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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01M
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01M
管理番号 1352623
審判番号 不服2018-6886  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-05-21 
確定日 2019-07-02 
事件の表示 特願2014- 58347「電極及びそれを用いたリチウムイオン二次電池」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月22日出願公開,特開2015-185251,請求項の数(5)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成26年 3月20日の出願であって,平成29年11月21日付けで拒絶理由通知がされ,平成30年 1月27日(受付日)に意見書及び手続補正書が提出され,同年 2月 8日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,同年5月21日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成30年 2月 8日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
理由1(サポート要件)本願は,特許請求の範囲の記載が,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由2(進歩性)本願の請求項1?5に係る発明は,以下の引用文献1?4に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1 特開2007-80729号公報
引用文献2 特開2012-4043号公報
引用文献3 特開2011-49102号公報
引用文献4 特開2013-55049号公報

第3 本願発明
本願の請求項1?5に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」?「本願発明5」という。)は,平成30年 1月27日付け手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。
「【請求項1】
Li-M-P複合酸化物と、導電助剤と、第一の樹脂と、を含む結着体が、第一の樹脂とは異なる第二の樹脂中に分散されてなる活物質層を備えており、
前記第一の樹脂は、酸性バインダーを含有し、
前記第二の樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアミド、ポリアミドイミド、カルボキシメチルセルロース塩の群より選ばれる少なくとも一種以上の樹脂を含有することを特徴とする電極(ただし、MはFe、Mn、Co、Ni及びVOの群から選ばれる1種以上を含む。)。
【請求項2】
前記酸性バインダーは、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸とポリアクリル酸塩の混合物、ポリアクリル酸とカルボキシメチルセルロース塩の混合物、カルボキシメチルセルロースとカルボキシメチルセルロース塩の混合物の群から選ばれる樹脂のうち1種以上の樹脂を含有することを特徴とする請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記酸性バインダーは、Li-M-P複合酸化物と導電助剤の合計の重量に対して、0.001以上、3重量%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の電極。
【請求項4】
前記Li-M-P複合酸化物は、平均一次粒子径が30?300nmのLiVOPO_(4)からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の電極。
【請求項5】
正極と、セパレータと、負極とがこの順で積層され、前記セパレータは電解質が含浸されており、前記正極は、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の電極であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。」

第4 当審の判断
1 理由1(サポート要件)について
(1)特許請求の範囲の記載
本願の請求項1の記載は,上記第3のとおりであって,請求項1に特定される「第一の樹脂」は,「酸性バインダーを含有し」てなるものである。

(2)発明の詳細な説明の記載
ア これに対し,本願の発明が解決しようとする課題について,発明の詳細な説明には次の記載がある。なお,下線は当審が付した。
(ア)「【0004】
ポリアニオン系化合物であるリチウムリン酸バナジウム化合物は、従来の活物質粒子に比べ粒子径を微小にすることでレート特性が向上することが特許文献1に開示されている。しかしながら、粒子径を微小にすることで、活物質の単位重量当たりの比表面積も比較的大きくなり、電極の形成が困難となる。つまりこの様な比表面積の大きな活物質を用いた場合、従来の活物質に比べて、樹脂成分の活物質への吸着量も多くなることから活物質を含有する塗布液の粘性が上昇してしまうためである。また樹脂の吸着量が多いため、集電体と活物質間の結着性も低下する。したがって、集電体との結着性を向上させるには樹脂の比率を高める必要があるが、活物質の比率が低下することから、活物質層を高密度化することは、極めて困難であった。
【0005】
電極の高密度化をはかる試みとしては、特許文献2において、解砕されやすい二次粒子を用い電極形成時にロールプレスを行うことで一次粒子のレベルで単分散させる技術が開示されているが、特に粒子径の微小な活物質においては、ロールプレスによる一次粒子のレベルでの単分散では導電助剤の分散性の低下により容量の低下を招くことになり、レート特性も劣化することとなる。」

(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題に鑑みて成されたものであり、高密度の電極を得て、体積当たりの容量を向上させ、かつレート特性の高いリチウムイオン二次電池を提供することを目的とした。」

イ 上記(ア)によれば,電極活物質に関する背景技術として,ポリアニオン系化合物であるリチウムリン酸バナジウム化合物は,粒子径を微小にすることでレート特性が向上する一方,従来の活物質に比べて,樹脂成分の吸着量も多くなり,集電体との結着性も低下すること,また,樹脂の比率を高めると,活物質の比率が低下し,活物質層の高密度化が困難であったこと,ロールプレスによる一次粒子のレベルの単分散では導電助剤の分散性が低下して容量が低下し,レート特性も劣化するという問題があったことが分かる。そして,本願の発明が解決しようとする課題(以下「本願課題」という。)は,上記(イ)のとおり,「高密度の電極を得て,体積当たりの容量を向上させ,かつレート特性の高いリチウムイオン二次電池を提供すること」であると認められる。

ウ 次に,本願課題を解決することのできる手段について,発明の詳細な説明には次の記載がある。なお,下線は当審が付した。
(ア)「【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る電極は、Li-M-P複合酸化物と、導電助剤と、第一の樹脂と、を含む結着体が、第一の樹脂とは異なる第二の樹脂中に分散されてなる活物質層を備えており、
さらに第一の樹脂は、酸性バインダーを含有し、前記第二の樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアミド、ポリアミドイミド、カルボキシメチルセルロース塩、の群より選ばれる少なくとも一種以上の樹脂を含有することを特徴とする。ただし、MはFe、Mn、Co、Ni及びVOの群から選ばれる1種以上を含むものとする。
【0009】
係る電極によれば、Li-M-P複合酸化物、導電助剤及び第一の樹脂からなる結着体を構成させることにより、Li-M-P複合酸化物、導電助剤を単分散させる分布状態よりも高密度化が図られると共に、電解液が浸透する経路が適度に確保されるため、電池として高容量であり、かつレート特性も良好になると推察している。
【0010】
また係る電極によれば、酸性バインダーを用いることにより、安定して良好な導電性を維持可能である。
【0011】
前記酸性バインダーは、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸とポリアクリル酸塩の混合物、ポリアクリル酸とカルボキシメチルセルロース塩の混合物、カルボキシメチルセルロースとカルボキシメチルセルロース塩の混合物の群から選ばれる1種以上の樹脂を含有することが好ましい。」

(イ)「【0029】
(第一の樹脂)
前記第一の樹脂は、酸性バインダーを含有する。酸性バインダーは、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸とポリアクリル酸塩の混合物、ポリアクリル酸とカルボキシメチルセルロース塩の混合物、カルボキシメチルセルロースとカルボキシメチルセルロース塩の混合物の群より選ばれる1種以上の樹脂を含有することが好ましい。
酸性バインダーのpHは2.5から6.5である。pHは0.5重量%の酸性バインダーを純水に分散させpHメーターを用いて評価した。
【0030】
第一の樹脂は特にポリアクリル酸が好ましい。これによれば結着性もよく、また導電性の良好な電極が安定して維持できるため好ましい。
【0031】
特にLiVOPO_(4)では、pHが酸性であることから、酸性環境下でもポリアクリル酸は安定に維持可能であることに寄るものと考えられる。
【0032】
また、第一の樹脂と上述した樹脂同士を混合して用いても良い。特にポリアクリル酸とポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸とカルボキシメチルセルロース塩との組み合わせが良好な導電性を持つ電極が得られるため好ましい。
【0033】
前記酸性バインダーは、Li-M-P複合酸化物と導電助剤の合計の重量に対して、0.001重量以上3重量%以下であるものが好ましい。また0.001重量%以上0.5重量%以内であるものがより好ましい。これによれば、結着性が良好で、樹脂による被覆量が少ないため、導電性が良好な結着体が作製できる。
【0034】
この構成によれば、0.001重量%未満であるとき、第一の樹脂の結着性が低下する傾向にある。一方、3重量%より多くなる場合には、第一の樹脂がLi-M-P複合酸化物及び導電助剤を厚く覆ってしまう可能性があり、レート特性が低下してしまう恐れがある。」

(ウ)「【0066】
(実施例1)
<結着体作製工程>
LiVOPO_(4)粉末とケッチェンブラックを混合し、流動層を用いて酸性バインダーをスプレーすることで、結着体を作製した。結着剤(第一の樹脂)とする酸性バインダーはポリアクリル酸を純水に溶かしたものを用いた。流動層の気流には圧縮空気を用いて、気流の温度は80℃とした。結着剤はLiVOPO_(4)粉末と導電助剤を足し合わせた量に対して0.05重量%加えた。PAAを純水に溶かした水溶液のpHを測定したところ3であった。また作製された結着体は図4に示したSEM像であった。
なお、LiVOPO_(4)粉末の平均1次粒子径は透過型電子顕微鏡(TEM)像により180nmであることを確認した。20個以上の粒子径の平均値をLiVOPO_(4)粉末の平均1次粒子径とした。
【0067】
<塗料作製工程>
前記結着体と、バインダー(第二の樹脂)であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)とアセチレンブラックを混合したものを、溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。なお、スラリーにおいて結着体とケッチェンブラックを足し合わせたもの、第一の樹脂とPVDFを足し合わせたものとの重量比が92:8となるように、スラリーを調製した。このスラリーを集電体であるアルミニウム箔上に塗布し、乾燥させた後、1トン/cmで圧延を行い、実施例1の活物質層が形成された電極(正極)を得た。
【0068】
圧延した電極を3×5cmに打ちぬきし、重量を評価した。マイクロメーターを用いて電極の厚みを15点調べ、その平均値を電極の厚みとした。形状、厚みと重量から電極密度を算出した。同様に10ヶ試料を作製し、その平均値を電極密度とした。また作製された電極は、図2に示すような断面構造を持つことを確認した。さらに図2に示したSEM像を二値化処理したものを図3として示し圧延により造粒体が完全には崩壊せず球体及び楕円球体で存在していることを確認した。
【0069】
次に、得られた電極と、その対極であるLi箔とを、それらの間にポリエチレン微多孔膜からなるセパレータを挟んで積層し、積層体(素体)を得た。この積層体を、アルミラミネートパックに入れ、このアルミラミネートパックに、電解質溶液として1MのLiPF_(6)溶液を注入した後、真空シールし、評価用セルを作製した。
【0070】
評価用セルを充放電試験装置で評価した。1Cの放電容量を0.1Cの放電容量で規格化した値をレート特性として表1に示す。」

(エ)「【0071】
(実施例2)
結着体作製工程において、結着剤をポリアクリル酸(80重量%)とカルボキシメチルセルロース(20重量%)の混合物とした以外は、実施例1と同様にして実施例2の結着体を作製した。
【0072】
(実施例3)
結着体作製工程において、結着剤をポリアクリル酸(80重量%)とポリアクリル酸ナトリウム(20重量%)の混合物とした以外は、実施例1と同様にして実施例3の結着体を作製した。
【0073】
(実施例4)
結着体作製工程において、結着剤をポリアクリル酸(80重量%)とカルボキシメチルセルロースナトリウム(20重量%)の混合物とした以外は、実施例1と同様にして実施例4の結着体を作製した。
【0074】
(実施例5)
結着体作製工程において、結着剤を0.01重量%加えた以外は、実施例1と同様にして実施例5の結着体を作製した。
【0075】
(実施例6)
結着体作製工程において、結着剤を0.5重量%加えた以外は、実施例1と同様にして実施例6の結着体を作製した。
【0076】
(実施例7)
結着体作製工程において、結着剤を1重量%加えた以外は、実施例1と同様にして実施例7の結着体を作製した。結着剤の量を増やしたことで、実施例1に比べて結着体の強度が向上しており圧延により結着体が崩れにくくなっている。
【0077】
(実施例8)
結着体作製工程において、結着剤を0.005重量%加えた以外は、実施例1と同様にして実施例8の結着体を作製した。
【0078】
(実施例9)
結着体作製工程において、結着剤を0.001重量%加えた以外は、実施例1と同様にして実施例9の結着体を作製した。
【0079】
(実施例10)
結着体作製工程において、結着剤を3重量%加えた以外は、実施例1と同様にして実施例9の結着体を作製した。結着剤の量を増やしたことで、実施例1に比べて結着体の強度が向上しており圧延により結着体が崩れにくくなっている。」

(オ)「【0080】
(比較例1)
結着体作製工程において、結着剤をカルボキシメチルセルロースナトリウム(80重量%)とスチレンブタジエンゴム(20重量%)の混合物とした以外は、実施例1と同様にして比較例1の結着体を作製した。実施例1に比べてレート特性が低下した。
【0081】
実施例1と同様の方法で、実施例2?10、比較例1で作製した試料の電極密度、及び1Cの放電容量を0.1Cの放電容量で規格化した値を表1に示す。
レート特性は80%以上を良好、電極密度は2.35g/cc以上を良好とした。



エ 上記ウ(ア)によれば,本願明細書の発明の詳細な説明に記載された電極は,Li-M-P複合酸化物と,導電助剤と,第一の樹脂と,を含む結着体が,第一の樹脂とは異なる第二の樹脂中に分散された活物質層を備え,さらに第一の樹脂は,酸性バインダーを含有する。そのため,Li-M-P複合酸化物,導電助剤を単分散させる分布状態よりも高密度化が図られると共に,電池として高容量であり,かつレート特性も良好になる。
次に,上記ウ(ア)(イ)によれば,酸性バインダーとしては,ポリアクリル酸単独,カルボキシメチルセルロース単独,ポリアクリル酸を含む混合物又はカルボキシメチルセルロースを含む混合物が用いられ,特にポリアクリル酸が結着性もよく,導電性の良好な電極が安定して維持できる。また,酸性バインダーのpHは2.5?6.5の範囲である。
そして,上記ウ(ウ)によれば,第一の樹脂とする酸性バインダーのpHについて,ポリアクリル酸単独の場合(実施例1,5?10)は3である。
また,上記ウ(エ)(オ)によれば,同じく,ポリアクリル酸80重量%とカルボキシメチルセルロース20重量%の混合物(実施例2)は3.8,ポリアクリル酸80重量%とポリアクリル酸ナトリウム20重量%の混合物(実施例3)は4.66,ポリアクリル酸80重量%とカルボキシメチルセルロースナトリウム20重量%の混合物(実施例4)は4.94であって,いずれのpHも2.5?6.5の範囲である。
さらに,上記ウ(オ)によれば,カルボキシメチルセルロースナトリウム80重量%とスチレンブタジエンゴム20重量%の混合物(比較例1)のpHは8.4であって,2.5?6.5の範囲を超えている。そして,作製した試料の電極密度及びレート特性については,実施例1?10では,いずれもレート特性が80%以上で電極密度が2.35g/cc以上の良好な結果が得られているのに対して,比較例1では,レート特性が78%で電極密度が2.34g/ccと,良好な結果が得られていない。

(3)検討
ア 上記(2)エのとおり,本願明細書の発明の詳細な説明に記載された電極は,本願課題である「高密度の電極を得て,体積当たりの容量を向上させ,かつレート特性の高いリチウムイオン二次電池を提供すること」を解決しようとするものであり,第一の樹脂が酸性バインダーを含有することで,Li-M-P複合酸化物及び導電助剤を含む結着体の高密度化を図ろうとするものである。そして,酸性バインダーとしては,pHが2.5?6.5の範囲のもの,具体的にはポリアクリル酸が好ましく,具体例をみても,カルボキシメチルセルロース塩を含む,pHが8.4の比較例1に対して,ポリアクリル酸を含む,pHが2.5?6.5の範囲の実施例1?10は,いずれもレート特性が80%以上で電極密度が2.35g/cc以上の良好な結果が得られており,「高密度の電極を得て,体積当たりの容量を向上させ,かつレート特性の高いリチウムイオン二次電池を提供すること」という,本願課題の解決が図られている。
そうすると,本願の請求項1に特定される「第一の樹脂」の酸性バインダーとは,ポリアクリル酸に代表されるような,pHが2.5?6.5の範囲のものを採用すればよいことが理解できる。よって,本願の請求項1に係る発明は,発明の詳細な説明に記載されているといえる。
請求項1を引用する請求項2?5に係る発明についても同様である。

イ なお,原査定では,微量であってもプロトン型のCMC(カルボキシメチルセルロース)が存在しさえすれば本願で言うところの「酸性バインダーを含有」の範ちゅうに含まれるとしているが,本願において,酸性バインダーであるためには,上記アのとおり,バインダーのpHが2.5?6.5の範囲である必要があるところ,CMCナトリウム塩を含むバインダーのpHがこの範囲を超えていることは,本願の比較例1より明らかである。したがって,カルボキシメチルセルロースプロトン型のカルボキシメチルセルロースが微量存在するというだけで,直ちに酸性バインダー(すなわち,pHが2.5?6.5の範囲)であるということはできない。
また,原査定では,造粒体及び電極の製造環境が所定のpHであること,及び/又は造粒体にSBR(スチレンブタジエンゴム)等が含まれていないことが必須条件であるとしている。しかしながら,pHが2.5?6.5の範囲は酸性として典型的な範囲であるから,このようなpHを呈するものを「酸性」と特定することに問題があるとはいえない。また,本願の比較例1に係る酸性バインダー成分であるスチレンブタジエンゴムは水溶性物質ではなく,pH測定に影響を与えるものではないから,本願において特段の特定をすべきものとも認められない。

ウ 以上のとおり,本願請求項1?5に係る発明は,本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるから,原査定の理由1によって本願を拒絶すべきものとすることはできない。

2 理由2(進歩性)について
(1)本願発明
本願発明1?本願発明5は,上記第3のとおり,平成30年 1月27日付け手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものである。そして,本願発明1を再掲すると,次のとおりである。

「Li-M-P複合酸化物と、導電助剤と、第一の樹脂と、を含む結着体が、第一の樹脂とは異なる第二の樹脂中に分散されてなる活物質層を備えており、
前記第一の樹脂は、酸性バインダーを含有し、
前記第二の樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアミド、ポリアミドイミド、カルボキシメチルセルロース塩の群より選ばれる少なくとも一種以上の樹脂を含有することを特徴とする電極(ただし、MはFe、Mn、Co、Ni及びVOの群から選ばれる1種以上を含む。)。」

(2)引用文献,引用発明等
ア 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には,次の事項が記載されている。なお,下線は当審が付した。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が1μm以下である電極活物質の微粒子により形成された塊状多孔質体と導電助剤を含み、当該導電助剤が上記塊状多孔質体の表面及び/又は内部の電極活物質微粒子間に介在していることを特徴とする二次電池用電極。
【請求項2】
上記電極活物質がリチウムマンガン複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物、リチウム含有鉄酸化物、黒鉛及び非晶質炭素から成る群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の二次電池用電極。
【請求項3】
上記塊状多孔質体の平均粒子径が10μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の二次電池用電極。
【請求項4】
上記塊状多孔質体の比表面積が5m^(2)/g以上であることを特徴とする請求項1?3のいずれか1つの項に記載の二次電池用電極。
【請求項5】
上記導電助剤がカーボンブラック及び/又は黒鉛を含む炭素材料であることを特徴とする請求項1?4のいずれか1つの項に記載の二次電池用電極。
【請求項6】
請求項1?5のいずれか1つの項に記載の二次電池用電極を製造するに当たり、
上記導電助剤を被覆した状態の塊状多孔質体をバインダーが溶解した溶媒に投入し、分散させた後、集電箔上に塗布して、乾燥させることを特徴とする二次電池用電極の製造方法。
【請求項7】
請求項1?5のいずれか1つの項に記載の二次電池用電極を製造するに当たり、
上記塊状多孔質体と上記導電助剤をバインダーが溶解した溶媒に投入し、分散させた後、集電箔上に塗布して、乾燥させることを特徴とする二次電池用電極の製造方法。
【請求項8】
上記塊状多孔質体が導電助剤と共に造粒されていることを特徴とする請求項6又は7に記載の二次電池用電極の製造方法。
【請求項9】
請求項1?5のいずれか1つの項に記載の二次電池用電極を製造するに当たり、
平均粒子径が1μmを超え10μm以下の電極活物質と上記導電助剤をバインダーが溶解した溶媒が充填された湿式粉砕装置に投入し、上記電極活物質及び導電助剤を粉砕及び分散させた後、集電箔上に塗布して、乾燥させることを特徴とする二次電池用電極の製造方法。
【請求項10】
請求項1?5のいずれか1つの項に記載の電極を用いて構成されていることを特徴とする二次電池。」

(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のように、小粒子の電極活物質を用いた場合、電極化のために多くのバインダーや導電付与剤(導電助剤)を用いることが必要となり、それだけ活物質比率の低下を招くことになる。
【0005】
活物質比率の低下は容量寄与分の低下だけではなく、溶媒使用量の増大、充填密度の低下など、全てにおいてエネルギー密度の低下につながる。
特に、電気自動車への適用を想定した場合、二次電池に対する高エネルギー密度への要求は一層高いものとなるため、小粒子化だけでは単セルの低容量化、セル数の増加の方向となり、より少ないセル数での高出力化と高容量を同時に実現することは難しいことになる。
【0006】
本発明は、従来の二次電池用電極における上記課題を解決すべくなされたものであって、その目的とするところは、バインダー量の大幅な増加を伴うことなく粒子径の極めて小さい微粒活物質を使用することができ、活物質比率の低下を抑制して、電極の高比表面積化と、エネルギー密度の低下を防止することができる二次電池用電極と、このような二次電池用電極の製造方法、さらにはこのような電極を用いた高性能の二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、二次電池の高出力化に対する効果が予測される粒子径の小さい電極活物質の利用方法について鋭意検討を繰り返した結果、微粒の電極活物質を、例えば凝集、造粒あるいは焼結などの手段によって、あらかじめ多孔質の塊状のものとすることにより、バインダー量を大幅に抑制することができ、電極の高比表面積化と活物質比率の維持、エネルギー密度の低下抑制が可能になることを見出し、本発明を完成するに到った。」

(ウ)「【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、平均粒子径が1μm以下の非常に小さい微粒電極活物質をあらかじめ塊状の多孔質体とした状態で使用するようにしているので、電極活物質粉末の取扱いが容易になるとと共に、微粒の電極活物質粒子をそのまま結着することにより電極化する場合に較べて、バインダー量を大幅に減らすことができ、樹脂比率増大に伴う活物質比率の低下及び電極抵抗の増加を抑制して、電極の高比表面化を図り、エネルギー密度の低下防止が可能となる。
そして、導電助剤が活物質粒子間に存在している状態を形成することによって、調整された塊状物はプレス時の力を緩和することができるようになり、構成微粒子の脱離、孤立粒子の発生、導電パスの欠落を防止することができる。」

(エ)「【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の二次電池用電極及びその製造方法について、さらに詳細かつ具体的に説明する。
【0017】
本発明の二次電池用電極は、上記したように、1μm以下の平均粒子径を有する電極活性物質の微粉末(一次粒子)を例えば凝集させたり、バインダーなどを用いて造粒したり、さらには焼結等の手法を用いたりして塊状の多孔質体(二次粒子)とし、これを電極活物質として、導電助剤と共に用いたものであるが、このような塊状多孔質体を造粒する際の助剤としては、様々な成型用バインダーを使用することができる。
【0018】
とりわけ、焼結法を用いる場合には、ポリビニルアルコール、ポリビニルブラール、ジエチレングリコールなど、アルコールに類する溶液を用いることによって造粒することが可能となる。とくに、ポリビニルアルコールなどを用いた場合には、脱バインダー時に適度な気孔が生成したり、発生した炭素が導電助剤的な機能を付与したりする効果も期待することができる。
なお、塊状多孔質体の造粒に際しては、上記導電助剤の一部又は全部を電極活物質粉末と共に造粒することも必要に応じて望ましい。」

(オ)「【0024】
本発明の上記二次電池用電極を製造するには、種々の工程が考えられるが、まず第1に、平均粒子径が1μm以下の微粒電極活物質により形成された塊状多孔質体を用意し、この塊状多孔質電極活物質の表面に、上記したような導電助剤を被覆し、これを結着用のバインダーが溶解された溶媒中に少しずつ投入しながら、均一に分散させることによってスラリーとし、当該スラリーを集電箔上に塗布して、乾燥させる工程を採用することができる。
【0025】
上記導電助剤の塊状多孔質体への被覆に際しては、例えばメカノフュージョン等、粉体の複合機を用いることが望ましく、これによって比較的大きな塊状多孔質体の周囲に小さな導電助剤粒子が均一に被覆された状態とすることができ、このような複合状態の塊状多孔質体を溶媒中に投入することになるため、より均一な分散を行うことができるようになる。もちろん分散剤等を用いた導電剤分散インクを添加することにより塊状多孔質体周辺に均一に存在することも被覆した状態と同じことと考える。
なお、上記導電助剤は、上記したように、その必要量の一部を塊状多孔質体の内部に介在させること、すなわち塊状多孔質体の造粒に際して、電極活物質に導電助剤を混合した粉末を造粒するようしてもよい。
【0026】
結着用のバインダーとしては、例えばフッ素ゴム(FR)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリ塩化ビニル(PVC)、エチレン‐プロピレン‐ジエン共重合体(EPDM)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン‐ブタジエンゴム(SBR)、セルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)などを単独で、あるいはこれらの2種以上を任意に組み合わせて用いることができる。
【0027】
また、上記バインダーを溶解させるための溶媒としては、N-メチルピロリドン(NMP)や水が代表的に用いられる。
【0028】
そして、スラリーを塗布する上記の集電箔としては、アルミニウムや銅、錫などの金属や、これらの合金、あるいはステンレス鋼等から成る金属箔を用いることができる。
【0029】
上記のような活物質スラリーは、電極活物質の微粉末により形成された塊状多孔質体と導電助剤をバインダーが溶解した溶媒に順次少しずつ投入しながら、分散させることによっても得ることができ、このような電極活物質粒子が均一分散したスラリーを同様に集電箔上に塗布後、乾燥させることによって本発明の二次電池用電極を製造することができる。
なお、上記同様に、導電助剤を電極活物質と共に造粒した塊状多孔質体を用いることも可能なことは言うまでもない。」

(カ)「【0035】
(実施例1)
正極活物質として平均粒子径D50(50%累積粒子径)が1μmのリチウムマンガン複合酸化物、導電助剤としてカーボンブラック、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)、溶媒としてN-メチルピロリドン(NMP)を使用した。
なお、電極組成は、正極活物質:バインダー:導電助剤=85:5:10の質量比となるものとし、図1に示す工程に基づいて作製した。
【0036】
まず、上記正極活物質全量と導電助剤の半分を使用して、ポリビニルアルコールの存在下で混合してアルコールスラリーとし、流動層造粒装置を用いて造粒処理を行った。この造粒方法は転動流動層造粒装置を用いても構わないが乾燥まで行うものとする。造粒により得られた粉末の平均粒径が5μm程度となるように造粒処理を行い、塊状多孔質体とした。
なお、BET法に基づいてこの塊状多孔質体の比表面積を測定した結果、10m^(2)/gであった。
【0037】
得られた塊状多孔質体と、残り半量の導電助剤をメカノフュージョン処理装置に投入し、表面被覆処理を施した。この処理によって、上記塊状多孔質体の表面に、細かなカーボンブラックが被覆された状態となっていることがSEM観察により確認された。
【0038】
次に、分散用ミキサーに高純度無水NMP、次いでPVDFを投入し、これをNMP溶媒にPVDFを十分に溶解させた。
【0039】
この後、PVDFが溶解したNMP溶媒に、先に得られた導電助剤で被覆された正極活物質粉末の塊状多孔質体を少しずつ投入することにより、PVDFが溶解した溶媒になじませた。
上記塊状多孔質体がすべて投入された段階で、さらにNMP溶媒を適宜加えることによって粘度を調節し、スラリーとした。
【0040】
得られたスラリーをアルミニウム箔上に塗布し、一定厚さのドクターブレードを用いて膜厚を調整したのち、ホットスターラー上で乾燥すると共に、ロールプレスにより密度調整することによって、二次電池用電極を得た。なお、この際のプレス圧は多孔体が粉砕されない程度とする必要があるため、装置荷重10t以下とした。
目視観察の結果、分散性、密着性含めて良好な電極状態であった。」

(キ)上記摘示よりみて,上記引用文献1には次の発明が記載されていると認められる(以下「引用発明」という。)。

「平均粒子径が1μm以下である電極活物質の微粒子と導電助剤を,ポリビニルアルコール,ポリビニルブラール,ジエチレングリコールなどの成型用バインダーを用いた造粒によって形成した塊状多孔質体と導電助剤を含み,上記導電助剤が上記塊状多孔質体の表面及び/又は内部の電極活物質微粒子間に介在しており,上記導電助剤を被覆した状態の塊状多孔質体を,フッ素ゴム(FR),ポリフッ化ビニリデン(PVDF),ポリアクリロニトリル(PAN),ポリ塩化ビニル(PVC),エチレン‐プロピレン‐ジエン共重合体(EPDM),ブタジエンゴム(BR),スチレン‐ブタジエンゴム(SBR),セルロース,カルボキシメチルセルロース(CMC)などの結着用のバインダーが溶解した溶媒に投入し,分散させた後,集電箔上に塗布して,乾燥させて得られる,二次電池用電極。」

イ 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には,次の事項が記載されている。なお,下線は当審が付した。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム源と、5価のバナジウム源と、リン酸源と、水と、酒石酸とを含む混合物を調整する工程と、
前記混合物を加圧下で200℃以上に加熱することにより、LiVOPO_(4)を得る水熱合成工程と、を備え、
前記混合物に含まれる前記酒石酸の濃度が0.5?2.0mol/Lであり、かつ、前記5価のバナジウム源に含まれるバナジウム原子のモル数に対する前記酒石酸のモル数の割合が10?150mol%である活物質の製造方法。」

(イ)「【0038】
次に、反応容器を密閉して、混合物を加圧しながら200℃以上に加熱することにより、混合物の水熱反応を進行させる。これにより、本実施形態に係るLiVOPO_(4)を主成分として含有し、平均粒子径が10?145nmであり、結晶子の径が1?70nmである活物質2が水熱合成される。」

(ウ)「【0079】
(実施例1)
[原料調整工程]
500mlのマイヤーフラスコに、18.37g(0.10mol)のV2O5(ナカライテスク社製、純度99%)、23.08g(0.20mol)のH_(3)PO_(4)(ナカライテスク社製、純度85%)、及び、200gの蒸留水(ナカライテスク社製、HPLC用)を入れ、マグネチックスターラーで攪拌した。攪拌を続けながら、30.19g(0.20mol)のL-(+)-酒石酸を上記混合物中に加えた。L-(+)-酒石酸を加えた後、約23時間攪拌を継続したところ、青色の透明な溶液が得られた。
0.5Lオートクレーブのガラス製の円筒容器内に8.48g(0.20mol)のLiOH・H_(2)O(ナカライテスク社製、純度99%)を入れ、そこへ、271.53gの上記溶液(仕込み量の96.9%)を加え、攪拌を行ったところ、青色の透明な溶液が維持された。
【0080】
[水熱合成工程]
容器を密閉し、5時間かけて、250℃まで昇温し、10時間250℃で保持し、水熱合成を行った。容器内の温度が室温になるまで放冷し、緑色の懸濁液を得た。この物質のpHを測定したところ、pHは3?4であった。上澄みを除去した後、約300mlの蒸留水を加え、攪拌しながら容器内の沈殿物を洗浄した。その後、吸引濾過を行った(水洗)。この操作を2回繰り返した後、約800mlのアセトンを加え、上記水洗と同様にして沈殿物の洗浄を行った。この物質をシャーレに移し、大気中で乾燥させて、34.60gの褐色の固体を得た。収率は、LiVOPO_(4)換算で102.4%であった。
【0081】
[X線回折測定による活物質の同定、及び、結晶子径の測定]
得られた活物質のX線回折測定を行った。複数のピークのうち、2θ=27.21°、27.314°、29.7°において、強度が相対的に高いピークが得られ、活物質は、主にα型の結晶構造を有するLiVOPO_(4)を含有することを確認した。
結晶子径は、X線回折装置で半値幅を測定し、下記のScherrerの式代入することにより算出した。
結晶子の径の大きさ(Å)=K・λ/(β・cosθ) …(1)
なお、Scherrer係数は、0.9である。結晶子径の結果を表1に示す。
X線回折チャートは2θ=25°?29°の付近でブロードであったが、これは、結晶子径が非常に小さいことに起因するものと考えられる。
【0082】
[平均一次粒子径の測定]
得られた活物質の一次粒子1について、その粒度分布を、高分解能走査型電子顕微鏡で観察したイメージに基づいた活物質の投影面積(100個)から求められる投影面積円相当径の累積率により算出した。求めた一次粒子1に対する個数基準の粒度分布に基づき、活物質の平均一次粒子径を算出した。結果を表1に示す。
【0083】
[活物質の形状の観察]
透過型電子顕微鏡(日本電子社製,装置名:JEM-2100F)により活物質の形状を観察した。得られた活物質2は、図2に示すように、非常に小さい一次粒子が凝集した構造を備え、凝集体(二次粒子)の形状は球状であった。」

ウ 引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には,次の事項が記載されている。なお,下線は当審が付した。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム源と、バナジウム源と、リン酸源と、水と、アスコルビン酸とを含み、バナジウム原子のモル数に対するリチウム原子のモル数の割合、及び、バナジウム原子のモル数に対するリン原子のモル数の割合が0.95?1.2、バナジウム原子のモル数に対するアスコルビン酸のモル数の割合が0.05?0.6である混合物を加圧下で加熱する水熱合成工程と、
前記水熱合成工程で得られた材料を加熱し、β型結晶構造のLiVOPO_(4)を得る焼成工程と、
を備える活物質の製造方法。
【請求項2】
平均一次粒子径が100?350nmであり、かつ、二次粒子の長軸の長さに対する短軸の長さの比が0.80?1である凝集構造を備え、β型結晶構造のLiVOPO_(4)を主成分として含む活物質。
【請求項3】
平均二次粒子径が1500nm?8000nmである、請求項2記載の活物質。
【請求項4】
集電体と、請求項3の活物質を含み前記集電体上に設けられた活物質層と、を備える電極。
【請求項5】
請求項4の電極を備えるリチウム二次電池。」

(イ)「【0037】
<活物質>
次に、本実施形態に係る活物質について説明する。図1は、本実施形態に係る活物質2の模式断面図である。本実施形態の活物質2は、一次粒子1が凝集して二次粒子を形成したものである。
【0038】
活物質2は、平均一次粒子径が100?350nmである。ここで、本発明において規定される「活物質の平均一次粒子径」とは、活物質2の一次粒子1に対して測定した個数基準の粒度分布における、累積率が50%であるD50の値である。活物質2の一次粒子1の個数基準の粒度分布は、例えば、高分解能走査型電子顕微鏡で観察したイメージに基づいた活物質2の一次粒子1の投影面積から投影面積円相当径を測定し、その累積率から算出することができる。なお、投影面積円相当径とは、粒子(活物質2の一次粒子1)の投影面積と同じ投影面積を持つ球を想定し、その球の直径(円相当径)を粒子径(活物質2の一次粒子の粒子径)として表したものである。なお、後述する「活物質の平均二次粒子径」とは、上述の平均一次粒子径と同様に、凝集粒子である活物質2(本発明の活物質の二次粒子に相当)に対して測定した個数基準の粒度分布における、累積率が50%であるD50の値である。
【0039】
活物質2の長軸の長さに対する短軸の長さの比は、0.80?1である。ここで、本発明において規定される二次粒子の「活物質の長軸の長さ」は、高分解能走査型電子顕微鏡で観察したイメージにおいて、最も長い長さを意味し、「活物質の短軸の長さ」は、長軸の垂直二等分線の線分の長さを意味する。長軸の長さに対する短軸の長さの比が1の時、活物質の形状は球になる。この比が0.80?1であるということは、得られる活物質の二次粒子の形状は、球または極めて球に近い形状である。中でもこの比が、0.81?0.93であるものを製造し易い。
【0040】
活物質2は、β型結晶構造のLiVOPO_(4)を主成分として含む。ここで、「β型結晶構造のLiVOPO_(4)を主成分とする」とは、活物質2において、β型結晶構造のLiVOPO_(4)をβ型結晶構造のLiVOPO_(4)とα型結晶構造のLiVOPO_(4)との総和に対して80質量%以上含むことを意味する。ここで、粒子中におけるβ型結晶構造のLiVOPO_(4)やα型結晶構造のLiVOPO_(4)等の量は、例えば、X線回折法により測定することができる。通常、β型結晶構造のLiVOPO_(4)は2θ=27.0度にピークが現れ、α型結晶構造のLiVOPO_(4)は2θ=27.2度にピークが現れる。なお、活物質は、β型結晶構造のLiVOPO_(4)及びα型結晶構造のLiVOPO_(4)以外にも、未反応の原料成分等を微量含んでもよい。
【0041】
このような活物質は、上記製造方法よって容易に製造されるものである。そしてこの活物質は、高いレート特性で、かつ、大きな放電容量を得ることができる。この理由は明らかではないが、放電容量の大きなβ型結晶構造のLiVOPO_(4)を主成分とすることにより放電容量が大きくなり、また、平均一次粒子径が非常に小さく二次粒子の形状が極めて球に近い凝集構造を有することにより、Liイオンが等方的に拡散し易くなり、放電電流密度が高い場合であっても、大きな放電容量を得ることができるためと推測される。なお、上述のように、活物質2は、凝集構造、すなわち、多孔体構造であるため、電解液の含浸能が高い。」

(ウ)「【0068】
(実施例1)
<水熱合成工程>
500mlのマイヤーフラスコに、4.63g(0.04mol)のH_(3)PO_(4)(ナカライテスク社製、純度85%)、及び、180gの蒸留水(ナカライテスク社製、HPLC用)を入れ、マグネチックスターラーで攪拌した。続いて、3.67g(0.02mol)のV_(2)O_(5)(ナカライテスク社製、純度99%)を加え、約2.5時間攪拌を続けた。
次に、1.77g(0.01mol)のアスコルビン酸を、上記混合物中に加えた。アスコルビン酸を加えた後、約60分間攪拌を継続した。
続いて、1.70g(0.04mol)のLiOH・H_(2)O(ナカライテスク社製、純度99%)を約10分かけて加えた。得られたペースト状の物質に、20gの蒸留水を追加した後、フラスコ内の物質210.91gを、0.5Lオートクレーブのガラス製の円筒容器内に移した。容器内の物質のpHを測定したところ、pHは5であった。容器を密閉し、12時間、250℃で保持し、水熱合成を行った。
【0069】
ヒータのスイッチをオフにした後、約7時間かけて放冷を行い、茶褐色沈殿を含む懸濁液を得た。この物質のpHを測定したところ、pHは6であった。上澄みを除去した後、約200mlの蒸留水を加え、攪拌しながら容器内の沈殿物を洗浄した。その後、吸引濾過を行った。水洗を行った後、約200mlのアセトンを加え、水洗と同様にして沈殿物の洗浄を行った。濾過後の物質をシャーレに移し、大気中で乾燥させて、6.51gの褐色固体を得た。収率は、LiVOPO_(4)換算で96.7%であった。
【0070】
<焼成工程>
水熱合成工程で得られた褐色個体1.00gをアルミナ坩堝に入れ、大気雰囲気中、室温から450℃まで60分かけて昇温し、450℃で4時間熱処理することにより、粉体を得た。
【0071】
<β比の測定>
実施例1の活物質におけるβ型結晶構造のLiVOPO_(4)とα型結晶構造のLiVOPO_(4)との総和に対するβ型結晶構造の割合(β比)を、粉末X線回折(XRD)の結果より求めた。実施例1の活物質におけるβ比は、97%であった。
【0072】
<平均一次粒子径及び平均二次粒子径の測定>
実施例1の活物質の一次粒子及び二次粒子の粒度分布を、高分解能走査型電子顕微鏡で観察したイメージに基づいた活物質の投影面積(それぞれ、100個)から求められる投影面積円相当径の累積率によりそれぞれ算出した。求めた活物質の個数基準の粒度分布に基づき、活物質の平均一次粒子径(D50)及び平均二次粒子径(D50)を算出した。活物質の平均一次粒子径(D50)は160nmであり、平均二次粒子径(D50)は2200nmであった。なお、実施例1で得られた活物質の二次粒子に対して測定した個数基準の粒度分布における累積率が10%であるD10の値は1150nmであり、累積率が90%であるD90の値は、2730nmであった。
【0073】
<二次粒子の短軸長/長軸長の測定>
高分解能走査型電子顕微鏡で観察したイメージから、100個の活物質の二次粒子の短軸長及び長軸長を測定し、長軸長に対する短軸長の比の平均値を算出した。実施例1の活物質の短軸長/長軸長の値は、0.93であった。」

エ 引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には,次の事項が記載されている。なお,下線は当審が付した。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質、バインダ及び酸化防止剤を含んでなり、
前記バインダが、10?40重量%のニトリル基含有単量体単位及び炭素数が4以上の直鎖アルキレン構造含有単量体単位を含むニトリル重合体と、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を主成分として含むアクリル重合体とを含有し、前記バインダ全体のヨウ素価が3?30mg/100mgであり、
前記バインダ100重量部に対する、前記酸化防止剤の含有量が、0.05?3重量部である電気化学素子電極用複合粒子。
【請求項2】
前記ニトリル重合体が、酸性官能基を有するものである請求項1に記載の電気化学素子電極用複合粒子。
【請求項3】
前記酸性官能基が、カルボン酸基、スルホン酸基及びリン酸基から選ばれる少なくとも1つである請求項2に記載の電気化学素子電極用複合粒子。
【請求項4】
前記バインダを構成する前記ニトリル重合体及び前記アクリル重合体が粒子状の重合体である請求項1?3のいずれかに記載の電気化学素子電極用複合粒子。
【請求項5】
前記酸化防止剤が、アミン系酸化防止剤及び/又はフェノール系酸化防止剤である請求項1?4のいずれかに記載の電気化学素子電極用複合粒子。
【請求項6】
請求項1?5のいずれかに記載の電気化学素子電極用複合粒子を含んでなることを特徴とする電気化学素子電極材料。
【請求項7】
請求項6に記載の電気化学素子電極材料から形成される活物質層を集電体上に積層してなることを特徴とする電気化学素子電極。
【請求項8】
前記活物質層を前記集電体上に、加圧成形により積層してなることを特徴とする請求項7に記載の電気化学素子電極。
【請求項9】
前記活物質層を前記集電体上に、ロール加圧成形により積層してなることを特徴とする請求項8に記載の電気化学素子電極。
【請求項10】
請求項7?9のいずれかに記載の電気化学素子電極を備える電気化学素子。
【請求項11】
請求項1?5のいずれかに記載の電気化学素子電極用複合粒子を製造する方法であって、
前記電極活物質、前記バインダ、及び前記老化防止剤を水に分散させてスラリーを得る工程と、前記スラリーを噴霧乾燥して造粒する工程と、を有する電気化学素子電極用複合粒子の製造方法。」

(イ)「【0026】
また、本発明で用いるニトリル重合体(a)は、集電体に対する密着性及びバインダとしての結着力を向上させることができるという点より、酸性官能基を有していることが好ましい。本発明において、ニトリル重合体(a)に、酸性官能基を導入する方法としては特に限定されないが、上述したニトリル基含有単量体及び炭素数4以上の共役ジエン単量体と共重合可能であり、かつ酸性官能基を有する単量体を用い、これにより、本発明のニトリル重合体(a)に、酸性官能基を有する単量体単位を含有させる方法が好ましく挙げられる。なお、本発明で用いる酸性官能基を有する単量体としては、特に限定されないが、集電体に対する密着性及びバインダとしての結着力の向上効果が高いという点より、スルホン酸基を有する単量体及びリン酸基を有する単量体から選択される少なくとも1種が好ましく、カルボン酸基を有する単量体及びスルホン酸基を有する単量体から選択される少なくとも1種が好ましく、カルボン酸基を有する単量体がより好ましい。」

(ウ)「【0092】
活物質層を集電体上に積層する際には、活物質層としての電気化学素子電極材料をシート状に成形し、次いで集電体上に積層してもよいが、集電体上で電気化学素子電極材料を直接加圧成形する方法が好ましい。加圧成形としては、たとえば、一対のロールを備えたロール式加圧成形装置を用い、集電体をロールで送りながら、スクリューフィーダー等の供給装置で電気化学素子電極材料をロール式加圧成形装置に供給することで、集電体上で、活物質層を成形するロール加圧成形法や、電気化学素子電極材料を集電体上に散布し、電気化学素子電極材料をブレード等でならして厚みを調整し、次いで加圧装置で成形する方法、電気化学素子電極材料を金型に充填し、金型を加圧して成形する方法などが挙げられる。これらのなかでも、ロール加圧成形法が好ましい。特に、本発明の電気化学素子電極用複合粒子は、高い流動性を有しているため、その高い流動性により、ロール加圧成形による成形が可能であり、これにより、生産性の向上が可能となる。」

(エ)「【0130】
(実施例1)
正極用複合粒子スラリーの製造
正極活物質としてのLiNiO_(2) 100部、導電材としてのアセチレンブラック(HS-100、電気化学工業社製)2部、バインダとしての製造例1で得られた粒子状飽和化ニトリル重合体(a1)の水分散液を固形分換算で1.25部、同じくバインダとしての製造例13で得られた粒子状アクリル重合体(b1)の水分散液を固形分換算で1.25部、製造例17で得られた酸化防止剤(c1)0.025部(バインダ100部に対して、1部)及び分散剤としてのエーテル化度が0.8のカルボキシメチルセルロース水溶液を固形分換算で2部を混合し、さらにイオン交換水を適量加え、プラネタリーミキサーにて混合分散して固形分濃度20%の正極用複合粒子スラリーを調製した。
【0131】
正極用複合粒子の製造
上記にて得られた正極用複合粒子スラリーを、スプレー乾燥機(大川原化工機社製)を使用し、回転円盤方式のアトマイザ(直径65mm)を用い、回転数25,000rpm、熱風温度150℃、粒子回収出口の温度90℃の条件にて、噴霧乾燥造粒を行い、正極用複合粒子を得た。得られた複合粒子の平均体積粒子径は40μmであった。
【0132】
正極の製造
上記にて得られた正極用複合粒子を、ロールプレス機(押し切り粗面熱ロール、ヒラノ技研工業社製)のロール(ロール温度100℃、プレス線圧4.0kN/cm)に、集電体としてのアルミニウム箔とともに供給し、成形速度20m/分で、集電体としてのアルミニウム箔上に、シート状に成形し、厚さ80μmの正極活物質層を有する正極を得た。
(【0133】?【0137】 略)
【0138】
(実施例2,3)
正極複合粒子を製造する際に用いる正極活物質として、LiNiO_(2)の代わりに、LiFePO_(4)(実施例2)及びLiCoO_(2)(実施例3)を、それぞれ使用した以外は、実施例1と同様にして、正極、負極及びリチウムイオン二次電池を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。」

(3)対比・判断
ア 本願発明1について
(ア)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。
まず,引用発明の「導電助剤」は本願発明1の「導電助剤」に,引用発明の「塊状多孔質体」は本願発明1の「結着体」に,引用発明の「二次電池用電極」は本願発明1の「電極」に,それぞれ相当する。
次に,引用発明の「ポリビニルアルコール,ポリビニルブラール,ジエチレングリコールなどの成型用バインダー」は,塊状多孔質体を造粒する際の助剤として用いられるものであるから,本願発明1の「第一の樹脂」に相当する(なお,請求人は,引用文献1【0018】には,脱バインダーすることが示唆され,そもそも,塊状多孔質体中のバインダーは必須でないとしているが,他方,実施例1に係る【0035】?【0040】には,造粒後に脱バインダーを行った旨の明示的記載はないから,実施例1は,成型用バインダーが残存している場合も含まれるものと解される。)。
また,引用発明の「フッ素ゴム(FR),ポリフッ化ビニリデン(PVDF),ポリアクリロニトリル(PAN),ポリ塩化ビニル(PVC),エチレン‐プロピレン‐ジエン共重合体(EPDM),ブタジエンゴム(BR),スチレン‐ブタジエンゴム(SBR),セルロース,カルボキシメチルセルロース(CMC)などの結着用のバインダー」は,その例示のうち下線の範囲で本願発明1の「第二の樹脂」の選択肢に含まれるものであり,かつ,引用発明の「ポリビニルアルコール,ポリビニルブラール,ジエチレングリコールなどの成型用バインダー」とも異なる物質であるから,本願発明1の「第一の樹脂とは異なる」ものに相当する。
さらに,引用発明において,「導電助剤を被覆した状態の塊状多孔質体を結着用のバインダーが溶解した溶媒に投入し,分散させた後,集電箔上に塗布して,乾燥させて得られる」ものは,集電箔上に形成された電極活物質のであるから,本願発明1の「結着体が(,第一の樹脂とは異なる)第二の樹脂中に分散されてなる活物質層」に相当する。

(イ)一致点,相違点
したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

(一致点)
「電極活物質と,導電助剤と,第一の樹脂と,を含む結着体が,第一の樹脂とは異なる第二の樹脂中に分散されてなる活物質層を備えており,
前記第二の樹脂は,スチレンブタジエンゴム,ポリフッ化ビニリデン,カルボキシメチルセルロースの群より選ばれる少なくとも一種以上の樹脂を含有する,電極。」

(相違点1)
電極活物質が,本願発明1では「Li-M-P複合酸化物」であるのに対し,引用発明では,そのような特定がない点。

(相違点2)
第一の樹脂が,本願発明1では「酸性バインダー」を含有しているのに対し,引用発明では,そのような特定がない点。

(ウ)相違点1についての判断
上記相違点1について判断すると,引用文献2(上記摘示(2)イ(ア)?(ウ),引用文献3(上記摘示(2)ウ(ア)?(ウ))にはいずれも,本願発明1の「Li-M-P複合酸化物」に相当するLiVOPO_(4)を水熱合成し,リチウム二次電池の活物質として用いる,という技術的事項が記載されている。
しかしながら,相違点1に係る本願発明1の「Li-M-P複合酸化物」は,第一の樹脂を適用して得られる結着体の原料成分であるのに対し,引用文献2,3に記載された「LiVOPO_(4)」は,その水熱合成工程を経ることで得られた活物質が「非常に小さい一次粒子が凝集した構造を備え,凝集体(二次粒子)の形状は球状であった」(引用文献2【0083】),「平均一次粒子径が非常に小さく二次粒子の形状が極めて球に近い凝集構造を有する」(引用文献3【0041】)というものである。
よって,引用文献2,3に記載された上記技術的事項からは,本願発明1のように,第一の樹脂を用いて結着体を生成させることの動機づけがないため,当業者といえども,引用発明及び引用文献2,3に記載された技術的事項から,相違点1に係る本願発明1の「Li-M-P複合酸化物」という構成を容易に想到することはできない。

(エ)相違点2についての判断
上記相違点2について判断すると,引用文献4には,酸性官能基を有する重合体をバインダとして用いることが記載されている。特に,【0138】の実施例2には,正極活物質として,LiFePO_(4)を使用したものも記載されている(上記摘示(2)エ(エ))。
しかしながら,本願発明1では,酸性バインダーを含有する第一の樹脂を用いて結着体を生成した後,第一の樹脂とは異なる第二の樹脂を適用して,電極形成用のスラリーを調製しているのに対し,引用文献4に記載された技術的事項は,酸性官能基を有する重合体バインダを用いて生成した複合粒子は,スラリーを生成することなくロールプレスされ,シート状に成形されるものである。すなわち,引用文献4に記載された技術的事項は,本願発明1のように,結着体に第二の樹脂(別のバインダー)を適用してスラリーを調製するというものではない。
よって,酸性官能基を有する重合体を造粒体のバインダーとして用いることが知られていたとしても,得られた造粒体の電極への加工態様が相違する引用文献4に記載された上記技術的事項からは,本願発明1のように,第一の樹脂として酸性バインダーを適用することの動機づけがないため,当業者といえども,引用発明及び引用文献4に記載された上記技術的事項から,相違点2に係る本願発明1の「酸性バインダー」という構成を容易に想到することはできない。

なお,先の拒絶理由通知で摘示された特開2008-288059号公報の【0025】には,負極の結着剤としてポリアクリル酸,ポリイミドなどが使用できることが記載され,同じく,特開2000-58077号公報の【0010】【0016】には,カルボキシメチルセルロースアンモニウム塩からなる造粒合剤を用いることが記載され,また,原査定で摘示された特開昭57-197753号公報には,結着剤としてポリアクリル酸あるいはその塩,カルボキシメチルセルローズ,メチールセルローズを用いて加圧成形することが記載されている(第1頁右欄等)。
しかしながら,上記各文献のいずれも,造粒体からの正極(又は負極)合剤の製造にペレット成形を適用する旨が記載されるに止まり,本願発明1のように,結着体に第二の樹脂を適用したスラリーを塗布して電極を形成するものとは,技術的事項が異なるものである。
よって,ポリアクリル酸やカルボキシメチルセルロースを用いて造粒体を得ることが知られていたとしても,得られた造粒体の電極への加工態様が相違する上記各文献に記載された技術的事項からは,本願発明1のように,第一の樹脂として酸性バインダーを適用することの動機づけがないため,当業者といえども,引用発明及び上記各文献に記載された上記技術的事項から,相違点2に係る本願発明1の「酸性バインダー」という構成を容易に想到することはできない。

(オ)小括
上記(ウ)(エ)にて判断したとおり,本願発明1は,引用発明及び引用文献2?4に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

イ 本願発明2?5について
本願発明2?5は,本願発明1における「Li-M-P複合酸化物」及び「酸性バインダー」を備えるものであるから,本願発明1での判断と同じ理由により,引用発明及び引用文献2?4に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

ウ まとめ
上記ア(オ),イのとおり,本願発明1?5は,引用文献1?4に基づいて当業者が容易に発明できたものではないから,原査定の理由2によって本願を拒絶すべきものとすることはできない。

第5 むすび
以上のとおり,本願については,原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-06-17 
出願番号 特願2014-58347(P2014-58347)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01M)
P 1 8・ 537- WY (H01M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小川 知宏  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 平塚 政宏
長谷山 健
発明の名称 電極及びそれを用いたリチウムイオン二次電池  

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