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審決分類 審判 一部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  H01R
審判 一部申し立て 2項進歩性  H01R
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01R
審判 一部申し立て 判示事項別分類コード:857  H01R
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  H01R
管理番号 1350656
異議申立番号 異議2018-700213  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-05-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-03-09 
確定日 2019-02-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6199161号発明「基板端子金物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6199161号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。 特許第6199161号の請求項4?6に係る特許を維持する。 特許第6199161号の請求項1及び3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6199161号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成25年11月7日(優先権主張平成25年7月8日)に出願され、平成29年9月1日にその特許権の設定登録がされ、平成29年9月20日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議申立の経緯は、次のとおりである。
平成30年3月9日 :特許異議申立人 株式会社オサダ(以下、「
異議申立人」という。)による請求項1、請
求項3?6に対する特許異議の申立て
平成30年6月19日付け :取消理由通知書
平成30年8月23日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
平成30年10月23日付け:訂正拒絶理由通知書
平成30年11月13日 :特許権者による意見書及び手続補正書の提出

第2 訂正請求について
1 訂正の適否
(1)平成30年11月13日の手続補正について
平成30年8月23日に提出された訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書に係る訂正請求を「本件訂正請求」という。)及びこれに添付した訂正特許請求の範囲は、平成30年11月13日の手続補正(以下、「本件補正」という。)により補正されたので、その適否について検討する。
ア 本件補正の内容
本件補正の内容は、次のとおりである(下線は補正箇所である。)。
(ア)補正事項1
本件訂正請求書の「7 請求の理由」の「(2)訂正事項」の「ウ 訂正事項3」の項を、
「特許請求の範囲の請求項3を削除する。」
と補正する。
(イ)補正事項2
本件訂正請求書の「7 請求の理由」の「(2)訂正事項」の「エ 訂正事項4」を、
「特許請求の範囲の請求項4について、訂正事項1、2、3の訂正に伴い請求項4中に「請求項1乃至3のいずれか一項に記載の」とあるところを「請求項2記載の」と訂正する。」
と補正する。
(ウ)補正事項3
本件訂正請求書の「7 請求の理由」の「(2)訂正事項」の「オ 訂正事項5」の項を、
「特許請求の範囲の請求項6について、訂正事項1、2、3の訂正に伴い請求項6中に「請求項1乃至3のいずれか一項記載の」とあるところを「請求項2記載の」と訂正する。」
と補正する。
(エ)補正事項4
本件訂正請求書の「7 請求の理由」の「(2)訂正事項」の「カ」の、



と補正する。
(オ)補正事項5
本件訂正請求書の「7 請求の理由」の「(3)訂正の理由」の「イ 訂正事項が全ての訂正要件に適合している事実の説明」の「(ウ)訂正事項3」の項を、
「 a 訂正の目的について
訂正事項3は、請求項3を削除するというものであるから、当該訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
b 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項3は、請求項3を削除するというものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
c 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3は、請求項3を削除するというものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
d 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、訂正前の請求項1、3、4、5、6について特許異議申立てがされているので、訂正前の請求項3に係る訂正事項3に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。」
と補正する。
(カ)補正事項6
本件訂正請求書の「7 請求の理由」の「(3)訂正の理由」の「イ 訂正事項が全ての訂正要件に適合している事実の説明」の「(エ)訂正事項4」の項を、
「 a 訂正の目的について
訂正事項4は、訂正前の請求項4が「請求項1乃至3のいずれか一項」を引用する記載であるところ、訂正事項1、2、3の訂正に伴い訂正後の請求項2を引用するように訂正するものである。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正にあたる。
b 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項4は、特許請求の範囲の請求項4について、訂正事項1、2、3の訂正に伴い訂正後の請求項2を引用するように訂正するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
c 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項4は、特許請求の範囲の請求項4について、訂正事項1、2、3の訂正に伴い訂正後の請求項2を引用するように訂正するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
d 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、訂正前の請求項1、3、4、5、6について特許異議申立てがされているので、訂正前の請求項4に係る訂正事項4に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。」
と補正する。
(キ)補正事項7
本件訂正請求書の「7 請求の理由」の「(3)訂正の理由」の「イ 訂正事項が全ての訂正要件に適合している事実の説明」の「(オ)訂正事項5」の項を、
「 a 訂正の目的について
訂正事項5は、訂正前の請求項6が「請求項1乃至3のいずれか一項」を引用する記載であるところ、訂正事項1、2、3の訂正に伴い訂正後の請求項2を引用するように訂正するものである。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正にあたる。
b 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項5は、特許請求の範囲の請求項6について、訂正事項1、2、3の訂正に伴い訂正後の請求項2を引用するように訂正するように訂正するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
c 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項5は、特許請求の範囲の請求項6について、訂正事項1、2、3の訂正に伴い訂正後の請求項2を引用するように訂正するように訂正するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
d 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、訂正前の請求項1、3、4、5、6について特許異議申立てがされているので、訂正前の請求項6に係る訂正事項5に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。」
と補正する。

イ 本件補正の適否
上記補正事項1は、請求項3についての訂正事項3を当該請求項3の削除という訂正事項に変更する補正であり、また、補正事項2?6は、当該補正に整合させるための訂正事項4及び5についての補正並びに訂正請求書の補正であると認められる。
したがって、本件補正は訂正請求書の請求の趣旨の要旨を変更するものではない。
よって、本件補正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第131条の2第1項の規定に適合するから、本件補正を認める。
これにより、平成30年10月23日付け訂正拒絶理由通知書での拒絶理由は解消した。

(2)平成30年8月23日に提出された訂正請求書について
ア 訂正の内容
本件補正により補正された本件訂正請求書による本件訂正請求は、本件特許の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?6について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は次のとおりである。
(ア)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(イ)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2について独立形式請求項に改め、次のとおり訂正する(請求項2の記載を直接又は間接的に引用する請求項3?6も同様に訂正する。)。
「屈曲された板状体からなり、回路基板への固定用の固定爪部を備えている基板端子金物であって、
前記板状体から形成される複数の壁面の中の一壁面に当該壁面の外部側から内部側に貫通する透孔が形成されていると共に、
当該壁面の内部側に前記透孔に挿通する中空部を備え、内周壁に雌ネジ部が形成されている有底の筒状体が配備されており、
前記有底の筒状体は、前記透孔が形成されている前記壁面と一体に形成されている
ことを特徴とする基板端子金物。」
(ウ)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(エ)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1乃至3のいずれか一項記載の」とあるところを「請求項2記載の」と訂正する。
(オ)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1乃至3のいずれか一項記載の」とあるところを「請求項2記載の」と訂正する。

なお、訂正前の請求項1?6は、請求項2?6が請求項1を直接又は間接的に引用する関係にあるから、訂正事項1?5は一群の請求項1?6について請求されている。

イ 訂正の目的、新規事項追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(ア)訂正事項1及び3
訂正事項1は、請求項1を削除するというものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項1は、請求項1を削除するというものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
訂正事項3は、請求項3を削除するというものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項3は、請求項3を削除するというものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(イ)訂正事項2
訂正事項2は、訂正前の請求項2が訂正前の請求項1を引用する記載であったものを、訂正事項1で訂正前の請求項1を削除したことに伴って、請求項間の引用関係を解消して、請求項1を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正であって、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
訂正事項2は、請求項間の引用関係を解消して、請求項1を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正であり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(ウ)訂正事項4及び5
訂正事項4は、訂正前の請求項4が「請求項1乃至3のいずれか一項」を引用する記載であるところ、訂正事項1?3の訂正に伴い訂正後の請求項2を引用するように訂正するものである。
したがって、訂正事項4は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項4は、訂正事項1?3の訂正に伴い訂正後の請求項2を引用するように訂正するものであるから、上記(ア)及び(イ)をも踏まえると、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
訂正事項5は、訂正前の請求項6が「請求項1乃至3のいずれか一項」を引用する記載であるところ、訂正事項1?3の訂正に伴い訂正後の請求項2を引用するように訂正するものである。
したがって、訂正事項4は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項4は、訂正事項1?3の訂正に伴い訂正後の請求項2を引用するように訂正するものであるから、上記(ア)及び(イ)をも踏まえると、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

ウ 小括
上記のとおり訂正事項1?5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
特許第6199161号の請求項2及び4?6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明2」及び「本件発明4」?「本件発明6」という。)は、本件訂正請求により訂正された訂正後の請求項1?6に記載された次の事項によって特定されるとおりのものである。
「【請求項2】
屈曲された板状体からなり、回路基板への固定用の固定爪部を備えている基板端子金物であって、
前記板状体から形成される複数の壁面の中の一壁面に当該壁面の外部側から内部側に貫通する透孔が形成されていると共に、
当該壁面の内部側に前記透孔に挿通する中空部を備え、内周壁に雌ネジ部が形成されている有底の筒状体が配備されており、
前記有底の筒状体は、前記透孔が形成されている前記壁面と一体に形成されている
ことを特徴とする基板端子金物。
【請求項4】
前記固定爪部が、前記板状体から形成される複数の壁面の中で前記基板端子金物の側壁を構成する前記壁面の下端側に形成されていて、
前記透孔が形成されている前記壁面が、前記側壁の上端側に連接されている前記基板端子金物の頂板を形成する壁面である
ことを特徴とする請求項2記載の基板端子金物。
【請求項5】
前記頂板が斜め下向きに傾斜して配置されており、前記筒状体が、当該頂板の傾きに対応して斜め下方向に向かって傾斜して配置されている
ことを特徴とする請求項4記載の基板端子金物。
【請求項6】
前記固定爪部が、前記板状体から形成される複数の壁面の中で前記基板端子金物の側壁を構成する前記壁面の下端側に形成されていて、
前記透孔が形成されている前記壁面が前記側壁である
ことを特徴とする請求項2記載の基板端子金物。」

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1及び3?6に係る発明の特許に対して、当審が平成30年6月19日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は次のとおりである。

[取消理由1]本件特許の請求項1、3及び4に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
[取消理由2]本件特許の請求項1、3及び4に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献1又は引用文献2に記載された発明に基いて、また、本件特許の請求項5及び6に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献1及び引用文献3又は引用文献2及び引用文献3に記載された発明に基いてその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。


引用文献
引用文献1:実願昭49-108540号(実開昭51-36086号)のマイクロフィルム
引用文献2:特開2013-54882号公報
引用文献3:特開2002-134197号公報
上記引用文献1?3は、それぞれ異議申立人の特許異議申立書における甲第1?3号証である。

3 当審の判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由について
ア まず、本件訂正請求により請求項1及び3は削除されたので、当審で通知した取消理由1及び2のうち、請求項1及び3に係る発明の特許に対する取消理由は解消した。
そこで、当審で通知した請求項4に係る発明の特許に対する取消理由1及び2並びに請求項5及び6に係る発明の特許に対する取消理由2について以下検討する。

イ 引用文献1に記載の事項および発明
(ア)引用文献1には、「接続端子」に関し、図面とともに次の記載がある(下線は当審で付したものである。以降エまで同様。)。
「本考案は接続端子、とくに電源供給用接続端子の改良に関するものである。」(明細書第2頁第6、7行)
「第1図は端子板を示し、側面1および2、両側面1,2の結合面3,接触面4とからなる。側面1には印刷配線板に格子状に穿孔されたスルーホールに挿入し半田付固定されるように格子パターンと同一ピツチに配列された複数の櫛状端子5が一体に設けられている。側面2は上記側面1と対向し、同じように複数の櫛状端子6が一体に設けられている。この側面2は接触面4を残して直角に曲げられ、接触面4が切り欠かれた空間7をつくつている。
空間7は第2図に示す固定板9が挿入されたとき最小のガタを残す寸法となつている。接触面4は結合面3と同面で該接触面4には、固定板9が挿入されたとき、該固定板9のねじ穴と中心を同じくするねじのバカ穴4’が設けられている。
接触面4から伸びる爪片8は、固定板9が挿入された後、直角に折曲げて固定板9の脱落および回転を防止する。
第2図は端子板に組合わされ、ねじ締めの雌側の役割をはたす固定板である。固定板9は基本的には直方体であるが、端子板を半田付するときの半田上りの状況によつては、半田盛り上りを逃げるため面とり11を設けてもよい。10は固定板9の接触面であり、固定板9には中央にねじ穴12が設けられている。」(明細書第3頁下から3行?第5頁第3行)
「第4図は接続端子の実装を示すもので、印刷配線板Pに設けられている格子状パターンの端子列13,14の穴に、端子板の側面1,2に櫛状に設けられた端子5,6を挿通し半田付により固定する。そして空間7に固定板9を挿入した後、爪片8を直角に折曲げて、固定板9を端子板内に保持させる。
ついで端子板の接触面4上に、外部電源に接続される電源供給板15をおき、ワツシヤ16を介して固定板9のねじ穴12に固定ねじ17を螺合させて締付固定する。」(明細書第5頁第12行?第6頁第2行)
また、第4図から、固定板9のねじ穴12が有底であることが看取できる。
(イ)以上の記載事項及び図面の記載内容から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
[引用発明1]
「側面1および2、当該両側面1,2の結合面3,接触面4とからなる端子板であって、前記側面1には印刷配線板に格子状に穿孔されたスルーホールに挿入し半田付固定されるように格子パターンと同一ピッチに配列された複数の櫛状端子5が一体に設けられており、前記側面2は、接触面4を残して直角に曲げられ、接触面4が切り欠かれた空間7を作っており、前記側面2には前記側面1と対向し複数の櫛状端子6が一体に設けれられており、前記接触面4には、バカ穴4’が設けられている端子板と、前記端子板に組合わされねじ締めの雌側の役割をはたす固定板9であって、当該固定板9には中央に有底のねじ穴12が設けられており、固定板9を前記空間7に挿入し、接触面4から延びる爪片8を折曲げて端子板内に保持される固定板9と、からなる接続端子。」

ウ 引用文献2の記載事項および発明
(ア)引用文献2には、「ネジ端子台」に関し、図面とともに次の記載がある。
「【0001】
本発明は、回路基板に実装されて外部の電子機器等の接続端子(外部の端子)との電気的な接続に供されるネジ端子台に関する。」
「【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1は、第1の形態に係るネジ端子台1Aの分解斜視図である。
このネジ端子台1Aは、金属製のネジ端子本体10に樹脂製ホルダ20を組付けすることによって形成されている。
上記ネジ端子本体10を形成する材料としては導電性の金属板状材料が採用され、例えば銅及び銅合金の板が好適である。そして、これらの材料で形成されたネジ端子本体10の表面に、必要により錫メッキなどを施してもよい。
図1で上側に図示したネジ端子本体10は、上側の天面部12と、ここから延在する一対の脚部13、13を備えて側面視で略コ字を成している。天面部12には、外部の端子とネジ端子本体10とを接続するための雄ネジ(端子および雄ネジ、共に図示せず)が嵌装される開口11が設けてある。この天面部12の端縁の対向する位置から、一対の脚部13、13がそれぞれ垂下している。これら脚部13、13の先端には、外部の回路基板の差込孔(又は導電性スルーホール)に差し込まれる突起13pが設けてあり、ネジ端子本体10は回路基板の導体パターンに電気的に接続可能である。図1で例示している天面部12は概略形状が矩形(四角形)であり、互いに平行な1組の辺のそれぞれから脚部13、13が垂下している。」
「【0025】
さらに、図4を参照して、第2の形態に係るネジ端子台1Bについて説明する。この図4で示すネジ端子台1Bも、前述したネジ端子台1Aと同様の基本構造を備えている。すなわち金属製のネジ端子本体30と、これを支える絶縁性の樹脂製ホルダ40とにより構成されており、樹脂製ホルダ40内には異物落下を防止する閉塞壁を備えた構造に構成してあるという特徴点は同様である。よって、外部端子を接続するために雄ネジを締め込む作業をして、仮に、金属の異物が落下しても、ネジ端子台1Aの場合と同様に汚染や短絡などの問題を防止できる。
【0026】
先に説明した第1の形態に係るネジ端子台1Aはバーリング部に雌ネジを形成したが、第2の形態に係るネジ端子台1Bでナットを雌ネジとして用いたナット組み込み型のネジ端子台である。
さて、図4(a)?(d)は、ネジ端子台1Bを組み上げて、回路基板100に接続するまでの一連の工程を示している。図4(a)は樹脂製ホルダ40内に、このネジ端子台1Bの雌ネジとして機能するナット41が回転を規制された状態で収納される様子を示す。図4(b)はナット41を収納した樹脂製ホルダ40が、ネジ端子本体30の脚部33、33間に嵌合されている様子を示している。このネジ端子本体30の天面部32に設けられる開口31は、雄ネジの貫通を許容するものである。すなわち、この開口31に嵌装される雄ネジ210は、開口31の下に配置しているナット41と噛合することになる。
そして、ネジ端子本体30の脚部33、33間にて挟持される樹脂製ホルダ40の一対の外側面43には嵌合用の突起44がそれぞれ設けてある。これに対応し、脚部33側にはこの突起44と嵌合する切欠34が形成されている。
【0027】
そして、図4(c)、(d)で示すようにネジ端子台1Bも回路基板100にセットされ、開口31を介してナット41に雄ネジ210が捩じ込まれることで、外部の端子(ここでは、図示していな)をネジ端子台1Bに電気的に接続できる。
なお、図4(e)は、このネジ端子台1Bの断面を示しており、概ね筒状体である樹脂製ホルダ40はその下端に閉塞壁45を有している。よって、外部端子を接続するために雄ネジを締め込む作業をして、仮に、金属の異物が落下しても、ネジ端子台1Aの場合と同様に汚染や短絡などの問題を防止できる。」
(イ)以上の記載事項及び図面(特に、【図1】、【図2】及び【図5】)の記載内容から、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。
[引用発明2]
「金属製のネジ端子本体30に樹脂製ホルダ40を組付けすることによって形成されているネジ端子台1Bであって、ネジ端子本体30は、上側の天面部32と、ここから延在する一対の脚部33、33を備えて側面視で略コ字状を成しており、前記天面部32には、外部の端子とネジ端子本体30とを接続するための雄ねじが嵌装される開口31が設けてあり、前記天面部32の端縁の対向する位置から、一対の脚部33、33がそれぞれ垂下しており、前記脚部33、33の先端には、外部の回路基板の差込孔に差し込まれる突起13pが設けてあり、ナット41を収納した概ね筒状体である樹脂製ホルダ40が、ネジ端子本体30の脚部33、33間に嵌合されており、樹脂製ホルダ40はその下端に閉塞壁45を有している、ネジ端子台1B。」

エ 引用文献3の記載事項
引用文献3には、「基板端子金具」に関し、図面とともに次の記載がある。
「【請求項1】 電子機器装置に用いる基板実装用の基板端子金具において、コの字形状の端部に基板に設けた穴と勘合する複数の凸部を設け、前記端部と反対面の平面部にネジを設け、前記平面部は基板に搭載した場合に基板面に対して傾斜するように実装されることを特徴とする基板端子金具。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は電子機器装置の基板端子金具に関するものである。」
「【0002】
【従来の技術】従来の基板端子金具の形状を図5に示す。基板に対しネジ面は平行か、垂直方向にある。前述の基板端子金具には下記に示す欠点がある。」
「【0008】基板1に実装する基板端子金具2は、コの字の形状をした端面を下向きに設け、この端面と反対面のネジ面3を傾斜させることによりシャーシの底面4や側面5あるいはほかの部品6からドライバー7を遠ざけた。」

オ 対比・判断
(ア)引用文献1を主引例とした場合
a 本件発明4について
(a)対比
本件発明4と引用発明1とを対比する。
i まず、本件発明4は、本件発明2の、
「屈曲された板状体からなり、回路基板への固定用の固定爪部を備えている基板端子金物であって、
前記板状体から形成される複数の壁面の中の一壁面に当該壁面の外部側から内部側に貫通する透孔が形成されていると共に、
当該壁面の内部側に前記透孔に挿通する中空部を備え、内周壁に雌ネジ部が形成されている有底の筒状体が配備されており、
前記有底の筒状体は、前記透孔が形成されている前記壁面と一体に形成されている基板端子金物」との発明特定事項を全て含み、さらに、
「前記固定爪部が、前記板状体から形成される複数の壁面の中で前記基板端子金物の側壁を構成する前記壁面の下端側に形成されていて、
前記透孔が形成されている前記壁面が、前記側壁の上端側に連接されている前記基板端子金物の頂板を形成する壁面である」との限定構成を付加するものもである。
したがって、本件発明4は、
「屈曲された板状体からなり、回路基板への固定用の固定爪部を備えている基板端子金物であって、
前記板状体から形成される複数の壁面の中の一壁面に当該壁面の外部側から内部側に貫通する透孔が形成されていると共に、
当該壁面の内部側に前記透孔に挿通する中空部を備え、内周壁に雌ネジ部が形成されている有底の筒状体が配備されており、
前記有底の筒状体は、前記透孔が形成されている前記壁面と一体に形成されており、
前記固定爪部が、前記板状体から形成される複数の壁面の中で前記基板端子金物の側壁を構成する前記壁面の下端側に形成されていて、
前記透孔が形成されている前記壁面が、前記側壁の上端側に連接されている前記基板端子金物の頂板を形成する壁面である
基板端子金具。」となる。
ii 引用発明1の「側面1および2、当該両側面1,2の結合面3,接触面4とからなる端子板」は、「前記側面2は、接触面4を残して直角に曲げられ接触面4が切り欠かれた空間7を作って」いるものであるから、本件発明4の「屈曲された板状体」に相当するといえる。また、引用発明1の「端子板」は、「前記側面1には印刷配線板に格子状に穿孔されたスルーホールに挿入し半田付固定されるように格子パターンと同一ピッチに配列された複数の櫛状端子5が一体に設けられており」かつ「前記側面2には前記側面1と対向し複数の櫛状端子6が一体に設けれられて」いるものであり、引用発明1の「櫛状端子5,6」は、その機能からみて本件発明4の「回路基板への固定用の固定爪部」に相当するといえる。さらに、引用発明1の「接続端子」は、「櫛状端子5,6」が設けられた「端子板」と「前記端子板に組合わされねじ締めの雌側の役割をはたす固定板9」とからなるものであるので、本件発明4の「屈曲された板状体からなり、回路基板への固定用の固定爪部を備えている基板端子金物」に相当するといえる。
引用発明1の「接触面4」は、「側面1および2、当該両側面1,2の結合面3,接触面4とからなる端子板」の複数の壁面の中の一壁面であるといえ、その接触面4の一方の面を内側、他方の面を外側ということができ、そうすると接触面4に設けられているバカ穴4’は、接触面4の外側から内側に貫通するものといえる。
したがって、引用発明1の「前記接触面4には、バカ穴4’が設けられて」いることは、本件発明4の「前記板状体から形成される複数の壁面の中の一壁面に当該壁面の外部側から内部側に貫通する透孔が形成される」ことに相当する。
引用発明1の「固定板9」は、「中央に有底のねじ穴12が設けられて」いるから、内周壁に雌ネジが形成されている有底の部材であるといえる。また、引用発明1の「固定板9」は端子板の側面2において、「接触面4を残して直角に曲げられ、接触面4が切り欠かれた空間7」「に挿入し、接触面4から延びる爪片8を折曲げて端子板内に保持され」、「前記端子板に組合わされねじ締めの雌側の役割をはたす」ものであるから、接触面4に設けられたバカ穴4’に挿通する中空部を備え、接触面4の内部側に配備されているものといえる。
したがって、引用発明1の「前記側面2は、接触面4を残して直角に曲げられ接触面4が切り欠かれた空間7を作っており」、「前記端子板に組合わされねじ締めの雌側の役割をはたす固定板9であって、当該固定板9には中央に有底のねじ穴12が設けられており、固定板9を前記空間7に挿入し、接触面4から延びる爪片8を折曲げて端子板内に保持される固定板9と、からなる」ことは、本件発明4の「当該壁面の内部側に前記透孔に挿通する中空部を備え、内周壁に雌ネジ部が形成されている有底の筒状体が配備されている」こととの対比において、「当該壁面の内部側に前記透孔に挿通する中空部を備え、内周壁に雌ネジ部が形成されている有底の部材が配備されている」という限度で共通する。
引用発明1の「櫛状端子5」は、「側面1に」「一体に設けられており」、また、「櫛状端子6」は、「側面2に」「一体に設けられて」いるものであり、しかも、櫛状端子5、6は印刷配線板に固定されているので、その側面1、2に対する位置は、下端側であるとえいる。
したがって、引用発明1の「前記側面1には印刷配線板に格子状に穿孔されたスルーホールに挿入し半田付固定されるように格子パターンと同一ピッチに配列された複数の櫛状端子5が一体に設けられており」、「前記側面2には前記側面1と対向し複数の櫛状端子6が一体に設けれられて」いることは、本件発明4の「前記固定爪部が、前記板状体から形成される複数の壁面の中で前記基板端子金物の壁面を構成する前記壁面の下端側に形成されて」いることに相当する。
引用発明1においては、「前記側面2は、接触面4を残して直角に曲げられ」るものであるので、引用発明1の側面2に直交する「接触面4」は、接続端子の頂板を形成する壁面であるといえる。
したがって、引用発明1の「バカ穴4’が設けられている」「接触面4」は、本件発明4の「前記透孔が形成されている前記壁面が、前記側壁の上端側に連接されている前記基板端子金物の頂板を形成する壁面である」ことに相当する。
以上のとおりであるから、本件発明4と引用発明1との一致点及び相違点は次のとおりとなる。
<一致点>
「屈曲された板状体からなり、回路基板への固定用の固定爪部を備えている基板端子金物であって、
前記板状体から形成される複数の壁面の中の一壁面に当該壁面の外部側から内部側に貫通する透孔が形成されていると共に、
当該壁面の内部側に前記透孔に挿通する中空部を備え、内周壁に雌ネジ部が形成されている有底の部材が配備されており、
前記固定爪部が、前記板状体から形成される複数の壁面の中で前記基板端子金物の壁面を構成する前記壁面の下端側に形成されていて、
前記透孔が形成されている前記壁面が、前記側壁の上端側に連接されている前記基板端子金物の頂板を形成する壁面である
基板端子金物。」
<相違点1>
壁面の内部に配備されている有底の部材に関し、本件発明4は、「筒状体」であり、「前記透孔が形成されている前記壁面と一体に形成されている」のに対し、引用発明1では「前記端子板に組み合わされねじ締めの雌側の役割をはたす固定板9であって」、「固定板9を前記空間7に挿入し、接触面4から延びる爪片8を折曲げて端子板内に保持される固定板9」である点。
(b)判断
相違点1について検討する。
引用発明1の「固定板9」は、「前記空間7に挿入し、接触面4から延びる爪片8を折曲げて端子板内に保持される」ものと規定されるように、空間7を形成する端子板とは別部材とされている。また、引用文献1には、当該固定板9を端子板と一体に形成することに関する記載ないし示唆は一切ない。さらに、引用文献3にも相違点1に係る本件発明4の構成に関する記載ないし示唆はない。
したがって、仮に、引用発明1の固定板9の形状を筒状体とすることが当業者にとって格別困難ではないとしても、当該固定板9を端子板と一体に形成することは、当業者といえども容易に想到し得たことではない。
よって、本件発明4は、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないし、引用発明1及び引用文献3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

b 本件発明5について
本件発明5は本件発明4の発明特定事項を全て含み、さらに技術的限定を付加するものである。
上記a(b)で説示のように、本件発明4が、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないし、引用発明1及び引用文献3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明4についてさらに技術的限定を付加する本件発明5は、引用発明1及び引用文献3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

c 本件発明6について
(a)対比
本件発明6と引用発明1とを対比する。
i まず、本件発明6は、本件発明2の、
「屈曲された板状体からなり、回路基板への固定用の固定爪部を備えている基板端子金物であって、
前記板状体から形成される複数の壁面の中の一壁面に当該壁面の外部側から内部側に貫通する透孔が形成されていると共に、
当該壁面の内部側に前記透孔に挿通する中空部を備え、内周壁に雌ネジ部が形成されている有底の筒状体が配備されており、
前記有底の筒状体は、前記透孔が形成されている前記壁面と一体に形成されている基板端子金物」との発明特定事項を全て含み、さらに、
「前記固定爪部が、前記板状体から形成される複数の壁面の中で前記基板端子金物の側壁を構成する前記壁面の下端側に形成されていて、
前記透孔が形成されている前記壁面が前記側壁である」との限定構成を付加するものもである。
したがって、本件発明6は、
「屈曲された板状体からなり、回路基板への固定用の固定爪部を備えている基板端子金物であって、
前記板状体から形成される複数の壁面の中の一壁面に当該壁面の外部側から内部側に貫通する透孔が形成されていると共に、
当該壁面の内部側に前記透孔に挿通する中空部を備え、内周壁に雌ネジ部が形成されている有底の筒状体が配備されており、
前記有底の筒状体は、前記透孔が形成されている前記壁面と一体に形成されており、
前記固定爪部が、前記板状体から形成される複数の壁面の中で前記基板端子金物の側壁を構成する前記壁面の下端側に形成されていて、
前記透孔が形成されている前記壁面が前記側壁である
基板端子金具。」となる。
ii 上記a(a)iiを踏まえると、本件発明6と引用発明1との一致点及び相違点は次のとおりとなる。
<一致点>
「屈曲された板状体からなり、回路基板への固定用の固定爪部を備えている基板端子金物であって、
前記板状体から形成される複数の壁面の中の一壁面に当該壁面の外部側から内部側に貫通する透孔が形成されていると共に、
当該壁面の内部側に前記透孔に挿通する中空部を備え、内周壁に雌ネジ部が形成されている有底の部材が配備されており、
前記固定爪部が、前記板状体から形成される複数の壁面の中で前記基板端子金物の壁面を構成する前記壁面の下端側に形成されている
基板端子金物。」
<相違点2>
壁面の内部に配備されている有底の部材に関し、本件発明6は、「筒状体」であり、「前記透孔が形成されている前記壁面と一体に形成されている」のに対し、引用発明1では「前記端子板に組み合わされねじ締めの雌側の役割をはたす固定板9であって」、「固定板9を前記空間7に挿入し、接触面4から延びる爪片8を折曲げて端子板内に保持される固定板9」である点。
<相違点3>
透孔が形成されている壁面が、本件発明6では、「前記側壁である」のに対し、引用発明1では、「接触面4」である点。
(b)判断
相違点2について検討する。
相違点2は、上記a(a)の相違点1と実質的に同じである。そうだとすれば、上記a(b)での説示と同様の理由により、引用発明1において相違点2に係る本件発明6の構成となすことは、当業者であっても容易に想到し得たことではない。
したがって、相違点3について検討するまでもなく、本件発明6は、引用発明1及び引用文献3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)引用文献2を主引例とした場合
a 本件発明4について
(a)対比
本件発明4と引用発明2とを対比する。
i まず、上記(ア)a(a)iに説示のとおり、本件発明4は、
「屈曲された板状体からなり、回路基板への固定用の固定爪部を備えている基板端子金物であって、
前記板状体から形成される複数の壁面の中の一壁面に当該壁面の外部側から内部側に貫通する透孔が形成されていると共に、
当該壁面の内部側に前記透孔に挿通する中空部を備え、内周壁に雌ネジ部が形成されている有底の筒状体が配備されており、
前記有底の筒状体は、前記透孔が形成されている前記壁面と一体に形成されており、
前記固定爪部が、前記板状体から形成される複数の壁面の中で前記基板端子金物の側壁を構成する前記壁面の下端側に形成されていて、
前記透孔が形成されている前記壁面が、前記側壁の上端側に連接されている前記基板端子金物の頂板を形成する壁面である
基板端子金具。」となる。
ii 引用発明2の「ネジ端子本体30」は、「上側の天面部32と、ここから延在する一対の脚部33、33を備えて側面視で略コ字状を成して」いるから、屈曲された板状体からなっているといえ、本件発明4の「屈曲された板状体」に相当する。また、引用発明2の「ネジ端子本体30」の「一対の脚部33、33」には、その「先端には、外部の回路基板の差込孔に差し込まれる突起13pが設けて」あるから、引用発明2の「一対の脚部33、33」は、本件発明4の「板状体から形成される複数の壁面」に相当し、さらに、引用発明2の脚部33、33の先端に設けられた「突起13p」は、その機能からみて、本件発明4の「回路基板への固定用の固定爪部」に相当する。
引用発明2の「ネジ端子台1B」は、「金属製のネジ端子本体30に樹脂製ホルダ40を組付けすることによって形成されている」ものであり、金属製のネジ端子本体30は突起13pを有するので、本件発明4の「屈曲された板状体からなり、回路基板への固定用の固定爪部を備えている基板端子金物」に相当する。
引用発明2の「ネジ端子本体30」は、「上側の天面部32と、ここから延在する一対の脚部33、33を備えて側面視で略コ字状を成して」いるものであるから、複数の壁面を持つものといえる。また、引用発明2の「ネジ端子本体30」の「上側の天面部32」は、複数の壁面の一壁面であるといえる。しかも、当該「上側の天面部32」には、「外部の端子とネジ端子本体30とを接続するための雄ねじが嵌装される開口31が設けて」あるから、ネジ端子本体30の外部側から内部側に貫通する透孔が形成されているといえる。
したがって、引用発明2の「前記天面部32には、外部の端子とネジ端子本体30とを接続するための雄ねじが嵌装される開口31が設けて」あることは、本件発明4の「前記板状体から形成される複数の壁面の中の一壁面に当該壁面の外部側から内部側に貫通する透孔が形成されている」ことに相当する。
引用発明2の「樹脂製ホルダ40」は、「ナット41を収納した概ね筒状体」であり、「その下端に閉塞壁45を有している」から、内周壁に雌ネジ部が形成されている有底の筒状体となっているといえる。また、引用発明2の「樹脂製ホルダ40」は、「ネジ端子本体30の脚部33、33間に嵌合されて」いるものであって、当該「脚部33、33」は「前記天面部32の端縁の対向する位置から、一対の脚部33、33がそれぞれ垂下」されているものである。これと、引用発明2の「前記天面部32には、外部の端子とネジ端子本体30とを接続するための雄ねじが嵌装される開口31が設けて」あることを合わせると、引用発明2の「ナット41」の雌ネジ穴は、天面部32の開口31に挿通するといえる。したがって、引用発明2の「ナット41を収納した概ね筒状体である樹脂製ホルダ40が、ネジ端子本体30の脚部33、33間に嵌合されており、樹脂製ホルダ40はその下端に閉塞壁45を有している」ことは、本件発明4の「当該壁面の内部側に前記透孔に挿通する中空部を備え、内周壁に雌ネジ部が形成されている有底の筒状体が配備されている」ことに相当する。
引用発明2の「前記脚部33、33の先端には、外部の回路基板の差込孔に差し込まれる突起13pが設けてある」ことは、「突起13p」が脚部33、33の下端側に形成されているといえるから、本件発明4の「前記固定爪部が、前記板状体から形成される複数の壁面の中で前記基板端子金物の側壁を構成する前記壁面の下端側に形成されてい」ることに相当する。
引用発明2の「ネジ端子本体30は、上側の天面部32と、ここから延在する一対の脚部33、33を備えて側面視で略コ字状を成しており、前記天面部32には、外部の端子とネジ端子本体30とを接続するための雄ねじが嵌装される開口31が設けて」あることは、開口31が設けられている天面部32が、一対の脚部33、33の上端側に連接されているネジ端子台31Bの頂板を形成する壁面であるといえるから、本件発明4の「前記透孔が形成されている前記壁面が、前記側壁の上端側に連接されている前記基板端子金物の頂板を形成する壁面である」ことに相当する。
以上のとおりであるから、本件発明4と引用発明2との一致点及び相違点は次のとおりとなる。
<一致点>
「屈曲された板状体からなり、回路基板への固定用の固定爪部を備えている基板端子金物であって、
前記板状体から形成される複数の壁面の中の一壁面に当該壁面の外部側から内部側に貫通する透孔が形成されていると共に、
当該壁面の内部側に前記透孔に挿通する中空部を備え、内周壁に雌ネジ部が形成されている有底の筒状体が配備されており、
前記固定爪部が、前記板状体から形成される複数の壁面の中で前記基板端子金物の側壁を構成する前記壁面の下端側に形成されていて、
前記透孔が形成されている前記壁面が、前記側壁の上端側に連接されている前記基板端子金物の頂板を形成する壁面である
基板端子金物。」
<相違点α>
「有底の筒状体」に関し、本件発明4は、「前記透孔が形成されている前記壁面と一体に形成されている」ものであるのに対し、引用発明2は、「ナット41を収納した概ね筒状体である樹脂製ホルダ40が、ネジ端子本体30の脚部33、33間に嵌合されて」いるものである点。
(b)判断
相違点αについて検討する。
引用発明2は、「金属製のネジ端子本体30に樹脂製ホルダ40を組付けすることによって形成されるネジ端子台1Bであって」、当該「樹脂製ホルダ40」は、「ネジ端子本体30の脚部33、33に嵌合されている」ものである。
したがって、引用発明2の「樹脂製ホルダ40」は、「ネジ端子本体30」とは別部材とされているといえる。また、引用文献2には、当該樹脂製ホルダ40をネジ端子本体30と一体に形成することに関する記載ないし示唆は一切ない。さらに、引用文献3にも相違点αに係る本件発明4の構成に関する記載ないし示唆はない。
よって、引用発明2において、樹脂製ホルダ40をネジ端子本体30と一体に形成することは、当業者といえども容易に想到し得たことではない。
以上のとおりであるから、本件発明4は、引用発明2、すなわち、引用文献2に記載された発明ではない。
また、本件発明4は、引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないし、引用発明2及び引用文献3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

b 本件発明5について
本件発明5は本件発明4の発明特定事項を全て含み、さらに技術的限定を付加するものである。
上記a(b)で説示のように、本件発明4は、引用発明2ではなく、また、引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないし、引用発明2及び引用文献3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、本件発明4についてさらに技術的限定を付加する本件発明5は、引用発明2及び引用文献3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

c 本件発明6について
(a)対比
本件発明6と引用発明2とを対比する。
本件発明6は、上記(ア)c(a)iで説示のとおり、
「屈曲された板状体からなり、回路基板への固定用の固定爪部を備えている基板端子金物であって、
前記板状体から形成される複数の壁面の中の一壁面に当該壁面の外部側から内部側に貫通する透孔が形成されていると共に、
当該壁面の内部側に前記透孔に挿通する中空部を備え、内周壁に雌ネジ部が形成されている有底の筒状体が配備されており、
前記有底の筒状体は、前記透孔が形成されている前記壁面と一体に形成されており、
前記固定爪部が、前記板状体から形成される複数の壁面の中で前記基板端子金物の側壁を構成する前記壁面の下端側に形成されていて、
前記透孔が形成されている前記壁面が前記側壁である
基板端子金具。」となる。
ii 上記a(a)iiを踏まえると、本件発明6と引用発明2との一致点及び相違点は次のとおりとなる。
<一致点>
「屈曲された板状体からなり、回路基板への固定用の固定爪部を備えている基板端子金物であって、
前記板状体から形成される複数の壁面の中の一壁面に当該壁面の外部側から内部側に貫通する透孔が形成されていると共に、
当該壁面の内部側に前記透孔に挿通する中空部を備え、内周壁に雌ネジ部が形成されている有底の筒状体が配備されており、
前記固定爪部が、前記板状体から形成される複数の壁面の中で前記基板端子金物の壁面を構成する前記壁面の下端側に形成されている
基板端子金物。」
<相違点β>
「有底の筒状体」に関し、本件発明6は、「前記透孔が形成されている前記壁面と一体に形成されている」のに対し、引用発明2は、「ナット41を収納した概ね筒状体である樹脂製ホルダ40が、ネジ端子本体30の脚部33、33間に嵌合されて」いるものである点。
<相違点γ>
透孔が形成されている壁面が、本件発明6では、「前記側壁である」のに対し、引用発明2では、「天面部32」である点。
(b)判断
相違点βは、上記a(a)の相違点αと実質的に同じである。そうだとすれば、上記a(b)での説示と同様の理由により、引用発明2において相違点βに係る本件発明6の構成となすことは、当業者であっても容易に想到し得たことではない。
したがって、本件発明6は、引用発明2及び引用文献3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
異議申立人は、特許異議申立書において、請求項3に係る特許について、特許を受けようとする発明が不明確である旨を主張している。
しかしながら、請求項3に係る特許は、上記のとおり本件訂正請求に係る訂正により削除された。
したがって、異議申立人の上記主張は採用できない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、請求項4?6に係る発明の特許は、取消理由通知に記載した取消理由によっては取り消すことができない。また、他に請求項4?6に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項1及び3に係る発明の特許は、上記のとおり本件訂正請求に係る訂正により削除された。これにより異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項1及び3に係る申立ては申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
屈曲された板状体からなり、回路基板への固定用の固定爪部を備えている基板端子金物であって、
前記板状体から形成される複数の壁面の中の一壁面に当該壁面の外部側から内部側に貫通する透孔が形成されていると共に、
当該壁面の内部側に前記透孔に挿通する中空部を備え、内周壁に雌ネジ部が形成されている有底の筒状体が配備されており、
前記有底の筒状体は、前記透孔が形成されている前記壁面と一体に形成されている
ことを特徴とする基板端子金物。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記固定爪部が、前記板状体から形成される複数の壁面の中で前記基板端子金物の側壁を構成する前記壁面の下端側に形成されていて、前記透孔が形成されている前記壁面が、前記側壁の上端側に連接されている前記基板端子金物の頂板を形成する壁面である ことを特徴とする請求項2記載の基板端子金物。
【請求項5】
前記頂板が斜め下向きに傾斜して配置されており、前記筒状体が、当該頂板の傾きに対応して斜め下方向に向かって傾斜して配置されている ことを特徴とする請求項4記載の基板端子金物。
【請求項6】
前記固定爪部が、前記板状体から形成される複数の壁面の中で前記基板端子金物の側壁を構成する前記壁面の下端側に形成されていて、前記透孔が形成されている前記壁面が前記側壁である ことを特徴とする請求項2記載の基板端子金物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-01-31 
出願番号 特願2013-231082(P2013-231082)
審決分類 P 1 652・ 857- YAA (H01R)
P 1 652・ 851- YAA (H01R)
P 1 652・ 537- YAA (H01R)
P 1 652・ 121- YAA (H01R)
P 1 652・ 113- YAA (H01R)
最終処分 維持  
前審関与審査官 竹下 晋司  
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 尾崎 和寛
小関 峰夫
登録日 2017-09-01 
登録番号 特許第6199161号(P6199161)
権利者 フジコン株式会社
発明の名称 基板端子金物  
代理人 藤川 敬知  
代理人 涌井 謙一  
代理人 涌井 謙一  
代理人 三井 直人  
代理人 鈴木 一永  
代理人 山本 典弘  
代理人 三井 直人  
代理人 鈴木 一永  
代理人 工藤 貴宏  
代理人 山本 典弘  
代理人 工藤 貴宏  

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