」により決める「ドラム缶始働技術」を用いること(段落【0056】参照)が、記載されている。
甲第1号証における当該水の吸水は、段落【0055】によれば、「種子」の「予備発芽代謝工程が開始し、続く」が、先に定義したような「発芽は不可能」な時間、種子を「摂取する水の下に置く」ものである。また段落【0057】によれば、当該吸水の工程において、種子のMCは、「一般的に約25%から約55%、好ましくは約30%から約50%まで、種子の型に依存して上昇するまで、添加した水を吸水」するものである。
以上を整理すると、甲第1号証には、
「未始働種子即ち未処理種子である吸水すべき未発芽種子を、常套の始働技術に付し、任意の吸水法で通気しながらまたはせずに種子を水中または浸透溶液中に置くこと、例えば吸水の量を始働溶液により決める水カラムのような水性液体始働技術を用いること、あるいは吸水の量を添加すべき水の量により決めるドラム缶始働技術を用いることで、種子の予備発芽代謝工程が開始して続くが、幼根および/または胚軸が種子殻または果皮から突出または出現する発芽は不可能な時間、種子を摂取する水の下に置き、種子にその水分含量(MC)が、一般的に約25%から約55%、好ましくは約30%から約50%まで、種子の型に依存して上昇するまで、添加した水を吸水させる工程」
が記載されていると認められる。

(ウ)
上記ア(イ)の段落【0007】、【0014】及び上記ア(ウ)の段落【0024】及び【0025】より、甲第1号証には、上記(イ)で水を吸水させた種子に対して、その後に「MC」を「常套の乾燥条件」である「高速空気流」により、「好ましくは5%から15%単位の間」で「減少」する、「水分」の「減少」工程が、記載されている。
以上を整理すると、甲第1号証には、
「その後、種子の水分含量(MC)を、常套の乾燥条件である高速空気流により、好ましくは5%から15%単位の間で減少する、水分の減少工程」
が記載されていると認められる。

(エ)
上記ア(イ)の段落【0006】及び上記ア(ウ)の段落【0024】より、甲第1号証には、上記(ウ)で水分を減少させた種子に対して、「最少空気および水分交換の容器内」で「インキュベーション」を行うこと、上記(ウ)の水分の減少から当該インキュベーションまでの処理を「加湿度保存」ということが、記載されている。
また、上記ア(エ)の段落【0038】-【0042】より、「乾燥種子」へのさらなる「ドライ・バック」を行う前の段階の種子は、「湿った」「処理始働種子」であるから、甲第1号証には、「加湿度保存」までの処理で「湿った処理始働種子」を得る工程が、記載されている。
以上を整理すると、甲第1号証には、
「さらにその後、種子を最少空気および水分交換の容器内でインキュベーションを行う加湿度保存により、湿った処理始働種子を得る工程」
が記載されていると認められる。

(オ)
上記ア(イ)の段落【0003】及び【0004】より、甲第1号証には、「その後必要に応じて」種子のMCを「始働していない乾燥種子」のMCまで、「ドライ・バック」させることが、記載されている。
また、上記ア(エ)の段落【0038】-【0042】より、甲第1号証には、所望に応じた「乾燥型」の処理始働種子へのドライ・バックに応じて、「乾燥型の処理始働種子」または「湿った」「処理始働種子」を得ること、かような「処理始働種子」のMCは「乾燥」した「即ち未処理種子に一般的な」MCから、「発芽的代謝工程以外の代謝工程が続く」MCまでの範囲であることが、記載されている。
以上を整理すると、甲第1号証には、
「その後必要に応じて、始働していない乾燥種子の水分含量(MC)まで種子をドライ・バックさせることで、乾燥した即ち未処理種子に一般的な水分含量(MC)から、発芽的代謝工程以外の代謝工程が続く水分含量(MC)までの範囲の水分含量(MC)を有する、乾燥型の処理始働種子または湿った処理始働種子を得る」、
という技術的事項が記載されていると認められる。

(カ)
上記ア(エ)の段落【0038】より、甲第1号証には、上記(ア)?(オ)の処理により「処理始働種子」を得ることから、「種子」の「処理始働」方法が記載されている。

(キ)
上記ア(キ)より、甲第1号証には、「パンジー種子」に対して加湿保存を含む処理を行った実施例9が記載されている。同実施例9では「実施例1記載のように」予備処理し始働を行っている。この予備処理及び始働は、上記ア(カ)の段落【0068】を参照すると、「乾燥」した種子を「回転」している「ドラム缶」に入れ、種子の「MC」を「所望の濃度」まで上げるために「好適な量の水」をドラム缶に加え、「蒸発」する水分量は「ドラム缶および含量を秤量して追跡」して「水をつぎた」すことで、蒸発による「重量変化を埋め合わせ」る、というものである。上記ア(キ)に戻ると、前述の手法で実施例9の試験サンプル種子の水分含量は「34%」とされている。そのうえで、実施例9では当該サンプル種子を対照種子のように「ドラム缶から除去」して、水分含量を「25%まで乾燥」させ、次いで「防水ではあるが気密ではないプラスチック容器に移し、20℃で3日間インキュベーション」している。そして当該インキュベーションの後、種子を更に対照種子と同じまで、すなわちMC「6%まで」乾燥している。
以上を整理すると、甲第1号証には、
「パンジー種子に対してドラム缶始働により吸水を行わせ加湿保存する場合には、乾燥種子を回転しているドラム缶に入れ、種子の水分含量を所望の濃度まで上げるために好適な量の水をドラム缶に加え、ドラム缶および含量を秤量して蒸発を追跡し、水をつぎたして重量変化を埋め合わせて、水を吸水し水分含量(MC)34%となった種子を得たうえで、当該種子をドラム缶から除去して水分含量(MC)を34%まら25%まで乾燥させ、該種子を防水ではあるが気密ではないプラスチック容器に移し、20℃で3日間インキュベーションし、該インキュベーションの後、種子を水分含量(MC)6%まで乾燥する」、
という技術的事項が記載されている。

(ク)
上記ア(ク)より、甲第1号証には、「トウガラシ属(トウガラシ)シーブイ・アブデラ」の種子に対して「ドラム缶始働」により吸水を行わせ、加湿保存を含む処理を行った実施例10が記載されている。同実施例10では「ドラム缶始働」により、試験サンプル種子の水分含量は「35.3%」とされている。そのうえで、実施例10では当該サンプル種子を、空気流2ms^(-1)で、水分含量を「30.6%、25.5%、20.0%、14.8%および9.6%」まで減少させているが、未処理種子と殆ど同様の貯蔵寿命を有するとされるのは水分含量が「5から15%減少した」ものであるから、実施例10に該当するのは「30.6%」、「25.5%」、「20.0%」まで乾燥」させたものである。当該サンプル種子は、次いで「密閉容器(0.15dl)」内で「7日間インキュベーション」し、当該インキュベーションの後、種子を更に対照種子と同じまで、すなわちMC「4.8%まで」乾燥している。
以上を整理すると、甲第1号証には、
「トウガラシ属(トウガラシ)シーブイ・アブデラの種子に対してドラム缶始働により吸水を行わせ加湿保存する場合には、ドラム缶始働により水を吸水し水分含量(MC)35.3%となった種子を得たうえで、当該種子を空気流2ms^(-1)の下で、水分含量(MC)を30.6%、25.5%、20.0%まで乾燥させ、該種子を密閉容器(0.15dl)内で相対湿度100%で7日間インキュベーションし、該インキュベーションの後、種子を水分含量(MC)4.8%まで乾燥する」、
という技術的事項が記載されている。

ウ 甲第1号証に記載された発明の認定
甲第1号証には、上記ア及びイを踏まえると、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「常套の始働技術に付され、種に依存して20から55%の水分含量(MC)を有する、発芽の時点でおこる乾燥耐性の完全な損失を生じていない未発芽種子に、さらなる処理を行い、始働されかつ貯蔵寿命が延長された、湿ったまたは乾燥型の処理始働種子とする方法であり、
未始働種子即ち未処理種子である吸水すべき未発芽種子を、常套の始働技術に付し、任意の吸水法で、通気しながらまたはせずに種子を水中または浸透溶液中に置くこと、例えば吸水の量を始働溶液により決める水カラムのような水性液体始働技術を用いること、あるいは吸水の量を添加すべき水の量により決めるドラム缶始働技術を用いることで、種子の予備発芽代謝工程が開始して続くが、幼根および/または胚軸が種子殻または果皮から突出または出現する発芽は不可能な時間、種子を摂取する水の下に置き、種子にその水分含量(MC)が、一般的に約25%から約55%、好ましくは約30%から約50%まで、種子の型に依存して上昇するまで、添加した水を吸水させる工程と、
その後、種子の水分含量(MC)を、常套の乾燥条件である高速空気流により、好ましくは5%から15%単位の間で減少する、水分の減少工程と、
さらにその後、種子を最少空気および水分交換の容器内でインキュベーションを行う加湿保存により、湿った処理始働種子を得る工程と、
その後必要に応じて、始働していない乾燥種子の水分含量(MC)まで種子をドライ・バックさせることで、乾燥した即ち未処理種子に一般的な水分含量(MC)から、発芽的代謝工程以外の代謝工程が続く水分含量(MC)までの範囲の水分含量(MC)を有する、乾燥型の処理始働種子または湿った処理始働種子を得る、種子の処理始働方法であって、
パンジー種子に対してドラム缶始働により吸水を行わせて加湿保存する場合には、乾燥種子を回転しているドラム缶に入れ、種子の水分含量(MC)を所望の濃度まで上げるために好適な量の水をドラム缶に加え、ドラム缶および含量を秤量して蒸発を追跡し、水をつぎたして重量変化を埋め合わせて、水を吸水し水分含量(MC)34%となった種子を得たうえで、当該種子をドラム缶から除去して水分含量(MC)34%から25%まで乾燥させ、該種子を防水ではあるが気密ではないプラスチック容器に移し、20℃で3日間インキュベーションし、該インキュベーションの後、種子を水分含量(MC)6%まで乾燥し、
トウガラシ属(トウガラシ)シーブイ・アブデラの種子に対してドラム缶始働により吸水を行わせ加湿保存する場合には、ドラム缶始働により水を吸水し水分含量(MC)35.3%となった種子を得たうえで、当該種子を空気流2ms^(-1)の下で、水分含量(MC)を30.6%、25.5%、20.0%まで乾燥させ、該種子を密閉容器(0.15dl)内で相対湿度100%で7日間インキュベーションし、該インキュベーションの後、種子を水分含量(MC)4.8%まで乾燥する
種子の処理始働方法。」

(3)甲第2号証
ア 甲第2号証の記載
甲第2号証には、図面と共に次の事項が記載されている。
(ア)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】種子の含水率が30%乾重量以上になるように種子に水を含浸し、得られた種子を相対湿度50%以上の気相環境下で発芽直前まで保持することを特徴とする種子の発芽開始時期の均一化方法。
【請求項2】請求項1記載の方法により調製された種子。
【請求項3】請求項1記載の方法により調製された種子をコートすることによって得られるコート種子。
【請求項4】コート処理前に種子を請求項1記載の方法により調製し、調製された種子をコートすることを特徴とするコート種子の製造方法。」

(イ)
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、種子の発芽開始時期の均一化方法およびその利用に関するものである。
【0002】
【従来の技術】種子の発芽率や発芽速度は、登熟環境、採取時の気象、採取技術等の種々の条件により、きわめて変動を生じやすい。しかしながら、これらの発芽性能を向上・安定化させた高性能な種子を従来の育種技術のみから得ることは難しい。そのため、種子の発芽性能を改良する種々の技術が試みられ、そのいくつかは実用場面で実施されてきた。たとえば、連続通気された高浸透圧水溶液に種子を入れる方法(以下、液相法と記す。)や高い水分保持能力を有する固体資材と種子を混合させる方法(以下、固相法と記す。)等が知られている。さらに最近では、回転するドラム内において種子に水溶液を直接的に噴霧供給する方法(以下、半気相法と記す。)が開発されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記の液相法では、種子量に対して大容量の水溶液が必要となることや大容量の水溶液からの種子の分離操作および分離後の乾燥操作が煩雑になる等の課題が発生している。また、上記の固相法では、種子量と同程度の固体資材が必要となることや該固体資材からの種子の分離操作が工業的にはきわめて難しいこと等の課題を伴っている。さらに上記の半気相法では、一度に大量の種子を処理することに不向きであることやドラム回転による処理時間が比較的長いためにランニング・コストが高くなること等の課題があり、いずれの方法においても多くの解決すべき課題が存在しているのが現状である。」

(ウ)
「【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の状況を鑑み、よりすぐれた種子の発芽性能を改良する技術を見い出すべく、鋭意検討を重ねた結果、(1) 種子の含水率がある一定の値以上になるように種子を調製すること、(2) 調製された種子をある一定の値以上の相対湿度である気相環境下で発芽直前まで保持すること、により調製された種子の発芽開始時期が均一化されることを見い出し、そしてコート処理前に種子を該方法により調製し、調製された種子をコートすることによりコート種子の発芽開始時期の均一化にも成功し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、種子の含水率が30%乾重量以上になるように種子に水を含浸し、得られた種子を相対湿度50%以上の気相環境下で発芽直前まで保持することを特徴とするコート種子の発芽開始時期の均一化方法および該方法により調製された種子、さらにコート処理前に種子を該方法により調製し、調製された種子をコートすることによって得られるコート種子およびその製造方法を提供するものである。
【0005】本発明において用いられる種子としては、例えば、レタス等のキク科作物、ネギ、タマネギ等のユリ科作物、カンラン等のブラシカ科作物、ホウレンソウ等のアカザ科作物、ミツバ、セロリ、パセリ等のセリ科作物、ゴボウ等のキク科作物、ナス、トマト等のナス科作物、ダイコン、ハクサイ等のアブラナ科作物等の野菜種子、パンジー、ユーストマ、ベゴニア等の花種子、ギニアグラス、ローズグラス等の牧草種子、デントコーン、イネ、オオムギ等のイネ科作物等の穀物種子、ユーカリ等の樹木種子、ソラマメ、ダイズ、エンドウ等のマメ科作物、ヒマワリ等のキク科作物、ソバ等のタデ科作物、食用ヒエ等のイネ科作物の食用及び工芸作物等をあげることができる。」

(エ)
「【0010】以下、実施例についてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。
【0011】実施例1
ホウレンソウ (Spinacia oleracea L.)種子に、あらかじめ室温で30分間蒸留水を含浸させ、種子の含水率が70%乾重量になるように調製された種子を得た。つぎに得られた種子を、温度15℃で相対湿度95%に設定された植物育成装置(ナガノ科学機械製)内に3日間静置した。このときの他の条件としては、気相のガス成分が酸素濃度21%の空気成分で、暗条件であった。気相法による上記の処理後、調製された種子をドラム式通風乾燥機(田中化学機械製)を用いて温度60℃で絶対湿度0.05kg/kg の乾燥空気を30分間供給することにより乾燥させた。このようにして乾燥された種子、すなわち発芽性能が改良された種子(含水率;8%乾重量)を、殺菌剤であるベンレートT(水和剤20、デュポン・ジャパンリミテッド製)を0.5重量%の割合で含有する被覆資材(カルボキシメチルセルロースの1%(w/v) 水溶液)でフィルムコート加工することにより、コート種子を製造した。
【0012】実施例2
ニンジン(Daucus carota L.)種子に、あらかじめ室温で1時間蒸留水を含浸させ、種子の含水率が80%乾重量になるように調製された種子を得た。つぎに得られた種子を、温度25℃で相対湿度95%に設定された植物育成装置(ナガノ科学機械製)内に2日間静置した。このときの他の条件としては、気相のガス成分が酸素濃度21%の空気成分で、暗条件であった。気相法による上記の処理後、調製された種子をドラム式通風乾燥機(田中化学機械製)を用いて温度60℃で絶対湿度0.05kg/kg の乾燥空気を30分間供給することにより乾燥させた。このようにして乾燥された種子、すなわち発芽性能が改良された種子(含水率;4%乾重量)を、殺菌剤であるベンレートT(水和剤20、デュポン・ジャパンリミテッド製)を0.5重量%の割合で含有する被覆資材(カルボキシメチルセルロースの1%(w/v) 水溶液)でフィルムコート加工することにより、コート種子を製造した。」

イ 甲第2号証に記載された発明の認定
甲第2号証には、上記アを踏まえると、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「種子の含水率が30%乾重量以上になるように種子に水を含浸し、得られた種子を相対湿度50%以上の気相環境下で発芽直前まで保持することを含む、野菜種子、花種子、牧草種子、穀物種子、樹木種子、食用種子、工芸用作物種子等の種子の発芽性能を改良する処理方法であり、
ホウレンソウ種子を室温で30分間蒸留水に含浸させて種子の含水率を70%乾重量とした場合には、温度15℃で相対湿度95%に設定した植物育成装置内に種子を3日間静置し、その後種子を含水率8%乾重量まで乾燥してフィルムコート加工し、
ニンジン種子を室温で1時間蒸留水に含浸させて種子の含水率を80%乾重量とした場合には、温度25℃で相対湿度95%に設定した植物育成装置内に種子を2日間静置し、その後種子を含水率4%乾重量まで乾燥してフィルムコート加工する、
種子の処理方法。」

4 判断
(1) 取消理由通知に記載した取消理由について
ア 本件訂正発明1について
(ア)本件訂正発明1と甲1発明との対比
本件訂正発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「種子の始働処理方法」は、種子を「常套の始働技術」に付して「添加した水を吸水させる工程」を含み、その後さらなる処理を行って、「湿ったまたは乾燥型の処理始働種子」を得るまでの一連の処理方法であるから、本件訂正発明1における「シードプライミング方法」に相当する。
甲1発明における「未始動種子即ち未処理種子である吸水すべき未発芽種子」は、処理始働方法の対象とする種子であり、かつ吸水を行わせる前の種子であるから、本件訂正発明1における「プライミングされるべき乾燥した種子」に相当する。また甲1発明において、当該「未始動種子即ち未処理種子である吸水すべき未発芽種子」を「常套の始働技術」に付すために用意することは、本件訂正発明1における「乾燥した種子を提供する工程」に相当する。
甲1発明において、「添加した水を吸水させる工程」では、「吸水の量を始働溶液により決める水カラムのような水性液体始働技術を用いる」という選択肢、及び「吸水の量を添加すべき水の量により決めるドラム缶始働技術を用いる」という選択肢が存在し、甲第1号証の実施例では「ドラム缶始働」を用いている。当該「ドラム缶始働」の選択肢をとる場合には、「吸水の量が添加した水の量」により定まり、またドラム缶を秤量して水の蒸発を追跡しつつ水をつぎたしているから、与えた水がほぼ全て種子に吸収されており、種子が「水溶液に浸漬」されてはいないとも考えられる。しかしながら、甲1発明では、「添加した水を吸収させる工程」において、「吸水の量を始働溶液により決める水カラムのような水性液体始働技術を用いる」という選択肢も存在し、当該選択肢をとる場合の「添加した水を吸水させる工程」は、本件訂正発明1における「種子を水溶液に浸漬する浸漬工程」に相当する。
甲1発明において、「添加した水を吸水させる工程」の後に、種子を「水中または浸透溶液中」から、水分含量(MC)を「好ましくは5%から15%単位の間で減少する」ための「常套の乾燥条件である高速空気流」の下へと移すことは、本件訂正発明1における「前記水溶液から種子を除去する工程」に相当する。
甲1発明において、種子を「水中または浸透用液中」である「始働溶液」を有する「水カラム」中で「摂取する水の下に」置く時間が、「種子の予備発芽代謝工程が開始して続くが、幼根および/または胚軸が種子殻または果皮から突出または出現する発芽は不可能な時間」であることと、本件訂正発明1において、「浸漬時間」が「前記種子が水の吸収の遅滞期である発芽の第二段階に入るのに必要な時間と少なくとも等しく、発芽及び根の発毛に至る発芽の第三段階に入るのに必要な時間よりも短い」こととは、「浸漬時間は、発芽及び根の発毛に至る発芽の第三段階に入るのに必要な時間より短い」という点で、共通する。
甲1発明における、「種子の水分含量(MC)を、常套の乾燥条件である高速空気流により、好ましくは5%から15%単位の間で減少する、水分の減少工程」と、本件訂正発明1における、「前記種子の飽和水分の量を1?10重量%低減する工程」とは、「前記種子の水分の量を低減する工程」である点で、共通する。
甲1発明における、「さらにその後、種子を最少空気および水分交換の容器内でインキュベーションを行う加湿保存により、湿った処理始働種子を得る工程」と、本件訂正発明1における、「前記種子の水分の量を低減する工程の後、前記種子を、相対湿度が95%以上100%未満の空気の雰囲気下でインキュベートする工程」とは、「前記種子の水分の量を低減する工程の後、前記種子を、インキュベートする工程」である点で、共通する。

以上より、甲1発明と本件訂正発明1とは、以下の点で一致する。
「シードプライミング方法であって、
プライミングされるべき乾燥した種子を提供する工程と、
前記種子を水溶液に浸漬する浸漬工程と、
前記水溶液から前記種子を除去する工程であって、浸漬時間は、発芽及び根の発毛に至る発芽の第三段階に入るのに必要な時間よりも短い工程と、
前記種子の水分の量を低減する工程と、
前記種子の水分の量を低減する工程の後、前記種子を、インキュベートする工程と、を含む、
方法」

そして両者は、以下の点で相違する。
【相違点1】
本件訂正発明1では、「浸漬工程」を「種子が一度水で飽和される」まで行い、「浸漬時間」も「種子が水の吸収の遅滞期である発芽の第二段階に入るのに必要な時間と少なくとも等し」いのに対し、
甲1発明では、種子を「摂取する水の下に」置く時間を、「種子の予備発芽代謝工程が開始して続く」ものとはしているが、必ずしも「種子が一度水で飽和」され、「種子が水の吸収の遅滞期である発芽の第二段階に入るのに必要な時間と少なくとも等し」くして、「種子が一度水で飽和」された状態にするとは限らない点。

【相違点2】
本件訂正発明1では、「インキュベートする工程」に先立つ「種子の水分の量を低減する工程」において、「飽和」した種子の水分の量を「1?10%」低減するのに対し、
甲1発明では、「インキュベーション」に先立つ「水分の減少工程」において、開始時の種子の水分の量が必ずしも「飽和」しているとは限らないとともに、水分の減少量が「好ましくは5%から15%単位の間」である点。

【相違点3】
本件訂正発明1では、「インキュベートする工程」の間、「相対湿度が95%以上100%未満の空気の雰囲気下」とされ、「種子」が「回転」され、かつ「前記雰囲気は、連続的に又は断続的に入れ替えられる」のに対し、
甲1発明では、インキュベーションを「最小空気および水分交換の容器内」で行う点。

(イ)判断
a 新規性について
甲1発明と本件訂正発明1とには、上記(ア)に認定した相違点1ないし3があり、本件訂正発明1は甲1発明と同一ではない。

b 進歩性について
(a)相違点1について
上記相違点1について検討する。
甲1発明は、種子を「始働溶液」を有する「水カラム」中に置く吸水法をとる場合に、種子を摂取する水の下に置く時間を、相違点1に係る本件訂正発明1のように「種子が水の吸収の遅滞期である発芽の第二段階に入るのに必要な時間と少なくとも等しく」して、種子が「一度水で飽和される」ようにすることは、直接は明記されていない。
しかしながら、甲1発明では、吸水により種子の「予備発芽代謝工程」を「開始して続く」ようにするものであり、その後に水分含量を減少してインキュベーションを行った「湿った処理始働種子」についても、「発芽的代謝工程以外の代謝工程が続く」水分含量であることが想定されているから、甲1発明において吸水段階で種子に吸水させる水分量は、「予備発芽代謝工程」が単に「開始」される最小限の量ではなく、開始された「発芽以外の代謝工程」がその後のインキュベーションの期間を通じて続くだけの量であると解される。
また、甲1発明において、後続するインキュベーションの期間まで発芽以外の代謝工程が続くだけの水分含量を持たせることを考慮すると、種子が始働処理の途中で発芽してしまうことが防止できる範囲で、吸水段階では種子に十分な量の水を吸水させておく動機付けがある。さらに、甲第1号証には、上記第3 3(2)ア(オ)に摘記した段落【0056】にも「0MPa(もし種子を水中に置くなら)、またもし種子を浸透溶液中に置くなら約0MPaから約-1.5MPaの間の水ポテンシャルへ置き得る。・・・吸水の量は、始働溶液・・・・により決める。」と記載されるように、種子をその中に置く水あるいは浸透溶液の水ポテンシャルに応じて、吸水の量が定まることも示唆されている。このことからすれば、甲1発明において、種子を「水中または浸透溶液中に置く」際に、「始働溶液」を有する「水カラム」中に置く選択肢をとる場合には、用いる水または浸透溶液の水ポテンシャルの下で、種子が水の吸収の遅滞期となる発芽の第二段階に入るのに必要な時間は、少なくとも種子を摂取する水の下に置き、もって種子が当該水あるいは始働溶液の下で一度水で飽和されるようにし、相違点1に係る本件訂正発明1の構成とすることは、上述した甲第1号証中の示唆に基いて、当業者であれば適宜になし得た設計事項程度である。

(b)相違点2について
上記相違点2について検討する。
甲1発明において、「インキュベーション」に先立つ「水分の減少工程」における水分の減少量は、「好ましくは5%から15%単位の間」であり、本件訂正発明1における「1?10重量%」と近接し、一部の範囲は重複している。
ここで、甲第1号証には、上記第3 3(2)ア(キ)に摘記したとおり、パンジー種子を用いて加湿保存を行う場合に、インキュベーションの前に減少させる種子の水分含量を、「34%」から「25%」までの9%とする実施例9が記載されている。また甲第1号証には、上記第3 3(2)ア(ク)に摘記したとおり、トウガラシ属(トウガラシ)シーブイ・アブデラの種子を用いて加湿保存を行う場合に、インキュベーションの前に種子の水分含量を、「35.3%」から「30.6%」、「25.5%」、「20.0%」等へと減少させる実施例10が記載されており、「30.6%」または「25.5%」まで減少させたサンプルは他のサンプルより種子の貯蔵寿命が良いことも示されている。
当該実施例9及び10では、水分含量の減少に先立つ吸水処理を「ドラム缶始働」という選択肢で行っており、ドラム缶始働による「吸水の量」は「添加すべき水の量により」決めているから、これらの実施例における約9%、約5%又は約10%という水分減少は、甲1発明における「吸水の量を始働溶液により決める水カラムのような水性液体始働技術を用いる」という吸水工程の選択肢(本件訂正発明1における「浸漬工程」に相当する)を経た種子に対して行われているものではなく、また、当該種子が「水の吸収の遅滞期」である「飽和」水分量に至っているとは限らないと解される。
しかしながら、上記相違点1において検討したとおり、甲1発明には吸水の段階で種子に十分な量の水を吸水させておく動機付けがあるから、実際に甲第1号証の実施例で種子に吸水させている水の量も、吸水により開始された「発芽以外の代謝工程」がその後のインキュベーションの期間を通じて続くだけの量であり、種子を一度水あるいは浸透溶液の水ポテンシャルの下で水に飽和させた水分量に近いと解される。そして、上記相違点1で検討したとおり、甲1発明には、種子を「始働溶液」を有する「水カラム」中に置く、という吸水法をとる選択肢が存在し、当該選択肢をとる場合に、種子を一度水あるいは浸透溶液の水ポテンシャルの下で水に飽和させた水分量に至らせることは、設計事項程度である。
以上の事情を考慮すれば、甲1発明において、上記相違点1に係る本件訂正発明1の構成をとり、種子の「飽和」水分の量に対して水分含量の減少を行わせる際に、水分含量の減少量について、甲1発明における「好ましくは5%から15%単位の間」の中から、甲第1号証の実施例9あるいは実施例10を参照して、5%、9%あるいは10%近傍の数値を選択し、もって相違点2に係る本件訂正発明1の構成とすることは、相違点1に係る構成を得ることと併せて、当業者が適宜になし得た設計事項程度である。

(c)相違点3について
上記相違点3について検討する。
甲1発明において、「最少空気および水分交換の容器内でインキュベーションを行う加湿保存」に際して、「相対湿度が95%以上100%未満の空気の雰囲気下」とし、かつ「種子」が「回転」され、かつ「前記雰囲気は、連続的に又は断続的に入れ替えられる」という3つの条件を同時に適用することは、甲第1号証中に記載されていない。
甲第1号証中で加湿保存を行う実施例9では、「最小空気および水分交換の容器」として、「防水ではあるが気密ではないプラスチック容器」を用いているから、相違点3に係る構成の3つの条件のうち、「雰囲気」が「入れ替えられる」という条件については満たしている。しかし当該実施例9の場合に、「プラスチック容器」を「回転」し、かつ相対湿度を「95%以上100%未満の空気の雰囲気下」とすることは、甲第1号証には記載されていない。
また、甲第1号証中で加湿保存を行う別途の実施例10では、インキュベーションを行う「最小空気および水分交換の容器」として「密閉容器(0.15dl)」を用いており、その際の条件として表10中には「100%RH」すなわち相対湿度が「100%」との記載がある。そのため、当該実施例10では、相違点3に係る構成の3つの条件のうち、相対湿度を「95%以上100%未満の空気の雰囲気下」とする条件については、満たしている。しかし当該実施例10の場合には、容器は「回転」されておらず、また「密閉容器(0.15dl)」であるから、「雰囲気」が「入れ替えられる」という条件も満たしていない。
そして、甲第1号証において、「最小空気および水分交換の容器」を用いる「加湿保存」において、「加湿保存」という語は用いていても、湿度をどの程度とすべきかについて、明確な基準やその技術的理由は示されていないから、実施例10で「0.15dl」という微少な「密閉容器」を用いた場合に相対湿度が「100%」という記載があるからといって、容器を「気密ではないプラスチック容器」に変更した場合にも、当該相対湿度を維持することが記載あるいは示唆されているということはできない。また、甲第1号証において、「加湿保存」の際に相対湿度及び雰囲気の入れ替えという前述の両条件を満たしたうえで、さらに容器を「回転」させることも、記載あるいは示唆されているということができない。甲第1号証において、上記第3 3(2)ア(カ)に摘記した「実施例1(遅い乾燥)」では、吸水の段階で「3rpmでその側が回転している6lのドラム缶」を用いたうえで、「同じドラム缶内で更に3日間インキュベーションする」と記載されているから、当該実施例1では、インキュベーション中にも種子を「回転」させているとも解し得る。しかし、当該実施例1は、インキュベーション中にも種子の含有水分を調整しつつ減少させていくものであるから、当該実施例1等の記載をもって、「最小空気および水分交換の容器」を用いる「加湿保存」において、容器を「雰囲気」の「入れ替え」及び相対湿度を「95%以上100%未満」としながら、かつ同時に「回転」させることが示唆されているということはできない。
甲第2号証には、上記第3 3(3)イに示した甲2発明が記載されており、甲2発明は含水率を上げた種子を「相対湿度95%」で静置する構成を有している。しかしながら、甲2発明も種子を回転させる構成は有していないとともに、甲1発明における「最小空気および水分交換の容器」を用いたインキュベーションにおいて、相違点3に係る3つの条件を同時に満たすことを示唆するものではない。
したがって、甲1発明において、相違点3に係る本件訂正発明1の構成とすることは、甲第1号証及び甲第2号証のいずれにも記載されておらず、示唆されているということもできない。

(d)本件訂正発明1の進歩性の小括
以上のとおり、相違点3に係る本件訂正発明1の構成を得ることは、甲第1号証及び甲第2号証のいずれにも記載されておらず、示唆されているということもできないから、本件訂正発明1は、甲1発明及び甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件訂正発明2ないし6及び9について
本件訂正発明2ないし6及び9は、いずれも本件訂正発明1の構成を全て含み、本件訂正発明1をさらに限定したものである。
したがって、本件訂正発明2ないし6及び9も、甲1発明と同一ではなく、甲1発明及び甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件訂正発明10及び11について
本件訂正発明10は、本件訂正発明1ないし6及び9のいずれかの方法により得られるプライミングされた種子である。
本件訂正発明11は、本件訂正発明10の種子を育成することで得られる植物である。
そして、本件訂正発明1における相違点3に係る条件を満たすインキュベーションを経たものではない種子が、本件訂正発明10の種子と同一の構造及び特性を有するということはできない。本件訂正発明11の植物についても、同様である。
したがって、本件訂正発明10及び11も、甲1発明と同一ではなく、甲1発明及び甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 小括
上記ア?ウのとおり、本件訂正発明1ないし6及び9ないし11に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由1(新規性)又は取消理由2(進歩性)によって、取り消されるべきものではない。

(2)申立人の意見について
申立人は、平成31年1月8日提出の意見書(以下、「意見書」という。)において、訂正により限定された点を含め、本件訂正発明1ないし6及び9ないし11の構成は、全て甲第1号証に実質的に記載されているか、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正発明1ないし6及び9ないし11は新規性及び進歩性を有さず、取り消されるべきである旨を主張している。

ア 本件訂正発明1について
(ア)申立人の主張
a 相違点1及び2に関して
申立人は、上記(1)ア(ア)の相違点1及び2に関して、甲第1号証には種子始働法として既知の方法が採り得るとされ、段落0055や0056にドラム缶または水カラム中に種子を置くことも記載されているから、甲1発明は本件訂正発明1における「前記種子を水溶液に浸漬する浸漬工程」を有しており、また甲第1号証の段落0055には、種子を予備発芽代謝工程が開始し、発芽は不可能である時間、摂取する水の下に置くことが記載されているから、甲1発明は本件訂正発明1における「浸漬時間は、前記種子が水の吸収の遅滞期である発芽の第二段階に入るのに必要な時間と少なくとも等しく、発芽及び根の発毛に至る発芽の第三段階に入るのに必要な時間よりも短い工程」も具備している旨を主張している(申立書第14頁3行?24行参照)。また、甲第1号証の当該段落0055の記載や、種子の吸水に関する記載は、種子を水で飽和するまで浸漬させることを否定しておらず、甲第1号証に開示の種子の吸水後の一般的MCの範囲である約25%から約55%は、本件特許明細書における段落0056における種子の飽和水分量である50%を含んでいるから、甲第1号証の種子始働法は種子を水で飽和するまで浸漬することを含むものであり、甲1発明の浸漬時間は本件訂正発明1の浸漬時間と同じである旨を主張している(意見書第4頁下から11行?第6頁下から8行参照)。

b 相違点3に関して
申立人は、上記(1)ア(ア)の相違点3のうち相対湿度に関して、甲第1号証の請求項1には「その後、1時間あたりの水分減少が種子の乾燥重量の0.1ないし1.04%の範囲内に維持されるインキュベーションに付」されると記載されており、当該種子の水分減少量が微少量であること、及び甲第1号証において当該方法(b)を「加湿度保存」と呼んでいるから、プライミング種子の置かれている相対湿度は95%以上である可能性が高いこと、そもそもインキュベーション工程は種子を高い含水状態で維持させる工程であり、甲第2号証にも示されるようにインキュベーション工程での相対湿度を高めることは周知技術であるから、甲1発明は「相対湿度が95%以上100%未満」という本件訂正発明1における構成を実質的に具備している旨を主張している(申立書第15頁8行?同頁最終行、意見書第8頁13行?第9頁9行参照)。
また申立人は、上記(1)ア(ア)の相違点3のうち雰囲気が入れ替えられる点に関して、甲第1号証にはインキュベーションを「最少空気及び水分交換の容器内で」行うことが記載されており、空気及び交換という語があるからには容器内の空気が交換されることが明確に示されているとともに、インキュベーション工程において酸素が必要であることは明らかであるから、甲1発明は本件訂正発明1における「インキュベートする工程の間、前記雰囲気は、連続的に又は断続的に入れ替えられる」という構成を実質的に具備している旨を主張している(申立書第18頁第20行?27行、意見書第10頁7行?第11頁11行参照)。
さらに申立人は、上記(1)ア(ア)の相違点3のうち種子の回転に関して、甲第1号証には別の方法(a)でいわゆるドラム缶始働を行っており、回転するドラム内に種子を投入してプライミングを行うことが記載されており、当該方法は周知であるから、最少空気及び水分交換の容器でインキュベーションを行う際にも、容器を回転させることは実質的に記載されているか、当業者であれば当然に行い得る方法である旨を主張している(申立書第18頁第4行?19行、意見書第9頁下から9行?第10頁6行参照)。

c 本件訂正発明1の新規性進歩性について
申立人は、上記a及びbのとおり、本件訂正発明1の構成は、訂正により限定された構成も含めて、全て甲1発明が有しているか、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正発明1は新規性及び進歩性を有さず、取り消されるべきである旨を主張している。

(イ)判断
a 相違点1及び2に関して
申立人は、甲第1号証には、ドラム缶または水カラム中に種子を置くこと、及び種子を予備発芽代謝工程が開始し、発芽は不可能である時間、摂取する水の下に置くことが記載されているから、甲1発明は種子を「水溶液に浸漬」し、「浸漬時間は、前記種子が水の吸収の遅滞期である発芽の第二段階に入るのに必要な時間と少なくとも等しく」し、種子を一度水で「飽和」して「飽和水分の量」に至らせる場合を含んでおり、相違点1及び2の構成を有している旨を主張している。
しかしながら、まず甲第1号証において、実施例でも採用されている「ドラム缶始働」により吸水を行う選択肢について検討すると、ドラム缶始働技術では吸水の量を「添加すべき水の量」で決めており(上記第3 3(2)ア(オ)に摘記した段落【0056】を参照)、また種子の水分含量をドラム缶を秤量しつつ重量変化分を補う水をつぎたして調整しているから(上記第3 3(2)ア(カ)に摘記した段落【0068】を参照)、たとえば甲第2号証の段落【0002】にも記載されるように「回転するドラム内において種子に水溶液を噴霧供給する」という方法(上記第3 3(3)ア(イ)参照)が採用されている可能性が高いと解される。そのため、甲第1号証において、ドラム缶始働により吸水を行わせる選択肢の場合に、種子を「水の吸水の遅滞期である発芽の第二段階に入るのに必要な時間と少なくとも」等しい時間だけ水に「浸漬」し、もって種子を一度水で「飽和」することが記載されている、ということはできない。
次に、甲第1号証において、吸水を行わせる際に種子を「始働溶液」を有する「水カラム」中に置く、という選択肢の場合について検討する。当該選択肢の場合には、上記4(1)ア(ア)で検討したとおり、種子を本件訂正発明1における「水溶液に浸漬」に相当する状態に置くものと認めることができる。しかしながら、その場合に甲第1号証において種子を摂取する水の下に置く時間である、種子の「予備発芽代謝工程が開始」する時間については、種子が必ずしも当該水溶液の吸収の遅滞期に入るまで水を吸収せずとも、発芽のための予備代謝工程の一部は開始すると考えられるため(なおこの点については、先に検討したドラム缶始働において、飽和まで至らないがある程度の水を吸収させた場合についても同様である)、水カラム内に置く時間が、本件訂正発明1における「種子が水の吸収の遅滞期である発芽の第二段階に入るのに必要な時間」と少なくとも等しいとまで言うことはできない。
そして、甲第1号証において、種子の一般的な吸水量に関して記載される「約25%から約55%」の数値範囲が、本件特許明細書の段落【0057】に示される「ナガハナグサ」の浸漬後の水分量である「50%」、あるいは段落【0063】の【表1】中に示される「小麦」や「ヨーロッパアカマツ」の浸漬後の水分量である「30%」を含んでいること、及び、甲第1号証の実施例9における吸水後の「パンジー種子」の水分量である「34%」や、実施例10における「トウガラシ属(トウガラシ)シーブイ・アブデラ」の種子の吸水後の水分量である「35.3%」が、本件特許明細書における浸漬後の「小麦」や「ヨーロッパアカマツ」の種子の水分量である「30%」と近接していることは、甲1発明において種子に吸水させる水分量が、本件訂正発明1において種子に吸水させる水分量に近いことまでは示していると言い得るとしても、これらの事情をもって、実際に甲第1号証において種子を水溶液に「浸漬」して、かつ「水の吸水の遅滞期」に入るまでの時間は当該「浸漬」を続けることが、直接記載されていると言うことはできない。また、甲1発明で種子を摂取する水の下に置く時間である、「種子の予備発芽代謝工程が開始して続くが、幼根および/または胚軸が種子殻または果皮から突出または出現する発芽は不可能な時間」が、本件訂正発明1における浸漬時間である「前記種子が水の吸収の遅滞期である発芽の第二段階に入るのに必要な時間と少なくとも等しく、発芽及び根の発毛に至る発芽の第三段階に入るのに必要な時間よりも短い」時間を含む、より広い時間範囲であることをもって、本件訂正発明1における「浸漬」についての限定された時間が、甲第1号証に記載されていると言うこともできない。
したがって、申立人の主張を検討しても、上記相違点1及び2に係る本件訂正発明1の構成を甲1発明が有するということはできず、この点について甲1発明と本件訂正発明1とは同一ではない。
なお、当該相違点1及び2の容易想到性については、上記(1)ア(イ)b(a)及び(b)に判断したとおりである。

b 相違点3に関して
申立人は、甲第1号証において「加湿度保存」という語が用いられていること、及び甲第1号証の請求項1には当該加湿度保存に対応する方法(b)について「1時間あたりの水分減少が種子の乾燥重量の0.1ないし1.04%の範囲内に維持されるインキュベーションに付」されると記載されており、種子の水分減少量が微少量であることから、甲第1号証の「加湿度保存」では相対湿度が95%以上である可能性が高い旨を主張している。
しかしながら、甲第1号証の請求項1に記載される方法(b)での水分減少量は、同請求項1に記載される方法(a)での水分減少量より若干多く、方法(a)に対応する「遅い乾燥」の実施例1でも、上記第3 3(2)ア(カ)に摘記した段落【0070】に「RH90%および水分損失の速度0.1-0.3%MC/時間」と記載されているように、相対湿度は90%止まりであるから、当該請求項1に記載される方法(b)の水分減少速度、及び「加湿度保存」の語から、甲第1号証における「加湿度保存」では相対湿度95%以上でインキュベーションを行うと言うことはできない。
甲第1号証の実施例10では、「加湿度保存」に「0.15dl」の「密閉容器」を用いる場合について、表10中に「100%RH」との記載がされているが、「防水であるが気密ではないプラスチック容器」を用いた実施例9等には相対湿度の記載もされていないから、当該100%の相対湿度は「0.15dl」という微少体積の「密閉容器」を用いた場合の数値と解される。そして、甲第1号証中のその他の記載を検討しても、吸水させた種子の水分含量を一度下げた後にインキュベーションを行う「加湿度保存」において、「雰囲気」が「入れ替えられる」状況とし、かつ「種子」を「回転」させながら、しかも「相対湿度」を「95%以上100%未満」とすることは、記載されているということができない。
また申立人は、甲第1号証において加湿度保存でのインキュベーションは「最少空気及び水分交換の容器内で」行うと記載されており、空気及び交換という語があるからには容器の空気は交換されること、及び、インキュベーション工程で酸素が必要なことは明らかである旨を主張している。しかしながら、前述したように甲第1号証の実施例10では「0.15dl」の「密閉容器」を用いているから、「最少空気及び水分交換の容器」という語が空気の交換は必ず行われる容器を意味すると言うことはできず、また甲第1号証における加湿度保存でのインキュベーションが必ず空気交換雰囲気下で行われると言うこともできない。そして、甲第1号証の実施例9では、加湿度保存でのインキュベーションに「防水であるが気密ではないプラスチック容器」を用いているが、当該実施例9では相対湿度を95%以上とする記載はなく、容器を回転させる記載もない。そして甲第1号証中のその他の記載を検討しても、吸水させた種子の水分含量を一度下げた後にインキュベーションを行う「加湿度保存」において、「雰囲気」が「入れ替えられる」状況とし、かつ「種子」を「回転」させながら、しかも「相対湿度」を「95%以上100%未満」とすることは、記載されているということができない。
申立人は、甲第1号証には別の方法(a)でいわゆるドラム缶始働を行っており、回転するドラム内に種子を投入してプライミングを行うことが記載されていて、当該方法は周知である旨も主張しているが、まず上記第3 3(2)ア(カ)に摘記した甲第1号証の段落【0068】に「スミレ属の乾燥予備処理種子60gを、3rpmでその側が回転している6lのドラム缶に、3日間、室温が20℃に制御され、部屋のRHが70%に制御されている部屋の中で置くことにより始働する。」と記載されるのは、ドラム缶始働により種子に吸水を行わせる段階の説明であり、吸水させた種子を一度乾燥したうえでインキュベーションを行う段階の説明ではない。同摘記箇所の段落【0070】には、「試験サンプルのこのように始働した種子(MC35%)70gを、以下の遅い乾燥条件下の温度、相対湿度および水分損失速度の部屋の中で、同じドラム缶内で更に3日間インキュベーションする」とも記載されているから、甲第1号証において、実施例1の「遅い乾燥」によるインキュベーションでは、同じドラム缶で種子を回転しているとも解し得るが、当該実施例1は吸水させた種子を一度乾燥したうえでインキュベーションを行う「加湿度保存」の実施例ではなく、また加湿度保存におけるインキュベーションで用いるとされる「最少空気及び水分交換の容器」を回転させるものでもない。そして、甲第1号証中のその他の記載を検討しても、吸水させた種子の水分含量を一度下げた後にインキュベーションを行う「加湿度保存」において、「雰囲気」が「入れ替えられる」状況とし、かつ「種子」を「回転」させながら、しかも「相対湿度」を「95%以上100%未満」とすることは、記載されているということができない。
したがって、申立人の主張を検討しても、上記相違点3に係る本件訂正発明1の構成を甲1発明が有するということはできず、この点について甲1発明と本件訂正発明1とは同一ではない。
申立人は、甲第2号証にも記載されるように、相対湿度95%以上でのインキュベーションは周知技術である旨も主張しているが、甲第1号証の記載及び甲第2号証の記載を併せて検討しても、甲1発明における「最小空気および水分交換の容器」を用いたインキュベーションにおいて、「雰囲気」が「入れ替えられる」状況とし、かつ「種子」を「回転」させながら、しかも「相対湿度」を「95%以上100%未満」とすることが、示唆されているということはできない。
したがって、申立人の主張を検討しても、上記相違点3に係る本件訂正発明1の構成を得ることが、甲1発明及び甲2発明に基いて当業者にとって容易であったということはできない。

c 小括
以上のとおり、甲1発明と本件訂正発明1とには上記(1)ア(ア)に示した相違点1ないし3があり、申立人の主張を考慮しても、本件訂正発明1が甲1発明と同一と言うことはできない。
また当該相違点1ないし3のうち、相違点3については、申立人の主張を考慮しても、甲第1号証に記載されているということができず、甲1発明に甲2発明を適用して当該相違点3に係る本件訂正発明1の構成に至るものでもない。
したがって、申立人の主張を考慮しても、本件訂正発明1が甲1発明及び甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件訂正発明2?6及び9?11について
(ア)申立人の主張
申立人は意見書において、本件訂正発明2?6及び9?11は本件訂正発明1に従属する発明であり、訂正により限定された本件訂正発明1が上記ア(ア)のとおり進歩性を有さないから、本件訂正発明1の限定により限定された本件訂正発明2?6及び9も進歩性を有さない旨を主張している。

(イ)判断
しかしながら、上記ア(イ)に検討したとおり、本件訂正発明1について、申立人の意見書による主張を考慮しても、甲1発明及び甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件訂正発明1に従属する本件訂正発明2?6及び9?11についても、甲1発明及び甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(3)請求項7及び8について
本件請求項7及び8に係る特許は、訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項7及び8に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。


第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし6及び9ないし11に係る特許を取り消すことはできない。
そして、他に本件請求項1ないし6及び9ないし11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件請求項7及び8に係る特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定によって却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シードプライミング方法であって、
プライミングされるべき乾燥した種子を提供する工程と、
前記種子を水溶液に浸漬する浸漬工程と、
前記種子が一度水で飽和されると、前記水溶液から前記種子を除去する工程であって、浸漬時間は、前記種子が水の吸収の遅滞期である発芽の第二段階に入るのに必要な時間と少なくとも等しく、発芽及び根の発毛に至る発芽の第三段階に入るのに必要な時間よりも短い工程と、
前記種子の飽和水分の量を1?10重量%低減する工程と、
前記種子の水分の量を低減する工程の後、前記種子を、相対湿度が95%以上100%未満の空気の雰囲気下でインキュベートする工程と、を含み、
前記インキュベートする工程の間、前記種子は、回転され、及び、前記インキュベートする工程の間、前記雰囲気は、連続的に又は断続的に入れ替えられる、方法。
【請求項2】
前記種子は、内胚乳種、裸子植物種、外胚乳種又は果皮を有する種子からの種子である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
浸漬時間は、前記種子が発芽の第二段階に入るのに必要な時間と等しい請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記浸漬工程の間、前記水溶液は通気される請求項1?3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記水分の量は、水で飽和された前記種子の前記水分の量を低減する工程で、2?8重量%低減される請求項1?4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記種子は、一度水で飽和されると、種子が発芽するまでに必要な時間と等しいか又はそれより長い期間、インキュベートされる請求項1?5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
前記種子の前記インキュベートする工程の後で、前記種子の前記水分の量を低減する前記工程をさらに含む請求項1?6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1?6及び9のいずれか一項に記載の方法により得られるプライミングされた種子。
【請求項11】
請求項10に記載のプライミングされた種子を育成することで得られる植物。
【請求項12】
請求項1?6及び9のいずれか一項に記載の方法に沿って、酸素含有量が21%で、相対湿度が95%以上100%未満の空気の雰囲気下で種子をインキュベートする装置であって、
該装置は、水平に又は傾斜して、蓋(4)を有する回転可能な回転樽(1)を含み、
前記蓋(4)には、前記蓋(4)及び前記樽(1)を通って新鮮な空気の流れを水に供給するための手段(6,7)と、前記空気/水の流れから水滴を除去するための手段(8)と、が下流順に設けられ、
前記樽(1)には、気体出口(3)が設けられ、前記樽の回転軸は、水平面から30度未満逸れ、前記蓋(4)には、新鮮な空気の入り口(5)と、水で飽和されたスポンジフィルタ(7)と、前記空気/水の流れから水滴を除去するための半透過性膜(8)と、が設けられる装置。
【請求項13】
前記樽(1)は、モーター(12)で駆動される駆動ロッド(11)の手段により回転される、請求項12に記載の装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-02-15 
出願番号 特願2016-510649(P2016-510649)
審決分類 P 1 652・ 113- YAA (A01C)
P 1 652・ 121- YAA (A01C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中澤 真吾大熊 靖夫  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 有家 秀郎
井上 博之
登録日 2017-12-08 
登録番号 特許第6253766号(P6253766)
権利者 ロブスト シード テクノロジー エーアンドエフ アクチエボラーグ
発明の名称 シードプライミングの改良された方法  
代理人 岩池 満  
代理人 芝 哲央  
代理人 芝 哲央  
代理人 林 一好  
代理人 岩池 満  
代理人 林 一好  

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