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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
管理番号 1351433
異議申立番号 異議2018-700700  
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-06-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-08-27 
確定日 2019-04-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6286085号発明「ポリウレタン樹脂組成物および封止物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6286085号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、〔2、3〕について訂正することを認める。 特許第6286085号の請求項2,3に係る特許を維持する。 特許第6286085号の請求項1に係る特許についての特許異議の申し立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6286085号は、平成29年3月30日の出願であって、平成30年2月9日にその特許権の設定登録がされ、同年2月28日に特許掲載公報が発行され、その後、同年8月27日に特許異議申立人 藤本 一男(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続の経緯は、以下のとおりである。

平成30年11月12日付け 取消理由通知書
同年12月19日 特許権者と当審合議体との面接
平成31年 1月10日 意見書(特許権者)、訂正請求書
同年 1月25日付け 通知書(訂正請求があった旨の通知)
同年 2月28日 意見書(申立人)(参考資料1を添付)

申立人の証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証:特開2016-169316号公報
甲第2号証:特開平7-41318号公報
甲第3号証:特開2003-12323号公報
甲第4号証:国際公開2007/074562号
甲第5号証:特開2011-231317号公報
甲第6号証:特開2014-152239号公報
甲第7号証:特開昭55-21437号公報
(以下、「甲第1号証」等を「甲1」等という。)

また、平成31年2月28日に提出された申立人の意見書に添付された参考資料1は、以下のとおりである。
参考資料1:特開平5-247169号公報

第2 訂正の請求について

1 訂正の内容
平成31年1月10日付けの訂正請求書による訂正の請求(以下、当該訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?3について訂正することを求めるものであり、その内容は、以下のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項2に「前記ポリウレタン樹脂組成物は、前記ポリウレタン樹脂組成物100質量部に対して、前記酸化防止剤(C)を0.05質量部?2.0質量部含む、請求項1に記載のポリウレタン樹脂組成物。」と記載されているのを、「水酸基含有化合物(A)とイソシアネート基含有化合物(B)とを反応させることにより得られるポリウレタン樹脂組成物であって、炭素数が6以上のアルキルチオ基を有する酸化防止剤(C)を含み、前記酸化防止剤(C)は、前記アルキルチオ基を有するフェノール化合物であり、前記ポリウレタン樹脂組成物は、さらに、無機充填剤(D)を含み、前記無機充填剤(D)のナトリウム含有量が、Na_(2)O換算で前記無機充填剤(D)の0.15質量%以下であり、前記ポリウレタン樹脂組成物は、前記ポリウレタン樹脂組成物100質量部に対して、前記酸化防止剤(C)を0.05質量部?2.0質量部と、前記無機充填剤(D)を20質量部?80質量部含み、前記水酸基含有化合物(A)はヒマシ油系ポリオールを含み、前記無機充填剤(D)は、アルミナ、水酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、水酸化マグネシウムおよび酸化マグネシウムのうちの少なくとも1種を含む、ポリウレタン樹脂組成物。」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1または請求項2に記載のポリウレタン樹脂組成物により封止された封止物。」と記載されているのを、「請求項2に記載のポリウレタン樹脂組成物により封止された封止物。」に訂正する。

訂正前の請求項2及び3は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用しており、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1?3は一群の請求項であり、本件訂正請求は、一群の請求項に対して請求されたものである。

2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、訂正事項2は、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下、「本件特許明細書等」という。)の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項2は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同条第9項において準用する同法126条5項及び第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正事項2により請求項1が削除されたことに伴い、請求項2において請求項1を引用しないこととして訂正前の請求項1を書き下して独立形式に改め(訂正事項1-1)、この際、「アルキルチオ基を有する酸化防止剤」を、「炭素数が6以上のアルキルチオ基を有する酸化防止剤」と限定した(訂正事項1-2)ものである。
ア 訂正事項1-1は、引用関係の解消を目的とするものである。そして、訂正事項1-1が、本件特許明細書等の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
イ 訂正事項1-2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、本件特許明細書等には、「アルキルチオ基における炭素数は、ポリウレタン樹脂組成物の耐熱性の観点から、6以上が好ましく」と記載されている(【0038】)から、訂正事項1-2は、本件特許明細書等の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項1は、特許法120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同条第9項において準用する同法126条5項及び第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正事項2により請求項1が削除されたことに伴い、請求項1を引用しないこととしたものであるから、引用関係の解消を目的とするものである。そして、訂正事項3は、本件特許明細書等の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
よって、訂正事項3は、特許法120条の5第2項ただし書第4号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同条第9項において準用する同法126条5項及び第6項の規定に適合する。

(4)別の訂正単位とする求めについて
特許権者は、訂正後の請求項2及び3については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めている(訂正請求項8頁16?19行)。そして、訂正事項1及び3は、上記(2)、(3)で述べたとおり、特許法120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同条第9項において準用する同法126条5項及び第6項の規定に適合するので、上記別の訂正単位とする求めを認め、訂正後の請求項2及び3を、訂正後の請求項1とは別の訂正単位とすることを認める。

3 まとめ
上記2のとおり、訂正事項1ないし3に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同条第9項において準用する同法126条5項及び第6項の規定に適合するので、結論のとおり、本件訂正を認める。

第3 本件発明
前記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」等という)。

【請求項1】
(削除)
【請求項2】
水酸基含有化合物(A)とイソシアネート基含有化合物(B)とを反応させることにより得られるポリウレタン樹脂組成物であって、
炭素数が6以上のアルキルチオ基を有する酸化防止剤(C)を含み、
前記酸化防止剤(C)は、前記アルキルチオ基を有するフェノール化合物であり、
前記ポリウレタン樹脂組成物は、さらに、無機充填剤(D)を含み、
前記無機充填剤(D)のナトリウム含有量が、Na_(2)O換算で前記無機充填剤(D)の0.15質量%以下であり、
前記ポリウレタン樹脂組成物は、前記ポリウレタン樹脂組成物100質量部に対して、前記酸化防止剤(C)を0.05質量部?2.0質量部と、前記無機充填剤(D)を20質量部?80質量部含み、
前記水酸基含有化合物(A)はヒマシ油系ポリオールを含み、
前記無機充填剤(D)は、アルミナ、水酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、水酸化マグネシウムおよび酸化マグネシウムのうちの少なくとも1種を含む、ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項3】
請求項2に記載のポリウレタン樹脂組成物により封止された封止物。

第4 取消理由の概要

1 平成30年11月12日付けの取消理由通知書に記載した取消理由
(1)上記取消理由通知書に記載した取消理由は、以下のとおりである。
(取消理由1)本件発明1ないし3についての特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(2)当審の判断
ア 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

イ ここで、取消理由1は、要するに、炭素数が5以下のアルキルチオ基を有するフェノール酸化物である酸化防止剤を用いた場合や、酸化防止剤の配合量をポリウレタン樹脂組成物100質量部に対して0.05質量部?2.0質量部の範囲内ではない配合量とした場合に、「高い耐熱性を有するポリウレタン樹脂組成物を提供する」という課題(本件特許明細書【0005】)が解決できることを、発明の詳細な説明の記載により、または出願時の技術常識に照らしても、当業者が認識することができないというものである。

ウ これに対して、本件訂正により請求項1が削除されたので、取消理由1のうち本件発明1に係るものは、対象となる請求項が存在しなくなった。

エ 次に、請求項2において、アルキルチオ基が、炭素数6以上のアルキルチオ基であることが特定された。
すなわち、本件発明2は、炭素数6以上のアルキルチオ基を有するフェノール化合物である酸化防止剤を、ポリウレタン樹脂組成物100質量部に対して0.05質量部?2.0質量部含むとの特定を有することになった。

オ 一方、本件特許明細書には、アルキルチオ基を有する酸化防止剤の、アルキルチオ基における炭素数は、ポリウレタン樹脂組成物の耐熱性の観点から6以上が好ましいこと(【0038】)、及び、酸化防止剤の配合量はポリウレタン樹脂組成物100質量部に対して、2.0質量部以下が好ましく、0.05質量部以上が好ましいこと(【0041】)が記載されている。
また、炭素数8のアルキルチオ基を有する酸化防止剤である4-[[4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イル]アミノ]-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、又は、2,4-ビス(オクチルチオメチル)-6-メチルフェノールをポリウレタン樹脂組成物100質量部に対して0.1、1.0、又は、0.5質量部配合したポリウレタン樹脂組成物が、耐熱性に優れるものであったことも具体的な評価とともに記載されている(【0051】?【0054】、表1)。
ここで、炭素数8のアルキルチオ基を有するフェノール化合物である酸化防止剤(以下、「C8酸化防止剤」という。)と、8以外かつ6以上の炭素数のアルキルチオ基を有するフェノール化合物である酸化防止剤(以下、「C8以外の酸化防止剤」という。)は、いずれも炭素数6以上のアルキルチオ基を有するフェノール化合物であるという類似の化学構造を有し、いずれも酸化防止剤であることから、互いに類似した性質を有すると解するのが一般的であるところ、C8酸化防止剤とC8以外の酸化防止剤が、ポリウレタン樹脂組成物への配合の際、作用効果が大きく異なるという格別の根拠もない。
してみれば、C8以外の酸化防止剤を用いた場合にも、C8酸化防止剤を用いた場合と同様に、高い耐熱性を有するポリウレタン樹脂組成物が提供されるとみるのがごく自然である。
さらに、酸化防止剤の配合量「0.05質量部?2.0質量部」の範囲において、酸化防止剤の配合量によりポリウレタン樹脂組成物の耐熱性が大きく変動するという格別の根拠もないから、当該配合量が「0.05質量部?2.0質量部」の範囲であれば、「0.1」、「1.0」、又は「0.5」質量部配合したときと同様に、高い耐熱性を有するポリウレタン樹脂組成物が提供されるとみるのがごく自然である。

カ してみれば、本件発明2は、発明の詳細な説明の記載により当業者が、高い耐熱性を有するポリウレタン樹脂組成物を提供するという課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
また、本件発明3は本件発明2を引用するものであり、本件発明2と同様に、課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。

(3)小括
よって、取消理由1のうち、本件発明2及び3に係るものは解消した。
また、本件訂正により請求項1は削除されたので、取消理由1のうち本件発明1に係るものは、対象となる請求項が存在しない。

2 特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に記載された申立理由

申立書に記載された申立理由は、以下のとおりである。
(申立理由1)本件発明1ないし3は、甲1に記載された発明及び甲2ないし甲7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることのできないものであり、これらの発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(申立理由2)本件発明1ないし3についての特許は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(申立理由3)本件発明1ないし3についての特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

ここで、本件訂正により、請求項1は削除されたので、申立理由1ないし3のいずれもについて、請求項1に係るものは、対象となる請求項は存在しない。
よって、以下、本件発明2及び3(以下、総称して「本件発明」ということがある。)について検討する。

(1)申立理由1について
ア 甲1ないし甲7の記載と、甲1に記載された発明
甲1には、以下の記載がある。
(ア-1)「ポリオール、ポリイソシアネート、可塑剤、無機充填剤、及び分子内に硫黄原子を含まないフェノール系酸化防止剤を含有し、且つ120℃で24時間放置後の前記フェノール系酸化防止剤の加熱減量が0?3質量%であることを特徴とする、ポリウレタン樹脂組成物。」(特許請求の範囲、【請求項1】)

(イ-1)「【0006】
しかしながら、本発明者等が研究を進める中で、従来のポリウレタン系樹脂は、酸化防止剤(特に分子内に硫黄原子を含まない酸化防止剤)が揮発にする事による金属の腐食や変色を十分に検討しておらず、酸化防止剤により周囲の金属(特に銀)の劣化が促進され得ることが見出された。
【0007】
そこで、本発明では、酸化防止剤を含んでいながらも、銀等の周囲の金属の高温下における変色や腐食をより抑制することができるポリウレタン樹脂組成物を提供することを課題とする。さらには、一旦硬化させた後の、高温による硬度上昇がより抑制されたポリウレタン樹脂組成物を提供することをも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題に鑑みて鋭意研究を行った結果、ポリオール、ポリイソシアネート、可塑剤、無機充填剤、及び分子内に硫黄原子を含まないフェノール系酸化防止剤を含有し、且つ120℃で24時間放置後の前記酸化防止剤の加熱減量が0?3質量%であることを特徴とする、ポリウレタン樹脂組成物(以下、「本発明のポリウレタン樹脂組成物」と略記することもある。)であれば、上記課題を解決できることを見出した。この知見に基づいてさらに研究を行うことにより、本発明を完成させるに至った。」

(ウ-1)「【実施例】
【0074】
・・・
【0075】
(1)原材料
<ポリイソシアネート1> ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体(商品名:デュラネートTPA-100、旭化成ケミカルズ社製)
<ポリイソシアネート2> MDI系イソシアネート(商品名:ミリオネートMTL、東ソー社製)
<ポリオール1> ヒマシ油(商品名:ヒマシ油、伊藤製油社製)
<ポリオール2> 平均水酸基価103mgKOH/gのポリブタジエンポリオール(商品名:R-15HT、出光興産社製)
<可塑剤> フタル酸ジウンデシル(商品名:DUP、ジェイプラス社製)
<重合触媒> ジオクチル錫(商品名:ネオスタン U-810、日東化成株式会社製)
<無機充填剤1> 水酸化アルミニウム(商品名:H-32ハイジライト(平均粒径8μm)、昭和電工社製)
<無機充填剤2> 水酸化アルミニウム(商品名:H-42ハイジライト(平均粒径1μm)、昭和電工社製)
<酸化防止剤1> フェノール系酸化防止剤(商品名:IRGANOX1010、BASFジャパン社製)
<酸化防止剤2> フェノール系酸化防止剤(商品名:IRGANOX1076、BASFジャパン社製)
<酸化防止剤3> フェノール系酸化防止剤(商品名:IRGANOX1098、BASFジャパン社製)
<酸化防止剤4> フェノール系酸化防止剤(商品名:スミライザーGA-80、住友化学社製)
<酸化防止剤5> 分子内に硫黄原子を含むフェノール系酸化防止剤(商品名:IRGANOX565、BASFジャパン社製)
<酸化防止剤6> 硫黄系酸化防止剤(商品名:スミライザーTP-D、住友化学社製)
<酸化防止剤7> フェノール系酸化防止剤(商品名:NS-6、大内新興化学工業社製)
<酸化防止剤8> フェノール系酸化防止剤(商品名:スミライザーMDP-S、住友化学社製)。
・・・
【0079】
(3)ポリウレタン樹脂組成物の調製
表1に示す配合に従いポリウレタン樹脂組成物を調製した。調製手順は次のとおりである。B剤の各材料を、加熱、冷却、及び減圧装置を備えた反応釜に投入し、100℃、10mmHg以下の圧力下で2時間かけて脱水し、B剤を調製した。これにA剤を加えて攪拌し、脱泡して混合することによりポリウレタン樹脂組成物を得た。なお、B剤とA剤との混合は、B剤を23℃に調整し、続いて23℃に調整したポリイソシアネート成分(A剤)を添加し、自転・公転ミキサー(あわとり練太郎、シンキー社製)を用いて、回転数2000rpmで1分間撹拌することにより行った。
【0080】
【表1】




甲2には、以下の記載がある。
(ア-2)「【請求項1】 バイヤー法で得られた水酸化アルミニウム及び/又は遷移アルミナからなる原料アルミナ源に、アルミナ換算の原料アルミナ源に対して弗化物系鉱化剤を弗素として0.02?0.3重量%及び平均粒径1μm以下のα-アルミナ粉末を0.5?10重量%の割合でそれぞれ添加し、1,500℃以下の温度で焼成することを特徴とする低ソーダアルミナの製造方法。」

甲3には、以下の記載がある。
(ア-3)「【請求項1】ソーダを含有するアルミナ原料と、シリカ系物質およびシリカ系物質以外のセラミックスで被覆してなるセラミックス被覆シリカ系物質からなる脱ソーダ剤とを混合し、焼成した後、脱ソーダ剤を分離することを特徴とする低ソーダアルミナの製造方法。」

甲4には、以下の記載がある。
(ア-4)「[1]バイヤー法によって製造されたギブサイト型水酸化アルミニウムであり、平均粒子径が5μm以下であって、全ソーダ (Na_(2)O)分が0.03質量%以下であることを特徴とする低ソーダ微粒水酸化アルミニウム。」(請求の範囲)

甲5には、以下の記載がある。
(ア-5)「【請求項1】
(1)ポリオール組成物と(2)イソシアネート基含有化合物を含むポリウレタン組成物であって、前記(1)ポリオール組成物が
(1-i)水酸基含有共役ジエンポリマー水素化物
(1-ii)酸化防止剤
(1-iii)光安定剤
(1-iv)紫外線吸収剤
(1-v)硬化触媒
を含むことを特徴とするポリウレタン組成物。」

(イ-5)「【0023】
[酸化防止剤]
酸化防止剤とは、熱や酸化によってゴムやプラスチックの主構成要素である高分子鎖の分裂・分解により発生したラジカルを捕捉し、自動酸化を防ぐ物質である。ヒンダードフェノール系、セミヒンダードフェノール系、硫黄系、リン系の酸化防止剤を用いることができる。
【0024】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤の例として、・・・2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール、・・・が挙げられる。」

甲6には、以下の記載がある。
(ア-6)「【請求項1】
(a)有機潜熱蓄熱材、
(b)ヒンダードフェノール基を有する化合物、
(c-1)ポリオール化合物、
(c-2)イソシアネート化合物、
を含むことを特徴とする樹脂組成物。」

(イ-6)「【0015】
(b)成分としては、例えば、・・・2,4-ビス(ラウリルチオメチル)-6-メチルフェノール、2,4-ビス(オクチルチオメチル)-6-メチルフェノール、4-[[4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イル]アミノ]-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、・・・2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール、4-[[4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イル]アミノ]-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、・・・が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を混合して用いることができる。
本発明では特に、分子中にヒンダードフェノール基を1つ有する化合物を用いることが好ましい。」

甲7には、以下の記載がある。
(ア-7)「本発明は安定性の優れたポリウレタン樹脂組成物に関する。」(1頁右下欄3?4行)

(イ-7)「本発明の組成物にさらに他のフェノール系の抗酸化剤を添加することによって酸化安定性をより改善することができる。これらのフェノール系抗酸化剤としてはたとえば、・・・6-(4’-ヒドロキシ-3’5’-ジ-t-ブチルアニリノ)-2,4-ジオクチルチオ-1,3,5-トリアジン、・・・などの多価フェノールの炭酸オリゴエステル類があげられる。」(4頁右下欄16行?5頁右上欄20行)

そして、記載事項(ウ-1)(特に比較例2)から、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「平均水酸基価103mgKOH/gのポリブタジエンポリオールを10質量部と、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体を2.8質量部と、分子内に硫黄原子を含むフェノール系酸化防止剤(商品名:IRGANOX565、BASFジャパン社製)を0.1質量部と、水酸化アルミニウム(商品名:H-32ハイジライト)を50質量部と、水酸化アルミニウム(商品名:H-42ハイジライト)を10質量部と、可塑剤を10質量部と、重合触媒を0.01質量部含むポリウレタン樹脂組成物。」(以下、「甲1発明」という。)

イ 対比・判断
(ア)本件発明2について
本件発明2と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「平均水酸基価103mgKOH/gのポリブタジエンポリオール」は、本件発明2の「水酸基含有化合物(A)」に相当する。
甲1発明の「ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレートの変性体」は、本件特許明細書の、「本実施の形態におけるイソシアネート基含有化合物(B)としては、・・・イソシアネート化合物の変性体を使用することができる。・・・ポリイソシアネート化合物の変性体としては、イソシアヌレート変性体・・・を使用することができる。」との記載(【0029】?【0034】)からみて、本件発明2の「イソシアネート基含有化合物(B)」に相当する。
甲1発明の「分子内に硫黄原子を含むフェノール系酸化防止剤(商品名:IRGANOX565、BASFジャパン社製)」は、本件特許明細書に記載された実施例において使用された「酸化防止剤(C1)」(【0054】)であり、本件発明2の「炭素数が6以上のアルキルチオ基を有する酸化防止剤(C)」に相当する。
甲1発明の「水酸化アルミニウム(商品名:H-32ハイジライト)」及び「水酸化アルミニウム(商品名:H-42ハイジライト)」は、共に本件発明2の「水酸化アルミニウム」である「無機充填剤(D)」に相当する。
甲1発明における、ポリウレタン樹脂組成物100質量部に対する、「分子内に硫黄原子を含むフェノール系酸化防止剤(商品名:IRGANOX565、BASFジャパン社製」、並びに、「水酸化アルミニウム(商品名:H-32ハイジライト)」及び「水酸化アルミニウム(商品名:H-42ハイジライト)」の配合量は、それぞれ、0.1質量部、72質量部と計算され、ともに本件発明2の「0.05質量部?2.0質量部」、「20質量部?80質量部」の範囲に包含される。
そして、甲1発明において、「ポリウレタン樹脂組成物」は、「ポリブタジエンポリオール」と「ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体」とが反応することによって得られるものであるといえる。
してみると、本件発明2と甲1発明とは、
「水酸基含有化合物(A)とイソシアネート基含有化合物(B)とを反応させることにより得られるポリウレタン樹脂組成物であって、
炭素数が6以上のアルキルチオ基を有する酸化防止剤(C)を含み、
前記酸化防止剤(C)は、前記アルキルチオ基を有するフェノール化合物であり、
前記ポリウレタン樹脂組成物は、さらに、無機充填剤(D)を含み、
前記ポリウレタン樹脂組成物は、前記ポリウレタン樹脂組成物100質量部に対して、前記酸化防止剤(C)を0.05質量部?2.0質量部と、前記無機充填剤(D)を20質量部?80質量部含み、
前記無機充填剤(D)は、アルミナ、水酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、水酸化マグネシウムおよび酸化マグネシウムのうちの少なくとも1種を含む、ポリウレタン樹脂組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
「水酸基含有化合物(A)」につき、本件発明2では「ヒマシ油系ポリオールを含」むのに対して、甲1発明では「ポリブタジエンポリオール」である点。

<相違点2>
「無機充填剤(D)」につき、本件発明2では「ナトリウム含有量が、Na_(2)O換算で」「無機充填剤(D)の0.15質量%以下であ」るのに対して、甲1発明ではこの点についての特定がない点。

上記相違点について検討する。
<相違点1>について
甲1には、ポリオールとして「ヒマシ油」が記載されている(記載事項(ウ-1))。
しかしながら、甲1は、ポリオール、ポリイソシアネート、可塑剤、無機充填剤、及び分子内に硫黄原子を含まないフェノール系酸化防止剤を含有するポリウレタン樹脂組成物によって、酸化防止剤を含んでいながらも、銀等の周囲の金属の高温下における変色や腐食をより抑制することができるという課題、及び、一旦硬化させた後の、高温による高度上昇がより抑制されたポリウレタン樹脂組成物を提供するという課題を解決しようとするものである(記載事項(ア-1)及び(イ-1))。
そして、甲1発明は、比較例として記載されたものであり、高温放置後の銀の変色が抑制できなかったことが記載されている(記載事項(ウ-1))。
そうすると、たとえ、甲1にポリオールとして「ヒマシ油」が記載されていたとしても、甲1の課題を解決することができなかった甲1発明において、ポリオールとして、ポリブタジエンポリオールに代えて、又は、ポリブタジエンポリオールに加えて、ヒマシ油を使用することは、何ら動機づけられるものではない。
また、甲2ないし甲7をみても、甲1発明において、ポリオールとして、ポリブタジエンポリオールに代えて、又は、ポリブタジエンポリオールに加えて、ヒマシ油を使用することは、何ら動機づけられるものではない。
してみると、上記相違点1に係る事項は当業者が容易に想到しうるものではない。

よって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲2ないし7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)本件発明3について
本件発明3は、本件発明2のポリウレタン樹脂組成物により封止された封止物に係るものである。
そして、上記(ア)で述べたように、本件発明2が、甲1に記載された発明及び甲2ないし7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないのだから、本件発明3も、甲1に記載された発明及び甲2ないし7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 小括
よって、申立理由1のうち、本件発明2及び3に係るものは、いずれも理由がない。

(2)申立理由2について
ア 申立理由2は、具体的には、以下のとおりのものである。
(ア)実施例14及び15は、ナトリウム含有量が本件発明の範囲外であるから、本件特許明細書等の発明の詳細な説明は、本件発明を、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえず、
また、下記の点について、実施例に記載されているもの以外とした場合に、実施例で記載されたものと同様の効果を奏するのかが不明であるから、本件特許明細書等の発明の詳細な説明は、本件発明を、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
(イ)ヒマシ油系ポリオールの種類及びヒマシ油系ポリオールの組み合わせ
(ウ)ヒマシ油系ポリオールの配合量
(エ)イソシアネート基含有化合物の種類及びイソシアネート基含有化合物の組み合わせ
(オ)イソシアネート基含有化合物の配合量
(カ)アルキルチオ基を有する酸化防止剤の種類及びアルキルチオ基を有する酸化防止剤の組み合わせ
(キ)アルキルチオ基を有する酸化防止剤の配合量
(ク)無機充填剤の種類及び無機充填剤の組み合わせ
(ケ)無機充填剤のナトリウム含有量
(コ)無機充填剤の配合量

イ 上記(ア)について、確かに、実施例14及び15におけるナトリウム含有量は、本件発明の範囲外であるが、実施例1ないし13には、本件発明のポリウレタン樹脂組成物を製造すること、及び製造されたポリウレタン樹脂組成物が耐熱性が高く、熱伝導率が良好であり、混合粘度が好適に使用可能な範囲にあることが記載されており(【0051】?【0064】、【表1】)、また、ポリウレタン樹脂組成物により、電気電子部品、医療用品、玩具、および生活用品等の物品を封止することができることも記載されている(【0050】)のだから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者であれば、本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものであるということができ、実施例14及び15の記載があったとしても、このことは何ら覆されない。
また、上記(イ)?(オ)、(ク)?(コ)について、発明の詳細な説明には、
(イ)水酸基含有化合物を2種以上組み合わせて使用してよいことや、ヒマシ油系ポリオールとして各種のものを使用できることが記載され(【0018】?【0020】)、
(ウ)ヒマシ油系ポリオールの配合量は使用するポリオール全体の60質量%以上が好ましいと記載されている(【0019】)ものの、これ以外の配合量である場合が排除されてはおらず、
(エ)イソシアネート基含有化合物としては、特に限定されないこと、2種以上組み合わせて使用してよいことが記載され(【0029】?【0035】)、
(オ)イソシアネート基含有化合物の含有量は、ポリウレタン樹脂組成物100質量部に対して0.5質量部以上であることが好ましく、80質量部以下であることが好ましいと記載されている(【0036】)ものの、これ以外の配合量である場合が排除されてはおらず、
(ク)無機充填剤として、アルミナ、水酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、水酸化マグネシウム及び酸化マグネシウムを使用することが記載され(【0042】)、
(ケ)無機充填剤のナトリウム含有量はNa_(2)O換算で無機充填剤の0.15質量%以下であることがさらに好ましいことが記載され(【0043】)、
(コ)無機充填剤の配合量はポリウレタン樹脂組成物100質量部に対して20質量部以上、90質量部以下であることが好ましいことが記載されている(【0044】)ものの、これ以外の配合量であることが排除されていない。
そして、上記(イ)?(オ)、(ク)?(コ)について、実施例で具体的に記載されたもの以外のものである場合には、本件発明のポリウレタン樹脂組成物や封止物を製造、使用できないという格別の根拠もないし、申立人はこの点について、何ら具体的な根拠を示していない。
さらに、(カ)及び(キ)について、本件訂正により、アルキルチオ基を有する酸化防止剤が、炭素数6以上のアルキルチオ基を有する酸化防止剤であり、その配合量が、ポリウレタン樹脂組成物100質量部に対して0.05?2.0質量部であるという特定がなされた。一方、発明の詳細な説明には、アルキルチオ基を有する酸化防止剤のアルキルチオ基における炭素数は6以上が好ましいこと、アルキルチオ基を有する酸化防止剤を2種以上組み合わせて使用してよいこと、及び、酸化防止剤の配合量は、ポリウレタン樹脂組成物に対して2.0質量以下が好ましく、0.05質量部以上が好ましいことが記載されている(【0038】、【0041】)ところ、炭素数6以上のアルキルチオ基を有する酸化防止剤について、実施例で具体的に記載されたもの以外のものである場合には、本件発明のポリウレタン樹脂組成物や封止物を製造、使用できないという格別の根拠もないし、申立人はこの点について、何ら具体的な根拠を示していない。
これらの事項と、本件特許明細書の実施例には、本件発明のポリウレタン樹脂組成物が具体的に記載されていることに鑑みれば、上記(イ)?(コ)について、実施例で具体的に記載された以外のものである場合にも、本件発明のポリウレタン樹脂組成物や封止物を製造、使用できるとみるのが普通である。
そうであれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明が、本件発明を、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえない。

ウ よって、申立理由2のうち、本件発明2及び3に係るものは、いずれも理由がない。

(3)申立理由3について
ア 申立理由3は、具体的には、以下のものである。
本件発明に関し、下記の点について、実施例で記載されたもの以外とした場合に、実施例で記載されたものと同様の効果を奏するのかが不明であるから、本件発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであるというものである。
(ア)ヒマシ油系ポリオールの種類及びヒマシ油系ポリオールの組み合わせ
(イ)ヒマシ油系ポリオールの配合量
(ウ)イソシアネート基含有化合物の種類及びイソシアネート基含有化合物の組み合わせ
(エ)イソシアネート基含有化合物の配合量
(オ)アルキルチオ基を有する酸化防止剤の種類及びアルキルチオ基を有する酸化防止剤の組み合わせ
(カ)アルキルチオ基を有する酸化防止剤の配合量
(キ)無機充填剤の種類及び無機充填剤を組み合わせ
(ク)無機充填剤のナトリウム含有量
(ケ)無機充填剤の配合量

イ これに対して、本件発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者がこれらの発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえることは、上記1(2)で述べたとおりである。そして、上記(ア)?(ケ)について、実施例で記載されているもの以外の場合に、本件発明の課題を解決することができないという格段の根拠もない。

ウ よって、申立理由3のうち、本件発明2及び3に係るものは、いずれも理由がない。

3 平成31年2月28日に提出された意見書の申立人の主張について
(1)上記意見書において、申立人は以下の主張をしている。
ア 炭素数8のアルキルチオ基のみの実施例の記載から、炭素数6以上のアルキルチオ基を有するフェノール化合物であれば、高い耐熱性を有するポリウレタン樹脂組成物を提供するという課題が解決できることは、当業者が理解することができない。また、通常炭素数が長くなればなるほど相溶性等その他の物性値が悪くなることは予測できることから、本件発明が、高い耐熱性を有するポリウレタン樹脂組成物を提供するという課題が解決できることは、当業者が理解することができない。

イ 本件発明2は、水酸基含有化合物(A)として「ヒマシ油系ポリオールを含み」と記載するものであるが、特許明細書等の実施例をみても、水酸基含有化合物としては、ヒマシ油系ポリオールのみの例しか記載されていない。そして、参考資料1に「液状ポリブタジエンポリオールから得られるポリウレタン樹脂中にはブタジエン骨格中に含まれる二重結合が多数存在する関係から酸素の影響を受けやすく空気中の耐熱性に劣る欠点がある」と記載されており(【0003】)、ポリオールの種類によっては耐熱性が必ず維持できるとは考えられないから、本件発明2について、高い耐熱性を有するポリウレタン樹脂組成物を提供するという課題が解決できることを当業者は理解することができない。

(2)上記主張について検討する。
ア 申立人が主張する、通常炭素数が長くなればなるほど相溶性等その他の物性値が悪くなることについては、何ら具体的な証拠は挙げられていないから、この主張は技術常識に基づく主張であるとはいえず、採用できない。仮に通常炭素数が長くなればなるほど相溶性等その他の物性値が悪くなるのであったとしても、当該「相溶性等その他の物性値」と、本件発明におけるポリウレタン樹脂組成物の耐熱性との技術的関係は何ら明らかでないから、通常炭素数が長くなればなるほど相溶性等その他の物性値が悪くなることをもって、本件発明において、C8以外の酸化防止剤を用いた場合に、高い耐熱性を有する樹脂組成物を提供するという課題を解決できるということを否定できるものではない。
そして、「C8酸化防止剤」と「C8以外の酸化防止剤」とは、炭素数6以上のアルキルチオ基を有するフェノール化合物であるという点で互いに類似する化学構造を有し、また、C8酸化防止剤とC8以外の酸化防止剤が、ポリウレタン樹脂組成物への配合の際、作用効果が大きく異なるという格別の根拠もないから、C8以外の酸化防止剤を用いた場合にも、C8酸化防止剤を用いた場合と同様に、耐熱性に優れたポリウレタン樹脂組成物が得られるとみるのがごく自然であることは、上記1(2)オで述べたとおりである。
よって、主張アは採用できない。

イ 確かに参考資料1には「液状ポリブタジエンポリオールから得られるポリウレタン樹脂中にはブタジエン骨格中に含まれる二重結合が多数存在する関係から酸素の影響を受けやすく空気中の耐熱性に劣る欠点がある」と記載されており、この記載によれば、液状ポリブタジエンポリオールから得られたポリウレタン樹脂は耐熱性に劣ることが本件特許出願時に知られていたといえる。
しかしながら、本件発明は、ヒマシ油系ポリオールを含む水酸基含有化合物(A)、イソシアネート基含有化合物(B)、特定の酸化防止剤(C)及び特定の無機充填剤(D)を含むことにより、高い耐熱性を有するポリウレタン樹脂組成物を形成するものである(本件明細書【0011】?【0016】)ところ、参考資料1には上記特定の酸化防止剤や無機充填剤についての記載はない。してみれば、上記参考資料1の記載を、上記特定の酸化防止剤及び無機充填剤を含む本件発明2のポリウレタン樹脂組成物が、水酸基含有化合物(A)としてヒマシ油系ポリオールのみではなく、例えばポリブタジエンポリオールを含む場合には、高い耐熱性を有するという課題を解決できない、ということを示す技術常識としてただちに採用することはできない。
また、本件特許明細書には、「水酸基含有化合物(A)としては、耐熱性向上の観点から、ヒマシ油系ポリオールを含むことが好ましい。」と記載されており(【0019】)、実施例には、水酸基含有化合物(A)としてヒマシ油系ポリオールを使用したポリウレタン樹脂組成物が耐熱性に優れたものであることが記載されている。これらの記載からみれば、ヒマシ油系ポリオールを含む水酸基含有化合物(A)を含み、本件発明で特定された他の成分を含むポリウレタン樹脂組成物は、耐熱性が向上したものであるということを認識できる。そして、仮に、液状ポリブタジエンポリオールから得られたポリウレタン樹脂は耐熱性に劣ることが知られていたとしても、本件発明において、水酸基含有化合物(A)がヒマシ油系ポリオールに加えてヒマシ油系ポリオール以外の水酸基含有化合物を含む場合に、耐熱性が高まらないということの根拠は何らない。
よって、主張イは採用できない。

第5 まとめ
以上のとおりであるから、本件発明2及び3に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件発明2及び3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項1は削除されたので、本件発明1に係る特許異議申立ては却下する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
水酸基含有化合物(A)とイソシアネート基含有化合物(B)とを反応させることにより得られるポリウレタン樹脂組成物であって、
炭素数が6以上のアルキルチオ基を有する酸化防止剤(C)を含み、
前記酸化防止剤(C)は、前記アルキルチオ基を有するフェノール化合物であり、
前記ポリウレタン樹脂組成物は、さらに、無機充填剤(D)を含み、
前記無機充填剤(D)のナトリウム含有量が、Na_(2)O換算で前記無機充填剤(D)の0.15質量%以下であり、
前記ポリウレタン樹脂組成物は、前記ポリウレタン樹脂組成物100質量部に対して、前記酸化防止剤(C)を0.05質量部?2.0質量部と、前記無機充填剤(D)を20質量部?80質量部含み、
前記水酸基含有化合物(A)はヒマシ油系ポリオールを含み、
前記無機充填剤(D)は、アルミナ、水酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、水酸化マグネシウムおよび酸化マグネシウムのうちの少なくとも1種を含む、ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項3】
請求項2に記載のポリウレタン樹脂組成物により封止された封止物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-04-02 
出願番号 特願2017-67361(P2017-67361)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (C08L)
P 1 651・ 121- YAA (C08L)
P 1 651・ 537- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 今井 督  
特許庁審判長 近野 光知
特許庁審判官 海老原 えい子
佐藤 健史
登録日 2018-02-09 
登録番号 特許第6286085号(P6286085)
権利者 第一工業製薬株式会社
発明の名称 ポリウレタン樹脂組成物および封止物  
代理人 水鳥 正裕  
代理人 中村 哲士  
代理人 蔦田 正人  
代理人 水鳥 正裕  
代理人 有近 康臣  
代理人 中村 哲士  
代理人 前澤 龍  
代理人 富田 克幸  
代理人 前澤 龍  
代理人 蔦田 正人  
代理人 有近 康臣  
代理人 富田 克幸  

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