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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A47K
管理番号 1352104
審判番号 不服2018-3183  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-02-16 
確定日 2019-06-20 
事件の表示 特願2015-113491「トイレットロールの芯、及び、トイレットロール」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 2月18日出願公開、特開2016- 26543〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年11月10日(優先権主張平成26年7月4日)に出願した特願2014-239303号の一部を平成27年5月18日に新たな特許出願としたものであって、平成29年7月31日付けで拒絶の理由が通知され、これに対して、同年9月30日(受付日:平成29年10月2日)に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年11月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成30年2月16日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。
そして、本件審判手続において、当審より平成30年4月12日付けで拒絶の理由を通知し、応答期間内である同年5月25日付け(受付日:同年5月28日)で意見書及び手続補正書が提出されたところである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成30年5月25日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。

「巻回されるトイレットペーパーの引き出し向きを示す識別子が内側面に設けられている、トイレットロールの芯。」

第3 拒絶の理由
平成30年4月12日の当審が通知した拒絶の理由は、次のとおりである。
この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:実願昭56-93081号(実開昭58-1394号)のマ イクロフィルム
引用文献2:特開2009-34467号公報
引用文献3:特開2009-268535号公報
引用文献4:実願昭53-31128号(実開昭54-134637号) のマイクロフィルム
引用文献5:特開2011-230918号公報

第4 引用文献について
1 引用文献1
(1)引用文献1に記載の事項
引用文献1には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、審決で付した。以下同じ。)。
ア 実用新案登録請求の範囲
「筒状の芯Sに一定の方向を示めす印Mを入れ、それによって、トイレ内等においてぺーパーホルダーにそう入する際に、より簡単に上下の判別ができ得るように成したトイレットペーパー。」

イ 考案の詳細な説明
「この考案はトイレットペーパーに関するものである。
在来のトイレットペーパーにおいては、トイレットペーパーをトイレ内等においてペーパーホルダーにそう入する際に、その上下の確認はロ一ル状に巻かれているペーパーの最表部のノリづけされていない最先端の余白の部分の向きを調べて判別していた。ところが製作上のミス等によりこのノリづけされていない余白の部分の無いものや始めから余白が無いように形成されているものもあり、
そのようなトイレットペーパーにおいては、トイレ等内のペーパーホルダーにそう入する際にはキチンと巻かれている最表部辺のペーパーをはがしてみないと上下の確認をすることができなかった。
この考案のトイレットペーパーにおいては、このようにペーパーの最表部辺をはがしてみなくても、又は始めから最表部の最先端にあるノリづけされていない余白の部分を確認しなくても、トイレ等内でペーパホルダーにトイレットペーパーをそう入する際により簡単にトイレットペーパ?の上下の確認ができ得るように成したものである。
図面について説明すると、この考案は第1図に示めすようにトイレットペーパーPの筒状の芯Sに一定の方向を示めした無数の印Mをつけたものである。この印Mの形成にあっては第2図に示めすようにトイレットペ一パ一Pの筒状の芯Sを形成するボール紙Bが丸められたり、丸めるために、細断される前の大判である時に無数の主に矢印の形状をした穴をあけることによって、そのボール紙が第2図に示めすように筒状の芯Sとなった時に一定方向を示めす印Mとなるようになす。
筒状の芯Sは通状それを形成するボール紙の地色であり、この色は白色ではないのでトイレットペーパーPの実際に使用するペーパ?は白色であるので単にボール紙Bに無数の穴を一定方向を示めしてあければ、このボール紙Bが筒状のトイレットペーパーの芯Sとなった時にその穴すなわち一定方向を示めす印Mとなって、この考案のトイレットペーパーの筒状の芯Sの内側をのぞきこめば一目でトイレットペーパーの左右が判り、それ故に上下の確認がとれ、トイレ等内においてペーパーホルダーにそう入する際に簡単に上下の判別がつく。
トイレットペーパーをこのように形成したことによりトイレ等内においてペーパーホルダーにトイレットペーパーをそう入する際の上下の判別をきわめて簡単になし得るようなさしめる上、トイレットペーパーの製作時においても在来のトイレットペーパーのようにペーパ?の最表部の最先端にノリづけしない余白の部分を形成する必要がなくなりノリづけの際の手間の省力化もできる。」

ウ 図面
図1には、芯Sに、矢印の形状(筒状の芯の軸線方向に沿って、横長形状の長方形が、図上での左端の上下が切り欠かれて尖状に形成されている形状)をした印Mを形成した点が看てとれる。

(2)引用文献1に記載の発明の認定
上記(1)に摘記された記載事項からみて、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「トイレットペーパーの筒状の芯Sの内側をのぞきこめば一目でトイレットペーパーの左右が判り、それ故に上下の確認がとれ、トイレ等内においてペーパーホルダーにそう入する際に簡単に上下の判別ができ得るように、トイレットペーパーの筒状の芯Sに、一定の方向を示めす無数の印Mをつけた、トイレットペーパーの筒状の芯S。」

2 引用文献2
(1)引用文献2には、次の事項が記載されている。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、トイレットペーパーの引き出し口の符号に関するものである。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そのため、次のような問題点があった。
(イ)トイレットペーパーを取り付けホルダーに装着しても目がわるいと裏側になっていることがある。
(ロ)トイレットペーパーを取りはずして引き出し口を表側にしなければならず大変だった。
本発明は、これらの問題点を解決するためになされたものである。」

ウ 「【課題を解決するための手段】
【0004】
トイレットペーパーの表側の引き出し口の方向を確認できる符号を設ける。
以上を特徴とするトイレットペーパー符号である。」

エ 「【発明の効果】
【0005】
トイレットペーパーの引き出し口を確認できる符号により間違いなくホルダーに取り付けられるので大変便利である。」

オ 図1から、符号4は、トイレットペーパー2の周方向に向く矢印であることが把握できる。

3 引用文献3
(1)引用文献3には、次の事項が記載されている。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の帯状の連続薄葉紙が積層一体化された連続シートが円筒状に巻きとられた衛生薄葉紙ロールであって、
前記積層一体化は、前記連続シートの側縁から離間した位置で連続シートの長手方向に沿って配されたエッジエンボスによってなされ、
そのエッジエンボスは、一方端に向かって狭窄する狭窄部を有する形状の単位エッジエンボスが、その狭窄部の狭部側がテール端縁側に位置されるようにして、連続的又は断続的に配された形状をなしている、
こと特徴とする衛生薄葉紙ロール。
【請求項2】
前記エッジエンボスは、矢印、三角形、台形が連続シートの長手方向に沿って、連続的に又は断続的に配された形状である請求項1記載の衛生薄葉紙ロール。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の衛生薄葉紙ロールは、テール端部のペーパー全幅に亘って線状の糊を付するテール端部の止着形態をとるがゆえに、接着位置対してテール端縁側の自由部分がいずれに位置しているのが視認し難く、直感的に自由部分を摘む操作をし難かった。
また、この種の衛生薄葉紙ロールは、テール端部が止着されている衛生薄葉紙ロールの形状は単純な円筒形であるため、従来の衛生薄葉紙ロールの止着形態であると、テール端部の引き出し方向が理解できず、例えば、当該衛生薄葉紙ロールを回動自在に保持する既知のペーパーホルダーにセットする際に、回転方向を誤ってセットしてしまうセットミスを誘発することがあった。
さらに、従来の止着形態では、テール端部を剥離する際に接着部分の全ての範囲に亘って完全に剥離せずに、一部が剥離せずに長さ方向に裂けてしまうことがあった。
このような裂けは、トイレットペーパーのように、非常に薄く、しかも水解性を必要とするペーパーで特に顕著であり、かかるペーパーでは、テール端部をロール部外表面から剥がす作業を極めて慎重に行う煩雑な操作を要している。
そこで、本発明の主たる課題は、回転方向や自由部分の位置を視認しやすく、しかもテール端部の剥離性に優れる衛生薄葉紙ロールを提供することにある。」

ウ 「【発明の効果】
【0006】
以上のとおり、本発明によれば、回転方向や自由部分の位置を視認しやすく、しかもテール端部の剥離性に優れるロールペーパーが提供される。」

4 引用文献4
(1)引用文献4には、次の事項が記載されている。

ア 実用新案登録請求の範囲(明細書第1頁)
「図面に示す通り、トイレットペーパーの表面に巻方向と、上下を表わす、文字や印を印刷したトイレットペーパー。」

イ 考案の詳細な説明
「本案は図面に示す通り、トイレットペーパーの表面に、巻方向を表わす矢印や、上下方向を表わす文字や印しを印刷したもので、誰にでも、ほどいて確かめずに、トイレットペーパー保持器にセットが出来る、便利で使いやすいトイレットペーパーである。」(明細書第1頁下から2行?第2頁第
4行)

5 引用文献5
(1)引用文献5には、次の事項が記載されている。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラップフィルムを巻きつけるための巻芯において;
前記ラップフィルムを前記巻芯に巻きつけた状態で、巻き方向表示標識が外部から見うるように付されていることを特徴とする;
ラップフィルム用の巻芯。
・・・
【請求項3】
前記巻芯が中空の円筒形状であり;
前記巻き方向表示標識が前記巻芯の内側面の端部、側面、外側面の端部からなる群より選択された一の箇所に付されていることを特徴とする;
請求項1または請求項2に記載のラップフィルム用の巻芯。
・・・
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の巻芯と;
前記巻芯に巻きつけられた前記ラップフィルムとを備えることを特徴とする;
ラップ巻回体。」

イ 「【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、食品包装用等のラップフィルムが巻きつけられるラップフィルム用の巻芯、当該巻芯に巻きつけられたラップフィルムと巻き芯とを備えるラップ巻回体、および当該ラップ巻回体と当該ラップ巻回体を収納する容器とを備える容器入りラップ巻回体とに関するものである。
・・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、何らかの理由で剥離したラップフィルム112の先端部113がストッパ128から外れ、先端部113の全体がラップ巻回体102の最外周に張り付いた場合には、ラップフィルム112の先端部113がどこにあるのか、またどちらの方向に巻き付いているのかを肉眼では見分けることは難しく、再びラップフィルム112の先端に剥離部119を形成するのに時間がかかってしまう。
【0008】
すなわち、先端部113の全体がラップ巻回体102の最外周部に張り付いた場合は、修復のためには容器114からラップ巻回体102を取り出さなければならない。さらに容器114から取り出したラップ巻回体102から目を離すか、あるいは持ち替えるか、あるいはどこかに置いたりすると、ラップフィルム112がラップ巻回体102に対してどちらの方向に巻かれているのか分からなくなることがある。また、ラップフィルム112の先端部113を探す際には、例えばセロハンテープ(不図示)を使って探すことが一般的であるが、その際巻き方向が分からないと、巻き方向を見つけて剥離部119を形成するのに時間がかかってしまう。
【0009】
そこで、本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、剥離したラップフィルムの先端部の全体が、ラップフィルムが巻芯に巻かれたラップ巻回体の最外周に張り付いた場合に、ラップフィルムがラップ巻回体に対してどちらの方向に巻かれているのか容易に識別することができ、短時間でラップフィルムを引き出して剥離部を形成し、ラップフィルムを使用することができる、ラップフィルム用の巻芯、ラップ巻回体、および容器入りラップ巻回体とを提供することを目的とする。
・・・
【0011】
このように構成すると、ラップフィルム用の巻芯は、ラップフィルムを巻芯に巻きつけた状態で、巻き方向表示標識が巻芯の外部から見うるように付されているので、剥離したラップフィルムの先端部の全体が、ラップフィルムを巻芯に巻回したラップ巻回体の最外周に張り付いた場合に、ラップフィルムがラップ巻回体に対してどちらの方向に巻かれているのか容易に識別することができ、ラップフィルムの先端部を巻き方向とは反対方向に剥がして、短時間でラップフィルムを引き出して剥離部を形成し、ラップフィルムを使用することができる。
・・・・
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明のラップフィルム用の巻芯によれば、ラップフィルムを巻芯に巻きつけた状態で、巻き方向表示標識が巻芯の外部から見うるように付されているので、剥離したラップフィルムの先端部の全体が、ラップフィルムを巻芯に巻回したラップ巻回体の最外周に張り付いた場合に、ラップフィルムがラップ巻回体に対してどちらの方向に巻かれているのか容易に識別することができ、ラップフィルムの先端部を巻き方向とは反対方向に剥がして、短時間でラップフィルムを引き出して剥離部を形成し、ラップフィルムを使用することができる。
・・・・
【0029】
図2(a)、(b)は、図1のラップ巻回体2に用いられる巻芯10の斜視図である。巻芯10は、従来一般のものと同様に、ボール紙等の厚紙からなる中空の円筒形状の管状体16と、この管状体16の外周面上(最外周部分)に上質紙等の薄紙を螺旋状に巻き付け接着してなる表面層18を含んで構成されている。なお、巻芯10の材質は紙に限らず、合成樹脂であってもよい。表面層18は、透明または半透明である。
・・・・
【0038】
図3(a)は、図2の標識40Aとは異なる形態の巻き方向表示標識40Bが表示された巻芯10の斜視図である。図3(b)は巻芯10の図中のB部の部分拡大図である。巻芯10の内側面46の端部(巻芯の内側面の端部)48には、標識40Bが印刷されている。標識40Bは、「巻き方向」の文字と、巻き方向を示す図形または記号である矢印44Bからなる。端部48は、標識40Bが巻芯10の外側から見ることができ視認することができる部分である。」

ウ 図面
図3の(b)には、紙の芯の内側面の端部に巻き方向表示標識40Bを設けた点が看てとれる。

第5 対比
1 本願発明と引用発明との対比
本願発明においては、本願の明細書段落【0002】に「従来、紙管にトイレットペーパーが巻回されてなるトイレットロールが知られている。当該紙管は、一般に「芯」と呼ばれている。」と記載されているように、「芯」に「トイレットペーパー」を巻回したものを「トイレットロール」と称している。これに対して、引用文献1においては、上記第4の1(1)アで摘記したように「筒状の芯Sに一定の方向を示めす印Mを入れ、それによって、トイレ内等においてぺーパーホルダーにそう入する際に、より簡単に上下の判別ができ得るように成したトイレットペーパー。」と、また、上記第4の1(1)イで摘記したように「在来のトイレットペーパーにおいては、トイレットペーパーをトイレ内等においてペーパーホルダーにそう入する際に、その上下の確認はロ一ル状に巻かれているペーパーの最表部のノリづけされていない最先端の余白の部分の向きを調べて判別していた。」と記載されているように、「芯S」にペーパーを巻回したものを「トイレットペーパー」と称している。そうすると、引用発明の「芯S」及び「トイレットペーパー」は、本願発明の「芯」及び「トイレットロール」にそれぞれ相当する。
また、引用発明の「トイレットペーパーの筒状の芯S」に入れた「一定の方向を示めす無数の印M」は、「トイレットペーパーの筒状の芯Sの内側をのぞきこめば一目でトイレットペーパーの左右が判り、それ故に上下の確認がとれ、トイレ等内においてペーパーホルダーにそう入する際に簡単に上下の判別ができ得る」ものであるから、方向(向き)を示す(識別する)ものであって、トイレットペーパーの芯の内側面に設けられていると解することができるので、本願発明の「トイレットロールの芯」の「内側面に設けられている」「向きを示す識別子」に相当する。

したがって、両者は、次の一致点で一致し、相違点で相違する。

(一致点)
「向きを示す識別子が内側面に設けられている、トイレットロールの芯。」
(相違点)
識別子が、本願発明では、「巻回されるトイレットペーパーの引き出し向きを示す」ものであるのに対し、引用発明では、「トイレットペーパーの左右が判り、それ故に上下の確認がとれ、トイレ等内においてペーパーホルダーにそう入する際に簡単に上下の判別ができ得る」ものである点。

第6 判断
1 本願発明の識別子について
本願の明細書の段落【0006】【0007】【0008】【0009】【0019】に記載された事項からみて、本願発明の「巻回されるトイレットペーパーの引き出し向きを示す識別子」は、芯に巻回されるトイレットペーパーの引き出し向きが容易に把握できるように、また、トイレットペーパーをホルダーに(適切な向きで)容易に取り付けることができるようにするために設けるものであると解される。

2 引用発明の印Mについて
上記第4の1(1)イで摘記したように、引用文献1には、「この考案のトイレットペーパーにおいては、このようにペーパーの最表部辺をはがしてみなくても、又は始めから最表部の最先端にあるノリづけされていない余白の部分を確認しなくても、トイレ等内でペーパーホルダーにトイレットペーパーをそう入する際により簡単にトイレットペーパーの上下の確認ができ得るように成したものである。図面について説明すると,この考案は第1図に示めすようにトイレットペーパーPの筒状の芯Sに一定の方向を示めした無数の印Mをつけたものである。」、「この考案のトイレットペーパーの筒状の芯Sの内側をのぞきこめば一目でトイレットペーパーの左右が判り、それ故に上下の確認がとれ、トイレ等内においてペーパーホルダーにそう入する際に簡単に上下の判別がつく。トイレットペーパーをこのように形成したことによりトイレ等内においてペーパーホルダーにトイレットペーパーをそう入する際の上下の判別をきわめて簡単になし得る」と記載されていることから、引用発明における「トイレットペーパー」の「上下の判別」は、ペーパーホルダーにトイレットペーパーをそう入する際に(すなわち、取り付ける際に)、巻回されるトイレットペーパーの引き出し向きが容易に把握できることを意味するものといえる。
そうすると、引用発明の「トイレットペーパーの筒状の芯Sの内側をのぞきこめば一目でトイレットペーパーの左右が判り、それ故に上下の確認がとれ、トイレ等内においてペーパーホルダーにそう入する際に簡単に上下の判別ができ得るように」設けた「印M」は、巻回されるトイレットペーパー(トイレットロール)の引き出し向きを判別できるもの(言い換えると、示すもの)と解することができる。

3 検討
(1)上記1,2より、引用発明の「印M」は、本願発明の「識別子」と、巻回されるトイレットペーパー(トイレットロール)の引き出し向きを判別できる(示す)点で共通するものであるといえる。すなわち、上記相違点は、実質的なものではないといえる。
(2)仮に、引用発明の「印M」が、トイレットロールの左右が判るもの、すなわち左右方向の向きを示すものであり、トイレットペーパーの引き出し向きを(直接的に)示すものでないとしても以下のとおり判断する。
トイレットペーパー(トイレットロール)に、その引き出し向きを示す印を設けることは、引用文献2(【請求項1】、【図1】等参照)、引用文献3(段落【0010】、【図1】等参照)、引用文献4(実用新案登録請求の範囲、図面等参照)に記載されているように、本願優先日前において周知の技術である。また、ラップ巻回体ではあるが、引用文献5(特に、【請求項1】、【請求項3】、【請求項5】、段落【0007】?【0009】、【0011】、【0024】、【0029】、【0038】、図3(a)(b)等参照)にも、フィルムを紙の芯に巻き、巻かれたフィルムの最外周部が張り付いた場合に、フィルムがどちらの方向に巻かれているのか容易に識別することができるようにするために、紙の芯の内側面の端部に巻き方向表示標識40B(「巻き方向」の文字及び矢印等(図形や記号))を設けること、すなわち、芯に巻かれている方向を示す印を設けることは、本願優先日前において知られた技術である。
そうすると、左右の判別を介して上下(周方向)の判別をする引用発明において、「印M」を、上記周知の技術を用いて巻回されるトイレットペーパーの引き出し向きを(直接的に)示す識別子とすることは、当業者が適宜になし得る程度のことであるといえる。

(3)効果について
本願発明の作用効果は、引用発明及び周知の技術(引用文献2?5等)に記載された事項の作用効果からみて、当業者が予測し得る程度のものである。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、引用発明において、本願発明の相違点に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

第7 審判請求人の主張について
1 審判請求人は、本願発明に用いられた「示す」という用語につき、「「示す」は、識別子がトイレットペーパーの引き出し向きを直接示していることを強調した表現である。これに対し、「特定する」とは、識別子の態様とトイレットペーパーの引き出し向きとが直接的に関連づけられていない場合にも用いられ得る表現である。・・・仮に「特定」できるものであったとしても、「印M」がトイレットペーパーの引き出し向きを「示す」とまではいえない。」(平成30年5月25日付け意見書6頁21-27行)と主張する。

しかしながら、「示す」という用語が、トイレットペーパーの引き出し向きを直接的に示すことを意味しているとしても、上記第6の3(2)で検討したとおり、当業者であれば、引用発明に上記周知技術を適用し、本願発明の構成に想到することは容易になし得ることである。

2 審判請求人は、「拒絶理由通知書の3頁目の1?5行目に書かれている内容は、確かに引用文献1に記載されている内容を纏めたものにあたる。しかしながら、その技術面の機序は不合理であって到底理解することができないものである。引用文献の記載は、たとえ虚偽であっても記載されていると言えば記載されていると言わざるを得ないものの、その真偽性を考慮することなく先行技術として引用する審理態度は失当である。」(同意見書1頁下から7?3行)、
「甲第3号証と甲第4号証に端的に示されているように、印Mが指している向きとトイレットペーパーが巻回されている向きとの関係は二通り存する。・・・引用文献1のトイレットロールは請求人が提出した甲第3号証の状態かもしれないし、甲第4号証の状態かもしれない。引用文献1のトイレットロールがそれらのうちのどちらの状態であるのかを特定するのは、原理的に不可能である。」(同意見書2頁2?15行)、
「包装紙等への説明書きがなければ上下の判別ができないものであるなら、それこそ引用文献1ではトイレットロールの発明が完成されていないことを示すものと言えるのであって、引用文献1のトイレットロールは引用発明としての適格性を欠くものといえる。」(同意見書第5頁35?38行)、
と主張する。

しかしながら、引用発明は、トイレットロールをホルダーに挿入する際のペーパー最表部の最先端の方向を適切に配置することを課題とするものであるから、「印M」は、トイレットロールの使用者に左右がわかるように設けられたものと認められる。そして、上記課題やトイレットロールの通常の使用方法からみて、トイレットロールの上下とは、ペーパーの最表部の最先端の位置が、使用者にとって手前に来た場合のトイレットロールの上下を指し示すことも明らかである。そうすると、このような場合にトイレットロールの左右が定まっているならば、使用者にとって、上又は下も一義的に定まることは明らかであるし、このような観点から、当業者は、適切なトイレットロールの上下を念頭に置いて左右を定め得るものと認められる。
そして、請求人が主張するように「甲第3号証と甲第4号証に端的に示されているように印Mが指している向きとトイレットペーパーが巻回されている向きとの関係は二通り」あり、「印M」だけでは、その指示先が左なのか右なのかは判明しないとしても、「印M」は、トイレットロールの上下の確認が取れるようにした識別子であるから、芯に「印M」を入れるだけでなく、包装紙等に説明書きを加えるなどして「印M」が左又は右のいずれを示すのか明らかにすることは、当業者が発明の具体的適用に当たって適宜なすことに過ぎない。
以上のとおりであるから、引用文献1のトイレットロールは引用発明としての適格性を欠く旨の審判請求人の主張を採用することはできない。

3 審判請求人は、「合議体は引用文献2?4に開示されている“周知技術”が引用文献1の「印M」の向きを変更する動機づけになると考えているのであろうが、引用文献2?4の“周知技術”は、いずれもトイレットペーパーの表面上に識別子を設けている態様なのであるから、これを引用文献1のトイレットロールに適用する際は、そのトイレットペーパーの表面上に識別子を設けることが動機づけられるはずである。」(同意見書第3頁19?24行)、
「引用文献5の開示に接した当業者の通常の発想によれば、巻回するものが透明ではないトイレットロールにおいては、外観で目立たない芯に識別子を設けようとすることは不自然である。トイレットロールに対して何らかの識別子を設けようとする場合、通常の発想によれば、外観で目立つトイレットペーパーに目を向け(例えば引用文献2?4に目を向け)、トイレットペーパーの表面上に識別子を設けることが動機づけられることになろう。」(同意見書第4頁16?21行)
と主張する。

しかしながら、印(識別子)を付す際にその目的や意味を理解しやすいようにすることは、当業者であれば常に考慮することであるところ、上記周知技術(引用文献2?5等)にある印(識別子)は、上下(周方向)の判別を直接的に明らかにすることができるものであるから、当業者としては、まず、トイレットロールの芯部分にある引用発明の「印M」を上記周知技術にある印(識別子)のような記号形態に変更することを試みようとするのであり、上記周知技術を引用発明のトイレットペーパーの表面上にではなく、トイレットロールの芯部分に適用する動機付けは十分にあるといえる。当業者が、上記周知技術にある印(識別子)を引用発明のペーパーの最表部に適用することを試み得るとしても、それは、引用発明の「印M」を上記周知技術にある印(識別子)に変更することを試みることと併存しうるものである。
以上のとおりであるから、審判請求人の主張を採用することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-07-02 
結審通知日 2018-07-10 
審決日 2018-07-24 
出願番号 特願2015-113491(P2015-113491)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A47K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 波多江 進舟木 淳七字 ひろみ  
特許庁審判長 前川 慎喜
特許庁審判官 大塚 裕一
西田 秀彦
発明の名称 トイレットロールの芯、及び、トイレットロール  

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