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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B26D
管理番号 1352775
審判番号 不服2018-12278  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-12 
確定日 2019-07-09 
事件の表示 特願2015-240097「パンチ金型及び建材用孔開け加工方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年6月15日出願公開、特開2017-104932、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年12月9日を出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年1月15日付け:拒絶理由通知書
平成30年3月26日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年6月14日付け:拒絶査定
平成30年9月12日 :審判請求書と同時に手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定(平成30年6月14日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

請求項1-4に係る発明は、以下の引用文献1-2に基づいて、その発明の属する技術分野における通常の技術を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2000-263150号公報
2.特開平3-110026号公報

第3 本願発明
本願請求項1-4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明4」という。)は、平成30年9月12日提出の手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1-4に記載された事項により特定される発明であり、そのうち本願発明1及び4は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
加圧に対して弾性変形可能な材料からなる被加工物に孔開け加工を行うパンチ金型であって、
前記被加工物の弾性変形可能な表面と対向して接離自在な第一加圧面及びパンチ孔を有するパンチガイドと、
前記被加工物の弾性変形可能な裏面と対向して接離自在な第二加圧面及びダイ孔を有するダイと、
前記パンチガイドの内部に支持され、前記パンチ孔又は前記ダイの前記ダイ孔のいずれか一方から他方に向け移動して前記被加工物を貫通する切刃部を有するパンチと、を備え、
前記パンチガイドの前記第一加圧面は、前記孔開け加工時に前記被加工物の前記表面と面接触して圧接され、前記パンチ孔の孔縁に沿って前記被加工物の前記表面へ食い込むように突出形成される第一突起部を有し、
前記ダイの前記第二加圧面は、前記孔開け加工時に前記被加工物の前記裏面と面接触して圧接され、前記ダイ孔の孔縁に沿って前記被加工物の前記裏面へ食い込むように突出形成される第二突起部を有し、
前記被加工物は、前記表面に対する前記第一突起部の食い込みと、前記裏面に対する前記第二突起部の食い込みにより、前記第一加圧面と前記第二加圧面の間に移動不能に挟持されて位置決め保持され、この位置決め保持状態で前記切刃部と前記ダイ孔により前記被加工物に貫通孔が打ち抜かれるパンチ金型。」

「【請求項4】
加圧に対して弾性変形可能な材料からなる被加工物として板状の建材に孔開け加工する建材用孔開け加工方法であって、
前記被加工物の弾性変形可能な表面にパンチガイドの第一加圧面が圧接し、前記被加工物の弾性変形可能な裏面にダイの第二加圧面が圧接して、前記第一加圧面と前記第二加圧面の間に前記被加工物を移動不能に挟み込む位置決め工程と、
前記パンチガイドのパンチ孔又は前記ダイのダイ孔のいずれか一方から他方に向けパンチが移動して、前記被加工物に前記パンチの切刃部を貫通させる打ち抜き工程と、を含み、
前記位置決め工程は、前記被加工物の前記表面に対する前記第一加圧面の圧接により、前記パンチ孔の孔縁に沿って突出形成された第一突起部を前記被加工物の前記表面へ食い込ませると同時に、前記被加工物の前記裏面に対する前記第二加圧面の圧接により、前記ダイ孔の孔縁に沿って突出形成された第二突起部を前記被加工物の前記裏面へ食い込ませ、前記第一突起部及び前記第二突起部の食い込みと、前記被加工物の前記表面に対する前記第一加圧面の圧接及び前記被加工物の前記裏面に対する前記第二加圧面の圧接とによって、前記第一加圧面と前記第二加圧面の間に前記被加工物を移動不能に挟持して位置決め保持し、
前記打ち抜き工程は、前記第一加圧面と前記第二加圧面の間に前記被加工物を移動不能に挟持して位置決め保持された位置決め状態で、前記パンチの移動により前記被加工物に貫通孔が開けられる建材用孔開け加工方法。」

また、本願発明2-3は、概略、本願発明1を減縮した発明である。

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は理解の便のため当審にて付与。以下同。)。

ア 段落【0001】-【0004】
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、穴抜き金型に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、板厚9mm以下の鉄板等に穴抜き加工をする場合、ポンチとダイスからなる穴抜き金型を用いるが、鉄板等がポンチに食い付かないよう、ポンチにストリッパを嵌合することは、例えば、特開昭62-158536号公報等に示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このような穴抜き金型を用いて、片面に合成ゴムもしくは合成樹脂等の弾性体が積層された鉄板に穴抜きする場合には、ストリッパに押圧された弾性体層に凹みを生じ、外観を損ねるという問題があった。
【0004】本発明は、上記従来の問題点を解消し、鉄板の片面に積層された弾性体層の、ストリッパの接地部の押圧による凹みの発生を僅少化し、穴抜きによる鉄板の外観不良を減少させることが出来る穴抜き金型を提供することを目的とする。」

イ 段落【0011】-【0017】
「【0011】図1に示されている請求項1の発明の穴抜き金型の第1実施例に於いて、1は円筒状のダイス、2は大径の頭部21を有する円棒状のポンチであって、ダイス1の内径とポンチ2の外径との差異は、通常 0.2? 0.1mmとなされている。
【0012】ポンチ2の先端には、略円筒状のストリッパ3が嵌合されており、ポンチ2の頭部21とストリッパ3との間には、螺旋状のスプリング4が挟着されている。ストリッパ3の底面には、内周壁に沿って外壁が傾斜された片刃状断面の環状突条31が周設されており、接地部はその内周に沿った幅狭の環状となされている。
【0013】穴抜きをする際には、ダイス1上に片面に合成ゴムもしくは合成樹脂等の弾性体6が積層された鉄板5を弾性体層を上にして載置し、ポンチ2の頭部21を圧下する。ストリッパ3はスプリング4を圧縮しつつ鉄板5上に停止し、ポンチ2のみが降下して鉄板5を貫通する。
【0014】ポンチ2の頭部21の押圧が停止されると、スプリング4の弾力によってポンチ2はストリッパ3内を上昇、復元し、ポンチ2の周囲に付着した鉄板5は、ストリッパ3によってポンチ2から離脱される。
【0015】図2に示されている請求項1の発明の穴抜き金型の第2実施例に於いては、ストリッパ3の底面全体が外壁が傾斜された片刃状断面に面取りされて、接地部がその内周に沿った幅狭の環状となされていること以外は、第1実施例と同様であるので、説明を省略する。
【0016】図3に示されている請求項1の発明の穴抜き金型の第3実施例に於いては、ストリッパ3の底面に内周壁に沿って略短冊状状断面の環状突条31が周設されて、接地部がその内周に沿った幅狭の環状となされていること以外は、第1実施例と同様であるので、説明を省略する。
【0017】図4に示されている請求項2の発明の穴抜き金型の1例に於いては、ポンチ2の接地部22の断面が、内壁が傾斜された片刃状となされており、接地部22に囲まれた凹陥部内に、鉄板5に積層された弾性体6が収納可能となされていること以外は、第1実施例と同様であるので、説明を省略する。」

(2)上記(1)の記載から、引用文献1には、次の技術的事項が開示されていると認められる。

ア 上記(1)イの記載事項から、引用文献1には、弾性体6が積層された鉄板5の弾性体層と対向して接離自在なストリッパ3の底面及び内周壁を有するストリッパ3が開示されていると認められる。

イ 上記(1)イの記載事項から、鉄板5を装置に載置したり取り除いたりする際、ダイス1の上面が鉄板5から離れていることは明らかであるから、引用文献1には、弾性体6が積層された鉄板5の鉄板5側と対向して接離自在なダイス1の上面及び内周面を有するダイス1が開示されていると認められる。

ウ 上記(1)イの記載事項から、引用文献1には、ストリッパ3の内部に支持され、前記ストリッパ3の内周壁から前記ダイス1の前記内周面に向け移動して前記弾性体6が積層された鉄板5を貫通する部分を有するポンチ2が開示されている。

エ 上記(1)イの記載事項から、引用文献1には、ストリッパ3の底面には、前記ストリッパ3の内周壁に沿って外壁が傾斜された片刃状断面の環状突条31が周設されていることが開示されている。

オ 上記(1)イの記載事項から、引用文献1には、ダイス1の上面は、穴抜き加工時に弾性体6が積層された鉄板5の鉄板5側と面接触して圧接されることが開示されているといえる。

カ 上記(1)イの記載事項から、引用文献1には、弾性体6が積層された鉄板5は、環状突条31とダイス1の上面の間に移動不能に挟持されて位置決め保持され、この位置決め保持状態で貫通する部分と前記ダイス1の内周面により前記弾性体6が積層された鉄板5に貫通孔が打ち抜かれることが開示されているといえる。

(3)上記(2)から、上記引用文献1には次の2つの発明(以下、それぞれ「引用発明1」-「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

ア 引用発明1
「片面に合成ゴムもしくは合成樹脂等の弾性体6が積層された鉄板5に穴抜き加工を行う穴抜き金型であって、
前記弾性体6が積層された鉄板5の弾性体層と対向して接離自在なストリッパ3の底面及び内周壁を有するストリッパ3と、
前記弾性体6が積層された鉄板5の鉄板5側と対向して接離自在なダイス1の上面及び内周面を有するダイス1と、
前記ストリッパ3の内部に支持され、前記ストリッパ3の内周壁から前記ダイス1の前記内周面に向け移動して前記弾性体6が積層された鉄板5を貫通する部分を有するポンチ2と、を備え、
前記ストリッパ3の前記底面には、前記ストリッパ3の内周壁に沿って外壁が傾斜された片刃状断面の環状突条31が周設されており、
前記ダイス1の前記上面は、前記穴抜き加工時に前記弾性体6が積層された鉄板5の鉄板5側と面接触して圧接され、
前記弾性体6が積層された鉄板5は、前記環状突条31と前記ダイス1の上面の間に移動不能に挟持されて位置決め保持され、この位置決め保持状態で前記貫通する部分と前記ダイス1の内周面により前記弾性体6が積層された鉄板5に貫通孔が打ち抜かれる穴抜き金型。」

イ 引用発明2
「片面に合成ゴムもしくは合成樹脂等の弾性体6が積層された鉄板5に穴抜き加工する方法であって、
前記弾性体6が積層された鉄板5の弾性体層に、ストリッパ3の内周壁に沿って外壁が傾斜された片刃状断面の環状突条31が圧接し、前記弾性体6が積層された鉄板5の鉄板5側にダイス1の上面が圧接して、前記環状突条31と前記ダイス1の上面の間に前記弾性体6が積層された鉄板5を移動不能に挟み込む位置決め工程と、
前記ストリッパ3の内周壁から前記ダイス1の内周面に向けポンチ2が移動して、前記弾性体6が積層された鉄板5に前記ポンチ2の貫通する部分を貫通させる打ち抜き工程と、を含み、
前記位置決め工程は、前記弾性体6が積層された鉄板5の前記弾性体層に対する前記ストリッパ3の移動により、前記環状突条31を前記弾性体6が積層された鉄板5の前記弾性体層へ食い込ませると同時に、前記ダイス1の上面を前記弾性体6が積層された鉄板5の前記鉄板5側へ圧接し、前記環状突条31の食い込みと、前記弾性体6が積層された鉄板5の前記鉄板5側に対する前記ダイス1の上面の圧接とによって、前記環状突条31と前記ダイス1の上面の間に前記弾性体6が積層された鉄板5を移動不能に挟持して位置決め保持し、
前記打ち抜き工程は、前記環状突条31と前記ダイス1の上面の間に前記弾性体6が積層された鉄板5を移動不能に挟持して位置決め保持された位置決め状態で、前記ポンチ2の移動により前記弾性体6が積層された鉄板5に貫通孔が開けられる孔開け加工方法。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2の公報第2頁左上欄第12行-左下欄第11行、第1図等の記載からみて、当該引用文献2には、金属板30等の目的物に穿孔加工を行う穿孔装置であって、前記目的物の表面と対向して接離自在な第一加圧面及びパンチ孔を有するガイド12と、前記目的物の裏面と対向して接離自在な第二面及び嵌合孔21を有するダイ20と、前記ガイド12の内部に支持され、前記パンチ孔から前記ダイ20の前記嵌合孔21に向け移動して前記目的物を貫通する切刃部を有するパンチ10と、を備え、前記ガイド12の前記第一加圧面は、前記穿孔加工時に前記目的物の前記表面と面接触して圧接され、前記ダイ20の前記第二面は、前記嵌合孔21の孔縁に沿って前記目的物の前記裏面へ食い込むように突出形成される突起部(金属板30の裏面に食い込んで下口縁部32を形成する部分)を有し、前記目的物は、前記第一加圧面と前記突起部の間に移動不能に挟持されて位置決め保持され、この位置決め保持状態で前記切刃部と前記嵌合孔21により前記目的物に穿孔31が打ち抜かれる穿孔装置という技術的事項が記載されていると認められる。

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると、次のことがいえる。

ア 引用発明1における「合成ゴムもしくは合成樹脂等」は、本願発明1における「加圧に対して弾性変形可能な材料」に相当し、以下同様に、「弾性体6が積層された鉄板5」は「被加工物」に、「穴抜き加工」は「孔開け加工」に、「穴抜き金型」は「パンチ金型」に、「(弾性体6が積層された鉄板5の)弾性体層」は「(弾性変形可能な)表面」に、「(ストリッパ3の)内周壁」は「パンチ孔」に、「ストリッパ3」は「パンチガイド」に、「(弾性体6が積層された鉄板5の)鉄板5側」は「裏面」に、「(ダイス1の)上面」は「第二加圧面」に、「(ダイス1の)内周面」は「ダイ孔」に、「ダイス1」は「ダイ」に、「(貫通する)部分」は「切刃部」に、「ポンチ2」は「パンチ」に、それぞれ相当する。

イ 引用発明1の「片面に合成ゴムもしくは合成樹脂等の弾性体6が積層された鉄板5」は、本願発明1の「加圧に対して弾性変形可能な材料からなる被加工物」と対比すると、「加圧に対して弾性変形可能な材料を含む被加工物」という点で一致する。

ウ 引用発明1の「ストリッパ3の底面」と本願発明1の「第一加圧面」とは、「第一面」という点で一致する。

エ 引用発明1における「前記ストリッパ3の内周壁から前記ダイス1の前記内周面に向け移動して」は、本願発明1の「前記パンチ孔又は前記ダイの前記ダイ孔のいずれか一方から他方に向け移動して」に相当する。

オ 引用発明1の「前記ストリッパ3の前記底面には、前記ストリッパ3の内周壁に沿って外壁が傾斜された片刃状断面の環状突条31が周設されており」と本願発明1の「前記パンチガイドの前記第一加圧面は、前記孔開け加工時に前記被加工物の前記表面と面接触して圧接され、前記パンチ孔の孔縁に沿って前記被加工物の前記表面へ食い込むように突出形成される第一突起部を有し」とは、「前記パンチガイドの前記第一面は、前記パンチ孔の孔縁に沿って前記被加工物の前記表面へ食い込むように突出形成される突起部を有し」という点で一致する。

カ 引用発明1の「前記弾性体6が積層された鉄板5は、前記環状突条31と前記ダイス1の上面の間に移動不能に挟持されて位置決め保持され」と、本願発明1の「前記被加工物は、前記表面に対する前記第一突起部の食い込みと、前記裏面に対する前記第二突起部の食い込みにより、前記第一加圧面と前記第二加圧面の間に移動不能に挟持されて位置決め保持され」とは、「前記被加工物は、移動不能に挟持されて位置決め保持され」という点で一致する。

キ したがって、本願発明1と引用発明1との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「加圧に対して弾性変形可能な材料を含む被加工物に孔開け加工を行うパンチ金型であって、
前記被加工物の弾性変形可能な表面と対向して接離自在な第一面及びパンチ孔を有するパンチガイドと、
前記被加工物の裏面と対向して接離自在な第二加圧面及びダイ孔を有するダイと、
前記パンチガイドの内部に支持され、前記パンチ孔又は前記ダイの前記ダイ孔のいずれか一方から他方に向け移動して前記被加工物を貫通する切刃部を有するパンチと、を備え、
前記パンチガイドの前記第一面は、前記パンチ孔の孔縁に沿って前記被加工物の前記表面へ食い込むように突出形成される突起部を有し、
前記ダイの前記第二加圧面は、前記孔開け加工時に前記被加工物の前記裏面と面接触して圧接され、
前記被加工物は、移動不能に挟持されて位置決め保持され、この位置決め保持状態で前記切刃部と前記ダイ孔により前記被加工物に貫通孔が打ち抜かれるパンチ金型。」

(相違点1)
「被加工物」に関して、本願発明1は、「加圧に対して弾性変形可能な材料からなる被加工物」であり、「弾性変形可能な裏面」を有するのに対し、引用発明1は、「片面に合成ゴムもしくは合成樹脂等の弾性体6が積層された鉄板5」である点。

(相違点2)
パンチガイドの面に関して、本願発明1は、「第一加圧面」であり、「前記第一加圧面は、前記孔開け加工時に前記被加工物の前記表面と面接触して圧接され」るのに対し、引用発明1は、「ストリッパ3の底面」であり、当該ストリッパ3の底面は、弾性体6が積層された鉄板5の弾性体層と面接触して圧接されない点。

(相違点3)
本願発明1は、「前記ダイの前記第二加圧面は、」「前記ダイ孔の孔縁に沿って前記被加工物の前記裏面へ食い込むように突出形成される第二突起部を有」するのに対し、引用発明1は、ダイス1の突起部については記載がない点。

(相違点4)
本願発明1は、「前記被加工物は、前記表面に対する前記第一突起部の食い込みと、前記裏面に対する前記第二突起部の食い込みにより、前記第一加圧面と前記第二加圧面の間に移動不能に挟持されて位置決め保持され」るのに対し、引用発明1は、「前記弾性体6が積層された鉄板5は、前記環状突条31と前記ダイス1の上面の間に移動不能に挟持されて位置決め保持され」、表裏両面に対する突起部の食い込み、及び、加圧面の圧接はない点。

(2)相違点についての判断
(上記相違点1、4について)
引用文献2には、被加工物に孔開け加工を行うパンチ金型であって、ダイの第二面は、前記ダイのダイ孔の孔縁に沿って前記被加工物の裏面へ食い込むように突出形成される突起部を有し、前記被加工物は、パンチガイドの第一加圧面と前記突起部の間に移動不能に挟持されて位置決め保持されることが記載されている。
しかし、引用文献1及び引用文献2のいずれの文献にも、加圧に対して弾性変形可能な材料からなる被加工物を、その表面に対する第一突起部の食い込みと、その裏面に対する第二突起部の食い込みにより、第一加圧面と第二加圧面の間に移動不能に挟持して位置決め保持することは記載も示唆もされていない。
したがって、上記相違点1、4に係る構成は、当業者であっても、引用発明、引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

したがって、本願発明1は、相違点2?3を検討するまでもなく、引用発明、引用文献2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

なお、特開平8-294737号公報には、被加工物に孔開け加工を行うパンチ金型であって、被加工物は、その表面に対する第一突起部(ワーク凹陥用凸部9)の食い込みと、その裏面に対する第二突起部(ワーク凹陥用凸部8)の食い込みにより、第一加圧面と第二加圧面の間に移動不能に挟持されて位置決め保持され、この位置決め保持状態で切刃部とダイ孔により前記被加工物に貫通孔が打ち抜かれる構成が開示されているが、前記被加工物が金属板である点で本願発明1と相違しており、加圧に対して弾性変形可能な材料からなる被加工物に前記パンチ金型を適用する特段の理由は見当たらない。

2.本願発明2-3について
本願発明2-3は、本願発明1の構成全てを引用した発明であって、本願発明1の相違点1、4に係る構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明1、引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3.本願発明4について
(1)対比
本願発明4と引用発明2とを対比すると、次のことがいえる。

ア 引用発明2における「合成ゴムもしくは合成樹脂等」は、本願発明4における「加圧に対して弾性変形可能な材料」に相当し、以下同様に、「弾性体6が積層された鉄板5」は「被加工物」に、「穴抜き加工」は「孔開け加工」に、「ストリッパ3」は「パンチガイド」に、「(ストリッパ3の)内周壁」は「パンチ孔」に、「ダイス1」は「ダイ」に、「(ダイス1の)上面」は「第二加圧面」に、「(ダイス1の)内周面」は「ダイ孔」に、「ポンチ2」は「パンチ」に、「(貫通する)部分」は「切刃部」に、「(弾性体6が積層された鉄板5の)弾性体層」は「(弾性変形可能な)表面」に、「(弾性体6が積層された鉄板5の)鉄板5側」は「裏面」に、それぞれ相当する。

イ 引用発明2の「片面に合成ゴムもしくは合成樹脂等の弾性体6が積層された鉄板5に穴抜き加工する方法」は、本願発明4の「加圧に対して弾性変形可能な材料からなる被加工物として板状の建材に孔開け加工する建材用孔開け加工方法」と対比すると、「加圧に対して弾性変形可能な材料を含む被加工物として板状の部材に孔開け加工する孔開け加工方法」という点で一致する。

ウ 引用発明2における「前記弾性体6が積層された鉄板5の弾性体層に、ストリッパ3の内周壁に沿って外壁が傾斜された片刃状断面の環状突条31が圧接し、前記弾性体6が積層された鉄板5の鉄板5側にダイス1の上面が圧接して、前記環状突条31と前記ダイス1の上面の間に前記弾性体6が積層された鉄板5を移動不能に挟み込む位置決め工程」と本願発明4の「前記被加工物の弾性変形可能な表面にパンチガイドの第一加圧面が圧接し、前記被加工物の弾性変形可能な裏面にダイの第二加圧面が圧接して、前記第一加圧面と前記第二加圧面の間に前記被加工物を移動不能に挟み込む位置決め工程」とは、「前記被加工物を移動不能に挟み込む位置決め工程」という点で一致する。

エ 引用発明2における「前記ストリッパ3の内周壁から前記ダイス1の内周面に向けポンチ2が移動して」は、本願発明4の「パンチガイドのパンチ孔又はダイのダイ孔のいずれか一方から他方に向けパンチが移動して」に相当する。

オ 引用発明2の「前記位置決め工程は、前記弾性体6が積層された鉄板5の前記弾性体層に対する前記ストリッパ3の移動により、前記環状突条31を前記弾性体6が積層された鉄板5の前記弾性体層へ食い込ませると同時に、前記ダイス1の上面を前記弾性体6が積層された鉄板5の前記鉄板5側へ圧接し、前記環状突条31の食い込みと、前記弾性体6が積層された鉄板5の前記鉄板5側に対する前記ダイス1の上面の圧接とによって、前記環状突条31と前記ダイス1の上面の間に前記弾性体6が積層された鉄板5を移動不能に挟持して位置決め保持し」と本願発明4の「前記位置決め工程は、前記被加工物の前記表面に対する前記第一加圧面の圧接により、前記パンチ孔の孔縁に沿って突出形成された第一突起部を前記被加工物の前記表面へ食い込ませると同時に、前記被加工物の前記裏面に対する前記第二加圧面の圧接により、前記ダイ孔の孔縁に沿って突出形成された第二突起部を前記被加工物の前記裏面へ食い込ませ、前記第一突起部及び前記第二突起部の食い込みと、前記被加工物の前記表面に対する前記第一加圧面の圧接及び前記被加工物の前記裏面に対する前記第二加圧面の圧接とによって、前記第一加圧面と前記第二加圧面の間に前記被加工物を移動不能に挟持して位置決め保持し」とは、「前記位置決め工程は、突起部の食い込みと、前記被加工物の裏面に対する第二加圧面の圧接とによって、前記被加工物を移動不能に挟持して位置決め保持し」という点で一致する。

カ 引用発明2の「前記打ち抜き工程は、前記環状突条31と前記ダイス1の上面の間に前記弾性体6が積層された鉄板5を移動不能に挟持して位置決め保持された位置決め状態で、前記ポンチ2の移動により前記弾性体6が積層された鉄板5に貫通孔が開けられる」と、本願発明4の「前記打ち抜き工程は、前記第一加圧面と前記第二加圧面の間に前記被加工物を移動不能に挟持して位置決め保持された位置決め状態で、前記パンチの移動により前記被加工物に貫通孔が開けられる」とは、「前記打ち抜き工程は、前記被加工物を移動不能に挟持して位置決め保持された位置決め状態で、前記パンチの移動により前記被加工物に貫通孔が開けられる」という点で一致する。

キ したがって、本願発明4と引用発明2との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「加圧に対して弾性変形可能な材料を含む被加工物として板状の部材に孔開け加工する孔開け加工方法であって、
前記被加工物を移動不能に挟み込む位置決め工程と、
パンチガイドのパンチ孔又はダイのダイ孔のいずれか一方から他方に向けパンチが移動して、前記被加工物に前記パンチの切刃部を貫通させる打ち抜き工程と、を含み、
前記位置決め工程は、突起部の食い込みと、前記被加工物の裏面に対する第二加圧面の圧接とによって、前記被加工物を移動不能に挟持して位置決め保持し、
前記打ち抜き工程は、前記被加工物を移動不能に挟持して位置決め保持された位置決め状態で、前記パンチの移動により前記被加工物に貫通孔が開けられる孔開け加工方法。」

(相違点1)
「加工方法」の対象に関して、本願発明4は、「加圧に対して弾性変形可能な材料からなる被加工物として板状の建材に孔開け加工する建材用孔開け加工方法」であるのに対し、引用発明2は、「加圧に対して弾性変形可能な材料を含む被加工物として板状の部材に孔開け加工する孔開け加工方法」である点。

(相違点2)
「位置決め工程」に関して、本願発明4は、「前記被加工物の弾性変形可能な表面にパンチガイドの第一加圧面が圧接し、前記被加工物の弾性変形可能な裏面にダイの第二加圧面が圧接して、前記第一加圧面と前記第二加圧面の間に前記被加工物を移動不能に挟み込」み、「前記被加工物の前記表面に対する前記第一加圧面の圧接により、前記パンチ孔の孔縁に沿って突出形成された第一突起部を前記被加工物の前記表面へ食い込ませると同時に、前記被加工物の前記裏面に対する前記第二加圧面の圧接により、前記ダイ孔の孔縁に沿って突出形成された第二突起部を前記被加工物の前記裏面へ食い込ませ、前記第一突起部及び前記第二突起部の食い込みと、前記被加工物の前記表面に対する前記第一加圧面の圧接及び前記被加工物の前記裏面に対する前記第二加圧面の圧接とによって、前記第一加圧面と前記第二加圧面の間に前記被加工物を移動不能に挟持して位置決め保持」するのに対し、引用発明2は、「前記弾性体6が積層された鉄板5の弾性体層に、ストリッパ3の内周壁に沿って外壁が傾斜された片刃状断面の環状突条31が圧接し、前記弾性体6が積層された鉄板5の鉄板5側にダイス1の上面が圧接して、前記環状突条31と前記ダイス1の上面の間に前記弾性体6が積層された鉄板5を移動不能に挟み込」み、「前記弾性体6が積層された鉄板5の前記弾性体層に対する前記ストリッパ3の移動により、前記環状突条31を前記弾性体6が積層された鉄板5の前記弾性体層へ食い込ませると同時に、前記ダイス1の上面を前記弾性体6が積層された鉄板5の前記鉄板5側へ圧接し、前記環状突条31の食い込みと、前記弾性体6が積層された鉄板5の前記鉄板5側に対する前記ダイス1の上面の圧接とによって、前記環状突条31と前記ダイス1の上面の間に前記弾性体6が積層された鉄板5を移動不能に挟持して位置決め保持」する点。

(相違点3)
「打ち抜き工程」に関して、本願発明4は、「前記第一加圧面と前記第二加圧面の間に前記被加工物を移動不能に挟持して位置決め保持された位置決め状態で」、「前記被加工物に貫通孔が開けられる」のに対し、引用発明2は、「前記環状突条31と前記ダイス1の上面の間に前記弾性体6が積層された鉄板5を移動不能に挟持して位置決め保持された位置決め状態で」、「前記弾性体6が積層された鉄板5に貫通孔が開けられる」点。

(2)相違点についての判断
(上記相違点2について)
引用文献2の記載事項は、上記「第4 引用文献、引用発明等」「2.」のとおりである。
引用文献1及び引用文献2のいずれの文献にも、被加工物の弾性変形可能な表面にパンチガイドの第一加圧面が圧接し、前記被加工物の弾性変形可能な裏面にダイの第二加圧面が圧接して、前記第一加圧面と前記第二加圧面の間に前記被加工物を移動不能に挟み込み、前記被加工物の前記表面に対する前記第一加圧面の圧接により、パンチ孔の孔縁に沿って突出形成された第一突起部を前記被加工物の前記表面へ食い込ませると同時に、前記被加工物の前記裏面に対する前記第二加圧面の圧接により、ダイ孔の孔縁に沿って突出形成された第二突起部を前記被加工物の前記裏面へ食い込ませ、前記第一突起部及び前記第二突起部の食い込みと、前記被加工物の前記表面に対する前記第一加圧面の圧接及び前記被加工物の前記裏面に対する前記第二加圧面の圧接とによって、前記第一加圧面と前記第二加圧面の間に前記被加工物を移動不能に挟持して位置決め保持することは記載も示唆もされていない。
よって、上記相違点2に係る構成は、当業者であっても、引用発明、引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

したがって、本願発明4は、相違点1、3を検討するまでもなく、引用発明、引用文献2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

第6 原査定について
審判請求時の補正により、本願発明1-4は「加圧に対して弾性変形可能な材料からなる被加工物に孔開け加工を行う」、「第一加圧面は、前記孔開け加工時に前記被加工物の前記表面と面接触して圧接され」及び「第二加圧面は、前記孔開け加工時に前記被加工物の前記裏面と面接触して圧接され」という事項を有するものとなっており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1-2に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1-4は、当業者が引用発明、引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-06-24 
出願番号 特願2015-240097(P2015-240097)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B26D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 豊島 唯  
特許庁審判長 平岩 正一
特許庁審判官 栗田 雅弘
青木 良憲
発明の名称 パンチ金型及び建材用孔開け加工方法  
代理人 特許業務法人 英知国際特許事務所  
代理人 特許業務法人 英知国際特許事務所  

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