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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B41M
管理番号 1351846
審判番号 不服2018-6515  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-05-11 
確定日 2019-06-04 
事件の表示 特願2015-506027「産業用インクジェット印刷機向け印刷用微塗工紙」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 8月20日国際公開、WO2015/122252、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)1月22日(優先権主張平成26年2月12日)を国際出願日とする出願であって、平成29年10月23日付けで拒絶理由が通知され、同年12月15日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、平成30年2月28日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対し、同年5月11日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2 原査定の概要
原査定の拒絶の理由の概要は、本願の請求項1及び2に係る発明は、その優先権主張の日前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:国際公開第2011/001955号
引用文献2:国際公開第2012/043322号(周知技術)
引用文献3:特開2010-149339号公報(周知技術)
引用文献4:特開2001-30619号公報(周知技術)

3 本件発明
本願の請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」及び「本件発明2」という。)は、平成29年12月15日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される、以下のとおりの発明である。
「 【請求項1】
原紙と、原紙の少なくとも一方の面に配置され、顔料およびバインダーを含有する1層以上の塗工層とを有し、塗工層の総塗工量が片面あたり6g/m^(2)以下であり、塗工層中の顔料の少なくとも1種が平均粒子径0.50μm以上1.00μm以下の重質炭酸カルシウムであり、該重質炭酸カルシウムの塗工層中の含有量が塗工層中の総顔料量100質量部に対して50質量部以上であり、前記塗工層が、カチオン性樹脂および水溶性多価陽イオン塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有し、塗工層中の該化合物の乾燥固形分換算総含有量が片面あたり0.10g/m^(2)以上1.00g/m^(2)以下であり、JIS P 8149に準拠する不透明度が92.0%以上であり、JIS P 8122に準拠するステキヒトサイズ度が1.0秒以上8.0秒以下であり、JIS P 8140に準拠する10秒コッブサイズ度が30g/m^(2)以上80g/m^(2)以下であり、且つステキヒトサイズ度に対する10秒コッブサイズ度の比が10.0以上40.0以下である、産業用インクジェット印刷機向け印刷用微塗工紙。
【請求項2】
坪量が45g/m^(2)以上75g/m^(2)以下である請求項1に記載の産業用インクジェット印刷機向け印刷用微塗工紙。」

4 引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張の日前の2011年(平成23年)1月6日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2011/001955号(以下、「引用文献1」という。)には、以下の記載事項がある。なお、下線は合議体が発明の認定等に用いた箇所に付与した。以下の文献についても同様である。

ア 「技術分野
[0001] 本発明は、印刷用塗工紙に関する。詳しくは、オフセット印刷適性を損なうことなく、インクジェット印刷においても良好な適性を有するA2マットコート紙に近い質感の印刷用塗工紙に関する。

(中略)

発明の開示
発明が解決しようとする課題
[0012] オフセット印刷適性を損なうことなく、インクジェット印刷適性を満足する印刷用塗工紙は得られていない。特にオフセット印刷適性を損なうことなく、顔料インクを採用するインクジェット印刷機に適する印刷用塗工紙は得られていない。
[0013] すなわち、本発明の目的は、印刷用塗工紙において次の課題を満足させることである。(1)オフセット印刷適性が良いこと。(2)インクジェット印刷においても十分なインク定着性やインク吸収性を有すること。(3)顔料インクを採用するインクジェット印刷機において、ドットの拡散不良を防止すること。(4)顔料インクを採用するインクジェット印刷において印刷部分の耐擦過性に優れること。
課題を解決するための手段
[0014] 上記の課題は、原紙の少なくとも一方の面に顔料およびバインダーを主成分とする塗工層を設けた印刷用塗工紙において、原紙がカチオン性化合物を含有し、塗工層が顔料として重質炭酸カルシウムを塗工層中の総顔料100質量部に対して50質量部以上含有し、塗工層の塗工量が片面あたり2.0g/m^(2)以上7.0g/m^(2)以下である印刷用塗工紙によって解決することができる。
[0015] また本発明において、カチオン性化合物がカチオン性樹脂であることで、良好なインク定着性やインク吸収性を得ることができる。
[0016] また本発明において、カチオン性化合物が多価陽イオン塩であることで、良好なインク定着性やインク吸収性を得ることができる。

(中略)

発明の効果
[0022] 本発明により、オフセット印刷適性が良好であり、かつインクジェット印刷においても良好なインク定着性とインク吸収性を有する印刷用塗工紙を得ることができる。また、顔料インクを搭載するインクジェット印刷機でもドットが適度に拡散し、白筋の発生を防止することができ、さらに印刷部分の耐擦過性に優れる印刷用塗工紙を得ることができる。」

イ 「発明を実施するための最良の形態
[0023] 以下、本発明の印刷用塗工紙について詳細に説明する。
[0024] 本発明の印刷用塗工紙に用いられる原紙としては、LBKP、NBKPなどの化学パルプ、GP、PGW、RMP、TMP、CTMP、CMP、CGPなどの機械パルプ、およびDIPなどの古紙パルプに、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリンなどの各種填料、サイズ剤、定着剤、歩留まり剤、カチオン化性化合物、紙力剤などの必要に応じて各種添加剤を配合した紙料から、酸性、中性、アルカリ性などで抄造した紙を使用できる。

(中略)

[0026] 本発明において、原紙のサイズ度は本発明の所望の効果を損なわない限りいずれのサイズ度でもよく、内添サイズ剤の量、原紙に塗布する表面サイズ剤の塗布量によって調整することができる。内添サイズ剤は例えば、酸性紙であればロジン系サイズ剤、中性紙であればアルケニル無水コハク酸、アルキルケテンダイマー、中性ロジン系サイズ剤またはカチオン性スチレン-アクリル系サイズ剤などである。また表面サイズ剤は例えば、スチレン-アクリル系サイズ剤、オレフィン系サイズ剤、スチレン-マレイン系サイズ剤などである。特に、後述するカチオン性化合物と一緒に塗布する場合には、カチオン系かノニオン系の表面サイズ剤が好ましい。原紙中のサイズ剤の含有量は、内添サイズ剤の場合、パルプ質量に対して好ましくは0.01?1.0質量%、より好ましくは0.03?0.8質量%である。表面サイズ剤の場合、原紙に塗布する表面サイズ剤の塗布量は、好ましくは0.01g/m^(2)?1.0g/m^(2)、より好ましくは0.02g/m^(2)?0.5g/m^(2)である。

(中略)

[0029] 本発明において、原紙はカチオン性化合物を含有する。カチオン性化合物を含有することによって、印刷用塗工紙はインクジェット印刷に適したインク定着性やインク吸収性を有することができる。理由は定かではないが、原紙上に塗工層を設ける際に原紙と塗工液との界面近傍で塗工液の緩い凝集が発生し、塗工層の原紙近傍がポーラスな構造になるためと考えられる。

(中略)

[0036] 本発明の印刷用塗工紙は、原紙上に顔料およびバインダーを主成分とする塗工層を有する。塗工層を設けることによって、印刷品質および外観の点で上質紙と差別化することができる。

(中略)

[0038] 本発明において、塗工層は顔料として重質炭酸カルシウムを含有する。塗工層中の重質炭酸カルシウムの含有量は、塗工層中の総顔料100質量部に対して50質量部以上であり、好ましくは60質量部以上95質量部以下である。重質炭酸カルシウムの粒子自体にはインクジェットインクを吸収する性質はない。しかし、無定形の重質炭酸カルシウム粒子に起因する粒子間に形成される空隙によって、インクジェットインクを吸収することができる。そして、塗工層が重質炭酸カルシウムを塗工層中の総顔料100質量部中50質量部以上を含有することによって、オフセット印刷適性を損なわず、インクジェット印刷適性を有することができる。塗工層中の重質炭酸カルシウムの含有量が50質量部未満の場合には塗工層の空隙の形成が不十分となり、インクジェット印刷適性が得られない。

(中略)

[0041] さらに、印刷用塗工紙の外観とインク定着性について検討した結果、印刷用塗工紙の塗工層の塗工量を片面あたり2.0g/m^(2)以上7.0g/m^(2)以下とすることによって、オフセット印刷適性とインクジェット印刷適性の両方を得ることができる。本明細書で使用される場合、塗工層の塗工量とは、固形分換算の塗工量を示す。
[0042] 塗工層の塗工量が2.0g/m^(2)未満の場合はインク定着性は良好であるが、面感が悪化して一般の上質紙に近くなる。塗工層の塗工量が7.0g/m^(2)を超えると面感は良好であるが、インク定着性が低下する。

(中略)

[0046] 本発明の別の実施態様において、印刷用塗工紙の塗工層に用いられる顔料の平均粒子径は、0.1μm以上5μm以下の範囲から選ばれることが好ましい。さらに好ましくは、顔料が、平均粒子径が異なる2種以上の顔料を含み、ここで、大きい方の顔料の平均粒子径に対する小さい方の顔料の平均粒子径が順次下記の関係式(1)を満足する。ここで「2種以上」とは、平均粒子径が異なる同種の顔料も含む。
R(a)=0.4・R(A)?0.7・R(A) 式(1)
R(A):大きい方の顔料の平均粒子径
R(a):小さい方の顔料の平均粒子径
[0047] 上記の範囲より大きい平均粒子径の顔料は、ドットの拡散不良が抑制されるが、インク定着性やインク吸収性が得られ難い場合がある。一方、上記の範囲より小さい平均粒子径の顔料は、インク定着性やインク吸収性は良好であるが、ドットの拡散不良が発生し、また塗工層の強度が得られ難い場合がある。また、顔料が、平均粒子径が異なる2種以上の顔料を含み、かつその2種以上の顔料が上記関係式(1)を満たすことによって、優れたインク定着性、インク吸収性およびドットの拡散不良抑制を得ることができる。

(中略)

[0053] 本発明おいて、塗工層は、バインダーとして従来公知の水分散性バインダーおよび/または水溶性バインダーを含有する。水分散性バインダーとしては、例えば、スチレン-ブタジエン共重合体またはアクリロニトリル-ブタジエン共重合体などの共役ジエン系共重合体ラテックス、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルの重合体あるいはメチルメタクリレート-ブタジエン共重合体などのアクリル系共重合体ラテックス、エチレン-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体などのビニル系共重合体ラテックス、ポリウレタン樹脂ラテックス、アルキド樹脂ラテックス、不飽和ポリエステル樹脂ラテックス、またはこれらの各種共重合体のカルボキシル基などの官能基含有単量体による官能基変性共重合体ラテックス、あるいはメラミン樹脂、尿素樹脂などの熱硬化合成樹脂が挙げられるが、これらに限定されない。水溶性バインダーとしては、例えば、酸化澱粉、エーテル化澱粉、リン酸エステル化澱粉などの澱粉誘導体、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリビニルアルコールまたはシラノール変性ポリビニルアルコールなどのポリビニルアルコール誘導体、カゼイン、ゼラチンまたはそれらの変性物、大豆蛋白、プルラン、アラビアゴム、カラヤゴム、アルブミンなどの天然高分子樹脂またはこれらの誘導体、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドンなどのビニルポリマー、アルギン酸ソーダ、ポリエチレンイミン、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、無水マレイン酸またはその共重合体などが挙げられるが、これらに限定されない。

(中略)

[0072] 本発明の印刷用塗工紙は、オフセット印刷にも、インクジェット印刷にも用いることができ、優れた画像品質および耐久性を有する印刷画像を得ることができる。本発明の印刷用塗工紙は、顔料インクを採用するインクジェット印刷機にも好ましく使用することができ、優れた画像品質および耐久性を有する印刷画像を得ることができる。本発明の印刷用塗工紙は、印刷速度が15m/分以上、より高速では60m/分以上、さらに高速では120m/分を超える輪転方式のインクジェット印刷機にも好ましく使用することができ、優れた画像品質および耐久性を有する印刷画像を得ることができる。
[0073] また本発明の印刷用塗工紙は、オフセット印刷のみならずグラビア印刷や他の印刷方式に用いることも可能であり、何ら制限しない。さらには、輪転方式のインクジェット印刷機の他、市販のインクジェットプリンターなどに用いることも可能である。」

ウ 「実施例
[0075] 以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその主旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、実施例において示す「部」および「%」は、特に明示しない限り乾燥固形分あるいは実質成分の質量部および質量%を示す。また、塗工量も固形分換算の塗工量を示す。
[0076](原紙の作製1)
<原紙1の作製>
濾水度400mlcsfのLBKP100部からなるパルプスラリーに、填料として軽質炭酸カルシウム12部、両性澱粉0.8部、硫酸バンド0.8部、アルキルケテンダイマー型(以下、「AKD」と記載する。)サイズ剤(サイズパインK903、荒川化学工業社製)0.10部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で酸化澱粉を乾燥付着量で3.0g/m^(2)、カチオン性樹脂としてジメチルアミン-エピクロルヒドリン重縮合物(ジェットフィックス5052、里田化工社製)を乾燥付着量で2.5g/m^(2)付着させ、マシンカレンダー処理をして坪量54g/m^(2)の原紙1を作製した。原紙1の灰分量は8.5%であった。

(中略)

[0082](印刷用塗工紙の作製1)
(実施例1)
1級カオリン(平均粒子径2.2μm)40部、重質炭酸カルシウム(ハイドロカーブ90、備北粉化工業社製、平均粒子径0.8μm)50部、プラスチックピグメント(ローペイクHP91、ロームアンドハース社製、平均粒子径1.0μm)10部からなる顔料に対し、ラテックスバインダーとしてスチレン-ブタジエン共重合体ラテックス(JSR-2605G、ガラス転移温度:-19℃、JSR社製)10部、水溶性バインダーとしてリン酸エステル化澱粉4部を配合した塗工液を、片面塗工量2.0g/m^(2)となるよう原紙1上にブレードコーターで両面塗工を行い、軽度のスーパーカレンダー処理をして実施例1の印刷用塗工紙とした。

(中略)

[0106](印刷用塗工紙の評価1)
実施例1?20および比較例1?4の印刷用塗工紙について、次に記載した方法で白紙面感、オフセット印刷適性、インク定着性、ドットの拡散不良抑制および耐擦過性について評価を行った。その結果を表1に示す。また、上記実施例1?20および比較例1?4の印刷用塗工紙作製時に使用した塗工液を配合する際に用いた重質炭酸カルシウムについて、以下に記載した方法で粒度分布を測定した。その結果を表1に示す。
[0107]<重質炭酸カルシウムの粒度分布の測定>
塗工層に配合した重質炭酸カルシウムの単独あるいは混合物の粒度分布は、日機装社製粒度分布測定器Microtrac MT3000IIを用い、以下の測定条件で測定を行った。
溶媒 :水
粒子屈折率:1.49
粒子形状 :非球形
粒度分布測定結果から、顔料の粒子径に関する体積を基準とした累積頻度曲線を作成し、測定器に付属する解析手段によって、粒子径2.0μm以下の累積頻度を算出した。
[0108]<白紙面感の評価>
白紙の面感について目視判定を行った。評価基準は以下の指標に従った。
4:面が均一であり、塗工紙としての面感に優れる。
3:マット調の塗工紙と同等の面感である。
2:非塗工紙とは異なる面感で、塗工されていることが認識できる。
1:非塗工紙と同等の面感である。
非塗工紙と明らかに異なり、白紙面感の点で優れているのは「2」以上である。
[0109]<オフセット印刷適性の評価>
ミヤコシ社製オフセットフォーム輪転機で、印刷速度:150m/分、使用インク:T&K TOKA UVベストキュア墨および金赤、UV照射量:8kW2基の条件で6000mの印刷を行い、印刷後ブランパイリングの状況、印刷サンプルの状態について目視判定を行った。評価基準は以下の指標に従った。
3:特性が良好。
2:実用上問題ない範囲。
1:特性が不良。
オフセット印刷適性の点で優れているのは「2」以上である。
[0110]<インク定着性の評価>
ミヤコシ社製インクジェット印刷機MJP-600を用い、顔料インクにて評価画像を印刷速度50m/分で印字し、200%ベタ画像部のインクの転写汚れ具合の目視判定を行った。評価基準は以下の指標に従った。
5:転写汚れがまったくなく特性が良好。
4:転写汚れがごく薄く発生しているが、特性は概ね良好。
3:転写汚れが僅かに発生しているが実用上問題ない範囲。
2:転写汚れの発生が顕著であり実用上問題あり。
1:転写汚れが酷く特性不良。
インク定着性の点で優れているのは「3」以上である。
[0111]<ドットの拡散不良抑制の評価>
ミヤコシ社製インクジェット印刷機MJP-600を用い、顔料インクにて評価画像を印刷速度50m/分で印字し、ブラックインクおよびマゼンタインクで発生する白筋の状況の目視判定を行った。評価基準は以下の指標に従った。
5:白筋がまったくなく特性が良好。
4:色によってはごく僅かに白筋が認識されるが、特性は概ね良好。
3:白筋が僅かに発生しているが実用上問題ない範囲。
2:白筋の発生が顕著であり実用上問題あり。
1:白筋の発生が酷く特性不良。
ドットの拡散不良抑制の点で優れているのは「3」以上である。
[0112]<印刷部分の耐擦過性の評価>
ミヤコシ社製インクジェット印刷機MJP-600を用い、顔料インクにて評価画像を印刷速度50m/分で印字し、18cm×18cm画サイズのブラックインクによるベタ画像部を、印刷してから1時間後に500gまたは300gの荷重で木綿のガーゼを押し付けて25回摩擦試験を行った。評価基準は以下の指標に従った。下記基準に従って目視にて評価した。3?5の評価であれば、実用上に問題はない。
5:500g荷重のとき、ほとんど傷が認められない。
4:500g荷重のとき、僅かに傷が認められるが、許容レベルである。
3:300g荷重のとき、僅かに傷が認められるが、許容レベルである。
2:300g荷重のとき、多少の傷が認められる。
1:300g荷重のとき、著しく傷が認められる。
耐擦過性の点で優れているのは「3」以上である。
[0113]
[表1]

[0114]<比較評価1>
実施例1?3と比較例1?2を比較することで、カチオン性樹脂を含有した原紙の上に塗工層を片面あたり2.0g/m^(2)以上7.0g/m^(2)以下の塗工量範囲で設けることにより、面感に優れると共に、各特性のバランスに優れた印刷用塗工紙が得られることが分かる。
実施例2と比較例4を比較することで、本発明の塗工紙の原紙として、カチオン性樹脂を含有した原紙を用いることで、インク定着性、ドットの拡散不良抑制、耐擦過性に優れた印刷用塗工紙が得られることが分かる。
実施例2、6、7と比較例3を比較することで、本発明の印刷用塗工紙の塗工層が重質炭酸カルシウムを塗工層中の総顔料100部に対して50部以上含有することにより、インク定着性、ドットの拡散不良抑制、耐擦過性に優れた印刷用塗工紙を得られることが分かる。
実施例5、8、9、11を比較することで、本発明の印刷用塗工紙の塗工層が粒子径2μm以下の累積頻度が70%以下である粒度分布を有する重質炭酸カルシウムを塗工層中の総顔料100部に対して50部以上含有することで、特にドットの拡散不良抑制がより改良されることが分かる。
実施例1?3と実施例13?17を比較することで、原紙の灰分量を10%以上にすることで、インク定着性、ドットの拡散不良抑制、耐擦過性のバランスに優れた印刷用塗工紙が得られることが分かる。」

(2)引用文献1に記載された発明
前記(1)の記載事項ウに基づけば、引用文献1には、実施例1として、以下の発明が記載されていたと認められる。
「濾水度400mlcsfのLBKP100部からなるパルプスラリーに、填料として軽質炭酸カルシウム12部、両性澱粉0.8部、硫酸バンド0.8部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤(サイズパインK903、荒川化学工業社製)0.10部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で酸化澱粉を乾燥付着量で3.0g/m^(2)、カチオン性樹脂としてジメチルアミン-エピクロルヒドリン重縮合物(ジェットフィックス5052、里田化工社製)を乾燥付着量で2.5g/m^(2)付着させ、マシンカレンダー処理をして坪量54g/m^(2)の原紙1を作製し、
1級カオリン(平均粒子径2.2μm)40部、重質炭酸カルシウム(ハイドロカーブ90、備北粉化工業社製、平均粒子径0.8μm)50部、プラスチックピグメント(ローペイクHP91、ロームアンドハース社製、平均粒子径1.0μm)10部からなる顔料に対し、ラテックスバインダーとしてスチレン-ブタジエン共重合体ラテックス(JSR-2605G、ガラス転移温度:-19℃、JSR社製)10部、水溶性バインダーとしてリン酸エステル化澱粉4部を配合した塗工液を、片面塗工量2.0g/m^(2)となるよう原紙1上にブレードコーターで両面塗工を行い、軽度のスーパーカレンダー処理をした印刷用塗工紙であって、ミヤコシ社製オフセットフォーム輪転機での印刷や、ミヤコシ社製インクジェット印刷機MJP-600を用いた印刷速度50m/分での印字に用いられる、印刷用塗工紙。」(以下、「引用発明」という。)

(3)引用文献3の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張の日前の平成22年7月8日に頒布された刊行物である特開2010-149339号公報(以下、「引用文献3」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上にインク受容層を有するインクジェット記録用紙において、支持体が、紙基材の片面に白色顔料と結着剤としてラテックスバインダーを含有する顔料塗工層を有し、且つ、顔料塗工層面のJIS P8140で規定するコッブ吸水度の30秒値が10g/m^(2)以上、25g/m^(2)以下、JIS Z8741で規定する75°光沢度が40?80%である塗工紙であり、インク受容層が、比表面積が150?250m^(2)/gの気相法シリカと、重合度2000?4500のポリビニルアルコールと、インク定着剤を含有し、且つ、ハイドロゲルを形成した状態で乾燥され、更にカレンダー処理された層であることを特徴とするインクジェット記録用紙。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用紙に関するものである。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、支持体に顔料塗工層を有する塗工紙を用いたインクジェット記録用紙であり、染料インクと顔料インクで記録適正が優れ、コックリングが少なく、光沢感のあるインクジェット記録用紙を安価に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、かかる課題を解決するために鋭意研究を行なった結果、原紙基材に直接インク受容層を形成するのでなく、コッブ吸水度の30秒値と光沢度がある特定の範囲にある塗工紙上に、特定のインク定着層を設け、更にカレンダー処理をする事により、達成するできることを見出し、本発明に至ったのである。

(中略)

【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、顔料塗工層を有する塗工紙を支持体として用い、染料インクと顔料インクのどちらを用いても高品位な記録が得られ、コックリングが少なく、光沢感のあるインクジェット記録用紙を安価に提供することができる。」

ウ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
「支持体」
従来のポリオレフィン被覆紙を支持体に用いた写真画像用のインクジェット記録体は、インク或いはインクを構成する溶媒が支持体内部に浸透することはなく、コックリングの問題はない。一方、紙基材を支持体に用いたマットタイプのインクジェット記録用紙は、粒子径の大きい(数ミクロン程度)顔料をインク受容層に用いているため、インク受容層のインク吸収量が多く、また、インク或いはインクを構成する溶媒が紙基材に浸透しても、記録速度が速く設定されており、しかも、写真画像といった画質を要求される記録を行わないので、コックリングが少々発生しても大きな問題にならない。
しかし、紙基材に、光沢感を高めるために微細な気相法シリカを含有するインク受容層を形成すると、インク受容層のインク吸収量が少ないため、インク或いはインクを構成する溶媒の多くが紙基材に浸透することになり、コックリングの問題が発生することがわかった。このような記録用紙は、写真画質の画像を出力するには適したインクジェット記録用紙とは言い難いものであった。場合によっては、プリンタ内部でコックリングが発生の為、紙詰まりのトラブルが生じることもあった。
インク受容層のインク吸収量を多くするために、塗工量を増量すると、コックリングの程度は小さくなるものの、高価な記録用紙となってしまい、そればかりかインク受容層のひび割れを抑制することが困難であった。また、ひび割れを有するインクジェット記録用紙は、記録用紙の光沢感が損なわれるばかりか、顔料タイプのインクで記録を行なった場合、印字濃度が著しく低くなってしまう。
本発明は、支持体として、紙基材のインク受容層を形成する面に顔料塗工層を有し、且つ、顔料塗工層面のJIS P8140で規定するコッブ吸水度の30秒値が10g/m^(2)以上、25g/m^(2)以下、JIS Z8741で規定する75°光沢度が40?80%である塗工紙を用いる必要がある。
【0013】
通常、A4版サイズのインクジェット記録用紙に写真画像をインクジェット記録する場合、記録用紙の先端がインクを受容してから、記録用紙の終端がインクを受容するまでおおよそ30秒程度かかる。
本発明では、コッブ吸水度の30秒値が10g/m^(2)以上25g/m^(2)以下である顔料塗工層上にインク受容層を形成することにより、印字後に記録用紙が波打つ現象(コックリング)を抑制し、インク受容層表面の光沢感も発現するものである。コッブ吸水度の30秒値が10g/m^(2)未満であると、インク或いはインクを構成する溶媒などが紙基材に浸透し難いので耐コックリング性は優れるものであるが、インク受容層の塗液が塗工紙に浸み込む量が少ないため、乾燥時に乾燥収縮に耐えられずインク受容層の塗工面が割れやすくなる。一方、25g/m^(2)を超えるとインク或いはインクを構成する溶媒が塗工紙の紙基材まで浸透するため、耐コックリング適性が劣る傾向にある。なお、好ましいコッブ吸水度は、12?24g/m^(2)程度である。

(中略)

【0039】
(インク定着剤)
インク受容層には、記録画像の耐水性や保存性を高めるために、インク定着剤を含有する。インク定着剤の代表例としては、カチオン性化合物が知られている。
カチオン性化合物としては、ポリアルキレンアミン化合物(例えばポリエチレンポリアミン、ポリプロピレンポリアミン)第2級、第3級アミノ基又は第4級アンモニウム基を有するアクリル系樹脂、ポリビニルアミン、ポリビニルアミジン、5員環を形成しているアミジン化合物、ジシアン系カチオン樹脂(例えば、ジシアンジアミド-ホルムアルデヒド重縮合物)、エピクロルヒドリン-ジメチルアミン付加重合体、ジメチルアリルアンモニウムクロライド-SO_(2)共重合体、ジアリルアミン-SO_(2)共重合体、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合体、アリルアミン塩の重合体、ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレートアンモニウム塩重合体、アクリルアミド-ジアリルアミン塩共重合体などのカチオン性高分子;シラン系、チタネート系、アルミニウム系またはジルコニウム系などのカチオン性カップリング剤;水溶性アルミニウム化合物(例えば、塩化アルミニウムまたはその水和物、硫酸アルミニウムまたはその水和物、アンモニウムミョウバン等の無機塩、無機系の含アルミニウムカチオンポリマーであるポリ水酸化アルミニウム化合物等)、水溶性ジルコニウム化合物(例えば、酢酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、ヒドロキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、塩基性炭酸ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、炭酸ジルコニウム・アンモニウム、炭酸ジルコニウム・カリウム、硫酸ジルコニウム、フッ化ジルコニウム化合物等)、水溶性チタン化合物(例えば塩化チタン、硫酸チタン等)、水溶性ランタノイド属化合物(例えば、塩化セリウム、硝酸セリウム、硫酸セリウム、酢酸セリウム、硝酸ランタン等)などの水溶性多価金属塩、等が例示できる。これらは単独或いは併用することができる。なお、カチオン性高分子は、分子量が5000より低いとインク吸収性を阻害するおそれがあるので、分子量5000以上のものを用いることが好ましい。
分子量の上限は特に限定しないが、400000以下のものが選択使用される。塗液の粘度、或いは後で述べるカチオン化シリカ分散液の粘度の点から、100000以下が好ましく、50000以下がより好ましく、30000以下が特に好ましい。
カチオン性高分子としては、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合体、ジメチルアリルアンモニウムクロライド-SO_(2)共重合体、ジアリルアミン-SO_(2)共重合体が好ましく、中でも、分子量6000以上、15000以下のジメチルジアリルアンモニウムクロライド単独重合物は高濃度のカチオン化シリカ分散液が得られるため好ましい。カチオン性高分子を使用する量は、シリカ100部に対して5?8部が望ましい。また、本発明の効果を損なわない範囲で、カップリング剤の併用も可能である。カップリング剤としてはアンモニウム基を持つシランカップリング剤が好ましい。水溶性多価金属塩としては、ポリ塩化アルミニウム、ポリ酢酸アルミニウム、ポリ乳酸アルミニウムがなどのアルミニウム化合物、酢酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム、塩化酸化ジルコニウム八水和物、ヒドロキシ塩化ジルコニウム等のジルコニウム化合物が好ましい。」

(4)引用文献4の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張の日前の平成13年2月6日に頒布された刊行物である特開2001-30619号公報(以下、「引用文献4」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくとも基紙の片面に顔料およびバインダーを主成分とするインク受容層を設けたインクジェット記録用紙において、灰化処理を500℃、4時間とした以外はJIS P-8126に準じて測定された灰分が10%以上であり、且つJIS P-8140に規定されたコッブ法による10秒サイズ度が7?50g/m^(2)である該基紙上に、顔料としてカチオン性軽質炭酸カルシウムを含有するインク受容層を絶乾重量2?10g/m^(2)塗布してなることを特徴とするインクジェット用記録用紙。
【請求項2】 インク受容層の組成物としてカチオン性高分子定着剤を含むことを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録用紙。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、インクを用いて記録するインクジェット記録用紙に関するものである。さらに詳しくは、発色性、インク吸収性、塗層強度に優れた特性を有するインクジェット記録用紙に関するものである。

(中略)

【0008】
【発明が解決しようとする課題】かかる現状に鑑み、本発明の目的は、優れた発色性、インク吸収性を有しながら、インクジェットプリンターでの搬送性不良やオフセット印刷のピッキングなどの原因となる粉落ちのない優れた塗層強度を有するインクジェット記録用紙を得ることにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、インクジェット記録用紙について、種々の検討を重ねた結果、特定の灰分とサイズ性を有する基紙上に、特定の顔料を主成分とするインク受容層を特定量設けることで、発色性やインク吸収性と塗層強度を優れたレベルで両立させることに成功し、本発明の目的が完成に至ることを見出した。
【0010】即ち、本発明は、少なくとも基紙の片面に顔料およびバインダーを主成分とするインク受容層を設けたインクジェット記録用紙において、灰化処理を500℃、4時間とした以外はJIS P-8126に準じて測定された灰分が10%以上であり、且つJIS P-8140に規定されたコッブ法による10秒サイズ度が7?50g/m^(2)である該基紙上に、顔料としてカチオン性軽質炭酸カルシウムを含有するインク受容層を絶乾重量2?10g/m^(2)塗布してなることを特徴とするインクジェット用記録用紙を提供するものである。
【0011】また、上記発明において、インク受容層の組成物としてカチオン性高分子定着剤を含むことが好ましい。」

ウ 「【0013】
【発明の実施の形態】以下に、本発明のインクジェット記録用紙について詳細に説明する。本発明のインクジェット記録用紙は、特定の特性を有する基紙上に、カチオン性軽質炭酸カルシウムを主体とするインク受容層を特定量設けることで、優れた発色性とインク吸収性を有しながら、オフセット印刷などの強い塗層強度が要求させる用途にも適用できる優れた塗層強度を有するインクジェット記録用紙である。

(中略)

【0023】さらに、その他の添加剤として、顔料分散剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、着色染料、着色顔料、カチオン性高分子定着剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤、耐水化剤、湿潤紙力増強剤、乾燥紙力増強剤などを適宜配合することもできる。
【0024】上記カチオン性高分子定着剤は、発色性やインク吸収性を向上させたり、印字した画像において水の滴下や吸湿によるインクの流れ出しや滲み出しを制御するための耐水性を付与するために好ましく、アクリルアミド・ジアリルアミン共重合体、ポリビニルアミン共重合体、ジメチルアミン・エピクロルヒドリン縮合体などを配合できるが、特にこれらの例に限定されるものではない。
【0025】本発明のインクジェット記録用紙に使用する基紙は、灰化処理を500℃、4時間とした以外はJIS P-8126に準じて測定された灰分(以下、灰分と略す)が10%以上で、且つJIS P-8140に規定されたコッブ法による10秒サイズ度(以下、サイズ度と略す)が7?50g/m^(2)であることが好ましい。ここで、灰分が10%より少ない、或いはサイズ度が7g/m^(2)より小さい場合、インクの吸収性が低下し、印字ドットが重なった部分などではインクの流れ出し、滲みが起こってしまう。また、サイズ度が50g/m^(2)より大きい場合、インク受容層中のバインダーが基紙内部まで浸透してしまい、満足する塗層強度は得られないばかりか発色性まで低下してしまう。」

5 対比・判断
(1)本件発明1
ア 対比
本件発明1と引用発明とを対比する。

(ア)引用発明の「原紙1」は、技術的にみて、本件発明1の「原紙」に相当する。

(イ)引用発明の「1級カオリン(平均粒子径2.2μm)40部、重質炭酸カルシウム(ハイドロカーブ90、備北粉化工業社製、平均粒子径0.8μm)50部、プラスチックピグメント(ローペイクHP91、ロームアンドハース社製、平均粒子径1.0μm)10部からなる顔料に対し、ラテックスバインダーとしてスチレン-ブタジエン共重合体ラテックス(JSR-2605G、ガラス転移温度:-19℃、JSR社製)10部、水溶性バインダーとしてリン酸エステル化澱粉4部を配合した塗工液を、片面塗工量2.0g/m^(2)となるよう原紙1上にブレードコーターで両面塗工を行い、軽度のスーパーカレンダー処理をした」ことにより得られる層は、その処理工程からみて、「顔料」、「ラテックスバインダー」及び「水溶性バインダー」を含有する層であって、「原紙1上に」、「両面塗工」によって形成される層である。したがって、引用発明の「1級カオリン(平均粒子径2.2μm)40部、重質炭酸カルシウム(ハイドロカーブ90、備北粉化工業社製、平均粒子径0.8μm)50部、プラスチックピグメント(ローペイクHP91、ロームアンドハース社製、平均粒子径1.0μm)10部からなる顔料に対し、ラテックスバインダーとしてスチレン-ブタジエン共重合体ラテックス(JSR-2605G、ガラス転移温度:-19℃、JSR社製)10部、水溶性バインダーとしてリン酸エステル化澱粉4部を配合した塗工液を、片面塗工量2.0g/m^(2)となるよう原紙1上にブレードコーターで両面塗工を行い、軽度のスーパーカレンダー処理をした」ことにより得られる層は、本件発明1の「原紙の少なくとも一方の面に配置され、顔料およびバインダーを含有する1層以上の塗工層」に相当する。

(ウ)引用発明の両面塗工したことにより得られる層は、「塗工液を、片面塗工量2.0g/m^(2)となるよう原紙1上にブレードコーターで両面塗工を行」うことにより得られるものである。そうすると、引用発明の両面塗工したことにより得られる層は、本件発明1の「塗工層の総塗工量が片面あたり6g/m^(2)以下」とする要件を満たしている。

(エ)引用発明の両面塗工したことにより得られる層は、「1級カオリン(平均粒子径2.2μm)40部、重質炭酸カルシウム(ハイドロカーブ90、備北粉化工業社製、平均粒子径0.8μm)50部、プラスチックピグメント(ローペイクHP91、ロームアンドハース社製、平均粒子径1.0μm)10部からなる顔料」を含有している。ここで、引用発明における「重質炭酸カルシウム(ハイドロカーブ90、備北粉化工業社製、平均粒子径0.8μm)」は、技術的にみて、本件発明1の「平均粒子径0.50μm以上1.00μm以下の重質炭酸カルシウム」に相当する。また、引用発明の、「顔料」の総顔料量100質量部に対する「重質炭酸カルシウム」の含有量は、総顔料量100質量部=(1級カオリン)40部+(重質炭酸カルシウム)50部+(プラスチップピグメント)10部に対して、50部である。したがって、本件発明1は、本件発明1の「重質炭酸カルシウムの塗工層中の含有量が塗工層中の総顔料量100質量部に対して50質量部以上」とする要件を満たしている。

(オ)引用発明の「印刷用塗工紙」は、「ミヤコシ社製インクジェット印刷機MJP-600を用いた印刷速度50m/分での印字」に用いられるものであり、「ミヤコシ社製インクジェット印刷機MJP-600を用いた印刷速度50m/分での印字」は、その印刷速度等からみて、産業用インクジェット印刷機による印刷であるといえる。したがって、引用発明の「印刷用塗工紙」は、本件発明1の「産業用インクジェット印刷機向け印刷用微塗工紙」に相当する。

(カ)以上より、本件発明1と引用発明とは、
「原紙と、原紙の少なくとも一方の面に配置され、顔料およびバインダーを含有する1層以上の塗工層とを有し、塗工層の総塗工量が片面あたり6g/m^(2)以下であり、塗工層中の顔料の少なくとも1種が平均粒子径0.50μm以上1.00μm以下の重質炭酸カルシウムであり、該重質炭酸カルシウムの塗工層中の含有量が塗工層中の総顔料量100質量部に対して50質量部以上である、産業用インクジェット印刷機向け印刷用微塗工紙。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]本件発明1は、塗工層が、カチオン性樹脂および水溶性多価陽イオン塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有し、塗工層中の該化合物の乾燥固形分換算総含有量が片面あたり0.10g/m^(2)以上1.00g/m^(2)以下であるのに対し、引用発明は、原紙1が、カチオン性樹脂を含有しており、両面塗工したことにより得られる層が、カチオン性樹脂および水溶性多価陽イオン塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有しない点。
[相違点2]本件発明1は、産業用インクジェット印刷機向け印刷用微塗工紙の、JIS P 8149に準拠する不透明度が92.0%以上であり、JIS P 8122に準拠するステキヒトサイズ度が1.0秒以上8.0秒以下であり、JIS P 8140に準拠する10秒コッブサイズ度が30g/m^(2)以上80g/m^(2)以下であり、且つステキヒトサイズ度に対する10秒コッブサイズ度の比が10.0以上40.0以下であるのに対し、引用発明は、印刷用塗工紙の、不透明度、ステキヒトサイズ度、10秒コッブサイズ度、及び、ステキヒトサイズ度に対する10秒コッブサイズ度の比が明らかとされていない点。

イ 判断
事案に鑑みて、[相違点2]について検討する。
引用文献1には、印刷用塗工紙の不透明度に関する記載はない。また、サイズ度については、記載事項イの段落[0026]に「本発明において、原紙のサイズ度は本発明の所望の効果を損なわない限りいずれのサイズ度でもよく、内添サイズ剤の量、原紙に塗布する表面サイズ剤の塗布量によって調整することができる。」と記載されているが、ステキヒトサイズ度、10秒コッブサイズ度、及び、ステキヒトサイズ度に対する10秒コッブサイズ度の比について、望ましいとされる数値範囲を示唆する記載はない。
そして、引用発明における所望の効果を損なわないよう各サイズ度を調整することによって、引用発明が、本件発明1の上記[相違点2]に係る構成を具備しているといえるかについて検討すると、引用文献1の記載事項アの段落[0013]には、「本発明の目的は、印刷用塗工紙において次の課題を満足させることである。(1)オフセット印刷適性が良いこと。(2)インクジェット印刷においても十分なインク定着性やインク吸収性を有すること。(3)顔料インクを採用するインクジェット印刷機において、ドットの拡散不良を防止すること。(4)顔料インクを採用するインクジェット印刷において印刷部分の耐擦過性に優れること。」と記載されており、段落[0022]にも、発明の効果として、「本発明により、オフセット印刷適性が良好であり、かつインクジェット印刷においても良好なインク定着性とインク吸収性を有する印刷用塗工紙を得ることができる。また、顔料インクを搭載するインクジェット印刷機でもドットが適度に拡散し、白筋の発生を防止することができ、さらに印刷部分の耐擦過性に優れる印刷用塗工紙を得ることができる。」と記載されていることから、引用発明は、上記(1)?(4)の目的を達成することが所望の効果であると考えられる。
一方、本件発明1は、本願明細書の段落[0014]の記載に基づけば、以下の5項目を解決しようとする発明である。
「1.オフセット印刷機に対する印刷適性を有すること(オフセット印刷適性)。
2.水性染料インクを使用する産業用インクジェット印刷機に対するインク吸収性が良好であること。
3.水性染料インクを使用する産業用インクジェット印刷機に対するインクの裏抜け抑制性に優れること。
4.水性顔料インクを使用する産業用インクジェット印刷機に対する印刷部分の色濃度の均一性に優れること。
5.水性顔料インクを使用する産業用インクジェット印刷機に対するインクの裏抜け抑制性に優れること。」
そして、本願明細書の段落[0043]?[0045]、及び段落[0049]には、不透明度、ステキヒトサイズ度、10秒コッブサイズ度、及び、ステキヒトサイズ度に対する10秒コッブサイズ度の比が、本件発明1において特定する範囲を外れることによって、産業用インクジェット印刷機に対するインクの裏抜け抑制性等が劣ると記載されており、比較例1?6の評価結果(段落[0070][表2])もそのことを支持している。
引用発明は、本件発明1が解決しようとする課題である5項目のうち、項目1及び項目4において共通する。さらに、「水性染料」インクを対象とするものであるかは不明であるものの、項目2においても概ね共通するといえる。しかしながら、引用発明は、「3.水性染料インクを使用する産業用インクジェット印刷機に対するインクの裏抜け抑制性に優れること。」及び「5.水性顔料インクを使用する産業用インクジェット印刷機に対するインクの裏抜け抑制性に優れること。」を解決しようとする課題に挙げておらず、評価結果を参酌しても、引用発明が上記課題を解決しているということはできない。そして、本願の実施例と引用発明とは、原紙に含まれる両性澱粉及び硫酸バンドの含有量が異なる。また、引用発明は、原紙にカチオン性化合物を含むのに対し、本願の実施例は塗工層にカチオン性化合物を含んでいる。そうすると、本願の実施例と引用発明とは、塗工層での吸水特性と原紙での吸水特性が異なると推測されるから、ステキヒトサイズ度に対する10秒コッブサイズ度の比も異なると考えられる。また、他の実施例を引用発明としても同様である。
そうすると、引用発明は、本件発明1における不透明度等のパラメータを特定しておらず、引用発明が奏する効果も、本件発明1が奏する効果と同じであるとはいえず、ステキヒトサイズ度に対する10秒コッブサイズ度の比も、本件発明1と一致するとは考えがたい。したがって、引用発明が、本件発明1の上記[相違点2]に係る構成を具備している蓋然性が高いということはできないから、上記[相違点2]は実質的な相違点である。

次に、本件発明1の上記[相違点2]に係る構成とすることが、本願の優先権主張の日前において当該分野において周知または公知であったかについて検討すると、原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された、国際公開第2012/043322号には、不透明度及びサイズ度について、何ら記載がない。また、引用文献3の記載事項アには「顔料塗工層面のJIS P8140で規定するコッブ吸水度の30秒値が10g/m^(2)以上、25g/m^(2)以下」とすることが記載されており、記載事項ウには「コッブ吸水度の30秒値が10g/m^(2)以上25g/m^(2)以下である顔料塗工層上にインク受容層を形成することにより、印字後に記録用紙が波打つ現象(コックリング)を抑制し、インク受容層表面の光沢感も発現するものである。」と記載されている。また、引用文献4の記載事項アには「JIS P-8140に規定されたコッブ法による10秒サイズ度が7?50g/m^(2)である該基紙」を用いたインクジェット用記録用紙が記載されており、記載事項ウには、「JIS P-8140に規定されたコッブ法による10秒サイズ度(以下、サイズ度と略す)が7?50g/m^(2)であることが好ましい。ここで、・・・、或いはサイズ度が7g/m^(2)より小さい場合、インクの吸収性が低下し、印字ドットが重なった部分などではインクの流れ出し、滲みが起こってしまう。また、サイズ度が50g/m^(2)より大きい場合、インク受容層中のバインダーが基紙内部まで浸透してしまい、満足する塗層強度は得られないばかりか発色性まで低下してしまう。」と記載されている。しかしながら、引用文献3及び引用文献4において、コッブサイズ度以外のパラメータについては不明であり、解決しようとする課題又は効果も異なるものである。
そうすると、本件発明1の上記[相違点2]に係る構成とすることが、本願の優先権主張の日前において当該分野において周知または公知であったとはいえず、当業者であっても、引用発明において、印刷用塗工紙の、不透明度、ステキヒトサイズ度、10秒コッブサイズ度、及び、ステキヒトサイズ度に対する10秒コッブサイズ度の比を、本件発明1の上記[相違点2]に係る構成とすることが容易になし得たということはできない。

ウ むすび
以上のとおりであるから、引用発明において、本件発明1の上記[相違点2]に係る構成とすることは、当業者であっても、容易に想到し得たということはできない。
したがって、[相違点1]について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者であっても、引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものということはできない。

(2)本件発明2
本件発明2は、本件発明1の「産業用インクジェット印刷機向け印刷用微塗工紙の、JIS P 8149に準拠する不透明度が92.0%以上であり、JIS P 8122に準拠するステキヒトサイズ度が1.0秒以上8.0秒以下であり、JIS P 8140に準拠する10秒コッブサイズ度が30g/m^(2)以上80g/m^(2)以下であり、且つステキヒトサイズ度に対する10秒コッブサイズ度の比が10.0以上40.0以下である」とする構成と同一の構成を備えるものである。したがって、本件発明2も、本件発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたということはできない。

6 むすび
以上のとおり、本件発明1及び本件発明2は、当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものということはできない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-05-20 
出願番号 特願2015-506027(P2015-506027)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B41M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 野田 定文  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 宮澤 浩
高松 大
発明の名称 産業用インクジェット印刷機向け印刷用微塗工紙  

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