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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
管理番号 1350677
異議申立番号 異議2018-700785  
総通号数 233 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-05-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-09-28 
確定日 2019-04-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第6301562号発明「リナロールを含有する無色透明飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6301562号の請求項1?5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6301562号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成29年2月27日(優先権主張 平成28年7月22日)を国際出願日とする出願であって、平成30年3月9日にその特許権の設定登録がされ、平成30年3月28日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、平成30年9月28日に特許異議申立人勝野賢一(以下「申立人」という。)より特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6301562号の請求項1?5の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項1?5に係る発明を本件発明1?5という。)。
「【請求項1】
100?5000ppbのリナロールと、
ベンズアルデヒド、サリチル酸メチル、及びβ-ダマセノンからなる群から選択される少なくとも一種と、
酸味料とを含有する飲料であって、以下の条件(i)から(v)を満たす前記飲料:
(i)波長660nmにおける吸光度が0.06以下であり、
(ii)純水を基準とした場合のΔE値(色差)が3.5以下であり、
(iii)Brixが1?10であり、
(iv)酸度が0.020?0.300g/100gであり、そして
(v)サリチル酸メチルの含有量(a)が5?500ppbであり、サリチル酸メチル含有量(a)の、リナロール含有量(b)に対する重量比(a/b)が0.01?1.0である;
ベンズアルデヒド含有量(c)が5?300ppbであり、ベンズアルデヒド含有量(c)の、リナロール含有量(b)に対する重量比(c/b)が0.001?0.8である;又は
β-ダマセノンの含有量(d)が1?100ppbであり、β-ダマセノンの含有量(d)の、リナロール含有量(b)に対する重量比(d/b)が0.0002?0.2である。
【請求項2】
さらに、1-ヘキサノール及び/又はcis-3-ヘキセノールを1ppb以上含有する、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
茶風味を有する請求項1又は2に記載の飲料。
【請求項4】
タンニンの含有量が150ppm以下である、請求項1?3のいずれか1項に記載の飲料。
【請求項5】
100?5000ppbのリナロールと、酸味料とを含有し、以下の条件(i)から(iv):
(i)波長660nmにおける吸光度が0.06以下であり、
(ii)純水を基準とした場合のΔE値(色差)が3.5以下であり、
(iii)Brixが1?10であり、そして
(iv)酸度が0.020?0.300g/100gである
を満たす飲料を製造する方法であって、
当該飲料がベンズアルデヒド、サリチル酸メチル、及びβ-ダマセノンからなる群から選択される少なくとも一種を含有するように原料を配合する工程、並びに以下のいずれか一以上の工程を含む、前記方法:
当該飲料中のサリチル酸メチルの含有量(a)を5?500ppbに、当該飲料中のサリチル酸メチル含有量(a)の、リナロール含有量(b)に対する重量比(a/b)を0.01?1.0に調整する工程;
当該飲料中のベンズアルデヒド含有量(c)を5?300ppbに、当該飲料中のベンズアルデヒド含有量(c)の、リナロール含有量(b)に対する重量比(c/b)を0.001?0.8に調整する工程;又は
当該飲料中のβ-ダマセノンの含有量(d)を1?100ppbに、当該飲料中のβ-ダマセノンの含有量(d)の、リナロール含有量(b)に対する重量比(d/b)を0.0002?0.2に調整する工程。」

第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第9号証を提出し、以下の異議理由を主張している。
1.異議理由1
本件特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号及び同法第36条第4項1号の規定に違反してされたものであり、同法第113条第4号に該当する。

(1)酸味料について
本件発明の課題は、本件特許明細書の記載(段落【0007】)を参酌すると、酸味料とリナロールを含有する無色透明飲料において、後口のキレを向上させることであると認められる。
そして、本件発明1には、酸度が特定されるのみであり、酸味料の具体的な種類は特定されていない。
しかしながら、本件特許明細書の実施例に具体的に記載されるのは、酸味料としてクエン酸を用いて改善したことのみであって、酸味料としてクエン酸以外を用いた飲料について具体例は示されていない。
本件出願時において、酸味料は、物質によってその酸味の質や呈味の時間が異なることは技術常識であったところ、添加する酸味料によって飲料の風味や後口のキレが異なるものとなり得ることは周知の事実であるから、発明の詳細な説明には、本件発明1?5が実施可能な程度に開示されているとはいえない。
このような技術常識に照らせば、100?50. 00ppbのリナロールと、クエン酸以外の酸味料をクエン酸量に換算した酸度が0. 020?0. 300g/100gの量で含む飲料の全てに亘って、酸味料としてクエン酸を用いた場合と同等に後口のキレが低下するという問題が顕在化するとは推認できないし、また、後口のキレが低下した場合に本件発明1に特定される所定量のサリチル酸メチル、ベンズアルデヒド、及びβ-ダマセノンを用いることによってその問題が、クエン酸を用いた飲料と同様に改善できると推認することはできない。
したがって、本件発明1?5で規定される飲料の全範囲にまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

(2)飲料の種類について
本件特許明細書には、本件発明の飲料の種類について以下の記載があり、広範な種類の飲料が記載されており、その中には炭酸飲料が含まれる。
しかしながら、本件特許明細書の実施例に具体的に記載されるのは、所定の原料を水と混合して調製された飲料のみである(段落【0053】、【0058】、【0062】、【0066】、【0070】、【0074】、【0082】、【0086】)。炭酸飲料についての具体例は示されていない。そして、本件出願時において、炭酸飲料の後口が悪いことは技術常識であった。
このような技術常識に照らせば、そもそも後口が悪いとされる炭酸飲料においても、100?5000ppbのリナロールと、酸味料を酸度が0. 020?0. 300g/100gの量で含む場合に、酸味料とリナロールとの併用に基づく後口のキレが低下するという問題が顕在化すると推認することはできないし、また、後口のキレが低下した場合に本件発明1に特定される所定量のサリチル酸メチル、ベンズアルデヒド、及びβ-ダマセノンを用いることによってその問題が、非炭酸飲料と同様に改善できると推認することはできない。
したがって、本件発明1?4で規定される飲料の全範囲にまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
さらに、同様の理由にて、発明の詳細な説明には、本件発明1?4が実施可能な程度に開示されているとはいえない。

(3)タンニンについて
本件発明4には「タンニンの含有量が150ppm以下である」ことが特定されている。
一方、本件特許明細書の実施例に具体的に記載されるのは、タンニンの含有量が0ppm(検出限界以下)である飲料のみであり(段落【0053】、【0058】、【0062】、【0066】、【0070】、【0074】、【0078】、【0082】、【0086】)、タンニンを含有する飲料についての具体例は示されていない。
そして、本件出願時において、タンニンには特有の渋味があることは技術常識であり、本件特許明細書にも「タンニンには特有の渋味があり、タンニンが多量に含まれると本発明の効果が阻害されるおそれがある。」ことが記載されている(段落【0041】)。タンニンの量によっては飲料の風味が大きく影響を受けうることを考慮すると、タンニンを150ppm以下の量で含む全ての飲料において、本件発明の効果が阻害されないと推認することはできない。
したがって、本件発明4で規定される飲料の全範囲にまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
さらに、同様の理由にて、発明の詳細な説明には、本件発明1?4が実施可能な程度に開示されているとはいえない。

(4)飲料の温度について
本件特許明細書には、発明の効果について以下の記載がある「本発明の飲料は、酸味料とリナロールとの併用によって生じる後口のキレの低下を向上させることができる。…これらの効果は、糖質や果汁を多く用いることなく達成することができる。さらに、これらの効果は、飲料の温度が常温又は室温程度まで上昇しても得られる。」(段落【0010】)。
また、本件特許明細書には、常温又は室温について、「室温及び常温とは、1?35 ℃、好ましくは15?30 ℃などの温度であってよく、例えば23 ℃であってよいが、これらに限定されない。」(段落【0012】)とされ、広範な温度範囲が記載される。
しかしながら、本件特許明細書の実施例に具体的に記載されるのは、50、100、500、1000、2500、5000ppbのリナロールと0.120g/100gの酸度のクエン酸を併用した飲料(10℃及び20℃)にて、後口のキレが低下するという問題が認められること(段落【0056】【表1】、【0057】)また、100、300、500、5000ppbのリナロールと0.120g/100gの酸度のクエン酸を含む飲料における後口のキレの低下を、所定量のサリチル酸メチル、ベンズアルデヒド、β-ダマセノン、1ヘキサノール、及びcis-3-ヘキセノールを用いて改善できることが20°Cにおいて確認されたことのみである(【0060】【表2】、【0064】【表3】、【0068】【表4】、【0072】【表5】、【0076】【表6】、【0080】【表7】、【0084】【表8】、【0088】【表9】)。20°C以外の温度においても同様に、改善効果が得られるのか具体例は示されていない。
味覚が温度の影響を受けることは技術常識であり、実際に、本件特許明細書の実施例には、リナロールとクエン酸との併用による後口のキレの低下が、20℃の場合と比べて、10℃ではわずかであることが示されている(段落【0056】【表1】)。さらに低い温度であれば、後口のキレの低下の程度はさらに小さくなることが推認される。
このような技術常識に照らせば、100?5000ppbのリナロールと、酸味料をクエン酸量に換算した酸度が0.020?0.300g/100gの量で含む、室温及び常温(1?35℃)の飲料の全体に亘って(例えば、1℃の飲料において)、後口のキレが低下するという問題が顕在化すると推認することはできないし、また、後口のキレが低下した場合に本件発明1に特定される所定量のサリチル酸メチル、ベンズアルデヒド、及びβ-ダマセノンを用いることによってその問題が、20℃である場合と同様に改善できると推認することはできない。
したがって、本件発明1?4で規定される飲料の全範囲にまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
さらに、同様の理由にて、発明の詳細な説明には、本件発明1?4が実施可能な程度に開示されているとはいえない。

(5)1ヘキサノール及び/又はcis-3-ヘキセノールについて
本件発明2には「さらに、1ヘキサノール及び/又はcis-3-ヘキセノールを1ppb以上含有する」ことが特定されている。
本件特許明細書の実施例に具体的に記載されるのは、500ppbのリナロール、0. 120g/100gの酸度のクエン酸、100ppbのベンズアルデヒド及び10ppbのβ-ダマセノンを含む飲料に対し、5ppb又は200ppbの1-ヘキサノールを含めた場合に、1ヘキサノールは、さらに後口のキレを改善したこと(段落【0084】【表8】、【0085】)、また、10ppb又は1000ppbのcis-3-ヘキセノールを含めた場合に、cis-3-ヘキセノールは、さらに後口のキレを改善したことのみである(段落【0088】【表9】、【0089】)。
そして、本件出願時において、1-ヘキサノール又はcis-3-ヘキセノールを用いて、酸味料とリナロールを含有する飲料において低下した後口のキレを改善できることが技術常識であったとは認められない。
すると、本件発明1にて特定される飲料に対し、1-ヘキサノール及び/又はcis-3-ヘキセノールを1ppbの量で用いた場合においても、さらに後口のキレが改善されるとは推認できないし、また、上記実施例に開示のない、サリチル酸メチルと1ppbの1-ヘキサノール及び/又はcis-3-ヘキセノールとの組み合わせや、ベンズアルデヒド又はβ-ダマセノンのいずれかと1ppbの1-ヘキサノール及び/又はcis-3-ヘキセノールとの組み合わせを含む飲料において、さらに後口のキレが改善されるとは推認できない。
したがって、本件発明2?4で規定される飲料の全範囲にまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
さらに、同様の理由にて、発明の詳細な説明には、本件発明2?4が実施可能な程度に開示されているとはいえない。

2.異議理由2
本件特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号の規定に違反して特許されたものであり、特許法第113条第4号に該当する。

(1)サリチル酸メチル含有量及びリナロール含有量について
本件発明1が特定する、リナロールの含有量(b)とサリチル酸メチル含有量(a)のそれぞれの上限値、下限値とサリチル酸メチル含有量(a)の、リナロール含有量(b)に対する重量比(a/b)の範囲が整合していない。

(2)ベンズアルデヒド含有量及びリナロール含有量について
本件発明1が特定する、リナロールの含有量(b)とベンズアルデヒド含有量(c)のそれぞれの上限値、下限値とベンズアルデヒド含有量(c)の、リナロール含有量(b)に対する重量比(c/b)の範囲が整合していない。

(3)β-ダマセノンの含有量及びリナロール含有量について
本件発明1が特定する、リナロールの含有量(b)とβ-ダマセノンの含有量(d)のそれぞれの上限値、下限値とβ-ダマセノンの含有量(d)の、リナロール含有量(b)に対する重量比(d/b)の範囲が整合していない。

3.異議理由3
本件特許の請求項1?5に記載された発明は、甲1に記載された発明であるから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当する。

4.異議理由4
本件特許の請求項1?5に記載された発明は、甲1?甲5に記載された発明に基いて本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当する。

5.異議理由5
本件特許の請求項1、2、5に記載された発明は、甲6に記載された発明であるから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当する。

6.異議理由6
本件特許の請求項1、2、5に記載された発明は、甲6、2、7に記載された発明に基いて本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当する。

7.申立人が提出した証拠
甲第1号証:特開2014-117224号公報(以下「甲1」という。以下同様。)
甲第2号証 荒井綜一、外3名、最新香料の事典、株式会社朝倉書店、2000年5月10日、p.250-269、362-373
甲第3号証:香料の科学、株式会社講談社、2013年4月10日、p.76-79
甲第4号証::Vilma Kraujalyte et al.、Food Chemistry 194、2015年8月18日、p. 864-872
甲第5号証:吉儀英記、香料入門、フレグランスジャーナル社、平成14年2月28日、p.144-153、482-483
甲第6号証:特開2016-127818号公報
甲第7号証:Burdock、George A.、Fenaroli's Handbook of Flavor Ingredients 6th Edition、CRC Press、2009年11月20日、p.1092-1093、134-135、1384-1385、1936-1939
甲第8号証:岩間保憲、”食品添加物としての酸味料-それらの特徴とそれを活かした用途について-”、月刊フードケミカル、2015年6月号、株式会社食品化学新聞社、2015年6月1日、p.70-80
甲第9号証:特開2013ー5786号公報

第4 当審の判断
1.異議理由1について
(1)課題及び課題解決手段について
本件特許明細書には、本件発明の課題について、下記の記載がある。
「【0006】
本発明の発明者は、比較的酸味が弱く、そして無色透明である飲料において、少量のリナロールを用いると、飲料の味の厚みや広がりを高めることができることを見出した。しかしながら、リナロールを用いると、飲料の後口のキレが低下し、収斂味が生じることも見出した。即ち、飲料の後口のキレは、特にリナロールと酸味料とを組み合わせたときに低下することが見出された。しかも、飲料の温度が常温又は室温程度まで上昇すると、後口のキレの低下や収斂味の発生の傾向が強くなることが明らかとなった。
【0007】
上記の通り、酸味料とリナロールとが合わさることによって飲料の後口のキレが低下するという問題があり、これを改善することが求められる。本発明の課題は、酸味料とリナロールを含有する無色透明飲料において、後口のキレを向上させることである。本発明の別の課題は、酸味料とリナロールを含有する無色透明飲料において、収斂味を軽減することである。」
上記記載によれば、本件発明は、無色透明である飲料において、少量のリナロールを用いると、飲料の味の厚みや広がりを高めることができるが、飲料の後口のキレが低下し、収斂味が生じること、特にリナロールと酸味料とを組み合わせたときに、飲料の後口のキレが低下するという問題があることを踏まえ、酸味料とリナロールを含有する無色透明飲料において、後口のキレを向上させること、及び、酸味料とリナロールを含有する無色透明飲料において、収斂味を軽減することを課題とするものである。
そして、上記課題を解決する手段について、
「【0008】
本発明の発明者は、種々検討した結果、酸味料とリナロールを含有する無色透明飲料に、ベンズアルデヒド、サリチル酸メチル、及びβ-ダマセノンからなる群から選択される少なくとも一種を添加することが有用であることを見出し、本発明を完成させた。」
と記載されている。
その上で、実施例において、クエン酸を特定範囲の量のリナロールと組み合わせたときに、飲料の後口のキレが低下するという問題が顕在化することが示され(試験例1)、ベンズアルデヒド、サリチル酸メチル、及びβ-ダマセノンを、それぞれ所定量添加することで、後口のキレを改善できたことが示されている(試験例2、3、4)。
以上によれば、酸味料とリナロールを含有する無色透明飲料であって、ベンズアルデヒド、サリチル酸メチル、及びβ-ダマセノンからなる群から選択される少なくとも一種を含有する本件発明は、上記課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものといえる。
また、同様の理由で発明の詳細な説明には、本件発明が実施可能な程度に開示されていないとはいえない。

(2)酸味料について
本件特許明細書には、酸味料に関して下記の記載がある。
「【0037】
(酸味料)
本発明の飲料は、酸味料を含有する。酸味料は限定されないが、典型的な酸味料の例は、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、リン酸、酒石酸、グルコン酸、及びそれらの塩である。特に、クエン酸、リンゴ酸、及びそれらの塩が好ましい。・・・」
と記載されている。
上記(1)によれば、本件発明は、酸味料の種類を選択することによって課題を解決しようとするものではなく、上記【0037】に記載された、飲料に一般的に用いられる酸味料をリナロールと組み合わせたときに、飲料の後口のキレが低下するという問題を、ベンズアルデヒド、サリチル酸メチル、及びβ-ダマセノンからなる群から選択される少なくとも一種を添加することで解決しようとするものであることが理解できる。
そうすると、本件特許明細書に示された実施例において、クエン酸は、酸味料の代表例として選択されたものと解されるのであって、他の酸味料の実施例が記載されていないからといって、他の酸味料について課題を解決できないと解されるものではない。酸味料の種類によって酸味の特徴が異なるとしても、当該酸味料を所定量含有する飲料であることを前提として、これに
ベンズアルデヒド、サリチル酸メチル、及びβ-ダマセノンを所定量添加することで、本件発明の課題を解決できると当業者は認識できる。
よって、上記第3 1.(1)における酸味料についての申立人の主張は理由がない。

(3)飲料の種類について
本件特許明細書には、飲料の種類について下記の記載がある。
「【0045】
本発明の飲料における、飲料の種類は特に限定されず、清涼飲料であればよい。・・・
【0046】
また、本発明の飲料は炭酸飲料であってもよく、或いは非炭酸飲料であってもよい。好ましくは、本発明の飲料は非炭酸飲料である。なお、本発明の飲料を炭酸飲料(即ち、発泡性)とする場合、その方法は特に制限されず、発酵により炭酸ガスを飲料中に発生させてもよく、或いは人為的に炭酸ガスを飲料に注入してもよい。」
また、本件特許明細書には、本件発明の実施例として、【0060】【表2】、【0064】【表3】、【0068】【表4】、【0072】【表5】、【0076】【表6】、【0080】【表7】、【0084】【表8】、【0088】【表9】が記載されており、酸味料とリナロールを含有する無色透明飲料に、ベンズアルデヒド、サリチル酸メチル、及びβ-ダマセノンを所定量からなる群から選択される少なくとも一種を飲料に添加すると後口のキレが改善されたことが確認されているところ、炭酸を含む飲料において、当該効果が否定される理由はない。仮に、炭酸を含む飲料の後口が悪いとしても、これに所定量のベンズアルデヒド、サリチル酸メチル、及びβ-ダマセノンからなる群から選択される少なくとも一種を添加すると、その後口のキレは改善されるといえ、本件発明の課題を解決できるといえるから、上記第3 1.(2)における、飲料の種類についての申立人の主張には理由がない。

(4)タンニンについて
本件特許明細書には、タンニンについて下記の記載がある。
「【0041】
(タンニン)
本発明の飲料は、特に限定されないが、飲料中のタンニンの含有量が150ppm以下である。タンニンが多量に含まれると飲料の着色が生じることから、無色透明である本発明の飲料では、飲料中のタンニンの含有量は少量であることが好ましい。また、タンニンには特有の渋味があり、タンニンが多量に含まれると本発明の効果が阻害されるおそれがある。本発明の飲料におけるタンニンの含有量は、好ましくは100ppm以下、70ppm以下、50ppm以下、又は40ppm以下である。なお、本発明の飲料におけるタンニンの含有量は0ppm以上である。」
そうすると、本件発明4のタンニン含有量は、これを調節することにより課題の解決を図ったものではなく、タンニンにより着色が生じ、効果が阻害され得ることを考慮して許容し得る上限値を定めたものと認められる。
そして、上記上限値を超えた場合に、課題が解決できないとする根拠もない。
よって、上記第3 1.(3)におけるタンニンについての申立人の主張は理由がない。

(5)飲料の温度について
上記(1)で述べたとおり、本件発明は酸味料とリナロールを含有する無色透明飲料において後口のキレを向上させることを課題とし、当該課題を解決するための手段として、ベンズアルデヒド、サリチル酸メチル、及びβ-ダマセノンからなる群から選択される少なくとも一種を添加したものであり、特定温度における後口のキレを向上させることを課題とするものではなく、温度を調節することにより課題解決を図ったものでもない。
よって、特許請求の範囲において飲料の温度が特定されなければならないというものではなく、上記第3 1.(4)における飲料の温度についての申立人の主張は理由がない。

(6)1ヘキサノール及び/又はcis-3-ヘキセノールについて
本件特許明細書には、下記の記載がある。
「【0026】
(1-ヘキサノール、cis-3-ヘキセノール)
本発明の飲料は、さらに、1-ヘキサノール及び/又はcis-3-ヘキセノールを1ppb以上含有することが好ましい。当該含有量は、1-ヘキサノールとcis-3-ヘキセノールの総含有量を意味する。確認のために記載するが、本発明の飲料は、1-ヘキサノールとcis-3-ヘキセノールのいずれか一方だけを含有してもよいし、両方含有してもよい。
【0027】
本発明の飲料中の1-ヘキサノールの含有量は、好ましくは5?200ppb、より好ましくは5?150ppbである。本発明の飲料中のcis-3-ヘキセノールの含有量は、好ましくは10?1000ppb、より好ましくは20?900ppbである。
【0028】
なお、本発明に用いられる1-ヘキサノール、cis-3-ヘキセノールの由来は限定されず、それらは植物などの天然原料に由来するものでもよいし、合成品であってもよい。」
また、本件発明の実施例として、500ppbのリナロール、0. 12g/100gの酸度のクエン酸、100ppbのベンズアルデヒド及び10ppbのβ-ダマセノンを含む飲料に対し、5ppb又は200ppbの1-ヘキサノールを含めた場合に、1ヘキサノールは、さらに後口のキレを改善したこと(【0084】【表8】、【0085】)、また、10ppb又は1000ppbのcis-3-ヘキセノールを含めた場合に、cis-3-ヘキセノールは、さらに後口のキレを改善したことが記載されている(【0088】【表9】、【0089】)から、適当な量の1ヘキサノール及び/又はcis-3-ヘキセノールを含有すれば、含有しないものに比べて後口のキレをさらに改善することが理解できる。
そして、上記(1)で述べたとおり、本件発明1が課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものといえるのであり、本件発明2の1-ヘキサノール、cis-3-ヘキセノールは、後口のキレをさらに改善し得るものとして付加的に特定されたものであるから、これらが特定されたことで課題が解決できなくなるものではない。
よって、上記第3 1.(5)における1-ヘキサノール、cis-3-ヘキセノールについての申立人の主張は理由がない。

2.異議理由2について
(1)サリチル酸メチル含有量及びそのリナロール含有量に対する重量比について
本件発明1において、リナロールの含有量(b)とサリチル酸メチル含有量(a)のそれぞれの上限値、下限値とサリチル酸メチル含有量(a)の、リナロール含有量(b)に対する重量比(a/b)の両方を満たす範囲を特定しているのであるから、リナロールの含有量(b)とサリチル酸メチル含有量(a)のそれぞれの上限値、下限値とサリチル酸メチル含有量(a)と、リナロール含有量(b)に対する重量比(a/b)との関係が整合していないとはいえず、本件発明1は不明確であるとはいえない。

(2)ベンズアルデヒド含有量及びそのリナロール含有量に対する重量比について
本件発明1において、リナロールの含有量(b)とベンズアルデヒド含有量(c)のそれぞれの上限値、下限値とベンズアルデヒド含有量(c)の、リナロール含有量(b)に対する重量比(c/b)の両方を満たす範囲を特定しているのであるから、リナロールの含有量(b)とベンズアルデヒド含有量(c)のそれぞれの上限値、下限値とベンズアルデヒド含有量(c)と、リナロール含有量(b)に対する重量比(c/b)との関係が整合していないとはいえず、本件発明1は不明確であるとはいえない。

(3)β-ダマセノンの含有量及びそのリナロール含有量に対する重量比について
本件発明1において、リナロールの含有量(b)とβ-ダマセノンの含有量(d)のそれぞれの上限値、下限値とβ-ダマセノンの含有量(d)の、リナロール含有量(b)に対する重量比(d/b)の両方を満たす範囲を特定しているのであるから、リナロールの含有量(b)とβ-ダマセノンの含有量(d)のそれぞれの上限値、下限値とβ-ダマセノンの含有量(d)と、リナロール含有量(b)に対する重量比(d/b)との関係が整合していないとはいえず、本件発明1は不明確であるとはいえない。

3.異議理由3及び4について
ア.甲号証に記載された事項及び引用発明
(ア)甲1について
甲1には、以下の記載がある。
「【0001】
本発明は、紅茶風味飲料に関する。」
「【0005】
上記の通り、従来の紅茶飲料は、止渇飲料としては不向きであった。しかし、紅茶の風味を有する止渇飲料に対する消費者のニーズは根強く存在する。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、おいしさに優れる紅茶風味飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、所定量のタンニン及び所定量のカフェインを配合することによって上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は下記のものを提供する。」
「【0012】
<紅茶風味飲料>
本発明の紅茶風味飲料は、所定量のタンニン及び所定量のカフェインを含む。なお、「紅茶風味飲料」とは、紅茶の風味を有する飲料を指し、紅茶由来の成分(紅茶葉抽出物等)を含む飲料、紅茶由来の成分の一部(紅茶フレーバー、紅茶アロマエキス等)を含む飲料、及び、紅茶由来の成分を含まない飲料のいずれをも指す。「紅茶の風味」とは、紅茶葉の抽出物が発する芳香や味わいを指し、「紅茶の風味」の有無はパネリストによる官能評価によって特定できる。本発明の紅茶風味飲料は、下記のタンニン及びカフェインを含むため、紅茶葉の使用の有無に関わらず、紅茶の風味を有する。
【0013】
(タンニン)
本発明の紅茶風味飲料は飲料に対して0.1mg/100ml以上10mg/100ml以下のタンニンを含む。上記範囲のタンニンが含まれていると、後述するカフェインと共に、紅茶風味飲料においしさを与えることができる。紅茶風味飲料中のタンニンの量が飲料に対して0.1mg/100ml未満であると、紅茶風味飲料の紅茶の風味が薄れ、おいしさに劣る可能性がある。また、紅茶風味飲料中のタンニンの量が飲料に対して10mg/100ml超であると、紅茶風味飲料の紅茶の渋味が強まり、止渇飲料として適さない可能性がある。タンニンの含量は、飲料に対して0.2mg/100ml以上、0.3mg/100ml以上、0.4mg/100ml以上、0.5mg/100ml以上、5mg/100ml以下、6mg/100ml以下、7mg/100ml以下、8mg/100ml以下、9mg/100ml以下であってもよい。」
「【0025】
<実施例1?4、比較例1:タンニン量及びカフェイン量が紅茶風味飲料のおいしさ等に及ぼす影響-1>
対照飲料(果糖4.0質量%、クエン酸0.04質量%、クエン酸ナトリウム0.02質量%を含む糖酸液にレモンフレーバー及び紅茶フレーバーを微量添加したもの)に、表1に示す割合でタンニン(カテキン由来)及びカフェインを加え、実施例及び比較例の紅茶風味飲料を調製した。」
上記記載事項より甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「果糖4.0質量%、クエン酸0.04質量%、クエン酸ナトリウム0.02質量%を含む糖酸液にレモンフレーバー及び紅茶フレーバーを微量添加した紅茶風味飲料。」

(イ)甲2について
甲2の「b.ブドウ」(259ページ)によれば、甲2には、
「欧州種のマスカット・オブ・アレキサンドリアの香気成分として含有量の多い成分は、ヘキサノール、cis-3-ヘキセノール、リナロールがあり、またMuscadine種ではβ-ダマセノンが検出されていること。」が記載されていると認められる。
甲2の「d.モモ」(260ページ)によれば、甲2には、
「モモの香気成分として、ヘキサノール、trans-2-ヘキセノール、cis-3-ヘキセノール、リナロール、ベンズアルデヒドがあること。」が記載されていると認められる。
甲2の「h.アプリコット」(262ページ)によれば、甲2には、
「アプリコットの香気組成中のキー成分として、ベンズアルデヒド、リナロールがあること。」が記載されていると認められる。
甲2の「i.プラム」(262ページ)によれば、甲2には、
「プラムには、香気成分として、ベンズアルデヒド、リナロールなどがあること。」が記載されていると認められる。
甲2の「図6.22 代表的な製茶の主要香気成分組成比較」(364ページ)によれば、甲2には、
「紅茶(ウバ)には、(Z)-3-ヘキセノール、リナロール、サリチル酸メチルが含まれること。」が記載されていると認められる。
甲2の「3)紅茶」(366ページ)によれば、甲2には、
「紅茶においては香気成分として、(Z)-3-ヘキセノール、リナロール、サリチル酸メチルがあること。」が記載されていると認められる。

(ウ)甲3について
甲3の、「表3.14 茶類の主なにおい成分」(78ページ)によれば、甲3には、
「茶類の主なにおい成分として、(Z)-3-ヘキセノール、リナロール、サリチル酸メチル、β-ダマセノンがあること。」が記載されていると認められる。

(エ)甲4について
甲4の「Table 1 Volatile compounds in black and various instant teas(ng/g).^(e)」(867、868ページ)によれば、甲4には、「紅茶にはベンズアルデヒドが1003±194、サリチル酸メチルが80±24、リナロールが293±11(ng/g)にてそれぞれ含まれること。」が記載されていると認められる。

(オ)甲5について
甲5の「表3-41 紅茶・産地別比較分析結果(重要香気成分)^(53))」(148ページ)及び「表3-42 各種茶の香気成分表^(42))」(149ページ)によれば、甲5には、
「紅茶がリナロール、べンズアルデヒド、β-ダマセノン及びサリチル酸メチルを含むこと。」が記載されていると認められる。

(カ)甲6について
甲6には、以下の記載がある。
「【請求項1】
果実フレーバーを含み、
以下の香気成分の1種または2種以上を含み:
5ppb以上のバニリン、
500ppb以上のマルトール、
100ppb以上のエチルマルトール、
3ppb以上のオクタン酸エチル、または
50ppb以上の2-ウンデカノン、
波長660nmの吸光度が0.06以下である、容器詰め透明飲料。
【請求項2】
純水を基準とした場合のΔE値(色差)が3.5以下である、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
糖用屈折計示度(Brix)が、3.0?10.0である、請求項1または2に記載の飲料。」
「【0009】
本発明は、以下を包含するが、これらに限定されない。
(1)果実フレーバーを含み、以下の香気成分の1種または2種以上を含み:
5ppb以上のバニリン、
500ppb以上のマルトール、
100ppb以上のエチルマルトール、
3ppb以上のオクタン酸エチル、または
50ppb以上の2-ウンデカノン、
波長660nmの吸光度が0.06以下である、飲料。
(2)純水を基準とした場合のΔE値(色差)が3.5以下である、(1)に記載の飲料。
(3)糖用屈折計示度(Brix)が、3.0?10.0である、(1)または(2)に記載の飲料。 」
「【0011】
(果実フレーバー)
フレーバーとは、飲食品に添加することを目的とした香料である。フレーバーを添加することにより、飲食品の製造又は貯蔵中に失われる香気や香味を補ったり、また、飲食品に新たな風味を付与することができる。フレーバーのうち、本発明の飲料に添加する果実フレーバーとは、飲食した時に果実を連想させる香気を呈するフレーバーをいう。例えば、果汁の濃縮物や果皮オイル、果実等を有機溶剤に浸漬して得た抽出物のような果実や果汁、果皮等の加工品といった天然由来のものや、果実様香気成分を化学合成により得たものが含まれる。飲料中の果実フレーバーの量は、少なくとも飲料を飲んだ際に果実様の香味として感じられる量であり、具体的には、フレーバー自体の力価によって決まるものである。また、飲料の透明さを損なわない量であることも必要である。例えば、果実のエタノール抽出液の形態である果実フレーバーを用いる場合には、その力価や飲料の透明度に応じて、1?10000ppm程度の量で用いられる。」
「【0012】
果実フレーバーにおける「果実」としては、例えば、オレンジ、ミカン、マンダリン、レモン、ライム等の柑橘類のほか、モモ、ブドウ、イチゴ、リンゴ、パイナップル、マンゴー、メロンなどが挙げられる。なお、バニラの果実は除くものとする。果実フレーバーのなかでも、柑橘類のフレーバーは、その爽やかな香味が、透明飲料の爽やかなイメージと合致し、また、後述するバニリンなどの乳性飲料に含まれる香気成分との相性もよく、好ましい。」
「【0023】
(その他)
本発明の飲料には、果実フレーバーと乳性飲料にみられる各種香気成分に加えて、通常の飲料に用いられる甘味料、酸味料、酸化防止剤、塩類などのミネラル、香料、苦味料、栄養強化剤(ビタミン類など)、pH調整剤などを、飲料の透明性を損なわない範囲で、添加してもよい。
【0024】
甘味料としては、例えば、果糖、砂糖、果糖ぶどう糖液糖、ぶどう糖、麦芽糖、ショ糖、高果糖液糖、糖アルコール、オリゴ糖、はちみつ、サトウキビ搾汁液(黒糖蜜)、水飴、ステビア末、ステビア抽出物、羅漢果末、羅漢果抽出物、甘草末、甘草抽出物、ソーマトコッカスダニエリ種子末、ソーマトコッカスダニエリ種子抽出物などの天然甘味料や、アセスルファムカリウム、スクラロース、ネオテーム、アスパルテーム、サッカリンなどの人工甘味料などが挙げられる。中でもすっきりさ、飲みやすさ、自然な味わい、適度なコク味の付与の観点から、天然甘味料を用いることが好ましく、特に、果糖、ぶどう糖、麦芽糖、ショ糖、砂糖が好適に用いられる。これら甘味成分は一種類のみ用いてもよく、また複数種類を用いてもよい。
【0025】
酸味料としては、例えば、これらに限定されないが、クエン酸、乳酸、グルコン酸、リン酸、酒石酸、酢酸、コハク酸、アジピン酸、フマル酸、リンゴ酸、またはレモン、オレンジ、グレープフルーツなどの果汁などが挙げられる。本発明者らは、酸味料として最も一般的に使用されるクエン酸に加えて、乳酸及び/またはグルコン酸を使用した際に、本発明の劣化臭抑制効果が特に強く得られることを見出した。この場合の各酸味料の飲料中の濃度は、好ましくは、クエン酸が0.03?0.2質量%、乳酸が0.01?0.1質量%、グルコン酸が0.05?0.2質量%である。酸味料は飲料に酸味を付与する目的で使用されるものであり、劣化臭の抑制には影響がないと思われたので、この特定の酸味料の組み合わせにより高い劣化臭の抑制効果が得られたことは意外であった。
ミネラルとしては、これらに限定されないが、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄等を挙げることができ、これらを飲食品に用いることができる塩の形態で、あるいはこれらを豊富に含む海洋深層水、海藻エキスなどを飲料に添加することができる。本発明の飲料は、外観の透明さと果実フレーバーの香気とからくる爽やかさにより、夏場やスポーツの際に飲む水分補給用飲料とするのに最適である。その際、ナトリウム濃度を適度な範囲に調整することにより、発汗時のナトリウム補給用の飲料とすることができる。飲料中のナトリウムの濃度は、例えば、15?80mg/100mlとすることができる。また、本発明者らは、飲料中のナトリウムの濃度が20?40mg/100mlの場合に、特に優れた劣化臭抑制効果が得られることを見出した。ナトリウムのようなミネラルと劣化臭の抑制とは関連がないと思われたので、特定濃度のナトリウムにより高い劣化臭の抑制効果が得られたことは意外であった。
【0026】
本発明の飲料のBrixは、好ましくは、3.0?10.0、さらに好ましくは4.5?7.0である。ここで、Brixとは、糖用屈折計示度として測定される値である。上記のような低Brixの飲料は、すっきりとした味わいとなり、飲料の外観の透明さからくる爽やかなイメージと味とがよく合致して好ましい。」
上記記載事項より甲6には、以下の発明(以下「甲6発明」という。)が記載されていると認められる。
「果実フレーバーを含み、クエン酸0.03?0.2質量%を含み、香気成分の1種または2種以上を含み、波長660nmの吸光度が0.06以下であり、純水を基準とした場合のΔE値(色差)が3.5以下であり、糖用屈折計示度(Brix)が、3.0?10.0である飲料。」

(キ)甲7について
甲7の、1092、1093、134、135、1385、1937ページの記載によれば、甲7には、以下の事項が記載されていると認められる。
「モモにはベンズアルデヒドが含まれること、ブドウ、リンゴ等にはリナノールが含まれていること、ノンアルコール飲料中のリナロール香料の濃度は、通常3.57ppm、最大6.87ppmであること、モモ、ブドウ等にはサリチル酸メチルが含まれていること、リンゴ、アプリコット等にはβ-ダマセノンが含まれていること。」

(ク)甲8について
甲8の「表2 主な酸味料の味の特徴と酸味の強さ」(74ページ)によれば、甲8には、以下の事項が記載されていると認められる。
「酸味度、酸味の特徴及び呈味特性は、酸味料によってそれぞれ異なっていること。」

(ケ)甲9について
甲9の【0002】の記載によれば、甲9には、、以下の事項が記載されていると認められる。
「炭酸飲料は、酸味や渋味も有しており、後口を悪くしていること。」

イ.対比・判断
(1)本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「果糖4.0質量%」は、本件発明1の「Brixが1?10」に相当する。
甲1発明の「クエン酸0.04質量%、クエン酸ナトリウム0.02質量%」は、本件発明1の「酸度が0.020?0.300g/100g」に相当する。
甲1発明の「レモンフレーバー及び紅茶フレーバーを微量添加した紅茶風味飲料」は、本件発明1の「飲料」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「Brixが1?10であり、
酸度が0.020?0.300g/100gを満たす飲料。」で一致し、下記の点で相違する。
相違点1
本件発明1は、「波長660nmにおける吸光度が0.06以下であり、純水を基準とした場合のΔE値(色差)が3.5以下」であるのに対して、甲1発明の吸光度及びΔE値(色差)は不明な点。
相違点2
本件発明1は、「100?5000ppbのリナロール」を含有し、「(v)サリチル酸メチルの含有量(a)が5?500ppbであり、サリチル酸メチル含有量(a)の、リナロール含有量(b)に対する重量比(a/b)が0.01?1.0である;
ベンズアルデヒド含有量(c)が5?300ppbであり、ベンズアルデヒド含有量(c)の、リナロール含有量(b)に対する重量比(c/b)が0.001?0.8である;又は
β-ダマセノンの含有量(d)が1?100ppbであり、β-ダマセノンの含有量(d)の、リナロール含有量(b)に対する重量比(d/b)が0.0002?0.2である」のに対して、甲1発明は、そのような特定がされていない点。
上記相違点について検討する。
相違点1について
相違点1に係る本件発明1の「波長660nmにおける吸光度が0.06以下であり、純水を基準とした場合のΔE値(色差)が3.5以下」との構成は、飲料が無色透明であることを具体的に特定したものであるところ、甲1発明は、「紅茶風味飲料」であって、紅茶は色を有するものであることから「波長660nmにおける吸光度が0.06以下であり、純水を基準とした場合のΔE値(色差)が3.5以下」とする動機付けはない。
相違点2について
紅茶が香気成分として、リナロール、ベンズアルデヒド、サリチル酸メチル、β-ダマセノンを含むことは周知であり、甲1発明においても、紅茶風味を保つために該香気成分を含んでいると認められるが、紅茶の産地によって香気成分量が異なることや、紅茶と紅茶フレーバーを同一視はできないことを踏まえると、相違点2に係る本件発明1で特定される量の香気成分が甲1発明に含まれているとはいえない。
そして、甲2?甲5に記載された事項を参酌しても、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の構成とする動機付けはない。
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1?甲5に記載された発明に基いて本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1の構成を全て含むものであるから、上記(1)に示した理由と同様の理由により、本件発明2?4は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1?甲5に記載された発明に基いて本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件発明5について
本件発明5と甲1発明とを対比すると、実質的に上記相違点1及び相違点2で相違し、その判断も同様である。

4.異議理由5及び6について
(1)本件発明1について
本件発明1と甲6発明とを対比すると、甲6発明における「クエン酸が0.03?0.2質量%」は、本件発明1の「酸度が0.020?0.300g/100g」に相当する。
甲6発明の「香気成分の1種または2種以上」は、本件発明1の「100?5000ppbのリナロールと、
ベンズアルデヒド、サリチル酸メチル、及びβ-ダマセノンからなる群から選択される少なくとも一種」と、「香気成分」の限りで一致する。
甲6発明の「波長660nmの吸光度が0.06以下であり、純水を基準とした場合のΔE値(色差)が3.5以下であり、糖用屈折計示度(Brix)が、3.0?10.0である」ことは、本件発明1の「(i)波長660nmにおける吸光度が0.06以下であり、
(ii)純水を基準とした場合のΔE値(色差)が3.5以下であり、
(iii)Brixが1?10」である点で一致する。
そすると、本件発明と甲6発明とは、
「香気成分と酸味料とを含有する飲料であって、以下の条件(i)から(iv)を満たす前記飲料:
(i)波長660nmにおける吸光度が0.06以下であり、
(ii)純水を基準とした場合のΔE値(色差)が3.5以下であり、
(iii)Brixが1?10であり、
(iv)酸度が0.020?0.300g/100gである。」で一致し、次の点において相違する。
相違点3
香気成分について、本件発明1は、「100?5000ppbのリナロール」を含有し、「(v)サリチル酸メチルの含有量(a)が5?500ppbであり、サリチル酸メチル含有量(a)の、リナロール含有量(b)に対する重量比(a/b)が0.01?1.0である;
ベンズアルデヒド含有量(c)が5?300ppbであり、ベンズアルデヒド含有量(c)の、リナロール含有量(b)に対する重量比(c/b)が0.001?0.8である;又は
β-ダマセノンの含有量(d)が1?100ppbであり、β-ダマセノンの含有量(d)の、リナロール含有量(b)に対する重量比(d/b)が0.0002?0.2である。」のに対して、甲6発明は、そのような特定がされていない点。
上記相違点3について検討する。
甲6発明は、透明飲料に果実フレーバーを添加するものであり、リナロール、サリチル酸メチル、ベンズアルデヒド、β-ダマセノンが果実フレーバーとして周知の香気成分であったとしても、甲6発明において、果実フレーバーとして、上記相違点3に係る本件発明1で特定される量の香気成分が含まれているとはいえない。
また、甲2、甲7に記載された事項を参酌しても、甲6発明に含まれる果実フレーバーについて、上記相違点3に係る本件発明1の香気成分に注目して、その量を調整する動機付けは認められない。
したがって、本件発明1は、甲6に記載された発明であるとはいえず、また、甲6、2、7に記載された発明に基いて本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の構成を全て含むものであるから、上記(1)に示した理由と同様の理由により、本件発明2は、甲6に記載された発明であるとはいえず、また、甲6、2、7に記載された発明に基いて本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件発明5について
本件発明5と甲6発明とを対比すると、少なくとも、実質的に上記相違点3で相違し、その判断も同様である。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?5に係る特許取り消すことはできない。
また、他に請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-03-25 
出願番号 特願2017-534367(P2017-534367)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (A23L)
P 1 651・ 536- Y (A23L)
P 1 651・ 537- Y (A23L)
P 1 651・ 121- Y (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 市島 洋介  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 莊司 英史
松下 聡
登録日 2018-03-09 
登録番号 特許第6301562号(P6301562)
権利者 サントリーホールディングス株式会社
発明の名称 リナロールを含有する無色透明飲料  
代理人 山本 修  
代理人 武田 健志  
代理人 小野 新次郎  
代理人 宮前 徹  
代理人 中西 基晴  
代理人 梶田 剛  

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