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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 E05B
管理番号 1351372
審判番号 不服2018-7730  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-06-05 
確定日 2019-06-03 
事件の表示 特願2016-535493「自動車ロック」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 2月26日国際公開、WO2015/025033、平成28年11月24日国内公表、特表2016-536490、請求項の数(19)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)8月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年8月23日、ドイツ)を国際出願日とする出願であって、原審では、平成29年2月15日付け(平成29年2月20日発送)で拒絶理由が通知がされ、期間延長後の平成29年8月21日付けで手続補正がされ、平成30年1月31日付け(平成30年2月5日発送)で拒絶査定(原査定)がされた。
本件はこれに対し、原査定の謄本送達から4月以内の平成30年6月5日に、拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。


第2 原査定の概要
原査定(平成30年1月31日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
平成30年6月5日付け手続補正書による補正前の本願請求項1?2に係る発明は、下記引用文献1及び3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
平成30年6月5日付け手続補正書による補正前の本願請求項3?20に係る発明は、下記引用文献1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献:
1.特開2009-296749号公報
2.欧州特許出願公開第0175903号明細書
3.特表2010-539361号公報


第3 本願発明
本願請求項1ないし19に係る発明(以下、「本願発明1」等という。)は、平成30年6月5日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし19に記載された事項により特定される発明であって、以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
作動部材軸線(1)を中心として回動可能な作動部材(2)と、
前記作動部材(2)を回動させるための駆動装置(3)と、
前記駆動装置(3)により複数の異なる機能状態に移行可能なロック機構(23)と、を備えた自動車ロックであって、前記駆動装置(3)は、前記作動部材(2)に対応配置された、永久磁石ユニット(5)を備えるロータ(4)と、少なくとも2つのコイル(8?11)から成るコイルユニット(7)を備えるステータ(6)とを有しており、
前記ステータ(6)は、少なくとも2つの極(12?15)を有しており、これらの極(12?15)を介して、前記コイルユニット(7)により形成された磁界が前記ロータ(4)に案内されるようになっており、前記ステータ(6)の少なくとも1つの極(12?15)が、前記ロータ(4)の位置に応じて、前記作動部材軸線(1)に関して軸方向のギャップ(16,17)を除いて、前記ロータ(4)の端面(18,19)に達しており、
前記コイルユニット(7)に対する定常的な給電を異ならせることにより、前記ロック機構(23)の各機能状態に対応する、前記作動部材(2)の少なくとも2つの磁気的に安定した駆動位置に到達することができるようになっており、
前記駆動装置(3)は、直接駆動装置の形式で形成されており、前記作動部材(2)と前記ロータ(4)との間に増速伝動装置又は減速伝動装置が一切設けられておらず、前記作動部材(2)は制御軸であることを特徴とする、自動車ロック。

【請求項2】
前記極(12?15)は、軸方向においてそれぞれ前記ギャップ(16,17)を除いて、前記ロータ(4)の互いに反対の側に位置する2つの前記端面(18,19)に達しており、これにより前記ロータ(4)の両面側を包囲している、請求項1記載の自動車ロック。

【請求項3】
前記ギャップ(16,17)は、前記作動部材軸線(1)に対して垂直に延びるギャップ平面に沿って延在している、請求項1又は2記載の自動車ロック。

【請求項4】
前記各極(12?15)に、それぞれ前記コイルユニット(7)の1つの前記コイル(8?11)が対応配置されており、前記各極(12?15)は、対応配置された前記コイル(8?11)を通って延在している、請求項1から3までのいずれか1項記載の自動車ロック。

【請求項5】
前記ステータ(6)の前記少なくとも2つの極(12?15)を互いに磁気結合する案内装置(20)が設けられている、請求項1から4までのいずれか1項記載の自動車ロック。

【請求項6】
前記永久磁石ユニット(5)は、前記作動部材軸線(1)に対して直径方向、又は軸方向に磁化されており、前記永久磁石ユニット(5)は、磁化された軸線の方向に細長く、又は偏平に形成されている、請求項1から5までのいずれか1項記載の自動車ロック。

【請求項7】
前記作動部材(2)は、当該自動車ロックの前記ステータ(6)とは異なる支持体部分に、支持ユニット(22)を介して回転するように支持されており、前記ロータ(4)は専ら、前記作動部材(2)の前記支持ユニット(22)のみを介して回転するように支持されている、請求項1から6までのいずれか1項記載の自動車ロック。

【請求項8】
組立てに関して、前記作動部材(2)は前記ロータ(4)と共に、前記ステータ(6)に当て付け可能である、請求項7記載の自動車ロック。

【請求項9】
複数の異なる機能状態を生ぜしめるために、少なくとも1つの変位可能な機能部材(24)が設けられており、前記作動部材(2)が、前記機能部材(24)と係合するようになっているか、又は前記機能部材(24)と一体的に構成されている、請求項1から8までのいずれか1項記載の自動車ロック。

【請求項10】
前記ロック機構(23)は、「ロック」、「ロック解除」、「盗難防止」、「ロック-チャイルドセーフティ」及び「ロック解除-チャイルドセーフティ」等の複数の異なる機能状態にもたらされる、請求項1から9までのいずれか1項記載の自動車ロック。

【請求項11】
前記機能部材(24)が、前記作動部材(2)の制御部分(21)に支持されている、請求項9記載の自動車ロック。

【請求項12】
前記機能部材(24)が、線材又はストリップとして形成されており且つ複数の異なる機能位置に変位することができるようになっている、請求項9又は11記載の自動車ロック。

【請求項13】
前記機能部材(24)が、ばね弾性的な線材又はストリップとして形成されており、撓み機能部材として複数の異なる機能位置にもたらすことができるようになっている、請求項12記載の自動車ロック。

【請求項14】
前記コイルユニット(7)は少なくとも2つのコイル対(8,9;10,11)を有しており、これらのコイル対(8,9;10,11)は、少なくとも対でも制御される、請求項1から13までのいずれか1項記載の自動車ロック。

【請求項15】
1つのコイル対の2つの前記コイル(8,9;10,11)は電気的に直列接続されている、請求項14記載の自動車ロック。

【請求項16】
前記コイルユニット(7)の少なくとも1つの前記コイル(8?11)のコイル軸線(8a?11a)は、前記作動部材軸線(1)に対して平行に向けられている、請求項1から15までのいずれか1項記載の自動車ロック。

【請求項17】
各前記駆動位置に対応したコイルの組合せと、各前記駆動位置に対応した給電方向とにおいて前記コイルユニット(7)の前記コイル(8?11)に給電することにより、前記作動部材(2)が少なくとも2つの磁気的に安定した前記駆動位置に到達することができるようになっている、請求項1から16までのいずれか1項記載の自動車ロック。

【請求項18】
前記作動部材(2)が少なくとも2つの磁気的に安定した前記駆動位置に到達するために、前記コイルユニット(7)に対する定常的な給電をそれぞれ異ならせることを特徴とする、請求項1から17までのいずれか1項記載の自動車ロックを制御する方法。

【請求項19】
前記作動部材(2)が少なくとも2つの磁気的に安定した前記駆動位置に到達するように、前記コイルユニット(7)の前記コイル(8?11)に対して、前記各駆動位置に対応したコイルの組合せと、前記各駆動位置に対応した給電方向とで定常的に給電する、請求項18記載の方法。」


第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1
(1)記載事項
原査定に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、本審決で付した。以下同様。)。

ア 実施例1
「【実施例1】
【0018】
図1ないし図3は本発明の実施例1を示す。本発明において、図1(a)、(b)に示すロータリーソレノイド1は、各種のバルブの開閉を行うアクチュエータをはじめ、ディスチャージ形前照灯のロー・ハイを配光制御するシェード、照射方向を上下調節するレベライザー、照射方向を左右に調整するAFS、および自動変速機を搭載した車両(AT車)のシフトレバーロック装置に用いられるものである。
【0019】
ロータリーソレノイド1におけるプレート2は、鉄などの磁性体により形成され、例えば四箇所の隅角部2a(三箇所のみ図示)が四半円弧状を成す方形である。略円筒状を成すコイル体3は複数、例えば四個用意され、プレート2上の所定の基円4に沿って隅角部2aに同一高さの縦形となるように設置されている。コイル体3の磁極N、Sはプレート2に対して垂直方向に合致している。
コイル体3は円筒状に限らず、五角、六角あるいは八角といった多角筒状でもよく、コイル体3は四個に限らず、所望数に変更することができる。
【0020】
円弧辺状のセグメントコア9は各コイル体3に対応して設けられ、鉄などの磁性材料により所定の厚みtで、例えば90度の円周角θを有するように形成されている。セグメントコア9は、各コイル体3のプレート2とは反対側の端部に基円4と略同心的な副円4aに沿って設けられている。セグメントコア9同士は、互いに僅かなクリアランスPfを左右の周方向に余して面一状態に配列されている。
【0021】
セグメントコア9に形成された中央の穴部9aには、磁性体製のステータコア10が差し込まれ、コイル体3の中心部を挿通してプレート2に取り付けられている。セグメントコア9は、中央の穴部9aを境にして左右の湾曲腕部を延出部9A、9Bとしている。 ステータコア10はコイル体3の鉄心を兼用するとともに、セグメントコア9をコイル体3に固定しながら、コイル体3をプレート2にも固定している。
【0022】
プレート2の中央部には、筒状の支軸5が立設され、支軸5の外周囲に前述のコイル体3が等角度間隔で並ぶ構成となっている。支軸5には、駆動軸6がセグメントコア9に対して回転可能に挿通されている。駆動軸6の一端部6aには、円盤状のディスクプレート7の中央部が嵌込まれて駆動軸6と一体的に回転するようになっている。駆動軸6の他端部6bは、支軸5を通過して外部に突き出て、被駆動部(図示せず)に接続される連結部を形成している。
【0023】
ディスクプレート7は後述するプレート磁石8とともに、例えばリターンスプリング(図示せず)により、初期位置Hから停止位置Lに回動する時、初期位置H方向への復帰回動力を受けるように付勢されている。
また、コイル体3への通電方向を切り替えてプレート磁石8の回転方向を反転させる場合は、付勢されないか、またはプレート磁石8の作動角範囲の中央付近を境に初期位置Hまたは停止位置Lの近い方に付勢される。
【0024】
ディスクプレート7の裏面側には、ドーナツ盤状のプレート磁石8が同心的に取付けられている。このプレート磁石8は、例えばネオジウム磁石から成り、略90度の角度間隔で4極に着磁されて、セグメントコア9に対応する磁極面8a?8dを有しており、磁極N、Sの境界を磁極切替り部Mとしている。
プレート磁石8は、図2に示すように、磁極面8a?8dをセグメントコア9の表面に微小空隙Gを介して平行に対面させている。
【0025】
上記構成では、円盤状のディスクプレート7のプレート磁石8を取付けて、セグメントコア9に微小空隙Gを介して対面させているため、コイル体3の通電に伴い、コイル体3からセグメントコア9に発生させた磁束による電磁力と磁極面8a?8dの磁束による磁気力との相互作用が生じる。この相互作用により、プレート磁石8をリターンスプリングの付勢力に抗して初期位置Hから停止位置Lに所定の作動角範囲α(例えば、40?60度)だけ矢印W方向に回動して被駆動部に伝達する。
なお、初期位置Hおよび停止位置Lでは、プレート磁石8あるいはディスクプレート7を当接させて位置保持するストッパー(図示せず)を設けてもよい。
【0026】
基円4に沿って複数のコイル体3を配置し、コイル体3のそれぞれに円弧状のセグメントコア9を設けてプレート磁石8と対面させているので、コイル体3の磁束および磁極面8a?8dの磁束のうち、プレート磁石8およびセグメントコア9に対して周方向の磁束を生じるようになる。周方向の磁束は、プレート磁石8の回転方向成分に寄与し、プレート磁石8を初期位置Hから停止位置Lに向かって回転させる有効な回転トルクとして持続的に働く。
【0027】
すなわち、プレート磁石8の回動角が0度を僅かに越すと、プレート磁石8による下部磁気回路に逃げていた磁束がコイル体3の磁束によって押し戻される。この磁束の周方向成分がプレート磁石8に対する有効な回転トルクとして働くので、磁束が周方向に向いていると、効率よく回転トルクを得ることができて高トルク化が実現する。
【0028】
これにより、コイル体3の通電時、プレート磁石8に対する大きな回転トルクを持続でき、かつ所定の作動角範囲内でトルク低下やトルクむらの少ない理想的な回転トルク特性を得ることができる。
ちなみに、コイル体3への通電方向に応じて両方向回転が可能なロータリーソレノイドとして用いた場合、コイル体3への正方向の通電では、プレート磁石8への回転トルクは、図3の実線Twに示すように、初期位置Hから停止位置Lに向かって回動角(ω)が増えるにつれて、大きな回転トルクから緩やかに下がるものの、低下率が小さく、むらの少ない回転トルク特性となる。
【0029】
コイル体3への逆方向の通電では、プレート磁石8への回転トルクは、図3の実線Tvに示すように、停止位置Lから元の初期位置Hに戻るにつれて大きな回転トルクから緩やかに下がるものの、低下率の小さく、むらの少ない回転トルク特性となる。
また、コイル体3の無通電時には、プレート磁石8からの磁束は、セグメントコア9に対して垂直方向に生じるので、プレート磁石8に働く意図しない回転トルクはほとんど発生しない。」

イ 図面
第1図及び第3図には、次の図示がある。
「【図1】


「【図3】



(2)引用文献1に記載された技術的事項
ア ロータリソレノイド1の構造
上記(1)に摘記した段落【0018】及び【0022】より、引用文献1には、各種のバルブの開閉を行うアクチュエータや車両(AT車)のシフトレバーロック装置に用いられるロータリーソレノイド1、及び、ロータリソレノイド1に接続される被駆動部、という技術的事項が記載されている。
上記(1)に摘記した段落【0019】より、引用文献1には、ロータリソレノイド1が、プレート2、及び、プレート2上に4個設けられたコイル体3であり、コイル体3の磁極N,Sがプレート2に対して垂直方向に合致している、コイル体3を備える、という技術的事項が記載されている。
上記(1)に摘記した段落【0021】より、引用文献1には、ロータリソレノイド1が、コイル体3の中心部を挿通してプレート2に取り付けられており、コイル体3の鉄心を兼用するとともに、コイル体3をプレート2にも固定している、磁性体製のステータコア10を備える、という技術的事項が記載されている。
上記(1)に摘記した段落【0020】より、引用文献1には、ロータリソレノイド1が、各コイル体3に対応して設けられ、鉄などの磁性材料により形成されており、中央の穴部9aには磁性体製のステータコア10が差し込まれ、中央の穴部9aを境にして左右の湾曲腕部である延出部9A、9Bを有し、90度の円周角θを有するように形成されている、円弧辺状のセグメントコア9を備える、という技術的事項が記載されている。
上記(1)に摘記した段落【0022】より、引用文献1には、ロータリソレノイド1が、プレート2の中央部に立設された筒状の支軸5に回転可能に挿通された、駆動軸6を備える、という技術的事項が記載されている。
上記(1)に摘記した段落【0022】より、引用文献1には、ロータリソレノイド1が、駆動軸6の一端部6aに、中央部が嵌込まれた円盤状のディスクプレート7を備え、駆動軸6の他端部6bは、被駆動部を接続する連結部を形成する、という技術的事項が記載されている。
上記(1)に摘記した段落【0024】より、引用文献1には、ロータリソレノイド1が、円盤状のディスクプレート7、及び、円盤状のディスクプレート7の裏面側に同心的に取付けられ、略90度の角度間隔で4極に着磁されて、セグメントコア9に対応する磁極面8a?8dを有し、磁極面8a?8dをセグメントコア9の表面に微小空隙Gを介して平行に対面させている、ドーナツ盤状のプレート磁石8を備える、という技術的事項が記載されている。

イ ロータリソレノイド1の機能・動作
上記(1)に摘記した段落【0025】より、引用文献1には、ロータリソレノイド1の動作について、円盤状のディスクプレート7のプレート磁石8を、セグメントコア9に微小空隙Gを介して対面させているため、コイル体3の通電に伴い、コイル体3からセグメントコア9に発生させた磁束による電磁力と磁極面8a?8dの磁束による磁気力との相互作用が生じ、この相互作用により、プレート磁石8をリターンスプリングの付勢力に抗して初期位置Hから停止位置Lに所定の作動角範囲α(例えば、40?60度)だけ矢印W方向に回動して被駆動部に伝達する、という技術的事項が記載されている。
上記(1)に摘記した段落【0023】より、引用文献1には、ロータリソレノイド1について、コイル体3への通電方向を切り替えてプレート磁石8の回転方向を反転させる場合には、リターンスプリングにより、プレート磁石8の作動角範囲の中央付近を境に初期位置Hまたは停止位置Lの近い方に付勢するか、または付勢しない、という技術的事項が記載されている。
上記(1)に摘記した段落【0028】-【0029】及び【図3】より、引用文献1には、ロータリソレノイド1について、コイル体3への通電方向に応じて両方向回転が可能なロータリーソレノイドとして用いる場合、コイル体3への正方向の通電、及び逆方向の通電のいずれにおいても、初期位置Hから停止位置Lの間で、回転トルクの低下率が小さく、むらの少ない回転トルク特性とする、という技術的事項が記載されている。

ウ 引用文献1の目的
上記(1)に摘記した段落【0028】より、引用文献1の目的として、ロータリソレノイド1について、所定の作動角範囲内でトルク低下やトルクむらの少ない理想的な回転トルク特性を得る、という技術的事項が記載されている。

(3)引用文献1に記載された発明
上記(1)?(2)より、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「各種のバルブの開閉を行うアクチュエータや車両(AT車)のシフトレバーロック装置に用いられる、ロータリーソレノイド1、及び、ロータリソレノイド1に接続される被駆動部であって、
ロータリソレノイド1は、所定の作動角範囲内でトルク低下やトルクむらの少ない理想的な回転トルク特性を得ることを目的とし、その構造として、
プレート2、
プレート2上に4個設けられたコイル体3であり、コイル体3の磁極N,Sがプレート2に対して垂直方向に合致している、コイル体3、
コイル体3の中心部を挿通してプレート2に取り付けられており、コイル体3の鉄心を兼用するとともに、コイル体3をプレート2にも固定している、磁性体製のステータコア10、
各コイル体3に対応して設けられ、鉄などの磁性材料により形成されており、中央の穴部9aには磁性体製のステータコア10が差し込まれ、中央の穴部9aを境にして左右の湾曲腕部である延出部9A、9Bを有し、90度の円周角θを有するように形成されている、円弧辺状のセグメントコア9、
プレート2の中央部に立設された筒状の支軸5に回転可能に挿通された、駆動軸6、
駆動軸6の一端部6aに、中央部が嵌込まれた、円盤状のディスクプレート7、
被駆動部が接続される連結部を形成する、駆動軸6の他端部6b、
円盤状のディスクプレート7の裏面側に同心的に取付けられ、略90度の角度間隔で4極に着磁されて、セグメントコア9に対応する磁極面8a?8dを有し、磁極面8a?8dをセグメントコア9の表面に微小空隙Gを介して平行に対面させている、ドーナツ盤状のプレート磁石8、
を備えており、
ロータリソレノイド1は、その動作として、
円盤状のディスクプレート7のプレート磁石8を、セグメントコア9に微小空隙Gを介して対面させているため、コイル体3の通電に伴い、コイル体3からセグメントコア9に発生させた磁束による電磁力と磁極面8a?8dの磁束による磁気力との相互作用が生じ、この相互作用により、プレート磁石8をリターンスプリングの付勢力に抗して初期位置Hから停止位置Lに所定の作動角範囲α(例えば、40?60度)だけ矢印W方向に回動して被駆動部に伝達し、
コイル体3への通電方向を切り替えてプレート磁石8の回転方向を反転させる場合には、リターンスプリングにより、プレート磁石8の作動角範囲の中央付近を境に初期位置Hまたは停止位置Lの近い方に付勢するか、または付勢せず、
コイル体3への通電方向に応じて両方向回転が可能なロータリーソレノイドとして用いる場合、コイル体3への正方向の通電、及び逆方向の通電のいずれにおいても、初期位置Hから停止位置Lの間で、回転トルクの低下率が小さく、むらの少ない回転トルク特性とする、
ロータリソレノイド1、及び、ロータリソレノイド1に接続される被駆動部。」

2 引用文献2
原査定に引用された引用文献2には、次の事項が記載されている。なお、対応和訳を、引用文献2のパテントファミリ文献である特開昭61-058460号公報に基き、付記した。

(1)明細書第7頁19行?第8頁第9行
「In the control system for the throttle valve 5, which is constructed as described above, the torque motor 6 is provided with a rotor 13 having permanent magnets 12, a fixed case 14 supporting this rotor 13, fixed electromagnets 15 supported by this fixed case 14 and arranged opposite to the permanent magnets 12 of the rotor 13 with a prescribed gap therefrom, etc. Furthermore, said rotor 13 is shaped in a disk, the permanent magnets 12 being arranged in the disk 13a so that magnetic fields in the axial direction are thereby generated, the fixed electromagnets 15 being constructed so that the magnetic fields thereof are also formed in the axial direction, and a prescribed control voltage V being impressed on said fixed electromagnets 15 (see Figures 1 and 2 and Figures 4 to 12).」
「このように構成した絞り弁5の制御システムにおいてトルクモータ6は永久磁石12を有するロータ13、このロータ13を支持する固定ケース14、この固定ケース14に支持され、かつロータ13の永久磁石12に所定間隙を介して対向配置された固定電磁石15等を備えているが、このロータ13を円板形に形成すると共に、この円板13a内に軸方向の磁界を発生するように永久磁石12を配置し、かつ固定電磁石15の磁界も軸方向となるように構成し、この固定電磁石15に所定の制御電圧Vを印加するようにした(第1図、第2図および第4図から第12図参照)。」

(2)明細書第11頁11行?19行
「Thus, normal and reverse torques are generated by controlling the direction of electrification in this way. Since two magnetic fields are formed in the angular range of 360℃ in the present embodiment, a rotation control can be effected in the range of 180℃, and in the range of 90°, in particular, a high torque can be generated, which enables the smooth control of the throttle valve rotating only in the range of 90°.」
「このように通電方向を制御することにより、正逆のトルクが発生するが、本実施例では360°の範囲で2個の磁界を持つため、180°の範囲で回転制御でき、特に90°の範囲では高いトルクを持つことができるようになり、90°の範囲しか回転しない絞り弁の制御を円滑にすることができる。」

(3)図面
図5及び図6には、次の図示がある。







3 引用文献3
原査定に引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)段落【0016】-【0017】
「【0016】
はじめに述べておくと、図面には、提案した車両ロックもしくは提案した制御駆動装置の、本発明の思想を説明するのに必要な構成要素だけを示した。したがって通常戻り止めと協働するラッチは、図1?図9、図13、図14において図示していない。
【0017】
図1?図3、図4、図5には、提案した車両ロックの2つの形態を示しており、車両ロックは、施錠エレメント、ラッチおよび戻り止め1を備えている。さらにロック機構2が設けられており、ロック機構2は、異なる機能状態、たとえば「ロック解除」、「ロック作動」、「盗難防止」または「チャイルドセーフティードアロック(チャイルドロック)」に調節可能である。通常ロック機構2によって、戻り止め1は、機能状態に応じて、外側のドアグリップおよび/または内側のドアグリップの操作によって持ち上げ可能であるか、または全く持ち上げ不能である。電動ロックでは、ロック機構2は、専ら戻り止め1と連結する非常操作に用いられる。「ロック機構」という概念は、広義に解される。
【0018】
ロック機構2を前述の機能状態に調節するために、ロック機構2は、適切な機能位置に変位可能な少なくとも1つの機能エレメント3を備えている。単数または複数の機能エレメント3を変位させることによって、ロック機構2は、所望の機能位置に調節可能である。」

(2)段落【0050】-【0060】
「【0050】
変位を制御するため、つまり曲げ-機能エレメント3を制御下で弾性的に撓曲するために、制御駆動装置10が設けられている。原則として、制御駆動装置10に、調節しようとする複数の曲げ-機能エレメント3または慣用のように形成された別の機能エレメント3を割り当てて配置することができる。したがって制御駆動装置10によって、割り当てられた曲げ-機能エレメント3は、幾つかの機能位置に変位可能である。幾つかの機能位置は、曲げ-機能エレメント3の、弾性的な戻りによって達成される。提案した制御駆動装置10の有利な2つの形態を、図6、図7および図8、図9に概略的に示した。
【0051】
図示した有利な2つの形態では、制御駆動装置10は、制御軸11を備えており、制御軸11に、割り当てられた曲げ-機能エレメント3が支持されるので、制御軸11の変位によって、曲げ-機能エレメント3は振れ変位(旋回)可能である。特に有利な形態では、曲げ-機能エレメント3は、制御軸線12に対して概ね垂直に延びている。
【0052】
有利には、制御駆動装置10は、モータ式の制御駆動装置10である。したがって旋回軸11は、図示したように、駆動モータ13と連結されている。ここでは制御軸11は、直に駆動モータ13のモータ軸14上に配置することができる。制御軸11をピニオンなどを介してモータ軸14と駆動技術式に係合させることも考えられる。
【0053】
制御駆動装置10は、手動で調節可能に形成してもよい。たとえば制御駆動装置10は、適切な手動の操作エレメント、たとえば施錠シリンダまたは内側固定ボタンと結合されている。
【0054】
制御軸11は、モータ式または手動式に、制御位置「ロック解除」および「ロック作動」に移動することができる。ここでは制御軸11は、曲げ-機能エレメント3を、機能位置「ロック作動」に移行するか、もしくは機能位置「ロック解除」に戻す。
【0055】
ここでは有利には、制御軸11は、カム軸として形成されており、この場合割り当てられた曲げ-機能エレメント3は、カム軸に支持され、カム軸の変位によって適切に振れ変位可能である。これについては図7に示した。
【0056】
図7のaに機能位置「ロック解除」を示しており、機能位置「ロック解除」は、図1および図4の図面に対応する。図7のbには、曲げ-機能エレメント3が変位されない、図7において左向きの、制御軸11の第1変位を示している。これによって駆動モータ13は、始動時に、僅かにしか負荷を掛けられず、これによって駆動モータが安価に設計される。制御軸11の更なる変位によって、制御軸11に配置されたカム11aは、曲げ-機能エレメント3を、図7において上方に振れ変位させる(図7のc)。これは機能位置「ロック作動」に対応する。曲げ-機能エレメント3の機能位置は、図2において一点鎖線で示した。図6および図7から看取されるように、制御軸11によって、曲げ-機能エレメント3の変位は、構造的に特に簡単に実現することができる。
【0057】
カム軸として制御軸11を形成した形態に対する有利な選択肢によれば、制御軸11は、クランク軸として形成されている。したがって割り当てられた曲げ-機能エレメント3は、クランク軸に、特にクランク軸の偏心部分に支持されている。製作技術的に特に有利には、制御軸11は、屈曲されたワイヤとして形成されている。特にコンパクトな構成は、制御軸11が同時に駆動モータ13のモータ軸14であることによって得られる。
【0058】
前述したが、機能状態「ロック作動」において、内側作動レバー5の作動によってロック解除過程が行われる。図6、図7および図8、図9に示した有利な形態では、制御軸11は、オーバーライド輪郭11bを備えている。オーバーライド輪郭11bに、内側作動レバー5または内側作動レバー5と連結されたレバーに配置された別のオーバーライド-輪郭5bが対応して配置されており、別のオーバーライド-輪郭5bは、図4および図5に示した。
【0059】
機能状態「ロック作動」(図7のc)において、内側作動レバー5が作動すると、内側作動レバー側のオーバーライド-輪郭5bは、制御軸側のオーバーライド-輪郭11bと係合し、制御軸11が制御位置「ロック解除」(図7のa)に移行する。これによって曲げ-機能エレメント3は、機能位置「ロック解除」に移行し、その結果ロック機構2は、機能状態「ロック解除」に移行する。ロック解除過程の構成に関して、別の形態も考えられる。
【0060】
制御軸11の位置決めは、有利にはブロック運転で行われる。図6、7に示した形態では、制御位置「ロック解除」から制御位置「ロック作動」に制御軸11が変位する間に、オーバーライド輪郭11bは、ブロックエレメント15に当接する。制御位置「ロック解除」への制御軸11の戻りは、同様にブロック運転で行われる。このために制御技術的な構成も考えられる。別のブロックエレメントは、ここでは有利には設けられていない。」

(3)図面
図6及び図7には、次の図示がある。








第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)引用発明1との対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1における「ロータリソレノイド1」の「駆動軸6」は、当然に軸線を有しており、当該軸線は、本願発明1における「作動部材軸線(1)」に相当する。
引用発明1における「ロータリソレノイド1に接続される被駆動部」は、本願発明1における「作動部材軸線(1)を中心として回動可能な作動部材(2)」に相当する。
引用発明1における「ロータリソレノイド1」は、本願発明1における「前記作動部材(2)を回動させるための駆動装置(3)」 に相当する。
引用発明1における「ロータリソレノイド1」の「初期位置H」及び「停止位置L」において、「各種のバルブ」あるいは「シフトレバーロック装置」は、機能的に異なる状態に至ると解されるから、引用発明1における「ロータリーソレノイド1」及び「ロータリソレノイド1に接続される被駆動部」が、「初期位置H」及び「停止位置L」を有することと、本願発明1が「前記駆動装置(3)により複数の異なる機能状態に移行可能なロック機構(23)」を備えることとは、「前記駆動装置(3)により複数の異なる機能状態に移行可能な機構」を備えるという点で共通する。また、引用発明1における「ロータリーソレノイド1」及び「ロータリソレノイド1に接続される被駆動部」と、本願発明1における「自動車ロック」とは、いずれも複数の部材からなることから、「システム」という点で共通すると言い得る。
引用発明1における、「ドーナツ盤状のプレート磁石8」は、本願発明1における「永久磁石ユニット(5)に相当する。また引用発明1において、「被駆動部が接続される連結部」を「他端部6b」に有する「駆動軸6」の、「一端部6a」に「嵌込まれ」ており、かつ前述した「ドーナツ盤状のプレート磁石8」を備える「円盤状のディスクプレート7」は、本願発明1における「作動部材(2)に対応配置された、永久磁石ユニット(5)を備えるロータ(4)」に相当する。また、引用発明1において、「プレート2上に4個設けられたコイル体3」は、本願発明1における「少なくとも2つのコイル(8?11)から成るコイルユニット(7)」に相当し、引用発明1において「プレート2」及び「コイル体8」を備えるロータリソレノイド1の非回転側部材は、本願発明1における「ステータ(6)」に相当する。
引用発明1において、ロータリソレノイド1のコイル体3が備える「磁性体製のステータコア10」、及び、「鉄などの磁性材料により形成されており、中央の穴部9aには磁性体製のステータコア10が差し込まれ、中央の穴部9aを境にして左右の湾曲腕部である延出部9A、9Bを有し、90度の円周角θを有するように形成されている、円弧辺状のセグメントコア9」は、本願発明1における「ステータ(6)」が有する、「少なくとも2つの極(12?15)」に相当する。
引用発明1において、「磁性体製のステータコア10」が「コイル体3の鉄心を兼用」したうえで、「中央の穴部9aには磁性体製のステータコア10が差し込まれ」た「円弧辺状のセグメントコア9」が、「円盤状のディスクプレート7のプレート磁石8」に対して、「コイル体3の通電に伴い、コイル体3からセグメントコア9に発生させた磁束による電磁力と磁極面8a?8dの磁束による磁気力との相互作用」を生じさせることは、本願発明1において、「これらの極(12?15)を介して、前記コイルユニット(7)により形成された磁界が前記ロータ(4)に案内されるようになって」いることに相当する。
引用発明1において、「円盤状のディスクプレート7の裏面側に同心的に取付けられ」た「ドーナツ盤状のプレート磁石8」が、「セグメントコア9の表面に微小空隙Gを介して平行に対面」している構成と、本願発明1において、「前記ステータ(6)の少なくとも1つの極(12?15)が、前記ロータ(4)の位置に応じて、前記作動部材軸線(1)に関して軸方向のギャップ(16,17)を除いて、前記ロータ(4)の端面(18,19)に達して」いる構成とを対比すると、引用発明1の構成ではディスクプレート7が「円盤状」であるため、「微少空隙G」がディスクプレート7の回転位置に応じて形成されるものとはならないが、その点を措くとして、両者は「前記ステータ(6)の少なくとも1つの極(12?15)が、前記作動部材軸線(1)に関して軸方向のギャップ(16,17)を除いて、前記ロータ(4)の端面(18,19)に達して」いる点で共通する。

以上より、本願発明1と引用発明1とは、次の点で一致する。
「作動部材軸線(1)を中心として回動可能な作動部材(2)と、
前記作動部材(2)を回動させるための駆動装置(3)と、
前記駆動装置(3)により複数の異なる機能状態に移行可能な機構と、を備えたシステムであって、前記駆動装置(3)は、前記作動部材(2)に対応配置された、永久磁石ユニット(5)を備えるロータ(4)と、少なくとも2つのコイル(8?11)から成るコイルユニット(7)を備えるステータ(6)とを有しており、
前記ステータ(6)は、少なくとも2つの極(12?15)を有しており、これらの極(12?15)を介して、前記コイルユニット(7)により形成された磁界が前記ロータ(4)に案内されるようになっており、前記ステータ(6)の少なくとも1つの極(12?15)が、前記作動部材軸線(1)に関して軸方向のギャップ(16,17)を除いて、前記ロータ(4)の端面(18,19)に達している、
システム。」

一方、本願発明1と引用発明1とは、以下の点で相違する。
(相違点1)
駆動装置を含んで構成する装置について、
本願発明1では、「ロック機構」を備えた「自動車ロック」であるのに対し、
引用発明1では、各種のバルブの開閉を行うアクチュエータや車両のシフトレバーロック装置に用いる示唆はあるものの、「自動車ロック」ではない点。

(相違点2)
ロータとステータの少なくとも1つの極とのギャップについて、
本願発明1では、「ステータ(6)の少なくとも1つの極(12?15)」が、「前記作動部材軸線(1)に関して軸方向のギャップ(16,17)を除いて、前記ロータ(4)の端面(18,19)に達しており」、という状態は、「前記ロータ(4)の位置に応じて」生じるものであり、本願明細書の段落【0031】の記載も参酌すれば、「円形のロータ4の場合」とは異なり、「ロータ4は好適には細長く形成されているので、ロータ4は全ての極12?15を同時に擦過するわけではない。これに相応して、ギャップ16,17は、ロータ4の位置に応じて形成されることになる」のに対し、
引用発明1では、「ディスクプレート7」が「円盤状」であり、かつ「プレート磁石8」も「ドーナツ盤状」であるため、これらが「セグメントコア9の表面に微小空隙Gを介して平行に対面」する状態は、ディスクプレート7の位置とは関係なく常に生じる点。

(相違点3)
少なくとも2つの駆動位置について、
本願発明1では、「コイルユニット(7)に対する定常的な給電を異ならせることにより、前記ロック機構(23)の各機能状態に対応する、前記作動部材(2)の少なくとも2つの磁気的に安定した駆動位置に到達することができる」ようになっているのに対し、
引用発明1では、「初期位置Hから停止位置Lの間」で「回転トルクの低下」を避けており、「初期位置H」と「停止位置L」とを「定常的な給電を異ならせること」で到達する「少なくとも2つの磁気的に安定した駆動位置」とはしていない点。

(相違点4)
作動部材とロータとの間の駆動伝動について、
本願発明1では、「前記駆動装置(3)は、直接駆動装置の形式で形成されており、前記作動部材(2)と前記ロータ(4)との間に増速伝動装置又は減速伝動装置が一切設けられておらず、前記作動部材(2)は制御軸である」と特定されているのに対し、
引用発明1では、当該構成を有していない点。

(2)相違点についての判断
ア 相違点1及び3について
上記相違点1及び3は、互いに関連性があるので、同時に検討する。
引用発明1は、「初期位置H」または「停止位置L」に向かって、「リターンスプリング」による「付勢」を行わないという選択肢を有するものの、初期位置Hと停止位置Lとの間で回転トルクの低下を避けることを一貫して意図している。そのため、4つのコイル体及び略90度の角度間隔で4極に着磁されたドーナツ盤状のプレート磁石8を用いながら、角度0度?90度の範囲の全域で回転トルクの低下を避けているとともに(【図3】及び段落【0028】-【0029】参照)、好適な「所定の作動角範囲α」を「例えば、40度?60度」とし、90度よりさら狭くその全域で回転トルクが高い範囲としている。これらの事情を考慮すれば、引用発明1において、「リターンスプリング」による「付勢」を行わないという選択肢が形式的には示されているからといって、その位置では回転トルクがゼロとなる「磁気的に安定した駆動位置」をそのまま「初期位置H」及び「停止位置L」として用いることが、当該選択肢によって示されているということはできない。
原査定に引用された引用文献3には、機能エレメント3を変位させることによってロック機構2を所望の機能位置に調節可能な車両ロックが記載されており(上記第4の3に摘記した段落【0017】-【0018】を参照)、モータ式の制御駆動装置10の旋回軸である制御軸11によって機能エレメント3の位置を調節することも示されているが(同段落【0050】-【0051】及び【図6】参照)、駆動モータ13にかかる始動時の負荷を考慮するとともに(同段落【0056】及び【図7のb】参照)、「ロック作動」位置では制御軸11に設けたオーバーライド輪郭11bをブロックエレメント15に当接させている(同段落【0056】-【0060】及び【図7のc】参照)。これらの事情を考慮すれば、元々初期位置Hから停止位置Lまでの間の全範囲で回転トルクの低下を避けることを目的とした引用発明1を、仮に引用文献3に記載される車両ロックの駆動源として用いたとしても、「ロック作動」位置は回転トルクが低下しない領域で制御軸11に設けたオーバーライド輪郭11bとブロックエレメント15との当接により回転トルクに抗して位置を決める構成を採用するものと考えられる。これに反して、引用発明1のそもそもの目的を離れて、車両ロックに用いる場合のロータリソレノイド1の「初期位置H」及び「停止位置L」を、いずれもその位置における回転トルクがゼロとなる、「定常的な給電」の下で「磁気的に安定した駆動位置」とすることは、引用文献1及び引用文献3のその他の記載を考慮しても、示唆されているということができない。
原査定に引用された引用文献2には、上記第4の2に和訳を付記して摘記した事項が記載されているが、やはり「180°の範囲で回転制御」できるモータを用いて、特に「高いトルクを持つ」ことができる「90°の範囲」を使用することが記載されていることから、引用発明1のロータリソレノイド1を引用文献3に記載される車両ロックに用い、さらにロータリソレノイド1の「初期位置H」及び「停止位置L」を、「定常的な給電」の下で「磁気的に安定した駆動位置」とすることを示唆するものとは言えない。
したがって、引用発明1において、上記相違点1及び3に係る本願発明1の構成に至ることは、原査定で引用された引用文献3に記載された事項、及び、従属請求項に関して原査定で引用された引用文献2に記載された事項を考慮しても、当業者にとって想到容易ということができない。

イ 相違点2について
上記相違点2について検討する。
引用発明1では、「円盤状のディスクプレート7」及び「ドーナツ盤状のプレート磁石8」を用いており、また回転トルクが低下する領域を減らす目的の下でセグメントコア9を円周方向に延出させる構成を採用していることを考慮しても、セグメントコア9とディスクプレート7との間の微少空隙Gが、常にではなくディスクプレート7の回転位置に応じて形成されるよう、変更する動機付けはない。
原査定で引用された引用文献3には、上記第4の3に摘記した事項が記載されているが、制御駆動装置10の駆動モータ13の内部構造については記載がなく、引用発明1における円盤状のディスクプレート7及びドーナツ盤状のプレート磁石8に変更を加えることについて、示唆するものではない。
原査定で引用された引用文献2には、上記第4の2に摘記した事項が記載されているが、引用文献2におけるロータ13も円板形であり(付記した和訳、及び第5図-第6図を参照)、引用発明1における円盤状のディスクプレート7及びドーナツ盤状のプレート磁石8に変更を加えることについて、示唆するものではない。
したがって、引用発明1において、上記相違点2に係る本願発明1の構成に至ることは、原査定で引用された引用文献3に記載された事項、及び、従属請求項に関して原査定で引用された引用文献2に記載された事項を考慮しても、当業者にとって想到容易ということができない。

(3)小括
以上のとおり、上記相違点1ないし3に係る本願発明1の構成は、引用発明1を出発点として、引用文献2-3に記載された事項を考慮しても、本願出願前に当業者が容易に想到することができたとはいえない。
したがって、相違点4に係る本願発明1の構成について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明1及び引用文献2-3に記載された事項に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2ないし19について
本願発明2ないし19は、本願発明1に従属し、本願発明1の発明特定事項をすべて含むものである。
そのため、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1及び引用文献2-3に記載された事項に基いて、本願発明2ないし19が容易に発明できたものとはいえない。


第6 原査定について
本願発明1ないし19は、前記第5で検討したとおり、当業者であっても、原査定において引用された引用文献1に記載された発明及び引用文献2-3に記載された事項に基いて、容易に発明できたものとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。


第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-05-21 
出願番号 特願2016-535493(P2016-535493)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (E05B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 秋山 斉昭小野 郁磨  
特許庁審判長 秋田 将行
特許庁審判官 有家 秀郎
西田 秀彦
発明の名称 自動車ロック  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 二宮 浩康  

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