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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 A23F 審判 全部申し立て 2項進歩性 A23F 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A23F |
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管理番号 | 1352336 |
異議申立番号 | 異議2019-700234 |
総通号数 | 235 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-07-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-03-26 |
確定日 | 2019-06-14 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6397559号発明「カテキン類を高濃度に含有する緑茶飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6397559号の請求項1?4に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6397559号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成29年12月21日に出願され、平成30年9月7日にその特許権の設定登録がされ、同年9月26日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1?4に係る発明の特許に対し、平成31年3月26日に特許異議申立人田中亜実(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 特許第6397559号の請求項1?4の特許に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明4」といい、これらをまとめて「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 緑茶抽出物を含有し、加熱殺菌処理された容器詰緑茶飲料であって、 43?80mg/100mLのカテキン類と0.01?1.0mg/100mLのティリロサイドとを含有し、 アスコルビン酸又はその塩とナトリウムとを含有する、上記飲料。 【請求項2】 緑茶抽出物、アスコルビン酸又はその塩、及びナトリウムを含有する容器詰緑茶飲料の製造方法であって、 カテキン類の含有量を43?80mg/100mLに調整する工程、 0.01?1.0mg/100mLのティリロサイドを配合する工程、 カテキン類とティリロサイドとを共存させた状態で60℃以上の温度にて飲料を加熱する工程、及び 飲料を容器に充填する工程 を含む、上記製造方法。 【請求項3】 緑茶抽出物を配合する工程をさらに含む、請求項2に記載の方法。 【請求項4】 茶葉を純水にて抽出して緑茶抽出物を得る工程をさらに含む、請求項2又は3に記載の方法。」 第3 申立理由の概要及び証拠方法 1 申立理由の概要 特許異議申立人は、後記2の証拠を提出した上で、以下の申立理由を主張している。 (1)特許法第29条第2項(以下「理由1」という。) 本件発明1?4は、本件出願日前に頒布された以下の甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?4に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものである。 (2)特許法第36条第6項第1号(以下「理由2」という。) 本件発明1?4は、明細書又は特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (3)特許法第36条第4項第1号(以下「理由3」という。) 本件発明1?4は、明細書の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 2 証拠方法 甲第1号証:産経ニュース、「セブンとコカ・コーラ、機能性緑茶のPB 体脂肪減らすローズヒップ成分配合」、2017年5月18日、[平成31年3月25日検索]、インターネット<https://www.sankei.com/economy/print/170518/ecn1705180039-c.html> 甲第2号証:商品名「一(はじめ)緑茶 一日一本」の消費者庁・機能性表示食品制度届出データベースにおける表示見本、2017年3月1日、[平成31年3月25日検索]、インターネット<https://www.fld.caa.go.jp/caaks/cssc07/hyouji_mihon?hyoujimihonFile=B179%255CB179_hyouji_mihon.pdf> 甲第3号証:熊沢賢二、外1名、「緑茶飲料の香気に及ぼす加熱条件の影響」、日本食品科学工学会誌、第52巻、第1号、2005年1月、p.34-40 甲第4号証:特開昭60-248132号公報 甲第5号証:橋本浩二、外4名、「緑茶飲料缶詰の品質に及ぼす殺菌製造条件の影響」、日本食品科学工学会誌、第47巻、第11号、2000年11月、p.828-835 甲第6号証:特開2015-208303号公報 甲第7号証:特開2016-154500号公報 第4 申立理由についての当審の判断 1 理由1について (1)各甲号証の記載 ア 甲第1号証 甲第1号証には以下の記載がある。 (1a)「セブンとコカ・コーラ、機能性緑茶のPB 体脂肪減らすローズヒップ成分配合 日本コカ・コーラとセブン&アイ・ホールディングスは18日、共同企画した機能性表示食品「一(はじめ)緑茶 一日一本」(500ミリリットル、想定税込価格127円)を、今月22日発売すると発表した。ハーブの一種であるローズヒップから、体脂肪を減らす効果があるとされる成分「ティリロサイド」を抽出し、1本当たり0・1ミリグラム配合。」 イ 甲第2号証 甲第2号証には以下の記載がある。 (2a)「●品名 緑茶(清涼飲料水)●原材料名 緑茶(国産)、ローズヒップエキス末/ビタミンC●内容量500ml●賞味期限 キャップに記載・・・ 栄養成分表示(1本(500ml)当たり)/エネルギー0kcal、たんぱく質・脂質・炭水化物 0g、食塩相当量 0.1g 機能性関与成分:ローズヒップ由来ティリロサイド0.1mg」(第1頁左上第1行?第13行) ウ 甲第3号証 甲第3号証には以下の記載がある。 (3a)「本研究では,加熱条件の異なる緑茶飲料の香気成分を比較し,各々の香調の違いと香気変化に関与する成分の関係を検討した.次いで,香気変化に関与する成分とその前駆体の熱安定性の違いに着目し,加熱条件が緑茶の香気成分の変化に与える影響について検討した.」(第34頁左欄下から3行?右欄第2行) (3b)「ペットボトルや紙容器に充填する飲料の加熱条件であるUHT殺菌(134℃,30秒間)と缶に充填する飲料の加熱条件であるレトルト殺菌(121℃,10分間)にて調製した緑茶の香調を比較した.」(第35頁右欄最下行?第36頁左欄第3行) (3c)「これらの試料の香気変化に関与する成分をAEDAにて比較したところ,どちらの加熱条件であっても未加熱の緑茶と比較してピークの数およびFD-factorの値が増加した(Fig.2).これらの9ピークの成分をGC-MSにて分析し,7成分の構造を確認した(Table 2).これらの中で加熱後に64以上のFD-factorを示した6成分(methional, linalool, phenylacetaldehyde, β-damascenone, geraniol, 2-methoxy-4-vinylphenol)は,緑茶の香気変化への影響が大きいと考えられた.しかし,これらの成分のFD-factorの変化は一様ではなく,加熱条件により違いが認められた.」(第36頁左欄第12行?第22行) (3d)「異なる加熱条件にて調製した緑茶に生ずる香調の差は,香気変化に関与する成分の生成量と加熱条件の関係が各々の成分で異なるために生じることが推定された.」(第38頁右欄下から4行?最下行) エ 甲第4号証 甲第4号証には以下の記載がある。 (4a)「実施例1 イオン交換水24Kgを一旦沸騰させた後80℃まで放冷し、第1図の50lタンク1中でA社の深蒸し煎茶0.2Kgをこのイオン交換水中に添加し80℃で3分間抽出した。抽出に先立ち窒素ガス源7から窒素ガスをパイプ2を介してイオン交換水中に吹込んだ。抽出後粗目の金網ザルで茶ガラを除去し、茶液抽出液を60メッシュステンレスふるい3でろ(決定注:さんずいに戸)過し、ろ(決定注:さんずいに戸)過後の抽出液をサイホン4により200g缶6に190?195g充填した。その際缶6のヘッドスペース部にパイプ5を介して窒素ガスを吹きつけた。次いで手作業で缶蓋6aを缶胴6bに嵌合させシーマー8で巻締めを行ったが缶蓋6aを缶胴6bに嵌合する直前にパイプ9を介してヘッドスペースに窒素ガスを吹付けた。缶を冷却した後115℃で10分間レトルト殺菌を行った。」(第3頁左上欄第6行?右上欄第2行) (4b)「実施例2 イオン交換水50Kgを加熱し、第2図に示すように、50lタンク10に注入口10aを介して注入し、タンク10にB社の普通煎茶625gを添加し、80℃で2分間抽出した。抽出に先立ち窒素ガスをパイプ11を介してイオン交換水中に吹込み、抽出中は過度の撹拌によって抽出液に濁りが生じることを防ぐため抽出液中への窒素吹込みを停止し、かわりに抽出液上のタンク空間12中にノズル13を介して窒素ガスを吹込んだ。抽出後抽出液を60メッシュステンレスふるい14に通して第1次ろ(決定注:さんずいに戸)過を行いさらに200メッシュナイロン 布15に通して第2次 過を行った。 過後の抽出液を40l充填タンク16において85℃まで加熱し保温した。この間パイプ17を介して抽出液中に窒素ガスを吹込んだ。なお、充填タンク16は保温のため温水を充填した保温タンク18中に取付けられている。次いでこの充填タンク16をガスライン30に移動し、供給パイプ19中の供給コック20を開閉操作して200g缶21に抽出液を190?195g充填した。 この工程においてもパイプ22および23を介して窒素ガスを充填タンク16中の抽出液および缶のヘッドスペースにそれぞれ吹込んだ。次いで抽出液を充填した缶を公知のアンダーカバーガッシング装置(図示せず)を備えたシーマー24に移送し、缶蓋の嵌合に先立ちアンダーカバーガッシング装置のキャップフィードターレットのスリットより窒素ガスを缶蓋と缶胴の間の空間に噴射した。缶を巻締めた後冷却し110℃で15分間レトルト殺菌を行った。」(第3頁右上欄第3行?左下欄第16行) (4c)「本発明の緑茶飲料は上述のとおり巻締時に缶内の酸素を所定以下に押えることにより、下表2のサンプルテストに示すようにレトルト前とレトルト後の色差ΔEが本発明によらない通常の方法により製造したものに比較して非常に小さく、レトルト後も鮮かな緑色を維持しフレーバーも良好である。これに対して通常法により製造したものはレトルト後著しく褐変し、そのフレーバーも醗酵茶のような風味を呈し、渋味も増していることが観察された。 」(第4頁左上欄最下行?左下欄) オ 甲第5号証 甲第5号証には以下の記載がある。 (5a)「本研究では,緑茶飲料缶詰について現行の製造方法であるレトルト殺菌法と無菌充填法との比較を行い,特に,調合時の脱酸素工程の有無並びにヘッドスペース酸素の有無が,L-アスコルビン酸や内容物の色調,フレーバー等に対してどのような影響を及ぼすかを明らかにすることを目的に実験を行った.」(第14頁右欄下から5行?第15頁左欄第1行) (5b)「2.L-アスコルビン酸の変化 調合から殺菌工程中のL-アスコルビン酸の変化をFig.4に示す.」(第18頁左欄第21行?第23行) (5c)「3.緑茶飲料の色調変化 調合時から殺菌工程中までの色調変化を色差計によりL,a,b値を測定し、調合時のデータを基準値として色差ΔEを計算した結果をFig.5に示した.」(第18頁右欄第11行?第14行) カ 甲第6号証 甲第6号証には以下の記載がある。 (6a)「【0002】・・・ 容器詰飲料は、密封・殺菌がなされていることから、長期間の保存に適しているものの、製造工程の中で加えられる熱や、飲用液中に残存する溶存酸素が容器詰飲料の呈味、香味、及び外観品質の経時劣化要因となり得る。」 キ 甲第7号証 甲第7号証には以下の記載がある。 (7a)「【0012】 本発明の課題は、容器詰茶飲料の製造時の加熱殺菌処理において低下する茶飲料の香味及び旨味を補完、増強した上で、その優れた香味及び旨味を、劣化臭の増加を抑えつつ、長期間持続できる容器詰茶飲料、及び、該容器詰茶飲料を製造する方法を提供することにある。」 (7b)「【0016】 本発明の容器詰茶飲料の製造方法において、UHT殺菌の条件として用いられるF値とは、基準温度(121.1℃)で一定数の微生物を死滅させるのに要する加熱時間(分)であって、121.1℃における加熱時間として定義される。」 (2)甲第1号証に記載された発明 甲第1号証の(1a)には、「「一(はじめ)緑茶 一日一本」(500ミリリットル・・・ハーブの一種であるローズヒップから、体脂肪を減らす効果があるとされる成分「ティリロサイド」を抽出し、1本当たり0・1ミリグラム配合」と記載されているから、500ミリリットルの容器詰緑茶飲料が記載されている。 さらに、甲第2号証には、「一(はじめ)緑茶 一日一本」は、ティリロサイドとビタミンCを含み、1本(500ml)当たりの食塩相当量が0.1gであることが記載されている。 そうすると、甲第1号証には、甲第2号証の記載も参酌すると、 「容器詰緑茶飲料であって、 0.1mg/500mLのティリロサイドを含有し、 ビタミンCと食塩とを含有する、上記飲料。」の発明(以下「甲1-1発明」という。)が記載されている。 また、甲第1号証及び甲第2号証には製造方法は直接記載されていないものの、500ミリリットルの容器詰緑茶飲料が得られていることから、緑茶飲料に含まれる成分を配合する工程、飲料を容器に充填する工程を有することは、技術常識であるといえる。 そうすると、 「ビタミンC及び食塩を含有する容器詰緑茶飲料の製造方法であって、 0.1mg/500mLのティリロサイドを配合する工程、及び 飲料を容器に充填する工程を含む、上記製造方法。」の発明(以下「甲1-2発明」という。)が記載されているといえる。 (3)本件発明1について ア 本件発明1と甲1-1発明との対比・判断 (ア)対比 本件発明1と甲1-1発明とを対比する。 緑茶には、緑茶抽出物が配合されており、カテキン類が含有されているのは、技術常識であるといえるから、甲1-1発明の容器詰緑茶飲料には、緑茶抽出物とカテキン類が含有されているといえる。 市販される容器詰緑茶飲料は、加熱殺菌処理されていることは、技術常識であるから、甲1-1発明の「容器詰緑茶飲料」は、本件発明1の「加熱殺菌処理された容器詰緑茶飲料」に相当する。 500ミリリットルの「一(はじめ)緑茶 一日一本」には、成分「ティリロサイド」が0.1ミリグラム配合されていることからすると、100ミリリットルあたりだと、0.02ミリグラム配合されているといえる。 「食塩」の主成分は「塩化ナトリウム」であることは、技術常識である。 「ビタミンC」の化学名は「アスコルビン酸」であることは、技術常識であるから、甲1-1発明の「ビタミンC」は、本件発明1の「アスコルビン酸」に相当する。 以上のことから、本件発明1と甲1-1発明は、 「緑茶抽出物を含有し、加熱殺菌処理された容器詰緑茶飲料であって、 カテキン類と0.02mg/100mLのティリロサイドとを含有し、 アスコルビン酸とナトリウムとを含有する、上記飲料。」 である点で一致し、以下の点で相違している。 <相違点1> カテキン類の含有量について、本件発明1は、「43?80mg/100mL」と特定しているのに対し、甲1-1発明では、含有量が明らかにされていない点 (イ)判断 以下、相違点1について検討する。 カテキン類は、緑茶飲料において通常含有されている成分である。しかしながら、甲第1号証及び甲第2号証には、カテキン類の含有量を増やすことは記載されておらず、さらにカテキン類を高濃度に含有している緑茶飲料における加熱劣化臭についても何ら認識されていない。そうすると、甲第1号証及び甲第2号証は、本願発明の解決するための課題が記載も示唆もされていないことから、ティリロサイドを含む緑茶飲料が記載されていたとしても、そもそも当業者が高濃度カテキンを含む緑茶飲料に甲第1号証及び甲第2号証を適用する動機付けを見出すことができない。 そして、本件発明は、カテキン類を43?80mg/100mLで含有するする緑茶飲料に0.01?1.0mg/100mLのティロリサイドを含むことによって加熱劣化臭が低減するという効果を奏しているといえる。 (ウ)特許異議申立人の主張 特許異議申立人は、本件発明1と甲第1号証に記載された発明とを対比した結果、相違点1について以下のように主張する。 特許異議申立人は、 「カテキン類は緑茶飲料において通常含有される成分であり、甲1-1発明において所望の呈味を実現するためにカテキン類の含有量を種々調整することは当業者が通常行い得る設計的事項である。 また、本件特許権者は、本件特許の審査過程で、平成30年6月14日付けで提出した意見書において、引用文献1に記載された飲料である「一(はじめ)緑茶 一日一本」のカテキン類濃度を測定し、その結果が42mg/100mlであったと述べている。しかし、飲料製品のロットによる成分量の変動や測定による誤差を考慮すれば、ある飲料製品の成分量を測定したときに常に特定の数値になるとは考えられず、実際の含有量は例えば数パーセント程度の幅を有するものと理解される。そうすると、本件特許権者が測定した飲料試料のカテキン類濃度測定値が42mg/100mLであったとすれば、同じ飲料の他の試料の含有量が43mg/100mL以上のカテキン類を含有する蓋然性が高く、本件特許発明の構成要件B(決定注:相違点1のこと)を実質的に充足する」と主張する(特許異議申立書第7頁第18行?第35行)。 しかしながら、本件発明1に対して甲1及び甲2を適用できないことは、上記(イ)のとおりであるから、異議申立人の上記主張は採用できない。 (エ) まとめ したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (4)本件発明2について ア 本件発明2と甲1-2発明との対比・判断 (ア)対比 本件発明2と甲1-2発明とを対比する。 緑茶には、緑茶抽出物が配合されており、カテキン類が含有されていることは、技術常識であるといえるから、甲1-2発明の容器詰緑茶飲料には、緑茶抽出物とカテキン類が含有されているといえる。 500ミリリットルの「一(はじめ)緑茶 一日一本」には、成分「ティリロサイド」が0.1ミリグラム配合されていることからすると、100ミリリットルあたりだと、0.02ミリグラム配合されているといえる。 「食塩」の主成分は「塩化ナトリウム」であることは、技術常識である。 「ビタミンC」の化学名は「アスコルビン酸」であることは、技術常識であるから、甲1-2発明の「ビタミンC」は、本件発明1の「アスコルビン酸」に相当する。 以上のことから、本件発明2と甲1-2発明は、 「緑茶抽出物、アスコルビン酸及びナトリウムを含有する容器詰緑茶飲料の製造方法であって、 0.02mg/100mLのティリロサイドを配合する工程、及び 飲料を容器に充填する工程を含む、上記製造方法。」 である点で一致し、以下の点で相違している。 <相違点2> カテキン類の含有量について、本件発明1は、「43?80mg/100mLに調整する工程」と特定しているのに対し、甲1-2発明では、当該含有量に調整する工程を有することが明らかにされていない点 <相違点3> 本件発明2は、「カテキン類とティリロサイドとを共存させた状態で60℃以上の温度にて飲料を加熱する工程」を有するのに対し、甲1-2発明には、当該工程を有することが明らかにされていない点 (イ)判断 a 相違点2について 以下、相違点2について検討する。 カテキン類は、緑茶飲料において通常含有されている成分である。しかしながら、甲第1号証及び甲第2号証には、カテキン類の含有量を増やすことは記載されておらず、さらにカテキン類を高濃度に含有している緑茶飲料における加熱劣化臭についても何ら認識されていない。そうすると、甲第1号証及び甲第2号証は、本願発明の解決するための課題が記載も示唆もされていないことから、ティリロサイドを含む緑茶飲料が記載されていたとしても、そもそも当業者が高濃度カテキンを含む緑茶飲料に甲第1号証及び甲第2号証を適用する動機付けを見出すことができない。 そして、本件発明は、カテキン類を43?80mg/100mLで含有するする緑茶飲料に0.01?1.0mg/100mLのティロリサイドを含むことによって加熱劣化臭が低減するという効果を奏しているといえる。 b 相違点3について 以下、相違点3について検討する。 甲第1号証及び甲第2号証には、「カテキン類とティリロサイドとを共存させた状態で60℃以上の温度にて飲料を加熱する」ことについては、何ら記載されていない。また、当該技術分野において、カテキン類とティリロサイドとを共存させた状態で60℃以上の温度にて飲料を加熱することが技術常識であるとも認められない。 (ウ)特許異議申立人の主張 特許異議申立人は、本件発明2と甲第1号証に記載された発明とを対比した結果、相違点2について以下のように主張する。 「カテキン類は緑茶飲料において通常含有される成分であり、甲1-2発明において所望の呈味を実現するためにカテキン類の含有量を種々調整することは当業者が通常行い得る設計的事項である。 また、本件特許権者は、本件特許の審査過程における引用文献1に記載された飲料である「一(はじめ)緑茶 一日一本」のカテキン類濃度の測定値42mg/100mlであったと主張している。しかし、飲料製品のロットによる成分量の変動や測定による誤差を考慮すれば、ある飲料製品の成分量を測定したときに常に特定の数値になるとは考えられず、実際の含有量は例えば数パーセント程度の幅を有するものと理解される。そうすると、本件特許権者が測定した飲料試料のカテキン類濃度測定値が42mg/100mLであったとすれば、同じ飲料の他の試料の含有量が43mg/100mL又はそれより高い値である可能性は否定できないどころか、その蓋然性は非常に高い。したがって、本件特許発明2の構成要件H(決定注:相違点2のこと)は、甲第1号証又は甲第2号証に実質的に記載されているに等しい事項である」と主張する(特許異議申立書第8頁第19行?第35行)。 しかしながら、本件発明2に対して甲1及び甲2を適用できないことは、上記(イ)のとおりであるから、異議申立人の上記主張は採用できない。 (エ) まとめ したがって、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (5)本件発明3?4について 本件発明3?4は、本件発明2を直接又は間接に引用した発明であり、さらに本件発明3は緑茶抽出物を配合する工程を特定するもの、本件発明4は茶葉を純水にて抽出して緑茶抽出物を得る工程を特定するものである。 上記(4)で検討したとおり、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、本件発明3?4についても本件発明2と同様に甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (6)まとめ 以上のとおり、本件発明1?4は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないとはいえない。 2 理由2について (1)サポート要件の考え方について 特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 以下、この観点に立って検討する。 (2)本件発明の課題 本件発明の課題は、発明の詳細な説明の段落[0005]及び明細書全体の記載からみて、カテキン類を高濃度に含有していながらも、加熱劣化臭が低減されている容器詰緑茶飲料を提供することであると認める。 (3)特許請求の範囲に記載された発明 特許請求の範囲には、上記「第2」で示したように本件発明1?4が記載されている。 (4)発明の詳細な説明の記載 発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。 (8a)「【0007】 本発明により、高濃度のカテキン類を含有していながらも、加熱劣化臭が低減されている容器詰緑茶飲料を提供することが可能となる。これにより、カテキン類の優れた生理作用を有しつつ、且つ香味が良く飲みやすい状態で長期間保管可能な容器詰緑茶飲料を提供 することができる。」 (8b)「【0015】 本明細書中、「高濃度のカテキン類を含有する」とは、水の溶解状態にあるカテキン類を、43?150mg/100mL含有することを意味する。本発明者らの検討によると、43mg/100mL以上のカテキン類を含有する緑茶飲料で、加熱殺菌に伴う劣化臭(本明細書中、加熱劣化臭とも表記する)が顕在化する。ここで、緑茶飲料の加熱殺菌時の劣化臭とは、加熱殺菌処理により茶飲料の香気が劣化して発生するオフフレーバーのことである。茶抽出物に含まれる水溶性の前駆物質が加熱により新たな揮発性成分となり、香気成分のバランスを崩すことが原因であると考えられており、カテキン類の濃度が高い場合は特に加熱劣化臭が強くなることが知られている。本発明の所期の作用効果が顕著に発揮される観点から、本発明の飲料中のカテキン類の含有量は44mg/100mL以上であることが好ましく、45mg/100mL以上又は49mg/100mL以上であることがより好ましい。また、150mg/100mLを超えるカテキン類を含有する緑茶飲料では、本発明の作用効果が発揮されないことがある。本発明の所期の作用効果が顕著に発揮される観点から、本発明の飲料中のカテキン類の含有量は150mg/100mL以下であり、80mg/100mL以下であることが好ましい。なお、確認のために記載するが、上記のカテキン類の含有量は、前記8種の各化合物の含有量の合計を意味する。飲料中のカテキン類の含有量は、高速液体クロマトグラム法(HPLC法)を用いることで、それぞれ個別のピークとして測定することができる。」 (8c)「【0020】 (容器詰飲料) 上述のとおり、本発明は、カテキン類を高濃度に含有し、加熱殺菌処理して調製した容器詰緑茶飲料の加熱劣化臭を効果的に低減するものである。本発明における加熱殺菌の条件は、例えば、食品衛生法に定められた条件と同等の効果が得られる方法を選択することができ、具体的には、60?150℃、好ましくは90?150℃、より好ましくは110?150℃で、1秒間?60分間、好ましくは1秒間?30分間とすることができる。容器として耐熱性容器(金属缶、ガラス等)を使用する場合には、レトルト殺菌(110?140℃、1?数十分間)を行えばよい。また、容器として非耐熱性容器(PETボトル、紙容器等)を用いる場合は、例えば、調合液を予めプレート式熱交換器等で高温短時間殺菌(UHT殺菌:110?150℃、1?数十秒間)し、一定の温度まで冷却した後、容器に充填することができる。」 (8d)「【0031】 (実験1:カテキン類含有緑茶飲料の評価) まず、茶葉抽出物を製造した。10gの緑茶葉に対し熱水(70?80℃)1000mLを用いて5分間抽出処理を行った後、茶葉を分離し、さらに遠心分離処理(6000rpm、10分)して粗大な粉砕組織や茶粒子などの固形分を除去して、緑茶抽出液を得た。次に、カテキン類の含有量が100mLあたり42?170mgとなるように、得られた緑茶抽出液に水を添加して希釈した。これら種々のカテキン類含有量の緑茶抽出液に30mg/100mLの濃度となるようにアスコルビン酸を添加し、さらに炭酸水素ナトリウムを混合してpH調整を行って、125℃で7分間加熱殺菌処理した。加熱殺菌された緑茶飲料のナトリウム濃度は8mg/100mLであり、pHは6.0であった。この加熱殺菌済みの緑茶飲料をPET容器(500mL)に充填して容器詰飲料(容器詰緑茶飲料)を製造した。得られた容器詰緑茶飲料について、パネル3名にて、1?5点の5段階評価法にて評価した。官能評価基準は、加熱劣化臭の強さにつき、5点:全く感じない、4点:ほとんど感じない、3点:わずかに感じるが問題ない、2点:やや感じる、1点:強く感じる、として、各パネルが評価した結果を再度全員で自由討議し、全員の合意のもとに整数値で表記した。なお、評価点は、2点以上のものが緑茶飲料として許容できる飲料であり、3点以上のものが嗜好性の高い香味良好な緑茶飲料であると判定した。 【0032】 官能評価結果を表1に示す。カテキン類の含有量が比較的高濃度になると加熱殺菌処理により茶飲料の香気が劣化して発生するオフフレーバー(加熱劣化臭)が強くなった。カテキン類がオフフレーバーのエンハンサーとして作用することが推察された。カテキン類の含有量が43mg/100mL以上の緑茶飲料では、加熱劣化臭が強く感じられ、緑茶飲料としての嗜好性が低下した。 【0033】 【表1】 」 (8e)「【0034】 (実験2:ティリロサイドによる加熱劣化臭の抑制効果(1)) 実験1で得られた種々のカテキン類含有量の緑茶抽出液に、ティリロサイドが0.02mg/100mL、0.1mg/100mLの濃度となるようにティリロサイド(フナコシ、純度99%)を配合した。これらに対して実験1と同様にアスコルビン酸及び炭酸水素ナトリウムを配合して、加熱殺菌処理した後、PET容器(500mL)に充填して、容器詰緑茶飲料(ナトリウム濃度:8mg/100mL、pH:6.0)を製造した。得られた容器詰緑茶飲料について、実験1と同様にして官能評価試験を行った。 【0035】 官能評価結果を表2に示す。カテキン類が100mLあたり43?150mgの緑茶飲料において、ティリロサイドを配合することによる加熱劣化臭の低減効果が得られた。また、表2に示した容器詰緑茶飲料についてはいずれもティリロサイドの呈味(苦味や収斂味)は感じられなかった。高濃度のカテキン類を含有する緑茶飲料の加熱殺菌処理工程の前に、ティリロサイドを配合するという簡便な行為で、緑茶飲料の加熱劣化臭を抑制できた。 【0036】 なお、下表では示していないが、ティリロサイドの含有量が1.0mg/100mLを超えるものは、ティリロサイドの苦味や収斂味が感じられ、緑茶飲料としての嗜好性が損なわれた。 【0037】 【表2】 」 (8f)「【0038】 (実験3:ティリロサイドによる加熱劣化臭の抑制効果(2)) 実験1で得られた45.3mg/100mLのカテキン類を含有する緑茶抽出液に、極微量のティリロサイド(0.005?1.0mg/100mL)を添加した。これらに対して実験1と同様にアスコルビン酸及び炭酸水素ナトリウムを配合して、加熱殺菌処理した後、PET容器(500mL)に充填して、容器詰緑茶飲料(ナトリウム濃度:8mg/100ml、pH:6.0)を製造した。 【0039】 実験2と同様にして官能評価試験を実施した。結果を表3に示す。表から明らかなとおり、加熱殺菌前にティリロサイドを飲料100mLあたり0.01mg以上、好ましくは0.02mg以上配合することで、加熱劣化臭を抑制できた。1.0mg/100mLより多くのティリロサイドを含有させると、ティリロサイドに起因する苦味が強く感じられ、飲用に適さなかった。 【0040】 【表3】 」 (5)判断 ア 判断 本件発明の課題は、上記(2)で述べたように、カテキン類を高濃度に含有していながらも、加熱劣化臭が低減されている容器詰緑茶飲料を提供することであるといえる。 本件発明の実験1においては、カテキン類の含有量が比較的高濃度になると加熱殺菌処理により茶飲料の香気が劣化して発生するオフフレーバー(加熱劣化臭)が強くなったことや、カテキン類の含有量が43mg/100mL以上の緑茶飲料では、加熱劣化臭が強く感じられ、緑茶飲料としての嗜好性が低下したことが記載されている。 そして、実験2においては、実験1で得られた種々のカテキン類含有量の緑茶抽出液に、ティリロサイドが、0.02mg/100mL、0.1mg/100mLとなるように配合して容器詰緑茶飲料を製造したところ、カテキン類が100mLあたり43?150mgの緑茶飲料において、ティリロサイドを配合することによる加熱劣化臭の低減効果が得られたことが記載されている。 そうすると、上記実験等から、カテキン類を高濃度に含有していながらも、ティリロサイドを所定量とすることにより、加熱劣化臭の低減を実現していたことが記載されているといえる。 そして、摘記(8b)には、「「高濃度のカテキン類を含有する」とは、水の溶解状態にあるカテキン類を、43?150mg/100mL含有することを意味する」と記載されている。 したがって、本件特許明細書には、カテキン類を43mg/100mL以上という高濃度に含有していながらも、加熱劣化臭が低減されている容器詰緑茶飲料を提供することが記載されているといえるから、当業者は、本件発明1?4の課題を解決できると理解することができるといえる。 イ 特許異議申立人の主張と検討について 特許異議申立人は、明細書の記載不備について以下のように主張する。 (ア) a 本件特許明細書には、所定量のティリロサイドが、なぜ高濃度カテキン類を含有する緑茶飲料の加熱劣化臭の低減に効果があるのか、その作用機序については何ら説明されておらず、出願時の技術常識に照らしても理解することができない旨、 b 加熱劣化臭についての具体的な定義が記載されておらず、技術常識に照らしても「加熱劣化臭」がどのようなものであるかを理解することができない旨、 c 加熱劣化臭の強さにつき、官能評価基準の点数が記載されているものの、加熱劣化臭がどのようなものであるかがわからないから、加熱劣化臭の強弱の基準についても理解することができない旨主張している。 しかしながら、 a 明細書の記載に関しては、当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていれば良く、作用機序の説明までを要求しているものではない。本件特許明細書においては、所定量のティリロサイドが、高濃度カテキン類を含有する緑茶飲料の加熱劣化臭の低減に関する具体的な作用機序の説明はないものの、本件特許明細書の実験2や実験3においてはティリロサイドによる加熱劣化臭の抑制効果が、官能評価点により示されている。また、上記アで記載したとおり、実験1,2の記載等から、カテキン類を高濃度に含有していながらも、ティリロサイドを所定量とすることにより、加熱劣化臭の低減を実現していることが記載されていることから、請求項に係る発明を実施しようとした場合、当業者であれば、明細書に記載された発明の実施に関する説明と出願時の技術常識に基づいて、どのように実施するかを理解できるといえる。 b 緑茶飲料を加熱殺菌処理した際、異臭が発生することは、当該技術分野においては、広く認識されている課題であるといえる(必要であれば、本件明細書中の先行技術文献の特開平1-174328号公報の[従来技術とその問題点]等の記載や特開2003-219799号公報の[0004]等の記載を参照のこと。)。 そうすると、加熱劣化臭の具体的な定義が記載されていなくとも、従来技術を参照するか、技術常識に照らせば、加熱劣化臭がどのようなものかは当業者であれば理解できるといえる。 c 摘記(8d)には、「得られた容器詰緑茶飲料について、パネル3名にて、1?5点の5段階評価法にて評価した。官能評価基準は、加熱劣化臭の強さにつき、5点:全く感じない、4点:ほとんど感じない、3点:わずかに感じるが問題ない、2点:やや感じる、1点:強く感じる、として、各パネルが評価した結果を再度全員で自由討議し、全員の合意のもとに整数値で表記した。」と記載されている。 そして、上記bに記載したとおり、加熱劣化臭がどのようなものであるかは、当業者であれば理解できるといえ、最終的に各パネルが評価した結果について、再度全員で自由討議し、全員の合意のものに整数値化していることから、加熱劣化臭の強弱の基準について理解できないとまではいえない。 (イ)茶の品種、産地、栽培法、適採の時期、荒茶の製造法や、茶葉の抽出液を得る場合の抽出条件によって、茶葉から抽出される成分やその含有量が変動することは技術常識である。そして、本件特許明細書の実施例には、10gの緑茶葉に対して熱水(70?80℃)1000mLを用いて5分間抽出処理を行ったことが記載されているだけであって、本件特許発明の作用機序は何ら記載されておらず、配合(カテキン、カフェイン、アミノ酸、ビタミン、ミネラル、香気成分等)が異なる種々の緑茶抽出物を使用した場合に効果を奏することを確認しなければ、本件特許発明の効果を理解することは不可能である旨主張している。 しかしながら、茶の品種、産地、栽培法、適採の時期、荒茶の製造法や、茶葉の抽出液を得る場合の抽出条件により、カテキン、カフェイン、アミノ酸、ビタミン、ミネラル、香気成分等の配合は変動し得るものの、本件発明において特定されているのは、カテキン類の含有量である。カテキン類の含有量は、水を添加することによって調整できることは技術常識であるといえるから、配合が異なる種々の緑茶抽出物を使用した場合であっても、本件特許発明の効果を理解できないとまではいえない。 (ウ)本件特許発明1?4には、香気成分については、何ら規定されていない。香気が劣化して発生するオフフレーバーが加熱劣化臭であるとされていることからすると、緑茶飲料に通常含有され得る香気成分の存在が加熱劣化臭の発生とその低減に影響を及ぼすことは明らかである。また、甲第3号証には、加熱条件が緑茶の香気成分の変化に与える影響が検討されており、UHT殺菌とレトルト殺菌とを比較して、緑茶の香調に与える影響が異なること、香気6成分の含量変化に与える影響が異なることが開示されている。加熱殺菌処理により香気成分の含量が変化することは明らかであり、加熱殺菌処理の条件により香気成分に与える影響が異なることも明らかである。そして、本件特許明細書においては、加熱劣化臭に影響を与えるのがカテキン類のみであることが証明されておらず、また、他に影響を与える要素はあるが、その条件を揃える必要がないことも説明されていない旨主張している。 しかしながら、摘記(8b)には、「本発明者らの検討によると、43mg/100mL以上のカテキン類を含有する緑茶飲料で、加熱殺菌に伴う劣化臭が顕在化する。・・・茶抽出物に含まれる水溶性の前駆物質が加熱により新たな揮発性成分となり、香気成分のバランスを崩すことが原因であると考えられており、カテキン類の濃度が高い場合は特に加熱劣化臭が強くなることが知られている。」と記載されており、カテキン類の濃度が高いと加熱劣化臭の影響が大きいことが説明されている。 そして、本件特許明細書の実験1,2では、カテキン類の含有量を42.0mg/100mLから170.0mg/100mLまで変動させており(摘記(8d)、(8e))、カテキン類の含有量が比較的高濃度になると加熱殺菌処理により茶飲料の香気が劣化して発生するオフフレーバー(加熱劣化臭)が強くなることが記載されている(摘記(8d))ことからすると、加熱殺菌の条件により、香気成分に与える影響はある可能性はあるものの、カテキン類含有量の変化による香気成分の影響の方が大きいといえ、香気成分について規定が無いからといって、本件特許発明の効果を理解できないとまではいえない。 (エ)ビタミンC(L-アスコルビン酸)は酸化防止剤として周知であり、これを含有することにより、加熱殺菌処理による劣化臭の発生に影響を及ぼすことは技術常識である。本件特許明細書には、30mg/100mLの濃度となるようにアスコルビン酸を添加した実験が示されているだけであり、本件発明の作用機序は不明であるから、アスコルビン酸又はその塩がその他の濃度である場合において本件特許発明の効果を奏するか否かについて不明である。 甲第4号証には、115℃で10分間等のレトルト処理を行ったときに、ビタミンCの濃度が加熱処理の前より加熱処理の後では低下したこと等が示されており、ビタミンCは加熱処理により劣化し含有量が減少することが知られていることから、アスコルビン酸又はその塩の含有量は加熱殺菌処理の条件に依存して変動(低減)するものと理解され、アスコルビン酸又はその塩について含有量が特定されず、加熱殺菌処理の条件が特定されない、すべての状況において、本件特許発明の効果を奏するものとは認められない旨主張している。 しかしながら、本件特許明細書の実験1?3では、アスコルビン酸濃度は一定であるものの、実験1と実験2,3の官能評価点の対比からすると、ティリロサイドを配合することにより加熱劣化臭を防止したことが示されていることから、加熱劣化臭の防止にはティリロサイドの影響が大きく、アスコルビン酸の濃度の影響は大きくないといえる。 確かにアスコルビン酸は、酸化防止剤として周知であるものの、上記アでも述べたとおり、本件発明では、カテキン類を高濃度に含有していながらも、ティリロサイドを所定量とすることにより、加熱劣化臭の低減という課題を解決しており、周知成分であるアスコルビン酸が課題解決に不可欠であることは明らかにされていないから、アスコルビン酸又はその塩の含有量が特定されていないからといって、本件特許発明の効果を理解できないとまではいえない。 (オ)本件特許発明において、加熱殺菌処理は、解決しようとする課題である加熱劣化臭の発生原因となる工程であり、加熱の温度と時間、殺菌方法等の条件によって、加熱劣化臭がどのようなものとなるか、具体的には、香気成分の劣化により生ずるオフフレーバーの成分やその量、に影響することは自明である。 甲第5号証には、緑茶飲料缶詰について、レトルト殺菌法と、UHT殺菌法を用いた無菌充填法との比較を行い、L-アスコルビン酸や内容物の色調、フレーバー等に対する影響の違いが報告されており、加熱殺菌の方法や条件によりアスコルビン酸、内容物の色調、フレーバーに影響を与えるものであることから、加熱劣化臭にも影響することは明らかである。 甲第6号証の記載から、容器詰飲料の加熱劣化臭に影響を与える因子としては、加熱の条件はもちろんのこと、飲料中の溶存酸素も影響することが知られている。 一方、本件特許明細書の実施例においては、加熱殺菌処理について、125℃で7分間加熱殺菌処理したことが記載されているだけである。加熱殺菌処理について、125℃で7分間という条件以外のすべての条件において、本件特許発明の効果が発揮されるのかについては実証されておらず、実際にどのような結果が得られるかは不明である。 また、加熱殺菌処理の条件として、60?150℃、1秒間?60分間とすることができると記載されているが、温度について単純に60℃と150℃とでは飲料に含まれる成分に与える影響は大きくことなることは常識であり、全ての条件において本件特許発明の効果が発揮されるものとは理解できない。 そして、甲第7号証の記載から、加熱の条件として具体的な指標を示した上で、発明の効果が実証されなければ、加熱殺菌処理の条件について何ら特定の無い本件特許発明の効果を理解するのは不可能である旨主張している。 しかしながら、摘記(8b)には、「本発明者らの検討によると、43mg/100mL以上のカテキン類を含有する緑茶飲料で、加熱殺菌に伴う劣化臭が顕在化する。・・・茶抽出物に含まれる水溶性の前駆物質が加熱により新たな揮発性成分となり、香気成分のバランスを崩すことが原因であると考えられており、カテキン類の濃度が高い場合は特に加熱劣化臭が強くなることが知られている。」と記載されており、カテキン類の濃度が高いと加熱劣化臭の影響が大きいことが説明されている。 そして、本件特許明細書の実験1,2では、カテキン類の含有量を42.0mg/100mLから170.0mg/100mLまで変動させており(摘記(8d)、(8e))、カテキン類の含有量が比較的高濃度になると加熱殺菌処理により茶飲料の香気が劣化して発生するオフフレーバー(加熱劣化臭)が強くなることが記載されている(摘記(8d))ことからすると、加熱殺菌の条件により、加熱劣化臭に与える影響はある可能性はあるものの、カテキン類含有量の変化による加熱劣化臭の影響の方が大きいといえ、加熱殺菌処理条件について規定が無いからといって、本件特許発明の効果を理解できないとまではいえない。 (カ)加熱の有無以外の条件を揃えた加熱していない試料と加熱した試料とを比較して評価すべきところ、本件特許明細書の実施例においては、そのような評価方法は採用されていない旨主張している。 しかしながら、本件発明は、カテキン類を高濃度に含有していながらも、加熱劣化臭が低減されている容器詰緑茶飲料を提供するという発明であり、加熱殺菌処理によって生じる加熱劣化臭を低減することを目的とするものであるから、加熱していない試料と比較する理由がない。 (キ)カテキン類の含有量が1.0mg/100mL又は2.0mg/100mLという微量増えると、ティロリサイドを配合することによる加熱劣化臭の低減効果が顕著に得られることについて、技術常識から到底理解することができない。また、カテキン類の含有量が42.0mg/100mLであるときティリロサイド配合による加熱劣化臭の低減効果が得られないことを示す官能評価結果を準備している。わずか1.0mg/100mLというカテキン類の含有量の違いが効果を奏するか奏しないかの要因となることについて、技術常識に基づいても理解することができない旨主張している。 しかしながら、本件特許発明1は、カテキン類の含有量が43?80mg/100mlに限定されており、所定量のティリロサイドが、高濃度カテキン類を含有する緑茶飲料の加熱劣化臭の低減に関する具体的な作用機序の説明はないものの、本件特許明細書の実験2や実験3においてはティリロサイドによる加熱劣化臭の抑制効果が、官能評価点により示されている。明細書の記載に関しては、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていれば良く、作用機序の説明までを要求しているものではない。上記アで記載したとおり、実験例等の記載から、ティリロサイドを0.01?1.0mg/100mlとすることにより、加熱劣化臭の低減を実現していることが記載されており、当業者であれば、明細書に記載された発明の実施についての説明と出願時の技術常識に基づいて、請求項に係る発明を実施しようとした場合に、どのように実施するかを理解することができるといえる。 (ク)カテキン類の含有量が下限値である43mg/100mLの場合、ティリロサイドの含有量の下限値である0.01mg/100mLのときに、本件特許発明の効果を奏するのか否かが不明である。ティリロサイドの含有量が0mg/100mLから0.02mg/100mLの間のいずれかの数値であるときに、官能評価点が上がると考えられるが、その数値がティリロサイドの含有量の下限値である0.01mg/100mLとなることについて、何ら根拠が示されておらず、作用機序も不明であるから技術常識に照らしても理解することができない旨主張している。 しかしながら、本件特許明細書の表3では、カテキン類の含有量が45.3mg、ティリロサイドの含有量が0.01mg/100mlで官能評価点が3、すなわち、加熱劣化臭をわずかに感じるが問題ないことが記載されていることから、ティリロサイドの含有量が下限であっても課題が解決できることが示されているといえる。また、カテキン類の含有量も43.0mg/100mLの場合でも効果を奏することが実験2でも示されており、45.3mg/100mLとはその含有量が大きく異ならないから、本件特許発明の効果を奏するのか否かが不明であるとまではいえない。 (6)まとめ 以上のとおり、本件発明1?4は、発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえないから、第36条第6項第1号に適合するものであり、特許法第36条第6項の規定を満たしている。 3 理由3について 前記2で述べたとおり、本件発明1?4は発明の詳細な説明に記載されたといえ、実験2においては、実験1で得られた種々のカテキン類含有量の緑茶抽出液に、ティリロサイドが、0.02mg/100mL、0.1mg/100mLとなるように配合して容器詰緑茶飲料を製造したところ、カテキン類が100mLあたり43?150mgの緑茶飲料において、ティリロサイドを配合することによる加熱劣化臭の低減効果が得られたことが記載されている。 そうすると、上記実験例等から、カテキン類を高濃度に含有していながらも、ティリロサイドを所定量とすることにより、加熱劣化臭の低減を実現していたことが記載されているといえ、本件発明1?4については、当業者であれば実施できる程度に明確かつ十分記載されているということができる。 第5 むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2019-06-03 |
出願番号 | 特願2017-244875(P2017-244875) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(A23F)
P 1 651・ 537- Y (A23F) P 1 651・ 536- Y (A23F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 白井 美香保 |
特許庁審判長 |
佐々木 秀次 |
特許庁審判官 |
冨永 みどり 菅原 洋平 |
登録日 | 2018-09-07 |
登録番号 | 特許第6397559号(P6397559) |
権利者 | サントリーホールディングス株式会社 |
発明の名称 | カテキン類を高濃度に含有する緑茶飲料 |
代理人 | 山本 修 |
代理人 | 宮前 徹 |
代理人 | 小野 新次郎 |
代理人 | 中西 基晴 |
代理人 | 武田 健志 |
代理人 | 中村 充利 |