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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G05D
管理番号 1352255
審判番号 不服2018-7142  
総通号数 235 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-05-25 
確定日 2019-06-25 
事件の表示 特願2014-560998「質量流量制御器の制御を改善するためのモデルを用いるためのシステムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年9月12日国際公開、WO2013/134141、平成27年4月2日国内公表、特表2015-510207、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)3月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年3月7日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
平成28年3月 4日 :手続補正書の提出
平成29年4月25日付け:拒絶理由通知
平成29年8月 3日 :意見書及び手続補正書の提出
平成30年1月22日付け:拒絶査定(原査定)
平成30年5月25日 :審判請求書の提出

第2 原査定の概要
原査定(平成30年1月22日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1?2に係る発明は、本願の出願前に頒布された引用文献1に記載された発明並びに引用文献2に示された発明及び引用文献3?4に示された周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2001-147723号公報
2.特表2005-534110号公報
3.特開2002-127003号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2007-108925号公報(周知技術を示す文献)

第3 本願発明
本願請求項1?2に係る発明(以下、「本願発明1」?「本願発明2」という。)は、平成29年8月3日に手続補正された特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である(下線は請求人が付与)。

「【請求項1】
流体の流量を制御するための質量流量制御器において、
前記流体を受け取るための流入口と、
前記流体が該質量流量制御器を通過する流路と、
前記流路を通る前記流体の質量流量に対応する信号を提供する質量流量計と、
該質量流量制御器の流出口から流出する前記流体の前記流量を調節するための調節可能バルブと、
プライザッハモデルを利用するバルブヒステリシスモデルを用いて、所与の流量設定点に基づいて望ましいバルブ位置に前記調節可能バルブを移動させるためのバルブリフトを達成する力を生成するのに必要なバルブ駆動力を求める命令を実行するように構成された少なくとも1つの処理構成要素と、
前記求められたバルブ駆動力に基づいてバルブ制御信号を与えて、前記調節可能バルブを前記望ましいバルブ位置に調節し、該質量流量制御器の流出口から流出する前記流体の前記流量を制御するように構成されたコントローラーとを具備する流体の流量を制御するための質量流量制御器。
【請求項2】
流体の流量を制御するための方法であって、
所与の流量設定点に基づく望ましいバルブ位置に調節可能バルブを移動させるためのバルブリフトを達成する力を生成するのに必要なバルブ駆動力を、プライザッハモデルを利用するバルブヒステリシスモデルに基づいて求めることと、
プロセッサを用いて、前記求められたバルブ駆動力に基づくバルブ制御信号を与えることであって、前記望ましいバルブ位置に前記調節可能バルブを調節して前記流体の前記流量を制御することとを含む流体の流量を制御するための方法。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は理解の便のため当審にて付与。以下同)。

ア 段落【0001】
「【産業上の利用分野】本発明は、ガス等の比較的小流量の流体の流量を制御する流量制御方法に関する。」

イ 段落【0018】
「まず、本発明に係る流量制御方法を実施するためのガス質量流量制御装置について説明する。図示するようにこのガス質量流量制御装置2は、例えばステンレススチール等により成形された流体通路4を有しており、この流体通路4のガス流体の流れ方向の上流側には大部分の流量を流すバイパス6が設けられ、下流側にはガス流体の流量を制御するために弁体として例えばダイヤフラム8を備えた流量制御弁10が設けられる。」

ウ 段落【0019】
「上記バイパス6の両端側には、質量流量検出センサ部12のセンサ管14が接続されており、これにバイパス4と比較して小量のガス流体を流し得るようになっている。このセンサ管14には制御用の一対の電熱コイル16が巻回されており、これに接続されたセンサ制御回路18によりガス流体の質量流量を検出するようになっている。」

エ 段落【0020】
「ここでの検出値は、2チャンネルのA/Dコンバータ20を介して例えばマイクロコンピュータ等よりなる流量制御部22へ入力されている。また、外部から入力される流量設定値を示す設定信号もこのA/Dコンバータ20を介して上記流量制御部22へ入力される。この設定信号は、通常0?5Vのアナログ信号であり、上記A/Dコンバータ20にてデジタル信号へ変換された後に流量制御部22へ入力される。」

オ 段落【0021】
「また、上記流量制御弁10は上記ダイヤフラム8を上下駆動するためのアクチュエータとして小さなストローク範囲内で大きな推力変化を生ずる例えば積層型圧電素子24を有しており、圧電素子駆動部26からの駆動信号(駆動電圧)で制御される。上記駆動部26へは、流量制御部22からのデジタル駆動信号がD/Aコンバータ28によりアナログ信号へ変換された後に入力されており、上記流量設定値に対応した流量が流れるように流量制御弁10の操作量すなわち弁開度を制御している。」

カ 段落【0022】
「そして、この実施例においては予め複数の流量設定値に応じた前記流量制御弁の定常操作量を測定してテーブル化して記憶しておき、設定流量値が急激に変化した時には、新たに設定された流量設定値に対応した定常操作量を上記テーブルに基づいて求め、この求めた定常操作量よりも所定の割合だけ小さい初期操作量を、まず上記流量制御弁10に出力し、その後、直ちに上記初期操作量を基準として速度型PID制御(前述の数2により表される)に移行するように上記流量制御部22はプログラムされている。」

キ 段落【0027】
【表1】



ク 段落【0028】
「表1中において流量設定値Qは外部から入力される目標とする流量を表すものであり、便宜上、最大流量をQ_(1) ?Q_(10)まで10%ずつ10段階に分割しているが、更に細分化してもよい。操作量は制御弁の弁開度を示しており、流量設定値で表される流量を安定して流す時に必要とされる弁開度を示している。ここで、一般的には流量制御弁の操作量(弁開度)と流量との特性は図4に示すようにヒステリシス特性を有しており、操作量を増加していく場合と減少させていく場合とでは同じ弁開度でも流量が異なり、しかも差圧が異なることによっても流量が異なるという複雑な特性を有している。例えば弁開度が同一であるとすると差圧が大きい程、流量は大きくなり、全体の特性曲線は相似形を示すことになる。このため表1に示すように同じ流量設定値Qに対して弁開度増加時の操作量mAと、弁開度減少時の操作量mBとが存在することになり、これらを両方測定する。また、流量ゼロの時は漏れを防止するために弁は強い力で押さえ付けられているので、駆動電圧が例えば5Vよりも低い領域では、弁が開いておらずに流量はゼロであり、駆動電圧が略5Vよりも大きくなると、弁が開き始めてガスが流れ出すことになる。」

ケ 段落【0036】
「センサ管14を流れるガス流体の流量は定温度差方式のセンサ12により検出されて流体通路4全体に流れる質量流量が求められ、流量制御部22へ入力される。そして、この検出値が外部から入力されている流量設定値と同一になるようにフィードバック制御がかけられて流量制御弁10の積層型圧電素子24を駆動することにより弁開度を制御することになる。」

コ 図1


図1から、ガス質量流量制御装置2が、流体を受け取るための流入口及び流量制御弁10を出た流体が流出する流出口を具備することが読み取れる。

(2)上記(1)での記載から,引用文献1には,次の技術的事項が開示されていると認められる。

ア 上記(1)ア及びイには、流体の流量を制御するためのガス質量流量制御装置2が開示されている。

イ 上記(1)コには、ガス質量流量制御装置2が、流体を受け取るための流入口を具備することが開示されている。

ウ 上記(1)イには、ガス質量流量制御装置2が、流体通路4を具備することが開示されており、当該流体通路4は、流体がガス質量流量制御装置2を通過するものであることは明らかである。

エ 上記(1)ウ及びエには、流体の質量流量を検出し、当該検出値を流量制御部22へ入力する質量流量検出センサ部12が開示されており、前記流体とは、流体通路4を通るものであることは明らかである。

オ 上記(1)イ、オ及びケには、ガス質量流量制御装置2が、流体の流量設定値に対応した流量が流れるようにするための流量制御弁10を具備することが開示されている。また、上記(1)コから、前記流体は、ガス質量流量制御装置2の流出口から流出する流体であることが読み取れる。したがって、上記(1)イ、オ、ケ及びコから、ガス質量流量制御装置2が、ガス質量流量制御装置2の流出口から流出する流体の流量設定値に対応した流量が流れるようにするための流量制御弁10を具備すると認められる。

カ 上記(1)カ、キ及びクには、流量制御弁10のヒステリシス特性を踏まえ、同じ流量設定値Qに対して、弁開度増加時の操作量mAと、弁開度減少時の操作量mBとを、区別して設定するテーブルが開示されている。

キ 上記(1)オ及びケには、駆動信号を与えて、流体の流量設定値に対応した流量が流れるように流量制御弁10の操作量すなわち弁開度を制御する流量制御部22が開示されている。上記(1)コから、前記流体は、ガス質量流量制御装置2の流出口から流出する流体であることが読み取れる。したがって、上記(1)オ、ケ及びコから、駆動信号を与えて、流量制御弁10の操作量すなわち弁開度を制御しガス質量流量制御装置2の流出口から流出する流体の流量設定値に対応した流量が流れるように制御する流量制御部22が開示されていると認められる。

(3)上記(2)から、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されていると認められる。

「流体の流量を制御するためのガス質量流量制御装置2において、
前記流体を受け取るための流入口と、
前記流体がガス質量流量制御装置2を通過する流体通路4と、
流体通路4を通る前記流体の質量流量を検出し、当該検出値を流量制御部22へ入力する質量流量検出センサ部12と、
ガス質量流量制御装置2の流出口から流出する前記流体の流量設定値に対応した流量が流れるようにするための流量制御弁10と、
流量制御弁10のヒステリシス特性を踏まえ、同じ流量設定値Qに対して、弁開度増加時の操作量mAと、弁開度減少時の操作量mBとを、区別して設定するテーブルと、
駆動信号を与えて、流量制御弁10の操作量すなわち弁開度を制御しガス質量流量制御装置2の流出口から流出する前記流体の流量設定値に対応した流量が流れるように制御する流量制御部22とを具備する流体の流量を制御するためのガス質量流量制御装置2。」

2 引用文献2について
(1)原査定の拒絶の理由において引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 段落【0081】
「さらに、GLLコントローラ150は、セットポイント信号SI2を受けるための第2の入力を含む。セットポイントは、マスフローコントローラ100によって与えられるべき所望の流体流れの指標を指す。・・・」

イ 段落【0082】
「流れ信号FS2およびセットポイント信号SI2に部分的に基づき、GLLコントローラ150は、駆動信号DSをバルブ170を制御するバルブアクチュエータ160に与える。バルブ170は典型的にはフローメータ110の下流に設けられ、バルブの制御される部分の変位に、少なくとも部分的に依存して、ある質量流量を許可する。バルブの制御される部分は、図16を参照してより詳細に説明するように、流路の断面をわたって設置される可動プランジャであってもよい。バルブは、流体が流れることを許可される断面における開口部の面積を増大または減少させることにより、流路における流量を制御する。典型的には、質量流量は、所望の量だけバルブの制御される部分を機械的に変位させることにより制御される。変位という用語は一般的に、質量流量が少なくとも部分的に依存するバルブの変数を記述するために用いられる。したがって、断面における開口部の面積は、制御される部分の変位に関連し、一般的にバルブ変位と呼ばれる。」

ウ 段落【0084】
「たとえば、図10に示すバルブにおいて、ジェットオリフィス1040および平坦部1050の上の、プランジャの裏1026とプランジャの面1025との間の差圧は、プランジャをジェットに向けようとする。オリフィス上のプランジャ面は、流路の出口圧力に実質的に等しい圧力を受ける。オリフィスの端縁1045から平坦部の外側端縁1055に向けて、プランジャ面は圧力勾配を受けるが、平坦部の外側端縁での圧力は、センサバイパスを渡るいずれの圧力降下をも除いた入口圧力と実質的に等しい。プランジャの、裏側を含む残りの部分は、センサバイパスを渡るいずれの圧力降下をも除いた入口圧力と実質的に等しい圧力を受ける。したがって、プランジャ1020は、次のように表わし得る圧力に依存する力を受ける。力=(P_(I)-P_(O))*A、ただしP_(I)は入口圧力に等しく、P_(O)は出口圧力に等しく、Aはプランジャの有効面積に等しい。プランジャの有効面積は、オリフィスの面積およびオリフィスと平坦部との面積の範囲内で、バルブ間で変化し得る。」

エ 段落【0272】
「E.力バルブモデル
1つの好適な力モデルを、図10に示す自由浮動プランジャを用いたバルブに関連して説明する。プランジャの位置#は、いくつかの力のバランスにより制御される。第1の力は、プランジャをそのリセット位置に戻そうとするばね力である。第2の力は、電子構成要素の制御下で、プランジャをその静止位置から遠ざけるように移動させようとする、ソレノイドからの磁気力である。第3の力は、プランジャをジェットに近づける(順流れバルブに対して)かまたは遠ざけ(逆流れバルブに対し)ようとする、ジェットオリフィスおよび平坦部の上方の、プランジャの裏とプランジャの面との間の差圧である。第4の力は、ジェット平坦領域の外部の、プランジャの裏とプランジャの面との間の流れ依存差圧である。この効果は、ジェット設計により十分に制御することができる。」

オ 段落【0276】
「Fm(d,l)は揚程1でバルブ駆動dによりプランジャに作用する力である。」

カ 段落【0278】
「L=バルブ揚程
D=ゼロ圧力降下で揚程Lを提供するために必要となるバルブ駆動
Dd=バルブ駆動における小さな変化
D′=圧力降下Pで揚程Lを提供するために必要となるバルブ駆動
P=バルブをわたる圧力降下・・・」

キ 段落【0287】
「たとえば、マスフロー制御バルブアクチュエータまたはドライバは、GLLコントローラからバルブ駆動信号Dを受け、それを所望の電流Iに変換し、次いでその値を要求されるPWM設定に変換し得る。補正されたバルブ駆動信号D′を以下のように計算することが必要である。」

ク 段落【0288】
「D′=D+Kp*(Pi-Po)/dF(D)
但し
Kpはバルブ駆動属性であり、
Piは入口圧力であり、
Poは推定されるまたは測定された出口圧力であり、
dF(D)は、Dの任意の関数、Dで評価されるdFm/dDである。」

ケ 段落【0289】
「したがって、変位補償は、バルブから見た入口および出口圧力の間の圧力勾配によって生じるバルブ変位を補償するために実現され得る。」

コ 段落【0290】
「dF(D)項は、所与のコントローラ/バルブ組合せに対して固定されることができ、特定の種類のバルブに対してdF(D)を求めることが可能であり、その種類のバルブを有するマスフローコントローラの各々ごとに利用することが可能である。したがって、dF(D)はバルブに依存し、したがって異なったバルブの種類に対して求められる必要がある。dF(D)を求めるための1つの方法を以下に説明する。」

サ 図1

(2)上記(1)ア?サから、引用文献2には次の技術的事項(以下、「引用文献2記載の技術的事項」という。)が開示されていると認められる。

「フローメータ110、GLLコントローラ150、バルブアクチュエータ160およびバルブ170を備えたマスフローコントローラ100において、
力バルブモデルを用いて、バルブ駆動dによりプランジャに作用する力Fmを通じて、バルブ駆動信号Dを計算し、バルブアクチュエータ160を動作させること。」

3 引用文献3及び引用文献4について
(1)原査定において周知技術を示す文献として引用された引用文献3には、次の事項が記載されている。

ア 段落【0014】
「超磁歪素子の持つヒステリシス特性とは、磁界を与えて超磁歪素子(ロッド)に寸法変化を起こさせた後、その磁界を取り除いた時に、もとの状態に戻らない現象をさすものである。本発明の如く、姿勢制御プレートの駆動力として超磁歪アクチュエータを用いる場合には、ヒステリシス特性が、目標変位値に合わせた入力値(指令値)と実際の出力値の違いに繋がり精度を悪化するので、予めそのヒステリシス特性による回復の狂いを予測して、それを補償する制御システムを組み込むことが求められる。」

イ 段落【0015】
「本発明においては、上述のヒステリシス特性を補償するための制御システムとして、数学関数(直線、円弧、スプラインなど)で記述したヒステリシスモデル、好ましくはプライザッハモデルに基づく逆モデルを用いることを特徴とする。プライザッハモデルは磁性材料の磁化状態の変化を予測するためのものであるが、本発明においては、超磁歪材料のヒステリシス特性を示す現象のシミュレーションに応用することを特徴とする。即ち、一つのアクチュエータを、ヒステリシスを最も単純化したヒステリシス要素の集合体として捉え、ヒステリシス要素の分布に関わるテーブルを作成する。このテーブルからアクチュエータの目標変位量を出力するための電流入力値を算出できるので、ヒステリシス特性を打ち消すことによって規定の変位パスを教示することができる。すなわち、これにより単純な線形制御と同じ扱いで対応可能となる。図6にプライザッハモデルによるヒステリシスの補償の概念を示す。すなわち、プラントPをヒステリシスHと線形プラントP_(0)の積と見なし、これにヒステリシスの逆関数を掛け、ヒステリシスを打ち消すことを考える。もしNが正確にヒステリシスの逆関数となっているならば、ヒステリシス特性を打ち消し、プラントの特性を線形なものとして扱うことができる。uは入力値、yは出力値である。このプライザッハモデルを応用した逆モデルによる制御モデルを、本発明の姿勢制御プレートに取付ける3つの超磁歪アクチュエータの制御モデルとして用いることにより、X、Y、Zの3軸同時に、1/100秒単位の角度(θx、θyおよびθz)まで、正確かつリアルタイムで応答する姿勢制御が可能となる。」

ウ 図6


(2)上記(1)ア?ウから、引用文献3には次の技術的事項(以下、「引用文献3記載の技術的事項」という。)が開示されていると認められる。

「姿勢制御プレートにおいて、ヒステリシス特性を有する制御対象のモデルとして、プライザッハモデルを使用し、超磁歪アクチュエータの目標変位量を出力するための電流入力値を算出すること。」

(3)原査定において周知技術を示す文献として引用された引用文献4の段落【0008】では、従来技術として、引用文献3に記載のプライザッハモデルの説明が引用されている。

(4)上記(1)?(3)から、原査定において周知技術を示す文献として引用された引用文献3及び引用文献4には、次の周知技術(以下、「引用文献3及び引用文献4で示された周知技術」という。)が開示されている。
「姿勢制御プレートにおいて、ヒステリシス特性を有する制御対象のモデルとして、プライザッハモデルを使用し、超磁歪アクチュエータの目標変位量を出力するための電流入力値を算出すること。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)引用発明との対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

ア 引用発明における「ガス質量流量制御装置2」、「流体通路4」、「質量流量検出センサ部12」、「流量制御弁10」、「流量設定値Q」、「テーブル」、「駆動信号」、「流量制御部22」は、それぞれ、本願発明1における「質量流量制御器」、「流路」、「質量流量計」、「調節可能バルブ」、「流量設定点」、「処理構成要素」、「バルブ制御信号」、「コントローラー」に相当する。

イ 引用発明における「質量流量検出センサ部12」(「質量流量計」に相当)が「流体通路4を通る前記流体の質量流量を検出し、当該検出値を流量制御部22へ入力する」構成は、本願発明1における「質量流量計」が「前記流路を通る前記流体の質量流量に対応する信号を提供する」構成に相当する。

ウ 引用発明における「流量制御弁10」(「調節可能バルブ」に相当)が「ガス質量流量制御装置2の流出口から流出する前記流体の流量設定値に対応した流量が流れるようにする」構成は、本願発明1における「調節可能バルブ」が「該質量流量制御器の流出口から流出する前記流体の前記流量を調節する」構成に相当する。

エ 引用発明における「テーブル」(「処理構成要素」に相当)が「流量制御弁10のヒステリシス特性を踏まえ、同じ流量設定値Qに対して、弁開度増加時の操作量mAと、弁開度減少時の操作量mBとを、区別して設定する」構成と、本願発明1における「処理構成要素」が「プライザッハモデルを利用するバルブヒステリシスモデルを用いて、所与の流量設定点に基づいて望ましいバルブ位置に前記調節可能バルブを移動させるためのバルブリフトを達成する力を生成するのに必要なバルブ駆動力を求める命令を実行する」構成とは、「バルブのヒステリシス特性を踏まえ、所与の流量設定点に基づいて望ましいバルブ位置に前記調節可能バルブを移動させる」点を限度として一致する。

オ 引用発明における「流量制御部22」(「コントローラー」に相当)が「駆動信号を与えて、流量制御弁10の操作量すなわち弁開度を制御しガス質量流量制御装置2の流出口から流出する前記流体の流量設定値に対応した流量が流れるように制御する」構成は、本願発明1における「コントローラー」が「バルブ制御信号を与えて、前記調節可能バルブを前記望ましいバルブ位置に調節し、該質量流量制御器の流出口から流出する前記流体の前記流量を制御する」構成に相当する。

カ したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「流体の流量を制御するための質量流量制御器において、
前記流体を受け取るための流入口と、
前記流体が該質量流量制御器を通過する流路と、
前記流路を通る前記流体の質量流量に対応する信号を提供する質量流量計と、
該質量流量制御器の流出口から流出する前記流体の前記流量を調節するための調節可能バルブと、
バルブのヒステリシス特性を踏まえ、所与の流量設定点に基づいて望ましいバルブ位置に前記調節可能バルブを移動させるように構成された少なくとも1つの処理構成要素と、
バルブ制御信号を与えて、前記調節可能バルブを望ましいバルブ位置に調節し、該質量流量制御器の流出口から流出する前記流体の前記流量を制御するように構成されたコントローラーとを具備する流体の流量を制御するための質量流量制御器。」

(相違点1)
本願発明1の質量流量制御器の処理構成要素は、「プライザッハモデルを利用するバルブヒステリシスモデルを用いて、所与の流量設定点に基づいて望ましいバルブ位置に前記調節可能バルブを移動させるためのバルブリフトを達成する力を生成するのに必要なバルブ駆動力を求める命令を実行する」のに対して、引用発明のガス質量流量制御装置2のテーブルは、流量設定値Qに対して弁開度増加時及び減少時の操作量を区別して設定するものであり、バルブ駆動力を求めていない点。

(相違点2)
本願発明1の質量流量制御器のコントローラーは、「前記求められたバルブ駆動力に基づいてバルブ制御信号を与え」るのに対して、引用発明のガス質量流量制御装置2の流量制御部22が与える駆動信号は、流量制御弁10の操作量すなわち弁開度であり、バルブ駆動力に基づくものではない点。

(2)相違点についての判断
「前記求められたバルブ駆動力に基づいて・・・」に係る上記相違点2は、上記相違点1に係る「バルブ駆動力を求める」構成を前提とするものであるから、まず上記相違点1について検討する。
上記(1)エで示したとおり、引用発明における「テーブル」(「処理構成要素」に相当)と、本願発明1における「処理構成要素」とは、「バルブのヒステリシス特性を踏まえ、所与の流量設定点に基づいて望ましいバルブ位置に前記調節可能バルブを移動させる」点で一致するが、引用発明における「テーブル」は、流量設定値Qに対して、弁開度増加時及び減少時の操作量を区別して設定することでヒステリシス特性を踏まえた取扱いをしている。
それに対して、本願発明1は、「プライザッハモデルを利用するバルブヒステリシスモデルを用いて、」「バルブリフトを達成する力を生成するのに必要なバルブ駆動力を求め」ている。具体的には、「バルブ駆動力Uを求める」ため、本願明細書の段落【0035】?【0041】に記載されているように、バルブ駆動力U、所与のリフトに必要とされる力Vをプライザッハモデルの積分関数の対象とするとともに、経時的なバルブ駆動力の履歴として反転時に切り換わった領域を把握できるように、1及び0からなるマップを作成するため、プライザッハモデルを用いることで、条件が変化したときに複雑なアルゴリズムが必要とされるPID制御の問題を解決し、請求人が平成30年5月25日に提出された審判請求書の第3頁において主張する「より精密で応答性の優れたバルブの制御を実現することが可能になる」という効果が得られるものである。

そうすると、引用文献1及び引用文献2のどちらにも、本願発明1におけるような、プライザッハモデルを利用するバルブヒステリシスモデルを用いて、バルブリフトを達成する力を生成するのに必要なバルブ駆動力を求める命令を実行するように構成された少なくとも1つの処理構成要素を備える質量流量制御器は記載も示唆もされていない。

ここで、引用文献1のテーブルで設定された流量制御弁10の操作量は直接的に制御可能なパラメータであるから、仮に弁の操作量とバルブ駆動力との間で一定の相関関係があったとしても、引用発明に接した当業者が、引用発明のガス質量流量制御装置2の流量制御弁10の操作量に関するテーブルに替えて、バルブ駆動力を求める動機付けを欠く。
また、仮に、引用発明において、引用文献2記載の技術的事項を適用して、モデルを用いてバルブ駆動力を求める動機付けを有したとしても、引用文献3及び引用文献4で示された周知技術のように、プライザッハモデルは通常、磁界・磁化を積分関数の対象としてモデル化するものであること、並びに、引用文献2記載の技術的事項におけるバルブ駆動力を求める構成がヒステリシス特性を前提としたものではないことを勘案すれば、引用発明において、引用文献2記載の技術的事項を適用して、バルブ駆動力を求める際に、そのバルブ駆動力を積分関数の対象として、プライザッハモデルを利用するバルブヒステリシスモデルを用いるよう構成することは、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

以上から、引用発明に、引用文献2記載の技術的事項及び上記周知技術を適用して、上記相違点1に係る構成とすることの動機付けを認めることはできない。
さらに、引用文献3及び4には、シリコンウェハ等の研磨加工に用いられる姿勢制御装置の超磁歪アクチュエータの制御にプライザッハモデルを用いることが記載されているが、本願発明1におけるように流体の流量を調節するバルブの制御にプライザッハモデルを用いることは記載されていない。

したがって、上記相違点2について判断するまでもなく、本願発明1は、引用発明、引用文献2記載の技術的事項及び上記周知技術に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2について
本願発明2は、「所与の流量設定点に基づく望ましいバルブ位置に調節可能バルブを移動させるためのバルブリフトを達成する力を生成するのに必要なバルブ駆動力を、プライザッハモデルを利用するバルブヒステリシスモデルに基づいて求める」及び「前記求められたバルブ駆動力に基づくバルブ制御信号を与える」という特定事項を備えるものであるから、実質的に本願発明1における上記相違点1及び上記相違点2に係る構成と同一の構成を備えるものである。したがって、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2記載の技術的事項及び上記周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の拒絶の理由によって、本願を拒絶することはできない。また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-06-10 
出願番号 特願2014-560998(P2014-560998)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G05D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 影山 直洋  
特許庁審判長 栗田 雅弘
特許庁審判官 中川 隆司
齋藤 健児
発明の名称 質量流量制御器の制御を改善するためのモデルを用いるためのシステムおよび方法  
代理人 三橋 真二  
代理人 青木 篤  
代理人 廣瀬 繁樹  
代理人 伊藤 健太郎  

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